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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】バッテリーの異常診断装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/48 20060101AFI20240918BHJP
   H02J 7/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2023549103
(86)(22)【出願日】2022-11-23
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2024-02-20
(86)【国際出願番号】 KR2022018592
(87)【国際公開番号】W WO2023096335
(87)【国際公開日】2023-06-01
【審査請求日】2023-08-15
(31)【優先権主張番号】10-2021-0166209
(32)【優先日】2021-11-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2022-0157731
(32)【優先日】2022-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】弁理士法人RYUKA国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リー、スン-ジョン
(72)【発明者】
【氏名】キム、チェオル-タエク
【審査官】鈴木 智之
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-129529(JP,A)
【文献】特開2017-117519(JP,A)
【文献】国際公開第2011/039882(WO,A1)
【文献】特開2013-196820(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2021/0099003(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/48
H02J 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バッテリーの充電電流または放電電流を測定する電流測定手段と、
前記電流測定手段と動作可能に結合され、前記バッテリーに対して複数回の充放電サイクルを行いながら、リチウムの析出異常を診断する制御手段と、
を含み、
前記制御手段は、k番目(kは2以上の自然数)の充放電サイクルにおいて前記電流測定手段から電流測定値を入力されて充電容量と放電容量を算出し、
前記充電容量と前記放電容量との差分に相当する容量差を決定し、
k-1番目の充放電サイクルの容量差からk番目の充放電サイクルの容量差を差し引いてk番目の容量差変化量を決定し、
累積容量差変化量にk番目の容量差変化量を加算して累積容量差変化量を更新し、
更新された累積容量差変化量が閾値以上である場合、リチウムの析出異常が生じたと診断する、バッテリーの異常診断装置。
【請求項2】
前記制御手段は、k番目の容量差変化量が基準値よりも大きい場合、累積容量差変化量にk番目の容量差変化量を加算して累積容量差変化量を更新する、請求項1に記載のバッテリーの異常診断装置。
【請求項3】
前記制御手段は、k-1番目の容量差変化量とk番目の容量差変化量が両方とも基準値よりも大きい場合、累積容量差変化量にk番目の容量差変化量を加算して累積容量差変化量を更新する、請求項1に記載のバッテリーの異常診断装置。
【請求項4】
前記制御手段は、k番目の容量差変化量が基準値以下であれば、累積容量差変化量に初期値0を割り当てる、請求項1に記載のバッテリーの異常診断装置。
【請求項5】
前記基準値は0である、請求項4に記載のバッテリーの異常診断装置。
【請求項6】
前記制御手段は、各充放電サイクルを行うに当たって、
充電サイクルを同一の充電電圧区間において行い、
放電サイクルを同一の放電電圧区間において行う、請求項1に記載のバッテリーの異常診断装置。
【請求項7】
前記制御手段は、各充放電サイクルを行うに当たって、
充電サイクルを同一の充電電圧区間において行い、
放電サイクルを同一の放電容量の条件下で行う、請求項1に記載のバッテリーの異常診断装置。
【請求項8】
前記制御手段と結合されたディスプレイをさらに含み、
前記制御手段は、前記累積容量差変化量が閾値以上である場合、リチウムの析出異常が生じたと診断し、診断結果を、前記ディスプレイを介して出力する、請求項1に記載のバッテリーの異常診断装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか一項に記載のバッテリーの異常診断装置を含む、システム。
【請求項10】
請求項1から8のいずれか一項に記載のバッテリーの異常診断装置を含む、電気自動車。
【請求項11】
バッテリーに対する複数の充放電サイクルを行ってバッテリーの異常診断を行う方法において、
(a)k番目(kは2以上の自然数)の充放電サイクルにおいて電流測定手段から電流測定値を入力されて充電容量と放電容量を算出するステップと、
(b)前記充電容量と前記放電容量との差分に相当する容量差を決定するステップと、
(c)k-1番目の充放電サイクルの容量差からk番目の充放電サイクルの容量差を差し引いてk番目の容量差変化量を決定するステップと、
(d)累積容量差変化量にk番目の容量差変化量を加算して累積容量差変化量を更新するステップと、
(e)更新された累積容量差変化量が閾値以上である場合、リチウムの析出異常が生じたと診断するステップと、
を含む、バッテリーの異常診断方法。
【請求項12】
前記ステップ(d)において、
k番目の容量差変化量が基準値よりも大きい場合、累積容量差変化量にk番目の容量差変化量を加算して累積容量差変化量を更新する、請求項11に記載のバッテリーの異常診断方法。
【請求項13】
前記ステップ(d)において、
k-1番目の容量差変化量とk番目の容量差変化量が両方とも基準値よりも大きい場合、累積容量差変化量にk番目の容量差変化量を加算して累積容量差変化量を更新する、請求項11に記載のバッテリーの異常診断方法。
【請求項14】
k番目の容量差変化量が基準値以下であれば、累積容量差変化量に初期値0を割り当てるステップをさらに含む、請求項11から13のいずれか一項に記載のバッテリーの異常診断方法。
【請求項15】
前記基準値は0である、請求項14に記載のバッテリーの異常診断方法。
【請求項16】
前記ステップ(a)において各充放電サイクルを行うに当たって、
充電サイクルを同一の充電電圧区間において行い、
放電サイクルを同一の放電電圧区間において行う、請求項11から13のいずれか一項に記載のバッテリーの異常診断方法。
