(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】電気式脱イオン水製造装置の運転方法及び脱イオン水製造システム
(51)【国際特許分類】
C02F 1/469 20230101AFI20240918BHJP
B01D 61/48 20060101ALI20240918BHJP
B01D 61/44 20060101ALI20240918BHJP
B01D 61/08 20060101ALI20240918BHJP
B01D 61/58 20060101ALI20240918BHJP
C02F 1/70 20230101ALI20240918BHJP
【FI】
C02F1/469
B01D61/48
B01D61/44 520
B01D61/08
B01D61/58
C02F1/70 Z
(21)【出願番号】P 2020114758
(22)【出願日】2020-07-02
【審査請求日】2023-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004400
【氏名又は名称】オルガノ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123788
【氏名又は名称】宮崎 昭夫
(74)【代理人】
【識別番号】100127454
【氏名又は名称】緒方 雅昭
(72)【発明者】
【氏名】柴崎 賢治
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 慶介
【審査官】黒木 花菜子
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-125449(JP,A)
【文献】特開平11-165176(JP,A)
【文献】特開平11-114576(JP,A)
【文献】特開2018-089587(JP,A)
【文献】特開2009-226315(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/469
B01D 61/48
B01D 61/44
B01D 61/08
B01D 61/58
C02F 1/70
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
脱塩室、濃縮室及び電極室を備え、前記脱塩室から脱イオン水を排出する電気式脱イオン水製造装置の運転方法であって、
前記脱塩室、前記濃縮室及び前記電極室から排出された水を回収してタンクに蓄え、
前記脱イオン水を外部に排出しない待機運転を行なうときに、前記電気式脱イオン水製造装置に直流電圧を印加しつつ、前記タンクに蓄えられた水を前記電気式脱イオン水製造装置に供給することによって前記タンクと前記電気式脱イオン水製造装置との間で水を循環させながら前記電気式脱イオン水製造装置を運転し、
かつ、前記電極室から排出される水の少なくとも一部を還元処理してから前記タンクに回収
し、
前記還元処理は、前記電極室から排出される水の少なくとも一部を白金族金属触媒担持樹脂に通水する処理であり、
前記待機運転を行っているときにおいて前記電極室から排出されて前記白金族金属触媒担持樹脂に供給される水における炭酸濃度を1.6mg-CO
2
/L以下とする、運転方法。
【請求項2】
前記待機運転を行っているときにおいて前記脱塩室から排出される脱イオン水の一部を陽極室に供給する、請求項
1に記載の運転方法。
【請求項3】
前記待機運転を行っているときにおいて前記タンクから前記電気式脱イオン水製造装置に供給される水を冷却する、請求項
1または2に記載の運転方法。
【請求項4】
前記待機運転を行っているときにおいて、前記タンクに蓄えられた水を逆浸透装置に供給して前記逆浸透装置から排出される透過水を前記電気式脱イオン水製造装置に供給し、前記逆浸透装置から排出される濃縮水を前記タンクに回収する、請求項1乃至
3のいずれか1項に記載の運転方法。
【請求項5】
被処理水から脱イオン水を生成する脱イオン水製造システムであって、
被処理水が供給されるタンクと、
脱塩室、濃縮室及び電極室を備え、前記脱塩室から脱イオン水を排出する電気式脱イオン水製造装置と、
白金族金属触媒担持樹脂を備えて前記電極室から排出される水の少なくとも一部が通水される還元手段と、
