(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】エネルギーの微分又は非断熱結合を求めるための量子情報処理方法、古典コンピュータ、量子コンピュータ、ハイブリッドシステム、及び量子情報処理プログラム
(51)【国際特許分類】
G06J 1/00 20060101AFI20240918BHJP
G06F 7/38 20060101ALI20240918BHJP
G06N 10/00 20220101ALI20240918BHJP
【FI】
G06J1/00
G06F7/38 510
G06N10/00
(21)【出願番号】P 2021079335
(22)【出願日】2021-05-07
【審査請求日】2023-12-25
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人量子科学技術研究開発機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)事業「光・量子を活用した Society 5.0 実現化技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】518253439
【氏名又は名称】株式会社QunaSys
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】有満 慶太
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕也
(72)【発明者】
【氏名】高 翔
【審査官】漆原 孝治
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/230794(WO,A1)
【文献】特開2020-095051(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06J 1/00
G06F 7/38
G06N 10/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
古典コンピュータと量子コンピュータとを含むハイブリッドシステムが実行する量子情報処理方法であって、
古典コンピュータが、分子の原子核の位置を表す位置パラメータxを変数として持つハミルトニアンH^(x)を計算し、分子軌道に関するパラメータである軌道パラメータκを変数として持つ演算子であって、かつ分子軌道の回転を表す演算子である軌道回転演算子U^
OO(κ)を決定し、量子回路のパラメータである回路パラメータθを変数として持つ量子回路U^(θ)を決定し、前記ハミルトニアンH^(x)に対して軌道回転と活性空間への射影とを行うことにより、ハミルトニアンH^(x,κ)を生成し、前記回路パラメータθを変数として持つ第1目的関数を設定し、
古典コンピュータと量子コンピュータとの間の繰り返し計算により、古典コンピュータが、量子コンピュータによる量子測定の測定結果に基づいて、前記第1目的関数を最小化又は最大化するような前記量子回路U^(θ)の前記回路パラメータθ
*を計算し、
古典コンピュータが、前記回路パラメータθ
*を定数として持ち、かつ前記軌道パラメータκを変数として持つ目的関数である第2目的関数を設定し、
古典コンピュータが、量子コンピュータによる量子測定の測定結果に基づいて、前記第2目的関数を最小化又は最大化するような前記軌道パラメータκ
*を計算し、
量子コンピュータが、前記回路パラメータθ
*と前記軌道パラメータκ
*とに基づいて、前記量子回路U^(θ
*)及び前記ハミルトニアンH^(x,κ
*)の前記位置パラメータxによる微分を含む期待値を量子測定することにより、前記量子測定の測定結果を取得し、
古典コンピュータが、前記量子測定の測定結果に基づいて、前記ハミルトニアンH^(x)に対応するエネルギーの微分を計算する、
処理を含む量子情報処理方法。
【請求項2】
SSVQE(Subspace-search variational quantum eigensolver)を用いてエネルギーの1階微分値を計算する場合、
量子コンピュータは、以下の式(A1)に示される右辺の各項を量子測定することにより、右辺の各項の前記量子測定の測定結果を出力し、
古典コンピュータは、以下の式(A1)の右辺の各項の前記測定結果の和を計算することにより、以下の式(A1)の左辺が表すエネルギーの1階微分値を計算する、
請求項1に記載の量子情報処理方法。
【数1】
(A1)
なお、A,Sは固有状態を識別するためのインデックスであり、E(x)は固有エネルギーであり、μはベクトルである前記位置パラメータxの要素を識別するためのインデックスであり、ψは活性空間における固有状態であり、U^(θ)は前記量子回路であり、θ
-はベクトルである前記回路パラメータθの要素に対応するラグランジュの未定乗数であり、iはベクトルである前記回路パラメータθの要素を識別するためのインデックスであり、w
VQEは固有状態に対する重み係数であり、κ
-は行列である前記軌道パラメータκの行列要素に対応するラグランジュの未定乗数であり、p,qは行列要素を識別するためのインデックスであり、w
SAは状態平均エネルギーの重み係数である。
【請求項3】
VQD(Variational quantum deflation)を用いてエネルギーの1階微分値を計算する場合、
量子コンピュータは、以下の式(A2)に示される右辺の各項を量子測定することにより、右辺の各項の前記量子測定の測定結果を出力し、
古典コンピュータは、以下の式(A2)の右辺の各項の前記測定結果の和を計算することにより、以下の式(A2)の左辺が表すエネルギーの1階微分値を計算する、
請求項1に記載の量子情報処理方法。
【数2】
(A2)
なお、A,Sは固有状態を識別するためのインデックスであり、E(x)は固有エネルギーであり、μはベクトルである前記位置パラメータxの要素を識別するためのインデックスであり、ψは活性空間における固有状態であり、U^(θ)は前記量子回路であり、θ
-はベクトルである前記回路パラメータθの要素に対応するラグランジュの未定乗数であり、iはベクトルである前記回路パラメータθの要素を識別するためのインデックスであり、κ
-は行列である前記軌道パラメータκの行列要素に対応するラグランジュの未定乗数であり、p,qは行列要素を識別するためのインデックスであり、w
SAは状態平均エネルギーの重み係数である。
【請求項4】
MCVQE(Multistate-contracted variational quantum eigensolver)を用いてエネルギーの1階微分値を計算する場合、
量子コンピュータは、以下の式(A3)に示される右辺の各項を量子測定することにより、右辺の各項の前記量子測定の測定結果を出力し、
古典コンピュータは、以下の式(A3)の右辺の各項の前記測定結果の和を計算することにより、以下の式(A3)の左辺が表すエネルギーの1階微分値を計算する、
請求項1に記載の量子情報処理方法。
【数3】
(A3)
なお、S,Tは固有状態を識別するためのインデックスであり、hは固有エネルギーを表す行列の要素であり、μはベクトルである前記位置パラメータxの要素を識別するためのインデックスであり、ψは活性空間における固有状態であり、U^(θ)は前記量子回路であり、θ
-はベクトルである前記回路パラメータθの要素に対応するラグランジュの未定乗数であり、κ
-は行列である前記軌道パラメータκの行列要素に対応するラグランジュの未定乗数であり、p,qは行列要素を識別するためのインデックスであり、w
SAは状態平均エネルギーの重み係数である。
【請求項5】
SSVQE(Subspace-search variational quantum eigensolver)を用いてエネルギーの2階微分値を計算する場合、
量子コンピュータは、以下の式(B1)に示される右辺の各項を量子測定することにより、右辺の各項の前記量子測定の測定結果を出力し、
古典コンピュータは、以下の式(B1)の右辺の各項の前記測定結果の和を計算することにより、以下の式(B1)の左辺が表すエネルギーの2階微分値を計算する、
請求項1に記載の量子情報処理方法。
【数4】
(B1)
なお、Aは固有状態を識別するためのインデックスであり、E(x)は固有エネルギーであり、E
SSVQEはSSVQEを用いた場合の前記第1目的関数に相当する損失関数であり、E
SAは状態平均エネルギーであり、μ,νはベクトルである前記位置パラメータxの要素を識別するためのインデックスであり、ψは活性空間における固有状態であり、U^(θ)は前記量子回路であり、θ
-はベクトルである前記回路パラメータθの要素に対応するラグランジュの未定乗数であり、i,jはベクトル要素を識別するためのインデックスであり、κ
-は行列である前記軌道パラメータκの行列要素に対応するラグランジュの未定乗数であり、p,q,m,nは行列要素を識別するためのインデックスであり、
は隣接する項のμとνとが入れ替えられた項を表す。
【請求項6】
古典コンピュータと量子コンピュータとを含むハイブリッドシステムが実行する量子情報処理方法であって、
古典コンピュータが、分子の原子核の位置を表す位置パラメータxを変数として持つハミルトニアンH^(x)を計算し、分子軌道に関するパラメータである軌道パラメータκを変数として持つ演算子であって、かつ分子軌道の回転を表す演算子である軌道回転演算子U^
OO(κ)を決定し、量子回路のパラメータである回路パラメータθを変数として持つ量子回路U^(θ)を決定し、前記ハミルトニアンH^(x)に対して軌道回転と活性空間への射影とを行うことにより、ハミルトニアンH^(x,κ)を生成し、前記回路パラメータθを変数として持つ第1目的関数を設定し、
古典コンピュータと量子コンピュータとの間の繰り返し計算により、古典コンピュータが、量子コンピュータによる量子測定の測定結果に基づいて、量子コンピュータが、前記第1目的関数を最小化又は最大化するような前記量子回路U^(θ)の前記回路パラメータθ
*を計算し、
古典コンピュータが、前記回路パラメータθ
*を定数として持ち、かつ前記軌道パラメータκを変数として持つ目的関数である第2目的関数を設定し、
古典コンピュータが、量子コンピュータによる量子測定の測定結果に基づいて、量子コンピュータが、前記第2目的関数を最小化又は最大化するような前記軌道パラメータκ
*を計算し、
量子コンピュータが、前記回路パラメータθ
*と前記軌道パラメータκ
*とに基づいて、前記量子回路U^(θ
*)及び前記軌道回転演算子U^
OO(κ
*)の前記位置パラメータxによる微分を含む期待値を量子測定することにより、前記量子測定の測定結果を取得し、
古典コンピュータが、前記量子測定の測定結果に基づいて、非断熱結合の値を計算する、
処理を含む量子情報処理方法。
【請求項7】
SSVQE(Subspace-search variational quantum eigensolver)を用いて非断熱結合を計算する場合、
量子コンピュータは、以下の式(C1)に示される右辺の各項を量子測定することにより、右辺の各項の前記量子測定の測定結果を出力し、
古典コンピュータは、以下の式(C1)の右辺の各項の前記測定結果の和を計算することにより、以下の式(C1)の左辺が表す非断熱結合の値を計算する、
処理を含む請求項6に記載の量子情報処理方法。
【数5】
(C1)
なお、S,Tは固有状態を識別するためのインデックスであり、μはベクトルである前記位置パラメータxの要素を識別するためのインデックスであり、ψは活性空間における固有状態であり、U^
OO(κ)は前記軌道回転演算子であり、U^(θ)は前記量子回路であり、jはベクトルである前記回路パラメータθの要素を識別するためのインデックスであり、κ
p,qは行列である前記軌道パラメータκの行列要素であり、p,qは行列要素を識別するためのインデックスである。
【請求項8】
MCVQE(Multistate-contracted variational quantum eigensolver)を用いて非断熱結合を計算する場合、
量子コンピュータは、以下の式(C2)に示される右辺の各項を量子測定することにより、右辺の各項の前記量子測定の測定結果を出力し、
