(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】工業炉
(51)【国際特許分類】
F27B 5/18 20060101AFI20240918BHJP
F27D 21/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
F27B5/18
F27D21/00 A
(21)【出願番号】P 2023077922
(22)【出願日】2023-05-10
【基礎とした実用新案登録】
【原出願日】2020-08-19
【審査請求日】2023-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】591159619
【氏名又は名称】島津産機システムズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121441
【氏名又は名称】西村 竜平
(74)【代理人】
【識別番号】100154704
【氏名又は名称】齊藤 真大
(74)【代理人】
【識別番号】100206151
【氏名又は名称】中村 惇志
(74)【代理人】
【識別番号】100218187
【氏名又は名称】前田 治子
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼間 洋祐
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3225205(JP,U)
【文献】特開2016-193807(JP,A)
【文献】特開平08-226775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 5/18
F27D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力容器と、
前記圧力容器の内部空間に配置された断熱体と、
前記断熱体の内部空間に配置されたヒータと、
前記ヒータに流れる電流を計測する電流計と、
前記ヒータの両端電圧を計測する電圧計と、
前記電流計で測定された電流値と電圧計で計測された電圧値からヒータの抵抗値を求める制御装置と、
を含
み、
前記ヒータが第1のヒータ及び第2のヒータを含み、
前記制御装置は、前記第1のヒータの抵抗値および前記第2のヒータの抵抗値をそれぞれ求め、前記第1のヒータの抵抗値と前記第2のヒータの抵抗値との差をさらに求め、求められた差と、記憶装置に記憶されている所定の差とに基づいて、前記第1および第2のヒータが不良であるか否かを判定する、工業炉。
【請求項2】
前記制御装置は、前記第1のヒータの抵抗値および前記第2のヒータの抵抗値をそれぞれ求め、前記第1のヒータの抵抗値と前記第2のヒータの抵抗値との差をさらに求め、求められた差が、記憶装置に記憶されている所定の差よりも大きいとき、前記第1および第2のヒータが不良であると判定する、請求項1の工業炉。
【請求項3】
圧力容器と、
前記圧力容器の内部空間に配置された断熱体と、
前記断熱体の内部空間に配置されたヒータと、
前記ヒータに流れる電流を計測する電流計と、
前記ヒータの両端電圧を計測する電圧計と、
前記電流計で測定された電流値と電圧計で計測された電圧値からヒータの抵抗値を求める制御装置と、
を含み、
前記制御装置は抵抗値が閾値を超えたヒータを不良と判定す
る、工業炉。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業炉に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属または磁性材料などからなる被処理物を真空または加圧環境下で熱処理している。たとえば、下記の特許文献1に開示される工業炉は、加熱室、ヒータおよびマッフル板を備える。加熱室の中にヒータとマッフル板が備えられる。マッフル板で空間が形成されており、その空間に被処理物が収容される。ヒータに電流が流されると、ヒータが発熱する。ヒータの熱がマッフル板を介して被処理物に伝熱される。被処理物が加熱され、脱脂、焼成または焼結などされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
工業炉が繰り返し使用されることで、ヒータが徐々に劣化する。たとえば、ヒータが細くなり、ヒータの抵抗値が高くなる。そのようなヒータは所定温度に発熱できない。工業炉には複数のヒータが使用されており、ヒータごとに劣化度合いも異なる。ヒータごとに発熱温度が異なると被処理物を均一に加熱できなくなる。被処理物は正常に脱脂等されず、歩留まりが悪化する。工業炉の操作者がヒータを目視したり、ヒータにテスターを接続したりして、ヒータの劣化を確認している。このような確認は操作者の負担になっている。不良なヒータを容易に確認できるようにすることが求められている。
