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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】チューナブルジョセフソン接合発振器
(51)【国際特許分類】
   H10N 60/10 20230101AFI20240918BHJP
   H10N 60/12 20230101ALI20240918BHJP
   H03B 7/12 20060101ALI20240918BHJP
   H03K 3/38 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
H10N60/10 G
H10N60/12 Z ZAA
H03B7/12
H03K3/38
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2023541270
(86)(22)【出願日】2021-11-02
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-01-19
(86)【国際出願番号】 US2021057775
(87)【国際公開番号】W WO2022154849
(87)【国際公開日】2022-07-21
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】17/147,387
(32)【優先日】2021-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520435267
【氏名又は名称】レイセオン ビービーエヌ テクノロジーズ コープ
【氏名又は名称原語表記】RAYTHEON BBN TECHNOLOGIES CORP.
【住所又は居所原語表記】10 Moulton Street Cambridge Massachusetts 02138 US
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100135079
【弁理士】
【氏名又は名称】宮崎 修
(72)【発明者】
【氏名】フォン,キン チュン
【審査官】岩本 勉
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0274507(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2020/0321508(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0092834(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0288177(US,A1)
【文献】Felix E. SCHMIDT et al.,“A ballistic graphene superconducting microwave circuit”,Nature Communications,2018年10月04日,Vol. 9, No. 1,DOI: 10.1038/s41467-018-06595-2
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H10N 60/10
H10N 60/12
H03B 7/12
H03K 3/38
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の超伝導端子と、
第2の超伝導端子と、
グラフェンシートの一部を有するグラフェンチャネルと、
導電ゲートと、
を有し、
前記第1の超伝導端子、前記第2の超伝導端子、及び前記グラフェンチャネルが共に、発振周波数を持つジョセフソン接合を形成し、
前記導電ゲートは、前記導電ゲートと前記グラフェンチャネルとの間への電圧の印加を受けて前記発振周波数を変更するように構成され、
前記ジョセフソン接合は臨界電流を持ち、前記ジョセフソン接合を通るバイアス電流は、前記臨界電流より大きく、前記臨界電流の1.2倍より小さい、
システム。
【請求項2】
前記第1の超伝導端子と前記第2の超伝導端子との間の間隙が、100nmより大きく1000nmより小さい長さを持つ、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記間隙は、0.5ミクロンより大きく10ミクロンより小さい幅を持つ、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記第1の超伝導端子及び前記第2の超伝導端子に接続され、前記ジョセフソン接合を通る前記バイアス電流を駆動するように構成された第1のバイアス回路、を更に有する請求項1乃至3のいずれかに記載のシステム。
