(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】酸化触媒
(51)【国際特許分類】
B01J 23/52 20060101AFI20240918BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20240918BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240918BHJP
B01J 35/00 20240101ALI20240918BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20240918BHJP
F01N 3/28 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
B01J23/52 A ZAB
B01D53/86 245
B01D53/94 245
B01J35/00
F01N3/10 A
F01N3/28 301Q
(21)【出願番号】P 2020163660
(22)【出願日】2020-09-29
【審査請求日】2023-08-29
(73)【特許権者】
【識別番号】391018341
【氏名又は名称】株式会社NBCメッシュテック
(74)【代理人】
【識別番号】100087398
【氏名又は名称】水野 勝文
(74)【代理人】
【識別番号】100128783
【氏名又は名称】井出 真
(74)【代理人】
【識別番号】100128473
【氏名又は名称】須澤 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100160886
【氏名又は名称】久松 洋輔
(74)【代理人】
【識別番号】100192603
【氏名又は名称】網盛 俊
(72)【発明者】
【氏名】増田 博紀
(72)【発明者】
【氏名】直原 洋平
(72)【発明者】
【氏名】中山 鶴雄
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-193428(JP,A)
【文献】特開2005-230699(JP,A)
【文献】韓国公開特許第2016-0140653(KR,A)
【文献】特開2017-196550(JP,A)
【文献】特開2019-181462(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0204293(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 23/00-23/96
B01J 35/00-35/80
B01D 53/86、53/94
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナからなる担体と、該担体に担持された金元素を含む粒子と、を含有し、
フーリエ変換赤外分光装置によって測定される前記担体の赤外吸収スペクトルを、3727±10cm
-1にピークトップを有する第1ピーク、3676±10cm
-1にピークトップを有する第2ピーク、および3581±10cm
-1にピークトップを有する第3ピークを含む、ピークトップの波長が異なる7つ以下のピークにピーク分離したときに、前記第1ピークの面積Aと前記第2ピークの面積Bが下記式(1)を満足することを特徴とする酸化触媒。
0<B/A≦2.0 ・・・(1)
【請求項2】
前記面積Aと前記面積Bが下記式(2)を満足することを特徴とする請求項1に記載の酸化触媒。
1.2≦B/A≦2.0 ・・・(2)
【請求項3】
前記粒子が、金元素以外の貴金属元素をさらに含むことを特徴とする請求項1
又は2に記載の酸化触媒。
【請求項4】
金元素を含む前記粒子の担持量が、前記担体100質量%に対して0.5質量%以上3.0質量%以下であることを特徴とする請求項1から
3のいずれか一つに記載の酸化触媒。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか一つに記載の酸化触媒と、
前記酸化触媒が固定される基材と、
を含むことを特徴とする酸化触媒部材。
【請求項6】
請求項1から
4のいずれか一つに記載
の酸化触媒に対し、0℃以上100℃以下の温度で一酸化炭素を含む被処理気体を、酸素の存在下で接触させることを特徴とする一酸化炭素の除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
一酸化炭素は微量でも人体に有害な致死性の高い気体として知られているが、自動車や工場などの内燃機関から発生したり、あるいは工業原料として使用したりする場合もあり、環境中に放出されないよう各種除去手段が講じられている。
【0003】
一酸化炭素を除去する手段としては、加熱により完全燃焼させて一酸化炭素を酸化する方法が一般的である。しかしながら、高温にする必要があるため、一酸化炭素の酸化反応を促進する触媒が開発されている。例えば、γ-Al2O3粒子にFe系粒子が担持されたガス酸化用触媒材料(特許文献1)や、銀を担持したθ相を有するアルミナを、900~1100℃で焼成した後、100~500℃で還元処理して得られる酸化用銀触媒(特許文献2)や、白金およびコバルトがθアルミナおよびαアルミナを含む無機担体に担持されてなる一酸化炭素選択酸化触媒(特許文献3)や、γアルミナの担体粒子表面に金微粒子を担持させた金触媒(特許文献4)などが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-171349号公報
【文献】特開2010-125373号公報
【文献】特開2005-342689号公報
【文献】特開2005-230699号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】Applied Catalysis A:General volume232 issues 1-2, 159-168 (2002)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1に開示された触媒は、反応温度60℃から触媒活性を発現し始め、温度上昇とともに活性が高まっているが、100%の転化率には280℃の反応温度が必要である。特許文献2、3に開示された触媒は、いずれも100℃以上の温度でしかCO転化率(CO浄化率)を確認しておらず、室温で用いる部材、例えば人体に密着して使用する防毒マスク部材などには使用できないと考えられる。
