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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】時間に基づく短絡応答
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/09 20060101AFI20240918BHJP
【FI】
B23K9/09
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019196009
(22)【出願日】2019-10-29
(65)【公開番号】P2020069537
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】62/752,423
(32)【優先日】2018-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】16/548,159
(32)【優先日】2019-08-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510202156
【氏名又は名称】リンカーン グローバル,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(74)【代理人】
【識別番号】100091214
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 進介
(72)【発明者】
【氏名】ダニエル フレミング
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-334601(JP,A)
【文献】特開平06-023547(JP,A)
【文献】特開2016-022507(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/09
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前進するワイヤ電極に溶接出力を供給して、前記ワイヤ電極とワークピースとの間にアークを発生させる溶接電源と、
前記溶接電源に溶接波形を供給するように構成された波形発生器であって、前記溶接電源が、前記溶接波形に従って前記溶接出力を変調する波形発生器と、
コントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記ワイヤ電極と前記ワークピースとの間の短絡状態を検出することと、
前記溶接波形の対象となる事象までの残り時間の量を判定することと、
前記波形発生器に信号を送信して前記溶接波形を修正して、前記残り時間の量に基づいて短絡応答を実行することと、
前記残り時間の量を所定の閾値と比較することと、
前記残り時間の量が前記所定の閾値を超過したときに、前記波形発生器に信号を送信して第1の短絡応答を実行することであって、前記第1の短絡応答が、溶接出力電流を前記溶接波形のバックグラウンド電流以下のレベルに保持する、ことと、
を行うように構成されている、システム。
【請求項2】
前記コントローラが、前記残り時間の量が前記所定の閾値未満であるときに、前記波形発生器に信号を送信して第2の短絡応答を実行するようにさらに構成されている、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記第2の短絡応答が、溶接出力電流を増加させて前記短絡状態を解消する、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
溶接波形に従って行われる溶接プロセス中に電極とワークピースとの間の短絡状態を検出することと、
前記短絡状態の検出と、前記溶接波形の基準事象との間の時間を判定することと、
前記判定された時間に基づいて、短絡応答を選択することであって、前記短絡応答を選択することは、前記判定された時間に基づいて、第1の短絡応答または第2の短絡応答のうちの1つを選択することを含む、ことと、
所定の時間溶接出力電流をバックグラウンドレベル以下に減少させることによって、前記第1の短絡応答を実行することと、
を含む溶接装置のための方法。
【請求項5】
前記溶接波形が、固定周波数パルス溶接プロセスのための波形である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
所定の時間バックグラウンドレベルを上回るまで溶接出力電流を増加させることによって、前記第2の短絡応答を実行することをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項7】