【請求項17】
前記ステップ(a)において各充放電サイクルを行うに当たって、
充電サイクルを同一の充電電圧区間において行い、
放電サイクルを同一の放電容量の条件下で行う、請求項11から13のいずれか一項に記載のバッテリーの異常診断方法。
【請求項18】
前記累積容量差変化量が閾値以上に増加すると、リチウムの析出異常が生じたと診断し、診断結果を、ディスプレイを介して出力するステップをさらに含む、請求項11から13のいずれか一項に記載のバッテリーの異常診断方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はバッテリーの異常診断装置及び方法に関し、充電容量及び放電容量の差を時系列的に分析して電流センサーの誤差にかかわらずバッテリーの異常有無を正確に診断可能な装置及び方法に関する。
【0002】
本出願は、2021年11月26日付け出願の韓国特許出願第10-2021-0166209号及び2022年11月22日付け出願の韓国特許出願第10-2022-0157731号に基づく優先権を主張し、当該出願の明細書及び図面に開示された内容は、すべて本出願に組み込まれる。
【背景技術】
【0003】
電気自動車やエネルギー貯蔵システム(Energy Storage System:ESS)に用いられるバッテリーは、使用中に発火する場合がある。発火の有力な原因の一つは、負極の表面へのリチウムの析出である。
【0004】
正常のバッテリーの場合、充電時に正極から出てきたリチウムイオンが負極内に広がって入り込まなければならない。しかしながら、不良バッテリーの場合、一部のリチウムイオンが負極の表面にリチウム金属の形で析出される。析出されたリチウムは、繰り返し行われる充電過程においてデンドライト(dendrite)の形態に成長し続ける。
【0005】
負極の表面に析出されたリチウムは、隣り合う正極集電板や負極集電板と接触を引き起こして内部短絡を誘発する。内部短絡は、バッテリーの内部の温度を急激に上昇させ、酷い場合には火災事故まで誘発する。
【0006】
したがって、バッテリー製造社は、リチウムの析出有無を診断する技術についての研究開発を盛んに行っている。
【0007】
リチウムの析出を診断する従来の技術の一つは、バッテリーが充電後に休止モードに進入したときに電圧の変化パターンを分析することに基づく。バッテリーが充電された後に休止モードに進入すれば、電極の表面の分極(polarization)が緩和されつつ、電圧が徐々に低くなって平衡状態に達する。ところが、充電サイクルにおいてリチウムの析出が生じると、バッテリーが休止モードに進入したときに、負極の表面に析出されたリチウムが負極の内部に広がりながら微小な充電が行われ続ける。したがって、リチウムの析出が生じたバッテリーの電圧プロファイルは変曲点を含むことになり、変曲点の出現を検出することにより、リチウムの析出を診断することができる。しかしながら、このような診断技術は、充電サイクルにおいて大量のリチウムの析出が起きた場合にしか変曲点の検出を行うことができない。すなわち、リチウムの析出量が多くない場合には、リチウムの析出の診断が決して容易ではない。
【0008】
一方、バッテリーの放電が行われるとき、リチウムは負極から抜け出て再び正極に挿入される反応が起こる。しかしながら、負極の表面に析出されたリチウムは、そのような反応に与ることができないため、リチウムの析出が生じたバッテリーは、放電容量が充電容量よりも小さい。したがって、充電容量と放電容量との差を分析すれば、リチウムの析出有無を診断することができる。しかしながら、電流センサーの誤差により、充電容量と放電容量が実際に真値との誤差を示せば、診断結果を信頼し難い。参考までに、センス抵抗を電流センサーとして用いる場合、センス抵抗の両端に印加された電圧を増幅させ、増幅された電圧をアナログからデジタルへと変換する過程において誤差が生じる。甚だしくは、充電電流と放電電流の大きさが同じであっても、実際に測定される値は電流センサーのオフセットに応じて違いを示すことがある。したがって、充電容量と放電容量との差だけでは、リチウムの析出有無を診断するのに限界がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記の従来の技術の欄において述べられた事情に鑑みて案出されたものであり、充電容量と放電容量との差に基づいてリチウムの析出有無を診断するに当たって、電流センサーの誤差に強靭性(robustness)をもったバッテリーの異常診断装置及び方法を提供するところにその目的がある。
【0010】
また、本発明は、バッテリーの異常診断装置を含むシステムまたは電気自動車を提供するところに他の目的がある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の技術的課題を達成するための本発明によるバッテリーの異常診断装置は、バッテリーの充電電流または放電電流を測定する電流測定手段と、前記電流測定手段と動作可能に結合され、前記バッテリーに対して複数回の充放電サイクルを行いながら、リチウムの析出異常を診断する制御手段と、を含み得る。
【0012】
好ましくは、前記制御手段は、k番目(kは2以上の自然数)の充放電サイクルにおいて前記電流測定手段から電流測定値を入力されて充電容量ChgAh[k]と放電容量DchgAh[k]を算出し、充電容量ChgAh[k]と放電容量DchgAh[k]との差分に相当する容量差dAh[k]を決定し、k-1番目の充放電サイクルの容量差dAh[k-1]からk番目の充放電サイクルの容量差dAh[k]を差し引いてk番目の容量差変化量ΔdAh[k]を決定し、累積容量差変化量にk番目の容量差変化量ΔdAh[k]を加算して累積容量差変化量を更新し、更新された累積容量差変化量が閾値以上であれば、リチウムの析出異常が生じたと診断するように構成され得る。
【0013】
好ましくは、前記制御手段は、k番目の容量差変化量ΔdAh[k]が基準値よりも大きければ、累積容量差変化量にk番目の容量差変化量ΔdAh[k]を加算して累積容量差変化量を更新するように構成され得る。
【0014】
好ましくは、前記制御手段は、k-1番目の容量差変化量ΔdAh[k-1]とk番目の容量差変化量ΔdAh[k]が両方とも基準値よりも大きければ、累積容量差変化量にk番目の容量差変化量ΔdAh[k]を加算して累積容量差変化量を更新するように構成され得る。
【0015】
好ましくは、前記制御手段は、k番目の容量差変化量ΔdAh[k]が基準値以下であれば、累積容量差変化量に初期値0を割り当てるように構成され得る。
【0016】
好ましくは、前記基準値は0であり得る。
【0017】
一側面において、前記制御手段は、各充放電サイクルを行うに当たって、充電サイクルを同一の充電電圧区間において行い、放電サイクルを同一の放電電圧区間において行うように構成され得る。
