IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ シャンハイ ミクウルク ファーマシューティカル シーオー.エルティーディーの特許一覧

特許7556554コンテゾリドアセフォサミルの医薬結晶及びその製造方法並びにその使用
<>
  • 特許-コンテゾリドアセフォサミルの医薬結晶及びその製造方法並びにその使用 図1
  • 特許-コンテゾリドアセフォサミルの医薬結晶及びその製造方法並びにその使用 図2
  • 特許-コンテゾリドアセフォサミルの医薬結晶及びその製造方法並びにその使用 図3
  • 特許-コンテゾリドアセフォサミルの医薬結晶及びその製造方法並びにその使用 図4
  • 特許-コンテゾリドアセフォサミルの医薬結晶及びその製造方法並びにその使用 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】コンテゾリドアセフォサミルの医薬結晶及びその製造方法並びにその使用
(51)【国際特許分類】
   C07F 9/6558 20060101AFI20240918BHJP
   A61K 33/42 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C07F9/6558
A61K33/42
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021519592
(86)(22)【出願日】2019-09-29
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-01-11
(86)【国際出願番号】 CN2019109063
(87)【国際公開番号】W WO2020078205
(87)【国際公開日】2020-04-23
【審査請求日】2021-04-08
【審判番号】
【審判請求日】2023-01-23
(31)【優先権主張番号】201811197435.4
(32)【優先日】2018-10-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】520426405
【氏名又は名称】シャンハイ ミクウルク ファーマシューティカル シーオー.エルティーディー
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】張 学亮
(72)【発明者】
【氏名】王 星海
(72)【発明者】
【氏名】劉 進前
(72)【発明者】
【氏名】ゴルデエフ, ミハイル フェドロビッチ
【合議体】
【審判長】瀬良 聡機
【審判官】木村 敏康
【審判官】野田 定文
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-507183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 9/6558
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学式Iの化合物の結晶であって;
【化1】
式中、Rはナトリウムであり、
前記結晶は、粉末X線回折パターンにおいて6.9°、14.7°、15.5°、16.5°、20.2°、22.9°、23.7°2θに回折ピークを示すことを特徴とする結晶。
【請求項2】
前記結晶の融点が220±10℃であることを特徴とする請求項1に記載の結晶。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の結晶を製造する方法であって、
(1)化学式Iを有する化合物の粗生成物を製造する工程と、
(2)化学式Iを有する化合物の粗生成物を有機溶剤と水の混合溶液に溶解させる工程であって、有機溶剤と水の混合比は体積比1:9~4:6で、当該有機溶剤はアセトニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールから選ばれた少なくとも1種である工程と、
(3)りん酸二水素ナトリウム又はその水和物を添加し、生成物相を分離し、一部又は全部の揮発性物質を除去し、有機溶剤を添加し、結晶化させて結晶を得る工程であって、当該有機溶剤はアセトニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノールから選ばれた少なくとも1種である工程と、
(4)化学式Iを有する化合物の結晶を分離する工程とを含む方法。
【請求項4】