【請求項5】
前記導電ゲートに接続され、前記導電ゲートに電圧を印加するように構成された第2のバイアス回路、を更に有する請求項1乃至のいずれかに記載のシステム。
【請求項6】
前記グラフェンシートの第1表面に直接隣接した六方晶窒化ホウ素の第1の層と、
前記グラフェンシートと、
前記グラフェンシートの第2表面に直接隣接した六方晶窒化ホウ素の第2の層と、
を有するグラフェンサンドイッチ、を更に有する請求項1乃至のいずれかに記載のシステム。
【請求項7】
前記グラフェンサンドイッチ上に直に前記導電ゲートがある、請求項に記載のシステム。
【請求項8】
直に前記グラフェンサンドイッチ上にあるゲート絶縁層を更に有し、該ゲート絶縁層上に直に前記導電ゲートがある、請求項に記載のシステム。
【請求項9】
前記ゲート絶縁層は酸化アルミニウムからなる、請求項に記載のシステム。
【請求項10】
基板を更に有し、該基板上に前記第1の超伝導端子、前記第2の超伝導端子、及び前記グラフェンサンドイッチがある、請求項に記載のシステム。
【請求項11】
前記基板はシリコン基板である、請求項10に記載のシステム。
【請求項12】
前記グラフェンシートはグラフェンの単原子層からなる、請求項1乃至11のいずれかに記載のシステム。
【請求項13】
前記グラフェンシートはグラフェンの2原子層を有する、請求項1乃至11のいずれかに記載のシステム。
【請求項14】
前記第1の超伝導端子及び前記第2の超伝導端子は、窒化ニオブ、窒化ニオブチタン、二セレン化ニオブ、アルミニウム、ニオブ、ニオブチタン、及び鉛からなる群から選択された材料からなる、請求項1乃至13のいずれかに記載のシステム。
【請求項15】
前記グラフェンシートを4K未満の温度に冷却するように構成された冷凍機、を更に有する請求項1乃至14のいずれかに記載のシステム。
【請求項16】
前記冷凍機はパルスチューブ冷凍機である、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
第1の導体と第2の導体とを有するアンテナ、を更に有し、
前記第1の超伝導端子が、前記アンテナの前記第1の導体に接続され、
前記第2の超伝導端子が、前記アンテナの前記第2の導体に接続されている、
請求項1乃至16のいずれかに記載のシステム。
【請求項18】
前記第1の超伝導端子に接続された四分の一波長オープンスタブ、を更に有する請求項1乃至17のいずれかに記載のシステム。
【請求項19】
前記第2の超伝導端子に接続された伝送線路の四分の一波長セクション、を更に有する請求項18に記載のシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に従った実施形態の1つ以上の態様は、発振器に関し、特に、ジョセフソン接合を含んだチューナブル発振器に関する。
【背景技術】
【0002】
マイクロ波及びミリ波発振器は、極低温コンピューティングにおける用途を含め、広範囲の商業用途を有し、極低温コンピューティングにおいて、このような発振器は信号源又はクロックとして使用され得る。
【0003】
従って、マイクロ波又はミリ波発振器に対するニーズが存在する。
【発明の概要】
【0004】
本開示の一実施形態によれば、システムが提供され、当該システムは、第1の超伝導端子と、第2の超伝導端子と、グラフェンシートの一部を含むグラフェンチャネルと、導電ゲートと、を含み、前記第1の超伝導端子、前記第2の超伝導端子、及び前記グラフェンチャネルが共に、発振周波数を持つジョセフソン接合を形成し、前記導電ゲートは、前記導電ゲートと前記グラフェンチャネルとの間への電圧の印加を受けて前記発振周波数を変更するように構成されている。
【0005】
一部の実施形態において、前記第1の超伝導端子と前記第2の超伝導端子との間の間隙が、100nmより大きく1000nmより小さい長さを持つ。
【0006】
一部の実施形態において、前記間隙は、0.5ミクロンより大きく10ミクロンより小さい幅を持つ。
【0007】
一部の実施形態において、当該システムは更に、前記第1の超伝導端子及び前記第2の超伝導端子に接続され、前記ジョセフソン接合を通るバイアス電流を駆動するように構成された第1のバイアス回路、を含む。
【0008】
一部の実施形態において、前記ジョセフソン接合は臨界電流を持ち、前記バイアス電流は、前記臨界電流より大きく、前記臨界電流の1.2倍より小さい。
【0009】
一部の実施形態において、当該システムは更に、前記導電ゲートに接続され、前記導電ゲートに電圧を印加するように構成された第2のバイアス回路、を含む。
【0010】
