(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】バルブのボデーとバルブのボデーの製造方法
(51)【国際特許分類】
B22C 9/24 20060101AFI20240918BHJP
F16K 27/00 20060101ALI20240918BHJP
B22C 9/04 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
B22C9/24 E
F16K27/00 Z
B22C9/24 Z
B22C9/04 C
(21)【出願番号】P 2020112885
(22)【出願日】2020-06-30
【審査請求日】2023-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】390002381
【氏名又は名称】株式会社キッツ
(74)【代理人】
【識別番号】100081293
【氏名又は名称】小林 哲男
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 航介
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 悠
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-028549(JP,U)
【文献】特開昭56-102347(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22C 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状のボデーに対して交差方向に向けてネック部を突出させて軸装部を
設けたボデー本体であって、
このボデー本体の鋳造に際し、鋳造時の注湯口である堰部の跡が
前記ネック部の付け根となる部位から前記ボデーの円筒の周方向に90度回転させた位置よりも前記ネック部の付け根となる部位方向に寄せて設けられ、さらに前記堰部の跡を前記ボデーの円筒表面に盛り上がった状態で形成
し、かつ、前記堰部の跡から前記ネック部までの間の部位である第1領域の肉厚は、前記ボデーの他の領域の肉厚よりも厚く形成すると共に、その厚く形成された状態の前記第1領域の肉厚は、前記堰部の跡から前記ネック部の付け根の部位に向かって徐々に薄くなるように形成されていることを特徴とするバルブのボデー。
【請求項2】
前記第1領域の部位であるボデーの肉厚は、少なくとも前記ネック部の付け根の部位よりも厚く形成されている請求項1に記載のバルブのボデー。
【請求項3】
円筒状のボデーに対して交差方向に向けてネック部を突出させて軸装部を設けたボデー本体であって、このボデー本体の鋳造に際し、鋳造時の注湯口である堰部の跡が前記ボデーの円筒表面に盛り上がった状態で形成されており、かつ、前記堰部の跡から前記ネック部までの間の部位である第1領域の肉厚は、前記ボデーの他の領域の肉厚よりも厚く形成すると共に、その厚く形成された状態の前記第1領域の肉厚は、前記堰部の跡から前記ネック部の付け根の部位に向かって徐々に薄くなるように形成され、さらに、前記第1領域の幅は、前記堰部の跡から前記ネック部の付け根に向かって徐々に狭くなるように形成されている
ことを特徴とするバルブのボデー。
【請求項4】
円筒状のボデーに対して交差方向に向けてネック部を突出させて軸装部を設けたボデー本体であって、このボデー本体の鋳造に際し、鋳造時の注湯口である堰部の跡が前記ボデーの円筒表面に盛り上がった状態で形成されており、かつ、前記堰部の跡から前記ネック部までの間の部位である第1領域の肉厚は、前記ボデーの他の領域の肉厚よりも厚く形成すると共に、その厚く形成された状態の前記第1領域の肉厚は、前記堰部の跡から前記ネック部の付け根の部位に向かって徐々に薄くなるように形成され、さらに、前記堰部の跡は、前記ネック部の付け根の部位よりも幅広に形成されている
ことを特徴とするバルブのボデー。
【請求項5】
円筒状のボデーに対して交差方向に向けてネック部を突出させ
て軸装部を
設けたバルブのボデーの製造方法であって、鋳型の鋳造時の注湯口は、
前記ネック部の付け根となる部位から前記ボデーの円筒の周方向に90度回転させた位置よりも前記ネック部の付け根となる部位方向に寄せて前記ネック部となる位置とはずらして設けられ、