前記溶接出力電流を増加させることが、前記溶接出力電流を前記溶接波形のピーク電流レベルを下回るレベルまでブーストすることを含む、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記判定された時間を閾値と比較することをさらに含む、請求項4に記載の方法。
【請求項9】
前記判定された時間が前記閾値を超過するときに、第1の短絡応答を実行すること、または、
前記判定された時間が前記閾値未満であるときに、第2の短絡応答を実行すること
をさらに含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
溶接プロセスのための溶接波形を出力するように構成された波形発生器と、
電極に溶接電力出力を供給するように構成された電源であって、前記波形発生器からの前記溶接波形に基づいて前記溶接電力出力を変調する前記電源と、
前記電極とワークピースとの間の短絡を解消するための短絡応答を出力するように構成された短絡応答回路と、
前記溶接電力出力の少なくとも1つの特性を測定し、かつ、対応するフィードバック信号を生成するように構成された少なくとも1つのフィードバック回路と、
コントローラと、
を含み、
前記コントローラは、
前記少なくとも1つのフィードバック回路からの前記フィードバック信号に少なくとも部分的に基づいて短絡状態を検出することと、
前記溶接波形の対象となる事象までの残り時間を判定することと、
前記残り時間に基づいて短絡応答を選択することと、
前記残り時間が所定の閾値を越える場合に、前記短絡応答回路に前記選択に対応した信号を送信して前記選択された短絡応答を実行することと、
前記残り時間が前記所定の閾値以上であるときに第1の短絡応答を選択し、前記残り時間が前記所定の閾値未満であるときに第2の短絡応答を選択することであって、前記第1の短絡応答は、所定の時間前記溶接電力出力をバックグラウンドレベル以下に減少させることによって動作する、ことと、
を行うように構成されている、溶接デバイス。
【請求項11】
前記第2の短絡応答は、所定の時間前記溶接電力出力を増加させることによって動作する、請求項10に記載の溶接デバイス。
【請求項12】
前記短絡応答回路が、前記波形発生器からの前記溶接波形の出力と結合する信号を出力するように構成されている、請求項10に記載の溶接デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、2018年10月30日に出願された米国仮特許出願第62/752,423号明細書の非仮出願であり、その優先権を主張するものである。上記出願全体が、参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
概して、本発明は、ガス金属アーク溶接(GMAW:Gas Metal Arc Welding)プロセスを使用するアーク溶接に関し、特に、短絡事象を解消するための技術に関する。
【背景技術】
【0003】
アーク溶接において、普及しているプロセスはパルス溶接である。例えば、金属不活性ガス(MIG:Metal Inert Gas)溶接などのガス金属アーク溶接は、間隔の空いたパルスを利用して、前進するワイヤ電極の端部を最初に溶かし、次に、ワイヤの端部からアークを通してワークピースへと溶融金属を推進させる。理想的な条件では、パルス溶接プロセスの各パルス中に、液滴(例えば、溶融金属の小滴)が伝わっていく。従来、パルス溶接プロセスは、比較的高電圧を利用するので、その結果、電極の端部と、ワークピースとの間のギャップが比較的大きい場合がある。これにより、短絡の発生、および短絡の結果生じるスパッタまたはアークの不安定性は制限されるが、移動速度もまた制限される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
短いアーク長でパルス溶接などの溶接プロセスを操作することには利益がある。例えば、アーク長が短くなると、入熱量が少なくなり、移動速度が速くなる。当然ながら、アーク長が短くなると、部分的に伝わった小滴が電極とワークピースとの間のギャップを埋めて短絡を引き起こし、スパッタ、および/またはアークの不安性の増加につながる可能性が高くなる。スパッタ、不安定性、および/または溶接品質不良を低減するために、短絡解消応答が用いられる。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下の概要は、本明細書で説明する(デバイス、システムおよび/または方法)のいくつかの態様を基本的に理解できるようにするために単純化した概要を提示する。この概要は、本明細書で説明する(デバイス、システムおよび/または方法)の広範囲にわたる概観ではない。このような(デバイス、システムおよび/または方法)の重要な要素を特定すること、またはその範囲を正確に描くことを意図したものではない。その唯一の目的は、いくつかの概念を、後述するより詳細な説明への導入部として単純化された形態で提示することである。
【0006】
