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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】ソール及びソールを備えるシューズ
(51)【国際特許分類】
   A43B 13/14 20060101AFI20240918BHJP
【FI】
A43B13/14 Z
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020166333
(22)【出願日】2020-09-30
(65)【公開番号】P2022057871
(43)【公開日】2022-04-11
【審査請求日】2023-08-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【弁理士】
【氏名又は名称】森下 賢樹
(72)【発明者】
【氏名】有本 佳奈
(72)【発明者】
【氏名】仲谷 政剛
【審査官】石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第04567678(US,A)
【文献】登録実用新案第3041007(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2012/0047770(US,A1)
【文献】国際公開第2020/081566(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 1/00-23/30
A43C 1/00-19/00
A43D 1/00-999/00
B29D 35/00-35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
歩行用シューズのソールであって、
当該ソールを水平面に置いて側面視したときに踵側からつま先側に向かうにつれて前足部底面が前記水平面から離れる形状を有し、
前記前足部底面は、側面視において異なる曲率を有する複数の領域を有し、
前記複数の領域は、側面視において異なる曲率を有する少なくとも3つの領域を含み、
前記少なくとも3つの領域は、前記3つの領域中で最小の曲率を有する小曲率領域と、前記小曲率領域よりも大きい曲率を有し前記小曲率領域の踵側に隣接する中曲率領域とを含み、
前記小曲率領域は、平坦な面により構成される、ソール。
【請求項2】
前記ソールを前記水平面において側面視したときに前記つま先側の先端が、着用者の踵中心に対応する位置よりも高い位置にある、請求項1に記載のソール。
【請求項3】
前記小曲率領域は、前記ソールのつま先側の先端と、着用者の踵中心に対応する位置とを結ぶ仮想線の全長に対して、つま先側から10~30%の範囲に位置する、請求項1または2に記載のソール。
【請求項4】
前記少なくとも3つの領域は、前記中曲率領域および前記小曲率領域より大きい曲率を有し前記中曲率領域のつま先側に隣接する大曲率領域を含む、請求項1乃至3のいずれか1項に記載のソール。
【請求項5】
前記中曲率領域の踵側の境界線は、内足側の端が外足側の端よりもつま先側に位置する、請求項乃至のいずれか1項に記載のソール。
【請求項6】
前記中曲率領域の踵側の境界線は、着用者のMP関節に対応する線と平行に延びる、請求項1乃至5のいずれか1項に記載のソール。
【請求項7】
前記小曲率領域と前記大曲率領域の境界線は、内足側の端が外足側の端よりも踵側に位置する、請求項に記載のソール。
【請求項8】
前記大曲率領域は、内足側から外足側に向けて広がる扇形状を有する、請求項4または7に記載のソール。
【請求項9】
前記ソールは、複数層のソール部材を含む、請求項1乃至のいずれか1項に記載のソール。
【請求項10】
前記平坦な面は、前記前足部底面の面積の少なくとも50%を有する、請求項1乃至9のいずれか1項に記載のソール。
【請求項11】
足の甲を覆うアッパーと、
前記アッパーが外周に接合されるソールとを備え、
前記ソールは、
当該ソールを水平面に置いて側面視したときに踵側からつま先側に向かうにつれて前足部底面が前記水平面から離れる形状を有し、