前記脱塩室、前記濃縮室及び前記電極室から排出された水を回収して前記タンクに循環させる配管と、
を備え、
前記電気式脱イオン水製造装置において前記脱イオン水を外部に排出しない待機運転を行なうときに、前記電気式脱イオン水製造装置に直流電圧を印加しつつ、前記タンクに蓄えられた水を前記電気式脱イオン水製造装置に供給することによって前記タンクと前記電気式脱イオン水製造装置との間で水を循環させることが可能であって、
前記電気式脱イオン水製造装置の前段に設けられた脱炭酸設備に通水することにより、または、前記脱塩室から排出される脱イオン水の一部を前記電極室に供給することにより、前記電極室から排出されて前記還元手段に供給される水における炭酸濃度が1.6mg-CO
2/L以下とされる脱イオン水製造システム。
【請求項6】
前記タンクから前記電気式脱イオン水製造装置に水を供給する配管に設けられた冷却手段をさらに有する、請求項
5に記載の脱イオン水製造システム。
【請求項7】
前記タンクに蓄えられた水が供給される逆浸透装置と、
前記逆浸透装置から排出される濃縮水を前記タンクに回収する配管と、
をさらに備え、
前記逆浸透装置から排出される透過水が前記電気式脱イオン水製造装置に供給される、請求項
5または6に記載の脱イオン水製造システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気式脱イオン水製造装置(EDI(Electro Deionization)装置)の運転方法とEDI装置を有する脱イオン水製造システムとに関する。
【背景技術】
【0002】
被処理水から脱イオン水を生成するEDI装置は、純水製造などにおいて広く用いられている。EDI装置は、一対のイオン交換膜の間に、例えばアニオン交換膜とカチオン交換膜との間に、イオン交換樹脂などからなるイオン交換体を充填して脱塩室を構成し、イオン交換膜を挟んで脱塩室の外側に濃縮室を配置し、脱塩室とその両側の濃縮室とからなるものを基本構成としてこの基本構成を1または複数、陽極と陰極との間に配置したものである。陽極及び陰極もそれぞれ陽極室及び陰極室の内部に配置されることが多く、陽極室と陰極室とを総称して電極室と呼ぶ。濃縮室や電極室の内部にもイオン交換樹脂などのイオン交換体を配置してもよい。陽極と陰極との間に電圧を印加しつつ脱塩室に被処理水を通水することにより、脱塩室から脱イオン水が排出される。このとき各濃縮室及び各電極室にも通水する必要がある。濃縮室を通過して排出される水を濃縮水と呼び、電極室を通過して排出される水を電極水と呼ぶ。EDI装置の運転には脱イオン水を生成するために脱塩室に供給される水のほかに大量の水を必要とするので、EDI装置から排出される水を回収してEDI装置において再度使用することが望まれる。
【0003】
特許文献1は、EDI装置における脱塩室から得られる脱イオン水の一部を電極室に供給するとともに、電極室から排出される電極水をタンクに回収したり濃縮室に供給することによって、EDI装置における水回収率を向上させることを開示している。
【0004】
EDI装置の陽極室から排出される陽極水には、陽極での電極反応によって生成する次亜塩素酸、次亜臭素酸、塩素などの酸化性物質が含まれることがあり、陽極水をEDI装置に循環させるときにこの酸化性物質は、EDI装置内のイオン交換膜やイオン交換体などの機能材に悪影響を与えるおそれがある。特許文献2は、濃縮室の内部にイオン交換体を配置しないEDI装置において、陽極水を酸化性物質除去設備で処理した上で、陰極水とともに濃縮水の循環ラインに回収して濃縮室及び電極室に供給し、これにより濃縮室内でのイオン濃度を高めてEDI装置の運転電圧を低下させることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-226315号公報
