(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】フローサイトメータ性能評価方法
(51)【国際特許分類】
G01N 15/00 20240101AFI20240918BHJP
G01N 15/14 20240101ALI20240918BHJP
G01N 1/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
G01N15/00 C
G01N15/14 Z
G01N1/00 102C
(21)【出願番号】P 2021567626
(86)(22)【出願日】2020-12-24
(86)【国際出願番号】 JP2020048503
(87)【国際公開番号】W WO2021132484
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2023-09-14
(31)【優先権主張番号】P 2019238089
(32)【優先日】2019-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】517110494
【氏名又は名称】シンクサイト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100175824
【氏名又は名称】小林 淳一
(74)【代理人】
【識別番号】100194250
【氏名又は名称】福原 直志
(72)【発明者】
【氏名】中川 啓史
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-102152(JP,A)
【文献】国際公開第2019/241443(WO,A1)
【文献】特表2018-511060(JP,A)
【文献】特開2013-210287(JP,A)
【文献】特開2004-150832(JP,A)
【文献】国際公開第2017/073737(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 15/00
G01N 15/14
G01N 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに形態が異なる2種類以上のキャリブレーション粒子を組み合わせて使用するフローサイトメータの性能を評価する方法で、
評価対象のフローサイトメータが第1の光学特性に基づいて前記キャリブレーション粒子を互いに判別する第1判別ステップと、
前記第1の光学特性が判別可能な空間解像度に比べて低い空間解像度において判別可能な第2の光学特性に基づいて前記キャリブレーション粒子を互いに判別する第2判別ステップと、
前記第1判別ステップによって判別した第1の判別結果と、前記第2判別ステップによって判別した第2の判別結果とに基づいて前記フローサイトメータの粒子判別性能、及び分解能の一方または両方を評価する評価ステップと、
を有するフローサイトメータ性能評価方法。
【請求項2】
前記2種類以上のキャリブレーション粒子を、前記2種類以上のキャリブレーション粒子の組み合せが予め混合されて標準粒子懸濁液に包含される態様で使用する
請求項1に記載のフローサイトメータ性能評価方法。
【請求項3】
前記フローサイトメータが、前記第1の光学特性に基づき取得した光信号の時系列波形情報から、前記キャリブレーション粒子の2次元画像を介さず、前記キャリブレーション粒子を直接判別するフローサイトメータである
請求項1記載のフローサイトメータ性能評価方法。
【請求項4】
前記フローサイトメータが、ゴーストサイトメトリー技術に基づくフローサイトメータであり、
前記第1の光学特性として検出される光信号に反映される形態情報に基づいて前記キャリブレーション粒子が判別される
請求項3に記載のフローサイトメータ性能評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フローサイトメータ性能評価方法に関する。
本願は、2019年12月27日に、日本に出願された特願2019-238089号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
フローサイトメータは個々の細胞を流体中に分散させ、その流体を流下させて光学的に分析するフローサイトメトリー法と呼ばれる技術を用いた分析装置であり、主に細胞を個々に観察する際に用いられる細胞計測装置である。フローサイトメータでは、蛍光プローブにより蛍光染色を施した細胞を流体中に1列に並べ、流路を流れる細胞にレーザー光を照射することで発生する蛍光あるいは散乱光の強度を分析する方法が汎用される。
フローサイトメータを用いた測定では、使用するフローサイトメータが測定に適した状態にあるかを確認し、必要な場合には事前に調整するという事が一般的に行われている。そうしたキャリブレーションを行うために、微小ビーズなどを懸濁させた懸濁液を用いる方法が既に知られている。例えば、細菌と同程度の散乱光強度を有するポリスチレン系重合体粒子と、染色後に細菌と同程度の蛍光強度を有するポリ酢酸ビニル粒子とを含むフローサイトメータ用標準粒子懸濁液が記載されている(特許文献1)。また汎用されるフローサイトメータでは、形状がほぼ球体の市販ポリスチレン蛍光ビーズを流し、ビーズから生じる蛍光の強度分布を確認することでフローサイトメータの状態の確認を行うことが行われている。
【0003】
近年iPS細胞(induced Pluripotent Stem Cells)などの幹細胞を用いた再生医療や、CAR‐T(Chimeric Antigen Receptor T cell)による免疫療法などの新しい治療法の実用化に向けた動きが活発化するに伴い、細胞群の中から一以上の細胞を計測し個々の細胞単位で解析を行うことに対する強い需要が生じてきている。しかしながら従来の蛍光輝度や散乱光の総量により評価対象の特徴を評価するフローサイトメータでは、細胞の形状やオルガネラの分布などの形態情報に基づいて個々の細胞の判別を行なうことは難しかった。
【0004】
フローサイトメトリー法では、例えば、流路中に蛍光標識された細胞を流下しながら励起光を照射し、個々の細胞から発せられる蛍光輝度を取得することによって、細胞の2次元画像を生成し細胞の分別を行うイメージングサイトメータが従来技術として知られている。一方で、細胞の形態情報を2次元画像に変換せずに計測データから直接解析する技術が近年開発され、その一例としてゴーストサイトメトリー技術が知られている(非特許文献1)。ゴーストサイトメトリー技術は、光構造照明上を通過する測定対象である細胞の動きを利用して対象像を捉える単一画素圧縮撮像手法である。ゴーストサイトメトリー技術を用いたフローサイトメータでは、例えば、構造化した照明を細胞に照射し、得られた光信号の時系列波形から直接細胞の分別ができ、高速、高感度、低コストかつコンパクトなフローサイトメータが提供できる(特許文献2)。また、ゴーストサイトメトリー技術を用いたフローサイトメータでは、予め機械学習により作成されたモデルに基づいて、蛍光染色等のラベル付け行わずに目的細胞の判別あるいは分別することもできる。再生医療や細胞治療に向けて生産される細胞の品質管理において、こうしたラベル付けを行わずに目的細胞を判別あるいは分別する技術のニーズは益々高まっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-150832号公報
【文献】国際公開第2017/073737号
【非特許文献】
【0006】
【文献】「Science」、2018年6月15日、360巻、6394号、p.1246-1251
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載のフローサイトメータ用標準粒子懸濁液は、散乱光強度や蛍光強度の総量に基づいて細菌を判別するフローサイトメータに用いられるものであり、ゴーストサイトメトリー技術を用いたフローサイトメータのように、より分解能の高いフローサイトメータにおいて判別性能を評価するには不十分であった。
イメージング技術を用いて細胞を分別するフローサイトメ―タでは性能の評価に画像ベースのSN比等が使用されているが、ゴーストサイトメトリー技術など視覚的に判断できる2次元画像を介さないフローサイトメ―タについてはこれまでフローサイトメータが細胞を判別する性能を簡便に評価する手法がなかった。
そこで光信号の時系列波形情報から測定対象の細胞の形態情報を直接取得して目的細胞を判別するゴーストサイトメトリー技術を利用するフローサイトメトリーにおいても、フローサイトメータの分別性能を簡便に評価できる手法が求められていた。
【0008】