一部の実施形態において、当該システムは更に、前記グラフェンシートの第1表面に直接隣接した六方晶窒化ホウ素の第1の層と、前記グラフェンシートと、前記グラフェンシートの第2表面に直接隣接した六方晶窒化ホウ素の第2の層と、を含むグラフェンサンドイッチ、を含む。
【0011】
一部の実施形態において、前記グラフェンサンドイッチ上に直に前記導電ゲートがある。
【0012】
一部の実施形態において、当該システムは更に、直に前記グラフェンサンドイッチ上にあるゲート絶縁層を含み、該ゲート絶縁層上に直に前記導電ゲートがある。
【0013】
一部の実施形態において、前記ゲート絶縁層は酸化アルミニウムからなる。
【0014】
一部の実施形態において、当該システムは更に基板を含み、該基板上に前記第1の超伝導端子、前記第2の超伝導端子、及び前記グラフェンサンドイッチがある。
【0015】
一部の実施形態において、前記基板はシリコン基板である。
【0016】
一部の実施形態において、前記グラフェンシートはグラフェンの単原子層からなる。
【0017】
一部の実施形態において、前記グラフェンシートはグラフェンの2原子層を含む。
【0018】
一部の実施形態において、前記第1の超伝導端子及び前記第2の超伝導端子は、窒化ニオブ、窒化ニオブチタン、二セレン化ニオブ、アルミニウム、ニオブ、ニオブチタン、及び鉛からなる群から選択された材料からなる。
【0019】
一部の実施形態において、当該システムは更に、前記グラフェンシートを4K未満の温度に冷却するように構成された冷凍機、を含む。
【0020】
一部の実施形態において、前記冷凍機はパルスチューブ冷凍機である。
【0021】
一部の実施形態において、当該システムは更に、第1の導体と第2の導体とを含むアンテナ、を含み、前記第1の超伝導端子が、前記アンテナの前記第1の導体に接続され、前記第2の超伝導端子が、前記アンテナの前記第2の導体に接続されている。
【0022】
一部の実施形態において、当該システムは更に、前記第1の超伝導端子に接続された四分の一波長オープンスタブ、を含む。
【0023】
一部の実施形態において、当該システムは更に、前記第2の超伝導端子に接続された伝送線路の四分の一波長セクション、を含む。
【図面の簡単な説明】
【0024】
以下を含む添付の図面と併せて、特徴、態様、及び実施形態を説明する。
図1A】本開示の一実施形態に従ったグラフェンベースの超伝導チューナブル発振器の上面図である。
図1B】本開示の一実施形態に従ったグラフェンベースの超伝導チューナブル発振器の側断面図である。
図2】本開示の一実施形態に従ったグラフェンサンドイッチの側断面図である。
図3】本開示の一実施形態に従ったグラフェンベースの超伝導チューナブル発振器を使用する回路の概略図である。
図4A】本開示の一実施形態に従った、対数周期アンテナに結合されたグラフェンベースの超伝導チューナブル発振器の上面図である。
図4B図4Aの中心部分の拡大切り取り図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
添付の図面に関連して以下に記載される詳細な説明は、本開示に従って提供されるジョセフソン接合を含むチューナブル発振器の例示的な実施形態の説明として意図したものであり、本開示の実施形態が構築又は利用され得る最良の形態を表すことは意図したものではない。この説明は、図示される実施形態に関連して本開示の特徴を記載する。しかしながら、理解されるべきことには、同じ又は等価な機能及び構造が、やはり本開示の範囲内に包含されることが意図される異なる実施形態によっても達成され得る。この中の別の箇所で示されるように、似た要素番号は似た要素又は特徴を指し示すことを意図している。
【0026】
図1A及び図1Bは、一部の実施形態に従ったグラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100の概略的な上面図及び側面図である。グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100は、第1の超伝導端子105、第2の超伝導端子110、及び導電ゲート115を有する。ここで使用されるとき、“超伝導端子”は、例えば十分に低い温度、磁場、及び電流密度といった好適条件下で超伝導体として振る舞う材料から構成された、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100の端子である。従って、図1A及び図1Bのグラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100の超伝導端子は、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100が、これらの端子105、110が超伝導となるのに十分な低さの温度にあるかどうかにかかわらず、超伝導端子と称され得る。
