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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】疼痛の除去マット
(51)【国際特許分類】
   A47C 27/00 20060101AFI20240918BHJP
   A47C 27/12 20060101ALI20240918BHJP
   A47C 27/14 20060101ALI20240918BHJP
   A47C 27/08 20060101ALI20240918BHJP
   A61G 7/057 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
A47C27/00 N
A47C27/12 L
A47C27/14 D
A47C27/08 G
A61G7/057
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2023501722
(86)(22)【出願日】2021-02-24
(86)【国際出願番号】 JP2021006882
(87)【国際公開番号】W WO2022180693
(87)【国際公開日】2022-09-01
【審査請求日】2023-09-20
(73)【特許権者】
【識別番号】522055706
【氏名又は名称】加藤 麻子
(74)【代理人】
【識別番号】100187838
【弁理士】
【氏名又は名称】黒住 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100220892
【弁理士】
【氏名又は名称】舘 佳耶
(74)【代理人】
【識別番号】100205589
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 和将
(72)【発明者】
【氏名】加藤 博和
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0000263(US,A1)
【文献】実開昭59-147515(JP,U)
【文献】特開2002-011052(JP,A)
【文献】特開2000-262564(JP,A)
【文献】実開平04-089058(JP,U)
【文献】実公平02-004658(JP,Y2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A47C 27/00
A47C 27/12
A47C 27/14
A47C 27/08
A61G 7/057
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高弾性率の充填材と穴を有した充填材の被覆材から構成され、
略薄板形状で天井面と底面間に貫通部を有した疼痛の除去マットであって、
全体の厚みを40mm以下とするとともに、
充填材として、気泡を含有する又は繊維を圧縮した薄板形状部材を積層し、互いに重なり合う薄板形状部材の間に低摩擦シートを挟み込んだものを用いて、
充填材の25%圧縮応力を、25kPa以上とした
ことを特徴とする疼痛の除去マット
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、会陰部の手術創や痔の患部などが圧迫されることによって生じる疼痛の除去マットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、会陰部の手術創や痔の患部が圧迫されることによって生じる疼痛を防ぐものとして、スポンジを用いたクッション(例えば、特許文献1を参照)、中に空気を入れたゴム製のクッション(例えば、特許文献2を参照)や、ポリマーゲルでできたパッド(例えば、特許文献3を参照)等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-336093号公報
【文献】実開昭61-77020号公報
【文献】特開昭50-141646号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