本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、ゴーストサイトメトリー技術に基づくフローサイトメータのように、2次元画像を介さずに光信号の時系列波形情報から形態情報を直接取得して散乱光強度や蛍光強度の総量に基づいて評価対象を評価するフローサイトメータよりも高い空間分解能で細胞などの測定対象物を判別するフローサイトメータにおいて、その判別性能を簡便に評価できる標準粒子懸濁液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は上記の課題を解決するためになされたものであり、本発明の一態様は、互いに形態が異なる2種類以上のキャリブレーション粒子を組み合わせて使用するフローサイトメータの性能を評価する方法で、評価対象のフローサイトメータが第1の光学特性に基づいて前記キャリブレーション粒子を互いに判別する第1判別ステップと、前記第1の光学特性が判別可能な空間解像度に比べて低い空間解像度において判別可能な第2の光学特性に基づいて前記キャリブレーション粒子を互いに判別する第2判別ステップと、前記第1判別ステップによって判別した第1の判別結果と、前記第2判別ステップによって判別した第2の判別結果とに基づいて前記フローサイトメータの粒子判別性能、及び分解能の一方または両方を評価する評価ステップと、を有するフローサイトメータ性能評価方法である。
【0010】
また、本発明の一態様は、上記のフローサイトメータ性能評価方法において、前記2種類以上のキャリブレーション粒子を、前記2種類以上のキャリブレーション粒子の組み合せが予め混合されて標準粒子懸濁液に包含される態様で使用する。
【0011】
また、本発明の一態様は、上記のフローサイトメータ性能評価方法において、前記フローサイトメータが、前記第1の光学特性に基づき取得した光信号の時系列波形情報から、前記キャリブレーション粒子の2次元画像を介さず、前記キャリブレーション粒子を直接判別するフローサイトメータである。
【0012】
また、本発明の一態様は、上記のフローサイトメータ性能評価方法において、前記フローサイトメータが、ゴーストサイトメトリー技術に基づくフローサイトメータであり、前記第1の光学特性として検出される光信号に反映される形態情報に基づいて前記キャリブレーション粒子が判別される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、散乱光強度や蛍光強度の総量に基づいて評価対象を評価する従来のフローサイトメータよりも高い空間分解能で測定対象物を分別できるゴーストサイトメトリー技術を用いたフローサイトメータにおいて、その分別性能を簡便に評価できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の第1の実施形態に係る標準粒子懸濁液をフローサイトメータにおいて測定した際に得られるシグナル(光信号の時系列波形)の一例を示す図である。
【
図2】本発明の第1の実施形態に係る標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子の形態の一例を示す図である。
【
図3】本発明の第1の実施形態に係る標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子の蛍光特性の一例を示す図である。
【
図4】本発明の第1の実施形態に係る標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子の散乱光特性の一例を示す図である。
【
図5】本発明の第2の実施形態に係る標準粒子懸濁液をフローサイトメータにおいて測定した際に得られるシグナルの一例を示す図である。
【
図6】本発明の第2の実施形態に係る標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子についての前方散乱光の強度と、側方散乱光の強度ついての散布図の一例を示す図である。
【
図7】本発明の第3の実施形態に係る標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子に付与されている2種類の蛍光特性の一例を説明する散布図である。
【
図8】本発明の第4の実施形態に係る標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子が有する内部構造の一例を示す図である。
【
図9】本発明の第5の実施形態に係る標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子が有する内部構造の一例を示す図である。
【
図10】本発明の第5の実施形態に係る標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子についての前方散乱光の強度と側方散乱光の強度についての散布図の一例を示す図である。
【
図11】本発明の第5の実施形態に係る標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子の蛍光特性の一例を示す図である。
【
図12】本発明の第5の実施形態に係る標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子に包含される内部粒子のサイズを変えた場合のフローサイトメータの分別性能の一例を示す図である。
【
図13】本発明の第6の実施形態に係る標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子が有する内部構造の一例を示す図である。
【
図14】本発明の第7の実施形態に係る標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子に付与されている2種類の蛍光特性の一例を説明する散布図である。
【
図15】本発明の実施例に係るキャリブレーションビーズの構造を示す図である。
【
図16】本発明の実施例に係るフローサイトメータでスポット光(波長637nm)を用いて標準粒子懸濁液に含まれる2種類のキャリブレーションビーズの散乱特性をそれぞれ測定した結果を示す図である。
【
図17】本発明の実施例に係るフローサイトメータにおいて、構造化照明を用いた蛍光強度の総量による測定を波長525nmにおいて行った結果と、スポット光を用いた蛍光強度の総量による測定を検出波長676nmにおいて行った結果とを示す図である。
【
図18】本発明の実施例に係るフローサイトメータでゴーストサイトメトリー技術に基づいて2種類のキャリブレーションビーズを判別した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳しく説明する。
本実施形態に係る標準粒子懸濁液Lは、フローサイトメータのフローセルに流し込まれて、フローサイトメータの判別性能を評価するために用いられる。本実施形態に係る標準粒子懸濁液Lを用いて判別性能の評価が行われるフローサイトメータは、例えば、ゴーストサイトメトリー技術に基づいて測定を行うフローサイトメータであり、蛍光強度や散乱光強度の総量に基づいて測定対象を評価する従来のフローサイトメータよりも高い空間分解能を有するフローサイトメータである。ゴーストサイトメトリー技術に基づいて測定を行うフローサイトメータでは、包含される蛍光強度の総量が略同じであるが形態に違いがある粒子を、粒子の形態の違いに基づく蛍光分布の違いにより判別することができる。即ち、本実施形態において従来のフローサイトメータよりも高い判別性能とは、例えば、細胞の形態に基づいて目的細胞を判別あるいは分別できるゴーストサイトメトリー技術を用いたフローサイトメータが有する判別性能と同程度の判別性能を指し、従来のフローサイトメータでは判別できなかった測定対象物の微細な形態の違いを認識できるような分別性能である。
【0026】
以下の説明では、本実施形態に係る標準粒子懸濁液Lにより判別性能を評価するフローサイトメータとして、ゴーストサイトメトリー技術に基づいて測定を行うフローサイトメータを例に説明を行うが、本実施形態に係る標準粒子懸濁液Lは、画像情報に変換せずに、蛍光強度や散乱光強度の総量に基づいて評価対象を評価する従来のフローサイトメータよりも高い空間分解能で測定対象物の形態情報を取り出すことができるフローサイトメータに対して同様に用いることが可能である。また以下の説明では、蛍光強度や散乱光強度の総量に基づいて評価対象を評価するフローサイトメータを従来のフローサイトメータと記載することがある。
【0027】
図1に、標準粒子懸濁液Lを分別性能の評価対象であるフローサイトメータで測定した際に得られるシグナルの一例を示す。標準粒子懸濁液Lには、評価対象であるフローサイトメータの分別性能を評価するための2種類以上の粒子が包含される。なお以下の説明では、評価対象であるフローサイトメータの分別性能を評価するために標準粒子懸濁液に包含される粒子をキャリブレーション粒子として記載する。また以下の説明では標準粒子懸濁液Lには粒子1と粒子2の2種類の粒子が含まれる例について説明する。
シグナルSG1は、散乱光の強度が総量として取得される散乱情報のシグナルである。シグナルSG2は、蛍光輝度が総量として取得される蛍光情報のシグナルである。シグナルSG3は、シグナルSG1およびシグナルSG2より高い空間解像度で標準粒子懸濁液Lに包含されるキャリブレーション粒子の形態情報を取得できるシグナルであり、例えば、ゴーストサイトメトリー技術によって検出される時系列の光信号のシグナルである。評価対象であるフローサイトメータを用いた標準粒子懸濁液Lの測定により、標準粒子懸濁液Lに含まれるキャリブレーション粒子の第1の光学特性に基づいてシグナルSG3が、第2の光学特性に基づいてシグナルSG2が、第3の光学特性に基づいてシグナルSG1が、それぞれ取得される。
