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  • 特許-希土類磁性体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】希土類磁性体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 3/00 20210101AFI20240918BHJP
   B22F 1/00 20220101ALI20240918BHJP
   B22F 1/05 20220101ALI20240918BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20240918BHJP
   B22F 9/04 20060101ALI20240918BHJP
   C21D 6/00 20060101ALI20240918BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20240918BHJP
   C22C 21/00 20060101ALI20240918BHJP
   C22C 28/00 20060101ALI20240918BHJP
   C22C 30/02 20060101ALI20240918BHJP
   C22C 33/02 20060101ALI20240918BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240918BHJP
   H01F 1/055 20060101ALI20240918BHJP
   H01F 41/02 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
B22F3/00 F
B22F1/00 Y
B22F1/05
B22F3/24 B
B22F3/24 K
B22F9/04 C
B22F9/04 E
C21D6/00 B
C21D9/00 S
C22C21/00 N
C22C28/00 A
C22C30/02
C22C33/02 H
C22C38/00 303D
H01F1/055 130
H01F1/055 170
H01F41/02 G
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2023076529
(22)【出願日】2023-05-08
(65)【公開番号】P2023177262
(43)【公開日】2023-12-13
【審査請求日】2023-05-08
(31)【優先権主張番号】202210610371.6
(32)【優先日】2022-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】310005618
【氏名又は名称】煙台東星磁性材料株式有限公司
(74)【代理人】
【識別番号】100139033
【弁理士】
【氏名又は名称】日高 賢治
(72)【発明者】
【氏名】王伝申
(72)【発明者】
【氏名】彭衆傑
(72)【発明者】
【氏名】楊昆昆
(72)【発明者】
【氏名】董占吉
(72)【発明者】
【氏名】丁開鴻
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/133067(WO,A1)
【文献】特開2022-031605(JP,A)
【文献】特開2018-029108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 9/30
C22C 28/00
C22C 38/00-38/60
H01F 1/00- 1/117
H01F 41/00-41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
希土類磁性体の製造方法であって、
(ステップ1)質量百分率で示す化学式がR1αM1βγFe100-α-β-γである拡散源合金を作成し、
10≦α≦80、15≦β≦90、0.1≦γ≦3、
前記R1は、Nd、Pr、Ce、Laの少なくとも一つ、
前記M1は、Al、Cu、Gaの少なくとも一つであり、
前記拡散源合金を粉砕して拡散源合金粉末を作成し、
(ステップ2)質量百分率で示す化学式がR2aM2Fe100-a-b-cであるR-Fe-B系磁性体母材を作成し、
27≦a≦33、1≦b≦4、0.8≦c≦1.2、
前記R2は、Nd、Prの少なくとも一つ、
前記M2は、Al、Cu、Ga、Ti、Zr、Co少なくとも一つであり、
(ステップ3)前記R-Fe-B系磁性体母材の表面に前記拡散源合金粉末をコーティングし、拡散処理及び時効処理を行って前記R-Fe-B系磁性体を得るものであり、前記拡散処理の温度は800~910℃、拡散時間は6~30時間であり、前記時効処理は2回に分けて行い、第1次時効処理温度は700~850℃、第1次時効処理時間は2~10時間、第2次時効処理温度は450~600℃、第2次時効処理時間は3~10時間であり、
前記(ステップ1)と前記(ステップ2)は、同時又は順序が逆であっても良い、
ことを特徴とする希土類磁性体の製造方法。
【請求項2】
前記R-Fe-B系磁性体母材は、母材合金の薄片と潤滑剤とを混合して水素化処理し、ジェットミルによって粉砕して母材合金粉末を作成する、
