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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】負極活物質、負極、及び二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/58 20100101AFI20240918BHJP
   H01M 4/48 20100101ALI20240918BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240918BHJP
   H01M 4/587 20100101ALI20240918BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20240918BHJP
   H01M 4/133 20100101ALI20240918BHJP
   C01B 33/113 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
H01M4/58
H01M4/48
H01M4/36 E
H01M4/587
H01M4/13
H01M4/133
C01B33/113 A
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020215189
(22)【出願日】2020-12-24
(65)【公開番号】P2021103684
(43)【公開日】2021-07-15
【審査請求日】2023-07-18
(31)【優先権主張番号】P 2019235038
(32)【優先日】2019-12-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521065355
【氏名又は名称】エルジー エナジー ソリューション リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】松原 恵子
(72)【発明者】
【氏名】高椋 輝
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-170943(JP,A)
【文献】特開2017-195015(JP,A)
【文献】特表2018-519648(JP,A)
【文献】国際公開第2019/130787(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/58
H01M 4/48
H01M 4/36
H01M 4/587
H01M 4/13
H01M 4/133
C01B 33/113
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも1種がドープされた第1酸化珪素粉末と、
ドープが行われていない第2酸化珪素粉末と、
を含み、
前記第2酸化珪素粉末は、アモルファスであり、
前記第1酸化珪素粉末を構成する粒子の平均粒径が、前記第2酸化珪素粉末を構成する粒子の平均粒径より大きく、
前記第1酸化珪素粉末を構成する粒子の平均粒径が3μm以上15μm以下であり、前記第2酸化珪素粉末を構成する粒子の平均粒径が0.5μm以上2μm以下である、
二次電池用の負極活物質。
【請求項2】
前記第1酸化珪素粉末に対する前記第2酸化珪素粉末の重量比が0.2以上である、請求項1に記載の負極活物質。
【請求項3】
前記第1酸化珪素粉末に対する前記第2酸化珪素粉末の重量比が10未満である、請求項1又は請求項2に記載の負極活物質。
【請求項4】
前記第1酸化珪素粉末は、結晶子サイズが5nm以上30nm以下である珪素の微結晶を含む、請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の負極活物質。
【請求項5】
前記第1酸化珪素粉末は、LiSiO、LiSi、Li4SiO4、及びMgSiOのうち少なくとも1つを含む、請求項1~請求項4のいずれか一項に記載の負極活物質。
【請求項6】
天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素、のうち1種又は2種以上の混合物を含む炭素材料粉末をさらに含む、請求項1~請求項5のいずれか一項に記載の負極活物質。
【請求項7】
請求項1~請求項6のいずれか一項に記載の負極活物質を含む負極活物質層が負極集電体上に形成された、二次電池用の負極。
