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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】安全装置及び塵芥収集車
(51)【国際特許分類】
   G01V 3/08 20060101AFI20240918BHJP
   B65F 3/00 20060101ALI20240918BHJP
   B60P 3/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
G01V3/08 D
B65F3/00 L
B60P3/00 Q
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2020213762
(22)【出願日】2020-12-23
(65)【公開番号】P2022099771
(43)【公開日】2022-07-05
【審査請求日】2023-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000192073
【氏名又は名称】株式会社モリタホールディングス
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】牛尾 康一
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 大貴
(72)【発明者】
【氏名】関 修治
(72)【発明者】
【氏名】山田 大二
(72)【発明者】
【氏名】塚田 慎也
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-089165(JP,A)
【文献】特開2005-227244(JP,A)
【文献】特開2007-215584(JP,A)
【文献】特開2006-316862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-99/00
B65F 3/00
B60P 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
積込装置を備えた塵芥収集車に用いる安全装置であって、
塵芥収集車の車体から離隔して人の接近側に設置される電極部と、
前記電極部に信号を印加し、前記電極部への前記人の接近の度合い、及び前記電極部に接近した前記人がその位置から体一部を前記車体又は前記積込装置さらに接近させた度合いによって変化する前記電極部と前記車体間の静電容量を計測する静電容量センサと、
前記静電容量センサが計測した前記静電容量の変化を制御に用いる制御手段とを備えたことを特徴とする安全装置。
【請求項2】
前記制御手段は、前記静電容量の変化に比例して前記積込装置の動作速度を段階的に変更することを特徴とする請求項1に記載の安全装置。
【請求項3】
前記制御手段は、前記静電容量が所定値を超えた場合に前記積込装置を停止することを特徴とする請求項2に記載の安全装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記静電容量が前記所定値を超えた状態が所定時間継続したとき、前記積込装置を停止前の動作方向とは逆方向へ動作させることを特徴とする請求項3に記載の安全装置。
【請求項5】
警報手段をさらに備え、前記制御手段は、前記静電容量の変化に比例して前記警報手段による前記人に対する段階的な警報を行うことを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の安全装置。
【請求項6】
前記電極部は、絶縁体と、前記絶縁体の一方の面に接し前記信号が印加される送信電極と、前記絶縁体の他方の面に接し前記送信電極と前記車体間に生じる寄生静電容量を抑制するシールド電極とからなり、前記シールド電極を前記車体に対向した状態で配置されることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の安全装置。
【請求項7】
前記絶縁体の上端及び下端を、前記送信電極の上端及び下端並びに前記シールド電極の上端及び下端よりも突出させたことを特徴とする請求項6に記載の安全装置。
【請求項8】
一端が前記車体に固定されると共に他端に前記電極部が取り付けられる支持具を備え、
