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特許7556584新規化合物処理した幹細胞を含む脊髄損傷治療用組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】新規化合物処理した幹細胞を含む脊髄損傷治療用組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/28 20150101AFI20240918BHJP
   A61K 35/30 20150101ALI20240918BHJP
   A61K 35/51 20150101ALI20240918BHJP
   A61L 27/36 20060101ALI20240918BHJP
   A61L 27/38 20060101ALI20240918BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 25/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 31/423 20060101ALN20240918BHJP
【FI】
A61K35/28
A61K35/30
A61K35/51
A61L27/36 100
A61L27/36 311
A61L27/38 111
A61L27/38 200
A61L27/38 300
A61L27/40
A61P19/08
A61P25/00
A61P29/00
A61P43/00 105
A61K31/423
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022528953
(86)(22)【出願日】2019-11-18
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-01-23
(86)【国際出願番号】 KR2019015785
(87)【国際公開番号】W WO2021100889
(87)【国際公開日】2021-05-27
【審査請求日】2022-07-20
(73)【特許権者】
【識別番号】522194315
【氏名又は名称】ワイジェイ セラピューティクス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100091683
【弁理士】
【氏名又は名称】▲吉▼川 俊雄
(74)【代理人】
【識別番号】100179316
【弁理士】
【氏名又は名称】市川 寛奈
(72)【発明者】
【氏名】ユン,テ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】パク,ヘ ヨン
(72)【発明者】
【氏名】リ,ジ ユン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン,サン リョン
(72)【発明者】
【氏名】ジュン,ボン ゴン
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2019-0041897(KR,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0177829(US,A1)
【文献】国際公開第2017/164467(WO,A1)
【文献】Stem Cell Reports,2019年05月,Vol.12,pp.950-966
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61P 1/00-43/00
A61L 27/00-27/60
A61K 31/00-31/80
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
間葉系幹細胞に下記化1の化合物を処理して培養し、Tuj1陽性細胞に分化させる段階を含む慢性脊髄損傷治療用組成物の製造方法。
【化1】
【請求項2】
脊髄損傷は、外傷または炎症によって誘発されたものである、請求項1に記載の慢性脊髄損傷治療用組成物の製造方法。
【請求項3】
前記炎症は、急性横断性脊髄炎、急性散在性脳脊髄膜炎、脊髄症、非ホジキンリンパ腫、水頭症、遺伝性運動失調症、神経梅毒、水俣病、ルゲリック病および多発性硬化症からなる群から選択される少なくとも1つによって誘発されたものである、請求項2に記載の慢性脊髄損傷治療用組成物の製造方法。
