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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】建物内への浸水防止装置
(51)【国際特許分類】
   E04B 1/64 20060101AFI20240918BHJP
   E04B 1/70 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
E04B1/64 C
E04B1/64 A
E04B1/70 C
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2023103345
(22)【出願日】2023-06-23
(65)【公開番号】P2024016806
(43)【公開日】2024-02-07
【審査請求日】2024-02-07
(31)【優先権主張番号】P 2022129440
(32)【優先日】2022-07-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】519021141
【氏名又は名称】丸山 芳之
(74)【代理人】
【識別番号】100125645
【弁理士】
【氏名又は名称】是枝 洋介
(74)【代理人】
【識別番号】100145609
【弁理士】
【氏名又は名称】楠屋 宏行
(74)【代理人】
【識別番号】100149490
【弁理士】
【氏名又は名称】羽柴 拓司
(72)【発明者】
【氏名】丸山 芳之
【審査官】須永 聡
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-095999(JP,A)
【文献】特開2001-049750(JP,A)
【文献】特開2002-364088(JP,A)
【文献】特開2021-067158(JP,A)
【文献】特開平10-008578(JP,A)
【文献】特開2023-167052(JP,A)
【文献】特開2022-146381(JP,A)
【文献】特開2016-132869(JP,A)
【文献】特開2017-008654(JP,A)
【文献】特開2021-134637(JP,A)
【文献】特開2001-132115(JP,A)
【文献】特開2008-031698(JP,A)
【文献】実開平02-018807(JP,U)
【文献】特開平07-300908(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04B 1/64
E04B 1/68
E04B 1/684
E04B 1/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物の土台に取り付けられた、複数の換気孔が形成された隔壁部を有する土台水切りに取り付けられる建物浸水防止装置であって、
前記土台水切りに取り付けられ、前記隔壁部の前記複数の換気孔が開口した屋外側の下面に対向して配置される取付部材と、
前記隔壁部と前記取付部材の間に配置され、前記複数の換気孔を塞ぐ閉塞位置と、前記複数の換気孔を開放する開放位置との間を水平方向に移動可能に構成された防水部材と、
を備える、建物浸水防止装置。
【請求項2】
前記取付部材には開口窓が形成され、
前記防水部材が前記閉塞位置と前記開放位置のどちらにあっても、前記開口窓に前記防水部材が現れる、
請求項1に記載の建物浸水防止装置。
【請求項3】
前記防水部材は、前記開口窓に現れる位置に指かけを有する、
請求項2に記載の建物浸水防止装置。
【請求項4】
前記取付部材は、
前記隔壁部の前記下面に対向して配置され、前記隔壁部の前記下面との間に前記防水部材を収容するための凹部を形成する対向部と、
前記対向部に対して前記土台に近い側と前記土台から遠い側で前記土台水切りに取り付けられる一対の取付部と、
を備える、
請求項1に記載の建物浸水防止装置。
【請求項5】
前記一対の取付部のうち、前記土台に近い側の取付部は、前記隔壁部の前記下面に取り付けられる、
請求項4に記載の建物浸水防止装置。
【請求項6】
前記一対の取付部のうち、前記土台から遠い側の取付部は、前記土台水切りの垂れ壁部に取り付けられる、
請求項4に記載の建物浸水防止装置。
【請求項7】
前記防水部材は、
レール部と、
前記レール部に沿って配置され、前記レール部に接合された複数の板部と、
を備える、
