(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】薬学的組成物、抗原結合分子、治療方法、およびスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
A61K 39/395 20060101AFI20240918BHJP
A61P 31/04 20060101ALI20240918BHJP
A61P 31/12 20060101ALI20240918BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240918BHJP
A61P 37/02 20060101ALI20240918BHJP
C07K 16/00 20060101ALN20240918BHJP
C07K 16/46 20060101ALN20240918BHJP
【FI】
A61K39/395 B ZNA
A61K39/395 J
A61P31/04
A61P31/12
A61P35/00
A61P37/02
C07K16/00
C07K16/46
(21)【出願番号】P 2019501825
(86)(22)【出願日】2018-02-23
(86)【国際出願番号】 JP2018006626
(87)【国際公開番号】W WO2018155611
(87)【国際公開日】2018-08-30
【審査請求日】2020-11-24
【審判番号】
【審判請求日】2022-06-30
(31)【優先権主張番号】P 2017033564
(32)【優先日】2017-02-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003311
【氏名又は名称】中外製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100160923
【氏名又は名称】山口 裕孝
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100148699
【氏名又は名称】佐藤 利光
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100205707
【氏名又は名称】小寺 秀紀
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【氏名又は名称】大関 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100121072
【氏名又は名称】川本 和弥
(72)【発明者】
【氏名】井川 智之
(72)【発明者】
【氏名】堅田 仁
(72)【発明者】
【氏名】河合 武揚
【合議体】
【審判長】松波 由美子
【審判官】齋藤 恵
【審判官】冨永 みどり
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/046467(WO,A1)
【文献】特表2009-531040(JP,A)
【文献】国際公開第2006/106905(WO,A1)
【文献】特表平11-500915(JP,A)
【文献】特表2009-531040(JP,A)
【文献】J. Mol. Biol., 2014, Vol. 426, pp. 1947-1957
【文献】frontiers in Immunology, January 2017, Vol. 8, Article 38, pp.1-15
【文献】Nature Biotechnology, 2013, Vol.31, No.8, pp.753-758
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00-39/44
MEDLINE, EMBASE, BIOSIS, CAPLUS, JDreamIII
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の抗原に結合する第1の抗原結合領域と、第1のCH2および第1のCH3のいずれか一方または両方を含む第1のポリペプチドとを有する第1の抗原結合分子、ならびに第2の抗原に結合する第2の抗原結合領域と、第2のCH2および第2のCH3のいずれか一方または両方を含む第2のポリペプチドとを有する第2の抗原結合分子を含有し、
前記第1の抗原結合分子および前記第2の抗原結合分子が、共有結合によって結合しておらず、そして、ホモ二量体の形成を抑制する改変を有し、
前記第1のCH3および前記第2のCH3の両方が、EUナンバリングシステムでの357位、397位および409位のアミノ酸残基のうち少なくとも一つの他のアミノ酸残基への置換をさらに有し、
前記第1の抗原結合分子と前記第2の抗原結合分子は、前記第1の抗原および前記第2の抗原を発現する細胞が存在する条件下で、前記第1の抗原結合分子が前記第1の抗原に結合し、前記第2の抗原結合分子が前記第2の抗原に結合した際にヘテロ二量体を形成
し、
前記第1のポリペプチドおよび前記第2のポリペプチドの両方が、抗体半分子におけるヒンジ領域部分をさらに含み、前記第1のポリペプチドおよび前記第2のポリペプチドの両方における前記ヒンジ領域部分が、EUナンバリングシステムでの226位および229位の両方のシステイン残基におけるセリン残基への改変を有し、
前記第1の抗原と前記第2の抗原とが異なる抗原である、薬学的組成物。
【請求項2】
表面プラズモン共鳴において1 mm2あたり50 pgの前記第1の抗原結合分子が固定化されたセンサーチップと2.5 mg/mLの前記第2の抗原結合分子を含有する測定液とを用いて両抗原結合分子の親和性を測定したときに、前記第1の抗原結合分子に対する前記第2の抗原結合分子の結合量がモル比で1:0.1~1:0.9の範囲内にある、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記第1の抗原および前記第2の抗原を発現する細胞が存在する条件下での前記ヘテロ二量体の形成量が、前記細胞が存在しない条件下におけるよりも多い、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記ヘテロ二量体を形成した場合における前記ヘテロ二量体のFcγRへの結合活性が、前記第1の抗原結合分子の単量体もしくは前記第2の抗原結合分子の単量体のFcγRへの結合活性、または前記ホモ二量体を形成した場合における前記ホモ二量体のFcγRへの結合活性よりも高い、請求項1から3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
前記第1のポリペプチドが前記第1のCH3を含み、前記第2のポリペプチドが前記第2のCH3を含み、前記第1のCH3および前記第2のCH3が、以下の(i)から(iii)の少なくとも一の改変を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の組成物。
(i)前記第1のCH3および前記第2のCH3のいずれか一方が正電荷の領域を有し、他方が負電荷の領域を有し、前記ヘテロ二量体が形成される際に前記正電荷の領域が前記負電荷の領域に相互作用する、改変
(ii)前記第1のCH3および前記第2のCH3のいずれか一方が凸部を有し、他方が凹部を有し、前記ヘテロ二量体が形成される際に前記凸部が前記凹部に嵌合して相互作用する、改変
(iii)前記第1のCH3および前記第2のCH3が改変されたIgGのCH3であり、前記改変されたIgGのCH3はその一部がIgAのCH3の一部と置き換えられており、前記ヘテロ二量体が形成される際に前記第1のCH3に置き換えられた前記IgAのCH3の一部と前記第2のCH3に置き換えられた前記IgAのCH3の一部とが相互作用する、改変
【請求項6】
前記第1のポリペプチドおよび前記第2のポリペプチドが、それぞれ抗体半分子における定常領域部分を含む、請求項1から
5のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
前記第1の抗原および前記第2の抗原を発現する細胞が存在する条件下でのエフェクター機能が、前記第2の抗原を発現せず前記第1の抗原を発現する細胞または前記第1の抗原を発現せず前記第2の抗原を発現する細胞が存在する条件下よりも高い、請求項1から
6のいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬学的組成物、抗原結合分子、治療方法、およびスクリーニング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は血漿中での安定性が高く、副作用も少ないことから医薬品として注目されている。中でもIgG型の抗体医薬は多数上市されており、現在も数多くの抗体医薬が開発されている(非特許文献1、および非特許文献2)。治療用抗体に求められる機能は、標的への抗体の結合による特定分子間の相互作用のブロックや、抗体のエフェクター機能である抗体依存性細胞傷害(以下ADCCとも表記する。)活性、補体依存性細胞傷害(以下CDCとも表記する。)活性を利用した標的細胞の除去などがある。
【0003】
ネイティブな抗体および免疫グロブリン(以下IgGとも表記する。)は通常2本の同一軽(L)鎖および2本の同一重(H)鎖から構成されている。L鎖とH鎖はジスルフィド結合で連結しており、このL鎖H鎖の複合体同士もH鎖間でジスルフィド結合を形成し分子量約150,000ダルトンの該複合体のホモ二量体を形成している。L鎖はL鎖可変領域およびL鎖定常領域(以下CLとも表記する。)からなり、H鎖はH鎖可変領域およびCH1、CH2、CH3およびヒンジ領域からなるH鎖定常領域より構成されている。H鎖のCH1とCH2はH鎖間のジスルフィド結合に関与するヒンジ領域によって隔てられている。このような構造を持つIgGは二つの抗原結合部位を有する(二価抗体)。
【0004】
Fc領域は構造面において、ヒンジ領域やCH3界面を介して二量体形成に寄与している。そのためCH3界面に変異を導入することでヘテロ二量体の形成を促進した例(非特許文献3、4、5)や、ヒンジ領域のシステイン残基を他のアミノ酸に置換したうえでCH3二量体形成を阻害するような改変を導入して、一価抗体を作製した例が報告されている(非特許文献6)。
【0005】
また、機能面においては、胎児性Fc受容体(以下FcRnとも表記する。)との相互作用による血中滞留性の延長に寄与し(非特許文献7)、Fc受容体を介したADCC、CDC、抗体依存性細胞介在性ファゴサイトーシス(ADCP)といったエフェクター機能の発現に関与している。近年、エフェクター機能を向上させる改変技術も報告されており(非特許文献8)、抗体医薬の薬効増強に活用されている。
【0006】
抗体分子は、癌細胞に発現している抗原に対して結合し、ADCC等によって癌細胞に対する傷害活性を発揮する。こうしたADCC等による細胞傷害活性は、治療用抗体の標的細胞に発現する抗原の数に依存することが知られている(非特許文献9)ため、標的となる抗原の発現量が高いことが治療用抗体の効果の観点からは好ましい。しかし、抗原の発現量が高くても、正常組織に抗原が発現していると、正常細胞に対してADCC等の傷害活性を発揮してしまうため、副作用が大きな問題となる。そのため、癌治療薬として治療用抗体が標的とする抗原は、癌細胞に特異的に発現していることが好ましい。例えば、癌抗原として知られているEpCAM抗原に対する抗体分子は、癌治療薬として有望と考えられていたが、EpCAM抗原は膵臓にも発現していることが知られており、実際、臨床試験において、抗EpCAM抗体を投与することによって、膵臓に対する細胞傷害活性により膵炎の副作用がみられることが報告されている(非特許文献10)。
【0007】
ADCC活性による細胞傷害活性を発揮する抗体医薬の成功を受けて、天然型ヒトIgG1のFc領域のN型糖鎖のフコースを除去することによるADCC活性の増強(非特許文献11)、天然型ヒトIgG1のFc領域のアミノ酸置換によりFcγRIIIaへの結合を増強することによるADCC活性の増強(非特許文献12)等によって強力な細胞傷害活性を発揮する第二世代の改良抗体分子が報告されている。上述のNK細胞が介在するADCC活性以外のメカニズムで癌細胞に傷害活性を発揮する抗体医薬として、強力な細胞傷害活性のある薬物を抗体とコンジュゲートしたAntibody Drug Conjugate(ADC)(非特許文献13)、および、T細胞を癌細胞にリクルートすることによって癌細胞に対する傷害活性を発揮する低分子抗体(非特許文献14)等のより強力な細胞傷害活性を発揮する改良抗体分子も報告されている。
【0008】
こうしたより強力な細胞傷害活性を発揮する抗体分子は、抗原の発現が多くはない癌細胞に対しても細胞傷害活性を発揮することができる一方で、抗原の発現が少ない正常組織に対しても同様に細胞傷害活性を発揮してしまう。実際、EGFR抗原に対する天然型ヒトIgG1であるセツキシマブと比較して、CD3とEGFRに対する二重特異性抗体であるEGFR-BiTEはT細胞を癌細胞にリクルートすることによって癌細胞に対して強力な細胞傷害活性を発揮し抗腫瘍効果を発揮することができる。その一方で、EGFRは正常組織においても発現しているため、EGFR-BiTEをカニクイザルに投与した際に深刻な副作用が現れることも認められている(非特許文献15)。また、癌細胞で高発現しているCD44v6に対する抗体にmertansineを結合させたADCであるbivatuzumab mertansineは、CD44v6が正常組織においても発現していることから、臨床において重篤な皮膚毒性および肝毒性が認められている(非特許文献16)。
【0009】
このように抗原の発現が少ないような癌細胞に対しても強力な細胞傷害活性を発揮することができる抗体を用いた場合、標的抗原が極めて癌特異的に発現している必要があるが、ハーセプチンの標的抗原であるHER2やセツキシマブの標的抗原であるEGFRは正常組織にも発現しているように、極度に癌特異的に発現している癌抗原の数は限られていると考えられる。そのため、癌に対する細胞傷害活性を強化することはできるものの、正常組織に対する細胞傷害作用による副作用が問題となり得る。
【0010】
また、最近、癌における免疫抑制に寄与しているCTLA4を阻害することによって腫瘍免疫を増強するイピリムマブが転移性メラノーマに対してOverall survivalを延長させることが示された(非特許文献17)。しかしながら、イピリムマブはCTLA4を全身的に阻害するため、腫瘍免疫が増強される一方で、全身的に免疫が活性化されることによる自己免疫疾患様の重篤な副作用を示すことが問題となっている(非特許文献18)。
【0011】
第二世代の抗体医薬に適用可能な技術として様々な技術が開発されており、エフェクター機能、抗原結合能、薬物動態、安定性を向上させる、あるいは、免疫原性リスクを低減させる技術等が報告されているが(非特許文献19)、上記のような副作用を解決するための、抗体医薬を標的組織に高度な特異性を持って作用可能とする技術はあまり報告されていない。
【0012】
高度な選択性を付与する事を目的とした技術として、二種類の標的を同時に狙う戦略が報告されている(非特許文献20、21、22、23)。
CD4およびCD70二重陽性細胞やHER2およびEGFR二重陽性細胞を用いた二重特異性抗体の検討では、単陽性細胞と比較して10倍程度の傷害活性向上が図られている(非特許文献24,25)。
そのような中、近年、二重特異性抗体の作製方法に関する様々な技術が開発されている(特許文献1~6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【文献】国際公開第96/027011号
【文献】国際公開第2006/106905号
【文献】国際公開第2009/089004号
【文献】国際公開第2010/129304号
【文献】国際公開第2011/143545号
【文献】国際公開第2014/084607号
【非特許文献】
【0014】
【文献】Monoclonal antibody successes in the clinic. Janice M Reichert, Clark J Rosensweig, Laura B Faden & Matthew C Dewitz, Nat. Biotechnol. (2005) 23, 1073 - 1078
【文献】The therapeutic antibodies market to 2008. Pavlou AK, Belsey MJ., Eur. J. Pharm. Biopharm. (2005) 59 (3), 389-396
【文献】’Knobs-into-hole’ engineering of antibody CH3 domains for heavy chain heterodimerization. Ridgway JB, Presta LG, Carter P, Protein Eng. (1996) 9 (7), 617-621
【文献】SEEDbodies: fusion based on strand-exchange engineered domain (SEED) CH3 heterodimers in an Fc analogue platform for asymmetric binders or immunofusions and bispecific antibodies. Davis JH, Aperlo C, Li Y, Kurosawa E, Lan Y, Lo KM, Huston JS, Protein Eng. Des. Sel. (2010) 23 (4) 195-202
【文献】A bispecific antibody to factor IXa and X restores factor VIII hemostatic activity in an hemophilia A model. Kitazawa T, Igawa T, Sampei Z, Muto A, Kojima T, Soeda T, Yoshihashi K, Okuyama-Nishida Y, Saito H, Tshunoda H, Suzuki T, Adachi H, Miyazaki T, Ishii S, Kamata-Sakurai M, Iida T, Harada A, Esaki K, Funaki M, Moriyama C, Tanaka E, Kikuchi Y, Wakabayashi T, Wada M, Goto M, Toyoda T, Ueyama A, Suzuki S, Haraya K, Tachibana T, Kawabe Y, Shima M, Yoshioka A, Hattori K, Nat. Med.(2012) 18 (10) 1570-1574
【0015】
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【文献】Multiple roles for the major histocompatibility complex class I-related receptor FcRn. Ghetie V, Ward S, Annu. Rev. Immunol. (2000) 18, 739-766
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【文献】ING-1, a monoclonal antibody targeting Ep-CAM in patients with advanced adenocarcinomas. de Bono JS, Tolcher AW, Forero A, Vanhove GF, Takimoto C, Bauer RJ, Hammond LA, Patnaik A, White ML, Shen S, Khazaeli MB, Rowinsky EK, LoBuglio AF, Clin. Cancer Res. (2004) 10 (22), 7555-7565
【0016】
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【0017】
【文献】T cell-engaging BiTE antibodies specific for EGFR potently eliminate KRAS- and BRAF-mutated colorectal cancer cells. Lutterbuese R, Raum T, Kischel R, Hoffmann P, Mangold S, Rattel B, Friedrich M, Thomas O, Lorenczewski G, Rau D, Schaller E, Herrmann I, Wolf A, Urbig T, Baeuerle PA, Kufer P., Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (2010) 107 (28), 12605-12610
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【文献】IPILIMUMAB - A NOVEL IMMUNOMODULATING THERAPY CAUSING AUTOIMMUNE HYPOPHYSITIS: A CASE REPORT AND REVIEW. Juszczak A, Gupta A, Karavitaki N, Middleton MR, Grossman A., Eur. J. Endocrinol. (2012) 167 (1), 1-5
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【文献】Dual targeting strategies with bispecific antibodies. Kontermann RE. MAbs (2012) 4 (2), 182-97
【0018】
【文献】Smarter drugs: a focus on pan-specific monoclonal antibodies. Fagete S, Fischer N, BioDrugs (2011) 25 (6), 357-364
【文献】"NextGen" Biologics: Bispecific Antibodies and Emerging Clinical Results. Thakur A, Lum LG, Expert Opin. Biol. Ther. 2016 16 (5), 675-688.