【0005】
そこで本発明の目的は、不良なヒータを容易に判定できる工業炉を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以上の課題を解決すべく、本発明に係る工業炉は、以下に述べるような構成を有する。
【0007】
本発明の工業炉は、圧力容器と、前記圧力容器の内部空間に配置された断熱体と、前記断熱体の内部空間に配置されたヒータと、前記ヒータに流れる電流を計測する電流計と、前記ヒータの両端電圧を計測する電圧計と、前記電流計で測定された電流値と電圧計で計測された電圧値からヒータの抵抗値を求める制御装置とを含む。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ヒータの抵抗値を求めることで、客観的にヒータの不良を判定することができる。従来のようにテスターをヒータに接続する必要がないため、容易にヒータの不良を判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図3】ヒータの抵抗を求める他の構成を示す図である。
【
図4】制御装置にコンピュータ接続した構成を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の工業炉について図面を参照して説明する。複数の実施形態を説明するが、異なる実施形態であっても同じ手段には同一の符号を付して説明を省略する場合がある。
【0011】
[実施形態1]
図1に示す本願の工業炉10は、容器状の圧力容器12、その圧力容器12の内部空間14に配置された断熱体16、その断熱体16の内部空間18に配置されたヒータ20、被処理物22が収容されるマッフル(インナーケース)24、ガス源26、そのガス源26から圧力容器12の内部空間14または断熱体16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28をつなぐ供給パイプ30、排気ポンプ32、その排気ポンプ32とマッフル24の内部空間28をつなぐ第1排気パイプ34、排気ポンプ32と圧力容器12の内部空間14または断熱体16の内部空間18をつなぐ第2排気パイプ36、第1排気パイプ34の途中に設けられたトラップ38を備える。
【0012】
工業炉10は、被処理物22に対して焼結、半焼結、焼成、脱脂、脱ガス、ろう付け、メタライズ、焼き入れ、容体化処理、焼戻し、焼きなましまたは時効熱処理などをおこなうための装置である。
【0013】
[圧力容器]
圧力容器12は容器本体40および容器蓋42を備える。容器本体40は円筒形状になっていて、その両端が開口している。容器蓋42は容器本体40の両端の開口を開閉するものである。容器本体40の両端を容器蓋42で閉じると、圧力容器12の内部空間14は気密にされた空間になる。圧力容器12の内部空間14は減圧されたり、加圧されたりする。
【0014】
圧力容器12は内壁44と外壁46からなる二重構造である。内壁44と外壁46の間を冷却液が流れる。工業炉10は、内壁44と外壁46の間に冷却液を供給するための給液ポンプ(図示省略)を備えてもよい。
【0015】
[断熱体]
断熱体16は圧力容器12の内部空間14に配置されている。断熱体16は断熱体本体48および断熱体蓋50を備える。断熱体本体48は筒状になっていて、その両端は開口している。断熱体蓋50は断熱体本体48の両端の開口を開閉するものである。容器蓋42が閉じた状態で断熱体蓋50が開閉できるように、断熱体蓋50の開閉装置(図示省略)を備える。断熱体16はグラファイトフェルトまたはグラファイトフォイルなどの耐熱性材料で構成される。
【0016】
断熱体16の内部空間18に熱電対で構成された温度計(図示省略)が配置され、断熱体16の内部空間18の温度が計測される。断熱体16の内部空間18の温度が監視される。
【0017】
[ヒータ]
断熱体16の内部空間18に複数のヒータ20が配置されている。ヒータ20はグラファイト製のロッドヒータなど種々のヒータを使用できる。ヒータ20の形状は線状になっている。複数本のヒータ20がマッフル24の周囲に配置されている。ヒータ20の端子は絶縁体を介して圧力容器12に取り付けられている。ヒータ20の熱は断熱体16の内部空間18の中に閉じ込められる。
【0018】