請求項1に記載の建物浸水防止装置。
【請求項8】
建物の土台に取り付けられる、複数の換気孔が形成された隔壁部を有する土台水切りと、
前記土台水切りに取り付けられ、前記隔壁部の前記複数の換気孔が開口した屋外側の下面に対向して配置される取付部材と、
前記隔壁部と前記取付部材の間に配置され、前記複数の換気孔を塞ぐ閉塞位置と、前記複数の換気孔を開放する開放位置との間を水平方向に移動可能に構成された防水部材と、
を備える、建物浸水防止装置。
【請求項9】
請求項1ないし8の何れかに記載の建物浸水防止装置を備える建物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建物の土台水切り換気孔からの建物内への浸水を防止する装置、当該装置を備えた建物及び当該装置を適用した建物浸水防止方法に関する。
【背景技術】
【0002】
洪水、高潮等による浸水想定区域内等の建物の床上、床下浸水被害が各地で発生している。しかし、建物内への浸水量が多いとされる土台水切り換気孔からの浸水を防止する、有効、かつ、設置しやすい浸水防止装置の普及が進んでいない。
換気孔を有する従来からの土台水切りでは、その換気孔から建物内への浸水を防止する対策として、土台水切り内部に換気孔を塞ぐためのフロート式防水部材を備えたもの(特許文献1参照)、土台水切り内部の換気孔の上部に備えたパッキン部材のワイヤーを手動で引っ張って移動させ換気孔を塞ぐもの(特許文献2参照)や、その他にも多くの技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特願2015-229898
【文献】特開2021-067158
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1の技術の場合、浸水時に土台水切り内部へ細かい浮遊物が入り込むなどして、土台水切り内部の防水部材の作動に支障をきたすことも考えられる。
また、特許文献2の土台水切りは、換気孔を閉じるためのパッキンの防水部材を水切り内部(換気孔の上方部)に設けているため、浸水時の水圧によって防水部材を換気孔に密着させておく水圧対策等に課題がある。
【0005】
さらに、特許文献1、2の発明とも、既存建物の場合は、既設の土台水切りを交換するため外壁の一部を取り外し、発明品に取り換える取替工事が必要となる。そのため、相当の取替費用が必要となり、工事日数も要する。
その他、特許文献1、2以外の発明技術にあっても、浸水防止構造が複雑なことなどで製造原価も相当なものとなり設置コストが高くなると考えられる。
【0006】
したがって、浸水被害が予測されるときに、確実に換気孔を閉じることができる技術であって、既存建物にも取替工事等を行うことなく、比較的安価で設置できる、土台水切り換気孔からの浸水防止装置の普及が期待される。
【0007】
本発明は、浸水被害が予測される際に、防水部材で土台水切りの換気孔を確実に閉じることができる装置である。
装置のタイプは、2つあり、1つは土台水切り自体に防水部材を取り付ける構造を備えているもの(本願発明)で、もう1つは従来からの換気孔のある土台水切りへ、防水部材を取り付けるための防水部材取付部材(本願発明)を固定するタイプの浸水防止装置である。
何れも、単純な構造のものとし、特に防水部材は樹脂等の産業廃棄物を材料とする形状を考案し、経費の安価を図り、短時間で確実に換気孔を閉じることができる浸水防止装置を普及させることを目標としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の一の態様の建物浸水防止装置は、建物の土台に取り付けられた、複数の換気孔が形成された隔壁部を有する土台水切りに取り付けられる建物浸水防止装置であって、前記土台水切りに取り付けられ、前記隔壁部の前記複数の換気孔が開口した屋外側の下面に対向して配置される取付部材と、前記隔壁部と前記取付部材の間に配置され、前記複数の換気孔を塞ぐ閉塞位置と、前記複数の換気孔を開放する開放位置との間を移動可能に構成された防水部材と、を備える。
【0009】
上記態様において、前記取付部材には開口窓が形成され、前記防水部材が前記閉塞位置と前記開放位置のどちらにあっても、前記開口窓に前記防水部材が現れてもよい。
【0010】
上記態様において、前記防水部材は、前記開口窓に現れる位置に指かけを有してもよい。
【0011】