【0028】
上述した形態情報には、例えばキャリブレーション粒子の外形や内部構造を示す情報が含まれ、シグナルSG3から、蛍光染色等のラベル付け行わずとも目的細胞の判別あるいは分別が可能な程度の高い空間解像度をもつ形態情報が直接取得される。シグナルSG3は、シグナルSG2における蛍光総量の測定により得られる情報より高い空間解像度で形態情報が取得できるシグナルで、例えば、ゴーストサイトメトリー技術を用いたフローサイトメータによって取得される形態情報を含む光信号の時系列シグナルが該当する。
【0029】
ゴーストサイトメトリー技術を用いたフローサイトメータでは、流路内を移動する測定対象物に照射される照明光に特定の照明パターンを付与して照射する構造化照明の構成により、あるいは照明光の照射により測定対象物から発せられる蛍光や散乱光などの光に特定のパターンを付加して検出する構造化検出の構成により、光検出器により検出される信号光に測定対象物の形態情報を圧縮して付与することができる。そのため、ゴーストサイトメトリー技術を用いたフローサイトメータにより取得された前記の粒子1と粒子2とを検出した光信号の時系列波形は、粒子1と粒子2との形態の違いを反映して互いに異なっており、粒子1と粒子2を検出した光信号の時系列波形を教師データとして判別モデルを作成することで、そのモデルに基づいて粒子1と粒子2とを相互の形態の違いに基づいて判別することができる。即ち、本実施形態に係る標準粒子懸濁液Lに含まれるキャリブレーション粒子が有する第1の光学特性は、粒子の形態についての特性(形態特性)であり、第1の光学特性の違いを反映した光信号に基づいて判別される。ゴーストサイトメトリー技術を用いたフローサイトメータの例では、検出される光信号に上記の第1の光学特性が反映される。
【0030】
なお、ゴーストサイトメトリー技術を用いたフローサイトメータにおいて検出される光の種類は、キャリブレーション粒子から発せられるまたはキャリブレーション粒子を介して生じる透過光、蛍光、散乱光、干渉光、回折光、偏光のいずれであってもよく、評価対象のフローサイトメータの測定対象物に応じて好適な光が選択される。本実施形態ではキャリブレーション粒子を介して生じる回折光を測定する例について説明する。
【0031】
なお、シグナルSG1の散乱光が総量として取得される散乱情報からもキャリブレーション粒子の形態に関する情報を得ることが可能であるが、本実施形態において標準粒子懸濁液Lにより評価したいフローサイトメータの判別性能は、シグナルSG1により散乱情報から得られる形態に関する情報とは取得できる情報の空間解像度が異なる。本実施形態の標準粒子懸濁液Lは、従来のフローサイトメータが散乱光の総量として散乱光情報を取得して得るよりも高い空間分解能の判別性能を、評価するフローサイトメータが有しているかを評価するために使用される。例えば、従来のセルソーターの場合には、細胞から発せられる蛍光信号はその強度総量のみが細胞判別に用いられており、細胞の蛍光形態情報や蛍光局在は判別に用いられていない。一方、標準粒子懸濁液Lにより評価したいフローサイトメータでは、例えば、細胞の蛍光形態情報や蛍光局在などの微細な形態情報に基づいて細胞の判別が行われる。
【0032】
図2は、本実施形態に係る標準粒子懸濁液Lに含まれるキャリブレーション粒子の形態を示す一例である。標準粒子懸濁液Lは、粒子1と粒子2とを含む。なお以下の説明では標準粒子懸濁液Lに粒子1と粒子2との2種類のキャリブレーション粒子が予め混合されて懸濁液に包含される例について説明するが、本発明の標準粒子懸濁液は、粒子1と粒子2の2種類の粒子を別々に提供し、フローサイトメータの判別性能を評価する際にそれぞれ調製した懸濁液を組み合わせて使用する方法で使用することもできる。
【0033】
粒子1及び粒子2は、一例として、0.1μmから100μm程度の大きさを有する微小粒子であり、1μm以上かつ100μm以下程度の大きさを有することがより望ましい。本実施形態に係る標準粒子懸濁液Lに含まれるキャリブレーション粒子は形態の判別対象と同程度の大きさを有することが望ましく、判別対象が細胞である場合には、キャリブレーション粒子の粒子サイズは5μm以上かつ40μm以下であることがより望ましく、10μm以上かつ30μm以下であることがさらに好適である。標準粒子懸濁液Lが含むキャリブレーション粒子の大きさは、形態の判別対象の大きさと、フローサイトメータに対して要求される感度とに応じて選択されてよい。
【0034】
本実施形態に係る標準粒子懸濁液Lに含まれる粒子1と粒子2とは互いに形態が異なる。粒子1と粒子2の形態は、判別対象の形態と評価対象のフローサイトメータが要求される感度とに応じて選択できる。ここで本実施形態における形態には、例えば、粒子の外形と、粒子の内部構造とが含まれる。本実施形態では、一例として、粒子1と粒子2とは互いに外形が異なる。
図2に示すように、粒子1は略球状であり、粒子2は複数の凸部を有する形状である。なお、粒子の内部構造が互いに異なる粒子の例については後述の実施形態において説明する。
【0035】
粒子1と粒子2とは、互いに異なる蛍光特性を有する。蛍光特性とは、例えば、粒子にレーザー光が照射されて粒子が発する蛍光の波長及び強度の一方または両方である。例えば、粒子1と粒子2とのうち少なくとも一方が蛍光色素によって染色されることによって、粒子1と粒子2とは互いに異なる蛍光特性を有する。粒子1と粒子2とは互いに異なる種類の蛍光色素によって染色されてもよい。なお、前記蛍光色素による染色は、標準粒子懸濁液Lに含まれるキャリブレーション粒子の調製と同時に行われても、調製された粒子を調製のあとで染色しても、そのいずれでもよい。前記粒子1と粒子2とが有する互いに異なる蛍光特性が、本実施形態に係る標準粒子懸濁液Lに含まれるキャリブレーション粒子の第2の光学特性の一例である。第2の光学特性は粒子1と粒子2を区別する正解ラベル付けを行うための光学特性である。また、第2の光学特性はゴーストサイトメトリー技術を用いたフローサイトメータにおいて学習時の教師データを取得する際にも利用される。また、粒子1と粒子2とに付与される第2の光学特性の違いは、従来のフローサイトメータにおいても粒子1と粒子2を判別できる光学特性の違いである。それにより、従来のフローサイトメータを用いて第2の光学特性により判別した測定値を指標に、評価対象フローサイトメータの判別性能を判定することができる。
【0036】
図3に粒子1及び粒子2の蛍光特性の一例を示す。グラフF1、及びグラフF2は、それぞれ粒子1及び粒子2について測定された蛍光強度と頻度の関係を示すグラフである。
図3に示すように、粒子1及び粒子2は、発する蛍光の強度が互いに異なる。それにより粒子1及び粒子2は蛍光強度をもとに、従来のフローサイトメータにおいても、互いを判別することが可能である。
【0037】
粒子1と粒子2とでは、互いに略同程度の散乱光強度を有する。散乱光強度とは、一例として、キャリブレーション粒子に照射されたレーザー光が粒子に当たり散乱することで生じる散乱光の強度である。
なお、散乱光の種類には、前方散乱光、側方散乱光、及び後方散乱光などがあるが、本実施形態では、散乱光の種類は限定されず、散乱光の強度は、前方散乱光、側方散乱光、及び後方散乱光のうち少なくとも1つの強度である。
【0038】
図4に、粒子1及び粒子2の散乱光強度の一例を示す。グラフS1、及びグラフS2は、それぞれ粒子1及び粒子2について測定された散乱光の強度と頻度との関係を示すグラフである。グラフS1及びグラフS2から、粒子1及び粒子2について測定された散乱光の特性は略等しいことがわかる。なお
図4では、グラフS1とグラフS2の形状がほぼ重複する好適例が示されているが、粒子1及び粒子2が有する散乱光強度の分布は、従来のフローサイトメータにおいて、散乱光強度をもとに2種類の粒子を判別する事が難しい程度にグラフが重複していればよい。
【0039】
粒子1及び粒子2は、互いに略同程度の散乱光強度を有するように、例えば、組成が類似した物質により構成される。散乱光強度はキャリブレーション粒子の形状に依存するが、粒子1及び粒子2では、互いに略同程度の散乱光強度を有するように組成が選択される。
粒子1及び粒子2の材料は、例えば、アガロースゲル(Agarose gel)やポリエチレングリコール(Polyethylene glycol)などのハイドロゲル(hydrogel)や、ポリスチレン(Polystyrene)である。
また、粒子1と粒子2とのそれぞれの標準粒子懸濁液Lに対する比重は、フローサイトメータのフローセルを流体と混合状態で流れるようにするため、1から所定の範囲であり、この所定の範囲とは例えば0.2である。粒子1と粒子2のそれぞれの比重は、例えば、0.8以上かつ1.2以下の範囲に含まれると、懸濁が容易で懸濁状態が長く続くため好ましい。
本実施形態に係る標準粒子懸濁液Lに含まれるキャリブレーション粒子は公知の方法により調製することができる。例えば米国特許番号9,915,598号あるいはWO2016/130489に記載の方法により目的細胞に類似したハイドロゲル粒子を調製することができる。また本実施形態に係る標準粒子懸濁液Lに含まれる粒子は、後述の例のように、アガロースゲルビーズの中に市販の蛍光ポリスチレンをビーズ含有させ調製することもできる。