【0027】
第1の超伝導端子105及び第2の超伝導端子110は各々、窒化ニオブ、窒化ニオブチタン、二セレン化ニオブ、モリブデンレニウム合金、アルミニウム、ニオブ、ニオブチタン、又は鉛を含め、低温で超伝導になることが当技術分野で知られた幾つもの材料のうちのいずれかからなり得る。
【0028】
一部の実施形態において、グラフェンシートが、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100のグラフェンチャネルを形成する。ここで使用されるとき、“グラフェンチャネル”は、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100の2つの超伝導端子105、110の間に導電経路を形成するグラフェンシート又はその一部である。この要素が“チャネル”として参照され得る(そして、導電ゲート115が“ゲート”として参照され得る)のは、一つには、(更に詳細に後述するように)ある特定の点でグラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100の挙動が電界効果トランジスタの挙動に類似していると言い得るからである。導電経路は、例えば各超伝導端子105、110とグラフェンシートとの間の間隙といった、それを横切って電子がトンネリングによって伝導され得る1つ以上の間隙を含んでいてもよい。グラフェンシートはグラフェンサンドイッチ120の一部であってもよく、その一部の拡大図を図2に示している。グラフェンサンドイッチ120は、例えば六方晶窒化ホウ素の2つの層の間といった、2つの絶縁層210の間にグラフェンシート205を含み得る。グラフェンシート205は、1層、2層、3層、4層、又は10層ほどの多さのグラフェンの原子層で構成され得る。六方晶窒化ホウ素の層210は各々、0.3nmと100nmとの間の厚さとすることができ、六方晶窒化ホウ素の層210はグラフェンシート205の表面を清浄に保つことができ、すなわち、表面汚染がグラフェンシート205の特性を損なうことを防止することができる。
【0029】
六方晶窒化ホウ素層210は各々、グラフェンシート205に面する原子的に平坦な表面を有する単結晶とし得る。六方晶窒化ホウ素層210は各々、サンドイッチが組み立てられる前に、例えば250℃で10分から15分にわたってアニールされ得る。サンドイッチは、先ず、六方晶窒化ホウ素の第1の層210をグラフェンシート205と接触させて、ファンデルワールス力による六方晶窒化ホウ素へのグラフェンシート205の接着をもたらし、次いで、六方晶窒化ホウ素の第1の層210上のグラフェンシート205を六方晶窒化ホウ素の第2の層210と接触させて、グラフェンシート205と六方晶窒化ホウ素の第2の層210との間の界面において再びファンデルワールス力による接着をもたらすことによって形成され得る。そして、サンドイッチのエッジを例えばプラズマエッチングを用いてエッチングすることで、エッチングプロセス後に残る構造において、六方晶窒化ホウ素の2つの層210のエッジとグラフェンシート205のエッジとが一致する(すなわち、整列される)ようにし得る。一部の実施形態において、グラフェンシートは、グラフェンサンドイッチ120の製造中に、及びその後に六方晶窒化ホウ素の保護層210によって、グラフェンシートが100,000cm/V/sを超える電子移動度を持つのに十分な清浄さに保たれる。
【0030】
一部の実施形態において、第1の超伝導端子105及び第2の超伝導端子110は、図示されるようにグラフェンサンドイッチ120のそれぞれのエッジに当接することによって、あるいは、他の実施形態において、グラフェンサンドイッチ120の頂面上まで延在することによって(例えば、グラフェンサンドイッチ120のエッジを跨いで延在するパッチとして、グラフェンサンドイッチ120上に堆積されることによって)、グラフェンシート205のそれぞれの(例えば、反対側の)エッジと接触し、その結果、第1の超伝導端子105及び第2の超伝導端子110のそれぞれの垂直な又は急傾斜した部分が、(i)グラフェンシート205のエッジと接触する、あるいは、(ii)グラフェンシート205と第1の超伝導端子105との間及びグラフェンシート205と第2の超伝導端子110との間のそれぞれの間隙を横切ってトンネリングすることによって、電子がグラフェンシート205と第1の超伝導端子105との間及びグラフェンシート205と第2の超伝導端子110との間で伝導され得るのに十分なようにグラフェンシート205と近接する。
