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特許7556719リフティングマグネット装置の運転支援装置、リフティングマグネット装置、プログラム及び運転学習方法
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  • 特許-リフティングマグネット装置の運転支援装置、リフティングマグネット装置、プログラム及び運転学習方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】リフティングマグネット装置の運転支援装置、リフティングマグネット装置、プログラム及び運転学習方法
(51)【国際特許分類】
   B66C 13/16 20060101AFI20240918BHJP
   B66C 1/06 20060101ALI20240918BHJP
   B66C 1/08 20060101ALI20240918BHJP
   B66C 13/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
B66C13/16 F
B66C1/06 A
B66C1/08 Z
B66C13/00 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020141556
(22)【出願日】2020-08-25
(65)【公開番号】P2022037425
(43)【公開日】2022-03-09
【審査請求日】2023-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【弁理士】
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】池永 貴広
【審査官】中島 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-295889(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0191504(US,A1)
【文献】特開2018-144938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66C 1/00- 3/20
B66C 13/00-15/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電磁石を有するリフティングマグネット装置の運転支援装置であって、
前記電磁石が一度に吸着する複数の吊物の特徴量と前記電磁石の駆動パラメータとの関係が示された学習データを記憶する記憶部と、
吊上げ対象の複数の吊物の特徴量と前記学習データとに基づいて前記電磁石の駆動パラメータを決定する運転支援処理部と、
を備え
前記特徴量は、少なくとも前記複数の吊物の重なりのズレ量を含むことを特徴とする運転支援装置。
【請求項2】
吊上げ対象の吊物を撮影する撮影装置と、
マニュアル操作における前記電磁石の駆動パラメータの値と、前記撮影装置の映像から取得された前記特徴量とに基づいて、前記学習データを作成する学習処理部とを、更に備える、
請求項1記載の運転支援装置。
【請求項3】
複数の前記撮影装置を備え、
前記複数の撮影装置の映像それぞれから複数種類の前記特徴量が取得される、
請求項2記載の運転支援装置。
【請求項4】
前記撮影装置の映像から取得された前記特徴量に基づき吊物の重量を計算する計算部と、
前記計算部の結果に基づき運転支援情報を出力する情報処理部と、
を備える請求項2又は請求項3記載の運転支援装置。
【請求項5】
電磁石を有するリフィングマグネット本体と、
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の運転支援装置と、
を備えるリフティングマグネット装置。
【請求項6】
電磁石を有するリフティングマグネット装置の操作情報と、吊上げ対象の吊物を撮影する撮影装置からの映像とが入力されるコンピュータを、
前記電磁石が一度に吸着する複数の吊物の特徴量と前記電磁石の駆動パラメータとの関係を示す学習データを作成する学習処理部として機能させ
前記学習処理部は、マニュアル操作における前記電磁石の駆動パラメータの値と、前記撮影装置の映像から取得された前記特徴量とに基づいて、前記学習データを作成し、
前記特徴量は、少なくとも前記複数の吊物の重なりのズレ量を含むことを特徴とするプログラム。
【請求項7】
電磁石を有するリフティングマグネット装置において、前記電磁石が一度に吸着する複数の吊物の特徴量と前記電磁石の駆動パラメータとの関係が示された学習データを作成するリフティングマグネット装置の運転学習方法であって、
撮影装置により吊上げ対象の複数の吊物を撮影し、