様々な実施形態において、溶接プロセス中に短絡事象が生じたときに、時間に基づく短絡応答が用いられる。短絡が生じたとき、溶接プロセスにおける所定の事象までの時間が判定される。所定の事象までの残り時間に基づいて、特定の短絡応答が実行される。
【0007】
1つの態様に従って、前進するワイヤ電極に溶接出力を供給して、電極とワークピースとの間にアークを発生させる溶接電源を含むシステムが提供される。システムは、溶接電源に溶接波形を供給するように構成された波形発生器をさらに含み、この溶接電源は、溶接波形に従って溶接出力を変調する。加えて、システムは、コントローラを含む。コントローラは、電極とワークピースとの間の短絡状態を検出し、溶接波形の対象となる事象までの残り時間の量を判定し、かつ、波形発生器に信号を送信して溶接波形を修正して、残り時間の量に基づいて短絡応答を実行するように構成されている。
【0008】
別の態様に従って、溶接波形に従って行われる溶接プロセス中に電極とワークピースとの間の短絡状態を検出することを含む方法が提供される。方法は、短絡状態の検出と、溶接波形の基準事象との間の時間を判定することもまた含む。さらには、方法は、判定された時間に基づいて短絡応答を選択することと、選択された短絡応答を実行することと、を含む。
【0009】
さらに別の態様に従って、溶接デバイスが提供される。溶接デバイスは、溶接プロセスのための溶接波形を出力するように構成された波形発生器と、電極に溶接電力出力を供給するように構成された電源と、を含む。電源は、波形発生器からの溶接波形に基づいて溶接電力出力を変調する。溶接デバイスは、電極とワークピースとの間の短絡を解消するための短絡応答を出力するように構成された短絡応答回路と、溶接電力出力の少なくとも1つの特性を測定し、かつ、対応するフィードバック信号を生成するように構成された少なくとも1つのフィードバック回路と、もまた含む。溶接デバイスは、少なくとも1つのフィードバック回路からのフィードバック信号に少なくとも部分的に基づいて短絡状態を検出し、溶接波形の対象となる事象までの残り時間を判定し、残り時間に基づいて短絡応答を選択し、かつ、短絡応答回路に信号を送信して選択された短絡応答を超過するように構成されたコントローラを含む。
【0010】
本発明のこれらの態様、および他の態様は、図面、詳細な説明、および添付の特許請求の範囲に照らして考えると、明らかになるであろう。
【0011】
本発明は、ある特定の部分および各部分の配置において物理的形状をとり得る。これらの好適な実施形態は、本明細書に詳細に説明することとし、本明細書の一部を形成する添付の図面に図示することにする。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】1つまたは複数の態様による、時間に基づく短絡応答を実施する溶接システムの例示的で、非限定的な実施形態の概略的なブロック図である。
図2】1つまたは複数の態様に従う例示的で、非限定的な溶接波形のグラフである。
図3】1つまたは複数の態様に従う例示的で、非限定的な溶接波形のグラフである。
図4】1つまたは複数の態様に従う時間に基づく短絡応答を描く例示的で、非限定的な溶接波形のグラフである。
図5】1つまたは複数の態様に従う、溶接プロセス中の時間に基づく短絡応答についての例示的で、非限定的な実施形態の流れ図である。
図6】1つまたは複数の態様に従う、溶接プロセス中の時間に基づく短絡応答についての例示的で、非限定的な実施形態の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の実施形態は、溶接プロセス中に時間に基づく短絡応答を提供するためのシステムおよび方法に関する。特に、短絡が検出されたとき、溶接プロセスの対象となる事象(例えば、基準事象または基準点)までの残り時間の量が判定される。この残り時間に基づいて、特定の短絡応答が実行される。短絡応答は、例えば、溶接プロセスの対象となる事象の前に短絡が確実に解消されるようにするために選択される。もっと一般的に言えば、各短絡応答は、短絡の解消に必要であると見込まれる時間それぞれに関連付けされる。所与の短絡応答に見込まれる時間が、対象となる事象までの残り時間を超過する場合、こうした短絡応答は実行されない。
【0014】
1つの例では、溶接プロセスは、ピークパルス間の周波数が固定されたパルス溶接とすることができる。周波数が可変であるパルス溶接プロセスでは、ピーク電流パルスに続く短絡事象により、後続のピーク電流パルスの発生が遅れる場合がある。固定周波数の場合には、遅れは生じない。爆発性飛散、溶接品質不良、および/またはその他の不安定性ならびに危険を回避するために、短絡は、パルス中にではなく、ピーク電流パルスよりも前に解消されなければならない。固定周波数パルス溶接の場合には、次のピーク電流パルスの発生までの時間は既知であるか、または容易に判定される。したがって、短絡が生じたとき、短絡応答は、次のピーク電流パルスまでの時間に基づいて選ばれる。十分な時間が利用可能であれば、スパッタを最小にする応答を実行することができる。理想的な応答のための時間が十分になければ、パルスの前に短絡が解消されるように、より積極的な短絡応答を実行することができる。