前記前足部底面は、側面視において異なる曲率を有する複数の領域を有し、
前記複数の領域は、側面視において異なる曲率を有する少なくとも3つの領域を含み、
前記少なくとも3つの領域は、前記3つの領域中で最小の曲率を有する小曲率領域と、前記小曲率領域よりも大きい曲率を有し前記小曲率領域の踵側に隣接する中曲率領域とを含み、
前記小曲率領域は、平坦な面により構成される、シューズ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はソール及び当該ソールを備えるシューズに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、歩行時の着用者の足運びの快適性や運動性能を向上させるためにシューズのソールに関して様々な開発が行われている。一例として、着用者の片足が地面に接地してから離れるまでの間の着用者の重心移動、及び足関節の角度を考慮して先端に向けてソールの接地面を上向きに湾曲させる、いわゆるトースプリング構造が知られている(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2007-268025号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
一般的にトースプリング構造は、ソールの接地面の湾曲具合は湾曲部全体にわたって一様であり、主としてソールの先端の地面からの高さについて様々な研究がなされている。しかしながら発明者等は、様々な研究の結果、特に歩行時や競歩時(以下、単に「歩行時等」ということがある)のように両足が着地しているタイミングがある運動様態において、いままで着目されていなかったソールの湾曲部の形状も着用者の運動性能に影響を及ぼすという新たな知見を得た。
【0005】
本発明はこのような新たな知見に基づいてなされたものであり、運動性能を向上させられるソール及びソールを備えるシューズを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一態様によるソールは、歩行用シューズのソールであって、ソールを水平面に置いて側面視したときに踵側からつま先側に向かうにつれて前足部底面が水平面から離れる形状を有し、前足部底面は、側面視において異なる曲率を有する複数の領域を有する。
【0007】
また本発明の別の態様によるソールは、歩行用シューズのソールであって、ソールを水平面に置いて側面視したときに前足部底面がつま先側に向かうにつれて水平面から離れる形状を有し、前足部底面の一部は、平坦な面を有する。
【発明の効果】
【0008】
いずれの態様においても、着用者の運動性能を向上させられる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】足の骨格を示す上面図である。
図2】シューズの側面図である。
図3】シューズの断面図である。
図4】ソールの底面図、及び側面図である。
図5】人体の足関節を模式的に示したものである。
図6】人体の足関節を模式的に示したものである。
図7】人が歩行等を行うときの足関節パワーと、足関節トルクと、足関節角速度との関係を示す。
図8】従来のシューズを着用した着用者が歩行したときの第1段階から第4段階における足関節パワーの変化のグラフを示す。
図9】実施形態におけるソールの概略図を示す。
図10】変形例によるソールの断面図である。
図11】更なる変形例によるソールの上面図である。
図12】更なる変形例によるソールの曲げ剛性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
まず、本明細書で用いる用語の定義について説明する。本明細書では、方向を示す用語として、前後方向、幅方向、及び上下方向を用いることがあるが、これら方向を示す用語は、シューズを平らな面に置き、シューズを着用したときの着用者の視点から見た方向を示す。したがって、前方向はつま先側を意味し、後方向はかかと側を意味する。また、方向を示す用語として、内足側、及び外足側を用いることがあるが、内足側とは足の幅方向内側、即ち足の母指(第1指)側を意味し、外足側とは幅方向において内足側とは反対側を意味する。
