(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】ナノ双晶Cu-Ni合金層及びそれを製造する方法
(51)【国際特許分類】
C22C 9/06 20060101AFI20240918BHJP
C22F 1/08 20060101ALI20240918BHJP
C25D 3/58 20060101ALI20240918BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240918BHJP
【FI】
C22C9/06
C22F1/08 P
C25D3/58
C22F1/00 604
C22F1/00 606
C22F1/00 613
C22F1/00 622
C22F1/00 630C
C22F1/00 661A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
(21)【出願番号】P 2023000541
(22)【出願日】2023-01-05
【審査請求日】2023-01-05
(32)【優先日】2022-01-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】522054178
【氏名又は名称】國立陽明交通大學
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】チェン, チー
(72)【発明者】
【氏名】リー, カン・ピン
(72)【発明者】
【氏名】チャン, ユー・イ
(72)【発明者】
【氏名】チェン, ヤン・スワン
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-037649(JP,A)
【文献】特開昭60-021398(JP,A)
【文献】特開2021-105211(JP,A)
【文献】津留寿昭 外3名,“エチレンジアミン浴からの銅‐ニッケル合金電析”,九州産業大学 工学部研究報告,1977年11月30日,第14号,pp.18-23
【文献】I. BASKARAN et al.,“Pulsed electrodeposition of nanocrystalline Cu-Ni alloy films and evaluation of their characteristic properties”,Materials Letters,2006年01月10日,Vol. 60, No. 16,pp.1990-1995,DOI: 10.1016/J.MATLET.2005.12.065
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 9/00- 9/10
C25D 1/00- 3/66
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ双晶Cu-Ni合金層であって、該ナノ双晶Cu-Ni合金層の体積の50%超が複数の双晶粒からなり、該複数の双晶粒は複数の柱状双晶粒を含み、前記ナノ双晶Cu-Ni合金層におけるNi含有率は0.05at%~20at%の範囲にある、ナノ双晶Cu-Ni合金層。
【請求項2】
前記複数の双晶粒は、[111]結晶軸の±15度以内の方向に沿って複数のナノ双晶を積層することによって形成される、請求項1に記載のナノ双晶Cu-Ni合金層。
【請求項3】
前記複数の柱状双晶粒は[111]結晶軸の±15度以内の方向に沿って複数のナノ双晶を積層することによって形成され、該複数のナノ双晶の少なくとも一部の積層方向と前記ナノ双晶Cu-Ni合金層の厚さ方向との間の夾角が0度~20度の範囲となる、請求項1に記載のナノ双晶Cu-Ni合金層。
【請求項4】
前記ナノ双晶Cu-Ni合金層の表面積の50%以上が前記ナノ双晶の(111)表面を露出させる、請求項3に記載のナノ双晶Cu-Ni合金層。
【請求項5】
前記複数の双晶粒は前記複数の柱状双晶粒に積層された複数の微細粒をさらに含み、該複数の微細粒のナノ双晶が優先方位なしに積層される、請求項1に記載のナノ双晶Cu-Ni合金層。
【請求項6】
前記ナノ双晶Cu-Ni合金層の表面が優先的な表面ではない、請求項5に記載のナノ双晶Cu-Ni合金層。
【請求項7】
前記複数の双晶粒は、前記複数の柱状双晶粒に積層された複数の斜交双晶粒をさらに含む、請求項1に記載のナノ双晶Cu-Ni合金層。
【請求項8】
前記複数の斜交双晶粒は[111]結晶軸の±15度以内の方向に沿って複数のナノ双晶を積層することによって形成され、該複数のナノ双晶の少なくとも一部の積層方向と前記ナノ双晶Cu-Ni合金層の厚さ方向との間の夾角は10度~60度の範囲となる、請求項7に記載のナノ双晶Cu-Ni合金層。
【請求項9】
前記ナノ双晶Cu-Ni合金層の表面は優先的な表面ではない、請求項8に記載のナノ双晶Cu-Ni合金層。
【請求項10】
前記複数の柱状双晶粒の直径が、それぞれ0.1μm~50μmの範囲にある、請求項1に記載のナノ双晶Cu-Ni合金層。