【0015】
次に図面を参照して様々な実施形態を説明する。図面では、全体を通して、同様の要素を指すために同様の参照番号が使用されている。以下の記述では、説明の目的で、多数の特定の詳細が、実施形態を十分に理解できるように記載されている。しかしながら、本明細書に記載の特徴が、これらの特定の詳細なしで実践し得ることは明らかである。加えて、他の実施形態が可能であり、本明細書に記載されている特徴は、記載されている以外のやり方で実践し、行うことが可能である。本明細書に使用される用語および言い回しは、本発明を理解し易くする目的で用いられ、限定するものとして解釈されないものとする。
【0016】
最初に図1を参照する。溶接プロセス中に時間に基づく短絡応答を実行するように構成された、例示的で、非限定的な溶接システム100の概略的なブロック図が図示されている。溶接システム100は、溶接プロセスを行うために消耗溶接電極EおよびワークピースWに動作可能に結合されている。溶接システム100は、3相入力である場合もある入力電力112を、溶接出力電力に変換することが可能な電源110を含む。電源110は、例えば、インバータ型の電力コンバータ、またはチョッパ型の電力コンバータとすることができる。溶接システム100は、溶接ワイヤ(例えば、電極E)を、例えば、溶接ワイヤを溶接出力電力に接続している溶接ガン(図示せず)を通して、送給することが可能なワイヤ送給装置160をさらに含む。
【0017】
システム100は、電源110と電極Eとの間に動作可能に接続された電流シャント152(または同様のデバイス)を含んでもまたよい。電流シャント152は、電流フィードバック回路150に溶接出力電流を供給して、電源110によって生じた溶接出力電流を測定する。システム100は、電源110による溶接電圧出力を感知するための電圧フィードバック回路140をさらに含む。
【0018】
溶接システム100は、電圧フィードバック回路140および電流フィードバック回路150に動作可能に接続されたコントローラ130を含む。コントローラ130は、溶接出力を表す信号の形で、感知された電流および感知された電圧を受け取ることができる。図1に示されるように、システム100は、コントローラ130に結合された波形発生器120を含んでもまたよい。波形発生器120は、電源110に溶接波形信号を出力する。電源110は、波形発生器120からの溶接波形信号に基づいて入力電力112を溶接出力電力に変換することによって、変調された溶接出力(例えば、電圧および電流)を生成する。波形発生器120は、コントローラ130から命令信号を受け取り、命令信号に基づきリアルタイムで、溶接波形信号を適応させる。コントローラは、一実施形態に従って、論理回路構成、プロググラム可能なマイクロプロセッサ、およびコンピュータメモリを含むことができる。
【0019】
一態様に従って、コントローラ130は、電圧フィードバック回路140からの電圧信号、電流フィードバック回路150からの電流信号、またはこの2つの信号の組み合わせを使用して、溶接プロセス中に、電極EとワークピースWとの間で短絡が生じたとき、短絡がまもなく解消されようとしているとき、および短絡が実際に解消されたときを判定することができる。短絡が生じたとき、および短絡が解消されたときを判定する例示的な技術が、特許文献1に記載されており、その内容全体が参照により本明細書に組み込まれる。コントローラは、短絡の検出に応答して、短絡応答回路170に命令して波形発生器120からの溶接波形信号を修正することができる。一態様に従って、短絡応答回路170は、電源110への入力よりも前に、溶接波形信号に追加、または結合する部分波形信号を出力することができる。このように、電源110は、短絡応答回路170からの出力および溶接波形信号に従って、溶接出力を変調する。
【0020】
短絡応答回路170は、波形発生器120に組み込まれている場合があることを認識されたい。例えば、短絡が生じたときに、および/または短絡が解消されたときに、コントローラ130は、単に、波形発生器120に溶接波形信号を修正するように命令するだけの場合がある。
【0021】
溶接システム100は、波形発生器120によって生成された溶接波形の一部を調節するために、溶接プロセスの測定されたパラメータを利用できることを認識されたい。例えば、測定されたパラメータは、溶接プロセス中の時間にわたる溶接パラメータの導関数、例えば、限定ではないが特に、電流示度の導関数、電圧示度の導関数、抵抗示度の導関数、電力の導関数などとすることができる。そればかりでなく、溶接パラメータの導関数は、リアルタイムで検出することができる。溶接パラメータの導関数は、特に、溶接プロセス、波形、波形の一部、それらの組み合わせにおける変化に対するトリガとすることができる。