【0011】
また、以下の説明では、3次元直交座標を用いて方向を説明することがある。この場合、X軸は内足側から外足側に向けて延び、Y軸は踵側からつま先側に向けて延び、Z軸は底面側から上側に向けて延びる。
【0012】
また、実施形態によるシューズの説明を行う前に、実施形態によるシューズと関連することがある足の骨格について、図1を参照しながら説明を行う。
【0013】
図1は、足の骨格を示す上面図である。人体の足は、主に、楔状骨Ba、立方骨Bb、舟状骨Bc、距骨Bd、踵骨Be、中足骨Bf、趾骨Bgで構成される。足の関節には、MP関節Ja、リスフラン関節Jb、ショパール関節Jcが含まれる。ショパール関節Jcには、立方骨Bbと踵骨Beがなす踵立方関節Jc1と、舟状骨Bcと距骨Bdがなす距舟関節Jc2とが含まれる。本明細書での着用者の「前足部」は、MP関節Jaよりも前側の部分をいい、シューズの長さ比率で置き換えると、つま先側から測定してシューズの全長の0~約30%の部分をいう。また、「中足部」は、MP関節Jaからショパール関節Jcまでの部分をいい、同様に、つま先側から測定してシューズの全長の約30~80%の部分をいう。また、「後足部」は、ショパール関節Jcよりも後側の部分をいい、同様に、つま先側から測定してシューズの全長の約80~100%の部分をいう。また、図1において中心線Sは、シューズの中心線を示し、足幅方向中央部に沿って延びる。中心線Sは、人体の第三中足骨Bf3と踵骨Beの踵骨隆起内側突起Be1を通る直線上に位置する部位を想定している。図1では踵骨隆起内側突起Be1が位置すると想定される範囲を示す。シューズの全長における割合は目安であって、前足部、中足部、後足部の範囲を限定するものではない。
【0014】
図2は、シューズの側面図である。図2に示すようにシューズ10は、アッパー12と、ソール14とを備える。シューズ10は、歩行等の両足が着地するタイミングがある運動に特に適したものである。アッパー12は、着用者の足の甲を包み込む形状を有する。アッパー12は、ソール14の外周に沿ってソール14に縫い付けられている。アッパー12としては、紐によりアッパーのフィット状態を調整可能な紐靴、紐等の締結手段を有さないスリッポン、モノソック等、様々な種類のものを採用可能である。
【0015】
ソール14は、ミッドソール16とアウトソール18とを備える。なお以下ではソールの形状等について言及することがあるが、特に明示しない限り「ソール」の用語はミッドソール16及びアウトソール18を含むソール14全体を指すものとする。なお、ソール14はミッドソール16又はアウトソール18のいずれか一方により構成されてもよい。
【0016】
ミッドソール16は、衝撃を吸収する役割を果たし、その一部又は全部が例えば発泡EVA、若しくは発泡ウレタン、発泡熱可塑性エラストマーのようなフォーム材、GEL、又はコルクを含む衝撃を吸収する軟質材によって形成される。ミッドソール16を形成する材料としては、ヤング率が10MPa以下(10%歪のとき)、又はアスカーゴム硬度計C型による計測値が70以下であることが好ましい。
【0017】
アウトソール18は、複数のラバーを所定形状に成形することで形成されている。アウトソール18は、ミッドソール16の底面を少なくとも部分的に覆うように、ミッドソール16の底面に貼り付けられている。
【0018】
図3は、シューズの断面図である。より具体的には図3は、中心線Sに沿った断面図である。図3はソールをX軸に沿って見た図である。図3には、ソール14の全長に対するつま先からの水平方向距離を表すY軸スケールを示す。つまり、ソール14の後端(Y軸方向後端)が0%を示し、ソール14の先端(Y軸方向先端)が100%を示す。
【0019】
