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特許7556627育毛効果、白髪改善効果、及びしわ改善効果を有する組成物およびその製造方法。
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】育毛効果、白髪改善効果、及びしわ改善効果を有する組成物およびその製造方法。
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/30 20150101AFI20240918BHJP
   A61K 35/36 20150101ALI20240918BHJP
   A61K 8/98 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 17/14 20060101ALI20240918BHJP
   A61Q 19/00 20060101ALI20240918BHJP
   C12N 13/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
A61K35/30
A61K35/36
A61K8/98
A61P17/14
A61Q19/00
C12N13/00
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2024098015
(22)【出願日】2024-06-18
【審査請求日】2024-06-21
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】517280627
【氏名又は名称】株式会社再生医学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100196391
【弁理士】
【氏名又は名称】萩森 学
(72)【発明者】
【氏名】上田 実
【審査官】玉井 真人
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-164473(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-2376630(KR,B1)
【文献】特表2022-502033(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118877(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 35/00-35/768
A61K 8/00- 8/99
A61Q 19/00-19/10
C12N 13/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
育毛効果を有する組成物であって、
ヒト乳歯歯髄幹細胞を、無血清培地を用いて培養し、該培養中に超音波刺激を与えることにより得られる培養上清を含有し、
該超音波刺激における超音波照射条件は、超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0KHz、超音波出力が50ないし150mW/cm2、照射時間が30分間であり、
さらに、毛乳頭細胞を、塩基性線維芽細胞成長因子を含む培地を用いて増殖した後、無血清培地を用いて培養し、該培養中に超音波刺激を与えることにより得られる培養上清を含有し、
該超音波刺激における超音波照射条件は、超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0KHz、超音波出力が50ないし150mW/cm2、照射時間が30分間である
ことを特徴とする育毛効果を有する組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の育毛効果を有する組成物であって、
ヒト乳歯歯髄幹細胞を、無血清培地を用いて培養し、該培養中に超音波刺激を与えることにより得られる培養上清を含有し、
該超音波刺激における超音波照射条件は、超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0KHz、超音波出力が100mW/cm2、照射時間が30分間であり、
さらに、毛乳頭細胞を、塩基性線維芽細胞成長因子を含む培地を用いて増殖した後、無血清培地を用いて培養し、該培養中に超音波刺激を与えることにより得られる培養上清を含有し、該超音波刺激における超音波照射条件は、超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0KHz、超音波出力が100mW/cm2、照射時間が30分間であり、
育毛効果に加えて、白髪改善効果及びしわ改善効果をも有する
ことを特徴とする組成物。
【請求項3】
育毛効果を有する組成物の製造方法であって、
ヒト乳歯歯髄幹細胞を、無血清培地を用いて培養し、該培養中に超音波刺激を与えることにより得られる培養上清を含有させ、
該超音波刺激における超音波照射条件は、超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0KHz、超音波出力が50ないし150mW/cm2、照射時間が30分間であり、
さらに、毛乳頭細胞を、塩基性線維芽細胞成長因子を含む培地を用いて増殖した後、無血清培地を用いて培養し、該培養中に超音波刺激を与えることにより得られる培養上清を含有させ、