【請求項8】
請求項7に記載の負極を含む、二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、負極活物質、負極、及び二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
モバイル機器に対する技術開発と需要が増加するに伴い、エネルギー源として二次電池の需要が急激に増加している。このような二次電池のうち、高いエネルギー密度及び電圧を有し、サイクル寿命が長く、自己放電率が低いリチウムイオン二次電池が常用化され、広く使用されている。現在、このようなリチウムイオン二次電池の高容量化を試みる研究が精力的に進められている。
【0003】
珪素合金や酸化珪素などの珪素系材料は、現在主流である黒鉛などの炭素系材料よりも大きい理論容量密度を有しているため、リチウムイオン二次電池のエネルギー密度を向上させる負極材料として期待されている。例えば、SiOは初回放電時の放電容量が1700mAh/g以上であり、これは黒鉛の約5倍の値である。
【0004】
しかしながら、SiOなどの珪素系材料を負極活物質として用いる場合、電池の初期効率(すなわち、初回充放電時の充電容量に対する放電容量の比)が黒鉛よりも低くなるという問題がある。これに対し、負極活物質としてLiやMgを予めドープ(プレドープ)した酸化珪素粉末を用いた場合には、初期効率が改善されることが知られている。ただし、このようなプレドープを行うと、放電容量やサイクル特性が劣化する場合があるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2013-114820号公報
【0006】
【文献】国際公開第2015/059859号
【0007】
【文献】特開2017-188319号公報
【0008】
【文献】特開2012-33317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明が解決しようとする課題は、高い初期効率と優れた放電容量及び容量維持率とを両立させることのできる二次電池用の負極活物質、負極、及び二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様によると、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも1種がドープされた第1酸化珪素粉末と、
ドープが行われていない第2酸化珪素粉末と、
を含み、
第2酸化珪素粉末は、アモルファスである、
二次電池用の負極活物質が提供される。
【0011】
上記態様に係る負極活物質において、第1酸化珪素粉末を構成する粒子の平均粒径は、第2酸化珪素粉末を構成する粒子の平均粒径より大きいものであり得る。
【0012】
上記態様に係る負極活物質において、第1酸化珪素粉末を構成する粒子の平均粒径は、3μm以上15μm以下であり得る。また、第2酸化珪素粉末を構成する粒子の平均粒径は、0.5μm以上2μm以下であり得る。
【0013】
上記態様に係る負極活物質において、第1酸化珪素粉末に対する第2酸化珪素粉末の重量比は、0.2以上であり得る。
【0014】
上記態様に係る負極活物質において、第1酸化珪素粉末に対する第2酸化珪素粉末の重量比は、10未満であり得る。
【0015】
上記態様に係る負極活物質において、第1酸化珪素粉末は、結晶子サイズが5nm以上30nm以下である珪素の微結晶を含み得る。
【0016】
上記態様に係る負極活物質において、第1酸化珪素粉末は、LiSiO、LiSi、Li4SiO4、及びMgSiOのうち少なくとも1つを含み得る。
【0017】
上記態様に係る負極活物質において、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素のうち1種又は2種以上の混合物を含む炭素材料粉末をさらに含み得る。
【0018】
本発明の別の態様によると、上記態様に係る負極活物質を含む負極活物質層が負極集電体上に形成された、二次電池用の負極が提供される。
【0019】
本発明の別の態様によると、上記態様に係る負極を含む、二次電池が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2について、第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bとの重量比に対して初期容量、初期効率、及び容量維持率をプロットした図である。