【文献】特開平11-165176号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載された方法では、陽極での電極反応によって生じる酸化性物質が除去されないまま陽極水がEDI装置に循環されるので、EDI装置において使用されているイオン交換膜やイオン交換樹脂などの機能材が酸化性物質によって劣化する恐れがある。一方、特許文献2に記載のEDI装置では、濃縮室内にはイオン交換体が充填されておらず、濃縮室内でのイオン濃度を高めるために濃縮水を常に循環させる構成であるので、濃縮水中のイオン濃度、特にカルシウムイオン(Ca2+)やマグネシウムイオン(Mg2+)の濃度が高くなりすぎてスケールが発生するリスクが高まり、装置の安定的な運転が阻害される。スケールの発生を防止するためには、濃縮水の循環系から濃縮水の一部を装置外にブローする操作あるいは補給水を追加する操作などが必要となる。これらの操作は、結局、濃縮水の一部を廃棄する操作に他ならないから、EDI装置としての水回収率を低下させる。
【0007】
本発明の目的は、電気式脱イオン水製造装置(EDI装置)に用いられるイオン交換膜やイオン交換樹脂などの機能材の劣化を防ぎつつ水回収率を向上させることができるEDI装置の運転方法と、そのような運転方法でEDI装置を動作させることが可能な脱イオン水製造システムとを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電気式脱イオン水製造装置の運転方法は、脱塩室、濃縮室及び電極室を備え、脱塩室から脱イオン水を排出する電気式脱イオン水製造装置の運転方法であって、脱塩室、濃縮室及び電極室から排出された水を回収してタンクに蓄え、脱イオン水を外部に排出しない待機運転を行なうときに、電気式脱イオン水製造装置に直流電圧を印加しつつ、タンクに蓄えられた水を電気式脱イオン水製造装置に供給することによってタンクと電気式脱イオン水製造装置との間で水を循環させながら電気式脱イオン水製造装置を運転し、かつ、電極室から排出される水の少なくとも一部を還元処理してからタンクに回収する。還元処理は、電極室から排出される水の少なくとも一部を白金族金属触媒担持樹脂に通水する処理であり、待機運転を行っているときにおいて電極室から排出されて白金族金属触媒担持樹脂に供給される水における炭酸濃度を1.6mg-CO
2
/L以下とする。
【0009】
本発明の脱イオン水製造システムは、被処理水から脱イオン水を生成する脱イオン水製造システムであって、被処理水が供給されるタンクと、脱塩室、濃縮室及び電極室を備え、脱塩室から脱イオン水を排出する電気式脱イオン水製造装置と、白金族金属触媒担持樹脂を備えて電極室から排出される電極水の少なくとも一部が通水される還元手段と、脱塩室、濃縮室及び電極室から排出された水を回収してタンクに循環させる配管と、を備え、電気式脱イオン水製造装置において脱イオン水を外部に排出しない待機運転を行なうときに、電気式脱イオン水製造装置に直流電圧を印加しつつ、タンクに蓄えられた水を電気式脱イオン水製造装置に供給することによってタンクと電気式脱イオン水製造装置との間で水を循環させることが可能であって、電気式脱イオン水製造装置の前段に設けられた脱炭酸設備に通水することにより、または、脱塩室から排出される脱イオン水の一部を電極室に供給することにより、電極室から排出されて還元手段に供給される水における炭酸濃度が1.6mg-CO2/L以下とされる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電気式脱イオン水製造装置(EDI装置)に用いられるイオン交換膜やイオン交換樹脂などの機能材の劣化を防ぎつつ水回収率を向上させることができるEDI装置の運転方法と、そのような運転方法でEDI装置を動作させることが可能な脱イオン水製造システムとを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】脱イオン水製造システムの構成の一例を示す図である。
【
図2】脱イオン水製造システムの構成の別の例を示す図である。
【
図3】脱イオン水製造システムの構成のさらに別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明の実施の一形態の電気式脱イオン水製造装置(EDI装置)の運転方法が適用される脱イオン水製造システムの構成の一例を示している。
【0013】