【請求項11】
前記複数の柱状双晶粒の厚さが、それぞれ0.1μm~500μmの範囲にある、請求項1に記載のナノ双晶Cu-Ni合金層。
【請求項12】
前記複数の柱状双晶粒の少なくとも一部は相互に接続されている、請求項1に記載のナノ双晶Cu-Ni合金層。
【請求項13】
ナノ双晶Cu-Ni合金層を製造する方法であって、以下の、
アノード、カソード、メッキ溶液及び電源を備える電着装置を提供するステップであって、前記電源は前記カソード及び前記アノードにそれぞれ接続され、前記カソード及び前記アノードは前記メッキ溶液に浸漬される、ステップと、
前記電着装置により電着処理を行なって前記カソードの表面にナノ双晶Cu-Ni合金層を成長させるステップと、を備え、
前記ナノ双晶Cu-Ni合金層の体積の50%超が複数の双晶粒からなり、該複数の双晶粒は複数の柱状双晶粒を含み、前記ナノ双晶Cu-Ni合金層におけるNi含有率が0.05at%~20at%の範囲にあり、
前記メッキ溶液はCu塩、酸及びNi塩を含む、方法。
【請求項14】
前記カソードの表面に前記ナノ双晶Cu-Ni合金層を成長させた後に、前記ナノ双晶Cu-Ni合金層をアニーリングするステップをさらに備える請求項13に記載の方法。
【請求項15】
前記ナノ双晶Cu-Ni合金層をアニーリングする温度が50℃~250℃の範囲にある、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記電着処理は直流電着である、請求項13に記載の方法。
【請求項17】
前記電着処理はパルス電着である、請求項13に記載の方法。
【請求項18】
前記複数の双晶粒は前記複数の柱状双晶粒に積層された複数の微細粒をさらに含み、該複数の微細粒のナノ双晶が優先方位なしに積層される、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記複数の双晶粒は、前記複数の柱状双晶粒に積層された複数の斜交双晶粒をさらに含む、請求項17に記載の方法。
【請求項20】
前記複数の斜交双晶粒は[111]結晶軸の±15度以内の方向に沿って複数のナノ双晶を積層することによって形成され、該複数のナノ双晶の少なくとも一部の積層方向と前記ナノ双晶Cu-Ni合金層の厚さ方向との間の夾角が10度~60度の範囲となる、請求項19に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は2022年1月10日に出願された台湾特許出願第111100892号の利益を主張し、その主題が参照によりここに取り込まれる。
【0002】
本開示は、ナノ双晶(nano-twinned)Cu-Ni合金層及びそれを製造する方法に関する。より具体的には、本開示は、高い硬度のナノ双晶Cu-Ni合金層及びそれを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0003】
従来、銅の機械的特性は、圧延又はTi、Ni若しくはZnなどの他の金属によるドーピングによって増強され得るが、従来の方法は未だにその不利な点を有する。
【0004】
銅粒を含む銅膜が圧延によって増強される場合、純銅粒は変形し得る。銅膜の機械的特性が圧延によって増強可能であっても、その抵抗が増加することもあり、その熱伝導率が低下することもある。さらに、他の金属によりドーピングされた銅膜は、銅膜の抵抗を増加させ得る。さらに、双晶銅膜の強度は、高い強度を有する。双晶銅膜の強度が細粒化によって増強される場合、得られた双晶銅膜は熱安定性が乏しいという問題を有し得る。
【0005】
したがって、新規の双晶銅膜を提供することが望ましく、その強度は増加可能するとともにその特性は維持可能であり、それによりこの双晶銅層が種々の電子部品に適用され得る。
【発明の概要】
【0006】
本開示の目的は、双晶銅の伝導特性(高い伝導率及び低い抵抗)を保持しつつ、優れた硬度を有するナノ双晶Cu-Ni合金層を提供することである。
【0007】
本開示のナノ双晶Cu-Ni合金層において、ナノ双晶Cu-Ni合金層の体積の50%超が複数の双晶粒(plural twinned grains)からなり、複数の双晶粒が複数の柱状双晶粒(plural columnar twinned grains)を含み、ナノ双晶Cu-Ni合金層におけるNi含有率が0.05at%~20at%の範囲にある。ここで、双晶粒の体積百分率は、ナノ双晶Cu-Ni合金層の任意の部分で観察又は測定され得る。さらに、元素含有率は、例えば、化学分析によって、又は電界放出型電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)によって得られ得る。
【0008】
さらに、本開示は、前述のナノ双晶Cu-Ni合金層を備える基板をさらに提供し、それは、基板と、基板に配置又は埋め込まれる前述のナノ双晶Cu-Ni合金層と、を備える。
【0009】