該超音波刺激における超音波照射条件は、超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0KHz、超音波出力が50ないし150mW/cm2、照射時間が30分間である
ことを特徴とする育毛効果を有する組成物の製造方法。
【請求項4】
育毛効果、白髪改善効果及びしわ改善効果を有する組成物の製造方法であって、
ヒト乳歯歯髄幹細胞を、無血清培地を用いて培養し、該培養中に超音波刺激を与えることにより得られる培養上清を含有させ、
該超音波刺激における超音波照射条件は、超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0KHz、超音波出力が100mW/cm2、照射時間が30分間であり、
さらに、毛乳頭細胞を、塩基性線維芽細胞成長因子を含む培地を用いて増殖した後、無血清培地を用いて培養し、該培養中に超音波刺激を与えることにより得られる培養上清を含有させ、
該超音波刺激における超音波照射条件は、超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0KHz、超音波出力が100mW/cm2、照射時間が30分間である
ことを特徴とする育毛効果、白髪改善効果及びしわ改善効果を有する組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は育毛効果、白髪改善効果、及びしわ改善効果を有する組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高齢者の「見た目」の特徴として、脱毛や白髪が挙げられる。この高齢者イメージを美容面で解消するために、世界中で毛髪再生や白髪の研究が行われている。
【0003】
代表的な脱毛症としてアンドロゲン性脱毛症(androgenetic alopecia:AGA脱毛症)がある。AGA脱毛症は加齢やストレスによる毛乳頭の血流不足によって毛母細胞が不活化し、毛周期のサイクルが短縮し、毛包のサイズが矮小化し、毛髪が細く、短くなる病気である。AGA脱毛症の兆候は、アンドロゲン値の上昇により思春期以降に始まり、70歳までに男性の80%、女性の40%にみられるとされている。AGA脱毛症の原因が,遺伝とアンドロゲンに加え、炎症、ストレス、環境因子など多因子性であることが認識されているにもかかわらず、AGA脱毛症の治療薬として国際的に承認されているのはアンドロゲン非依存毛促進剤ミノキシジル(minoxidil)外用薬と内服薬のみである。もし毛乳頭の血流を改善し、毛母細胞を活性化し細胞成長期→退行期→休止期を繰り返す毛周期の成長期から退行期への移行を遅らせることができれば毛髪の矮小化を遅らせることができる。また休止期を短くできれば成長期の毛髪を増やすことができ、毛乳頭を活性化させれば毛髪のサイズを大きくすることができ、これはいわゆる薄毛や禿の治療につながるはずである。
【0004】
脱毛はがん治療のために行われる化学療法の副作用でも生じる。白血病に対する骨髄幹細胞移植の前処置として行われる抗がん剤治療の結果でおきる脱毛症はよく知られている。毛包は活発に増殖する上皮成分で構成され,毛母部では特に活発に細胞が増殖する。抗がん剤は活発に増殖する細胞に作用するため,成長期毛は傷害を受けやすい。抗がん剤により傷害をうけた毛髪では毛幹は狭小化し,毛上皮が破壊される。脱毛は抗がん剤投与開始1~3週間後に生じ、通常頭髪の90%以上は成長期毛であるため,多くの毛髪が傷害を受け,頭髪のほとんどが脱落する。脱毛は髭や睫毛,眉毛,腋毛,陰毛にも生じる。通常脱毛は一過性であり,化学療法が終了してから3~6カ月後には毛髪の再発毛がみられる。ただし再伸長した毛髪の質や色調が脱毛する前の毛髪と異なる。毛髪の形態は縮毛となり、白毛となる場合もある。他の報告では脱毛は抗がん剤開始から平均18.0日後に始まり,治療終了から平均3.4カ月で発毛が診られるとされている。抗がん剤脱毛のQOLに及ぼす影響については過去にいくつかの報告があり、つねに苦痛反応の1位から3位の上位に位置している。2002年のCarelleらの報告によれば化学療法を受けたがん患者の苦痛のなかで「脱毛」は「家族や配偶者に対する悪影響」に次いで2番目に高く、化学療法中に感じた苦痛の中で最も多いと報告されている。患者全員が事前の医師からの説明で、3~6か月後に再発毛することを知らされていたが、治療開始後1~2か月で脱毛がはじまり3か月以降で大量脱毛が発現したときには想像をこえるショックであったと告白している。
【0005】
加齢によってほぼ必発する白髪は必ずしも回避するべき病状とは言えないが、ヒトによっては(特に女性)美容上問題になることがある。しかし白髪の発生するメカニズムはいまだ十分にわかっていない。毛髪をつくる毛母細胞自体には色素はなく、黒髪は毛色素細胞(メラノサイト)が作り出すメラニン色素を取り込むことで着色される。しかし毛根の色素幹細胞が何らかの原因で色素を産生しなくなると白髪になる。日本人の頭毛は平均10万本といわれている。生えてきた毛髪は3~5年で寿命を終え脱毛する。そして数か月の準備期間ののち再発毛するのであるが、この時期に色素細胞が活性化し、メラニンが産生されれば毛髪に色が付き、十分でなければ白髪になる。
【0006】
原因は異なるが、脱毛と白髪のメカニズムはほぼ同一である。脱毛の原因はさまざまであるが大半は毛髪基部にある毛包にある毛母細胞の減少・消滅であり、白髪は毛根色素幹細胞の劣化が原因である。育毛剤は種々提案されているが真に効果的なものはまだ無いと言ってよく、副作用を有するものも多い。解決策の一つとして毛母幹細胞や毛乳頭細胞の移植が検討された。しかし細胞療法はその取扱いがあまりに煩雑なわりに期待した程効果は得られていない(非特許文献1)。