抗生物質薬剤の製造における請求項1又は2に記載の結晶の使用。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の結晶及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンテゾリドアセフォサミル(contezolid acefosamil)の医薬結晶及びその製造方法並びにその使用を提供する。
【背景技術】
【0002】
オキサゾリジノン系化合物(Oxazolidinone compounds)は多くの種類の病原微生物に対す抗菌活性を有する新型合成化合物である。リネゾリド(Linezolid)は当該種類の第1の薬であり、既にグラム陽性菌感染症の治療薬として承認を得た。リネゾリドは優れた抗菌活性を有するが、リネゾリド薬剤の処方説明書の「警告」という部分に明記された通り骨髓抑制とアミン酸化酵素抑制とは、リネゾリドの使用を制限する主な要因である。中国専利公開文献CN105612166Aは、コンテゾリドアセフォサミルはセキュリティ機能が優れており、抗菌活性の良い新型オキサゾリジノン系化合物であることを開示している。
【0003】
有効な抗菌薬は、必要な抗菌活性と安全性だけでなく、実際の適用に適する溶解度及び安定性が必要である。中国専利公開文献CN105612166Aは治療用の水溶性O-カルボニルホスホルアミダートプロドラッグを開示しており、この化合物は優れた水溶性を有する。しかしながら、当該公開文献が提供したコンテゾリドアセフォサミルの製造方法に従う場合、従来の実験室での処理プロセス、例えば抽出法、溶剤の減圧除去法、又は、HPLC精製凍結乾燥法のいずれを用いても、得られた生成物は、粉末X線回折において0~40°2θの間には何の回折ピークも表されておらず(図1)、ともに無定形粉末であり、安定性が悪く、分解を引き起こし易い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】中国公開特許公報第105612166号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記問題に対し、本発明はコンテゾリドアセフォサミルの結晶又は結晶複合体(crystal complex)及びその製造方法を提供し、得られたコンテゾリドアセフォサミル結晶は無定形粉末よりも安定性が著しく高まり、医薬品の臨床使用の要求を満たすことができる。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は化学式Iの化合物の結晶又は結晶複合体を提供しており、式中、Rは水素、ナトリウム又は任意の割合のそれらの混合物から選ばれる。Rがナトリウムから選ばれた場合、ONaとO-Na+とは同等である。
【0007】
【化1】
【0008】
本発明が提供している結晶又は結晶複合体により、コンテゾリドアセフォサミルの安定性が大きく向上し、この薬の生産、輸送に有利であり、また細菌感染症の治療が必要な患者や哺乳動物に対するこの薬の通常投与に有利である。これにより、当該安全で効果的な新型オキサゾリジノンの臨床における適用が確保される。
【0009】
好ましくは前記結晶又は結晶複合体は、粉末X線回折パターンにおいて約5.0~40°2θに少なくとも1つの回折ピークを示す。
【0010】
好ましくは前記結晶又は結晶複合体は、粉末X線回折パターンにおいて約20.0~25°2θに少なくとも2つの回折ピークを示す。
【0011】
好ましくは前記結晶又は結晶複合体は、粉末X線回折パターンにおいて約20.0~21.0°2θに回折ピークを示す。
【0012】
好ましくは前記結晶又は結晶複合体は、粉末X線回折パターンにおいて約23.0~24.0°2θに回折ピークを示す。
【0013】
好ましくは前記結晶又は結晶複合体は、粉末X線回折パターンにおいて約6.9°、14.7°、15.5°、16.5°、20.2°、22.9°、23.7°2θに回折ピークを示す。
【0014】
好ましくは前記結晶又は結晶複合体の融点は220±10℃である。
【0015】
好ましくは、重量基準で、前記結晶又は結晶複合体におけるナトリウムの含有量は0-6%である。
【0016】
第2の発明は上記いずれの結晶又は結晶複合体を製造する方法を提供しており、当該方法は、
(1)化学式Iを有する化合物の粗生成物を製造する工程と、
(2)化学式Iを有する化合物の粗生成物を有機溶剤と水の混合溶液に溶解させる工程と、
(3)無機塩又は有機溶剤を選択的に添加し、生成物相を分離し、一部又は全部の揮発性物質を除去し、有機溶剤を選択的に添加し、結晶化させて結晶を得る工程と、
(4)化学式Iを有する化合物の結晶を分離する工程とを含む。