【0040】
以下の説明では、判別性能の評価対象であるフローサイトメータを、評価対象フローサイトメータといい、識別標識を与えたキャリブレーション粒子を判別し評価対象フローサイトメータの判別性能の指標となる測定値を得るフローサイトメータを基準フローサイトメータという。
【0041】
上述したように、粒子1と粒子2とは互いに形態が異なるが、同時に互いに異なる蛍光特性を有する。基準フローサイトメータによって、標準粒子懸濁液Lを用いて粒子1と粒子2とを蛍光特性(例えば、特定の波長において検出される蛍光強度の総量)に基づいて予め判別しておく。次に、評価対象フローサイトメータによって、同じ標準粒子懸濁液Lを用いて粒子1と粒子2とを形態情報に基づいて判別する。
【0042】
評価対象フローサイトメータによる形態情報に基づく判別結果が、基準フローサイトメータによって予め得られた蛍光特性に基づく判別結果と比較され、双方の判別結果の一致度が評価対象フローサイトメータの判別性能指標とされる。なお以降の説明では、基準フローサイトメータとして従来のフローサイトメータが採用される場合を例に記載するが、従来のフローサイトメータより空間分解能の高いフローサイトメータを基準フローサイトメータとして用いることもできる。
【0043】
ここで粒子1と粒子2に付与されている蛍光特性は、評価対象フローサイトメータが第1の光学特性に基づいて粒子の形態の違いを判別するために必要とする空間解像度に比べて低い空間解像度でも判別可能な特性である。そのため、基準フローサイトメータの空間分解能が、評価対象フローサイトメータが形態情報を測定する際の空間分解能に比べて低くても、基準フローサイトメータは蛍光特性を指標に粒子1と粒子2を判別できる。即ち、基準フローサイトメータとして空間分解能が低い従来のフローサイトメータが採用された場合にも、粒子1と粒子2に付与されている特定の波長において検出される蛍光強度の総量によりキャリブレーション粒子を判別することができ、その判別結果と比較して評価対象フローサイトメータの判別性能が評価される。
【0044】
上記の実施形態では、基準フローサイトメータと評価対象フローサイトメータとが異なる場合の一例について説明したが、これに限らない。基準フローサイトメータとして評価対象フローサイトメータ自身が用いられてもよい。この場合、評価対象フローサイトメータの判別性能が、過去の判別性能から変化していないかを検証することによって評価対象フローサイトメータの状態を管理することができる。
【0045】
上述したように標準粒子懸濁液Lは、互いに異なる区別可能な形態を有する粒子1と粒子2とを含む。標準粒子懸濁液Lに含まれるキャリブレーション粒子の形態の違いを反映した光信号が有する特性が、第1の光学特性である。また、キャリブレーション粒子の蛍光特性が第2の光学特性の一例である。つまり、第2の光学特性とは、照射された光に応じて標準粒子懸濁液Lが含むキャリブレーション粒子の粒子が発する蛍光の波長及び強度の一方または両方である。本実施形態で第2の光学特性として測定される蛍光強度の総量などの蛍光特性は、第1の光学特性である粒子の形態が判別可能な空間解像度に比べ、低い空間解像度においても判別可能である。
【0046】
また、上述したように、粒子1と粒子2とは、互いに略同程度の散乱光強度を有する。そのため、評価対象フローサイトメータは、散乱光強度の総量に基づいて粒子1と粒子2とを判別することはできない。散乱光強度の総量に関する情報は、第3の光学特性の一例であり、標準粒子懸濁液Lに照射された光に応じて、包含されるキャリブレーション粒子から発せられる散乱光強度である。
【0047】
なお、本実施形態では、標準粒子懸濁液Lに含まれるキャリブレーション粒子の種類の数が2である場合の一例について説明したが、これに限らない。標準粒子懸濁液Lは3種類以上のキャリブレーション粒子を含んでもよい。それら3種類以上のキャリブレーション粒子は、互いに異なる第1の光学特性と、第1の光学特性を判別可能な空間解像度に比べて低い空間解像度においても判別可能な互いに異なる第2の光学特性とを有する。
【0048】
なお、本実施形態では、ゴーストサイトメトリー技術を用いたフローサイトメータにおいて検出される光が回折光の場合について、一例として、説明した。その場合、第1の光学特性はキャリブレーション粒子の形態特性であり、当該第1の光学特性がキャリブレーション粒子を介して生じる回折光に基づいて判別されるが、これに限らない。例えば、本標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子の形態特性は、散乱光に基づいて判別することもできる。その場合、評価対象フローサイトメータはキャリブレーション粒子からの散乱光がゴーストサイトメトリー技術を用いて検出され、本標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子の形態特性に基づいてキャリブレーション粒子が判別される。即ち、本標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子からの散乱光によりキャリブレーション粒子の形態特性が判別され、その判別精度により評価対象フローサイトメータの形態特性についての判別性能が評価される。
【0049】
(第2の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第2の実施形態について詳しく説明する。本実施形態に係る標準粒子懸濁液を標準粒子懸濁液Laといい、標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子を粒子1a、粒子2aという。
【0050】
図5は、本実施形態に係る評価対象フローサイトメータにおいて標準粒子懸濁液Laを測定した際に検出される光信号のシグナルの一例を示す図である。本実施形態に係る評価対象フローサイトメータでは、キャリブレーション粒子の形態に関する情報を取り出す光信号のシグナルSG3に加え、シグナルSG3が形態特性を判別可能な空間解像度より低い空間解像度で測定される蛍光情報のシグナルであるシグナルSG2、及び散乱情報のシグナルとしてシグナルSG11とシグナルSG12とが測定される。なお、本実施形態に係る評価対象フローサイトメータにおいて取得される形態情報に関するにシグナルSG3と蛍光情報のシグナルであるシグナルSG2については、第1の実施形態において評価対象フローサイトメータにより取得されるシグナルと同様のシグナルである。
【0051】
シグナルSG11は、基準フローサイトメータでも測定可能な前方散乱光強度の総量として取得される前方散乱情報のシグナルである。シグナルSG12は、側散乱光強度の総量として取得される散乱情報のシグナルである。
図5では、シグナルSG12が側方散乱光の散乱情報のシグナルである場合を例に説明しているが、シグナルSG12は後方散乱光の散乱情報のシグナルであってもよい。また、シグナルSG11とシグナルSG12の組み合わせは、側方散乱情報のシグナルと後方散乱情報のシグナルの組み合わせであってもよい。シグナルSG11とシグナルSG12は従来のフローサイトメータにおいても測定可能なシグナルである。
【0052】
本発明の実施形態の標準粒子懸濁液Laでは、含まれる粒子1aと粒子2aが有する第1の光学特性に基づいてシグナルSG3が取得され、キャリブレーション粒子が有する第2の光学特性に基づいてシグナルSG2が取得され、キャリブレーション粒子が有する第3の光学特性に基づいてシグナルSG11とSG12とが取得される。
【0053】
標準粒子懸濁液Laに含まれる粒子1aと粒子2aとでは、前方散乱光の強度と、側方散乱光の強度が複数のキャリブレーション粒子同士において略同じである。
図6は、本実施形態に係る粒子1aと粒子2aについての前方散乱光の強度と、側方散乱光の強度とについての散布図の一例を示す図である。領域D11、及び領域D12は、それぞれ粒子1a及び粒子2aについて測定された前方散乱光の強度と側方散乱光の強度との組合せを示す。領域D11及び領域D12の分布がほとんど重複することから、粒子1a及び粒子2aについて、測定される前方散乱光の強度と側方散乱光の強度とは略等しいことがわかる。
【0054】
前記の通り、粒子1aと粒子2aは互いに略同じ散乱特性を有する。そのため、評価対象フローサイトメータは、粒子の散乱強度の総量による光散乱特性に基づいて粒子1と粒子2とを判別することはできない。一方、粒子1aと粒子2aとが、互いに形態が異なり、互いに異なる蛍光特性を有する点は、上記第1の実施形態と同様である。蛍光特性は第2の光学特性の一例であり、特定の波長において検出される蛍光強度の総量により粒子1aと粒子2aとは判別できる。それにより評価対象フローサイトメータによる形態情報に基づく判別結果が、基準フローサイトメータによって予め得られた蛍光特性に基づく判別結果と比較され、例えば、双方の分別結果の一致度を評価対象フローサイトメータの判別性能指標とすることができる。
【0055】
