IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 理想科学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】水性インクジェットインクセット
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/54 20140101AFI20240918BHJP
   C09D 11/40 20140101ALI20240918BHJP
   C09D 11/38 20140101ALI20240918BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240918BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C09D11/54
C09D11/40
C09D11/38
B41M5/00 120
B41M5/00 100
B41M5/00 132
B41J2/01 501
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020163451
(22)【出願日】2020-09-29
(65)【公開番号】P2021055093
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2019179272
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000250502
【氏名又は名称】理想科学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(72)【発明者】
【氏名】今西 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】中尾 彩弥子
(72)【発明者】
【氏名】角田 肇
(72)【発明者】
【氏名】浦野 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】我有 紘彰
【審査官】水野 明梨
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-059872(JP,A)
【文献】特開2018-114751(JP,A)
【文献】特開2018-053124(JP,A)
【文献】特開2014-237742(JP,A)
【文献】特開2003-176431(JP,A)
【文献】特開2016-017103(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0284425(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
前処理剤と、互いに同一色相である濃インク及び淡インクとを備え、
前記前処理剤は、HLB値が10.0以上である非イオン性界面活性剤、及び前処理剤全量に対し50質量%以上で水を含み、
前記濃インクは、HLB値が10.0未満であり、前記前処理剤に含まれる非イオン性界面活性剤のHLB値との差が2.0以上である非イオン性界面活性剤、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の水溶性有機溶剤、及び水を含み、
前記淡インクは、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の水溶性有機溶剤、及び水を含み、
前記淡インクに含まれるSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の水溶性有機溶剤の濃度(質量%)は、前記濃インクに含まれるSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の水溶性有機溶剤の濃度(質量%)に対して1.1倍以上であり、
23℃において前記淡インクの粘度(mPa・s)が前記濃インクの粘度(mPa・s)に対して1.05倍以上である、水性インクジェットインクセット。
【請求項2】
前記濃インクに含まれるHLB値が10.0未満であり、前記前処理剤に含まれる非イオン性界面活性剤のHLB値との差が2.0以上である非イオン性界面活性剤は、濃インク全量に対し0.7質量%以上である、請求項1に記載の水性インクジェットインクセット。
【請求項3】
前記前処理剤に含まれるHLB値が10.0以上である非イオン性界面活性剤は、アセチレン系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤のうち少なくとも一方を含む、請求項1又は2に記載の水性インクジェットインクセット。
【請求項4】
前記濃インクに含まれるHLB値が10.0未満であり、前記前処理剤に含まれる非イオン性界面活性剤のHLB値との差が2.0以上である非イオン性界面活性剤は、アセチレン系界面活性剤及びシリコーン系界面活性剤のうち少なくとも一方を含む、請求項1から3のいずれか1項に記載の水性インクジェットインクセット。
【請求項5】
前記淡インクは、界面活性剤をさらに含む、請求項1から4のいずれか1項に記載の水性インクジェットインクセット。
【請求項6】
前記SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の水溶性有機溶剤は、ジエチレングリコール、1,3-プロパンジオール、及び1,2-ヘキサンジオールからなる群から選択される1種以上を含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の水性インクジェットインクセット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水性インクジェットインクセットに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録システムは、流動性の高い液体インクを微細なノズルから噴射し、基材に付着させて印刷を行う印刷システムである。このシステムは、比較的安価な装置で、高解像度、高品位の画像を、高速かつ低騒音で印刷可能という特徴を有し最近急速に普及している。
インクとしては、安価に高画質の印刷物が得られることから、水性タイプのインクが普及している。水性インクは、水分を含有することにより乾燥性を高めたインクであり、さらに環境性に優れるという利点もある。
【0003】
インクジェット記録システムでは、基材上でインクがドット状に付与されて画像を形成する。ドットの形状、サイズ、間隔等は印刷画像の画質に影響を与える。例えば、ドット径が小さくドット間の距離が長いと、印刷画像に粒状感が観察されることがある。
例えば、一つの色相を得るために濃インク及び淡インクを用いて、中間濃度部から高濃度部にかけての諧調を調節して、印刷画像の粒状感を低減させてなめらかにする技術がある。
【0004】
特許文献1には、濃色インキと淡色インキとを用いて、濃色インキ及び淡色インキに配合される有機溶剤を特定し、さらに、濃色インキと淡色インキとの粘度差を特定することで、コート紙等の吸収性の低い印刷媒体への印刷適性を改善する、水性インキジェット用インキセットが提案されている。
特許文献1には、インキ間の粘度が大きく異なると、吐出される液滴量に差が生じ、液滴量の差からドット径が不均一になり、粒状感が発生する等の不具合が引き起こされることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-17103号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
水性インクに界面活性剤等の浸透成分が配合される場合では、各種基材上において、水性インクが濡れ広がって、印刷画像の滲みが発生する問題がある。さらに、多色の印刷では、基材上で水性インクの乾燥に時間が掛かると、色同士が混合しやすくなるという問題がある。
また、樹脂製シート等の低浸透性基材では、水性インクを用いると、基材上でインクが乾燥する前に、インクが基材からはじかれて、印刷画像が定着しにくい問題がある。また、水性インクは樹脂製シート等に対して親和性が低いことからも、基材への定着性が低下することがある。
【0007】
そこで、基材上に水性インクをより定着させて、印刷画像の滲みを防止するために、インクの付与前に基材を前処理する技術がある。前処理剤を基材に付与しておくことで、基材上でインクの定着性を改善し、インクの滲みを防止することができる。一方で、前処理剤の作用によってインクのドット径が広がりにくくなり、粒状感が問題になることがある。
特許文献1では、コート紙等の吸収性の低い印刷媒体を対象にしているが、印刷画像の滲みを防止するために、インキ付与前に前処理剤を用いることは検討されていない。
【0008】
本発明の一目的としては、高画質の印刷物を得る水性インクジェットインクセットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、前処理剤と、互いに同一色相である濃インク及び淡インクとを備え、前記前処理剤は、HLB値が10.0以上である界面活性剤、及び水を含み、前記濃インクは、HLB値が10.0未満であり、前記前処理剤に含まれる界面活性剤のHLB値との差が2.0以上である界面活性剤、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤、及び水を含み、前記淡インクは、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤、及び水を含み、前記淡インクに含まれるSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤の濃度(質量%)は、前記濃インクに含まれるSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤の濃度(質量%)に対して1.1倍以上であり、23℃において前記淡インクの粘度(mPa・s)が前記濃インクの粘度(mPa・s)に対して1.05倍以上である、水性インクジェットインクセットである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一実施形態によれば、高画質の印刷物を得る水性インクジェットインクセットを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を一実施形態を用いて説明する。以下の実施形態における例示が本発明を限定することはない。
【0012】
一実施形態による水性インクジェットインクセットとしては、前処理剤と、互いに同一色相である濃インク及び淡インクとを備え、前処理剤は、HLB値が10.0以上である界面活性剤、及び水を含み、濃インクは、HLB値が10.0未満であり、前処理剤に含まれる界面活性剤のHLB値との差が2.0以上である界面活性剤、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤、及び水を含み、淡インクは、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤、及び水を含み、淡インクに含まれるSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤の濃度(質量%)は、濃インクに含まれるSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤の濃度(質量%)に対して1.1倍以上であり、23℃において淡インクの粘度(mPa・s)が濃インクの粘度(mPa・s)に対して1.05倍以上である、ことを特徴とする。
これによれば、高画質の印刷物を得ることができる。特に、印刷画像の粒状感が低減されて、画質をより改善することができる。