【0017】
好ましくは工程(2)において、前記有機溶剤はアセトニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、テトラヒドロフランから選ばれた少なくとも1種である。
【0018】
好ましくは工程(3)において、前記無機塩は塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、りん酸二水素ナトリウム、りん酸水素ジナトリウム、りん酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム及びそれらの水和物から選ばれた少なくとも1種である。
【0019】
好ましくは工程(3)において、前記有機溶剤はアセトニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、メチルtert-ブチルエーテル、テトラヒドロフランから選ばれた少なくとも1種である。
【0020】
第3の発明は抗生物質薬剤の製造における上記いずれの結晶又は結晶複合体の使用を提供している。
【0021】
本発明はまた上記結晶又は結晶複合体を用いる感染症の治療法を提供している。
【0022】
本発明はまた抗生物質薬剤の製造における上記いずれの製造方法の使用を提供している。
【0023】
第4の発明は、上記いずれの結晶又は結晶複合体及び薬学的に許容される担体を含む医薬組成物を提供している。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施例1の製品形態2の粉末X線回折図である。
図2】実施例1の製品形態3(結晶)の粉末X線回折図である。
図3】実施例1の製品形態1の粉末X線回折図である。
図4】実施例1の製品形態3(結晶)の示差走査熱量分析図である。
図5】結晶を水に再溶解して凍結乾燥して得られた産物の示差走査熱量分析図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を、図面及び下記の実施形態を結び付けながらさらに説明する。図面及び下記の実施形態は本発明を説明するためのものであり、本発明を限定するものではない。
【0026】
用語
用語「約」は、粉末X線回折図のピークの位置に関して使用される場合、ピークの固有変動性を表し、それは、(例えば)使用される設備の校正、多結晶を生成するための方法、結晶化材料の寿命等に依存し、使用される測定器によって決まる。この場合、測定器の測定変動性は約±0.2°2θである。当業者はこの場合の「約」の使用を理解することができる。
【0027】
用語「哺乳動物」は人、家畜及びペットを含む全ての哺乳動物を表す。
【0028】
病気に対する「処理」又は「治療」は次のことを含む。即ち、(1)病気を予防し、例えば、病気に曝す可能性若しくは病気になる傾向があるが、まだ病気になっておらず若しくは症状がない哺乳動物に対し、病気の臨床症状が進行しないようにする。 (2)病気を抑制し、例えば、病気若しくはその臨床症状の進行を阻止または低減する。或いは、(3)病気を緩和し、例えば、病気若しくはその臨床症状を退化させる。
【0029】
「治療有効量」は、病気を治療するために哺乳動物に投与する時、化合物の用量が、病気の当該治療の実施に十分であるものを表す。「治療有効量」は、化合物、病気及びその厳しさ、治療を行う哺乳動物の年齢や体重等によって変化できる。
【0030】
用語「結晶複合体」は、一定の結晶を有する、薬学的に許容される結晶の混合物を表す。結晶の含有量として、無定型物、水分、及び溶媒化した有機溶剤を含む製品の50~90%を占めることができる。
【0031】
用語「合物」は、混合物又は共結晶物(co-crystal)を表す。
【0032】
化合物の「溶媒化物」という用語は、化学結合した結晶溶媒化物などであるか、濡れた固形物若しくは潤滑した固形物などにおいて添加物になるもの、又は残留したものであるかに関わらず、当該化合物が一定の薬学的に許容される溶剤を含有するものを表す。
【0033】
用語[溶解]は、攪拌の有無に関わらず、液体に固形物を、液体が得られるまで分散することを表し、当該液体は1つの相であってもよく、複数の層に分離した多相溶液であってもよく、完全透明でない濁った溶液又は懸濁液であってもよい。
【0034】
「揮発性物質」は沸点の低い物質を表し、特にアセトニトリル、アセトン、エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル、メチルエチルケトン、又はそれらの混合物などの有機溶剤及び水が挙げられる。