図3では、ソール14を水平面HS上に配置した状態を示す。ソール14のつま先は、水平面HSから高さH1だけ離れており、ソール14はトースプリング構造を有している。ソール14の踵は、水平面HSから高さH2だけ離れている。ここで高さH1は高さH2よりも大きく、つま先が踵よりもリフトアップされている。高さH1を踵中心におけるソール14の厚みとの対比で決定してもよい。この場合、高さH1は踵中心におけるソール14の厚みの約2倍とするのがよい。これにより、蹴り出し時に地面により力を加えられる。ソール14は、側面視したときに異なる曲率を有する複数の領域Ar1~Ar5を備える。ここでいう領域とは、ソール14の接地面における領域をいうものとする
【0020】
なお、以下では、中心線S(「仮想線」に相当)に沿った断面に基づいて各領域の曲率等を説明するが、中心線Sから幅方向(X軸方向)にずれた断面において下記の要件を満たすようソールを設計してもよい。
【0021】
踵がリフトアップされている第1領域Ar1は、Y軸スケール上で10~20%よりも小さい(0%に近い)領域である。なお以下で説明するように、第1領域Ar1を含む全ての領域は、X軸に平行でない境界線を有している場合がある。このような場合でも、例えば第1領域Ar1の全体がY軸スケール上で上述した範囲内に収まっているのがよい。
【0022】
第1領域Ar1のつま先側には、第2領域Ar2が設けられる。第2領域Ar2は、Y軸スケール上で10~20%よりも大きく、且つ55%~65%よりも小さい範囲内に設けられる。したがって第2領域Ar2は、大凡着用者の中足部の下に位置する。第2領域Ar2は平坦(曲率r2=0)な形状を有する。第2領域Ar2よりもつま先側の前足部に相当する部分は、水平面HSからリフトアップされている。リフトアップされた領域にある第3領域Ar3~第5領域Ar5は、それぞれ異なる曲率を有する。第3領域Ar3は中曲率領域に相当し、第4領域Ar4は小曲率領域に相当し、第5領域Ar5は大曲率領域に相当する。
【0023】
第2領域Ar2に隣接する第3領域Ar3は、Y軸スケール上で55%~65%よりも大きく、且つ65%~75%よりも小さい範囲内に設けられる。第3領域Ar3の後端(Y軸スケール上の最小値)は、MP関節Jaに対応する線と平行に延びるのがよい。また、第3領域Ar3の後端はMP関節Jaに対応する曲線を近似した直線であってもよい。第3領域Ar3はMP関節Jaからつま先側に広がる領域である。第3領域Ar3は、つま先側に向かうに連れて水平面HSから離れるよう水平面HSに対して傾斜しており、且つ0より大きい曲率r3を有する。第3領域Ar3は、主として他方の足が踵着地(つまり他方の足に着用したシューズ10のソールの第1領域Ar1が着地)する直前に身体を支持する領域である。つまり第3領域Ar3は、片足で身体を支持しているとき(以下、「片足支持期」ということがある)に接地することを想定して設けられた領域である。つまり第3領域Ar3が接地している状態では、バランスを取りながら前方に向かう力を生じさせる必要があり、両者のトレードオフを考慮して、曲率r3は比較的小さい値とされる。
【0024】
第3領域Ar3に隣接する第4領域Ar4は、Y軸スケール上で65%~75%よりも大きく、且つ85%~95%よりも小さい範囲内に設けられる。より好ましくは第4領域Ar4は、Y軸スケール上で70%~90%(つま先側から見た場合、10%~30%)の範囲に設けられている。第4領域Ar4は、つま先側に向かうに連れて水平面HSから離れるよう水平面HSに対して傾斜しており、且つ略平坦な形状(曲率r4=0、又はr4≒0、且つ曲率r4<曲率r3)を有する。第4領域Ar4は、両足で身体を支持している間(以下、「両足支持期」ということがある)に接地することを想定して設けられた領域である。また、第4領域Ar4は、蹴り出し時に水平面HSに伝わる力を増やすことを想定して設けられた領域である。したがって、他方の足の踵と、第4領域Ar4とが接地した状態で着用者がバランスを取りやすく、且つ踏力が水平面HSに伝わり易いよう、曲率r4は比較的小さく、平らな形状とされる。第4領域Ar4は平坦な形状を有していることが好ましいが、アウトソール18の形状等によっては多少の凹凸や傾斜が形成される場合がある。しかしながら、開示の本質に照らせば例えば第4領域Ar4を水平面に接地させたときにソール14が前後に殆ど揺動(X軸周りに揺動)しないような場合、第4領域Ar4は平坦であるとみなせる。