上記態様において、前記取付部材は、前記隔壁部の前記下面に対向して配置され、前記隔壁部の前記下面との間に前記防水部材を収容するための凹部を形成する対向部と、前記対向部に対して前記土台に近い側と前記土台から遠い側で前記土台水切りに取り付けられる一対の取付部と、を備えてもよい。
【0012】
上記態様において、前記一対の取付部のうち、前記土台に近い側の取付部は、前記隔壁部の前記下面に取り付けられてもよい。
【0013】
上記態様において、前記一対の取付部のうち、前記土台から遠い側の取付部は、前記土台水切りの垂れ壁部に取り付けられてもよい。
【0014】
上記態様において、前記防水部材は、レール部と、前記レール部に沿って配置され、前記レール部に接合された複数の板部と、を備えてもよい。
【0015】
また、本発明の他の態様の建物浸水防止装置は、建物の土台に取り付けられる、複数の換気孔が形成された隔壁部を有する土台水切りと、前記土台水切りに取り付けられ、前記隔壁部の前記複数の換気孔が開口した屋外側の下面に対向して配置される取付部材と、前記隔壁部と前記取付部材の間に配置され、前記複数の換気孔を塞ぐ閉塞位置と、前記複数の換気孔を開放する開放位置との間を移動可能に構成された防水部材と、を備える。
【0016】
また、本発明の他の態様の建物は、上記の建物浸水防止装置を備える。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】態様1(態様2に準用)の建物壁面の断面概略図である。
図2】態様1の本願発明の土台水切りで、防水部材が平時の換気状態にある傾斜概略図である。
図3】態様1の土台水切りで、防水部材が換気孔を閉じた状態(換気孔の下方部)にある傾斜概略図である。
図4】態様1の換気孔を防水部材により閉じた状態を下方から見た平面概略図である。
図5】態様2の従来からの土台水切りに防水部材取付部材を固定する一例として、ねじ止め用下穴の位置を示した傾斜概略図である。
図6】態様2の防水部材取付部材で、防水部材が平時の換気状態にある傾斜概略図である。
図7】態様2の防水部材取付部材を従来からの土台水切りへ固定した状態で、防水部材が平時の換気状態及び換気孔を閉じた両方の状態を下方から見た平面概略図である。
図8】態様1、2に共通の防水部材で、構造の一例として、換気孔を閉じる平板部材と足部材(2本)を接合した参考形状の傾斜概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
上記課題を解決して上記目標を達成するため、本発明に係る建物浸水防止装置は、防水部材を土台水切り換気孔の外側(換気孔の下方部)に沿って手動で水平方向に移動させるだけで換気孔を閉じるようにしたことを特徴とする。
【0019】
本発明の概要を説明する。
本建物浸水防止装置は、平時の換気状態においては、土台水切りの換気孔を閉じる形状に成形した防水部材を換気孔を閉じない状態で取り付けておき、浸水被害予測時に、手動で水平に移動させるだけで換気孔を下方部から閉じることができる単純な構造である。
【0020】
また、従来からの土台水切りを使用する場合は、水切りの外側に防水部材取付部材をねじ止め等で固定することで、換気孔を閉じる防水部材を備えた土台水切り(本願発明)と同様に、換気孔を下方部から防水部材で閉じることができる。
【0021】
このように、予め土台水切りの換気孔の外側に取り付けた状態の防水部材を水平方向に移動させるだけで、換気孔を閉じ、換気孔からの浸水を防ぐ状態にできるため、作業は一人でも短時間で容易、確実に換気孔を閉じることができる。
【0022】
防水部材の上下部分は、土台水切り、防水部材取付部材に接触する構造とし、位置の安定確保を図っているため、位置を固定するためのねじ止め等は不要である。ただし、浸水時の水流対策等から防水部材が換気孔を閉じた状態を維持するように耐水性粘着テープ等で要所を固定しておけばなおよい。
【0023】
なお、防水部材は、平時の換気状態では、換気孔にかかってなく、厚さが数ミリメートル以下であるため、平時の換気に与える影響はほとんどない。
【0024】
大雨・洪水等が予測される場合は、早い時点で防水部材を手で移動させて換気孔を閉じておけば、浸水対策を行うことができる。
また、浸水警戒地域では、自治会、自治体等が協力して地域全体の浸水防災対策の一つとすることが可能となる建物浸水防止方法である。
【0025】
本発明の概要について説明する。