【文献】Bispecific antibodies and their applications. Fan G, Wang Z, Hao M, Li J. J Hematol Oncol. (2015) 8:130.
【文献】A two-in-one antibody against HER3 and EGFR has superior inhibitory activity compared with monospecific antibodies. Schaefer G, Haber L, Crocker LM, Shia S, Shao L, Dowbenko D, Totpal K, Wong A, Lee CV, Stawicki S, Clark R, Fields C, Lewis Phillips GD, Prell RA, Danilenko DM, Franke Y, Stephan JP, Hwang J, Wu Y, Bostrom J, Sliwkowski MX, Fuh G, Eigenbrot C. Cancer Cell. (2011) 20 (4), 472-486.
【文献】Improving target cell specificity using a novel monovalent bispecific IgG design. Mazor Y, Oganesyan V, Yang C, Hansen A, Wang J, Liu H, Sachsenmeier K, Carlson M, Gadre DV, Borrok MJ, Yu XQ, Dall'Acqua W, Wu H, Chowdhury PS. MAbs. (2015) 7 (2), 377-389.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
上述のとおり二重特異性抗体の有用性がますます期待されている状況において、エフェクター機能が正常細胞に比べ疾患に関与する細胞に対しより高度に特異的であり、その結果副作用がより高度に低減された抗体が望まれている。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、血漿中に抗原非結合状態で存在するときには相互作用せず抗体半分子として別々に存在し、標的の細胞表面上で二重特異性抗体が形成される抗原結合分子の組み合わせを創出し、本発明を完成するに至った。本発明の態様として、以下の[1]~[15]が例示される。
【0021】
[1]第1の抗原に結合する第1の抗原結合領域と、第1のCH2および第1のCH3のいずれか一方または両方を含む第1のポリペプチドとを有する第1の抗原結合分子、ならびに第2の抗原に結合する第2の抗原結合領域と、第2のCH2および第2のCH3のいずれか一方または両方を含む第2のポリペプチドとを有する第2の抗原結合分子を含有し、
前記第1の抗原結合分子および前記第2の抗原結合分子が、共有結合によって結合しておらず、そして、液中で混合した場合にホモ二量体よりもヘテロ二量体を形成しやすい、薬学的組成物。
[2]表面プラズモン共鳴において1 mm2あたり50 pgの前記第1の抗原結合分子が固定化されたセンサーチップと2.5 mg/mLの前記第2の抗原結合分子を含有する測定液とを用いて両抗原結合分子の親和性を測定したときに、前記第1の抗原結合分子に対する前記第2の抗原結合分子の結合量がモル比で1:0.1~1:0.9の範囲内にある、[1]に記載の組成物。
【0022】
[3]前記第1の抗原および前記第2の抗原を発現する細胞が存在する条件下での前記ヘテロ二量体の形成量が、前記細胞が存在しない条件下におけるよりも多い、[1]または[2]に記載の組成物。
[4]前記ヘテロ二量体を形成した場合における前記ヘテロ二量体のFcγRへの結合活性が、前記第1の抗原結合分子の単量体もしくは前記第2の抗原結合分子の単量体のFcγRへの結合活性、または前記ホモ二量体を形成した場合における前記ホモ二量体のFcγRへの結合活性よりも高い、[1]から[3]のいずれかに記載の組成物。
【0023】
[5]前記第1のポリペプチドが前記第1のCH3を含み、前記第2のポリペプチドが前記第2のCH3を含み、前記第1のCH3および前記第2のCH3が、液中で混合した場合に前記ホモ二量体よりも前記ヘテロ二量体を形成しやすくする改変として以下の(i)から(iii)の少なくとも一の改変を有する、[1]から[4]のいずれかに記載の組成物。
(i)前記第1のCH3および前記第2のCH3のいずれか一方が正電荷の領域を有し、他方が負電荷の領域を有し、前記ヘテロ二量体が形成される際に前記正電荷の領域が前記負電荷の領域に相互作用する、改変
(ii)前記第1のCH3および前記第2のCH3のいずれか一方が凸部を有し、他方が凹部を有し、前記ヘテロ二量体が形成される際に前記凸部が前記凹部に嵌合して相互作用する、改変
(iii)前記第1のCH3および前記第2のCH3が改変されたIgGのCH3であり、前記改変されたIgGのCH3はその一部がIgAのCH3の一部と置き換えられており、前記ヘテロ二量体が形成される際に前記第1のCH3に置き換えられた前記IgAのCH3の一部と前記第2のCH3に置き換えられた前記IgAのCH3の一部とが相互作用する、改変
[6]前記第1のCH3および前記第2のCH3のいずれか一方または両方が、EUナンバリングシステムでの357位、397位および409位のアミノ酸残基のうち少なくとも一つの他のアミノ酸残基への置換をさらに有する、[1]から[5]のいずれかに記載の組成物。
【0024】
[7]前記第1のポリペプチドおよび前記第2のポリペプチドのいずれか一方または両方が、抗体半分子におけるヒンジ領域部分をさらに含む、[1]から[6]のいずれかに記載の組成物。
[8]前記第1のポリペプチドおよび前記第2のポリペプチドのいずれか一方または両方における前記ヒンジ領域部分が、EUナンバリングシステムでの226位および229位のいずれか一方または両方のシステイン残基における他のアミノ酸残基への改変を有する、[7]に記載の組成物。
【0025】
[9]前記第1のポリペプチドおよび前記第2のポリペプチドが、それぞれ抗体半分子における定常領域部分を含む、[1]から[8]のいずれかに記載の組成物。
[10]前記第1の抗原および前記第2の抗原を発現する細胞が存在する条件下でのエフェクター機能が、前記第2の抗原を発現せず前記第1の抗原を発現する細胞または前記第1の抗原を発現せず前記第2の抗原を発現する細胞が存在する条件下よりも高い、[1]から[9]のいずれかに記載の組成物。
【0026】
[11]第1の抗原に結合する第1の抗原結合領域と、第1のCH3を含む第1のポリペプチドとを有する第1の抗原結合分子、および第2の抗原に結合する第2の抗原結合領域と、第2のCH3を含む第2のポリペプチドとを有する第2の抗原結合分子を含有し、
前記第1の抗原結合分子および前記第2の抗原結合分子が、共有結合によって結合しておらず、
前記第1のCH3および前記第2のCH3が以下の(iv)から(vi)の少なくとも一の改変を有する、薬学的組成物。
(iv)前記第1のCH3および前記第2のCH3のいずれか一方が正電荷の領域を有し、他方が負電荷の領域を有し、前記ヘテロ二量体が形成される際に前記正電荷の領域が前記負電荷の領域に相互作用する、改変
(v)前記第1のCH3および前記第2のCH3のいずれか一方が凸部を有し、他方が凹部を有し、前記ヘテロ二量体が形成される際に前記凸部が前記凹部に嵌合して相互作用する、改変
(vi)前記第1のCH3および前記第2のCH3が改変されたIgGのCH3であり、前記改変されたIgGのCH3はその一部がIgAのCH3の一部と置き換えられており、前記ヘテロ二量体が形成される際に前記第1のCH3に置き換えられた前記IgAのCH3の一部と前記第2のCH3に置き換えられた前記IgAのCH3の一部とが相互作用する、改変
【0027】
[12]第1の抗原に結合する第1の抗原結合領域と、第1のCH2および第1のCH3のいずれか一方または両方を含む第1のポリペプチドとを有する第1の抗原結合分子であって、
第2の抗原に結合する第2の抗原結合領域と、第2のCH2および第2のCH3のいずれか一方または両方を含む第2のポリペプチドとを有する第2の抗原結合分子と液中で混合した場合に前記第1の抗原結合分子間のホモ二量体よりも前記第2の抗原結合分子とのヘテロ二量体を形成しやすく、前記ヘテロ二量体において、前記第1の抗原結合分子と前記第2の抗原結合分子とは共有結合によって結合していない、第1の抗原結合分子。
[13]第2の抗原に結合する第2の抗原結合領域と、第2のCH2および第2のCH3のいずれか一方または両方を含む第2のポリペプチドとを有する第2の抗原結合分子であって、
第1の抗原に結合する第1の抗原結合領域と、第1のCH2および第1のCH3のいずれか一方または両方を含む第1のポリペプチドとを有する第1の抗原結合分子と液中で混合した場合に前記第2の抗原結合分子間のホモ二量体よりも前記第1の抗原結合分子とのヘテロ二量体を形成しやすく、前記ヘテロ二量体において、前記第1の抗原結合分子と前記第2の抗原結合分子とは共有結合によって結合していない、第2の抗原結合分子。
【0028】
[14]第1の抗原に結合する第1の抗原結合領域と、第1のCH2および第1のCH3のいずれか一方または両方を含む第1のポリペプチドとを有する第1の抗原結合分子、ならびに第2の抗原に結合する第2の抗原結合領域と、第2のCH2および第2のCH3のいずれか一方または両方を含む第2のポリペプチドとを有する第2の抗原結合分子を、前記第1の抗原および前記第2の抗原を発現する病原細胞を有する対象に同時投与または逐次投与する、前記対象における前記病原細胞に起因する疾患を治療する方法であって、
前記第1の抗原結合分子および前記第2の抗原結合分子は、投与前および投与後に共有結合によって結合せず、前記病原細胞の表面でヘテロ二量体を形成してエフェクター機能を奏する、方法。
【0029】
[15]第1の抗原に結合する第1の抗原結合領域と、第1のCH2および第1のCH3のいずれか一方または両方を含む第1のポリペプチドとを有する第1の抗原結合分子の改変体群、ならびに第2の抗原に結合する第2の抗原結合領域と、第2のCH2および第2のCH3のいずれか一方または両方を含む第2のポリペプチドとを有する第2の抗原結合分子の改変体群から、
(a)第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子が、共有結合によって結合しない、
(b)第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子が、第1の抗原結合分子間または第2の抗原結合分子間のホモ二量体よりも、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子の間のヘテロ二量体を形成しやすい、
(c)表面プラズモン共鳴において1 mm2あたり50 pgの第1の抗原結合分子が固定化されたセンサーチップと2.5 mg/mLの第2の抗原結合分子を含有する測定液とを用いて両抗原結合分子の親和性を測定したときに、当該第1の抗原結合分子に対する当該第2の抗原結合分子の結合量がモル比で1:0.1~1:0.9の範囲内にある、
第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子の組み合わせを選択する方法。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、副作用が低減された抗原結合分子の組み合わせが提供される。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1-1】サイズ排除クロマトグラフィーにより、抗体半分子が二量体化(whole抗体)を形成するか否かを確認した結果を示した図である。Wはwhole抗体、Hは抗体半分子の溶出位置をそれぞれ示し、Eはwhole抗体と抗体半分子の平衡状態にあると推定される分子状態の溶出位置をそれぞれ示す。
【
図2】ADCCレポーター試験により、2種類の抗原を発現する細胞の存在下(EREG_SK-pca60_#2)または1種類の抗原を発現する細胞の存在下(SK-pca60もしくはSKE-4B2)での抗体半分子の組み合わせによるADCC活性を調べた結果を示した図である。
【
図3】マウスCD19に対する可変領域を有する抗体半分子、あるいはwhole抗体のノーマルマウスにおける血中濃度推移を示した図である。
【
図4】マウスCD19に対する可変領域を有する抗体半分子、あるいはwhole抗体を投与されたノーマルマウスの血中でのB細胞の割合をFACSで定量した図である。
【
図5-1】サイズ排除クロマトグラフィーにより、抗体半分子が二量体化(whole抗体)を形成するか否かを確認した結果を示した図である。Wはwhole抗体、Hは抗体半分子の溶出位置をそれぞれ示す。
【
図6】ADCCレポーター試験により、2種類の抗原を発現する細胞の存在下(EREG_SK-pca60_#2)または1種類の抗原を発現する細胞の存在下(SK-pca60もしくはSKE-4B2)での抗体半分子の組み合わせによるADCC活性を調べた結果を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
A.定義
本明細書において「ポリペプチド」は、複数のアミノ酸がペプチド結合したペプチドすべてを包含する。本明細書においては、ポリペプチドを「ペプチド」または「タンパク質」と呼ぶことがある。
本明細書において「抗原結合領域」は、抗原に結合する活性を有する化合物を意味する。抗原結合領域は、ペプチド性であってもよく、非ペプチド性であってもよい。
【0033】
本明細書において、「CH1」は、抗体のCH1の1鎖のポリペプチドを意味する。具体的には、CH1は、EUナンバリングシステムでのH鎖118~215位のアミノ酸残基で示される領域であり、本明細書では野生型のほか、野生型においてアミノ酸残基の置換、付加、または欠失させた改変体も包含する。
本明細書において、「CH2」は、抗体のCH2の1鎖のポリペプチドを意味する。具体的には、CH2は、EUナンバリングシステムでのH鎖231~340位のアミノ酸残基で示される領域であり、本明細書では野生型のほか、野生型においてアミノ酸残基の置換、付加、または欠失させた改変体も包含する。
本明細書において、「CH3」は、抗体のCH3の1鎖のポリペプチドを意味する。具体的には、CH3は、EUナンバリングシステムでのH鎖341位からC末端までのアミノ酸残基で示される領域であり、本明細書では野生型のほか、野生型においてアミノ酸残基の置換、付加、または欠失させた改変体も包含する。
本明細書において、「CL」は、抗体のCLの1鎖のポリペプチドを意味する。具体的には、CLは、EUナンバリングシステムでのL鎖108位からC末端までのアミノ酸残基で示される領域であり、本明細書では野生型のほか、野生型においてアミノ酸残基の置換、付加、または欠失させた改変体も包含する。
【0034】
本明細書における「抗体半分子」は、抗体におけるH鎖間の結合を解離させた場合の一分子を意味し、一般に一価抗体と呼ばれることがある。抗体がIgGの場合の抗体半分子としては、例えば、H鎖1鎖とL鎖1鎖からなる複合体が挙げられる。抗体半分子には、ラクダ科等の抗体で見られるH鎖2本からなる抗体、いわゆる重鎖抗体(heavy-chain antibody)(VHH(VH originating from heavy-chain antibody)抗体とも呼ばれる。)のH鎖間の結合を解離させた、H鎖1鎖からなる分子が包含される。
一態様において、抗体半分子は、キメラ抗体やヒト化抗体に由来するものを包含する。
一態様において、抗体半分子は、IgG、IgM、IgA、IgD、IgEなどの各種アイソタイプに由来するものを包含する。抗体半分子は、好ましくはIgG由来のものである。IgGには、IgG1、IgG2、IgG3およびIgG4が存在する。抗体半分子は、これらのうちいずれのサブタイプ由来でもよい。抗体半分子は、エフェクター機能を発揮しやすい観点から、好ましくはIgG1またはIgG2由来である。
【0035】
本明細書における「ヒンジ領域」は、抗体におけるCH1とCH2の間に位置する領域である。具体的には、ヒンジ領域は、EUナンバリングシステムでの216~230位のアミノ酸残基で示される領域であり、本明細書では野生型のほか、野生型においてアミノ酸残基の置換、付加、または欠失させた改変体も包含する。本明細書において「抗体半分子におけるヒンジ領域部分」とは、H鎖1鎖におけるヒンジ領域部分を意味し、1鎖のポリペプチドからなるものをいう。
【0036】
本明細書において、「定常領域」とは、抗体におけるCH1、CH2、CH3、CLおよびヒンジ領域を含む領域である。本明細書における「抗体半分子における定常領域部分」とは、抗体半分子における定常領域部分を意味する。
【0037】
本明細書で用語「Fc領域」は、少なくとも定常領域の一部分を含む免疫グロブリンH鎖のC末端領域を定義するために用いられる。この用語は、天然型配列のFc領域および変異体Fc領域を含む。一態様において、ヒトIgGのH鎖Fc領域はCys226から、またはPro230から、H鎖のカルボキシル末端まで延びる。ただし、Fc領域のC末端のリジン (Lys447) またはグリシン‐リジン(Gly446-Lys447)は、存在していてもしていなくてもよい。本明細書では別段特定しない限り、Fc領域または定常領域中のアミノ酸残基の番号付けは、Kabat et al., Sequences of Proteins of Immunological Interest, 5th Ed. Public Health Service, National Institutes of Health, Bethesda, MD 1991 に記載の、EUナンバリングシステム(EUインデックスとも呼ばれる)にしたがう。
【0038】