【0035】
化合物の「塩」という用語は、薬学的に許容される、親化合物の所要薬理学活性を有する塩を表す。このような塩は、以下の条件下で形成された塩を含む。即ち、親化合物の酸プロトン(acid proton)が金属イオンで置換された場合、金属イオンが、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、亜鉛イオン若しくはアルミニウムイオンなどである塩を含み、又は、親化合物の酸プロトンが、グルタミン酸、リジン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、トリメチロールアミノメタン、N-メチルグルカミンなどの有機塩基と配位してなる塩を含む。
【0036】
本明細書に開示の化合物の命名は、一般的にIUPAC又はCAS命名法に従う。
【0037】
結晶又は結晶複合体
コンテゾリドアセフォサミルの構成におけるN-ホスホリル(N-phosphoryl)及びO-アセチルリン酸(O-acetyl phosphoric acid)の特殊性に起因して、プロドラッグとしてのコンテゾリドアセフォサミルはある条件下で不安定になり、よく従来の加熱して溶解する方法や冷却して結晶化させる方法により分解してしまう。本明細は、コンテゾリドアセフォサミル(化学式I)の新規結晶又は結晶複合体を開示している。当該結晶は室温下で安定しており、且つ結晶性質が明らかである。
【0038】
化学式Iにおいて、Rは水素、ナトリウム、又は任意の割合のそれらの混合物から選択される。Rがナトリウムから選択された場合、ONaはO-Na+と同等である。
【0039】
幾つかの実施形態において、結晶又は結晶複合体は、0~50%の範囲内にある任意の割合の、R=水素である化学式IとR=ナトリウムである化学式Iとの混合物である。
【0040】
幾つかの実施形態において,R=水素である化学式Iの化合物の含有量は5%(重量基準)未満である。こうすると、化合物の結晶性を高めることができる。
【0041】
幾つかの実施形態において、結晶又は結晶複合体におけるナトリウムの含有量は1-10%(重量基準)であり、さらに好ましくは3.2-6%(重量基準)である。こうすると、化合物の結晶性を高めることができる。
【0042】
本開示の結晶又は結晶複合体は、粉末X線回折(XRPD)において0~40°2θの間に鋭い回折ピークが複数表示される(図2)。
【0043】
幾つかの実施形態において、結晶又は結晶複合体は、約5.0~40°2θに少なくとも1つの粉末X線回折ピークが表示される。
【0044】
幾つかの実施形態において、結晶又は結晶複合体は、約20.0~25°2θに少なくとも2つの回折ピークが表示される。
【0045】
幾つかの実施形態において、結晶又は結晶複合体は、約6.0~8.0°2θに少なくとも1つの鋭い粉末X線回折ピークが表示される。
【0046】
幾つかの実施形態において、結晶又は結晶複合体は、約20.0~21.0°2θに粉末X線回折ピークが表示される。
【0047】
幾つかの実施形態において、結晶又は結晶複合体は、約23.0~24.0°2θに粉末X線回折ピークが表示される。
【0048】
本開示の結晶又は結晶複合体により、コンテゾリドアセフォサミルの安定性が大きく向上し、例えば、室温下で24時間内に、コンテゾリドアセフォサミルはほとんど分解しないことが可能になる。またサンプルの安定性の向上により、当該結晶又は結晶複合体の形成が証明される。
【0049】
幾つかの実施形態において、結晶又は結晶複合体の融点は220±10℃である。
【0050】
本開示の結晶又は結晶複合体は1種類の結晶形を含んでもよく、複数種類の結晶形を含んでもよい。
【0051】
本開示の結晶又は結晶複合体は1種類の結晶形、複数種類の結晶形、又はそれらの混合物を含んでもよい。
【0052】
製造
本明細書は、上記結晶又は結晶複合体の製造方法を開示している。幾つかの実施形態において、化学式Iを有する化合物(化学式Iのコンテゾリドアセフォサミルの粗生成物)を有機溶剤と水の混合溶液に溶解し、無機塩を加え、その後、生成物相を分離し、揮発性物質の一部又は全部を除去し、有機溶剤を加え、結晶化させて結晶を得る。化学式Iのコンテゾリドアセフォサミルの粗生成物を中国専利出願CN105612166Aに開示の方法で製造してもよい。
【0053】
有機溶剤と水の体積比は、好ましくは1:9~4:6である。
【0054】
