(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】吸着部材
(51)【国際特許分類】
B25J 15/06 20060101AFI20240918BHJP
B65G 49/06 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
B25J15/06 D
B65G49/06 A
(21)【出願番号】P 2020141409
(22)【出願日】2020-08-25
【審査請求日】2023-03-31
(73)【特許権者】
【識別番号】512228587
【氏名又は名称】ムラテックメカトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】岩▲崎▼ 宏和
(72)【発明者】
【氏名】木村 悦男
【審査官】神山 貴行
(56)【参考文献】
【文献】特開昭47-012106(JP,A)
【文献】実開昭51-132002(JP,U)
【文献】特開平03-293237(JP,A)
【文献】実開平04-051387(JP,U)
【文献】特開2007-270013(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
B65G 49/06
B65H 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸盤部材と、前記吸盤部材を支持する支持部材とを備え、対象物を包装するラップの表面に吸着する吸着部材であって、
前記吸盤部材は、
筒状の接続部と、
前記接続部の先端部から吸盤状に突出するリップ部と、を備え、
前記支持部材は、
前記接続部に挿入される筒状であり、吸着状態の前記リップ部が形成する吸着平面と面一に配置される先端面と、
前記吸着平面と面一になるように配置され前記先端面を含む先端部から径方向外側に向かって突出し、前記接続部の内周面と前記リップ部の内側面との間に設けられる面取り部を埋める先端つば部と、
前記先端面に開口する吸引口と、を備え、
対象物を包装するラップの表面に吸着した状態において、前記リップ部の前記内側面と前記接続部の先端面と前記先端つば部の吸着面側の面と前記支持部材の先端面とが面一になる
吸着部材。
【請求項2】
前記支持部材は、
前記先端つば部と対向状態で配置され、前記吸盤部材の前記接続部と係合することにより前記支持部材の先端面と前記リップ部の内側面との位置を決定する基端つば部を備える請求項1に記載の吸着部材。
【請求項3】
前記支持部材は、
前記吸引口と連通し、前記吸引口の開口面積よりも流路断面積が大きい吸引路を備える請求項1または2に記載の吸着部材。
【請求項4】
前記支持部材を構成する材料の硬度は、前記吸盤部材を構成する材料の硬度よりも硬い請求項1から3のいずれか一項に記載の吸着部材。
【請求項5】
前記リップ部の前記接続部側
の端縁から前記リップ部の先端縁までの
前記接続部の管軸方向の距離の3分の2以上の範囲において、前記リップ部の厚みは、均一である
請求項1から4のいずれか一項に記載の吸着部材。
【請求項6】
前記リップ部の厚みは、1.5mm±0.5mmである
請求項1から5のいずれか一項に記載の吸着部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ロボットなどに取り付けられ、対象物の表面に吸着することにより対象物を吸引保持する力を発生させる吸着部材に関する。
【背景技術】
【0002】
搬送対象物を自動もしくは手動で搬送する際に使用される吸着部材において、パッド等と称される吸盤部材の形状、サイズ、材質を適切化することで、ラップで包装された対象物に対しても吸着保持を可能にする技術が知られている(例えば特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、従来の吸着部材では、吸着部材に直接接触しているラップにシワ、吸着跡、破れ等の不具合が発生する可能性が高い。また、吸着のための真空圧を弱めるとシワなどの発生確率は低下するが、対象物が落下する可能性が高まる。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、対象物の落下の可能性を低下させつつ対象物を包装するラップのシワの発生の可能性を低下させることができる吸着部材の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の1つである吸着部材は、吸盤部材と、前記吸盤部材を支持する支持部材とを備え、対象物の表面に吸着する吸着部材であって、前記吸盤部材は、筒状の接続部と、前記接続部の先端部から吸盤状に突出するリップ部と、を備え、前記支持部材は、前記接続部に挿入される筒状であり、吸着状態の前記リップ部が形成する吸着平面と面一に配置される先端面と、前記吸着平面と面一になるように配置され前記先端面を含む先端部から径方向外側に向かって突出し、前記接続部の内周面と前記リップ部の内側面との間に設けられる面取り部を埋める先端つば部と、前記先端面に開口する吸引口と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、対象物の落下の抑制、および対象物を包装するラップのシワの発生の抑制を両立させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、吸着部材を保持側(Z+側)から示す斜視図である。
【
図2】
図2は、吸着部材を吸着側(Z-側)から示す斜視図である。
【
図3】
図3は、支持部材120から吸盤部材を取り外した状態を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、管軸(Z軸)を含む平面で吸盤部材を切断した状態を示す断面図である。
【
図5】
図5は、管軸(Z軸)を含む平面で支持部材を切断した状態を示す断面図である。
【
図6】
図6は、吸着部材が対象物に当接し吸着する前の状態を示す断面図である。
【
図7】
