(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】アルコキシ基を含む原料を使用しないチタノシリケートゼオライトの製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 39/40 20060101AFI20240918BHJP
【FI】
C01B39/40
(21)【出願番号】P 2019236375
(22)【出願日】2019-12-26
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000190024
【氏名又は名称】日揮触媒化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真理子
(72)【発明者】
【氏名】中西 裕海
(72)【発明者】
【氏名】児玉 貴志
【審査官】磯部 香
(56)【参考文献】
【文献】特表平10-500654(JP,A)
【文献】特開2019-001711(JP,A)
【文献】特開2011-121860(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102320619(CN,A)
【文献】特開平02-184516(JP,A)
【文献】WANG et al.,Synthesis of TS-1 from an Inorganic Reactant System and Its Catalytic Properties for Allyl Chloride Epoxidation,Ind. Eng. Chem. Res.,2012年,Vol.51,p.12730-12738
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01B 39/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコキシ基を含まない原料を用いて
MFI構造を有するチタノシリケートゼオライトを製造する方法であって、
Tiを含む酸性溶液を準備する工程、
Siを含む塩基性溶液を準備する工程、
前記酸性溶液と、前記塩基性溶液とを混合して中和する工程、
前記中和する工程で得られた生成物、種結晶、テンプレートおよび水を含む前駆体を調製する工程、前記前駆体を水熱処理してチタノシリケートゼオライトを調製する工程、を含む、
チタノシリケートゼオライトの製造方法。
【請求項2】
前記前駆体を湿式粉砕する工程を含む、請求項1に記載されたチタノシリケートゼオライトの製造方法。
【請求項3】
1mmφ以下のサイズのビーズを用いて、0.5時間以上、3時間以下の処理時間で前記前駆体を湿式粉砕する、請求項2に記載されたチタノシリケートゼオライトの製造方法。
【請求項4】
前記前駆体を130℃以上、220℃以下の温度範囲で、10時間以上、48時間以下の範囲で保持して水熱処理する、請求項1~請求項3のいずれか1項に記載されたチタノシリケートゼオライトの製造方法。
【請求項5】
前記温度範囲に昇温する速度が10℃/時間以上、50℃/時間以下の範囲にある、請求項4に記載されたチタノシリケートゼオライトの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコキシ基を含む原料を使用しないチタノシリケートゼオライトの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ゼオライトは、結晶性アルミノシリケートの総称であって、触媒、洗剤用ビルダー、吸着剤および土壌改質剤等の幅広い分野に使用されている。このゼオライトは、SiおよびAl原子を骨格に含み、様々な結晶構造をとることが知られている。この結晶構造は、アルファベット3文字を用いた構造コードで分類される。例えば、流動接触分解触媒の活性種として古くから用いられているY型ゼオライトの結晶構造は、FAU(フォージャサイト)構造に分類される。近年では、アルミニウムの代わりにアルミニウム以外の金属原子(Ga、Ti、V、Fe、Zn、Sb等)を骨格に含んだメタロシリケート型ゼオライトも知られている。これらの結晶構造も結晶性アルミノシリケートと同じ構造コードで分類されている。メタロシリケート型ゼオライトは、骨格中の金属イオンがSiOによって囲まれ高度に孤立化している。このため、メタロシリケート型ゼオライトは、通常にはない触媒機能を発揮することも知られている。
【0003】
メタロシリケート型ゼオライトの一つであるチタノシリケートゼオライトの合成において、アルカリ金属イオンは、Ti原子が骨格に導入されることを妨害する。また、アルカリ金属イオンは、アナターゼ型酸化チタンの生成も促進する(非特許文献1)。そこで、Ti原子を骨格中に多く含むチタノシリケートゼオライトを合成するための原料には、アルカリ金属イオンの含有量が極めて少ないテトラエトキシシランおよびテトラブトキシチタンといったアルコキシ基を含む化合物が広く使用されている(特許文献1)。しかし、アルコキシ基を含む化合物は、可燃性を有し、一般的な無機化合物(例えば、水ガラス等)と比べて高価である。これらのことから、アルコキシ基を含む化合物は、チタノシリケートゼオライトを大量生産する際の原料として必ずしも最適ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】小野嘉夫・八嶋建明編「ゼオライトの科学と工学」講談社、2000年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明では、高価で可燃性を有するアルコキシ基を含む原料を用いることなく、Tiを多く含むチタノシリケートゼオライトを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
