(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】ロボットシステム及びロボットシステムの制御方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/677 20060101AFI20240918BHJP
B25J 13/08 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
H01L21/68 A
B25J13/08 Z
(21)【出願番号】P 2022565057
(86)(22)【出願日】2021-08-23
(86)【国際出願番号】 JP2021030882
(87)【国際公開番号】W WO2022113445
(87)【国際公開日】2022-06-02
【審査請求日】2023-04-17
(32)【優先日】2020-11-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】000000974
【氏名又は名称】川崎重工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517340611
【氏名又は名称】カワサキロボティクス(ユーエスエー),インク.
(74)【代理人】
【識別番号】100118784
【氏名又は名称】桂川 直己
(72)【発明者】
【氏名】吉田 雅也
(72)【発明者】
【氏名】アビッシュ アショック バロアニー
(72)【発明者】
【氏名】サイモン ジェイパラン
【審査官】鈴木 孝章
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-265028(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0277727(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/677
B25J 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電動モータによって駆動される1以上の関節を有し、保持部によってウエハを保持可能なロボットと、
前記ロボットに指令を与えて制御する制御部と、
前記ウエハの位置ズレを検出可能な位置ズレ検出装置と、
を備え、
前記ロボットが前記ウエハを前記保持部で保持して搬送する場合に、前記制御部は、前記電動モータに関する情報に基づいて、前記保持部と前記ウエハとの間にスリップが発生したか否かの判定
を行
い、
前記制御部は、
前記スリップが生じなかったと判定した場合は、前記ウエハを、前記位置ズレ検出装置を経由しない第1ルートで搬送するように前記ロボットを制御し、
前記スリップが生じたと判定した場合は、前記ウエハを、前記位置ズレ検出装置を経由する第2ルートで搬送するように前記ロボットを制御することを特徴とするロボットシステム。
【請求項2】
請求項1に記載のロボットシステムであって、
前記制御部は、前記保持部が前記ウエハを取り出すときにおける所定期間に取得された前記電動モータに関連する情報に基づいて、前記スリップの発生を判定することを特徴とするロボットシステム。
【請求項3】
請求項1に記載のロボットシステムであって、
前記情報は、前記電動モータの電流値、位置偏差、速度偏差、及び加速度偏差のうち少なくとも何れか1つを含むことを特徴とするロボットシステム。
【請求項4】
電動モータによって駆動される1以上の関節を有し、保持部によってウエハを保持可能なロボットと、
前記ロボットに指令を与えて制御する制御部と、
前記ウエハの位置ズレを検出可能な位置ズレ検出装置と、
を備え、
前記制御部は、前記ウエハの搬送中に、前記保持部と前記ウエハとの間にスリップが発生したか否かの判定結果に基づいて、又はスリップ量に基づいて、前記ウエハの搬送ルートを、前記位置ズレ検出装置を経由しない第1ルートと、前記位置ズレ検出装置を経由する第2ルートと、の間で切り換えることを特徴とするロボットシステム。
【請求項5】
電動モータによって駆動される1以上の関節を有し、保持部によってウエハを保持可能なロボットと、
前記ロボットに指令を与えて制御する制御部と、
前記ウエハの位置ズレを検出可能な位置ズレ検出装置と、
を備えるロボットシステム
の制御方法であって、
前記制御部は、
前記保持部でウエハを保持して搬送する場合に、前記電動モータに関する情報を取得する第1工程と、
前記情報に基づいて、
前記保持部と前記ウエハとの間にスリップが発生しているか否かを判定する第2工程と、
を含
む方法により、前記スリップが発生したか否かを判定し、
前記制御部は、