さらに前記注湯口を前記ボデーの円筒表面に盛り上がった状態で形成し、かつ前記注湯口から前記ネック部の付け根となる位置までの第1領域の溶湯の通り道の高さがそれ以外の領域の高さと比べて高く形成され、前記注湯口から前記ネック部の付け根の位置に向かって溶湯の通り道の高さを徐々に低くなるように形成することにより、前記鋳型による鋳造の際に、前記バルブのボデーに生じる引け巣を抑制するようにしたことを特徴とするバルブのボデーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋳造欠陥の発生を抑制し得るバルブのボデーとバルブのボデーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
バルブのボデーは、耐圧容器であるから、主に金属による鋳造法によって製造する方法が採用されている。
【0003】
特にこの種のバルブのうち、ボールバルブやバタフライバルブの様に、略円筒状のボデーからネック部を突出させて軸装部を設け、この軸装部にパッキンやハンドル等を配設して弁体を開閉動作させるバルブのボデー本体を鋳造により製造する際には、ネック部の付け根の部位に引け巣と呼ばれる鋳造欠陥が発生し易く、ボデー本体を鋳造する際に歩留まりの低下を生じさせる原因となっている。
【0004】
鋳造において、鋳型内に注湯した溶湯は、冷却が進んで凝固が始まると体積が収縮するため、その収縮分の溶湯が周囲から凝固して収縮した部位へ補われるが、最後に凝固する最終凝固部(最後に冷え固まる部位)では周囲から溶湯を補うことができないため、収縮した分が空隙として残って引け巣となる。略円筒状のボデーからネック部を突出させて軸装部を設けたバルブのボデー本体では、ボデーの上部とネック部の付け根の部位が断面L字状の交差部を形成するが、このような交差部は冷え固まりにくいために最終凝固部となり易く、その結果、この交差部で引け巣が発生し易い。
【0005】
このような引け巣は、どの様な金属材料によりボデー本体を鋳造しても発生を完全に防止することは困難であるが、ステンレス鋼を素材としたステンレス鋳鋼品(SCS)のボデー本体では、ステンレス鋼は冷却凝固時に黒鉛の晶出による体積膨張がほとんどないため、特に引け巣が発生し易い。
【0006】
引け巣等の鋳造欠陥の発生を防止して、略円筒状のボデーからネック部を突出させて軸装部を設けたボデー本体を鋳造する技術としては、例えば特許文献1に、ボデーのほぼ中央部にある軸装部に湯口を直接設けると共に、軸装部の肉厚をボデーの最小肉厚以上に保つことにより溶湯を指向性凝固させ、ボデーの上部と軸装部の付け根の部位が形成する交差部における引け巣の発生を防止したボールバルブの弁箱鋳放し品が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に開示されたボールバルブの弁箱鋳放し品は、湯口をボデーのほぼ中央部にある軸装部に直接設けているので、鋳型から取り出した状態(鋳放し状態)では軸装部の上部に湯口部が残り、かつ軸装部は中実状態で形成されている。
【0009】
従って、鋳型から取り出した後に、軸装部に直接設けられている湯口部を切除するだけではなく、軸装部に弁棒を挿通するための挿通穴やパッキン等を装着するための段部や溝部を形成する等の加工を行わないと使用可能なボデー本体を得ることができないので、その分の加工工数の増加により製造コストが上昇する。
【0010】
本発明は、上記の課題点を解決するために開発したものであり、その目的とするところは、鋳造により製造されるバルブのボデーにおいて、鋳造のための湯口からネック部までの凝固過程を適切に制御できるようにして引け巣の発生を抑制することにより、鋳造性の優れたバルブのボデーを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するため、請求項1に係る発明は、円筒状のボデーに対して交差方向に向けてネック部を突出させて軸装部を設けたボデー本体であって、このボデー本体の鋳造に際し、鋳造時の注湯口である堰部の跡がネック部の付け根となる部位からボデーの円筒の周方向に90度回転させた位置よりもネック部の付け根となる部位方向に寄せて設けられ、さらに堰部の跡をボデーの円筒表面に盛り上がった状態で形成し、かつ、堰部の跡からネック部までの間の部位である第1領域の肉厚は、ボデーの他の領域の肉厚よりも厚く形成すると共に、その厚く形成された状態の第1領域の肉厚は、堰部の跡からネック部の付け根の部位に向かって徐々に薄くなるように形成されていることを特徴とするバルブのボデーである。