【0007】
特許文献4の触媒は、50℃以上の範囲において、一酸化炭素の酸化反応速度が温度上昇とともに増大することが開示されているが、室温などのより低い温度域ではさらに触媒活性が低下することが推察される。また担体に用いているγアルミナは吸湿性が高いことが知られており、100℃以下の低温域では、経時的に大気中の水分が吸着して触媒活性が低下するといった問題があった(非特許文献1)。
【0008】
本発明は、100℃以下の温度であっても一酸化炭素などの処理対象物質を酸化することができ、酸化反応を継続してもその触媒活性が維持されやすい酸化触媒を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]アルミナからなる担体と、該担体に担持された金元素を含む粒子と、を含有し、フーリエ変換赤外分光装置によって測定される前記担体の赤外吸収スペクトルを、3727±10cm-1にピークトップを有する第1ピーク、3676±10cm-1にピークトップを有する第2ピーク、および3581±10cm-1にピークトップを有する第3ピークを含む、ピークトップの波長が異なる7つ以下のピークにピーク分離したときに、前記第1ピークの面積Aと前記第2ピークの面積Bが下記式(1)を満足することを特徴とする酸化触媒。
0<B/A≦2.0 ・・・(1)
[2]前記面積Aと前記面積Bが下記式(2)を満足することを特徴とする[1]に記載の酸化触媒。
1.2≦B/A≦2.0 ・・・(2)
[3]前記担体の比表面積が20m2/g以上であることを特徴とする[1]又は[2]に記載の酸化触媒。
[4]前記粒子が、金元素以外の貴金属元素をさらに含むことを特徴とする[1]から[3]のいずれか一つに記載の酸化触媒。
[5]金元素を含む前記粒子の担持量が、前記担体100質量%に対して0.5質量%以上3.0質量%以下であることを特徴とする[1]から[4]のいずれか一つに記載の酸化触媒。
[6][1]から[5]のいずれか一つに記載の酸化触媒と、前記酸化触媒が固定される基材と、を含むことを特徴とする酸化触媒部材。
[7][1]から[5]のいずれか一つに記載に酸化触媒に対し、0℃以上100℃以下の温度で一酸化炭素を含む被処理気体を、酸素の存在下で接触させることを特徴とする一酸化炭素の除去方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、100℃以下の温度であっても一酸化炭素などの処理対象物質を酸化することができ、酸化反応を継続してもその触媒活性が維持されやすい酸化触媒提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例2についての赤外吸収スペクトル及びピーク分離後の各ピークを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。
【0013】
本実施形態の酸化触媒(以下、単に「触媒」とも称する)は、アルミナからなる担体と、該担体に担持されている金元素を含む粒子を含有する。以下の説明では、金元素を含む粒子を金粒子とも呼び、金粒子が担持された担体を金担持担体ともいう。
【0014】
本実施形態の触媒は、フーリエ変換赤外分光装置によって測定される金担持担体の赤外吸収スペクトルを、3727±10cm-1にピークトップを有する第1ピーク、3676±10cm-1にピークトップを有する第2ピーク、および3581±10cm-1にピークトップを有する第3ピークを含む、ピークトップの波長が異なる7つ以下のピークに分離したときに、第1ピークの面積Aと第2ピークの面積Bが下記式(1)を満足する。
0<B/A≦2.0 ・・・(1)
【0015】
フーリエ変換赤外分光装置によって測定される金担持担体の赤外吸収スペクトルからは、アルミナ(担体)の表面に存在する水酸基(OH基)の状態を把握することができる。赤外吸収スペクトルをピーク分離して得られる第1ピーク(3727±10cm-1にピークトップを有する)や第2ピーク(3676±10cm-1にピークトップを有する)は、どちらも化学的結合による水酸基、つまり吸着水など物理的吸着をしている水酸基とは異なり、アルミナ(担体)自体と化学結合している水酸基の存在を示すピークと考えられる。
【0016】
第1ピークの面積Aと第2ピークの面積Bが上記式(1)を満足する(以下、この条件を「本ピーク面積条件」と記述する場合がある)金担持担体が含有されることで、100℃以下の温度であっても一酸化炭素などの処理対象物質を酸化することができ、酸化反応を継続してもその触媒活性が維持されやすくなる。なお、本明細書において、触媒活性とは、一酸化炭素などの処理対象物質を酸化する活性を指す。
【0017】
ここで、金担持担体の赤外吸収スペクトルを測定する方法、赤外吸収スペクトルをピーク分離する方法、及び分離されたピークの面積比(第2ピークの面積B/第1ピークの面積A)を求める方法について具体的に説明する。
【0018】
<赤外吸収スペクトル>
本実施形態において、金担持担体の赤外吸収スペクトルは、フーリエ変換赤外分光装置により測定する。フーリエ変換赤外分光装置には、例えば、測定サンプルが加熱可能なフーリエ変換赤外分光光度計(FTIR-6000、日本分光株式会社製)を用いることができる。フーリエ変換赤外分光装置による測定には、例えば、拡散反射法を用いることができる。拡散反射法を用いる場合には、サンプル(担体)を400℃に加熱し、400℃に保持した状態で行う。赤外吸収スペクトルは、2000~4000cm-1の範囲を含む波長で測定する。なお、サンプルの加熱には、例えば、真空加熱拡散測定装置(DR-650型、日本分光株式会社製)を用いることができる。なお、測定方法は透過法、拡散反射法、ATR法など当業者に公知な方法が適用でき、測定に際し、サンプルの前加工が必要な場合は錠剤法など当業者に公知な前加工方法を用いることができる。
【0019】
<ピーク分離>