会陰部の手術を受けた患者が、あおむけ即ち、仰臥位又は坐った姿勢即ち、座位において、仰臥位から座位へ体位を変化するとき、また座位の状態で寝具上を移動するときに、手術創が寝具の圧迫を受けて激痛が発生する。これを防ぐため中央に穴の開いた座布団、即ち円座を身体と寝具の間に挿入することがあるが、スポンジを用いた円座(例えば、特許文献1を参照)や空気を入れたゴム製の円座(例えば、特許文献2を参照)では厚みが大きく、仰臥位にて患者自らが腰と寝具の間に円座を挿入することは困難であった。またポリマーゲルでできた円座(例えば、特許文献3を参照)では密度がほぼ水と同じであることから重く、仰臥位にて患者自らが腰と寝具の間に円座を挿入することは困難であった。さらに、仰臥位において厚みの大きな円座を腰と寝具の間に挿入すると、円座にかかる体圧が座位よりも小さくなり円座の厚みが圧縮されないことから腰が反り返ることになり長時間円座を使用することが困難であった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上述した課題を解決するために、本発明に係る疼痛の除去マットは以下の手段を有する。
【0006】
第一の手段は、高弾性率の充填材と穴を有した充填材の被覆材から構成され、略薄板形状で天井面と底面間に貫通部を有することを特徴とする。
【0007】
前記第一の解決手段によれば、疼痛の除去マットの厚みを薄くできることから、会陰部の手術を受けた患者が仰臥位において寝具上で腰を少し浮かせることにより疼痛の除去マットを腰の下に挿入することができる。また、挿入された疼痛の除去マットは高い弾性率を有することから、腰の体圧により圧縮されて厚みが著しく薄くなるということはなく、手術創の下に疼痛の除去マットの貫通した穴を配置させることにより、手術創は寝具の圧迫を受けることはなく、激痛の発生を予防することができる。
【0008】
第二の手段は、全体の厚みが、40mm以下とされたことを特徴とする。
【0009】
前記第二の解決手段のように、疼痛の除去マットの厚みを40mm以下とすることで、疼痛の除去マットを腰の下にさらに挿入しやすくなる。
【0010】
第三の手段は、充填材の25%圧縮応力が、25kPa以上とされたことを特徴とする。
【0011】
前記第三の解決手段のように、充填材の25%圧縮応力を25kPa以上とすることで、疼痛の除去マットが腰の体圧を受けてもさらに圧縮されにくくなり、手術創の下に疼痛の除去マットの貫通した穴を配置させることにより、激痛の発生をさらに予防しやすくなる。
【0012】
第四の手段は、充填材として気泡を含有する又は繊維を圧縮した薄板形状部材を用いたことを特徴とする。
【0013】
前記第四の解決手段によれば、疼痛の除去マットを軽くすることができる。このため、会陰部の手術を受けた患者が仰臥位において寝具上で腰を少し浮かせた状態で、片手でもって疼痛の除去マットを挿入することができる。
【0014】
第五の手段は、薄板形状部材を積層したことを特徴とする。
【0015】
前記第五の解決手段によれば、薄板形状部材を積層化することにより高い弾性率を持ちながらも撓みを大きくすることができる。撓みが大きくしなやかであることから、疼痛の除去マットを腰の下に挿入すると、クッション性の優れた寝具の形状変化に追随して疼痛の除去マットの形状が変化することから、患者は圧迫や圧痛を感じにくくなる。疼痛の除去マットそのものはクッション性に乏しいが、寝具の優れたクッション性を利用することにより、あたかも優れたクッション性を有するように機能する。
【0016】
第六の手段は、互いに重なり合う薄板形状部材の間に低摩擦シートを挟み込んだことを特徴とする。
【0017】
前記第六の解決手段によれば、互いに重なり合う薄板形状部材が滑りやすくなることから、高い弾性率を維持しながら、薄板形状部材がさらに撓みやすくしなやかにすることができる。このため、寝具の形状変化に追随して疼痛の除去マットの形状がさらに変化しやすくし、患者が圧迫や圧痛をさらに感じにくくすることができる。
【0018】
第七の手段は、薄板形状部材として底面から天井面方向に向かう切り込みを有した薄板形状部材を用いたことを特徴とする。
【0019】
前記第七の解決手段によれば、切り込みがなされた弾性率の大きな薄板形状部材に荷重をかけた場合、弾性率が大きいにも関わらず大きく撓むことになる。切り込みがなされた弾性率の大きな薄板形状部材を用いた疼痛の除去マットは、前記第五の解決手段と同じ効果をあらわす。
【0020】
