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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】抗菌・抗ウイルス性繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   D06M 13/46 20060101AFI20240918BHJP
   A01N 25/34 20060101ALI20240918BHJP
   A01N 33/12 20060101ALI20240918BHJP
   A01N 55/10 20060101ALI20240918BHJP
   A01N 61/00 20060101ALI20240918BHJP
   A01P 1/00 20060101ALI20240918BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20240918BHJP
   D06M 15/41 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
D06M13/46
A01N25/34 B
A01N33/12 101
A01N55/10 100
A01N61/00 D
A01P1/00
A01P3/00
D06M15/41
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020186724
(22)【出願日】2020-11-09
(65)【公開番号】P2022076352
(43)【公開日】2022-05-19
【審査請求日】2023-07-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000226161
【氏名又は名称】日華化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 健治
(74)【代理人】
【氏名又は名称】胡田 尚則
(74)【代理人】
【識別番号】100202441
【弁理士】
【氏名又は名称】岩田 純
(72)【発明者】
【氏名】柘植 好揮
(72)【発明者】
【氏名】定 圭一郎
【審査官】斎藤 克也
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/047642(WO,A1)
【文献】特開2013-076188(JP,A)
【文献】特開平07-216738(JP,A)
【文献】国際公開第2008/035734(WO,A1)
【文献】特公平07-116005(JP,B2)
【文献】特開2012-026054(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01N 25/00 - 65/48
D06M 10/00 - 16/00
D06M 19/00 - 23/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗菌・抗ウイルス性繊維の製造方法であって、
官能性繊維に抗菌・抗ウイルス性化合物を付与すること、
を含み、
前記官能性繊維が、-SO・M1で示される官能基、及び、-O-P(O)(OX1)(OX2)で示される官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有し、前記M1が一価のカチオンであり、前記X1及び前記X2が、それぞれ独立に、一価のカチオン又は炭素数1~22のアルキル基であり、
前記抗菌・抗ウイルス性化合物が、下記一般式(1)で示される化合物、及び、下記一般式(3)で示される化合物のうちの少なくとも一つの化合物である
方法。
【化1】
式(1)において、
は炭素数10~22のアルキル基であり、
はメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基であり、
はメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基であり、
は炭素数2~4のアルキレン基であり、
はメチル基又はエチル基であり、
はメチル基又はエチル基であり、
はメチル基又はエチル基であり、
はハロゲンである。
【化2】
式(3)において、
11 は炭素数1~4のアルキレン基であり、
12 はメチル基又はエチル基であり、
13 はメチル基又はエチル基であり、
14 は炭素数1~4のアルキレン基であり、
15 はメチル基又はエチル基であり、
16 はメチル基又はエチル基であり、
17 は炭素数1~4のアルキレン基であり、
はハロゲンであり、
jは任意の自然数である。
【請求項2】
前記官能性繊維が、繊維と前記繊維に付着した官能化合物とを有し、
前記官能化合物が、-SO・M1で示される官能基、及び、-O-P(O)(OX1)(OX2)で示される官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する、
請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記官能化合物が高分子化合物であり、
前記高分子化合物がフェニレン基を有し、
前記フェニレン基に-SO・M1で示される官能基が結合している、
請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記官能性繊維の表面のゼータ電位が-100mV以上-0.1mV以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記官能性繊維を構成する繊維が、ポリエステルを含む、
請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記抗菌・抗ウイルス性化合物が、前記一般式(3)で示される化合物である、
請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記官能性繊維100質量部に対して、前記抗菌・抗ウイルス性化合物を0.05質量部以上5質量部以下付着させる、