【請求項4】
前記Tuj1陽性細胞は、前記間葉系幹細胞が化合物処理後96~144時間培養されたものである、請求項1に記載の慢性脊髄損傷治療用組成物の製造方法。
【請求項5】
(a)間葉系幹細胞に化学式2の化合物処理する工程;及び
(b)前記化合物処理された間葉系幹細胞を96~144時間培養する工程;を含む、慢性脊髄損傷治療用組成物の製造方法。
【化2】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規化合物処理して培養した幹細胞を有効成分として含む、脊髄損傷治療用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
骨は、外傷などにより脊髄神経に損傷を負ってしまうと、人体機能に麻痺を引き起こす。脊髄神経組織は、脳に比べて単純な構造を有するが、再生は容易ではない。
【0003】
脊髄損傷後に起こる病理学的現象は、時間によって大きく一次損傷と二次損傷に分けられる。
【0004】
一次損傷は、受傷直後、数分以内に起こる現象であって、主に創傷部位の細胞が壊死(necrosis)するが、この時期は急速に細胞が破壊されるので、薬物治療で対応することはほぼ不可能である。
【0005】
一次損傷に続く二次損傷は、数時間から数日にわたってゆっくりと進行するが、受傷部位の細胞のみが退化するのではなく、周囲の神経細胞と希突起膠細胞においてアポトーシスによって徐々に細胞死が始まる。
【0006】
細胞死は、損傷部位を中心に持続的に進行し、ついには脊髄内部の損傷部位が徐々に広がる。
【0007】
また、神経信号の移動経路である軸索と軸索の機能を助けるミエリン鞘の退化が起こり、終局的には脊髄内に空洞が形成され、それ以上神経信号を伝達できなくなり、永久的な機能消失が引き起こされる。
【0008】
長い間、脊髄神経外傷後に起こる病理作用に対する原因究明と再生に関する研究を通じて、脊髄損傷による永久的な機能麻痺を抑制または緩和しようとする研究が進められてきた。
【0009】
脊髄損傷の初期機序は急速に進行してしまい、薬物治療での対応が難しいので、二次的な機序を取り扱う薬学的戦略が治療剤開発に重要である。
【0010】
今日まで、ステロイド、抗酸化剤、グルタミン酸受容体阻害剤、イオンチャネル阻害剤、ガングリオシド(ganglioside)、軸索突起再生阻害剤に対する抗体、抗炎症剤、神経栄養因子など、様々な可能性のある薬学的治療が試みられてきた。
【0011】
しかし、メチルプレドニゾロンのみが脊髄損傷後の唯一の治療剤として用いられているが、不明瞭な治療効果と過剰な投与量による副作用など多くの問題点がある。
【0012】
したがって、薬や物理療法(physiotherapy)を使った脊髄損傷の治療は限界に達しており、細胞の移植による治療に焦点を当てた多くの実験的研究が進められている。
【0013】
幹細胞(stem cell)は、不明確なperiodsのために有機体として生きている間ずっと分化する能力を有する細胞であり、これを用いた治療方法が研究されているが、その方法がいまのところ確立されていない。
【0014】
脊髄損傷後の受傷部位に分化能を有する細胞を移植することは、永久に消失した神経細胞の代替として損傷部位に新しい神経細胞を提供し、これにより神経再生を促進させるための治療戦略として利用されている。
【0015】
本発明者らは、幹細胞の移植において、特定の化合物処理により脊髄損傷の治療効果が著しく改善されたことを確認し、将来臨床への適用を早めることができる基準点を設けようとした。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上述の従来技術の問題を解決するために幹細胞ベースの脊髄損傷治療剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明の一態様によれば、下記化学式1における化合物を処理した幹細胞を有効成分として含む、脊髄損傷治療用組成物が提供される。
【0018】
【化1】
【0019】
一実施形態において、前記脊髄損傷は外傷または炎症によって引き起こされたものであってもよい。
【0020】