【0025】
別の観点で説明すれば、第3領域Ar3は、片足支持期の後期において、いわゆるローリングの開始を促す領域である。一方で第4領域Ar4は、両足支持期の後期においてローリングを停めることなく、且つ着用者が安定して身体を支持できるようにする領域である。第4領域Ar4は、前足部に相当する領域に設けられた他の第3領域Ar3及び第5領域Ar5の合計面積よりも面積が広い。ここでいう面積とは上面視したときの投影面積である。第4領域Ar4は、前足部にある3つの領域の面積の合計の50%以上を占めることが好ましい。
【0026】
第4領域Ar4に隣接する第5領域Ar5は、Y軸スケール上で85%~95よりも大きい範囲に設けられる。第5領域Ar5は、つま先側に向かうに連れて水平面HSから離れるよう水平面HSに対して傾斜しており、且つ比較的大きい曲率r5を有する。第5領域Ar5は、ソール14が水平面HSに接触することなく滑らかに水平面HSから離れられるよう促すことを想定して設けられた領域である。したがって、曲率r5は、他の領域Ar3及びAr4の曲率r3及びr4よりも大きい。曲率r3~r5の関係を総括すると、曲率r5>曲率r3>曲率r4となる。
【0027】
上述の説明において、或る領域の範囲の最大値と、隣接する領域の最小値が重複する箇所があるが、上記の範囲はあくまでも領域を設けてもよい範囲を示すものである。したがって実際にソールを設計する際には、或る領域の最大値と隣接する領域の最小値を同一の値とすべきではない。
【0028】
各領域Ar1~Ar5の境界は、例えばフィレット加工により丸み付けをされており、領域間でスムーズな移行をできるよう構成されているのがよい。
【0029】
図4はソールの底面図、及び側面図である。図3は中心線Sにおける各領域の関係を示しているのに対して、図4はソールの両端部における各領域の関係を示す。より具体的には図4は、ソールの底面図と、内足側から見たソールの側面図と、外足側から見たソールの側面図を示す。
【0030】
図4に示すように、第3領域Ar3を定めるX軸に沿った境界は平行でなく、内足側の端部が外足側の端部よりも短くなるよう境界が定められている。
【0031】
また第4領域Ar4を定めるX軸に沿った境界も平行でなく、内足側の端部が外足側の端部よりも短くなるよう境界が定められている。また第5領域Ar5を定めるX軸に沿った境界も平行ではなく、第5領域Ar5は内足側から見たときの方が、外足側から見たときよりもY軸に沿って長い。つまり各領域Ar3~Ar5は、中心線Sに対して非対称である、とも言える。また、各領域Ar3~Ar5の境界も同様に、中心線Sに対して非対称である、とも言える。また、ソール14の接地面全体を見たときに、曲率が変わる位置(フィレット加工された位置)も中心線Sに対して非対称である、とも言える。
【0032】
特に第3領域Ar3及び第4領域Ar4は、ローリング動作中に水平面上で転動する面である。したがって、上述したように第3領域Ar3及び第4領域Ar4の内足側のY軸に沿った長さを、外足側のY軸に沿った長さよりも短くすることで、ソール14上で圧力中心(以下、単に「COP」ということがある)がローリング時に前方且つ内足側に向かうよう促せる。これによりスムーズなローリング動作を促せる。
【0033】
また第4領域Ar4と第5領域Ar5の境界線は、蹴り出しの最終期に接地する領域である。したがって、第4領域Ar4と第5領域Ar5の境界線は、歩行等時のCOPの移行軌跡と略直交するよう配置されるのがよい。足圧中心は、通常の歩行時には、踵の幅方向中心付近から拇指に向けて延びる略直線を描くよう移動する。第4領域Ar4と第5領域Ar5の境界線を、この直線と直交するよう配置することで、蹴り出しの最終期にソール14の向きを、COPの移行軌跡と略直交するよう調整できる。また、第4領域Ar4と第5領域Ar5の境界線が接地するタイミングでは、他方の足が接地しており両足支持期の初期段階にある。両足支持期の初期段階では、重心移動が大きく重心が幅方向にぶれ易い傾向がある。第4領域Ar4と第5領域Ar5の境界線を傾斜させることで、ぶれを軽減できる。ソール14のつま先側の形状を加味すると、第5領域Ar5は扇形状を有する。