さらに、本開示は、前述のナノ双晶Cu-Ni合金層を製造する方法をさらに提供し、それは、以下の、アノード、カソード、メッキ溶液及び電源を備える電着装置を提供するステップであって、電源がカソード及びアノードにそれぞれ接続され、カソード及びアノードがメッキ溶液に浸漬される、ステップと、電着装置により電着処理を行なってカソードの表面に前述のナノ双晶Cu-Ni合金層を成長させるステップであって、メッキ溶液はCu塩、酸及びNi塩を含み得る、ステップと、を備える。
【0010】
本開示の方法において、ナノ双晶Cu-Ni合金層は、適量のNi塩をメッキ溶液に添加することによって、簡潔な共電解メッキ処理を通じて形成され得る。Niを含まないナノ双晶Cu層と比較して、本開示によって調製されたナノ双晶Cu-Ni合金層は、Niを含まないナノ双晶Cu層の双晶構造を保持するだけでなく、有意に向上した硬度も有する。したがって、本開示によって提供されるナノ双晶Cu-Ni合金層は、Niを含まないナノ双晶Cu層の高い電気伝導率及び高い熱伝導率を保持するだけでなく、高い強度も有する。したがって、本開示のナノ双晶Cu-Ni合金層は、種々の電子装置に適用され得る。
【0011】
本開示では、ナノ双晶Cu-Ni合金層の体積の50%超が、複数の双晶粒からなり得る。本開示の一実施形態では、例えば、ナノ双晶Cu-Ni合金層の体積の50%~99%、50%~95%、50%~90%、55%~90%、60%~90%又は65%~95%が複数の双晶粒からなり得るが、本開示はこれに限定されない。
【0012】
本開示では、メッキ溶液は、Cu塩だけでなくNi塩も含む。したがって、ナノ双晶Cu-Ni合金層は、共電解メッキ処理によって形成され得る。メッキ溶液におけるNi塩の濃度を調節することによって、特定のNi含有率を有するナノ双晶Cu-Ni合金層が、共電解メッキ処理によって形成され得る。
【0013】
本開示では、ナノ双晶Cu-Ni合金層におけるNi含有率は、残りをCuとして、0.05at%~20at%の範囲にあり得る。ただし、本開示は、他の微量不純物金属元素が含まれ得る可能性を排除するものではない。ナノ双晶Cu-Ni合金層が特定量のNi元素を含む場合、得られるナノ双晶Cu-Ni合金層は向上した硬度を有する。本開示の一実施形態では、Ni含有率は、例えば、0.1at%~20at%、0.1at%~15at%、0.1at%~10at%、0.1at%~5at%、0.1at%~3at%又は0.1at%~1at%の範囲にあり得るが、本開示はこれに限定されない。
【0014】
本開示では、ナノ双晶Cu-Ni合金層における複数の双晶粒は、[111]結晶軸の±15度以内の方向に沿って複数のナノ双晶を積層することによって形成され得る。
【0015】
本開示の一実施形態では、双晶粒は複数の柱状双晶粒を含んでいてもよく、柱状双晶粒は[111]結晶軸の±15度以内の方向に沿って複数のナノ双晶を積層することによって形成され、ナノ双晶の少なくとも一部の積層方向とナノ双晶Cu-Ni合金層の厚さ方向との間の夾角が0度~20度の範囲となる。柱状双晶粒がナノ双晶Cu-Ni合金層の表面に対して成長する場合、ナノ双晶Cu-Ni合金層の表面積の50%以上がナノ双晶の(111)表面を露出させ得る。したがって、本開示のナノ双晶Cu-Ni合金層の表面は、(111)優先方位(preferred direction)を有し得る。本開示の一実施形態では、ナノ双晶Cu-Ni合金層の表面に露出されたナノ双晶の(111)表面は、例えば、ナノ双晶Cu-Ni合金層の全表面積の50%~99%、55%~99%、60%~99%、65%~99%、70%~99%、75%~99%、75%~95%又は75%~90%となり得るが、本開示はこれに限定されない。本開示の一実施形態では、ナノ双晶Cu-Ni合金層の表面に露出されたナノ双晶の(111)表面は、ナノ双晶Cu-Ni合金層の全表面積の約95%~99%となり得るが、本開示はこれに限定されない。ここで、ナノ双晶Cu-Ni合金層の表面の優先方位は、電子線後方散乱回折(EBSD)によって測定可能である。
【0016】
本開示の一実施形態では、ナノ双晶Cu-Ni合金層の双晶粒が厚さと直径の有意な比を有する場合、例えば、厚さが直径よりも有意に大きい場合、双晶粒は柱状双晶粒となる。
【0017】
本開示の他の実施形態では、ナノ双晶Cu-Ni合金層は、[111]結晶軸の±15度以内の方向に沿って複数のナノ双晶を積層することによって形成された前述の柱状双晶粒を含むだけでなく、柱状双晶粒に積層された複数の微細粒もさらに含んでいてもよく、微細粒のナノ双晶は優先方位なしに積層される。ここで、微細粒のナノ双晶の積層方向(すなわち、双晶方位)は特に限定されず、ナノ双晶Cu-Ni合金層の表面に露出されたナノ双晶は優先方位を有さないこともある。換言すると、ナノ双晶Cu-Ni合金層の表面は、優先方位を有さない。ここで、微細粒は厚さと直径の有意な比を有さないこともあり、微細粒の直径及び厚さもより小さい。例えば、微細粒の厚さ又は直径は、100nm~500nmの範囲にあり得る。
【0018】