【0013】
以下、前処理剤に配合されるHLB値が10.0以上である界面活性剤を界面活性剤(a)とも記し、濃インクに配合されるHLB値が10.0未満であり、前処理剤に含まれる界面活性剤のHLB値との差が2.0以上である界面活性剤を界面活性剤(b)とも記し、濃インクに配合されるSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤を溶剤(c1)とも記し、淡インクに配合されるSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤を溶剤(c2)とも記す。
【0014】
一実施形態による水性インクジェットインクセットは、前処理剤によって基材を処理し、濃インク及び淡インクのうち一方のインクを基材に吐出し、次いで、濃インク及び淡インクのうち他方を基材に吐出して用いることで、印刷物を得ることができる。好ましい形態では、基材に前処理剤付与の後インクを吐出することが好ましい。画像形成方法の一方法としては、基材上において先に吐出されるインクのドットに隣接させるようにして後のインクを吐出することで、隣り合うドット間において色材濃度が異なるため、色相の諧調を調節することができる。
一実施形態による水性インクジェットインクセットでは、上記特性を備えることで、前処理された基材上で、濃インクのドット径を適度に広げることができる。これによって、得られる印刷物において、印刷画像の粒状感を低減し、画質を向上させることができる。
【0015】
このメカニズムについて以下に説明するが、詳しいメカニズムは不明であり、本発明を拘束するものではない。
基材上において、淡インクのドットは、濃インクに配合されるHLB値が10.0以下の界面活性剤(b)を溶解可能な低SP値の溶剤(c2)の濃度が高いため、濃インクのドット中の界面活性剤(b)を取り込む働きをする。また、淡インクのドットが基材上で広がりすぎると、この作用が減少するため、淡インクの粘度を高くし、基材上において淡インクのドット径の広がりを防止しようとしている。
さらに、前処理剤の界面活性剤(a)のHLB値が濃インク中の界面活性剤(b)のHLB値よりも大きく、その差が2.0以上である場合に、基材上において、濃インクのドット径を広げる効果が発現する。その理由は、前処理剤が付与された基材上において、濃インクのドットが、前処理剤中の界面活性剤(a)を取り込む働きをするためと考えられる。
すなわち、基材上において、濃インクのドットは、濃インク中のHLB値が10.0未満の界面活性剤(b)を吐き出そうとして、低SP値の溶剤(c2)の豊富な淡インクのドットに近づき、また、基材上において、濃インクのドットは、予め付与された前処理剤のHLB値が10.0以上である界面活性剤(a)を取り込もうとして、濃インクのドット径がより広がると考えられる。
基材上において、濃インクのドット径がより広がることで、印刷画像の粒状感を低減して、高画質の印刷物を得ることができる。
【0016】
一実施形態では、前処理剤に配合される界面活性剤(a)のHLB値が10.0以上であり、濃インクに配合される界面活性剤(b)のHLB値が10.0未満であり、界面活性剤(a)のHLB値と界面活性剤(b)のHLB値との差が2.0以上であることが好ましい。このHLB値の差をHLB値の差(a-b)とも記す。
【0017】
前処理剤に配合される界面活性剤(a)のHLB値は、10.0以上が好ましく、11.0以上がより好ましく、12.0以上がさらに好ましい。これによって、印刷画像の粒状感をより低減して、より高画質な印刷物を得ることができる。
前処理剤に配合される界面活性剤(a)のHLB値は、特に限定されずに、20以下であってよく、18.0以下が好ましく、16.0以下がより好ましく、15.0以下がさらに好ましい。これによって、界面活性剤が十分な親水性と親油性のバランスを示し、前処理剤を付与する基材との親和性を高め、基材に前処理剤をより均一に付与することが可能となる。また、前処理剤を付与した基材へのインクの定着性をより改善することができる。
例えば、界面活性剤(a)のHLB値は、10.0~18.0が好ましく、11.0~16.0がより好ましく、12.0~15.0がさらに好ましい。
【0018】
濃インクに配合される界面活性剤(b)のHLB値は、10.0未満が好ましく、9.5以下がより好ましく、9.0以下がさらに好ましい。これによって、印刷画像の粒状感をより低減して、より高画質な印刷物を得ることができる。
濃インクに配合される界面活性剤(b)のHLB値は、特に限定されずに、1.0以上であってよく、2.0以上が好ましく、3.0以上がより好ましい。これによって、水性の濃インク中において、界面活性剤が十分な親水性と親油性のバランスを示し、インクの貯蔵安定性の低下を防止することができる。界面活性剤(b)のHLB値が低くなると水への溶解度が下がり、濃インク中の溶剤量を増やさなければならない等の制約が生じ得ることがある。
例えば、界面活性剤(b)のHLB値は、1.0~10.0が好ましく、2.0~9.5がより好ましく、3.0~9.0がさらに好ましい。
また、上記した範囲のHLB値を有する界面活性剤が濃インクに含まれることで、濃インクと基材との親和性を高めて、基材への濃インクの定着性をより改善することができる。
【0019】
前処理剤に配合される界面活性剤(a)のHLB値と、濃インクに配合される界面活性剤(b)のHLB値との差(a-b)は、2.0以上が好ましく、3.0以上がより好ましく、4.0以上がさらに好ましい。これによって、印刷画像の粒状感をより低減して、より高画質な印刷物を得ることができる。
また、このHLB値の差(a-b)は、15.0以下が好ましく、10.0以下がより好ましく、6.0以下がさらに好ましい。これによって、前処理剤又は濃インク中において、それぞれの界面活性剤の溶解度が高くなり、界面活性剤としての機能をより発揮することができる。
例えば、このHLB値の差(a-b)は、2.0~15.0が好ましく、3.0~10.0がより好ましく、4.0~6.0がさらに好ましい。
【0020】
ここで、HLB値は、界面活性剤の性質を示す尺度の一つであり、分子中の親水基と親油基とのバランスを数値化したものである。HLB値は、いくつかの算出方法によって提唱されているが、本明細書において、グリフィン法によって算出される値であり、下記式(1)によって算出される。
HLB値=20×(親水部の式量)/(界面活性剤の分子量)・・・式(1)
【0021】
ここで、「親水部」は、界面活性剤の分子構造中に含まれている親水性の部分を示し、好ましくは、ポリオキシアルキレン基、水酸基に対する主鎖の炭素数が3以下のアルコール基、又はこれらの組み合わせである。界面活性剤に複数の親水性の部分が含まれる場合は、上記式(1)において親水部の式量はこれらの合計量とする。
ポリオキシアルキレン基としては、ポリオキシエチレン基(ポリエチレンオキサイド;EO:-(CHCHO)-)、ポリオキシプロピレン基(ポリプロピレンオキサイド;PO:-(CHCHCHO)-)等が挙げられる。
また、アルコール基としては、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、グリセリン、ポリグリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール、ソルビタン、スクロース(ショ糖)、マンニット、グリコール類等に由来する基(例えばエタノールであれば-CHCHOH)が挙げられる。
【0022】
「疎水部」は、界面活性剤の分子構造中に含まれている疎水性の部分を示し、好ましくは、水酸基に対する主鎖の炭素数が4以上の脂肪族アルコール、アルキルフェノール、脂肪酸等に由来する脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、有機シロキサン、ハロゲン化アルキル等、又はこれらの組み合わせである。
【0023】
また、一実施形態では、濃インクにSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c1)が含まれ、淡インクにSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c2)が含まれ、淡インクに含まれるSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c2)の濃度は、濃インクに含まれるSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c1)の濃度に対して1.1倍以上であることが好ましい。この濃度比を濃度比(c2/c1)とも記す。また、溶剤(c1)及び溶剤(c2)の濃度の単位はそれぞれ質量%とする。
【0024】
濃インクに含まれるSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c1)の濃度は、濃インクの全質量に対して、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c1)の質量の割合(質量%)で表すことができる。濃インクにSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c1)が2種以上含まれる場合は、濃インクの全質量に対して、2種以上のSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c1)の合計質量の割合(質量%)が溶剤(c1)の濃度となる。
同様に、淡インクに含まれるSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c2)の濃度は、淡インクの全質量に対して、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c2)の質量の割合(質量%)で表すことができる。淡インクにSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c2)が2種以上含まれる場合は、淡インクの全質量に対して、2種以上のSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c2)の合計質量の割合(質量%)が溶剤(c2)の濃度となる。
【0025】
濃度比(c2/c1)は、1.1倍以上が好ましく、1.12倍以上がより好ましく、1.15倍以上がさらに好ましい。これによって、印刷画像の粒状感をより低減して、より高画質な印刷物を得ることができる。
また、濃度比(c2/c1)は、特に限定されずに、10倍以下が好ましく、5倍以下がより好ましく、2倍以下がさらに好ましい。これによって、隣り合う濃インクのドットと淡インクのドットとの間で、濃インクの界面活性剤が、濃インクのドットから淡インクのドットへ過剰に移動することを防止して、色相の濃度勾配を全体的に維持して、なめらかな画像を形成することができる。
例えば、濃度比(c2/c1)は、1.1~10倍が好ましく、1.12~5倍がより好ましく、1.15~2倍がさらに好ましい。
【0026】
濃インク及び淡インクは、それぞれ独立的に、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤を含むことが好ましく、より好ましくは、SP値が15.3(cal/cm)1/2以下の溶剤であり、さらに好ましくはSP値が15.0(cal/cm)1/2以下の溶剤である。これによって、濃インク中においてHLB値が10.0未満の界面活性剤(b)の溶解性をより高めて、インクと基材との親和性、インクの吐出性能等をより改善することができる。これは、淡インクに界面活性剤が含まれる場合も同様である。また、基材上において、濃インクの界面活性剤(b)を、濃インクのドットから淡インクのドットへ移動させて、濃インクのドット径をより広げ、粒状感を低減することができる。