第八の手段は、充填材として気泡の連結体である球形部材を用い球形部材の下に支持板を有したことを特徴とする。
【0021】
前記第八の解決手段によれば、高い弾性率の球形材と支持板及び袋状の被覆材により高い弾性率と薄板形状を保持する。支持板を薄くすることにより支持板の撓みを大きくすることができる。このことから、前記第八の解決手段を用いた疼痛の除去マットは、前記第五の解決手段と同じ効果をあらわす。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、疼痛の除去マットは高い弾性率を有する充填材で構成された軽量な略薄板形状であるため、患者の腰と寝具の間に容易に挿入することができ、手術創の位置に疼痛の除去マットの貫通部を配置することにより寝具による手術創の圧迫を防ぐことができる。このことにより、手術創が寝具の圧迫によって発生するところの激痛を未然に防ぐことができる。撓みの大きい疼痛の除去マットを腰と寝具の間に挿入すると、クッション性に優れた寝具の変形にしたがって撓むことになる。クッション性の優れた寝具の表面の変形にしたがって疼痛の除去マットが変形することから、腰に圧痛が誘発されることがない。これらのことから、前記課題を解決できる。
【0023】
さらに、本発明の疼痛の除去マットは、病床の寝具以外にも、和敷布団、椅子、床、ソファーにおいて身体との間に挿入して使用することができる。ゴム製のクッションでは空気の自由な移動による円座の揺動があるが、疼痛の除去マットは高弾性率の充填材でできているため揺動は全くなく、自動車の座席においても安定して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明に係る第一実施形態の疼痛の除去マットの使用を示す図であり、図1(a)は右側面図、図1(b)は図1(a)におけるA-A端面図である。
図2】本発明に係る第一実施形態の疼痛の除去マットの構成を示す図であり、図2(a)は平面図、図2(b)は正面図、図2(c)は図2(a)におけるB-B端面図である。
図3】本発明に係る別の実施形態の疼痛の除去マットを、図2(a)におけるC-C端面に相当する端面で示した端面図であり、図3(a)は、第二実施形態の疼痛の除去マットを、図3(b)は、第三実施形態の疼痛の除去マットを示した図である。
図4】本発明に係る別の実施形態の疼痛の除去マットを、図2(a)におけるC-C端面に相当する端面で示した端面図であり、図4(a)は、第四実施形態の疼痛の除去マットを、図4(b)は、第五実施形態の疼痛の除去マットを示した図である。
図5】本発明に係る別の実施形態の疼痛の除去マットを、図2(a)におけるC-C端面に相当する端面で示した端面図であり、図5(a)は、第六実施形態の疼痛の除去マットを、図5(b)は、第七実施形態の疼痛の除去マットを示した図である。
図6】本発明に係る第八実施形態の疼痛の除去マットを、図2(a)におけるC-C端面に相当する端面で示した端面図である。
図7】本発明に係る第九実施形態の疼痛の除去マットを、図2(a)におけるC-C端面に相当する端面で示した端面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明に係る疼痛の除去マットの好適な実施形態について、図面を用いてより具体的に説明する。
【0026】
以下においては、第一実施形態から第九実施形態までの計9通りの実施形態を例に挙げて本発明に係る疼痛の除去マットを説明する。ただし、本発明に係る疼痛の除去マットの技術的範囲は、これらの実施形態に限定されない。本発明に係る疼痛の除去マットには、発明の趣旨を損なわない範囲で適宜変更を施すことができる。
【0027】
また、以下で説明する各実施形態の疼痛の除去マットの説明では、それぞれの実施形態の疼痛の除去マットで特徴的な構成を中心に説明を行い、他の実施形態の疼痛の除去マットと共通する構成については、説明を割愛している。一の実施形態の疼痛の除去マットで説明した構成は、その構成を他の実施形態の疼痛の除去マットで採用することが不可能でない限り、他の実施形態の疼痛の除去マットにおいても採用することができる。
【0028】
さらに、以下においては、主に、疼痛を除去する用途で使用した場合を例に挙げて、本発明の疼痛の除去マットを説明している。ただし、本発明に係る疼痛の除去マットは、疼痛を除去する効果だけではなく、褥瘡(いわゆる床ずれ)を予防する効果も期待することができ、褥瘡を予防する用途でも用いることができる。