「エフェクター機能」は、抗体のFc領域に起因する、抗体のアイソタイプによって異なる生物学的活性のことをいう。抗体のエフェクター機能の例には次のものが含まれる:C1q結合および補体依存性細胞傷害(complement dependent cytotoxicity:CDC);Fc受容体結合;抗体依存性細胞介在性細胞傷害(antibody-dependent cell-mediated cytotoxicity: ADCC);貪食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体)の下方制御;および、B細胞活性化。
【0039】
「Fc受容体」または「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体のことをいう。いくつかの態様において、FcRは、天然型ヒトFcRである。いくつかの態様において、FcRは、IgG抗体に結合するもの(ガンマ受容体)であり、FcγRI、FcγRII、およびFcγRIIIサブクラスの受容体を、これらの受容体の対立遺伝子変異体および選択的スプライシングによる形態を含めて、含む。FcγRII受容体は、FcγRIIA(「活性化受容体」)およびFcγRIIB(「阻害受容体」)を含み、これらは主としてその細胞質ドメインにおいて相違する類似のアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン活性化モチーフ (immunoreceptor tyrosine-based activation motif: ITAM) を含む。阻害受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメインに免疫受容体チロシン阻害モチーフ(immunoreceptor tyrosine-based inhibition motif: ITIM)を含む。(例えば、Daeron, Annu. Rev. Immunol. 15:203-234 (1997) を参照のこと。)FcRは、例えば、Ravetch and Kinet, Annu. Rev. Immunol 9:457-92 (1991);Capel et al., Immunomethods 4:25-34 (1994);およびde Haas et al., J. Lab. Clin. Med 126:330-41 (1995)において総説されている。将来同定されるものを含む他のFcRも、本明細書の用語「FcR」に包含される。
【0040】
本明細書における「共有結合」は、一般に知られているあらゆるものが包含される。共有結合は、例えば、ジスルフィド結合および炭素-炭素結合が挙げられる。
【0041】
本明細書でいう用語「細胞傷害剤」は、細胞の機能を阻害するまたは妨げる、および/または細胞の死または破壊の原因となる物質のことをいう。細胞傷害剤は、これらに限定されるものではないが、放射性同位体(例えば、211At、131I、125I、90Y、186Re、188Re、153Sm、212Bi、32P、212PbおよびLuの放射性同位体);化学療法剤または化学療法薬(例えば、メトトレキサート、アドリアマイシン、ビンカアルカロイド類(ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド)、ドキソルビシン、メルファラン、マイトマイシンC、クロラムブシル、ダウノルビシン、または他のインターカレート剤);増殖阻害剤;核酸分解酵素などの酵素およびその断片;抗生物質;例えば、低分子毒素または細菌、真菌、植物、または動物起源の酵素的に活性な毒素(その断片および/または変異体を含む)などの、毒素;および、以下に開示される、種々の抗腫瘍剤または抗がん剤を含む。
【0042】
B.薬学的組成物
一局面において、本発明は、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子のいずれか一方または両方を含有する薬学的組成物を提供する。
【0043】
1.第1の抗原結合分子
第1の抗原結合分子は、第1の抗原結合領域と第1のポリペプチドとを有する。
【0044】
a.第1の抗原結合領域
第1の抗原結合領域は、第1の抗原に結合する領域である。好ましくは、第1の抗原結合領域は、抗体半分子の可変領域部分またはその第1の抗原結合性断片を含んでいる。第1の抗原結合性断片とは、第1の抗原への結合性を保持した、抗体半分子の可変領域部分の断片を意味する。
【0045】
第1の抗原は、例えば、標的細胞に発現するタンパク質が挙げられる。該タンパク質は、好ましくは対象疾患の原因となっている異常細胞に発現している抗原である。異常細胞に発現している該抗原は、好ましくは膜タンパク質である。該膜タンパク質は、好ましくはその細胞外領域である。
【0046】
第1の抗原は、後述する第2の抗原と同じであってもよく、異なっていてもよい。好ましくは、第1の抗原と第2の抗原とは異なる。第1の抗原と第2の抗原とが異なることにより、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子の組み合わせによる異常細胞への標的特異性が向上される。
好ましくは、第1の抗原および第2の抗原のいずれか一方または両方が異常細胞に発現しているが正常細胞では発現しておらず、より好ましくは、第1の抗原および第2の抗原の両方が異常細胞に発現しているが正常細胞では発現していない。
【0047】
抗原の種類は特に限定されず、どのような抗原でもよい。抗原の例としては、例えば、受容体もしくはその断片、癌抗原、MHC抗原、分化抗原等を挙げることができるが、特にこれらに制限されない。
【0048】
また、該受容体の例としては、例えば、造血因子受容体ファミリー、サイトカイン受容体ファミリー、チロシンキナーゼ型受容体ファミリー、セリン/スレオニンキナーゼ型受容体ファミリー、TNF受容体ファミリー、Gタンパク質共役型受容体ファミリー、GPIアンカー型受容体ファミリー、チロシンホスファターゼ型受容体ファミリー、接着因子ファミリー、ホルモン受容体ファミリー、等の受容体ファミリーに属する受容体などを挙げることができる。これら受容体ファミリーに属する受容体、及びその特徴に関しては多数の文献が存在し、例えば、Cooke BA., King RJB., van der Molen HJ. ed. New ComprehesiveBiochemistry Vol.18B "Hormones and their Actions Part II"pp.1-46 (1988) Elsevier Science Publishers BV., New York, USA、Patthy L. (1990) Cell, 61: 13-14.、Ullrich A., et al. (1990) Cell, 61: 203-212.、Massagul J. (1992) Cell, 69: 1067-1070.、Miyajima A., et al. (1992) Annu. Rev. Immunol., 10: 295-331.、Taga T. and Kishimoto T. (1992) FASEB J., 7: 3387-3396.、Fantl WI., et al. (1993) Annu. Rev. Biochem., 62: 453-481.、Smith CA., et al. (1994) Cell, 76: 959-962.、Flower DR. (1999) Biochim. Biophys. Acta, 1422: 207-234.、宮坂昌之監修, 細胞工学別冊ハンドブックシリーズ「接着因子ハンドブック」(1994) (秀潤社, 東京, 日本)等が挙げられる。上記受容体ファミリーに属する具体的な受容体としては、例えば、ヒト又はマウスエリスロポエチン(EPO)受容体、ヒト又はマウス顆粒球コロニー刺激因子(G-CSF)受容体、ヒト又はマウストロンボポイエチン(TPO)受容体、ヒト又はマウスインスリン受容体、ヒト又はマウスFlt-3リガンド受容体、ヒト又はマウス血小板由来増殖因子(PDGF)受容体、ヒト又はマウスインターフェロン(IFN)-α、β受容体、ヒト又はマウスレプチン受容体、ヒト又はマウス成長ホルモン(GH)受容体、ヒト又はマウスインターロイキン(IL)-10受容体、ヒト又はマウスインスリン様増殖因子(IGF)-I受容体、ヒト又はマウス白血病抑制因子(LIF)受容体、ヒト又はマウス毛様体神経栄養因子(CNTF)受容体等を例示することができる(hEPOR: Simon, S. et al. (1990) Blood 76, 31-35.; mEPOR: D'Andrea, AD. Et al. (1989) Cell 57, 277-285.; hG-CSFR: Fukunaga, R. et al. (1990) Proc.Natl. Acad. Sci. USA. 87, 8702-8706.; mG-CSFR: Fukunaga, R. et al. (1990) Cell61, 341-350.; hTPOR: Vigon, I. et al. (1992) 89, 5640-5644.; mTPOR: Skoda, RC. Et al. (1993) 12, 2645-2653.; hInsR: Ullrich, A. et al. (1985) Nature 313, 756-761.; hFlt-3: Small, D. et al. (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 91, 459-463.; hPDGFR: Gronwald, RGK. Et al. (1988) Proc. Natl. Acad. Sci. USA. 85, 3435-3439.; hIFNα/βR: Uze, G. et al. (1990) Cell 60, 225-234.及びNovick, D. et al. (1994) Cell 77, 391-400.)。
【0049】
癌抗原は細胞の悪性化に伴って発現する抗原であり、腫瘍特異性抗原とも呼ばれる。又、細胞が癌化した際に細胞表面やタンパク質分子上に現れる異常な糖鎖も癌抗原となり、特に癌糖鎖抗原と呼ばれる。癌抗原の例としては、例えば、CA19-9、CA15-3、シリアルSSEA-1(SLX)などを挙げることができる。
【0050】
MHC抗原には、MHC class I抗原とMHC class II抗原に大別され、MHC class I抗原には、HLA-A,-B,-C,-E,-F,-G,-Hが含まれ、MHC class II抗原には、HLA-DR,-DQ,-DPが含まれる。
【0051】
分化抗原には、CD1、CD2、CD3、CD4、CD5、CD6、CD7、CD8、CD10、CD11a、CD11b、CD11c、CD13、 CD14、CD15s、CD16、CD18、CD19、CD20、CD21、CD23、CD25、CD28、CD29、CD30、CD32、CD33、CD34、CD35、CD38、CD40、CD41a、CD41b、CD42a、CD42b、CD43、CD44、CD45、CD45RO、CD48、CD49a、CD49b、CD49c、CD49d、CD49e、CD49f、CD51、CD54、CD55、CD56、CD57、CD58、CD61、CD62E、CD62L、CD62P、CD64、CD69、CD71、CD73、CD95、CD102、CD106、CD122、CD126、CDw130などが含まれる。
【0052】
b.第1のポリペプチド
第1のポリペプチドは、第1のCH2および第1のCH3のいずれか一方または両方を含む。第1のポリペプチドは、好ましくは、第1のCH3を含む。
一態様において、第1のポリペプチドは、抗体半分子におけるヒンジ領域部分をさらに含んでいてもよい。本態様において、第1のポリペプチドは、抗体半分子におけるFc領域部分を含んでいてもよい。
【0053】
別の態様において、第1のポリペプチドは、抗体半分子におけるCH1をさらに含んでいてもよい。本態様において、第1のポリペプチドは、抗体半分子におけるCLをさらに含んでいてもよい。本態様において、第1のポリペプチドは、抗体半分子における定常領域部分を含んでいてもよい。定常領域部分は、Fc領域部分を含んでいる。
【0054】
第1のポリペプチドを、抗体半分子におけるFc領域部分または定常領域部分を含むものとした場合、当該Fc領域部分または当該定常領域部分に、それらが本来有するエフェクター機能を向上または低下させる改変をさらに加えてもよい。具体的には、FcγRやFcRnやC1qへの結合力を増強または低下させる改変が挙げられるが、これ限りではない。
【0055】
c.その他の部分
第1の抗原結合分子は、上述の第1の抗原結合領域および第1のポリペプチド以外の化合物を有していてもよい。「第1の抗原結合領域と第1のポリペプチド以外の化合物」は、例えば、ペプチド性または非ペプチド性のリンカー、およびその他の化合物などが挙げられる。その他の化合物としては、ペプチド性または非ペプチド性の細胞傷害剤などが挙げられる。
【0056】
2.第2の抗原結合分子
第2の抗原結合分子は、第2の抗原結合領域と第2のポリペプチドとを有する。
【0057】
a.第2の抗原結合領域
第2の抗原結合領域は、第2の抗原に結合する領域である。好ましくは、第2の抗原結合領域は、抗体半分子の可変領域部分またはその第2の抗原結合性断片を含んでいる。第2の抗原結合性断片とは、第2の抗原への結合性を保持した、抗体半分子の可変領域部分の断片を意味する。
【0058】
第2の抗原は、例えば、標的細胞に発現するタンパク質が挙げられる。該タンパク質は、好ましくは対象疾患の原因となっている異常細胞に発現している抗原である。異常細胞に発現している該抗原は、好ましくは膜タンパク質である。該膜タンパク質は、好ましくはその細胞外領域である。
【0059】
第2の抗原は、上述の第1の抗原と同じであってもよく、異なっていてもよい。好ましくは、第1の抗原と第2の抗原とは異なる。第1の抗原と第2の抗原とが異なることにより、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子の組み合わせによる異常細胞への標的特異性が向上される。
好ましくは、第1の抗原および第2の抗原のいずれか一方または両方が異常細胞に発現しているが正常細胞では発現しておらず、より好ましくは、第1の抗原および第2の抗原の両方が異常細胞に発現しているが正常細胞では発現していない。
【0060】
b.第2のポリペプチド
第2のポリペプチドは、第2のCH2および第2のCH3のいずれか一方または両方を含む。第2のポリペプチドは、好ましくは、第2のCH3を含む。
一態様において、第2のポリペプチドは、抗体半分子におけるヒンジ領域部分をさらに含んでいてもよい。本態様において、第2のポリペプチドは、抗体半分子におけるFc領域部分を含んでいてもよい。
【0061】
別の態様において、第2のポリペプチドは、抗体半分子におけるCH1をさらに含んでいてもよい。本態様において、第2のポリペプチドは、抗体半分子におけるCLをさらに含んでいてもよい。本態様において、第2のポリペプチドは、抗体半分子における定常領域部分を含んでいてもよい。定常領域部分は、Fc領域部分を含んでいる。
【0062】
第2のポリペプチドを、抗体半分子におけるFc領域部分または定常領域部分を含むものとした場合、当該Fc領域部分または当該定常領域部分に、それらが本来有するエフェクター機能を向上または低下させる改変をさらに加えてもよい。具体的には、FcγRやFcRnやC1qへの結合力を増強または低下させる改変が挙げられるが、これ限りではない
【0063】
c.その他の部分
第2の抗原結合分子は、上述の第2の抗原結合領域および第2のポリペプチド以外の化合物を有していてもよい。「第2の抗原結合領域と第2のポリペプチド以外の化合物」は、例えば、ペプチド性または非ペプチド性のリンカー、およびその他の化合物などが挙げられる。その他の化合物としては、ペプチド性または非ペプチド性の細胞傷害剤などが挙げられる。
【0064】
3.第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子の関係
第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子は、共有結合によって結合していない。薬学的組成物中で、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子は、共有結合によって結合していない限り相互作用していてもよい。共有結合によらない該相互作用としては、水素結合および分子間結合などが挙げられる。該相互作用の量は、好ましくは少ない。該量が少ないほど、副作用がより低減される。
【0065】
一態様において、表面プラズモン共鳴において測定された第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子の結合量のモル比が、該相互作用の指標として用いられ得る。例えば、表面プラズモン共鳴において1 mm2あたり50 pgの第1の抗原結合分子が固定化されたセンサーチップと2.5 mg/mLの第2の抗原結合分子を含有する測定液とを用いて両抗原結合分子の親和性を測定したときに、該第1の抗原結合分子に対する該第2の抗原結合分子の結合量は、モル比で1:0.1~1:0.9の範囲内にある。
当該モル比は、第2の抗原結合分子の結合量の上限値として、1:0.9以下であればよく、好ましくは1:0.8以下、より好ましくは1:0.7以下、さらに好ましくは1:0.65以下、最も好ましくは1:0.5以下である。当該上限値がより低いほど、第1の抗原および第2の抗原を発現する細胞が存在しない条件下でヘテロ二量体がより形成されにくく、副作用がより低減される。
一方、当該モル比は、第2の抗原結合分子の結合量の下限値として、1:0.1以上であればよく、好ましくは1:0.14以上、より好ましくは1:0.17以上、さらに好ましくは1:0.2以上、最も好ましくは1:0.23以上である。当該下限値がより高いほど、第1の抗原および第2の抗原を発現する細胞の表面で第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子のヘテロ二量体が形成されやすくなり、そしてエフェクター機能がより高くなる。