本開示のさらなる他の実施形態では、ナノ双晶Cu-Ni合金層は、[111]結晶軸の±15度以内の方向に沿って複数のナノ双晶を積層することによって形成された前述の柱状双晶粒を含むだけでなく、複数の柱状双晶粒に積層された複数の斜交双晶粒(plural oblique twinned grains)もさらに含み得る。ここで、斜交双晶粒は、[111]結晶軸の±15度以内の方向に沿って複数のナノ双晶を積層することによって形成されてもよく、斜交双晶粒のナノ双晶の少なくとも一部の積層方向とナノ双晶Cu-Ni合金層の厚さ方向との間の夾角が10度~60度の範囲となり得る。斜交双晶粒がナノ双晶Cu-Ni合金層の厚さ方向と前述の角度で交差する双晶粒となるため、ナノ双晶Cu-Ni合金層の表面に露出されたナノ双晶は、優先方位を有さないこともある。換言すると、ナノ双晶Cu-Ni合金層の表面は、優先方位を有さない。
【0019】
本開示では、それが前述の柱状双晶粒、微細粒又は斜方双晶粒のいずれであっても、双晶粒の少なくとも一部が相互に接続され得る。例えば、双晶粒の50%、60%、70%、80%、90%又は95%超が、相互に接続され得る。
【0020】
本開示では、ナノ双晶Cu-Ni合金層の厚さは、必要に応じて調節され得る。本開示の一実施形態では、ナノ双晶Cu-Ni合金層の厚さは、例えば、0.1μm~500μm、0.1μm~400μm、0.1μm~300μm、0.1μm~200μm、0.1μm~100μm、0.1μm~80μm、0.1μm~50μm、1μm~50μm、2μm~50μm、3μm~50μm、4μm~50μm、5μm~50μm、5μm~40μm、5μm~35μm、5μm~30μm又は5μm~25μmの範囲にあり得るが、本開示はこれに限定されない。
【0021】
本開示では、柱状双晶粒又は斜交双晶粒の直径は、それぞれ0.1μm~50μmの範囲にあり得る。本開示の一実施形態では、柱状双晶粒又は斜交双晶粒の直径は、それぞれ、例えば、0.1μm~45μm、0.1μm~40μm、0.1μm~35μm、0.5μm~35μm、0.5μm~30μm、1μm~30μm、1μm~25μm、1μm~20μm、1μm~15μm又は1μm~10μmの範囲にあり得るが、本開示はこれに限定されない。本開示では、柱状双晶粒又は斜交双晶粒の直径は、双晶粒の双晶方位に対して略垂直な方向で測定される双晶粒の長さとなり得る。より具体的には、柱状双晶粒又は斜交双晶粒の直径は、双晶又は双晶粒界の積層方向に対して略垂直な方向(すなわち、双晶粒界の延長方向)で測定される双晶粒の長さ(例えば、最大長)となり得る。
【0022】
本開示では、柱状双晶粒又は斜交双晶粒の厚さは、それぞれ、0.1μm~500μmの範囲にあり得る。本開示の一実施形態では、柱状双晶粒又は斜交双晶粒の厚さは、それぞれ、例えば、0.1μm~500μm、0.1μm~400μm、0.1μm~300μm、0.1μm~200μm、0.1μm~100μm、0.1μm~80μm、0.1μm~50μm、1μm~50μm、2μm~50μm、3μm~50μm、4μm~50μm、5μm~50μm、5μm~40μm、5μm~35μm、5μm~30μm又は5μm~25μmの範囲にあり得る。本開示では、柱状双晶粒又は斜交双晶粒の厚さは、双晶粒の双晶方位で測定される双晶粒の厚さとなり得る。より具体的には、柱状双晶粒又は斜交双晶粒の厚さは、双晶又は双晶粒界の積層方向で測定される双晶粒の厚さ(例えば、最大厚)となり得る。
【0023】
本開示では、「双晶粒の双晶方位」は、双晶、又は双晶粒における双晶粒界の積層方向をいう。ここで、双晶粒の双晶粒界は、双晶又は双晶粒界の積層方向に対して略垂直となり得る。
【0024】
本開示では、双晶粒の双晶方位とナノ双晶Cu-Ni合金層の厚さ方向との間の夾角は、ナノ双晶Cu-Ni合金層の断面において測定され得る。同様に、ナノ双晶Cu-Ni合金層の厚さ及び双晶粒の直径又は厚さなどの特徴も、双晶銅層の断面において測定され得る。あるいは、双晶粒の直径又は厚さも、双晶銅層の表面により測定され得る。本開示では、測定方法は特に限定されず、走査型電子顕微鏡(SEM)、透過型電子顕微鏡(TEM)、集束イオンビーム(FIB)又は他の適切な測定形態で行なわれ得る。
【0025】
本開示では、本開示のナノ双晶Cu-Ni合金層は、共電解メッキ処理によって形成され得る。ここで、カソードは基板として用いられてもよく、形成されたナノ双晶Cu-Ni合金層は基板に配置又は埋め込まれ得る。カソードは、そこに形成された金属層を有する基板又は金属基板となり得る。基板は、シリコン基板、ガラス基板、石英基板、金属基板、プラスチック基板、プリント回路基板、III-IV族基板又はそれらの積層基板となり得る。さらに、基板は、単層又は多層構造を有し得る。
【0026】