【0012】
請求項2に係る発明は、第1領域の部位であるボデーの肉厚は、少なくともネック部の付け根の部位よりも厚く形成されているバルブのボデーである。
【0013】
請求項3に係る発明は、円筒状のボデーに対して交差方向に向けてネック部を突出させて軸装部を設けたボデー本体であって、鋳造時の注湯口である堰部の跡がボデーの円筒表面に盛り上がった状態で形成されており、かつ、堰部の跡からネック部までの間の部位である第1領域の肉厚は、ボデーの他の領域の肉厚よりも厚く形成すると共に、その厚く形成された状態の第1領域の肉厚は、堰部の跡からネック部の付け根の部位に向かって徐々に薄くなるように形成され、さらに、第1領域の幅は、堰部の跡から前記ネック部の付け根に向かって徐々に狭くなるように形成されていることを特徴とするバルブのボデーである。
【0014】
請求項4に係る発明は、円筒状のボデーに対して交差方向に向けてネック部を突出させて軸装部を設けたボデー本体であって、鋳造時の注湯口である堰部の跡が前記ボデーの円筒表面に盛り上がった状態で形成されており、かつ、堰部の跡からネック部までの間の部位である第1領域の肉厚は、ボデーの他の領域の肉厚よりも厚く形成すると共に、その厚く形成された状態の第1領域の肉厚は、堰部の跡からネック部の付け根の部位に向かって徐々に薄くなるように形成され、さらに、堰部の跡は、ネック部の付け根の部位よりも幅広に形成されていることを特徴とするバルブのボデーである。
【0015】
請求項5に係る発明は、円筒状のボデーに対して交差方向に向けてネック部を突出させて軸装部を設けたバルブのボデーの製造方法であって、鋳型の鋳造時の注湯口は、ネック部の付け根となる部位からボデーの円筒の周方向に90度回転させた位置よりもネック部の付け根となる部位方向に寄せてネック部となる位置とはずらして設けられ、さらに注湯口をボデーの円筒表面に盛り上がった状態で形成し、かつ注湯口からネック部の付け根となる位置までの第1領域の溶湯の通り道の高さがそれ以外の領域の高さと比べて高く形成され、注湯口からネック部の付け根の位置に向かって溶湯の通り道の高さを徐々に低くなるように形成することにより、鋳型による鋳造の際に、バルブのボデーに生じる引け巣を抑制するようにしたことを特徴とするバルブのボデーの製造方法である。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明によると、鋳造時の注湯口である堰部の跡がネック部の付け根となる部位からボデーの円筒の周方向に90度回転させた位置よりもネック部の付け根となる部位方向に寄せて設けられ、さらに堰部の跡をボデーの円筒表面に盛り上がった状態で形成し、かつ、堰部の跡からネック部までの間の部位である第1領域の肉厚は、ボデーの他の領域の肉厚よりも厚く形成すると共に、その厚く形成された状態の第1領域の肉厚は、堰部の跡からネック部の付け根の部位に向かって徐々に薄くなるように形成されているので、堰部からネック部の付け根となる部位の鋳込み空間に素早く溶湯を送り込んで、他の部分よりも早く溶湯を凝固させることができ、鋳造時においてネック部の付け根の部位が最終凝固点となりにくくなるため、従来、ボデー本体のネック部の付け根の部位に生じ易かった引け巣等の鋳造欠陥の発生を抑制することができる。
【0017】
また、第1領域の肉厚が周囲のボデーの円筒表面の肉厚よりも厚くなるように形成しているので、鋳造時にネック部の付け根から堰部の跡(注湯口)に向かって溶湯の指向性凝固を促進させ、ネック部の付け根の部位での引け巣等の鋳造欠陥の発生を抑制することができる。
【0018】
請求項2に係る発明によると、第1領域の部位であるボデーの肉厚は、少なくともネック部の付け根の部位の肉厚よりも厚く形成されているので、鋳造時に少なくともネック部の付け根の部位の溶湯の凝固が第1領域の部位の溶湯よりも早く発生するため、ネック部の付け根の部位が最終凝固点となることがないので、ネック部の付け根の部位での引け巣等の鋳造欠陥の発生を抑制することができる。