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は抗菌・抗ウイルス性繊維の製造方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2には、第4級アンモニウムカチオン基を有する抗菌防臭剤を繊維に付与した後、高温でキュアリングを行う方法が開示されている。特許文献3には、合成繊維に対して、第4級アンモニウム塩とメラミン樹脂とを含む処理剤を付与して抗菌防臭性繊維を製造する方法が開示されている。特許文献4には、硫酸塩界面活性剤の存在下において第4級アンモニウム塩によって合成繊維を処理することで、合成繊維に抗菌性を付与する方法が開示されている。特許文献5には、メトキシシラン系第4級アンモニウム塩を含む抗ウイルス剤と、アクリル酸/アクリル酸エステル共重合ポリマーと、低級アルコールと、水とを含む組成物によって布帛を処理することで、抗菌・抗ウイルス性布帛を製造する方法が開示されている。特許文献6には、少なくとも表面にカルボキシル基を有する樹脂成分を含む布帛に対して、エトキシシラン系第4級アンモニウム塩を含む抗菌剤を付与することで、当該布帛に抗菌性を付与する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平1-085367号公報
【文献】特開平4-034075号公報
【文献】特開平4-241171号公報
【文献】特開昭62-177284号公報
【文献】特開2019-077638号公報
【文献】国際公開第2013/047642号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術においては抗菌・抗ウイルス性繊維の洗濯耐久性(耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性)について改善の余地がある。特に耐久抗ウイルス性については十分な検討がなされていない。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、
抗菌・抗ウイルス性繊維の製造方法であって、
官能性繊維に抗菌・抗ウイルス性化合物を付与すること、
を含み、
前記官能性繊維が、-SO・M1で示される官能基、-COO・M2で示される官能基、及び、-O-P(O)(OX1)(OX2)で示される官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有し、前記M1が一価のカチオンであり、前記M2が一価のカチオンであり、前記X1及び前記X2が、それぞれ独立に、一価のカチオン又は炭素数1~22のアルキル基であり、
前記抗菌・抗ウイルス性化合物が第4級アンモニウムカチオン基を有する、
方法
を開示する。
【0006】
本開示の方法において、
前記官能性繊維が、繊維と前記繊維に付着した官能化合物とを有してもよく、
前記官能化合物が、-SO・M1で示される官能基、-COO・M2で示される官能基、及び、-O-P(O)(OX1)(OX2)で示される官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有してもよい。
【0007】
本開示の方法において、
前記官能化合物が高分子化合物であってもよく、
前記高分子化合物がフェニレン基を有してもよく、
前記フェニレン基に-SO・M1で示される官能基が結合していてもよい。
【0008】
本開示の方法において、
前記官能性繊維の表面のゼータ電位が-100mV以上-0.1mV以下であってもよい。
【0009】
本開示の方法において、
前記抗菌・抗ウイルス性化合物が、下記一般式(1)で示される化合物、下記一般式(2)で示される化合物及び下記一般式(3)で示される化合物のうちの少なくとも一つの化合物であってもよい。
【0010】
【化1】
式(1)において、
は炭素数10~22のアルキル基であり、
はメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基であり、
はメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基であり、
は炭素数2~4のアルキレン基であり、
はメチル基又はエチル基であり、
はメチル基又はエチル基であり、
はメチル基又はエチル基であり、
はハロゲンである。
【0011】
【化2】
式(2)において、
は炭素数10~20のアルキル基又はアリール基であり、
はメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又は(AO)Hで表される基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイドであり、pは1~10の整数であり、
10はメチル基、エチル基、ベンジル基又は炭素数2~4のヒドロキシアルキル基であり、
nは1又は2であり、
mは1又は2であり、
n+mは3であり、
lは1又は2であり、
はモノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、ハロゲン、メチル硫酸、エチル硫酸又は芳香族アニオンである。
【0012】
【化3】
式(3)において、
11は炭素数1~4のアルキレン基であり、
12はメチル基又はエチル基であり、
13はメチル基又はエチル基であり、
14は炭素数1~4のアルキレン基であり、
15はメチル基又はエチル基であり、
16はメチル基又はエチル基であり、
17は炭素数1~4のアルキレン基であり、
はハロゲンであり、
jは任意の自然数である。
【発明の効果】
【0013】
本開示の方法によって製造された繊維は、耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性に優れる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本開示の方法は、抗菌・抗ウイルス性繊維の製造方法であって、官能性繊維に抗菌・抗ウイルス性化合物を付与することを含む。本開示の方法においては、前記官能性繊維が、-SO・M1で示される官能基、-COO・M2で示される官能基、及び、-O-P(O)(OX1)(OX2)で示される官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する。ここで、前記M1が一価のカチオンであり、前記M2が一価のカチオンであり、前記X1及び前記X2が、それぞれ独立に、一価のカチオン又は炭素数1~22のアルキル基である。また、本開示の方法においては、前記抗菌・抗ウイルス性化合物が第4級アンモニウムカチオン基を有する。
【0015】
1.官能性繊維
官能性繊維は繊維と所定の官能基とを有する。
【0016】
1.1 繊維