マニュアル操作における前記電磁石の駆動パラメータの値と、前記撮影装置の映像から取得された前記電磁石が一度に吸着する複数の吊物の特徴量とに基づいて、前記学習データを作成し、
前記特徴量は、少なくとも前記複数の吊物の重なりのズレ量を含むことを特徴とする運転学習方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リフティングマグネット装置の運転支援装置、リフティングマグネット装置、プログラム及び運転学習方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁石により鋼材等の吊物に吸着し、吊物を吊上げるリフティングマグネット装置がある。リフティングマグネット装置は、複数枚の鋼板など、一度に複数の吊物に吸着し、複数の吊物を吊上げることができる。特許文献1には、一度に複数の吊物を吊上げる際に荷吊り不全を検出する装置が示されている。荷吊り不全には、例えば、磁力が足りずに、最下段の吊物の片方端部が垂れ下がるような状態が含まれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】実開平5-44981号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のリフティングマグネット装置では、一度に複数の吊物を吊上げる際、電磁石の駆動量の調整が難しい。例えば、試しに吊物を少しだけ吊上げ、荷吊り不全が生じていないか確認を繰り返しながら、電磁石の駆動量を増減し、荷吊り不全が生じない駆動量を探索するといった操作を要する場合がある。このような操作は煩雑で長い作業時間を要した。
【0005】
本発明は、複数の吊物を一度に吊上げる操作の煩雑さを低減できる運転支援装置、リフティングマグネット装置、プログラム及び運転学習方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る運転支援装置は、
電磁石を有するリフティングマグネット装置の運転支援装置であって、
前記電磁石が一度に吸着する複数の吊物の特徴量と前記電磁石の駆動パラメータとの関係が示された学習データを記憶する記憶部と、
吊上げ対象の複数の吊物の特徴量と前記学習データとに基づいて前記電磁石の駆動パラメータを決定する運転支援処理部と、
を備え
前記特徴量は、少なくとも前記複数の吊物の重なりのズレ量を含む
【0007】
本発明に係るリフティングマグネット装置は、
電磁石を有するリフィングマグネット本体と、
上記の運転支援装置と、
を備える。
【0008】
本発明に係るプログラムは、
電磁石を有するリフティングマグネット装置の操作情報と、吊上げ対象の吊物を撮影する撮影装置からの映像とが入力されるコンピュータを、
前記電磁石が一度に吸着する複数の吊物の特徴量と前記電磁石の駆動パラメータとの関係を示す学習データを作成する学習処理部として機能させ、
前記学習処理部は、マニュアル操作における前記電磁石の駆動パラメータの値と、前記撮影装置の映像から取得された前記特徴量とに基づいて、前記学習データを作成し、
前記特徴量は、少なくとも前記複数の吊物の重なりのズレ量を含む
【0009】
本発明に係る運転学習方法は、
電磁石を有するリフティングマグネット装置において、前記電磁石が一度に吸着する複数の吊物の特徴量と前記電磁石の駆動パラメータとの関係が示された学習データを作成するリフティングマグネット装置の運転学習方法であって、
撮影装置により吊上げ対象の複数の吊物を撮影し、
マニュアル操作における前記電磁石の駆動パラメータの値と、前記撮影装置の映像から取得された前記電磁石が一度に吸着する複数の吊物の特徴量とに基づいて、前記学習データを作成し、
前記特徴量は、少なくとも前記複数の吊物の重なりのズレ量を含む
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、複数の吊物を一度に吊上げる操作の煩雑さを低減できるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係るリフティングマグネット装置を示す構成図である。
図2】運転支援処理部が実行する運転支援処理の第1部を示すフローチャートである。
図3】運転支援処理部が実行する運転支援処理の第2部を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0013】