先ず、ベタ基礎工法の建物であっても、基礎上部に床下換気層を有し、この場合は土台水切りに換気孔(通風口等ともいう。)を備えたものがほぼ一般的である。
また、同換気孔は、外壁内側通風層への通風口を兼ねているものがある。
しかし、建物(特に床下)への浸水被害は、この換気孔からの浸水量が多いため、建物浸水防止対策上は、換気孔の平時の換気と浸水防止対策にどう折り合いをつけるかが最大の課題である。
そこで、平時の換気状態、浸水被害発生予測時の何れにおいて、土台水切り換気孔の開閉が簡便に行える装置、即ち、建物浸水防止装置を提供するものである。
【0026】
以上のとおり、本発明は、当業者(建築・防災・行政関係)及び従来の技術では提案されていない、土台水切り換気孔を簡便かつ確実に閉じ、浸水時の水圧を受けても土台水切り換気孔からの浸水を防止し、既存建物にも後付けで簡便に取り付けができる装置である。
さらに、土台水切り換気孔の外側に防水部材が取り付けてある構造上、防水部材を移動させやすく、また、耐水圧機能を備え、構造が単純であるため維持管理、修理がしやすい装置である。
また、本発明では、取付部材と防水部材が土台水切りの内側に配置されるため、紫外線などの曝露による劣化や、外部からの衝撃による破損などを抑制できるというメリットもある。
【0027】
以下、本発明の態様を列挙する。
(態様1)
土台水切り換気孔からの建物への浸水を防止する装置であって、
土台水切りの換気孔を閉じる形状の防水部材を、前記換気孔の外側部分に備えた土台水切りからなる建物の土台水切り換気孔から建物内への浸水を防止する建物浸水防止装置。
(態様2)
土台水切り換気孔からの建物への浸水を防止する装置であって、
換気孔付き土台水切りと、
前記換気孔を閉じる形状の防水部材と、
前記防水部材を前記換気孔の外側部分に取り付ける防水部材取付部材と、
からなる建物の土台水切り換気孔から建物内への浸水を防止する建物浸水防止装置。
(態様3)
態様1または2に記載の建物浸水防止装置を適用した建物。
(態様4)
態様1または2に記載の建物浸水防止装置を適用した建物浸水防止方法。
【0028】
本発明について、態様1から順に説明する。
態様1に記載の発明は、土台水切りの換気孔から建物内への浸水を防止するための防水部材を換気孔の外側(閉孔時は換気孔の下方部)に取り付ける機能を備えた土台水切りにより構成する。
【0029】
上述の特許文献のとおり、土台水切り内部に移動式の防水部材を設けた技術が提案されているが、防水部材で換気孔を閉じる構造がやや複雑であったり、防水部材を移動させるためのワイヤー用貫通穴からの浸水対策等が課題であることや、既設の土台水切りへ簡便に後付けできないことなどが課題であった。
【0030】
土台水切り換気孔からの浸水を防止する上で、換気孔が一箇所でも閉じていないと、その部分から浸水を来たし建物の浸水被害を防止することができない。
そのため、全ての換気孔を確実に閉じることができ、浸水時の耐水圧効果の高い浸水防止装置の開発が課題であった。
【0031】
本願発明は、このような従来の技術では困難であった、構造の単純性、耐水圧性能の高さ、低コスト等、いくつかの課題を解決し、土台水切り換気孔全体を極短時間で確実に閉じる建物浸水防止装置としたものである。
また、以下のとおり、構造が単純であることと、樹脂等の産業廃棄物等を防水部材として活用できることなどから、製造費、取付け費、維持管理費等の低コストを実現し、大量生産による普及の増進、ひいては多くの建物の水害予防を可能とするものである。
【0032】
この発明の防水部材は、耐水性、耐久性を有する、金属、樹脂、ゴム等からなる成形品とする。材質は単一であってよいし、異種の材質を組み合わせたものでもよい。
例えば、金属とスポンジを貼り合わせるなどして組み合わせたものでもよい。この場合、スポンジ等の弾力性を有する材質の復元作用による押圧力で防水部材が換気孔に密着し、換気孔周囲の水密性を高めることができる。
また、水密性を高めるため、土台水切り換気孔と接する防水部材の部分にゴム製パッキン、吸水性部材、水膨張性部材を貼り合わせるなどしてもよいし、土台水切り換気孔の周囲部分に同様にゴム製パッキン等を貼るなどしてもよい。
【0033】
本願発明の土台水切りは、従来のものと同じ効果効用を有する土台水切りであり、材質等も従来のものと大差ない。ただし、浸水時の水圧で水切り自体が変形等して建物内に浸水しないよう、水圧に耐えられる強度を有する材質、厚さであり、また、建物への固定・密着度(水密性)を高めることが必須である。