(第3の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第3の実施形態について詳しく説明する。本実施形態に係る標準粒子懸濁液を標準粒子懸濁液Lbといい、標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子を粒子1b、粒子2bという。
【0056】
粒子1bと粒子2bは、少なくとも2種類の蛍光により染色されており、キャリブレーション粒子の形態に関する第1の光学特性をそのうちの1種の蛍光を測定することにより得る点において、上記第1、第2の実施形態と異なる。即ち、本発明の実施形態の標準粒子懸濁液Lbでは、含まれる粒子1bと粒子2bが有する第1の光学特性と第2の光学特性とが粒子を染色する2種類の蛍光染色により付与されている。
【0057】
粒子1bと粒子2bは、付与された第1の蛍光の強度はその総量が略同じであるが、その粒子の形態に違いがあり蛍光分布が異なる。空間解像度が高い評価対象フローサイトメータでは、粒子形態の相違に基づく蛍光分布の相違を指標にキャリブレーション粒子の相互に異なる形態の違いを判別することが可能であるが、より空間解像度が低い基準フローサイトメータでは粒子1bと粒子2bを第1の蛍光強度の総量を指標に相互に判別する事は難しい。
【0058】
一方、粒子1bと粒子2bは、それらキャリブレーション粒子を正しく判別するためのラベル付けのために互いに異なる第2の蛍光特性が付与されており、その第2の蛍光特性を利用すれば、より空間解像度が低い基準フローサイトメータでも相互の判別ができる点は、上記第1、第2の実施形態と同様である。またなお、粒子1bと粒子2bとは、一例として、さらに上記第1の実施形態、第2の実施形態と同様に略同程度の散乱光の強度を有する。
このように粒子1bと粒子2bとは、例えば、互いに同じ種類の第1の蛍光によって染色されて、粒子1bと粒子2bとのうち一方が第1の蛍光とは異なる種類の第2の蛍光によって染色される。ここで第1の蛍光の蛍光強度の総量は、粒子1bと粒子2bとで略同じである。
【0059】
図7は、本実施形態に係る粒子1bと粒子2bが有する蛍光特性をさらに説明するための図で、基準フローサイトメータにおいて低い解像度で粒子1bと粒子2bが有する蛍光特性を測定した結果の一例を示す図である。
図7には、評価対象フローサイトメータが上述した第1の光学特性に基づいてキャリブレーション粒子を判別する空間解像度に比べて低い空間解像度で第1の蛍光と第2の蛍光について蛍光強度の総量を測定した際の蛍光強度分布が示されている。領域D21、及び領域D22は、それぞれ粒子1b及び粒子2bについて測定された第1および第2の蛍光総量の分布を示す。粒子1bと粒子2bとは、異なった形態の粒子であるが、第1の蛍光の総量が等しいため、その情報から得られるシグナルからは粒子の形態を判別できない。なお、領域D21、及び領域D22から、上述したように粒子1bと粒子2bとは互いに異なる第2の蛍光によりさらに染色されており、基準フローサイトメータにおいて低い解像度で測定した際にも異なった蛍光特性(第2の蛍光の蛍光総量)を示すことがわかる。
【0060】
上述の通り、標準粒子懸濁液Lbに含まれる粒子1bと粒子2bとは、キャリブレーション粒子が有する第1の蛍光の蛍光強度の総量により相互を区別することは難しいが、評価対象フローサイトメータが第1の光学特性をもとに互いの粒子形態を判別できる高い空間分解能を有していれば、第1の蛍光強度を指標に第1の光学特性をもとに相互を判別することが可能である。第1の光学特性による評価対象フローサイトメータの粒子の判別精度は、キャリブレーション粒子が低い解像度において判別できる第2の蛍光の蛍光特性を付与されているため、第2の蛍光により付与された蛍光特性に基づいて基準フローサイトメータにより判定される。
【0061】
(第4の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第4の実施形態について詳しく説明する。本実施形態に係る標準粒子懸濁液を標準粒子懸濁液Lcといい、標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子を粒子1c、粒子2cという。
【0062】
上記第1から第3の実施形態において、標準粒子懸濁液Lcに含まれるキャリブレーション粒子が互いに外形が異なる場合の例について説明したが、これに限らない。標準粒子懸濁液Lcに含まれるキャリブレーション粒子は、粒子の外形が略同じであり、粒子の内部構造が互いに異なっていてもよい。この場合、評価対象フローサイトメータは、標準粒子懸濁液Lcに含まれるキャリブレーション粒子の内部構造の違いを形態情報の違いとして認識して判別する。
【0063】
図8は、本実施形態に係る標準粒子懸濁液Lcに含まれるキャリブレーション粒子の互いに異なった内部構造の一例を示す図である。粒子1c-1から粒子1c-4は、それぞれ粒子1cの一例であり、粒子2c-1から粒子2c-4は、それぞれ粒子2cの一例である。粒子1cと粒子2cとは、ともに外形が略球状である。粒子1cと粒子2cとは、ともに内部に粒子を含む。粒子1cと粒子2cとのそれぞれの内部に含まれる粒子は、蛍光色素によって染色されている。(但し、粒子2c-2の場合のみ、粒子2c-2の内部粒子の外側の部分が染色されている。)
【0064】
以下の説明では、粒子1cと粒子2cとのそれぞれの内部に含まれる粒子を内部粒子という。本実施形態では、粒子の内部構造とは、一例として内部粒子の位置や分布、大きさや形状である。粒子1cと粒子2cとは、互いに粒子の内部構造が異なり、それを区別するために互いに異なる蛍光特性が付与されている点は上記第1から第3の実施形態と同様である。前記の粒子1cと粒子2cに付与される蛍光特性はキャリブレーション粒子が有する第2の光学特性であり、基準フローサイトメータにおいて粒子1cと粒子2cとを判別するための指標として使用される。上記第1から第3の実施形態と同様に評価対象フローサイトメータによる形態情報に基づく判別結果が、基準フローサイトメータによる蛍光特性に基づく判別結果と比較され、評価対象フローサイトメータの判別性能が評価される。
【0065】
粒子1c-1は、内部に複数の内部粒子を含む。一方、粒子2c-1は、粒子1c-1が含む内部粒子よりも大きい1つの内部粒子を含む。
粒子1c-2では、1つの内部粒子を含む。粒子2c-2も1つの内部粒子を含むが、内部粒子の外側の表面付近に位置する球殻状の部分が蛍光で染色されている。
粒子1c-3と粒子2c-3とはともに、内部に複数の内部粒子を含む。粒子1c-3では、内部粒子の形状は略球状である。一方、粒子2c-3では、内部粒子の形状は凸部を有する形状である。
粒子1c-4は内部に1つの内部粒子を含む。粒子2c-4も1つの内部粒子を含むが、内部粒子の大きさが粒子1c-4よりも大きい。
粒子1c-1と粒子2c-1と、粒子1c-2と粒子2c-2と、粒子1c-3と粒子2c-3と、粒子1c-4と粒子2c-4とでは、互いに蛍光特性が異なっており、粒子に含まれる蛍光色素の総量が互いに異なっている。
【0066】
上記では、粒子1cと粒子2cとに付与されている蛍光特性の違いが包含されている蛍光量の違いによる例について説明しているが、これ以外に、粒子1cと粒子2cとに異なる蛍光色素が包含され、付与されている蛍光波長が互いに異なることにより粒子1cと粒子2cが区別される場合もある。この場合、粒子1cと粒子2cの内部粒子の染色に用いられる蛍光色素の総量は互いに略同じであってもよい。
【0067】
(第5の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第5の実施形態について詳しく説明する。
上記第1から第4の実施形態では、標準粒子懸濁液は少なくとも2種類のキャリブレーション粒子を含んでおり、その標準粒子懸濁液が評価対象のフローサイトメータの判別性能を評価するために用いられる場合について説明をした。本実施形態では、標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子に含まれる内部粒子サイズを変えて、フローサイトメータの判別性能のうち特に分解能を評価する場合について説明をする。ここでフローサイトメータの分解能とは、評価対象のフローサイトメータが、どこまで小さなサイズの内部粒子まで判別性能を低下させずに判別できるのかを指標とした評価対象フローサイトメータにより取得される画像情報の空間解像度に関する性能である。
本実施形態に係る標準粒子懸濁液を標準粒子懸濁液Ldといい、標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子を粒子1d、粒子2d、粒子3d、粒子4d、粒子5dという。
【0068】
図9は、本実施形態に係る標準粒子懸濁液Ldに含まれるキャリブレーション粒子の内部構造の一例を示す図である。粒子1dから粒子5dは、それぞれ異なった大きさの内部粒子を含む。粒子1dから粒子5dにそれぞれ含まれる内部粒子のサイズは、粒子1dから粒子5dの順に大きい。粒子1dから粒子5dにそれぞれ含まれる内部粒子の数は、粒子1dから粒子5dの順に少ない。粒子1dから粒子5dにそれぞれ含まれる内部粒子の体積の合計は、粒子1dから粒子5d相互間において略同じである。
【0069】