Tiを含む酸性溶液を準備する工程、Siを含む塩基性溶液を準備する工程、前記酸性溶液と、前記塩基性溶液とを混合して中和する工程、前記中和する工程で得られた生成物、種結晶、テンプレートおよび水を含む前駆体を調製する工程、前記前駆体を水熱処理してチタノシリケートゼオライトを調製する工程、を含む、アルコキシ基を含まない原料を用いてチタノシリケートゼオライトを製造する方法である。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、高価で可燃性を有するアルコキシ基を含む原料を用いることなく、Tiを多く含むチタノシリケートゼオライトを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例1、比較例1および2で得られたチタノシリケートゼオライトのXRDスペクトルである。
【
図2】実施例1、実施例3および参考例1で得られたチタノシリケートゼオライトのUVスペクトルである。
【
図3】実施例1で得られたチタノシリケートゼオライトの電子顕微鏡写真である。
【
図4】実施例2で得られたチタノシリケートゼオライトの電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明のチタノシリケートゼオライトの製造方法(以下、「本発明の製造方法」ともいう。)の実施形態について説明する。
【0011】
[本発明の製造方法の概要]
本発明の製造方法は、アルコキシ基を含む原料を使用しないチタノシリケートゼオライトの製造方法である。したがって、本発明の製造方法では、テトラエチルオルソシリケートやテトラブトキシチタンといったアルコキシ基を含む原料を使用しない。本発明の製造方法は、次のとおりである。まず、アルコキシ基を含まない原料からTiを含む酸性溶液とSiを含む塩基性溶液とを準備する。次に、この酸性溶液と塩基性溶液とを混合する。このとき、中和反応が起こりゲル状の生成物が生成する。この生成物は、チタンの水酸化物(例えば、オキシ水酸化チタン)とケイ酸(例えば、オルトケイ酸)とが脱水縮合したヒドロゲルのようなものであると考えられる。そして、この生成物中には、脱水縮合により形成されたTi-O-Si結合が存在するものと考えられる。このような生成物と、目的のゼオライトを作るために必要なテンプレートと、ゼオライトの結晶化を促進させるための種結晶とを混合して前駆体を調製する。この前駆体を水熱処理することで、Tiを多く含むチタノシリケートゼオライトを調製することができる。
【0012】
より具体的には、本発明の製造方法は、アルコキシ基を含まない原料を用いてチタノシリケートゼオライトを製造する方法であって、Tiを含む酸性溶液を準備する工程、Siを含む塩基性溶液を準備する工程、前記酸性溶液と、前記塩基性溶液とを混合して中和する工程、前記中和する工程で得られた生成物、種結晶、テンプレートおよび水を含む前駆体を調製する工程、前記前駆体を水熱処理してチタノシリケートゼオライトを調製する工程、を含む、チタノシリケートゼオライトの製造方法である。
【0013】
以下、本発明の製造方法の各工程について、詳述する。
【0014】
一般的なゼオライトの合成において、ナトリウムやカリウムといったアルカリ金属イオンは、構造規定剤として使用されている。しかし、チタノシリケートゼオライトの合成においては、アルカリ金属イオンが多いと、チタノシリケートゼオライトの骨格内にTiが挿入されにくくなることが知られている。一般的なゼオライトの合成原料として、水ガラス(ケイ酸ナトリウム)等の無機化合物が知られている。しかし、水ガラス(ケイ酸ナトリウム)等の無機化合物は、洗浄等によりアルカリ金属を除去したとしても微量のアルカリ金属が残留する。このため、チタノシリケートゼオライトの合成原料として採用されにくかった。そこで、チタノシリケートゼオライトの製造には、アルカリ金属イオンの含有量が極めて少ないアルコキシ基を含む原料がこれまで使用されてきた。これに対し、本発明の製造方法では、このようなアルコキシ基を含む原料を使用せず、水ガラス(ケイ酸ナトリウム)等の無機化合物を用いてTiを多く含むチタノシリケートゼオライトを製造することができる。本発明の製造方法は、Tiを含む酸性溶液とSiを含む塩基性溶液とを混合して中和する工程を有しており、この工程により生成物中にTi-O-Si結合が生成する。このような生成物を用いることで、Tiがチタノシリケートゼオライト中に取り込まれやすくなったものと考えられる。
【0015】
[Tiを含む酸性溶液を準備する工程]
本発明の製造方法は、Tiを含む酸性溶液を準備する工程を含む。
【0016】