【0034】
防水部材を取り付ける機能部分を含め全体を同一素材で作成してよいし、異質素材のものを接着等で合体させてもよい。
長さは、保管、輸送等を考慮し、土台水切り等の一般的な建材と同程度のものでよい。
また、出隅、入隅部分は、従来のものと同様の形状であるが、防水部材で換気孔を閉じ難い部分があれば、同部分には換気孔を設けない状態としておく。
【0035】
次に、態様2の発明について説明する。この発明は、換気孔を閉じるための防水部材を取り付ける機能を備えていない従来からの土台水切りに、防水部材を取り付けるための防水部材取付部材を水切りへ予め固定しておき、防水部材を防水部材取付部材の中で水平方向に移動させる建物浸水防止装置を提供する。
【0036】
態様2における防水部材は、態様1と同じく、耐水性、耐久性を有する、金属、樹脂、ゴム等からなる成形品とする。態様1と同じく単一の材質であってもよいし、異種の材質のものであってもよい。
【0037】
続いて、態様2の特徴である防水部材取付部材について説明する。
防水部材取付部材は、防水部材を取り付ける機能を有していない従来からの土台水切りへねじ止め等で予め固定(固着)しておく。
この防水部材取付部材を固定することで、態様1の土台水切りと同様に、平時の換気状態では、防水部材を土台水切り換気孔の外側に取り付けた状態にしておき、閉孔時は換気孔の下方部に移動させて換気孔を閉じる状態とする。
【0038】
材質は、耐水性、耐久性を有する金属、樹脂等で、土台水切りと同種であっても異種であってもよい。
【0039】
長さは、保管、輸送等を考慮し、土台水切り等の一般的な建材と同程度のものでよい。
また、防水部材の硬度が高い場合は、土台水切りへ部分的に固定する形状のものでもよい。その場合は、例えば、10センチメートルの長さのものを1メートル間隔で土台水切りへ固定し、防水部材を全体に取り付ける。
なお、土台水切りの出隅、入隅部分は、態様1と同様、防水部材で閉じ難い部分の換気孔は予め防水部材で土台水切り換気孔を閉じる状態で固定(固着)しておく。
【0040】
防水部材取付部材の土台水切りへの固定は、ねじ止め、半田付け、溶接付け、接着等の従来の固定方法によって固定すればよく、ねじ止めに限定するものではない。
固定の際は、固定(固着)度を高めるため、接着材を併用するのがなおよい。
【0041】
この態様2の発明は、防水部材取付部材を既存建物に設置している土台水切りへねじ止め等で固定する「後付け」の場合と、新築の場合等で、従来からの土台水切りへねじ止め、ボルト止め等で固定して土台水切りと一体とした上で建物へ取り付ける二つの方法がある。
このような既存建物へ後付けして、換気孔を閉じるタイプの浸水防止装置は、これまでのところ、公知、或いは普及していないものと考える。
【0042】
態様1、2ともに実施するについては、土台水切り自体の強度と建物への固定方法の強度を確保することが浸水防止上の大前提であり極めて重要となる。
具体的には、土台水切りが鋼板製であれば鋼板を厚くするか、要所部分にアルミ等の金属、又は樹脂等のプレート部材を貼り合わせて強度補強するなどして土台水切り自体の強度を確保する。また、建物へ固定する際は、要所において基礎部分又は土台部分へねじ止めするなどして、水圧で土台水切りと基礎等との接合部分に隙間が生じて同所から浸水しないよう土台水切りの固定強度を高めることが重要である。
【0043】
次に、態様3の発明は、態様1または2の何れか1項に記載の建物浸水防止装置を適用した建物を提供する。
【0044】
土台水切りは一般的に地面から40ないし50センチメートル程度の低い位置にあるため、氾濫流や漂流物が土台水切りを直撃するおそれが多分にある。
そのため土台水切りが氾濫流等で破損等しないことが、土台水切り換気孔からの建物への浸水防止の実効を確保するには重要である。
そこで、土台水切り周辺の氾濫流や漂流物の直撃を防ぐには、できるだけ建物敷地全体をブロック塀等で囲み、門扉も水流を通し難いタイプのものとするのがよい。
【0045】
また、防水部材を取り付ける機能を備えていない従来からの土台水切りでは、基礎と接する部分に隙間が生じた状態で固定しているものがある。
この場合は、土台水切りと基礎部分を金属製等のL字型部材で双方にねじ止め等で連結固定して隙間を塞ぐとともに、土台水切りの基礎への固定度を強化し、水密性の向上と水圧対策を講じておく必要がある。
【0046】