本実施形態において、赤外吸収スペクトルのピーク分離は、まず、2000~4000cm-1の範囲の赤外吸収スペクトルについて、ピークトップの波長(位置(cm-1))が異なる7つのピークが存在することを仮定して、7つのピークが分離されるように、最小二乗法によりカーブフィッティングすることで行う。存在を仮定する7つのピークは、少なくとも、ピークトップが3727±10cm-1にある第1ピーク、ピークトップが3676±10cm-1にある第2ピークおよび3581±10cm-1にある第3ピークにある3つの固定ピークを含む。そして、存在を仮定する7つのピークとして、これら3つの固定ピークに加えて、さらに、大気中などの水がアルミナに物理的吸着されることによって上記波長範囲内に観察される水酸基を示すと考えられる4つの可変ピークを指定する。4つの可変ピークのピークトップの波長は、例えば、3071cm-1、3426cm-1、3762cm-1および2375cm-1とすることができる。カーブフィッティング(ピーク分離)では、ピークを表す関数として、ガウス関数や、ローレンツ関数や、ガウス関数とローレンツ関数の混合関数(Gauss-Lorentz)を用いることができる。
【0020】
カーブフィッティング処理後は、得られた7つの分離ピーク(3つの固定ピークと4つの可変ピーク)を重ね合わせて1つスペクトル(以下、「再現スペクトル」ともいう)を再現し、カーブフィッティング処理前のスペクトル(以下、「実測スペクトル」ともいう)と比較する。再現スペクトルと実測スペクトルが一致している場合、再現スペクトルの生成に用いた7つの分離ピークを採用する。一方、再現スペクトルと実測スペクトルが一致していない場合には、存在を仮定する7つのピークのうち、4つの可変ピークのピークトップの波長(位置(cm-1))を変更して、再びカーブフィッティング処理を行う。ここで、可変ピークについてのピークトップの波長変更は、2000~4000cm-1の範囲内で行うことができる。再度行ったカーブフィッティング処理後の7つの分離ピークから再現スペクトルを再現して、実測スペクトルと比較する。この処理を、再現スペクトルと実測スペクトルが一致するまで繰り返し、一致したときの再現スペクトルの再現に用いた7つの分離ピークを採用する。再現スペクトルと実測スペクトルの一致は、必ずしも完全な一致を指すものではなく、スペクトル全体が目視で概ね合致していればよい。なお、再現スペクトルと実測スペクトルの一致は、両スペクトルの残差平方和が小さいほど一致しており、この数値を指標として判断してもよい。例えば、両スペクトルの残差平方和が0.01以下であるときに、再現スペクトルと実測スペクトルが一致していると判断できる。
【0021】
ここで、赤外吸収スペクトル(2000~4000cm-1の範囲)に7つピークがあることを仮定する前述の処理を繰り返し行っても、再現スペクトルと実測スペクトルが一致しない場合には、2000~4000cm-1の範囲の赤外吸収スペクトルにあることを仮定するピークの数を徐々に減少させていく。このとき、赤外吸収スペクトルには、少なくとも、第1ピーク~第3ピークの3つの固定ピークが含まれることとし、第4ピーク~第7ピークの4つの可変ピークの数を徐々に減らしていく。
【0022】
より具体的には、赤外吸収スペクトルに7つピークがあることを仮定した前述の処理を繰り返し行っても、再現スペクトルと実測スペクトルが一致しない場合には、赤外吸収スペクトルに6つピークがあることを仮定して、再現スペクトルと実測スペクトルの一致性を確認する。存在を仮定する6つのピークは、少なくとも第1ピーク~第3ピークの3つの固定ピークを含み、これに加えて、第4ピーク~第6ピークの3つの可変ピークを指定する。再現スペクトルと実測スペクトルが一致しない場合には、3つの可変ピークのピークトップの波長(位置(cm-1))を変更して、再びピーク分離を行い、再現スペクトルと実測スペクトルの一致性を判断する。なお、ピーク分離の方法や、再現スペクトルと実測スペクトルの一致性の判断は、前述した方法と同様であるため、詳細な説明は省略する。
【0023】
赤外吸収スペクトル(2000~4000cm-1の範囲)に6つピークがあることを仮定した前述の処理を繰り返し行っても、再現スペクトルと実測スペクトルが一致しない場合には、存在を仮定するピークの数が3つ(第1ピーク~第3ピークの3つの固定ピーク)になるまで、可変ピークの数を減少させる前述した処理を繰り返し行い、それまでの間に、再現スペクトルと実測スペクトルが一致した分離ピークを用いる。
【0024】
なお、3581±10cm-1にピークトップを有する第3ピークも、アルミナと化学結合している水酸基の存在を示すピークと考えられ、本カーブフィッティングでは、アルミナに化学結合した水酸基を示す第1から第3の固定ピークに加え、水が物理的吸着したことによる第4から第7の可変ピークの存在を仮定する。ピーク分離は、アルミナ(担体)表面のOH基の状態をより正確に把握するため、Shirley法によるバックグラウンド補正をした上で行うことが好ましい。
【0025】
<ピークの面積比>
本実施形態において、分離されたピークの面積比(第2ピークの面積B/第1ピークの面積A)は、2000~4000cm-1の範囲において、第1ピークと第2ピークの各ピークの面積を求め、第2ピークの面積Bを第1ピークの面積Aで除すことにより求める。第1ピークと第2ピークの面積を求める方法は、特に限定されず、公知の方法で求めることができる。
【0026】
本ピーク面積条件を満たす金担持担体(アルミナ)の製造には、酸化アルミニウムゾル、酸化アルミニウム水和物、水酸化アルミニウムなどのアルミニウム源(以下、単に「アルミニウム源」とも称する)を用いることができる。なお、アルミニウム源である酸化アルミニウムゾルには、無定形、あるいは結晶構造を有する酸化アルミニウムを使用することができ、アルミニウム源である酸化アルミニウム水和物には、ベーマイトを使用することもできる。なお、酸化アルミニウムゾルにおける酸化アルミニウムの濃度は、特に限定されるものではないが、例えば、5wt%以上25wt%以下とすることができる。
【0027】