古典コンピュータは、以下の式(C2)の右辺の各項の前記測定結果の和を計算することにより、以下の式(C2)の左辺が表す非断熱結合の値を計算する、
処理を含む請求項6に記載の量子情報処理方法。
【数6】
(C2)
なお、S,T,M,Nは固有状態を識別するためのインデックスであり、μはベクトルである前記位置パラメータxの要素を識別するためのインデックスであり、ψは活性空間における固有状態であり、vは固有状態に対応する固有ベクトルであり、U^
OO(κ)は前記軌道回転演算子であり、U^(θ)は前記量子回路である。
【請求項9】
前記古典コンピュータと前記量子コンピュータとはコンピュータネットワークを介して接続されており、
前記古典コンピュータと前記量子コンピュータとは、前記コンピュータネットワークを介して情報の送受信を行う、
請求項1~請求項8の何れか1項に記載の量子情報処理方法。
【請求項10】
量子コンピュータが、請求項1~請求項9の何れか1項に記載の量子情報処理方法のうちの量子コンピュータが実行する部分の処理を実行する量子情報処理方法。
【請求項11】
古典コンピュータが、請求項1~請求項9の何れか1項に記載の量子情報処理方法のうちの古典コンピュータが実行する部分の処理を実行する量子情報処理方法。
【請求項12】
請求項1~請求項9の何れか1項に記載の量子情報処理方法のうちの量子コンピュータが実行する部分の処理を実行する量子コンピュータ。
【請求項13】
請求項1~請求項9の何れか1項に記載の量子情報処理方法のうちの古典コンピュータが実行する部分の処理を実行する古典コンピュータ。
【請求項14】
請求項13に記載の古典コンピュータと請求項12に記載の量子コンピュータとを備えるハイブリッドシステム。
【請求項15】
量子コンピュータに、請求項1~請求項9の何れか1項に記載の量子情報処理方法のうちの量子コンピュータが実行する部分の処理を実行させるための量子情報プログラム。
【請求項16】
古典コンピュータに、請求項1~請求項9の何れか1項に記載の量子情報処理方法のうちの古典コンピュータが実行する部分の処理を実行させるための量子情報プログラム。
【請求項17】
少なくとも1以上の古典コンピュータと少なくとも1以上の量子コンピュータとを含むハイブリッドシステムのうちの1つの古典コンピュータである特定古典コンピュータが実行する量子情報処理方法であって、
1つの古典コンピュータが、分子の原子核の位置を表す位置パラメータxを変数として持つハミルトニアンH^(x)を計算し、分子軌道に関するパラメータである軌道パラメータκを変数として持つ演算子であって、かつ分子軌道の回転を表す演算子である軌道回転演算子U^
OO(κ)を決定し、量子回路のパラメータである回路パラメータθを変数として持つ量子回路U^(θ)を決定し、前記ハミルトニアンH^(x)に対して軌道回転と活性空間への射影とを行うことにより、ハミルトニアンH^(x,κ)を生成し、前記回路パラメータθを変数として持つ第1目的関数を設定し、
1つの古典コンピュータと1つの量子コンピュータとの間の繰り返し計算により、1つの古典コンピュータが、量子コンピュータによる量子測定の測定結果に基づいて、前記第1目的関数を最小化又は最大化するような前記量子回路U^(θ)の前記回路パラメータθ
*を計算し、
1つの古典コンピュータが、前記回路パラメータθ
*を定数として持ち、かつ前記軌道パラメータκを変数として持つ目的関数である第2目的関数を設定し、
1つの古典コンピュータが、1つの量子コンピュータによる量子測定の測定結果に基づいて、前記第2目的関数を最小化又は最大化するような前記軌道パラメータκ
*を計算し、
1つの量子コンピュータが、前記回路パラメータθ
*と前記軌道パラメータκ
*とに基づいて、前記量子回路U^(θ
*)及び前記ハミルトニアンH^(x,κ
*)の前記位置パラメータxによる微分を含む期待値を量子測定することにより、前記量子測定の測定結果を取得し、
特定古典コンピュータが、前記量子測定の測定結果に基づいて、前記ハミルトニアンH^(x)に対応するエネルギーの微分を計算する、
処理を実行する量子情報処理方法。
【請求項18】
少なくとも1以上の古典コンピュータと少なくとも1以上の量子コンピュータとを含むハイブリッドシステムのうちの1つの古典コンピュータである特定古典コンピュータが実行する量子情報処理方法であって、
1つの古典コンピュータが、分子の原子核の位置を表す位置パラメータxを変数として持つハミルトニアンH^(x)を計算し、分子軌道に関するパラメータである軌道パラメータκを変数として持つ演算子であって、かつ分子軌道の回転を表す演算子である軌道回転演算子U^
OO(κ)を決定し、量子回路のパラメータである回路パラメータθを変数として持つ量子回路U^(θ)を決定し、前記ハミルトニアンH^(x)に対して軌道回転と活性空間への射影とを行うことにより、ハミルトニアンH^(x,κ)を生成し、前記回路パラメータθを変数として持つ第1目的関数を設定し、
1つの古典コンピュータと1つの量子コンピュータとの間の繰り返し計算により、1つの古典コンピュータが、1つの量子コンピュータによる量子測定の測定結果に基づいて、1つの量子コンピュータが、前記第1目的関数を最小化又は最大化するような前記量子回路U^(θ)の前記回路パラメータθ
*を計算し、
1つの古典コンピュータが、前記回路パラメータθ
*を定数として持ち、かつ前記軌道パラメータκを変数として持つ目的関数である第2目的関数を設定し、
1つの古典コンピュータが、1つの量子コンピュータによる量子測定の測定結果に基づいて、前記第2目的関数を最小化又は最大化するような前記軌道パラメータκ
*を計算し、
1つの量子コンピュータが、前記回路パラメータθ
*と前記軌道パラメータκ
*とに基づいて、前記量子回路U^(θ
*)及び前記軌道回転演算子U^
OO(κ
*)の前記位置パラメータxによる微分を含む期待値を量子測定することにより、前記量子測定の測定結果を取得し、
特定古典コンピュータが、前記量子測定の測定結果に基づいて、非断熱結合の値を計算する、
処理を実行する量子情報処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
開示の技術は、エネルギーの微分又は非断熱結合を求めるための量子情報処理方法、古典コンピュータ、量子コンピュータ、ハイブリッドシステム、及び量子情報処理プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、量子化学分野において、State-Averaged Orbital-Optimization(以下、単に「SA‐OO」と称する。)という手法が知られている(例えば、非特許文献1を参照)。SA‐OOの計算を実行することにより、分子中の電子の複数のエネルギーの固有状態を得ることができる。非特許文献1には、量子コンピュータを用いてSA‐OOの計算を実行する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】S. Yalouz, B. Senjean, J. Gunther, F. Buda, T. E. O'Brien, and L. Visscher, A state-averaged orbital-optimized hybrid quantum-classical algorithm for a democratic description of ground and excited states, (2021), Quantum Science and Technology, Volume 6, Number 2
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
量子コンピュータを用いてSA‐OOの計算を実行すると、基底状態及び励起状態に対応するエネルギーを得ることが可能となる。しかし、量子化学分野においては、エネルギー値そのものだけでなくエネルギーの微分値も得られることが好ましい。さらに、分子または物質の性質を解析する際の重要な物理量の一つとして非断熱結合が知られている。量子化学分野においては、この非断熱結合の値も得られることが好ましい。これに対し、上記非特許文献1では、エネルギーの微分及び非断熱結合の導出については考慮されていない。
【0005】
開示の技術は、上記の事情を鑑みてなされたものであり、量子コンピュータを用いてSA‐OOの計算を実行する際にもエネルギーの微分値又は非断熱結合の値を得ることができる、量子情報処理方法、古典コンピュータ、量子コンピュータ、ハイブリッドシステム、及び量子情報処理プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために本開示の第1態様の量子情報処理方法は、古典コンピュータと量子コンピュータとを含むハイブリッドシステムが実行する量子情報処理方法であって、古典コンピュータが、分子の原子核の位置を表す位置パラメータxを変数として持つハミルトニアンH^(x)を計算し、分子軌道に関するパラメータである軌道パラメータκを変数として持つ演算子であって、かつ分子軌道の回転を表す演算子である軌道回転演算子U^OO(κ)を決定し、量子回路のパラメータである回路パラメータθを変数として持つ量子回路U^(θ)を決定し、前記ハミルトニアンH^(x)に対して軌道回転と活性空間への射影とを行うことにより、ハミルトニアンH^(x,κ)を生成し、前記回路パラメータθを変数として持つ第1目的関数を設定し、古典コンピュータと量子コンピュータとの間の繰り返し計算により、古典コンピュータが、量子コンピュータによる量子測定の測定結果に基づいて、前記第1目的関数を最小化又は最大化するような前記量子回路U^(θ)の前記回路パラメータθ*を計算し、古典コンピュータが、前記回路パラメータθ*を定数として持ち、かつ前記軌道パラメータκを変数として持つ目的関数である第2目的関数を設定し、古典コンピュータが、量子コンピュータによる量子測定の測定結果に基づいて、前記第2目的関数を最小化又は最大化するような前記軌道パラメータκ*を計算し、量子コンピュータが、前記回路パラメータθ*と前記軌道パラメータκ*とに基づいて、前記量子回路U^(θ*)及び前記ハミルトニアンH^(x,κ*)の前記位置パラメータxによる微分を含む期待値を量子測定することにより、前記量子測定の測定結果を取得し、古典コンピュータが、前記量子測定の測定結果に基づいて、前記ハミルトニアンH^(x)に対応するエネルギーの微分を計算する、処理を含む量子情報処理方法である。
【0007】
本開示の第2態様の量子情報処理方法は、古典コンピュータと量子コンピュータとを含むハイブリッドシステムが実行する量子情報処理方法であって、古典コンピュータが、分子の原子核の位置を表す位置パラメータxを変数として持つハミルトニアンH^(x)を計算し、分子軌道に関するパラメータである軌道パラメータκを変数として持つ演算子であって、かつ分子軌道の回転を表す演算子である軌道回転演算子U^OO(κ)を決定し、量子回路のパラメータである回路パラメータθを変数として持つ量子回路U^(θ)を決定し、前記ハミルトニアンH^(x)に対して軌道回転と活性空間への射影とを行うことにより、ハミルトニアンH^(x,κ)を生成し、前記回路パラメータθを変数として持つ第1目的関数を設定し、古典コンピュータと量子コンピュータとの間の繰り返し計算により、古典コンピュータが、量子コンピュータによる量子測定の測定結果に基づいて、量子コンピュータが、前記第1目的関数を最小化又は最大化するような前記量子回路U^(θ)の前記回路パラメータθ*を計算し、古典コンピュータが、前記回路パラメータθ*を定数として持ち、かつ前記軌道パラメータκを変数として持つ目的関数である第2目的関数を設定し、古典コンピュータが、量子コンピュータによる量子測定の測定結果に基づいて、量子コンピュータが、前記第2目的関数を最小化又は最大化するような前記軌道パラメータκ*を計算し、量子コンピュータが、前記回路パラメータθ*と前記軌道パラメータκ*とに基づいて、前記量子回路U^(θ*)及び前記軌道回転演算子U^OO(κ*)の前記位置パラメータxによる微分を含む期待値を量子測定することにより、前記量子測定の測定結果を取得し、古典コンピュータが、前記量子測定の測定結果に基づいて、非断熱結合の値を計算する、処理を含む量子情報処理方法である。
【発明の効果】
【0008】