図2に示す電力供給回路52はヒータ20に電力を供給する回路である。電力供給回路52はヒータ20に三相交流の電力を供給する。三相交流の3つの端子はR、S、Tである。電力供給回路52は各端子R、S、Tにつながる配線54および電圧変換するトランス56を含む。必要に応じてヒータ20への電力供給をオン・オフするスイッチを配線54に接続してもよい。
【0019】
電力供給回路52は三相交流の電力をヒータ20に供給できるため、ヒータ20は3本である。3本のヒータ20は配線54にΔ結線で接続されてもよいし(
図2)、Y結線で接続されてもよい。3本の配線54を途中で分岐させて、ヒータ20の本数を3の倍数にしてもよい。たとえば、断熱体16の内部空間18の上部に3本のヒータ20を配置し、下部に3本のヒータ20を配置してもよい。また、電力供給回路52を複数にして、各電力供給回路52に3本のヒータ20を接続してもよい。
【0020】
[マッフル]
断熱体16の内部空間18の中にマッフル24が配置されている。マッフル24はグラファイトなどで構成されている。マッフル24はマッフル本体58とマッフル蓋60を備える。マッフル本体58は筒状になっていて、その両端が開口になっている。マッフル蓋60はマッフル本体58の両端の開口を開閉する。マッフル蓋60が開閉できるように、マッフル蓋60の開閉装置(図示省略)を備える。マッフル本体58の両端をマッフル蓋60で閉じることで、マッフル24の内部空間28が密閉される。
【0021】
[被処理物]
マッフル24の内部空間28に被処理物22が配置される。被処理物22は、粉体、粒体または所定形状を有した固体である。被処理物22の材料は、超硬金属、鉄系金属、非鉄金属、磁性材料、セラミックス、グラファイト、ハイス鋼、ダイス鋼または低合金鋼などであり、金属は合金を含む。
【0022】
マッフル24の中に被処理物22が収容されることで、被処理物22を脱脂処理したときに被処理物22から放出される放出物がマッフル24の外に放出されることを低減させる。
【0023】
[ガス源]
ガス源26は窒素、アルゴン、水素、一酸化炭素、ヘリウム、メタンなどを貯蔵、生成またはその両方をおこなう。ガス源26と圧力容器12の内部空間14または断熱体16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28は供給パイプ30で接続されている。供給パイプ30は分岐しており、それぞれにバルブ62、64が設けられている。バルブ62、64の開閉によってガスの流量を制御できる。ガス源26から供給パイプ30を介して圧力容器12の内部空間14または断熱体16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28にガスが導入される。ガス源26を複数にして、複数種のガスを圧力容器12の内部空間14または断熱体16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28に供給してもよい。供給パイプ30を複数設け、複数種のガスが供給されるようにする。なお、断熱体16は完全に気密にされていないため、圧力容器12の内部空間14または断熱体16の内部空間18の一方にガスを導入することで、他方にもガスを導入することができる。
【0024】
[排気ポンプ]
排気ポンプ32は圧力容器12の内部空間14または断熱体16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28に対して排気をおこなう。排気ポンプ32とマッフル24の内部空間28は第1排気パイプ34で接続されている。排気ポンプ32と圧力容器12の内部空間14または断熱体16の内部空間18は第2排気パイプ36で接続されている。排気ポンプ32によって、圧力容器12の内部空間14、断熱体16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28が減圧される。第1排気パイプ34と第2排気パイプ36にはそれぞれバルブ66、68が備えられていて、バルブ66、68の開閉によっても排気を制御することができる。なお、断熱体16は完全に気密にされていないため、圧力容器12の内部空間14または断熱体16の内部空間18の一方からガスを排気することで、他方もガスが排気される。
【0025】
[トラップ]
被処理物22が脱脂された際に、被処理物22から放出されたガス状のバインダー、粉状または粒状のダスト、またはその両方を含む放出物が放出される。第1排気パイプ34に放出物を捕捉するトラップ38が備えられている。トラップ38はフィンおよびフィルターを含む。フィンは放出物を冷却し、液体にして溜める装置である。液状になった放出物はさらに冷却されて固体になることもある。フィルターは粉状または粒状の放出物を集塵する装置である。放出物が排気ポンプ32まで到達されない。