【0019】
請求項3に係る発明によると、第1領域の幅は、堰部の跡からネック部の付け根に向かって徐々に狭くなるように形成されているので、鋳造時に、より一層、溶湯をネック部の付け根の部位から堰部に向かって指向性凝固を促進させ易くなり、ネック部の付け根の部位での引け巣等の鋳造欠陥の発生をより効果的に抑制することができる。
【0020】
請求項4に係る発明によると、堰部の跡は、ネック部の付け根の部位よりも幅広に形成されているので、堰部での溶湯の凝固がボデーの部位よりも遅れて堰部に溶湯の最終凝固部が発生し易くなるため、ネック部の付け根の部位だけでなくボデー全体に引け巣等の鋳造欠陥が発生しにくくなるのに加え、鋳造時に堰部から溶湯を効率よくバルブボデーの鋳型内に送り込むことができる。
【0021】
請求項5に係る発明によると、鋳型の鋳造時の注湯口は、ネック部の付け根となる部位からボデーの円筒の周方向に90度回転させた位置よりもネック部の付け根となる部位方向に寄せてネック部となる位置とはずらして設けられ、さらに注湯口をボデーの円筒表面に盛り上がった状態で形成し、かつ注湯口からネック部の付け根となる位置までの第1領域の溶湯の通り道の高さがそれ以外の領域の高さと比べて高く形成され、注湯口からネック部の付け根の位置に向かって溶湯の通り道の高さを徐々に低くなるように形成されているので、堰部からネック部の付け根となる部位の鋳込み空間に素早く溶湯を送り込んで、他の部分よりも早く溶湯を凝固させることができると共に、ネック部の付け根から堰部に向かって溶湯を指向性凝固させ易くなり、ネック部に付け根となる位置での引け巣の発生をより効果的に抑制することができる。
【0022】
また、この製造方法によりバルブのボデーを鋳造すると、鋳造後のボデー本体部を堰部において切り離す最小限の加工を施すだけで健全なボデー本体を得ることができ、加工工数を増加させることがない。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明のバルブのボデーの一実施形態を示す外観斜視図である。
【
図2】
図1のバルブのボデーの流路に直角な断面図である。
【
図3】
図1のバルブのボデーをロストワックス法により鋳造する際のワックスツリーの一例を示す図である。
【
図4】(a)は、従来のバルブのボデーの鋳造方法に用いるボデー鋳型の図であり、(b)は、本発明のバルブのボデーの鋳造方法に用いるボデー鋳型の図である。
【
図5】本発明のバルブのボデーの鋳造方法に用いるボデー鋳型内に注湯された溶湯が凝固する過程を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に、本発明におけるバルブのボデーの一実施形態とその製造方法を図面に基づいて詳細に説明する。
図1は、本発明におけるバルブのボデーの一実施形態であるボールバルブのボデー本体の外観を示す斜視図であり、
図2は、
図1のボールバルブのボデー本体の流路に直角な断面図である。
【0025】
図1によると、ボデー本体1は、円筒状のボデー2に対して交差方向に向けて円筒形のネック部3を突出させた軸装部4を有し、ボデー2の円筒表面5には、鋳造時の注湯口の跡(以下の本説明中では、便宜上「堰部6」という。)である堰部6が盛り上がった状態で形成されているとともに、堰部6からネック部3までの間には、円筒表面5から盛り上がった状態の第1領域7が形成されている。
【0026】
また、堰部6は、ネック部3の付け根の部位8よりも幅広に形成されており、第1領域7の幅は、堰部6からネック部3の付け根の部位8に向かって徐々に厚くなるように形成されている。
【0027】
さらに、
図2によると、堰部6からネック部3までの間の第1領域7の部位のボデー2の肉厚は、ボデー2の他の領域の肉厚、少なくともネック部3の付け根の部位8の肉厚よりも厚く形成されており、その厚く形成された状態の第1領域7の部位のボデーの肉厚は、ネック部3の付け根の部位8から堰部6に向かって徐々に厚くなるように形成されている。
【0028】
また、第1領域7を設けたことにより、
図2に示すように、第1領域7の部位のボデー2の肉厚は、ボデー2の他の領域の肉厚よりも厚く、かつ、ネック部3の付け根の部位8から堰部6に向けて徐々に増加すると共に、