図1に示す脱イオン水製造システムは、被処理水から脱イオン水を生成するために用いられるものであって、被処理水が供給されるタンク10と、脱イオン水を生成するEDI装置40とを備えている。EDI装置40は、一対のイオン交換膜で仕切られて内部にイオン交換体が充填された脱塩室41と、イオン交換膜を挟んで脱塩室41に隣接して設けられる濃縮室42とを交互に配置し、さらに脱塩室41と濃縮室42を交互に配置したものを陽極と陰極との間に配置したものである。本実施形態では、陽極及び陰極はそれぞれ陽極室及び陰極室に設けられているものとする。本実施形態で用いるEDI装置40としては、電極室43すなわち陽極室及び陰極室を備えるものであれば、適宜の構成のものを用いることができる。
【0014】
本実施形態では、電極室を有することを除けばEDI装置40の構成に制約はないので、図では、脱塩室41、濃縮室42及び電極室43を有するものとして、実際の構成によらずに簡略化してEDI装置40を描いている。
【0015】
EDI装置40は、印加電界によるイオン交換膜を介したイオンの移動や水の解離に基づいて動作する装置である。そのためEDI装置40では、陽極と陰極との間への直流電圧の印加を停止した場合、好ましくない方向にイオンが移動したりして装置の再立ち上げに多大な時間を要するようになる。安定した水質の脱イオン水を需要に応じて随時供給できるようにするため、EDI装置40は、脱イオン水に対する需要がないときであっても待機運転として運転を継続することが多い。待機運転中においても陽極と陰極との間に直流電圧は印加され、脱塩室41、濃縮室42及び電極室43には水が供給される。本発明に基づく運転方法は、待機運転においてEDI装置40に水を循環させることによりシステム外に排出される水の量をできるだけゼロに近づけて、システム全体としての水の消費量を削減しようとするものである。したがって、
図1は、待機運転時の水の流れによって脱イオン水製造システムを示している。
【0016】
図1に示す脱イオン水製造システムでは、タンク10に蓄えられている水が配管を介してEDI装置40の脱塩室41、濃縮室42及び電極室43に供給される。タンク10からEDI装置40に水を供給する配管には、熱交換器20が設けられ、熱交換器20とEDI装置40との間には逆浸透(RO)装置30が設けられている。逆浸透装置30は逆浸透膜31を備えており、タンク10から供給された水のうち逆浸透膜を透過した水すなわちRO透過水がEDI装置40に供給される。逆浸透膜31を透過せずに逆浸透装置30から排出される水すなわちRO濃縮水は、EDI装置40が待機運転中であればタンク10に回収される。EDI装置40の脱塩室41、濃縮室42及び電極室43からはそれぞれ脱イオン水、濃縮水及び電極水が排出される。EDI装置40が待機運転中であるときは、脱イオン水及び濃縮水は配管を介してそのままタンク10に回収される。
【0017】
電極水には電極室43、特に陽極室における電極反応により酸化性物質が含まれている可能性がある。酸化性物質は、EDI装置40を構成するイオン交換体やイオン交換樹脂などの機能材に悪影響を及ぼす恐れがあり、また、逆浸透装置30の逆浸透膜31にも悪影響を及ぼす恐れがある。酸化性物質による機能材への悪影響は、待機運転中に水を循環させることにより循環する水における酸化性物質の濃度が高まることによって増大する。ここで示す脱イオン水製造システムでは、待機運転中において電極室43から排出される電極水もEDI装置40に循環させることとするが、酸化性物質による悪影響の恐れを低減するために電極室43から排出される電極水の少なくとも一部を還元手段に通水させ、還元手段を通過することによって電極水中の酸化性物質が分解除去されるようにしている。
【0018】
還元手段は、還元処理を行うことによって酸化性物質を除去するものである。電極室43から排出される酸化性物質の大半は、過酸化水素であると考えられる。従来から、被処理水中の過酸化水素を還元処理により低減する方法として、還元剤を添加する方法、活性炭と接触させる方法、金属を担持した樹脂と接触させる方法などが知られている。還元剤を添加する方法では、過酸化水素を含む被処理水に、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどの還元剤を添加する。還元剤と過酸化水素との反応速度は非常に速く、確実に過酸化水素を分解除去することが可能であるが、還元剤の添加量を制御することが難しく、また、過酸化水素を確実に除去するためには過剰量の還元剤の添加が必要であるため、還元剤が液中のイオン量を増加させ、水質悪化を招きかねない。また、活性炭と接触させる方法では、通常、活性炭の充填塔を設置して通水するが、反応速度が遅いために、通水空間速度を高くすることができず、装置が大型化する問題がある。また、活性炭は、過酸化水素の分解に伴って、自身も酸化されて粒子の崩壊が起こる懸念がある。