皮膚の老化症状であるしわについてもその治療(rejuvenation)の研究が活発に行われている。ただ現状は表皮細胞や真皮線維芽細胞を活性化する薬剤、あるいは細胞そのものの移植も試みられたがいずれも効果は限定的である(非特許文献2)。これまでのところ毛髪再生や老化皮膚の分野では満足できる治療法は開発されていない。
【0007】
正常な毛髪形成や着色に関係する一連の幹細胞(毛根色素幹細胞、毛母幹細胞)が産生する信号分子は毛周期サイクルを調整している。なかでも毛髪形成で最も重要な信号は、毛髪の着色と、伸長に深く関与する毛乳頭細胞(HFDPC)からの信号である。毛乳頭細胞は毛髪形成の司令塔といわれており、この細胞から分泌されるさまざまな信号分子(セクレトーム)が毛包細胞の増殖と分化の調整を行っている(非特許文献3、4)。この信号分子にはIGF-1, HGF, VEGF, FGFなどがあるが、特にFGF7(線維芽細胞増殖因子7)は毛包の発生、成長の全過程においてHFPDCから発せられるシグナルの中で特に重要と考えられる。
また乳歯幹細胞(Stem Cell Human Exfoliated Decidous Teeth : SHED)は間葉系幹細胞の一種であり、数千種類に上る信号分子(サイトカイン、成長因子)を産生することが知られている。その代表的なものはEpidermal Growth Factor (EGF)、Fibroblast Growth Factor (FGF)、Platelet-Derived Growth Factor (PDGF)、Hepatocyto Growth Factor (HGF)、Transforming growth Factor(TGF)、vascular endothelial growth Factor (VEGF)等の成長因子、MCP-1((Monocyte Chemotactic protein-1、単球走化性タンパク)、Sialbinding immunoglobulin-type lectins-9 (Siglec-9),エクソソームなどである(非特許文献5、6)。これらは様々な生物学的な効果があることが知られている。それらは、組織再生のための血管新生、細胞再生、アポトーシスの防御など微小環境を整える効果である。これらの中で毛髪再生については、HGF及びSiglec-9が特に重要と考えられる。
【0008】
特許文献1にはブタの歯髄幹細胞の培養上清を含むしわ改善効果や育毛及び発毛効果を有する化粧品(特許文献1)、特許文献2にはヒト脱落乳歯歯髄幹細胞の培養上清を含む発毛促進用シート(特許文献2)、特許文献3には哺乳類の毛乳頭細胞の培養上清を含む育毛用の皮膚外用組成物(特許文献3)が提案されており、また特許文献4においては本願発明者が歯髄幹細胞培養上清と毛乳頭細胞培養上清を含む育毛剤(特許文献4)を提案している。しかし本願発明者の特許文献4における育毛剤も含め、これらの効果は不十分なものと考えられ、普及に至っていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2013/118877号
【文献】国際公開第2016/175164号
【文献】特開2003-146894号公報
【文献】特開2020-164473号公報
【非特許文献】
【0010】
【文献】Anil Kumar Garg, Seema Garg: Complications of Hair Transplant Procedures-Causes and Management. Indian J. Plast. Surg., 2021 Dec 31;54(4):477-482.
【文献】Kerure A. S, Patwardhan N., Complications in hair transplantation. J. Cutan Aesthet Surg. 2018;11(04):182-189.
【文献】Itami,S. et al: Androgen induction of follicular epithelial cell growth is mediated via insulin-like growth gactpr-1 from dermal papilla cells. Biochem. Biophys. Res. Commun., 212; 988-, 1995.
【文献】Shimaoka, S. et al: Hepatocyte growth factor/scatter factor expressed in follicular papilla cells stimulates human hair growth in vitro. J. Cell Physiol. 165;333-, 1995
【文献】Matsubara,K.,et al : Secreted ectodmain of sialic acid-binding Ig-like lectin and monocyte chemoattractant protein-1 promote recovery after rat spinal cord injury by altering macrophage polarity.,J.Neuroscience 35(2015):2452-2464.