【0031】
再び図1Bを参照するに、一部の実施形態において、導電ゲート115とグラフェンサンドイッチ120との間に、例えば、酸化アルミニウム若しくは酸化ハフニウムの層、又は追加の別個に形成された六方晶窒化ホウ素の層といった、ゲート絶縁層125があってもよい。
【0032】
図1A及び図1Bのグラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100は、一部の実施形態において、基板130上にグラフェンサンドイッチ120を配置し、第1の超伝導端子105及び第2の超伝導端子110を基板130上(及び、それらがグラフェンサンドイッチ120上に重なる場合にグラフェンサンドイッチ120上)に堆積させ、グラフェンサンドイッチ120上にゲート絶縁層125(存在する場合)を堆積させ、そして、ゲート絶縁層125上に(又は、ゲート絶縁層125が存在しない場合には、グラフェンサンドイッチ120上に直接)導電ゲート115を堆積させることによって形成される。
【0033】
外部回路へのコンタクトは、例えば、第1の超伝導端子105に対して、第2の超伝導端子110に対して、及び導電ゲート115に対してワイヤボンドを形成することによって形成され得る。一部の実施形態において、付与ステップは、同様の効果を得るために異なる順序で実行される。
【0034】
一部の実施形態において、単一の基板130上に、複数のグラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100が製造されたり、1つ以上のグラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100と1つ以上の他の素子とが製造されたりし得る。基板130は、シリコン基板130とすることができ、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100の活性素子と基板130との間の相互作用を低減させるために、低い導電率のために選択され得る。基板は、例えば、フローティングゾーンシリコンなどの低いドーピングレベルを持つ高抵抗の結晶シリコンで構成され得る。グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100は極低温で動作され得る。一実施形態において、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100は、例えばパルスチューブ冷凍機又はギフォード・マクマホン(GM)冷却器を使用して、4Kまで冷却される。他の実施形態において、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100を冷却するために、液体ヘリウムによる直接冷却、又は部分真空中の液体ヘリウムによる直接冷却(例えば、4Kより低い温度に達するために1Kポットを使用する)が用いられてもよい。
【0035】
(例えば、0.01Kと5Kとの間の温度での)動作時、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100は、導電ゲート115が第1の超伝導端子105及び第2の超伝導端子110と同じ電位又は実質的に同じ電位にあるときに、ジョセフソン接合135として挙動し、第1の超伝導端子105と第2の超伝導端子110との間を流れる電流がジョセフソン接合の臨界電流未満であるときには、第1の超伝導端子105と第2の超伝導端子110との間に超伝導接続(電圧降下なし)を形成し、電流がジョセフソン接合の臨界電流を超えるときには、第1の超伝導端子105と第2の超伝導端子110との間に通常接続を形成し得る。
【0036】
電流がジョセフソン接合の臨界電流を超えているとき、第1の超伝導端子105と第2の超伝導端子110との間の通常接続は、抵抗(“通常状態抵抗”(Rn)と称され得る)を持ち、対応する電圧降下が第1の超伝導端子105及び第2の超伝導端子110にわたって存在し得る。第1の超伝導端子105及び第2の超伝導端子110にわたるDC電圧降下は、(i)通常状態抵抗と、(ii)第1の超伝導端子105と第2の超伝導端子110との間を流れるDC電流と、の積に等しいとし得る。
【0037】
動作時、第1の超伝導端子105及び第2の超伝導端子110に接続された外部回路に応じて、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100の導電ゲート115に電圧が印加され、第1の超伝導端子105と第2の超伝導端子110との間を流れる電流、又は第1の超伝導端子105及び第2の超伝導端子110にわたるDC電圧、又はこれらの両方に影響を及ぼし得る。
