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特許7556630人工アジュバントベクター細胞と免疫賦活化剤との併用
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】人工アジュバントベクター細胞と免疫賦活化剤との併用
(51)【国際特許分類】
   A61K 35/12 20150101AFI20240918BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 39/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
A61K35/12
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61P43/00 121
A61P37/04
A61P35/00
A61K39/00 H
A61K39/39
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2024125691
(22)【出願日】2024-08-01
(62)【分割の表示】P 2021539277の分割
【原出願日】2020-08-07
【審査請求日】2024-08-02
(31)【優先権主張番号】P 2019147019
(32)【優先日】2019-08-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2020086468
(32)【優先日】2020-05-18
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【弁理士】
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】藤井 眞一郎
(72)【発明者】
【氏名】清水 佳奈子
【審査官】渡邉 潤也
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-83863(JP,A)
【文献】国際公開第2010/61930(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/97370(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/69697(WO,A1)
【文献】国際公開第2012/27328(WO,A2)
【文献】国際公開第2013/28231(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/112793(WO,A1)
【文献】特表2018-516548(JP,A)
【文献】国際公開第2018/64255(WO,A1)
【文献】LIU J. et al.,Blockade of TIM3 relieves immunosuppression through reducing regulatory T cells in head and neck cancer,Journal of Experimental & Clinical Cancer Research,2018年,37,44, p.1-8
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免疫賦活剤と併用される、人工アジュバントベクター細胞を含む医薬組成物であって、
人工アジュバントベクター細胞は、CD1dを発現し、CD1dリガンドによってパルスされており、かつ、抗原を発現し、かつ、免疫賦活剤が、抗OX40抗体を含む、医薬組成物。
【請求項2】
人工アジュバントベクター細胞が、CD1dをコードする外来の核酸および腫瘍抗原をコードする外来の核酸の少なくとも1つを有する、請求項1に記載の医薬組成物。
【請求項3】
CD1dリガンドが、α-ガラクトシルセラミドである、請求項1または2に記載の医薬組成物。
【請求項4】
人工アジュバントベクター細胞が、ヒト細胞である、請求項1~3のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項5】
賦形剤をさらに含む、請求項1~4のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項6】
非経口投与に適した剤型で製剤化された、請求項1~6のいずれか一項に記載の医薬組成物。
【請求項7】
人工アジュバントベクター細胞を含む医薬組成物と併用される、抗OX40抗体を含む免疫賦活剤であって、
前記人工アジュバントベクター細胞は、CD1dを発現し、CD1dリガンドによってパルスされており、かつ、抗原を発現する、免疫賦活剤。
【請求項8】
賦形剤をさらに含む、請求項7に記載の免疫賦活剤。
【請求項9】
(1)人工アジュバントベクター細胞を含む医薬組成物であって、
人工アジュバントベクター細胞は、CD1dを発現し、CD1dリガンドによってパルスされており、かつ、抗原を発現する医薬組成物と、
(2)抗OX40抗体を含む免疫賦活化剤と
を含む組合せ製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫チェックポイントに作用して免疫を賦活化する免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤、または免疫活性化剤)を含む、自然免疫を活性化することに用いるための組成物に関する。本発明はまた、人工アジュバントベクター細胞と免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)との併用に関する。
【背景技術】
【0002】
CD1dと標的タンパク質を共発現する細胞をCD1dリガンドでパルスして得られる細胞は、人工アジュバントベクター細胞(aAVC)と呼ばれ、投与された対象において自然免疫と、当該標的タンパク質に対する獲得免疫を誘発する(特許文献1~3および非特許文献1)。
【0003】
免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)の中で、免疫チェックポイント阻害剤は、免疫チェックポイント分子の働きを阻害することによってT細胞に対する抑制効果を弱めるまたは解除し、これにより免疫能を向上させて、がんや感染症に対する治療効果を奏することができる。免疫賦活剤は免疫を賦活させる製剤である。より具体的には、免疫チェックポイント阻害剤は、抗原特異的な細胞傷害性T細胞が免疫チェックポイント分子の働きによって受けた抑制を弱めるまたは解除することによって、抗原特異的な細胞傷害性T細胞ががん細胞や病原体により感染した細胞を殺傷することを促進することができる(特許文献4)。免疫活性化剤は抗原特異的な細胞傷害性T細胞の機能を高めることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2007/097370
【文献】WO2010/061930
【文献】WO2013/018778
【文献】WO2004/004771
【非特許文献】
【0005】
【文献】Shimizu K. et al., 2007, J. Immunol., Vol. 178, pp2853-2861
【発明の概要】
【0006】
本発明は、免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)を含む、自然免疫を活性化することに用いるための組成物を提供する。本発明はまた、人工アジュバントベクター細胞と免疫チェックポイント阻害剤との併用を提供する。
【0007】
本発明者らは、免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)が自然免疫に関与するインバリアントナチュラルキラーT細胞(iNKT細胞)を増加させ、かつ、抗原特異的細胞傷害性T細胞(CTL、またはCD8陽性T細胞)を増加させることを見出した。本発明者らは、免疫チェックポイント阻害剤と人工アジュバントベクター細胞(aAVC)との併用により、iNKT細胞を増加させ、かつ、aAVCに発現させた抗原に対する抗原特異的細胞傷害性T細胞(CTL、またはCD8陽性T細胞)を増加させることを見出した。本発明は、これらの知見に基づく。
【0008】
本発明によれば、以下の産業上利用可能な発明が提供される。
(1)免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)と併用される、人工アジュバントベクター細胞を含む医薬組成物であって、