本開示では、メッキ溶液は、Cu塩、酸及びNi塩を含み得る。メッキ溶液に含まれるCu塩の例は、限定されることなく、硫酸銅、メチルスルホン酸銅又はそれらの組合せを含み得る。メッキ溶液に含まれる酸の例は、限定されることなく、塩酸、硫酸、メタンスルホン酸又はそれらの組合せを含み得る。メッキ溶液に含まれるNi塩の例は、限定されることなく、硫酸ニッケル、メチルスルホン酸ニッケル又はそれらの組合せを含み得る。さらに、メッキ溶液は、ゼラチン、界面活性物、格子変性剤又はそれらの組合せなどの添加物をさらに含み得る。
【0027】
本開示では、電着処理は、直流電着、パルス電着又は直流電着及びパルス電着により交換可能に行なわれて、ナノ双晶Cu-Ni合金層を形成し得る。
【0028】
本開示の一実施形態では、ナノ双晶Cu-Ni合金層は、直流電着によって形成される。直流電着において用いられる電流密度は、例えば、0.5ASD~30ASD、1ASD~30ASD、2ASD~30ASD、2ASD~25ASD、2ASD~20ASD、2ASD~15ASD又は2ASD~10ASDの範囲となり得るが、本開示はこれに限定されない。
【0029】
本開示の他の実施形態では、ナノ双晶Cu-Ni合金層は、パルス電着によって形成される。パルス電着の順方向電流密度は、例えば、0.5ASD~30ASD、1ASD~30ASD、2ASD~30ASD、2ASD~25ASD、2ASD~20ASD、2ASD~15ASD又は2ASD~10ASDの範囲となってもよく、パルス電着の逆方向電流密度は、例えば、0.1ASD~10ASD、0.1ASD~8ASD、0.1ASD~5ASD、0.1ASD~3ASD、0.3ASD~3ASD又は0.3ASD~1ASDの範囲となってもよいが、本開示はこれに限定されない。ナノ双晶Cu-Ni合金層がパルス電着によって形成される場合、本開示の一実施形態では、ナノ双晶Cu-Ni合金層の双晶粒は、柱状双晶粒をさらに含み得る。本開示の他の実施形態では、形成されたナノ双晶Cu-Ni合金層の厚さが増加する場合、ナノ双晶Cu-Ni合金層の双晶粒は、柱状双晶粒を含むだけでなく、複数の柱状双晶粒に積層された微細粒、斜交双晶粒又はそれらの組合せも選択的に含み得る。
【0030】
本開示の一実施形態では、ナノ双晶Cu-Ni合金層をカソードの表面に形成した後、ナノ双晶Cu-Ni合金層は、任意選択的にアニーリングされ得る。したがって、ナノ双晶Cu-Ni合金層の硬度は、さらに向上し得る。ここで、アニーリング温度は、50℃~250℃の範囲にあり得る。アニーリング温度がこの範囲を超える場合、ナノ双晶Cu-Ni合金層における双晶構造が喪失又は消失し得る。本開示の一実施形態では、アニーリング温度は、50℃~250℃、75℃~250℃、75℃~200℃、100℃~200℃、100℃~175℃又は100℃~150℃の範囲にあり得るが、本開示はこれに限定されない。さらに、本開示では、アニーリング時間は特に限定されず、例えば、30分~10時間、30分~8時間、30分~5時間又は1時間~5時間の範囲にあり得るが、本開示はこれに限定されない。
【0031】
本開示によって提供されるナノ双晶Cu-Ni合金層の形状は特に限定されず、箔、膜、線又はバルクとなり得るが、本開示はこれに限定されない。さらに、本開示によって提供されるナノ双晶Cu-Ni合金層は、単層又は多層状の構造を有し得る。さらに、本開示によって提供されるナノ双晶Cu-Ni合金層は、他の物質と組み合わされて多層状の複合構造を形成し得る。
【0032】
本開示によって提供されるナノ双晶Cu-Ni合金層は、種々の電子製品、例えば、3次元集積回路(3D-IC)のスルーホール若しくはビア、パッケージング基板のピンスルーホール、金属相互接続、基板回路又はコネクタに適用され得るが、本開示はこれに限定されない。
【0033】
本開示の他の新規の特徴は、添付の図面と併せて解釈される場合に、以下の詳細な説明からより明白となる。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【
図1】
図1は、本開示の比較例1によるナノ双晶Cu試験片のEBSD写真である。
【
図2】
図2は、本開示の実施例1によるナノ双晶Cu-Ni合金試験片のEBSD写真である。
【
図3】
図3は、本開示の実施例1によるナノ双晶Cu-Ni合金試験片のFIB写真である。
【
図4】
図4は、本開示の実施例1及び比較例1による試験片の硬度の、様々な温度での1時間のアニーリング前後の比較図である。
【
図5】
図5は、本開示の実施例1及び比較例1による試験片の硬度の、100℃での1時間及び5時間のアニーリング後の比較図である。
【
図6】
図6は、本開示の実施例1及び比較例1による試験片の硬度の、200℃での1時間及び5時間のアニーリング後の比較図である。
【
図7】
図7は、本開示の比較例2によるナノ双晶Cu試験片のEBSD写真である。
【
図8】
図8は、本開示の実施例2によるナノ双晶Cu-Ni合金試験片のEBSD写真である。
【
図9】
図9は、本開示の実施例2によるナノ双晶Cu-Ni合金試験片のFIB写真である。
【
図10】
図10は、本開示の実施例2及び比較例2による試験片の硬度の、様々な温度での1時間のアニーリング前後の比較図である。