前記スリップが生じなかったと判定した場合は、前記ウエハを、前記位置ズレ検出装置を経由しない第1ルートで搬送するように前記ロボットを制御し、
前記スリップが生じたと判定した場合は、前記ウエハを、前記位置ズレ検出装置を経由する第2ルートで搬送するように前記ロボットを制御することを特徴とする
ロボットシステムの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ウエハをロボットで搬送する場合に、ウエハとロボットの保持部との間で生じるスリップの検知に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、半導体ウエハがロボットによって搬送される途中において、半導体ウエハの位置ズレを検出可能な構成が知られている。特許文献1は、この種のシステムを開示する。
【0003】
特許文献1には、基体(ウエハ)を処理するためのシステムが開示されている。システムは、基体を搬送するための搬送ユニットを備える。搬送ユニットによる基体(ウエハ)の搬送元位置と搬送先位置との間の位置に、位置検出センサが設けられている。基体を搬送する場合に、搬送途中における位置が位置検出センサによって検出される。検出された基体の位置に基づいて、基体の搬送開始時に設定されていた搬送先位置が補正される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の構成は、位置検出センサを特別に設ける必要があって、構成の複雑化及びコスト増加の原因となる。また、特許文献1の構成は、ウエハが位置検出センサを通過する時点でウエハのズレを検知できるものの、ウエハのズレ(スリップ)の発生を即時に検出することができない。
【0006】
本開示は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、別途に設けられた検出装置を必要とせずに、ウエハとロボットの保持部との間でのスリップの発生を即時に判定できるロボットシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0007】
本開示の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0008】
本開示の第1の観点によれば、以下の構成のロボットシステムが提供される。即ち、このロボットシステムは、ロボットと、制御部と、位置ズレ検出装置と、を備える。前記ロボットは、電動モータによって駆動される1以上の関節を有し、保持部によってウエハを保持可能である。前記制御部は、前記ロボットに指令を与えて制御する。前記位置ズレ検出装置は、前記ウエハの位置ズレを検出可能である。前記ロボットが前記ウエハを前記保持部で保持して搬送する場合に、前記制御部は、前記電動モータに関連する情報に基づいて、前記保持部と前記ウエハとの間にスリップが発生したか否かの判定を行う。前記制御部は、前記スリップが生じなかったと判定した場合は、前記ウエハを、前記位置ズレ検出装置を経由しない第1ルートで搬送するように前記ロボットを制御する。前記制御部は、前記スリップが生じたと判定した場合は、前記ウエハを、前記位置ズレ検出装置を経由する第2ルートで搬送するように前記ロボットを制御する。
【0009】
これにより、特別な検出装置を必要とせずに、かつ、ロボットの特別な動作を必要とせずに、ロボットの保持部と保持されたウエハとの間のスリップの発生を即時に判定することができ、及び/又はスリップ量を即時に推定することができる。
【0010】
本開示の第2の観点によれば、以下の構成のロボットシステムが提供される。即ち、このロボットは、制御部と、位置ズレ検出装置と、を備える。前記ロボットは、電動モータによって駆動される1以上の関節を有し、保持部によってウエハを保持可能である。前記制御部は、前記ロボットに指令を与えて制御する。前記位置ズレ検出装置は、前記ウエハの位置ズレを検出可能である。前記制御部は、前記ウエハの搬送中に、前記ウエハと前記保持部との間にスリップが発生したか否かの判定結果に基づいて、又はスリップ量に基づいて、前記ウエハの搬送ルートを、前記位置ズレ検出装置を経由しない第1ルートと、前記位置ズレ検出装置を経由する第2ルートと、の間で切り換える。
【0011】
これにより、ウエハの搬送状態に応じて、効率的にウエハを搬送できるように、搬送ルートを合理的に計画することができる。
【0012】