【0026】
[電流計・電圧計]
図2に示すように、本願はヒータ20の抵抗値を測定するために、電流計70、電圧計72および制御装置74を備える。後述するように、電流計70、電圧計72および制御装置74が抵抗計として動作する。電流計70はヒータ20に流れる電流を計測する。具体的には、配線54に変流器76を取り付け、電流計70は変流器76に流れた電流を計測する。変流器76は少なくとも2本の配線54に取り付けられる。2本の配線54に流れた電流から残りの1本の配線54に流れた電流を求められるからである。電圧計72はヒータ20の両端電圧を測定する。電流計70で計測された電流値と電圧計72で計測された電圧値は制御装置74に入力される。
【0027】
制御装置74はCPU(Central Processing Unit)またはPLC(Programmable Logic Controller)などを備えた回路である。制御装置74には電流計70で計測された電流値および電圧計72で計測された電圧値が入力される。制御装置74は、変流器76の定格電流に応じて入力された電流値を配線54に流れた電流の値に変換する。制御装置74は、2本の配線54に流れた電流を合成し、残りの1本の配線54に流れた電流の値を求める。さらに、制御装置74は電流値と電圧値を用いてヒータ20の抵抗値を求める。抵抗値はオームの法則を利用して求められる。なお、3本の配線54のすべてに変流器76を取り付けて、各配線54の電流を直接計測してもよい。
【0028】
制御装置74の内部または外部に記憶装置を備える。記憶装置にヒータ20の抵抗値の差を予め記憶しておく。この抵抗値の差は、ヒータ20が発熱したときに不均一にならない値である。
【0029】
制御装置74は、ヒータ20の抵抗値の差を求める。複数のヒータ20が備えられているため、制御装置74は複数の抵抗値の最大値と最小値の差を求める。求められた差が記憶装置に記憶された差よりも大きければ、ヒータ20が劣化しており、ヒータ20の不良と判定する。ヒータ20同士の抵抗値の差が大きくなるとヒータ20同士の発熱温度に差が生じ、断熱体16の内部空間18の温度分布が不均一になる。被処理物22を均一に加熱できなくなる。
【0030】
工業炉10の最初の駆動時およびヒータ20を交換した後の最初の駆動時、ヒータ20の抵抗値の差が記憶装置に記憶された抵抗値よりも大きい場合、ヒータ20の製造時の不良または取り付け不良と判定してもよい。本願はヒータ20の経年劣化を不良として判定するだけでなく、製造時および整備時に生じる不良も判定することができる。
【0031】
工業炉10は警報装置78を備える。警報装置78は液晶ディスプレイなどの表示装置80、音を発するスピーカー82の少なくとも1つを含む。制御装置74で求められた抵抗値の差が記憶された抵抗値の差よりも大きければ、制御装置74から警報装置78に信号を送信する。警報装置78はヒータ20の不良を表示装置80に表示したり、スピーカー82で警報音を発したりする。
【0032】
[その他]
図1に示すように、圧力容器12の内部空間14にファン84が備えられる。ファン84は、容器蓋42が閉じられ、断熱体蓋50が開けられたときに回転する。圧力容器12の内部空間14および断熱体16の内部空間18をガスが循環する。マッフル蓋60が開けられる場合もある。ファン84を回転させるためのモータ86が容器蓋42に取り付けられている。
【0033】
断熱体本体48からファン84に向かうガイド88を設けてもよい。ガイド88によって循環するガスの方向を定める。ガスの方向を定められればガイド88の形状は限定されない。圧力容器12は二重構造になっており、その内部に冷却液が流れるため、その冷却液によって循環するガスが冷却される。ファン84と断熱体16の間に水冷式の熱交換器90を配置し、その熱交換器90でもガスを冷却してもよい。また、ガスが循環する他の位置に熱交換器90を配置してもよい。
【0034】
[熱処理]
次に本願の工業炉10を使用した熱処理について説明する。なお、説明する熱処理は一例であり、被処理物22の種類および処理方法に応じて適宜変更される。
【0035】
(1)マッフル24の内部空間28に被処理物22を収容し、マッフル蓋60、断熱体蓋50および容器蓋42を閉じる。
【0036】
(2)排気ポンプ32を駆動させ、圧力容器12の内部空間14、断熱体16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28からガスを排気する。この排気と同時に、ガス源26から圧力容器12の内部空間14、断熱体16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28にガスを供給し、それらの空間14、18、28を所定のガスで満たす。ガスの供給量と排気量を調整することで、圧力容器12の内部空間14、断熱体16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28を所定圧力にする。