この工程では、可溶性のチタン塩を水に溶解してTiを含む酸性溶液を調製することができる。可溶性のチタン塩として、3価のチタン化合物または4価のチタン化合物を使用することができる。このとき、アルコキシ基を含むチタン化合物は、原料として使用されない。可溶性のチタン塩として、例えば、硫酸チタン、硫酸チタニル、硝酸チタン、硝酸チタニル、ハロゲン化チタニル(塩化チタニル)、ハロゲン化チタン(三塩化チタン、四塩化チタン)等を使用することができる。本発明の製造方法においては、溶解性のチタン塩として、4価のチタン化合物が好ましく、硫酸チタニルがより好ましい。また、これらが水溶液に溶解しにくい場合は、硫酸や塩酸といった酸を加えた水溶液に溶解させることもできる。ここで使用する酸としては、硫酸および塩酸の他、フッ化水素酸、臭化水素酸およびヨウ化水素酸等の無機酸を挙げることができる。この酸性溶液には、目視で確認できるサイズの浮遊物や粒子が残っていないことが好ましい。このような酸性溶液を用いると、最終的に得られるチタノシリケートゼオライトに含まれるTiが多くなりやすい。なお、目視で確認できないサイズの粒子を含む酸性溶液(例えば、ゾル)であれば、好ましく使用できる。より具体的には、レーザー回折法により測定される粒度分布(体積基準)において、10μm以上の粒子を含まない酸性溶液であれば、好ましく使用できる。
なお、この酸性溶液における溶媒は、水のみに限定されない。また、水と混和する1種または2種以上の有機溶媒を含んでいてもよい。
【0017】
この酸性溶液のpHは、0を超え4以下の範囲にあることが好ましく、0を超え2以下の範囲にあることがより好ましい。この酸性溶液のpHが0に近いほど、よくTiが溶解する。なお、pHを測定する試料の温度は、25℃±1℃とする。
【0018】
この酸性溶液に含まれるTiの濃度は、TiO2換算で、0.1質量%以上5質量%以下の範囲にあることが好ましく、0.5質量%以上3質量%以下の範囲にあることがより好ましい。この酸性溶液のTi濃度が高すぎると、Siを含む塩基性溶液と混合して得られる生成物に含まれるTi-O-Si結合が少なくなる。このため、生成物中にTi-O-Ti結合が増える可能性がある。Ti-O-Ti結合が増えると、TiO2として析出しやすくなるので、最終的に得られるチタノシリケートゼオライトに含まれるTiが少なくなる。
【0019】
[Siを含む塩基性溶液を準備する工程]
本発明の製造方法は、Siを含む塩基性溶液を準備する工程を含む。
【0020】
この工程では、例えばシリカを塩基性溶液に溶解してSiを含む塩基性溶液を調製することができる。このとき、アルコキシ基を含むケイ素化合物は、原料として使用されない。本発明の製造方法では、この他にもケイ酸アルカリ金属(ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム等)を水に溶解する方法、ヒュームドシリカを塩基性溶液に分散させる等の方法を用いても、Siを含む塩基性化合物を調製することができる。この工程では、ケイ酸ナトリウムを水に溶解する方法を用いることが好ましい。この塩基性溶液には、目視で確認できるサイズの浮遊物や粒子が残っていないことが好ましい。このような塩基性溶液を用いると、最終的に得られるチタノシリケートゼオライトに含まれるTiが多くなりやすい。
なお、目視で確認できないサイズの固形分を含むケイ素化合物(例えば、シリカゾル)を用いることができる。より具体的には、レーザー回折法により測定される粒度分布(体積基準)において、10μm以上の粒子を含まない塩基性溶液であれば、好ましく使用できる。
また、この塩基性溶液における溶媒は、水のみに限定されない。また、水と混和する1種または2種以上の有機溶媒を含んでいてもよい。
【0021】
この塩基性溶液のpHは、10以上14以下の範囲にあることが好ましい。このpHが高いほど、Siが溶解しやすくなる。また、SiO2が塩基性溶液中で安定に分散するためには、少なくとも塩基性溶液のpHが10以上であることが好ましい。
この塩基性溶液のpHを調整するため、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウムまたはアンモニア等の塩基性化合物を使用することができる。本発明の製造方法においては、ナトリウムやカリウムを含む化合物であっても、pHを調整するために使用することができる。
この塩基性溶液のpHを調整するために用いる塩基性化合物としては、アンモニアがより好ましく使用できる。
【0022】
この塩基性溶液に含まれるSiの濃度は、SiO2換算で、5質量%以上15質量%以下の範囲にあることが好ましく、7質量%以上10質量%以下の範囲にあることがより好ましい。この塩基性溶液のSiの濃度が高すぎると、この溶液中においてSiO2粒子が生成または成長しやすくなるので、Si-O-Si結合が増える可能性がある。この溶液中にSi-O-Si結合が増えると、後述の中和工程で得られる生成物中のTi-O-Si結合を作るために必要なSiが減少する。この結果、最終的に得られるチタノシリケートゼオライトに含まれるTiが少なくなりやすい。Siの濃度が低すぎると、生産性が極端に低下してしまう。したがって、Siの濃度は上記の範囲にあることが好ましい。
【0023】
[中和工程]