幾つかの実施形態において、有機溶剤はアセトニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、ヘプタン、ヘキサン、シクロヘキサン、石油エーテル、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランから選ばれた少なくとも1種であってもよい。
【0055】
より好ましい実施形態では、有機溶剤はアセトニトリル、エタノール、ブタノール、イソプロパノール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランから選ばれた少なくとも1種であってもよい。
【0056】
化学式Iを有する化合物を有機溶剤と水の混合溶液に溶解する方法として、撹拌して溶解することができる。
【0057】
任意選択で、有機溶剤と水の混合溶液に無機塩をさらに加える。前記無機塩は例えば、塩化ナトリウム、臭化ナトリウム、ヨウ化ナトリウム、クエン酸ナトリウム、りん酸二水素ナトリウム、りん酸水素ジナトリウム、りん酸ナトリウム、硫酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、酢酸ナトリウム及びその水和物のうちの少なくとも1種であってもよい。
【0058】
結晶化の過程において、結晶化させる溶液の濃度、結晶化させる析出の速度及び温度を制御してもよい。
【0059】
任意選択で、生成物相の中の、有機溶剤や水などの揮発性物質の一部又は全部を除去する。除去の方法は、例えば、共沸、減圧蒸留等が挙げられる。
【0060】
任意選択で、生成物相に第2有機溶剤を加えることで結晶化を行う。第2有機溶剤はアセトニトリル、アセトン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、メチルtert-ブチルエーテル、テトラヒドロフランから選ばれた少なくとも1種であってもよい。第2有機溶剤の添加量の重量は基質の重量の2~50倍であってよい。
【0061】
任意選択で、生成物相を約-30℃~約20℃に冷却することで結晶が析出する。
【0062】
結晶化後、生成物を分離し、結晶又は結晶複合体を得てもよい。さらに、得られた結晶又は結晶複合体に乾燥を行ってもよい。
【0063】
幾つかの実施形態において、結晶に対して物理的に分離又は濾過を行う。
【0064】
幾つかの実施形態において、分離された結晶に真空乾燥を行って結晶又は結晶複合体を得る。真空乾燥の時の温度は約15℃から約80℃であってもよく、好ましくは約20℃から約50℃である。
【0065】
幾つかの実施形態において、治療有効量の結晶又は結晶複合体を前記哺乳動物に投与することを含む、上記結晶又は結晶複合体が哺乳動物の微生物感染症又は細菌感染症の治療に用いられる方法を提供している。前記結晶又は結晶複合体を医薬組成物の形で、経口、非経口、経皮、局所、直腸又は鼻腔内などによって哺乳動物に投与してもよい。幾つか又は任意の実施形態では、前記方法において、前記微生物はグラム陽性微生物である。よって、本発明に係る結晶又は結晶複合体は有用な抗微生物薬であり、また、例えば多剤耐性黄色ブドウ球菌、腸球菌、及び連鎖球菌などの好気性グラム陽性菌、例えばバクテロイデス属及びクロストリジウム属の菌種などの嫌気性微生物、並びに、例えば結核菌(Mycobacterium tuberculosis)及びトリ結核菌(Mycobacterium avium)などの抗酸菌を含む、多くのヒトや動物の病原菌に有効である可能性がある。
【0066】
本開示が提供した結晶又は結晶複合体を一般的な方法で医薬組成物に容易に添加することができる。前記医薬組成物又は薬剤は薬学的に許容される希釈剤、賦形剤、崩壊剤、潤滑剤又は担体を更に含んでもよい。
【0067】
本開示に係る結晶又は結晶複合体を含む医薬組成物の製造において、薬学的に許容される担体は固形物であってもよく、又は液体であってもよい。固体形態の製剤には粉剤、錠剤、分散可能な細粒、カプセル剤、カシェ(cachets)及び座薬が含まれる。錠剤、粉剤、カシェ及びカプセルを、経口投与に適する固形製剤として用いてもよい。薬学的に許容される製剤及び幾つかの医薬組成物の製造方法の例示的な例は、例え『薬学科学及び実践』(The Science and Practice of Pharmacy)、 A. Gennaro編集、Lippincott Williams & Wilkins、メリーランド州ボルチモア(Baltimore, Md., 2000)に記載されている。
【0068】
幾つかの実施形態において、結晶又は結晶複合体から、例えば水注入溶液、D5W注入溶液又は他の片剤などの各種薬学的に許容される組成物を作り、各種感染症の治療又は予防に用いてもよい。