本願発明を設置した建物では、その旨を建物外部に明示しておくことにより、浸水発生予測時において、高齢者世帯や家人不在であっても、近隣住民等で防水部材を移動させて換気孔からの浸水被害に備えることができる。
【0047】
なお、本装置で土台水切り換気孔からの浸水を防止しても、玄関、窓等の隙間やサイディング外壁の継ぎ目等からの浸水、排水管等からの逆流を防止する対策をしておかないと建物内への浸水は防止できない。
建物の浸水防止対策上、止水板、配水管の逆流防止弁等を使用した全般的な建物への浸水対策が必要である。
また、本装置等で浸水を防止しても、床上約1メートル程度の水位以上になれば静止水流であっても建物が浮上することが考えられる。
建物の浮上を防ぐためには、浮上する限界に達するまでにあえて腰高窓等から浸水させる水害対策等も考慮しておく必要がある。
【0048】
態様4の発明は、本装置が比較的安価であり、導入、設置後は、維持コストが安価であるため、既存建物及び新築時等に本装置の適用(設置)について公的補助金制度等を適用すれば、水害危険性の高い地域等での設置の普及推進を図ることができる。
このようにして地域単位で浸水防止装置が設置されれば、近隣住民、行政等の支援によって、高齢者世帯、家人不在世帯等であっても防水部材を水平方向に移動させるだけで、大雨、台風等に備えることができる。
このような浸水防止対策を施しておけば、床下、床上浸水を心配せず、躊躇せずに避難場所への早期避難、又は2階での在宅避難ができ、減災効果につながることが期待される。
さらに、本装置を適用(設置)した場合に、火災(水災)保険の保険料を引き下げる、或いは見舞金制度などの特典により、さらに設置の普及を図ることで、社会全体の防災・減災の実現につながることが期待される。
【0049】
以上のとおり、本願発明は、建物への浸水量が多い土台水切り換気孔からの浸水を防止する課題の根本である、「平時の換気の確保」と「浸水予測時の防止対策」に折り合いをつけたものである。
また、従来からの土台水切りに、防水部材の取付け機能部分、防水部材を追加しても製造原価は大きく高騰するものでなく、特に防水部材の材質、形状、構造等によって製造原価を比較的安価に抑えることも可能である。
さらに、構造が単純であるため、設置後の維持管理、修理がしやすいことなどから普及促進が可能であることに着目して本発明を完成させた。
【0050】
態様1の発明は、換気孔の外側に取り付けた防水部材を水平方向に移動して換気孔を閉じることができる土台水切りであり、簡便な作業により換気孔からの建物内への浸水を防止することができる。
態様2の発明は、既存建物への後付け等、従来からの土台水切りに防水部材を取り付けるための防水部材取付部材を予め土台水切りに固定しておくことで、態様1と同じく、土台水切り換気孔からの建物内への浸水を防止することができる。
態様3の発明は、建物浸水防止装置を氾濫流等から保護し、本装置設置の明示をしておくことなどで、浸水防止装置の効果を最大限発揮させることができる。
態様4の発明は、装置の設置を補助金制度、保険料引き下げ等の対象として、設置の普及促進を図り、地域、行政等が協力して、高齢者世帯等を含めた地域、社会全体での浸水防止、減災対策を推進することができる。
【0051】
以下、本願発明を実施するための形態について説明する。ただし、以下に述べる実施形態、本願発明の技術的範囲については、以下の実施形態及び図示に限定されるものではない。
まず、態様1に記載の発明について、図1から4で説明する。
【0052】
図1のとおり、建物外周は、基礎、土台、柱、外壁等からなる。土台水切り1は上部を胴縁または土台に釘(ねじ)止めする。
従来からの土台水切りの下部は基礎に接するがねじ止め等しないのが一般的な取付け方法であり、下部先端部は基礎に接するか、又は基礎表面の化粧モルタル内に収まっている。
なお、図1は、土台水切り1を除いて、態様2の概要に準ずる。
【0053】
図2は、本願発明による、土台水切り1の換気孔の外側に取り付けた防水部材2の平時の換気状態2aの図である。土台水切り1の換気孔が形成された部分は、隔壁部である。
図示では、防水部材2を分かりやすくするため上下に隙間があるように見れるが、実際は上下とも土台水切り1に接している。上下に隙間があると水流等で防水部材2が容易に移動するため不具合である。
また、換気孔は、図示では間隔を設けているが、実際は換気効率を良くするため密集した状態の連続した孔で構成してある。