図9に示す例では、粒子5dには1つ内部粒子が含まれるのに対して、粒子4dには2つ内部粒子が含まれ、粒子3d、粒子2d、粒子1dにそれぞれ含まれる内部粒子のサイズは小さくなってゆき、数は多くなっている。
ゴーストサイトメトリー技術に基づいて測定を行うフローサイトメータでは高い空間解像度で形態情報を取得できるため、本実施形態に係る標準粒子懸濁液Ldに含まれるこうした粒子の内部構造の違いに基づいて標準粒子懸濁液Ldに含まれるキャリブレーション粒子を判別することができる。本実施形態に係る標準粒子懸濁液Ldは、例えばゴーストサイトメトリー技術に基づくフローサイトメータなどの空間分解能が高いフローサイトメータを評価対象のフローサイトメータとして、その分解能を評価するために使用される。評価対象のフローサイトメータが検出するキャリブレーション粒子の内部構造に由来する光学特性が第1の光学特性である。評価対象のフローサイトメータが検出する第1の光学特性については、上記第1から第4の実施形態と同様である。
【0070】
粒子1dから粒子5dは互いに略同じ光散乱特性を示し、取得される散乱情報は略同じになる。
図10は、本実施形態に係る粒子1dから粒子5dについての前方散乱光の強度と、側方散乱光の強度についての散布図の一例を示す図である。領域D3は、粒子1dから粒子5dについて測定された散乱光の強度について、前方散乱光の強度と側方散乱光の強度を、粒子1dから粒子5dそれぞれについて示す複数の領域である。領域D3から、粒子1dから粒子5dについて測定された前方散乱光の強度と、側方散乱光の強度とは、略等しいことがわかる。
図10では、粒子1dから粒子5dの前方散乱光と側方散乱光が略等しい場合を例に説明しているが、散乱光として後方散乱光が略同じであってもよい。本実施形態に係る標準粒子懸濁液Ldの例では、散乱光の強度はキャリブレーション粒子が有する第3の光学特性である。標準粒子懸濁液Ldに含まれるキャリブレーション粒子の散乱光の強度の総量が略同じであるため、従来のフローサイトメータを用いて散乱光の強度の総量に基づいて判別することは難しい。
【0071】
図11に粒子1dから粒子5dが有する蛍光特性の一例を示す。グラフF1d、グラフF2d、グラフF3d、グラフF4d、及びグラフF5dは、それぞれ粒子1d、粒子2d、粒子3d、粒子4d、及び粒子5dについて測定された蛍光の強度と頻度の関係を示すグラフである。
図11に示すように、粒子1dから粒子5dでは、互いに有する蛍光特性が異なっており、
図11の場合は発する蛍光の強度が互いに異なる。本実施形態に係る標準粒子懸濁液Ldの例では、蛍光の強度はキャリブレーション粒子が有する第2の光学特性である。基準フローサイトメータは第2の光学特性をもとに粒子1dから粒子5dを判別できる。評価対象フローサイトメータによる形態情報に基づく判別結果が、基準フローサイトメータによる蛍光特性に基づく判別結果と比較され、評価対象フローサイトメータの分解能が評価される。
【0072】
図12は、本実施形態に係る内部粒子のサイズを変えた標準粒子懸濁液Ldを組み合わせて測定し、評価対象フローサイトメータの分解能を評価した一例を示す図である。プロットA1は、標準粒子懸濁液Ldが粒子1dと粒子2dとを含む場合の評価対象のフローサイトメータの判別性能を示す。ここで判別性能とは、評価対象のフローサイトメータが第1の蛍光強度を指標に内部粒子のサイズの違いに基づいて行った粒子1dと粒子2dの判別結果を基準フローサイトメータにより第2の光学特性をもとに検証を行った判別結果の一致度を示す指標である。プロットA2は、標準粒子懸濁液Ldが粒子2dと粒子3dとを含む場合のフローサイトメータの判別性能を示す。プロットA3は、標準粒子懸濁液Ldが粒子3dと粒子4dとを含む場合のフローサイトメータの判別性能を示す。プロットA4は、標準粒子懸濁液Ldが粒子4dと粒子5dとを含む場合のフローサイトメータの判別性能を示す。
【0073】
図12に示す例では、プロットA4及びプロットA3が示すとおり、内部粒子のサイズが大きいうちは、判別性能は高く一定に維持される。一方、プロットA2及びプロットA1が示すとおり、内部粒子のサイズが小さくなると判別性能は低下してゆく。本実施形態では、標準粒子懸濁液Ldに含まれるキャリブレーション粒子に含まれる内部粒子のサイズを小さくしていった場合に、例えば、判別性能が低下する直前の内部粒子のサイズがフローサイトメータの分解能として判定される。フローサイトメータの分解能とは、評価対象フローサイトメータにより取得される画像情報の空間解像度についての性能である。
【0074】
(第6の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第6の実施形態について詳しく説明する。
本実施形態に係る標準粒子懸濁液を標準粒子懸濁液Leといい、標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子を粒子1e、粒子2e、粒子3e、粒子4e、粒子5eという。
【0075】
図13は、本実施形態に係る標準粒子懸濁液Leに含まれるキャリブレーション粒子の内部構造の一例を示す図である。粒子1eから粒子5eは、それぞれ内部粒子を含む。粒子1eから粒子5eにそれぞれ含まれる内部粒子のサイズは、粒子1eから粒子5eの順に大きい。粒子1eから粒子5eにそれぞれ含まれる内部粒子の数は同じ数であり、本実施形態では一例として1つである。粒子1eから粒子5eにそれぞれ含まれる内部粒子の染色に用いられる蛍光色素の量は互いに略同じであり、したがって蛍光の強度は互いに略同じである。内部粒子の蛍光色素の密度は、粒子1e、粒子2e、粒子3e、粒子4e、粒子5eの順に高い。なお、粒子1eから粒子5eは、発する蛍光の波長が互いに異なる。本実施形態に係る標準粒子懸濁液Leの例では、各キャリブレーション粒子に含まれる蛍光色素が発する蛍光の波長が異なるという特定は、粒子が有する第2の光学特性であり、基準フローサイトメータは第2の光学特性をもとに粒子1eから粒子5eを判別できる。
【0076】
なお本実施形態に係る標準粒子懸濁液Leの例では、キャリブレーション粒子の内部構造に由来する光学特性が粒子の有する第1の光学特性であり、第1から第5の実施形態において評価対象フローサイトメータにより取得されるシグナルと同様のシグナルである。評価対象のフローサイトメータは第1の光学特性に基づいて標準粒子懸濁液Leに含まれる粒子を判別する。本実施形態では、上記第5の実施形態と同様に、例えば、標準粒子懸濁液Leに含まれる粒子に含まれる内部粒子のサイズを小さくしていった場合に、判別性能が低下する直前の内部粒子のサイズをフローサイトメータの分解能として判定することができる。
【0077】
(第7の実施形態)
以下、図面を参照しながら本発明の第7の実施形態について詳しく説明する。
本実施形態に係る標準粒子懸濁液を標準粒子懸濁液Lfといい、標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子を粒子1f、粒子2f、粒子3f、粒子4f、粒子5fという。
【0078】
粒子1fから粒子5fでは、内部粒子の染色に複数の蛍光色素が用いられる。粒子1fから粒子5fは、内部に包含する第1の蛍光の総量が等しく、互いに略同じ蛍光強度を有する。そのため、粒子1fから粒子5fを共通に含まれる第1の蛍光の蛍光強度の総量を指標に基準フローサイトメータにおいて低い解像度で測定しても、相互に異なったキャリブレーション粒子として区別することは難しい。
【0079】
一方、粒子1fから粒子5fは、第1の蛍光とは異なる種類である第2の蛍光によって染色される。粒子1fから粒子5fに含まれる第2の蛍光色素は、一例として内部に含まれる蛍光の総量が相互に異なっており、基準フローサイトメータにおいて第2の蛍光の蛍光強度を指標に低い解像度で測定しても粒子1fから粒子5fを互いに判別できる。即ち本実施形態に係る標準粒子懸濁液Lfでは、第3の実施形態と同様に、標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーション粒子が含まれる粒子1fから粒子5fが有する第1の光学特性と第2の光学特性とが粒子を染色する2種類の蛍光染色により付与されている。
【0080】
図14は、本実施形態で一例として粒子1fから粒子5fに付与されている蛍光特性を基準フローサイトメータにおいて低い解像度で測定した結果を示す図である。
図14には上述した第1の光学特性で判別可能な空間解像度に比べて低い空間解像度で第1の蛍光と第2の蛍光を測定した際の蛍光強度分布が示されている。領域D31、領域D32、領域D33、領域D34、及び領域D35は、それぞれ粒子1f、粒子2f、粒子3f、粒子4f、粒子5fについて測定された第1の蛍光と第2の蛍光の強度分布の組合せを示す。粒子1f、粒子2f、粒子3f、粒子4f、粒子5fは相互に異なった形態のキャリブレーション粒子であるが、
図14において示されているように、検出できる第1の蛍光の総量が等しいため、空間解像度の低い基準フローサイトメータで測定しても、それによっては標準粒子懸濁液Lfに含まれる互いの粒子を判別できない。
【0081】