開示の技術によれば、量子コンピュータを用いてSA‐OOの計算を実行する際にエネルギーの微分値を得ることができる、という効果が得られる。また、開示の技術によれば、量子コンピュータを用いてSA‐OOの計算を実行する際に非断熱結合の値を得ることができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本実施形態のハイブリッドシステム100の概略構成の一例を示す図である。
【
図2】古典コンピュータ110、制御装置121、及びユーザ端末130として機能するコンピュータの概略ブロック図である。
【
図3】本実施形態のアルゴリズムを説明するための図である。
【
図4】本実施形態のハイブリッドシステム100が実行するシーケンスの一例を示す図である。
【
図5】本実施形態のハイブリッドシステム100が実行するシーケンスの一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して開示の技術の実施形態を詳細に説明する。
【0011】
<実施形態に係るハイブリッドシステム100>
【0012】
図1に、実施形態に係るハイブリッドシステム100を示す。本実施形態のハイブリッドシステム100は、古典コンピュータ110と量子コンピュータ120とユーザ端末130とを備える。古典コンピュータ110と量子コンピュータ120とユーザ端末130とは、
図1に示されるように、一例としてIPネットワークなどのコンピュータネットワークを介して接続されている。
【0013】
本実施形態のハイブリッドシステム100においては、量子コンピュータ120が古典コンピュータ110からの要求に応じて所定の量子計算を行い、当該量子計算の計算結果を古典コンピュータ110へ出力する。古典コンピュータ110はユーザ端末130へ量子計算に応じた計算結果を出力する。これにより、ハイブリッドシステム100全体として所定の計算処理が実行される。
【0014】
古典コンピュータ110は、通信インターフェース等の通信部111と、プロセッサ、CPU(Central processing unit)等の処理部112と、メモリ、ハードディスク等の記憶装置又は記憶媒体を含む情報記憶部113とを備え、各処理を行うためのプログラムを実行することによって構成されている。なお、古典コンピュータ110は1又は複数の装置ないしサーバを含むことがある。また、当該プログラムは1又は複数のプログラムを含むことがあり、また、コンピュータ読み取り可能な記憶媒体に記録して非一過性のプログラムプロダクトとすることできる。
【0015】
量子コンピュータ120は、一例として、古典コンピュータ110から送信される情報に基づいて量子ビット群123のうちの少なくとも何れかの量子ビットへ照射するための電磁波を生成する。そして、量子コンピュータ120は、生成された電磁波を、量子ビット群123のうちの少なくとも何れかの量子ビットへ照射することにより、量子回路を実行する。
【0016】
図1の例では、量子コンピュータ120は、古典コンピュータ110と通信を行う制御装置121と、制御装置121からの要求に応じて電磁波を生成する電磁波生成装置122と、電磁波生成装置122からの電磁波照射を受ける量子ビット群123とを備える。量子コンピュータ120のうちの電磁波生成装置122及び量子ビット群123は、QPU(Quantum processing unit)でもある。なお、本実施形態において「量子コンピュータ」とは、古典ビットによる演算を一切行わないことを意味するものではなく、量子ビットによる演算を含むコンピュータをいう。
【0017】
制御装置121は、古典ビットにより演算を行う古典コンピュータであり、古典コンピュータ110において行うものとして本明細書にて説明する処理の一部又は全部を代替的に行う。例えば、制御装置121は、量子回路を予め記憶又は決定しておき、量子回路U^(θ)のパラメータθを受信したことに応じて、量子ビット群123において量子回路U^(θ)を実行するための量子ゲート情報を生成してもよい。
【0018】
ユーザ端末130は、古典ビットにより演算を行う古典コンピュータである。ユーザ端末130は、ユーザから入力された情報を受け付け、当該情報に応じた処理を実行する。
【0019】
古典コンピュータ110、制御装置121、及びユーザ端末130は、例えば、
図2に示すコンピュータ50で実現することができる。コンピュータ50はCentral processing unit(CPU)51、一時記憶領域としてのメモリ52、及び不揮発性の記憶部53を備える。また、コンピュータ50は、外部装置及び出力装置等が接続される入出力interface(I/F)54、及び記録媒体に対するデータの読み込み及び書き込みを制御するread/write(R/W)部55を備える。また、コンピュータ50は、インターネット等のネットワークに接続されるネットワークI/F56を備える。CPU51、メモリ52、記憶部53、入出力I/F54、R/W部55、及びネットワークI/F56は、バス57を介して互いに接続される。
【0020】
実施形態のハイブリッドシステム100は、エネルギーの1階微分、エネルギーの2階微分、又は非断熱結合値を計算する。以下、前提となる事項について説明する。
【0021】
(ハミルトニアンの説明)
分子の電子状態を表すハミルトニアンは、原子核の位置座標を表す位置パラメータxに依存する。位置パラメータxはベクトルである。ハミルトニアンを古典コンピュータ上で計算する手法に関しては、例えば、以下の参考文献を参照されたい。
【0022】
参考文献1:S. McArdle, S. Endo, A. Aspuru-Guzik, S. C. Benjamin, and X. Yuan, Quantum computational chemistry, Rev. Mod. Phys. 92, 015003 (2020).
参考文献2:Y. Cao, J. Romero, J. P. Olson, M. Degroote, P. D. Johnson, M. Kieferova, I. D. Kivlichan, T. Menke, B. Peropadre, N. P. D. Sawaya, S. Sim, L. Veis, and A. Aspuru-Guzik, Quantum chemistry in the age of quantum computing, Chemical Reviews 119, 10856 (2019).
【0023】
ハミルトニアンは、以下の式(1)によって表される。
【0024】
【0025】
なお、数式中において、記号(例えば、X)上に“-”が付された文字を、以下では、X-等として表す場合がある。また、数式中において、記号(例えば、X)上に“^”が付された文字を、以下では、X^として表す場合がある。
【0026】
上記式(1)におけるE
c(x)は、位置パラメータxに依存するスカラー値である。また、
は、i番目の分子軌道におけるスピンσに関する生成消滅演算子である。この生成消滅演算子は、以下のフェルミオンの反交換関係を満たす。
【0027】
【0028】
は、反交換子である。δはクロネッカーのデルタである。
【0029】
hij(x)は一電子積分と称され、gijkl(x)は二電子積分と称される。なおi,j,k,lは、インデックスである。位置パラメータxが、分子の原子核の座標である場合、以下のような定義がなされる。
【0030】
【0031】
ここで、φi(r;x)は、i番目の分子軌道における電子の波動関数である。rは、電子の位置座標である。I番目の原子核の座標はRIであり、その電荷はZIである。
【0032】
分子軌道の数がNである場合、ハミルトニアンを行列によって表現したときのサイズはO(eN)となる。このため、古典コンピュータが巨大な分子のハミルトニアンを計算することは困難である。
【0033】
一方、分子軌道の数がNの場合、量子コンピュータは2N個の量子ビットでハミルトニアンを扱うことができる。このため、ハミルトニアンを用いて分子軌道に関する計算を実行する場合、量子コンピュータは古典コンピュータに比べて優位性を有している。
【0034】
[State-averaged orbital optimization]
(活性空間近似)
ハミルトニアンを用いて分子軌道に関する計算を実行する際に、量子コンピュータは古典コンピュータに比べ優位性がある。しかし、現時点の量子コンピュータの計算能力は未だ低い。そこで、本実施形態では、活性空間の近似(以下、活性空間近似と称する。)を導入する。活性空間近似は、古典コンピュータによる量子化学計算においても導入されている。
【0035】
活性空間近似においては、高いエネルギーを有する軌道(仮想軌道とも称される。)は空いているのに対し、低いエネルギーを有する軌道(占有軌道又はコア軌道とも称される。)は二重占有状態となっていると考えられている。電子の重ね合わせは活性空間における軌道についてのみ考慮されるため、計算に用いられる量子ビットの数を低減させることができる。数学的には、活性空間近似における波動関数は次式によって表される。
【0036】
【0037】
は、仮想軌道に対応する状態である。|ψ>は活性空間における波動関数であり状態を表す。
【0038】
【0039】
ハミルトニアンの活性空間への射影を実行する演算子Pは、活性空間における任意の状態|ψ>を用いて以下の式によって表される。
【0040】
【0041】
(Orbital optimization and state average)
活性空間近似の近似精度を向上させるために、「軌道最適化」と称される分子軌道の最適化が利用される場合がある。軌道最適化は、以下のユニタリ演算子であるU^OO(κ)によって定式化される。
【0042】
【0043】
ここで、κは分子軌道に関するパラメータである。以下、κを軌道パラメータと称する。なお、κpqは行列である軌道パラメータκの要素を表す。p,qは分子軌道を表すインデックスである。
【0044】
U^OO(κ)は、ハミルトニアンH^(x)をUoo^†(κ)H^(x)U^OO(κ)へと変換するための演算子であり、軌道パラメータκを変数として持つ分子軌道の回転を表す演算子である。以下、U^OO(κ)を軌道回転演算子と称する。
【0045】
ここで、軌道回転演算子U^OO(κ)によって回転され、かつ活性空間へ写像されたハミルトニアンH^(x,κ)は、以下の式によって定義される。なお、Pは活性空間への射影演算子である。
【0046】
【0047】
量子化学計算における軌道最適化では、活性空間におけるハミルトニアンH^(x,κ)に対応するエネルギーが最小化されるような軌道パラメータκが計算される。本実施形態では、活性空間におけるハミルトニアンH^(x,κ)の状態平均エネルギーの最適化を考慮する。具体的には、本実施形態では、状態平均エネルギーを以下のように定義する。
【0048】
【0049】
ここで、次式は、活性空間におけるハミルトニアンH^(x,κ)のうちのK個の固有エネルギーである。
【0050】
【0051】
なお、K個の固有エネルギーは、活性空間におけるハミルトニアンH^(x,κ)に対応するエネルギーのうち、低い順にK個選択された固有エネルギーである。
【0052】
また、次式は、正の重み係数である。
【0053】
【0054】
上記式の正の重み係数は、次式を満たす。
【0055】
【0056】
なお、本実施形態ではハミルトニアンH^(x,κ)に対応するエネルギーのうちの低いK個の固有エネルギーが固有エネルギーの集合{ES}として選択されるが、低いK個の固有エネルギー以外の固有エネルギーの集合{ES}が選択されてもよい。
【0057】
以下の参考文献においては、軌道最適化計算は、Variational Quantum Eigensolver(VQE)と組み合わせて実行される。
【0058】
参考文献3:W. Mizukami, K. Mitarai, Y. O. Nakagawa, T. Yamamoto, T. Yan, and Y.-y. Ohnishi, Orbital optimized unitary coupled cluster theory for quantum computer, Phys. Rev. Research 2, 033421 (2020).