前記支持具は、前記車体と前記電極部とを絶縁する絶縁部材を有することを特徴とする請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の安全装置。
【請求項9】
請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の安全装置を備えたことを特徴とする塵芥収集車。
【請求項10】
ゴミが投入される投入口の近傍に前記電極部が配置されていることを特徴とする請求項9に記載の塵芥収集車。
【請求項11】
前記電極部が、変位により前記塵芥収集車の前記可動部の動作を緊急停止させる緊急停止板としての機能を有することを特徴とする請求項10に記載の塵芥収集車。
【請求項12】
前記電極部が、車両後方からの光を反射する反射板としての機能を有することを特徴とする請求項9又は請求項10に記載の塵芥収集車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人が巻き込まれる等の事故を防止するため、作動中の機械への人の接近を検出する安全装置、及び当該安全装置を備えた塵芥収集車に関する。
【背景技術】
【0002】
図10は従来の回転式塵芥収集車の概要図であり、図10(a)は側面図、図10(b)は投入箱の斜視図である。
塵芥収集車1は、塵芥(ゴミ)が投入される投入口2aを後面に有する投入箱2と、投入されたゴミを収容する収容箱3を備える。投入箱2の内部には、押し込み板2bや回転板2cといった可動部を有する積込装置が設けられている。
作業員が投入箱2へゴミを手積みしている最中において、回転板2cは投入口2aの近傍で回転している。そのため作業員が回転板2cに巻き込まれる事故が懸念される。特に、積込装置が連続して作動する場合は危険性が高い。
この懸念はプレス式塵芥収集車でも同様であり、また塵芥収集車以外の車両又は装置等においても、回転機構や切断機構等の可動部を有する場合は、可動部に巻き込まれたり挟まれたりする等の重大事故が発生する可能性がある。従って、これらの機械の動作中においては作業員等の不用意な接近を防止する必要がある。
【0003】
ここで特許文献1には、塵芥投入箱から塵芥収容箱内部に塵芥を送り込む積み込み装置を備える塵芥収集車の監視システムであって、塵芥投入口とその外側の領域を撮像する撮像手段と、撮像手段により撮像された入力画像に基づいてその撮像範囲内の人物の存在を認識する画像処理装置と、積み込み装置の駆動の停止を制御する制御装置とを備えることが開示されている。
また、特許文献2には、塵芥積込装置の回転板の可動範囲のうち、巻き込み事故が発生する恐れのある危険動作範囲の始まりの位置に回転板が来たときに作動する近接スイッチと、近接スイッチが作動してから始動し、一定時間後に停止するタイマーと、塵芥投入口近傍の塵芥車後部に設けられ、人体を感知可能な電磁波センサと、塵芥投入口近傍に設けられ、一定音量以上の音を感知したときに作動する音声スイッチと、タイマーの作動時間中に電磁波センサまたは音声スイッチが作動したときに、塵芥積込装置を緊急停止させるコントロールユニットとを備えた塵芥車の安全装置が開示されている。
また、特許文献3には、自動車バンパーの表面に装着してそのバンパーに近接する人体等を検出する静電式近接センサの電極システムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-269137号公報
【文献】特開2015-040102号公報
【文献】特開2010-276524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1記載の監視システムは、撮像手段と画像処理装置が必須であるため、高コストになりやすい。また、人が侵入禁止領域内に存在すると認識した場合に積み込み装置の駆動を停止させるものであるが、作業員が塵芥収集車に接近した位置に居たとしても姿勢次第では積み込み装置の駆動を停止させるほど危険性が高いとは限らない。そのような危険性がさほど高くないときまで積み込み装置が停止する制御では、作業効率の低下を嫌って作業員が監視システムをOFFにしてしまう場合があり得る。