【0022】
一態様に従って、短絡が生じたことをコントローラ130が検出すると、コントローラ130は、溶接プロセスの対象となる事象または基準点が生じることになっているまでの時間に基づいて、特定の短絡応答を判定することができる。短絡応答は、短絡応答回路170から、または波形発生器120から出力される場合がある。対象となる事象は、溶接波形の一部に相当する場合がある。例えば、対象となる事象はピーク電流パルスとすることができる。コントローラ130によって選択された短絡応答は、対象となる事象よりも前に短絡が確実に解消されるようにするために選ばれる。短絡応答は、例えば、溶接出力電流の相対的増加または減少を含んでもよい。
【0023】
コントローラ130は、波形発生器120または短絡応答回路170に命令して、溶接波形電流の増加および/または減少を有効にするように波形信号を修正することができる。あるいは、コントローラ130は、より直接的に電流を減少させることができる。例えば、電源110と、ワークピースWまたは電極Eとの間で、切り替えモジュールを動作可能に接続してもよい。切り替えモジュールは、抵抗路と並列な電気スイッチ(例えば、パワートランジスタ回路)を含むことができる。短絡が存在しないとき、スイッチはコントローラ130からの信号によって閉じることができる。閉じたとき、切り替えモジュールは低抵抗路を提供する。短絡が生じたとき、スイッチは、コントローラ130によって開くことができる。開くと、抵抗路を通して電流が強制的に流され、これにより、抵抗路の抵抗に従って電流レベルが下げられる。したがって、コントローラ130は、短絡を解消できるようにするために、短絡に応答して、このような切り替えモジュールの命令を通して、低レベルになるように電流出力を駆動することができる。
【0024】
コントローラ130は、タイミング特性に基づいて、異なる応答を選択することができる。例えば、コントローラ130が、低電流レベル(例えば、バックグラウンド電流以下)で短絡が解消できないような、対象となる事象までに十分な時間が残っていないと判定すれば、コントローラ130は、短絡応答回路170または波形発生器120に命令して、電源110の電流出力をブーストさせて、より積極的に短絡を解消するようにすることができる。このブーストは、例えば、バックグラウンド電流よりも大きいが、ピーク電流よりも小さいレベルとすることができる。
【0025】
図2図4を参照する。図示されているグラフを参照して時間に基づく短絡応答を説明することにする。図2図4のグラフは、様々な態様に従う例示的で、非限定的な溶接波形を描く。図2では、パルス溶接プロセスのための理想的な溶接波形200が図示されている。示されるように、波形は、バックグラウンド電流部分204によって分離された、間隔の空いたピーク電流パルス202を含む。パルス間の時間206は、固定周波数溶接プロセスの場合には、一定であってもよい。図3では、溶接波形300は、ピーク電流パルス302がバックグラウンド電流部分304によって分離されているような、図2に類似した波形を図示する。波形300は、一定時間306に従ってパルス302が生じるような、固定周波数波形であってもまたよい。波形300は、電流が減少した部分308として図示されている短絡応答を含む。図3に示される応答に従って、短絡を解消することができるように、電流は所定の量の時間の間、低く保たれる。
【0026】
一定時間306の場合には、パルス302の前に短絡が解消されないような、ピーク電流パルス302の付近で短絡が発生する可能性がある。これは、著しい飛散および他の溶接品質に関する懸念につながる場合がある。したがって、図4に示されるように、代替的な短絡応答を実行してもよい。図4は、ピーク電流パルス402がバックグラウンド電流部分404によって分離された波形400を図示する。時間406の閾値量が、溶接プロセスのために事前に決められている。短絡が閾値よりも前に生じる場合、第1の応答408が実行される。短絡が閾値よりも後に生じる場合、第2の応答410が実行される。第2の応答410は、例えば、第1の応答408よりも迅速に短絡の解消を試みる、より積極的な応答であってもよい。
【0027】
ここで図5および図6を参照する。時間に基づく短絡応答に関して図示されたフローチャートに関連して、方法論を説明する。コントローラ、マイクロプロセッサ、FPGA、または論理回路(コントローラ130など)によって上記の方法論を行って、溶接プロセス中に溶接システム(例えば、システム100)によって、短絡に対する時間に基づく応答を実行することができる。
【0028】