図2】実施例3、比較例3、及び比較例4について、第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bとの重量比に対して初期容量、初期効率、及び容量維持率をプロットした図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0022】
本明細書において、「平均粒径」とは、レーザー回折散乱法により測定した粒度分布における積算値50%での粒径、すなわちメジアン径(D50)を意味する。また、本明細書において、「酸化珪素粉末」とは、珪素酸化物(珪素及び酸素以外に他の元素を含んでもよい)を含有する粉末であって、珪素及び酸素の含有量が合計で80重量%以上であるものを意味する。また、本明細書において、記号「~」は、当該記載が示す範囲の両端を含む意味で使用される。例えば、「1~2」との記載は「1以上2以下」を意味する。
【0023】
リチウムイオン二次電池の高容量化のために負極活物質としてSiOなどの珪素系材料を使用した場合、黒鉛を使用した場合よりも初期効率が低くなる傾向がある。この理由は、以下のように推測される。SiOは、初回充電時に、Liの再脱離が可能な可逆成分であるLi-Si合金を形成するとともに、Liの再脱離が不可能な不可逆成分である1相又は2相以上の珪酸リチウム(リチウムシリケート)をも形成し得る。この珪酸リチウムには負極活物質中の珪素成分の膨張を抑制する効果があるものの、このような不可逆成分は充放電に寄与しないため、初期効率の低下に繋がり得る。これにより、SiOの初期効率は、黒鉛の初期効率(約90%~95%)と比べて非常に低い65%~70%程度となってしまう。このため、SiOを負極活物質として単独で使用した場合には、正極活物質とのバランスが取れずに正極活物質を無駄に消費し、結果としてエネルギー密度の低下を招く場合がある。
【0024】
一方、SiOなどの珪素系材料に対してLiやMgのプレドープを行った場合、プレドープ量の増加につれて初期効率が改善されるものの、プレドープを行わない場合よりも放電容量やサイクル特性が劣化する場合がある。この理由は、以下のように推測される。プレドープを行うと、ドープが行われていないSiOを用いた場合に生じる本来の不可逆成分以外にも複雑な珪酸リチウム相などの珪素化合物が形成されたり、負極活物質の粒子の表面に余剰のリチウム化合物が形成されたりする場合がある。これにより、重量あたりの放電容量が非ドープSiOに比べて大きく減少し得る。また、ドーピング過程においてSiO中に含まれるSi微結晶の結晶性が高まることにより、繰り返し充放電に伴う粒子表面又は内部での亀裂の発生や材料の膨張率の増加が起こり、サイクル劣化が発生しやすくなると考えられる。
【0025】
本発明者は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属がプレドープされた第1酸化珪素粉末とドープが行われていない第2酸化珪素粉末との混合物を負極活物質に用いることにより、高い初期効率と優れた放電容量とを両立させることができることを見出した。また、本発明者は、上記のように第1酸化珪素粉末と第2酸化珪素粉末とを混在させることにより、サイクル特性が予想以上に改善されることを見出した。さらに、本発明者は、上記のような第1酸化珪素粉末及び第2酸化珪素粉末に対して炭素材料をさらに添加することにより、初期効率が予想以上に改善されることを見出した。
【0026】
[非水電解質二次電池]
本発明の一実施形態は、非水電解質二次電池に係るものである。本実施形態に係る非水電解質二次電池は、負極、正極、負極と正極との間に介在するセパレータ、及び非水電解質を含む。当該二次電池の具体例としては、高いエネルギー密度、放電電圧、出力安定性などの長所を有するリチウムイオン二次電池が挙げられる。
【0027】
以下、主にリチウムイオン二次電池を例に取って説明するが、本発明はリチウムイオン二次電池に限定されず、種々の非水電解質二次電池に適用することができる。
【0028】
本発明の一実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、負極、正極、負極と正極との間に介在するセパレータ、及び非水電解質を含む。また、リチウムイオン二次電池は、負極、正極、及びセパレータから構成される電極組立体を収容する電池ケース、並びに電池ケースを密封する密封部材を選択的に含み得る。