官能性繊維を構成する繊維の種類は特に限定されるものではなく、天然繊維であってもよいし化学繊維であってもよい。繊維の具体例としては、綿、麻、絹、羊毛等の天然繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、ポリアミド(ナイロン等)、ポリエステル、ポリウレタン、ポリプロピレン等の合成繊維、及びこれらの複合繊維、混紡繊維が挙げられる。天然繊維、半合成繊維、合成繊維のいずれを採用した場合でも所望の効果が発揮されるが、特に、ポリアミド及びポリエステルのうちの少なくとも一つを含む繊維を採用した場合、従来技術と比較して一層高い性能向上効果が期待できる。ポリアミドとしてはナイロン6、ナイロン6,6等が挙げられる。ポリエステルとしてはポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリ乳酸等が挙げられる。繊維は、糸、編物(交編を含む)、織物(交織を含む)、不織布、紙、木材などの形態を採るものであってもよい。繊維は染色されたものであってもよい。
【0017】
1.2 官能基
官能性繊維は、-SO・M1で示される官能基、-COO・M2で示される官能基、及び、-O-P(O)(OX1)(OX2)で示される官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する。ここで、M1が一価のカチオンであり、M2が一価のカチオンであり、X1及びX2が、それぞれ独立に、一価のカチオン又は炭素数1~22のアルキル基である。M1は、H、K、Na又は置換基を有していてもよいアンモニウムイオンであってもよい。M2は、H、K、Na又は置換基を有していてもよいアンモニウムイオンであってもよい。X1及びX2は、それぞれ独立に、H、K、Na又は置換基を有していてもよいアンモニウムイオンであってもよい。また、X1又はX2がアルキル基である場合、当該アルキル基の炭素数は1以上又は4以上であってもよく、22以下又は12以下であってもよい。
【0018】
官能性繊維においては、上記の官能基が繊維に対して直接導入されて化学的に結合していてもよい。或いは、官能性繊維においては、上記の官能基が繊維に対して化学的に結合していなくてもよく、例えば、繊維に対して上記の官能基を有する化合物(官能化合物)を付着させることで、官能性繊維を得てもよい。この場合、繊維と官能化合物とは、化学的に結合していてもよいし、化学的に結合していなくてもよい。
【0019】
1.3 官能化合物
本開示の方法においては、官能性繊維が、繊維と当該繊維に付着した官能化合物とを有してもよく、官能化合物が、-SO・M1で示される官能基、-COO・M2で示される官能基、及び、-O-P(O)(OX1)(OX2)で示される官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有してもよい。官能化合物は上記の官能基を有し、且つ、繊維に付着して固定化され得るものであればよく、その具体的な化学構造は特に限定されるものではない。官能化合物は、上記の官能基を有する脂肪族化合物であってもよいし、上記の官能基を有する芳香族化合物であってもよい。
【0020】
-SO・M1で示される官能基を有する化合物としては、例えば、当該官能基を有するフェノール系高分子が挙げられる。すなわち、官能化合物は高分子化合物であってもよく、当該高分子化合物がフェニレン基を有してもよく、当該フェニレン基に-SO・M1で示される官能基が結合していてもよい。このような化合物としては、例えば、下記一般式(4)で表される化合物が挙げられる。
【0021】
【化4】
式(4)において、
複数のX3のうち、一部又は全部が-SOM3で示される官能基又は下記式(5)で示される官能基であってよく、一部がH又は下記式(6)で示される官能基であってよく、
M3は1価のカチオンであってよく、当該1価のカチオンはH、K、Na又は置換基を有していてもよいアンモニウムイオンであってよく、
kは5~3000の整数であってよい。
式(4)で示される化合物の分子量は特に限定されるものではないが、例えば、重量平均分子量が500以上又は1,000以上であってもよく、500,000以下又は200,000以下であってもよい。
【0022】
【化5】
【0023】
【化6】
【0024】
式(5)において、M4は1価のカチオンであってよく、当該1価のカチオンはH、K、Na又は置換基を有していてもよいアンモニウムイオンであってよい。
【0025】
上記式(4)で示されるフェノール系高分子において、複数のX3のうち、-SOM3及び-SOM4のうちの少なくとも一方の官能基を有するX3の個数割合は、例えば、5%以上又は10%以上であってよく、90%以下又は70%以下であってよい。言い換えれば、上記式(4)で示されるフェノール系高分子においては、例えば、複数のX3のうち、5%以上又は10%以上、90%以下又は70%以下が、-SOM3で示される官能基、及び/又は、上記式(5)で示される官能基であってよい。上記式(4)で示されるフェノール系高分子の具体例としては、フェノールスルホン酸のホルマリン縮合物、スルホン化ビスフェノールSのホルマリン縮合物等が挙げられる。
【0026】
-COO・M2で示される官能基を有する化合物としては、例えば、ポリカルボン酸系ポリマーが挙げられる。ポリカルボン酸系ポリマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等をモノマーとして用いて、当該モノマーを公知の方法で重合させたポリマーが挙げられる。ポリカルボン酸系ポリマーは、カルボン酸に由来する単位に加えて、他のモノマーに由来する単位を含んでいてもよい。或いは、-COO・M2で示される官能基を有するポリウレタン等が用いられてもよい。-COO・M2で示される官能基を有するポリマーの重量平均分子量は、特に限定されるものではないが、例えば、1,000以上又は3,000以上であってよく、20,000以下又は15,000以下であってもよい。-COO・M2で示される官能基を有するポリカルボン酸系ポリマーの具体例としては、ポリアクリル酸ナトリウムが挙げられる。ポリカルボン酸系ポリマーとして、例えば、日華化学株式会社製「ネオクリスタル770」、三洋化成工業株式会社製「セロポールPC-300」等の市販品が用いられてもよい。
【0027】
このような-SO・M1で示される官能基、-COO・M2で示される官能基、及び、-O-P(O)(OX1)(OX2)で示される官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する高分子化合物は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)[東ソー(株)製、機種名「HLC-8220GPC」]を用い、溶離液を硝酸ナトリウム緩衝液(pH9.0)として、ポリオキシエチレングリコールに換算して重量平均分子量を測定することができる。
【0028】