【文献】Drago,D.,et al : The stem cell secretome and its role in brain repair.,Biochimie 95.12(2013):2271-2285.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願発明が解決しようとする課題は、育毛効果、白髪改善効果、及びしわ改善効果を有する組成物およびその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は歯髄幹細胞培養上清と毛乳頭細胞培養上清を含む育毛剤の効果が不十分であったのは、培養上清中のセクレトームの濃度が不十分であったためではないかと考え、培養上清中のセクレトームの濃度を増加させる方法について鋭意検討を重ねた結果、歯髄幹細胞培養及び毛乳頭細胞の培養時に超音波を照射することに想到した。そして、歯髄幹細胞培養及び毛乳頭細胞の培養時の超音波照射条件を種々検討した結果、培養上清中のセクレトームの濃度を増加できる超音波照射条件を見出した。さらに、歯髄幹細胞培養の培養時、及び毛乳頭細胞の培養時に好適な超音波照射条件で超音波を照射して得られた培養上清を含む組成物が、育毛効果、抗ガン剤による脱毛の予防効果、白髪改善効果、及びしわ改善効果を有することを見出した。
【0013】
第1の発明は育毛効果を有する組成物であって、ヒト乳歯歯髄幹細胞を、無血清培地を用いて培養し、該培養中に超音波刺激を与えることにより得られる培養上清を含有し、該超音波刺激における超音波照射条件は、超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0KHz、超音波出力が50ないし150mW/cm2、照射時間が30分間であり、さらに、毛乳頭細胞を、塩基性線維芽細胞成長因子を含む培地を用いて増殖した後、無血清培地を用いて培養し、該培養中に超音波刺激を与えることにより得られる培養上清を含有し、該超音波刺激における超音波照射条件は、超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0KHz、超音波出力が50ないし150mW/cm2、照射時間が30分間であることを特徴とするものである。
【0014】
第2の発明は、第1の発明に係る育毛効果を有する組成物であって、ヒト乳歯歯髄幹細胞を、無血清培地を用いて培養し、該培養中に超音波刺激を与えることにより得られる培養上清を含有し、該超音波刺激における超音波照射条件は、超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0KHz、超音波出力が100mW/cm2、照射時間が30分間であり、さらに、毛乳頭細胞を、塩基性線維芽細胞成長因子を含む培地を用いて増殖した後、無血清培地を用いて培養し、該培養中に超音波刺激を与えることにより得られる培養上清を含有し、該超音波刺激における超音波照射条件は、超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0KHz、超音波出力が100mW/cm2、照射時間が30分間であり、育毛効果に加えて、白髪改善効果及びしわ改善効果をも有することを特徴とするものである。
【0015】
第3の発明は、育毛効果を有する組成物の製造方法であって、ヒト乳歯歯髄幹細胞を、無血清培地を用いて培養し、該培養中に超音波刺激を与えることにより得られる培養上清を含有させ、該超音波刺激における超音波照射条件は、超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0KHz、超音波出力が50ないし150mW/cm2、照射時間が30分間であり、さらに、毛乳頭細胞を、塩基性線維芽細胞成長因子を含む培地を用いて増殖した後、無血清培地を用いて培養し、該培養中に超音波刺激を与えることにより得られる培養上清を含有させ、該超音波刺激における超音波照射条件は、超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0KHz、超音波出力が50ないし150mW/cm2、照射時間が30分間であることを特徴とするものである。
【0016】
第4の発明は、育毛効果、白髪改善効果及びしわ改善効果を有する組成物の製造方法であって、ヒト乳歯歯髄幹細胞を、無血清培地を用いて培養し、該培養中に超音波刺激を与えることにより得られる培養上清を含有させ、該超音波刺激における超音波照射条件は、超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0KHz、超音波出力が100mW/cm2、照射時間が30分間であり、さらに、毛乳頭細胞を、塩基性線維芽細胞成長因子を含む培地を用いて増殖した後、無血清培地を用いて培養し、該培養中に超音波刺激を与えることにより得られる培養上清を含有させ、該超音波刺激における超音波照射条件は、超音波の周波数が1.5MHz、バースト幅が200μsec、繰り返し周期が1.0KHz、超音波出力が100mW/cm2、照射時間が30分間であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0017】
本願発明に係る組成物は育毛効果、白髪改善効果及びしわ改善効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】乳歯髄由来幹細胞の培養中に照射した超音波の照射時間と、得られた培養上清中のHGFの含有量との関係を示すグラフである。