【0069】
以下、実施例を通じて、本発明をさらに詳しく説明する。同様に、以下の実施例は、本発明をさらに説明するためのものであり、本発明の特許範囲を制限するものではない。当業者が本発明の上記内容により行う非本質的な改良及び調整は、共に本発明の特許範囲に属する。下記例の具体的なプロセス変量も適合範囲内の一例にすぎない。即ち、当業者は、本願の説明により適合範囲内で選ぶことができ、下記例の具体的な数値に限定されない。
【0070】
以下の実施例における測定方法は次の通りである。
【0071】
粉末X線回折:Panalytical(パナリティカル)社のXPERT-3タイプX線回折計を用いる。約10mgのサンプルをシリコン単結晶のサンプルトレイに均一に敷き、以下に記載されたパラメーターを用いてXRPD測定を行う。
【0072】
【表1】
【0073】
DSC分析:TA Q2000示差走査熱量計を用い、以下に記載されたパラメーターを用いてDSC分析を行う。
【0074】
【表2】
【0075】
実施例1
合成経路:
【0076】
【化2】
【0077】
実施例1の化合物
窒素ガス雰囲気下で、0-10℃ にてトリメチルシリルヨージド(14.4g)を中間体1(10.5g、CN105612166Aの中間体2についての方法によって製造される)のDCM(105 mL)溶液に滴加し、室温で2時間撹拌した。反応液を減圧濃縮し、メチルtert-ブチルエーテルで残留物を洗い(100ml)、濾過及び真空乾燥を行った。得られた生成物をDMSO/MeCN (10.5ml/105ml)に再溶解し、NaOAc (36.7g)及びAc2O(5.9g)を加え、1時間撹拌した。MTBE(700ml)を加え、撹拌、濾過及び真空乾燥を行い、実施例1の化合物粗生成物を得た。
【0078】
実施例1の製品形態1: 実施例1の粗生成物を5% EtOH/DCM(1000ml)において撹拌し、濾過し、母液を減圧濃縮した。酢酸エチル:メチルtert-ブチルエーテル(3:1, 300ml) を用いて残留物をスラリー化した。濾過し、洗浄し(残留物に対し酢酸エチル:メチルtert-ブチルエーテルを用いる)、真空乾燥を行い、製品形態1として黄色固形物を得た。MS: 531 [M+H]。 生成物の粉末X線回折を図3に示す。
【0079】
実施例1の製品形態2: 実施例1の粗生成物を水に溶解し、逆相HPLC(C18)グラジェント法で精製した。流動相は水及びアセトニトリルである。実施例1を含む留分を取り出した。凍結乾燥し、製品形態2として白色固形物を得た。MS: 531 [M+H]。 生成物の粉末X線回折を図1に示す。
【0080】
実施例1の製品の結晶又は結晶複合体(製品形態3): 実施例1の粗生成物146gを室温下で582mLの水及び169mLのアセトニトリルに溶解し、撹拌して溶解し、りん酸二水素ナトリウム・2水和物349gを加え、撹拌して溶解した後、生成物相を分離し、目立つような留分がなくなるまで減圧濃縮し、その後550mLのアセトンを添加して溶解させ、冷却し、撹拌及び結晶化を行った。濾過及び真空乾燥を行い、ナトリウムの含有量が4.3%である白色固形物を得た。生成物の粉末X線回折を図2に示し、DSC分析の結果を図4に示す。
【0081】
測定及び応用
contezolid acefosamil(コンテゾリドアセフォサミル)の先行研究開発では、例えば抽出法、溶剤の減圧除去法のような従来の実験室での処理プロセスによって得られた生成物が、室温貯蔵では不安定である。HPLC精製凍結乾燥法によって得られた生成物であっても安定性が不足するようになり、粉末X線回折において回折ピーク無しを表している。本発明において見出した製造方法によって得られた生成物は意外なことに、粉末X線回折において0-40°2θの間に多くの鋭い回折ピークが表示されており、また示差走査熱量(DSC)分析の結果、狭い融解範囲が示されており、結晶の特徴を有し、特に、得られた結晶生成物は無定形粉末よりも高い安定性を有し、これは重要である。詳しいデータは以下の通りである。
【0082】
本発明が提供した製造方法によって得られた生成物の粉末X線回折データを表3、回折分析図を図2に示す。
【0083】
表3は本発明に係る結晶の粉末X線回折の主なピークリストを示す。
【0084】
【表3】
【0085】
表3 及び図2から分かるように、当該生成物は目立つような鋭いピークを複数有している。即ち、生成物は明らかにX線が結晶面で反射される結晶の特性を有している。従来実験室で溶剤を取り扱い再び結晶化を行い、又はHPLC精製凍結乾燥を行った場合には取得できない新規結晶である。
【0086】