本実施形態に係る担体は、前述したアルミニウム源を大気中で焼成することで製造できる。焼成の条件は、アルミニウム源の種類に応じて異なり、無定形の酸化アルミニウムゾルを用いる場合には800~1300℃で1時間以上12時間以下の焼成条件とすることができ、結晶性酸化アルミニウムゾルを用いる場合には600~1200℃で1時間以上12時間以下の焼成条件とすることができる。アルミニウム源として、水酸化アルミニウムやベーマイトを用いる場合には600~1400℃で1時間以上12時間以下の焼成条件とすることができ、特に、ベーマイトを用いる場合には、後述する式(2)を満足する担体が得られやすくなるため、700℃以上1100℃以下の温度で1時間以上12時間以下の焼成条件とすることが好ましい。焼成条件が前述した条件を満足しないと、本ピーク面積条件を満たす金担持担体が得られにくくなる。
【0028】
アルミニウム源として酸化アルミニウムゾルを用いる場合、触媒活性をより高めることができるため、該ゾルを構成するコロイド粒子(酸化アルミニウムからなるコロイド粒子)の一次粒子径は、平均粒子径で5~1000nmであるのが好ましく、500~800nmであるのがさらに好ましい。また、酸化アルミニウムゾル以外のアルミニウム源については、その形態について限定されるものではないが、触媒活性をより高めることができるため、粒子の形態であることが好ましく、平均粒子径が5~1000nmの粒子であることがより好ましく、平均粒子径が500~800nmの粒子であることが最も好ましい。なお、アルミニウム源に係る前述した平均粒子径は、体積平均径を指す。
【0029】
本ピーク面積条件を満たす金担持担体を用いた触媒が、100℃以下の低温であっても触媒活性を示すことができ、さらに、酸化反応を継続してもその触媒活性が維持されやすい理由は明確になっていないが、第1ピーク(3727±10cm-1にピークトップを有する)や、第2ピーク(3676±10cm-1にピークトップを有する)は、前述した通り、アルミナ自体と化学結合している水酸基を示すピークと考えられる。そして、異なる赤外吸収波長にピークトップを有するピークの面積比、つまり、水酸基の異なる振動モードの強さの比は、当該水酸基の運動性を示していると考えられ、B/Aが2.0以下になることで水酸基の運動性が束縛され、空気中の水が吸着されにくくなる事により、一酸化炭素などの処理対象物質の金粒子(金元素を含む粒子)への接近が妨害されず、前述した機能が発現できることなどが、推定される。
【0030】
本実施形態に係る金担持担体は、上述の第1ピークの面積Aと第2ピークの面積Bが上記式(1)を満足していればよいが、触媒活性をより高めるとともに、その触媒活性をさらに維持しやすくなる観点から、下記式(2)を満足することがさらに好ましい。
1.2≦B/A≦2.0 ・・・(2)
【0031】
担体に用いるアルミナの結晶型は、上述の式(1)を満たす限り特に限定しないが、α型、γ型、δ型、θ型、であると活性が高くなるので望ましく、特にγ型、δ型、θ型であるとさらに活性が高くなるのでさらに望ましい。結晶型は単一でなく2つ以上の結晶型の混晶でもよく、無定形の部分を含んでいてもよい。
【0032】
触媒活性をより高めることができるため、担体の比表面積は、20m2/g以上であることが好ましく、20~500m2/gであることがより好ましく、比表面積が100~300m2/gであることがさらに一層好ましく、比表面積が150~300m2/gであることが最も好ましい。なお、本実施形態に係る比表面積は、300℃で2時間の前処理を行い、液体窒素温度(-196℃)での窒素吸着測定で実施し、BET法による自動比表面積測定装置を用いて算出することができる。
【0033】
触媒活性をより高めることができるため、担体は細孔を有していてもよく、細孔はメソ孔(孔径が1nm以上100nm以下の孔)であればさらに好ましい。また、細孔は、担体に複数形成されていてもよい。該細孔容積は、触媒活性をより高める観点から、0.1cm3/g以上であるのが好ましく、0.2cm3/g以上であるのがさらに好ましい。なお、細孔容積の上限値は特に限定されないが、例えば0.7cm3/g以下とすることができる。
【0034】
ここでメソ孔であることはBET法により孔径の値を得ることで特定することができる。また、細孔容積は、吸着質が脱離するときの相対圧と吸着量の関係である脱着等温線から細孔径を求めるBJH法(E.P.Barrett, L.G.Joyner, P.H.Halenda:J.Am.Chem. Soc., 73, 373 (1951))により算出でき、担体に形成される細孔の容積の平均値を示す。
【0035】
担体には、金元素を含む粒子が担持されている。担持する粒子は金元素を含めばよく、触媒活性が高くなるので、金元素は0価つまり金属状態の金が望ましいが、金粒子には、0価の金以外に、酸化状態の金を含んでいてもよい。また、触媒活性を高めるため、銀、白金、パラジウム、ロジウムなど金以外の貴金属元素を含んでいてもよい。金以外の貴金属元素を含む形態は特に限定されず、金元素と金以外の貴金属元素が同一粒子内に含まれていればよく、互いに完全に相溶していても、部分的に混じりあっていてもよい。担体には、複数個の金粒子が担持されていてもよい。金粒子の粒径は、触媒活性をより高めることができるため、平均粒径が5nm以下であることが好ましく、0.1以上3nm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
なお、本実施形態に係る金粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)の画像写真から測定できる金粒子の直径であり、金粒子の平均粒子径は、触媒に含まれる金粒子が200個以下である場合には、全ての金粒子の直径を加算平均した値であり、触媒に含まれる金粒子が200個を超える場合には、少なくとも200個の金粒子の直径を加算平均した値である。
【0037】
触媒活性をより高めることができるため、本実施形態に係る金粒子の担持量は、担体100質量%に対して0.1質量%以上15.0質量%以下であるのが好ましく、0.5質量%以上12.0質量%以下がさらに好ましく、0.5質量%以上3.0質量%以下であることが最も好ましい。
【0038】
本実施形態に係る触媒において、金粒子は上記担体の表面に担持されているようにしてもよい。また、上述のよう担体内部に細孔が生じている場合もあり、その場合には金粒子は当該細孔内の担体表面に担持されていてもよい。
【0039】