一実施形態において、前記炎症は、急性横断性脊髄炎、急性散在性脳脊髄膜炎、脊髄症、非ホジキンリンパ腫 、水頭症、遺伝性運動失調症、神経梅毒、水俣病、ルゲリック病および多発性硬化症からなる群から選択される1つ以上によって誘発されたものであってもよい。
【0021】
一実施形態において、前記幹細胞は、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)であってもよい。
【0022】
一実施形態において、前記幹細胞は、前記化合物処理後96~144時間培養することができる。
【0023】
一実施形態において、前記幹細胞は、移動性神経芽細胞(migrating neuroblast)に分化されたものであってもよい。
【0024】
本発明の別の態様によれば、(a)幹細胞に下記化学式2における化合物を処理する工程;及び(b)前記化合物処理した幹細胞を96~144時間培養する工程;を含む、脊髄損傷治療用幹細胞製造方法が提供される。
【0025】
【化2】
【0026】
本発明のまた別の態様によれば、前記脊髄損傷治療用組成物を投与する工程を含む、脊髄損傷治療方法が提供される。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、前記脊髄損傷治療用組成物は一定の段階で分化した幹細胞を用いるため、従来の幹細胞ベースの治療剤に比べて神経細胞の再生効果に著しく優れている。
【0028】
本発明の効果は、前記のような効果に限定されるものではなく、本発明の詳細な説明または特許請求の範囲に記載された発明の構成より、推論可能な全ての効果を含むものであると理解されるべきである。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明の一実施形態による幹細胞の培養方法を図式化したものである。
図2】本発明の一実施形態による幹細胞を用いた運動機能回復評価の実験方法を図式化したものである。
図3】幹細胞分化によるNeuronal lineage markerを示す。
図4】Neuronal lineage markerを用いて幹細胞の分化段階を確認したものである。
図5】動物を実験対象とした行動学的評価結果である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下では、添付の図面を参照にして本発明を説明する。なお、本発明は多様な異なる形態で具現することができ、よって、本明細書に記載の実施形態に限定されるものではない。ある部分がある構成要素を「含む」とした場合、これは、特に反対の記載がない限り、他の構成要素を除外するものではなく、他の構成要素をさらに備えることができることを意味する。
【0031】
特に断りがない限り、分子生物学、微生物学、タンパク質精製、タンパク質工学、およびDNA配列解析並びに当業者の能力の範囲内で組換えDNA分野で一般に使用される通常の技術によって行うことができる。前記技術は当業者に周知のものであり、数多くの標準教材および参考著書に記述されている。
【0032】
本明細書に含まれる用語を含む様々な科学的辞書が広く知られており、当業界で利用可能である。本明細書に記載されたことと類似または等価の任意の方法および物質が本願の実施または試験に使用されることが見出したが、いくつかの方法および物質が説明されている。当業者が使用する文脈に沿って多様に使用することができるので、特定の方法学、プロトコル及び試薬に本発明が制限されるものではない。
【0033】
本明細書にて使用されるように、単数形は文脈において明確に殊更示さない限り、複数の対象を含む。また、特に断りがない限り、核酸はそれぞれ左から右、5’から3’方向に記載され、アミノ酸配列は左から右、アミノからカルボキシル方向に記載される。以下、本発明をさらに詳細に説明する。
【0034】
本発明の一態様によれば、下記化学式3における化合物を処理した幹細胞を有効成分として含む、脊髄損傷治療用組成物が提供される。
【0035】
【化3】
【0036】
前記化合物の名称は、N-(5-クロロベンゾ[d]オキサゾール-2-イル)-N-(4-エチルフェニル)-2-メトキシアセトアミド(N-(5-Chlorobenzo[d]oxazol-2-yl)-N-(4-ethylphenyl)-2-methoxyacetamide)であってもよく、化学合成法によって製造することができる。
【0037】
本発明者らは、前記化合物処理した幹細胞を脊髄に注入することによって脊髄損傷が効果的に改善されることを確認した。