【0034】
次に実施形態の原理及び作用について説明する。
【0035】
ソール14は、人体の足関節の仕事量を考慮して着用者の運動性能を改善するものである。人体の足関節の仕事率は、足関節周りに発生する関節トルクと、足関節周りの下腿の角速度とを乗じた値により算出されることが知られている。仕事量は、仕事率の合計値である。仕事量が小さいことは人体の運動量が少ないことを意味し、したがって着用者は疲れずに長時間運動を行える。ソール14は、仕事量を少なくすることで着用者の運動量を少なくし、着用者が長時間運動できるよう運動性能を向上させる。
【0036】
図5は、人体の足関節を模式的に示したものである。図5において矢印GRF1及び矢印GRF2はCOPに作用する地面反力を示し、点AKは足関節を示す。図5(A)に示すように、地面反力GRF1が足関節AKの人体後方を通過する場合、足関節AKには足の甲と下腿正面との距離を縮める背屈モーメントが作用する。図5(B)に示すように地面反力GRF2が足関節AKの人体前方を通過する場合、足関節AKには踵と下腿背面との距離を縮める底屈モーメントが作用する。背屈モーメント及び底屈モーメントの大きさは、地面反力GRF1,GRF2の大きさと、関節からCOPまでの距離を乗じた値となる。
【0037】
図6は、人体の足関節を模式的に示したものである。足関節AKを中心に下腿が前方側(矢印ω1方向)に倒れ込むとき(背屈する方向)、足関節AK周りにおける関節角速度は、関節角度/時間により算出される。足関節AKを中心に下腿が後方側(矢印ω2方向)に倒れ込むとき(底屈する方向)も同様に関節角速度を算出できる。
【0038】
図7は、人が歩行等を行うときの仕事率(足関節パワー)と、関節トルクと、関節角速度との関係を示す。人が歩行等を行う一連の流れは主に4つの段階に分類できる。これらの一連の流れを右足に着目して説明する。
【0039】
第1段階は、右足の踵が着地した直後の段階である。この段階では、左足の先端付近と、右足の踵で身体を支持している。胴体は前後方向において左足と右足の間にある。
第2段階は、右足の中足部全体が接地する段階である。この段階では、左足が蹴り上げ動作に入っており、体重の大部分を右足で支持している。胴体は前後方向において左足と右足の間にある。
第3段階は、右足のローリングが開始し、かつ左足を蹴り出してから、左足が着地するまでの段階である。
第4段階は、第1段階とは反対に左足の踵が着地した直後の段階である。
詳細は後述するが、第3段階は、右足のみで身体を支持している初期と、右足のローリングが開始して左足が着地するまでの後期とに分けられる。
【0040】
右足に着目すると、第1段階では、COPが踵付近にあり、かつ右足の地面反力が大きく後方を向いているため、背屈する方向に足関節トルクが発生する。また第1段階では足関節を底屈させる方向に下腿と足の甲が運動するため、底屈する方向に関節角速度が作用する。足関節トルクと関節角速度が逆の方向を向いているため、足関節の仕事率は負の値となる。
【0041】
第2段階では、COPが踵よりも前方に移動したものの右足の地面反力が僅かに後方を向いているため、背屈する方向に足関節トルクが発生する。また第2段階では、足関節を背屈させる方向に下腿と足の甲が運動するため、背屈する方向に関節角速度が作用する。足関節トルクと関節角速度が同一の方向を向いているため、足関節の仕事率は正の値となる。
【0042】
第3段階では、COPが中足部にあり、かつ右足の地面反力が前方を向いているため、底屈する方向に足関節トルクが発生する。また第3段階では、足関節を背屈させる方向に下腿と足の甲が運動するため、背屈する方向に関節角速度が作用する。足関節トルクと関節角速度が逆の方向を向いているため、足関節の仕事率は負の値となる。