また、特許文献2記載の安全装置は、複数のセンサやタイマーが必須であるため、構成が複雑かつ高コストになりやすい。また、回転板が巻き込まれ事故が発生する恐れのある危険な範囲にあるときに、バンパーの下方等に設けられた電磁波センサが人体を検知すれば回転板を緊急停止させるものであるから、特許文献1と同様に、危険性がさほど高くないときまで回転板が停止してしまう制御である。よって、特許文献2の場合も、作業効率の低下を嫌って作業員が監視システムをOFFにしてしまう可能性がある。
また、特許文献3の電極システムは、可動部を備えた機械に用いる安全装置に関するものではない。
そこで本発明は、作業効率を低下させることなく安全性を高めることができる安全装置、及び当該安全装置を備えた塵芥収集車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の本発明の安全装置は、積込装置を備えた塵芥収集車1に用いる安全装置であって、塵芥収集車1の車体から離隔して人6の接近側に設置される電極部10と、電極部10に信号を印加し、電極部10への人6の接近の度合い、及び電極部10に接近した人6がその位置から体一部を車体又は積込装置さらに接近させた度合いによって変化する電極部10と車体間の静電容量を計測する静電容量センサ20と、静電容量センサ20が計測した静電容量の変化を制御に用いる制御手段30とを備えたことを特徴とする。
【0007】
請求項2記載の本発明は、請求項1に記載の安全装置において、制御手段30は、静電容量の変化に比例して積込装置の動作速度を段階的に変更することを特徴とする。
【0008】
請求項3記載の本発明は、請求項2に記載の安全装置において、制御手段30は、静電容量が所定値を超えた場合に積込装置を停止することを特徴とする。
【0009】
請求項4記載の本発明は、請求項3に記載の安全装置において、制御手段30は、静電容量が所定値を超えた状態が所定時間継続したとき、積込装置を停止前の動作方向とは逆方向へ動作させることを特徴とする。
【0010】
請求項5記載の本発明は、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の安全装置において、警報手段40をさらに備え、制御手段30は、静電容量の変化に比例して警報手段40による人6に対する段階的な警報を行うことを特徴とする。
【0011】
請求項6記載の本発明は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の安全装置において、電極部10は、絶縁体13と、絶縁体13の一方の面に接し信号が印加される送信電極11と、絶縁体13の他方の面に接し送信電極11と車体間に生じる寄生静電容量を抑制するシールド電極12とからなり、シールド電極12を車体に対向した状態で配置されることを特徴とする。
【0012】
請求項7記載の本発明は、請求項6に記載の安全装置において、絶縁体13の上端及び下端を、送信電極11の上端及び下端並びにシールド電極12の上端及び下端よりも突出させたことを特徴とする。
【0013】
請求項8記載の本発明は、請求項1から請求項7のいずれか一項に記載の安全装置において、一端が車体に固定されると共に他端に電極部10が取り付けられる支持具50を備え、支持具50は、車体と電極部10とを絶縁する絶縁部材53を有することを特徴とする。
【0014】
請求項9記載の本発明の塵芥収集車1は、請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の安全装置を備えたことを特徴とする。
【0015】
請求項10記載の本発明は、請求項9に記載の塵芥収集車1において、ゴミが投入される投入口2aの近傍に電極部10が配置されていることを特徴とする。
【0016】
請求項11記載の本発明は、請求項10に記載の塵芥収集車1において、電極部10が、変位により塵芥収集車1の可動部の動作を緊急停止させる緊急停止板4bとしての機能を有することを特徴とする。
【0017】
請求項12記載の本発明は、請求項9又は請求項10に記載の塵芥収集車1において、電極部10が、車両後方からの光を反射する反射板7としての機能を有することを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施例による安全装置を備えた塵芥収集車の後部を示す図
図2】同回転式塵芥収集車を側方視した状態での電極部と人体による静電容量の変化の概念図
図3】同側面視した状態の電極部の概要図
図4】同支持具の周辺を示す図