【0018】
他の側面において、前記制御手段は、各充放電サイクルを行うに当たって、充電サイクルを同一の充電電圧区間において行い、放電サイクルを同一の放電容量の条件下で行うように構成され得る。
【0019】
好ましくは、本発明によるバッテリーの異常診断装置は、前記制御手段と結合されたディスプレイをさらに含み、前記制御手段は、前記累積容量差変化量が閾値以上であれば、リチウムの析出異常が生じたと診断し、診断結果を、前記ディスプレイを介して出力するように構成され得る。
【0020】
上記技術的課題を達成するための本発明によるバッテリーの異常診断方法は、(a)k番目(kは2以上の自然数)の充放電サイクルにおいて電流測定手段から電流測定値を入力されて充電容量ChgAh[k]と放電容量DchgAh[k]を算出するステップと、(b)充電容量ChgAh[k]と放電容量DchgAh[k]との差分に相当する容量差dAh[k]を決定するステップと、(c)k-1番目の充放電サイクルの容量差dAh[k-1]からk番目の充放電サイクルの容量差dAh[k]を差し引いてk番目の容量差変化量ΔdAh[k]を決定するステップと、(d)累積容量差変化量にk番目の容量差変化量ΔdAh[k]を加算して累積容量差変化量を更新するステップと、(e)更新された累積容量差変化量が閾値以上であれば、リチウムの析出異常が生じたと診断するステップと、を含み得る。
【0021】
本発明の技術的課題は、上述したバッテリーの異常診断装置を含むシステムと電気自動車によっても達成することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明の一側面によれば、電流の測定誤差に影響を受けない累積容量差変化量というファクターを用いて、バッテリーの内部のリチウムの析出の可能性を定量化することにより、バッテリーの異常有無を信頼性よく診断することができる。
【0023】
本発明の他の側面によれば、充電電流と放電電流についての測定値が実際値と誤差を有しても、バッテリーの異常有無を信頼性よく診断することができる。
【0024】
本発明のさらに他の側面によれば、充電電流の測定誤差と放電電流の測定誤差とが互いに異なっても、バッテリーの異常有無を信頼性よく診断することができる。
【0025】
本発明のさらに他の側面によれば、各充放電サイクルにおいて算出された容量差変化量が基準値を超える条件が連続して満たされるときにのみ容量差変化量を積算して累積容量差変化量を算出する反面、容量差変化量が基準値を超えない場合が生じると、累積容量差変化量を0に初期化することにより、ノイズの影響を極力抑えることができる。
【0026】
本発明のさらに他の側面によれば、バッテリーの異常診断装置を含む様々なシステムと電気自動車を提供することができる。
【0027】
本明細書に添付される図面は、本発明の望ましい実施形態を例示するものであり、発明の内容とともに本発明の技術的な思想をさらに理解させる役割のためのものであるため、本発明は図面に記載された事項だけに限定されて解釈されるものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の一実施形態によるバッテリーの異常診断装置の概略的な構成を示すブロック図である。
図2】本発明の実施形態に従い、制御手段が充放電サイクルを繰り返し行いながら、リチウムの析出異常を診断する過程を詳しく示す手順図である。
図3】本発明の実施形態に従い、制御手段が充放電サイクルを繰り返し行いながら、リチウムの析出異常を診断する過程を詳しく示す手順図である。
図4】本発明の実施形態に従い、制御手段が充放電サイクルを繰り返し行いながら、リチウムの析出異常を診断する過程を詳しく示す手順図である。
図5】本発明の実施形態に従い、制御手段が充放電サイクルを繰り返し行いながら、リチウムの析出異常を診断する過程を詳しく示す手順図である。
図6】本発明の実施形態によるバッテリーの異常診断方法を適用した実験例において測定されたデータの変化を示すグラフである。
図7】本発明の実施形態によるバッテリーの異常診断方法を適用した他の実験例において測定されたデータの変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、添付図面を参照して本発明の好ましい実施形態を詳細に説明する。これに先立ち、本明細書及び特許請求の範囲に使われた用語や単語は通常的や辞書的な意味に限定して解釈されるものではなく、発明者自らは発明を最善の方法で説明するために用語の概念を適切に定義できるという原則に則して本発明の技術的な思想に応ずる意味及び概念で解釈されるものである。したがって、本明細書に記載された実施形態及び図面に示された構成は、本発明の最も好ましい一実施形態に過ぎず、本発明の技術的な思想のすべてを表すものではないため、本出願の時点においてこれらに代替できる多様な均等物及び変形例があり得ることを理解されたい。
【0030】
図1は、本発明の一実施形態によるバッテリーの異常診断装置10の概略的な構成を示すブロック図である。
【0031】
図1を参照すると、バッテリーの異常診断装置10は、バッテリー11の充放電サイクルを複数回行いながら、バッテリー11のリチウムの析出有無を診断し得る。
【0032】
バッテリーの異常診断装置10は、バッテリー11を診断する専用のデバイスであり得る。バッテリー11が電気自動車に搭載されている場合、バッテリーの異常診断装置10は、電気自動車の整備工場に備え付けられた診断システムに含まれ得る。電気自動車の使用者は、定期的に整備工場に訪れてバッテリー異常診断サービスを提供され得る。このとき、診断システムのバッテリーの異常診断装置10が電気自動車のバッテリー11に接続されてバッテリー11の異常診断を行い得る。好ましくは、異常診断は、バッテリー11の負極の表面に生じたリチウムの析出である。
【0033】
あるいは、代案として、バッテリーの異常診断装置10は、バッテリー11が装着された様々なシステムの制御要素に含まれ得る。一例では、バッテリー11がエネルギー貯蔵システムに含まれているとき、異常診断装置10は、エネルギー貯蔵システムの制御要素(例えば、ESS制御システム)に含まれ得る。他の例では、バッテリー11が電気自動車に含まれているとき、異常診断装置10は、電気自動車の制御要素(例えば、自動車制御システム)に含まれ得る。
【0034】
本発明の実施形態において、充放電サイクルは、充電サイクルと放電サイクルを含む。
【0035】
一例では、充電サイクルは、バッテリー11の温度を一定に保持しながら、予め設定された充電電圧区間の下限から上限までバッテリーを充電して充電を中断することを意味する。放電サイクルは、充電サイクルが完了した後、所定の時間の間にバッテリー11を安定化させていて、バッテリー11の温度を充電サイクルと同一に保持しながら予め設定された放電電圧区間の上限から下限までバッテリーを放電して放電を中断することを意味する。充電電圧区間と放電電圧区間は、同一または異なり得る。しかしながら、複数の充放電サイクルを行うに当たって、充電サイクルの相互間の充電電圧区間は互いに同一であり、放電サイクルの相互間の放電電圧区間もまた同一であることが好ましい。