濃インク及び淡インクにおいて、それぞれ独立的に、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤は、SP値が5(cal/cm)1/2以上が好ましく、10(cal/cm3)1/2以上がより好ましく、12(cal/cm)1/2以上がさらに好ましい。これによって、濃インク及び淡インクそれぞれにおいて、水性溶媒が単一相を形成して、インクの貯蔵安定性をより高めることができる。
例えば、濃インク及び淡インクは、それぞれ独立的に、SP値が5~15.5(cal/cm)1/2が好ましく、10~15.3(cal/cm)1/2がより好ましく、15.0~12(cal/cm)1/2がさらに好ましい。
【0027】
ここで、SP値は、溶解度パラメータであり、分子の凝集エネルギー密度の平方根で定義される。種々の計算方法があるが、ここではFedorの提案した推算法(数式1)により計算された値を用いる。
[数式1]
δ(SP値)=[ΣEcoh/ΣV]1/2・・・(1)
ここで、Ecohは各官能基に固有の定数を示し、Vはモル分子を表す(「SP値基礎・応用と計算方法」、66~67頁、株式会社情報機構、2005年3月31日発行参照)。
【0028】
SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤としては、水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。水溶性有機溶剤は、水と相溶性を示すことが好ましい。水溶性有機溶剤としては、室温で液体であり、水に溶解又は混和可能な有機化合物を使用することができ、1気圧20℃において同容量の水と均一に混合する水溶性有機溶剤を用いることが好ましい。
【0029】
SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤の具体例としては、ジエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールアリルエーテル、ジエチレングリコールベンジルエーテル、ジエチレングリコールフェニルエーテル、1,2-ヘキサンジオール、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、1,2-ブタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、2-ピロリドン、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール等が挙げられる。
これらは、水とともに単一相を形成する範囲で用いることが好ましく、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いておよい。
【0030】
濃インクにおいて、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c1)は、濃インク全量に対し、5質量%以上が好ましく、10質量%以上がより好ましく、20質量%以上がさらに好ましい。
濃インクにおいて、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c1)は、濃インク全量に対し、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、25質量%以下がさらに好ましい。
濃インクにおいて溶剤(c1)の含有量が上記範囲において、濃度比(c2/c1)を適宜調節することができ、印刷画像の粒状感をより低減することができる。
【0031】
淡インクにおいて、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c2)は、淡インク全量に対し、10質量%以上が好ましく、20質量%以上がより好ましく、30質量%以上がさらに好ましい。
淡インクにおいて、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c2)は、淡インク全量に対し、50質量%以下が好ましく、40質量%以下がより好ましく、30質量%以下がさらに好ましい。
淡インクにおいて溶剤(c1)の含有量が上記範囲において、濃度比(c2/c1)を適宜調節することができ、印刷画像の粒状感をより低減することができる。
濃インク及び淡インクにおいて、それぞれ、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤が2種類以上含まれる場合は、2種類以上のSP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤の合計質量が上記した範囲を満たすことが好ましい。
【0032】
また、一実施形態では、23℃において淡インクの粘度が濃インクの粘度に対して1.05倍以上であることが好ましい。以下、濃インクの粘度をv1とも記し、淡インクの粘度をv2とも記し、この粘度比を粘度比(v2/v1)とも記す。また、濃インクの粘度(v1)及び淡インクの粘度(v2)の単位はそれぞれmPa・sとする。
この粘度比(v2/v1)は1.05倍以上が好ましく、1.10倍以上がより好ましく、1.15倍以上がさらに好ましい。これによって、印刷画像の粒状感をより低減して、より高画質な印刷物を得ることができる。具体的には、基材上において、より高粘度の淡インクのドット径が広がらないようにし、濃インクの界面活性剤(b)が、より低粘度の濃インクのドットから淡インクのドットに移動するようにして、濃度勾配をある程度維持しながら、濃インクのドット径の広がりを防止し、粒状感を低減することができる。
また、この粘度比(v2/v1)は、特に限定されずに、2倍以下が好ましく、1.5倍以下がより好ましく、1.3倍以下がさらに好ましい。これによって、両者のインク間で粘度差が大きくならないようにし、同じインクジェット印刷装置を用いて濃インクと淡インクとをより簡便に印刷することができる。例えば、インクジェットノズルからの吐出性能を、濃インクと淡インクともに改善することができる。
例えば、この粘度比(v2/v1)は、1.05~2倍が好ましく、1.10~1.5倍がより好ましく、1.15~1.3倍がさらに好ましい。
【0033】
濃インクの粘度は、2mPa・s以上が好ましく、5mPa・s以上がより好ましく、8mPa・s以上がさらに好ましく、9mPa・s以上であってもよい。
濃インクの粘度は、30mPa・s以下が好ましく、15mPa・s以下がより好ましく、13mPa・s以下がさらに好ましい。
濃インクにおいて粘度(v1)が上記範囲において、粘度比(v2/v1)を適宜調節することができ、印刷画像の粒状感をより低減することができる。
【0034】
淡インクの粘度は、2mPa・s以上が好ましく、5mPa・s以上がより好ましく、7mPa・s以上がさらに好ましく、10mPa・s以上であってもよい。
淡インクの粘度は、30mPa・s以下が好ましく、15mPa・s以下がより好ましく、15mPa・s以下がさらに好ましい。
淡インクにおいて粘度(v2)が上記範囲において、粘度比(v2/v1)を適宜調節することができ、印刷画像の粒状感をより低減することができる。
【0035】
ここで、インクの粘度は、23℃において、0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける値を表す。
インクの粘度比は、濃インクの粘度(v1)及び淡インクの粘度(v2)を上記した手順にしたがって測定し、その比(v2/v1)から求めることができる。
【0036】
一実施形態による水性インクジェットインクセットは、前処理剤、濃インク、及び淡インクが上記した物性を備えることで、印刷画像の粒状感が低減されて、より高画質な印刷物を提供することができる。
【0037】
「前処理剤」
以下、前処理剤について説明する。
一実施形態による前処理剤は、HLB値が10.0以上である界面活性剤、及び水を含む。
前処理剤に含まれる界面活性剤(a)のHLB値と、前処理剤に含まれる界面活性剤(a)のHLB値と濃インクに含まれる界面活性剤(b)のHLB値との関係は、上記した通りである。
【0038】
前処理剤に界面活性剤が含まれることで、基材への前処理剤の親和性を改善して基材上に前処理剤をより均一に付与することができる。
例えば、低浸透性基材の多くは、未処理の状態では基材表面が疎水性であるため、未処理の基材に水性インクを塗布すると、基材に対して水性インクの濡れ性が悪いため、基材上の印刷ドットが不均一になって、画質が低下することがある。これに対して、界面活性剤を含む前処理剤によって処理された基材を用いることで、基材と水性インクとの濡れ性をより改善することができる。
【0039】
界面活性剤(a)としては、HLB値が10.0以上である界面活性剤である。界面活性剤(a)としては、非イオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。また、低分子系界面活性剤、高分子系界面活性剤のいずれを用いてもよい。
【0040】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ソルビタンエステル等のエステル型界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエーテルエステル型界面活性剤;アセチレン系界面活性剤;シリコーン系界面活性剤;フッ素系界面活性剤等が挙げられる。なかでも、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤を好ましく用いることができる。界面活性剤は、1種単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
アセチレン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレン基を有する界面活性剤等を挙げることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、アセチレン基を有するグリコールであって、好ましくはアセチレン基が中央に位置して左右対称の構造を備えるグリコールであり、アセチレングリコールにエチレンオキサイドを付加した構造を備えてもよい。
【0042】
アセチレングリコール系界面活性剤として、エチレンオキサイドを付加したアセチレングリコールを用いる場合において、エチレンオキサイドの付加モル数は6以上が好ましく、8以上がより好ましく、10以上がさらに好ましい。
【0043】
HLB値が10.0以上のアセチレン系界面活性剤の市販品として、例えば、「オルフィンE1010、E1006、E1020」、「サーフィノール465、485」(以上、日信化学工業株式会社製)等を挙げることができる(いずれも商品名)。
【0044】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、アルキル・アラルキル共変性シリコーン系界面活性剤、アクリルシリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
【0045】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリシロキサン骨格にポリアルキレングリコール鎖を有する化合物を用いることができる。具体的には、トリシロキサンの1位、3位、及び6位のSi元素から選択される少なくとも1つのSi元素に、少なくとも1個のポリアルキレングリコール鎖が結合する化合物を用いることができる。この化合物において、ポリアルキレングリコール鎖は、ポリエチレングリコール鎖、ポリプロピレングリコール鎖、ポリトリメチレングリコール鎖等であってよいが、好ましくはポリエチレングリコール鎖である。
【0046】