図1に示すように、第1領域7の幅もネック部3の付け根の部位8から堰部6に向かって徐々に増加している。
【0029】
従って、第1領域7の部位の肉厚は、ネック部3の付け根の部位8から堰部6に向かって徐々に厚くなるとともに、第1領域7の幅は、ネック部3の付け根の部位8から堰部6に向かって徐々に増加する状態で堰部6に接続している。なお、
図2に表された堰部6は、鋳造後にボデー本体1を湯道から堰部の部位で切り離した際の残りの部分であるから、鋳造時における堰部6の厚みは、第1領域7の部位の肉厚よりもさらに厚い。
【0030】
このように、本発明のバルブのボデーでは、
図2に示すように、第1領域7の部位のボデーの肉厚が、ネック部3の付け根の部位8の肉厚より厚く形成されている結果、第1領域7の部位のボデーの部分は他の部分よりも鋳造時に冷却されにくくなっているため、少なくともネック部3の付け根の部位8が第1領域7を含むボデーの部分よりも早く冷却されることがないので、ネック部3の付け根の部位8が最終凝固部となって引け巣が発生することを抑制することができる。
【0031】
また、ネック部3の付け根の部位8から堰部6に向かって徐々に肉厚及び幅を増加する状態で第1領域7を設けて堰部6に接続しているので、溶湯の冷却時にネック部3の付け根の部位8から堰部6に向けて指向性凝固が促進されて堰部6に溶湯の最終凝固部が発生し易くなるため、ネック部3の付け根の部位8だけでなくボデー本体1の全体で引け巣の発生を抑制することができる。
【0032】
続いて、本発明のバルブのボデーの製造方法について、以上説明したボールバルブ用のボデー本体をロストワックス法による鋳造する場合について図面により説明する。
【0033】
本発明のバルブのボデーの製造方法では、鋳造時の注湯口は、ネック部となる位置とはずらして設けられ、かつ注湯口からネック部の付け根となる位置までの第1領域の溶湯の通り道の高さがそれ以外の領域の高さと比べて高く形成され、注湯口からネック部の付け根の位置に向かって溶湯の通り道の高さを徐々に低くなるように形成されたボデー鋳造用のボデー鋳型を使用する。
【0034】
ロストワックス法によりこのようなボデー鋳型を用いてバルブのボデーを製造する場合には、まず、ボデー本体のワックス原型14を製造する。ワックス原型14は、ボデー本体の表面に設けた鋳造時の注湯口となる堰部を除いて製造すべきボデー本体と同じ形状を有するものであり、所定の金型や中子を用いてパターンワックスにより製造する。
【0035】
このワックス原型14を所要の個数製造した後、
図3に例示するようなワックスツリー11を製造する。ワックスツリー11は、鋳造時の湯口となる部位12と湯道となる部位13を予めパターンワックスにより製造して準備し、ワックス原型14を図示しない堰部を介して湯道となる部位13に電熱コテや接着用ワックスを用いて接合してツリー状としたものである。
【0036】
次いで、このワックスツリー11の表面に型となる材料(セラミック等)を付着させてコーティングしてから乾燥させた後、内部のワックスツリーを高温で溶かして脱ろうし、内部にワックスツリーと同形状の空間を有する型を形成する。その後、必要に応じて型の焼成等を行い、鋳造鋳型を完成させる。この鋳造鋳型には、使用したワックス原型14と同じ数のボデー鋳型が形成されている。
【0037】
このようにして得られた鋳造鋳型に対し、ボデーの原材料(ステンレス、鋳鉄、黄銅合金等)を溶融させた溶湯を湯口から注湯し、湯道及び堰部を介して複数のボデー鋳型のそれぞれに溶湯を流し込む。その後、溶湯が冷却されて凝固したら、振動や打撃等を加えて鋳造鋳型を割って内部の鋳物を取り出すと、ワックスツリーと同一形状の鋳物を得ることができ、この鋳物から堰部の部位で鋳造されたボデーを切り離すと、所定の形状に鋳造されたボールバルブのボデー本体を得ることができる。
【0038】
以上のロストワックス法を含むボデー本体の鋳造においては、湯口から鋳造鋳型内の湯道に溶湯が導入され、堰部を経由してボデー鋳型に溶湯が注湯される。
図4(a)に示す従来のボデー鋳型15では、円筒状のボデーの肉厚が略一定となるように鋳込み空間16が形成され、また、円筒状の軸装部の肉厚も略一定となるように鋳込み空間17が形成されており、鋳込み空間16と鋳込み空間17との接続部は断面L字状の交差部18となる。また、堰部19は、ネック部の付け根となる位置20からボデーの円筒の周方向に90度回転させた位置に設けられる。