【0038】
導電ゲート115に印加される電圧の変化は、グラフェンシートのバンド構造内の電子に対するフェルミ準位を変えることができ、従って、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100の通常状態抵抗が、導電ゲート115及びグラフェンチャネルにわたる電圧の関数として変化することができる。ここで使用されるとき、“グラフェンチャネルの電位”は、(i)第1の超伝導端子105とグラフェンシート205との間の接合部における第1の超伝導端子105の電位と、(ii)第2の超伝導端子110とグラフェンシート205との間の接合部における第2の超伝導端子110の電位と、の平均であると定義される。ここで使用されるとき、“導電ゲート115及びグラフェンチャネルにわたる電圧”は、導電ゲート115の電位とグラフェンチャネルの電位との間の差であると定義される。
【0039】
ジョセフソン接合の臨界電流は、導電ゲート115の電位とグラフェンチャネルの電位との間の差(すなわち、導電ゲート115の電位からグラフェンチャネルの電位を引いた結果)が減少するにつれて低下し、導電ゲート115の電位とグラフェンチャネルの電位との間の差が約-5Vの値に達するときに略0の値に達し得る。
【0040】
グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100の通常状態抵抗も、導電ゲート115及びグラフェンチャネルにわたる電圧の関数であるとし得る。例えば、通常状態抵抗は、導電ゲート115の電位とグラフェンチャネルの電位との間の差が減少するにつれて増加し、導電ゲート115の電位とグラフェンチャネルの電位との間の差が約-5Vの値に達するときに約650オームのピークに達し得る。
【0041】
一部の実施形態において、超伝導体間の距離L(図1A)(又はジョセフソン接合135の“チャネル長”又は第1の超伝導端子105と第2の超伝導端子110との間の“間隙”の長さ)は約200nmであり(例えば、100nmと1000nmとの間であり)、チャネル幅W(又は第1の超伝導端子105と第2の超伝導端子110との間の間隙の幅)は約1.5ミクロンである(例えば、0.5ミクロンと10ミクロンとの間である)。チャネル幅を増加又は減少させることは、臨界電流がほぼ同じ割合だけ上昇又は低下することをもたらし得るとともに、通常状態導電率(通常状態抵抗の逆数)がほぼ同じ割合だけ上昇又は低下することをもたらし得る。例えば、(チャネル長を不変に維持しながら)チャネル幅を1.5ミクロンから3.0ミクロンに2倍にすることは、導電ゲート115及びグラフェンチャネルにわたる電圧が-5Vであるときに、約325オームの通常状態抵抗をもたらし得るとともに、導電ゲート115及びグラフェンチャネルにわたる電圧が+5Vであるときに、約3.4マイクロアンペアの臨界電流をもたらし得る。
【0042】
ゲート電圧に対する臨界電流の依存性及びゲート電圧に対するチャネル抵抗の依存性はどちらも、導電ゲート115の電位とグラフェンチャネルの電位との間の差が減少するにつれて、(i)第1の超伝導端子105と第2の超伝導端子110との間を流れるDC電流を減少させる(超伝導端子105、110にわたる固定DC電圧に対して)、又は(ii)超伝導端子105、110にわたるDC電圧を増加させる(第1の超伝導端子105と第2の超伝導端子110との間を流れる固定DC電流に対して)傾向があり得る。従って、図1A及び図1Bの構造は、一部の実施形態において、導電ゲート115の電位とグラフェンチャネルの電位との間の差が比較的高い(例えば、0Vより大きい、又は+5Vより大きい)“オン”状態と、導電ゲート115の電位とグラフェンチャネルの電位との間の差が比較的低い(例えば、-5Vより小さい)“オフ”状態と、を有するスイッチとして(例えば、バイナリ論理回路内で)使用され得る。
【0043】
図1A及び図1Bの構造はチューナブル発振器としても動作することができる。図1A及び図1Bの構造を発振器として動作させるために、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100は、ジョセフソン接合が辛うじて通常状態にあるように、ジョセフソン接合135の臨界電流より僅かに大きい(例えば、臨界電流より大きく、臨界電流の1.2倍より小さい)ように調整された実質的に一定の電流でバイアスされ得る。これは、超伝導端子105、110にわたって電圧が現れ始めるまでバイアス電流を徐々に増加させることによって達成され得る。このプロセスを用いて、バイアス電流は、10nAと1mAとの間の値に設定され得る。このバイアス点において、ジョセフソン接合は、