なかでも、シリコーン系界面活性剤として、エチレンオキサイドの付加モル数が7以上のポリエチレングリコール鎖を有するヘプタメチルトリシロキサンを用いることが好ましい。この界面活性剤において、より好ましいエチレンオキサイドの付加モル数は、7~40であり、さらに好ましくは9~35であり、一層好ましくは8~30である。また、この界面活性剤において、シロキサン骨格に結合するメチル基は、炭素数2以上のアルキル基等のその他の疎水性基に置換されてもよい。
また、シリコーン系界面活性剤として、エチレンオキサイドの付加モル数が9以上のポリエチレングリコール鎖を有するノナメチルテトラシロキサンを用いることが好ましい。この界面活性剤において、より好ましいエチレンオキサイドの付加モル数は、11~40であり、さらに好ましくは13~35である。また、この界面活性剤において、シロキサン骨格に結合するメチル基は、炭素数2以上のアルキル基等のその他の疎水性基に置換されてもよい。
【0047】
また、界面活性剤(a)として、一般式「C2m+1-O-(CHCHO)-H」で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いることができる。この一般式において、n=1かつm=1、n=2かつm=1~5、n=3かつm=1~8、n=4かつm=1~11であることが好ましい。
【0048】
界面活性剤(a)は、有効成分量で、前処理剤全量に対し、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、0.7質量%以上がさらに好ましい。これによって、印刷画像の粒状感をより低減して、画質をより改善することができる。具体的には、基材上において、前処理剤の界面活性剤(a)が、ベースの前処理剤から濃インクのドットに移動する量がより多くなり、濃インクのドット径をより広げ、粒状感をより低減することができる。また、前処理剤と基材との親和性をより改善することができる。
界面活性剤(a)は、有効成分量で、前処理剤全量に対し、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。これによって、前処理剤において、貯蔵安定性の低下を防止することができる。
例えば、界面活性剤(a)は、有効成分量で、前処理剤全量に対し、0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましく、0.7~1質量%がさらに好ましい。
【0049】
前処理剤は、凝集剤をさらに含むことができる。前処理剤に凝集剤が含まれることで、前処理剤によって処理された基材に水性インクが塗布されると、前処理剤中の凝集剤によって、水性インクの色材が基材上で凝集し、画像の滲みを抑制して、画質をより改善することができる。
凝集剤としては、カチオン性樹脂、多価金属塩、有機酸、無機酸、無機酸の塩等、又はこれらの組み合わせを用いることができる。
【0050】
カチオン性樹脂としては、カチオン性水溶性樹脂及びカチオン性水分散性樹脂のいずれであってもよく、これらを組み合わせて用いてもよい。
【0051】
カチオン性水溶性樹脂としては、例えば、ポリエチレンイミン(PEI)、ポリビニルアミン、ポリアリルアミン及びその塩、ポリビニルピリジン、カチオン性のアクリルアミドの共重合体等が挙げられる。より具体的には、ポリジアリルジメチルアンモニウムクロライド等を用いることができる。
【0052】
カチオン性水溶性樹脂の市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製シャロールシリーズ「DC-303P、DC-902P」等、センカ株式会社製ユニセンスシリーズ「FCA1000L、FPA100L」等、大阪有機化学工業株式会社製HCポリマーシリーズ「1S、1N、1NS、2、2L」等、ハイモ株式会社製ハイマックスシリーズ「ハイマックスSC-103、SC-506、SC-700L」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0053】
また、ポリエチレンイミンの市販品としては、例えば、株式会社日本触媒製エポミンシリーズ「SP-006、SP-012、SP-018、SP-200」等;BASFジャパン株式会社製「Lupasol FG、Lupasol G20 Waterfree、Lupasol PR 8515」等が挙げられる(いずれも商品名)。
また、ポリアリルアミンの市販品としては、例えば、日東紡績株式会社製「アリルアミン重合体であるPAA-01、PAA-03、PAA-05、アリルアミン塩酸塩重合体であるPAA-HCL-01、PAA-HCL-03、PAA-HCL-05、アリルアミンアミド硫酸塩重合体であるPAA-SA」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0054】
カチオン性水分散性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン/(メタ)アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、オレフィン樹脂、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、メラミン樹脂、アミド樹脂、エチレン-塩化ビニル共重合樹脂、スチレン-無水マレイン酸共重合体樹脂、酢酸ビニル-(メタ)アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル-エチレン共重合体樹脂、及びこれらの複合樹脂等において、これらの樹脂にカチオン性の官能基を導入するか、又は、カチオン性分散剤等で表面処理して、プラスの表面電荷を与えたものを用いることができる。カチオン性の官能基は、代表的には第1級、第2級又は第3級アミノ基、ピリジン基、イミダゾール基、ベンズイミダゾール基、トリアゾール基、ベンゾトリアゾール基、ピラゾール基、又はベンゾピラゾール基等が挙げられる。カチオン性の分散剤は、1級、2級、3級又は4級アミノ基含有アクリルポリマー、ポリエチレンイミン、カチオン性ポリビニルアルコール樹脂、カチオン性水溶性多分岐ポリエステルアミド樹脂等が挙げられる。ここで、「(メタ)アクリル樹脂」は、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、又はこれらの共重合体を示す。
【0055】
カチオン性水分散性樹脂の市販品としては、例えば、Lubrizol社製の「PRINTRITE DP375」等、明成化学工業株式会社製の「PP-17」等、昭和電工株式会社製の「ポリゾールAP-1350、AP-1370、AE-803、AM-3400」等、DIC株式会社製の「ボンコートSFC-55」等、ジャパンコーティングレジン株式会社製の「アクアテックスAC-3100」、DIC株式会社製「ハイドランCP7610、CP7050」等、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス620、650」等、日本合成化学工業株式会社製「モビニール7820」等が挙げられる(いずれも商品名)。
これらは1種で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
カチオン性樹脂を用いる場合、カチオン性樹脂(有効成分)は、前処理剤全量に対し、1~50質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましい。
【0056】
多価金属塩としては、例えば、Mg、Ca、Al、Zn、Ba等の2価以上の金属のハロゲン化物、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、脂肪酸塩、乳酸塩等が挙げられる。具体的には、硝酸カルシウム、硝酸マグネシウム、硝酸銅、酢酸カルシウム、酢酸マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸バリウム、硫酸アルミニウム等が挙げられる。これらは1種で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
多価金属塩を用いる場合、多価金属塩は、前処理剤全量に対し、0.1~10質量%が好ましい。
【0057】
有機酸としては、例えば、ギ酸、酢酸、シュウ酸、ポリアクリル酸、酢酸、グリコール酸、マロン酸、リンゴ酸(好ましくは、DL-リンゴ酸)、マレイン酸、アスコルビン酸、コハク酸、グルタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸、フタル酸、4-メチルフタル酸、乳酸、ピロリドンカルボン酸、ピロンカルボン酸、ピロールカルボン酸、フランカルボン酸、ピリジンカルボン酸、クマリン酸、チオフェンカルボン酸、ニコチン酸等が挙げられる。これらは、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
有機酸を用いる場合、有機酸は、前処理剤全量に対し、1~30質量%が好ましい。
【0058】
無機酸としては、例えば、亜リン酸、次亜リン酸、ピロリン酸、メタリン酸、ポリリン酸等、又はこれらの塩を用いることができる。これらは、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。
無機酸を用いる場合、無機酸は、前処理剤全量に対し、1~30質量%が好ましい。
【0059】
カチオン性樹脂、多価金属塩、有機酸、及び無機酸を含む凝集剤の合計量は、前処理剤全量に対し、1~50質量%が好ましく、3~20質量%がより好ましい。
【0060】
前処理剤は、バインダー樹脂をさらに含むことができる。
バインダー樹脂は、カチオン性樹脂、アニオン性樹脂、両性樹脂、ノニオン性樹脂のいずれであってもよいが、カチオン性樹脂、両性樹脂、ノニオン性樹脂を好ましく用いることができる。上記した凝集剤としてのカチオン性樹脂を用いることで、バインダー樹脂の作用を得ることも可能である。
両性樹脂、ノニオン性樹脂としては、例えば、DIC株式会社製「ボンコート40-418EF(両性)」、第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス500M(ノニオン性)、E-2000(ノニオン性)」等が挙げられる(いずれも商品名)。これらは、上記した凝集剤としてのカチオン性樹脂と併用可能であるため、好ましく用いることができる。
バインダー樹脂(有効成分)は、前処理剤全量に対し、0.5~20.0質量%が好ましい。
【0061】
前処理剤は、水性溶媒として水を含むことが好ましく、主溶媒が水であってもよい。
水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。
特に、インクの貯蔵安定性の観点から、カルシウム等の多価金属イオンの含有量が少ないことが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いるとよい。
水は、各成分の残部であればよいが、例えば、前処理剤全量に対して20質量%~90質量%で含まれることが好ましく、50質量%~80質量%で含まれることがより好ましい。
【0062】
前処理剤は、粘度調整と保湿効果の観点から、水溶性有機溶剤を含むことができる。前処理剤には、水溶性有機溶剤として、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤が含まれてもよい。SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤の詳細については上記した通りである。SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤は、前処理剤全量に対し、1~50質量%が好ましく、10~30質量%であってよい。