【0066】
表面プラズモン共鳴に用いられる装置としては、例えば、Biacore(登録商標) T200(GEヘルスケア)などが挙げられる。
表面プラズモン共鳴による測定において用いられる測定液としては、例えば、HBS-EP+10X(GEヘルスケア)が使用される。HBS-EP+10Xは10倍の濃度にされた測定液であるから、使用時には10分の1に希釈して使用される。使用時の測定液の具体的な組成は、0.01MのHEPES、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、0.05% (v/v)のSurfactantP20、pH 7.4である。測定時の測定液の好ましい温度は25℃である。
【0067】
一態様において、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子は、液中で混合した場合にホモ二量体よりもヘテロ二量体を形成しやすい。該態様における「ホモ二量体」は、第1の抗原結合分子と第1の抗原結合分子との、共有結合によらない相互作用により形成された二量体、または、第2の抗原結合分子と第2の抗原結合分子との、共有結合によらない相互作用による二量体である。また、「ヘテロ二量体」は、第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子との、共有結合によらない相互作用により形成された二量体である。相互作用としては、水素結合、分子間結合などが挙げられる。
副作用を低減する観点から、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子は、好ましくは、液中で相互作用しにくい。しかしながら、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子の間の該相互作用は平衡状態にあるため、薬学的組成物中における対象への投与に適した濃度以上に、液中で第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子の濃度を高めた場合、該相互作用が生じる可能性がある。その場合において、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子の濃度を高くすればするほど、相互作用する第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子の量は増加する。
【0068】
液中で混合した場合にホモ二量体よりもヘテロ二量体を形成しやすい第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子の具体的な態様としては、第1のポリペプチドが第1のCH3を含み、第2のポリペプチドが第2のCH3を含み、第1のCH3および第2のCH3が、液中で混合した場合にホモ二量体よりもヘテロ二量体を形成しやすくする改変としては、以下の(i)から(iii)の少なくとも一の改変が挙げられる。
(i)前記第1のCH3および前記第2のCH3のいずれか一方が正電荷の領域を有し、他方が負電荷の領域を有し、前記ヘテロ二量体が形成される際に前記正電荷の領域が前記負電荷の領域に相互作用する、改変
(ii)前記第1のCH3および前記第2のCH3のいずれか一方が凸部を有し、他方が凹部を有し、前記ヘテロ二量体が形成される際に前記凸部が前記凹部に嵌合して相互作用する、改変
(iii)前記第1のCH3および前記第2のCH3が改変されたIgGのCH3であり、前記改変されたIgGのCH3はその一部がIgAのCH3の一部と置き換えられており、前記ヘテロ二量体が形成される際に前記第1のCH3に置き換えられた前記IgAのCH3の一部と前記第2のCH3に置き換えられた前記IgAのCH3の一部とが相互作用する、改変
【0069】
該(i)の改変としては、例えば、国際公開第2006/106905号、国際公開第2009/089004号、国際公開第2010/129304号、国際公開第2014/084607号に開示されているものが挙げられる。具体的な方法の一例としては、例えば第1の抗原結合活性を有するポリペプチドの重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリングシステムでの356位と439位、357位と370位、及び、399位と409位の組み合わせのうち、少なくとも1つの組み合わせを同一の電荷を有するアミノ酸に改変すること、第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドの重鎖定常領域のEUナンバリングシステムでの356位と439位、357位と370位、及び、399位と409位の組み合わせのうち、少なくとも1つの組み合わせを第1の抗原結合活性を有するポリペプチドとは反対の電荷を有するアミノ酸に改変することが挙げられる。より具体的には、例えば、第1の抗原結合活性を有するポリペプチドと第2の抗原結合活性を有するポリペプチドの重鎖定常領域のアミノ酸配列において、いずれか一方のポリペプチドにEUナンバリングシステムでの356位のGluをLysに置換する変異を導入し、他方のポリペプチドにEUナンバリングシステムでの439位のLysをGluに置換する変異を導入することが挙げられる。
【0070】
該(ii)の改変としては、例えば、国際公開第96/027011号やMargaret Merchant et al., Nature Biotechnology 1998, 16, 677-681に開示されているものが挙げられる。具体的な方法の一例としては、CH3にT366Y,もう一方のCH3にY407Aを導入する組み合わせ、あるいは一方のCH3にT366W、もう一方のCH3にY407Aを導入する組み合わせ、あるいは一方のCH3にF405A、もう一方のCH3にT394Wを導入する組み合わせ、あるいは一方のCH3にY407T、もう一方のCH3にT366Yを導入する組み合わせ、あるいは一方のCH3にT366Y/F405A、もう一方のCH3にT394W/Y407Tを導入する組み合わせ、あるいは一方のCH3にT366W/F405W、もう一方のCH3にT394S/Y407Aを導入する組み合わせ、あるいは一方のCH3にF405W/Y407A、もう一方のCH3にT366W/T394Sを導入する組み合わせ、あるいは一方のCH3にF405W、もう一方のCH3にT394Sを導入する組み合わせ、あるいは一方のCH3にT366W、もう一方のCH3にT366S/L368A/Y407Vを導入する組み合わせ、が挙げられる。該(ii)の改変は該(i)の改変と組み合わせることも可能である。このような組み合わせとしては、例えば、国際公開第2012/058768号に開示されているものが挙げられる。
【0071】
該(iii)の改変は、抗体の一方のH鎖のCH3の一部をその部分に対応するIgA由来の配列にし、もう一方のH鎖のCH3の相補的な部分にその部分に対応するIgA由来の配列を導入したstrand-exchange engineered domain CH3を用いることで、異なる配列を有するポリペプチドの相互作用をCH3の相補的な相互作用によって効率的に引き起こす技術である (Protein Engineering Design & Selection, 23; 195-202, 2010)。この公知技術を使っても効率的にヘテロ二量体を形成しやすくできる。(iii)の改変としては、例えば、国際公開第2007/110205号に開示される改変技術が挙げられる。
【0072】
液中で混合した場合にホモ二量体よりもヘテロ二量体を形成しやすい第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子の別の具体的な態様としては、ヒンジ領域部分に加える改変を適用してもよい。このような改変としては、例えば、国際公開第2011/143545号に開示される改変技術が挙げられる。
【0073】
第1のCH3および第2のCH3のいずれか一方または両方は、好ましくはEUナンバリングシステムでの357位、397位および409位のアミノ酸残基のうち少なくとも一つの他のアミノ酸残基への置換を有する。このような改変を加えることにより、上述の表面プラズモン共鳴において1 mm2あたり50 pgの第1の抗原結合分子が固定化されたセンサーチップと2.5 mg/mLの第2の抗原結合分子を含有する測定液とを用いて両抗原結合分子の親和性を測定したときに、該第1の抗原結合分子に対する該第2の抗原結合分子の結合量を、上述のモル比の範囲内に設定しやすくなる。
【0074】
一態様において、第1の抗原および第2の抗原を発現する細胞が存在する条件下でのヘテロ二量体の形成量が、当該細胞が存在しない条件下におけるよりも多いことが好ましい。
当該細胞が存在しない条件下には、第1の抗原および第2の抗原を発現する細胞が存在しないが、第2の抗原を発現せず第1の抗原を発現する細胞または第1の抗原を発現せず第2の抗原を発現する細胞が存在する条件下が包含される。すなわち、「第1の抗原および第2の抗原を発現する細胞が存在する条件下でのヘテロ二量体の形成量が、細胞が存在しない条件下におけるよりも多い」には、薬学的組成物を生体内に投与したときに、第1の抗原および第2の抗原を発現する細胞の表面でのヘテロ二量体の形成量が、第2の抗原を発現せず第1の抗原を発現する細胞または第1の抗原を発現せず第2の抗原を発現する細胞の表面でのヘテロ二量体の形成量よりも多いことが包含される。
【0075】
一態様において、第1の抗原および第2の抗原を発現する細胞表面でヘテロ二量体を形成した場合における当該ヘテロ二量体のFcγRへの結合活性は、第1の抗原結合分子の単量体もしくは第2の抗原結合分子の単量体のFcγRへの結合活性、またはホモ二量体を形成した場合におけるホモ二量体のFcγRへの結合活性よりも高い。これは、例えば、薬学的組成物を第1の抗原および第2の抗原を発現する細胞を有する対象に投与したときに、該細胞表面に到達した第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子によって形成されたヘテロ二量体が、該細胞表面に単に結合した単量体または該細胞表面に形成されたホモ二量体比べて高いFcγRの活性化を導き、エフェクター機能を奏することを意味する。これにより、副作用がさらに低減される。
本態様においてFcγRは、たとえば、げっ歯類および霊長類のFcγRが挙げられ、これらのうちいずれか一のFcγRでよい。本態様においてFcγRは、好ましくはげっ歯類および霊長類のFcγRである。げっ歯類は好ましくはマウスおよびラットである。霊長類は好ましくはカニクイザルおよびヒトである。本態様においてFcγRは、ヒトFcγRと、これと構造的に相同性があり、同様の機能的を有するげっ歯類およびヒト以外の霊長類のホモログが挙げられる。
本態様におけるFcγRのサブクラスとしては、ヒトFcγRI、ヒトFcγRIIおよびヒトFcγRIII、ならびにこれらのげっ歯類およびヒト以外の霊長類のホモログが挙げられる。これらの中でも、FcγRは、好ましくはヒトFcγRIIもしくはヒトFcγRIII、またはこれらのげっ歯類およびヒト以外の霊長類のホモログであり、より好ましくはヒトFcγRIIIまたはこのげっ歯類およびヒト以外の霊長類のホモログである。ヒトFcγRは、好ましくはヒトFcγRIIまたはヒトFcγRIIIであり、より好ましくはヒトFcγRIIIである。
本態様におけるヒトFcγRIIは、さらにヒトFcγRIIA、ヒトFcγRIIBおよびヒトFcγRIICに分けられる。これらの中でも、ヒトFcγRIIは、好ましくはヒトFcγRIIBである。ヒトFcγRIIIは、さらにヒトFcγRIIIAおよびヒトFcγRIIIBに分けられる。これらの中でも、ヒトFcγRIIIは、好ましくはヒトFcγRIIIAである。
【0076】
一態様において、第1の抗原および第2の抗原を発現する細胞が存在する条件下でのエフェクター機能が、第2の抗原を発現せず第1の抗原を発現する細胞または第1の抗原を発現せず第2の抗原を発現する細胞が存在する条件下よりも高い。これにより、副作用がさらに低減される。
エフェクター機能は、好ましくはADCCおよびCDCであり、より好ましくはADCCである。
【0077】
一態様において、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドのいずれか一方または両方が抗体半分子におけるヒンジ領域部分を含む場合、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドのいずれか一方または両方におけるヒンジ領域部分は、EUナンバリングシステムでの226位および229位のいずれか一方または両方のシステイン残基における他のアミノ酸残基への置換を有している。該態様において、好ましくは、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドの両方におけるヒンジ領域部分が、EUナンバリングシステムでの226位および229位のいずれか一方または両方のシステイン残基における他のアミノ酸残基への置換を有している、または、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドのいずれか一方または両方におけるヒンジ領域部分が、EUナンバリングシステムでの226位および229位の両方のシステイン残基における他のアミノ酸残基への置換を有している。さらに好ましくは、第1のポリペプチドおよび第2のポリペプチドの両方におけるヒンジ領域部分が、EUナンバリングシステムでの226位および229位の両方のシステイン残基における他のアミノ酸残基への置換を有している。該置換によりH鎖間のジスルフィド結合を抑えることができるため、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子が共有結合によって結合しないものとしやすくなる。
該態様において、より好ましくは、EUナンバリングシステムでの226位および229位のいずれか一方または両方のシステイン残基における他のアミノ酸残基への置換に、上述の第1のCH3および第2のCH3のいずれか一方または両方の、EUナンバリングシステムでの357位、397位および409位のアミノ酸残基のうち少なくとも一つにおける他のアミノ酸残基への置換が組み合わせられる。これらの改変の組み合わせにより、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子は、共有結合によって結合していないものとなり、さらに液中で混合した場合にホモ二量体よりもヘテロ二量体を形成しやすいものとなる。
【0078】
4.その他の成分
薬学的組成物は、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子以外にその他の成分を含有していてもよい。
その他の成分としては、例えば、薬学的に許容される担体が挙げられる。
【0079】
薬学的組成物は、当業者に公知の方法で製剤化することが可能である。例えば、水もしくはそれ以外の薬学的に許容し得る液との無菌性溶液、又は懸濁液剤の注射剤の形で非経口的に使用できる。例えば、薬理学上許容される担体もしくは媒体、具体的には、滅菌水や生理食塩水、植物油、乳化剤、懸濁剤、界面活性剤、安定剤、香味剤、賦形剤、ベヒクル、防腐剤、結合剤などと適宜組み合わせて、一般に認められた製薬実施に要求される単位用量形態で混和することによって製剤化することが考えられる。これら製剤における有効成分量は、指示された範囲の適当な容量が得られるように設定する。
【0080】
注射のための無菌組成物は注射用蒸留水のようなベヒクルを用いて通常の製剤実施に従って処方することができる。
【0081】
注射用の水溶液としては、例えば生理食塩水、ブドウ糖やその他の補助薬(例えばD-ソルビトール、D-マンノース、D-マンニトール、塩化ナトリウム)を含む等張液が挙げられる。適当な溶解補助剤、例えばアルコール(エタノール等)、ポリアルコール(プロピレングリコール、ポリエチレングリコール等)、非イオン性界面活性剤(ポリソルベート80(TM)、HCO-50等)を併用してもよい。
【0082】
油性液としてはゴマ油、大豆油があげられ、溶解補助剤として安息香酸ベンジル及び/またはベンジルアルコールを併用してもよい。また、緩衝剤(例えば、リン酸塩緩衝液及び酢酸ナトリウム緩衝液)、無痛化剤(例えば、塩酸プロカイン)、安定剤(例えば、ベンジルアルコール及びフェノール)、酸化防止剤と配合してもよい。調製された注射液は通常、適当なアンプルに充填する。
【0083】
一態様として、薬学的組成物の対象疾患が細胞増殖性疾患のうち悪性腫瘍の場合、好ましくは第1の抗原および第2の抗原はいずれも癌抗原であり、薬学的組成物は他の成分として細胞傷害剤を含有する。細胞傷害剤は、上記で例示したもの以外に免疫チェックポイント阻害剤なども包含する。
【0084】
5.剤形
薬学的組成物は、好ましくは非経口投与により投与される。例えば、注射剤型、経鼻投与剤型、経肺投与剤型、経皮投与型の組成物とすることができる。例えば、静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射などにより全身または局部的に投与することができる。
第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子は、同じ剤に調剤されてもよく、別々の剤に調剤されてもよい。薬学的組成物が他の成分として細胞傷害剤を含有する場合、細胞傷害剤は第1の抗原結合分子または第2の抗原結合分子と同じ剤に調剤されてもよく、別々の剤に調剤されてもよい。別々の剤に調剤された場合には投与するタイミングを含有成分ごとに決定され得る。
【0085】
6.対象疾患
薬学的組成物の対象疾患は、特に限定されないが、好ましくは第1の抗原および第2の抗原を発現する病原細胞に起因する疾患である。すなわち、該疾患は、第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子が細胞表面でヘテロ二量体を形成し、エフェクター機能を発揮させることが望ましい疾患である。