人工アジュバントベクター細胞は、CD1dを発現し、CD1dリガンドによってパルスされており、かつ、抗原を発現する、医薬組成物。
(2)人工アジュバントベクター細胞が、CD1dをコードする外来の核酸および腫瘍抗原をコードする外来の核酸の少なくとも1つを有する、上記(1)に記載の医薬組成物。
(3)CD1dリガンドが、α-ガラクトシルセラミドである、上記(1)または(2)に記載の医薬組成物。
(4)免疫賦活剤が、抗PD-1抗体、抗Lag3抗体、抗TIM-3抗体、抗CTLA4抗体(以上、免疫チェックポイント阻害剤)、および抗OX40抗体、抗GITR抗体(以上、免疫賦活剤)から選択される少なくとも1つの抗体である、上記(1)~(3)のいずれかに記載の医薬組成物。
(5)免疫賦活剤が、上記(1)~(3)のいずれかに記載の医薬組成物。
(6)免疫賦活剤が、免疫を活性化するサイトカインである、上記(1)~(3)のいずれかに記載の医薬組成物。
(7)人工アジュバントベクター細胞または当該細胞を含む医薬組成物と併用される、免疫関連分子に作用して免疫を賦活化する免疫賦活剤であって、
人工アジュバントベクター細胞は、CD1dを発現し、CD1dリガンドによってパルスされており、かつ、抗原を発現する、医薬組成物。
(8)免疫チェックポイントに作用して免疫を賦活化する免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)と人工アジュバントベクター細胞との組合せ製剤であって、
人工アジュバントベクター細胞は、CD1dを発現し、CD1dリガンドによってパルスされており、かつ、抗原を発現する、組合せ製剤。
(9)免疫チェックポイントに作用して免疫を賦活化する免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)を含む、自然免疫を活性化させることに用いるための組成物。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、実施例における人工アジュバントベクター細胞(aAVC)と免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)(抗体:Ab)との併用のスキームを示す。
図2図2は、図1によるスキームで抗原としてのオボアルブミン(OVA)を発現したaAVCと表示された免疫チェックポイント阻害剤とを併用投与したマウスにおける抗原特異的細胞傷害性T細胞(CD8陽性T細胞またはCLT)のフローサイトメトリーを示す。
図3図3は、図2で得られた抗原特異的CTLの数および割合を示すグラフである。
図4図4は、図1によるスキームで抗原としてのオボアルブミン(OVA)を発現したaAVCと表示された免疫チェックポイント阻害剤とを併用投与したマウスにおけるインバリアントナチュラルキラーT細胞(iNKT細胞)のフローサイトメトリーを示す。
図5図5は、図4で得られたiNKT細胞の数および割合を示すグラフである。
図6図6は、実施例における人工アジュバントベクター細胞(aAVC)と免疫賦活化剤(IL-2)との併用のスキームを示す。
図7図7は、図6に示されるスキームにおいて14日目のマウスの脾臓中の抗原特異的T細胞の割合を示す。
図8図8は、図7の結果をグラフ化したものである。
図9図9は、実施例における人工アジュバントベクター細胞(aAVC)と免疫賦活化剤(記載されたサイトカイン)との併用のスキームを示す。
図10図10は、図7に示されるスキームにおいて14日目のマウスの脾臓中の抗原特異的T細胞の割合(%)を示す。
図11図11は、図10の結果(脾臓における抗原特異的T細胞の数)をグラフ化したものである。
図12図12は、図10の結果(脾臓における抗原特異的T細胞の割合(%))をグラフ化したものである。
図13図13は、図7に示されるスキームにおいて14日目のマウスの脾臓中のiNKT細胞の割合(%)を示す。
図14図14は、図7に示されるスキームにおいて14日目のマウスの脾臓中のiNKT細胞の数を示す。
【発明の具体的内容】
【0010】
本明細書では、「対象」とは、哺乳動物であり得、例えば、ヒトおよび非ヒト哺乳動物が含まれる。
【0011】
本明細書では、「処置」とは、治療的処置および予防的処置を含む意味で用いられる。本明細書では、「治療」とは、疾患もしくは状態の進行の遅延または停止、並びに疾患もしくは状態の改善および治癒を含む意味で用いられる。本明細書では「予防」とは、疾患または状態の発症を抑制すること、および、その発症率を低下させることを含む意味で用いられる。
【0012】
本明細書では、「人工アジュバントベクター細胞」(aAVC)とは、CD1dと抗原(例えば、がん抗原、ウイルス抗原、および微生物の抗原等の標的に発現する分子)を発現する細胞であって、CD1dでパルスされた細胞を意味する。CD1dでパルスされた細胞は、CD1dを発現する細胞をCD1dリガンドと共に培養することによって得られ得る。培養後、細胞に付着しなかったCD1dリガンドは、洗浄によって除去することができる。CD1dは、CD1ファミリーのタンパク質であり、MHCクラスI様の糖タンパク質である。CD1dは、糖脂質を提示して、例えば、iNKT細胞を活性化させ得る。CD1dとしては、例えば、ヒトのCD1d、例えば、GenBank登録番号:AAH27926.1の下で登録されたアミノ酸配列を有するタンパク質が挙げられる。CD1dリガンドは、CD1dに結合する糖脂質を意味する。CD1dリガンドとしては、例えば、α-GalCer(α-ガラクトシルセラミド)、α-C-GalCer(α-C-ガラクトシルセラミド)、iGB3(イソグロボトリヘキソシルセラミド)、GD3(ガングリオシド3)、GSL-1(α-結合型グルクロン酸)、GSL-1’SA(ガラクツロン酸)が挙げられ、CD1dリガンドとして用いられ得る。CD1dリガンドとしては、例えば、α-GalCer、α-C-GalCerが好ましく用いられ得る。
【0013】
aAVCは、哺乳動物に投与されると、iNKT細胞を活性化し、樹状細胞を成熟化させ、自然免疫を誘導すると共に獲得免疫を誘導する。aAVCがタンパク質を発現する場合、当該タンパク質に対する獲得免疫も誘導される。aAVCは、樹状細胞、がん細胞、およびそれ以外の細胞(例えば、体細胞)のいずれを用いても、自然免疫および獲得免疫を誘導する。aAVCは、投与対象と同種同系であっても同種異系であっても、対象において自然免疫および獲得免疫を誘導する。aAVCが同種異系の場合、対象において自然免疫および獲得免疫を誘導した後に、aAVC自体は、対象の免疫系により非自己として排除され得る。標的タンパク質をaAVCに発現させることによって、aAVCを投与された対象において、当該標的タンパク質特異的な獲得免疫を誘導させることができる。標的タンパク質は、aAVCにおいては、蛋白全長、或いは部分ペプチドである。aAVCは、CD1dを発現し、かつCD1dリガンドによってパルスされている。aAVCは、制御配列に作動可能に連結したCD1dをコードする外来性の遺伝子を有し得る。aAVCは、制御配列に作動可能に連結した標的タンパク質をコードする外来性の遺伝子を有し得る。aAVCは、内在性の標的タンパク質を発現し得る。
【0014】
本明細書では、「細胞」は、哺乳動物の細胞であり、例えば、ヒト細胞であり得る。細胞としては、樹状細胞および非樹状細胞が挙げられる。細胞としては、腫瘍細胞および非腫瘍細胞が挙げられる。細胞としては、がん細胞および非がん細胞が挙げられる。細胞としては、不死化細胞および初代細胞が挙げられる。細胞としては、体細胞およびそれ以外の細胞が挙げられる。細胞は、投与対象に対して、同種同系であってもよく、同種異系であってもよい。細胞としては、例えば、ヒト細胞およびヒト細胞株、例えば、ヒト胎児腎細胞株、例えば、HEK293細胞が挙げられる。
【0015】