前処理剤は、グリセリン等のその他の水溶性有機溶剤を含むことができる。その他の水溶性有機溶剤は、粘度調整と保湿効果の観点から、前処理剤全量に対し1質量%~30質量%で含ませることができ、10質量%~20質量%であることがより好ましい。
【0063】
さらに前処理剤には、上記の成分に加え、任意に、湿潤剤(保湿剤)、表面張力調整剤(浸透剤)、消泡剤、定着剤、酸化防止剤、防腐剤、pH調整剤等を適宜含有させることができる。
前処理剤の作製方法としては、特に限定されず、各成分を混合して作製することができる。例えば、前処理剤の全成分を一括又は分割して添加して混合することで得ることができる。
【0064】
「濃インク及び淡インク」
以下、濃インク及び淡インクについて説明する。
一実施形態による水性インクジェットインクセットは、互いに同一色相である濃インク及び淡インクを含むことができる。
濃インクと淡インクとは、同一色相の色材を互いに異なる濃度で含むことで、同一色相で異なる濃度のインクとして提供することができる。濃インクと淡インクとは、それぞれ互いに同一成分の色材を含むことが好ましいが、互いに同一色相であれば互いに異なる成分の色材を含んでもよい。詳しくは、濃インクと淡インクとは、同一色相であって同一成分の色材を互いに異なる濃度で含むことが好ましい。
例えば、淡インクは、KCMYカラー系統において濃インクと同系色であって、濃インクの色材の質量に対して色材の質量が3分の1以下の色材を含むことが好ましい。
【0065】
また、濃インクと淡インクとは、同じ印刷装置を用いて基材に画像を連続して印刷して用いることができる。濃インクに対して、淡インクは、グレーインク、ライトシアン、ライトマゼンタ、淡シアン、淡マゼンタ等と呼ばれることがある。
【0066】
濃インクは、HLB値が10.0未満であり前処理剤に含まれる界面活性剤のHLB値との差が2.0以上である界面活性剤(b)、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c1)、及び水を含むことができる。
濃インクに含まれる界面活性剤(b)のHLB値と、前処理剤に含まれる界面活性剤(a)のHLB値と濃インクに含まれる界面活性剤(b)のHLB値との関係は、上記した通りである。
【0067】
界面活性剤(b)としては、HLB値が10.0未満である界面活性剤である。界面活性剤(b)には、非イオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。また、低分子系界面活性剤、高分子系界面活性剤のいずれを用いてもよい。
【0068】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ソルビタンエステル等のエステル型界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエーテルエステル型界面活性剤;アセチレン系界面活性剤;シリコーン系界面活性剤;フッ素系界面活性剤等が挙げられる。なかでも、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤を好ましく用いることができる。界面活性剤は、1種単独で用いることが好ましいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
アセチレン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレン基を有する界面活性剤等を挙げることができる。
アセチレングリコール系界面活性剤としては、アセチレン基を有するグリコールであって、好ましくはアセチレン基が中央に位置して左右対称の構造を備えるグリコールであり、アセチレングリコールにエチレンオキサイドを付加した構造を備えてもよい。
【0070】
アセチレングリコール系界面活性剤として、エチレンオキサイドを付加したアセチレングリコールを用いる場合において、エチレンオキサイドの付加モル数は5以下が好ましく、4以下がより好ましく、3以下がさらに好ましい。
HLB値が10.0未満のアセチレン系界面活性剤の市販品として、例えば、「オルフィンE1004」、「サーフィノール420、440、104」(以上、日信化学工業株式会社製)等を挙げることができる(いずれも商品名)。
【0071】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、アルキル・アラルキル共変性シリコーン系界面活性剤、アクリルシリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
【0072】
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリシロキサン骨格にポリアルキレングリコール鎖を有する化合物を用いることができる。具体的には、トリシロキサンの1位、3位、及び6位のSi元素から選択される少なくとも1つのSi元素に、少なくとも1個のポリアルキレングリコール鎖が結合する化合物を用いることができる。この化合物において、ポリアルキレングリコール鎖は、ポリエチレングリコール鎖、ポリプロピレングリコール鎖、ポリトリメチレングリコール鎖等であってよいが、好ましくはポリエチレングリコール鎖である。
【0073】
なかでも、シリコーン系界面活性剤として、エチレンオキサイドの付加モル数が0~6、より好ましくは1~4のポリエチレングリコール鎖を有するヘプタメチルトリシロキサンを用いることが好ましい。この界面活性剤において、シロキサン骨格に結合するメチル基は、炭素数2以上のアルキル基等のその他の疎水性基に置換されてもよい。
また、シリコーン系界面活性剤として、エチレンオキサイドの付加モル数が0~8、より好ましくは1~6のポリエチレングリコール鎖を有するノナメチルテトラシロキサンを用いることが好ましい。この界面活性剤において、シロキサン骨格に結合するメチル基は、炭素数2以上のアルキル基等のその他の疎水性基に置換されてもよい。
【0074】
また、界面活性剤(b)として、一般式「C2m+1-O-(CHCHO)-H」で表されるポリオキシエチレンアルキルエーテルを用いることができる。この一般式において、n=1かつm=2以上、n=2かつm=6以上、n=3かつm=9以上、n=4かつm=12以上であることが好ましい。
【0075】
界面活性剤(b)は、有効成分量で、濃インク全量に対し、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、0.7質量%以上がさらに好ましい。これによって、印刷画像の粒状感をより低減して、画質をより改善することができる。具体的には、基材上において、濃インクの界面活性剤(b)が、濃インクのドットから淡インクのドットに移動する量がより多くなり、濃インクのドット径を広げ、粒状感をより低減することができる。また、基材との親和性をより改善することができる。
界面活性剤(b)は、有効成分量で、濃インク全量に対し、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。これによって、濃インクにおいて、貯蔵安定性の低下を防止することができる。
例えば、界面活性剤(b)は、有効成分量で、濃インク全量に対し、0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましく、0.7~1質量%がさらに好ましい。
【0076】
濃インクは、水性溶媒として水を含むことが好ましく、主溶媒が水であってもよい。なお、後述する顔料分散体に溶媒として水が含まれる場合は、顔料分散体中の水はインク中の水の一部に換算して、インクを作製する。
水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。
特に、インクの貯蔵安定性の観点から、カルシウム等の多価金属イオンの含有量が少ないことが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いるとよい。
水は、インク粘度の調整の観点から、濃インク全量に対して20質量%~90質量%で含まれることが好ましく、30質量%~80質量%で含まれることがより好ましい。
【0077】
濃インクは、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c1)を含むことができる。この溶剤(c1)は、水と相溶性を示すことが好ましい。
濃インクに含まれる溶剤(c1)のSP値と、濃インクに含まれる溶剤(c1)と淡インクに含まれる溶剤(c2)との関係は、上記した通りである。また、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤については、上記した通りである。
【0078】
濃インクは、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c1)に加えて、その他の水溶性有機溶剤を含むことができる。その他の水溶性有機溶剤としては、例えば、グリセリン等が挙げられる。
その他の水溶性有機溶剤は、粘度調整と保湿効果の観点から、濃インク全量に対し1質量%~30質量%で含ませることができ、10質量%~20質量%であることがより好ましい。
【0079】
濃インクは、色材として、顔料、染料、又はこれらの組み合わせを含むことができる。
画像の耐候性及び発色性の点から、色材として顔料を好ましく用いることができる。
【0080】
顔料は、顔料分散体としてインクに好ましく配合することができる。
顔料分散体としては、顔料が溶媒中に分散可能なものであって、インク中で顔料が分散状態となるものであればよい。例えば、顔料を顔料分散剤で水中に分散させたもの、自己分散性顔料を水中に分散させたもの、顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセル化顔料を水中で分散させたもの等を用いることができる。
【0081】
顔料としては、例えば、アゾ顔料、フタロシアニン顔料、多環式顔料、染付レーキ顔料等の有機顔料;カーボンブラック、金属酸化物等の無機顔料を用いることができる。アゾ顔料としては、溶性アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料及び縮合アゾ顔料等が挙げられる。
フタロシアニン顔料としては、銅フタロシアニン顔料等の金属フタロシアニン顔料、及び無金属フタロシアニン顔料等が挙げられる。多環式顔料としては、キナクリドン系顔料、ペリレン系顔料、ペリノン系顔料、イソインドリン系顔料、イソインドリノン系顔料、ジオキサジン系顔料、チオインジゴ系顔料、アンスラキノン系顔料、キノフタロン系顔料、金属錯体顔料、及びジケトピロロピロール(DPP)等が挙げられる。カーボンブラックとしては、ファーネスカーボンブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等が挙げられる。金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。
これらの顔料の平均粒子径は50~500nmであることが好ましく、50~200nmであることがより好ましい。これらの顔料の平均粒子径は、発色性の観点から50nm以上であることが好ましく、吐出安定性の観点から500nm以下であることが好ましい。
【0082】
インク中に顔料を安定に分散させるために、高分子分散剤や界面活性剤に代表される顔料分散剤を好ましく用いることができる。
高分子分散剤の市販品として、例えば、EVONIK社製のTEGOディスパースシリーズ「TEGOディスパース740W、750W、755W、757W、760W」、日本ルーブリゾール株式会社製のソルスパースシリーズ「ソルスパース20000、27000、41000、41090、43000、44000、46000」、ジョンソンポリマー社製のジョンクリルシリーズ「ジョンクリル57、60、62、63、71、501」、BYK製の「DISPERBYK-102、185、190、193、199」、第一工業製薬株式会社製のポリビニルピロリドン「K-30、K-90」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0083】