f=(2eVJJ)/(nh)
に等しい発振周波数で振動する電圧を発生することができ、ここで、eは電子電荷であり、nはモードインデックス(これは1に等しいとし得る)であり、hはプランク定数でありVJJは超伝導端子105、110にわたるDC電圧である。上の式から分かることには、発振周波数は、超伝導端子105、110にわたるDC電圧であるVJJに比例する。このため、及び(上述したように)超伝導端子105、110にわたる電圧VJJはゲート電圧に依存し得るため、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100の発振の周波数は、ゲート電圧を調節することによって調整され得る。例えば、-5Vのゲート電圧で、発振周波数は約24GHzとなることができ、0Vのゲート電圧で、発振周波数は約100GHzとなることができる。一部の実施形態において、ゲート電圧は、-50Vから50Vに及ぶ範囲で調節され得る。
【0044】
図3は、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100を含む回路を示している。電流源とし得るものである接合バイアス回路305が、(第1の超伝導端子105(図3には別個に示していない)に接続された)第1のバイアスネットワーク(又は“バイアスティー”)310を通って、ジョセフソン接合135を通って、そして(第2の超伝導端子110(図3には別個に示していない)に接続された)第2のバイアスネットワーク315を通るDCバイアス電流を駆動するように構成される。グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100の導電ゲート115に、ゲートバイアス回路が第3のバイアスネットワーク325を介して接続される。ゲートバイアス回路は、導電ゲート115に印加されるゲート電圧を決定するための処理回路と、アナログゲート電圧を生成するためのデジタルアナログ変換器とを含み得る。一部の実施形態において、ゲートバイアス回路は、周波数基準に接続され得るとともに、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100の位相及び周波数を周波数基準にロックするための位相ロックループ回路を含み得る。バイアスネットワーク310、315、325の各々は、図示のように、1つ以上の直列インダクタ及び1つ以上のシャントキャパシタを含んでもよく、あるいは、無線周波数(RF)信号を遮断(例えば、マイクロ波又はミリ波を遮断)しながらDCを通す機能を果たす他の回路素子(例えば、伝送線路素子を含む)を含んでもよい。ここで使用されるとき、用語“RF”は、100MHzから1,000GHzの範囲内の周波数を含む(例えば、“RF”はマイクロ波及びミリ波を含む)。
【0045】
四分の一波長オープンスタブ(例えば、第1の超伝導端子105に接続された第1端と、オープンの第2端とを持つ伝送線路)とし得る伝送線路のセクションが、第1の超伝導端子105にRF接地を形成する。伝送線路の第2のセクション335が、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100と、回路の出力340に接続され得る負荷(例えば、50オーム負荷)との間のインピーダンス整合素子として使用され得る(例えば、伝送線路の第2のセクション335は、(i)グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100の出力インピーダンスと、(ii)負荷の入力インピーダンスと、の幾何平均である特性インピーダンスを持つ伝送線路の四分の一波長セクションとし得る)。伝送線路の第1のセクション330及び伝送線路の第2のセクション335の一方又は両方をマイクロストリップ伝送線路のセクションとしてもよい。
【0046】
一部の実施形態において、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100の2つの超伝導端子105、110は、差動負荷を駆動するように構成され得る。例えば、図4A及び図4Bに示すように、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100は、対数周期アンテナの2つの導電パッチ410の内側端部に接続される。対数周期アンテナを用いて、グラフェンベースの超伝導チューナブル発振器100によって生成されたマイクロ波又はミリ波信号を、自由空間を伝播する電磁放射に結合することができる。図4Aの中心部分の拡大図である図4Bを参照するに、2つの導電パッチ410は、対数周期アンテナの中心において、例えば図1A及び図1Bのものなどの長方形のグラフェンベース超伝導チューナブル発振器100の2つの反対側の面に沿って延び得る。図4A及び図4Bの実施形態は、バイアスネットワーク310、315、325、接合バイアス回路305、及びゲートバイアス回路320を含む追加の回路(図4A及び図4Bには示さず)を含み得る。図4A及び図4Bの実施形態は、約100GHzから約1,000GHzに及ぶ周波数レンジにおいて電磁放射を放射するのに適し得る。