この工程では、前記酸性溶液と、前記塩基性溶液とを混合して中和する。このとき、中和反応によってゲル状の生成物が生成する。この工程では、両方の溶液を混合した後の混合液のpHが、5を超え9未満の範囲にあることが好ましく、6を超え8未満の範囲にあることがより好ましい。この混合液のpHが上記の範囲に含まれるよう、前述の酸性溶液および塩基性溶液のpHや混合比を適宜調整するとよい。また、必要によって混合液を調整した後に、さらにpH調整を行ってもよい。このpH調整には、従来公知の酸性溶液または塩基性溶液を使用することができる。例えば、Tiを含む酸性溶液を準備する工程で挙げた硫酸等の無機酸を含む溶液を酸性溶液として使用することができる。また、Siを含む塩基性溶液を準備する工程で挙げたアンモニア等の塩基性化合物を含む溶液を塩基性溶液として使用することができる。
【0024】
この工程で得られる生成物に含まれるSiとTiのモル比は、Si/Ti比で、25以上50以下の範囲にあることが好ましく、30以上40以下の範囲にあることがより好ましい。このモル比が小さすぎる(つまり、Tiの含有量が多すぎる)場合、最終的に得られるチタノシリケートゼオライトの骨格外のTiが増える傾向があり、好ましくない。このヒドロゲルに含まれるSiとTiのモル比がこのような範囲に含まれるよう、前述の酸性溶液のTi濃度、および塩基性溶液のSi濃度、並びに混合比を適宜調整するとよい。そうすることで、骨格内にTiを多く含み、骨格外のTiが少ないチタノシリケートゼオライトを得ることができる。
【0025】
この工程では、前記酸性溶液に前記塩基性溶液を少量ずつ添加して混合することが好ましい。この方法を使用すると、前記酸性溶液中において少しずつチタンの水酸化物が析出する。そして、析出したチタンの水酸化物とケイ酸またはSiO2粒子の表面OHとが脱水縮合して、Ti-O-Si結合を多く含む生成物が得られる。これらを一気に混合してしまうと、混合液中において局所的にTi濃度およびSi濃度の少なくとも一方に偏りが発生し、Ti濃度が高い箇所では、Ti-O-Ti結合が多く生成する。そうすると、生成物中のTi-O-Si結合が少なくなるので、最終的に得られるチタノシリケートゼオライトに含まれるTiが少なくなることがある。塩基性溶液を酸性溶液に添加する速度は、塩基性溶液の全量を少なくとも0.5時間以上かけて添加する速度であることが好ましい。但し、この添加に時間をかけすぎると生産性が著しく低下するので、現実的には2時間以内にこの塩基性溶液を全量添加する速度であることが好ましい。
【0026】
この工程において、前記酸性溶液、前記塩基性溶液およびこれらを混合して得られる混合液の温度は、それぞれ0℃を超え50℃未満の範囲にあることが好ましい。特に、混合液の温度が高すぎると、ゲル化が過度に進行して流動性が極端に低下するため、ハンドリング性の観点から好ましくない。
【0027】
この工程では、必要によって、混合液から生成物を分離してもよい。分離する方法は、ろ過、遠心分離、乾燥等の従来公知の方法であってもよい。
【0028】
この工程で得られた生成物にアルカリ金属が多量に含まれる場合は、これを洗浄で10000ppm以下まで除去してもよい。本発明の製造方法では、生成物中にTi-O-Si結合を予め作っておくことで、アルカリ金属が含まれる状態でもTiを多く含むチタノシリケートを合成することが可能となる。しかし、生成物のアルカリ金属含有量が多すぎると、チタノシリケートの骨格外に含まれるTiが増える場合がある。このため、洗浄によって、生成物に含まれるアルカリ金属を減少させることにより、チタノシリケートゼオライトにおける骨格外のTiを減少させることができる。
なお、この骨格外に含まれるTiは、後述するUV-VIS測定において確認することができる。生成物を洗浄する方法は、アンモニウムイオンを含む水溶液を用いて洗浄する方法が好ましい。アンモニウムイオン源としては、水溶性のアンモニウム塩を使用することができる。アンモニウム塩としては、塩化アンモニウム、硫酸アンモニウム、硝酸アンモニウム、重炭酸アンモニウム(炭酸水素アンモニウム)または炭酸アンモニウム等の水溶性無機塩が挙げられる。入手の容易性、扱い易さ、後の工程への影響、並びに焼成工程での易分解性およびチタノシリケートに影響し難いことから、アンモニウムイオン源として、重炭酸アンモニウムおよび炭酸アンモニウムが好ましい。より好ましいアンモニウムイオン源は、重炭酸アンモニウムである。
ただし、この方法を用いても、アルコキシ基を含む原料を用いた場合と同レベル(10ppm未満)までアルカリ金属含有量を低下させることは、実質的に困難である。この工程で得られた生成物に含まれるアルカリ金属は、10ppm以上10000ppm以下の範囲にあることが好ましく、100ppm以上1000ppm以下の範囲にあることがより好ましい。ここで、アルカリ金属含有量(濃度)は、アルカリ金属(M)をアルカリ金属酸化物(M2O)の質量に換算し、試料の質量で除した割合とした(アルカリ金属含有量(濃度)=[M2O質量]/[試料質量])。生成物のアルカリ金属含有量が上記の範囲であれば、Tiを多く含み、骨格外のTiが少ないチタノシリケートゼオライトを製造することができる。
【0029】
この工程で得られた生成物の粘度(固形分濃度が5%となるようにイオン交換水と生成物とを混合した混合液として、25℃で測定。)は、50mPa・sを超え5000mPa・s未満の範囲にあることが好ましく、100mPa・sを超え1000mPa・s未満の範囲にあることがより好ましい。生成物の粘度は、生成物中の結合状態を把握することができる指標の一つである。生成物中において、Ti-O-Si結合およびSi-O-Si結合の少なくとも一方が増えると、ヒドロゲルの粘度も増加する。