界面活性剤型分散剤には、インク中の顔料の分散安定性、及び前処理剤からのイオン性の影響を考慮して、非イオン性界面活性剤を好ましく用いることができる。
界面活性剤型分散剤の市販品として、例えば、花王株式会社製エマルゲンシリーズ「エマルゲンA-60、A-90、A-500、B-40、L-40、420」等の非イオン性界面活性剤等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0084】
これらの顔料分散剤は、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
顔料分散剤を用いる場合では、顔料分散剤の添加量はその種類によって異なり特に限定はされない。例えば、顔料分散剤は、有効成分の質量比で、顔料1に対し、0.005~0.5の範囲で添加することができる。
【0085】
色材として自己分散性顔料を配合してもよい。自己分散性顔料は、化学的処理又は物理的処理により顔料の表面に親水性官能基が導入された顔料である。自己分散性顔料に導入させる親水性官能基としては、イオン性を有するものが好ましく、顔料表面をアニオン性又はカチオン性に帯電させることにより、静電反発力によって顔料粒子を水中に安定に分散させることができる。アニオン性官能基としては、スルホン酸基、カルボキシ基、カルボニル基、ヒドロキシ基、ホスホン酸基等が好ましい。カチオン性官能基としては、第4級アンモニウム基、第4級ホスホニウム基等が好ましい。
【0086】
これらの親水性官能基は、顔料表面に直接結合させてもよいし、他の原子団を介して結合させてもよい。他の原子団としては、アルキレン基、フェニレン基、ナフチレン基等が挙げられるが、これらに限定されることはない。顔料表面の処理方法としては、ジアゾ化処理、スルホン化処理、次亜塩素酸処理、フミン酸処理、真空プラズマ処理等が挙げられる。
【0087】
自己分散性顔料としては、例えば、キャボット社製CAB-O-JETシリーズ「CAB-O-JET200、300、250C、260M、270」、オリヱント化学工業株式会社製「BONJET BLACK CW-1、CW-2、CW-4」等を好ましく使用することができる(いずれも商品名)。
【0088】
顔料分散剤で顔料があらかじめ分散された顔料分散体を使用してもよい。顔料分散剤で分散された顔料分散体の市販品としては、例えば、クラリアント社製HOSTAJETシリーズ、冨士色素株式会社製FUJI SPシリーズ等が挙げられる(いずれも商品名)。上記した顔料分散剤で分散された顔料分散体を使用してもよい。また、顔料を樹脂で被覆したマイクロカプセル化顔料を使用してもよい。
【0089】
色材として染料を配合してもよい。染料としては、印刷の技術分野で一般に用いられているものを使用でき、特に限定されない。具体的には、塩基性染料、酸性染料、直接染料、可溶性バット染料、酸性媒染染料、媒染染料、反応染料、バット染料、硫化染料等が挙げられる。これらのうち、水溶性のもの及び還元等により水溶性となるものを好ましく用いることができる。より具体的には、アゾ染料、ローダミン染料、メチン染料、アゾメチン染料、キサンテン染料、キノン染料、トリフェニルメタン染料、ジフェニルメタン染料、メチレンブルー等が挙げられる。
【0090】
上記した色材は、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
色材は、有効成分量で、インク全量に対し、0.1質量%~25質量%が好ましく、1質量%~20質量%がより好ましく、3質量%~15質量%がさらに好ましい。
【0091】
濃インクは、水溶性樹脂、水分散性樹脂、又はこれらの組み合わせをさらに含んでもよい。これによって、基材への色材の定着性をより改善することができる。
水溶性樹脂及び水分散性樹脂は、それぞれ、カチオン性樹脂、アニオン性樹脂、両性樹脂、ノニオン性樹脂のいずれであってもよい。水性インクに適する色材は、特に水分散させる色材の表面電荷がアニオン性を示すものが多いことから、水中での色材の安定性を考慮して、アニオン性樹脂、両性樹脂、ノニオン性樹脂を好ましく用いることができ、より好ましくはアニオン性樹脂である。
水性インクの色材がアニオン性樹脂によって安定している構成において、前処理剤にカチオン性の凝集剤が含まれることで、前処理剤によって処理された基材に水性インクが塗布されると、前処理剤中のカチオン性の凝集剤によって、水性インクの色材が基材上で凝集し、画像の滲みを抑制して、画質をより改善することができる。
水溶性樹脂及び水分散性樹脂は、それぞれ基材上で透明の塗膜を形成する樹脂であることが好ましい。これによって、水性インクの発色への影響を低減することができる。
【0092】
水溶性樹脂としては、例えば、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸中和物、アクリル酸/マレイン酸共重合体、アクリル酸/スルホン酸共重合体、スチレン/マレイン酸共重合体等が挙げられる。また、これらの樹脂にアニオン性の官能基を導入したアニオン性水溶性樹脂を用いることができる。これらは、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0093】
水分散性樹脂としては、例えば、エチレン-塩化ビニル共重合樹脂、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-無水マレイン酸共重合体樹脂、ウレタン樹脂、酢酸ビニル-(メタ)アクリル共重合体樹脂、酢酸ビニル-エチレン共重合体樹脂等が挙げられる。これらは、1種で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
水分散性樹脂は、水中油(O/W)型の樹脂エマルションとしてインクに添加することができる。
【0094】
水分散性樹脂としては、樹脂粒子表面がマイナスに帯電し、負電荷を帯びたアニオン性の樹脂粒子を用いることが好ましい。これは、水に溶解することなく粒子状に分散して水中油(O/W)型の樹脂エマルションを形成できるものである。自己乳化型樹脂のように、樹脂が有するアニオン性の官能基が樹脂粒子表面に存在するものでもよいし、樹脂粒子表面にアニオン性の分散剤を付着させる等の表面処理がされたものでもよい。アニオン性の官能基は、代表的にはカルボキシ基、スルホ基等であり、アニオン性の分散剤は、アニオン性界面活性剤等である。骨格となる樹脂は、上記した通りである。
【0095】
水分散性樹脂としては、基材との密着性、インク中の安定性等の観点から、ウレタン樹脂エマルション、(メタ)アクリル樹脂エマルション、(メタ)アクリル樹脂共重合体の樹脂エマルション、又はこれらの組み合わせを用いることが好ましい。
ウレタン樹脂の樹脂エマルションの市販品としては、例えば、第一工業製薬株式会社製の「スーパーフレックス460、420、470、460S」、「スーパーフレックス740、860」、「スーパーフレックス870」;DSM社の「NeoRez R-9660、R-2170」、「NeoRez R-986、R-9603」;三井化学株式会社製の「タケラックWS-5100」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0096】
(メタ)アクリル樹脂エマルション、(メタ)アクリル樹脂共重合体の樹脂エマルションの市販品としては、例えば、日本合成化学工業株式会社製の「モビニール966A、6963、6960、6969D」;BASF社製の「ジョンクリル7100、PDX-7370、PDX-7341」;DIC株式会社製の「ボンコートEC-905EF、5400EF、CG-8400」;DSM社製「NeoCryl A-1125」等が挙げられる(いずれも商品名)。
【0097】
水溶性樹脂及び水分散性樹脂の合計量(有効成分)は、質量比で、色材1に対し、0.5~10が好ましく、1~5がさらに好ましい。
また、水溶性樹脂及び水分散性樹脂の合計量(有効成分)は、濃インク全量に対し、1~20質量%が好ましく、3~10質量%がより好ましい。
【0098】
濃インクは、バインダー樹脂をさらに含むことができる。
バインダー樹脂は、基材上に色材等の固形分をより強く定着させ、塗膜の強度を高めるために配合することができる。バインダー樹脂は、カチオン性樹脂、アニオン性樹脂、両性樹脂、ノニオン性樹脂のいずれでもあってよい。水性インクに適する色材は、特に水に分散させる色材の表面電荷がアニオン性を示すものが多いことから、水中での色材の安定性を考慮して、バインダー樹脂は、アニオン性樹脂、ノニオン性樹脂を好ましく用いることができる。上記した樹脂成分としての水溶性樹脂及び水分散性樹脂をそれぞれ用いることで、バインダー樹脂の作用を得ることも可能である。
バインダー樹脂(有効成分)は、濃インク全量に対し、1~20質量%が好ましい。
【0099】
その他、濃インクには、上記の成分に加え、任意に、湿潤剤(保湿剤)、表面張力調整剤(浸透剤)、消泡剤、定着剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等を適宜含有させることができる。
濃インクの作製方法は、特に限定されないが、各成分を適宜混合することで所望のインクを得ることができる。例えば、色材に顔料分散体を用いる場合は、水に適宜水溶性有機溶剤や添加剤を添加した溶液に顔料分散体を混合することで得ることができる。また、得られた組成物をフィルター等によってろ過してもよい。
【0100】
淡インクは、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c2)、及び水を含むことができる。
【0101】
淡インクは、水性溶媒として水を含むことが好ましく、主溶媒が水であってもよい。なお、後述する顔料分散体に溶媒として水が含まれる場合は、顔料分散体中の水はインク中の水の一部に換算して、インクを作製する。
水としては、特に制限されないが、イオン成分をできる限り含まないものが好ましい。
特に、インクの貯蔵安定性の観点から、カルシウム等の多価金属イオンの含有量が少ないことが好ましい。水としては、例えば、イオン交換水、蒸留水、超純水等を用いるとよい。
水は、インク粘度の調整の観点から、淡インク全量に対して20質量%~90質量%で含まれることが好ましく、30質量%~80質量%で含まれることがより好ましい。
【0102】
淡インクは、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c2)を含むことができる。この溶剤(c2)は、水と相溶性を示すことが好ましい。
淡インクに含まれる溶剤(c2)のSP値と、濃インクに含まれる溶剤(c1)と淡インクに含まれる溶剤(c2)との関係は、上記した通りである。また、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤については、上記した通りである。
【0103】
淡インクは、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤(c1)に加えて、その他の水溶性有機溶剤を含むことができる。その他の水溶性有機溶剤としては、例えば、グリセリン等が挙げられる。
その他の水溶性有機溶剤は、粘度調整と保湿効果の観点から、淡インク全量に対し1質量%~30質量%で含ませることができ、10質量%~20質量%であることがより好ましい。
【0104】
淡インクは、界面活性剤をさらに含むことができる。