【0029】
図1は本発明に係る第一実施形態の疼痛の除去マット1の使用を示す図であり、図1(a)は右側面図、図1(b)は図1(a)におけるA-A端面図である。図1(a)に示すように、患者10が仰臥位にて使用する場合は、腰10Aを寝具20から少し浮かせ略薄板形状の疼痛の除去マット1を片手で把握し腰10Aの下に挿入する。疼痛の除去マット1の弾性率が大きいことから、疼痛の除去マット1の厚みは体圧に対して押しつぶされることはない。また疼痛の除去マット1は撓みが大きくしなやかであるので、体圧を分散するように寝具20に沿って変形し、寝具20の形状と同じ形状になる。図1(b)に示すように、本発明に係る疼痛の除去マット1には貫通部(被覆材の穴)7があり、手術創10Bと寝具20の間に空間を作り出し手術創10Bが寝具20に圧迫されないようになっている。
【0030】
図2は、本発明に係る第一実施形態の疼痛の除去マット1の構造を示す図であり、図2(a)は平面図、図2(b)は正面図、図2(c)は図2(a)におけるB-B端面図である。図2(a)及び図2(b)に示すように、第一実施形態の疼痛の除去マット1においては、その外形が略矩形の薄型形状となっており、後述する充填材2を包む被覆材4で覆われ、貫通部(被覆材の穴)7がある。外形の幅W(図2(a))は、座位において腰10A(図1を参照。以下、「腰10A」について同じ。)が寝具20(図1を参照。以下、「寝具20」について同じ。)と接触する幅よりも大きいことが望ましい。ただし、外形の幅Wを大きくしすぎると、疼痛の除去マット1の取り扱いが難しくなる。このことから、外形の幅Wは、好ましくは、280~800mmとされ、より好ましくは、300~600mmとされ、さらに好ましくは、450mm前後(400~500mm)とされる。外形の前後方向の長さL(図2(a))は、座位において腰10Aが寝具20と接触する前後方向の長さよりも大きいことが望ましい。ただし、外形の前後方向の長さLを大きくしすぎると、疼痛の除去マット1の取り扱いが難しくなる。このことから、外形の前後方向の長さLは、好ましくは、250~500mmとされ、より好ましくは350mm前後(300~400mm)とされる。
【0031】
また、幅Wh(図2(a))と長さLh(図2(a))で示される貫通部(被覆材の穴)7の大きさ(面積)は、大きくしすぎると、手術創10B(図1を参照。以下、「手術創10B」について同じ。)が寝具20と接触しやすくなる。また逆に、貫通部(被覆材の穴)7の大きさ(面積)を小さくしすぎると、手術創10Bが疼痛の除去マット1と接触しやすくなる。このことから、貫通部の幅Whは、好ましくは、50~300mmとされ、より好ましくは150mm前後(100~200mm)とされる。一方、貫通部の長さLhは、好ましくは、50~300mmとされ、より好ましくは、180mm前後(150~200mm)とされる。
【0032】
さらにまた、本発明に係る疼痛の除去マット1の外形の厚みT(図2(b))は、薄くしすぎると、手術創10Bが寝具20と接触しやすくなる。また逆に、疼痛の除去マット1の厚みTを厚くしすぎると、腰10Aと寝具20の間に疼痛の除去マット1を挿入することが困難になる。このことから、疼痛の除去マット1の厚みTは、好ましくは、10~40mmとされ、より好ましくは、30mm前後(25~35mm)とされる。
【0033】
ただし、既に述べたように、本発明に係る疼痛の除去マット1は、褥瘡(床ずれ)を予防する用途でも使用することができる。褥瘡は、腰だけでなく、お尻や頭やくるぶし等、様々な場所に生じる可能性があり、その大きさも様々である。このため、本発明に係る疼痛の除去マット1を、褥瘡を予防する用途で使用する場合には、その外形の寸法(特に、外形の前後方向の長さLや、貫通部の幅Whや、厚みT)は、上記の範囲(疼痛を除去する用途で使用する場合の範囲)よりも広くなる。具体的には、本発明に係る疼痛の除去マットを、褥瘡を予防する用途で用いる場合には、外形の前後方向の長さLを、100~500mmの範囲で設定することができ、貫通部の幅Whを、30~300mmの範囲で設定することができ、外形の厚みTを、5~40mmの範囲で設定することができる。
【0034】