参考文献4:T. Takeshita, N. C. Rubin, Z. Jiang, E. Lee, R. Babbush, and J. R. McClean, Increasing the representation accuracy of quantum simulations of chemistry without extra quantum resources, Phys. Rev. X 10, 011004 (2020).
【0059】
VQEは、ハミルトニアンH^(x)の基底状態を得るためのアルゴリズムである。なお、以下の参考文献において状態平均のための軌道最適化計算も提案されている。一方で、上記非特許文献1及び以下の参考文献に開示されているsubspace search VQE(SSVQE)では、基底状態及び励起状態が計算されている。
【0060】
参考文献5:K. M. Nakanishi, K. Mitarai, and K. Fujii, Subspacesearch variational quantum eigensolver for excited states, Phys. Rev. Research 1, 033062 (2019).
【0061】
そこで、本実施形態では、ハミルトニアンH^(x,κ)の固有状態を計算するためのアルゴリズムとして3つの手法を採用する。具体的には、本実施形態では、SSVQE、multistate-contracted VQE(MCVQE)、及びvariational quantum deflation(VQD)を用いてハミルトニアンH^(x,κ)の固有状態を計算する。MCVQE及びVQDは、以下の参考文献に開示されている。
【0062】
参考文献6:R. M. Parrish, E. G. Hohenstein, P. L. McMahon, and T. J. Martinez, Quantum computation of electronic transitions using a variational quantum eigensolver, Phys. Rev. Lett. 122, 230401 (2019).
参考文献7:O. Higgott, D. Wang, and S. Brierley, Variational Quantum Computation of Excited States, Quantum 3, 156 (2019).
【0063】
また、本実施形態では、状態平均エネルギーにおける軌道最適化計算(SA‐OO)と上記3つの各々のアルゴリズムとを組み合わせた手法の各々を、以下、SA‐OO‐SSVQE、SA‐OO‐MCVQE、及びSA‐OO‐VQDと称する。なお、上記非特許文献1に開示されているSA‐OO‐VQEは、本実施形態のSA‐OO‐SSVQEに対応する。
【0064】
図3に、本実施形態のアルゴリズムを説明するための図を示す。上記3つのSA‐OOアルゴリズムは、
図3に示されるように、2つのステップから構成されている。具体的には、活性空間におけるハミルトニアンH^(x,κ)に対して、
図3の左側において示されるような軌道最適化と、
図3の右側において示されるような波動関数の最適化とが繰り返される。これらの処理は、状態平均エネルギーが収束するまで繰り返される。
【0065】
より具体的には、第1のステップとして、活性空間におけるハミルトニアンH^(x,κ)の固有状態を得るための波動関数(又は量子回路の状態)の最適化が実行される。第2のステップとして、状態平均エネルギーを減少させるために軌道パラメータκが更新される。なお、第2のステップは、第1のステップで最適化された波動関数の密度行列が用いられる。以下、3つのアルゴリズムについて詳細に説明する。
【0066】
(SA‐OO‐SSVQE)
まず、SA‐OO‐SSVQEについて説明する。SA‐OO‐SSVQEでは、互いに直交する以下の固有状態が設定される。
【0067】
【0068】
なお、Sは固有状態を識別するためのインデックスであり、固有状態はK個存在する。
【0069】
また、回路パラメータθを有するユニタリ演算子である量子回路U^(θ)が設定される。そして、SA‐OO‐SSVQEでは、以下の損失関数が最小化されるように回路パラメータθが最適化される。
【0070】
【0071】
なお、ws
VQEは、次式を満たす重み係数である。
【0072】
【0073】
損失関数が最小となる最適な回路パラメータθ*を用いると、K個の固有状態は以下の式によって表される。
【0074】
【0075】
また、固有エネルギーは以下の式によって表される。
【0076】
【0077】
なお、SSVQEにおける重み係数ws
VQEは、状態平均エネルギーの重み係数ws
SAとは関係ない。
【0078】
本実施形態では、SA‐OO‐SSVQEにおける波動関数を最適化する際に、以下の式に示されるSSVQEの損失関数ESSVQEが最小となるような回路パラメータθ*を計算する。
【0079】
【0080】
式(9)では、式(8)のハミルトニアンHが、活性空間におけるハミルトニアンH^(x,κ)へと置き換わっている。式(9)においては、軌道パラメータκが固定されたESSVQEに基づいて回路パラメータθが最適化される。そして、最適な回路パラメータθ*を有する量子回路U^(θ*)に基づいてハミルトニアンH^(x,κ)の固有状態及び固有エネルギーが得られる。その後、後述する軌道パラメータの最適化計算が実行される。
【0081】
軌道パラメータの最適化の際に用いられる状態平均エネルギーESAは、以下の式によって定義される。以下の状態平均エネルギーESAが最小となるような軌道パラメータκ*が計算される。
【0082】
【0083】
なお、上記式におけるθは、上述した処理によって最適化された回路パラメータθ*である。状態平均エネルギーESAが収束するまで、回路パラメータθの更新と軌道パラメータκの更新とが繰り返される。
【0084】
(SA‐OO‐VQD)
次に、SA‐OO‐VQDについて説明する。VQDは、ハミルトニアンの励起状態を得るためのアルゴリズムである。まず、以下の式に示すように、固有状態を得るための量子回路が設定される。
【0085】
【0086】
ここで、|ψ>は初期状態であり、U^(θ)は量子回路である。ここで、仮に次式に示されるようなS-1個の固有状態が得られたとする。
【0087】
【0088】
この場合、S番目の固有状態を得るためのVQDの損失関数の値が最小となるような回路パラメータθ*によって表されるS番目のハミルトニアンの固有状態は、以下の式によって表される。
【0089】
【0090】
βTは、|ψ(θS)>の直交性を担保するための正の定数である。損失関数FS(θS)を最小化するような回路パラメータθ*によって表されるS番目の固有状態は、次式で表される。
【0091】
【0092】
損失関数FSの最適化がS=0から順に実行され、繰り返し計算によってK番目の損失関数FSが最適化される。
【0093】
本実施形態のSA‐OO‐VQDでは、活性空間におけるハミルトニアンH^(x,κ)の固有状態を計算するためのS番目の回路パラメータθS
*は、VQDを実行することにより得られる。具体的には、以下に示すFS
VQD(θS)をS=0,...,K-1について最小化することにより、回路パラメータθ0
*,...,θK-1
*が得られる。
【0094】
【0095】
なお、上記式(12)を最小化することにより回路パラメータθ0
*,...,θK-1
*を得る際には、軌道パラメータκの値は固定された上で回路パラメータの値が計算される。
【0096】
回路パラメータθ0,...,θK-1が最適化され、かつそれら回路パラメータを用いて固有状態が計算された後、上記式(10)における状態平均エネルギーESAが最小となるように軌道パラメータκが計算される。具体的には、状態平均エネルギーESAが収束するまで、回路パラメータθの更新と軌道パラメータκの更新とが繰り返される。
【0097】
(SA‐OO‐MCVQE)
次に、SA‐OO‐MCVQEについて説明する。MCVQEは2つのステップから構成されている。第1のステップでは、以下の式のEMCVQE(θ)が最小となるような回路パラメータθ*が計算される。
【0098】
【0099】
第2のステップでは、古典コンピュータを用いてハミルトニアンHを対角化する。具体的には、以下の式によって表される部分空間Sにおけるハミルトニアンが対角化される。
【0100】
【0101】
部分空間におけるハミルトニアンはK×Kの行列として表される。ハミルトニアンの要素hSTは以下の式によって表される。
【0102】
【0103】
なお、ハミルトニアンの要素hSTは、次のような重ね合わせ状態を用いれば量子コンピュータによって計算可能となる。
【0104】
【0105】
また、ハミルトニアンを表す行列hから得られるA番目の固有ベクトルvS
(A)は、以下の式を満たす。
【0106】
【0107】
なお、上記式(15)におけるEAは固有ベクトルvS
(A)に対応する固有値でもある。上記式(15)は、ハミルトニアンHのA番目の励起状態|ΨA>が以下の式によって表されることに対応する。
【0108】
【0109】
本実施形態のSA‐OO‐MCVQEでは、上記式(6)の活性空間におけるハミルトニアンH^(x,κ)を含む以下の損失関数EMCVQE(θ)を定義する。
【0110】
【0111】
SA‐OO‐MCVQEでは、まず、上記式(13)の損失関数EMCVQE(θ)が最小となるような回路パラメータθ*が計算される。そして、古典コンピュータによってハミルトニアンを表す行列が対角化される。これにより、上記式(16)が示すハミルトニアンHの固有状態と当該固有状態に対応する固有エネルギーとが得られる。その後、下記式(10A)に示す状態平均エネルギーESAが最小化されるように軌道パラメータκが更新される。そして、状態平均エネルギーESAが収束するまで、回路パラメータθの更新と軌道パラメータκの更新とが繰り返される。
【0112】
【0113】
(エネルギーの微分について)
SA‐OO‐SSVQE、SA‐OO‐VQD、及びSA‐OO‐MCVQEを実行することにより、分子の位置パラメータxに対応する固有エネルギーが得られる。ここで、固有エネルギーのxμによる解析的な1階微分を考える。なお、xμは、ベクトルである位置パラメータxのうちのμ番目の要素である。
【0114】
本実施形態では、ラグランジュの未定乗数法に基づいて、固有エネルギーの解析的な1階微分が計算される。なお、SA‐OO‐SSVQEとSA‐OO‐VQDとSA‐OO‐MCVQEとの間において僅かな差異がある。
