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特許7556680ガスタービンエンジン用のシールアセンブリの作成方法、およびシールシート
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  • 特許-ガスタービンエンジン用のシールアセンブリの作成方法、およびシールシート 図1
  • 特許-ガスタービンエンジン用のシールアセンブリの作成方法、およびシールシート 図2
  • 特許-ガスタービンエンジン用のシールアセンブリの作成方法、およびシールシート 図3
  • 特許-ガスタービンエンジン用のシールアセンブリの作成方法、およびシールシート 図4
  • 特許-ガスタービンエンジン用のシールアセンブリの作成方法、およびシールシート 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】ガスタービンエンジン用のシールアセンブリの作成方法、およびシールシート
(51)【国際特許分類】
   F02C 7/28 20060101AFI20240918BHJP
   F16J 15/16 20060101ALI20240918BHJP
   F16J 15/30 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
F02C7/28 E
F16J15/16 B
F16J15/30
【請求項の数】 5
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019170047
(22)【出願日】2019-09-19
(65)【公開番号】P2020045901
(43)【公開日】2020-03-26
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】62/733,596
(32)【優先日】2018-09-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】590005449
【氏名又は名称】アールティーエックス コーポレイション
【氏名又は名称原語表記】RTX CORPORATION
【住所又は居所原語表記】1000 Wilson Boulevard,Arlington,VA 22209,U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】パンチョ ピー.ストヤノフ
(72)【発明者】
【氏名】マーク ビー.ゴスナー
【審査官】松浦 久夫
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/149263(WO,A1)
【文献】特開2007-127276(JP,A)
【文献】特開平11-141690(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2004/0042697(US,A1)
【文献】米国特許第03804648(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02C 7/28
F16J 15/16
F16J 15/30
F01D 25/16
F01D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素材料を含むシールと、
前記シールに対して回転するように配置されたシールシートと、を備えた、ガスタービンエンジン用のシールアセンブリの作成方法であって、
前記シールシートのシール面に炭素系トライボフィルムを有する薄膜が予め被覆されたシールシートを形成するように、前記シールシートのシール面を炭素系トライボフィルムで予め薄膜状に覆うこと、および
ガスタービンエンジンの前記シールに対して前記予め被覆されたシールシートを組み立てること
のステップを含み、
前記組み立てることのステップの後に前記ガスタービンエンジンを運転することのステップをさらに含み、定常状態運転中に前記炭素材料の炭素転写膜が前記炭素系トライボフィルムを覆うように被着される、方法。
【請求項2】