ことを特徴とする請求項1に記載の希土類磁性体の製造方法。
【請求項3】
前記拡散源合金粉末は、噴霧製粉、アモルファス合金薄帯製粉又はインゴット製粉によって作成する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類磁性体の製造方法。
【請求項4】
前記拡散源合金は、水素吸着処理、脱水素処理を経て得るものであり、水素吸着温度は50~200℃、脱水素温度は450~550℃である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類磁性体の製造方法。
【請求項5】
前記母材合金粉末の平均粒子径は2~5μmである、
ことを特徴とする請求項2に記載の希土類磁性体の製造方法。
【請求項6】
前記拡散源合金粉末の平均粒子径は3~60μmである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類磁性体の製造方法。
【請求項7】
前記拡散源合金粉末のコーティング方法は、マグネトロンスパッタリングコーティング、蒸着コーティング、被覆コーティングのいずれかである、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類磁性体の製造方法。
【請求項8】
前記R-Fe-B系磁性体母材を作成する焼結処理温度は980~1060℃であり、焼結時間は6~15時間である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の希土類磁性体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類磁性体の技術分野に属し、特に重希土類元素を用いずに保磁力を高めることができる軽希土類磁性体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
Nd-Fe-B系焼結永久磁性体は、電子情報、医療機器設備、新エネルギー自動車、家電、ロボット等の分野で広く利用されている。過去数十年に及ぶ研究によって、Nd-Fe-B系磁性体の性能は目覚ましい発展を遂げてきた。特に拡散技術は、重希土類元素の使用量を大幅に削減しつつ保磁力性能を維持することができる優れた技術である。
【0003】
この拡散技術は、母材となるNd-Fe-B系焼結永久磁性体の表面に重希土類元素であるDy、Tbを塗布(添加)する方法が常用されるが、この方法によると、重希土類元素であるDy、Tbが結晶粒界の内部に大量に入り込みやすく、磁性体の残留磁気が低下し、重希土類元素を浪費してしまう問題がある。別の方法として、拡散源を熱処理によって結晶粒界から磁性体の内部に浸透させ、保磁力を高める結晶粒界拡散法がある。この方法によれば、磁性体の保磁力を大幅に向上させる一方で重希土類元素の使用量を少なくでき、低コストであることから広く注目されてきた。しかしながら、昨今の重希土類元素の価格高騰に伴い、Dy、Tbを拡散源とする方法では高コスト問題を解決することが難しい。重希土類元素の拡散技術は、磁気特性の向上とともに、磁性体の製造コストを効果的に削減することができるため、重希土類元素の拡散技術の発展は、Nd-Fe-B系焼結永久磁性体の製造にとって、特に重要と言える。
【0004】
例えば、中国特許公告番号CN106298219Bには、R-T-B希土類永久磁性体の製造方法として、a)拡散源としてRLRHFe100-u-v-w-z希土類合金を作成し、前記RLはPr及びNdの少なくとも一つ、RHはDy、Tb、Hоの少なくとも一つ、MはCo、Nb、Cu、Al、Ga、Zr、Tiの少なくとも一つであり、この希土類合金はR-Fe-Bの正方晶の主相構造を含み、0≦u≦10、35≦v≦70、0.5≦w≦5、0≦z≦5、u、v、w、zは各元素の質量パーセントを示し、b)RLRHFe100-u-v-w-z希土類合金を粉砕して合金粉末を作成し、c)当該合金粉末とR-T-B磁性体を共に回転拡散装置へ投入して熱拡散処理し、拡散温度は750~950℃、拡散時間は4~72時間であり、d)時効処理の実施であって、回転拡散装置内に分散又は緩衝作用を奏する補助物質を添加し、補助物質は鉄基材及びチタン基材の一つ以上、又はアルミナ、ジルコニアの一つ以上であり、補助物質の粒子径は10mm未満であり、回転拡散装置内に更に付着防止粉体を添加しても良く、付着防止粉体はアルミナ、ジルコニア、酸化ジスプロシウム、酸化テルビウム、フッ化ジスプロシウム、およびフッ化テルビウムのうちの一つ以上であり、付着防止粉末の粒子径は100μm未満である、とする発明が開示されている。
上記発明で用いる拡散源合金は、RLRHFe100-u-v-w-z希土類合金であり、軽希土類元素だけではなく重希土類元素も含有する。他方、拡散源中のBの含有量が多すぎると、これによって融点も高まり、磁性体内への拡散が難しくなる。拡散源中に貴重な重希土類を含有しているにも拘わらず、拡散後の保磁力の増加は僅かであり、逆に残留磁気が大きく低下し、理想の磁気特性を達成しているとは言い難い。
【0005】