【0036】
他の例では、充電サイクルは、バッテリー11の温度を一定に保持しながら、予め設定された充電電圧区間の下限から上限までバッテリーを充電して充電を中断することを意味する。放電サイクルは、予め設定された放電電圧区間の上限から放電を開始し、放電電流を積算して電流積算値が予め設定された放電容量に達したときに放電を中断することを意味する。複数の充放電サイクルを行うに当たって、充電サイクルの相互間の充電電圧区間は互いに同一であり、放電サイクルの相互間の放電容量が互いに同一であることが好ましい。
【0037】
バッテリー11は、リチウム二次電池であり得るが、本発明が電池の種類により限定されるものではない。したがって、繰り返して充放電可能な二次電池であれば、いかなるものであっても、バッテリー11に対応可能である。バッテリー11は、少なくとも1つの単位セルを含む。単位セルは、パウチセル、円筒型セルまたは角型セルであり得る。単位セルが複数であるとき、単位セル同士は直列に及び/または並列に接続され得る。
【0038】
本発明の実施形態は、バッテリー11が1つの単位セルまたは並列に接続された複数の単位セルを網羅すると仮定する。しかしながら、本発明が単位セルの数量と単位セルの相互間の電気的な接続関係により限定されるものではない。
【0039】
バッテリー11が直列に接続された複数の単位セルを含むとき、本発明の実施形態は、各単位セルの異常診断を行う上で適用可能であるということは当業者にとって自明である。
【0040】
バッテリー11は、放電サイクルを行うために負荷12と接続され得る。負荷12は、抵抗などの放電素子を含み得る。あるいは、代案として、負荷12は、バッテリー11のエネルギーを消耗するものであって、電気自動車のモーター、電力系統に連携された電気装置または電子装置、またはインバーターやコンバーターなどの電力変換装置であり得る。
【0041】
バッテリー11は、充電サイクルを行うために充電装置13と接続され得る。充電装置13は、バッテリー11の異常診断のための専用の充電装置であり得る。あるいは、代案として、充電装置13は、電気自動車の充電ステーションまたはエネルギー貯蔵システムの電力変換システム(PCS:Power Converting System)であり得る。本発明は、負荷12や充電装置13の種類により何ら限定されるものではない。
【0042】
バッテリーの異常診断装置10は、バッテリー11を介して流れる電流を測定する電流測定手段14を含み得る。電流は、充電電流または放電電流であり得る。電流測定手段14は、バッテリー11を介して流れる電流を一定の時間間隔をおいて測定し、電流測定値を制御手段16に出力する。好ましくは、電流測定手段14は、充電電流及び放電電流が流れる線路に配設され得る。
【0043】
電流測定手段14は、電流測定回路であり得る。電流測定手段14は、電流の大きさに対応する電圧値を出力するホールセンサーやセンス抵抗を含み得る。ホールセンサーから出力された電圧値またはセンス抵抗の両端の電圧値は、オームの法則により電流値に変換可能である。電圧値を電流値に変換することは、制御手段18により処理可能である。このために、制御手段18は、電流測定手段14と結合されたI/Oインタフェースと、I/Oインタフェースを介して入力された電圧信号を増幅させる増幅回路と、増幅回路から出力された電圧信号をデジタル化するアナログ-デジタル変換回路と、を含み得る。
【0044】
電流測定手段14を用いて測定された電流測定値は、実際の値と誤差を有することがある。一例では、電流測定手段14がセンス抵抗であるとき、センス抵抗の両端の電圧を検出する増幅回路は、センス抵抗を介して流れる電流の方向に応じてゲイン(gain)が異なってくる可能性がある。したがって、電流測定手段14がセンス抵抗であるとき、充電電流と放電電流の大きさが同一であっても、測定値は互いに異なってくる可能性がある。
【0045】
バッテリーの異常診断装置10は、バッテリー11の電圧を測定する電圧測定手段15を含み得る。電圧測定手段15は、バッテリー11が充電または放電される間にバッテリー11の電圧を一定の時間間隔をおいて測定し、電圧測定値を制御手段18に出力する。電圧測定手段15は、当業界における周知の電圧測定回路であり得る。電圧測定回路は周知であるため、その詳しい説明は省略する。
【0046】
バッテリーの異常診断装置10は、温度測定手段16を含み得る。温度測定手段16は、バッテリー11が充電または放電される間にバッテリー11の温度を一定の時間間隔をおいて測定し、温度測定値を制御手段18に出力する。温度測定手段16は、温度測定回路であり得る。温度測定手段16は、温度に対応する電圧値を出力する熱電対または温度測定素子を含み得る。電圧値は、電圧-温度変換ルックアップテーブル(関数)を用いて、温度値に変換可能である。電圧値の温度値への変換は、制御手段18により処理可能である。
【0047】
バッテリーの異常診断装置10は、記憶手段17を含み得る。記憶手段17は、データ及び/または情報の書き込み及び消去が行えるものであれば、その種類に特に制限はない。一例として、記憶手段17は、ランダムアクセスメモリ(RAM:random access memory)、リードオンリーメモリ(ROM:read-only memory)、レジスター、フラッシュメモリー(登録商標)、ハードディスク、または磁気記録媒体であり得る。
【0048】
記憶手段17は、制御手段18によりアクセス可能なように、例えば、データバスなどを介して制御手段18と電気的に接続され得る。
【0049】
記憶手段17は、制御手段18が行う各種の制御ロジックを含むプログラム、及び/または制御ロジックが実行起動されるときに発生するデータ、及び/または予め設定されたデータ、パラメーター、ルックアップ情報/テーブルなどを記憶及び/または更新及び/または消去及び/または伝送する。
【0050】
好ましくは、制御手段18は、電流測定手段14と、電圧測定手段15と、温度測定手段16及び記憶手段17と動作可能に結合される。
【0051】
制御手段18は、バッテリー11の異常診断のためにバッテリー18の温度を設定された温度に一定に保持しながら、充放電サイクルを複数回行い得る。制御手段18は、充電サイクルを行うとき、充電装置13をバッテリー11と接続し得、放電サイクルを行うとき、負荷12をバッテリー11と接続し得る。
【0052】