【0039】
前述したように、鋳造においては、このような交差部18は冷え固まりにくく、最終凝固部となり易いため、最終凝固部には引け巣21等の鋳造欠陥が発生しやすい傾向がある。これは、溶湯が冷却されて凝固が始まると、その体積が収縮するため、その収縮分が周囲の溶湯から補われることになるが、溶湯の凝固が進むにつれて順次同様の現象が生じるため、最後に凝固する最終凝固部では、周囲から溶湯を補うことができないため、収縮した分が空隙として残るためである。
【0040】
これに対し、本発明のバルブのボデーの製造方法では、
図4(b)に示すとおり、鋳造時の注湯口(堰部26)は、ネック部の付け根となる位置27とはずらして設けられ、かつ注湯口からネック部の付け根となる位置27までの第1領域30部分の注湯の通り道(鋳込み空間)31の高さがそれ以外の領域の鋳込み空間の高さと比べて高く形成され、注湯口からネック部の付け根となる位置27に向かって溶湯の通り道31の高さが徐々に低くなるように形成したボデー鋳型25を使用する。
【0041】
このため、堰部26からボデー鋳型25内の鋳込み空間に溶湯が注湯され、その後順次溶湯が冷却されて凝固する際に、ネック部の付け根となる部位27から堰部26に向かって溶湯の指向性凝固を促進することができる。その結果、従来は最終凝固部となり易かった交差部が最終凝固部とならないため、この部分で生じ易かった引け巣等の鋳造欠陥の発生を抑制することが可能となる。
【0042】
これに加え、本発明のバルブのボデーの製造方法で使用するボデー鋳型25では、堰部26は、ネック部の付け根となる部位27からボデーの円筒の周方向に90度回転させた位置よりもネック部の付け根となる部位置27方向に寄せて設けている。このように堰部26をネック部の付け根となる部位27に近づけて設けることにより、ボデー鋳型25への注湯口である堰部26からネック部の付け根となる部位27の鋳込み空間に素早く溶湯を送り込んで、他の部分よりも早く溶湯を凝固させることができると共に、凝固による収縮の際に堰部26からネック部への溶湯の補充が有利であるので、ネック部の付け根となる位置27での引け巣の発生をより抑制し易くなる。
【0043】
特に、本発明のバルブのボデーの製造方法で使用するボデー鋳型25では、ネック部の付け根となる部位27以外には目立った交差部が存在しないため、最も厚みが大きい堰部26が最終凝固部となり易く、引け巣等の鋳造欠陥を堰部26に発生させることができる。このため、溶湯が完全に凝固した後、鋳造鋳型から鋳物を取出してから各ボデー本体を鋳物から切り離す際に、ボデー本体に残る堰部に引け巣が残らないように堰部の部位で切り離せば、高精度に鋳造されたボデー本体を得ることができる。
【0044】
ロストワックス法では、同一の金型等を用いてワックス原型を製作するので、全てのワックス原型の堰部は、ネック部の付け根となる位置からボデーの円筒の周方向に90度回転させた位置よりもネック部の付け根方向に寄せて設けられることになり、鋳造する全てのボデーのネック部の付け根の部位に素早く溶湯を送り込み、他の部位よりも早く溶湯を凝固させることができるので、ネック部の付け根の部位での引け巣の発生を抑制し易くなる。
【0045】
以下、
図5(a)~(e)により、ボデー鋳型25に注湯された溶湯が凝固する過程をより詳しく説明する。図中、右上から左下方向の斜線でハッチングを施した部分は、溶湯が未だ凝固していない部分を表し、左上から右下方向の斜線でハッチングを施した部分は、溶湯が冷却されて凝固した部分を表す。
【0046】
(a)に示すように、図示しない鋳造鋳型の湯道からボデー鋳型25への注湯口である堰部26を経由して矢印32で示すようにボデー鋳型25内に溶湯を注湯すると、溶湯はボデー鋳型25内の溶湯の通り道31、33を通ってボデーの鋳型25の底部側に向けて矢印34、35が示すように流入する。
【0047】
次いで、(b)に示すように、ボデー鋳型25の底部側に流入した溶湯37は冷却されて凝固するので、矢印38で模式的に示す様に鋳型の底部側に向かって順次収縮する。
【0048】