また中国特許公開番号CN113764147Aには、低融点合金の混合拡散によるNd-Fe-B系磁性体の保磁力向上方法として、重希土類含有低融点(Dy、Tb)-Al-Cu合金と高希土類リッチ低融点(Pr、Ce)-Ga-Cu合金の組成に応じて各原料を混合、アーク製錬し、その後、高エネルギーボールミル、溶融急冷法、遊星型低エネルギーボールミルによって粉体を作成し、比率に応じて混合して糊状の溶液を精製し、糊状の溶液をNd-Fe-B系磁性体の表面に均一に塗布し、その後窒素ガス雰囲気及び低磁場下で、第1次及び第2次時効処理を行い、高保磁力のNd-Fe-B系磁性体を作成する発明が開示されている。
上記発明において軽希土類元素を用いる目的は、重希土類元素の拡散深さを向上させるためであるが、軽希土類元素は保磁力の向上には作用しないことから、結局、重希土類元素を使用する必要がる。
【0006】
さらに、中国特許公開番号CN113851320Aには、軽希土類合金結晶粒界に軽希土類を拡散させたNd-Fe-B系磁性体の製造方法として、軽希土類合金拡散源をNd-Fe-B系焼結磁性体の表面に塗布して結晶粒界拡散処理を行い、時効処理するものであり、軽希土類合金拡散源の成分はPrFe100-Aであり、10wt%≦A≦90wt%、軽希土類Nd-Fe-B系焼結磁性体の成分はRFeGa(I)であり、RはLa、Ce、Nd、Prから選択される一つ以上、MはCu、Al、Co、Zrから選択される一つ以上、x:28~33wt%、y:60~70wt%、a:0~0.6wt%、b:0.1~0.8wt%、c:0.9~0.98wt%、とする発明が開示されている。
上記発明における拡散源PrFe100-Aは、鉄の含有量が多くなると、拡散後に多くの鉄磁性相が形成されるため、磁性体の保磁力は高まるものの、残留磁気が大きく低下し、磁気特性全体の向上を実現できていない。
【0007】
上記した従来技術を分析すると、結晶粒界への拡散法として(1)重希土類元素を使用せず、(2)軽希土類元素を拡散させたNd-Fe-B系磁性体は磁気特性が大きく向上しない、という課題が存在することが分かる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】中国特許CN106298219B公報
【文献】中国特許CN113764147A公報
【文献】中国特許CN113851320A公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本願発明は、上記した従来技術が有する課題を解決し、重希土類元素を使用せず、軽希土類元素を拡散源として使用しつつ、高い磁気特性を有する希土類磁性体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願発明は希土類磁性体の製造方法であって、
(ステップ1)質量百分率で示す化学式がR1αM1βγFe100-α-β-γである拡散源合金を作成し、
10≦α≦80、15≦β≦90、0.1≦γ≦3、
前記R1は、Nd、Pr、Ce、Laの少なくとも一つ、
前記M1は、Al、Cu、Gaの少なくとも一つであり、
前記拡散源合金を粉砕して拡散源合金粉末を作成し、
(ステップ2)質量百分率で示す化学式がR2aM2Fe100-a-b-cであるR-Fe-B系磁性体母材を作成し、
27≦a≦33、1≦b≦4、0.8≦c≦1.2、
前記R2は、Nd、Prの少なくとも一つ、
前記M2は、Al、Cu、Ga、Ti、Zr、Co少なくとも一つであり、
(ステップ3)前記R-Fe-B系磁性体母材の表面に前記拡散源合金粉末をコーティングし、拡散処理及び時効処理を行って前記R-Fe-B系磁性体を得るものであり、前記拡散処理の温度は800~910℃、拡散時間は6~30時間であり、前記時効処理は2回に分けて行い、第1次時効処理温度は700~850℃、第1次時効処理時間は2~10時間、第2次時効処理温度は450~600℃、第2次時効処理時間は3~10時間であり、
前記(ステップ1)と前記(ステップ2)は、同時又は順序が逆であっても良い、ことを特徴とする。
【0011】
一実施形態において、
前記R-Fe-B系磁性体母材は、母材合金の薄片と潤滑剤とを混合して水素化処理し、ジェットミルによって粉砕して母材合金粉末を作成し、
前記拡散源合金粉末は、噴霧製粉、アモルファス合金薄帯製粉又はインゴット製粉によって作成し、
前記拡散源合金は、水素吸着処理、脱水素処理を経て得るものであり、水素吸着温度は50~200℃、脱水素温度は450~550℃であり、
前記母材合金粉末の平均粒子径は2~5μmであり、
前記拡散源合金粉末の平均粒子径は3~60μmであり、
前記拡散源合金粉末のコーティング方法は、マグネトロンスパッタリングコーティング、蒸着コーティング、被覆コーティングのいずれかであり、
前記R-Fe-B系磁性体母材を作成する焼結処理温度は980~1060℃であり、焼結時間は6~15時間である、
ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、従来技術に比べて、以下の有益な効果を奏する。
(1)拡散源合金R1αM1βγFe100-α-β-γに含まれる高融点元素Bの含有量を少なくし、且つ重希土類元素を含まず、軽希土類元素を多く含むことから、拡散効率を高め、軽希土類元素が磁性体の内部に容易に拡散する。軽希土類元素を磁性体の内部に拡散させることにより、より多くの軽希土類層及び結晶粒界構造を形成し、特に厚さが3~8mm程度の希土類磁性体の保磁力を効果的に高めることができる。