本発明の製造方法では、粘度が上記の範囲にあるヒドロゲルを用いることで、Tiを多く含むチタノシリケートゼオライトを合成することができる。なお、生成物の粘度は、前記酸性溶液と前記塩基性溶液とを混合して得られた混合液の保持時間または保持温度によって調節することができる。具体的には、20℃以上50℃以下の温度で、生成物の粘度が上記の範囲に含まれるまで保持する方法で調節できる。
【0030】
[前駆体を調製する工程]
本発明の製造方法は、前記工程で得られた生成物、種結晶、テンプレートおよび水を含む前駆体を調製する工程、を含む。
【0031】
この工程において使用される種結晶は、チタノシリケートゼオライトの結晶化を促進する働きがある。したがって、最終的に得られるチタノシリケートゼオライトと同一の構造を有するゼオライトを種結晶として用いる。例えば、チタノシリケートゼオライトとしてTS-1を合成する場合には、TS-1を種結晶として用いる。種結晶の添加量は、前駆体に含まれる種結晶と前記生成物の総質量(種結晶+生成物、以下「前駆体中総質量」ともいう。)に対して種結晶の質量が、10質量%以上30質量%以下の範囲にあることが好ましく、20質量%以上30質量%以下の範囲にあることがより好ましい。ここで、種結晶の質量は、種結晶に含まれるSiおよびTiを、各々、SiO2およびTiO2に換算し、両者の質量の和をいう。同様に、前駆体中総質量とは、前駆体に含まれるSiおよびTiを、各々、SiO2およびTiO2に換算し、両者の質量の和をいう。
本発明の製造方法では、種結晶の添加量が少なすぎると、チタノシリケートゼオライトの生成量が低下することがある。また、種結晶の添加量が多すぎても、チタノシリケートの生産性が低下してしまう。このような種結晶となるチタノシリケートゼオライトは、市販品を購入してもよく、本発明の製造方法を用いて得られたチタノシリケートゼオライトの一部を種結晶として再利用してもよい。
【0032】
この工程において使用するテンプレートは、チタノシリケートゼオライトを合成するために必要な鋳型である。テンプレートの種類によって様々な構造を有するチタノシリケートゼオライトを合成することができる。例えば、MFI構造を有するTS-1は、テトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)を用いて合成することができる。また、TS-1に限らず、チタノシリケートゼオライトを合成するために従来公知のテンプレートを使用することができる。テンプレートの添加量は、前駆体に含まれるSiに対するテンプレートのモル比(テンプレート/Si比)が、0.04以上0.3以下の範囲にあることが好ましく、0.08以上0.2以下の範囲にあることがより好ましい。このようなゼオライト合成用のテンプレートは一般的に高価なものが多い。しかし、本発明の製造方法では、その添加量が少なくてもチタノシリケートゼオライトを合成することができる。
【0033】
この工程において添加する水の添加量は、前駆体に含まれるSiに対する水のモル比(H2O/Si比)が、10以上100以下の範囲にあることが好ましく、20以上50以下の範囲にあることがより好ましい。ここでいうH2Oのモル数は、前駆体に含まれるSiおよびTiを、各々、SiO2およびTiO2に換算し、両者の質量およびテンプレートの質量との和と、前駆体の全質量との差を水の質量とみなした場合のモル数をいう。
水の添加量が多すぎると、後述する水熱処理工程で得られるチタノシリケートゼオライトの収量が低下する。また、水の添加量が少なすぎても、不純物が生成してチタノシリケートゼオライトの収量が低下することがある。
【0034】
この工程において得られる前駆体のpHは、10以上14以下の範囲にあることが好ましく、11以上13以下の範囲にあることがより好ましい。前駆体のpHがこの範囲にあるとチタノシリケートゼオライトの収量が増加する。
【0035】
この工程において得られる前駆体を、湿式粉砕処理することが好ましい。前駆体を湿式粉砕処理することで、前記生成物と種結晶とが均一に混合される。更に、種結晶が微細化することで、これを水熱処理すると粒子径が小さいチタノシリケートゼオライトを得ることができる。粒子径が小さいチタノシリケートゼオライトは、その表面積が大きいので、触媒反応用として好適に用いることができる。さらに、このような処理を行うと、種結晶の添加量やテンプレートの添加量が少なくても、チタノシリケートを合成することができる。この理由は明確ではないが、種結晶と前記生成物とが一緒に湿式粉砕されることで、微細化した種結晶の周囲に前記生成物が凝集した凝集体ができたためではないかと考えられる。このような凝集体ができると、種結晶を核としてチタノシリケートゼオライトが成長しやすくなるものと考えられる。湿式粉砕処理を行う方法として、従来公知の方法を使用することができる。例えば、ボールミルやビーズミルに前駆体をセットし、1mmφ以下のサイズのビーズを用いて粉砕する方法を使用することができる。湿式粉砕の処理時間は、0.5時間以上3時間以下の範囲にあることが好ましい。処理時間がこの範囲にあれば、結晶性が高いチタノシリケートゼオライトを得ることができる。
【0036】
[前駆体を水熱処理する工程]
本発明の製造方法は、前記前駆体を水熱処理してチタノシリケートゼオライトを得る工程を含む。
【0037】