本明細書では、「自然免疫」とは、貪食およびパターン認識により、侵入してきた異物や以上が生じた細胞を検知し、排除する仕組みである。自然免疫は、主に、好中球、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞(NK細胞)、ナチュラルキラーT細胞(NKT細胞)、および樹状細胞に担われる。これに対して、「獲得免疫」は、異物の特徴を記憶することによって、再侵入する異物を効果的に排除する仕組みである。獲得免疫は、主にT細胞(細胞傷害性T細胞(CTL)およびヘルパーT細胞)およびB細胞などのリンパ球が担う。獲得免疫は自然免疫の後で確立されるため、応答までに時間を要する。自然免疫において、末梢組織内に存在する樹状細胞は、病原体を貪食して取り込み、それらをペプチドに分解する。その後、リンパ節や脾臓への移動と成熟を経て、獲得免疫を司るT細胞に抗原ペプチドを提示する。そうすると、獲得免疫が誘導されて、当該抗原に対するキラーT細胞やB細胞が活性化し、異物への攻撃が始まる。このように、自然免疫は、樹状細胞を介して獲得免疫を誘導する。未成熟な樹状細胞は、抗原提示能を有さず、強力な貪食作用を有し、成熟すると、貪食作用が弱まり、抗原提示能が強まる。また、接着分子や共刺激分子を高発現し、強いT細胞活性化能を獲得する。aAVCは、自然免疫リンパ球であるインバリアントナチュラルキラーT細胞(iNKT細胞)の活性化を引き起こし、樹状細胞の成熟化を促すことで自然免疫と獲得免疫の両方を賦活化できるワクチンシステムである。aAVCは、iNKT細胞リガンド(例えば、α-GarCer)を結合したCD1dを介してiNKT細胞を活性化させるが、aAVC自体は体内で破壊されて樹状細胞に取り込まれる。また、aAVCは、腫瘍組織などにキラーT細胞をリクルートする。
【0016】
本明細書では、「抗体」は、免疫グロブリンを意味し、一対のジスルフィド結合で安定化された2本の重鎖(H鎖)と2本の軽鎖(L鎖)が会合した構造をとるタンパク質をいう。重鎖は、重鎖可変領域VH、重鎖定常領域CH1、CH2、CH3、及びCH1とCH2の間に位置するヒンジ領域からなり、軽鎖は、軽鎖可変領域VLと軽鎖定常領域CLとからなる。この中で、VHとVLからなる可変領域断片(Fv)が、抗原結合に直接関与し、抗体に多様性を与える領域である。また、VL、CL、VH、CH1からなる抗原結合領域をFab領域と呼び、ヒンジ領域、CH2、CH3からなる領域をFc領域と呼ぶ。
可変領域のうち、直接抗原と接触する領域は特に変化が大きく、相補性決定領域(complementarity-determining region: CDR)と呼ばれる。CDR以外の比較的変異の少ない部分をフレームワーク(framework region: FR)と呼ぶ。軽鎖と重鎖の可変領域には、それぞれ3つのCDRが存在し、それぞれN末端側から順に、重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3と呼ばれる。本明細書では、「抗A抗体」とは、Aに結合する抗体を意味する。抗A抗体は、Aに特異的に結合し得る。本明細書では、「Aに特異的に結合する」とは、Aに対してA以外の他のタンパク質に対する結合親和性よりも強い結合親和性を有することを意味する。
抗体は、モノクローナル抗体であっても、ポリクローナル抗体であってもよい。また、抗体は、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEのいずれのアイソタイプであってもよい。マウス、ラット、ハムスター、モルモット、ウサギ、ニワトリなどの非ヒト動物を免疫して作製したものであってもよいし、組換え抗体であってもよく、キメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト化抗体等であってもよい。キメラ型抗体とは、異なる種に由来する抗体の断片が連結された抗体をいう。
「ヒト化抗体」とは、非ヒト由来の抗体に特徴的なアミノ酸配列で、ヒト抗体の対応する位置を置換した抗体を意味し、例えば、マウス又はラットを免疫して作製した抗体の重鎖CDR1~3及び軽鎖CDR1~3を有し、重鎖及び軽鎖のそれぞれ4つのフレームワーク領域(FR)を含むその他のすべての領域がヒト抗体に由来するものが挙げられる。かかる抗体は、CDR移植抗体と呼ばれる場合もある。用語「ヒト化抗体」は、ヒトキメラ抗体を含む場合もある。
「ヒトキメラ抗体」は、非ヒト由来の抗体において、非ヒト由来の抗体の定常領域がヒトの抗体の定常領域に置換されている抗体である。ヒトキメラ抗体では、ADCC活性を高める観点では、例えば、定常領域に用いるヒトの抗体のサブタイプはIgG1とすることができる。
【0017】
本明細書において、「抗原結合フラグメント」とは、抗体のフラグメントであって、抗原への結合親和性を有するフラグメントをいう。具体的には、VL、VH、CL及びCH1領域からなるFab;2つのFabがヒンジ領域でジスルフィド結合によって連結されているF(ab’)2;VL及びVHからなるFv;VL及びVHを人工のポリペプチドリンカーで連結した一本鎖抗体であるscFvのほか、ダイアボディ(diabody)型、scDb型、タンデム(tandem) scFv型、ロイシンジッパー型などの二重特異性抗体等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
本明細書では、「免疫チェックポイント阻害剤」は、免疫チェックポイント分子によって引き起こされる免疫細胞の抑制を解除することによって免疫を賦活する薬剤を意味する。本明細書では、「免疫活性化剤」は免疫細胞を活性化する薬剤(例えば、T細胞を指摘する薬剤、特にCTLを刺激する薬剤、例えば、免疫共刺激分子を刺激する薬剤)を意味する。免疫活性化剤は、標的に対して選択的な薬剤であり得る。本明細書では、免疫チェックポイント阻害剤と免疫活性化剤を合わせて「免疫賦活剤」という。免疫チェックポイント分子としては、プログラム細胞死-1(PD-1)、細胞傷害性Tリンパ球関連タンパク質4(cytotoxic T-lymphocyte-associated protein 4;CTLA-4)、T細胞免疫グロブリンドメインおよびムチンドメイン-3(T-cell immunoglobulin domain and mucin domain-3、またはTIM-3)、リンパ球活性化遺伝子3(lymphocyte activation gene 3、またはLAG-3)、およびV型免疫グロブリンドメイン含有T細胞活性化抑制因子(V-type immunoglobulin domain-containing suppressor of T-cell activation、またはVISTA)が挙げられる。それぞれが担う免疫チェックポイントはPD-1系免疫チェックポイント、CTLA-4系免疫チェックポイント、TIM-3系免疫チェックポイント、LAG-3系免疫チェックポイント、およびVISTA系免疫チェックポイントとよばれる。免疫チェックポイント阻害剤は、例えば免疫チェックポイント分子又はそのリガンドに結合して、免疫チェックポイントの機能を阻害し得る。例えば、PD-1とPD-L1又はPD-L2との結合を阻害することにより、PD-1系免疫チェックポイントを阻害することができる。また、CTLA-4とCD80又はCD86との結合を阻害することにより、CTLA-4系免疫チェックポイントを阻害することができる。また、TIM-3とガレクチン-9との結合を阻害することにより、TIM-3系免疫チェックポイントを阻害することができる。また、LAG-3とMHCクラスII分子との結合を阻害することにより、LAG-3系免疫チェックポイントを阻害することができる。また、VISTAとVSIG-3/IGSF11との結合を阻害することにより、VISTA系免疫チェックポイントを阻害することができる。このようにして、PD-1系免疫チェックポイント、CTLA-4系免疫チェックポイント、TIM-3系免疫チェックポイント、Lag3系免疫チェックポイント、およびVISTA系免疫チェックポイントからなる群から選択される1以上の免疫チェックポイントを阻害することができる。2つのタンパク質の結合を阻害する抗体は、受容体またはリガンドに結合することができる。例えば、PD-1系免疫チェックポイントを阻害する抗体は、抗PD-1抗体、抗PD-L1抗体、および抗PD-L2抗体からなる群から選択される抗体(例えば、ニボルマブ、ペムプロリズマブ、アベルマブ、アテゾリズマブ、およびヂュルバルマブ)であり得る。また、CTLA-4系免疫チェックポイントを阻害する抗体は、抗CDLA-4抗体、抗CD80抗体、および抗CD86抗体からなる群から選択される抗体(例えば、イピリムマブ、およびトレメリムマブ)であり得る。また、TIM-3系免疫チェックポイントを阻害する抗体は、抗TIM-3抗体および抗ガレクチン-9抗体からなる群から選択される抗体(例えば、MGB453)であり得る。また、また、VISTA系免疫チェックポイントを阻害する抗体は、抗VISTA抗体および抗VSIG-3/IGSF11抗体からなる群から選択される抗体(例えば、JNJ-61610588)であり得る。