【0029】
[負極]
負極は、負極集電体及び負極集電体の一面上又は両面上に形成された負極活物質層を含む。負極活物質層は、負極集電体の面全体に形成されてもよく、一部のみに形成されてもよい。
【0030】
(負極集電体)
負極に使用される負極集電体は、電池に化学的変化を誘発せず、かつ、導電性を有するものであれば、特に制限されない。例えば、負極集電体として、銅;ステンレス鋼;アルミニウム;ニッケル;チタン;焼成炭素;銅又はステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したもの;アルミニウム-カドミウム合金などが使用され得る。
【0031】
負極集電体は、3μm以上500μm以下の厚さを有し得る。負極集電体の表面上に微細な凹凸を形成して負極活物質との接着力を高めることもできる。負極集電体は、例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態を有し得る。
【0032】
(負極活物質層)
負極活物質層は、例えば、負極活物質、バインダー、及び導電剤の混合物が溶媒中に溶解又は分散した負極活物質スラリーを負極集電体に塗布した後、乾燥及び圧延することにより、又は、上記の負極活物質スラリーを別の支持体上にキャストした後、その支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることにより、形成され得る。上記混合物は、必要に応じて、さらに分散剤や充填材その他の任意の添加剤を含み得る。
【0033】
負極活物質は、負極活物質層の全重量を基準に80重量%以上99重量%以下で含まれ得る。
【0034】
(負極活物質)
実施形態に係るリチウムイオン二次電池において、負極活物質は、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも1種がドープされた第1酸化珪素粉末A及びドープが行われていない第2酸化珪素粉末Bを含み得る。また、負極活物質は、炭素材料粉末をさらに含んでもよい。
【0035】
第1酸化珪素粉末Aは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち少なくとも1種が酸化珪素粉末にドープされたものである。すなわち、第1酸化珪素粉末Aを構成する粒子は、ドープされたアルカリ金属元素及びアルカリ土類金属元素のうち少なくとも1種を含み得る。第1酸化珪素粉末Aは、例えば、酸化珪素SiO(0<x<2)、単体珪素Si、ドープされた金属元素の単体、ドープされた金属の珪酸塩、その他の珪素化合物やドープされた金属の化合物などを含み得る。
【0036】
ドープされる前の原料として用いられる酸化珪素粉末は、例えば、SiOの粉末であり得る。SiOは、例えば、アモルファスの酸化珪素のマトリックス中にSi微粒子が微結晶又はアモルファスの形態で分散した構造を有し得る。珪素に対する酸素の比率xは、0<x<2であり、好ましくは0.5≦x≦1.6であり、より好ましくは0.8≦x≦1.5である。例えば、原料の酸化珪素粉末はSiO(x=1)であり得る。また、原料の酸化珪素粉末は、特定のxの値を有するSiOのみを含んでもよく、xの値が異なる2種以上のSiO粉末の混合物であってもよい。
【0037】
原料の酸化珪素粉末は、構造中に分散した珪素などの微結晶を除き、結晶相を含まないアモルファス構造であり得る。分散した微結晶は、X線回折(XRD)パターンに回折ピークとして現れない程度の大きさであってよく、原料の酸化珪素粉末のXRDパターンは、実質的に結晶相に由来する回折ピークを有さないものであってよい。本明細書においては、微視的には微結晶を含む材料であっても、XRDパターンに回折ピークが見られない場合には「アモルファス」と記載する。なお、原料の酸化珪素粉末のXRDパターンは、分散した微結晶に由来する回折ピークを含んでもよい。
【0038】
ドープされる金属元素は、アルカリ金属又はアルカリ土類金属であれば特に制限されない。例えば、リチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウムのうち1種又2種以上が原料の酸化珪素粉末にドープされてよいが、これらに限定されるものではない。
【0039】