【0019】
これに対して金属を担持した樹脂に接触させる方法は、過酸化水素をはじめとする酸化性物質を効率的に分解除去できるとともに、活性炭を用いる場合に比べて金属担持樹脂の交換周期を長くできるという利点を有する。そして金属担持樹脂の中でも、白金族金属触媒担持樹脂は、酸化性物質を分解除去する効率が特に高い。白金族金属触媒担持樹脂は、イオン交換体などの樹脂、例えば、強塩基性アニオン交換樹脂の表面に、酸化性物質の分解触媒となる白金族金属の粒子を担持させたものである。ここでいう白金族とは、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)及び白金(Pt)のことである。白金族金属触媒担持樹脂では、これらの白金族金属の1つを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。本実施形態では、電極室43から排出される電極水の少なくとも一部が通水される還元手段として白金族金属触媒担持樹脂50(図では「Pt族樹脂」と表記)を使用している。入手可能性やコストの観点からは、白金族金属触媒担持樹脂50としては、樹脂、例えば強塩基性アニオン交換樹脂の表面にパラジウムを担持したものを使用することが好ましい。
【0020】
電極室43は陰極室と陽極室とを含むが、陽極室から排出される電極水すなわち陽極水の全量が白金族金属触媒担持樹脂50を通水するようにすることが好ましい。さらには、陰極室から排出される電極水すなわち陰極水が陽極室に供給されるようにした上で、陽極室から排出される陽極水が白金族金属触媒担持樹脂50を通水するように構成することもできる。あるいは、陽極室から排出される陽極水を陰極室に供給し、陰極室から排出される陰極水が白金族金属触媒担持樹脂50を通水するようにしてもよい。陽極水と陰極水とを混合して白金族金属触媒担持樹脂50に通水させてもよい。白金族金属触媒担持樹脂50を通水した電極水はタンク10に回収される。また白金族金属触媒担持樹脂50を通水しなかった電極水が存在する場合であっても、その電極水もタンク10に回収される。
【0021】
結局、
図1に示す脱イオン水製造システムでは、EDI装置40の脱塩室41、濃縮室42及び電極室43から排出された水を回収してタンク10に循環させる配管が設けられている。そしてこの脱イオン水製造システムでは、EDI装置40が待機運転であるときには、電極室43から排出される電極水の少なくとも一部が白金族金属触媒担持樹脂50に通水されるともに、脱塩室41、濃縮室42及び電極室43から排出された水の実質的に全量をタンク10に回収して蓄え、タンク10に蓄えられた水をEDI装置40すなわち脱塩室41、濃縮室42及び電極室43に供給する。これにより待機運転では、タンク10とEDI装置40との間で水を循環させる。
【0022】
図1に示す構成では、EDI装置40が待機運転を行っているときは脱イオン水製造システムの外部に排出される水は存在しないから、待機運転中に外部から脱イオン水製造システムに対して被処理水を供給する必要もなく、待機運転中の水の使用量を大きく削減することができる。水を循環させると循環に用いるポンプの発熱によって水温が上昇するが、タンク10の出口に冷却手段である熱交換器20を設けているので、EDI装置40への供給水温の上昇を防止することができる。熱交換器20を設けない構成とすることも可能である。外部との間で水の出入りがないことから、脱イオン水製造システム内を循環する不純物量が増加することはなく、循環する水における不純物濃度は変動しない。したがって、EDI装置40が待機運転からユースポイントに脱イオン水を供給する脱イオン水供給運転に切り替わったときに、ユースポイントに実際に供給される脱イオン水の水質を良好なものとすることができる。また、待機運転中に例えばEDI装置40の内部にスケールが発生するおそれを低減することができる。
【0023】