濃インクに配合される界面活性剤と淡インクに配合される界面活性剤とは、互いに同じであっても、一部又は全てが異なってもよい。同じインクジェット印刷装置を用いて濃インク及び淡インクを印刷する場合では、両者のインク物性が似ていることが好ましいため、濃インクに配合される界面活性剤と淡インクに配合される界面活性剤とは、互いに同じであるか、一部が同じであるか、互いにHLB値が近い界面活性剤であることが好ましい。
淡インクに配合可能な界面活性剤は、HLB値が1.0~20が好ましく、2.0~15が好ましく、3.0以上10.0未満がさらに好ましい。
【0105】
淡インクに配合可能な界面活性剤としては、アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン性界面活性剤のいずれを用いてもよい。なかでも、前処理剤の泡立ちを防止する観点から、非イオン性界面活性剤が好ましい。また、低分子系界面活性剤、高分子系界面活性剤のいずれを用いてもよい。
【0106】
非イオン性界面活性剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、脂肪酸ソルビタンエステル等のエステル型界面活性剤;ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル等のエーテル型界面活性剤;ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル等のエーテルエステル型界面活性剤;アセチレン系界面活性剤;シリコーン系界面活性剤;フッ素系界面活性剤等が挙げられる。なかでも、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤を好ましく用いることができる。界面活性剤は、1種単独で用いることが好ましいが、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0107】
アセチレン系界面活性剤としては、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、アセチレンアルコール系界面活性剤、アセチレン基を有する界面活性剤等を挙げることができる。
シリコーン系界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤、アルキル・アラルキル共変性シリコーン系界面活性剤、アクリルシリコーン系界面活性剤等が挙げられる。
【0108】
具体的には、上記した前処理剤に配合可能な界面活性剤(a)及び濃インクに配合可能な界面活性剤(b)の中から適宜選択して、淡インクの界面活性剤として用いることが可能である。また、通常インクに配合可能なイオン性の界面活性剤を淡インクの界面活性剤として用いることも可能である。
【0109】
淡インクに界面活性剤が配合される場合、淡インクの界面活性剤は、有効成分量で、淡インク全量に対し、0.1質量%以上が好ましく、0.5質量%以上がより好ましく、0.7質量%以上がさらに好ましい。
淡インクの界面活性剤は、有効成分量で、淡インク全量に対し、10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましく、1質量%以下がさらに好ましい。
例えば、淡インクの界面活性剤は、有効成分量で、淡インク全量に対し、0.1~10質量%が好ましく、0.5~5質量%がより好ましく、0.7~1質量%がさらに好ましい。
上記した範囲で界面活性剤を用いることで、淡インクにおいて、基材との親和性をより改善しながら、貯蔵安定性の低下を防止することができる。
【0110】
淡インクは、色材として、顔料、染料、又はこれらの組み合わせを含むことができる。画像の耐候性及び印刷濃度の点から、色材として顔料を好ましく用いることができる。顔料は、インクに顔料分散体として配合することが好ましい。淡インクの色材は、濃インクと同一色相である色材であることが好ましい。淡インクの色材は、濃インクと同一成分であってもよく、異なる成分であってもよいが、同一成分であることが好ましい。淡インクの色材は、上記した濃インクで説明したものを用いることができる。
【0111】
濃インク全量に対する色材の質量割合(色材濃度1)に対し、淡インク全量に対する色材の質量割合(色材濃度2)の質量比(色材濃度2/色材濃度1)は、1以下又は1未満が好ましく、0.5以下がより好ましく、0.35以下がさらに好ましく、0.3以下であってもよい。
また、この質量比(色材濃度2/色材濃度1)は、0.05以上が好ましく、0.1以上がより好ましい。
淡インクにおいて、色材は、有効成分量で、淡インク全量に対し、0.1質量%~10質量%が好ましく、0.3質量%~5質量%がより好ましく、0.5質量%~3質量%がさらに好ましい。
【0112】
淡インクは、水溶性樹脂、水分散性樹脂、又はこれらの組み合わせをさらに含んでもよい。これによって、基材への色材の定着性をより改善することができる。
淡インクにおいて、水溶性樹脂、水分散性樹脂、又はこれらの組み合わせは、上記した濃インクで説明したものを用いることができる。これらの成分は、濃インクと淡インクとの間で同一成分であっても、一部又は全部が異なる成分であってもよいが、同一成分であることが好ましい。濃インクと淡インクとの間で同一の樹脂成分を用いることで、基材上に樹脂皮膜をより均一に形成することができ、色材の定着性をより改善することができる。
【0113】
水溶性樹脂及び水分散性樹脂の合計量(有効成分)は、質量比で、色材1に対し、0.5~15が好ましく、1~10がさらに好ましい。
また、水溶性樹脂及び水分散性樹脂の合計量(有効成分)は、淡インク全量に対し、1~20質量%が好ましく、3~10質量%がより好ましい。
【0114】
淡インクは、バインダー樹脂をさらに含むことができる。淡インクのバインダー樹脂については、上記した濃インクで説明したものを用いることができる。
【0115】
その他、淡インクには、上記の成分に加え、任意に、湿潤剤(保湿剤)、表面張力調整剤(浸透剤)、消泡剤、定着剤、pH調整剤、酸化防止剤、防腐剤等を適宜含有させることができる。
淡インクの作製方法は、特に限定されず、上記した濃インクと同様の方法によって作製することができる。
【0116】
「印刷物の製造方法」
以下、印刷物の製造方法の一例について説明する。
印刷物の製造方法は、例えば、水性インクジェットインクセットを用いて基材に印刷することを含むことができる。水性インクジェットインクセットには、上記した水性インクジェットインクセットを用いることができる。
例えば、印刷物の製造方法は、前処理剤を用いて基材を処理すること、濃インク及び淡インクを用いて基材に画像を形成することを含むことができる。
【0117】
前処理剤を用いて基材を処理する方法としては、例えば、刷毛、ローラー、バーコーター、エアナイフコーター、スプレー等を用いて基材表面に一様に前処理剤を塗布することによって行ってもよいし、又は、インクジェット印刷、グラビア印刷、フレキソ印刷等の印刷方法によって画像領域に前処理剤を印刷することで行ってもよい。その塗布領域は、基材全面でもよいし、画像領域のみに選択的に塗布されてもよい。あるいは、ベタ画像部分など、単位面積当たりある一定以上のインクが塗布される箇所にのみ前処理剤を塗布することもできる。
基材の大面積に対し均一に前処理剤を付与する場合は、スプレーでの塗布が好ましい。
また、基材の印刷する画像領域に合わせて前処理剤を付与する場合は、インクジェット印刷での印刷が好ましい。
【0118】
前処理剤は、特に乾燥工程を設ける必要はなく、続いて印刷工程を行なうことができる。必要に応じで、印刷工程前に25℃~120℃の温度で加熱して乾燥させてもよい。加熱時間は、前処理剤中の揮発分の種類や量等に応じて、1分~120分が好ましく、10分~60分がより好ましい。また、前処理剤に樹脂成分が含まれる場合は、前処理剤を付与後に加熱処理をすることで、基材上で樹脂が溶融又は軟化して基材に前処理剤層をより強く定着させることができる。
【0119】
基材への前処理剤の付与量は、有効成分量で、塗工領域の単位面積当たり、0.5~200g/mが好ましく、1~50g/mがより好ましい。
【0120】
濃インク及び淡インクを用いて基材に画像を形成する方法としては、濃インク及び淡インクのうち一方を基材に付与し、次いで濃インク及び淡インクのうち他方を基材に付与することで行うことができる。
一実施形態による水性インクジェットインクセットでは、前処理剤、濃インク、及び淡インクが上記した物性を備えることで、濃インク及び淡インクの付与順序に関わらずに、濃インクのドットの広がりを適度に調節することができ、印刷物の画質をより向上させることができる。
好ましい形態では、前処理剤、淡インク、及び濃インクをこの順で基材に付与することができる。
【0121】
濃インク及び淡インクの基材への印刷方法は、インクジェット印刷方法を用いて行うことができる。インクジェット印刷方法は、基材に非接触で、オンデマンドで簡便かつ自在に画像形成をすることができる。
インクジェット印刷装置は、ピエゾ方式、静電方式、サーマル方式など、いずれの方式のものであってもよく、デジタル信号に基づいてインクジェットヘッドからインクを吐出させ、吐出されたインク液滴を基材に付着させるようにする。
【0122】
例えば、濃インク及び淡インクをラインヘッド式インクジェット印刷装置を用いて印刷することができる。基材の搬送方向に交差するライン状のインクジェットヘッドが、基材の搬送方向に複数配列されているインクジェット印刷装置を用いて、基材の搬送方向に対して上流側のラインヘッドに淡インクを装填し、下流側のラインヘッドに濃インクを装填し、1回の基材の搬送において、上流側のラインヘッドから淡インクを吐出し、続いて下流側のラインヘッドから濃インクを吐出することで、画像を形成することができる。濃インクと淡インクの順序は逆でもよい。
【0123】
また、濃インク及び淡インクをシリアルヘッド式インクジェット印刷装置を用いて印刷することができる。基材の搬送方向に交差する方向に移動可能であって、移動方向に沿って複数のノズル列が配列されるインクジェットヘッドを備える印刷装置を用いて、複数のノズル列のうち一方に淡インクを装填し、他方に濃インクを装填し、基材を搬送しながら、インクジェットヘッドを往復移動させる間に、淡インクを吐出し、続いて濃インクを吐出することで、画像を形成することができる。濃インクと淡インクの順序は逆でもよい。
ラインヘッド式及びシリアルヘッド式のいずれにおいても、基材上において先に吐出されるインクのドットに隣接させるようにして後のインクを吐出することで、隣り合うドット間において色材濃度が異なるため、色相の諧調を調節することができる。この際に、一実施形態による濃インク及び淡インクを用いることで、印刷画像の粒状感を低減して、高画質の画像を得ることができる。
【0124】
得られた印刷物は、揮発分の除去のために熱処理を行うことが好ましい。熱処理温度は、25℃~150℃が好ましく、50℃~120℃がより好ましい。熱処理時間は、インクの揮発分の種類や量、塗膜厚さ等に応じて、1分~24時間が好ましく、10分~200分がより好ましい。
また、インク中に樹脂成分が含まれる場合は、得られた加飾物品を熱処理することで、インク中の樹脂成分が溶融又は軟化して均一な樹脂膜を形成し、インク画像層の強度をより高めることができる。
【0125】
一実施形態による水性インクジェットインクセットは、浸透性基材及び低浸透性基材のいずれにも適用することができる。なかでも、前処理剤によって処理された低浸透性基材に、水性インクを用いて印刷する際に、印刷画像の粒状感をより効果的に防止することができる。
【0126】
低浸透性基材は、基材内部に液体が染み込んでいかない基材であり、具体的には、インク中の液体の大部分が基材の表面上に留まる基材である。