また、免疫共刺激分子としては、OX40およびグルココルチコイド誘発TNF関連タンパク質(Glucocorticoid-induced TNF-related protein、またはGITR)が挙げられる。GITRおよびOX40などの免疫共刺激分子については、各々のアゴニスト抗体(すなわち、GITRに結合するアゴニスト抗体およびOX40に結合するアゴニスト抗体)または各々のアゴニストにより刺激すると、キラーT細胞は活性化し、制御性T細胞は機能が抑制される。このようにして、免疫共刺激分子を刺激することができ、例えば、GITRおよびOX40からなる群から選択される1以上の免疫共刺激分子を刺激することができる。GITR免疫共刺激分子に対する免疫賦活剤(GITR免疫共刺激分子のアゴニスト抗体またはアゴニスト)は、抗GITR抗体およびGITRアゴニスト(例えば、TRX518、およびMEDI1873)であり得る。また、OX40免疫共刺激分子に対する免疫調整剤(OX40免疫共刺激分子のアゴニスト抗体またはアゴニスト)は、抗OX40抗体およびOX40アゴニスト(例えば、GSK3174998、MOXR0916、PF-04518600、およびMEDI0562)であり得る。その他、抗OX40アゴニスト抗体としては、WO2012027328A、WO2013028231A、WO2015153514A、およびWO2015095423Aに記載される抗OX40アゴニスト抗体のいずれかを用い得る。
【0019】
免疫活性化剤は、免疫を活性化する医薬であり得る。免疫を活性化する医薬は、免疫を活性化するサイトカイン、例えば、T細胞を活性化するサイトカイン(例えば、T細胞を活性化するインターロイキン)を含んでいてもよい。免疫を活性化するサイトカインとしては、IL-2などのサイトカインが挙げられる。IL-2は、Th1サイトカインと呼ばれるグループに分類されるサイトカインであり、主に活性化したT細胞から産生される。ヒトIL-2タンパク質は、例えば、NBCI参照番号:NP_000577.2として登録されたアミノ酸配列を有し得る。そして、ヒトIL-2は、例えば、NBCI参照番号:NP_000577.2として登録されたアミノ酸配列に対応する配列を有するIL-2であり得る。NBCI参照番号:NP_000577.2として登録されたアミノ酸配列のうち、1~20番目のアミノ酸は、シグナル配列であるとされ、成熟したIL-2は、21~153番目のアミノ酸配列を有する。従って、細胞内で発現させるときには、シグナル配列を含むIL-2をコードする核酸を細胞に導入し、タンパク質として投与するときには、シグナル配列を含まないIL-2を用いることができる。
【0020】
また、免疫を活性化する医薬としては、IL-2、IL-2/抗IL-2抗体複合体、IL-7、IL-15、IL-15/抗IL15Rα抗体複合体、IL-12、IL-18、IL-21、IL-23、およびIL-27からなる群から選択される因子が挙げられ、本発明においてaAVCと併用し得る。
【0021】
IL-2/抗IL-2抗体複合体は、インターロイキン-2(IL-2)と抗IL-2抗体(すなわち、IL-2に結合する抗体)との複合体である。IL-2は、IL-2受容体に結合して、IL-2媒介T細胞増殖などを惹起する因子である。抗IL-2抗体には、免疫を抑制する制御性T細胞(Treg)誘導抗体とエフェクターT細胞を誘導する免疫賦活化タイプの2種類がある。前者の抗IL-2抗体(マウスであればJES6-1、ヒトであれば5344)の場合は、IL-2受容体α鎖(CD25(IL-2Rα))強発現細胞に結合しやすい抗体であり、その複合体はTregに作用する。後者の抗IL-2抗体(例えば、マウスであればS4B6、ヒトであればMAB602、或いはTCB2)の場合は、IL-2受容体β鎖(CD122(IL-2Rβ))の発現の高い細胞に結合しやすい抗体であり、その複合体は、エフェクターおよびメモリーT細胞(例えば、CD4T細胞およびCD8T細胞)ならびにNK細胞に作用すると報告されている(PNAS 2010,107:11906,PNAS 2010,107:2171)。本発明では、IL-2受容体β鎖を高発現する細胞に対してより強く結合する抗体、例えば、IL-2受容体β鎖を高発現する細胞に対してより強く結合し、IL-2機能を増強する抗体(例えば、エフェクターまたはメモリーT細胞およびNK細胞から選択される細胞に作用する抗体または当該細胞を誘導する抗体)をIL-2との複合体形成に用いることができる。また、可溶型IL-2のin vivoでの半減期は数時間と短いが、IL-2/抗IL-2抗体複合体の半減期は延長することも報告されている。よって、IL-2受容体β鎖に結合する抗体とIL-2との複合体を使用することでIL-2の機能が増強される。特に、IL-2と抗IL-2抗体は、あらかじめ複合体形成をさせた形態で投与され得る。このようにIL-2は、抗IL-2抗体と複合体を形成した形態で投与され得る。IL-2は、ヒトIL-2であり得、かつ、抗体は、抗ヒトIL-2抗体であり得、ヒトキメラ抗体、ヒト化抗体、またはヒト抗体であり得る。ヒトIL-2は、例えば、GenBank登録番号:AAB46883.1で登録されたアミノ酸配列を有するIL-2またはこれに対応するアミノ酸配列を有するヒトIL-2が挙げられる。本明細書では、「アミノ酸配列Xと対応するアミノ酸配列を有する」とは、アミノ酸配列Xを有するタンパク質の機能を保持する当該タンパク質のホモログ(例えば、天然のホモログ)を含む意味で用いられる。
【0022】
インターロイキン-7(IL-7)は、T細胞の発生とナイーブおよびメモリーCD8陽性T細胞の維持に重要な役割を果たすサイトカインである。IL-7は、ヒトIL-7であり得る。ヒトIL-7は、例えば、GenBank登録番号:AAH47698.1で登録されたアミノ酸配列を有するIL-7またはこれに対応するアミノ酸配列を有するヒトIL-7が挙げられる。
【0023】
インターロイキン-15(IL-15)は、IL-2と同様に、T細胞活性化および増殖に関与するサイトカインである。IL-15は、ヒトIL-15であり得る。ヒトIL-15は、例えば、GenBank登録番号:CAA71044.1で登録されたアミノ酸配列を有するIL-15またはこれに対応するアミノ酸配列を有するヒトIL-15が挙げられる。
【0024】
IL-15/IL-15Rα複合体について説明する。IL-15は、上述の通りT細胞活性化するサイトカインである。またIL-15Raは、IL-15が結合する受容体である。IL-15はIL-15Raに結合した状態でエフェクターおよびメモリーT細胞(例えば、CD4T細胞およびCD8T細胞)ならびにNK細胞に提示されると、これらの細胞に対してより強力に刺激が入る(この現象は“trans-presentation”と呼ばれる)ことが知られている(Dubois S et al. Immunity 2002, 17:537)。また、IL-15とIL-15Raの複合体にすることにより、IL-15の半減期が延長するといわれいる(Guo Y et al. Cytokine Growth Factor Rev 2017, 38:10)。従って、IL-15は、IL-15Raとの複合体として対象に投与することができる。このように、IL-15は、IL-15Raとの複合体の形態で対象に投与され得る。IL-15Raは、ヒトIL-15Raであり得、例えば、GenBank登録番号:CAG33345.1で登録されたアミノ酸配列を有するIL-15Raまたはこれに対応するアミノ酸配列を有するヒトIL-15Raが挙げられる。
【0025】
インターロイキン-12(IL-12)は、IL-12AとIL-12Bとのヘテロ二量体である。IL-12はT細胞とNK細胞の活性化や分化誘導に関与するとされる。IL-12は、ヒトIL-12(すなわち、ヒトIL-12サブユニットαとヒトIL-12サブユニットβとのヘテロ二量体)であり得る。ヒトIL-12Aは、35kDaのタンパク質であり得、例えば、GenBank登録番号:AAI04985.1で登録されたアミノ酸配列を有するIL-12Aまたはこれに対応するアミノ酸配列を有するヒトIL-12Aが挙げられる。ヒトIL-12Bとしては、例えば、GenBank登録番号:EAW61576.1で登録されたアミノ酸配列を有するIL-12Bまたはこれに対応するアミノ酸配列を有するヒトIL-12Bが挙げられる。IL-12は、IL-12AとIL-12Bとを複合体化することによって提供され得る。
【0026】
インターロイキン-18(IL-18)は、インターフェロンγを誘導するサイトカインである。IL-12と機能的な共通性を有するとされる。IL-18は、24kDaの前駆体として細胞内に存在するが、活性型カスパーゼ-1によって切断されると成熟型の18kDaのサイトカインとして細胞外に放出される。本発明では、IL-18としては、この成熟型のIL-18を用いることができる。IL-18は、ヒトIL-18であり得、ヒトIL-18としては、UniProtKB/Swiss-Prot登録番号:Q14116.1で登録されたアミノ酸配列を有するヒトIL-18またはまたはこれに対応するアミノ酸配列を有するヒトIL-18が挙げられる。