図2】培養中に照射した超音波の出力と、得られた培養上清中のHGF、Siglec-9あるいはFGF7の含有量との関係を示すグラフである。
図3】超音波を照射して得られた培養上清を含む組成物と超音波を照射せずに得られた培養上清を含む組成物のAGA脱毛症患者に対する育毛効果を示すグラフである。
図4】超音波非照射のR-SHEDCMとR-HFCMを混合した組成物を投与したAGA脱毛症患者(38歳男性)の頭部の治療前(左)と治療後(右)の写真である。
図5】超音波非照射のR-SHEDCMとR-HFCMを混合した組成物を投与したAGA脱毛症患者(50歳男性)の頭部の治療前(左)と治療後(右)の写真である。
図6】超音波非照射のR-SHEDCMとR-HFCMを混合した組成物を投与したAGA脱毛症患者(60歳男性)の頭部の治療前(左)と治療後(右)の写真である。
図7】超音波非照射のR-SHEDCMとR-HFCMを混合した組成物を投与したAGA脱毛症患者(38歳男性)の頭部の治療前(左)と治療後(右)の写真である。
図8】超音波非照射のR-SHEDCMとR-HFCMを混合した組成物を投与したAGA脱毛症患者(48歳男性)の頭部の治療前(左)と治療後(右)の写真である。
図9】US2を投与したAGA脱毛症患者(74歳男性)の頭部の治療前(左)と治療後(右)の写真である。
図10】US1を投与したAGA脱毛症患者(58歳男性)の頭部の治療前(左)と治療後(右)の写真である。
図11】US3を投与したAGA脱毛症患者(45歳男性)の頭部の治療前(左)と治療後(右)の写真である。
図12】超音波を照射して得られた培養上清を含む組成物と超音波を照射せずに得られた培養上清を含む組成物の抗がん剤脱毛に対する改善効果を示すグラフである。
図13】超音波を照射して得られた培養上清を含む組成物US1,US2,US3あるいは超音波を照射せずに得られた培養上清を含む組成物Rの抗がん剤脱毛に対する改善結果を表す表である。
図14】毛髪色の色差計による評価を示すグラフである。
図15】US2を投与した47歳の男性の頭部の治療前(左)と治療後(右)の写真である。
図16】マイクロスコープにより撮影した治療前、8週間治療後の対照群および治療群の頬と前額のキメ画像である。
図17】デジタルマイクロスコープで撮影した肌画像を用いて皮膚のキメを定量的に表したグラフである。
図18】US2を投与した34歳の女性のUS2をスプレーした部分の治療前(左)と8週間治療後6か月(右)の写真である。
図19】US2を投与した75歳の女性のUS2をスプレーした部分の治療前(左)と8週間治療後(右)の写真である。
図20】US2を投与した42歳の女性のUS2をスプレーした部分の治療前(左)と治療終了後6カ月(右)の写真である。
図21】US2を投与した62歳の女性のUS2をスプレーした部分の治療前(左)と8週間治療後(右)の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
つぎに、本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において様々な変更や修正が可能であることは言うまでもない。
【実施例1】
【0020】
乳歯髄由来幹細胞(SHED)の培養と培養上清の調製:
(1)細胞培養
健康小児から得られた脱落乳歯をイソジン溶液で消毒したのち歯科用ダイヤモンドポイントを用いて歯冠を水平方向に切断し歯科用リーマーをもちいて歯髄組織を回収した。回収した歯髄組織を、3mg/mlのI型コラ―ゲナーゼ及び4mg/mlのディスパーゼの溶液中で37℃にて1時間消化した。70mmの細胞ストレーナ(Falcon;BDLabware,Franklin Lakes,NJ) を用いて濾過した後、20%の間葉系細胞成長サプリメント(Lonza Inc,Walkersville,MD)及び抗生物質(100U/mlのペニシリン、100mg/mlのストレプトマイシン、及び0.25mg/mlのアムホテリシンB;GIBCO社製)を含むダルベッコ改変イーグル培地(DMEM;GIBCO,Rockville,MD)中で37℃、5%CO2下にて細胞を培養した。培養上清を除き、接着性を有する細胞を歯髄幹細胞として選択し、約1×104細胞/cm2で継代培養した。1ないし3回継代した細胞を培養上清の作成に用いた 。
(2)培養上清の調製
SHED(4×105細胞)をDMEM/F12(Invitrogen-Gibco-BRL,Grand Island,NY) 無血清培地中で37℃、5%CO2下で培養した。この間培養皿底部に設置した超音波発生装置によって超音波刺激を与えた。
なお超音波の照射条件は、超音波周波数1.5Mz、バースト幅200μsec、繰り返し周期、1.0KHz、超音波出力50、100、あるいは150mW/cm2 (各群n=3)、30分照射であった。培養72時間後にSHEDの培養上清を回収し、300×gで5分間遠心し、0.22mmのシリンジフィルターを用いて濾過した。
なお、超音波刺激の効果を調べるため、対照として超音波を照射しない培養も行い同様に培養上清を回収した。
以後、超音波を照射して得られた培養上清をUS-SHEDCM、超音波を照射しないで培養して得られた培養上清をR-SHEDCMと呼ぶ。
【0021】
毛乳頭細胞の培養と培養上清の調製:
(1)細胞培養
ヒト頭皮は、外科手術の副産物として生じたものを使用した。頭皮は、本発明の目的に照らし、成人男性由来のものを使用することが望ましいが、それに限定されることはなく、子供由来でも女性由来であってもよい。使用する皮膚は、毛乳頭が正常な生理機能を保持している限り、頭髪に限らず体毛等に属するものを選んでもよい。通常、好ましくは、頭皮のうち、側頭部や後頭部に由来するものがよい。