図5】同静電容量センサの簡易回路図
図6】同作業員の各状態における信号電圧(信号出力値)の説明図
図7】同作業員の各状態における信号電圧(信号出力値)の説明図
図8】側面視した他の例による電極部の概要図
図9】電極部の設置方法の他の例を示す図
図10】従来の回転式塵芥収集車の概要図
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の第1の実施の形態による安全装置は、可動部を備えた機械に用いる安全装置であって、機械から離隔して人の接近側に設置される電極部と、電極部に信号を印加し、電極部への人の接近の度合い、及び電極部に接近した人の機械又は可動部へのさらなる接近の度合いによって変化する電極部と機械間の静電容量を計測する静電容量センサと、静電容量センサが計測した静電容量の変化を制御に用いる制御手段とを備えたものである。
本実施の形態によれば、機械の作業効率を低下させることなく安全性を高めることができる。また、カメラや画像処理装置等を用いずに構成することができるため、安全装置を設けることによるコスト増加を抑制することができる。
【0020】
本発明の第2の実施の形態は、第1の実施の形態による安全装置において、制御手段は、静電容量の変化に比例して可動部の動作速度を段階的に変更するものである。
本実施の形態によれば、可動部が頻繁に緊急停止することが抑制され作業効率を維持できると共に、安全性を向上させることができる。
【0021】
本発明の第3の実施の形態は、第2の実施の形態による安全装置において、制御手段は、静電容量が所定値を超えた場合に可動部を停止するものである。
本実施の形態によれば、より安全性を向上させることができる。
【0022】
本発明の第4の実施の形態は、第3の実施の形態による安全装置において、制御手段は、静電容量が所定値を超えた状態が所定時間継続したとき、可動部を停止前の動作方向とは逆方向へ動作させるものである。
本実施の形態によれば、可動部を自動的に一定量反転させることで、人を巻き込まれ(挟まれ)状態から解放することができる。
【0023】
本発明の第5の実施の形態は、第1から第4のいずれか一つの実施の形態による安全装置において、警報手段をさらに備え、制御手段は、静電容量の変化に比例して警報手段による人に対する段階的な警報を行うものである。
本実施の形態によれば、人は、警報音のボリュームや警告灯の点灯照度、点灯色、又は点滅速度によって危険度を感覚的かつ即座に把握しつつ作業を行うことができるため、作業効率の維持と安全性の向上をより両立させやすくなる。
【0024】
本発明の第6の実施の形態は、第1から第5のいずれか一つの実施の形態による安全装置において、電極部は、絶縁体と、絶縁体の一方の面に接し信号が印加される送信電極と、絶縁体の他方の面に接し送信電極と機械間に生じる寄生静電容量を抑制するシールド電極とからなり、シールド電極を機械に対向した状態で配置されるものである。
本実施の形態によれば、人の接近の度合いを精度よく検出することができる。
【0025】
本発明の第7の実施の形態は、第6の実施の形態による安全装置において、絶縁体の上端及び下端を、送信電極の上端及び下端並びにシールド電極の上端及び下端よりも突出させたものである。
本実施の形態によれば、水や水分を多く含む物体を介して送信電極とシールド電極が電気的に接続されることを低コストで効果的に防止することができる。
【0026】
本発明の第8の実施の形態は、第1から第7のいずれか一つの実施の形態による安全装置において、一端が機械に固定されると共に他端に電極部が取り付けられる支持具を備え、支持具は、機械と電極部とを絶縁する絶縁部材を有するものである。
本実施の形態によれば、シンプルな構造でありながらも支持具の強度を十分なものとしつつ電極部と車体とが電気的に接続されることを防止できる。
【0027】
本発明の第9の実施の形態による塵芥収集車は、第1から第8のいずれか一つの実施の形態による安全装置を備えたものである。
本実施の形態によれば、塵芥収集車の作業効率を低下させることなく安全性を高めることができる。また、カメラや画像処理装置等を用いずに構成することができるため、安全装置を設けることによるコスト増加を抑制することができる。
【0028】
本発明の第10の実施の形態は、第9の実施の形態による塵芥収集車において、ゴミが投入される投入口の近傍に電極部が配置されているものである。