【0027】
インターロイキン-21(IL-21)は、IL-2およびIL-15と相同性を有するI型サイトカインである。IL-21は、主に活性化したT細胞から産生される。IL-21としては、ヒトIL-21が挙げられる。ヒトIL-21としては、例えば、GenBank登録番号:EAX05226.1で登録されたアミノ酸配列を有するIL-21またはこれに対応するアミノ酸配列を有するヒトIL-21が挙げられる。
【0028】
インターロイキン-23(IL-23)は、IL-23サブユニットαとIL-12のp40サブユニットから構成されるサイトカインである。IL-23は、TH17細胞と呼ばれるT細胞サブセットの産生と生存を促進するとされる。IL-23は、ヒトIL-23であり得る。ヒトIL-23Aとしては、例えば、NCBI参照配列:NP_057668.1で登録されたヒトIL-23サブユニットα前駆体(アミノ酸番号1~189)のアミノ酸配列の20~189番目のアミノ酸配列またはこれに対応するアミノ酸配列を有するIL-23サブユニットαであり得る。IL-23サブユニットαとIL-12のp40サブユニットは、複合体として提供され得る。
【0029】
インターロイキン-27(IL-27)は、インターロイキン-30(IL-30)とインターロイキン-27のエプスタイン・バー・ウイルス誘導遺伝子3(EBI3)サブユニットとのヘテロダイマーである。IL-27は、抗原特異的なナイーブCD4陽性T細胞の増殖やTh1表現型への分化促進に関与するとされる。IL-30は、ヒトIL-30であり得、ヒトIL-30は、例えば、UniProtKB/Swiss-Prot登録番号:Q8NEV9.2で登録されるアミノ酸配列(アミノ酸番号1~28はシグナル配列であるとされている)を有するヒトIL-30またはこれに対応するアミノ酸配列を有するヒトIL-30であり得る。また、IL-27のEBI3サブユニットは、ヒトIL-27のEBI3サブユニットであり得、ヒトIL-27のEBI3サブユニットは、UniProtKB/Swiss-Prot登録番号:Q8K3I6.1で登録されるアミノ酸配列(アミノ酸番号1~28はシグナル配列であるとされている)を有するヒトIL-27のEBI3サブユニットまたはこれに対応するアミノ酸配列を有するヒトIL-27のEBI3サブユニットであり得る。
【0030】
ある態様では、IL-2、IL-7、IL-15、IL-12、IL-18、IL-21、IL-23、およびIL-27からなる群から選択されるサイトカインは、いずれからもシグナルペプチドが切除されていてよい。
【0031】
本発明者らは、免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)とaAVCを併用すると、aAVCが発現する抗原に対する抗原特異的CTLの数および割合が増加することを見出した。本発明者らはまた、免疫チェックポイント阻害剤とaAVCを併用すると、iNKT細胞の数およびその割合が増加することを見出した。免疫チェックポイント阻害剤の作用は、抗原特異的CTLの免疫チェックポイントを阻害することにより、CTLの本来の作用を引き出すことであると考えられる。本発明者によれば、免疫チェックポイント阻害剤は、自然免疫系のリンパ球を増加させ、抗原特異的CTLを増加させた。
【0032】
本発明によれば、免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)は、自然免疫を活性化させることができ、抗原特異的CTLを誘導することができる。したがって、本発明によれば、免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)を含む、自然免疫を活性化させることに用いるための、および/または、抗原特異的CTLを誘導することに用いるための組成物が提供される。ここで、抗原特異的CTLを誘導するとは、抗原特異的CTLの数および割合を増加させることを意味する。
【0033】
本発明によれば、免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)は、aAVCによる抗原特異的CLTおよびiNKT細胞の誘導能を増強することができる。したがって、本発明によれば、
(a)免疫チェックポイント阻害剤と併用される、人工アジュバントベクター細胞を含む医薬組成物であって、
人工アジュバントベクター細胞は、CD1dを発現し、CD1dリガンドによってパルスされており、かつ、腫瘍抗原を発現する、医薬組成物;
(b)人工アジュバントベクター細胞または当該細胞を含む医薬組成物と併用される、免疫チェックポイント阻害剤であって、
人工アジュバントベクター細胞は、CD1dを発現し、CD1dリガンドによってパルスされており、かつ、腫瘍抗原を発現する、医薬組成物;
(c)免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)と人工アジュバントベクター細胞との組合せ製剤であって、
人工アジュバントベクター細胞は、CD1dを発現し、CD1dリガンドによってパルスされており、かつ、腫瘍抗原を発現する、組合せ製剤{ここで、組合せ製剤は、免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)と人工アジュバントベクター細胞を含む、医薬組成物であってもよい};および
(d)免疫チェックポイント阻害剤を含む、自然免疫を賦活化させることに用いるための医薬組成物、または、免疫チェックポイント阻害剤を含む、抗原特異的CTLを増加させることに用いるための医薬組成物
が提供される(上記(a)~(d)を総称して本発明の医薬ということがある)。
【0034】
上記(a)および(b)の医薬組成物並びに上記(c)に記載の組合せ製剤においては、人工アジュバントベクター細胞は、内在性のCD1dを発現することができる。また、人工アジュバントベクター細胞は、外来性のCD1dを発現していてもよい。外来性のCD1dは、外来のCD1dをコードする核酸を導入することによって、人工アジュバントベクター細胞に発現させることができる。核酸が、DNAである場合には、当該DNAはプロモーターに作動可能に連結されている。核酸は、mRNAであってもよい。内在性のCD1dが高発現している場合には、人工アジュバントベクター細胞には、外来性CD1dを導入する必要はない。
人工アジュバントベクター細胞は、抗原を発現していてもよい。抗原としては、腫瘍抗原や侵入してきた異物の抗原が挙げられる。
【0035】
腫瘍抗原は、正常細胞と比較して腫瘍において多く発現している抗原である。腫瘍抗原は、好ましくは、腫瘍において、表面分子数において、正常細胞の2倍、3倍、4倍、5倍、6倍、7倍、8倍、9倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、200倍、300倍、400倍、500倍、600倍、700倍、800倍、900倍、および1,000倍以上高く発現している抗原とすることができる。腫瘍抗原としては、上皮性及び非上皮性腫瘍を含む固形腫瘍、造血組織における腫瘍の抗原が挙げられる。腫瘍抗原としては、特に限定されないが例えば、MART-1、ZMelan-A、Mage-1、Mage-3、gpl00、チロシナーゼ、CEA、PSA、CA-125 erb-2、Muc-1、Muc-2、TAG-72、AES、FBP、Cレクチン、NY-ESO-1、galectin-4/NY-CO-27、Pec60、HER-2/erbB-2/neu、テロメラーゼ、G250、Hspl05、点変異ras癌遺伝子、点変異p53癌遺伝子、および癌胎児性抗原などのオンコアンチゲン並びにネオアンチゲンが挙げられる(例えば、特開2005-139118号公報、特開2004-147649号公報、特開2002-112780号公報、特開2004-222726号公報を参照)。造血組織における腫瘍(例、白血病)の抗原としては特に限定されないが、例えば、proteinase3、WT-1、hTERT、PRAME、PML/RAR-a、DEK/CAN、シクロフイリン、TEL-MAL1、BCR-ABL、OFA-iLRP、Survivin、idiotype、Sperm protein 17、SPAN-Xb、CT27、およびMUC1が挙げられる。
【0036】