なお、本実施形態の触媒においては、金粒子に加えて、金以外の他の金属元素から構成される助触媒粒子が担体に担持されていてもよい。助触媒粒子は、金粒子とは分離した状態で担体に担持されていてもよく、金粒子に固定された状態で担体に担持されていてもよい。金粒子単独で用いる場合や金粒子と助触媒粒子とを固定した状態で場合には、金粒子は上述の大きさの範囲内(平均粒径が5nm以下)とすることができる。助触媒粒子において用いることができる金属粒子としては、Pd、Irなどといった貴金属およびその酸化物、または卑金属およびそれらの酸化物などの金属粒子が挙げられる。これらの貴金属およびその酸化物、卑金属およびその酸化物の金属粒子は2種以上が、担体に担持されてもよい。
【0040】
また、水分によって触媒が影響を受け難くするために、触媒を疎水化したり、吸湿剤や乾燥剤を添加してもよい。
【0041】
本実施形態の触媒は一酸化炭素の酸化触媒として特に有益であるが、その他の物質の酸化触媒としても用いることが可能である。酸化できる物質としては、例えば自動車の内装材、住宅の建材・内装材、家電の筐体・部材などの素材から揮発する物質や、塗料、接着剤、洗浄剤などの有機溶剤から揮発する物質などが挙げられる。具体的には、メタン、エタン、プロパン、ブタン、エチレン、プロピレン、イソプレン、ベンゼン、キシレン、トルエン、エチルベンゼン、スチレン、α-ファルネセン、β-ファルネセンなどの炭化水素類、メタノール、エタノール、プロパン-1-オール、ブタン-1-オール、ペンタン-1-オール、ヘキサン-1-オール、ヘプタン-1-オール、オクタン-1-オール、トランス-2-ヘキセノール、シス-2-ヘキセノール、トランス-3-ヘキセノール、シス-3-ヘキセノール、リナロール、ベンジルアルコールなどのアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブタナール、ペンタナール、ノナナール、ベンズアルデヒド、ヘキサナール、トランス-2-ヘキセナール、シス-2-ヘキサナール、トランス-2-オクテナール、トランス-2-ノネナール、シス-2-ノネナール、トランス,シス-2,6-ノナジエナール、トランス,シス-2,4-デカジエンナールなどのアルデヒド類、アセトン、エチルメチルケトン、ジエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、アセトフェノンなどのケトン類、蟻酸メチル、酢酸エチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸オクチル、酢酸ヘキシル、酢酸ベンジル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸ペンチル、サリチル酸メチル、カプロン酸エチル、吉草酸ペンチル、エチル-2-メチルプロパネート、エチルブタノエート、メチル-2-メチルブタノネート、エチル-2-メチルブタノエート、エチル-3-メチルブタノエート、メチル-3-ヒドロキシブタノエート、メチルヘキサノエート、エチルヘキサノエート、ヘキシルヘキサノエート、メチル-3-ヒドロキシヘキサノエート、オクチルヘキサノエート、エチルオクタノエート、メチル-3-ヒドロキシオクタノエート、ニコチン酸エチル、γ-ヘキサラクトン、γ-オクタラクトン、δ-オクタラクトン、γ-デカラクトン、δ-デカラクトン、γ-ドデカラクトン、δ-ドデカラクトンなどのエステル類、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、2-メチルプロパン酸、2-メチルブタン酸などのカルボン酸類、トランス-ネロリドール、シス-ネロリドール、ファルネソールなどのテルペン類やオイゲノール、バニリンなどのフェノール類、アンモニアやトリエチルアミンなどのアミン類、メタンチオール、エタンチオール、プロパンチオールなどのチオール類、硫化メチル、二硫化メチル、ジメチルスルホキシドなどの硫黄有機化合物などが例示される。
【0042】
次に、担体に金元素を含む粒子を担持させる担持工程を説明する。
【0043】
金粒子を担体のアルミナに担持させる方法は、金化合物の溶液もしくはコロイド溶液(以下、これらを単に「金化合物溶液」とも称する)に担体を浸漬し、担体の表面(担体に細孔が形成されている場合には、担体の表面及び細孔内部の表面)に金化合物溶液を接触させる。金粒子を構成する金元素と卑金属との合金が担持されるようにする場合は、金化合物に加えて卑金属の塩をさらに溶解した溶液を金化合物溶液として用いるなどすればよい。その後、焼成処理、及び必要に応じて還元処理をさらに行い、担体の表面(担体にメソ孔が形成されている場合には、担体の表面及びメソ孔内部の表面)に金粒子を形成することにより、金粒子を担体に固定することができる。この工程により、本実施形態に係る触媒を得ることができる。
【0044】
金粒子を担体に担持させる方法をさらに具体的に説明する。まず、金化合物溶液を20~90℃、好ましくは50~70℃に加温、攪拌しながら、pH3~10、好ましくはpH5~8になるようにアルカリ溶液を用いて調整する。次いで、担体を金化合物溶液に投入し、金化合物溶液を担体に浸透させる。この時、必要に応じて、担体が細孔を有する場合はさらに減圧脱気処理を行ってもよい。担体に細孔が形成されている場合には、減圧脱気処理により細孔内部にも金化合物溶液が進入する。その後、200~600℃で、1時間~6時間、加熱焼成を行うことで金粒子を担体に担持することができる。担持工程が前述した条件を満足することで、本ピーク面積条件を満たす金担持担体が得られやすくなる。
【0045】
また、上述のように担体を金化合物溶液に浸透させた後に、200~600℃の焼成処理と、100~300℃の水素気流に晒す処理を行う水素還元法や、水素化ホウ素ナトリウム溶液に浸漬する液相還元法など公知の還元操作を実施することでも、金粒子を担体に担持させることができる。還元操作の具体的な条件は、本ピーク面積条件を満たす金担持担体となれば特に限定されるものではない。なお、金化合物溶液に含有させる化合物の種類によっては、上述した公知の還元操作を実施することなく、200~600℃の加熱焼成処理のみで、金粒子を担体に担持させることもできる。また、担体にメソ孔が形成されている場合には、金化合物溶液に含まれる金化合物の還元が一部に留まり、メソ孔内に金粒子とともに、金の酸化物の粒子が共存してもよい。
【0046】