例えばリチウムがドープされた場合には、第1酸化珪素粉末Aは、その構造中に珪素や珪酸リチウムなどの微粒子を含み得る。例えば、第1酸化珪素粉末Aは、アモルファスの酸化珪素のマトリックス中に珪素や珪酸リチウムなどの微結晶又はアモルファスの形態で分散した構造を有し得る。珪酸リチウムの例としては、LiSiOやLiSi、LiSiOなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。第1酸化珪素粉末Aの構造中には、上記以外のリチウム系材料、珪素系材料、リチウム珪素化合物など様々な成分が存在してよい。
【0040】
同様に、例えばマグネシウムがドープされた場合には、第1酸化珪素粉末Aは、アモルファスの酸化珪素のマトリックス中に珪素や珪酸マグネシウム(MgSiO3やMgSiOなど)の微粒子が分散した構造を有し得る。また、カルシウムがドープされた場合には、第1酸化珪素粉末Aは、アモルファスの酸化珪素のマトリックス中に珪素や珪酸カルシウム(CaSiOやCaSiOなど)の微粒子が分散した構造を有し得る。他のアルカリ金属又はアルカリ土類金属をドープした場合についても同様である。
【0041】
第1酸化珪素粉末Aにおけるアルカリ金属又はアルカリ土類金属の総ドープ量は、第1酸化珪素粉末Aの全体を基準として、例えば0.1重量%以上20重量%以下であり、好ましくは0.5重量%以上15重量%以下であり、より好ましくは1重量%以上10重量%以下であり得る。
【0042】
第1酸化珪素粉末AのXRDパターンは、酸化珪素マトリックス中の微結晶に由来する1つ以上の回折ピークを有し得る。なお、原料の酸化珪素粉末のXRDパターンに回折ピークが見られなかった場合でも、ドープ処理により結晶化が進んだり新たな結晶相が生成したりすることで、第1酸化珪素粉末AのXRDパターンにおいて新たに回折ピークが現れることはあり得る。
【0043】
第1酸化珪素粉末Aにおいて、酸化珪素マトリックス中の珪素微結晶の大きさ(以下、このような微小な単結晶の大きさを「結晶子サイズ」という。本明細書では、「結晶子サイズ」とは、以下のシェラーの式(1)を用いて計算されたDの値を指すものとする。)は、例えば5nm以上30nm以下であり、好ましくは5nm以上20nm以下であり、より好ましくは5nm以上10nm以下であり得る。このような微結晶の結晶子サイズは、第1酸化珪素粉末AのXRDパターン上の各微結晶由来のピークの線幅などから、当技術分野において周知である以下のシェラーの式(1)を用いて計算することができる。
D(nm)=Kλ/Bcosθ ……(1)
ここで、Dは微結晶の結晶子サイズであり、BはXRDパターンの対象ピークの半値全幅(rad)であり、θはXRDパターンの回折角であり、K=0.9、λ=0.154nm(CuKαの場合)である。
【0044】
例えば、珪素であれば、2θ=28.4°付近に(111)面の回折ピークが観測されるので、この(111)ピークの半値全幅及び回折角θから第1酸化珪素粉末A中の珪素微結晶の結晶子サイズDを見積もることができる。
【0045】
負極活物質に使用される第1酸化珪素粉末Aを構成する粒子の平均粒径は、例えば、1μm以上20μm以下であり、好ましくは3μm以上15μm以下であり、より好ましくは4μm以上10μm以下であり得る。
【0046】
第1酸化珪素粉末Aを含む負極活物質を用いることにより、ドープが行われていない酸化珪素粉末のみを含む負極活物質に比べて、初期効率を改善することができる。この理由は、ドープが行われていない酸化珪素粉末では充放電に寄与しない不可逆成分である珪酸塩相などが初回の充放電時に多く生じてしまうのに対し、第1酸化珪素粉末Aには予めそのような珪酸塩相が形成されているので、初回充電容量に対する初回放電容量の減少が比較的抑制され得るためであると推測される。
【0047】
第2酸化珪素粉末Bは、ドープが行われていない酸化珪素の粉末である。ここで、「ドープが行われていない」とは、不可避の不純物を除き、珪素及び酸素以外の金属元素及び非金属元素がドープされていないことを意味する。すなわち、第2酸化珪素粉末Bを構成する粒子は、不可避の不純物を除き、珪素及び酸素以外の金属元素及び非金属元素を含まないものであり得る。例えば、第2酸化珪素粉末Bは、SiOの粉末である。SiOは、例えば、アモルファスの酸化珪素のマトリックス中にSi微粒子が微結晶又はアモルファスの形態で分散した構造を有し得る。珪素に対する酸素の比率xは、0<x<2であり、好ましくは0.5≦x≦1.6であり、より好ましくは0.8≦x≦1.5である。例えば、第2酸化珪素粉末BはSiO(x=1)であり得る。また、第2酸化珪素粉末Bは、特定のxの値を有するSiOのみを含んでもよく、xの値が異なる2種以上のSiO粉末の混合物であってもよい。