この工程では、前記前駆体をオートクレーブ中で水熱処理する。水熱処理の温度は、130℃以上220℃以下の範囲にあることが好ましく、150℃以上200℃以下の範囲にあることがより好ましい。また、前述の温度範囲に昇温する速度は、10℃/時間以上50℃/時間以下の範囲にあることが好ましく、20℃/時間以上40℃/時間以下の範囲にあることがより好ましい。更に、前述の温度範囲に昇温した後の保持時間は、10時間以上48時間以下の範囲にあることが好ましく、12時間以上24時間以下の範囲にあることがより好ましい。水熱処理の条件が上記の範囲にあると、Tiの含有量が多く、結晶性が高いチタノシリケートゼオライトを得ることができる。
【0038】
水熱処理後のオートクレーブには、チタノシリケートゼオライトを含むスラリーが生成している。チタノシリケートゼオライトの固体を得たい場合は、このスラリーを乾燥することで得ることができる。乾燥方法は、従来公知の方法を用いることができる。また、ろ過等の方法を用いて、チタノシリケートゼオライトを分離してもよい。
【0039】
固体として得られたチタノシリケートゼオライトは、必要によって洗浄して不純物を除去することができる。例えば、チタノシリケートゼオライトを温水に懸濁し、溶媒を除去する等の方法で洗浄することができる。なお、この洗浄では、チタノシリケートゼオライトの構造中に含まれるテンプレートは除去できない。したがって、テンプレートを除去する場合は、チタノシリケートゼオライトを酸素含有雰囲気下において焼成することが好ましい。チタノシリケートゼオライトを焼成する場合、焼成温度は400℃以上600℃以下の範囲であることが好ましい。また、保持(焼成)時間は1時間以上24時間以下の範囲にあることが好ましい。このような条件下でチタノシリケートゼオライトを焼成することで、その結晶構造を壊すことなく、テンプレートを除去することができる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例によって本発明の製造方法を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施範囲に限定されるものではない。
【0041】
[測定方法]
本実施例において、以下の分析方法に基づき、各種サンプルを分析した。
【0042】
<アルカリ金属の含有量>
アルカリ金属(M)の濃度は、乳鉢で粉砕した試料粉末が完全に溶解した水溶液を調製し、原子吸光分析法(装置名:日立社製Z-2310)を用いて検量線法により算出した。得られたアルカリ金属の濃度をM2Oとして換算した。
【0043】
<粘度>
試料溶液を粘度計(東機産業社製TBV10型粘度計)にセットし、ローター回転数60rpmにて30秒間測定し、30秒後の粘度値を測定値とした。
【0044】
<X線回折測定>
乳鉢で粉砕した試料粉末をX線回折装置(リガク社製MiniFlex600、線源:CuKα)にセットし、2θ=5~50oまでスキャンしてX線回折測定した。得られた試料粉末のX線回折パターンから、MFI構造に帰属される回折面にピークが確認できたものは、MFI構造を有していると判断した。具体的には、(101)、(111)、(102)、(131)、(022)、(051)、(313)、(323)および(062)面に帰属される回折ピークの有無を確認した。なお、これらの回折面に帰属されるピークの位置は、技術文献(M. M. J. Treacy, J. B. Higgins, COLLECTION OF SIMULATED XRD POWDER PATTERNS FOR ZEOLITES, Fifth Revised Edition, Elsevier)から確認することができる。なお、ピークの位置は測定条件等によって多少変動することがある。このため、上記文献に記載されたピーク位置から±0.5°の範囲にあれば、MFI構造に由来するピークを有しているものとみなした。
【0045】
<中和工程における生成物の組成分析>
乳鉢で粉砕した試料粉末を、酸で完全に溶解した水溶液を調製した。この水溶液に含まれるTiの濃度を、ICP発光分光分析法(島津製作所製ICPS-8100)を用いて検量線法により算出した。得られたTiの濃度をTiO2として換算した。ここで、試料粉末1gを1000℃にて1時間加熱したときの強熱残量を測定し、強熱残量以外の成分をH2Oとした。そして、試料粉末に含まれる成分をTiO2、SiO2、アルカリ金属酸化物(M2O)およびH2Oと仮定して、Siの濃度をSiO2として算出した。
【0046】
<ゼオライト組成分析>
乳鉢で粉砕した試料粉末が完全に溶解した水溶液を調製した。この水溶液に含まれるTiの濃度を、ICP発光分光分析法(島津製作所製ICPS-8100)を用いて検量線法により算出した。得られたTiの濃度をTiO2として換算した。ここで、試料粉末1gを1000℃にて1時間加熱したときの強熱残量を測定し、強熱残量以外の成分をH2Oとした。そして、試料粉末に含まれる成分をTiO2、SiO2、アルカリ金属酸化物(M2O)およびH2Oと仮定して、Siの濃度をSiO2として算出した。
【0047】
<UV-VIS測定>
乳鉢で粉砕した試料粉末をスライドガラスの上に載せて、カーバーガラスで押さえた。これを製紫外可視近赤外分光光度計(日本分光社、V-670)にセットし、分解能1cm-1で200~500cm-1の範囲のUVスペクトルを測定した。
【0048】
<粒度分布>