金化合物としては例えば、HAuCl4・4H2O、NH4AuCl4、KAuCl4・nH2O、KAu(CN)4、Na2AuCl4、KAuBr4・2H2O、NaAuBr4などが挙げられる。金化合物溶液における金化合物の濃度は特に限定されないが、1×10-2~1×10-5mol/Lとして溶液を調製するのが、生成した金粒子が凝集しにくいので好ましい。
【0047】
金化合物溶液に含まれ得る卑金属の塩としては、溶液に溶解でき、金化合物と共存しても沈殿を生じない化合物であれば特に限定されず、卑金属の塩化物、臭化物などのハロゲン化塩、硝酸塩、炭酸塩、重炭酸塩、カルボン酸塩などが例示される。卑金属塩の濃度は特に限定されないが、1×10-2~1×10-5mol/Lとして溶液を調製するのが、生成した金粒子が凝集しにくいので好ましい。
【0048】
また、以下に記述する金コロイド溶液を用いるコロイド法を用いて金粒子を担体に担持してもよい。
【0049】
金粒子担持工程においては、上記担体として、比表面積が好ましくは20m2/g以上、更に好ましくは100m2/g以上、より好ましくは150m2/g以上の高比表面積のものを用い、金コロイド溶液として、粒径5nm以下、好ましくは0.5~3nmの金粒子(表面修飾された金粒子を含む)を含有する金コロイド溶液を用いることができる。比表面積が上記範囲外の場合及び金粒子の粒径が5nmを超える場合には、担体に金粒子が担持されにくくなる。
【0050】
金コロイド溶液を用いるコロイド法では、金コロイド溶液に担体を浸漬し、その後担体を濾別して焼成することで、金粒子を担持させることができる。具体的には、例えば、金コロイド溶液に担体を浸漬し、金コロイド溶液のpHを8~11に水酸化ナトリウムなどを用いて調整しつつ30分~2時間撹拌混合する。ついで、水素化ホウ素ナトリウムをコロイド溶液中の金粒子100質量部に対して50~200質量部添加する。コロイド溶液から担体を濾別して洗浄し、60~100℃にて乾燥させた後、200~500℃にて2~10時間空気中で焼成して、担体の表面(担体にメソ孔が形成されている場合には、担体の表面及びメソ孔内部の表面)に金粒子を担持することができる。担持工程が前述した条件を満足することで、本ピーク面積条件を満たす金担持担体が得られやすくなる。この処理により、金粒子が担持されている担体を得ることができる。なお、担体にメソ孔が形成されている場合には、担体が浸漬した金コロイド溶液に減圧脱気処理を施すと、担体のメソ孔内への金コロイド溶液の進入が促進されるので、望ましい。
【0051】
金コロイド溶液は、水中でコロイドを形成する金化合物を水中に溶解させることにより形成することができる。この際用いることができる金化合物としてはテトラクロロ金酸、HAuCl4、Au(en)2Cl3等(en:エチレンジアミン基)を挙げることができる。テトラクロロ金酸を用いる場合は、テトラクロロ金酸のトルエン溶液とテトラオクチルアンモニウムブロミドのトルエン溶液とを水素化ホウ素ナトリウムの存在下に水中に投入することにより金コロイド溶液を得ることができる。また、HAuCl4を用いる場合には、テトラオクチルアンモニウムブロミドのトルエン溶液をHAuCl4と共に水素化ホウ素ナトリウムの存在下に水中に投入することにより金コロイド溶液を得ることができる。また、Au(en)2Cl3については、そのまま水中に投入することにより金コロイド溶液を得ることができる。なお、水素化ホウ素ナトリウムは、上述のように金粒子を担体に担持させる際に添加し、コロイド化においては特に添加しないで金コロイド溶液を調整することもできる。
【0052】
本実施形態の触媒は、例えば、一酸化炭素を除去する機能を有する部材や気体浄化装置に使用することができ、酸素の存在下で、一酸化炭素を含む被処理気体を接触させて用いることができる。当該部材や装置としては、内燃機関などの排気ガス浄化装置、空調設備に設置する空気浄化装置、オフィスや喫煙室に設置する空気清浄機、あるいは防毒マスクなどの保護具などを挙げることができる。当該部材や装置には触媒の加熱機構や触媒へ被処理気体を送る送風機構など、触媒が好適に作動する使用環境が設定できる機能を設けてもよい。
【0053】
ここで、本実施形態の触媒の形状は、特に限定しないが上述の通り、処理対象物質(例えば、一酸化炭素)との接触面積が大きく処理対象物質の分解反応が進行しやすいので、粉末状、粒子状、ペレット状などの形状が好ましい。また、基材上に触媒を形成させて用いることもできる。触媒が固定される基材は、処理対象物質の酸化を行う酸化触媒部材として用いることができ、前述した排気ガス浄化装置、空気浄化装置、空気清浄機、保護具などを構成する部材として使用することができる。基材の形状も特に限定しないが、ハニカム状、繊維状などの基材が好ましい。基材の形状が繊維状、ハニカム状であると通気性が得られるため、酸化触媒部材を酸化触媒フィルタとして用いることができ、被処理気体の通風時の圧力損失が小さくなるので好ましい。
【0054】
基材は、本実施形態に係る触媒を製造する際や使用する際に高温に加熱する場合があるため、当該加熱温度に耐える耐熱性を有する材料で構成されていることが望ましい。具体的には基材の材料としては、金属材料、セラミックス、ガラス、炭素繊維、炭化珪素繊維などが好ましく、さらには金属、金属酸化物、ガラスがより好ましい。
【0055】
基材に用いられる金属材料としては、タングステン、モリブデン、タンタル、ニオブ、TZM(Titanium Zirconium Molybdenum)、W-Re(tungsten-rhenium)などの高融点金属や、銀、ルテニウムなどの貴金属及びそれらの合金または酸化物、チタン、ニッケル、ジルコニウム、クロム、インコネル、ハステロイなどの特殊金属、アルミニウム、銅、ステンレス鋼、亜鉛、マグネシウム、鉄などの汎用金属およびこれら汎用金属を含む合金またはこれら汎用金属の酸化物を用いることができる。また、各種めっき及び真空蒸着や、CVD法や、スパッタ法などにより、上述した金属、合金または酸化物の被膜が形成された部材を金属材料として用いてもよい。
【0056】
さらに、基材に用いられるセラミックスとしては、土器、陶器、石器、磁器などの陶磁器、セメント、石膏、ほうろう及びファインセラミックスなどのセラミックスを挙げることができる。セラミックスの組成は、元素系、酸化物系、水酸化物系、炭化物系、炭酸塩系、窒化物系、ハロゲン化物系、及びリン酸塩系などを挙げることができ、また、それらの複合物でもよい。