制御手段18は、バッテリー11の温度を一定に保持するために、温度調整手段19と動作可能に結合され得る。温度調整手段19は、電気ヒーターまたは流体循環ループを含み得る。制御手段18は、温度調整手段19を制御して設定された温度にバッテリー11の温度を保持し得る。一例では、制御手段18は、電気ヒーターのパワーを調整したり、流体循環ループに供給される流体の温度を調整したりして、バッテリー11の温度を設定された温度に一定に保持し得る。温度調整手段19は、バッテリー11の表面と接触されるようにバッテリー11と結合され得る。
【0053】
制御手段18は、充放電サイクルが行われる間に周期的に電流測定手段14を用いてバッテリー11を介して流れる電流の大きさを測定し、電流測定値をタイムスタンプとともに記憶手段17に記録し得る。
【0054】
また、制御手段18は、充放電サイクルが行われる間に周期的に電圧測定手段15を介してバッテリー11の電圧を測定して、電圧測定値をタイムスタンプとともに記憶手段17に記録し得る。
【0055】
さらに、制御手段18は、充放電サイクルが行われる間に周期的に温度測定手段16を介してバッテリー11の温度を測定して、温度測定値をタイムスタンプとともに記憶手段17に記録し得る。
【0056】
好ましくは、制御手段18は、バッテリー11に対する複数の充放電サイクルを行いながら、リチウムの析出異常を診断し得る。リチウムの析出異常を診断するための充放電サイクルの回数は、予め設定可能である。一例では、充放電サイクルの遂行回数は、20回であり得る。
【0057】
図2から図5は、本発明の実施形態に従い、制御手段18が充放電サイクルを繰り返し行いながら、リチウムの析出異常を診断する過程を詳しく示す手順図である。
【0058】
制御手段18は、図2から図5に示された手順図に従って、本発明の実施形態によるバッテリーの異常診断方法を実行し得る。
【0059】
まず、制御手段18は、ステップS10において、充放電サイクルのインデックスkを1に初期化し、ステップS20において、1番目の容量差変化量ΔdAh[1]及び1番目の累積容量差変化量
をそれぞれ0に初期化する。
【0060】
次いで、制御手段18は、ステップS30において、バッテリー11に対する1番目の充放電サイクルを開始する。
【0061】
次いで、制御手段18は、ステップS40において、1番目の充放電サイクルを行う間に電流測定手段14から電流測定値を入力されて充電容量ChgAh[1]と放電容量DchgAh[1]を算出する。
【0062】
ステップS40において、制御手段18は、充電装置13を制御して予め設定された充電電圧区間において充電サイクルを行い得る。また、制御手段18は、充電サイクルを行った後、バッテリー11を負荷12に接続して予め設定された放電電圧区間において放電サイクルを行い得る。充電電圧区間と放電電圧区間は、同一または異なり得る。好ましくは、放電サイクルは、充電サイクルが終了された後、バッテリー11の電圧が安定化された後に開始される。また、放電サイクルは、バッテリー11の電圧が予め設定された放電終了電圧に達したとき、または放電電流の積算値が予め設定された放電容量に達したときに終了され得る。充電サイクル及び放電サイクルの開始と終了が電圧値を基準として制御される場合、制御手段18は、電圧測定手段15を介して測定したバッテリー11の電圧測定値を参照し得る。充電サイクルと放電サイクルが行われるとき、制御手段18は、温度調整手段19を制御してバッテリー11の温度を一定に保持し得る。ここで、温度は、バッテリー11の動作温度範囲において任意の値として選択され得る。
【0063】
ステップS50において、制御手段18は、充電容量ChgAh[1]と放電容量DchgAh[1]との差分に相当する容量差dAh[1]を決定し、タイムスタンプとともに記憶手段17に記録し得る。一例では、容量差dAh[1]は、充電容量ChgAh[1]から放電容量DchgAh[1]を差し引いて決定し得る。
【0064】
次いで、ステップS60において、制御手段18は、充放電サイクルについてのインデックスkがnと同一であるか否かを判断する。nは、リチウムの析出異常を診断するために行い得る充放電サイクルの総回数であって、予め設定される自然数である。一例では、nは20であり得る。他の例では、nは20よりも大きい値であるか、あるいは、20よりも小さい値であり得る。
【0065】
ステップS60における判断がYESであれば、制御手段18は、バッテリー11の異常診断プロセスを終了する。これに対し、ステップS60における判断がNOであれば、制御手段18は、プロセスをS70に移行させる。
【0066】
ステップS70において、制御手段18は、2番目の充放電サイクルを開始する。2番目の充放電サイクルの条件は、1番目の充放電サイクルと実質的に同一である。
【0067】
次いで、制御手段18は、ステップS80において、バッテリー11に対する2番目の充放電サイクルを行う間に充電容量ChgAh[2]と放電容量DchgAh[2]を決定し、ステップS90において、充電容量ChgAh[2]と放電容量DchgAh[2]との差分に相当する容量差dAh[2]を決定する。
【0068】
次いで、制御手段18は、ステップS100において、1番目の充放電サイクルの容量差dAh[1]から2番目の充放電サイクルの容量差dAh[2]を差し引いて2番目の容量差変化量ΔdAh[2]を決定する。ステップS100後に、図3のステップS110が行われる。
【0069】
次いで、制御手段18は、ステップS110において、2番目の容量差変化量ΔdAh[2]が基準値よりも大きいか否かを判断する。好ましくは、基準値は、0であり得るが、本発明がこれに限定されるものではない。
【0070】
もし、ステップS110における判断がYESであれば、制御手段18は、ステップS120において、1番目の累積容量差変化量
に2番目の容量差変化量ΔdAh[2]を加算して累積容量差変化量を更新し、更新された値を2番目の累積容量差変化量
として決定する。参考までに、1番目の累積容量差変化量
は、初期化値である0である。
【0071】
これに対し、ステップS110における判断がNOであれば、1番目の累積容量差変化量
に2番目の容量差変化量ΔdAh[2]を加算せずに、初期値0を2番目の累積容量差変化量
に割り当てる。
【0072】
次いで、制御手段18は、ステップS140において、2番目の累積容量差変化量
が閾値以上であるか否かを判断する。閾値は、リチウムの析出異常を診断するのに適した値として設定し得る。一例では、閾値は、バッテリー11容量の0.1%に設定し得るが、本発明がこれに限定されるものではない。
【0073】
もし、ステップS140における判断がYESであれば、制御手段18は、バッテリー11の内部においてリチウムの析出異常が生じたと診断し、診断結果を、ディスプレイ20を介して出力し得る。好ましくは、診断結果は、リチウムの析出異常が生じたことを示す警告メッセージを含む。制御手段18は、ステップS150において、警告メッセージを含む診断結果を、ディスプレイ20を介して出力した後、診断プロセスを終了し得る。