既に述べたように、図2(c)は、図2(a)のB-B端面図であるところ、この図2(c)に示すように、第一実施形態の疼痛の除去マット1は、高弾性率の充填材2を袋状の被覆材4が覆った構造になっている。高弾性率の充填材2の辺縁部3は面取りがなされている。被覆材4と高弾性率の充填材2には、天井面5と底面6の間に、上記の貫通部(被覆材の穴)7が設けられている。
【0035】
図3は、本発明に係る別の実施形態の疼痛の除去マット1を、図2(a)におけるC-C端面に相当する端面で示した端面図である。図3(a)は、第二実施形態の疼痛の除去マット1を、図3(b)は、第三実施形態の疼痛の除去マット1をそれぞれ示している。図3(a)に示す第二実施形態の疼痛の除去マット1は、高弾性率の充填材2として気泡2A1を含有する薄板形状部材2Aを用いたものである。図3(b)に示す第三実施形態の疼痛の除去マット1は、高弾性率の充填材2として繊維2A2を圧縮した薄板形状部材2Aを用いたものである。
【0036】
ところで、充填材2(薄板形状部材2A等)における弾性率の高さは、その25%圧縮応力(薄板形状部材2Aの厚さTuを25%まで圧縮するのに必要な応力)を用いて表わすことができる。すなわち、この25%圧縮応力が大きいと、充填材2(薄板形状部材2A等)を弾性圧縮するために、大きな力を加えなければならないことになる。換言すると、充填材2(薄板形状部材2A等)の25%圧縮応力が大きければ大きいほど、充填材2(薄板形状部材2A等)は高弾性であると言える。このため、第二実施形態及び第三実施形態の疼痛の除去マット1を含め、本発明の疼痛の除去マット1においては、充填材2(薄板形状部材2A等)の25%圧縮応力を、25kPa以上とすることが好ましく、30kPa以上とすることがより好ましく、40kPa以上とすることがさらに好ましい。ただし、充填材2(薄板形状部材2A等)の25%圧縮応力を大きくしすぎると、疼痛の除去マット1が硬い感触となり、使用感が悪くなるおそれがある。このため、充填材2(薄板形状部材2A等)の25%圧縮応力は、通常、300kPa以下とされる。充填材2(薄板形状部材2A等)の25%圧縮応力は、200kPa以下とすることが好ましく、100kPa以下とすることがより好ましい。充填材2(薄板形状部材2A等)の25%圧縮応力は、50kPa前後(40~60kPa)とすると好適である。
【0037】
第二実施形態の疼痛の除去マット1(図3(a))で採用した、気泡2A1を含有する高弾性率の薄板形状部材2A(充填材2)としては、スポンジが例示される。この場合、大きな弾性率をもつ独立気泡スポンジが望ましいが、連続気泡スポンジでもよい。スポンジの形成材料としては、フッ素ゴム等のゴムや、ポリエチレン(PE)やエチレン酢酸ビニル共重合体(EVA)やポリプロピレン(PP)やポリエチレンテレフタレート(PET)等のポリオレフィン系樹脂や、ポリスチレン等が例示される。
【0038】
また、第三実施形態の疼痛の除去マット1(図3(b))で採用した、繊維2A2を圧縮した高弾性率の薄板形状部材2A(充填材2)では、繊維2A2が膨らんでいる方が、薄板形状部材2Aの体積が大きくなって弾性率が小さくなる一方、繊維2A2が圧縮されている方が、薄板形状部材2Aの体積が小さくなって弾性率が大きくなる。この点、繊維2A2を圧縮した高弾性率の薄板形状部材2A(充填材2)として、ポリウレタンの繊維を挙げることができる。
【0039】
高弾性率の充填材2(薄板形状部材2A等)は、疼痛の除去マット1を腰10Aと寝具20の間に片手でもって挿入できるようにするため、軽量であることが好ましい。このため、高弾性率の充填材2の密度は、好ましくは、200kg/m以下とされ、より好ましくは、30kg/m以下とされる。被覆材4は、疼痛の除去マット1を腰10Aと寝具20の間に容易に挿入できるようにするため、摩擦の小さな素材が望ましく、さらに汗によるムレをふせぐため、吸湿性のある素材が望ましい。このような被覆材4の素材として、織布のシーチングが挙げられる。
【0040】