試料についてレーザー回折式粒度分布測定装置(HORIBA社製:LA950V2、屈折率:1.46)を用いて粒度分布を測定した。得られた粒度分布(体積基準)から、メジアン径を算出した。
【0049】
<電子顕微鏡観察>
試料粉末を走査型電子顕微鏡(日本電子社製:JSM-6010LA、加速電圧:15kV)を用いて観察した。なお、観察する際に、一次粒子のサイズが確認できる倍率に適宜調整した。
【0050】
[実施例1]
<Tiを含む酸性溶液を準備する工程>
濃度が25質量%の硫酸180gに濃度が33.2質量%(TiO2換算)の硫酸チタニル12.5gを加えて、硫酸チタニルを完全に溶解した。これに純水540gを加えて、Tiを含む酸性溶液を調製した。このとき、Tiを含む酸性溶液のpHは、0.2であり、Ti(TiO2換算)の濃度は、0.6質量%であった。
<Siを含む塩基性溶液を準備する工程>
濃度が24.2質量%(SiO2換算)のケイ酸ナトリウム420gに純水800gを加えて、Siを含む塩基性溶液を調製した。このとき、Siを含む塩基性溶液のpHは、11.1であり、Si(SiO2換算)の濃度は8.3質量%であった。
<中和工程>
Tiを含む酸性溶液を加温して40℃にした後、Siを含む塩基性溶液を90分かけて同じ速度で添加して混合液を得た。添加終了後、この混合液を40℃で40分間撹拌した。次に、濃度が15質量%のアンモニア水をこの混合液に添加してpHを7.4に調整した後、さらに40分撹拌した。撹拌中、スラリーが増粘した場合は、撹拌可能な程度に適宜純水を添加した。得られた混合液をろ過し、生成物を分離した。この分離した生成物は、重炭酸アンモニウムを含む溶液を用いて洗浄し、1040.6g(Si濃度8.80質量%(SiO2換算)およびTi濃度0.35質量%(TiO2換算))を得た。この生成物のSi/Ti比は、33(モル比)であり、アルカリ金属の含有量は200ppmであった。
【0051】
<前駆体を調製する工程>
純水105gを入れた容器に前記工程で得られた生成物のうち235gを加え1時間撹拌した。次いで、これにテンプレートとして濃度40質量%のテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)水溶液を40g加えて1時間撹拌した。さらに、種結晶として後述の参考例1の方法で得られたTS-1ゼオライトの水懸濁液を20g加えて1時間撹拌し、前駆体を得た。前記水懸濁液におけるSi濃度は、33.8質量%(SiO2換算)であり、Ti濃度は、1.4質量%(TiO2換算)であった。この前駆体は、Si/Ti=33(モル比)、TPAOH/Si=0.172(モル比)、H2O/Si=43(モル比)およびpH12.7で、種結晶の含有量は前駆体中総質量の25質量%であった。
<前駆体を水熱処理する工程>
得られた前駆体の全量を500ml容量のオートクレーブに入れ、昇温速度32℃/時間で160℃まで上げ、その160℃で18時間水熱処理した。処理終了後、室温まで冷却した。オートクレーブ中の溶液に含まれる固形分をろ過して分離した。この固形分を純水で洗浄し、乾燥することで白色粉末を25.7g得た。
<分析>
この白色粉末について、X線回折測定を行ったところ、MFI構造に由来する回折パターンが確認された。また、この白色粉末について、組成分析、UV-Vis測定を行った。その結果を表1に示す。
表1において、「Ti含有量」は、ゼオライトにおけるSiとTiを、各々、SiO2とTiO2の質量に換算し、両者の和で、TiO2に換算した質量を除した割合(質量%)を表す。
【0052】
[実施例2:湿式粉砕処理]
中和工程まで、実施例1と同じ条件で行った。
<前駆体を調製する工程:湿式粉砕処理追加>
純水105gを入れた容器に、前記工程で得られた生成物のうちの235gと、種結晶として後述の参考例1の方法で得られたTS-1ゼオライトの水懸濁液とを20g加え、スラリーを調製した。前記水懸濁液におけるSi濃度は、33.8質量%(SiO2換算)であり、Ti濃度は、1.4質量%(TiO2換算)であった。1mmφのジルコニアビーズが充填されたビーズミルで、このスラリーを湿式粉砕処理した。この処理を行っている間は、粒度分布測定装置(レーザー回折式)を用いて30分ごとにスラリーのメジアン径を確認した。スラリーのメジアン径に変化が無くなった時点で処理を終了した。このとき、処理に要した時間は2時間であった。処理後のスラリーを回収し、濃度40質量%のTPAOH水溶液を40g加えて1時間撹拌して、前駆体を得た。この前駆体は、Si/Ti=33(モル比)、TPAOH/Si=0.172(モル比)、H2O/Si=43(モル比)で、種結晶の含有量は前駆体中総質量の25質量%であった(実施例1と同様)。
その後の工程および分析は、実施例1と同様の方法で行った。
【0053】
[実施例3:アルカリ金属濃度-高]
中和工程で得られた生成物を、重炭酸アンモニウムを含む溶液で洗浄する工程を行わなかったこと以外は、実施例1と同様の方法で行った。また、実施例3の中和工程で得られた生成物のアルカリ金属の含有量は、10.57質量%であった。また、前駆体の粘度は、632mPa・sであった。
【0054】
[比較例1:中和工程なし、種結晶なし]