図7は、吸着部材が対象物に当接し吸着した状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明に係る吸着部材の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下の実施の形態は、本発明を説明するために一例を挙示するものであり、本発明を限定する主旨ではない。例えば、以下の実施の形態において示される形状、構造、材料、構成要素、相対的位置関係、接続状態、数値、数式、方法における各段階の内容、各段階の順序などは、一例であり、以下に記載されていない内容を含む場合がある。また、平行、直交などの幾何学的な表現を用いる場合があるが、これらの表現は、数学的な厳密さを示すものではなく、実質的に許容される誤差、ずれなどが含まれる。また、同時、同一などの表現も、実質的に許容される範囲を含んでいる。
【0010】
また、図面は、本発明を説明するために適宜強調、省略、または比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状、位置関係、および比率とは異なる。
【0011】
また、以下では複数の発明を一つの実施の形態として包括的に説明する場合がある。また、以下に記載する内容の一部は、本発明に関する任意の構成要素として説明している。
【0012】
図1は、吸着部材を保持側(Z+側)から示す斜視図である。
図2は、吸着部材を吸着側(Z-側)から示す斜視図である。
図3は、支持部材120から吸盤部材を取り外した状態を示す斜視図である。
【0013】
吸着部材100は、吸盤部材110と、支持部材120と、を備え、対象物200(
図7参照)に当接した吸盤部材110の内側の空気を、支持部材120を介して除去することにより対象物200に吸着する部材である。対象物200に吸着した吸着部材100を、ロボット(不図示)などを用いて持ち上げることにより対象物200を保持し、移動させることができる。また、対象物200に吸着した吸着部材100は、吸盤部材110の内部に空気を供給することにより対象物200を開放することができる。
【0014】
図4は、管軸(Z軸)を含む平面で吸盤部材を切断した状態を示す断面図である。吸盤部材110は、対象物200に先端部が当接し、内側の空気が吸引されることにより変形して対象物200の表面に密着する部材であり、接続部111と、リップ部112と、を備えている。
【0015】
接続部111は、筒状の部材であり、支持部材120が内側に締まりばめ状態で挿入されることにより支持部材120に支持される部分である。接続部111の形状は、筒状であれば特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、接続部111は、円筒形状である。具体的には、接続部111は、支持部材120の外周形状に対応し、内周の径が比較的狭い径小部113と、径小部113よりも内径が広い径大部114とを管軸方向(図中Z軸方向)に連なって備えている。また、径小部113のリップ部112と反対側(図中Z+側)には、管軸に対して垂直な係合面115が設けられている。係合面115は、径小部113と径大部114との境界部分の段差部である。
【0016】
なお、接続部111の締め付け強度を向上させる締め付け部材を嵌め込むために接続部111の外周面、特に径大部114の外周面の全周に溝を設けても構わない。比較的肉薄である径大部114を締め付けることによって、支持部材120に対する取付強度を向上させることができ、リップ部112に偏った応力などが発生することを抑制できる。
【0017】
リップ部112は、対象物200に吸着する際に対象物200の表面に沿うように変形し、対象物200を開放すると元の形状に戻る柔軟性、復元性を備えた部分であり、接続部111の先端部(図中Z-側端部)から吸盤状に突出する部分である。リップ部112は、接続部111の先端部から径方向外側に向かうに従い、徐々に接続部よりも前側(図中Z-側)に傾く形状である。本実施の形態の場合、リップ部112は、ドーム形状であり、接続部111から先端縁までの距離の3分の2以上の範囲において、リップ部112の厚みは、均一である。なお、
図4において、リップ部112の接続部111から先端縁までの距離の3分の2の範囲として範囲Lを示している。本実施の形態の場合、リップ部112は、リップ部112のほぼ全体の厚みが均一である。なお、均一とは、±0.5mm程度の変化(誤差)を含むものとして記載している。
【0018】
吸盤部材110を構成する材料は特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、シリコンゴムが採用されており、接続部111とリップ部112とがシリコンゴムにより一体に成形されている。吸盤部材110の特にリップ部112の硬度は20°(ショアA)である。リップ部112の具体的な厚みは、特に限定されるものではないが、1.5mm±0.5mm程度であり、接続部111の近傍の厚みが2mm程度、先端縁の厚みが1mm程度である。
【0019】
接続部111の径小部113の内面116とリップ部112の内側面117との間である角部には、面取り部118が配置されている。面取り部118の形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、R面取り形状である。なお、面取り部118の形状は、C面取り形状、その他の形状であってもよい。
【0020】
図5は、管軸(Z軸)を含む平面で支持部材を切断した状態を示す断面図である。支持部材120は、吸盤部材110の弾性を利用した締まりばめ状態で吸盤部材110の接続部111に挿入され、吸盤部材110を支持する部材であり、先端面121と、先端つば部122と、吸引口123と、を備えている。支持部材120の形状は、リップ部112内の空気を吸引できる筒状であれば特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、全体視円筒形状である。支持部材120は、基端つば部124と、吸引路125と、細軸部126と、太軸部127と、取付部128と、回転係合部129と、を備えている。