低浸透性基材としては、例えば、アルミニウム、鉄、銅、チタン、錫、クロム、カドミウム、合金(例えばステンレス、スチール等)等の金属板等の金属基材;ホウケイ酸ガラス、石英ガラス、ソーダライムガラス等の板ガラス等のガラス基材;PETフィルム、OHTシート、ポリエステルシート、ポリプロピレンシート等の樹脂製シート、アクリル板等の樹脂基材;アルミナ、ジルコニア、ステアタイト、窒化ケイ素等の成形体等のセラミック基材等が挙げられる。
これらの基材は、メッキ層、金属酸化物層、樹脂層等が形成されていてもよく、又は、界面活性剤、コロナ処理等を用いて表面処理されていてもよい。なお、一実施形態による水性インクジェットインクセットは、未処理の基材に対して処理してもその効果を発揮することができる。
【0127】
浸透性基材としては、例えば、普通紙、コート紙、特殊紙等の印刷用紙;布;調湿用、吸音用、断熱用等の多孔質建材;木材、コンクリート等が挙げられる。浸透性基材のなかでも、布、多孔質建材、木材等のように、基材内部までインクが過度に浸透して、裏抜けや画像にじみが発生しやすい基材に対して、一実施形態による水性インクジェットインクセットを用いることで、ドットの広がりを抑制し、より効果的に画質を向上させることができる。
【実施例
【0128】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明は以下の実施例に限定されない。
以下の説明において、特に説明のない箇所では、「%」は「質量%」を示す。
表1から表4に、実施例及び比較例の前処理剤、シアン系濃インク、及びシアン系淡インクの処方、印刷物の評価結果を示す。各表において、各成分に溶媒等が含まれる場合は有効成分量の配合割合を示し、溶媒等は残部水に含まれるものとして扱った。各表において、かっこ書きで表される有効成分量の単位は質量%であり、SP値の単位は(cal/cm)1/2である。
【0129】
<前処理剤の作製>
各表に示す前処理剤の処方にしたがって、各成分をそれぞれの割合で混合し、前処理液を得た。前処理剤の合計量が100質量%となるように水分量を調節した。
【0130】
<濃インク及び淡インクの作製>
各表に示す前処理剤の処方にしたがって、各成分を混合し、その後、孔径3μmのメンブレンフィルターで濾過し、シアン系濃インク及びシアン系淡インクを得た。濃インクと淡インクとは、主にシアン系自己分散性顔料の濃度を異ならせることで、画像濃度が異なるように調節した。インクの合計量が100質量%となるように水分量を調節した。
【0131】
用いた成分は、以下の通りである。
(活性剤)
アセチレン系界面活性剤(1);HLB8.8:日信化学工業株式会社製「オルフィンE1004」、有効成分量100質量%。
アセチレン系界面活性剤(2);HLB13.2:日信化学工業株式会社製「オルフィンE1010」、有効成分量100質量%。
アセチレン系界面活性剤(3);HLB4.0:日信化学工業株式会社製「サーフィノール420」、有効成分量100質量%。
アセチレン系界面活性剤(4);HLB10.8:日信化学工業株式会社製「オルフィンE1006」、有効成分量100質量%。
シリコーン系界面活性剤(1);HLB12.2:下記手順により合成した。有効成分量100質量%。
シリコーン系界面活性剤(2);HLB2.7:下記手順により合成した。有効成分量100質量%。
シリコーン系界面活性剤(3);HLB7.7:下記手順により合成した。有効成分量100質量%。
【0132】
(前処理剤成分)
凝集剤;水溶性カチオン性樹脂:ハイマックスSC-700L、有効成分量30%。
凝集剤;多価金属塩:塩化カルシウム無水物、純度95%、米山薬品工業株式会社製。
バインダー;カチオン性樹脂エマルション:エステル系ウレタン、第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス620」、有効成分量30%、粒径0.02μm。
バインダー;カチオン性樹脂エマルション:アクリル酸エステル/メタクリル酸エステル共重合体エマルション、ジャパンコーティングレジン株式会社製「モビニール7820」、有効成分量45%、粒径0.4μm。
ジエチレングリコール:水溶性有機溶剤、SP値15.0(cal/cm)1/2
【0133】
(インク成分)
グリセリン:水溶性有機溶剤、富士フイルム和光純薬株式会社製、SP値16.4(cal/cm)1/2
ジエチレングリコール:水溶性有機溶剤、富士フイルム和光純薬株式会社製、SP値15.0(cal/cm)1/2
1,3-プロパンジオール:水溶性有機溶剤、東京化成工業株式会社製、SP値13.7(cal/cm)1/2
1,2-ヘキサンジオール:水溶性有機溶剤、東京化成工業株式会社製、SP値11.8(cal/cm)1/2
ウレタン樹脂エマルション:芳香族イソシアネート系、エーテル系ウレタン、アニオン樹脂エマルション、第一工業製薬株式会社製「スーパーフレックス870」、粒径30nm、有効成分量30%。
アクリル樹脂エマルション:DSM Coating Resins, LLC.製「NeoCryl A-1125」、アニオン性樹脂エマルション、有効成分量19.5%。
シアン系顔料分散体:キャボット社製「CAB-0-JET-250C」、自己分散性顔料、有効成分量10質量%。
【0134】
界面活性剤のHLB値は、界面活性剤の分子構造から、グリフィン法にしたがって下記式(1)より求めた数値である。
HLB値=20×(親水部の式量)/(界面活性剤の分子量)・・・式(1)
溶剤のSP値は、Fedorの提案した推算法による数値である。
インク粘度は、23℃において、AntonPaar製「レオメータMCR302」を用いて測定した。具体的には、0.1Pa/sの速度で剪断応力を0Paから増加させたときの10Paにおける粘度値を求めた。
【0135】
<シリコーン系界面活性剤(1)の作製>
下記化学式(1)で表される化合物を得るために、下記成分をARP白金触媒とともにフラスコに入れ、窒素雰囲気下70℃で5時間加熱撹拌し、反応させた。生成物を濾過し、トルエンを減圧除去した。得られた化合物をシリコーン系界面活性剤(1)として用いた。
ヒドロキシポリエトキシ(10)アリルエーテル(98%) 20.7質量%;
メチルビス(トリメチルシリルオキシ)シラン 9.3質量%;
トルエン:70.0質量%。
【0136】
<シリコーン系界面活性剤(2)の作製>
下記化学式(2)で表される化合物を得るために、下記成分をARP白金触媒とともにフラスコに入れ、窒素雰囲気下70℃で5時間加熱撹拌し、反応させた。生成物を濾過し、トルエンを減圧除去した。得られた化合物をシリコーン系界面活性剤(2)として用いた。
エチレングリコールモノアリルエーテル 9.4質量%;
メチルビス(トリメチルシリルオキシ)シラン 20.6質量%;
トルエン 70.0質量%。
【0137】
<シリコーン系界面活性剤(3)の作製>
下記化学式(3)で表される化合物を得るために、下記成分をARP白金触媒とともにフラスコに入れ、窒素雰囲気下70℃で5時間加熱撹拌し、反応させた。生成物を濾過し、トルエンを減圧除去した。得られた化合物をシリコーン系界面活性剤(3)として用いた。
2-[2-[2-(2-prop-2-enoxyethoxy)ethoxy]ethoxy]ethanol 15.4質量%;
メチルビス(トリメチルシリルオキシ)シラン 14.6質量%;
トルエン 70.0質量%。
【0138】
【化1】
【0139】
【化2】
【0140】
用いた成分は、以下の通りである。
ヒドロキシポリエトキシ(10)アリルエーテル(98%):富士フイルム和光純薬株式会社製。
メチルビス(トリメチルシリルオキシ)シラン:東京化成工業株式会社製。
エチレングリコールモノアリルエーテル:東京化成工業株式会社製。
2-[2-[2-(2-prop-2-enoxyethoxy)ethoxy]ethoxy]ethanol Aurora Fine Chemicals製。
ARP白金:富士フイルム和光純薬株式会社製。
トルエン:富士フイルム和光純薬株式会社製。
【0141】
<評価方法>
基材には、PETフィルムを用いた。
PETフィルムに、前処理剤をスプレーで付与した。付与量は、有効成分量で20g/mとした。前処理剤を付与後に、PETフィルムを90℃で20分間熱処理した。
前処理したPETフィルムに、ANAJET製「mPower mP5i/SOLD」を用いて600×600dpiのグレースケール(濃シアン~淡シアン)画像を形成し、印刷物を得た。印刷は、シリアルヘッド式のインクジェットヘッドの隣り合うノズル列に淡インク及び濃インクを装填し、インクジェットヘッドを基材の搬送方向に直交する方向に往復移動させる間に、基材に淡インク及び濃インクをこの順で吐出して行った。基材上において、淡インクと濃インクのドットが隣り合うようにし、淡インクと濃インクのそれぞれが600×600dpiとなるように印刷してベタ画像を形成した。
得られた印刷物を100℃で120分間熱処理した。
【0142】
各実施例及び比較例の印刷物について、印刷面を拡大鏡を用いて目視で観察し、以下の基準で評価した。
A:粒状感が気にならない。
B:粒状感が少しある。
C:粒状感が気になる。
【0143】
【表1】
【0144】
【表2】
【0145】
【表3】
【0146】
【表4】
【0147】
各表に示す通り、各実施例の印刷物では粒状感が低減されて、良好な画質が得られた。
実施例1~7は、濃インクと淡インクにおいて界面活性剤の構成を変更した例である。
実施例1~7から、前処理剤の界面活性剤(a)のHLB値と濃インクの界面活性剤(b)のHLB値との差が所定値以上であることで、印刷物の粒状感が低減することがわかる。
実施例1~4から、濃インクの界面活性剤(b)の含有量が0.7質量%以上の場合に、印刷物の粒状感がより低減することがわかる。
実施例5及び7は、淡インクの界面活性剤を変更した例であるが、印刷物の粒状感を低減できた。
実施例6は、濃インクの界面活性剤(b)のHLB値がより小さい例であるが、印刷物の粒状感を低減できた。
【0148】
実施例8~11は、濃インクと淡インクにおいて溶剤の構成を変更した例である。
実施例8及び9から、濃インクと淡インクの粘度比(v2/v1)が所定値以上であることで、印刷物の粒状感が低減することがわかる。
実施例10から、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤の濃度比(c2/c1)が所定値以上であることで、印刷物の粒状感が低減することがわかる。
実施例11から、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤の種類に関わらず、印刷物の粒状感が低減することがわかる。
【0149】
実施例12~14は、前処理剤の構成を変更した例である。
実施例12は、前処理剤の界面活性剤(a)にシリコーン系界面活性剤を用いた例であるが、印刷物の粒状感を低減できた。
実施例13及び14から、前処理剤の凝集剤及びバインダーの種類に関わらず、印刷物の粒状感が低減することがわかる。
【0150】
実施例15~19は、濃インクと淡インクにおいて界面活性剤の構成を変更した例である。
実施例15及び16は、濃インクの界面活性剤(b)が少ない例であるが、印刷物の粒状感を低減できた。
実施例17~19は、濃インクの界面活性剤(b)にシリコーン系界面活性剤を用いた例であるが、印刷物の粒状感を低減できた。
【0151】
比較例1は、濃インクと淡インクの粘度比(v2/v1)が小さい例であり、印刷物に粒状感が観察された。
比較例2は、SP値が15.5(cal/cm)1/2以下の溶剤の濃度比(c2/c1)が小さい例であり、印刷物に粒状感が観察された。
比較例3は、濃インクの界面活性剤のHLB値が大きい例であり、印刷物に粒状感が観察された。
比較例4及び5は、前処理剤の界面活性剤のHLB値が小さく、前処理剤の界面活性剤と濃インクの界面活性剤(b)との差が小さい例であり、印刷物に粒状感が観察された。
比較例6は、前処理剤を基材に付与しない例であり、基材に濃インク及び淡インクが定着せず、画像がうまく形成されなかった。