本実施の形態によれば、ゴミ投入時に電極部が作業の邪魔にならず、また電極部がゴミ等と接触して損傷することを防止できる。また、塵芥収集車のタイヤが接している面と作業員の足底が接している面とで高低差がある場合でも作業員の接近の度合いを精度よく検出することが可能となる。
【0029】
本発明の第11の実施の形態は、第10の実施の形態による塵芥収集車において、電極部が、変位により塵芥収集車の可動部の動作を緊急停止させる緊急停止板としての機能を有するものである。
本実施の形態によれば、電極部を設けることによる部材点数及びコストの増加を抑制することができる。
【0030】
本発明の第12の実施の形態は、第9又は第10の実施の形態による塵芥収集車において、電極部が、車両後方からの光を反射する反射板としての機能を有するものである。
本実施の形態によれば、電極部を設けることによる部材点数及びコストの増加を抑制することができる。
【実施例
【0031】
以下、本発明の一実施例による安全装置及び塵芥収集車について説明する。
図1は本実施例による安全装置を備えた塵芥収集車の後部を示す図である。
塵芥収集車1は後面扉を引き上げて投入口2aを開とした状態である。図示は省略しているが、投入箱2の内部には積込装置が設けられている。車体及び積込装置は、主に鉄鋼等の金属からなり導電性を有する。
塵芥収集車1には、積込装置を緊急停止させる緊急停止スイッチ4として、投入口2aの左右に設けられた緊急停止釦4aと、投入口2aの下方に設けられた矩形板状の緊急停止板4bが設けられている。作業員は、緊急停止釦4aを手で押すか、又は緊急停止板4bを膝等で押して変位させることにより積込装置の動作を強制的に停止できる。
また、投入口2aの下端には、水平方向を軸として回動可能に構成されたテーブル5が設けられている。テーブル5は、車両移動中等は略鉛直に立てた非使用状態とされ、ゴミ置き場等に停車してゴミを手積みする際は、図1に示すように略水平に展開した使用状態とされる。
【0032】
塵芥収集車1には安全装置が設けられている。安全装置は、塵芥収集車1から離隔して人(作業員)の接近側に設置される電極部10と、電極部10に信号を印加し、電極部10と塵芥収集車1の車体間の静電容量を計測する静電容量センサ20と、静電容量センサ20が計測した静電容量の変化を制御に用いる制御手段30と、投入箱2周辺に設置され、作業員に対して音又は光による警報を発する警報手段40を備える。
電極部10は投入口2aの近傍に配置される。本実施例の電極部10は、投入口2aよりも下方に配置され、テーブル5が使用状態とされたときに、そのテーブル5によって上面が覆われる。投入口2aよりも下方に配置することにより、ゴミ投入時に電極部10が作業の邪魔にならず、また電極部10がゴミ等と接触して損傷することを防止できる。
【0033】
図2は回転式塵芥収集車を側方視した状態での電極部と人体による静電容量の変化の概念図であり、図2(a)は人体未接近時の状態を示し、図2(b)は人体接近時の状態を示している。
電極部10は投入口2aよりも下方に設置されている。電極部10と塵芥収集車1の車体間には静電容量センサ20の回路が設けられている。
塵芥収集車1の後部に人(作業員)6が接近していない状態では、図2(a)に示すように、電極部10と車体間に微小な寄生容量が生じている。
塵芥収集車1の後部に作業員6が接近し電極部10との距離が一定以下になると、図2(b)に示すように、人体を介して電極部10と車体間の静電容量が増加する。この静電容量は、作業員6が電極に向かい合う面積と距離に比例して増加し、また、作業員6がテーブル5に手をついた場合や、ゴミを押し込むために投入口2aに手を入れた場合など、人体と車体又は回転板2cとの距離が近づいた場合はさらに増加する。
静電容量センサ20は、このような電極部10への作業員6の接近の度合い、及び電極部10に接近した作業員6の塵芥収集車1の車体又は積込装置へのさらなる接近の度合いによって変化する静電容量を計測する。
【0034】
図3は側面視した状態の電極部の概要図である。
電極部10は、静電容量センサ20からの信号が印加される金属製の送信電極11と、送信電極11と車体間に生じる寄生静電容量を抑制する金属製のシールド電極12と、送信電極11とシールド電極12とを遮って絶縁する絶縁体13を備える。送信電極11とシールド電極12、及びシールド電極12と車体をそれぞれ絶縁し、シールド電極12が車体に対向した状態で設置される。送信電極11は作業員6が接近してくる側に向けられる。これにより、作業員6の接近の度合いを精度よく検出することができる。