【0021】
支持部材120を構成する材料は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、吸盤部材110を構成する材料の硬度よりも硬い(高い)材料が採用されている。具体的に支持部材120の材料としてはポリアセタールを例示でき、支持部材120を構成する材料の硬度は、M78(ロックウエル)を例示することができる。
【0022】
先端面121は、支持部材120吸着側(図中Z-側)の端面であり、
図7に示すように、吸着状態のリップ部112の内側面117が形成する吸着平面と面一に配置される。なおリップ部112は、対象物200の表面形状に追随して変形する柔軟性を備えているため、吸着平面は、吸着部材100が吸着する対象物200の表面が理想的な平面の場合形成される。
【0023】
先端つば部122は、先端面121を含む支持部材120の先端部から径方向外側に向かって周方向全体に突出し、吸盤部材110の面取り部118を埋める環状の部分である。先端つば部122の吸着側(図中Z-側)の面は、先端面121と面一であり、表面が平面の対象物200を吸着した際には先端面121と同じように吸着平面と面一になる。先端つば部122の保持側(図中Z+側)の面の形状は、吸盤部材110の面取り部118の形状に一致している。本実施の形態の場合、面取り部118はR面取り形状であるため、先端つば部122の保持側の面の形状は、面取り部118を埋めるように面取り部118の形状に沿って湾曲している。
【0024】
基端つば部124は、管軸方向(図中Z軸方向)において基端つば部124と対向状態で配置され、吸盤部材110の接続部111と係合することにより支持部材120の先端面121とリップ部112の内側面117との位置を決定する部分である。本実施の形態の場合、基端つば部124は、接続部111のリップ部112と反対側の保持側に向かって面を向ける係合面115に当接状態で係合することにより支持部材120と吸盤部材110の位置を決定する。基端つば部124は、細軸部126と太軸部127との間の段差部分であり、細軸部126の両端部にある先端つば部122と基端つば部124との間に吸盤部材110の径小部113が嵌まり込む。
【0025】
吸引口123は、先端面121に設けられた開口であり、吸引口123を通して対象物200に当接したリップ部112内の空気を吸引する。吸引口123の数や形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、円形の先端面121の中心に一つの円形の吸引口123が開口している。
【0026】
吸引路125は、真空系に接続され、吸引口123と連通することにより、リップ部112の内側の空気を吸引する経路である。本実施の形態の場合、吸引路125の流路断面積は、吸引口123の開口面積よりも大きい。これにより、吸引口123からリップ部112内の空気を吸引する際の応答や、吸引口123を介して空気を吐出する際の応答を早めることができる。
【0027】
取付部128は、ロボットに取り付けられる部分である。本実施の形態の場合、外周に雄ネジが設けられており、ロボットに設けられた真空系に連通するネジ穴に取付部128をねじ込むことにより吸着部材100がロボットに取り付けられる。吸着部材100の取付部128をネジ穴にねじ込む際には、回転係合部129にレンチなどの工具を係合させて支持部材120全体を回転させる。
【0028】
次に、例えばトレイに載置された食品をトレイと共にラップで包装した対象物200吸着する際の吸着部材100の動作を説明する。吸着部材100が吸着する対象物200の表面は平面であるとする。吸着部材100は、
図6に示すように、対象物200の表面にリップ部112の周縁が当接するようにロボットにより移動する。次に、吸引口123および吸引路125を介してリップ部112内の空気が吸引される。これにより、
図7に示すようにリップ部112は、吸着部材100表面状態に追随して吸着平面を形成するように変形する。また、支持部材120の先端面121も吸着平面内に存在し、対象物200の表面にあるラップの表面と当接する。さらに、先端つば部122の吸着側の面も吸着平面内に存在し、ラップの表面と当接する。また、先端つば部122は、リップ部112の内側面117と先端つば部122の吸着面側の面との隙間がほとんど生じないように面取り部118を埋めている。
【0029】
以上により、吸着部材100は、支持部材120の先端面121、先端つば部122、およびリップ部112の内側面で形成された隙間のほとんどない平面で対象物200のラップに吸着するため、対象物200を持ち上げる際の重力や、持ち上げた状態の対象物200を移動させる際に発生する慣性力に抗する吸着力を発生させつつ、隙間にラップが吸い込まれラップが伸びてシワが発生すること、およびラップが破損することを抑制できる。
【0030】
また、吸引路125の流路断面積が、吸引口123よりも大きいため、高い応答性でリップ部112と対象物200との隙間に空気を供給することができ、対象物200の搬送効率を向上させることができる。
【0031】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0032】
例えば、先端つば部122は、吸盤部材110の面取り部118の表面形状に追随する形状として説明したが、先端つば部122は、面取り部118に若干食い込むも形状でも構わない。
【産業上の利用可能性】
【0033】
本発明は、ロボットなどにより対象物を吸着保持する際の吸着部材として利用可能である。
【符号の説明】
【0034】
100 吸着部材
110 吸盤部材
111 接続部
112 リップ部
113 径小部
114 径大部
115 係合面
116 内面
117 内側面
118 面取り部
120 支持部材
121 先端面
122 先端つば部
123 吸引口
124 基端つば部
125 吸引路
126 細軸部
127 太軸部
128 取付部
129 回転係合部
200 対象物