前記予め薄膜状に覆うことのステップが、1300psi×ft/sec~7000psi×ft/secの圧力×速度(PV)で、少なくとも1分間、前記シールシートに炭素を被着することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記炭素系トライボフィルムが2nm~240nmの厚さを有する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記予め薄膜状に覆うことのステップが、前記シールシートを炭素系部材と接触させることを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記炭素系部材が、電気黒鉛、炭素黒鉛、およびそれらの混合物からなる群から選択される材料を含む、請求項4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(関連出願の相互参照)
2018年9月19日出願の「LOW FRICTION, WEAR RESISTANT DRY FACE CARBON SEAL - SEAL SEAT ASSEMBLY」と題される米国特許出願第62/733,596号の利益が主張されており、この米国特許出願の開示は、参照によってその全体が本明細書にそのまま明記されているかのように組み込まれる。
【0002】
本開示は、シールアセンブリに関し、より詳細には、ガスタービンエンジン用のベアリングシールに関する。
【背景技術】
【0003】
ガスタービンエンジンは、オイルの漏れを防ぐためにシールされる必要があるベアリングの固定構成要素内に取り付けられた回転要素を有する。このようなシールは、ベアリングシールまたはオイルシールとして知られている。そのような目的のためのシールの一形態は炭素シールであり、この場合は、炭素材料シールが回転要素の周りにまたは回転要素に対して密接に配置される。このようなシールは、最初に作動したときに、炭素シールからシールアセンブリの回転要素またはシートに炭素が移動して、シート上に炭素の膜を形成する。この膜は、許容可能な低摩擦係数で動作している間に、シールとシートとの間のオイルの漏れが防止されるように、シールとの摩擦係数を低くすることが意図されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
膜が形成されるこの動作期間は、シールの慣らし段階と呼ばれる。慣らし中に過度の摩擦が発生することがあり、結果として、シールのパーツが過度に摩耗し、シールまたはシートの位置で過度の熱が起こり得るなどの問題を招く。この問題は、高速でかつ比較的低い圧力で動作するシールでは一層深刻であり、摩擦によりすでに高い温度をさらに増加させるおそれがある。本開示は、この問題に対処するものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示においては、炭素材料を含むシールと、シールに対して回転するように配置されたシールシートとを備えた、ガスタービンエンジン用のシールアセンブリを作成する方法であって、シールシートのシール面を炭素系トライボフィルム(tribofilm)で予め薄膜状に覆うこと、およびガスタービンエンジンのシールに対してシールシートを組み立てることのステップを含む方法が提供される。
【0006】
さらなる非限定的な実施形態では、予め薄膜状に覆うことのステップが、シールシートを構成要素リグ(rig)に取り付けることを含む。
【0007】
さらにさらなる非限定的な実施形態では、構成要素リグが、1300~7000psi×ft/secの圧力×速度(PV)で、少なくとも1分間、シールシートに炭素を被着するように操作される。
【0008】
別の非限定的な実施形態では、炭素系トライボフィルムが2~240nmの厚さを有する。
【0009】
さらに別の非限定的な実施形態では、予め薄膜状に覆うことのステップが、シールシートを炭素系部材と接触させることを含み、炭素系部材は、電気黒鉛、炭素黒鉛、およびそれらの混合物からなる群から選択される材料を含み得る。
【0010】
別の非限定的な実施形態では、本方法は、組み立てることのステップの後にガスタービンエンジンを運転することのステップをさらに含み、定常状態運転中に炭素転写膜が炭素系トライボフィルムを覆って被着される。
【0011】
さらなる非限定的な実施形態では、事前調整されたシールシートが、シール面と、シール面上の炭素系トライボフィルムとを有する。
【0012】
さらにさらなる非限定的な実施形態では、炭素系トライボフィルムが、炭素系シールとの0.06~0.16の摩擦係数を有する。
【0013】
別の非限定的な実施形態では、事前調整されたシールシートの炭素系トライボフィルムが、20~200nmの厚さを有する。
【0014】
本方法およびシールアセンブリの他の詳細は、以下の詳細な説明および添付の図面に明記され、図面中、同様の参照番号は同様の要素を示している。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】ガスタービンエンジンの一部の簡略化された断面図である。