培養に供する単離毛乳頭細胞は、上記頭皮から、頭皮を略5mmの短冊状に切り、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)等で洗浄した後、必要によりタンパク質分解酵素等を用いまたは外科的に処理し、表皮層および真皮層を除き、皮下脂肪層のみにし、次いで毛包を物理的手段、例えばピンセツト等で単離する。毛包から毛球部を切り取り、この毛球部下部から毛乳頭を露出させて毛乳頭(細胞)を単離する。こうして得られる単離毛乳頭細胞の培養は、動物細胞の培養に用いられる市販の栄養培地をそのまま、または修正したもので培養(初代培養および継代培養)することができる。毛乳頭細胞の培養に使用できる代表的な培地としては、ウシ胎児血清を含むダルベッコ変性イーグル培地[Dulbecco’s Modefied Eagle Medium、GibcoBLより入手可]、チャン培地(Chang′s medium)[Irvine Scientific より入手可]が挙げられる。
培地には、さらに必要に応じて細胞増殖因子、ホルモンやその他の微量栄養素を加えることができる。これらの具体的なものとしては、トランスフエリン、インスリン、トリヨードチロニン、グルカゴン、ハイドロコーチゾン、テストステロン、エストラジオール、プロゲステロン、セレン等が挙げられる。さらに本培養方法では、上記培養を塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF:basic fibroblast growth factor)の存在下で行なうことを特徴とする。bFGFはヒト由来でも、その他の哺乳動物、例えばウシ、マウス、ラット由来であってもよく、組換体であってもよい。培養液に存在させるべきbFGFの濃度は特に限定されるものではないが、例えば0.01ng/ml~10μg/ml、好ましくは0.1ng/ml~100ng/ml、より好ましくは10ng/ml程度とする。 これらの培地での単離毛乳頭細胞の培養は、通常、培養皿を用い、5%CO2雰囲気下、37℃のインキユベーター内に静置して行い、アウトグロースが確認されたら、(初代培養)培地を交換してさらに培養を続けること(継代培養)により実施する。こうして得られる培養細胞はさらに必要な継代数にわたって、継代培養を行うことができる。継代は乳頭細胞の必要量が達成されるまで行なうことができ、たとえば10回以上の継代、必要量が多い場合は15回以上、さらに20回以上まで継代を行なうことができる。
(2)毛乳頭細胞培養上清の調製
前述の方法で採取した、付着性細胞培養用の培養器で培養を行い、接着性を示す細胞のコロニーを継代培養することによって毛乳頭細胞(HFDPC)を選択することができる。あるいは、細胞の大きさや形態に基づいて毛乳頭細胞を選択してもよい。選択した毛乳頭細胞(HFDPC)(4×105細胞)をDMEM/F12(Invitrogen-Gibco-BRL,Grand Island,NY) 無血清培地中で37℃、5%CO2下で培養した。この間培養皿底部に設置した超音波発生装置によって超音波刺激を与えた。なお超音波の照射条件は、超音波周波数1.5Mz、バースト幅200μsec、繰り返し周期、1.0KHz、超音波出力50、100、あるいは150mW/cm2 (各群n=3)、30分照射であった。培養72時間後に培養上清を回収し、300×gで5分間遠心し、0.22mmのシリンジフィルターを用いて濾過した。
なお、超音波刺激の効果を調べるため、対照として超音波を照射しない培養も行い、同様に培養上清を回収した。
以後、超音波を照射して得られた培養上清をUS-HFCM、超音波を照射しないで培養して得られた培養上清をR-HFCMと呼ぶ。
【0022】
組成物の調製:
US-SHEDCM原液1mlとUS-HFCM原液1mlを精製水48mlに混和し組成物50mlを得た(以下USと呼ぶ)。また、対照としてR-SHEDCM原液1mlとR-HFCM原液1mlを精製水48mlに混和し対照用組成物50mlを得た(以下Rと呼ぶ)。
【実施例2】
【0023】
段落0020に記載した方法によりUS-SHEDCM及びR-SHEDCMを得た。但し培養時の超音波照射時間については、30分、60分、90分あるいは2,880分とした。これらについてHGFの含有量をマイクロアレイ法により測定した。図1に超音波照射時間が0分(R-SHRDCM)、30分、60分、90分、2880分の培養上清のHGF含有量を示す。HGF含有量は超音波照射時間30分で最大値に達し、それ以後超音波照射を続けても上昇することは認められなかった。超音波照射は細胞に損傷を与える可能性もあり、生産に要する時間は短い方がコスト面からもリスクの回避という点からも望ましく、超音波照射時間は30分が最適であると結論した。
【実施例3】
【0024】
実施例1に記載の方法で調整したUS-SHEDCM及びR-SHEDCMのHGF及びSiglec-9の含有量並びにUS-HFCM及びR-HFCMの線維芽細胞増殖因子7(FGF7)の含有量を測定し比較した。なお、HGF及びSiglec-9の含有量はマイクロアレイ法で、FGF7の含有量はELIZA法で測定した。US-SHEDCMおよびUS-HFCMについては、超音波照射時の超音波出力が50、100、あるいは150mW/cmであったものについてそれぞれ、HGF、Siglec-9、あるいはFGF7を測定した。図2の(a)にHGF含有量の結果を、(b)にSiglec-9の含有量の結果を、(c)にFGF7の含有量の結果を示す。