【0037】
(3)ヒータ20に電力供給し、断熱体16の内部空間18を昇温させる。断熱体16の内部空間18に配置されたマッフル24が加熱され、さらに被処理物22が加熱される。
【0038】
マッフル24の内部空間28にある被処理物22の温度が上昇し、被処理物22が脱脂される。脱脂するときに、排気ポンプ32を駆動させ、被処理物22から生じた放出物は第1排気パイプ34の途中にあるトラップ38で捕捉される。必要に応じてガス源26からマッフル24の内部空間28にガスを供給する。吸気と排気によってマッフル24の内部空間28を所定の圧力にする。マッフル24の内部空間28以外に圧力容器12の内部空間14と断熱体16の内部空間18にもガス源26からガスを供給してもよい。
【0039】
(4)被処理物22の脱脂が完了した後、ヒータ20に流す電流の値を変えて、断熱体16の内部空間18の温度を変える。ヒータ20に流れる電流を増加させ、被処理物22の温度を高める。たとえば、約1500℃以上で被処理物22を熱処理する。
【0040】
(5)被処理物22が熱処理された後、被処理物22を冷却する。断熱体蓋50とマッフル蓋60を開ける。ファン84を回転させてガスを循環させ、被処理物22を冷却させる。冷却する際、ガス源26から圧力容器12の内部空間14、断熱体16の内部空間18およびマッフル24の内部空間28にガスを導入してもよい。
【0041】
また、給液ポンプで内壁44と外壁46の間に冷却液を供給し、圧力容器12を冷却する。圧力容器12が冷却されることで、圧力容器12の内壁44に触れたガスが冷却される。熱交換器90によって循環するガスを冷却してもよい。ガスが冷却されることで、被処理物22がガスに触れて冷却される。
【0042】
被処理物22が冷却されれば、容器蓋42、断熱体蓋50およびマッフル蓋60を開け、被処理物22を取り出す。
【0043】
[抵抗値計測]
上記熱処理の前、熱処理中またはその両方でヒータ20の抵抗値を計測する。抵抗値は、電流計70でヒータ20に流れる電流値を計測し、電圧計72でヒータ20の両端電圧値を計測する。具体的には、ヒータ20に電力供給すると、配線54に電流が流される。配線54に取り付けられた変流器76の電流を電流計70で計測し、制御装置74で配線54に流れた電流に変換する。制御装置74に電流値と電圧値が入力されることで、制御装置74はヒータ20の抵抗値を求める。制御装置74は求めた抵抗値の最大値と最小値の差も求める。
【0044】
制御装置74は求めた抵抗値の差と記憶装置に記憶された抵抗値の差とを比較する。求めた抵抗値の差が記憶装置に記憶された抵抗値の差よりも大きければ、制御装置74は警報装置78に信号を送信する。表示装置80でヒータ20の不良を表示したり、スピーカー82で警報音を発したりする。
【0045】
以上のように、ヒータ20の抵抗値を求めることで、ヒータ20の不良を確認できる。自動的にヒータ20の抵抗値を求めており、ヒータ20を目視して確認したり、ヒータ20にテスターを接続してヒータ20の不良を求める必要はない。従来と比較して工業炉10の操作者の負担が小さくなっている。
【0046】
[実施形態2]
ヒータ20の抵抗値の差の求め方は実施形態1の方法に限定されない。たとえば、隣り合うヒータ20の抵抗値の差を求めてもよい。抵抗値の差が複数になり、それぞれの抵抗値の差を記憶装置に記憶された抵抗値の差と比較する。隣り合うヒータ20の温度差が大きくならないようにできる。
【0047】
その他、ヒータ20の抵抗値の差をどのように求めるかは限定されない。たとえば、すべてのヒータ20において、相互に抵抗値の差を求めてもよい。たとえば、3本のヒータ20であれば、3つの抵抗値の差が求められる。複数の抵抗値の差を求めた場合、その平均値を求めてもよい。それらの抵抗値の差を用いてヒータ20の不良を判定する。
【0048】
[実施形態3]
制御装置74はヒータ20の抵抗値からヒータ20の不良を判定してもよい。たとえば、上記記憶装置にヒータ20の抵抗値の閾値を記憶しておく。制御装置74は求めた抵抗値と記憶装置に記憶された抵抗値の閾値を比較し、求めた抵抗値が閾値を超えていればヒータ20が不良であると判定する。各ヒータ20の抵抗値から不良判定されるため、いずれのヒータ20が不良であるかを判定することができる。交換を要するヒータ20を判定することができる。