【0115】
(ステップ0)
まず、SA‐OO‐SSVQE、SA‐OO‐VQD、又はSA‐OO‐MCVQEを実行する。これにより、各種の損失関数を最小化するような最適な軌道パラメータκ*及び最適な回路パラメータθ*が得られる。なお、SA‐OO‐MCVQEを実行した場合には、ベクトルv(A)も併せて得られる。
【0116】
(ステップ1)
まず、ラグランジアン
を設定する。また、位置パラメータx以外のパラメータに関する極値条件を設定する。なお、θ
-A,κ
-Aは、ラグランジュの未定乗数である。
【0117】
(ステップ2)
以下の式を解くことにより、ラグランジュの未定乗数を計算する。
【0118】
【0119】
ここで、
は、ラグランジアンL
Aのヘッセ行列である。また、f
AはA番目のエネルギーの回路パラメータθによる1階微分である。g
Aは、A番目のエネルギーの軌道パラメータκによる1階微分である。なお、具体的な形式については後述する。
【0120】
(ステップ3)
上記式(18)を計算することにより得られたラグランジュの未定乗数を用いることにより、解析的な微分が計算可能となる。
【0121】
以下、SA‐OO‐SSVQE、SA‐OO‐VQD、及びSA‐OO‐MCVQEの手法毎に具体的に説明する。
【0122】
(SA‐OO‐SSVQEによる微分の計算)
SA‐OO‐SSVQEにおいて、A番目の固有状態のラグランジアンLAは以下の式によって定義される。
【0123】
【0124】
ここで、θiはベクトルである回路パラメータθのi番目の要素である。また、κpqは、行列である軌道パラメータκの要素である。
【0125】
また、θ-A
i及びκ-A
pqは、ラグランジュの未定乗数である。ここで、ラグランジアンLAのうちの位置パラメータx以外の全てのパラメータに対して極値条件を課すことにより、以下の式が導出される。
【0126】
【0127】
ここで、以下の式で表されるEAは、ある特定の状態Aにおけるエネルギーである。
【0128】
【0129】
上記式(20)のうちの後半2つの部分は、回路パラメータθが最適な回路パラメータθ*であり、かつ軌道パラメータκが最適な軌道パラメータκ*である場合に満たされる。また、上記式(20)のうちの上2つの部分を次式(21)によって置き換え、簡素化すると以下の式(22)が導出される。
【0130】
【0131】
【0132】
上記式における
及び
は、量子コンピュータによる測定によって計算可能である。このため、上記式(22)のうちの
及び
を量子コンピュータによって計算することにより、ラグランジュの未定乗数であるθ
-A*及びκ
-A*が決定される。
【0133】
そして、ラグランジュの未定乗数であるθ-A*及びκ-A*に基づいて、極値条件を課すことにより、エネルギーEAの位置パラメータxによる解析的な微分が計算可能となる。
【0134】
なお、極値条件がラグランジアンLAに適用された場合、次式の関係が成り立つ。
【0135】
【0136】
ここで、EA
*(x)はSA‐OO‐SSVQEによって得られるエネルギーである。このため、上述した関係は次式によって表される。
【0137】
【0138】
より厳密には、上記式(23)は次式によって表される。
【0139】
【0140】
上記式(24)における右辺の各項は、量子コンピュータによって量子測定をすることで計算可能である。このため、古典コンピュータは、ラグランジュの未定乗数と量子コンピュータによって量子測定された測定結果とに基づいて、上記式(24)に従って、エネルギーEA
*(x)の1階微分を計算することができる。
【0141】
(SA‐OO‐VQDによる微分の計算)
上記と同様に、SA‐OO‐VQDによって得られたエネルギーに対して以下に示すラグランジアンLA
VQDが設定される。
【0142】
【0143】
上記式(25)におけるθSiは、ベクトルである回路パラメータθSのi番目の要素である。また、θ-A
Si及びκ-A
pqはラグランジュの未定乗数である。
【0144】
なお、SA‐OO‐VQDにおいて注意すべき点は、上記式(25)からもわかるようにA番目の固有状態には、全ての回路パラメータθ0,...,θK-1とそれに対応する未定乗数とが含まれている点である。ここで、ラグランジアンLA
VQDのうちの位置パラメータx以外の全てのパラメータに対して極値条件を課すことにより、以下の式が導出される。
【0145】
【0146】
なお、以下の式によって表されるEAは状態別のエネルギーである。
【0147】
【0148】
上記式(26)における後半2つの式は、回路パラメータθが最適な回路パラメータθ*であり、かつ軌道パラメータκが最適な軌道パラメータκ*である場合に満たされる。また、上記式(26)のうちの前半2つの部分を次式(27)によって置き換え、簡素化すると以下の式(28)が導出される。
【0149】
【0150】
【0151】
なお、上記式(28)を導出する際には、以下の条件が利用される。
【0152】
【0153】
上記式(28)における各要素は、量子コンピュータによる量子測定と古典コンピュータによるラグランジュの未定乗数法による計算によって計算可能である。このため、上記のSA‐OO‐SSVQEの場合と同様に、エネルギーEA
*(x)の微分を計算することが可能となる。SA‐OO‐VQDにおけるエネルギーEA
*(x)の微分は以下の式によって表される。
【0154】
【0155】
(SA‐OO‐MCVQEによる1階微分の計算)
SA‐OO‐MCVQEにおいては、上述したように上記式(15)を解くことにより、エネルギーEAが計算される。ハミルトニアンHが位置パラメータxに依存する場合、行列hの各要素hST、固有ベクトルvS
(A)、及びエネルギーEAも位置パラメータxに依存する。上記式(15)を用いると、以下の式が成立する。
【0156】
【0157】
なお、上記式(30)は、座標パラメータxのうちのμ番目の要素xμに関する数式であり、以下の関係式を用いることにより導かれる。
【0158】
【0159】
これにより、エネルギーEAの微分は行列の要素hSTを微分することにより計算される。ここで、以下のラグランジアンLSTを考慮する。
【0160】
【0161】
また、以下の式が成立する。
【0162】
【0163】
位置パラメータxとは異なる全てのパラメータに関して極値条件を考慮すると以下の関係式が成立する。
【0164】
【0165】
回路パラメータθが最適な回路パラメータθ*であり、かつ軌道パラメータκが最適な軌道パラメータκ*である場合に、以下の式が成立する。
【0166】
【0167】
なお、上記式が成立することを線形式によって表すと、以下の式(33)が導出される。
【0168】
【0169】
上記式(33)における各要素を次式(34)によって置き換え、簡素化すると以下の式(35)が導出される。
【0170】
【0171】
【0172】
上記式(34)における右辺の各項は、量子コンピュータによって量子測定をすることが可能である。このため、古典コンピュータは、ラグランジュの未定乗数と量子コンピュータによって量子測定された測定結果とに基づいて、上記式(35)に従って、行列の要素hSTの1階微分を計算することができる。そして、上記式(35)によって計算されたdhST/dxμを、上記式(30)へ代入することによりエネルギーEA
*(x)の1階微分が計算される。
【0173】
(2階微分)
次に2階微分の導出方法について説明する。
【0174】
(SA‐OO‐SSVQEによる2階微分の計算)
SA‐OO‐SSVQEによって状態別のエネルギーEA
*(x)の2階微分を計算するために、上記式(20)のラグランジアンにおける極値条件をxで微分すると、以下の式のようになる。
【0175】
【0176】
ここで、上記式(36)におけるαはθ,κ,θ-A,κ-Aの何れかであり、iはインデックスである。なお、ここでは、ラグランジアンは次式のように記述される。
【0177】
【0178】
上記の各式を纏めると、以下の式が導出される。
【0179】
【0180】
次式を設定しかつ上記の条件を満たすように設定することにより、以下の式(38)が導出される。
【0181】
【0182】
【0183】
上記の各関係式を用いると以下の式(39)及び(40)が導出される。なお、α,β=θ,κ,θ
-A,κ
-Aである。また、
である。
【0184】
【0185】
【0186】
上記式(39)、(40)、(37)、及び(38)は次式に示されるように簡素化できる。
【0187】
【0188】
上記の各式を纏めることにより、最終的には以下の式が導出される。
【0189】
【0190】
ここで、
は、インデックスμとインデックスνとが入れ替えられた項を表す。
【0191】
(SA‐OO‐MCVQEによる2階微分の計算)
1階微分と同様に、上記式(31)に示されるラグランジアンの極値条件を満たすように、2階微分は計算される。上記式(37)と同様に、以下の式が導かれる。
【0192】
【0193】
(非断熱結合)
本実施形態では非断熱結合も計算される。固有状態Sと固有状態Tとの間の非断熱結合は、次式によって定義される。
【0194】
【0195】
ここで、|ψ*
S(x)>は、固有状態Sを表す。以下、具体的に説明する。
【0196】
(SA‐OO‐SSVQEによる非断熱結合の計算)
SA‐OO‐SSVQEにおいて固有状態は次式によって表される。
【0197】
【0198】
非断熱結合dST
μは、以下の式によって計算される。
【0199】
【0200】
最適な回路パラメータθ*及び最適な軌道パラメータκ*の位置パラメータxμによる微分dθ*/dxμ,dκ*/dxμは、上記式(37)において計算される。なお、次式に示す遷移振幅は、量子コンピュータによって計算可能である。
【0201】
【0202】
上記式(45)における右辺の各項は、量子コンピュータによって量子測定をすることが可能である。このため、古典コンピュータは、ラグランジュの未定乗数と量子コンピュータによって量子測定された測定結果とに基づいて、上記式(45)に従って、非断熱結合dST
μを計算することができる。
【0203】
(SA‐OO‐MCVQEによる非断熱結合の計算)
SA‐OO‐MCVQEにおける固有状態は次式によって表される。
【0204】
【0205】
また、SA‐OO‐MCVQEにおける非断熱結合は、以下の式によって表される。
【0206】
【0207】
上記式(46)における右辺の第1項は、以下の式によって計算される。