図4は、本発明に係る別の実施形態の疼痛の除去マット1を、図2(a)におけるC-C端面に相当する端面で示した端面図である。図4(a)は、第四実施形態の疼痛の除去マット1を、図4(b)は、第五実施形態の疼痛の除去マット1をそれぞれ示している。これら第四実施形態の疼痛の除去マット1(図4(a))及び第五実施形態の疼痛の除去マット1(図4(b))は、それぞれ、第二実施形態の疼痛の除去マット1(図3(a))及び第三実施形態の疼痛の除去マット1(図3(b))における、高弾性率の薄板形状部材2Aをさらに薄くして積層化したものである。それぞれの積層化された薄板形状部材2Aには、図4(a)に示す第四実施形態の疼痛の除去マット1では、気泡2A1を含有する高弾性率の充填材2を用い、図4(b)に示す第五実施形態の疼痛の除去マット1では、繊維2A2を圧縮した高弾性率の充填材2を用いている。
【0041】
一般的に、物体の弾性率と撓みは相反し、弾性率が大きいと撓みは小さくなる。図3に示す疼痛の除去マット1のように、薄板形状部材2Aを1枚で構成すると撓みは小さいが、図4に示す疼痛の除去マット1のように、薄板形状部材2Aを薄くし積層化することにより撓みを大きくすることができる。
【0042】
図3に示す疼痛の除去マット1における薄板形状部材2Aの厚みをTuとすると、その厚みをn等分した厚みTu/nの薄板形状部材2Aをn枚積層した場合の撓みは、厚みTuの単層の撓みに比較してn倍大きくなる。例えば、図4に示す疼痛の除去マット1のように、それぞれの薄板形状部材2Aの厚みを、図3に示す疼痛の除去マット1における薄板形状部材2Aの厚みTuの1/3倍であるTu/3とし、3層とした場合には、n=3となり、図4に示す疼痛の除去マット1における薄板形状部材2Aの撓みは、図3に示す疼痛の除去マット1における薄板形状部材2Aの撓みの9倍になる。これは、そのような積層化を行わないのであれば、弾性率を1/9倍に小さくしなければ実現できないことである。積層化することにより、疼痛の除去マット1の弾性率を高く維持しながらも、その疼痛の除去マット1を撓みやすくすることができる。
【0043】
ここでは、例として、nの値を3とした場合について説明したが、nの値は3に限定されない。nの値は、2や、4以上とすることもできる。ただし、nの値を大きすぎる(積層化する薄板形状部材2Aの枚数を大きくしすぎる)と、積層化に手間を要するだけでなく、それぞれの薄板形状部材2Aの厚みTu/nが小さくなり、それぞれの薄板形状部材2Aがへたりやすくなるおそれがある。このため、nの値は、通常、10以下とされ、好ましくは、7以下とされる。
【0044】
図5は、本発明に係る別の実施形態の疼痛の除去マットを、図2(a)におけるC-C端面に相当する端面で示した端面図である。図5(a)は、第六実施形態の疼痛の除去マットを、図5(b)は、第七実施形態の疼痛の除去マットをそれぞれ示す。上述した第四実施形態の疼痛の除去マット1(図4(a))及び第五実施形態の疼痛の除去マット1(図4(b))では、それぞれの薄板形状部材2Aの間に何も介在させることなく積層していた。このため、薄板形状部材2Aの表面の摩擦係数が大きい場合には、複数の薄板形状部材2Aを積層化していても、重なり合う薄板形状部材2Aが互いに滑らず、上記のような大きな撓みが得られないおそれもあった。この点、第六実施形態の疼痛の除去マット1及び第七実施形態の疼痛の除去マット1では、図5(a)及び図5(b)に示すように、互いに重なり合う薄板形状部材2Aの間に低摩擦シート9を挟み込んでいる。このため、積層化されたそれぞれの薄板形状部材2Aが互いに滑りやすくなっており、より大きな撓みが得られやすくなっている。低摩擦シート9としては、ポリエチレンや、ポリテトラフルオロエチレン(テトラフルオロエチレンの重合体で、フッ素原子と炭素原子のみからなるフッ素樹脂(フッ化炭素樹脂))等の樹脂シートを好適に用いることができる。
【0045】
図6は、本発明に係る第八実施形態の疼痛の除去マット1を、図2(a)におけるC-C端面に相当する端面で示した端面図である。第八実施形態の疼痛の除去マット1では、図6に示すように、底面2A3-3から天井面2A3-2方向に向かう複数の切り込み2A3-1を施したものである。切り込み2A3-1を施した薄板形状部材2A3は、厚み方向の圧縮に対しては、薄板形状部材2Aの弾性率がそのまま寄与することになる。しかし、撓みについては、切り込み2A3-1のない部分2A3-4のみが寄与することになる。このことにより、切り込み2A3-1が施された弾性率の大きな薄板形状部材2Aに対して圧縮力をかけた場合、弾性率が大きいにもかかわらず、大きく撓むことになる。高弾性率の充填材2(薄板形状部材2A)を用いることによって、疼痛の除去マット1を薄くすることができることについては、既に述べた通りであるが、その薄板形状部材2Aに切り込み2A3-1を施すことで、より大きな撓みを付与することができる。