【
図11】
図11は、本開示の実施例2及び比較例2による試験片の硬度の、100℃での1時間及び5時間のアニーリング後の比較図である。
【
図12】
図12は、本開示の実施例2及び比較例2による試験片の硬度の、200℃での1時間及び5時間のアニーリング後の比較図である。
【発明を実施するための形態】
【0035】
本開示の様々な実施形態が、以下の説明において提供される。これらの実施形態は本開示の技術的な内容を説明するためのものであり、本開示の範囲を限定するものではない。実施形態において説明される特徴は、適切な変更、置換、組合せ又は分離によって他の実施形態に適用され得る。
【0036】
なお、本明細書において、部品/成分(component)が要素/元素(element)を有すると説明される場合、それは、部品/成分が要素/元素の1以上を有し得ることを意味し、特に断りのない限り、部品/成分が要素/元素の1つしか有さないことを意味しない。
【0037】
本明細書において、特に断りのない限り、特徴A「又は」又は「及び/又は」特徴Bとは、特徴Aの存在、特徴Bの存在又は特徴A及びBの双方の存在を意味する。特徴A「及び」特徴Bとは、特徴A及びBの双方の存在を意味する。用語「備える」、「備えている」、「含む」、「含んでいる」、「有する(have)」、「有する(has)」及び「有している」とは、「備える/備えているが、それに限定されない」を意味する。
【0038】
さらに、本明細書において、要素/元素が他の要素/元素「に(on)」配置されると説明される場合、特に断りのない限り、それは、本質的には、要素/元素が他方の要素/元素に接触することを意味しない。そのような解釈は、「に(on)」の場合と同様の他の場合にも適用される。
【0039】
さらに、本明細書において、値は、特に断りがない限り、その値の±10%以内の範囲、特に、その値の±5%以内の範囲を包含すると解釈されてもよく、範囲は、特に断りがない限り、小さい方のエンドポイント、小さい方の四分位数、中央値、大きい方の四分位数及び大きい方のエンドポイントによって定義される複数の部分範囲で構成されると解釈されてもよい。
【0040】
実施例1-ナノ双晶Cu-Ni合金試験片
本実施例において、100nmのTi/200nmのCuでコーティングされた12インチのシリコンウェハを、カソードとして2cm×3cmの試験片に分割した。試験片をクエン酸で洗浄して酸化物を除去し、電着領域を酸アルカリ耐性テープで規定した。全電着領域の面積は2cm×2cmであった。
【0041】
本実施例において用いられるメッキ溶液を、CuSO4・5H2Oによって処方した。CuSO4・5H2O粉末の添加量は、196.54g(50g/LのCuイオン)であった。そして、メッキ溶液に、4.5mlの添加物を添加し、100gのH2SO4(96%)を添加し、0.1mlのHCl(12N)を添加した。CuSO4・5H2Oがメッキ溶液(1L)において十分に混合されるまで、メッキ溶液を撹拌子で撹拌した。得られたメッキ溶液を2槽に分割し、その一方に本実施例のメッキ溶液として10mlのNiSO4(0.1M)を添加し、NiSO4を含んでいない他方を比較例のメッキ溶液として用いた。電解メッキ槽の底部にある撹拌子を、毎分1200rpmで回転させて均一のイオン濃度を維持した。電着を、室温で、1気圧で行なった。メッキ溶液に添加されたHClは、通常、電解メッキ槽における銅ターゲットを(アノードとして)溶解して、メッキ溶液における銅イオン濃度を平衡化し得る。ここで、電源(Keithley2400)をコンピュータによって制御し、電着を直流電着で行なった。電着を6ASD(A/dm2)の電流密度において20分間行なった後、20μmの厚さを有するナノ双晶Cu-Ni合金層が得られた。本開示の他の実施形態では、電着中の電流密度を制御することによって、所望の厚さを有するナノ双晶Cu-Ni合金層が得られ得る。
【0042】
そして、得られた試験片を電解研磨によって研磨し、電解研磨のための溶液は、100mlのH3PO4、1mlの酢酸及び1mlのグリセロールを含んだ。研磨する試験片をアノード上に載置し、電解研磨を1.75Vで10分間行なった。電解研磨後の試験片は、約19μmの厚さを有する。電解研磨処理は、ナノ双晶Cu-Ni合金試験片の表面を平らにするだけでなく、その後の硬度試験結果をより正確なものとし得る。
【0043】
比較例1-ナノ双晶Cu試験片
本比較例のナノ双晶Cu試験片を調製する方法は、実施例1において説明したようにNiSO4を含まないメッキ溶液を本比較例の電着に用いたことを除いて、実施例1のナノ双晶Cu-Ni合金試験片を調製する方法と同様である。
【0044】
実施例1及び比較例1の電解研磨後の試験片の表面優先方位及び微細構造を、電子線後方散乱回折(EBSD)及び集束イオンビーム(FIB)で分析した。
【0045】
図1及び
図2は、それぞれ、本開示の比較例1によるナノ双晶Cu試験片及び実施例1によるナノ双晶Cu-Ni合金試験片のEBSD写真である。