【0013】
(2)拡散源合金R1αM1βγFe100-α-β-γに含まれるBの含有量を少なくすることで拡散工程における酸化問題を低減し、拡散工程における希土類元素の利用率を高めることができる。
【0014】
(3)拡散源合金R1αM1βγFe100-α-β-γに含まれるB及びFeの含有量を調整することで、軽希土類元素が拡散した主相が形成され、磁性体の残留磁気の低下を抑えることができ、かつFeが磁性体内のAl、Ga、Cuとμ層及びδ相を形成することにより、磁性体の保磁力を高めることができる。
【0015】
(4)拡散源合金R1αM1βγFe100-α-β-γに含まれるB及びFeの含有量を調整することにより(B及びFeの総重量比は最大で20%)、拡散源のコストを大幅に抑えることができ、磁性体全体の製造コストを削減することができる。
【0016】
(5)拡散源合金R1αM1βγFe100-α-β-γは大量生産が可能であり、拡散源合金粉末を作成した後、コーティング法によって磁性体母材の表面に塗布することで、拡散源の利用率をほぼ100%にすることができる。また重希土類元素を使用しないことから、多ロットの磁性体に安価な拡散源を大量に提供でき、製造コストを削減するとともに磁性体の磁気エネルギー積を効果的に高めることができる。
【0017】
以上のとおり本願発明によれば、軽希土類元素からなる拡散源と、これに対応する成分に調整した磁性体母材とを最適に組み合わせることにより、保磁力を大幅に向上させつつ残留磁気の低下幅を極力抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の実施例10に係る磁性体の電子顕微鏡写真
図2】比較例10に係る磁性体の電子顕微鏡写真
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本願発明に係る希土類磁性体及びその製造方法の具体的実施例について詳細に説明する。下記実施例は、本発明の解釈のみに用いるものであり、本願発明に係る構成を限定するものではない。
【0020】
本願発明に係る希土類磁性体として、実施例1~16を作成した。各実施例の基本的な製造方法はほぼ共通するものであり、各実施例における相違は、磁性体寸法、拡散源合金の成分、拡散処理及び時効処理の温度と時間、拡散処理する前の磁性体母材の各成分である。
【0021】
(拡散源の作成)
実施例1~16に係る拡散源となる合金成分を調合した。各実施例に係る各拡散源の合金成分及び含有量(質量%)は表1に示す通りである。拡散源となる合金成分を真空溶錬炉に投入して溶錬し、鋳型に注入して拡散源合金薄片とし、50℃まで冷却した。拡散源合金薄片の平均厚さは0.25~1mmであり、拡散源合金薄片中のC及びOの含有量は200ppm以下、Nの含有量は50ppm以下であった。拡散源合金薄片に水素吸着処理及び脱水素処理を行った。水素吸着温度は50~200℃、脱水素温度は450~550℃である。その後、拡散源を時効処理した。時効処理温度は350~600℃であった。時効処理後の拡散源合金薄片を粉砕処理し、平均粒子径3.0~60μmの拡散源合金粉末を作成した。粉砕処理は、噴霧製粉法、アモルファスメルトスパン法又はインゴット製粉法を用いることができる。
【0022】
(希土類磁性体母材の作成)
実施例1~16に係るR-Fe-B系磁性体母材となる合金成分を調合した。各実施例の具体的な合金成分及び含有量(質量%)は表2に示す通りである。母材となる合金成分を真空溶錬炉内に投入して溶錬し、鋳型に注入して母材合金薄片とし、50℃まで冷却した。母材合金薄片の平均厚さは0.25mmであり、母材合金薄片中のC及びOの含有量は200ppm以下、Nの含有量は50ppm以下であった。母材合金薄片に水素吸着処理及び脱水素処理を行った。水素吸着温度は50~200℃、脱水素温度は450~550℃とした。
【0023】
水素吸着処理及び脱水素処理後の母材合金薄片と潤滑剤を混合し、水素化処理を行った後、ジェットミルによって粉砕し、研磨ガスはアルゴンガスであり、平均粒子径が2~5μmの母材合金粉末を作成した。
【0024】
母材合金粉末を自動プレス機に投入し、磁場配向プレス成形してブロック素地とし、これを焼結炉に投入し、焼結温度980~1060℃、焼結時間6~15時間で焼結した後、表1に示す所定サイズに機械加工してR-Fe-B系磁性体母材を作成した。拡散処理する前のR-Fe-B系磁性体母材の磁気特性は表2に示すとおりである。
【0025】
(拡散処理)
拡散源合金粉末をスラリーとし、拡散源合金スラリーをコーティング法によってR-Fe-B系磁性体母材の表面に塗布し、拡散処理を行った。表1に示すとおり、各実施例の拡散処理に係る焼結温度は800~910℃、拡散時間は6~30時間であり、時効処理は2回に分けて行い、第1次時効処理温度は700~850℃、第1次時効処理時間は2~10時間、第2次時効処理温度は450~600℃、第2次時効処理時間は3~10時間とした。なお拡散源合金粉末のコーティング方法は、マグネトロンスパッタリングコーティング、蒸着コーティング、被覆コーティングのいずれかであれば良い。また、拡散源の作成と希土類磁性体母材の作成は同時であってもよく、それぞれ別々の時系列で作成しても良い。