HGF、Siglec-9及びFGF7のいずれも、超音波を照射しない培養上清よりも超音波を照射した培養上清で含有量が高く、超音波を照射した培養上清では、照射した超音波出力が100mW/cm2の培養上清が最も含有量が高く、150mW/cm2の培養上清がそれに続き、50mW/cm2の培養上清が最も低かった。
【実施例4】
【0025】
AGA脱毛症に対する効果:
AGA脱毛症患者に本願発明のかかる組成物を投与し、育毛効果を調査した。段落0022に記載したUS及び、Rを用いた。USについては、超音波照射において超音波出力を50mW/cm2として得られたUS-SHEDCMとUS-HFCMの混合組成物(US1と呼ぶ), 超音波出力を100mW/cm2として得られたUS-SHEDCMとUS-HFCMの混合組成物(US2と呼ぶ)、及び超音波出力を150mW/cm2として得られたUS-SHEDCMとUS-HFCMの混合組成物(US3と呼ぶ)を用いた。
効果試験は非盲検前向き観察で実施した。被験者は、AGA脱毛症と診断された18歳から75歳の成人男女で、治療前の臨床的重症度は軽度から重度の範囲であった。試験開始前の4週間と試験期間中、参加者は経口または外用の育毛剤の使用が禁止され、さらに試験期間中、脱毛に影響を及ぼす可能性のある毛髪治療を使用せず、普段の毛髪衛生習慣、食事、運動習慣および避妊法を変えないよう指示された。また、抗炎症剤、抗ヒスタミン剤、免疫抑制療法およびレチノイドの使用も試験期間中は禁止された。
被験者25名は男性14名、女性11名からなり、被験者の平均年齢は55.8歳(38歳~75歳)であった。
AGA患者のうち、治療群15名(男性9名、女性6名)にはUSを1日2回、8週間にわたって頭皮に塗布することによって投与した。1回当たりの投与量は、治療部位の面積および脱毛程度に応じて1ないし2mlとした。また対照群として10名(男性5名、女性5名)にはRを同量投与した。
【0026】
毛髪の再生状態は下記のスコアによって点数化した。
著明改善(5点):密度の高い毛髪成長(薄くなった領域がほぼ完全に被われている。頭皮における毛髪の密度は薄毛化していない領域とほぼ等しい)
中等度改善(4点):中等度の毛髪成長(薄くなった領域が、新発毛により部分的に被われているが、薄くならなかった領域に比べると密度は低く容易に識別 できる)
軽度改善(3点):軽微な毛髪成長(明確な毛髪成長がみられるが、薄くなった領域をかなり被うということはない)
不変(2点):可視的毛髪成長なし
悪化(1点):毛髪成長の後退
【0027】
治療群15名のうち13名は著明に改善(男性8.女性5)した。これらは全てUS2を投与した者であった。また2名(男性1.女性1)は中等度改善(US1投与)または軽度改善(US3投与)が認められた。治療群の毛髪改善スコアの平均点は4.8点であった。対照群10名は全員が軽度改善または不変であり毛髪改善スコアの平均点は2.6点であった。両群間には危険率1%で有意差が認められた(図3)。図4ないし11にそれぞれの代表例の写真を示す。なお代表症例左側が投与前の写真であり、右側が8週間投与後の写真である。図4ないし図8は超音波非照射のR-SHEDCMとR-HFCMを混合した組成物を投与した対照群であり、いずれも治療後は治療前と同程度か軽度の改善しか認められない。図9ないし図11は超音波を照射したUS-SHEDCMとUS-HFCMを混合した組成物を投与した治療群であり、いずれも著明な改善が認められる。以上に示される通り、本願発明に係る組成物は高い育毛効果を示した。
【実施例5】
【0028】
抗がん剤による脱毛に対する効果:
抗がん剤投与開始から少なくとも数日の間に本願発明に係る組成物の塗布を開始し8週間投与を続けた。被験者は20名であり内訳は男性10名、女性10名であった。被験者の平均年齢は61.8歳(25歳~79歳)であった。罹患しているがんの種類は白血病が15名、乳がんが4名、卵巣がんが1名であった。またがんの病期はII期が10名、III期が5名、IV期が5名であった。また、使用された抗がん剤は、アルキル化剤(CPA,CDDP,CBDCA)及び代謝拮抗剤(5-FU)、併用薬は タキソール、ブレオマイシン、シスプラチンであった。
被験者のうち治療群15名には段落0022に記載したUS1、US2、またはUS3を1日2回、8週間にわたって頭皮に塗布することによって投与した。1回当たりの投与量は、治療部位の面積および脱毛程度に応じて1ないし2mlとした。また対照群として5名にはRを同量投与した。
【0029】
治療結果は参加者本人の「聞き取り」によって得た。治療群15名のうち大いに改善したのは6名、中等度改善と答えたのは9名であり毛髪改善スコアの平均は4.4点であった。一方対照群5名は全員が変化なしと答え毛髪改善スコアの平均点は2点であった。両群間には危険率1%で有意差が認められた(図12)。
図13に超音波を照射して得られた培養上清を含む組成物US1,US2またはUS3あるいは超音波を照射せずに得られた培養上清を含む組成物Rの抗がん剤脱毛に対する改善結果を表す表を示す。US2を投与した被験者5名中4名が大いに改善し、1名が中程度に改善した。またUS1あるいはUS3を投与した各5名の被験者においてはいずれも1名が大いに改善し、4名が中程度に改善した。一方Rを投与した対照群の5名においては全員が変化なしであった。この結果は、超音波を照射しない培養上清Rは抗がん剤脱毛改善効果が認められないのに対し超音波を照射した培養上清US1,US2,及びUS3は顕著な改善効果を有することを示している。