図1に示した脱イオン水製造システムはタンク10とEDI装置40との間に逆浸透装置30が設けられているが、タンク10とEDI装置40との間に逆浸透装置30を設けない構成とすることもできる。
図2に示す脱イオン水製造システムは、タンク10とEDI装置40との間に逆浸透装置30が設けられておらず、熱交換器20からの水がそのままEDI装置40に供給される点で、
図1に示したものと異なっている。タンク10とEDI装置40との間に逆浸透装置を設けない場合、外部から供給される被処理水をタンク10に供給する経路に逆浸透装置を設けてもよい。
【0024】
後述する実施例から明らかになるように、溶存炭酸の存在下では白金族金属触媒担持樹脂50による酸化性物質の除去効率が低下する。溶存炭酸は、例えば大気中の二酸化炭素が溶解することによって生ずる。白金族金属触媒担持樹脂50による酸化性物質の除去効率を高めるためには、白金族金属触媒担持樹脂50に通水する前の段階で電極水中の炭酸濃度を低下させることが好ましい。溶存炭酸を除去するために脱炭酸膜などの脱炭酸設備を例えばEDI装置40の前段に設けることも考えられる。また、EDI装置40から排出される水のうち、脱イオン水における溶存炭酸濃度は比較的低い。そこで、
図3に示した脱イオン水製造システムでは、
図2に示す脱イオン水製造システムにおいて、タンク10に蓄えられた水を熱交換器20を介して脱塩室41及び濃縮室42に供給し、電極室43には脱塩室41から排出される脱イオン水の一部を供給している。この場合、電極室43に脱イオン水が供給されるので、電極室43から排出される電極水における溶存炭酸濃度を低くすることができ、白金族金属触媒担持樹脂50における酸化性物質の除去率を向上させることができる。脱イオン水を陽極室のみに供給し、陰極室にはタンク10に蓄えられた水が供給されるようにしてもよい。さらには、脱イオン水を陰極室に供給し、陰極室から排出される陰極水を陽極室に供給することによっても、白金族金属触媒担持樹脂50に通水される電極水における溶存炭酸濃度を低くすることができる。
【0025】
次に、脱イオン水製造システムにおける待機運転と脱イオン水供給運転について説明する。
図4は待機運転を説明する図であり、(a)は本発明に基づく運転方法による脱イオン水製造システムでの待機運転を説明し、(b)は、白金族金属触媒担持樹脂50を備えずに電極水をブローする場合の待機運転を示している。
図4(a)、
図4(b)のいずれの場合であっても、待機運転中はEDI装置40の陽極と陰極との間には直流電圧が印加されている。なお、図ではEDI装置40の脱塩室41、濃縮室42及び電極室43をそれぞれ「D」、「C」及び「E」で示している。
図4(a)に示す脱イオン水製造システムは、
図1に示したものと同様のものである。図では熱交換器20を示していない。
図4(b)に示す脱イオン水製造システムは、先行技術のものであって、逆浸透装置を設けずに、タンク10に蓄えられた水がEDI装置40に直接供給されるようにしたものである。
【0026】
図4(a)に示すように本発明に基づく運転方法では、EDI装置40が待機運転中であるときには、脱塩室41から排出される脱イオン水と濃縮室42から排出される濃縮水とがタンク10に回収され、電極室43から排出される電極水は、白金族金属触媒担持樹脂50によって酸化性物質を除去されてからタンク10に回収される。タンク10に蓄えられた水は、逆浸透装置30を介して脱塩室41、濃縮室42及び電極室43に供給される。逆浸透装置30からのRO濃縮水はタンク10に回収される。待機運転では脱イオン水製造システムの外部との水の出入りがないので、システム内の水の総量は一定であり、イオン性不純物などの不純物の総量は一定である。ただし、RO濃縮水には相当量の不純物が含まれているので、必要に応じてRO濃縮水の一部を一時的に外部にブローしてもよい。
【0027】