送信電極11、シールド電極12、及び絶縁体13は、例えば矩形の板状であるが、コ字形等とすることもできる。また、送信電極11及びシールド電極12は板状とし、絶縁体13のみをコ字形とすること等もできる。送信電極11は絶縁体13の一方の面に接し、シールド電極12は絶縁体13の他方の面に接している。絶縁体13を所定の厚みに形成することで、送信電極11とシールド電極12間の静電容量が大きくなり過ぎないように、送信電極11とシールド電極12との距離を一定以上に保っている。絶縁体13の厚みは、例えば10~20mm等、送信電極11及びシールド電極12の厚みと同等以上とする。
安全装置は支持具50を備え、電極部10は支持具50を介して車体後面に接続される。支持具50を所定の長さに形成することで、シールド電極12と車体間の静電容量が大きくなり過ぎないように、シールド電極12と車体との距離を一定以上に保っている。また、送信電極11、シールド電極12、及び車体の間に存在する支持具50は、一定以下の比誘電率とする。
このように構成された電極部10は頑丈であり、作業員6の脚等が当たっても容易に損傷することは無い。
【0035】
図4は支持具の周辺を示す図であり、図4(a)は斜視図、図4(b)は上面図である。
支持具50は、一端が車体に固定され、他端には電極部10が取り付けられる。支持具50は強度や耐久性等の観点から金属製とすることが好ましいが、車体と電極部10との間は絶縁する必要がある。そこで本実施例の支持具50は、車体に接続する第一の金属製部材51と、電極部10に接続する第二の金属製部材52を、ゴム製の二つの絶縁部材53を介して接続している。これにより、シンプルな構造でありながらも支持具50の強度を十分なものとしつつ電極部10と車体とが電気的に接続されることを防止できる。
【0036】
図5は静電容量センサの簡易回路図である。
静電容量センサ20の回路上での信号処理手順の例を以下に示す。
(1)水晶振動子の発信周波数に従った矩形波信号を出力する。
(2)出力した矩形波信号を500kHzに変換(500kHz分周)する。
(3)変換した500kHzの矩形波である送信信号を送信電極11へ出力する。
(4)点線Aの回路において、静電容量に従って変化する分圧比に従い、信号を分圧する。送信電極11に作業員6が接近すると人体経由でインピーダンスが低くなる。
(5)点線Bのボルテージフォロア回路を介し、点線Cのバンドパスフィルタ回路にて、特定の周波数(500kHz)の正弦波を抽出する。
(6)点線Dの検波回路にて、正弦波の振幅を直流の信号電圧として抽出する。
(7)得られた信号電圧を制御手段30へ出力する。
また、点線Aの回路の下流側には、点線Eのボルテージフォロア回路を介し、シールド電極12としてアクティブシールドを接続している。これにより、車体と送信電極11間の寄生静電容量を抑え、静電容量の微小な変化を検出することができる。
なお、周囲の電磁ノイズとの混信を防ぐため、回路から発信する信号に固有の情報を付加してもよい。また、上記手順(2)において、矩形波には、500kHz以外の周波数を適宜用いてもよい。
また、誘電率の高い濡れたゴミ等と人体とを識別する機能を持たせてもよい。あるいは、周囲環境に応じて、静電容量センサ20の検出感度を自動補正する機能を持たせることも有効である。
なお、バンドパスフィルタと検波回路については、同等の機能を持つ他の要素に置き換えてもよい。バンドパスフィルタ回路の置き換え例としては、バンドパスフィルタを複数個重ねた回路、又はアンプを用いたアクティブフィルタ回路が挙げられる。また検波回路の置き換え例としては、両波整流回路、ブリッジ整流回路、コッククロフト・ウォルトン回路、又は(半波or両波)倍電圧整流回路等が挙げられる。また、バンドパスフィルタと検波回路に代えて、信号をマイクロコントローラ等に取り込み、デジタル的な信号処理により、ノイズカットや検波を行うこともできる。
【0037】
図6及び図7は作業員の各状態における信号電圧(信号出力値)の説明図である。なお、静電容量センサ20のセンシング距離は、電極部10から0~100mm程度としている。