具体的な対象疾患としては、例えば、細胞増殖性疾患、免疫亢進性疾患、感染性疾患などが挙げられる。細胞増殖性疾患としては、腫瘍が挙げられる。免疫亢進性疾患としては、自己免疫疾患が挙げられる。感染性疾患としては、細菌感染およびウイルス感染が挙げられる。
【0086】
7.製造方法
第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子は、タンパク質を得るための一般的な方法により製造される。抗原結合分子は、通常、これらをコードする核酸を用いて、宿主細胞に発現させて得られる。宿主細胞で発現した抗原結合分子は、通常、宿主細胞から回収され、精製される。第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子は、宿主細胞に共発現させて得てもよく、別々の宿主細胞に発現させて得てもよい。以下、具体的な製造方法について述べる。
【0087】
核酸は、通常、適当なベクターへ担持(挿入)され、宿主細胞へ導入される。該ベクターとしては、挿入した核酸を安定に保持するものであれば特に制限されず、例えば宿主に大腸菌を用いるのであれば、クローニング用ベクターとしてはpBluescriptベクター(Stratagene社製)などが好ましいが、市販の種々のベクターを利用することができる。抗原結合分子を生産する目的においてベクターを用いる場合には、特に発現ベクターが有用である。発現ベクターとしては、試験管内、大腸菌内、培養細胞内、生物個体内でポリペプチドを発現するベクターであれば特に制限されないが、例えば、試験管内発現であればpBESTベクター(プロメガ社製)、大腸菌であればpETベクター(Invitrogen社製)、培養細胞であればpME18S-FL3ベクター(GenBank Accession No. AB009864)、生物個体であればpME18Sベクター(Mol Cell Biol. 8:466-472(1988))などが好ましい。ベクターへの本発明のDNAの挿入は、常法により、例えば、制限酵素サイトを用いたリガーゼ反応により行うことができる(Current protocols in Molecular Biologyedit. Ausubel et al. (1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 11.4-11.11)。
【0088】
上記宿主細胞としては特に制限はなく、目的に応じて種々の宿主細胞が用いられる。抗原結合分子を発現させるための細胞としては、例えば、細菌細胞(例:ストレプトコッカス、スタフィロコッカス、大腸菌、ストレプトミセス、枯草菌)、真菌細胞(例:酵母、アスペルギルス)、昆虫細胞(例:ドロソフィラS2、スポドプテラSF9)、動物細胞(例:CHO、COS、HeLa、C127、3T3、BHK、HEK293、Bowes メラノーマ細胞)および植物細胞を例示することができる。宿主細胞へのベクター導入は、例えば、リン酸カルシウム沈殿法、電気パルス穿孔法(Current protocols in Molecular Biology edit. Ausubel et al.(1987) Publish. John Wiley & Sons.Section 9.1-9.9)、リポフェクタミン法(GIBCOBRL社製)、マイクロインジェクション法などの公知の方法で行うことが可能である。
【0089】
宿主細胞において発現した抗原結合分子を小胞体の内腔に、細胞周辺腔に、または細胞外の環境に分泌させるために、適当な分泌シグナルを目的の抗原結合分子に組み込むことができる。これらのシグナルは目的の抗原結合分子に対して内因性であっても、異種シグナルであってもよい。
【0090】
上記製造方法における抗原結合分子の回収は、抗原結合分子が培地に分泌される場合は、培地を回収する。抗原結合分子が細胞内に産生される場合は、その細胞をまず溶解し、その後に抗原結合分子を回収する。
【0091】
組換え細胞培養物から抗原結合分子を回収し精製するには、硫酸アンモニウムまたはエタノール沈殿、酸抽出、アニオンまたはカチオン交換クロマトグラフィー、ホスホセルロースクロマトグラフィー、疎水性相互作用クロマトグラフィー、アフィニティクロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィーおよびレクチンクロマトグラフィーを含めた公知の方法を用いることができる。
【0092】
H鎖間がジスルフィド結合などの共有結合によって結合する二重特異性抗体の製造においては、多くの場合、所望でないH鎖およびL鎖が組み合わせられた抗原結合分子を排除するための精製工程が必要となる。一方、本発明の第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子の製造においては、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子間が共有結合していないため、そのような精製工程を省略できる。例えば、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子を宿主細胞に共発現させた場合、培地または細胞溶解物から、各種クロマトグラフィーにより第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子が存在する画分を採取してくるのみでよい。第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子を別々の宿主細胞に発現させた場合、培地や細胞溶解物を混合してから抗原結合分子を精製してもよく、培地または細胞溶解物から第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子を別々に精製した後に混合してもよい。所望でないH鎖およびL鎖が組み合わせられた抗原結合分子を排除するための精製工程の手間と該工程中で排除される抗原結合分子の無駄を減らす観点から、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子を別々の宿主細胞に発現させることが好ましい。
【0093】
薬学的組成物を対象に投与する直前に、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子を混合し調製する場合、または、後述する第1の抗原結合分子を含有するが第2の抗原結合分子を含有しない第1の薬学的組成物および第2 の抗原結合分子を含有するが第1 の抗原結合分子を含有しない第3 の薬学的組成物を逐次投与する場合には、好ましくは、第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子を別々の細胞に発現させて、精製し、第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子を別々に含有する薬学的組成物を製造する。
【0094】
C.抗原結合分子および薬学的組成物の別の態様
1.第1の抗原結合分子の別の態様
第1の抗原結合分子の別の具体的な態様としては、例えば、第1の抗原に結合する第1の抗原結合領域と、第1のCH2および第1のCH3のいずれか一方または両方を含む第1のポリペプチドとを有する第1の抗原結合分子であって、第2の抗原に結合する第2の抗原結合領域と、第2のCH2および第2のCH3のいずれか一方または両方を含む第2のポリペプチドとを有する第2の抗原結合分子と液中で混合した場合に前記第1の抗原結合分子間のホモ二量体よりも前記第2の抗原結合分子とのヘテロ二量体を形成しやすく、前記ヘテロ二量体において、前記第1の抗原結合分子と前記第2の抗原結合分子とは共有結合によって結合していない、第1の抗原結合分子、が挙げられる。
本態様において、第1の抗原結合領域、第1のポリペプチド、およびこれら以外のその他の部分は、「1.第1の抗原結合分子」で述べたものと同じである。第2の抗原結合領域、第2のポリペプチド、およびこれら以外のその他の部分は、「2.第2の抗原結合分子」で述べたものと同じである。第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子との関係は、「3.第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子の関係」で述べたものと同じである。
【0095】
本態様における第1の抗原結合分子は、これを含有するが、第2の抗原結合分子を含有しない第1の薬学的組成物として製造することができる。この場合、第2の抗原結合分子を含有する第2の薬学的組成物が別に製造される。第2の薬学的組成物は、第1の抗原結合分子を含有していても含有していなくてもよい。第2の薬学的組成物は、同一事業所内で製造されても製造されなくてもよい。これら第1の薬学的組成物と第2の薬学的組成物は、対象に対して組み合わせて使用される。
本態様において、第1の薬学的組成物は、第2の抗原結合分子を含有しない以外は、上述の「1.第1の抗原結合分子」、「2.第2の抗原結合分子」、「3.第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子の関係」、「4.その他の成分」、「5.剤形」、「6.対象疾患」および「7.製造方法」と同じである。
【0096】
2.第2抗原結合分子の別の態様
第2の抗原結合分子の別の具体的な態様としては、例えば、第2の抗原に結合する第2の抗原結合領域と、第2のCH2および第2のCH3のいずれか一方または両方を含む第2のポリペプチドとを有する第2の抗原結合分子であって、第1の抗原に結合する第1の抗原結合領域と、第1のCH2および第1のCH3のいずれか一方または両方を含む第1のポリペプチドとを有する第1の抗原結合分子と液中で混合した場合に前記第2の抗原結合分子間のホモ二量体よりも前記第1の抗原結合分子とのヘテロ二量体を形成しやすく、前記ヘテロ二量体において、前記第1の抗原結合分子と前記第2の抗原結合分子とは共有結合によって結合していない、第2の抗原結合分子、が挙げられる。
本態様において、第1の抗原結合領域、第1のポリペプチド、およびこれら以外のその他の部分は、「1.第1の抗原結合分子」で述べたものと同じである。第2の抗原結合領域、第2のポリペプチド、およびこれら以外のその他の部分は、「2.第2の抗原結合分子」で述べたものと同じである。第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子との関係は、「3.第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子の関係」で述べたものと同じである。
【0097】
本態様における第2 の抗原結合分子は、これを含有するが、第1 の抗原結合分子を含有しない第3 の薬学的組成物として製造することができる。この場合、第1の抗原結合分子を含有する第4の薬学的組成物が別に製造される。第4の薬学的組成物は、第1の抗原結合分子を含有していても含有していなくてもよい。これら第3の薬学的組成物と第4の薬学的組成物は組み合わせて使用される。
本態様において、第3の薬学的組成物は、第1の抗原結合分子を含有しない以外は、上述の「1.第1の抗原結合分子」、「2.第2の抗原結合分子」、「3.第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子の関係」、「4.その他の成分」、「5.剤形」、「6.対象疾患」および「7.製造方法」と同じである。
【0098】
3.薬学的組成物の別の態様
薬学的組成物の別の具体的な態様としては、例えば、第1の抗原に結合する第1の抗原結合領域と、第1のCH3を含む第1のポリペプチドとを有する第1の抗原結合分子、および第2の抗原に結合する第2の抗原結合領域と、第2のCH3を含む第2のポリペプチドとを有する第2の抗原結合分子を含有し、前記第1の抗原結合分子および前記第2の抗原結合分子が、共有結合によって結合しておらず、前記第1のCH3および前記第2のCH3が以下の(iv)から(vi)の少なくとも一の改変を有する、薬学的組成物、が挙げられる。
(iv)前記第1のCH3および前記第2のCH3のいずれか一方が正電荷の領域を有し、他方が負電荷の領域を有し、前記ヘテロ二量体が形成される際に前記正電荷の領域が前記負電荷の領域に相互作用する、改変
(v)前記第1のCH3および前記第2のCH3のいずれか一方が凸部を有し、他方が凹部を有し、前記ヘテロ二量体が形成される際に前記凸部が前記凹部に嵌合して相互作用する、改変
(vi)前記第1のCH3および前記第2のCH3が改変されたIgGのCH3であり、前記改変されたIgGのCH3はその一部がIgAのCH3の一部と置き換えられており、前記ヘテロ二量体が形成される際に前記第1のCH3に置き換えられた前記IgAのCH3の一部と前記第2のCH3に置き換えられた前記IgAのCH3の一部とが相互作用する、改変
【0099】
本態様において、第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子は、上述の「1.第1の抗原結合分子」および「2.第2の抗原結合分子」と同じである。本態様の薬学的組成物の詳細は、上述の「4.その他の成分」、「5.剤形」、「6.対象疾患」および「7.製造方法」と同じである。
【0100】
上記(iv)の改変としては、例えば、国際公開第2006/106905号、国際公開第2009/089004号、国際公開第2010/129304号、国際公開第2014/084607号に開示されているものが挙げられる。具体的な方法の一例としては、例えば第1の抗原結合活性を有するポリペプチドの重鎖定常領域のアミノ酸配列におけるEUナンバリングシステムでの356位と439位、357位と370位、及び、399位と409位の組み合わせのうち、少なくとも1つの組み合わせを同一の電荷を有するアミノ酸に改変すること、第2の抗原結合活性を有する又は抗原結合活性を有しないポリペプチドの重鎖定常領域のEUナンバリングシステムでの356位と439位、357位と370位、及び、399位と409位の組み合わせのうち、少なくとも1つの組み合わせを第1の抗原結合活性を有するポリペプチドとは反対の電荷を有するアミノ酸に改変することが挙げられる。より具体的には、例えば、第1の抗原結合活性を有するポリペプチドと第2の抗原結合活性を有するポリペプチドの重鎖定常領域のアミノ酸配列において、いずれか一方のポリペプチドにEUナンバリングシステムでの356位のGluをLysに置換する変異を導入し、他方のポリペプチドにEUナンバリングシステムでの439位のLysをGluに置換する変異を導入することが挙げられる。
【0101】
該(v)の改変としては、例えば、国際公開第96/027011号やMargaret Merchant et al., Nature Biotechnology 1998, 16, 677-681に開示されているものが挙げられる。具体的な方法の一例としては、CH3にT366Y,もう一方のCH3にY407Aを導入する組み合わせ、あるいは一方のCH3にT366W、もう一方のCH3にY407Aを導入する組み合わせ、あるいは一方のCH3にF405A、もう一方のCH3にT394Wを導入する組み合わせ、あるいは一方のCH3にY407T、もう一方のCH3にT366Yを導入する組み合わせ、あるいは一方のCH3にT366Y/F405A、もう一方のCH3にT394W/Y407Tを導入する組み合わせ、あるいは一方のCH3にT366W/F405W、もう一方のCH3にT394S/Y407Aを導入する組み合わせ、あるいは一方のCH3にF405W/Y407A、もう一方のCH3にT366W/T394Sを導入する組み合わせ、あるいは一方のCH3にF405W、もう一方のCH3にT394Sを導入する組み合わせ、あるいは一方のCH3にT366W、もう一方のCH3にT366S/L368A/Y407Vを導入する組み合わせ、が挙げられる。該(v)の改変は該(iv)の改変と組み合わせることも可能である。このような組み合わせとしては、例えば、国際公開第2012/058768号に開示されているものが挙げられる。
【0102】
該(vi)の改変は、抗体の一方のH鎖のCH3の一部をその部分に対応するIgA由来の配列にし、もう一方のH鎖のCH3の相補的な部分にその部分に対応するIgA由来の配列を導入したstrand-exchange engineered domain CH3を用いることで、異なる配列を有するポリペプチドの相互作用をCH3の相補的な相互作用によって効率的に引き起こす技術である (Protein Engineering Design & Selection, 23; 195-202, 2010)。この公知技術を使っても効率的にヘテロ二量体を形成しやすくできる。(vi)の改変としては、例えば、国際公開第2007/110205号に開示される改変技術が挙げられる。
【0103】
液中で混合した場合にホモ二量体よりもヘテロ二量体を形成しやすい第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子の別の具体的な態様としては、ヒンジ領域部分に加える改変を適用してもよい。このような改変としては、例えば、国際公開第2011/143545号に開示される改変技術が挙げられる。
【0104】
第1のCH3および第2のCH3のいずれか一方または両方は、好ましくはEUナンバリングシステムでの357位、397位および409位のアミノ酸残基のうち少なくとも一つの他のアミノ酸残基への置換を有する。このような改変を加えることにより、上述の表面プラズモン共鳴において1 mm2あたり50 pgの第1の抗原結合分子が固定化されたセンサーチップと2.5 mg/mLの第2の抗原結合分子を含有する測定液とを用いて両抗原結合分子の親和性を測定したときに、該第1の抗原結合分子に対する該第2の抗原結合分子の結合量を、上述のモル比の範囲内に設定しやすくなる。
【0105】
D.治療方法