【0046】
図6に示す第八実施形態の疼痛の除去マット1は、図3(a)に示す第二実施形態の疼痛の除去マット1における薄板形状部材2Aに切り込み2A3-1を設けた構成に相当するが、この切込2A3-1に係る構成は、図3(b)に示す第三実施形態の疼痛の除去マット1でも採用することができる。すなわち、図3(b)に示すように、繊維2A2を圧縮した薄板形状部材2Aの底面にも切り込みを形成することができる。この場合にも、上で述べたものと同様の効果が奏される。
【0047】
図7は、本発明に係る第九実施形態の疼痛の除去マット1を、図2(a)におけるC-C端面に相当する端面で示した端面図である。第九実施形態の疼痛の除去マット1は、図7に示すように、気泡2A1の連結体である高弾性の球形部材2Bと、薄い支持板8と、そして摩擦の小さな被覆材4とによって構成されている。多数の球形部材2Bは、互いに固着されない状態で、高弾性率の充填材2として貫通部を有する袋状の被覆材4の中に充填されている。球形部材2Bは、高い弾性率を必要とするため、例えば、独立気泡スポンジの小玉等を好適に用いることができる。また、支持板8は、疼痛の除去マット1の形状としなやかさを保つため、薄くて高い弾性率のプラスチックの板等を好適に用いることができる。これらのことから、本例の疼痛の除去マット1は、薄く、軽く、弾性率が高く、しなやかとなる。
【0048】
従来の円座と本発明の疼痛の除去マットの対比について説明する。
【0049】
手術創が寝具から圧迫を受けることよって引き起こされる激痛をさけるため、患者は、腰と寝具との間に円座を挿入し、円座の貫通部の上に手術創を配置する。円座を腰の下に敷いたとき硬さによる圧迫や圧痛を避けるため、従来の円座では、弾性率の小さな素材を用いてクッション性を高めている。しかし、クッション性に優れた円座は、体圧によって大きく圧縮されるため、そのような円座では、厚みを大きくする必要がある。
【0050】
特許文献1及び特許文献2に示されるクッション性の高い円座では、厚みが大きく仰臥位の患者自らが腰の下に挿入することができない。しかし、本発明に係る疼痛の除去マットでは、薄く、軽く、摩擦が小さいことから、仰臥位の患者自らが腰の下に挿入することができる。また、本発明に係る疼痛の除去マットは、弾性率が大きいことから、体圧による厚みの変化は小さく、手術創は寝具によって圧迫されないので、疼痛は誘発されない。挿入された状態の本発明に係る疼痛の除去マットは、撓みやすくてしなやかであることから、クッション性に優れた寝具の変形に沿って変形し、寝具と同じ形状になるため、腰に圧痛を引き起こすことがなく、長時間使用することができる。このように、本発明に係る疼痛の除去マットは、特許文献1及び特許文献2における円座では解決できなかった課題を解決できる。
【0051】
また、仰臥位にて患者自らが腰と寝具の間に本発明に係る疼痛の除去マットを挿入する場合、両手ではなく片方の手で挿入せざるを得ない。この点、高弾性率の充填材の辺縁部を面取りすることにより挿入が容易になる。これに対し、従来の円座の表面がビニールシートで覆われていると、摩擦が大きく挿入することができない。本発明に係る疼痛の除去マットの表面に摩擦の小さな被覆材を用いることにより、挿入がさらに容易になる。しかし、あまり摩擦が小さいと、仰臥位から座位へ体位を変化させる場合、疼痛の除去マットが意に反してずれることが生じる。このようなことから、被覆材は、適度に小さな摩擦をもつことが望ましい。さらに、汗によるムレをふせぐため、吸湿性のある被覆材が望ましい。また、本発明に係る疼痛の除去マットを片手で取り扱いやすくするためには、軽量であることが必要である。
【0052】
本発明に係る疼痛の除去マットは、薄くて軽く摩擦が小さいことから、患者のあらゆる体位状況において使用可能である。例えば、仰臥位から座位などへ体位を変化させるとき、また仰臥位、座位など同じ体位で寝具上を移動する場合において、患者自らが疼痛の除去マットを身体の移動とともに移動させることができるので、手術創が寝具によって圧迫されにくい。また、車椅子に移動する場合においても、本発明に係る疼痛の除去マットを自ら手にもって移動できる。