【0074】
もし、ステップS140における判断がNOであれば、すなわち、2番目の累積容量差変化量
が閾値よりも小さければ(または、0であれば)、制御手段18は、ステップS160において、充放電サイクルについてのインデックスkがnと同一であるか否かを判断する。ここで、nは、リチウムの析出異常を診断するために行い得る充放電サイクルの総回数である。
【0075】
ステップS160における判断がYESであれば、リチウムの析出を診断するための充放電サイクルがすべて行われたため、バッテリー11の内部においてリチウムの析出異常が生じなかったと最終的に診断し、プロセスを終了する。制御手段18は、最終的な診断結果を、ディスプレイ20を介して出力し得る。最終的な診断結果は、リチウムの析出異常が生じなかったことを示すメッセージを含み得る。
【0076】
これに対し、ステップS160における判断がNOであれば、制御手段18は、リチウムの析出異常を診断するために充放電サイクルをさらに行い得る。ステップS160の後に、図4のステップS180が行われる。
【0077】
すなわち、ステップS180において、制御手段18は、3番目の充放電サイクルを開始する。3番目の充放電サイクルの条件は、1番目の充放電サイクルと実質的に同一である。
【0078】
次いで、制御手段18は、ステップS190において、バッテリー11に対する3番目の充放電サイクルを行う間に充電容量ChgAh[3]と放電容量DchgAh[3]を決定し、ステップS200において、充電容量ChgAh[3]と放電容量DchgAh[3]との差分に相当する容量差dAh[3]を決定する。
【0079】
次いで、制御手段18は、ステップS210において、2番目の充放電サイクルの容量差dAh[2]から3番目の充放電サイクルの容量差dAh[3]を差し引いて3番目の容量差変化量ΔdAh[3]を決定する。
【0080】
次いで、制御手段18は、ステップS220において、3番目の容量差変化量ΔdAh[3]が基準値よりも大きいか否かを判断する。好ましくは、基準値は、0であり得るが、本発明がこれに限定されるものではない。
【0081】
もし、ステップS220における判断がYESであれば、制御手段18は、ステップS230において、2番目の累積容量差変化量
に3番目の容量差変化量ΔdAh[3]を加算して累積容量差変化量を更新し、更新された値を3番目の累積容量差変化量
として決定する。
【0082】
これに対し、ステップS220における判断がNOであれば、制御手段18は、ステップS240において、2番目の累積容量差変化量
に3番目の容量差変化量ΔdAh[3]を加算せずに、初期値0を3番目の累積容量差変化量
に割り当てる。
【0083】
ステップS230及びステップS240の後に、ステップS250が行われる。
【0084】
ステップS250において、制御手段18は、3番目の累積容量差変化量
【数0084】
が閾値以上であるか否かを判断する。
【0085】
もし、ステップS250における判断がYESであれば、制御手段18は、ステップS260において、バッテリー11の内部においてリチウムの析出異常が生じたと診断し、診断結果を、ディスプレイ20を介して出力し得る。好ましくは、診断結果は、リチウムの析出異常が生じたことを示す警告メッセージを含む。制御手段18は、ステップS260において、警告メッセージを含む診断結果を、ディスプレイ20を介して出力した後、診断プロセスを終了し得る。
【0086】
もし、ステップS250における判断がNOであれば、すなわち、3番目の累積容量差変化量
が閾値よりも小さければ(または、0であれば)、制御手段18は、ステップS270において、充放電サイクルについてのインデックスkがnと同一であるか否かを判断する。ここで、nは、バッテリー11の内部においてリチウムの析出が生じたか否かを診断するために行い得る充放電サイクルの総回数である。
【0087】
ステップS270における判断がYESであれば、リチウムの析出異常を診断するための充放電サイクルがすべて行われたため、バッテリー11の内部においてリチウムの析出異常が生じなかったと最終的に診断し、プロセスを終了する。制御手段18は、最終的な診断結果を、ディスプレイ20を介して出力し得る。最終的な診断結果は、リチウムの析出異常が生じなかったことを示すメッセージを含み得る。
【0088】
これに対し、ステップS270における判断がNOであれば、制御手段18は、リチウムの析出異常を診断するために充放電サイクルをさらに行い得る。
【0089】
制御手段18が4番目の充放電サイクル及びそれ以降の充放電サイクルにおいて行うリチウムの析出異常についての診断ロジックは、上述したところと実質的に同一である。
【0090】
以下、図5に基づいて、制御手段18が4番目からn番目の充放電サイクルにおいて行うプロセスを一般化させて説明する。
【0091】
ステップS280において、制御手段18は、k(kは自然数であって、4~nである)番目の充放電サイクルを開始する。k番目の充放電サイクルの条件は、1番目の充放電サイクルと実質的に同一である。
【0092】
次いで、制御手段18は、ステップS290において、バッテリー11に対するk番目の充放電サイクルを行う間に充電容量ChgAh[k]と放電容量DchgAh[k]を決定し、ステップS300において、充電容量ChgAh[k]と放電容量DchgAh[k]との差分に相当する容量差dAh[k]を決定する。
【0093】
次いで、制御手段18は、ステップS310において、k-1番目の充放電サイクルの容量差dAh[k-1]からk番目の充放電サイクルの容量差dAh[k]を差し引いてk番目の容量差変化量ΔdAh[k]を決定する。
【0094】
次いで、制御手段18は、ステップS320において、k番目の容量差変化量ΔdAh[k]が基準値よりも大きいか否かを判断する。好ましくは、基準値は、0であり得るが、本発明がこれに限定されるものではない。
【0095】
もし、ステップS320における判断がYESであれば、制御手段18は、ステップS330において、k-1番目の累積容量差変化量
にk番目の容量差変化量ΔdAh[k]を加算して累積容量差変化量を更新し、更新された値をk番目の累積容量差変化量
として決定する。
【0096】
これに対し、ステップS320における判断がNOであれば、制御手段18は、ステップS340において、k-1番目の累積容量差変化量
にk番目の容量差変化量ΔdAh[k]を加算せずに、初期値0をk番目の累積容量差変化量
に割り当てる。
【0097】
ステップS330及びステップS340の後に、ステップS350が行われる。
【0098】
ステップS350において、制御手段18は、k番目の累積容量差変化量
が閾値以上であるか否かを判断する。
【0099】