【0038】
前記化合物は、薬学的に許容される塩の形態で使用することができ、その塩としては薬学的に許容される遊離酸(free acid)によって形成された酸付加塩が有用であることができる。
【0039】
前記化合物は、当該技術分野で従来の方法に従って薬学的に許容される酸付加塩を形成することができる。
【0040】
遊離酸は、有機酸および無機酸が用いられてもよく、例えば、前記無機酸は、塩酸、臭素酸、硫酸、またはリン酸であってもよく、前記有機酸は、クエン酸(Citric acid)、酢酸、乳酸、酒石酸(Tartaric acid)、マレイン酸、フマル酸(Fumaric acid)、ギ酸、プロピオン酸(Propionic acid)、シュウ酸、トリフルオロ酢酸、安息香酸、グルコン酸、メタンスルホン酸、グリコール酸、コハク酸(Succinic acid)、4-トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、サリチル酸、ニコチン酸、イソニコチン酸、ピコリン酸、グルタミン酸またはアスパラギン酸であってもよいが、これらに限定されるものではない。
【0041】
前記「脊髄損傷(SCI)」は、物理的な衝撃など様々な要因によって脊髄実質が損傷し、損傷部位より下の部分で末梢運動筋肉、感覚および自律神経系の麻痺を示す臨床状態を意味する。
【0042】
前記脊髄損傷は、外傷または炎症によって誘発され得、例えば、交通事故、スポーツ、労働災害などによる外傷性脊髄損傷や炎症、出血、腫瘍、脊椎変形などの非外傷性脊髄損傷であってもよい。
【0043】
前記炎症は、急性横断性脊髄炎、急性散在性脳脊髄膜炎、脊髄症、非ホジキンリンパ腫、水頭症、遺伝性運動失調症、神経梅毒、水俣病、ルゲリック病および多発性硬化症からなる群から選択された1つ以上によって誘発されることがあるが、炎症誘発によって脊髄損傷を引き起こし得るものであれば、特に制限されるものではない。
【0044】
前記「治療」は、脊髄損傷の症状を改善する、または症状の進行を阻止することを意味し、通常使用される治療の意味を包括することができる。
【0045】
前記幹細胞は、間葉系幹細胞(mesenchymal stem cell)であってもよく、ヒト臍帯血幹細胞由来の間葉系幹細胞であってもよい。
【0046】
前記「幹細胞(stem cell)」は、自己複製能力だけでなく、細胞が位置する環境の影響を受けて適切なシグナルが与えられる場合、多分化能(multi potency)の特性により様々な細胞に分化できる細胞である。
【0047】
前記幹細胞は、脂肪、骨髄、臍帯血、及び胎盤などに含まれており、脊髄損傷、心筋梗塞、脳梗塞、変性関節炎、骨折など様々な細胞損傷疾患治療に活用されることができる。前記幹細胞は、自己または同種由来の幹細胞であってもよく、ヒトおよび非ヒト哺乳動物を含む任意の類型の動物由来であってもよい。
【0048】
前記「間葉系幹細胞」は、ストロマ起源の細胞であって、自己再生(self-renewal)の特徴を持っており、骨、軟骨、脂肪組織、筋肉、腱、靭帯、神経組織などに分化することができ、細胞治療療法に活用されることができる。
【0049】
前記間葉系幹細胞は、骨髄から得ることができるが、骨髄に存在する間葉幹細胞は、制限的な分化能と増殖能力により応用範囲が限定的であり、骨髄移植のために組織適合抗原の比較を通じて抗原の表現型が一致するので、移植片対宿主反応を示さないドナーを探さなければならない問題がある。
【0050】
その反面、臍帯は分娩過程で簡単な施術を通じて得ることができ、多数の造血幹細胞および幹細胞を含んでいるため、臍帯、胎盤、臍帯血などから多量の幹細胞を分離することができる。
【0051】
前記間葉系幹細胞の分離方法は、当業界に広く知られている。例えば、ヒト臍帯(Cord)、ワルトンゼリー(Wharton’s jelly)、臍帯血、胎盤、脂肪、骨髄、扁桃体、胎生初期の卵黄嚢 (embryonic yolk sac)、臍帯、皮膚、末梢血液、筋肉、肝臓、神経組織、骨膜、胎膜、滑液膜、滑液、羊膜、半月板、前十字靭帯、関節軟骨細胞、幼歯、血管周囲細胞、骨梁、膝蓋骨下脂肪体、脾臓、及び胸腺などから分離および精製することができる。
【0052】