本開示の第3の観点によれば、以下のロボットシステムの制御方法が提供される。即ち、このロボットシステムは、ロボットと、制御部と、位置ズレ検出装置と、を備える。前記ロボットは、電動モータによって駆動される1以上の関節を有し、保持部によってウエハを保持可能である。前記制御部は、前記ロボットに指令を与えて制御する。前記位置ズレ検出装置は、前記ウエハの位置ズレを検出可能である。前記制御方法においては、第1工程と、第2工程と、を含む方法により、前記ウエハと前記保持部との間にスリップが発生したか否かを判定する。前記第1工程では、前記保持部でウエハを保持して搬送する場合に、前記電動モータに関する情報を取得する。前記第2工程では、前記情報に基づいて、前記スリップが発生しているか否かを判定する。前記制御部は、前記スリップが生じなかったと判定した場合は、前記ウエハを、前記位置ズレ検出装置を経由しない第1ルートで搬送するように前記ロボットを制御する。前記制御部は、前記スリップが生じたと判定した場合は、前記ウエハを、前記位置ズレ検出装置を経由する第2ルートで搬送するように前記ロボットを制御する。
【0013】
これにより、特別な検出装置を必要とせずに、かつ、ロボットの特別な動作を必要とせずに、ロボットの保持部と保持されたウエハとの間においてスリップの発生を即時に判定することができる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、別途に設けられた検出装置を必要とせずに、ウエハとロボットの保持部との間でのスリップの発生を即時に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本開示の一実施形態に係るロボットシステムの構成を示す斜視図。
【
図3】ロボットシステムの一部の構成を示すブロック図。
【
図4】ロボットの各部を駆動する電動モータのそれぞれの電流値を示すグラフ。
【
図5】ロボットの各部を駆動する電動モータのそれぞれの位置偏差を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、図面を参照して、開示される実施の形態を説明する。
図1は、本開示の一実施形態に係るロボットシステム100の構成を示す斜視図である。
図2は、ロボット1の構成を詳細に示す斜視図である。
図3は、ロボットシステム100の一部の構成を示すブロック図である。
図4は、ロボット1の各部を駆動する電動モータのそれぞれの電流値を示すグラフである。
図5は、ロボット1の各部を駆動する電動モータのそれぞれの位置偏差を示すグラフである。
【0017】
図1に示すロボットシステム100は、クリーンルーム等の作業空間内でロボット1に作業を行わせるシステムである。
【0018】
ロボットシステム100は、図略の半導体処理システムに適用される。半導体処理システムでは、処理対象の基板となるウエハ2に対して、予め定められた様々な処理が施される。ロボットシステム100は、半導体処理システムが備える各種の装置等の間でウエハ2を搬送するために用いられる。
【0019】
ロボットシステム100は、ロボット1と、制御装置(制御部)5と、位置ズレ検出装置8と、を備える。
【0020】
ロボット1は、保管装置6に保管されるウエハ2を搬送するウエハ移載ロボットとして機能する。本実施形態では、ロボット1は、SCARA(スカラ)型の水平多関節ロボットによって実現される。SCARAは、Selective Compliance Assembly Robot Armの略称である。
【0021】
ロボット1は、
図2に示すように、ハンド(保持部)10と、マニピュレータ11と、姿勢検出部12と、を備える。
【0022】
ハンド10は、エンドエフェクタの一種であって、概ね、平面視でV字状又はU字状に形成されている。ハンド10は、マニピュレータ11(具体的には、後述の第2リンク16)の先端に支持されている。ハンド10は、第2リンク16に対して、上下方向に延びる第4軸c4を中心として回転する。
【0023】
マニピュレータ11は、主として、基台13と、昇降軸14、複数のリンク(ここでは、第1リンク15及び第2リンク16)と、を備える。
【0024】
基台13は、地面(例えば、クリーンルームの床面)に固定される。基台13は、昇降軸14を支持するベース部材として機能する。
【0025】
昇降軸14は、基台13に対して上下方向に移動する。この昇降により、第1リンク15、第2リンク16、及びハンド10の高さを変更することができる。昇降軸14は、基台13に対して、上下方向に延びる第1軸c1を中心として回転する。これにより、昇降軸14により支持される第1リンク15(乃至第2リンク及びハンド10)の姿勢を水平面内で変更することができる。
【0026】
第1リンク15は、昇降軸14の上部に支持されている。第1リンク15は、昇降軸14に対して、上下方向に延びる第2軸c2を中心として回転する。これにより、第1リンク15の姿勢を水平面内で変更することができる。
【0027】
第2リンク16は、第1リンク15の先端に支持されている。第2リンク16は、第1リンク15に対して、上下方向に延びる第3軸c3を中心として回転する。これにより、第2リンク16の姿勢を水平面内で変更することができる。