【0053】
クッション性に優れた弾性率の小さな従来の円座においては、仰臥位において腰の下に円座を挿入すると、円座にかかる体重は、座位に比較して小さくなるため、円座の高さが高くなる。このため、円座によって腰が反り返るという問題が生じる。しかし、本発明に係る疼痛の除去マットでは、大きな弾性率を有することから、体圧が変化しても厚みの変化はほとんどない。座位においては、上半身の体重が疼痛の除去マットにかかるが、疼痛の除去マットの厚みは殆ど変化しない。一方、仰臥位においても、疼痛の除去マットにかかる体重は、腰のみで小さくなるが、疼痛の除去マットの厚みは殆ど変化しない。このことから、仰臥位において腰が反り返るという課題を解決できる。
【0054】
特許文献3で示されたポリマーゲルを用いた従来の円座では、体圧が加えられても圧縮されることはなく、手術創は寝具からの圧迫を受けにくい。しかし、その密度は、水と略等しく重いことから、患者自らが片手で持って腰の下に挿入することができない。これに対し、本発明に係る疼痛の除去マットでは、薄板形状部材(充填材)として、ポリエチレン等の素材を3乃至10倍に発泡させたスポンジを用いれば、密度が水の1/3乃至1/10と非常に小さくなる。このように、本発明に係る疼痛の除去マットは、軽くできることから、特許文献3でみられる課題を解決できる。
【0055】
本発明に係る疼痛の除去マットは、高い弾性率を有する充填材(薄型形状部材)を用いており、軽く摩擦が小さいため、患者の腰と寝具の間に容易に挿入することができ、手術創の位置に疼痛の除去マットの貫通部を配置することにより寝具による圧迫を防ぐことができる。このことにより、手術創が寝具の圧迫によって発生するところの激痛を未然に防ぐことができる。しなやかで撓みの大きい疼痛の除去マットを腰と寝具の間に挿入すると、クッション性に優れた寝具の変形にしたがって撓むことになる。疼痛の除去マットそのものはクッション性に乏しいが、寝具の高いクッション性を利用することにより、あたかも高いクッション性を有するように機能する。クッション性の優れた寝具の変形にしたがって疼痛の除去マットの厚みは変化しないが、その形状が変形することから、腰に圧痛が誘発されることはない。
【0056】
本発明に係る疼痛の除去マットでは、弾性率の大きな薄板形状部材として、スポンジや繊維を圧縮したものが考えられる。どちらの部材も薄板形状にし、それらを積層することによって形成された充填材は、高い弾性率と大きな撓みを兼ね備えることができる。高い弾性率と大きな撓みを充填材に兼ね備える方法として、高い弾性率の薄板形状部材に底面から天井面方向に向かう切り込みを入れる方法がある。また、薄くて撓みの大きな支持板を底面に挿入した袋状の被覆材に高い弾性率をもつ気泡の連結体である球形材を満たす方法がある。これらの素材として、ポリエチレン等の素材を独立気泡状又は連続気泡状に発泡させたスポンジがあるが、気泡緩衝材を部材として用いることができる。
【0057】
一般的に、高い弾性率と大きな撓みをもつ充填材は、次の2つの方法で作製することができる。その1つは、気泡の単層又は複層で構成されたシートを多数積層する方法であり、他の1つは気泡の単層又は複層で構成された短冊状のシートを多数重ね合わせ板状にする方法である。
【0058】
応用として、本発明に係る疼痛の除去マットは、病床の寝具以外にも、和敷布団、椅子、床、ソファーにおいて、身体との間に挿入して使用することができる。さらに、ゴム製のクッションでは、空気の自由な移動による円座の揺動があるが、本発明に係る疼痛の除去マットは、高弾性率の充填材でできているため、揺動は全くなく、自動車の座席においても安定して使用することができる。
【符号の説明】
【0059】
1 疼痛の除去マット
2 充填材
2A 薄板形状部材
2A1 気泡
2A2 繊維
2A3 切り込みを有した薄板形状部材
2A3-1 切り込み
2A3-2 天井面
2A3-3 底面
2A3-4 切り込みのない部分
2B 球形部材
3 辺縁部
4 被覆材
5 天井面
6 底面
7 貫通部(被覆材の穴)
8 支持板
9 低摩擦シート
10 患者(身体)
10A 腰
10B 手術創
20 寝具
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7