図2】ガスタービンエンジン用の従来技術のシールアセンブリの簡略化された断面図である。
図3】慣らし運転およびその後の定常状態運転を通じて、図2のシールアセンブリについて摩擦係数を示す図である。
図4】本明細書に開示されるガスタービンエンジン用のシールアセンブリの簡略化された断面図である。
図5】慣らし運転およびその後の定常状態運転を通じて、図4のシールについて摩擦係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本開示は、ガスタービンエンジン用のシールアセンブリに関し、より詳細には、ガスタービンエンジンのオイルシール用の炭素シールアセンブリに関する。
【0017】
図1は、ガスタービンエンジンの一部の断面図であり、そのようなエンジンの典型的な構成要素を示す。本開示の関心の対象となるのは、エンジンの様々な作動している構成要素が結合される回転シャフト10と、構造10と連携して所望の機能を実行する固定構造12、14、16、18とである。エンジンの他の特徴については、本開示に関連する特徴に注目させるために、図1の図から取り除かれているか、または簡単な略図に要約されている。
【0018】
このような設定では、図1は、前部シールアセンブリ20および後部シールアセンブリ22を示し、これらのそれぞれが、シールを通るオイルの漏れまたは流れを防止し、それによって、ガスタービンエンジン内の、例えば、2つのシールアセンブリ20、22の間に画定されたベアリングコンパートメント内の、希望されかつ必要とされる場所にオイルを維持する働きをする。
【0019】
シールアセンブリ20は、前部シールシート24および炭素シール26によって画定される。炭素シール26は、回転要素10およびシールシート24に対して静止したままである。図1に示すように、これらの構成要素の各々はシール面28、30を有し、これらが一緒になってシールを画定する。これらの面28、30は互いに対して摺動し、これらの面を通るオイルの漏れを防ぐ。同様に、シールアセンブリ22は、後部シールシート32および炭素シールアセンブリ34によって画定され、これらの各々は、これらの表面を通るオイルの漏れを防ぐためのシール面36、38を画定する。
【0020】
図2は、面36、38を含む炭素シール34およびシールシート32の部分を示す。図示のように、炭素シール34は未処理のシールシート36に隣接して配置され、このシールアセンブリの初期動作は、図3に示すように、面の間の摩擦係数が相対的に高く始まり、徐々に減少する慣らし段階をもたらす。図2の右側部分に示す画像は、慣らし段階後のシールアセンブリ22を示す。この段階で、薄い転写膜40が炭素シール34からシールシート32のシール面36に転写されている。この膜40が面36に転写されてしまえば、シールアセンブリ22は、シールアセンブリの残りの寿命の間は、定常状態条件で動作し、図3は、慣らし段階中に存在していたよりも相対的に低い摩擦係数を有したシールアセンブリの動作のこの部分を示す。
【0021】
図2は、炭素シール34に設けることができる膜コントローラ42を有した炭素シール34を示す。これらの膜コントローラ42は、転写膜40の厚さの過剰な堆積を防止し、それによって、一方の側の炭素シール34と他方の転写膜40とによって画定される所望の炭素-炭素摺動面を維持する働きをする。
【0022】
図4および図5は共に、シールシートが本明細書に開示されているように事前調整されているシールアセンブリを示す。すなわち、図面の左側に示されている慣らし段階では、シールシート32は、シール面36上に炭素系トライボフィルム44を有するように、すでに事前調整されている。したがって、運転開始時には、炭素シールと炭素系トライボフィルムとの間の炭素-炭素間相互作用のために、摩擦係数はすでに低い。このシールアセンブリの定常状態動作により、炭素材料の転写膜が少なくともある程度は炭素系トライボフィルム上に配置される結果となり、この定常状態動作により、関連した構成要素の耐用寿命が長期化するようになる。このことは図5に示しており、定常状態の動作は、有意な慣らし段階なしで、実質的に即座に開始し、定常状態での摩擦係数は、図3に示すものと比較して相対的に低い。図4に示すシールアセンブリを有したガスタービンエンジンの運転中に、転写膜は、炭素シール34からDLC薄膜44を覆って最終的にさらに堆積され、この転写膜の厚さはまた、例えば、膜コントローラ42によって制御される。この膜コントローラ42は、本開示のこの態様に従って、炭素シール34内に存在させることができる。
【0023】