本発明に係る結晶の安定性: 2つのサンプルについて9カ月以内に室温条件下での純度の変化(安定性)をHPLC法で測定した。1つはHPLC精製凍結乾燥法によって得られた生成物(実施例1製品形態2)であり、もう1つは本発明が提供した当該晶型を製造する方法によって得られた生成物である(実施例1の製品形態3)。結果を表4に示す。
【0087】
表4 は生成物の9カ月内の安定性(HPLC純度、%)を示す。
【0088】
【表4】
【0089】
表4から分かるように、2つの生成物はともに徐々に分解され、室温下で、製品形態3(結晶)は製品形態2(無定形粉末)に比べて明らかに高い安定性を有している。また、第9月の時にこの状況はより著しくなっている(95.81%と83.21%)。サンプルの安定性の大幅な増加によっても、当該結晶又は結晶複合体が存在するのを証明できる。
【0090】
一方、示差走査熱量(DSC)分析の結果によっても、当該結晶が存在するのを証明できる。図5は結晶(実施例1の製品形態3)を再び水に溶解して凍結乾燥を行うことで得られた生成物の示差走査熱量分析図である。
【0091】
図4の結晶の示差走査熱量分析図に比べて、当該生成物は明らかに、狭い融解範囲を有する、単一結晶を含むもの、又は主な成分が結晶である結晶複合体の特徴を有している。
【0092】
本発明に係る当該晶型の製造方法は特別であり、従来の結晶化プロセス(溶剤で加熱溶解し、冷却して結晶化させる)で達成できるものではない。例えば、幾つかの実施形態に用いられる抽出用の溶剤の1つであるアセトニトリルは、一般的な抽出プロセスにおいて使用されない。
【0093】
本発明のオキサゾリジノン類化合物の結晶又は結晶複合体は、グラム陽性微生物を含むいろんな微生物に有効であるインビボ活性を示している。本発明に係る結晶又は結晶複合体の有用な治療的活性を測定するために、MarraらがCurrent Protocols in Pharmacology (2005), 13A.4.1-13A.4.13に記載した汎用手順に従って、マウス腹膜炎感染症モデルでの試験方法を使用した。
【0094】
この感染症モデルにおいて病原性黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)株SAU1018が使用され、臨床的又は治療上の使用に適した、これらの結晶を含む食塩水溶液の静脈内注射により感染した動物へ投与した結果、高いインビボ活性を示し、結晶又は結晶複合体に関してED50値(本試験において50% の動物が生存する有効量)が10mg/kgであった。
【0095】
本発明の結晶又は結晶複合体はまた、簡便な経口投与に適している。当該化合物が、前述の黄色ブドウ球菌感染症のマウスモデルの動物に経口投与される場合、高い抗菌有効性を示し、そのED50値が約8mg/kgになった。
【0096】
これにより、本発明に係る結晶又は本発明に係る結晶を含むもの及びそれらを含む組成物は有用な抗菌性を有している。よって、本発明に係る結晶は有用な抗微生物薬であり、また、例えば多剤耐性黄色ブドウ球菌、腸球菌、及び連鎖球菌などの好気性グラム陽性菌、例えばバクテロイデス属及びクロストリジウム属の菌種などの嫌気性微生物、並びに、例えば結核菌(Mycobacterium tuberculosis)及びトリ結核菌(Mycobacterium avium)などの抗酸菌を含む、多くのヒトや動物の病原菌に有効である可能性がある。これらの医薬組成物を静脈内注射、経口、非経口投与、経皮投与、局所投与、直腸投与又は鼻腔内投与などの様々な異なる経路によって投与することができる。
【0097】
上述したさまざまな態様は、本発明に対する簡単な説明であり、当業者であれば、上記明細書を読んだ後、本明細において提出した発明に変更、取替え及び他の変更を行うことができる。本発明は、本明細書に説明された陳述内容及び実例に限定されるものでもない。当業者には明らかであるように、本発明の精神及び範囲から逸脱することなく本発明に係る結晶又は結晶複合体及びそれらの製造方法の多くの修飾及び変動を行うことができる。本明細書において列挙された方法に加え、本発明の範囲内の機能的に同等な方法は、上述した説明から、当業者には明らかである。本発明は、特定の方法、溶剤、塩、作業手順、プロセス条件などに限定されず、これらは当然変動することができることも理解されるはずである。本明細書において使用される技術用語は、特定の態様を説明することのみを目的としており、限定を意図しないことも理解されるはずである。従って、本明細書は例証と見なされることが意図される。
図1
図2
図3
図4
図5