もし、ステップS350における判断がYESであれば、制御手段18は、ステップS360において、バッテリー11の内部においてリチウムの析出異常が生じたと診断し、診断結果を、ディスプレイ20を介して出力し得る。好ましくは、診断結果は、リチウムの析出異常が生じたことを示す警告メッセージを含む。制御手段18は、ステップS360において、警告メッセージを含む診断結果を、ディスプレイ20を介して出力した後、診断プロセスを終了し得る。
【0100】
もし、ステップS350における判断がNOであれば、すなわち、k番目の累積容量差変化量
が閾値よりも小さければ(または、0であれば)、制御手段18は、ステップS370において、充放電サイクルについてのインデックスkがnと同一であるか否かを判断する。ここで、nは、バッテリー11の内部においてリチウムの析出が生じたか否かを診断するために行い得る充放電サイクルの総回数である。
【0101】
ステップS370における判断がYESであれば、リチウムの析出を診断するための充放電サイクルがすべて行われたため、バッテリー11の内部においてリチウムの析出異常が生じなかったと最終的に診断し、プロセスを終了する。制御手段18は、最終的な診断結果を、ディスプレイ20を介して出力し得る。最終的な診断結果は、リチウムの析出異常が生じなかったことを示すメッセージを含み得る。
【0102】
これに対し、ステップS370における判断がNOであれば、制御手段18は、リチウムの析出異常を診断すべく充放電サイクルをさらに行うために充放電サイクルのインデックスkを1だけインクリメントした後、プロセスをS280に戻す。これにより、充放電サイクルのインデックスkがnとなるまでステップS280~S370が周期的に繰り返し行われる。
【0103】
本発明の実施形態によれば、今回の充放電サイクルにおいて算出された容量差変化量が基準値以下であれば、前回まで算出されていた累積容量差変化量が0に初期化される。また、今回の充放電サイクルにおいて算出された容量差変化量が基準値よりも大きければ、今回の容量差変化量を前回の累積容量差変化量に加算する。その結果、累積容量差変化量が増加する。前回の累積容量差変化量は、0または正の値を有するが、正の値を有する場合、連続する充放電サイクルにおいて計算された基準値を超える容量差変化量が積算される。さらに、容量差変化量が積算されていて、特定の充放電サイクルにおいて容量差変化量が基準値以下に減少すれば、累積容量差変化量が0に初期化される。このようなロジックが適用されることにより、累積容量差変化量は、一種のリチウムの析出異常を予測する定量指標に相当する。すなわち、容量差変化量が基準値よりも大きければ、リチウムの析出可能性があることを意味する。なお、時系列的に連続する複数の充放電サイクルにおいて容量差変化量が基準値を超える条件が連続して満たされながら、累積容量差変化量が閾値以上に増加したということは、リチウムの析出可能性がその分だけ高いということを意味する。本発明は、累積容量差変化量というファクターを用いて、リチウムの析出可能性を定量化したという点で技術的な意義がある。
【0104】
図6は、本発明によるバッテリーの異常診断方法を適用した実験例において測定されたデータの変化を示すグラフである。
【0105】
本実験例においては、パウチ型のリチウムポリマー電池が用いられた。実験のために選択したリチウムポリマー電池は、退化されて負極にリチウムが析出され始めた状態にある。退化度が反映されたリチウムポリマー電池の現在の容量は、概ね50Ahである。充電サイクルの充電条件は、CC(定電流)-CV(定電圧)充電であり、CC充電目標電圧に達したときにCC充電を終了し、CV充電に切り換えられ、CV充電電流が目標電流に達したときに充電が終了される。放電サイクルの放電条件はCC放電であり、定められた放電容量に見合う分だけ放電が行われれば、放電を終了する。充電サイクルと放電サイクルの温度条件は、45℃である。容量差変化量の積算有無を決定する目安となる基準値は0であり、リチウムの析出異常の診断の目安となる閾値は0.06Ahに設定した。
【0106】
電流測定手段14としてセンス抵抗が用いられた。センス抵抗の両端において測定されたアナログ電圧は、制御手段18のI/Oインタフェースに入力される。制御手段18は、I/Oインタフェースを介して入力された電圧信号を増幅させ、増幅されたアナログ信号をデジタル信号に変換する回路を含む。この回路を介して測定された電流値は、実際の電流値と差(オフセット)がある。本実験例においては、放電電流測定値が実際の値よりもさらに大きな誤差を有する。したがって、充放電サイクルのインデックスに応じて、放電容量が充電容量よりも大きい可能性がある。
【0107】
グラフ(1)は、充放電サイクルごとの充電容量ChgAh[k]及び放電容量DchgAh[k]の測定結果を示すグラフである。充電容量ChgAh[k]及び放電容量DchgAh[k]は、センス抵抗を介して測定された電流値を積算して算出したものである。放電電流測定値の誤差により、4番目の放電サイクルから放電容量が充電容量よりも大きい。
【0108】
グラフ(2)は、充放電サイクルごとの容量差dAh[k]を示すグラフである。グラフ(1)を参照すると、4番目の充放電サイクルから放電容量が充電容量よりも大きいため、4番目のサイクルから容量差dAh[k]は負数となる。
【0109】
グラフ(3)は、充放電サイクルごとの容量差変化量ΔdAh[k]を示すグラフである。容量差変化量ΔdAh[k]が正数である充放電サイクルのインデックスは、2~13、17~18及び20である。容量差変化量ΔdAh[k]が負数である充放電サイクルのインデックスは、14~16と19である。
【0110】
グラフ(4)は、充放電サイクルごとの累積容量差変化量
を示すグラフである。容量差変化量ΔdAh[k]が正数である充放電サイクルのインデックスは、2~13である。したがって、2番目から13番目の充放電サイクルの容量差変化量ΔdAh[k]が積算されるにつれて、累積容量差変化量
が増加する。また、13番目の充放電サイクルの容量差変化量まで累積されれば、累積容量差変化量
が閾値である0.06Ahを超える。したがって、制御手段18は、13番目の充放電サイクルまで行った後、バッテリーの内部においてリチウムの析出異常が生じたと診断し、診断結果を、ディスプレイ20を介して出力し、診断プロセスを終了する。本実験において用いられたリチウムポリマー電池の負極にはリチウムが析出されているため、本発明の診断正確度が高いことが分かる。
【0111】
図7は、本発明によるバッテリーの異常診断方法を適用した他の実験例において測定されたデータの変化を示すグラフである。
【0112】