土台水切り1、防水部材2の材質は、耐水性、耐久性を有する金属、樹脂等でよい。
【0054】
図2の防水部材2の位置2aは、換気孔を閉じていない平時の換気時の状態である(開放位置)。
【0055】
図3の防水部材2の位置2bは、2aから水平に手動で移動して、換気孔を閉じた状態である(閉塞位置)。
【0056】
図4は、防水部材2が換気孔を閉じた状態2bを下方から見た概略図である。
浸水被害予測時等には、図3、4のとおり、防水部材2は防水部材(閉孔時)2bの状態としておく。
【0057】
土台水切り1の強度確保部分3は、土台水切り1の最底面部分の強度を確保するためと、防水部材2の下方への曲がりを抑制して換気孔への密着強度を確保するための部分である。
【0058】
換気可能部分(開口窓)4は、土台水切り1の強度確保部分3以外の部分である。ただし、防水部材2が平時の2aの状態では、同部分は換気できない。
【0059】
移動用指かけ5は、2a、2bの間を手動で移動させる際に、指をかける凹凸部分である。図示では四角状であるが丸状等形状に制限はない。また、凹でも凸でもよく、さらに防水部材2の底面に指が滑らない加工がされていれば凹凸がなくても良い。
なお、後述するが、移動用指かけ5等は、防水部材2の形状から不要となる場合がある。
【0060】
このように防水部材2が換気孔の外側に位置することで、直接、手で触ることが可能であり、特開2021-067158の防水部材(パッキン)のように、2a、2bの間を移動するためのワイヤーを固着する必要がなく、至ってシンプルな形状、構造を実現することができる。
【0061】
なお、図1から4は、換気孔が土台水切り1の建物の外側寄りに位置しているが、逆に建物の内側寄りであってもよい。この場合、防水部材2は、平時の換気時及び換気孔を閉じた状態の位置が、換気孔に合わせて、図1から4で示した位置と逆の位置となる。
【0062】
次に態様2について、図5から7で説明する。
なお、態様2の発明については、基本的な構造は、態様1と同じであり、構造の概略図は図1に準ずる。換気孔の位置も上記のとおりである。
【0063】
図5は、換気孔付きの従来からの土台水切り6である。
これの外側に図6で示した防水部材取付部材8を固定する。
ねじ止め用下穴7は、防水部材取付部材8をねじ止め固定する場合に下穴として小さめに開けておくものである。ただし、ねじ止めは固定方法の一例であって、固定方法は、ねじ止め以外の従来の何れの固定方法でも良い。
【0064】
図6は、防水部材取付部材8を図示したものである。
形状、サイズは、実際に使用する従来からの土台水切6の外側に密着して固定できる形状、サイズとして作成する。
【0065】
図示では、ねじ止め用下穴7に対応する位置に、ねじ止め穴9を開けている。ただし、上述のとおり、固定方法はねじ止め以外でもよい。
なお、従来からの土台水切り6と防水部材取付部材8の固定には、水密性は不要であるが、氾濫流等で外れないよう固定(固着)の強度を高めるため接着材等を併用して固定するのがなおよい。
【0066】
防水部材取付部材8の形状は、土台水切り6の換気孔の位置に対応する部分に換気のためのくり抜いた部分の換気可能部分4を設ける必要がある。
なお、防水部材取付部材8の外側垂直部分は、土台水切り1、6のように、最底部分より数ミリメートル以上下方に延ばし、雨等を下方へ落とす構造の形状でもよい。
【0067】
防水部材取付部材8の、防水部材2を収容するための凹部を形成する部分は対向部であり、対向部に対して土台に近い側と土台から遠い側で土台水切り6に取り付けられる部分は取付部である。土台に近い側の取付部は、隔壁部の下面に取り付けられ、土台から遠い側の取付部は、土台水切り6の垂れ壁部に取り付けられる。土台から遠い側の取付部は、例えば、土台水切り6の垂れ壁部の外面側にネジ留めされてもよいし、土台水切り6の垂れ壁部の内面側に形成された溝に差し込まれてもよい。
【0068】
図7は、従来からの土台水切り6へ防水部材取付部材8を固定(固着)した状態を下方から見た概略図である。
図示では、ねじ10で固定しているが、上述のとおり、固定方法は従来の何れの方法でもよい。
【0069】
防水部材取付部材8は、防水部材2が換気孔に密着する強度を維持できれば、土台水切り6の全体に固定せずに、要所にのみ部分的に固定する形状、方法としてもよい。この一例は、上記のとおりである。
【0070】
防水部材2は、平時の換気状態2a、閉孔時の状態2bの両方を図示している。