一方、ゴーストサイトメトリー技術によるフローサイトメータでは、蛍光の総量により評価を行う従来のフローサイトメータとは異なり、検出される第1の蛍光信号をもとに高い空間解像度を有する測定対象物の形態情報が取得でき、その情報をもとにキャリブレーション粒子の形体や内部構造の違いに基づいて測定対象物を判別することができる。ゴーストサイトメトリー技術によるフローサイトメータの判別性能を標準粒子懸濁液Lfを用いて評価する場合には、検出される第1の蛍光による光信号の時系列波形が有する光学的特性が第1の光学特性であり、判別される粒子1f、粒子2f、粒子3f、粒子4f、粒子5fの形態の違いを反映した光信号情報により標準粒子懸濁液Lfに含まれるキャリブレーション粒子を互いに判別することが可能である。一方、
図14に示された領域D31から領域D35から分かるように、上述したように粒子1fから粒子5fは互いに異なる第2の蛍光特性により判別可能である。本実施形態の例では、キャリブレーション粒子が有する第2の蛍光が第2の光学特性に該当する。従って、第1の光学特性による評価対象フローサイトメータによるキャリブレーション粒子の判別精度は、より低い空間分解能で測定可能な第2の蛍光による蛍光特性によって検証できる。
本実施形態では、より低い空間分解能で測定可能な第2の蛍光による蛍光特性を蛍光強度の違いにより付与した例により説明したが、第2の蛍光として粒子1fから粒子5fに互いに異なる波長の蛍光を付与してもよい。
【0082】
(各実施形態のまとめ)
以上に説明したように、上記の実施形態に係る標準粒子懸濁液L、La、Lb、Lc、Ld、Le、Lfは、第1の光学特性(上記の実施形態において形態的な特徴を反映させた光の光学特性)が互いに異なっており、第1の光学特性(上記の実施形態において形態的な特徴を反映させた光の光学特性)が判別可能な空間解像度に比べて低い空間解像度において判別可能な第2の光学特性(上記の実施形態においては蛍光特性)が互いに異なっている2種類以上のキャリブレーション粒子(上記の実施形態において粒子1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、粒子2、2a、2b、2c、2d、2e、2f、粒子3d、3e、3f、粒子4d、4e、4f、粒子5d、5e、5f)を含む。
【0083】
この構成により、上記の実施形態に係る標準粒子懸濁液L、La、Lb、Lc、Ld、Le、Lfでは、第1の光学特性(上記の実施形態において形態的な特徴を反映させた光の光学特性)に基づく判別結果が、第1の光学特性(上記の実施形態において形態的な特徴を反映させた光の光学特性)で判別可能な空間解像度に比べて低い空間解像度において判別可能な互いに異なる第2の光学特性(上記の実施形態において蛍光特性)に基づく判別結果とどの程度一致するかに基づいて評価対象フローサイトメータの粒子を判別する性能を評価できるため、当該フローサイトメータの形態の違いを判別する性能を簡便に客観的に評価できる。
【0084】
また、上記の実施形態に係る標準粒子懸濁液L、La、Lb、Lc、Ld、Le、Lfでは、2種類以上のキャリブレーション粒子(上記の実施形態において粒子1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、粒子2、2a、2b、2c、2d、2e、2f、粒子3d、3e、3f、粒子4d、4e、4f、粒子5d、5e、5f)は、互いに略同じである第3の光学特性(上記の実施形態において散乱光強度)をさらに有することがある。
【0085】
この構成により、上記の実施形態に係る標準粒子懸濁液L、La、Lb、Lc、Ld、Le、Lfでは、評価対象フローサイトメータは第3の光学特性(上記の実施形態において散乱光強度)に基づいてキャリブレーション粒子を判別できない。従って、評価対象フローサイトメータにより2種類以上のキャリブレーション粒子(上記の実施形態において粒子1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、粒子2、2a、2b、2c、2d、2e、2f、粒子3d、3e、3f、粒子4d、4e、4f、粒子5d、5e、5f)を判別する際に、空間分解能が低い従来のフローサイトメータが判別できる第3の光学特性(上記の実施形態において散乱光強度)ではなく、従来のフローサイトメータでは互いに区別できない第1の光学特性(上記の実施形態において形態的な特徴を反映させた光の光学特性)に基づいて判別できるのかを確実に評価できる。
【0086】
また、上記の実施形態に係る標準粒子懸濁液L、La、Lb、Lc、Ld、Le、Lfでは、第3の光学特性とは、キャリブレーション粒子(上記の実施形態において粒子1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、粒子2、2a、2b、2c、2d、2e、2f、粒子3d、3e、3f、粒子4d、4e、4f、粒子5d、5e、5f)に照射された光に応じて前記粒子が発する散乱光強度の総量である。
【0087】
この構成により、上記の実施形態に係る標準粒子懸濁液L、La、Lb、Lc、Ld、Le、Lfでは、散乱光強度の総量に基づいてキャリブレーション粒子を判別できないため、評価対象フローサイトメータにより2種類以上のキャリブレーション粒子(上記の実施形態において粒子1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、粒子2、2a、2b、2c、2d、2e、2f、粒子3d、3e、3f、粒子4d、4e、4f、粒子5d、5e、5f)を判別する際に、空間分解能が低い従来のフローサイトメータが判別できる互いに異なる散乱光強度ではなく、第1の光学特性(上記の実施形態において形態的な特徴を反映させた光の光学特性)に基づいて判別できるのかを確実に評価できる。
【0088】
また、上記の実施形態に係る標準粒子懸濁液L、La、Lb、Lc、Ld、Le、Lfでは、第1の光学特性は、キャリブレーション粒子(上記の実施形態において粒子1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、粒子2、2a、2b、2c、2d、2e、2f、粒子3d、3e、3f、粒子4d、4e、4f、粒子5d、5e、5f)について、より高い空間解像度において判別できる形態の違いに由来する光の特性である。より高い空間解像度において判別できる形態由来の光の特性には、例えば、ゴーストサイトメトリー技術に基づいて得られる光信号情報が含まれ、サンプルに構造化した照明を照射した際に検出される散乱光、干渉光、回折光、蛍光等の時系列光信号情報から測定粒子についての情報が直接取得される。本実施形態に係る標準粒子懸濁液L、La、Lb、Lc、Ld、Le、Lfは、同様に、サンプルに照射して検出される情報から、画像情報に変換せずにキャリブレーション粒子についての形態情報を直接取り出す技術に対して用いることが可能である。
【0089】
この構成により、上記の実施形態に係る標準粒子懸濁液L、La、Lb、Lc、Ld、Le、Lfでは、評価対象フローサイトメータのキャリブレーション粒子の形態に基づく判別結果が、前記粒子の形態の違いを判別できる空間解像度と比べて低い空間解像度においても判別可能な互いに異なる第2の光学特性(上記の実施形態において蛍光特性)に基づく判別結果と、どの程度一致するかに基づいて当該評価対象フローサイトメータの形態を判別する性能を評価できるため、評価対象フローサイトメータについて形態を判別する性能を簡便に評価できる。
【0090】
また、上記の実施形態に係る標準粒子懸濁液L、La、Lb、Lc、Ld、Le、Lfでは、第2の光学特性とは、照射された光に応じてキャリブレーション粒子(上記の実施形態において粒子1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、粒子2、2a、2b、2c、2d、2e、2f、粒子3d、3e、3f、粒子4d、4e、4f、粒子5d、5e、5f)が発する蛍光(蛍光特性)の波長及び強度の一方または両方である。
【0091】
この構成により、上記の実施形態に係る標準粒子懸濁液L、La、Lb、Lc、Ld、Le、Lfでは、評価対象フローサイトメータの第1の光学特性(上記の実施形態においてより高い空間解像度で測定可能な形態情報)に基づく判別結果が、上記第1の光学特性より空間解像度が低い空間解像度でも判別可能な蛍光特性(互いに異なる形態特性を有するキャリブレーション粒子に付与されている互いに異なる蛍光特性)に基づく判別結果と、どの程度一致するかに基づいて当該評価対象フローサイトメータの形態を判別する性能を評価できるため、評価対象フローサイトメータが有する上記第1の光学特性をもとに判別性能を簡便に客観的に評価できる。
【0092】
(実施例)
以下では、上記の各実施形態に係る実施例について説明する。
[ビーズ調製方法]
図15は、本実施例に係るキャリブレーションビーズの構造の一例を示す図である。本実施例では、上記の実施形態における標準粒子懸濁液Lに含まれるキャリブレーションビーズの一例として、アガロースゲルビーズの中に蛍光ポリスチレンビーズを一定数個含有させることで形状に特徴を持たせたキャリブレーションビーズC1及びキャリブレーションビーズC2を用いる。キャリブレーションビーズC1は、粒子内に2つの粒子を有する。キャリブレーションビーズC2は、粒子内に1つの粒子を有する。当該キャリブレーションビーズを調製する方法を以下に記載する。