一局面において、本発明は、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子を、対象に同時投与または逐次投与することを含む治療方法を提供する。該治療方法に適した対象は、第1の抗原および第2の抗原を発現する病原細胞に起因する疾患を有する。
第1の抗原結合分子は、上述の「B.薬学的組成物」の「1.第1の抗原結合分子」、または「C.抗原結合分子および薬学的組成物の別の態様」の「1.第1の抗原結合分子の別の態様」におけるものと同じである。
第2の抗原結合分子は、上述の「B.薬学的組成物」の「2.第2の抗原結合分子」、または「C.抗原結合分子および薬学的組成物の別の態様」の「2.第2の抗原結合分子の別の態様」におけるものと同じである。
第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子は、投与前および投与後に共有結合によって結合しないが、第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子が病原細胞の表面でヘテロ二量体を形成してエフェクター機能を奏する。
【0106】
同時投与は、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子を含有する薬学的組成物の投与、ならびに、第1の抗原結合分子を含有するが第2の抗原結合分子を含有しない第1の薬学的組成物および第2 の抗原結合分子を含有するが第1 の抗原結合分子を含有しない第3 の薬学的組成物の同時投与を包含する。
逐次投与は、第1の抗原結合分子を含有するが第2の抗原結合分子を含有しない第1の薬学的組成物と、第2 の抗原結合分子を含有するが第1 の抗原結合分子を含有しない第3 の薬学的組成物が、時間をずらして投与される。第1の薬学的組成物と第2の薬学的組成物の投与間隔は、投与後に第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子が病原細胞の表面でヘテロ二量体を形成してエフェクター機能を奏する範囲内に設定される。
「同時投与または逐次投与」は、同時投与と逐次投与の組み合わせを包含する。
【0107】
投与方法は、患者の年齢、症状により適宜選択することができる。抗体または抗体をコードするポリヌクレオチドを含有する医薬組成物の投与量は、例えば、一回につき体重1kgあたり0.0001mgから1000mgの範囲に設定することが可能である。または、例えば、患者あたり0.001~100000mgの投与量とすることもできるが、本発明はこれらの数値に必ずしも制限されるものではない。投与量及び投与方法は、患者の体重、年齢、症状などにより変動するが、当業者であればそれらの条件を考慮し適当な投与量及び投与方法を設定することが可能である。
【0108】
E.スクリーニング方法
一局面において、本発明は、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子の組み合わせを選択するスクリーニング方法を提供する。該スクリーニング方法は、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子の組み合わせを選択する方法である。
該組み合わせは、第1の抗原結合分子の改変体群および第2の抗原結合分子の改変体群から選択される。
【0109】
第1の抗原結合分子の改変体群は、第1の抗原に結合する第1の抗原結合領域と、第1のCH2および第1のCH3のいずれか一方または両方を含む第1のポリペプチドとを有する、抗原結合分子の改変体の集合体である。
第21の抗原結合分子の改変体群は、第2の抗原に結合する第2の抗原結合領域と、第2のCH2および第2のCH3のいずれか一方または両方を含む第2のポリペプチドとを有する、抗原結合分子の改変体の集合体である。
【0110】
第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子の組み合わせは、これらの集合体から以下の(a)から(c)のいずれも満たすものとして選択される。
(a)第1の抗原結合分子と第2の抗原結合分子が、共有結合によって結合しない。
(b)第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子が、第1の抗原結合分子間または第2の抗原結合分子間のホモ二量体よりも、第1の抗原結合分子および第2の抗原結合分子の間のヘテロ二量体を形成しやすい。
(c)表面プラズモン共鳴において1 mm2あたり50 pgの第1の抗原結合分子が固定化されたセンサーチップと2.5 mg/mLの第2の抗原結合分子を含有する測定液とを用いて両抗原結合分子の親和性を測定したときに、当該第1の抗原結合分子に対する当該第2の抗原結合分子の結合量がモル比で1:0.1~1:0.9の範囲内にある。
【0111】
(a)(b)の選択方法としては、例えば、分子サイズに基づいた分画する手法が採用される。具体的な手法としては、サイズ排除クロマトグラフィーが挙げられる。
(c)の選択方法としては、例えば、表面プラズモン共鳴を用いた結果から算定された上記モル比が上記範囲内であるか否かにより行われる。
【実施例】
【0112】
[試験例1]抗体半分子の発現ベクターの作製および抗体半分子の発現と精製
アミノ酸置換の導入はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)、PCRまたはIn fusion Advantage PCR cloning kit (TAKARA)等を用いて当業者公知の方法で行い、発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。作製したプラスミドをヒト胎児腎癌細胞由来HEK293H株(Invitrogen)、またはFreeStyle293細胞(Invitrogen社)に、一過性に導入し、抗体半分子の発現を行った。得られた培養上清から、rProtein A Sepharose(登録商標) Fast Flow(GEヘルスケア)を用いて当業者公知の方法で、抗体半分子を精製した。精製抗体半分子濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定し、得られた値からPACE法により算出された吸光係数を用いて抗体半分子濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。
【0113】
[試験例2]抗体半分子の分子量の分析
得られた抗体半分子の分子量をHPLCであるAgilent 1260 Infinity(登録商標)(Agilent Technologies)、カラムにはG3000SWXL(TOSOH)を用いて当業者公知の方法で分析した。抗体半分子タンパク質濃度は0.25mg/mLとして、80 μLのインジェクションを行った。
【0114】
[試験例3]FcγRの調製とFcγRに対する結合活性の評価
FcγRの細胞外ドメインを以下の方法で調製した。まずFcγRの細胞外ドメインの遺伝子の合成を当業者公知の方法で実施した。その際、FcγRIIIaについては多型が知られているが、多型部位についてはJ. Clin. Invest., 1997, 100 (5): 1059-1070を参考にして作製した。
【0115】
得られた遺伝子断片を動物細胞発現ベクターに挿入し、発現ベクターを作製した。作製した発現ベクターをヒト胎児腎癌細胞由来FreeStyle293細胞(Invitrogen社)に、一過性に導入し、目的タンパク質を発現させた。培養し、得られた培養上清を回収した後、0.22μmフィルターを通して培養上清を得た。得られた培養上清は原則として次の4ステップで精製した。第1ステップは陽イオン交換カラムクロマトグラフィー(SP Sepharose(登録商標) FF)、第2ステップはHisタグに対するアフィニティカラムクロマトグラフィー(HisTrap HP)、第3ステップはゲルろ過カラムクロマトグラフィー(Superdex(登録商標)200)、第4ステップは無菌ろ過、を実施した。精製したタンパク質については分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定し、得られた値からPACE等の方法により算出された吸光係数を用いて精製タンパク質の濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。
Biacore(登録商標) T200を用いて、目的の抗体半分子とFcγRとの相互作用解析を行った。測定にはBiotin CAPture Kit, Series S(GEヘルスケア)、ランニングバッファーにはHBS-EP+10X (GE ヘルスケア)を10分の1に希釈して用い、測定温度は25℃とした。センサーチップにはSeries S Sencor Chip CAP(GEヘルスケア)に予めビオチン化しておいた抗原ペプチドを相互作用させ固定化したチップを用いた。これらのチップへ目的の抗体半分子をキャプチャーさせ、ランニングバッファーで希釈したFcγRを相互作用させた。チップにキャプチャーした抗原と抗体半分子はKitに付属の説明書の通りに洗浄し、チップを再生して繰り返し用いた。
【0116】
抗体半分子のFcγRに対する結合活性は主にFcγRに対する結合活性およびFcγRに対する解離定数を指標として評価した。
【0117】
各抗体半分子のFcγRに対する解離定数は、Biacore(登録商標)の測定結果に対して速度論的解析を実施することで算出した。具体的には、Biacore(登録商標) Evaluation Softwareにより測定して得られたセンサーグラムを1:1 Langmuir binding modelでglobal fittingさせることで結合速度定数ka (L/mol/s)、解離速度定数kd(1/s)を算出し、その値から解離定数KD (mol/L) を算出した。
【0118】
[試験例4]FcγRIIIa-V158 Jurkat cells(Promega)をエフェクター細胞として用いた各被験抗体半分子のADCC活性の測定
FcγRIIIa-V158 Jurkat cells(以下、Jurkat cellsと指称する。)をエフェクター細胞として用いて各被験抗体半分子のADCC活性を以下のように測定した。
【0119】
Jurkat cellsの調製
Jurkat cells をフラスコより回収し4%FBSを含むRPMI 1640培地(Gibco)(以下Assay Bufferと称する。)によって1回細胞を洗浄した後、当該細胞がAssay Buffer中にその細胞密度が3x106 細胞/ mLとなるように懸濁した。当該細胞懸濁液をJurkat cells溶液として以後の実験に供した。
【0120】
(1)標的細胞の調製
SK-Hep-1にヒトグリピカン3を強制発現させたSK-pca60、ヒトエピレグリンを発現させたSKE-4B2、またはヒトグリピカン3とヒトエピレグリンの両方を発現させたEREG_SK-pca60_#2をディッシュから剥離し、Assay Bufferによって1回細胞を洗浄した後、当該細胞がAssay Buffer中にその細胞密度が1x106 細胞/ mLとなるように懸濁した。当該細胞懸濁液を標的細胞溶液として以後の実験に供した。
【0121】
(2)発光試薬の調整
Bio-Glo Luciferase Assay Buffer 100mL(Promega)をBio-Glo Luciferase Assay Substrate(Promega)のボトルに加え、転倒混和する。ボトルを遮光し、-20℃で凍結する。当該発光試薬を以後の実験に供した。
【0122】
(3)ADCCレポーター試験(ADCC活性)
ADCC活性をルシフェラーゼ発光のFold changeによって評価した。まず、(2)で調製した標的細胞を96ウェルFlat底白色プレートの各ウェル中に25μlずつ(2.5 x 104 cells/ウェル)添加した。次に、各濃度(0.00003、0.0003、0.003、0.03、0.3、3、30μg/mL)に調製した抗体半分子溶液を各ウェル中に25μlずつ添加した。各ウェル中に(1)で調製したJurkat cells溶液各25μl(7.5 x 104 cells/ウェル)を加えた当該プレートを、5%炭酸ガスインキュベータ中において37℃で24時間静置した。(3)で調製した発光試薬を融解し各ウェルに75μlずつ加え室温で10分間静置した。当該プレートの各ウェル中の150μlの培養上清のルシフェラーゼの発光をルミノメーターを用いて測定した。下式1に基づいてADCC活性を求めた。
【0123】
(式1)
Fold change=A/B
【0124】
上式1において、Aは各ウェル中の150μlの培養上清のルシフェラーゼ発光の平均値を表す。また、Bは(3)の実験において抗体半分子溶液の代わりに25μlのAssay Bufferを加えたときの150μlの培養上清のルシフェラーゼ発光の平均値を表す。試験はtriplicateにて実施し、各被験抗体半分子のADCC活性が反映される前記試験におけるADCC活性(Fold change)の平均値を算出した。
【0125】
[試験例5]抗体半分子間における相互作用の測定
得られた抗体半分子間の相互作用をBiacore(登録商標) T200を用いて分析した。測定にはBiotin CAPture Kit, Series S(GEヘルスケア)、ランニングバッファーにはHBS-EP+10X (GE ヘルスケア)を10分の1に希釈して用い、測定温度は25℃とした。センサーチップにはSeries S Sencor Chip CAP(GEヘルスケア)に予めビオチン化しておいた抗原ペプチドを相互作用させ固定化したチップを用いた。これらのチップへ目的の抗体半分子Aを約50 RUキャプチャーさせ、ランニングバッファーで希釈した目的の抗体半分子Bを2.5 mg/mLとして、30μL/minの流速で180秒間相互作用させ測定を実施した。以下の式2に基づきモル結合割合を計算した。チップにキャプチャーした抗体半分子AはKitに付属の説明書の通りに洗浄し、チップを再生して繰り返し用いた。
【0126】
(式2)
モル結合割合=(アナライトとして結合した抗体半分子Bの結合量(RU、最大値)/抗体半分子Bの分子量)/(キャプチャーされた抗体半分子Aの結合量(RU)/抗体半分子Aの分子量)
【0127】
[試験例6]1D3-Kn125/Hl076、1D3-DA303v2、1D3-DB220v2の血中濃度測定
電気化学免疫測定法(ECLIA)により測定した。Human IgG-heavy and light chain Antibody (Bethyl)を固相化したMULTI-ARRAY 96-well plate (MSD)に、血漿サンプルを添加し、室温で反応させた。続けて、Anti-Human IgG (Jackson Immuno Research)を反応後、SULFO-TAG streptavidin (MSD)を加えて反応させた。測定はSECTOR S 600 (MSD)で実施した。
【0128】
[試験例7]1D3-DA303v2/DB220v2の血中濃度測定
LC-MSにより測定した。Ab-Capcher Mag (ProteNova)と血漿サンプルを混合した後、Lysozyme, DTT, Ureaを含む混合溶液を添加し、反応させた。さらに、Iodoacetamid溶液 (Sigma Aldrich)を反応させた後、Trypsin溶液を加えた。その後、上清を回収し、Trifluoroacetic acid (wako)を添加した後、Acquity UPLC (Waters)に注入し、Xevo TQ-S (Waters)で測定した。
【0129】
[試験例8]血中のB細胞測定
C57BL/6NCr Slcマウス (♂、7週令、日本エスエルシー株式会社) からヘマクリット毛細管 (テルモ株式会社) を用いて背中足静脈採血を実施した。2 mLのACK Lyncing Buffer (gibco) に採取した血液を15 μLずつ加え、暗所、室温で5分間インキュベートした後、500×gで5分間遠心分離し上清を除去した。これを再度繰り返した。MACS buffer (Miltenyi Biotec) 1450 mLにBSA stock solution (Miltenyi Biotec) 75 mLを添加したBuffer (FACS buffer)を調製し、FcR blocking reagent (Miltenyi Biotec) を10倍希釈した後、20 μL/Tubeで細胞を懸濁した。10分間室温でインキュベートした後、BUV395 anti-CD45R/B220(BD) 0.5 μL、PE-CF594 anti-IgM (BD) 0.5 μLおよびZombie NIR Fixable Viability Kit 0.4 μLを添加し、4℃で20分間インキュベートした後、2 mLのFACS bufferを加え、500×gで5分間遠心分離し、上清を除去した。400 μLのFACS bufferで再懸濁し、BD FACS LSR Fortessa X-20 (BD) で解析した。
【0130】
[試験例9]生細胞中のB細胞の割合解析
Flowjo ver7.6 (トミーデジタルバイオロジー) を用いて解析を行った。生細胞をゲートした後、解析対象となるCD45R/B220+ IgM+の画分をB細胞とした。生細胞中のB細胞の割合を各サンプルごとに算出した。
【0131】
[実施例1]抗体半分子の作製