-O-P(O)(OX1)(OX2)で示される官能基を有する化合物としては、例えば、X4-O-P(O)(OX1)(OX2)で表されるアルキルリン酸エステルが挙げられる。X4はアルキル基であり、当該アルキル基の炭素数は、例えば、1以上又は4以上であってもよく、22以下又は12以下であってもよい。アルキルリン酸エステルはモノエステルであってもジエステルであってもトリエステルであってもよく、これらの混合物であってもよい。アルキルリン酸エステルの具体例としては、ラウリルリン酸エステルやデシルリン酸エステルが挙げられる。リン酸エステル化合物として、例えば、東邦化学工業社製「フォスファノールML-200」等の市販品が用いられてもよい。尚、-O-P(O)(OX1)(OX2)で示される官能基を有する化合物を採用した場合、硬水での不溶化抑制(浴安定性向上)や低起泡性という効果も期待できる。
【0029】
或いは、官能化合物は、上記の官能基のうちの少なくとも一つを有するその他の高分子化合物であってもよい。例えば、上記官能基のうちの少なくとも一つを有するポリエステル、上記官能基のうちの少なくとも一つを有するポリウレタン、上記官能基のうちの少なくとも一つを有するポリアミド、上記官能基のうちの少なくとも一つを有するポリオレフィン、上記官能基のうち少なくとも1つを有するポリアクリル等が挙げられる。
【0030】
官能性繊維において、繊維と繊維に付着した官能化合物との割合は特に限定されるものではない。例えば、繊維100質量部に対して、官能化合物が1.0質量部以上付着していてもよく、7.0質量部以下付着していてもよい。1.5質量部以上、6.0質量部以下がさらに好ましい。
【0031】
1.4 官能性繊維の製造方法
上述したように、官能性繊維は、繊維に所定の官能基を直接導入することによって製造されてもよい。所定の官能基が直接導入された繊維の一例としては、カチオン可染ポリエステル(CD-PET)が挙げられる。
【0032】
上述したように、官能性繊維は、繊維に官能化合物を付着させることによって製造されてもよい。例えば、本開示の方法は、官能化合物を含む処理液に繊維を接触させて官能性繊維を得ること、を含んでいてもよい。処理液による処理を行うタイミングは、繊維に対して抗菌・抗ウイルス性化合物を付与する前であればよい。繊維を染色する場合、処理液による処理は、染色前に行ってもよいし、染色と同浴で行ってもよいし、染色後に行ってもよい。
【0033】
処理液は、例えば、官能化合物の水溶液であってもよい。また、処理液は、酸成分、アルカリ成分、界面活性剤、キレート剤等のその他の成分を含んでいてもよい。また、処理液は、塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、硫酸アンモニウム、硫酸ナトリウム等の塩を含んでいてもよい。処理液が塩を含む場合、塩析効果によって官能化合物が繊維に吸着し易くなる。処理液のpHは、特に限定されないが、例えば、3以上5以下の酸性であってもよい。処理液のpHは、酢酸、リンゴ酸等のpH調整剤によって調整され得る。
【0034】
処理液で繊維を処理する方法の具体例としては、パディング処理、浸漬処理、スプレー処理、コーティング処理等が挙げられる。このときの処理液の濃度や付与後の熱処理等の処理条件は、その目的や性能等の諸条件を考慮して、適宜調整すればよい。処理液で繊維を処理した後は、余分な官能化合物を除去するために、水洗等の洗浄処理を行ってもよい。また、処理液が水を含有する場合は、繊維に処理液を付着させた後に水を除去するために、乾燥処理を行ってもよい。乾燥方法としては、特に制限はなく、乾熱法、湿熱法のいずれであってもよい。乾燥温度や乾燥時間も特に制限されず、例えば、室温~200℃で10秒~数日間乾燥させればよい。40~130℃で20秒~10分がさらに好ましい。必要に応じて、乾燥後に100~190℃の温度で10秒~5分間程度加熱処理してもよい。130~190℃で30秒~5分がさらに好ましい。
【0035】
1.5 官能性繊維のその他の性状
本開示の方法において、官能性繊維は、その表面のゼータ電位が-100mV以上-0.1mV以下であってもよい。これにより、抗菌・抗ウイルス性繊維の抗菌・抗ウイルス性等が向上する。ゼータ電位は-80mV以上又は-60mV以上であってもよく、-1mV以下又は-10mV以下であってもよい。官能性繊維の表面のゼータ電位は、例えば、ゼータ電位・粒径測定システムELSZ-1000ZS(大塚電子株式会社製)によって測定することができる。
【0036】
本開示の方法において、官能性繊維は、上記の繊維及び官能基(官能化合物)以外の成分や官能基を有していてもよいし、有していなくてもよい。
【0037】
2.抗菌・抗ウイルス性化合物
本開示の方法においては、上記の官能性繊維に抗菌・抗ウイルス性化合物が付与される。抗菌・抗ウイルス性化合物は第4級アンモニウムカチオン基を有する。
【0038】
2.1 第4級アンモニウムカチオン基
第4級アンモニウムカチオン基を有する化合物は繊維において抗菌及び抗ウイルス性を発現し得る。抗菌及び抗ウイルス性を有する第4級アンモニウムカチオン基としては、シラン系のアンモニウムカチオン基や、ポリオキシアルキレンアルキルアンモニウムカチオン基や、アルキルアンモニウムカチオン基等が挙げられる。抗菌・抗ウイルス性化合物は、第4級アンモニウムカチオン基を少なくとも一つ有していればよく、低分子化合物であってもよいし、高分子化合物であってもよい。第4級アンモニウムカチオン基を有する化合物の具体例については後述する。
【0039】
2.2 アニオン基
第4級アンモニウムカチオン基の対イオンであるアニオンの種類は特に限定されるものではない。例えば、モノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、塩素や臭素等のハロゲン、メチル硫酸、エチル硫酸又は芳香族アニオンであってよい。モノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸のアルキル基としては炭素数1~12のアルキル基を挙げることができる。その中でも炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数2~4のアルキル基がより好ましい。芳香族アニオンとしては、例えば、パラトルエンスルホン酸、キシレンスルホン酸、安息香酸又はアルキルベンゼンスルホン酸等が挙げられる。
【0040】
2.3 具体例
抗菌・抗ウイルス性化合物は、下記一般式(1)で示される化合物、下記一般式(2)で示される化合物及び下記一般式(3)で示される化合物のうちの少なくとも一つの化合物であってよい。
【0041】
【化7】
【0042】
【化8】
【0043】
【化9】
【0044】
2.3.1 式(1)