【0093】
アガロースゲルビーズの調製に用いるアガロースには、市販の材料を使用することができる。以下の測定に使用されたキャリブレーションビーズC1及びキャリブレーションビーズC2では、Sigma-Aldrich社のAgarose Ultra-low Gelling Temperatureが使用された。本実施例では、アガロースゲルビーズに包含する蛍光ポリスチレンビーズとして、Spherotech社製の以下の2種類の蛍光ポリスチレンビーズ含有溶液を用いる。1種類目の蛍光ポリスチレンビーズは、「SPHEROTM Fluorescent Particles FH2056-2(High-Intensity,Φ2μm,Nilered)」である。2種類目の蛍光ポリスチレンビーズは、「SPHEROTM Fluorescent Particles FL2052-2(Low-Intensity,Φ2μm,Yellow)」である。なお、アガロースゲルビーズに包含する粒子は他の材料を代用することができる。本実施例では、アガロースゲルビーズに異なる蛍光ポリスチレンビーズを異なる個数包含させることで、形態の異なる2種類のキャリブレーションビーズが調製された。
【0094】
キャリブレーション用のアガロースゲルビーズは、W/O型(油中水滴型)ドロップレットをフローフォーカシング型マイクロ流体デバイスで生成することによって作成した。より具体的には、界面活性剤と蛍光ポリスチレンビーズとを含むアガロース混合液をシリンジポンプで送液しながら、当該アガロース混合液と界面活性剤入りキャリアオイル(本実施例では、Bio-rad社製のDroplet Generatorが使用された)とをマイクロ流路の分岐部において混合した。これによって、アガロース混合液がキャリアオイルをせん断し、表面張力により球状の液滴がキャリアオイル中に生成された。こうしたマイクロ流路技術による油中水滴の生成の作成技術については、例えば、「Dynamics of Microfluidic droplets (C. N. Baroud, et al., Lab Chip, (2010) 10, 2032-2045)」に記載される。
【0095】
上記方法で生成されたアガロースゲルビーズは、洗浄、ビーズ特性の確認を行った後、ゴーストサイトメトリー技術に基づくフローサイトメータのキャリブレーションビーズとして使用された。ビーズ特性の確認とは、アガロースゲルビーズに含まれる蛍光ビーズの個数、漏れビーズやダブレット粒子の存在比率などの確認である。なお以降に記載される測定例では、
図15に示すキャリブレーションビーズC1とキャリブレーションビーズC2との2種類のキャリブレーションビーズについての測定例と、それらキャリブレーションビーズC1とキャリブレーションビーズC2とが1:1の割合で含まれるように調製された標準粒子懸濁液についての測定例とが記載されている。なお、調製された標準粒子懸濁液に含まれるアガロースゲルビーズの平均の粒子サイズは、洗浄前に電子生体顕微鏡(Thermo Fisher Scientific 社EVOS)により測定した結果、約20μmであった。
【0096】
[ゴーストサイトメトリー技術に基づくフローサイトメータによる標準粒子懸濁液の測定例]
本実施例では、上記の方法で調製したキャリブレーションビーズC1とキャリブレーションビーズC2を1:1の割合で混合した標準粒子懸濁液を、ゴーストサイトメトリー技術に基づいて取得した蛍光信号波形を用いて判別した結果を一例として記載する。本実施例では、非特許文献1に記載されているゴーストサイトメトリー技術に基づくフローサイトメータ(以降、フローサイトメータFCM1と記載する)を使用した。フローサイトメータFCM1では、488nm波長のレーザー光による照明光を構造化して流路を通過する観測対象物に照射し、観測対象物から発せられる蛍光を検出して取得される時系列の蛍光信号波形をもとに測定対象物の形態的な違いを判別する。一方、フローサイトメータFCM1は、ゴーストサイトメトリー技術に基づく測定に加え、637nm波長のレーザー光をスポット光として照射して、観測対象物からの散乱光強度や蛍光強度の総量を測定する従来型のフローサイトメータで得られる測定を行うことができる。また、フローサイトメータFCM1では、構造化照明により検出される時系列の蛍光信号波形の総量(蛍光強度の積算値)が、スポット光を照射して測定した蛍光強度の総量と同じ情報として得ることができる。
本実施例では、フローサイトメータFCM1は、上述したゴーストサイトメトリー技術に基づいた蛍光信号波形の検出を波長525nmで行った。また、包含されるキャリブレーションビーズについて、スポット光を用いた蛍光強度の総量による検出(検出波長676nm)と、散乱光(FSC)強度の総量による検出とを独立した別のチャンネルで行った。
【0097】
[フローサイトメータFCM1によるキャリブレーションビーズC1とキャリブレーションビーズC2の測定例、及び両者を1:1で含む標準粒子懸濁液の測定例]
図16は、フローサイトメータFCM1でスポット光(波長637nm)を用いて標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーションビーズC1、キャリブレーションビーズC2の散乱特性をそれぞれ測定した結果を示す。グラフG1は、キャリブレーションビーズC1の散乱特性を測定した結果を示す。グラフG2は、キャリブレーションビーズC2の散乱特性を測定した結果を示す。キャリブレーションビーズC1とキャリブレーションビーズC2はFSC(前方散乱)強度の分布が重複し、FSC強度の総量を指標としてキャリブレーションビーズC1とキャリブレーションビーズC2を判別することは難しいことが示唆された。
【0098】
図17は、キャリブレーションビーズC1と、キャリブレーションビーズC2について、フローサイトメータFCM1において、構造化照明を用いた蛍光強度の総量による測定を波長525nmにおいて行った結果と、スポット光を用いた蛍光強度の総量による測定を検出波長676nmにおいて行った結果とを示す。波長525nmは、フローサイトメータFCM1でゴーストサイトメトリー技術に基づく蛍光信号の検出に利用される波長である。データH1は、キャリブレーションビーズC1の蛍光強度の総量による測定結果を示す。データH2は、キャリブレーションビーズC2の蛍光強度の総量による測定結果を示す。
検出波長676nmにおける検出では、キャリブレーションビーズC1とキャリブレーションビーズC2の蛍光強度の差が検出される。検出された蛍光強度の差は、それぞれのキャリブレーションビーズが異なる蛍光色素を包含していることに起因している。フローサイトメータFCM1では、このキャリブレーションビーズの相互に異なる蛍光特性に基づいて、学習データに正解付けラベルを付与して機械学習が行われる。
一方、検出波長525nmにおける検出では、蛍光総量では、キャリブレーションビーズC1とキャリブレーションビーズC2とはほぼ同様の蛍光強度を示した。蛍光総量では2種類のキャリブビーズについてほぼ同様の蛍光強度が示されたことは、波長525nmで検出される「蛍光強度の総量」を指標として、標準粒子懸濁液に含まれる2種類のキャリブビーズを判別することが難しいことを示唆している。
【0099】
図18は、フローサイトメータFCM1でゴーストサイトメトリー技術に基づいて、標準粒子懸濁液に含まれるキャリブレーションビーズC1とキャリブレーションビーズC2とを判別した結果を示す。グラフJ1は、キャリブレーションビーズC1を機械学習により作成したモデルを用いて判別した場合の結果(スコアの分布)を示す。グラフJ2は、キャリブレーションビーズC2を機械学習により作成したモデルを用いて判別した結果(スコアの分布)を示す。
図18に示す通り、キャリブレーションビーズC1の粒子内に2つの粒子を有する構造と、キャリブレーションビーズC2の粒子内に1つの粒子を有する構造とは、ゴーストサイトメトリー技術に基づいて良好に判別することができている。
図17に示したように標準粒子懸濁液に含まれる2種類のキャリブビーズは波長525nmで検出される蛍光強度がほぼ等しく、「蛍光強度の総量」を指標として両者を判別することは難しい。従ってこの結果は、ゴーストサイトメトリー技術に基づいた判別が、標準粒子懸濁液に混在して含まれるキャリブレーションビーズC1とキャリブレーションビーズC2との「形態の差」を認識できていることを示唆している。
【0100】
以上、図面を参照してこの発明の一実施形態について詳しく説明してきたが、具体的な構成は上述のものに限られることはなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な設計変更等をすることが可能である。
【符号の説明】
【0101】
L、La、Lb、Lc、Ld、Le、Lf…標準粒子懸濁液、1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、2、2a、2b、2c、2d、2e、2f、3d、3e、3f、4d、4e、4f、5d、5e、5f…粒子(キャリブレーション粒子)