以下に二重陽性細胞選択的傷害活性を有する抗体半分子を作製するための具体的なアミノ酸置換の手順を示す。作製、評価した抗体半分子の略称および名称と、CH3改変と、抗体半分子の配列番号を表1に示す。なお、抗体半分子H鎖可変領域部分の名称をVHとした場合、定常領域部分にCHを持つ抗体半分子のH鎖に対応する配列はVH-CHと呼び、抗体半分子L鎖可変領域部分の名称をVLとした場合、定常領域部分にCLを持つ抗体半分子のL鎖に対応する配列はVL-CLと呼ぶ。発現後に精製して得られた抗体半分子は、例えばホモ二量体化抗体の発現に用いた抗体半分子H鎖に対応する発現ベクターがVH1-CH1、抗体半分子L鎖に対応する発現ベクターがVL1-CL1であるホモ二量体化抗体の場合、VH1-CH1/VL1-CL1と表記する。4本鎖を持つヘテロ二量体化抗体の発現に用いた抗半分子体H鎖に対応する発現ベクターの一つがVH1-CH1、もう一つの抗体半分子H鎖がVH2-CH2、抗体半分子L鎖に対応する発現ベクターの一つがVL1-CL1、もう一つの抗体半分子L鎖がVL2-CL2である場合、VH1-CH1/VL1-CL1//VH2-CH2/VL2-CL2と表記する。また、それぞれの抗体半分子を等量混合する場合、抗体半分子AをVH1-CH1/VL1-CL1、抗体半分子BをVH2-CH2/VL2-CL2とした場合、VH1-CH1/VL1-CL1+VH2-CH2/VL2-CL2と表記する。簡略化のため定常領域の略称のみを用いてA1、B1、またはA1+B1のように表記する場合もある。アミノ酸の改変を示す場合には、D356Kのように示す。最初のアルファベット(D356KのDに該当)は、改変前のアミノ酸残基を一文字表記で示した場合のアルファベットを意味し、それに続く数字(D356Kの356に該当)はその改変箇所のEUナンバーを意味し、最後のアルファベット(D356KのKに該当)は改変後のアミノ酸残基を一文字表記で示した場合のアルファベットを意味する。また、改変を行う鋳型としては天然型IgG1に対して末端のGKが欠損した配列を使用した。
【0132】
まずヘテロ二量体化した時にADCC活性が増強されるように国際公開第2013/002362号に記載の改変を使用した。 CH2にL234Y、L235Q、G236W、S239M、H268D、D270E、S298Aを抗体半分子A、D270E、K326D、A330M、K334Eを抗体半分子Bにそれぞれ置換した。抗体のヒンジ領域間のジスルフィド結合を形成しないようにするために抗体半分子A、Bそれぞれに対してC226S、C229Sとした。これらの変異に加えてホモ二量体の形成を抑制し、かつヘテロ二量体の形成を促す改変として国際公開第2006/106905号に記載の改変を使用した。具体的には抗半分子AにD356K、抗体半分子BにK439Eと置換した。しかしながら、CH3界面の相互作用は強固なのでこの変異だけでは抗体半分子は取得できない。そこで、CH3界面の相互作用を弱めるために国際公開第2015/046467号に記載の改変を使用した。 CH3界面のアミノ酸残基であるE357、V397、K409に改変を抗体半分子A、Bそれぞれに対して導入した。これらADCC増強改変、ヒンジ領域の改変、ヘテロ二量体化改変およびCH3界面不安定化改変を組み合わせることで目的の抗体半分子Aおよび抗体半分子Bを取得した。すなわち、抗体半分子Aおよび抗体半分子Bが血中やそれぞれの抗原が単独で発現している細胞上ではホモ二量体化は起こらず、二種類の抗原が存在する細胞に同時に結合した場合にはじめて抗体半分子同士がヘテロ二量体化し、FcγRIIIaに結合できるようになる。
【0133】
【0134】
[実施例2]抗体半分子の分子量の評価
作製した抗体半分子A、Bの分子量の評価をサイズ排除クロマトグラフィーで実施した。この時whole抗体のコントロール(
図1aのWのピーク)としては国際公開第2009/125825号に開示されているヒトインターロイキン6レセプターに対する抗体を使用した。H鎖可変領域はMRAH(配列番号:11)を用いてH鎖定常領域は天然型IgG1の配列(配列番号:12)を使用した。L鎖可変領域はMRAL(配列番号:13)を使用しL鎖定常領域は天然型κ鎖であるk0(配列番号:14)の配列を使用した。抗体半分子状態のコントロール(
図1bのHのピーク)として、H鎖可変領域は国際公開第2013/100120号に記載の抗ヒトエピレグリン抗体のH鎖可変領域部分であるEGLVH(配列番号:15)を使用し、H鎖定常領域部分はLuらの報告(Shan L, Colazet M, Rosenthal KL, Yu XQ, Bee JS, Ferguson A, Damschroder MM, Wu H, Dall'Acqua WF, Tsui P, Oganesyan V. (2016) Generation and Characterization of an IgG4 Monomeric Fc Platform. PLoS One. 2016 Aug 1;11(8))に記載の改変を有するwtIgG4C4(配列番号:16)を使用した。L鎖可変領域は国際公開第2013/100120号に記載の抗ヒトエピレグリン抗体のL鎖可変領域部分であるEGLVL(配列番号:17)を使用しL鎖定常領域は天然型κ鎖であるk0の配列を使用した。また、測定は試験例2に記した方法に従って実施した。なお、この時のH鎖可変領域はそれぞれMRAHを用い、L鎖については全てMRAL-k0を用いて測定を実施した。
測定の結果、
図1に示すように、抗体半分子A1、A3、A4、A5のみの場合は抗体半分子(Hのピーク)とwhole抗体(Wのピーク)の混合物が得られ(
図1c、e-g)、A2は抗体半分子(Wのピーク)と抗体半分子とwhole抗体の平衡にあると推定される状態の分子(Eのピーク)が得られ(
図1d)、抗体半分子B1、B2、B3、B4、B5のみの場合は抗体半分子(Hのピーク)として存在していた(
図1h-l)。また、抗体半分子A1とB1(
図1m)、A2とB2(
図1n)、A3とB3(
図1o)、A4とB4(
図1p)、A5とB5(
図1q)を混合しても、whole抗体の形成(Wのピーク)がそれぞれ抗体半分子A1、A2、A3、A4、A5のみの場合または抗体半分子B1、B2、B3、B4、B5のみの場合に比べて増えることは無かった。なお、A1-B1(
図1m)、A3-B3(
図1o)を混合した時については、抗体半分子とwhole抗体の平衡にあると推定される状態の分子(Eのピーク)の形成が見られた。
【0135】
[実施例3]抗体半分子のFcγRIIIaへの結合能の評価
次に、これらの抗体半分子が溶液中では抗体半分子の状態でいて、FcγRIIIaへの結合能は示さないが、抗原結合に伴い局所的に濃縮されることによりヘテロ二量体化し、FcγRIIIaへ結合が回復するかを試験例3に記した方法に従って測定した。なお、この時のH鎖可変領域部分はMRAHを、L鎖可変領域部分はMRAL、L鎖定常領域部分はk0を用いて測定を実施した。天然型IgG1の値はMimotoらの報告(Mimoto F, Igawa T, Kuramochi T, Katada H, Kadono S, Kamikawa T, Shida-Kawazoe M, Hattori K.(2013) Novel asymmetrically engineered antibody Fc variant with superior FcγR binding affinity and specificity compared with afucosylated Fc variant. MAbs 5(2), 229-236)に記載の値を使用した。
測定の結果、表2に示すとおり、抗体半分子AのシリーズであるA1-A5や抗体半分子BのシリーズであるB1-B5はそれぞれ単独ではFcγRIIIaへの結合能は示さなかったが、抗体半分子A1とB1、A2とB2、A3とB3、A4とB4、A5とB5をそれぞれ混合した時に初めてFcγRIIIaへの結合能を示した。
【0136】
【表2】
*n. d.はnot detectedの略で測定下限を下回り測定することが出来なかったことを示す。
【0137】
[実施例4]抗体半分子のADCC活性の評価
これらの定常領域を有する抗体半分子が既存の二重特異性抗体に対して優れた二重陽性細胞選択的傷害活性を有するかどうか試験例4に記された方法に従って測定を行った。抗原発現細胞としてはSK-Hep-1にグリピカン3を強制発現させた国際公開第2016/182064号に記載のSK-pca60を、エピレグリンを強制発現させた国際公開第2014/208482号に記載のSKE-4B2を使用した。グリピカン3、エピレグリン二重陽性細胞としてはSK-pca60にエピレグリンを強制発現させたEREG_SK-pca60_#2を使用した。この時実施例3で用いた抗体半分子Aのシリーズについては、そのH鎖可変領域部分が国際公開第2009/041062号に記載の抗GPC3抗体であるGH0(配列番号:18)であるものを使用し、そのL鎖可変領域部分が国際公開第2009/041062号に記載の抗GPC3抗体であるGL0(配列番号:19)であるものを使用し、L鎖定常領域部分はk0を使用した。抗体半分子BについてはEGLVHを使用し、L鎖可変領域はEGLVLを使用し、L鎖定常領域はk0を使用した。また、既存の二重特異性抗体としてはGH0-Kn125P17/GL0-k0//EGLVH-Hl076N17/EGLVL-k0(GH0/EGLVH-BiAb)を用いた。二重特異性抗体の定常領域はヘテロ二量体化した時にADCC活性が増強されるように国際公開第2013/002362号に記載のCH2にL234Y、L235Q、G236W、S239M、H268D、D270E、S298AをKn125P17(配列番号:20)に、D270E、K326D、A330M、K334EをHl076N17(配列番号:21)にそれぞれ置換した。また、二重特異性抗体を電荷の違いを利用して作製するために国際公開第2015/046467号に記載のD356K、V397YをKn125P17に、V397Y、K439EをHl076N17にそれぞれ置換した。また、356-358位の配列については天然型IgG1のアロタイプであるEEMの配列を使用した。このようにして作製されたGH0-Kn125P17/GL0-k0、EGLVH-Hl076N17/EGLVL-k0を定常領域の電荷の違いを利用した当業者公知の方法(Proc. Natl. Acad. Sci., 110, 5145-5150, 2013)で混合し、目的の二重特異性抗体を作製した。
【0138】
測定は抗体半分子A1とB1、A2とB2、A3とB3、A4とB4、A5とB5を混合して添加した。A1 + B1、A4 + B4、A5 + B5の場合はSK-pca60やSKE-4B2に対してはADCC活性が低く、EREG_SK-pca60_#2に対して強いADCC活性を示した。A2 + B2、A3 + B3の場合はSKE-4B2に対してはADCC活性が低く、SK-pca60やEREG_SK-pca60_#2に対して強いADCC活性を示した。既存の二重特異性抗体を用いた場合にはSK-pca60、SKE-4B2、EREG_SK-pca60_#2の全ての細胞に対して強いADCC活性が示された。以上のことから今回作製した抗体半分子A1、A4、A5及びB1、B4、B5はどちらの細胞に対しても既存の二重特異性抗体より優れた二重陽性細胞選択的傷害活性を有することが明らかとなり、抗体半分子A2、A3及びB2、B3に関しても既存の二重特異性抗体より一種類の細胞に対しては優れた二重陽性細胞選択的傷害活性を有することが明らかとなった。
【0139】
[実施例5]抗体半分子間の相互作用の評価
これら抗体半分子A1とB1、A2とB2、A3とB3、A4とB4、A5とB5間における相互作用を、Biacore(登録商標)を用いて試験例5に記された方法に従って測定した。この時キャプチャーされる抗体半分子のH鎖可変領域部分は国際公開第2009/041621号に記載の抗ヒトIL6レセプター抗体のH鎖可変領域部分であるPF1H(配列番号:22)を使用し、L鎖可変領域部分は国際公開第2009/041621号に記載の抗ヒトIL6レセプター抗体のL鎖可変領域部分であるPF1L(配列番号:23)を使用しL鎖定常領域部分はk0を使用した。また、アナライトとして使用した抗体半分子のH鎖可変領域は国際公開第2015/174439号に記載の抗KLH抗体であるIC17H(配列番号:24)を使用し、L鎖可変領域については国際公開第2015/174439号に記載の抗KLH抗体であるIC17L(配列番号:25)を使用しL鎖定常領域であるk0を使用した。
その結果、表3に示すように、抗体半分子A1-A5が約50RUキャプチャーされたとき、それぞれ抗体半分子B1-B5のモル結合割合が0.18-0.63の時に二重陽性細胞選択的ADCC活性が発揮されることが示された。
【0140】
【0141】
[実施例6]抗体半分子のin vivo評価
抗体半分子DA303v2およびDB220v2がマウス生体内において抗原に結合した時にだけ二量体を形成し、細胞傷害活性を示すかどうかについて、抗マウスCD19抗体の可変領域部分を有する抗体半分子を用いて評価した。
【0142】
6-1. 抗マウスCD19抗体半分子の作製
抗マウスCD19抗体(Clone: 1D3)はATCCから細胞株HB-305を購入し、当業者公知の方法によって抗体遺伝子をクローニングした。抗体半分子H鎖定常領域部分として天然型ヒトIgG1のC末端のGlyおよびLysを除去したG1d(配列番号:26)のCH2にADCC増強改変としてL234Y/L235Q/G236W/S239M/H268D/D270E/S298Aが、CH3に抗体半分子形成とヘテロ二量体化促進のための改変D356K/V397Y/K409Dが導入された定常領域部分DA303v2(配列番号:27)をもち、抗マウスCD19抗体のH鎖可変領域部分を有する抗体半分子H鎖の遺伝子を作成した。同様に抗体H鎖定常領域部分としてG1dのCH2にADCC増強改変としてD270E/K326D/A330M/K334Eが、CH3に抗体半分子形成とヘテロ二量体化促進のための改変V397Y/K409D/K439Eが導入された定常領域部分DB220v2(配列番号:28)をもち、抗マウスCD19抗体のH鎖可変領域部分を有する抗体半分子H鎖の遺伝子を作成した。またこれら抗体半分子と同じADCC増強改変を有するwhole抗体を作成するため、抗体H鎖定常領域としてG1dのCH2にADCC増強改変としてL234Y/L235Q/G236W/S239M/H268D/D270E/S298Aが導入され、CH3にヘテロ二量体化改変としてY349C/T366Wが導入されたKn125(配列番号:29) を持ち、抗マウスCD19抗体のH鎖可変領域を有する抗体H鎖の遺伝子と、抗体H鎖定常領域としてG1dのCH2にADCC増強改変としてD270E/K326D/A330M/K334Eが導入され、CH3にヘテロ二量体化改変としてD356C/T366S/L368A/Y407Vが導入されたHl076(配列番号:30)を有し、抗マウスCD19抗体のH鎖可変領域を有する抗体H鎖の遺伝子が作成された。Kn125とHl076にはKnobs-into-holes技術(Margaret Merchant et al., Nature Biotechnology 1998, 16, 677-681)が導入されており、これら2つのH鎖遺伝子を抗マウスCD19抗体のL鎖遺伝子と共発現することでヘテロ二量体化したwhole抗体が生成される。また同じくG1dに対して国際公開第2013/047748号に記載されているマウスFcγRへの結合を減弱するための改変(L235R/S239K)を導入した定常領域F760(配列番号:31)をH鎖定常領域としてもち、抗マウスCD19抗体H鎖可変領域を有する抗体H鎖の遺伝子と、国際公開第2015/174439号に記載されているADCC活性を増強したマウスIgG2a定常領域(mFa55: 配列番号:32)をH鎖定常領域としてもち、抗マウスCD19抗体H鎖可変領域を有する抗体H鎖の遺伝子を作成した。マウスCD19に結合しない抗体として、国際公開第2015/174439号に記載の抗KLH抗体のH鎖可変領域であるIC17H(配列番号:24)を有し、FcγRへの結合を減弱した定常領域F760nN17(配列番号:33)を有する抗体H鎖遺伝子をそれぞれ作成した。抗体L鎖としては、天然型ヒトkappa定常領域(k0:配列番号:14)を有し、抗マウスCD19抗体L鎖可変領域をもつ抗体L鎖の遺伝子と、同じく天然型マウスkappa定常領域(mk0: 配列番号:34)を有し、抗マウスCD19抗体L鎖可変領域をもつ抗体L鎖の遺伝子を作成した。また抗KLH抗体L鎖可変領域IC17L(配列番号:25)を持ち、天然型ヒトkappa定常領域(k0)を有する抗体L鎖遺伝子を作成した。ここで作成したそれぞれの遺伝子を表4に示す組み合わせで発現し、試験例1に記載の方法で目的の抗体を得た。
【0143】
【0144】
6-2. 抗マウスCD19抗体半分子またはその二量体のマウスFcγRに対する結合評価
実施例6-1で調製した抗体半分子のうち、1D3-mFa55、1D3-Kn125/Hl076、1D3-DA303v2、1D3-DB220v2および1D3-DA303v2と1D3-DB220v2の等量混合物のマウスFcγRI、II、III、IVに対する結合測定を実施した。また比較対象として天然型ヒトIgG1の配列からC末端のGlyおよびLysを除去したG1dをH鎖定常領域としてもち、抗マウスCD19抗体のH鎖可変領域部分を有する抗体半分子H鎖の遺伝子と、天然型ヒトkappa定常領域k0を有し、抗マウスCD19抗体L鎖可変領域をもつ抗体L鎖の遺伝子を作成し、試験例1の方法に従って抗マウスCD19抗体半分子、1D3-G1dを得た。マウスFcγRI、II、III、IVは国際公開第2014/030750号に記載の方法により調製した。Biacore(登録商標) T200 (GEヘルスケア)を用いて、各抗体半分子またはその二量体とFcγRとの相互作用解析を行った。ランニングバッファーにはHBS-EP+10X (GEヘルスケア)を10分の1に希釈して用い、測定温度は25℃とした。Series S Sensor Chip CM5(GEヘルスケア)に、アミンカップリング法によりProtein A/G (PIERCE)を固定化したチップを用いた。このセンサーチップに目的の抗体半分子をキャプチャーし、ランニングバッファーで希釈したFcγRを相互作用させて測定を行った。また25 mM NaOHと、10 mM Glycine-HCl (pH1.5)を反応させることでセンサーチップにキャプチャーした抗体半分子を洗浄し、センサーチップを再生して繰り返し用いた。各抗体半分子またはその二量体のFcγRに対するKD値を算出するための速度論的な解析は以下の方法にしたがって実施した。まず、上記のセンサーチップに目的の抗体半分子をキャプチャーさせ、ランニングバッファーで希釈したmFcγRを相互作用させ、得られたセンサーグラムに対してBiacore(登録商標) Evaluation Softwareにより測定結果を1:1 Langmuir binding modelでglobal fittingさせることで結合速度定数ka (L/mol/s)、解離速度定数kd(1/s)を算出し、その値から解離定数KD (mol/L) を算出した。また、抗体半分子またはその二量体とFcγRとの相互作用が微弱で、上記の速度論的な解析では正しく解析できないと判断された場合、その相互作用についてはBiacore(登録商標) T100 Software Handbook BR1006-48 Edition AEに記載の以下の1:1結合モデル式を利用してKDを算出した。