前記幹細胞は、(a)前記化合物処理する工程;及び(b)前記化合物処理した幹細胞を96~144時間培養する工程;を介して得ることができ、前記幹細胞は、移動性神経芽細胞(migrating neuroblast)に分化したものであってもよい。
【0053】
図3及び4を参照すると、前記化合物を含む培地でMSCを5日間培養し、neural lineage markerを用いて分化状態を確認した結果、ネスチン、GFAPはほとんど発現されず、約90%以上の細胞がTuj1陽性細胞と同定された。
【0054】
すなわち、前記化合物処理してから96~144時間培養した後、前記幹細胞は移動性神経芽細胞に分化することができ、前記分化細胞を生体内に投入することにより、脊髄損傷を効果的に改善することができる。
【0055】
前記間葉系幹細胞は、細胞単独または培養器でインキュベートされた状態で生体内で注入されることができ、例えば、Lindvall(1989,Arch.Neurol.46:615-31)またはダグラスコンジオルカ(Douglas Kondziolka,Pittsburgh,1998)の臨床方法に従うことができる。
【0056】
前記脊髄損傷治療用組成物は、間葉系幹細胞以外の薬学的に許容される通常の担体を含むことができ、注射剤の場合は保存剤、無痛化剤、可溶化剤または安定化剤、局所投与用製剤の場合は基剤、賦形剤、潤滑剤または保存剤などを含むことができる。
【0057】
本発明の脊髄損傷治療用組成物の好ましい投与量は、状態及び体重、疾患の程度、薬物形態、投与経路及び期間によって異なるが、本願発明が属する技術分野で通常の知識を有する者により適宜選択されることができる。好ましくは、本発明の治療用組成物は、間葉系幹細胞の量を基準に10~1010cells/回投与することができ、好ましくは10~10cells/回投与することができ、最も好ましくは10cells/回投与することができる。前記組成物の投与は1日に1回投与してもよく、数回に分けて投与してもよい。上記の投与量と投与回数は、いかなる面でも本発明の範囲を限定するものではない。
【0058】
以下の実施形態を通じて本発明をより詳細に説明するが、以下の実施形態によって本発明が限定されるものではないことは自明である。
【0059】
実験方法
化合物の製造
窒素ガス置換下でジクロロメタン10mLに溶かした5-クロロ-N-(4-エチルフェニル)ベンゾ[d]オキサゾール-2-アミン(0.37mmol,1eq)にAlCl(0.73mmol,2eq)を加えた後、室温(15~30℃)で10分間撹拌した。
【0060】
氷水浴(ice bath)でメトキシメチルカルボニルクロライド(0.73mmol,2eq)を加え、室温(15~30℃)で5時間撹拌した。
【0061】
蒸留水10mLを加え、EtOAc10mLで3回抽出した。有機層を分離し、10% HCl水溶液(10mL)で2回、飽和NaCl水溶液(10ml)で2回洗浄し、MgSOで乾燥させた後、溶媒を減圧濃縮した。
【0062】
沈殿物をn-ヘキサン:EtOAc:エーテル=5:2:1(v/v/v)で減圧濾過し、化学式1の化合物を得た。
【0063】
ホワイトパウダー(28%)、mp121.6-123℃;H NMR(Acetone-d6,400MHz)δ 7.653(d,J=6.0Hz,1H)、7.533(d,J=8.8Hz,1H)、7.357(m,4H)、4.611(s,2H)、3.367(s, 3H)、2.728(q, J=7.6Hz, 2H)、1.271(t, J=7.6Hz, 3H)、HR-FABMS Calcd for C1818ClN(M+H):345.1006、Found:345.1004。
【0064】
以下の実験において、本化合物をL2と称した。
【0065】
脊髄損傷動物モデルの作製
成体雄のスプレイグ・ドーリーラット(Sprage Dawley rat、韓国サムタコ社)に抱水クロラール(500mg/kg)を腹腔内注入して麻酔した後、胸椎8番~10番部位を露出させた。
【0066】
10gの重さの錘を一定の高さから落下させ、ヒト脊髄損傷と同様の外傷を与え、外傷強度をコンピュータで数値化できるように考案されたNYUインパクター(Routes、サイテックコリア)を用いた脊髄外傷動物モデルを作製した。
【0067】
コンピュータに示される損傷強度に関するデータを通じて、定められた誤差範囲内で一定の損傷が加わったことを確認した上、創傷部位を縫合した。
【0068】