本発明の実施形態に係るリフティングマグネット装置1は、吊物80に吸着可能なリフィングマグネット本体10と、リフィングマグネット本体10を運搬するクレーン30と、リフィングマグネット本体10及びクレーン30の運転操作を行う操作部50と、リフィングマグネット本体10の動作制御を行う制御部60と、一度に複数の吊物80を吊上げる際の電磁石11の駆動パラメータについて学習及び運転支援を行う運転支援処理部70と、を備える。吊物80は、本実施形態では鋼板である。作業場には複数の吊物80が配置され、このうちの上段から指定個が一度に吊上げる対象となる。複数の吊物80のうち吊上げ対象であるものを特に吊物81と記す。運転支援処理部70及び複数の撮影装置15は、本発明に係る運転支援装置の一例に相当する。
【0014】
リフィングマグネット本体10は、複数の電磁石11と、複数の電磁石11を吊る吊ビーム13と、吊上げ対象の吊物81を撮影する複数の撮影装置15とを備える。複数の電磁石11は、電流が流されるコイルと、コイルの磁力を増幅するヨークとを有し、駆動されたときに最上段の吊物81の複数の箇所に吸着する。複数の電磁石11は駆動パラメータを変化させることで、磁力を変化させる。駆動パラメータは運転者が変更操作できる。駆動パラメータは、例えば電流であるが、電流と電圧など、電磁力を変化させるパラメータであれば何でもよい。
【0015】
リフィングマグネット本体10は、複数の吊物80を重ねて一度に吊り上げることができる。一度に吊上げられる吊物80の数は、複数の電磁石11の駆動パラメータと、複数の吊物80の大きさ、重さ及び重なり状態などによって異なる。例えば、最上段から3つの吊物81を吊上げ対象とする場合、電磁石11の駆動パラメータが適正な範囲にあると、複数の電磁石11が吊物81に吸着した後、リフィングマグネット本体10を上昇させると、3つの吊物81のみが上昇し、3つの吊物81よりも下段の吊物80は持ち上がったり引き動かされたりしない。一方、複数の電磁石11の駆動パラメータが適正な範囲よりも小さいと、リフィングマグネット本体10を上昇させたときに3つの吊物81のうち最下段の吊物81の片方端部が垂れ下がったような荷吊り不全が生じる。また、複数の電磁石11の駆動が適正な範囲より大きくなると、リフィングマグネット本体10を上昇させたときに3つの吊物81に、その下の吊物80の一部が吸着され、その吊物80の片方端部が垂れ下がったような荷吊り不全が生じる。
【0016】
複数の撮影装置15は、吊上げ対象の複数の吊物81について、所定の特徴量が取得できるように撮影する。撮影装置15の映像から取得される特徴量には、吊上げ対象の複数の吊物81の各長さ、各幅、各厚さ、重なりのズレ量などが含まれる。異なる撮影装置15の映像から異なる特徴量が取得されてもよいし、1つの撮影装置15の映像から2種類以上の特徴量が取得されてもよい。複数種類の特徴量には、幅と長さなど、異なる角度から撮影した方が正確に識別できる特徴量があり、吊物81を異なる角度から撮影する複数の撮影装置15を設けることで、これらの映像から上記のような複数種類の特徴量を正確に取得することができる。
【0017】
撮影装置15は、レンズと撮像素子(例えばエリアセンサ)とを有し、撮影により二次元映像が得られる装置である。撮影装置15は、LiDAR(Light Detection and Ranging)など、撮影により三次元画像が得られる装置であってもよい。なお、撮影装置15は、リフィングマグネット本体10にステーを介して固定されてもよいし、吊物80を吊上げる作業場に固定されてもよい。
【0018】
操作部50は、運転者による運転操作の入力と運転支援情報の出力とを行う。操作部50は、複数の電磁石11の駆動電流を操作する電流操作部51と、クレーン30によりリフィングマグネット本体10を運搬する運転操作部52と、一度に吊上げる吊物80の数を指定する吊上数指定部53と、運転支援処理部70による自動運転を選択可能な自動運転選択部54と、自動運転に関する運転支援情報を出力する情報出力部55とを有する。電流操作部51は、複数の電磁石11の駆動量(コイルの電流値)を連続的或いは多段階に操作することができる。
【0019】
制御部60は、操作部50の操作あるいは運転支援処理部70の指令に基づき、電磁石11の駆動回路、並びに、クレーン30の駆動回路を制御し、複数の電磁石11及びクレーン30を動作させる。
【0020】
運転支援処理部70は、撮影装置15の映像を取り込んで吊物80の特徴量を画像認識する画像処理部71と、マニュアル操作で複数の吊物80が吊上げられた際に電磁石11の適切な駆動パラメータを学習する学習処理部72と、学習により得られた学習データが格納される学習データ記憶部73と、画像処理部71が認識した吊物80の特徴量と学習データとに基づいて電磁石11の自動運転を行う自動運転処理部74と、を備える。運転支援処理部70は、制御プログラム及び制御データを記憶した記憶装置と、制御プログラムを実行するCPU(Central Processing Unit)とを含むコンピュータである。運転支援処理部70では、CPUが制御プログラムを実行することで、画像処理部71、学習処理部72及び自動運転処理部74がソフトウエアとして実現される。