侵入してきた異物の抗原としては、病原体抗原が挙げられる。病原体抗原は、病原性ウイルス抗原、病原性微生物抗原、又は病原性原生動物抗原であり得る。病原性ウイルス抗原としては特に限定されないが、例えば、GP-120、pl7、GP-160(以上、HIV)、NP、HA(以上、インフルエンザウイルス)、HBs Ag、HBVエンベロープタンパク質、コアタンパク質、ポリメラーゼタンパク質、NS3、NS5(以上、肝炎ウイルス)、HSVdD(単純へルぺスウイルス)、EBNA1、2、3A、3B及び3C、LMP1及び2、BZLF1、BMLF1、BMRF1、BHRF1(以上、EBウイルス)、Tax(HTLV-I)、SARS-CoVスパイクタンパク質(SARSウイルス)、CMV pp50、CMV pp65、IE-1(以上、CMV)、E6、E7タンパク質(以上、HPV)が挙げられる(例えば、特開2004-222726号公報参照)。病原性微生物抗原としては、例えば、病原性細菌(例、クラミジァ、ミコバクテリア、レジオネラ)、病原性酵母(例、アスペルギルス、カンジダ)に発現している抗原が挙げられる。病原性原生動物抗原としては、例えば、マラリア、住血吸虫に発現している抗原が挙げられる。
【0037】
人工アジュバントベクター細胞は、単離された細胞または精製された細胞であり得る。人工アジュバントベクター細胞は、細胞株であってもよい。人工アジュバントベクター細胞は、ヒトまたは非ヒト動物(例えば、非ヒト哺乳動物、および非ヒト霊長類)の細胞であり得る。非ヒト動物としては、サル、チンパンジー、ゴリラ、オランウータン、ボノボ、イヌ、ネコ、ウシ、ブタ、ヒツジ、ウマ、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、およびウサギが挙げられる。人工アジュバントベクター細胞は、投与対象に対して、自己細胞であっても、同種異系細胞であっても、異種細胞であってもよい。最終的には、樹状細胞に貪食されるためである。
【0038】
人工アジュバントベクター細胞は、体細胞であり得る。体細胞としては、胃、小腸 (例、十二指腸、空腸、回腸、結腸)、大腸、直腸、肺、脾臓、腎臓、肝臓、胸腺、脾臓、甲状腺、副腎、前立腺、卵巣、子宮、骨髄、皮膚、末梢血が挙げられる。本発明の細胞はまた、上記組織における特定の細胞種又は上記組織以外の組織に存在する細胞種であり得る。このような細胞種としては、例えば、上皮細胞、内皮細胞、表皮細胞、間質細胞、繊維芽細胞、脂肪細胞、乳腺細胞、メサンギウム細胞、脾臓細胞、神経細胞、グリア細胞、免疫細胞(例、T細胞、B細胞、NK細胞、NKT細胞、マクロファージ、肥満細胞、好中球、好塩基球、好酸球、単球)、ならびにこれら細胞の前駆細胞及び幹細胞が挙げられる。
【0039】
人工アジュバントベクター細胞に発現する抗原は、当該細胞に由来する抗原であってもよいし、外来に導入された抗原であってもよい。人工アジュバントベクター細胞に発現する抗原が、当該細胞に由来する抗原である場合には、人工アジュバントベクター細胞は、例えば、腫瘍細胞、または病原体感染細胞から作成することができる。病原体感染細胞としては、ウイルス感染細胞、微生物感染細胞、および原生生物感染細胞が挙げられる。
【0040】
人工アジュバントベクター細胞は、非形質転換体であっても形質転換体であってもよい。形質転換とは、人為的な遺伝子導入をいう。例えば、DNAやmRNAが外来的に導入された細胞は、形質転換体という。人工アジュバントベクター細胞が、CD1dおよび抗原を内在的に発現している場合、人工アジュバントベクター細胞は、形質転換をせずに作成することができる。
【0041】
人工アジュバントベクター細胞は、抗原提示細胞(APC)または非APCから作製することができる。APCとしては、例えば、樹状細胞、マクロファージ、B細胞、ランゲルハンス細胞、および活性化T細胞が挙げられる。
【0042】
人工アジュバントベクター細胞は、CD1dリガンドでパルスして作成することができる。CD1dリガンドによる細胞のパルスは、培地中でCD1dを発現する細胞をCD1dリガンド存在下で培養することによって行うことができる。このようにすることによって、標的抗原を発現し、かつCD1dを発現する細胞にCD1dリガンドを提示させることができる。標的抗原を発現し、かつCD1dを発現する細胞がCD1dリガンドを提示すると、標的抗原に対する免疫活性化が生体内において生じ得る。
【0043】
培地としては、細胞の培養に用いることができる培地を適宜用いることができる。培地としては、MEM培地、DMEM培地、αMEM培地、ハム培地 RPMI1640培地、Fischer’s培地、およびこれらの混合培地が挙げられる。培地は、例えば、血清(例えば、FCS)、血清代替物(例えば、knockout Serum Re placement (KSR))、脂肪酸又は脂質、アミノ酸、ビタミン、増殖因子、サイトカイン、抗酸化剤、2-メルカプトエタノール、ピルビン酸、緩衝剤、および無機塩類等からなる群から選択される追加の成分を含むことができる。
【0044】
外来性のCD1dをコードする核酸、および外来性の抗原をコードする核酸は、遺伝子発現ベクターを用いて細胞に導入することができる。外来性のCD1dをコードする核酸、および外来性の抗原をコードする核酸は、1つの遺伝子発現ベクター内に含まれていてもよいし、別々の遺伝子発現ベクター内に含まれていてもよい。外来性のCD1dをコードする核酸、および外来性の抗原をコードする核酸が1つの遺伝子発現ベクター内に含まれている場合には、1つのmRNAとして転写されるようにポリシストロニックにmRNAに含まれていてもよいし、別々のmRNAとして転写されるようにモノシストロニックにmRNAに含まれていてもよい。2つの遺伝子がポリシストロニックにmRNAに含まれる場合には、それぞれの遺伝子の間に内部リボソームエントリーサイト(IRES)を介在させることができる。外来性のCD1dをコードする核酸、および外来性の抗原をコードする核酸は、細胞内でのmRNAへの転写に適したプロモーターに作動可能に連結させ得る。プロモーターは、細胞内で転写を誘導するために十分な最小の配列を意味する。プロモーターとしては、ウイルスプロモーター、哺乳動物プロモーター、および酵母プロモーター(例えば、哺乳動物CMVプロモーター、酵母アルコールオキシダーゼ、ホスホグリセロキナーゼプロモーター、ラクトース誘導性プロモーター、ガラクトシダーゼプロモーター、アデノ随伴ウイルスプロモーター、バキュロウイルスプロモーター、ポックスウイルスプロモーター、レトロウイルスプロモーター、アデノウイルスプロモーター、SV40プロモーターHMG(ヒドロキシメチルグルタリルコエンザイムA)プロモーター、TK(チミジンキナーゼ)プロモーター、7.5KまたはH5Rポックスウイルスプロモーター、アデノウイルス2型MPC後期プロモーター、αアントリプシン(antrypsine)プロモーター、第IX因子プロモーター、免疫グロブリンプロモーター、CFTRサーファクタントプロモーター、アルブミンプロモーター、およびトランスフェリンプロモーター)が挙げられる。外来性のCD1dをコードする核酸、および外来性の抗原をコードする核酸は、mRNAであり得、例えば、上記mRNAであり得る。mRNAは、コードするタンパク質の翻訳に必要な要素を含み、細胞に導入されると、コードするタンパク質の翻訳を誘発する。細胞への遺伝子の導入は、常法によって行うことができる。
【0045】
本発明では、免疫賦活剤のうち、免疫チェックポイント阻害剤としては、PD-1系免疫チェックポイント阻害剤、CTLA-4系免疫チェックポイント阻害剤、TIM-3系免疫チェックポイント阻害剤、Lag3系免疫チェックポイント阻害剤、およびVISTA系免疫チェックポイント阻害剤が挙げられる。また、免疫賦活剤のうち、免疫活性化剤としては、GITRに対する免疫活性化剤およびOX40に対する免疫活性化剤(例えば、各々のアゴニストおよび各々のアゴニスト抗体としてのGITR抗体、およびOX40抗体から選択される1以上の抗体)が挙げられる。本発明では、より好ましくは、OX40に対する免疫活性化剤であるOX40抗体であり得る。
【0046】
本発明では、aAVCと免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)は、同時に投与されてもよく、別々に投与されてもよい。本発明では、aAVCの投与は、単回投与でもよく、複数回投与でもよい。本発明では、免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)の投与は、単回投与でもよく、複数回投与でもよい。本発明のある態様では、aAVCの投与は、単回投与であり、免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)の投与は、複数回投与であり得る。
【0047】