図5は、時間の考慮に基づいて短絡を解消するための方法500のフローチャートを図示する。502において、溶接プロセス中に短絡事象が検出される。例えば、短絡は、溶接出力電圧の低下によって検出することができる。504において、溶接プロセスの対象となる事象(例えば、溶接波形の対象となる部分)までの時間が判定される。一態様では、対象となる事象は、概して、その時までに短絡が解消されるはずである点を表す。506において、短絡応答が504において判定された時間に依存して行われ、対象となる事象よりも前に短絡が確実に解消されるようにする。
【0029】
図6を参照する。方法600が図示されている。短絡が検出される602において、方法600を開始することができる。604において、対象となる事象、例えば次のピーク電流パルスまでの時間が判定される。606において、対象となる事象までの時間が所定の閾値よりも大きいかどうかに関して、判定がなされる。残り時間の方が大きい場合、608において、短絡に対する第1の応答が実行される。例えば、第1の応答は、低レベルまで電流を減少させて、バックグラウンドで短絡を解消できるようにすることを含むことができる。残り時間が閾値未満である場合、610において、短絡に対する第2の応答が実行される。第2の応答は、より積極的に短絡を解消する電流ブーストとすることができる。
【0030】
上記の例は、2つの応答を有する実施形態を詳述する。溶接システムによる選択のために、追加の応答が利用可能な場合があることを認識されたい。これらの追加の応答は、選択を判定するタイミング判定基準とそれぞれ関連付けすることができる。例えば、複数のタイミング閾値を確立して、所与の波形を区切ることができる。どの区分で短絡状態が生じているかに応じて、様々な短絡応答を用いることができる。別の例では、溶接プロセスは、応答を選択する際にもまた考慮される場合がある、特定の電流および/または電圧設定を有することができる。したがって、応答の選択は、タイミング判定基準に加えてパラメータ判定基準に基づくことができる。
【0031】
1つの実施形態に従って、前進するワイヤ電極に溶接出力を供給して、電極とワークピースとの間にアークを発生させる溶接電源を含むシステムが提供される。システムは、溶接電源に溶接波形を供給するように構成された波形発生器もまた含み、この溶接電源は、溶接波形に従って溶接出力を変調する。加えて、システムは、コントローラを含む。コントローラは、電極とワークピースとの間の短絡状態を検出し、溶接波形の対象となる事象までの残り時間の量を判定し、かつ、波形発生器に信号を送信して溶接波形を修正して、残り時間の量に基づいて短絡応答を実行するように構成されている。
【0032】
この実施形態の様々な例によれば、対象となる事象は、ピーク電流パルスである。コントローラは、残り時間の量を所定の閾値と比較するようにさらに構成されている。コントローラは、残り時間の量が所定の閾値を超過するときに、波形発生器に信号を送信して第1の短絡応答を実行するようにさらに構成されている。第1の短絡応答は、溶接出力電流を溶接波形のバックグラウンド電流以下のレベルで保持する。コントローラは、残り時間の量が所定の閾値未満であるときに、波形発生器に信号を送信して第2の短絡応答を実行するようにさらに構成されている。第2の短絡応答は、溶接出力電流を増加させて、短絡状態を解消する。
【0033】
別の実施形態に従って、方法が提供される。この方法は、溶接波形に従って行われる溶接プロセス中に電極とワークピースとの間の短絡状態を検出することを含む。方法は、短絡状態の検出と、溶接波形の基準事象との間の時間を判定することもまた含む。方法は、判定された時間に基づいて短絡応答を選択することと、選択された短絡応答を実行することと、をさらに含む。
【0034】
様々な例によれば、溶接波形は、固定周波数パルス溶接プロセスのための波形である。基準事象は、短絡状態の検出の後に続く溶接波形の次のピーク電流パルスである。さらには、方法は、判定された時間に基づいて、第1の短絡応答または第2の短絡応答のうちの1つを選択することを含む短絡応答を選択することを含むことができる。方法は、短絡状態が解消されるまで、溶接出力電流をバックグラウンドレベル以下に減少させることによって、第1の短絡応答を実行することもまた含む。あるいは、方法は、短絡状態が解消されるまで、バックグラウンドレベルを上回るまで溶接出力電流を増加させることによって、第2の短絡応答を実行することを含むことができる。この例では、溶接出力電流を増加させることは、溶接波形のピーク電流レベルを下回るレベルまで電流をブーストすることを含む。なおさらには、方法は、判定された時間を閾値と比較することを含むことができる。このように、方法は、判定された時間が閾値を超過するときに第1の短絡応答を実行すること、または、判定された時間が閾値未満であるときに第2の短絡応答を実行することを含むことができる。
【0035】