【0021】
画像処理部71には、複数の撮影装置15からの映像データと、操作部50で指定された吊上数の情報とが入力される。画像処理部71は、映像データに対して画像認識処理を行い、前述した特徴量(吊上げ対象の複数の吊物81の各長さ、各幅、各厚さ、重なりのズレ量など)を認識し、特徴量のデータを自動運転処理部74及び学習処理部72に送る。
【0022】
学習処理部72には、電磁石11のマニュアル操作が行われた場合に、電流操作部51の操作量を示す電流操作量の情報と、吊上げ対象の複数の吊物81の吊上げに成功したことを示す情報とが入力される。吊上げに成功したことを示す情報は、画像処理部71の画像認識により取得されてもよい。学習処理部72は、マニュアル操作で吊物81の吊上げが成功した際に、吊物81の数、画像処理部71から送られた特徴量、並びに、電磁石11の駆動パラメータとを対応づけた学習データを作成し、学習データ記憶部73に格納する。本実施形態では、学習処理部72は、電磁石11の駆動パラメータを、電流操作部51の操作量から求めるが、電磁石11の駆動パラメータは、制御部60から電磁石11の駆動回路へ出力される制御信号、あるいは、電磁石11の駆動回路から出力される電気的物理量(電流、電圧等)から求められてもよい。
【0023】
自動運転処理部74は、複数の電磁石11の自動運転に関する処理を実行する。自動運転処理部74は、自動運転の際、画像処理部71から送られた吊上げ対象の複数の吊物81の特徴量と、学習データ記憶部73に格納された学習データとから、電磁石11の駆動パラメータを決定し、駆動パラメータに対応する駆動が行われるように制御部60に運転指令を出力する。自動運転処理部74には、自動運転選択部54を介した選択情報と、吊上数指定部53を介して指定された吊上数の情報と、画像処理部71からの吊物81の特徴量の情報とが入力される。自動運転処理部74は、制御部60への電磁石11の運転指令の出力と、情報出力部55への運転支援情報の出力とが可能である。
【0024】
運転支援処理部70及び撮影装置15は、後付けで、リフティングマグネット装置1に取り付け可能に構成されてもよい。この場合、運転支援処理部70は、操作部50からの操作情報(電流操作部51の電流操作量、指定された吊上数の情報、自動運転の選択情報等)が入力可能に、かつ、制御部60と情報出力部55に運転指令と運転支援情報を出力可能に接続される。後付けされる場合、吊上数指定部53、自動運転選択部54、情報出力部55は、操作部50でなく、後付けされる運転支援処理部70に含まれていてもよい。
【0025】
<自動運転及び学習処理>
図2及び図3は、運転支援処理部により実行される自動運転及び学習処理を示すフローチャートである。
【0026】
自動運転及び学習処理は、複数の電磁石11を吊物80に吸着させる作業時に、吊上数指定部53を介して吊物80の吊上数が指定された場合に開始される。自動運転及び学習処理が開始されたら、まず、自動運転処理部74は、吊上数指定部53で指定された吊上数の情報を取得する(ステップS1)。次に、画像処理部71は、撮影装置15の映像と、吊上数の情報とから、画像認識処理を行って、吊上け対象の複数の吊物81の特徴量を取得し(ステップS2)、取得された特徴量を自動運転処理部74及び学習処理部72へ送る。
【0027】
次に、自動運転処理部74は、吊上数、複数の吊物81の特徴量(長さ、幅、厚さ)から、吊上げ対象の複数の吊物81の重量を計算し(ステップS3)、重量が規定値を越えていないか判別する(ステップS4)。判別の結果、規定値を越えていれば、規定値を越えていること(重量オーバーの情報)を情報出力部55から出力し(ステップS5)、自動運転及び学習処理を終了する。一方、規定値を超えていなければ、自動運転処理部74は、重量を記憶部に記録し(ステップS6)、処理を進める。運転者又はオペレータは、記憶部に記憶された重量を後で確認することができる。ステップS3~S5の処理を実行する自動運転処理部74は、本発明に係る吊物の重量を計算する計算部及び情報処理部に相当する。
【0028】
次に、自動運転処理部74は、学習データ記憶部73の中に、上記の吊上数及び吊物81の特徴量に合致する学習データが登録されているか否かを判別し(ステップS7)、登録されていれば情報出力部55から自動運転可能の情報を出力する(ステップS8)。運転者は、ステップS8の情報の出力により、指定した吊上数の吊物81を正常に吊り上げ可能な電磁石11の自動運転が可能であることを認識できる。
【0029】