本発明では、aAVCと免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)とは、一つのパッケージにおいて提供されてもよく、別々のパッケージにおいて提供されてもよい。一つのパッケージにおいて提供される場合には、aAVCと免疫チェックポイント阻害剤とは、同一の医薬組成物中に混合されていてもよく、別々の医薬組成物中に別々に含まれていてもよい。本発明のある態様では、aAVCと免疫チェックポイント阻害剤とは、別々のパッケージに別々に提供される。本発明のある態様では、aAVCと免疫チェックポイント阻害剤は、一つのパッケージ内に別々の医薬組成物に別々に含まれる。本発明のある態様では、aAVCおよび/または免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)と、aAVCと免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)を併用することについての指示とを含む添付文書と、をさらに含み伴い得る。
【0048】
本発明のある態様では、aAVCは、凍結状態で提供され得る。本発明のある態様では、免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)は、点滴剤または注射剤として提供され得る。本発明のある態様では、aAVCは、凍結状態でガンマ線滅菌された状態で提供され得る。
【0049】
本発明によればまた、免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)を含む、自然免疫(特にiNKT細胞)を賦活化させることに用いるための医薬組成物が提供される。自然免疫(特にiNKT細胞)を賦活化させると、抗原特異的CTLが増加しうる。したがって、本発明によれば、また、免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)を含む、抗原特異的CTLを増加させることに用いるための医薬組成物が提供される。本発明によれば、抗原特異的CTLの増加は、自然免疫の賦活化を介して生じ得る。本発明によれば、この態様において、免疫チェックポイント阻害剤としては、PD-1系免疫チェックポイント阻害剤、CTLA-4系免疫チェックポイント阻害剤、TIM-3系免疫チェックポイント阻害剤、Lag3系免疫チェックポイント阻害剤、およびVISTA系免疫チェックポイント阻害剤からなる群から選択される1以上の免疫チェックポイント阻害剤(例えば、抗体)が挙げられる。この態様においてはまた、GITR、およびOX40からなる群から選択される1以上の免疫共刺激分子の活性化剤(例えば、OX40L、アゴニストまたはアゴニスト抗体)が挙げられ、特にOX40の活性化剤(例えば、OX40L、OX40のアゴニストまたはアゴニスト抗体)であり得る。
本発明のある態様では、自然免疫(特にiNKT細胞)を賦活化させることに用いるための医薬組成物は、iNKT細胞を増殖させることに用いるための医薬組成物であり得る。本発明のある態様では、自然免疫(特にiNKT細胞)を賦活化させることに用いるための医薬組成物またはiNKT細胞を増殖させることに用いるための医薬組成物は、抗PD-1抗体、抗Lag3抗体、抗VISTA抗体、抗OX40抗体、および抗CTLA4抗体からなる群から選択される免疫賦活化剤(例えば、アゴニスト抗体である抗OX40抗体)を含むものであり得る。
本発明のある態様では、抗原特異的CTLを増加させることに用いるための医薬組成物は、抗PD-1抗体、抗TIM-3抗体、抗CTLA4抗体、および抗OX40抗体からなる群から選択される免疫賦活化剤(例えば、アゴニスト抗体である抗OX40抗体)を含むものであり得る。
OX40のアゴニスト抗体は、例えば、OX40に結合する抗体を産生するハイブリドーマを、当該ハイブリドーマが産生する抗体のOX40に対する親和性によってスクリーニングし、その後、得られたOX40抗体をNF-κB応答エレメントの制御下でレポーター(例えば、ルシフェラーゼ)遺伝子を発現するOX40発現細胞(例えば、HEK293細胞)を用いてルシフェラーゼ活性の向上を指標として選択することができる。このような試験系は、例えば、BPS Bioscienceから購入することができる(Catalog # 60482)。
【0050】
本発明の免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)は、賦形剤をさらに含みうる。本発明のaAVCは、賦形剤をさらに含みうる。賦形剤としては、それぞれ適したものを含むことができる。本発明の免疫チェックポイント阻害剤は、静脈内投与、腫瘍内投与、皮下投与、および腹腔内投与などの非経口投与により投与することができ、これらの投与経路に適した剤型で製剤化されうる。本発明のaAVCは、静脈内投与、腫瘍内投与、皮下投与、および腹腔内投与などの非経口投与により投与することができ、これらの投与経路に適した剤型で製剤化されうる。
【0051】
本発明の医薬は、がんおよび/または感染症の処置に用いることができる。がんとしては、例えば、固形腫瘍(例、上皮性腫瘍、非上皮性腫瘍)、造血組織における腫瘍が挙げられる。より詳細には、本発明の医薬により処置され得る固形腫瘍としては、例えば、消化器がん(例、胃がん、結腸がん、大腸がん、直腸がん)、肺がん(例、小細胞がん、非小細胞がん)、脾臓がん、腎臓がん、肝臓がん、胸腺がん、脾臓がん、甲状腺がん、副腎がん、前立腺がん、膀胱がん、卵巣がん、子宮がん(例、子宮内膜がん、子宮頸がん)、骨がん、皮膚がん、肉腫(例、カポジ肉腫)、黒色腫、芽細胞腫(例、神経芽細胞腫)、腺がん、扁平細胞がん、非扁平細胞がん、脳腫瘍、ならびにこれらの固形腫瘍の再発及び転移によるがんが挙げられる。本発明の医薬により処置され得る、造血組織における腫瘍としては、白血病(例、急性骨髄性白血病(AML)、慢性骨髄性白血病(CML)、急性リンパ球性白血病(ALL)、慢性リンパ球性白血病(CLL)、成人T細胞白血病リンパ腫(ATL)、骨髄異形成症候群(MDS))、リンパ腫(例、Tリンパ腫、Bリンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫)、骨髄腫(多発性骨髄腫)、ならびにこれらの腫瘍の再発および転移によるがんが挙げられる。本発明の医薬により処置され得る感染症としては、例えば、上述の病原体により引き起こされる感染症が挙げられる。
【0052】
本発明によれば、その必要のある対象において、がんまたは感染症を処置する方法であって、前記対象に、免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)を投与することと、aAVCを投与することを含む方法が提供される。aAVCは、処置されるがんまたは感染症(感染症の原因となる異物)に特異的な抗原を発現するものとすることができる。本発明によれば、本発明の医薬を投与することができる。ある態様では、本発明の医薬の投与は、細胞傷害性T細胞の数の増加が確認されるまで行うことができる。ある態様では、本発明は、本発明の医薬を投与した後に、細胞傷害性T細胞の数を測定することをさらに含み得る。ある態様では、本発明は、本発明の医薬を投与した後に、投与対象において細胞傷害性T細胞の数の増加を検出することを含み得る。細胞傷害性T細胞は、aAVCが発現した抗原に対する抗原特異性を有し得る。ある態様では、治療上有効量は、がんまたは感染症に対して治療上の有効性を示す量であるが、投与対象において細胞傷害性T細胞を増加させる量とすることができる。
【0053】
本発明によれば、本発明の医薬の製造における、免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)および/またはaAVCの使用が提供される。本発明によれば、本発明の処置方法において使用するための免疫チェックポイント阻害剤および/またはaAVCが提供される。
【実施例
【0054】
実施例1:人工アジュバントベクター(aAVC)と免疫チェックポイント阻害剤の併用
本実施例では、aAVCと免疫賦活剤(免疫チェックポイント阻害剤または免疫活性化剤)の併用の効果を検証した。
【0055】
マウス(C57BL/6マウス、6週齢、n=2)に対してaAVCと免疫チェックポイント阻害剤を組み合わせて投与した。投与スキームは図1に示される通りであった。具体的には、オボアルブミン(OVA)を発現したaAVCを0日目に投与し、免疫チェックポイント阻害剤(抗体)を0日目、3日目、および5日目にそれぞれ200μg/投与で投与し、7日目に抗原特異的CD8陽性T細胞の数および割合とiNKT細胞の数および割合を調べた。
【0056】