【実施例6】
【0030】
白髪改善効果:
被験者は17名で、全員が男性であった。被験者のうち治療群10名には段落0023に記載したUS2を1日2回、8週間にわたって頭皮に塗布することによって投与した。1回当たりの投与量は、治療部位の面積に応じて1ないし2mlとした。また対照群として7名にはRを同量投与した。
【0031】
白髪改善程度の評価は、毛髪色の色差計による測定と皮膚科医及び毛髪診断士による観察を、組成物の使用後6か月間行うことによった。
【0032】
色差計による客観評価で、使用後1ヵ月から有意な黒色化が確認され、3ヵ月後及び6ヵ月後にはさらに黒色化することが確認された。図14に投与前の被験者の毛髪及びUS2あるいはRの投与終了後6か月の被験者の毛髪の色差計による測定値を示す。治療前に比べRを投与した場合もUS2を投与した場合も被験者の毛髪は黒くなったが、US2を投与した被験者の毛髪が最も黒くなっており、治療前の被験者の毛髪の黒色度とRを投与した被験者の毛髪の黒色程度の間、およびRを投与した被験者の毛髪の黒色程度とUS2を投与した被験者の毛髪の黒色程度の間には、それぞれ0.1%の危険率で有意差が認められた。また、皮膚科医及び毛髪診断士による観察評価でも、使用後3ヵ月で被験者の33.3%、6ヵ月で63.0%の改善が確認された。図15に47歳の男性の頭部の治療前(左)と治療6か月後(右)の写真を示す。この症例では、根元から約3cmが黒色化していることが確認された。このように、US2の白髪改善効果はRに比べ顕著に優れていることが示された。
【実施例7】
【0033】
しわ改善効果:
被験者は20名で、全員が女性であった。被験者の年齢は29歳から60歳であり平均年齢は48歳であった。被験者のうち治療群10名には段落0022に記載した組成物、US1,US2あるいはUS3を毎日入浴後30分以内に化粧は全て落として皮膚表面にスプレーし、手掌にて顔面全体に広げることにより投与した。組成物が乾燥した後(略15分後)に保湿クリームを塗布した。また対照群として10名にはRを同様に投与した。組成物の投与は、8週間継続した。
【0034】
しわ改善程度の評価は、デジタルマイクロスコープ(DINO-LITE PRO POLARIZER, サンコー(株),東京) を用いて顔の同一部分の画像を測定した。測定箇所は額, 頬, 顎の3か所とした。またしわ改善程度を主観的な判断で3段階(良い・中間・悪い)に区分した。なお、画像取得に際しては測定箇所近傍のみメイクを落として実施した。
【0035】
ヒトの肌の視覚的な印象は各個人により様々であり, 肌表面の凸凹形状や色合いなどから決定される。皮膚表面は比較的大きな凹凸皮溝と皮丘で形成される比較的小さな凹凸があるが, 小じわやキメは皮膚の見え方に影響するため、美容的観点から重要である。これらの性状は個人差だけでなく、季節、加齢、体調変化ななど肌を取り巻く環境によって変化する。肌の変化は, ヒトの目でも見れば明らかな場合が多いが、その評価は主観的であり、評価者の個人差も大きいなど肌の状態を適切に知る方法は極めて限定的である。
図16に再現性と簡便性に優れたマイクロスコープにより撮影した、治療前、8週間治療後の対照群(R群)および治療群(US群)の頬と前額のキメ画像を示す。視覚的にキメの良し悪しが確認できる。また図17にデジタルマイクロスコープで撮影した肌画像を用いて治療前と8週間組成物投与後の皮膚のキメを定量的に表したグラフを示す。治療前に比べ対照群(R群)、治療群(US群)共に平均輝度(Average Brightness)が増したが、治療群が最も輝度が高く、対照群とは危険率1%で有意差が認められた(図17a)。また、US1、US2及びUS3の効果を比較するとUS2が最も平均輝度の増加効果が高く、US1,US2の効果とは危険率1%で有意差が認められた(図17b)。
【0036】
図18ないし21に各症例の投与前(治療前)とUS2を8週間投与した後(治療後)の、US2をスプレーした部分の写真を示す。いずれも顕著な改善が認められる。以上に示される通り、本願発明に係る組成物は高いしわ改善効果を示した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本願発明に係る組成物は育毛剤、白髪改善剤、しわ改善効果を有する化粧品の創出に資するものである。
【要約】
【課題】育毛効果、白髪改善効果、及びしわ改善効果を有する組成物、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】ヒト乳歯歯髄幹細胞を、無血清培地を用い超音波刺激を与えて培養して得られる培養上清、及び毛乳頭細胞を、無血清培地を用い超音波刺激を与えて培養して得られる培養上清を含有することを特徴とする育毛効果、白髪改善効果及びしわ改善効果を有する組成物。乳歯歯髄幹細胞を、無血清培地を用いて超音波照射下で培養して得られる培養上清、及び毛乳頭細胞を、無血清培地を用い超音波照射下で培養して得られる培養上清を含有させることを特徴とする育毛効果、白髪改善効果、及びしわ改善効果を有する組成物の製造方法。
【選択図】図13
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
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