純水280gを入れた容器に塩基性のチタニアゾル12g(pH:8.87、Ti含有量:8.9質量%(TiO2換算)、Si含有量:1.2質量%(SiO2換算))を加えて15分間撹拌した。これに、塩基性のシリカゾル69g(pH9.22、Si含有量:40質量%(SiO2換算))を加えて1時間撹拌した。これにテンプレートとしてテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)水溶液(濃度40質量%)を40g加えて1時間撹拌し、前駆体を得た。この前駆体は、Si/Ti=35(モル比)、TPAOH/Si=0.170(モル比)、H2O/Si=43(モル比)であった。その後の工程および分析は、実施例1と同様の方法で行った。
【0055】
[比較例2:中和工程なし]
純水270gを入れた容器に塩基性のチタニアゾル9g(pH:8.87、Ti含有量:8.9質量%(TiO2換算)、Si含有量:1.2質量%(SiO2換算))を加えて15分間撹拌した。これに、塩基性のシリカゾル51.6g(pH9.22、Si含有量:40質量%(SiO2換算))を加えて1時間撹拌した。これにテンプレートとしてテトラプロピルアンモニウムヒドロキシド(TPAOH)水溶液(濃度40質量%)を40g加えて1時間撹拌した。さらに種結晶として後述の参考例1の方法と同様の方法で製造したTS-1ゼオライト(Si/Ti(モル比)=33)の水懸濁液を30g加えて前駆体を得た。この水懸濁液は、Si濃度が22.8質量%(SiO2換算)であり、Ti濃度が0.9質量%(TiO2換算)であった。この前駆体は、Si/Ti=34(モル比)、TPAOH/Si=0.171(モル比)、H2O/Si=43(モル比)であった。その後の工程および分析は、実施例1と同様の方法で行った。
【0056】
[参考例1:アルコキシ基を含む原料を使用]
純水148gを入れた容器にテンプレートとしてTPAOH水溶液(濃度40質量%)を70g加えて15分撹拌した。これに、テトラブトキシチタン(TBOT)(Ti濃度23.5質量%(TiO2換算))8gを添加し、1時間撹拌した。その後、テトラエトキシシラン(TEOS)(Si濃度27.4質量%(SiO2換算)174gを一気に添加し、1時間撹拌した。これを80℃に加温し、一定量のエタノールを蒸発させて純水を加える工程を繰り返し、溶媒置換を行った。溶媒置換後のスラリーの電導度が6.4mS/cmであることを確認し、これを500ml容量のオートクレーブに入れ、160℃で18時間水熱処理した。このスラリーは、Si/Ti=34、TPAOH/Si=0.174であった。処理後、冷却し、生成物をろ過、純水洗浄して白色粉末を得た。この白色粉末について、X線回折測定を行ったところ、MFI構造に由来する回折パターンが確認された。また、この白色粉末について、組成分析、UV-Vis測定を行った。その結果を表1に示す。
【0057】
【0058】
実施例1~3並びに比較例1および2の方法で得られた白色粉末は、そのX線回折パターンから、いずれもMFI構造を有していることが確認された。その中から、実施例1、比較例1および比較例2の方法で得られたX線回折パターンを
図1に示す。これを組成分析の結果と併せて考察すると、中和工程を含む実施例1~3の方法で得られた白色粉末は、MFI構造を有する。また、これらの実施例1~3の方法で得られた白色粉末はTiの含有量が高いので、チタノシリケートゼオライトであると考えられる。
さらに、このTiの含有量は、参考例1に示される従来のアルコキシ基を含む原料から合成されたチタノシリケートのTiの含有量に近い。一方、中和工程を含まない比較例1の方法で得られた白色粉末は、MFI構造を有しているものの、ほとんどTiを含んでいない。このため、比較例1の方法で得られた白色粉末は、シリカライトであると考えられる。くわえて、中和工程を含まない比較例2の方法で得られた白色粉末は、MFI構造を有し少量のTiを含んでいるので、一見、チタノシリケートゼオライトのように見える。しかし、このTiは種結晶として使用したTS-1ゼオライトに由来するTiの含有量とほぼ一致するので、比較例2の方法でも、チタノシリケートゼオライトの合成ができないと考えられる。
【0059】
実施例1、実施例3および参考例1のUVスペクトルを
図2に示す。スペクトルの250~300cm
-1付近に現れるショルダーは、骨格外のTiに由来する。実施例3の方法で得られたチタノシリケートゼオライトは、実施例1または参考例1と比べてこのショルダーが高いので、骨格外のTiが含まれていることが確認された。一方、実施例1の方法で得られたチタノシリケートゼオライトは、このショルダーが低く、骨格外のTiがほとんど含まれていないことが確認された。これは、参考例1の方法で示されるアルコキシ基を含む原料を用いて合成されたチタノシリケートゼオライトとほぼ同レベルである。
実施例1の方法で得られたチタノシリケートゼオライトは、中和工程で得られた生成物のアルカリ金属含有量が少ない(200ppm)。これに対し、実施例3の方法で得られたチタノシリケートゼオライトは、中和工程で得られた生成物のアルカリ金属含有量が多い(10.57質量%)。
したがって、骨格外のTiに由来するショルダーは、中和工程で得られた生成物のアルカリ金属含有量に依存すると考えられる。
【0060】
実施例1の電子顕微鏡写真を
図3に示す。また実施例2の電子顕微鏡写真を
図4に示す。この電子顕微鏡写真から、前駆体を湿式粉砕処理した実施例2のチタノシリケートゼオライトは、湿式粉砕処理しなかった実施例1と比較して、小さい一次粒子が生成していることが確認された。