【0028】
本実施形態のロボット1は、備える各部(昇降軸14、第1リンク15、第2リンク16、及びハンド10)を、それぞれの軸を中心として個別に回転させるアクチュエータを備えている。このアクチュエータは、
図3に示す電動モータ3として構成される。
【0029】
各電動モータ3は、図略のドライバ等の駆動装置を介して、制御装置5と電気的に接続されている。制御装置5は、ドライバに制御指令(指令回転位置)等を出力して、電動モータ3の回転を制御する。
【0030】
姿勢検出部12は、複数の回転センサ12aを備える。回転センサ12aは、例えば、エンコーダから構成される。それぞれの回転センサ12aは、ハンド10、昇降軸14、第1リンク15、第2リンク16を駆動する電動モータ3のそれぞれの回転位置を検出する。各回転センサ12aは、制御装置5と電気的に接続されており、検出された回転位置を制御装置5に送信する。
【0031】
制御装置5は、CPU、ROM、RAM、補助記憶装置等を備える公知のコンピュータとして構成されている。補助記憶装置は、例えばHDD、SSD等として構成される。補助記憶装置には、ロボット1を制御するためのロボット制御プログラム等が記憶されている。このロボット制御プログラムには、本開示のスリップ判定方法の各工程を実現するためのスリップ判定プログラムが含まれている。
【0032】
制御装置5は、予め定められる動作プログラム又はユーザから入力される移動指令等に従って、上述のロボット1の各部を駆動するそれぞれの電動モータ3に指令回転位置等の制御指令を出力して制御し、予め定められる指令位置にハンド10を移動させる。
【0033】
位置ズレ検出装置8は、例えば、プリアライナ(ウエハアライナ)から構成される。位置ズレ検出装置8は、
図1に示すように、回転台81と、ラインセンサ82と、を備える。
【0034】
回転台81は、図略の電動モータ等により、ウエハ2を回転させることができる。回転台81は、その上にウエハ2が置かれた状態で回転する。回転台81は、例えば、円柱状に形成される。
【0035】
ラインセンサ82は、例えば投光部と受光部とを有する透過型センサから構成される。投光部と受光部は、互いに対向し、かつ上下方向に所定の間隔をあけて配置される。ラインセンサ82は、回転台81の径方向に並べられた投光部を介して検出光を投光し、投光部の下方に設けられた受光部を介して検出光を受光する。検出光としては、例えばレーザ光とすることができる。回転台81にウエハ2が載置されると、その外縁部が投光部と受光部との間に位置する。
【0036】
ラインセンサ82は、例えば制御装置5に電気的に接続されている。ラインセンサ82は、受光部の検出結果を制御装置5に送信する。回転台81を回転させたときの受光部の検出結果の変化は、ウエハ2の外縁の形状に対応する。この外縁の形状から、ウエハ2の中心の、回転台81の回転中心からの位置ズレを検出することができる。従って、位置ズレ検出装置8において、位置ズレの検出基準位置は、回転台81の回転中心である。制御装置5は、受光部の検出結果に基づいて、ウエハ2の実際の位置ズレ量を取得する。
【0037】
次に、本実施形態のロボットシステム100によるスリップ発生の判定について、ウエハ2のスリップが生じ易いウエハ取出し時での判定を例として、詳細に説明する。
【0038】
なお、本実施形態のロボットシステム100によるスリップ発生の判定は、ロボット1がウエハ2をハンド10で搬送する過程の任意のタイミングにおいて行うことができる。即ち、ロボット1によるウエハ2の搬送は、ある場所のウエハ2をハンド10で取り出してからウエハ2を別の場所に置くまでの一連の動作であると考えることができる。スリップの発生の有無は、一連の動作の開始から終了までの何れのタイミングにおいても判定することができる。
【0039】
ウエハ2に対して行われるプロセスによっては、ウエハ2の表面が粘着性を有する場合がある。例えば保管装置6からウエハ2をロボット1により取り出すとき、ウエハ2が、保管装置6に貼り付けられたように、その場に留まろうとする挙動を示すことがある。この結果、ウエハ2がハンド10により取り出される過程で、ウエハ2とハンド10との間でスリップが発生し、ウエハ2のハンド10に対する位置がズレる。
【0040】
本実施形態のロボットシステム100は、ロボット1の動作中において、制御装置5を用いて、ロボット1の各部を駆動する電動モータ3のそれぞれに流れる電流、電動モータ3の位置、位置偏差、電動モータ3の速度及び加速度、速度偏差、加速度偏差等に関する情報を監視している。以下の説明で、電動モータ3に関して位置、速度及び加速度とは、特に説明がない限り、回転位置、回転速度及び回転加速度を意味する。