【0208】
【0209】
なお、dhMN/dxμは、上記式(35)において計算される。上記式(46)の右辺の第2項の形式は、上記式(45)の右辺の第2項と同様である。このため、上記式(43)を解くことにより得られるdθ*/dxμ,dκ*/dxμを用いることにより、上記式(46)の右辺の第2項も計算可能である。このため、上記式(46)に従って、非断熱結合dST
μを計算することができる。
【0210】
[実施形態のハイブリッドシステム100の動作]
【0211】
次に、実施形態のハイブリッドシステム100の具体的な動作について説明する。ハイブリッドシステム100の各装置において、
図4及び
図5に示される各処理が実行される。なお、以下では、SA‐OO‐SSVQE、SA‐OO‐VQD、及びSA‐OO‐MCVQEを用いて、エネルギーの1階微分、エネルギーの2階微分、及び非断熱結合の少なくとも1以上の物理量を計算する場合を例に説明する。
【0212】
まず、ステップS100において、ユーザ端末130は、ユーザから入力された、計算対象に関する情報である計算対象情報と、計算方法に関する情報である計算方法情報とを、古典コンピュータ110へ送信する。
【0213】
計算対象情報には、例えば、分子構造に関する情報、計算する物理量に関する情報、及び計算する状態の数K等の情報が含まれている。計算する物理量は、エネルギーの1階微分、エネルギーの2階微分、及び非断熱結合の少なくとも1以上の物理量である。分子構造に関する情報の一例としては、解析対象の分子の原子核の位置を表す位置パラメータxが挙げられる。
【0214】
計算方法情報には、例えば、ハミルトニアン変換手法、量子回路U^(θ)の初期情報、回路パラメータθの初期値、ψの初期状態、回路パラメータθの最適化手法、状態平均エネルギーを計算するための重み、及び軌道パラメータκの初期値等が含まれている。なお、SA‐OO‐SSVQEを用いる場合には、計算方法情報には、SSVQE用の損失関数を計算するための重み係数ws
VQEの情報等が含まれる。また、SA‐OO‐VQDを用いる場合には、計算方法情報には、VQD用の損失関数を計算するための重み係数βTの情報等が含まれる。
【0215】
次に、ステップS102において、古典コンピュータ110は、ユーザ端末130から送信された計算対象情報及び計算方法情報を受信する。そして、ステップS102において、古典コンピュータ110は、計算対象情報のうちの分子の原子核の位置を表す位置パラメータx及び計算方法情報のうちのハミルトニアン変換手法に基づいて、位置パラメータxを変数として持つハミルトニアンH^(x)を計算する。
【0216】
ステップS104において、古典コンピュータ110は、分子軌道に関するパラメータである軌道パラメータκを変数として持つ演算子であって、かつ分子軌道の回転を表す演算子である軌道回転演算子U^OO(κ)を決定する。具体的には、古典コンピュータ110は、上記式(5)に従って、軌道回転演算子U^OO(κ)を決定する。
【0217】
ステップS106において、古典コンピュータ110は、量子回路のパラメータである回路パラメータθを変数として持つ量子回路U^(θ)の構造を決定する。具体的には、古典コンピュータ110は、ステップS102で受信した計算対象情報のうちの量子回路U^(θ)の初期情報に基づいて、量子回路U^(θ)の構造を決定する。
【0218】
ステップS108において、古典コンピュータ110は、上記ステップS102で計算されたハミルトニアンH^(x)に対して、軌道回転と活性空間への射影とを行うことにより、ハミルトニアンH^(x,κ)を生成する。具体的には、古典コンピュータ110は、上記ステップS102で計算されたハミルトニアンH^(x)に対して、上記式(6)に示す演算を実行することにより、ハミルトニアンH^(x,κ)を生成する。
【0219】
ステップS109において、古典コンピュータ110は、回路パラメータθを変数として持つ第1目的関数を設定する。具体的には、古典コンピュータ110は、上記ステップS102で受信した計算方法情報のうちのコスト関数を計算するための重みの情報に基づいて、コスト関数である第1目的関数を設定する。なお、第1目的関数は、用いられる手法に応じて異なる。
【0220】
SA‐OO‐SSVQEが用いられる場合、古典コンピュータ110は、ステップS108で生成されたハミルトニアンH^(x,κ)と、ステップS102で受信した計算方法情報のうちの重み係数ws
VQEとに基づいて、上記式(9)に示されるような損失関数ESSVQE(θ)を第1目的関数として設定する。
【0221】
SA‐OO‐VQDが用いられる場合、古典コンピュータ110は、ステップS108で生成されたハミルトニアンH^(x,κ)と、ステップS102で受信した計算方法情報のうちの重み係数ws
VQEとに基づいて、上記式(12)に示されるような損失関数FS
VQD(θS)を第1目的関数として設定する。
【0222】
SA‐OO‐MCVQEが用いられる場合、古典コンピュータ110は、ステップS108で生成されたハミルトニアンH^(x,κ)に基づいて、上記式(17)に示されるような損失関数EMCVQE(θ)を第1目的関数として設定する。
【0223】
ステップS110において、古典コンピュータ110は、量子計算に必要な各種情報を量子コンピュータ120へ送信する。具体的には、古典コンピュータ110は、ステップS109で設定された第1目的関数、ステップS106で決定された量子回路U^(θ)の構造、ステップS102で受信した計算方法情報のうちの、軌道パラメータκの初期値、回路パラメータθの初期値、回路パラメータθの最適化手法、計算対象情報のうちの計算する状態の数K、及び測定対象の物理量に関する情報を、量子コンピュータ120へ送信する。
【0224】
ステップS112において、制御装置121は、ステップS110で古典コンピュータ110から送信された各種情報を受信する。
【0225】
ステップS114において、制御装置121は、ステップS112で受信した各種情報に応じた量子計算を量子コンピュータ120に実行させる。量子コンピュータ120は、制御装置121による制御に応じて、測定対象の物理量に対する量子測定を実行する。後述するように、古典コンピュータ110は、量子コンピュータ120による量子測定の測定結果に基づき、第1目的関数を最小化するような回路パラメータθ*を得る。
【0226】
具体的には、量子コンピュータ120は、制御装置121の制御に応じて、量子ビット群123のうちの少なくとも何れかの量子ビットへ照射するための電磁波を生成する。そして、量子コンピュータ120は、生成された電磁波を、量子ビット群123のうちの少なくとも何れかの量子ビットへ照射し、初期情報に応じた量子回路を実行することにより、最適な回路パラメータθ*を生成する。量子回路に含まれる各量子ゲートのゲート操作は対応する電磁波波形へと変換され、生成された電磁波が電磁波生成装置122によって量子ビット群123に照射される。そして、量子コンピュータ120は、回路パラメータθ*を出力する。
【0227】
ステップS116において、制御装置121は、上記ステップS114で得られた測定結果を、古典コンピュータ110へ送信する。
【0228】
ステップS118において、古典コンピュータ110は、ステップS116で制御装置121から送信された測定結果を受信する。そして、古典コンピュータ110は、測定結果に基づいて、回路パラメータθ*を計算する。
【0229】
なお、ステップS114~ステップS118の処理によって最適な回路パラメータθ*が得られる場合を説明したが、実際の処理では、SSVQE、VQD、及びMCVQEの何れか1つの手法に応じて、古典コンピュータ110と量子コンピュータ120との間において繰り返し計算が実行されることにより、最適な回路パラメータθ*が得られる。具体的には、まず、量子コンピュータ120は、ある回路パラメータθに対応する電磁波を量子ビット群123に照射する。次に、古典コンピュータ110は、量子コンピュータ120の量子測定による測定結果に対応する期待値E(θ)を取得し、第1目的関数の値を計算する。そして、古典コンピュータ110は、第1目的関数の値に応じて、第1目的関数の値が小さくなるように回路パラメータθを更新する。古典コンピュータ110と量子コンピュータ120との間において第1目的関数の値が最小となるまで、これらの計算が繰り返され、古典コンピュータ110は、最適な回路パラメータθ*を得る。
【0230】
ステップS120において、古典コンピュータ110は、ステップS118で情報記憶部113へ記憶された回路パラメータθ*を定数として持ち、かつ軌道パラメータκを変数として持つ目的関数である第2目的関数を設定する。そして、古典コンピュータ110は、第2目的関数の値を計算する。
【0231】
SA‐OO‐SSVQE又はSA‐OO‐VQDの手法が用いられる場合、古典コンピュータ110は、ステップS108で生成されたハミルトニアンH^(x,κ)と、ステップS102で受信した計算方法情報のうちの重み係数wS
SAと、ステップS118で情報記憶部113へ記憶された回路パラメータθ*とに基づいて決定される上記式(10)の状態平均エネルギーESA(κ)を、第2目的関数として設定する。一方、SA‐OO‐MCVQEの手法が用いられる場合、古典コンピュータ110は、ステップS108で生成されたハミルトニアンH^(x,κ)と、ステップS102で受信した計算方法情報のうちの重み係数wS
SAと、ステップS118で情報記憶部113へ記憶された回路パラメータθ*とに基づいて決定される上記式(10A)の状態平均エネルギーESA(κ)を、第2目的関数として設定する。そして、古典コンピュータ110は、第2目的関数の値を計算する。
【0232】
ステップS122において、古典コンピュータ110は、量子計算に必要な各種情報を量子コンピュータ120へ送信する。具体的には、古典コンピュータ110は、上記式(10)内の下記の部分に相当する測定対象の物理量に関する情報を含む各種情報を、量子コンピュータ120へ送信する。
【0233】
【0234】
ステップS124において、制御装置121は、古典コンピュータ110から送信された測定対象の物理量に関する情報を含む各種情報を受信する。
【0235】
ステップS125において、制御装置121は、ステップS124で受信した各種情報に応じた量子計算を量子コンピュータ120に実行させる。量子コンピュータ120は、制御装置121による制御に応じて、測定対象の物理量に対する量子測定を実行する。後述するように、古典コンピュータ110は、量子コンピュータ120による量子測定の測定結果に基づき、第2目的関数を最小化するような軌道パラメータκ*を得る。