【0026】
拡散処理によって得られた実施例1~16に係るR-Fe-B系磁性体の磁気特性を測定した。測定した結果は表1に示すとおりである。

【0027】
表1:各実施例の拡散源成分及び拡散後の磁気特性
【0028】
表2:各実施例における磁性体母材の各成分及び磁気特性
【0029】
図1は、各実施例の代表例として、実施例10に係る磁性体の表面をZEISS電子顕微鏡によって撮影した写真であり、結晶粒界相中のμ相及びδ相の存在とその位置を示している。また、表3は実施例1~16に係るμ相及びδ相の組成をEDS法によって測定した成分分析結果を示すものである。なお実施例10以外の磁性体に係るZEISS電子顕微鏡写真は省略するが、実施例10と同様に結晶粒界相中にμ相及びδ相を含んでいる。
【0030】
μ相及びδ相の存在は、結晶粒界中の反磁性結合作用を増強させ、磁性体の保磁力増強に寄与するものである。
【0031】
表3:各実施例におけるμ相及びδ相の組成
【0032】
(比較例の作成)
上記実施例1~16と対比するため、対応する比較例1~16を作成した。実施例と比較例との相違点は、比較例が拡散源合金を構成する元素にB及びFeを含まない点であり、その他の条件は全て同じとした。また、比較例1~16に係る拡散処理する前の希土類磁性体母材も、対応する実施例1~16と同じものとした。比較例1~16の詳細は、表3に示すとおりである。

【0033】
表4:各比較例における拡散源成分及び拡散処理後の磁気特性
【0034】
図2は、各比較例の代表例として比較例10に係る磁性体の表面をZEISS電子顕微鏡によって撮影した写真であり、結晶粒界相中のμ相の存在とその位置を示している。
【0035】
以下、表2及び表4に記載した各実施例と対応する各比較例の磁気特性比較結果について説明する。
(実施例1と比較例1との対比)
実施例1は、μ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=14.00kGs、保磁力Hcj=21.50kOeであるのに対し、比較例1は、δ相のみを含み、Br=13.60kGs、Hcj=20.00kOeであった。実施例1の残留磁気及び保磁力は比較例1のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0036】
(実施例2と比較例2との対比)
実施例2は、μ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=14.00kGs、保磁力Hcj=23.00kOeであるのに対し、比較例2は、δ相のみを含み、Br=13.50kGs、Hcj=21.00kOeであった。実施例2の残留磁気及び保磁力は比較例2のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0037】
(実施例3と比較例3との対比)
実施例3は、μ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=13.20kGs、保磁力Hcj=24.50kOeであるのに対し、比較例3は、δ相のみを含み、Br=12.90kGs、Hcj=22.50kOeであった。実施例3の残留磁気及び保磁力は比較例3のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0038】
(実施例4と比較例4との対比)
拡散後の実施例4は、μ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=13.30kGs、保磁力Hcj=25.00kOeであるのに対し、比較例4は、δ相のみを含み、Br=12.80kGs、Hcj=22.00kOeであった。実施例4の残留磁気及び保磁力は比較例4のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0039】
(実施例5と比較例5との対比)
実施例5は、μ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=13.25kGs、保磁力Hcj=24.00kOeであるのに対し、比較例5は、μ相及びδ相のいずれも含まず、Br=12.70kGs、Hcj=22.00kOeであった。実施例5の残留磁気及び保磁力は比較例5のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0040】
(実施例6と比較例6との対比)
実施例6は、μ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=13.35kGs、保磁力Hcj=25.00kOeであるのに対し、比較例6は、μ相及びδ相のいずれも含まず、Br=13.00kGs、Hcj=21.00kOeであった。実施例6の残留磁気及び保磁力は比較例6のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0041】
(実施例7と比較例7との対比)