式(1)において、Rは炭素数10~22のアルキル基であり、Rはメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基であり、Rはメチル基、エチル基、プロピル基又はブチル基であり、Rは炭素数2~4のアルキレン基であり、Rはメチル基又はエチル基であり、Rはメチル基又はエチル基であり、Rはメチル基又はエチル基であり、Zはハロゲンである。
【0045】
の具体例としては、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基、ノナデシル基、エイコシル基、ウンエイコシル基、ドエイコシル基、トリエイコシル基、テトラエイコシル基等が挙げられる。RとRとは、互いに同じ基であってもよい。また、R~Rは、互いに同じ基であってもよい。Zは塩素であっても、臭素であっても、これ以外のハロゲンであってもよいが、特に塩素である場合に高い性能が期待できる。式(2)におけるハロゲン、式(3)におけるハロゲンについても同様である。
【0046】
式(1)で表されるシラン系第4級アンモニウム塩のうち、メトキシシラン系第4級アンモニウム塩の具体例としては、オクタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ドデシルジイソプロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジエチル(3-トリメトキシシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、テトラデシルジ-n-プロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジエチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ペンタデシルジ-n-プロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジエチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、ヘキサデシルジ-n-プロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジエチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド、オクタデシルジ-n-プロピル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライド等が挙げられる。中でも、テトラデシルジメチル(3-トリメトキシシリルプロピル)アンモニウムクロライドは、抗菌・抗ウイルス性の観点から好ましい。
【0047】
式(1)で表されるシラン系第4級アンモニウム塩のうち、エトキシシラン系第4級アンモニウム塩の具体例としては、上記メトキシシラン系第4級アンモニウム塩として例示したものにおいて、トリメトキシシリル基をトリエトキシシリル基に置換したものが挙げられる。
【0048】
2.3.2 式(2)
式(2)において、Rは炭素数10~20のアルキル基又はアリール基であり、Rはメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基又は(AO)Hで表される基であり、AOは炭素数2~4のアルキレンオキサイドであり、pは1~10の整数であり、R10はメチル基、エチル基、ベンジル基又は炭素数2~4のヒドロキシアルキル基であり、nは1又は2であり、mは1又は2であり、n+mは3であり、lは1又は2であり、Zはモノアルキルリン酸、ジアルキルリン酸、ハロゲン、メチル硫酸、エチル硫酸又は芳香族アニオンである。
【0049】
式(2)において、Rの炭素数が小さ過ぎても、大き過ぎても、繊維の抗菌・抗ウイルス性が低下し易い。Rの炭素数は10以上又は12以上であってもよく、20以下又は18以下であってもよい。
【0050】
式(2)において、Rがメチル基である場合、抗菌・抗ウイルス性に一層優れた抗菌・抗ウイルス性繊維が得られる。
【0051】
式(2)において、R10が炭素数2~4のヒドロキシアルキル基、特にヒドロキシエチル基である場合、抗菌・抗ウイルス性に一層優れた抗菌・抗ウイルス性繊維が得られる。
【0052】
式(2)において、Zがモノアルキルリン酸又はジアルキルリン酸である場合、抗菌・抗ウイルス性に一層優れた抗菌・抗ウイルス性繊維が得られる。
【0053】
式(2)で表される化合物の具体例としては、ドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩、テトラデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩、ドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-エチルリン酸エステル塩、テトラデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-エチルリン酸エステル塩等が挙げられる。中でも、ドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩を採用した場合、繊維の抗菌・抗ウイルス性及び防錆性が一層向上する。
【0054】
2.3.3 式(3)
抗菌・抗ウイルス性化合物は、第4級アンモニウムカチオンを複数有する高分子化合物であってもよい。例えば、抗菌・抗ウイルス性化合物として上記式(3)で示されるような高分子化合物が採用され得る。
【0055】
式(3)において、R11は炭素数1~4のアルキレン基であってよく、R12はメチル基又はエチル基であってよく、R13はメチル基又はエチル基であってよく、R14は炭素数1~4のアルキレン基であってよく、R15はメチル基又はエチル基であってよく、R16はメチル基又はエチル基であってよく、R17は炭素数1~4のアルキレン基であってよく、Zはハロゲンであってよく、jは任意の自然数であってよい。式(3)で示される高分子化合物の重量平均分子量は、例えば、2,000以上又は6,000以上であってよく、200,000以下又は80,000以下であってよい。
【0056】
このような式(3)で示される化合物は、ゲル・パーミエーション・クロマトグラフィ(GPC)[東ソー(株)製、機種名「HLC-8220GPC」]を用い、溶離液をリン酸トリエタノールアミン緩衝液(pH2.9)として、ポリオキシエチレングリコールに換算して重量平均分子量を測定することができる。
【0057】
3.官能性繊維に対する抗菌・抗ウイルス性化合物の付与方法