【0041】
各電動モータ3の電流値は、例えば、図略のモータ駆動回路に設けられた電流センサによって計測される。電動モータ3の位置は、例えば、上述の回転センサ12aの測定値に基づいて得ることができる。電動モータ3の速度及び加速度は、例えば、回転センサ12aの測定値を時間微分することにより得ることができる。位置偏差、速度偏差、及び加速度偏差は、上述の位置、速度及び加速度と目標位置、目標速度、目標加速度との差を計算することにより得ることができる。
【0042】
本実施形態のロボットシステム100において、ロボット1がウエハ2を保管装置6から取り出すとき、制御装置5は、電動モータ3の電流値等に基づいて、ウエハ2にスリップが発生しているか否かを判定する。
【0043】
以下、
図4に示す電流値及び
図5に示す位置偏差を例として、制御装置5におけるスリップの判定について詳細に説明する。
図4及び
図5では、各値を縦軸にとり、時刻を横軸にとったグラフが示されている。
図4及び
図5は、ウエハ2を取り出す時の所定期間(例えば2、3秒間)のデータを示している。
図4及び
図5のグラフは一例であり、状況に応じて様々な波形が考えられる。
【0044】
図4の上側は、スリップが発生しなかった場合における電動モータ3の電流値を示すグラフである。
図4の下側は、スリップが発生した場合における電動モータ3の電流値を示すグラフである。
【0045】
図4の上側と下側を比較すると、スリップの発生の有無に応じて、ロボット1の各部を駆動する複数の電動モータ3のうち、少なくとも一部の電動モータ3の電流値が変化していることが分かる。例えば、第2軸c2の関節を駆動する電動モータ3に流れる電流波形には、スリップの発生の有無に関係なくプラス方向又はマイナス方向のスパイク部分が複数生じているが、スリップが発生する場合、幾つかのスパイク部分のピークが明らかに大きくなっている。
【0046】
制御装置5は、電動モータ3に流れる電流を、前述の電流センサを介して取得し、監視する(第1工程)。制御装置5は、瞬間的に大きくなる電流値が
図4(b)のように過大であった場合、ウエハ2の取出しにスリップが発生したと判定する(第2工程)。
【0047】
電流値が過大であるか否かの判定は、単純に、所定の電流閾値との比較により行うことができる。あるいは、波形の比較によりスリップを判定することもできる。具体的には、スリップが発生していない時における基準波形を適宜記憶しておき、得られた電流波形を基準波形と比較する。制御装置5はグラフ形状の乖離度を計算し、この乖離度が閾値を上回ればスリップが生じたと判定する。基準波形としては、例えば
図4の上側のグラフの波形を採用することができる。
【0048】
電動モータ3に流れる電流は、電動モータ3の動作の目標値と、動作の計測値と、によって決定される。従って、スリップの発生を電流によって検出できるならば、スリップの発生を、電動モータ3の位置偏差、速度偏差、加速度偏差の挙動によっても同様に検出できると考えられる。
【0049】
図5には、回転位置の偏差における例が示されている。
図5の上側は、スリップが発生しなかった場合における回転位置の偏差を示すグラフである。
図5の下側は、スリップが発生した場合における回転位置の偏差を示すグラフである。
【0050】
図5の下側に示すように、スリップが発生した場合、電動モータ3の位置偏差の推移においても、マイナス方向の大きなスパイクの発生等、特徴的な挙動が現れる。この位置偏差の特徴を適宜の方法で検出することで、スリップが発生したと判定できると考えられる。
【0051】
波形を示した検討は省略するが、同様に、電動モータ3の速度偏差及び加速度偏差からもスリップの発生を判定できると考えられる。
【0052】
電流値等の波形が通常とは異なる挙動を示す原因としては、ウエハ2のスリップ以外にも様々に考えられる。この点、本実施形態の制御装置5は、電流値等の波形のうち、ウエハ2のスリップが生じ易いウエハ取出し時の限定的な期間だけを取り出して、スリップの有無を判定している。従って、スリップに関する誤判定を抑制することができる。
【0053】
本実施形態では、制御装置5が、電動モータ3の電流値等によってウエハ2のスリップをソフトウェア的に判定している。従って、センサ等の特別な装置が不要であるので、構成を簡素とすることができる。また、ハードウェアを改造する必要がないことから、既存のロボットシステムに適用することが容易である。
【0054】
本実施形態のロボットシステム100においては、制御装置5が、上記のようにスリップの発生の有無を判断する。スリップが生じなかったと判定した場合、制御装置5は、保管装置6から図略の処理装置へウエハ2を直接搬送するようにロボット1を動作させる(第1ルートR1)。スリップが生じたと判定した場合、制御装置5は、保管装置6から位置ズレ検出装置8へウエハ2をいったん搬送し、位置ズレ検出装置8からウエハ2を図略の処理装置へ搬送するようにロボット1を動作させる(第2ルートR2)。