実施例7は、μ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=13.47kGs、保磁力Hcj=24.50kOeであるのに対し、比較例7は、δ相のみを含み、Br=13.10kGs、Hcj=21.50kOeであった。実施例7の残留磁気及び保磁力は比較例7のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0042】
(実施例8と比較例8との対比)
実施例8は、μ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=13.50kGs、保磁力Hcj=24.00kOeであるのに対し、比較例8は、δ相のみを含み、Br=13.00kGs、Hcj=20.50kOeであった。実施例8の残留磁気及び保磁力は比較例8のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0043】
(実施例9と比較例9との対比)
実施例9は、μ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=12.90kGs、保磁力Hcj=25.50kOeであるのに対し、比較例9は、δ相のみを含み、Br=12.50kGs、Hcj=23.50kOeであった。実施例9の残留磁気及び保磁力は比較例9のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0044】
(実施例10と比較例10との対比)
実施例10は、μ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=13.45kGs、保磁力Hcj=25.50kOeであるのに対し、比較例10は、δ相のみを含み、Br=13.00kGs、Hcj=23.50kOeであった。実施例10の残留磁気及び保磁力は比較例10のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0045】
(実施例11と比較例11との対比)
実施例11は、μ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=13.80kGs、保磁力Hcj=23.00kOeであるのに対し、比較例11は、δ相のみを含み、Br=13.40kGs、Hcj=21.00kOeであった。実施例11の残留磁気及び保磁力は比較例11のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0046】
(実施例12と比較例12との対比)
実施例12は、μ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=13.70kGs、保磁力Hcj=24.00kOeであるのに対し、比較例12は、μ相及びδ相のいずれも含まず、Br=13.20kGs、Hcj=22.00kOeであった。実施例12の残留磁気及び保磁力は比較例12のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0047】
(実施例13と比較例13との対比)
実施例13は、μ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=12.30kGs、保磁力Hcj=25.00kOeであるのに対し、拡散後の比較例13は、δ相のみを含み、Br=12.00kGs、Hcj=23.00kOeであった。実施例13の残留磁気及び保磁力は比較例13のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0048】
(実施例14と比較例14との対比)
実施例14は、μ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=12.50kGs、保磁力Hcj=24.00kOeであるのに対し、比較例14は、μ相及びδ相のいずれも含まず、Br=12.30kGs、Hcj=22.00kOeであった。実施例14の残留磁気及び保磁力は比較例14のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0049】
(実施例15と比較例15との対比)
実施例15は、μ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=13.35kGs、保磁力Hcj=23.00kOeであるのに対し、比較例15は、μ相及びδ相のいずれも含まず、Br=12.90kGs、Hcj=20.50kOeであった。実施例15の残留磁気及び保磁力は比較例15のそれよりも顕著な優位性を備えている。
【0050】
(実施例16と比較例16との対比)
実施例16は、μ相及びδ相の両方を含み、残留磁気Br=13.25kGs、保磁力Hcj=25.50kOeであるのに対し、比較例16は、δ相のみを含み、Br=12.80kGs、Hcj=23.5kOeであった。実施例16の残留磁気及び保磁力は比較例16よりも顕著な優位性を備えている。
【0051】
以上のとおり、軽希土類磁性体に軽希土類拡散源合金RαβγFe100-α-β-γを拡散した本願発明に係る全ての実施例は、対応する比較例に対して、気磁気特性は明らかに向上した。

図1
図2