官能性繊維に上記の抗菌・抗ウイルス性化合物を付与する方法としては、特に限定されるものではない。例えば、官能性繊維に上記の抗菌・抗ウイルス性化合物を付着させてもよい。本開示の方法は、抗菌・抗ウイルス性化合物を含む処理液(溶液であってもよいし、分散液であってもよい)に官能性繊維を接触させることで、官能性繊維に当該抗菌・抗ウイルス性化合物を付与してもよい。処理液による処理を行うタイミングは特に限定されるものではない。
【0058】
処理液は、例えば、抗菌・抗ウイルス性化合物を含む溶液であってもよい。溶液を構成する溶媒は、水であっても非水溶媒であってもよく、抗菌・抗ウイルス性化合物の種類に応じて適宜選択されればよい。また、処理液は、酸成分、アルカリ成分、界面活性剤、キレート剤、防腐剤等のその他の成分を含んでいてもよい。処理液のpHは、特に限定されないが、例えば、2以上7以下であってもよい。
【0059】
処理液で官能性繊維を処理する方法の具体例としては、パディング処理、浸漬処理、スプレー処理、コーティング処理等が挙げられる。このときの処理液の濃度や付与後の熱処理等の処理条件は、その目的や性能等の諸条件を考慮して、適宜調整すればよい。処理液で官能性繊維を処理した後は、余分な抗菌・抗ウイルス性化合物を除去するために、水洗等の洗浄処理を行ってもよい。また、処理液が水を含有する場合は、官能性繊維に処理液を付着させた後に水を除去するために、乾燥処理を行ってもよい。乾燥方法としては、特に制限はなく、乾熱法、湿熱法のいずれであってもよい。乾燥温度や乾燥時間も特に制限されず、例えば、室温~200℃で10秒~数日間乾燥させればよい。40~130℃で20秒~10分がさらに好ましい。必要に応じて、乾燥後に100~190℃の温度で10秒~5分間程度加熱処理してもよい。130~190℃で30秒~5分がさらに好ましい。
【0060】
抗菌・抗ウイルス性繊維において、官能性繊維と官能性繊維に付着した抗菌・抗ウイルス化合物との割合は特に限定されるものではない。例えば、官能性繊維100質量部に対して、抗菌・抗ウイルス性化合物が0.05質量部以上付着していてもよく、5質量部以下付着していてもよい。0.2質量部~3質量部がさらに好ましい。
【0061】
4.効果
以上の通り、本開示の方法においては、所定の官能基を含む官能性繊維に対して、所定の抗菌・抗ウイルス性化合物を付与する。本開示の方法においては、官能性繊維が所定の官能基を有することで、抗菌・抗ウイルス性化合物が官能性繊維に定着され易くなる。その結果、洗濯等を行った場合でも抗菌・抗ウイルス性化合物が繊維から脱落し難く、耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性に優れる繊維が得られる。
【0062】
5.補足
本発明者が見出したところによると、以下の方法によれば、耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性に一層優れる繊維を製造し易くなる。
【0063】
すなわち、本開示の方法は、
抗菌・抗ウイルス性繊維の製造方法であって、
官能性繊維に抗菌・抗ウイルス性化合物を付与すること、
を含み、
前記官能性繊維が、-SO・M1で示される官能基、及び、-O-P(O)(OX1)(OX2)で示される官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有し、前記M1が一価のカチオンであり、前記X1及び前記X2が、それぞれ独立に、一価のカチオン又は炭素数1~22のアルキル基であり、
前記抗菌・抗ウイルス性化合物が第4級アンモニウムカチオン基を有する、
方法
であってもよい。
【0064】
また、本開示の方法は、
抗菌・抗ウイルス性繊維の製造方法であって、
官能性繊維に抗菌・抗ウイルス性化合物を付与すること、
を含み、
前記官能性繊維が、-SO・M1で示される官能基を有し、前記M1が一価のカチオンであり、
前記抗菌・抗ウイルス性化合物が第4級アンモニウムカチオン基を有する、
方法
であってもよい。
【0065】
また、本開示の方法は、
抗菌・抗ウイルス性繊維の製造方法であって、
官能性繊維に抗菌・抗ウイルス性化合物を付与すること、
を含み、
前記官能性繊維が、-SO・M1で示される官能基、-COO・M2で示される官能基、及び、-O-P(O)(OX1)(OX2)で示される官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有し、前記M1が一価のカチオンであり、前記M2が一価のカチオンであり、前記X1及び前記X2が、それぞれ独立に、一価のカチオン又は炭素数1~22のアルキル基であり、
前記抗菌・抗ウイルス性化合物が第4級アンモニウムカチオン基を有し、且つ、トリアルコキシシリル基を有しない、
方法
であってもよい。
【実施例
【0066】
以下、実施例を示しつつ本開示の技術による効果等について、より詳細に説明するが、本開示の技術は以下の実施例に限定されるものではない。
【0067】
1.官能性繊維の作製
参考例1~9、実施例10~12、参考例13に関して、以下の手順で、繊維に対して所定の官能基を有する化合物を付着させる前処理を施すことで、官能性繊維を作製した。参考例1~9、実施例10~12に関しては、繊維としてポリエステルニット(目付120g/m、株式会社色染社製)を用いた。また、参考例13に関しては、繊維としてナイロンを用いた。また、参考例14に関しては、以下の前処理を施すことなく、官能性繊維としてカチオン可染ポリエステル(CDポリエステルニット加工糸(目付140g/m、株式会社色染社製)を用いた。
【0068】
1.1 前処理剤の準備
下記の前処理剤1~6を準備した。
【0069】
前処理剤1:反応容器に、フェノール70質量部、リン酸1.5質量部、及びホルムアルデヒド20質量部を入れ、95~100℃で3時間反応し、次いで無水酢酸45質量部を30分かけて滴下した後に70℃まで冷却した。次に、90%硫酸25質量部を30分かけて滴下し、100℃で1時間反応した。反応後、水138.5質量部を加えて、フェノールスルホン酸のホルマリン縮合物の含有量が38質量%である前処理剤1(フェノールスルホン酸のホルマリン縮合物を含む水溶液)を得た。
【0070】
前処理剤2:反応容器に、ビスフェノールS 100質量部、及び無水酢酸45質量部を入れ、80℃に昇温した。次に、90%硫酸14.5質量部を30分かけて滴下した後、120℃で6時間反応した。次に、50℃まで冷却した後に、ホルムアルデヒド10.5質量部を添加し、100℃で6時間反応した。その後、70℃まで冷却し、水147質量部を加えて、スルホン化ビスフェノールSのホルマリン縮合物の含有量が40質量%である前処理剤2(スルホン化ビスフェノールSのホルマリン縮合物を含む水溶液)を得た。
【0071】