続いて、自動運転処理部74は、自動運転選択部54により自動運転が選択されるか、あるいは、マニュアル操作で電流操作部51の操作が開始されるか判別する(ステップS9)。そして、マニュアル操作で電流操作部51の操作が開始されたら、自動運転処理部74は、情報出力部55を介して自動運転推奨の報知を行い(ステップS10)、自動運転の選択へ切り替えられるか、或いは、マニュアル操作が続けられ、その後、吊上げに成功したかを判別する(ステップS11)。吊上げの成功は、クレーン30によりリフィングマグネット本体10が一定以上(荷吊り不全確認用の上昇量以上)の上昇操作がなされたこと、あるいは、画像処理部71により吊物81の正常な上昇を画像認識したこと等に基づき判別可能である。あるいは、正常な吊上げがあったことを通知する操作部を有し、ユーザがこの操作部を操作したことに基づき、自動運転処理部74が吊上げの成功と判別してもよい。
【0030】
一方、ステップS7の判別で学習データが登録されていないと判別したら、自動運転処理部74は、情報出力部55に自動運転不可の情報を出力する(ステップS12)。さらに、自動運転処理部74は、自動運転選択部54の選択情報を監視し、自動運転が選択されるか、あるいは、マニュアル操作で電流操作部51の操作が開始されるか判別する(ステップS13)。そして、自動運転の選択がなされたら、情報出力部55を介して自動運転不可であることを返答する(ステップS14)。一方、マニュアル操作が開始されたら、その後、マニュアル操作が進められ、その後、吊上げに成功したかの判別を繰り返す(ステップS15)。
【0031】
ステップS9又はステップS11の判別で自動運転が選択されたと判別したら、自動運転処理部74は、学習データ記憶部73の中から、指定された吊上数及び画像認識された吊物81の特徴量に合致した学習データを読み込む(ステップS16)。そして、自動運転処理部74は、学習データに示された駆動パラメータで複数の電磁石11が駆動されるように運転指令を制御部60に出力する(ステップS17)。この出力により、複数の電磁石11が適正な範囲で駆動され、荷吊り不全が生じないように吊上げ対象の複数の吊物81に複数の電磁石11が吸着する。そして、運転支援処理部70は、自動運転及び学習処理を終了する。ここで、運転者は、クレーン30を駆動して、複数の吊物81を吊上げ及び搬送することができる。さらに、運転者が、吊物81の吸着を解除するための操作(例えば吊物81の着床完了の操作、電流操作部51の吸着解除の操作など)を行うことで、自動運転による電磁石11の駆動が停止され、電磁石11の吊物81への吸着を解除できる。なお、ステップS17の自動運転に続いて、リフィングマグネット本体10が上昇した際、画像処理部71が荷吊り不全が生じていないか画像認識処理を行い、荷吊り不全が生じていた場合には、吊物81の着床後、自動運転処理部74が、電磁石11の駆動パラメータを学習データの値から補正して、再度、電磁石11の自動運転を行うようにしてもよい。
【0032】
マニュアル操作が開始されてステップS11又はステップS15で吊上げが成功したか判別を繰り返すループ処理の間、運転者は、マニュアル操作で吊上げ対象の複数の吊物81に複数の電磁石11を吸着させ、吊物81の吊上げ操作を実行する。ここで、運転者は、正常な吊上げが可能と予想される操作量で電流操作部51を操作し、続いて、クレーン30を操作してリフィングマグネット本体10を僅かに上昇させる。このとき、電磁石11の駆動量が正常範囲でないと、吊上げ対象の最下段の吊物81或いは吊上げ対象でない吊物80が一部だけ吸着され、その片側端部が垂れ下がったような荷吊り不全が生じる。この場合、運転者は、一旦、リフィングマグネット本体10を降下させ、吊物81が着床した状態で、電流操作部51の操作量を調整する。そして、再び、リフィングマグネット本体10を僅かに上昇させて、荷吊り不全が生じないか確認する。このような操作を繰り返すことで、電磁石11の駆動量が正常範囲になると、運転者は、吊上げ対象の複数の吊物81のみを荷吊り不全なく吊上げることができる。
【0033】
マニュアル操作により吊物81の吊上げが成功すると、自動運転処理部74は、ステップS11又はステップS15で成功と判別し、判別結果を学習処理部72へ通知する。すると、学習処理部72が、吊上げ成功と判別されたときの電磁石11の駆動パラメータと、このときに画像処理部71から送られていた複数の吊物81の特徴量(複数の吊物81の数、各長さ、各幅、各厚み、重なりのズレ量など)とを対応づけて学習データを作成する(ステップS18)。そして、学習処理部72は、作成した学習データを学習データ記憶部73に登録し(ステップS19)、自動運転及び学習処理を終了する。
【0034】