図1には、第1ルートR1及び第2ルートR2を矢印で概念的に示している。
【0055】
ウエハ2にスリップが生じた場合、ハンド10に対してウエハ2の位置がズレることになる。ロボット1が第2ルートR2に従ってウエハ2を位置ズレ検出装置8に搬送すると、上記のズレに応じて、置かれたウエハ2の中心と、回転台81の回転中心と、の間にズレが生じる。このズレの大きさ及び方向が、位置ズレ検出装置8によって検出される。ロボット1は、取得されたズレを相殺できる位置で、回転台81のウエハ2をハンド10により取り出して搬送先の処理装置へ搬送する。これにより、ウエハ2のスリップを是正し、位置ズレがない状態で処理装置へ正しく搬送することができる。
【0056】
本実施形態では、ウエハ2のスリップを電動モータ3の電流値等の監視によって検出するため、ほぼリアルタイムでスリップを検知できる。従って、ウエハ2を保管装置6から取り出した直後(例えば
図1の状態)の時点で、制御装置5はスリップが発生したか否かの判断を完了した状態となっている。制御装置5は、スリップが発生したと判定した場合、位置ズレ検出装置8に搬送するように、ウエハ2の搬送ルートをその場で切り換えることができる。
【0057】
仮に全てのウエハ2について位置ズレ検出装置8を経由して搬送する場合、搬送タクトタイムが大幅に増加してしまう。しかし、本実施形態では、ウエハ2のスリップを検知した場合にだけ第2ルートR2が採用されるので、ズレがないのにズレを検知する無駄を防止することができる。また、スリップの検知のためにロボット1を特別に動作させる必要がないので、第1ルートR1の場合、搬送タクトタイムの増加は実質的にゼロである。このように、本実施形態のロボットシステム100は、不規則的に発生するスリップに対応しながら、ウエハ2を効率的に搬送することができる。
【0058】
以上に説明したように、本実施形態のロボットシステム100は、ロボット1と、制御装置5と、を備える。ロボット1は、電動モータ3によって駆動される1以上の関節を有し、ハンド10によってウエハ2を保持可能である。制御装置5は、ロボット1に指令を与えて制御する。ロボット1がウエハ2をハンド10で保持して搬送する場合に、制御装置5は、電動モータ3の電流値等に基づいて、ハンド10とウエハ2との間にスリップが発生しているか否かを判定する。
【0059】
これにより、特別な検出装置を必要とせずに、かつ、ロボット1の特別な動作を必要とせずに、ロボット1のハンド10と保持されたウエハ2との間にスリップが発生したか否かを即時に判定できる。
【0060】
また、本実施形態のロボットシステム100において、制御装置5は、ハンド10がウエハ2を取り出すときにおける所定期間に取得された電動モータ3の電流値等に基づいて、スリップの発生を判定する。
【0061】
これにより、スリップが生じ易い期間での情報だけに基づいてスリップの発生を判定するので、誤判定を防止できる。
【0062】
また、本実施形態のロボットシステム100において、スリップの有無を判定するための情報は、電動モータ3の電流値、位置偏差、速度偏差、及び加速度偏差のうち少なくとも何れか1つを含む。
【0063】
これにより、スリップの発生の有無を適切に判定することができる。
【0064】
また、本実施形態のロボットシステム100は、ウエハ2の位置ズレを検出可能な位置ズレ検出装置8を備える。制御装置5は、スリップが生じなかったと判定した場合は、ウエハ2を、位置ズレ検出装置8を経由しない第1ルートR1で搬送するようにロボット1を制御する。制御装置5は、スリップが生じたと判定した場合は、ウエハ2を、位置ズレ検出装置8を経由する第2ルートR2で搬送するようにロボット1を制御する。
【0065】
これにより、スリップの発生に応じてウエハ2の位置を是正しながら、ウエハ2を効率的に搬送することができる。
【0066】
次に、本開示の変形例を説明する。なお、本変形例の説明においては、前述の実施形態と同一又は類似の部材には図面に同一の符号を付し、説明を省略する場合がある。
【0067】
本変形例のロボットシステム100において、制御装置5は、前記ウエハの搬送中に、上述のようにスリップが生じたか否かを判定する。スリップが生じなかったと判定した場合は、ウエハ2の搬送ルートを第1ルートR1とする。スリップが生じたと判定した場合は、ウエハ2の搬送ルートを第2ルートR2とする。
【0068】