【0236】
ステップS126において、制御装置121は、ステップS124で得られた測定結果を古典コンピュータ110へ送信する。
【0237】
ステップS128において、古典コンピュータ110は、ステップS126で制御装置121から送信された測定結果を受信する。そして、古典コンピュータ110は、測定結果と状態平均エネルギーの重み係数ws
SAとに基づいて、軌道パラメータκ*を計算する。また、古典コンピュータ110は、上記第2目的関数の値を計算する。
【0238】
ステップS130において、古典コンピュータ110は、計算が収束したか否かを判定する。具体的には、古典コンピュータ110は、ステップS120で計算された第2目的関数の値とステップS128で計算された第2目的関数の値との間の差分が、所定閾値以下であるか否かを判定し、差分が所定閾値以下である場合にはステップS122へ進む。一方、差分が所定閾値より大きい場合にはステップS108へ戻り、ステップS108~ステップS128の処理を繰り返す。
【0239】
ステップS132において、古典コンピュータ110は、上記の各処理により得られた回路パラメータθ*及び軌道パラメータκ*を量子コンピュータ120へ送信する。
【0240】
ステップS134において、量子コンピュータ120は、ステップS132で古典コンピュータ110から送信された回路パラメータθ*及び軌道パラメータκ*を受信する。
【0241】
ステップS136において、古典コンピュータ110は、ステップS102で受信した計算対象情報に基づいて、計算対象の物理量を設定する。具体的には、古典コンピュータ110は、ステップS102で受信した計算対象情報に基づいて、エネルギーの1階微分、エネルギーの2階微分、及び非断熱結合の何れの物理量を計算するのかを設定する。
【0242】
ステップS138において、古典コンピュータ110は、ステップS136で設定された物理量に応じて、測定対象となる物理量に関する情報を量子コンピュータ120へ送信する。測定対象となる物理量は、計算手法及び計算対象の物理量に応じて異なる。
【0243】
[エネルギーの1階微分]
(SA‐OO‐SSVQEの場合)
SA‐OO‐SSVQEを用いてエネルギーの1階微分を計算する場合、古典コンピュータ110は、下記式(A1)のうちの、以下の破線部分の物理量を、測定対象の物理量として量子コンピュータ120へ送信する。
【0244】
【0245】
なお、上述したように、式(A1)におけるA,Sは固有状態を識別するためのインデックスであり、E(x)は固有エネルギーであり、μはベクトルである位置パラメータxの要素を識別するためのインデックスであり、ψは活性空間における固有状態であり、U^(θ)は量子回路であり、θ-はベクトルである回路パラメータθの要素に対応するラグランジュの未定乗数であり、iはベクトルである回路パラメータθの要素を識別するためのインデックスであり、wVQEは固有状態に対する重み係数であり、κ-は行列である軌道パラメータκの行列要素に対応するラグランジュの未定乗数であり、p,qは行列要素を識別するためのインデックスであり、wSAは状態平均エネルギーの重み係数である。なお、ラグランジュの未定乗数は、上記式(18)等の連立方程式を解くことにより計算される。
【0246】
(SA‐OO‐VQDの場合)
SA‐OO‐VQDを用いてエネルギーの1階微分を計算する場合、古典コンピュータ110は、下記式(A2)のうちの、以下の破線部分の物理量を、測定対象の物理量として量子コンピュータ120へ送信する。
【0247】
【0248】
(SA‐OO‐MCVQEの場合)
SA‐OO‐MCVQEを用いてエネルギーの1階微分を計算する場合、古典コンピュータ110は、下記式(A3)のうちの、以下の破線部分の物理量を、測定対象の物理量として量子コンピュータ120へ送信する。
【0249】
【0250】
なお、上述したように、式(A3)におけるTは固有状態を識別するためのインデックスであり、hは固有エネルギーを表す行列の要素である。
【0251】
エネルギーの1階微分を計算する場合、量子コンピュータ120は、後述するステップS142において、上記各式で示されるような、量子回路U^(θ*)及びハミルトニアンH^(x,κ*)の位置パラメータxによる微分を含む期待値を量子測定する。
【0252】
[エネルギーの2階微分]
(SA‐OO‐SSVQEの場合)
SA‐OO‐SSVQEを用いてエネルギーの2階微分を計算する場合、古典コンピュータ110は、下記式(B1)のうちの、以下の破線部分の物理量を、測定対象の物理量として量子コンピュータ120へ送信する。なお、上述したように、式(B1)におけるESSVQEはSSVQEを用いた場合の第1目的関数に相当する損失関数であり、ESAは状態平均エネルギーであり、μ,νはベクトルである位置パラメータxの要素を識別するためのインデックスであり、i,jはベクトル要素を識別するためのインデックスであり、p,q,m,nは行列要素を識別するためのインデックスであり、(μ⇔ν)は隣接する項のμとνとが入れ替えられた項を表す。
【0253】
【0254】
なお、式(B1)には、エネルギーの1階微分に対応する項も含まれている。このため、エネルギーの2階微分を計算する場合、量子コンピュータ120は、後述するステップS142において、量子回路U^(θ*)及びハミルトニアンH^(x,κ*)の位置パラメータxによる微分を含む期待値の測定結果も利用しつつ量子測定を実行する。
【0255】
[非断熱結合]
(SA‐OO‐SSVQEの場合)
SA‐OO‐SSVQEを用いて非断熱結合の値を計算する場合、古典コンピュータ110は、下記式(C1)のうちの、以下の破線部分の物理量を、測定対象の物理量として量子コンピュータ120へ送信する。
【0256】
【0257】
(SA‐OO‐MCVQEの場合)
SA‐OO‐MCVQEを用いて非断熱結合の値を計算する場合、古典コンピュータ110は、下記式(C2)のうちの、以下の破線部分の物理量を、測定対象の物理量として量子コンピュータ120へ送信する。
【0258】
【0259】
なお、式(C2)におけるM,Nは固有状態を識別するためのインデックスであり、vは固有状態に対応する固有ベクトルである。
【0260】
非断熱結合の値を計算する場合、量子コンピュータ120は、後述するステップS142において、式(C1)又は(C2)で示されるような、量子回路U^(θ*)及び軌道回転演算子U^OO(κ*)の位置パラメータxによる微分を含む期待値を量子測定する。
【0261】
ステップS140において、量子コンピュータ120は、ステップS138で古典コンピュータ110から送信された、測定対象の物理量に関する情報を受信する。
【0262】
ステップS142において、量子コンピュータ120は、ステップS140で受信した測定対象の物理量に関する情報と、ステップS120で受信した計算方法情報に含まれる各種情報に基づいて、測定対象の物理量を量子測定することにより、量子測定の測定結果を取得する。
【0263】
ステップS144において、量子コンピュータ120は、量子測定の測定結果を古典コンピュータ110へ送信する。
【0264】
ステップS146において、古典コンピュータ110は、ステップS144で量子コンピュータ120から送信された測定対象を受信する。
【0265】
ステップS148において、古典コンピュータ110は、ステップS144で受信した測定結果に基づいて、計算対象の物理量を計算する。
【0266】
具体的には、古典コンピュータ110は、量子コンピュータ120により得られた測定結果と、回路パラメータθ*、軌道パラメータκ*、及び重み係数ws
VQE,ws
SA等とに基づいて、上記各式の右辺の各項の測定結果の和を計算することにより、上記各式の左辺が表すエネルギーの1階微分、エネルギーの2階微分、及び非断熱結合の値の少なくとも1以上の物理量を計算する。
【0267】
ステップS150において、古典コンピュータ110は、ステップS148で得られた計算結果をユーザ端末130へ送信する。
【0268】
ステップS152において、ユーザ端末130は、古典コンピュータ110から送信された計算結果を受信する。
【0269】
以上説明したように、実施形態のハイブリッドシステムは、古典コンピュータが、分子の原子核の位置を表す位置パラメータxを変数として持つハミルトニアンH^(x)を計算し、分子軌道に関するパラメータである軌道パラメータκを変数として持つ演算子であって、かつ分子軌道の回転を表す演算子である軌道回転演算子U^OO(κ)を決定する。また、古典コンピュータは、量子回路のパラメータである回路パラメータθを変数として持つ量子回路U^(θ)を決定し、ハミルトニアンH^(x)に対して軌道回転と活性空間への射影とを行うことにより、ハミルトニアンH^(x,κ)を生成し、回路パラメータθを変数として持つ第1目的関数を設定する。そして、量子コンピュータが、第1目的関数を最小化又は最大化するような量子回路U^(θ)の回路パラメータθ*を計算する。古典コンピュータは、回路パラメータθ*を定数として持ち、かつ軌道パラメータκを変数として持つ目的関数である第2目的関数を設定する。量子コンピュータは、第2目的関数を最小化又は最大化するような軌道パラメータκ*を計算する。量子コンピュータは、回路パラメータθ*と軌道パラメータκ*とに基づいて、量子回路U^(θ*)及びハミルトニアンH^(x,κ*)の位置パラメータxによる微分を含む期待値を量子測定することにより、量子測定の測定結果を取得する。そして、古典コンピュータは、量子測定の測定結果に基づいて、ハミルトニアンH^(x)に対応するエネルギーの微分を計算する。これにより、量子コンピュータを用いてSA‐OOの計算を実行する際にエネルギーの微分値を得ることができる。
【0270】