さらに別の実施形態では、溶接デバイスが提供される。溶接デバイスは、溶接プロセスのための溶接波形を出力するように構成された波形発生器を含む。溶接デバイスは、電極に溶接電力出力を供給するように構成された電源もまた含む。電源は、波形発生器からの溶接波形に基づいて溶接電力出力を変調する。溶接デバイスは、電極とワークピースとの間の短絡を解消するための短絡応答を出力するように構成された短絡応答回路もまた含む。加えて、溶接デバイスは、溶接電力出力の少なくとも1つの特性を測定し、かつ、対応するフィードバック信号を生成するように構成された少なくとも1つのフィードバック回路を含む。さらには、溶接デバイスは、少なくとも1つのフィードバック回路からのフィードバック信号に少なくとも部分的に基づいて短絡状態を検出し、溶接波形の対象となる事象までの残り時間を判定し、残り時間に基づいて短絡応答を選択し、かつ、短絡応答回路に信号を送信して選択された短絡応答を超過するように構成されたコントローラを含む。
【0036】
一例では、コントローラは、残り時間が閾値以上であるときに第1の短絡応答を選択し、残り時間が閾値未満であるときに第2の短絡応答を選択するように構成されている。第1の短絡応答は、短絡状態が解消されるまで、溶接電力出力をバックグラウンドレベル以下に減少させることによって動作する。第2の短絡応答は、短絡状態が解消されるまで、バックグラウンドレベルを上回るレベルまで溶接電力出力を増加させることによって動作する。別の例では、短絡応答回路は、波形発生器からの溶接波形の出力と結合する信号を出力するように構成されている。
【0037】
上記の例は、本発明の様々な態様のいくつかの可能性のある実施形態を説明するためのものに過ぎず、当業者であれば、本明細書および添付の図面を読んで、理解した後に、同等の変更および/または修正を着想するであろう。特に、上記の構成要素(アセンブリ、デバイス、システム、回路など)によって実行される様々な機能に関して、このような構成要素を説明するために使用される用語(「手段」への言及を含む)は、別段の表示がない限り、本発明の図示された実施態様における機能を実行する開示された構造と構造的に等しくなくても、記載されている構成要素の規定された機能を実行する(例えば、機能的に同等である)ハードウェア、ソフトウェア、またはそれらの組み合わせなどの任意の構成要素に対応することが意図される。加えて、本発明の特定の特徴は、いくつかの実施態様のうちの1つだけに関して開示されている場合があるが、このような特徴は、任意の所与の用途、または特定の用途について望ましく、かつ、有利であり得るように、他の実施態様の1つまたは複数の他の特徴と組み合わせることができる。また、「含む(including、includes)」、「有する(having、has、with)」という用語、またはその変形が、詳細な説明および/または特許請求の範囲において使用される限りにおいて、このような用語は、用語「備える、含む(comprising)」と同様に包含的であることが意図される。
【0038】
この文章による説明では、本発明を開示するために、また、当業者が本発明を実践できるようにするために、いずれかのデバイスまたはシステムを、製造および使用し、いずれかの組み込まれている方法を実行することを含め、最良の形態を含む例を使用している。本発明の特許可能な範囲は特許請求の範囲により定義され、当業者が着想する他の例を含んでいてもよい。このような他の例は、それらが特許請求の範囲の文言とは異ならない構造的要素を有しているか、または、それらが特許請求の範囲の文言とは実質的に差異がない等価的な構造的要素を含んでいれば、特許請求の範囲内にあることが意図される。
【0039】
その時点で本出願人に既知の最良の形態を説明する目的で、本発明を実施するための最良の形態を説明してきた。例は、単なる例示に過ぎず、特許請求の範囲に記載の範囲および長所によって判定されるため、本発明を限定することを意味するものではない。好適な実施形態および代替的な実施形態を参照しながら本発明を説明してきた。明らかに、本明細書を読んで、理解した後に、他者は修正および変更を着想するであろう。添付の特許請求の範囲またはその均等物の範囲内にある限り、このような修正および変更をすべて含むことが意図される。
【符号の説明】
【0040】
100 溶接システム
110 電源
112 入力電力
120 波形発生器
130 コントローラ
140 電圧フィードバック回路
150 電流フィードバック回路
152 電流シャント
160 ワイヤ送給装置
170 短絡応答回路
200 溶接波形
202 ピーク電流パルス
204 バックグラウンド電流部分
206 時間
300 溶接波形
302 ピーク電流パルス
304 バックグラウンド電流部分
306 一定時間
308 電流が減少した部分
400 波形
402 ピーク電流パルス
404 バックグラウンド電流部分
406 時間
408 第1の応答
410 第2の応答
500 方法
600 方法
E 消耗溶接電極
W ワークピース
図1
図2
図3
図4
図5
図6