スリップが生じたか否かの判定は、前述の実施形態で述べたように、電動モータ3の電流値に基づいて行うことができる。しかし、これに限定されない。例えば、搬送途中のウエハ2を図略のカメラによって撮影した画像を分析した結果に基づいて、スリップを算出しても良い。画像の分析は、制御装置5が行うこともできるし、制御装置5とは別のコンピュータが行うこともできる。
【0069】
ウエハ2の搬送ルートの切換は、スリップが生じたか否かの判定に代えて、スリップ量に基づいて行われても良い。スリップ量は、前記カメラが撮影した画像を分析することで得ることができる。制御装置5は、算出されたスリップ量を、予め設定された閾値と比較することによって、ウエハ2の搬送ルートの切換の要否を判断する。
【0070】
スリップ量が閾値以下である場合、ハンド10に対するウエハ2の位置ズレが許容範囲内であるので、ウエハ2は、当初の予定どおり第1ルートR1で搬送される。スリップ量が閾値を上回る場合、ウエハ2の搬送ルートが第2ルートR2に変更される。
【0071】
ウエハ2のスリップの検知のために、カメラの代わりに、例えば、装置側に設けられた図略の光学センサを用いることもできる。この光学センサは、ウエハ2の搬送経路における適宜の位置に配置される。ウエハ2にスリップが生じている場合、通常とは異なるタイミングで、搬送されているウエハ2を光学センサが検知する。これにより、スリップが生じたか否かを判定することができる。
【0072】
光学センサとして、搬送される途中のウエハ2の外縁を検知可能なラインセンサを用いることもできる。この場合、ウエハ2のスリップ量を取得することができる。
【0073】
以上に本開示の好適な実施の形態及び変形例を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0074】
ロボット1がウエハ2を搬送元から取り出すときのスリップに限定されず、ウエハ2を搬送先へ置くときのスリップを検出することもできる。搬送先へウエハ2を置くときにスリップが検出された場合、制御装置5は、搬送先に置かれたウエハ2を再び取り出して位置ズレ検出装置8へ搬送し、ズレを是正した後、再び搬送先へ置くように制御することが好ましい。
【0075】
制御装置5は、スリップの有無を、電動モータ3の電流値、位置偏差等のうち1つだけでなく複数の組合せから判定しても良い。ハンド10によってウエハ2を搬送するときは、殆どの場合、複数の関節のそれぞれが電動モータ3によって駆動される。従って、複数の電動モータ3における電流値等の情報の組合せによってスリップの有無を判定することも考えられる。
【0076】
上述の実施形態では、制御装置5はスリップの発生の有無を判定している。しかし、ウエハ2のスリップが例えば1ミリメートルの場合と10ミリメートルの場合とで、電流値等の波形が異なることは十分に考えられる。従って、電流値等の監視によって、スリップの大きさを定量的に求める余地もある。電流値等の波形と、生じたスリップの大きさと、の関係を機械学習させることで、波形からスリップの大きさを学習モデルに推定させることも可能である。
【0077】
上記の実施形態で、制御装置5は、電動モータに関する情報に基づいて、スリップが発生したか否かを判定している。この代わりに、又はこれに加えて、制御装置5が、電動モータに関する情報に基づいて、ハンド10に対するウエハ2のスリップ量を推定しても良い。スリップ量は、例えば、電流値等の情報に関する値が連続的に過大となっている期間と、当該期間におけるロボット1の動作量と、に基づいて算出することができる。制御装置5は、スリップ量を推定した後、得られたスリップ量と所定閾値とを比較した結果に基づいて、スリップの発生の有無を判定しても良い。
【0078】
位置ズレの自動的な修正が不要である場合、位置ズレ検出装置8を省略することもできる。
【0079】
本明細書で開示する要素の機能は、開示された機能を実行するように構成又はプログラムされた汎用プロセッサ、専用プロセッサ、集積回路、ASIC(Application Specific Integrated Circuits)、従来の回路、及び/又は、それらの組合せ、を含む回路又は処理回路を使用して実行することができる。プロセッサは、トランジスタやその他の回路を含むため、処理回路又は回路と見なされる。本開示において、回路、ユニット、又は手段は、列挙された機能を実行するハードウェア、又は、列挙された機能を実行するようにプログラムされたハードウェアである。ハードウェアは、本明細書に開示されているハードウェアであっても良いし、あるいは、列挙された機能を実行するようにプログラム又は構成されているその他の既知のハードウェアであっても良い。ハードウェアが回路の一種と考えられるプロセッサである場合、回路、手段、又はユニットはハードウェアとソフトウェアの組合せであり、ソフトウェアはハードウェア及び/又はプロセッサの構成に使用される。