図7において、グラフ(1)は、前述した実験例のグラフ(1)と同一である。グラフ(1)'は、電流測定値誤差が前述した実験例とは異なる電流測定手段を用いたときの充電容量ChgAh[k]と放電容量DchgAh[k]の測定結果を示すグラフである。本実験例において、放電電流測定値の誤差は、前述した実験例よりもさらに大きい。したがって、放電容量DchgAh[k]のグラフは、前述した実験例と比較して上部にシフトされている。
【0113】
グラフ(2)及び(2)'は、充放電サイクルごとの容量差dAh[k]を示すグラフであり、グラフ(3)及び(3)'は、充放電サイクルごとの容量差変化量ΔdAh[k]を示すグラフであり、グラフ(4)及び(4)'は、充放電サイクルごとの累積容量差変化量
を示すグラフである。
【0114】
グラフ(2)、(3)及び(4)は、グラフ(1)のデータを用いて算出されたものであり、グラフ(2)'、(3)'及び(4)'は、グラフ(1)'のデータを用いて算出されたものである。
【0115】
図7に示されているように、グラフ(2)、(3)及び(4)とグラフ(2)'、(3)'及び(4)'は、実質的に同一である。したがって、制御手段18は、放電電流値に測定誤差が含まれていても、誤差の大きさにかかわらず13番目の充放電サイクルまで行った後、バッテリーの内部においてリチウムの析出異常が生じたと診断し、診断結果を、ディスプレイ20を介して出力し、診断プロセスを終了する。このような実験結果から、本発明は、電流測定値の誤差にかかわらずリチウムの析出異常を信頼性よく診断することができるということが分かる。
【0116】
好ましくは、本発明の実施形態によるバッテリーの異常診断装置10は、バッテリー11の異常有無を診断するための診断システムに含まれ得る。診断システムは、電気自動車の整備工場、バッテリー製造社またはバッテリーのメンテナンス会社において運用可能である。
【0117】
好ましくは、診断システムは、電気自動車やエネルギー貯蔵システムに搭載されたバッテリーの異常の診断を行うのに使用され得るか、あるいは、バッテリー製造社において生産された新規開発型番のバッテリーに対する異常の診断を行うのに使用され得る。特に、後者の場合、新規開発型番のバッテリーを商用化する前に、バッテリーの異常診断装置10を用いて、バッテリーがリチウムの析出を引き起こす構造的な脆弱点を抱えているか否かを検査し得る。
【0118】
あるいは、代案として、バッテリーの異常診断装置10は、バッテリー11が装着されたシステムの制御要素に含まれ得る。
【0119】
一例では、バッテリーの異常診断装置10は、電気自動車の制御システムに含まれ得る。この場合、バッテリーの異常診断装置10は、電気自動車に搭載されたバッテリーが充電及び放電される過程において、バッテリーの充電容量と放電容量に関するデータを収集し得、収集されたデータを用いてリチウムの析出異常を診断し、診断結果を電気自動車の統合制御ディスプレイに出力し得る。
【0120】
本発明において、電気自動車は、電気自動車、ハイブリッド自動車、プラグインハイブリッド自動車のようにモーターにより駆動される自動車を指し示す。自動車は、2輪、3輪または4輪の自動車であり得る。
【0121】
他の例では、バッテリーの異常診断装置10は、エネルギー貯蔵システムの制御システムに含まれ得る。この場合、バッテリーの異常診断装置10は、エネルギー貯蔵システムが充電及び放電される過程において、バッテリーの充電容量と放電容量に関するデータを収集し得、収集されたデータを用いてリチウムの析出異常を診断し、診断結果をオペレーターがアクセス可能な統合管理コンピューターのディスプレイを介して出力し得る。
【0122】
電気自動車の使用者またはエネルギー貯蔵システムのオペレーターは、リチウムの析出異常に関する診断結果がディスプレイを介して出力されれば、適切な安全措置を取ることができる。一例では、電気自動車の使用者は、電気自動車の整備工場に訪れて点検を受け得る。他の例では、エネルギー貯蔵システムのオペレーターは、当該バッテリーを新規なバッテリーに取り替え得る。
【0123】
本発明において、制御手段18は、制御回路であり得る。制御手段18は、上述した様々な制御ロジックを実行するために、当業界における周知のプロセッサー、特定用途向け集積回路(ASIC:application specific integrated circuits)、他のチップセット、論理回路、レジスター、通信モデム、データ処理装置などを選択的に含み得る。また、前記制御ロジックがソフトウェアにより実現されるとき、制御手段18は、プログラムモジュールの集合により実現され得る。このとき、プログラムモジュールはメモリーに記憶され、プロセッサーにより実行され得る。前記メモリーは、プロセッサーの内部または外部にあり得、周知の様々なコンピューター部品によりプロセッサーと接続され得る。なお、前記メモリーは、本発明の記憶手段17に含まれ得る。なお、前記メモリーは、デバイスの種類を問わずに、情報が記憶されるデバイスをまとめて称するものであって、特定のメモリーデバイスを指すわけではない。
【0124】
制御手段18の様々な制御ロジックは、少なくとも1つが組み合わせられ、組み合わせられた制御ロジックは、コンピューターにて読み取り可能なコード体系により作成されてコンピューターにて読み取り可能な記録媒体に収録され得る。前記記録媒体は、コンピューターに組み込まれているプロセッサーによりアクセス可能なものであれば、その種類に特に制限はない。一例として、前記記録媒体は、ROM、RAM、レジスター、CD-ROM、磁気テープ、ハードディスク、フロッピーディスク及び光データ記録装置を含む群から選択された少なくとも1つ以上を含む。また、前記コード体系は、ネットワークにより結ばれたコンピューターに分散されて記憶されかつ実行され得る。なお、前記組み合わせられた制御ロジックを実現するための機能的なプログラム、コード及びコードセグメントは、本発明が属する技術分野におけるプログラマーにより容易に推論され得る。
【0125】
本発明の様々な実施形態について説明するに当たって、「~手段」と命名された構成要素は、物理的に区分される要素であるというよりは、機能的に区分される要素であると理解せねばならない。したがって、それぞれの構成要素は他の構成要素と選択的に統合されるか、または、それぞれの構成要素が制御ロジックの効率よい実行のためにサブ構成要素に分割され得る。しかしながら、構成要素が統合または分割されても機能の同一性が認められれば、統合または分割された構成要素も本出願の範囲内に属すると解釈されねばならないことは当業者にとって自明である。
【0126】
以上、本発明を限定された実施形態と図面によって説明したが、本発明はこれらに限定されるものではなく、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者によって本発明の技術思想と特許請求の範囲の均等範囲内で様々な修正及び変形が可能であることは言うまでもない。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7