【0043】
第4段階では、COPが前足部にあり、かつ右足の地面反力が大きく前方を向いているため、底屈する方向に足関節トルクが発生する。また第4段階では、足関節を底屈させる方向に下腿と足の甲が運動するため、底屈する方向に関節角速度が作用する。足関節トルクと関節角速度が同一の方向を向いているため、足関節の仕事率は正の値となる。
【0044】
図8は、従来のシューズを着用した着用者が歩行したときの第1段階から第4段階における仕事率の変化のグラフを示す。着用者の疲労に直結する仕事量は、図7の曲線の積分値となる。図8から分かるように、第3段階において仕事率が長期間にわたり負の値を示している。第1段階及び第4段階では、着地及び蹴り出しの動作が入るため仕事率及び仕事量が大きくなるのは避けられない。一方で第3段階では、着地又は蹴り出しの動作が入らないにも関わらず仕事量が大きくなっている。つまり、第3段階においては歩行に重大な影響を及ぼさないにも関わらず大きな仕事量が必要とされている。発明者等はこの点に着目し、第3段階において仕事量を減らすことで着用者の疲労を減らせるソール14の開発に至った。
【0045】
図7に戻り第3段階の関節トルク及び関節角速度に着目すると、第3段階では関節トルクは底屈する方向に作用し、関節角速度が背屈する方向に作用している。関節トルクは地面反力と足関節からCOPまでの位置により決定されるところ、足関節からCOPまでの距離を小さくできれば、関節トルクを小さくできることが分かる。また関節角速度は、関節角度の時間当たりの変化量を示すため、関節角度の変化量を少なくすれば、関節角速度を少なくできることが分かる。
【0046】
ソール14(図3等参照)は、歩行の段階に応じて関節トルク及び関節角速度を小さくできる構造を有している。この点について具体的に説明する。
【0047】
図9は、実施形態におけるソールの概略図を示す。より具体的には図9は、各段階においてソールのどの領域が接地しているかを示し、ハッチングを付した領域が各段階において接地していることを示す。なお、各段階において接地している領域はあくまでも目安であり、他の領域までもが接地していることを排除するものではない。以下の説明では、右足の動作を中心に、右足の各動作タイミングで左足がどのような状態になっているのかを説明するが、左足の状態の説明はあくまでも身体全体の状態を分かり易くするための例示である。したがって、ソールの構造を解釈するに当たり左足の状態の説明は無視してもよい。また、以下では右足に着用したシューズのソールをソール14Rとし、左足に着用したシューズのソールを14Lとする。また、図9中の破線は各状態における大凡の身体の位置を示す。
【0048】
第1段階では、右足のソール14Rが踵着地し、左足のソール14Lのつま先が蹴り出し動作の直前にある。したがって右足のソール14Rの第1領域Ar1と、左足のソール14Lの第4領域Ar4が接地している。
【0049】
第2段階では、右足のソール14Rが全体的に接地し、左足のソール14Lは蹴り出し動作を行っている。この状態では、右足のソール14Rの比較的広く平坦な第2領域Ar2により身体を支持できる。また、左足のソール14Lの第5領域Ar5が接地しているか、蹴り出しを終えて既に地面から離れている。
【0050】
第3段階の初期では、右足のソール14Rの第2領域Ar2が接地しており、左足のソール14Lが非接地状態にある。第3段階の後期では、右足のソール14Rの第3領域Ar3が接地し、左足のソール14Lの第1領域Ar1が接地する直前か、接地した状態にある。第3段階の後期では、右足のソール14Rのローリングが開始する。第3領域Ar3は、第5領域Ar5よりも曲率が小さいため、比較的安定性が高い。また第3領域Ar3は、一定の曲率を有しているためローリングを促せる。つまり第3段階の後期では、安定性を確保しつつ、ローリングを促せる。
【0051】
第4段階では、第1段階とは逆に、左足のソール14Lが踵着地し、右足のソール14Rのつま先が地面から離れる直前にある。
【0052】