図6(a)は、作業員6が投入口から100mm以上離れた位置からゴミの投入作業を行っている状態である。また図6(b)は、作業員6が電極部10から100mm以上離れた位置で直立している状態である。どちらの状態でも静電容量センサ20は殆ど反応しない。
また、投入口2aにゴミが収まった状態や、乾燥したゴミが電極部10付近に接触した場合も静電容量センサ20は反応しないため、これらゴミによる誤検出の可能性を低減することができる。
一方、図7に示す状態ではいずれも静電容量センサ20が反応する。図7(a)~(c)は、前傾姿勢の状態であり脚は電極部10から約100mmの位置にある。投入箱2への上体の入り込みの程度は、図7(a)の状態が最も小さく図7(c)の状態が最も大きい。また図7(d)は、作業員6が電極部10に密着する位置で直立している状態である。
信号出力値は、図7(a)の状態が最も小さく、図7(b)、図7(c)、図7(d)の順に大きくなる。静電容量センサ20は、手袋や乾燥したゴミ越しであっても人体の接近度合いに応じて反応することができる。
【0038】
上述のように、作業員6が電極部10に近接した場合や、上体が投入箱2の内部に入り込んで車体や回転板2cとの距離が小さくなった場合は、静電容量が増加して信号出力値が大きくなる。よって、信号出力値を作業員6の危険度と見做すことができる。
制御手段30は、静電容量センサ20から出力された信号電圧に基づいて、積込装置の動作と警報手段40による警報を制御する。静電容量センサ20から出力される信号出力値は連続的(アナログ値)であるため、制御手段30は、「安全or危険」というように作業員6がおかれている状態を離散的に分けた制御を行うのではなく、「安全~やや危険(注意)~危険」というように作業員6がおかれている曖昧な状態に基づいた制御を行うことができる。
【0039】
制御手段30は、静電容量センサ20からの電圧値に応じて、積込装置の動作速度を段階的に変更する。例えば、電圧値が第一の所定値よりも低い場合、すなわち危険度が小さい場合は回転板2cの動作速度を通常とし、静電容量が第一の所定値以上かつ第二の所定値未満の場合、すなわち危険度が中程度の場合は動作速度を通常よりも遅くし、静電容量が第二の所定値以上の場合、すなわち危険度が大きい場合は回転板2cを停止させる。なお、速度抑制の方法としては、油圧駆動源のエンジン回転数を下げる方法と、油圧回路の流量制御で動作速度を遅くする方法がある。
このように、作業員6と電極部10との距離、又は作業員6と車体又は積込装置との距離に基づいて積込装置の動作速度を変更しつつ、危険度が高まった場合には停止させることで、安全性を向上させることができる。また、危険度が中程度になると積込装置の動作が遅くなりゴミ収集の作業効率が低下してしまうので、作業員6は積込装置の動作が遅い状態又は危険度の更なる上昇により停止してしまう事態を避けようと塵芥収集車1から適切な距離を保つようになる。よって、積込装置が頻繁に緊急停止することが抑制され作業効率を維持できると共に、安全性を向上させることができる。また、作業効率を維持できるため、作業員6が作業効率の低下を敬遠して安全装置の電源をOFFにしてしまうことも抑制される。
また、制御手段30は、静電容量センサ20からの電圧値に応じて、警報手段40から段階的な警報が発せられるように制御する。例えば、警報手段40がスピーカーを有する場合は、電圧値の上昇に合わせて警報音のボリュームを大きくする。また、警報手段40が警告灯を有する場合は、電圧値の上昇に合わせて警告灯の点灯照度や点灯色を変化させたり、点滅させる場合は点滅速度を速くする。これにより、作業員6は、警報音のボリュームや警告灯の点灯照度、点灯色、又は点滅速度によって危険度を感覚的かつ即座に把握しつつ作業を行うことができるため、作業効率の維持と安全性の向上をより両立させやすくなる。
【0040】
制御手段30は、接近の度合い(危険度)が第二の所定値を超えた状態が所定時間継続した場合に、回転板2cを停止前の動作方向とは逆方向へ少し動作させる。回転板2cが停止しても危険度が高い状態が解消されない場合は、作業員6が回転板2cに手などを巻き込まれたり挟まれたりした状態等で動けなくなっている可能性がある。その状態の作業員6が自ら反転操作を行うのは無理であるため、回転板2cを自動的に一定量反転させることで、巻き込まれ(挟まれ)状態から作業員6を解放することができる。