【0071】
防水部材取付部材8に強度確保部分3を設けることで、防水部材取付部材8自体の強度を確保し、また、防水部材2が下方に曲がらないようにして、防水部材2の換気孔水密性の強度を確保するために設けておくものである。
【0072】
図8は、態様1、2に共通の防水部材2の構造の一例を表した図である。
防水部材2の材質は、金属、樹脂等を問わないし、異種の材質を組み合わせたものでもよい。長さは、土台水切り1、6と同じく一般的な建材と同じでよい。
図は、換気孔を閉じる平板部材(板部)、2本の足部材(レール部)をそれぞれ接合して組み合わせた構造の一例としての状態を示している。
これは、平板部材、足部材ともに、他の製品の端材等を接合した場合の参考概略図である。
本願発明の防水部材2の換気孔を閉じる平板部分は、水圧で変形、破損しない強度の材質であれば、厚みとして1ミリメートル未満でもよい。
2本の足部材も材質の強度によるが、数ミリの厚み、幅でもよい。
平板部材の幅は、換気孔を閉じることができる幅が必要である。
【0073】
図示のように、平板部材、足部材ともに、別製品製造の際の端材を使用して、強度を確保した設計で接合して、防水部材2を製造すれば、産業廃棄物等の有効活用となる。
【0074】
図8で示した防水部材2については、構造、厚み等、特開2021-067158では全く提案されていない新たな提案である。
また、図8で示した平板部材は、材質により1ミリメートル未満の厚みでも強度上は問題ないが、経年劣化、浸水時の破損等は危惧される。
このように防水部材2が破損等した場合、特開2021-067158では水切りの内部にパッキンを取り付けてあるため取り換えできない。
しかし、本願発明(態様1、2とも)では、防水部材2が数ミリ未満と薄くてある程度のたわみが効くため、破損等した場合、図4、6、7で示した換気可能部分4から新たな防水部材2に取り換えが可能である。
なお、図8の形状からなる防水部材2は、図示のような各部材の接合構造物に限らず、金属、樹脂等で一体成型したものであってもよい。
また、2本の足部材に指をかけて移動させることができるため、移動用指かけ5は不要となる。
【0075】
態様1、2の共通として、土台水切り1、6が鋼板製の場合は、強度が不十分で浸水時の水圧で底壁部が上方に押し上げられたり、底壁部先端部と基礎との間に隙間が生じたりするおそれがある。
このような隙間が生じないよう、L字型金属プレート等で土台水切り1、6と基礎を接続して水圧に耐える固定強化を図っておくのがよい。
また、土台水切り1、6の底壁部先端部(建物側)に基礎、或いは土台に接する下垂部分を設けて、同部分で基礎、或いは土台とねじ止め等で固定すれば固定の強化が図られる。
【0076】
さらに、本願発明は、浸水対策の他、高潮対策、潮風による塩害対策、厳寒期の防寒対策等としても使用可能である。
態様3、4については、上記のとおりである。
【0077】
本発明の建物浸水防止装置については、上述した実施形態に限定されず、各部材の材質、形状、長さ、固定方法等などは特許請求の範囲に記載の範囲で種々の変更ができる。
本発明の基本は、土台水切り1、6の換気孔を確実に塞ぐことのできる形状に成形した防水部材2を換気孔の外側に平時の換気状態においても換気孔を閉じない状態で常時取り付けておくことにある。
このように、防水部材2を換気孔の外側(閉孔時は換気孔の下方部)に備えたことによって、特開2021-067158の防水部材(パッキン)が換気孔の上部にある構造とは全く別構造の装置であり、全く別の効果、効能(新規性・進歩性)を有する浸水防止装置である。
本願発明は、特許請求の範囲において、洪水ハザードマップ等を参考にし、当該建物の立地条件、周囲の環境、建物自体の状態、土台水切りの取付け状態等を総合し、その他の技術を適宜組み合わせるなどして、土台水切り換気孔からの浸水に強い建物及び防災・減災対策を確立するのがよい。
【符号の説明】
【0078】
1 土台水切り(本願発明品)
2 防水部材
2a 防水部材(平時の状態)
2b 防水部材(閉孔時の状態)
3 強度確保部分
4 換気可能部分(平時の防水部材が2aの状態下)
5 移動用指かけ
6 従来からの土台水切り
7 ねじ止め用下穴
8 防水部材取付部材
9 ねじ止め穴
10 ねじ
11 防水部材2を構成する各部材の接合部

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8