図4(b)に示すように白金族金属触媒担持樹脂50を設けない場合には、電極室43から排出される電極水に含まれる酸化性物質がEDI装置40内などの機能材に悪影響を及ぼすことを防ぐため、脱イオン水及び濃縮水はタンク10に回収されるものの、電極水は外部にブローされる。電極室43内にイオン交換樹脂などのイオン交換体が設けられているとすると、外部にブローされる電極水は酸化性物質を含むもののイオン性不純物をほとんど含まないことになる。したがって、脱イオン水製造システム内のイオン性不純物の総量はほぼ一定であるのに対しシステム内の水の総量はブローした分だけ減少するから、システム内でのイオン性不純物の濃度が上昇する。このような濃度上昇はスケールの発生をもたらすおそれがある。ブローしたことによってシステム外に排出された水を補うためにタンク10に被処理水を供給してもよいが、タンク10に供給される被処理水に含まれるイオン性不純物の分だけ、システム内のイオン性不純物の総量が増加するから、これもまたスケール発生の要因となりうる。
【0028】
図4(a)及び
図4(b)に示したものを比較すると分かるように、本発明に基づく運転方法によって待機運転を実施した場合には、電極水に含まれる酸化性物質によってイオン交換体などの機能材が悪影響を受けることを防ぎ、また、スケールの発生などを防ぎながら、脱イオン水製造システムに対する水の補充量を大幅に減少させることができる。
【0029】
図5は脱イオン水供給運転を説明する図であり、(a)は白金族金属触媒担持樹脂50を備えて本発明に基づく運転方法を実施可能な脱イオン水製造システムでの脱イオン水供給運転を説明し、(b)は、白金族金属触媒担持樹脂50を備えずに電極水をブローする場合の脱イオン水供給運転を示している。
図5(a)及び(b)に示す脱イオン水製造システムは、それぞれ、
図4(a)及び(b)に示す脱イオン水製造システムと同様の構成のものである。
【0030】
図5(a)に示すように白金族金属触媒担持樹脂50を備える場合には、脱イオン水供給運転では、濃縮室42から排出される濃縮水は、外部にブローしてもよいし、タンク10に回収することにより循環させてもよい。
図5(a)は、濃縮水を循環させる場合を示している。電極室43から排出される電極水は白金族金属触媒担持樹脂50によって酸化性物質を除去されてからタンク10に回収される。脱塩室41から排出される脱イオン水は、ユースポイントである脱イオン水タンクに供給される。タンク10に蓄えられた水は、逆浸透装置30を介して脱塩室41、濃縮室42及び電極室43に供給される。脱イオン水がタンク10に回収されない分、
図4(a)に示すものに比べてタンク10に回収される水での不純物濃度が高まっている。そこで脱イオン水供給運転では、逆浸透装置30からのRO濃縮水を外部にブローして、システム内を循環する水の不純物濃度が過度に高まらないようにしている。脱イオン水タンクに供給された脱イオン水とブローされたRO濃縮水の分だけシステム内の水の総量が低下するから、必要に応じてタンク10に被処理水を供給する。
【0031】
図5(b)に示すように白金族金属触媒担持樹脂50を設けない場合には、上記と同じ理由によって電極室43から排出される電極水は外部にブローされる。脱塩室41から排出される脱イオン水は、ユースポイントである脱イオン水タンクに供給される。濃縮室42から排出される濃縮水は、外部にブローしてもよいが、循環させることも可能である。濃縮水を循環させる場合、その不純物濃度が高いのでタンク10に回収することは好ましくない。タンク10の前段に例えば逆浸透装置が設けられているのであれば、その逆浸透装置の前段に濃縮水は戻される。脱イオン水の供給と電極水のブローとによってタンク10の水位が低下すれば、被処理水が、タンク10の前段に設けられた逆浸透装置を介してタンク10に供給される。
【0032】
以上説明したように、本発明に基づく運転方法によれば、全く水を捨てないでEDI装置40の待機運転を行うことが可能となる。タンク10とEDI装置40との間で循環する水におけるイオン性不純物の濃度は変動せず、スケール発生のおそれを低減することができる。待機運転中にもEDI装置40の陽極と陰極との間に直流電圧を印加することができ、EDI装置40を連続運転することができて、待機運転から脱イオン水供給運転に切り替えるタイミングにおいても安定した品質の脱イオン水を供給できる。
【0033】
以下、具体的な動作例によって本発明に基づく運転方法を説明する。
図6は動作例1を説明するものであり、(a)は待機運転の開始時、(b)は所定の時間が経過した後の脱イオン水製造システムを示している。動作例1では、タンク10とEDI装置40とを用いて