図3は、本開示の実施例1によるナノ双晶Cu-Ni合金試験片のFIB写真である。
【0046】
図1及び
図2に示すように、EBSD測定によって得られた結果は、比較例1のナノ双晶Cu試験片及び実施例1のナノ双晶Cu-Ni合金試験片のほぼ全体積(体積の95%超)が、相互に接続された柱状双晶粒からなり、柱状双晶粒の直径は、約0.5μm~約3μmの範囲にあることを示す。さらに、双晶粒は、[111]結晶軸に沿ってナノ双晶を積層することによって形成され、ナノ双晶の結晶粒界は、カソードの表面に略平行である(すなわち、ナノ双晶の積層方向が、試験片の厚さ方向に略平行である)。したがって、試験片のほぼ全表面(面積の95%以上)がナノ双晶の(111)表面を露出させており、それは、比較例1のナノ双晶Cu試験片及び実施例1のナノ双晶Cu-Ni合金試験片が(111)優先方位を有することを示す。
【0047】
図3に示すように、FIB測定によって得られた結果は、実施例1のナノ双晶Cu-Ni合金試験片における粒子の大部分が高密度の双晶粒を有することを示す。ナノ双晶Cu-Ni合金試験片の体積の95%超は、双晶粒からなる。95%超の双晶粒の双晶方位とナノ双晶Cu-Ni合金試験片の厚さ方向との間の夾角は約0度であり、95%超の双晶粒の双晶方位と基板の表面との間の夾角は約90度であり、それは、双晶粒の双晶粒界が基板の表面に略平行であることを意味する。さらに、ナノ双晶Cu-Ni合金試験片において95%超の双晶粒が、約1μm~約20μmの範囲の厚さを有する。
【0048】
硬度試験
電解研磨後に得られた実施例1及び比較例1の試験片をクエン酸溶液で洗浄し、試験片の表面上の水滴を窒素スプレーガンで除去した。そして、比較例1のナノ双晶Cu試験片及び実施例1のナノ双晶Cu-Ni合金試験片を、それぞれ、炉心管においてアニーリングした。真空環境の圧力は10-3torrであり、アニーリング温度はそれぞれ100℃、150℃及び200℃であり、アニーリング時間は1時間及び5時間とした。アニーリング前後の実施例1及び比較例1の試験片を、ビッカース硬度試験機によって試験した。ビッカース硬度試験機が試験片に菱形の穴を開け、アニーリング前後の試験片の硬度がコンピュータ計算後に得られた。
【0049】
図4は、本開示の実施例1及び比較例1による試験片の硬度の、様々な温度での1時間のアニーリング前後の比較図である。以下の表1は本開示の実施例1及び比較例1の試験片の総合強化度の比較結果を示し、総合強化度の比較対象は、
図4において矩形で示すように、アニーリング前の比較例1の試験片の硬度である。
【表1】
【0050】
図4及び表1に示すように、アニーリング前に、実施例1のナノ双晶Cu-Ni合金試験片の硬度は、比較例1のナノ双晶Cu試験片より大きく、この結果は、適量のニッケルを添加することによってナノ双晶Cu試験片の硬度が増加し得ることを示す。さらに、100℃での1時間のアニーリング後の実施例1のナノ双晶Cu-Ni合金試験片は、191HVの硬度を有する。アニーリング前の比較例1のナノ双晶Cu試験片と比較して、実施例1のナノ双晶Cu-Ni合金試験片の硬度は、30.28%増加し得る。この結果は、実施例1のナノ双晶Cu-Ni合金試験片の硬度が、低温でのアニーリングによってさらに向上し得ることを示す。
【0051】
図5及び
図6は、それぞれ、本開示の実施例1及び比較例1による試験片の硬度の、100℃及び200℃での1時間及び5時間のアニーリング後の比較図である。結果は、実施例1のナノ双晶Cu-Ni合金試験片の硬度が長時間のアニーリング後でも有意には低下しないことを示し、実施例1のナノ双晶Cu-Ni合金試験片が良好な熱安定性を有することを示す。
【0052】
実施例2-ナノ双晶Cu-Ni合金試験片
本実施例のナノ双晶Cu-Ni合金試験片を調製する方法は、本実施例において用いられる電着処理がパルス電着であることを除いて、実施例1のナノ双晶Cu-Ni合金試験片を調製する方法と同様である。順方向電流密度は8ASDであり、逆方向電流密度は0.7ASDであり、メッキ時間は約24分であり、得られた試験片の厚さは約23μmであった。試験片を、実施例1で説明したように電解研磨によって研磨した後、電解研磨後の試験片は約22μmの厚さを有する。
【0053】
比較例2-ナノ双晶Cu試験片
本比較例のナノ双晶Cu試験片を調製する方法は、本比較例の電着においてNiSO4を含まないメッキ溶液が用いられたことを除いて、実施例2のナノ双晶Cu-Ni合金試験片を調製する方法と同様である。
【0054】
実施例2及び比較例2の電解研磨後の試験片の表面優先方位及び微細構造を、EBSD及びFIBで分析した。
【0055】
図7及び
図8は、それぞれ、本開示の比較例2によるナノ双晶Cu試験片及び実施例2によるナノ双晶Cu-Ni合金試験片のEBSD写真である。
図9は、本開示の実施例2によるナノ双晶Cu-Ni合金試験片のFIB写真である。
【0056】