炭素シール34は、エレクトログラファイト級の炭素であるFT2650などの好適なエレクトロ炭素から提供され得る。シールシートは、典型的には、炭化クロム被覆された対向面またはシールシートを有する構造を含むが、これに限定されない、多種多様な材料から提供され得る。
【0024】
炭素系の部材または本体をシールシート32の表面36に対して配置することができ、その表面を炭素系トライボフィルムで事前調整しまたは予め薄膜状に覆うように、リグまたは他の好適な装置にシールシート32を取り付けることによって、膜44を堆積させることができる。転写膜またはトライボフィルムは、底面が摺動方向に平行にされた状態で、本質的にグラファイト状(すなわち、高sp2含有量)である必要がある。
【0025】
炭素系部材は、電気黒鉛、炭素黒鉛、およびそれらの混合物からなる群から選択される材料を含み得る。さらに、炭素系部材はそれ自体がシール部材であってもよいが、当然、ガスタービンエンジン内のシールシートに対向して最終的に配置すべきシールとは異なるシール部材であることになる。
【0026】
リグを適切に操作して、1300~7000psi×ft/secの圧力×速度(PV)で、少なくとも1分間、より好適には少なくとも3分間、シールシートに炭素を被着することができる。
【0027】
リグを適切に操作して、厚さ2~240nm、より好適には20~200nm、さらに一層好適には50~140nmの転写膜またはトライボフィルムをシールシートに被着することができる。
【0028】
転写膜の主な特性評価方法は、マイクロラマンである。マイクロラマンは、良好な膜特性を示す「G」ピーク値および「D」ピーク値を提供する。良好な低摩擦転写膜の評価基準の1つは、マイクロラマン分析に基づいて、1.0以下のI(D)/I(G)ピーク比を有することである。
【0029】
さらに、転写膜は、シールの硬度と同様の硬度を有し得る。したがって、転写膜またはトライボフィルムは、0.7~1.8GPaの硬度値(ナノインデンテーションによって測定される)を有し得る。
【0030】
再び図1を参照すると、シール26、34は、構造12、18などのいずれかの好適な構造またはシール保持具に固定することによって、ガスタービンエンジンに取り付けることができることを理解されたい。さらに、シールシート24、36は、回転性要素10が回転したときに、シール面28、30、および36、38がそれぞれ互いに近接して摺動するように、回転部材10に適切に取り付けることができる。
【0031】
図4および図5の図は、後部シールアセンブリに関して提示されていることを理解されたい。前部シールアセンブリのための同じ構成要素の図は、構造は同じであるが左から右へと反転するため、本明細書では提供されない。
【0032】
本開示によるDLC薄膜44(図4)の事前被着は、例えば、200~350°Fの間で、高い摺動速度の下に、効果的に動作し得る、低摩擦および耐摩耗性の炭素ベースのシール界面を生じさせることを理解されたい。このことは、摩擦係数が低下し、慣らし段階が改善されることによって、表面下の加熱(例えば摩擦加熱に起因した加熱)を減少させることができ、結果としてシールシステムの長期的な耐摩耗性を改善する。
【0033】
上記の炭素系トライボフィルムでシールシートを予め薄膜状に覆うと、動作開始時から低摩擦の炭素-炭素界面が形成され、したがって非常に短い慣らし段階を生じさせる。初期動作の間中、転写膜はシールシート上に、特にトライボフィルムを覆って依然として形成されており、この構成はシールの定常状態の動作を通して維持される。
【0034】
本明細書に開示されるシールアセンブリによって生じる低摩擦および耐摩耗性は、例えばガスタービンエンジンのベアリングシール、および他の場所でも同様に有用であり得、エンジン構成要素の耐久寿命を大幅に延ばし得ることを理解されたい。さらに、本明細書に開示されるシールアセンブリの利用は、摩耗および熱損傷が原因で早くに取り除かれるパーツの数を減らすことによって、全体的なコストを大幅に削減することができる。
【0035】
初期に予め薄膜を生じさせるステップのないシールアセンブリと比較して、慣らし段階の長さとシール構成要素への影響とが低減されるとともに、シールアセンブリの定常状態性能が改善されるシールアセンブリおよび方法が提供されている。シールアセンブリ方法およびシールアセンブリ品は、その特定の実施形態との関連で説明されたが、上記の説明を読んだ当業者にとっては、他の予期しない代替、修正、および変形が明らかになる可能性がある。したがって、添付の特許請求の範囲の広い範囲に入るそれらの代替、修正、および変形を包含することが意図されている。
図1
図2
図3
図4
図5