創傷部位をポビジン液で消毒した上、2匹ずつケージ(cage)に入れて飼育し、1日3回人為的に膀胱をマッサージして排尿を促進させた。
【0069】
細胞培養
Kangstem Biotechから分譲を受けたPasage 3のMSCは、10%FBS(Gibco)とsupplementsが含まれたKSB3 basalの培地で維持した。
【0070】
一回継代培養後、Passage 4のMSCはストックを作って液体窒素に保管した。
【0071】
幹細胞分化
図1を参照すると、Passage 5のMSCを1.1×10/mLに希釈した12ウェルにウェル当たり1mLずつ播種した。
【0072】
4時間後、40μMのL1、L3、または30μMのL2(化学式1)を処理した。
【0073】
3日後、新規培地に移し替え、化合物を同様に処理した後、さらに2日間培養した。
【0074】
幹細胞脊髄内への移植
図2を参照すると、脊髄損傷を誘発させ、6週間後、ラットをランダムに選び、以下の3つの群に分けた。
【0075】
(1)対照群1(Saline group):幹細胞の代わりにsalineのみlesion siteに注入、(2)対象群2(MSC group):未分化の間葉系幹細胞のみ移植、(3)実験群(MSC+L2 group):低分子化合物であるL2により分化させたTuj1-陽性分子幹細胞移植
【0076】
脊髄損傷ラットに抱水クロラール(500mg/kg)を腹腔内注入して麻酔した後、手術部位を切開し、ガラスピペットを用いて損傷部位(lesion epicenter)に10μLずつ試料を注入した。幹細胞を注入した実験群の移植細胞数は1×10個であった。
【0077】
実験の結果
行動学的評価
移植後8週間の間、以下の3つの行動学的評価を実施した(週1回)。
【0078】
(1)BBB locomotor score:オープンフィールドでラットの後肢の運動機能を0~21点として点数をつける方法。
0点:no movement、21点:normal
(2)Grid walk test:梯子をラットに歩かせたとき、肢を踏み外す回数を百分率で算出
(3)フットプリント解析:ラットの肢の裏にインクをつけ(前肢:赤、後肢:青)、長い箱を歩かせて床についた肢底のパターンを解析する方法。
【0079】
BBBオープンフィールドスコア(BBB Open field score)
BBB試験は、運動機能を調節する様々な神経束の回復度合いを複合的に評価する実験である。
【0080】
0から21までのスコアに分け、後肢を全く使えない場合は0点、健常なラットの場合は21点をつけ、点数が高くなるほど運動機能が向上することを意味する。
【0081】
脊髄外傷を加える3日前から一日に一回、一匹あたり4分ずつオープンフィールドボックス(横90cm×縦90cm×高さ7cm)にラットを載せ、箱の中で自在に歩き回れるようにして予め順応させた。
【0082】
脊髄外傷を与えてから1日目から、週1回3名の訓練された実験者が各ラットの後肢の動きを観察してBBBスコアをつけ、この3名のBBBスコアの平均値を当該ラットの最終BBBスコアとして決定した。
【0083】
動物実験に対する個人の偏見を排除すべく、試験に臨む実験者にはラットに関する情報を隠して、各ラットを4分ずつ観察させてスコアを算出した。
【0084】
観察の結果、脊髄外傷を受けた直後、全てのラットは後肢の動きが全くなく、前肢に依存して下半身を引きずる現象が観察された。
【0085】
脊髄外傷後、1週間が経過してから自然回復が見られ、4週間後にはもはや運動機能回復がみられないプラトー状態が維持され、慢性脊髄損傷モデルが確立されたと判断された。
【0086】
脊髄損傷6週目に生理食塩水または分化していないMSCとL2によって5日間分化させたMSCを移植した1週間目から、生理食塩水のみを移植した群に比べてMSCとL2-treated MSCを移植した群のBBBスコアの方が高く表れ始め、移植後8週間までBBBスコアが高い状態を維持した。
【0087】
脊髄外傷を与えてから14週(移植後8週)経過後、BBBスコアを確認した結果、生理食塩水ラット(対照群1)のBBBスコアは、約9点であり、じっと立ち止まっているときだけ体重を支えるだけで、歩くときは継続して肢を支えるほどの回復がみられた。
【0088】