右足のソール14Rに着目すると、第2段階及び第3段階の初期においては、平坦な第2領域Ar2のみが接地している。したがって、この間、COPは第2領域Ar2内にある。これにより、COPが足関節付近にある時間を長くでき、第2段階から第3段階にかけて関節トルクを少なくできる。これにより、第2段階から第3段階の初期にかけての仕事率を小さくできる。
【0053】
また、第1段階において、曲率を有する第1領域Ar1で着地をすることにより、踵のローリングを促し、COPが滑らかに第2領域Ar2に向けて移動するよう促せる。これにより、COPが第2領域Ar2内にある時間を長くできる。ただし、第1領域Ar1の曲率を大きくしすぎると、第1領域Ar1通過時に関節角速度が大きくなり、第2領域Ar2通過時にも関節角速度が大きくなってしまうため、踵の高さH2(図3参照)は小さい方がよい。
【0054】
第3段階の後期においては、右足のソール14Rの第3領域Ar3が接地している。したがって右足のソール14Rがローリングを開始する。
【0055】
第4段階においては、右足のソール14Rの第4領域Ar4が接地している。第4領域Ar4は平らな面により形成されているため、曲率が大きい面で接地した場合と比較して足関節の角度変化を小さくし、関節角速度を少なくできる。これにより、第4段階での仕事率を小さくできる。
【0056】
以上のように実施形態によるソール14によれば、特にMP関節Jaの中足部よりの領域からつま先側にかけて、曲率が異なる複数の領域Ar3~Ar5を形成することで、関節トルク及び関節角速度を少なくできる。これにより歩行時の仕事量を少なくし、着用者が長時間運動できるよう、運動性能を向上させられる。
【0057】
本開示は上述の実施形態に限られるものではなく、以下のような変形例も包含するものである。
【0058】
図10は、変形例によるソールの断面図である。より具体的には図10は、第3領域Ar3の任意の位置でのXZ断面を示す。図10に示すように、ミッドソール16は、高剛性EVAフォームの二層構造により形成されてもよい。一例として、ミッドソール16の接足部(ミッドソールの上面付近)の第1層22を、高剛性及び高反発性を有するSpeva(株式会社アシックス社製)で形成し、その外周及び接足面を形成する第2層24を、高剛性及び高衝撃緩衝性を有するSolyte(株式会社アシックス社製)で形成してもよい。これにより、ミッドソール16の形状を維持しながら、反発性及び衝撃吸収性を高められる。
【0059】
図11は、更なる変形例によるソールの上面図である。図11に示すように、二層のフォームの間に加えて高剛性シート26を配置してもよい。高剛性シート26は、ミッドソール16の上面に配置してもよい。ミッドソール16が二層構造の場合、層の間に高剛性シート26を配置してもよい。これによりソールの形状をより維持し易くなる。
【0060】
図12は、更なる変形例によるソールの曲げ剛性を示す図である。図12には、曲げ剛性の値と、ソールにおけるY軸スケール上の位置を示している。つまりグラフ中の曲げ剛性の値は、グラフの下のY軸スケール上の位置における曲げ剛性を示す。第3領域Ar3のXY断面における断面形状、層構造、及び高剛性シートの断面形状を調整し、第3領域Ar3の断面二次モーメントが、第4領域Ar4、及び第5領域Ar5の断面二次モーメントより大きくなるようにしてもよい。つまり、第3領域Ar3の領域内にソール14の曲げ剛性ピークが来るよう、ソール14の断面形状を調整してもよい。これにより、ソール16の変形を少なくし、上述した運動性能を向上させる効果をより発揮し易くなる。
【符号の説明】
【0061】
10 :シューズ,12 :アッパー,14 :ソール,Ar1 :第1領域,Ar2 :第2領域,Ar3 :第3領域,Ar4 :第4領域,Ar5 :第5領域
図1
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図10
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図12