【0057】
また、基材に用いられるセラミックスとしては、さらに、チタン酸バリウム、チタン酸ジルコン酸鉛、フェライト、アルミナ、フォルステライト、ジルコニア、ジルコン、ムライト、ステアタイト、コーディエライト、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、炭化ケイ素、ニューカーボンなどや、高強度セラミックス、機能性セラミックス、超伝導セラミックス、非線形光学セラミックス、抗菌性セラミックス、生分解性セラミックス、及びバイオセラミックスなどのセラミックスを挙げることができる。
【0058】
また、基材に用いられるガラスとしては、ソーダ石灰ガラス、カリガラス、クリスタルガラス、石英ガラス、カルコゲンガラス、ウランガラス、水ガラス、偏光ガラス、強化ガラス、合わせガラス、耐熱ガラス・硼珪酸ガラス、防弾ガラス、ガラス繊維、ダイクロ、ゴールドストーン(茶金石・砂金石・紫金石)、ガラスセラミックス、低融点ガラス、金属ガラス、ニューガラス、及びサフィレットなどのガラスを挙げることができる。
【0059】
また、基材にはその他に、普通ポルトランドセメント、早強ポルトランドセメント、超早強ポルトランドセメント、中庸熱ポルトランドセメント、低熱ポルトランドセメント、耐硫酸塩ポルトランドセメント、及びポルトランドセメントに高炉スラグ、フライアッシュ、シリカ質混合材を添加した混合セメントである高炉セメント、シリカセメント、及びフライアッシュセメントなどのセメントを使用することも可能である。
【0060】
また、基材にはその他に、チタニアや、ジルコニア、アルミナ、セリア(酸化セリウム)、ゼオライト、アパタイト、シリカ、活性炭、珪藻土などを使用することができる。さらに、基材には、クロム、マンガン、コバルト、ニッケル、錫などからなる金属酸化物を用いることも可能である。
【0061】
本実施形態の触媒を基材上に形成する場合は、例えば、基材に担体であるアルミナを固定し、次いで担体に金元素を含む粒子を担持させる工程を行うことにより基材上に形成された触媒を製造することができる。
【0062】
基材に担体を固定する工程は、例えば、アルミニウム源として酸化アルミニウムゾルを用いる場合、基材を酸化アルミニウムゾルに浸漬して基材表面に酸化アルミニウムゾルを付着させ、その後、基材上の酸化アルミニウムゾルを上述した焼成条件で焼成することで、担体を基材表面に固定させることができる。
【0063】
本実施形態の触媒は、酸素の存在下において、処理対象物質を含む被処理気体を触媒に接触することで使用される。酸素の存在下において、被処理気体が触媒と接触することにより、被処理気体中の処理対象物質が酸化分解される。被処理気体の発生源は特に限定されず、自動車やボイラーなどの内燃機関や、二次電池から発生する副生成ガスなどが挙げられる。
【0064】
被処理気体中の処理対象物質の濃度は、特に限定されるものではないが、処理対象物質が一酸化炭素である場合、分解率を高くできるという観点から、一酸化炭素は、被処理気体に対して体積基準で5ppm以上、5%以下とすることが好ましい。被処理気体には、処理対象物質(例えば、一酸化炭素)と酸素の他に、窒素、アルゴンなどの他の成分が含有されていてもよい。
【0065】
被処理気体と触媒とを接触する方法や条件は、その使用環境によっても影響を受け、特に限定されるものではないが、分解率を高くできるという観点からは、被処理気体を10,000mL/g/hr以上5,000,000mL/g/hr以下の空間速度で触媒に接触することが好ましい。なお、空間速度とは、単位時間当たりに、触媒の体積の何倍の体積の被処理気体が触媒を接触(通過)したかを速度として表したものであり、単位時間当たりの被処理気体の流量(体積)を、触媒の体積で除した値である。また、被処理気体と触媒との接触は、大気圧下で行ってもよく、減圧雰囲気や加圧雰囲気下で行ってもよい。
【0066】
被処理気体と触媒との接触を行う温度は、特に限定されるものではないが、0℃以上であると触媒活性が高くなり望ましい。本実施形態の触媒は、0℃未満であっても触媒活性を示すが、0℃未満であると、触媒に吸着した水分が吸着し、触媒と処理対象物質(例えば、一酸化炭素)の接触を阻害して触媒活性が阻害されてしまうことがある。また、本実施形態の触媒は、100℃を超える高温で被処理気体を接触させないと処理対象物質(例えば、一酸化炭素)を酸化できない従来の触媒とは異なり、100℃以下の温度でも処理対象物質(例えば、一酸化炭素)を酸化することができ、さらには、25度以下の温度でも処理対象物質を酸化できる。
【0067】
被処理気体と触媒との接触を行う温度は、触媒を加熱・冷却することで調整でき、また、被処理気体を加熱・冷却したりすることで調整することもできる。なお、触媒と被処理気体の両方を加熱・冷却することで調整してもよい。例えば、触媒を0℃以上100℃以下にしたり、被処理気体の温度を0℃以上100℃以下にしたりすることで、被処理気体と触媒との接触を0℃以上100℃以下の温度で行うことができる。
【実施例】
【0068】
次に、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0069】
[実施例1]
酸化アルミニウムの濃度が7wt%、一次粒子径が5~10nmである無定形酸化アルミニウムゾル(多木化学株式会社製,Al-L7)100mlを、室温から1100℃まで4時間かけて昇温し、その後1100℃を4時間保持して焼成し、アルミナ担体を得た。
【0070】
水酸化ナトリウム水溶液によりpH7に調整した濃度2.94mmol/Lの塩化金酸水溶液250mlを70℃に加温し、得られたアルミナ担体を1g投入し撹拌した。その後アルミナ担体を濾別し、350℃で2時間焼成して実施例1の触媒を得た。なお触媒体に対する金担持量は原子吸光光度計で測定した。
【0071】
[実施例2]
実施例1で用いた無定形酸化アルミニウムゾル(Al-L7)にかえて、酸化アルミニウムの濃度が20wt%、一次粒子径が15~20nmであるγ型酸化アルミニウムゾル(多木化学株式会社製,Al-C20)100mlを用いたこと、及び焼成温度を1100℃から700℃に変更したこと以外は実施例1と同様の条件で、実施例2の触媒を得た。
【0072】
[実施例3]