一方、MSC(対照群2)またはL2-treated MSC(実験群)を投与したラットのBBBスコアは約12点であり、体重を支えて歩く間、略50%の頻度で前肢と後肢が交互する回復水準を示し、対照群1と比較したとき、顕著な運動機能回復効果が確認された(図5A)。
【0089】
MSCとL2-treated MSCを移植した場合、L2を処理したMSCを移植したとき、MSC群に比べてBBBスコアが一部上がったが、有意な差は確認されなかった。
【0090】
グリッドウォーク試験(Grid walk test)
前肢と後肢がリズミカルに交互する能力と正確に後肢を踏む出すことができるかどうか評価した。
【0091】
長さ1mの金属梯子をラットを通らせて肢が梯子の下に踏み外す頻度を百分率(%)で表した。
【0092】
試験開始3日前から1mの金属梯子に各ラット当たり1日3回ずつ通らせることで実験環境に順応させ、脊髄外傷後6週目の移植直前に初めて試験を実施した。
【0093】
ラットに金属梯子を通らせる際、途中で立ち止まったりするのは、カウントせずに自発的に休むことなく最後まで通り切った場合のみカウントして3回ずつ梯子を通らせた。
【0094】
ビデオカメラでラットの動きを録画し、各ラットがどの群に属しているか分からない2名の実験者が実験結果を解析した。
【0095】
実験の結果は、ラットが歩いた総歩数から梯子の下に後肢を踏み外した歩数が占める割合を百分率(%)で表し、各群の平均値を比較した。
【0096】
図5Bを参照すると、移植前に、3つの群のラット全部から約70%程度のエラー率が表れた。
【0097】
移植後1週間経過した時点で対照群2及び実験群のエラー率が、対照群1と比べて低かった。
【0098】
特に、実験群は対照群2と比較して移植1~2週間以内に速い速度でエラー率が減少し、移植後8週間で最も低いエラー率を示した。
【0099】
以上の結果は、3つの群の中からL2-treated MSCを移植したラットがより正確に後肢をついて、歩行能力が増大したことを示唆する。
【0100】
肢跡の解析(Foot print analysis)
脊髄外傷後のラットの後肢の運動機能回復の程度を評価する基準として肢跡解析を行った。
【0101】
ラットの前肢には赤色インクをつけ、後肢には青色インクをつけ、白い紙が敷かれた狭い通路(長さ1m、幅7cm)に通過させて肢跡を観察した。
【0102】
ラットが5秒以内に通路を通過できなかったり、途中で止まった場合は解析から除外しており、動物1匹当たり8回試験を実施した。
【0103】
前肢との調和、間隔、後肢の回転程度、後肢間の歩幅、両肢間の間隔、足指の引きずりなどを後肢の機能を測定する指標として使用した。
【0104】
試験開始の3日前から1日3回ずつ通路を通過させることで実験環境に適応させた。
【0105】
図5Cを参照すると、一般に脊髄神経外傷後にラットの後肢が麻痺して後肢を引きずる軌跡が示された。
【0106】
損傷後6週目、全部の群のラットは、歩くとき肢が体を支えきれず、後肢(青)の肢跡が残らず、持続的に肢の甲を引きずる現象が観察された。
【0107】
移植8週間後、対照群2は回復の程度が向上され、一部の足指を引きずる現象はあったが、肢の裏をついて歩くことができるほどに回復し、後肢の肢跡が紙に残り、足指の引きずりによって後肢の肢跡が後に短く引きずる現象が観察された。
【0108】
一方、実験群(L2-treated MSC移植)は、引きずり現象がほとんど観察されず、前肢と後肢の間隔が狭くなり、手肢の協調が改善された。
【0109】
上述した本発明の説明は例示のためのものであり、本発明が属する技術分野における通常の知識を有する者は、本発明の技術的思想や必須の特徴を変更することなく、他の具体的な形態に容易に変形可能であることが理解されるはずである。したがって、上述の実施形態は全部の面で例示的なものであり、限定的なものではないと理解すべきである。例えば、単一型と説明されている各構成要素は、分散して実施することができ、同様に分散されたものとして説明された構成要素を組み合わせた形態で実施することができる。
【0110】
本発明の範囲は後述する特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲の意味および範囲ならびにその均等概念から導き出されるあらゆる変更または変形された形態が本発明の範囲に含まれるものと解釈されるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5