aAVC-OVAは、NIH3T3細胞にCD1dをコードする遺伝子と抗原としてOVAをコードする遺伝子を発現させ、その後、0.5 mg/mLのα-ガラクトシルセラミド(α-GalCer)を培地に添加して得た。投与は、5×10細胞/匹の用量で行った。
【0057】
免疫調整剤としては、免疫チェックポイント阻害剤として、抗PD-1抗体(BioXcell製造者、製品番号:BE0146)、抗Lag3抗体(BioXcell製造者、製品番号:BE0174)、抗TIM-3抗体(BioXcell製造者、製品番号:B8.2C12)、抗VISTA抗体(BioXcell製造者、製品番号:BE0310)、抗CTLA4抗体(BioXcell製造者、製品番号:BE0164)を用いた。免疫賦活剤としては、抗OX40抗体(BioXcell製造者、製品番号:BE0031)又は抗GITR抗体(BioXcell製造者、製品番号:BE0063)を用いた。投与は、いずれも200μg/匹/投与の用量で行った。
【0058】
aAVC-OVAは、静脈内投与し、免疫調節剤は、腹腔内投与した。
【0059】
aAVC-OVA投与後7日目にマウスの脾臓を回収し、抗原特異的CD8陽性T細胞(細胞傷害性T細胞)およびインバリアントナチュラルキラーT細胞(iNKT細胞)を分析した。CD8陽性T細胞は、脾臓から脾細胞を単離し、CD3, CD8, CD44抗体及びOVA-tetramerで染色し、FACS(製造者BD、製品名Cancto II)を用いて解析した。脾細胞をCD3およびCD8陽性細胞により、CD8 T細胞をゲートし、CD44およびOVA-tetramerで展開した。CD44陽性かつOVA-tet陽性の細胞をOVA特異的CD8陽性T細胞としてその数および細胞の占める割合を測定した。割合は、CD8T細胞に占めるOVA特異的CD8陽性T細胞の割合(%)である。
【0060】
結果は、図2に示される通りであった。図2に示されるように、aAVC-OVA単独投与群と比較して、免疫賦活剤併用群では、OVA特異的CD8陽性T細胞の割合が増加している例が認められた。具体的には、抗PD-1抗体併用群、抗TIM-3抗体併用群、抗CTLA4抗体併用群、および抗OX40抗体併用群において、OVA特異的CD8陽性T細胞の割合が増加しており、特に、抗OX40抗体併用群においてOVA特異的CD8陽性T細胞の割合の増加が顕著であった。OVA特異的CD8陽性T細胞の数および割合をグラフ化して図3に示した。図3に示されるように、抗PD-1抗体併用群、抗TIM-3抗体併用群、抗CTLA4抗体併用群、および抗OX40抗体併用群において、OVA特異的CD8陽性T細胞の数および割合が増加しており、特に、抗OX40抗体併用群においてOVA特異的CD8陽性T細胞の数および割合の増加が顕著であった。
【0061】
さらに脾細胞中のiNKT細胞についてもその数および割合を分析した。具体的には、細胞投与14日後に脾臓を単離して、アフィコシアニン(APC)で標識したα-GalCerプレロードしたCD1dテトラマーであるCD1d-tetramer/Gal-APCと、PerCP/Cy5(R)で標識したCD3であるCD3-PerCP/Cy5(R)で染色し、CD3かつCD1d-tetramer/Galの細胞をiNKT細胞として計数した。次に、脾臓中のiNKT細胞の頻度を算出した。更にそれぞれ免疫したマウスの脾臓の総細胞数と前記頻度とを掛け合わせ、iNKT細胞数を算出した。その結果、図5に示されるように、抗PD-1抗体併用群、抗Lag3抗体併用群、抗VISTA抗体併用群、抗OX40抗体併用群、および抗CTLA4抗体併用群においてiNKT細胞の数および割合が増加しており、特に、抗OX40抗体併用群においてiNKT細胞の数および割合が増加していた。
【0062】
iNKT細胞は、自然免疫を担当するナチュラルキラーT細胞(NK細胞)および樹状細胞の活性化、並びに獲得免疫応答を担うB細胞およびT細胞の活性化を誘導する。免疫チェックポイント阻害剤との併用によって、aAVCは、自然免疫惹起能および獲得免疫惹起能を高めることが示された。
免疫チェックポイント阻害剤は、獲得免疫を担うT細胞(細胞傷害性T細胞;CTL)の抑制を解除することによってT細胞による免疫を強化するものであり、今回用いた免疫活性化剤は直接免疫機能を刺激することによってT細胞による免疫を強化するものである。今回の結果は、免疫賦活剤をaAVCと併用することによって、自然免疫の賦活化作用が高まることが示されたものであり、単に、aAVCによる自然免疫の惹起と免疫チェックポイント阻害剤による獲得免疫の強化との相加効果が奏されたと考えることはできない。
今回の結果によれば、免疫賦活剤が、aAVCによる自然免疫の惹起能を高め、かつ、細胞傷害性T細胞の抑制を単に解除するだけではなく、細胞傷害性T細胞の数を増加させ、より効果的ながん免疫療法を実現する手法となり得ることが明らかになった。
もちろん、免疫チェックポイント阻害剤は、aAVCによる自然免疫の賦活化能および抗原特異的免疫誘導能を強化することが期待できる。また、免疫賦活剤は、aAVCによる、がんや感染症の治療効果を強化することが期待できる。
【0063】
実施例2:aAVCと免疫活性化剤の併用
次に、図6に記載のaAVCとサイトカインとを併用するスキームにより、免疫活性化剤とaAVCの併用の効果を確認した。図1と同様にマウスにaAVC-OVAを投与した。投与後7日目から毎日5×10U/投与のIL-2を7日間にわたり投与した。14日目にマウスのマウスの脾臓を回収した。CD3およびCD8陽性細胞により、脾臓細胞からCD8 T細胞をゲートし、CD44およびOVA-tetramerで展開した。CD44陽性かつOVA-tet陽性の細胞をOVA特異的CD8陽性T細胞としてその数および細胞の占める割合を測定した。割合は、CD8T細胞に占めるOVA特異的CD8陽性T細胞の割合(%)である。aAVC-OVAは、実施例1の通りに調製した。aAVC-OVAの投与は、実施例1の通りに5×10細胞/匹の用量で行った。
【0064】
結果は、図7(フローサイトメトリーの結果)および図8(抗原特異的CD8陽性T細胞の数(左)および割合(右))に示される通りであった。図7および8に示されるように、aAVC-OVAとIL-2を併用した群では、aAVC-OVA単独投与の場合よりも、抗原特異的CD8陽性T細胞の数および割合が顕著に増加していた。
これにより、免疫活性化剤が、aAVCとの併用に有用であることが示された。
【0065】
さらに、図9に記載のaAVCとサイトカインとを併用するスキームにより、免疫活性化剤(IL-2/抗IL-2抗体複合体、IL-7、またはIL-15)とaAVCとの併用の効果を確認した。図1と同様にマウスにaAVC-OVAを投与した。投与後7日目から、マウスあたり記載された用量でサイトカインを7日間にわたり毎日投与した。14日目にマウスのマウスの脾臓を回収した。CD3およびCD8陽性細胞により、脾臓細胞からCD8 T細胞をゲートし、CD44およびOVA-tetramerで展開した。CD44陽性かつOVA-tet陽性の細胞をOVA特異的CD8陽性T細胞としてその数および細胞の占める割合を測定した。割合は、CD8T細胞に占めるOVA特異的CD8陽性T細胞の割合(%)である。aAVC-OVAは、実施例1の通りに調製した。aAVC-OVAの投与は、実施例1の通りに5×10細胞/匹の用量で行った。
【0066】
結果は、図10(フローサイトメトリーの結果)、図11(脾臓における抗原特異的CD8陽性T細胞数)、および図12(抗原特異的CD8陽性T細胞の割合)に示される通りであった。図10~12に示されるように、いずれのサイトカインを併用した場合であっても、aAVC単独投与と比較して、抗原特異的なCD8陽性T細胞の数および割合は増加したが、IL-2/抗IL-2抗体複合体およびIL-15のいずれかを投与した場合にはその増加が顕著であった。
【0067】
さらに実施例1に記載の通りに脾細胞中のiNKT細胞についてもその数および割合を分析した。その結果、図13(フローサイトメトリーの結果)および図14(脾臓におけるiNKT細胞の数)に示される通りであった。図13および14に示されるように、いずれのサイトカインを併用した場合であっても、aAVC単独投与と比較して、脾臓におけるiNKT細胞の数は増加した。このように、投与した免疫活性化剤は、aAVCによる自然免疫惹起能を増強することができた。
【要約】
本発明は、免疫賦活剤を含む、自然免疫を活性化することに用いるための組成物を提供する。本発明はまた、人工アジュバントベクター細胞と免疫賦活剤との併用を提供する。
【選択図】なし
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