【0047】
ここで使用されるとき、何かの“部分”は、その物の“少なくとも一部”を意味し、従って、その物の全てではないことを意味することもあれば、その物の全てを意味することもある。従って、物の“部分”は、特別な場合として物全体を含み、すなわち、物全体は物の部分の一例である。ここで使用されるとき、用語“長方形”は、特別な場合として正方形を含み、すなわち、正方形は長方形の一例であり、用語“長方形の”は、形容詞“正方形の”を包含する。ここで使用されるとき、第2の数が第1の数の“Y%以内”であるとき、それは、第2の数が第1の数の少なくとも(1-Y/100)倍であり、第2の数が第1の数の多くて(1+Y/100)倍であることを意味する。ここで使用されるとき、用語“又は”は両立的であり、それ故に、例えば、“A又はB”は、(i)A、(ii)B、並びに(iii)A及びB、のいずれも意味する。
【0048】
用語“処理回路”は、ここでは、データ又はデジタル信号を処理するために使用されるハードウェア、ファームウェア、及びソフトウェアの任意の組み合わせを意味するように使用される。処理回路ハードウェアは、例えば、特定用途向け集積回路(ASIC)、汎用若しくは特殊目的の中央処理ユニット(CPU)、デジタル信号プロセッサ(DSP)、グラフィックス処理ユニット(GPU)、及び例えばフィールドプログラマブルゲートアレイ(FPGA)などのプログラマブル論理デバイスを含み得る。ここで使用されるような処理回路内で、各機能が、その機能を実行するように構成された、すなわち、ハードワイヤードされたハードウェアによって、又は非一時的記憶媒体に格納された命令を実行するように構成された例えばCPUなどのいっそう汎用のハードウェアによって、のいずれかで実行される。処理回路は、単一のプリント回路基板(PCB)上に製作されてもよいし、幾つかの相互接続されたPCBにわたって分散されてもよい。ある処理回路が複数の他の処理回路を含んでいてもよく、例えば、処理回路は、FPGAとCPUとの、PCB上で相互接続された2つの処理回路を含んでもよい。
【0049】
ここで使用されるとき、用語“主成分”は、組成物又は生成物中のいずれの他の単一の成分の量よりも多い量で組成物、ポリマー、又は生成物中に存在する成分を指す。対照的に、用語“主要成分”は、組成物、ポリマー、又は生成物の少なくとも50重量%以上を構成する成分を指す。ここで使用されるとき、ある物質“からなる”又はある物質“で構成される”として記述される構造又は層は、(i)一部の実施形態において、主要成分としてその物質を含有するように、又は(ii)一部の実施形態において、主成分としてその物質を含有するように理解されるべきである。
【0050】
理解されることには、要素又は層が別の要素又は層“上にある”、“に接続される”、“に結合される”、又は“に隣接する”として言及されるとき、それは、他の要素又は層に対して直接、上にあったり、接続されたり、結合されたり、隣接したりしてもよいし、あるいは、1つ以上の介在する要素又は層が存在してもよい。対照的に、要素又は層が別の要素又は層“の直に上にある”、“に直接接続される”、“に直接結合される”、又は“に直接隣接する”として言及されるときには、介在する要素又は層は存在しない。ここで使用されるとき、“概して接続される”は、その存在が回路の挙動を質的に変化させる介在要素を含め、任意の介在要素を含み得る電気経路によって接続されることを意味する。ここで使用されるとき、“接続される”は、(i)“直接接続される”こと、又は(ii)介在要素を有して接続されることを意味し、介在要素は、回路の挙動を質的に変化させないもの(例えば、低い値の抵抗若しくはインダクタ、又は伝送線路の短いセクション)である。
【0051】
ここでは、ジョセフソン接合を含んだチューナブル発振器の限られた実施形態が具体的に説明及び図示されているが、数多くの変更及び変形が当業者に明らかになる。従って、この開示の原理に従って使用されるジョセフソン接合を含んだチューナブル発振器は、以下の請求項の範囲から逸脱することなく、ここで具体的に説明されたもの以外で具現化され得ることが理解されることになる。
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B