上記のような自動運転及び学習処理により、マニュアル操作で複数の吊物81を正常に吊上げた際に、複数の吊物81の特徴量と電磁石11の駆動パラメータとが対応づけられて学習データが生成される。そして、次に、同様の複数の吊物81を吊上げる際には、学習データに基づき電磁石11の駆動パラメータが決定されるので、荷吊り不全の確認を何度も行いながら、荷吊り不全の生じない電磁石11の駆動量を調整するといった煩雑な作業を省いて、速やかな吊物81の吊上げを実現できる。
【0035】
以上のように、本実施形態のリフティングマグネット装置1によれば、一度に吊上げられる複数の吊物の特徴量と電磁石11の駆動パラメータとの関係が示された学習データが、学習データ記憶部73に記憶されている。さらに、自動運転処理部74が、撮影装置15の映像から取得された吊上げ対象の複数の吊物81の特徴量と、学習データに示された複数の吊物の特徴量とが、同一又は近似している場合に、該当の学習データに基づいて電磁石11の駆動パラメータを決定する。よって、吊上げ対象の複数の吊物81に応じた電磁石11の駆動が行われ、荷吊り不全の少ない複数の吊物81の吊上げを速やかに実現できる。したがって、運転者の熟練に関係なく、荷吊り不全の発生が抑制され、吊物81の搬送サイクルの短縮、すなわち、効率の高い吊物81の搬送を実現できる。さらに、該当の学習データがある場合には、荷吊り不全を確認する作業員を吊上げ作業場に配置する必要がなくなるので、作業員の省人化を図ることができる。
【0036】
なお、学習データには、リフティングマグネット装置1の稼働状況又は環境温度など、電磁石11の駆動パラメータに影響を与える状態情報が含まれてもよい。そして、自動運転処理部74が、更に吊上げ時の状態情報と合致する学習データの駆動パラメータを用いて、電磁石11を駆動するように構成されてもよい。このような構成によれば、使用環境に依存しない複数の吊物81の吊上げ処理を実現できる。
【0037】
さらに、本実施形態のリフティングマグネット装置1によれば、吊上げ対象の吊物81を撮影する撮影装置15と、上記の学習データを作成する学習処理部72とを備える。そして、学習処理部72は、マニュアル操作時の電磁石11の駆動パラメータと、撮影装置15の映像から取得された吊物81の特徴量とに基づいて、上記の学習データを作成する。したがって、マニュアル操作の後に、同じような複数の吊物81の吊上げ及び搬送が続くような場合に、一度目のマニュアル操作で調整された適正な電磁石11の駆動を、その後の吊物81の吊上げ時に速やかに発生させ、吊物81の速やかな吊上げ及び搬送を実現できる。
【0038】
さらに、本実施形態のリフティングマグネット装置1によれば、複数の撮影装置15を備え、運転支援処理部70は、複数の撮影装置15の映像から、長さと幅など異なる特徴量を取得する。このような構成により、同一角度から撮影した映像からでは一度に取得しにくい異なる特徴量を、複数の角度から撮影した映像を用いて取得できるので、複数の吊物81の特徴量を正確に取得することができる。
【0039】
さらに、本実施形態のリフティングマグネット装置1によれば、自動運転処理部74が、撮影装置15の映像から取得された特徴量から吊物81の重量を計算し、重量が規定値を越えている場合に、その旨の情報を運転者に出力する。したがって、吊上げ重量オーバーの抑制を図ることができる。さらに、計算された重量が記録されるので、搬送した吊物81の重量の管理が可能である。
【0040】
以上、本発明の実施形態について説明した。しかし、本発明は上記の実施形態に限られない。例えば、上記実施形態では、吊物として鋼板を一例として示した。しかし、吊物としては、結束棒、H形鋼又はL形鋼などの形鋼が適用されてもよい。さらに、上記実施形態では、運転者がリフティングマグネット装置1を運転すると説明したが、自動操縦されるリフティングマグネット装置1に本発明が適用されてもよい。この場合、自動操縦装置が、人の操作を疑似して、荷吊り不全を繰り返しながら、荷吊り不全のない電磁石11の駆動量を調整する操作を行った場合に、このような操作が本発明に係るマニュアル操作に該当する。さらに、上記実施形態では、一度に吊上げる吊物81の数(吊上数)を運転者が指定する例を示したが、吊上げ対象の吊物81の重量が規定値を超えない範囲で、運転支援処理部70が吊上数を決定する構成が採用されてもよい。その他、リフィングマグネット本体に含まれる電磁石の個数及び配置、クレーンの種類など、実施の形態で示した細部は、発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0041】
1 リフティングマグネット装置
10 リフィングマグネット本体
11 電磁石
13 吊ビーム
15 撮影装置
50 操作部
51 電流操作部
52 運転操作部
53 吊上数指定部
54 自動運転選択部
55 情報出力部
60 制御部
70 運転支援処理部
71 画像処理部
72 学習処理部
73 学習データ記憶部
74 自動運転処理部
80、81 吊物
図1
図2
図3