前処理剤3:分子量7,000のポリアクリル酸ナトリウムを含む水溶液(日華化学株式会社製、商品名「ネオクリスタル770」、含有量43質量%)を準備した。
【0072】
前処理剤4:ラウリルリン酸エステル(モノエステル及びジエステルの混合物)(東邦化学工業株式会社製、商品名「フォスファノールML-200」、含有量100%)を準備した。
【0073】
前処理剤5:反応容器に、分子量3,000のポリエチレングリコール200質量部、及びビス(2-ヒドロキシプロピル)テレフタレート40質量部、ビス(2-ヒドロキシエチル)テレフタレート40質量部、5-スルホイソフタル酸ジメチルエステルナトリウム10質量部、酢酸亜鉛0.05質量部、三酸化アンチモン0.05質量部を入れ、減圧下(10mmHg)にて200℃で2時間反応した。150℃まで冷却後モノエチレングリコール150質量部を加え、さらに90℃まで冷却し、熱水2559.9質量部を加えて、スルホニル基を有するポリエステル樹脂の含有量が10質量%である前処理剤5を得た。
【0074】
前処理剤6:反応容器に、ポリ(1,6-ヘキサンジオール)カーボネートを300質量部、ジメチロールブタン酸15質量部、メチルエチルケトン100質量部、ヘキサメチレンジイソシアネート50質量部、ジブチルスズジラウレート0.1質量部、トリエチレンジアミン0.1質量部、を入れ、80℃で3時間反応する。50℃に冷却後、メチルエチルケトン120質量部、トリエチルアミン10質量部を加える。水630質量部、エレミノールMON-7(アニオン界面活性剤:ライオン製)10質量部を加え、乳化分散を行う。40℃で1時間反応後、減圧下で脱メチルエチルケトンを行い、カルボン酸基を有するポリウレタンの含有量が37.5質量%である前処理剤6を得た。
【0075】
1.2 前処理の実施
参考例1~9、実施例10~12、参考例13に関して、染色を行った繊維を、前処理剤を含む処理浴(繊維への付着量が処理剤換算で1、2又は5%o.w.f.)に浸漬し、浴比1:10、80℃で20分間の条件で処理した。処理後、130℃で2分間乾燥し、官能性繊維を得た。
【0076】
1.3 ゼータ電位の測定
ゼータ電位・粒径測定システムELSZ-1000ZS(大塚電子株式会社製)によって官能性繊維の表面のゼータ電位を測定した。尚、前処理前のポリエステルのゼータ電位は0.5mVであった。
【0077】
2.抗菌・抗ウイルス性化合物の付与
本実施例で用いた抗菌・抗ウイルス性化合物は以下の通りである。
【0078】
化合物A:下記一般式(2)において、Rが炭素数12のアルキル基であり、Rがメチル基であり、R10がヒドロキシエチル基であり、nが1であり、mが2であり、lが1であり、Zがジブチルリン酸である化合物A1と、下記一般式(2)において、Rが炭素数12のアルキル基であり、Rがメチル基であり、R10がヒドロキシエチル基であり、nが1であり、mが2であり、lが2であり、Zがブチルリン酸である化合物A2との混合物(化合物A1と化合物A2とのモル比は1:1)。
【0079】
化合物B:下記一般式(2)において、Rが炭素数16のアルキル基であり、Rがメチル基であり、R10がメチル基であり、nが1であり、mが2であり、lが1であり、Zがメチル硫酸である化合物。
【0080】
化合物C:下記一般式(3)において、R11がエチレン基であり、R12がメチル基であり、R13がメチル基であり、R14がプロピレン基であり、R15がメチル基であり、R16がメチル基であり、R17がエチレン基であり、Zが塩素であり、重量平均分子量が30,000である高分子化合物。
【0081】
化合物D:下記一般式(1)において、Rが炭素数14のアルキル基であり、Rがメチル基であり、Rがメチル基であり、Rがプロピレン基であり、Rがメチル基であり、Rがメチル基であり、Rがメチル基であり、Zが塩素である化合物。
【0082】
化合物E:下記一般式(1)において、Rが炭素数18のアルキル基であり、Rがメチル基であり、Rがメチル基であり、Rがプロピレン基であり、Rがメチル基であり、Rがメチル基であり、Rがメチル基であり、Zが塩素である化合物。
【0083】
【化10】
【0084】
【化11】
【0085】
【化12】
【0086】
化合物A~Eの合成条件は以下の通りとした。尚、以下の合成条件から明らかなように、化合物A~Cについては、当該化合物を15重量%含む溶液として使用し、化合物D及びEについては、当該化合物を40重量%含む溶液として使用した。
【0087】
2.1 化合物Aの合成条件
n-ブタノール3モルと無水リン酸1モルとから調整したモノ体/ジ体の混合比が約1/1のアルキルリン酸エステル143質量部と水500質量部を反応容器に仕込み、ドデシルジメチルアミン260質量部を加えて中和した。この中和物のなかにエチレンオキサイド100質量部を仕込み、100℃で3時間反応させ、ドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩を50.0質量%含む組成物1000質量部を得た。これをドデシルジメチルヒドロキシエチルアンモニウム-ブチルリン酸エステル塩が15重量%となるように調整した。
【0088】
2.2 化合物Bの合成条件
反応容器にヘキサデシルジメチルアミン216質量部を仕込んだ。反応容器を50℃に冷却しながら、ジメチル硫酸100質量部を滴下しながら徐々に添加した。滴下終了後に1時間50℃にて反応させた後、水684質量部を加えて、ヘキサデシルトリメチルアンモニウム-メチル硫酸塩を31.6質量%含む組成物1000質量部を得た。これをヘキサデシルトリメチルアンモニウム-メチル硫酸塩が15重量%となるように調整した。
【0089】
2.3 化合物Cの合成条件
反応容器にテトラメチル―1,3―ジアミノプロパン280質量部と水410質量部、ジクロロエチルエーテル310質量部を入れ、90℃で20時間反応させた。60℃に冷却後、水3343質量部を加え、高分子化合物を15重量%含む組成物を得た。
【0090】
2.4 化合物Dの合成条件
反応容器にトリメトキシシリルプロピルクロライド199質量部、ジメチルテトラデシルアミン240質量部、トリエチレングリコールモノメチルエーテル539質量部を入れ、窒素雰囲気下、150℃で20時間反応させ、テトラデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]ジメチルアンモニウムクロライドが40重量%の溶液1100質量部を得た。
【0091】
2.5 化合物Eの合成条件
反応容器にトリメトキシシリルプロピルクロライド199質量部、ジメチルオクタデシルアミン298質量部、エタノール744質量部を入れ、窒素雰囲気下、150℃で20時間反応させ、オクタデシル[3-(トリメトキシシリル)プロピル]ジメチルアンモニウムクロライドが40重量%の溶液1204質量部を得た。