図9に示すように、基板の表面から約5μmの範囲内で、実施例2のナノ双晶Cu-Ni合金試験片の双晶粒は、柱状双晶粒を含む。基板の表面から約5μmの範囲外では、実施例2のナノ双晶Cu-Ni合金試験片の双晶粒は、複数の柱状双晶粒に積層された斜交双晶粒及び微細粒をさらに含む。斜交双晶粒のナノ双晶の積層方向と試験片の厚さ方向との間の夾角は、10度~60度の範囲となる。微細粒のナノ双晶の積層方向は、優先方位を有さない。この結果は、
図7及び
図8のEBSD写真に示す試験片が優先方位を有さない理由を実証する。
【0057】
電解研磨後に得られた実施例2及び比較例2の試験片の硬度を、上記と同じ方法によって試験した。
図10は、本開示の実施例2及び比較例2による試験片の硬度の、様々な温度での1時間のアニーリング前後の比較図である。以下の表2は本開示の実施例2及び比較例2の試験片の総合強化度の比較結果を示し、総合強化度の比較対象は、
図10において矩形で示すように、アニーリング前の比較例2の試験片の硬度である。
【表2】
【0058】
図10及び表2に示すように、アニーリング前に、実施例2のナノ双晶Cu-Ni合金試験片の硬度は、比較例2のナノ双晶Cu試験片より大きく、この結果は、適量のニッケルを添加することによってナノ双晶Cu試験片の硬度が増加し得ることを示す。さらに、100℃での1時間のアニーリング後の実施例2のナノ双晶Cu-Ni合金試験片は、234.2HVの硬度を有する。アニーリング前の比較例2のナノ双晶Cu試験片と比較して、実施例2のナノ双晶Cu-Ni合金試験片の硬度は、39.57%増加し得る。この結果は、実施例2のナノ双晶Cu-Ni合金試験片の硬度が、低温でのアニーリングによってさらに向上し得ることを示す。
【0059】
図11及び
図12は、それぞれ、本開示の実施例2及び比較例2による試験片の硬度の、100℃及び200℃での1時間及び5時間のアニーリング後の比較図である。結果は、実施例2のナノ双晶Cu-Ni合金試験片の硬度が長時間のアニーリング後でも有意には低下しないことを示し、実施例2のナノ双晶Cu-Ni合金試験片が良好な熱安定性を有することを示す。
【0060】
抵抗率試験
電解研磨後に得られた実施例2及び比較例2の試験片の抵抗率を試験した。ここで、4点測定後、試験片の抵抗率は、以下の式(I)によって変換される。
ρ=Rs×T=[C.F.×(V/I)]×T...(I)
ここで、ρは試験片の抵抗率(μΩ-cm)であり、Rsはシート抵抗(Ω)であり、Tは試験片の厚さ(cm)であり、C.F.は補正係数であり、Vは電圧プローブを通過するDC電圧であり、Iは電流プローブを通過する固定のDC電流である。
【0061】
結果は、比較例2のニッケルを含まないナノ双晶Cu試験片の抵抗率が約2.18μΩ-cmであり、実施例2のナノ双晶Cu-Ni合金試験片の抵抗率が約2.07μΩ-cm~3.44μΩ-cmであることを示す。この結果は、適量のニッケルを添加することによって、ナノ双晶Cuの硬度が増加し得るだけでなく、ナノ双晶Cuの高い伝導率及び低い抵抗の特徴が維持され得ることを示す。
【0062】
結果として、(実施例1に示すように)格子方位の優先配向を有し、かつ(実施例2に示すように)格子方位のランダム配向を有するナノ双晶Cu-Ni合金は、共電解メッキによって容易に取得可能であり、その後、任意選択的にアニーリング処理が行なわれる。本開示では、強力な<111>優先配向を有するナノ双晶Cu-Ni合金試験片の硬度は、<111>優先配向を有するニッケルを含まないナノ双晶Cu層の硬度よりも有意に大きい。本開示では、高い硬度を有するナノ双晶Cu-Ni合金試験片は(実施例2に示すように)パルス電着によっても取得可能であり、さらなる硬化処理なしに試験片の硬度が増加し得る。
【0063】
優先配向を有するナノ双晶Cuは良好な格子方位を有し、強度自体はCuバルクよりも良好である。ナノ双晶Cuが高い強度をすでに有するため、その強度を増加させることは容易ではない。したがって、本開示では、ナノ双晶Cu-Ni合金試験片の硬度は、短時間、低温、急速アニーリングによってさらに向上し得る。さらに、ニッケルは金属の中でも高強度の金属である。(
図13に示すように)状態図により、本開示のCu-Ni合金は可溶性であり、共析晶物は生成されない。さらに、ナノ双晶Cu-Ni合金試験片に添加されるニッケルの量は多くなく、そのためエレクトロマイグレーション効果の可能性が低減されることもあり、部品の電気的特性は影響を受けず、部品の信頼性が効果的に向上し得る。特に、本開示のナノ双晶Cu-Ni合金試験片において、試験片の抵抗率はニッケルを添加した後に有意には向上せず、試験片は依然として高い伝導率を有する。したがって、本開示のナノ双晶Cu-Ni合金試験片は、高い強度、高い電気伝導率及び高い熱伝導率を有し、種々の電子部品に適用され得る。
【0064】
本開示はその実施形態に関連して説明されてきたが、以下に請求される本開示の趣旨及び範囲から逸脱することなく、多くの他の可能な変更及び変形がなされ得ることが理解されるべきである。