また、実施形態のハイブリッドシステムは、古典コンピュータが、分子の原子核の位置を表す位置パラメータxを変数として持つハミルトニアンH^(x)を計算し、分子軌道に関するパラメータである軌道パラメータκを変数として持つ演算子であって、かつ分子軌道の回転を表す演算子である軌道回転演算子U^OO(κ)を決定する。また、古典コンピュータは、量子回路のパラメータである回路パラメータθを変数として持つ量子回路U^(θ)を決定し、ハミルトニアンH^(x)に対して軌道回転と活性空間への射影とを行うことにより、ハミルトニアンH^(x,κ)を生成し、回路パラメータθを変数として持つ第1目的関数を設定する。そして、量子コンピュータが、第1目的関数を最小化又は最大化するような量子回路U^(θ)の回路パラメータθ*を計算する。古典コンピュータは、回路パラメータθ*を定数として持ち、かつ軌道パラメータκを変数として持つ目的関数である第2目的関数を設定する。量子コンピュータは、第2目的関数を最小化又は最大化するような軌道パラメータκ*を計算する。量子コンピュータは、回路パラメータθ*と軌道パラメータκ*とに基づいて、量子回路U^(θ*)及び軌道回転演算子U^OO(κ*)の位置パラメータxによる微分を含む期待値を量子測定することにより、量子測定の測定結果を取得する。そして、古典コンピュータは、量子測定の測定結果に基づいて、非断熱結合の値を計算する。これにより、量子コンピュータを用いてSA‐OOの計算を実行する際に非断熱結合の値を得ることができる。
【0271】
また、古典コンピュータと量子コンピュータとの間の適切な役割分担により、SA‐OOの計算を実行する際に、エネルギーの微分及び非断熱結合の値を得ることができる。
【0272】
なお、本開示の技術は、上述した実施形態に限定されるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内で様々な変形や応用が可能である。
【0273】
例えば、上記実施形態において、古典コンピュータ110と量子コンピュータ120との間の情報の送受信はどのようになされてもよい。例えば、古典コンピュータ110と量子コンピュータ120との間における、量子回路のパラメータの送受信及び測定結果の送受信等は、所定の計算が完了する毎に逐次送受信が行われてもよいし、全ての計算が完了した後に送受信が行われてもよい。
【0274】
また、上記実施形態では、ユーザ端末130から古典コンピュータ110へ計算対象情報が送信され、古典コンピュータ110が計算対象情報に応じた計算を実行する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。ユーザ端末130は、IPネットワークなどのコンピュータネットワークを介して古典コンピュータ110又は古典コンピュータ110がアクセス可能な記憶媒体又は記憶装置に計算対象情報を送信してもよいが、記憶媒体又は記憶装置に記憶して古典コンピュータ110の運営者に渡し、当該運営者が古典コンピュータ110に当該記憶媒体又は記憶装置を用いて計算対象情報を入力するようにしてもよい。
【0275】
また、上記実施形態では、電磁波の照射によって量子回路が実行される場合を例に説明したが、これに限定されるものではなく、異なる方式によって量子回路が実行されてもよい。
【0276】
また、上記実施形態では、損失関数を第1目的関数又は第2目的関数として設定し、それらの目的関数の値が最小となるようなパラメータを計算する場合を例に説明したがこれに限定されるものではない。例えば、損失関数の逆数を第1目的関数又は第2目的関数として設定し、目的関数の値が最大となるようなパラメータを計算するようにしてもよい。
【0277】
また、上記実施形態では、量子コンピュータ120が量子計算を実行する場合を例に説明したが、これに限定されるものではない。例えば、量子コンピュータの挙動を模擬する古典コンピュータによって量子計算が実行されてもよい。
【0278】
また、上記実施形態では、異なる組織によって古典コンピュータ110及び量子コンピュータ120が管理されている場合を想定しているが、古典コンピュータ110及び量子コンピュータ120は同一の組織によって一体として管理されていてもよい。この場合には、量子計算情報の古典コンピュータ110から量子コンピュータ120への送信及び量子コンピュータ120から古典コンピュータ110への測定結果の送信は不要となる。また、この場合には、量子コンピュータ120の制御装置121において上述の説明における古典コンピュータ110の役割を担うことが考えられる。
【0279】
なお、上記実施形態においては、「××のみに基づいて」、「××のみに応じて」、「××のみの場合」というように「のみ」との記載がなければ、本明細書においては、付加的な情報も考慮し得ることが想定されていることに留意されたい。一例として、「aの場合にbする」という記載は、明示した場合を除き、「aの場合に常にbする」ことを必ずしも意味しない。
【0280】
また、上記実施形態において、「最適化する」又は「最適化されたパラメータ」等の表現が用いられているが、これら「最適化」の表現は、最適な状態に近づけることを意味することに留意されたい。このため、ある関数が最小となるようなパラメータを得ようとする場合、当該関数を最適化して得られたパラメータは、当該関数が最小となるような大局解ではなく、局所解である場合も想定されることに留意されたい。
【0281】
また、何らかの方法、プログラム、端末、装置、サーバ又はシステム(以下「方法等」)において、本明細書で記述された動作と異なる動作を行う側面があるとしても、開示の技術の各態様は、本明細書で記述された動作のいずれかと同一の動作を対象とするものであり、本明細書で記述された動作と異なる動作が存在することは、当該方法等を本開示の技術の各態様の範囲外とするものではない。
【0282】
また、本願明細書中において、プログラムが予めインストールされている実施形態として説明したが、当該プログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納して提供することも可能である。
【0283】
また、本実施形態のハイブリッドシステムの各構成要素は、単一のコンピュータ又はサーバによって実現しなければならないものではなく、ネットワークによって接続された複数のコンピュータに分散して実現されてもよい。
【0284】
例えば、上記各実施形態の古典コンピュータが実行する処理は、ネットワークによって接続された複数の古典コンピュータが分散して処理するようにしてもよい。または、例えば、上記各実施形態の量子コンピュータが実行する処理は、ネットワークによって接続された複数の量子コンピュータが分散して処理するようにしてもよい。この場合には、少なくとも1以上の古典コンピュータと少なくとも1以上の量子コンピュータとによってハイブリッドシステムが構成される。例えば、複数の古典コンピュータと複数の量子コンピュータとによってハイブリッドシステムが構成される場合を考える。
【0285】
例えば、エネルギーの微分を計算する場合、複数の古典コンピュータのうちの1つの古典コンピュータが、分子の原子核の位置を表す位置パラメータxを変数として持つハミルトニアンH^(x)を計算し、分子軌道に関するパラメータである軌道パラメータκを変数として持つ演算子であって、かつ分子軌道の回転を表す演算子である軌道回転演算子U^OO(κ)を決定し、量子回路のパラメータである回路パラメータθを変数として持つ量子回路U^(θ)を決定し、ハミルトニアンH^(x)に対して軌道回転と活性空間への射影とを行うことにより、ハミルトニアンH^(x,κ)を生成し、回路パラメータθを変数として持つ第1目的関数を設定する。そして、1つの古典コンピュータと1つの量子コンピュータとの間の繰り返し計算により、複数の古典コンピュータのうちの1つの古典コンピュータが、1つの量子コンピュータによる量子測定の測定結果に基づいて、第1目的関数を最小化又は最大化するような量子回路U^(θ)の回路パラメータθ*を計算する。複数の古典コンピュータのうちの1つの古典コンピュータが、回路パラメータθ*を定数として持ち、かつ軌道パラメータκを変数として持つ目的関数である第2目的関数を設定する。複数の古典コンピュータのうちの1つの古典コンピュータが、1つの量子コンピュータによる量子測定の測定結果に基づいて、第2目的関数を最小化又は最大化するような軌道パラメータκ*を計算する。複数の量子コンピュータのうちの1つの量子コンピュータが、回路パラメータθ*と軌道パラメータκ*とに基づいて、量子回路U^(θ*)及びハミルトニアンH^(x,κ*)の位置パラメータxによる微分を含む期待値を量子測定することにより、量子測定の測定結果を取得する。そして、複数の古典コンピュータのうちの1つの古典コンピュータである特定古典コンピュータが、量子測定の測定結果に基づいて、ハミルトニアンH^(x)に対応するエネルギーの微分を計算する。
【0286】
また、例えば、非断熱結合の値を計算する場合、複数の古典コンピュータのうちの1つの古典コンピュータが、分子の原子核の位置を表す位置パラメータxを変数として持つハミルトニアンH^(x)を計算し、分子軌道に関するパラメータである軌道パラメータκを変数として持つ演算子であって、かつ分子軌道の回転を表す演算子である軌道回転演算子U^OO(κ)を決定し、量子回路のパラメータである回路パラメータθを変数として持つ量子回路U^(θ)を決定し、ハミルトニアンH^(x)に対して軌道回転と活性空間への射影とを行うことにより、ハミルトニアンH^(x,κ)を生成し、回路パラメータθを変数として持つ第1目的関数を設定する。そして、1つの古典コンピュータと1つの量子コンピュータとの間の繰り返し計算により、複数の古典コンピュータのうちの1つの古典コンピュータが、1つの量子コンピュータによる量子測定の測定結果に基づいて、第1目的関数を最小化又は最大化するような量子回路U^(θ)の回路パラメータθ*を計算する。そして、複数の古典コンピュータのうちの1つの古典コンピュータが、回路パラメータθ*を定数として持ち、かつ軌道パラメータκを変数として持つ目的関数である第2目的関数を設定する。複数の古典コンピュータのうちの1つの古典コンピュータが、1つの量子コンピュータによる量子測定の測定結果に基づいて、第2目的関数を最小化又は最大化するような軌道パラメータκ*を計算する。そして、複数の量子コンピュータのうちの1つの量子コンピュータが、回路パラメータθ*と軌道パラメータκ*とに基づいて、量子回路U^(θ*)及び軌道回転演算子U^OO(κ*)の位置パラメータxによる微分を含む期待値を量子測定することにより、量子測定の測定結果を取得する。そして、複数の古典コンピュータのうちの1つの古典コンピュータである特定古典コンピュータが、量子測定の測定結果に基づいて、非断熱結合の値を計算する。
【符号の説明】
【0287】
100 ハイブリッドシステム
110 古典コンピュータ
111 通信部
112 処理部
113 情報記憶部
120 量子コンピュータ
121 制御装置
122 電磁波生成装置
123 量子ビット群
130 ユーザ端末