【0145】
1:1 binding modelで相互作用する分子のBiacore(登録商標)上での挙動は以下の式3によって表わすことができる。
【0146】
(式3)
Req = C・Rmax/(KD+C) + RI
Req: a plot of steady state binding levels against analyte concentration
C: concentration
RI: bulk refractive index contribution in the sample
Rmax: analyte binding capacity of the surface
【0147】
この式を変形すると、KDは以下の式4のように表わすことができる。
【0148】
(式4)
KD = C・Rmax/(Req-RI)-C
【0149】
この式にRmax、RI、Cの値を代入することで、KDを算出することが可能である。RI、Cについては測定結果のセンサーグラム、測定条件から値を求めることができる。Rmaxの算出については、以下の方法にしたがった。その測定回に同時に評価した比較対象となる相互作用が十分強い抗体について、上記の1:1 Langmuir binding modelでglobal fittingさせた際に得られたRmaxの値を、比較対象となる抗体のセンサーチップへのキャプチャー量で除し、評価したい改変抗体のキャプチャー量で乗じて得られた値をRmaxとした。今回の測定条件においてはRI = 0、C= 500 nM (FcγRI、FcγRIV)あるいは4000 nM (FcγRII、FcγRIII)となる。Rmaxには各FcγRに対するG1dの相互作用解析結果として得られたセンサーグラムに対して1:1 Langmuir binding modelでglobal fittingさせた際に得られたRmaxの値をG1dのキャプチャー量で除し、各抗体のキャプチャー量で乗じて得られた値とした。これはいずれの抗体半分子またはその二量体においても、G1dと比較して各FcγRが結合できる限界量には変化がなく、測定時のRmaxはその測定時にチップ上に結合している抗体の量に比例するという仮定に基づいた計算である。Reqは測定時に観察された各FcγRのセンサーチップ上の抗体半分子またはその二量体に対する結合量とした。
【0150】
こうして得られた各抗体のマウスFcγRに対するKD値を表5に示した。表中の灰色で塗りつぶされた値は、FcγRの抗体半分子またはその二量体に対する結合が微弱であり、速度論的な解析では正しく解析できないと判断されたため、上記式4を利用して算出した値である。また「KD fold for mouse FcγRs」の値は、各FcγRに対するG1dのKDを、それぞれの抗体のKDで割った値であり、各抗体の各FcγRに対する親和性がG1dと比較してどれだけ増強あるいは減弱されているかを示す。またN.D.はセンサーグラム上で結合が確認されなかったことを示す。
【0151】
【0152】
表5の結果から、FcγR結合増強型マウスIgG2a抗体であるmFa55は、G1dと比較してFcγRIに対して44.7倍、FcγRIIに対して3.4倍、FcγRIIIに対して11.7倍、FcγRIVに対して57.5倍結合が増強されていた。ヒトIgG1型のヘテロ二量体化ADCC増強抗体であるKn125/Hl076は、G1dと比較してFcγRIに対して0.4倍に結合が減弱しており、FcγRIIに対しては5.7倍、FcγRIIIに対しては13.2倍、FcγRIVに対しては253.3倍結合が増強されていた。抗体半分子であるDA303v2はいずれのマウスFcγRに対しても結合しなかった。抗体半分子であるDB220v2もいずれのマウスFcγRに対しても結合が減弱されており、その親和性はG1dと比較してFcγRIに対しては0.05倍、FcγRIIに対しては0.03倍、FcγRIIIに対しては0.04倍であった。またFcγRIVに対しては結合しなかった。二種類の抗体半分子DA303v2とDB220v2を等量混合して測定した1D3-DA303v2/1D3-DB220v2では、G1dと比較してFcγRIに対しては0.03倍、FcγRIIに対しては0.08倍、FcγRIIIに対しては0.4倍に結合が減弱されていたが、FcγRIVに対しては11.5倍に結合が増強されていた。以上の結果から、どちらかの抗体半分子単独ではFcγRに対する結合活性がほとんど失われているのに対し、二種類の抗体半分子を混合してヘテロ二量体を形成した場合にはFcγRIVに対する結合が増強されるため、エフェクター活性を示すことが期待される。
【0153】
6-3. マウスにおける抗体半分子の単体投与、および混合投与時の薬物動態評価
実施例6-1に記載の方法で作製した1D3-Kn125/Hl076、1D3-DA303v2、1D3-DB220v2、1D3-DA303v2/DB220v2のマウスにおける血中薬物動態を評価した。投与は10 mg/kgでマウス尾静脈より行い、頸静脈より経時的に採血を行った。血漿中濃度は、1D3-Kn125/Hl076、1D3-DA303v2、1D3-DB220v2については電気化学免疫測定法 (ECLIA: 試験例6)で、1D3-DA303v2/DB220v2についてはそれぞれの抗体半分子をLC-MS (試験例7)で測定した。その結果、whole抗体である1D3-Kn125/Hl076に比べて、1D3-DA303v2、1D3-DB220v2、1D3-DA303v2/DB220v2の血中からの消失は非常に速く、投与後3日で投与直後の濃度に対して1/100程度まで減少した(
図3)。また、1D3-DA303v2、および1D3-DB220v2それぞれについて、単独投与と混合投与で血漿中濃度推移に顕著な差はないことが示された。このことは、混合投与においても抗体半分子はヘテロ二量体化せずに単体で存在し、可変領域で抗原に結合した際に初めてヘテロ二量体化することを示唆している。
【0154】
6-4. マウス生体内におけるB cell depletionの評価
実施例6-1に記載の方法で精製、調製した抗マウスCD19抗体半分子 (表4に記載) をマウスに静脈内投与することで細胞傷害活性を示すかを検証した。なお、in vivo B cell depletion試験の投与量の設定は、実施例6-3に示すwhole抗体および抗体半分子の消失濃度推移から、各検体でトラフ濃度が同程度になるように設定した。具体的には、C57BL/6NCr Slcマウスに必要血中濃度を維持するために表6に示す投与条件で、各種抗体または抗体半分子を静脈内投与した (各群n=3)。投与後3日目に背中足静脈採血を実施し、試験例8に記載の方法で血中のB細胞を染色した後、FACSで生細胞中におけるB細胞を検出した。試験例9に記載の方法で血中のB細胞の割合を算出した結果、KLH-F760nN17と比較して1D3-F760は細胞傷害活性を示さず、陽性対照である1D3-mFa55および1D3- Kn125/Hl076は有意に細胞傷害活性を示した。本条件下で、抗体半分子1D3-DA303v2および1D3-DB220v2はそれぞれの単独投与で細胞傷害活性を示さないが、これらを等量混合して投与した場合は、KLH-F760nN17と比較して有意に細胞傷害活性を示すことが明らかとなった (
図4)。実施例6-3で示した通り、抗体半分子は混合した状態で投与しても可変領域が抗原に結合しなければ抗体半分子として存在すると考えられるため、ここで得られたB cell depletion活性は、それぞれの抗体半分子が可変領域で抗原に結合して初めてヘテロ二量体を形成し、ADCC活性を示した結果であると考察される。
【0155】
【0156】
[試験例10]抗体半分子の発現ベクターの作製および抗体半分子の発現と精製
アミノ酸置換の導入はQuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene)、PCRまたはIn fusion Advantage PCR cloning kit (TAKARA)等を用いて当業者公知の方法で行い、発現ベクターを構築した。得られた発現ベクターの塩基配列は当業者公知の方法で決定した。作製したプラスミドをExpi293細胞(Invitrogen)に、一過性に導入し、抗体半分子の発現を行った。得られた培養上清から、MonoSpin ProA 96ウェルプレートタイプ(商標登録)(GLサイエンス)を用いて当業者公知の方法で、抗体半分子を精製した。精製抗体半分子濃度は、分光光度計を用いて280 nmでの吸光度を測定し、得られた値からPACE法により算出された吸光係数を用いて抗体半分子濃度を算出した(Protein Science 1995 ; 4 : 2411-2423)。
【0157】
[試験例11]抗体半分子の分子量の分析
得られた抗体半分子の分子量をHPLCであるACQUITY UPLC H-Class(登録商標)(Waters)、カラムにはSuperSW3000(TOSOH)を用いて当業者公知の方法で分析した。抗体半分子タンパク質濃度は0.10 mg/mLとして、10 μLのインジェクションを行った。
【0158】
[実施例7]抗体半分子の作製
実施例1で使用したヘテロ二量体化改変を使用せずにホモ二量体の形成を抑制することができるかどうかを検証するため、ヘテロ二量体化改変を使用しない、もしくはHaらの報告(Ha JH, Kim JE, Kim YS (2016) Immunoglobulin Fc Heterodimer Platform Technology: From Design to Applications in Therapeutic Antibodies and Proteins. Front Immunol. 2016 Oct 6;7:394.)に記載されている改変を使用した。具体的には、ADCC増強改変、ヒンジ領域の改変、CH3界面不安定化改変のみの半分子抗体A、Bと、それに加えて抗体半分子AにY349T、T394Fを、抗体半分子BにS364H、F405Aをそれぞれ置換した。作製、評価した抗体半分子の略称および名称と、CH3改変と、抗体半分子の配列番号を表7に示す。
【0159】
【0160】
[実施例8]抗体半分子の分子量の評価
作製した抗体半分子A、Bの分子量の評価をサイズ排除クロマトグラフィーで実施した。この時whole抗体のコントロール(
図5-1aのWのピーク)としては国際公開第2009/125825号に開示されているヒトインターロイキン6レセプターに対する抗体を使用した。H鎖可変領域はMRAH(配列番号:11)を用いてH鎖定常領域は天然型IgG1の配列(配列番号:12)を使用した。L鎖可変領域はMRAL(配列番号:13)を使用しL鎖定常領域は天然型κ鎖であるk0(配列番号:14)の配列を使用した。抗体半分子状態のコントロール(
図5bのHのピーク)として、H鎖可変領域は国際公開第2013/100120号に記載の抗ヒトエピレグリン抗体のH鎖可変領域部分であるEGLVH(配列番号:15)を使用し、H鎖定常領域部分はLuらの報告(Shan L, Colazet M, Rosenthal KL, Yu XQ, Bee JS, Ferguson A, Damschroder MM, Wu H, Dall'Acqua WF, Tsui P, Oganesyan V. (2016) Generation and Characterization of an IgG4 Monomeric Fc Platform. PLoS One. 2016 Aug 1;11(8))に記載の改変を有するwtIgG4C4(配列番号:16)を使用した。L鎖可変領域は国際公開第2013/100120号に記載の抗ヒトエピレグリン抗体のL鎖可変領域部分であるEGLVL(配列番号:17)を使用しL鎖定常領域は天然型κ鎖であるk0の配列を使用した。また、測定は試験例11に記した方法に従って実施した。なお、この時のH鎖可変領域はそれぞれMRAHを用い、L鎖については全てMRAL-k0を用いて測定を実施した。
測定の結果、
図5に示すように、抗体半分子A1、A6のみの場合は抗体半分子(Hのピーク)とwhole抗体(Wのピーク)の混合物が得られ(
図5c、d)、抗体半分子A7、B1、B6、B7のみの場合は抗体半分子(Hのピーク)として存在していた(
図5e-h)。また、抗体半分子A1とB1(
図5i)、A6とB6(
図5j)、A7とB7(
図5k)を混合しても、whole抗体の形成(Wのピーク)がそれぞれ抗体半分子A1、A6、A7のみの場合または抗体半分子B1、B6、B7のみの場合に比べて増えることは無かった。
【0161】
[実施例9]抗体半分子のADCC活性の評価
これらの定常領域を有する抗体半分子が既存の二重特異性抗体に対して優れた二重陽性細胞選択的傷害活性を有するかどうか試験例4に記された方法に従って測定を行った。抗原発現細胞としてはSK-Hep-1にグリピカン3を強制発現させた国際公開第2016/182064号に記載のSK-pca60を、エピレグリンを強制発現させた国際公開第2014/208482号に記載のSKE-4B2を使用した。グリピカン3、エピレグリン二重陽性細胞としてはSK-pca60にエピレグリンを強制発現させたEREG_SK-pca60_#2を使用した。この時抗体半分子Aのシリーズについては、そのH鎖可変領域部分が国際公開第2009/041062号に記載の抗GPC3抗体であるGH0(配列番号:18)であるものを使用し、そのL鎖可変領域部分が国際公開第2009/041062号に記載の抗GPC3抗体であるGL0(配列番号:19)であるものを使用し、L鎖定常領域部分はk0を使用した。抗体半分子BについてはEGLVHを使用し、L鎖可変領域はEGLVLを使用し、L鎖定常領域はk0を使用した。また、既存の二重特異性抗体としてはGH0-Kn125P17/GL0-k0//EGLVH-Hl076N17/EGLVL-k0(GH0/EGLVH-BiAb)を用いた。二重特異性抗体の定常領域はヘテロ二量体化した時にADCC活性が増強されるように国際公開第2013/002362号に記載のCH2にL234Y、L235Q、G236W、S239M、H268D、D270E、S298AをKn125P17(配列番号:20)に、D270E、K326D、A330M、K334EをHl076N17(配列番号:21)にそれぞれ置換した。また、二重特異性抗体を電荷の違いを利用して作製するために国際公開第2015/046467号に記載のD356K、V397YをKn125P17に、V397Y、K439EをHl076N17にそれぞれ置換した。また、356-358位の配列については天然型IgG1のアロタイプであるEEMの配列を使用した。このようにして作製されたGH0-Kn125P17/GL0-k0、EGLVH-Hl076N17/EGLVL-k0を定常領域の電荷の違いを利用した当業者公知の方法(Proc. Natl. Acad. Sci., 110, 5145-5150, 2013)で混合し、目的の二重特異性抗体を作製した。
測定は抗体半分子A1とB1、A6とB6、A7とB7を混合して添加した。測定した結果を
図6に示す。A1 + B1の場合と同様に、A6 + B6、A7 + B7の場合もSK-pca60やSKE-4B2に対してはADCC活性が低く、EREG_SK-pca60_#2に対して強いADCC活性を示した。既存の二重特異性抗体を用いた場合にはSK-pca60、SKE-4B2、EREG_SK-pca60_#2の全ての細胞に対して強いADCC活性が示された。以上のことから、今回作製した抗体半分子A6、A7およびB6、B7もどちらの細胞に対しても既存の二重特異性抗体より優れた二重陽性細胞選択的傷害活性を有することが明らかとなった。
【0162】
[実施例10]抗体半分子間の相互作用の評価
これら抗体半分子A1とB1、A6とB6、A7とB7間における相互作用を、Biacore(登録商標)を用いて試験例5に記された方法に従って測定した。この時キャプチャーされる抗体半分子のH鎖可変領域部分は国際公開第2009/041621号に記載の抗ヒトIL6レセプター抗体のH鎖可変領域部分であるPF1H(配列番号:22)を使用し、L鎖可変領域部分は国際公開第2009/041621号に記載の抗ヒトIL6レセプター抗体のL鎖可変領域部分であるPF1L(配列番号:23)を使用しL鎖定常領域部分はk0を使用した。また、アナライトとして使用した抗体半分子のH鎖可変領域は国際公開第2015/174439号に記載の抗KLH抗体であるIC17H(配列番号:24)を使用し、L鎖可変領域については国際公開第2015/174439号に記載の抗KLH抗体であるIC17L(配列番号:25)を使用しL鎖定常領域であるk0を使用した。
その結果、表8に示すように、抗体半分子A6、A7が約50RUキャプチャーされたとき、それぞれ抗体半分子B6、B7のモル結合割合が0.18-0.63の範囲内となり、二重陽性細胞選択的ADCC活性も発揮されることが示された。抗体半分子Bのランニングバッファーによる希釈は、実施例5では18.6-28.0倍希釈したのに対し、本実施例では5.7-9.0倍希釈した。
【0163】
【配列表】