図4(b)を用いて説明したものと同じ脱イオン水製造システムを用いる場合、すなわち、本発明の運転方法によらずにEDI装置40を運転する場合を説明する。脱イオン水と濃縮水をタンク10に回収する一方で電極水をブローすると、運転開始からの時間の経過に応じてタンク10内の液量が低下する。そこで、タンク10の水位が最大貯水量の半分にまで低下したら、その時点において最大貯水量に達するまで上記の模擬水をタンク10に補充する。このような運転を行うと、水温の変動は見られないが、タンク10内の水位が最大貯水量の半分となるときに極大値となるように、タンク10内の水の導電率が上昇する。導電率の上昇は、不純物であるイオン濃度の上昇を示している。
【0034】
図7は動作例2を説明するものであり、(a)は待機運転の開始時、(b)は所定の時間が経過した後の脱イオン水製造システムを示している。動作例2では、
図2を用いて説明したものと同じ脱イオン水製造システムを用いるが、熱交換器20は設けていないものとして、本発明に基づく運転方法を実施する場合を説明する。運転開始から時間が経過しても、タンク10内の液量は変化せず、水質も一定であるが、水を循環させるためのポンプの発熱などにより水温が上昇する。
【0035】
図8は動作例3を説明するものであり、(a)は待機運転の開始時、(b)は所定の時間が経過した後の脱イオン水製造システムを示している。シミュレーション例3では、
図2を用いて説明したものと同じ脱イオン水製造システムを用いて、本発明に基づく運転方法を実施する場合を説明する。運転開始から時間が経過しても、タンク10内の液量は変化せず、水質も一定である。また、熱交換器20を設け、循環する水の冷却を行っているので、水温も一定である。
【実施例】
【0036】
(実施例1-1,1-2,1-3)
以下、実施例により、本発明をさらに詳しく説明する。本発明において、EDI装置40の電極室43の出口に接続されて電極水が通水する白金族金属触媒担持樹脂50は、電極反応などによって生じて電極水に含まれることとなった酸化性物質を除去するために設けられている。本発明者らは、白金族金属触媒担持樹脂による酸化性物質の除去性能は、共存する溶存二酸化炭素(すなわち炭酸)の濃度に依存することを見出した。炭酸は大気中から水に溶け込むものと考えられる。そこで、白金族金属触媒担持樹脂として、強塩基性アニオン交換樹脂の表面にパラジウム粒子を担持させたものすなわちパラジウム担持樹脂を使用し、溶存炭酸の濃度に応じた酸化性物質の除去率について調べた結果を説明する。酸化性物質である過酸化水素(H2O2)を含有する水を被処理水として用い、体積が200mlであるパラジウム担持樹脂に対してSV 500h-1の流量、すなわち、100L/時間の流量で被処理水を通水し、48時間の経過後にパラジウム担持樹脂から排出される水すなわち処理水における過酸化水素濃度を測定し、過酸化水素の除去率を求めた。実施例1-1では炭酸濃度が1.1 mg-CO2/Lである被処理水を使用し、実施例1-2では炭酸を実質的に含まない被処理水を用いた。結果を表1に示す。
【0037】
【0038】
実施例1-1,1-2とは別に、実施例1-3として、体積が100mlであるパラジウム担持樹脂に対して過酸化水素と炭酸とを含む被処理水をSV 200h-1、すなわち20L/時間の流量で流し、48時間の経過後にパラジウム担持樹脂から排出される処理水における過酸化水素濃度を測定し、過酸化水素の除去率を求めた。被処理水中の過酸化水素濃度は106ppbであり、炭酸濃度は1.6 mg-CO2/Lであった。処理水における過酸化水素濃度は43ppbであり、除去率は59%であった。
【0039】
以上の結果から、電極水をパラジウム担持樹脂に通水して酸化性物質を除去する場合、電極水中に炭酸が溶存していると酸化性物質の除去が阻害されることが分かる。したがって、本発明において白金族金属触媒担持樹脂に電極水を通水するときは、予め、電極水から炭酸あるいは二酸化炭素を除去しておくことが好ましく。白金族金属触媒担持樹脂に供給される水における炭酸濃度を1.6 mg-CO2/L以下とすることがより好ましい。
【符号の説明】
【0040】
10 タンク
20 熱交換器
30 逆浸透(RO)装置
31 逆浸透膜
40 電気式脱イオン水製造装置(EDI装置)
41 脱塩室(D)
42 濃縮室(C)
43 電極室(E)
50 白金族金属触媒担持樹脂