なお、角度センサ等を設け、積込装置が緊急停止したときの回転板2cの位置を検出し、その結果に基づいて作業員6が巻き込まれて動けなくなっている状態にあるかどうかを補助的に判断してもよい。
【0041】
以上説明したように、本発明の安全装置は、塵芥収集車1の作業効率を低下させることなく安全性を高めることができる。
また、カメラや画像処理装置等を用いずに構成することができるため、安全装置を低コストで設けることができる。
なお、静電容量センサ20とは別方式の人体検出センサを設置して制御手段30の判断に補助的に用いてもよい。例えば、投入口2aの上方に超音波式又はレーダ式の検出装置を設置し、下方に向けて超音波又はレーダを照射することにより、人体が危険エリアである投入口2aの内部に入ろうとしている状態を検出する。制御手段30では、この検出結果と静電容量センサ20による検出結果を合わせて制御を決定する。これにより、安全装置の精度を向上することができる。
また、上記した実施例では電極部10を投入口2aの下方に配置しているが、電極部10は、投入口2aへの近傍配置として、投入口2aの側面又は上面に配置することもできる。電極部10を投入口2aの側面又は上面に配置することで、ホテルや店舗施設のバックヤード等、トラックへの荷物の積み下ろし等を考慮して床面に高低差がある場所において、塵芥収集車1のタイヤと作業員6の足底とが同一高さの接地面にない場合であっても、作業員6の接近の度合いを精度よく検出することができる。なお、電極部10を、投入口2aの下方、側面、及び上面のうちの少なくとも二箇所に設置することもできる。
【0042】
図8は側面視した他の例による電極部の概要図である。
電極部10の上面に水が溜まったり、電極部10の下面に水滴が付着したりすると、水を介して送信電極11とシールド電極12が電気的に接続されてしまう可能性がある。そのため電極部10には、送信電極11とシールド電極12との水や水分を多く含む物体による電気的な接続を防止する対策を施すことが好ましい。
当該対策として、本例による電極部10は、絶縁体13の上端及び下端を、送信電極11の上端及び下端並びにシールド電極12の上端及び下端よりも突出させている。これにより、対策によるコスト増加を抑制しつつ、水を介して送信電極11とシールド電極12が電気的に接続されることを効果的に防止することができる。
【0043】
図9は電極部の設置方法の他の例を示す図である。なお、図9(a)は後面扉が全開の状態、図9(b)は後面扉が約1/3開いた状態である。
図9(a)に示す電極部10は、電極部10が緊急停止板4bとしての機能を有しており、作業員6は電極部10を膝等で前方へ変位させることで、積込装置の動作を緊急停止できる。このように電極部10と緊急停止板4bとを一体的に設けることで、電極部10を設けることによる部材点数及びコストの増加を抑制することができる。
図9(b)に示す電極部10は、送信電極11が車両後方からの光を反射する反射板7としての機能を有している。特に大型の塵芥収集車1には反射板(反射器)7の設置が求められるが、電極部10と反射板7を一体的に設けることで、反射板7の設置スペースを確保すると共に、電極部10を設けることによる部材点数及びコストの増加を抑制することができる。また、図9(b)に示す電極部10は、図9(a)に示す電極部10と比べて鉛直方向の長さが大きい形状としている。このように電極部10の面積を大きくすることで、作業員6の接近をさらに精度よく検出することができる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、塵芥収集車をはじめ、スクラップ処理装置や破砕装置など、接近により人が怪我する可能性のある装置の安全装置として利用できる。
【符号の説明】
【0045】
1 塵芥収集車
2 投入箱
2a 投入口
2b 押し込み板
2c 回転板
3 収容箱
4 緊急停止スイッチ
4a 緊急停止釦
4b 緊急停止板
5 テーブル
6 人(作業員)
7 反射板
10 電極部
11 送信電極
12 シールド電極
13 絶縁体
20 静電容量センサ
30 制御手段
40 警報手段
50 支持具
51 第一の金属製部材
52 第二の金属製部材
53 絶縁部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10