(c)に示すように、ボデー鋳型25内の鋳込み空間と堰部26の全てに溶湯が注湯された状態では、ボデー鋳型25内の溶湯の通り道31の高さがそれ以外の領域の高さと比べて高く形成され、注湯口である堰部26からネック部の付け根の部位27に向かって溶湯の通り道31の高さが徐々に低くなるように形成されているため、ボデー鋳型25内に注湯された溶湯はネック部の付け根の部位27から堰部26に向かった指向性凝固が促進される。
【0049】
また、特に、厚み方向で見れば、溶湯は表裏面(鋳型との接触面)付近から凝固し、厚み方向の中央付近が最後に凝固する。そのため、ネック部の付け根となる部位27の交差部においては、外側から先に凝固が進んで中心付近が閉ざされてしまうことがある。こうなると、堰部26からこの中心付近への溶湯の補充ができなくなり、引け巣が発生する。これに対し、本発明は、ネック部の付け根の部位27から堰部26に向かって溶湯の通り道31の高さが徐々に高くなるため、交差部の中心付近が凝固領域に閉ざされた状態になりにくく、引け巣の発生を抑制し易くなる。
【0050】
この結果、堰部26を含むボデー鋳型25の上側の鋳込み空間には未だ凝固していない溶湯40が残るが、その下側の鋳込み空間の溶湯41は順次凝固する際に矢印43で模式的に示す様に鋳型の底部側に向かって収縮する。このように、堰部26では溶湯の凝固が最も遅くなって最終凝固部となるため、堰部26内の溶湯40は、堰部26からボデー鋳型25内の凝固部に移動してその収縮分を補うことになる。
【0051】
(d)に示すように、ボデー鋳型25内の溶湯が冷却されて完全に凝固した状態では、最終凝固部となった堰部26には周囲から溶湯を補うことができなかった結果、堰部26の上部に引け巣45、ブローホール46等の鋳造欠陥が発生する。
【0052】
しかしながら、鋳造されたボデー本体を切断線47で堰部26において切り離すことにより、鋳造欠陥が発生した部位はボデー本体に含まれなくなるので、(e)に示すように、鋳造欠陥がない健全なボデー本体を得ることができる。
【0053】
このように、本発明のバルブのボデーの製造方法によれば、従来、ネック部の付け根の部位(交差部)では、鋳造時の溶湯の凝固が周囲よりも遅くなるために引け巣等の鋳造欠陥が発生し易かった問題を、ネック部の付け根の部位から堰部に向けて指向性凝固を促進する第1領域をボデーの円筒表面に設けることにより解決したので、鋳造後のボデー本体を堰部で切り離すだけでそれ以上の追加加工を施すことなく、高精度に鋳造されたボデー本体を得ることができる。
【0054】
本発明のバルブのボデーを製造するための金属材料は、鋳造可能な金属材料であれば特に制限されないが、特に、ステンレス鋼は、金属材料の中でも高温で鋳造を行う必要があるために鋳型内で直ぐに冷却されて凝固しやすく、また、冷却凝固時に黒鉛の晶出による体積膨張がほとんどないため、最終凝固部で引け巣が発生しやすい金属材料であるため、本発明のバルブのボデー及び製造方法を適用する金属材料として特に有効である。
【0055】
なお、本発明の製造方法の説明において、ロストワックス法による鋳造を例に挙げて説明したが、本発明の製造方法は、ロストワックス法以外の鋳造方法によりバルブのボデーの製造を行う場合にも、ネック部の付け根の部位に引け巣の発生を防止するためには、同様に有効である。
【0056】
また、バルブのボデー形状も、本実施形態のようなワンピース型に限らず、ツーピースそれ以上の型においても、交差部が最終凝固部にならないように、注湯口から交差部までの厚みを交差部に向けて徐々に薄くなるようにすることで、同様に引け巣の発生を抑制することが可能となる。
【0057】
さらに、上述した例においては、第1領域において、堰部からネック部の付け根の部位に向かって肉厚が徐々に薄くなり、且つ幅が徐々に狭くなる例を挙げたが、必ずしもこの両方を満たす必要はなく、肉厚が徐々に薄くなるだけであっても良いし、幅が徐々に狭くなるだけであっても良い。あるいは、第1領域の断面積が、堰部からネック部に向かって徐々に小さくなる条件を満たせば、第1領域の肉厚が徐々に薄くなったり、幅が徐々に狭くなったりしていなくても、ネック部の付け根の部位における引け巣の発生を抑制できる場合もある。
【符号の説明】
【0058】
1、ボデー本体
2 ボデー
3 ネック部
4 軸装部
5 円筒表面
6 堰部の跡
7 第1領域
8 ネック部の付け根の部位