【0049】
[実施形態4]
図3に示すように、ヒータ20の電圧および電流を計測するために、直流電源92を備えてもよい。電流計70と直流電源92が直列接続されており、その直列接続された電流計70と直流電源92に対して並列に電圧計72が接続されている。配線54を選択するためのスイッチ94が備えられており、スイッチ94によって電流を流すヒータ20を選択する。スイッチ94のオン・オフは制御装置74によって行われる。3本のヒータ20がスイッチ94によって順番に選択される。電流計70で計測された電流値と電圧計72で計測された電圧値は制御装置74に入力される。制御装置74は電流値と電圧値からヒータ20の抵抗値を計算する。その後、実施形態1、2のように抵抗値の差を求めてヒータ20の不良を判定してもよいし、実施形態3のように抵抗値からヒータ20の不良を判定してもよい。本実施形態はヒータ20に三相交流電源から電力供給されていないときに、直流電源92からヒータ20に電力供給し、ヒータ20の抵抗値を求めることができる。
【0050】
[実施形態5]
本願は
図2と
図3の両方の回路構成を備えてもよい。三相交流電源からヒータ20への電力供給の有無に関係なくヒータ20の抵抗を測定することができる。
【0051】
[実施形態6]
図4のように、制御装置74がコンピュータ96に接続されていてもよい。制御装置74からコンピュータ96に電流値と電圧値、抵抗値、またはそれらすべての値が入力される。コンピュータ96はヒータ20の抵抗値を記憶する手段、抵抗値の変化からヒータ20の劣化時期を判定する手段として機能する。また、コンピュータ96に電流値と電圧値のみが入力された場合、コンピュータ96は電流値と電圧値から抵抗値を求める手段としても機能する。劣化時期の判定は、たとえば抵抗値の時間変化から求めることができる。劣化時期を予測できるため、予めヒータ20の保守準備を行うことができる。
【0052】
コンピュータ96は制御装置74に直接接続される必要はなく、ネットワークを介して接続されてもよい。そのネットワークはLAN(Local Area Network)に限定されず、LTE(Long Term Evolution)などの携帯電話の通信設備を用いたネットワークであってもよい。複数の工業炉10のヒータ20を集中管理できる。
【0053】
(第1項)一態様に係る工業炉は、圧力容器と、前記圧力容器の内部空間に配置された断熱体と、前記断熱体の内部空間に配置されたヒータと、前記ヒータに流れる電流を計測する電流計と、前記ヒータの両端電圧を計測する電圧計と、前記電流計で測定された電流値と電圧計で計測された電圧値からヒータの抵抗値を求める制御装置とを含む。
【0054】
第1項に記載の工業炉によれば、ヒータの抵抗値を求めることができ、ヒータの状態を客観的に判定することができる。
【0055】
(第2項)前記ヒータが複数であり、前記制御装置は各ヒータの抵抗値を求め、該抵抗値の差からヒータの不良を判定する。
【0056】
第2項に記載の工業炉によれば、ヒータの抵抗値の差が大きくなれば発熱温度の差が大きくなるため、ヒータの不良を判定することができる。
【0057】
(第3項)前記制御装置は抵抗値が閾値を超えたヒータを不良と判定する。
【0058】
第3項に記載の工業炉によれば、ヒータの抵抗値が閾値を超えると所定の発熱ができなくなるため、ヒータの不良を判定することができる。
【0059】
(第4項)前記ヒータのっ不良を知らせる警報装置を備える。
【0060】
第4項に記載の工業炉によれば、工業炉の操作者にヒータの不良を知らせることができ、ヒータの保守が可能になる。
【0061】
(第5項)前記制御装置から電流値と電圧値、抵抗値、またはそれらすべての値が入力されるコンピュータを備える。
【0062】
第5項に記載の工業炉によれば、コンピュータで抵抗値を記憶することで、ヒータの劣化時期を求めることが可能になる。
【0063】
その他、本発明は、その主旨を逸脱しない範囲で当業者の知識に基づき種々の改良、修正、変更を加えた態様で実施できるものである。説明した各実施形態は独立したものではなく、当業者の知識に基づき適宜組み合わせて実施できるものである。
【符号の説明】
【0064】
10:工業炉
12:圧力容器
16:断熱体
20:ヒータ
22:被処理物
24:マッフル
26:ガス源
32:排気ポンプ
40:容器本体
42:容器蓋
44:内壁
46:外壁
48:断熱体本体
50:断熱体蓋
58:マッフル本体
60:マッフル蓋
70:電流計
72:電圧計
74:制御装置
76:変流器
78:警報装置
80:表示装置
82:スピーカー
92:直流電源
94:スイッチ
96:コンピュータ