【0092】
3.官能性繊維に対する抗菌・抗ウイルス性化合物の付与
3.1 参考例1~9、実施例10~12、参考例13~14
参考例1~9、実施例10~12、参考例13~14に関して、上記のようにして得られた官能性繊維に対して、以下の手順で抗菌・抗ウイルス性化合物を付与した。
【0093】
まず、上記の抗菌・抗ウイルス性化合物の溶液が30g/L(処理液1Lあたり、抗菌・抗ウイルス性化合物の溶液が30g含まれる)となるように処理液を調整し、処理浴を準備した。上記のようにして得られた官能性繊維を処理浴に浸漬させ、絞り率110%にて処理し、次いで、130℃で2分間熱処理することで、抗菌・抗ウイルス性繊維を得た。
【0094】
3.2 比較例1
官能性繊維に替えて前処理が施されていないポリエステル(PET)を用いたこと以外は参考例1と同様にして処理を行い、繊維に対して抗菌・抗ウイルス性化合物を付与した。
【0095】
3.3 比較例2
特許文献3(特開平4-241171号公報)に記載された方法にしたがって、抗菌性繊維を得た。具体的には、化合物Aの溶液が30g/L、ユニカレジン380-K(メラミン樹脂:ユニオン化学製)1.5g/L、ユニカカタリストP-3(触媒:ユニオン化学製)0.5g/Lとなるように処理液を調整し、処理浴を準備した。前処理が施されていないポリエステル(PET)を処理浴に浸漬させ、絞り率110%にて処理し、次いで、130℃で2分間熱処理することで、抗菌・抗ウイルス性繊維を得た。
【0096】
3.4 比較例3
特許文献4(特開昭62-177284号公報)に記載された方法にしたがって、抗菌性繊維を得た。具体的には、化合物Eの溶液が30g/L、ラウリルアルコールエチレンオキサイド3モル付加物の硫酸エステルNa塩5g/Lとなるように処理液を調整し、処理浴を準備した。前処理が施されていないポリエステル(PET)を処理浴に浸漬させ、絞り率110%にて処理し、次いで、130℃で2分間熱処理することで、抗菌・抗ウイルス性繊維を得た。
【0097】
3.5 比較例4
特許文献6(特開2019-077638号公報)に記載された方法にしたがって、抗菌性繊維を得た。具体的には、化合物Eの溶液が30g/L、アクリル酸/アクリル酸エステル共重合物30g/Lとなるように処理液を調整し、処理浴を準備した。前処理が施されていないポリエステル(PET)を処理浴に浸漬させ、絞り率110%にて処理し、次いで、130℃で2分間熱処理することで、抗菌・抗ウイルス性繊維を得た。尚、アクリル酸/アクリル酸エステル共重合物は、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸をモル比率でそれぞれ42%、17%、41%となるように共重合させたアクリル酸エステル共重合物の水分散物であり、固形分が30%である。
【0098】
3.6 比較例5
抗菌・抗ウイルス性化合物を付与せずに官能性繊維そのものの抗菌・抗ウイルス性を評価した。
【0099】
4.洗濯
JIS L1930(2014) C4G法に準じて、抗菌・抗ウイルス性繊維を洗濯した。洗剤はJAFET標準配合洗剤(繊維評価技術評議会製)を使用し、洗濯液の洗剤濃度を1.33g/Lとして使用した。前記条件により、繰り返し洗濯を10回行った。
【0100】
5.耐久抗菌性の評価
JIS L1902(2015)定量試験(8.2菌液吸収法)により抗菌活性値を測定し、洗濯前後における抗菌・抗ウイルス性繊維の抗菌性能を評価した。使用菌として黄色ぶどう球菌Staphylococcus aureus NBRC12732および、肺炎桿菌Klebsiella pneumoniae NBRC13277を用いた。結果を下記表1、2に示す。表1、2に示される活性値が高いもの程、抗菌性に優れる。
【0101】
6.耐久抗ウイルス性の評価
JIS L1922(2016)により抗ウイルス活性値を測定し、抗菌・抗ウイルス繊維の抗ウイルス性能を評価した。使用ウイルスとして、A型インフルエンザウイルス(H3N2) ATCC VR-1679を使用した。抗ウイルス活性値=log(Va)-log(Vc)として評価した。結果を下記表1、2に示す。抗菌性と同様に、表1、2に示される活性値が高いものほど抗ウイルス性に優れる。尚、JISにおいては、抗ウイルス性の活性値が2.0以上の場合を効果ありとしているが、活性値2.0以下でもウイルスは減少する。本実施例では活性値が1.5でも抗ウイルス効果があるものと判定する。
【0102】
【表1】
【0103】
【表2】
【0104】
表1、2に示される結果から明らかなように、抗菌・抗ウイルス化合物を付与する繊維として、-SO・M1で示される官能基、-COO・M2で示される官能基、及び、-O-P(O)(OX1)(OX2)で示される官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有する官能性繊維を用いた場合、洗濯前後において、抗菌性及び抗ウイルス性のいずれについても高い活性値を維持でき、高い耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性を確保できる(参考例1~9、実施例10~12、参考例13~14)。
【0105】
一方で、抗菌・抗ウイルス化合物を付与する繊維として、上記の所定の官能基を有しない繊維を用いた場合、洗濯前と洗濯後とで、抗菌性及び抗ウイルス性が大きく低下する(比較例1)。特に抗ウイルス性については、洗濯後に実質的に失われてしまう。
【0106】
抗菌・抗ウイルス化合物とともに、メラミン樹脂や硫酸塩界面活性剤やポリアクリル酸/アクリルエチル共重合体を併用した場合、繊維に対する抗菌・抗ウイルス化合物の定着性が向上するものの、十分な耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性は確保できない(比較例2~4)。特に抗ウイルス性については、洗濯後に実質的に失われてしまう。
【0107】
以上のことから、以下の要件を満たす製造方法によって、耐久抗菌性及び耐久抗ウイルス性に優れる繊維を製造可能であるといえる。
(1)抗菌・抗ウイルス性化合物として第4級アンモニウムカチオン基を有する化合物を用いること。
(2)抗菌・抗ウイルス性化合物を付与する繊維として、-SO・M1で示される官能基、-COO・M2で示される官能基、及び、-O-P(O)(OX1)(OX2)で示される官能基からなる群より選ばれる少なくとも1種の官能基を有し、M1が一価のカチオンであり、M2が一価のカチオンであり、X1及びX2が、それぞれ独立に、一価のカチオン又は炭素数1~22のアルキル基である、官能性繊維を用いること。