実施例1で用いた無定形酸化アルミニウムゾル(Al-L7)にかえて、ベーマイト粉末(大明化学工業株式会社製,C06)10gを用いたこと以外は実施例1と同様の条件で、実施例3の触媒を得た。
【0073】
[比較例1]
焼成温度を1100℃から700℃としたこと以外は実施例1と同様の条件で、比較例1の触媒を得た。
【0074】
得られた実施例1~3および比較例1の触媒(金担持担体)について、下記条件で、担体の赤外吸収スペクトルを取得するとともにピーク分離を行い、第1固定ピークの面積Aに対する第2固定ピークの面積Bの割合(B/A)を求めた。また、X線回折測定(X線源:Cu-Kα、X線出力:40kV,30mA、スキャン速度:2.0deg/min、ステップ幅:0.02deg、スキャン軸:2θ/θ、スキャン範囲:5.0~90.0deg)により、実施例及び比較例の触媒に含まれるアルミナの結晶型を特定した。さらに、実施例1~3および比較例1の触媒を用いて、下記CO除去試験を行った。
【0075】
(赤外吸収スペクトル)
全真空フーリエ変換赤外分光光度計(日本分光株式会社製FT/IR-6700FV型)および真空加熱拡散測定装置(日本分光株式会社製DR-650型)を用いて、400℃に加熱した状態での赤外吸収スペクトル測定を行った。測定試料は希釈せずそのまま装置内の試料室にセットし、リファレンスにCaF2粉末を用いた拡散反射法により測定を行った。分解能は4cm-1、積算回数は64回とした。試料室は窒素ガスパージを行い、干渉計及びセル内は真空にて測定した。
【0076】
<ピーク分離及びピーク面積>
得られたスペクトルに対し、4000cm-1から2000cm-1の範囲においてベースライン補正を行った。分離ピーク個数を7つに設定し、内3つの固定ピークのピークトップはそれぞれ3727cm-1、3676cm-1および3581cm-1に固定し、他の4つの可変ピークのピークトップはそれぞれ3071cm-1、3426cm-1、3762cm-1および2375cm-1に仮設定してカーブフィッティング処理を施した。カーブフィッティング処理は全真空フーリエ変換赤外分光光度計取り扱い説明書に記載の原理に従い、当該測定装置に内蔵されるカーブフィッティング処理プログラムを用いて行った。得られた7つの分離ピークを重ねわせた再現スペクトルとカーブフィッティング処理前の実測スペクトルが一致しない場合は仮設定した4つの可変ピークのピークトップの波長(位置(cm-1))を4000cm-1から2000cm-1の範囲内で変えて再度カーブフィッティング処理を行った。一致するまで仮設定した可変ピークのピークトップの波長(位置(cm-1))の変更を繰り返し、7つの分離ピークを確定した。なお、赤外吸収スペクトル(2000~4000cm-1の範囲)に7つピークがあることを仮定する前述の処理を繰り返し行っても、再現スペクトルと実測スペクトルが一致しない場合には、2000~4000cm-1の範囲の赤外吸収スペクトルにあることを仮定するピークの数を徐々に減少させていった。ここで、存在を仮定するピークには、少なくとも、第1ピーク~第3ピークが含まれるように、第4ピークから第7ピークの4つ可変ピークの数を減少させていった。ここで、再現スペクトルと実測スペクトルの一致は、両スペクトルの残差平方和が0.01以下の場合、再現スペクトルと実測スペクトルが一致と判定した。
【0077】
図1に実施例2の赤外吸収スペクトル(上部スペクトル)およびピーク分離後の各ピーク(下部スペクトル)を示す。3727cm
-1にピークトップを有する第1固定ピークの面積Aと、3676cm
-1にピークトップを有する第2固定ピークの面積Bは、カーブフィッティング処理と同時に算出される値を用い、これらのピークの面積比(第2固定ピークの面積B/第1固定ピークの面積A)を求めた。
【0078】
(CO除去試験)
一酸化炭素(CO)を用い、実施例及び比較例の各触媒のCO酸化反応を評価した。具体的には、実施例及び比較例の各触媒50mgを所定の流路幅および高さとなるように流路内に設置した試験装置を用意した。一酸化炭素濃度が200ppmとなるように空気を混合して被処理気体を調製し、流量を0.5L/分(空間速度:600,000mL/g/hr)にマスフローコントローラーで制御しながら、CO濃度一定の被処理気体を当該流路に供給し、試験を開始してから所定時間経過したときに、触媒を透過した被処理気体のCO濃度を測定することでCO除去試験を実施した。なお、この試験で用いた流路は、触媒を透過した被処理気体が外部に排出される開放型の流路であり、前述した一酸化炭素濃度の被処理気体を、前述した流量で供給し続けた。また、被処理気体の温度は20±2℃、湿度は50±5%に調製した。
【0079】
試験装置による処理前の被処理気体と処理後の被処理気体の分析はガスクロマトグラフ(Agilent 7820A GCシステム 、アジレント・テクノロジー株式会社製)を用いた。
【0080】
上述したガスクロマトグラフを用いて、試験装置に供給していた被処理気体中のCO濃度(以下、「初期CO濃度」ともいう)と、試験を開始してから所定時間経過した後(10分後、2時間後、4時間後)の触媒を透過した被処理気体中のCO濃度(以下、「反応後CO濃度」ともいう)を測定し、以下の式を用いてCO除去率を算出した。結果を表1に示す。
CO除去率(%)={(初期CO濃度 - 反応後CO濃度)/初期CO濃度}×100
【0081】
なお、被処理気体中のCOがCO2に酸化されたことは、処理前の被処理気体より処理後の被処理気体中にCO2が増大した事をガスクロマトグラフィーで検出することにより、確認した。
【0082】
【0083】
上記の結果から理解できるとおり、実施例1から3の触媒のCO除去率は比較例1の触媒の除去率に対して、10分後、2時間後のいずれも大きく、本実施例の触媒のCO除去性能に優れることがわかる。また、実施例1から3の触媒は、比較例1の触媒と比較して、10分後と2時間後のCO除去率の差が小さく、酸化反応を継続してもその触媒活性が維持されやすいことがわかる。特に、B/Aが1.2以上である実施例2および3は、実施例1よりも、10分後、2時間後、4時間後のいずれもCO除去率が大きく、10分後と4時間後のCO除去率の差が小さかった。この結果から、実施例2および3は、実施例1と比較し、触媒がより高く、触媒活性の低下をより抑制できることがわかる。