【0048】
第2酸化珪素粉末Bは、構造中に分散した珪素などの微結晶を除き、結晶相を含まないアモルファス構造であり得る。例えば、第2酸化珪素粉末BのXRDパターンは、分散した微結晶がXRDパターンに回折ピークとして現れない程度の大きさである場合、実質的に結晶相に由来する回折ピークを有さないものであり得る。
【0049】
負極活物質に使用される第2酸化珪素粉末Bを構成する粒子の平均粒径は、例えば、第1酸化珪素粉末Aを構成する粒子の平均粒径よりも小さいものとすることができる。第2酸化珪素粉末Bを構成する粒子の平均粒径は、例えば、0.1μm以上5μm以下であり、好ましくは0.3μm以上3μm以下であり、より好ましくは0.5μm以上2μm以下であり得る。
【0050】
第2酸化珪素粉末Bを含む負極活物質を用いることにより、アルカリ金属やアルカリ土類金属がドープされた酸化珪素粉末のみを含む負極活物質に比べて、放電容量やサイクル特性が改善され得る。この理由としては、第2酸化珪素粉末Bに含まれるSiOの微粉の粒子内における金属イオンの拡散がドープされた酸化珪素よりも速いことや、第2酸化珪素粉末Bに含まれるSiOがアモルファスであるため、結晶性の高いドープ酸化珪素に比べて充放電に伴う亀裂の発生や膨張収縮が抑制されることが考えられる。ただし、このようなメカニズムは単に例示的な推測であり、何ら本発明を限定するものではない。
【0051】
負極活物質における第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bとの重量比A:Bは、例えば1:9~9:1であり、好ましくは3:7~9:1であり、より好ましくは4:6~9:1であり、最も好ましくは5:5~8:2であり得る。当該重量比をB/Aで表した場合、重量比B/Aは、例えば0.1以上であり、好ましくは0.2以上であり、より好ましくは0.25以上であり得る。また、重量比B/Aは、例えば10未満であり、好ましくは5未満であり、より好ましくは2未満であり得る。重量比が上記範囲内である場合には、高い初期効率と優れた放電容量及びサイクル特性とを両立させることができる。
【0052】
炭素材料粉末が負極活物質に含まれる場合、炭素材料粉末は、一般に非水電解質二次電池の負極活物質に使用可能な任意の炭素材料を含み得る。例えば、炭素材料粉末は、天然黒鉛、人造黒鉛、黒鉛化炭素繊維、非晶質炭素のうち1種又は2種以上の混合物を含むことができるが、これらに限定されるものではない。炭素以外の元素との複合体なども使用可能である。なお、炭素材料は、低結晶性炭素や高結晶性炭素などのいずれが用いられてもよい。低結晶性炭素としては、ソフトカーボン及びハードカーボンが代表的であり、高結晶性炭素としては、無定形、板状、麟片状、球状、又は繊維状の天然黒鉛又は人造黒鉛、キッシュ黒鉛、熱分解炭素、メソフェーズピッチ系炭素繊維、メソカーボンマイクロビーズ、メソフェーズピッチ、石油・石炭系コークスなどの高温焼成炭素が代表的である。
【0053】
炭素材料粉末を構成する粒子の平均粒径は、例えば、1μm以上50μm以下であり、好ましくは10μm以上20μm以下であり得る。
【0054】
負極活物質が第1酸化珪素粉末A及び第2酸化珪素粉末Bに加えて炭素材料粉末を含む場合、負極活物質中の珪素材料(すなわち第1酸化珪素粉末A及び第2酸化珪素粉末B)と炭素材料との重量比は、例えば、1:99~50:50であり、好ましくは5:95~30:80であり、より好ましくは8:92~20:80であり得る。
【0055】
負極活物質が炭素材料粉末を含む場合、炭素材料は珪素材料よりも良好な初期効率及びサイクル特性を示す傾向があるので、負極活物質が第1酸化珪素粉末A及び第2酸化珪素粉末Bのみを含む場合と比べてさらに優れた初期効率及びサイクル特性を得ることができる。
【0056】
なお、負極活物質は、第1酸化珪素粉末A、第2酸化珪素粉末B、及び炭素材料粉末に加えて、それ以外の材料を含んでもよい。
【0057】
(バインダー)
バインダーは、活物質と導電剤との結合や集電体との結合などを促進する成分として添加される。バインダーの例としては、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリビニルアルコール(PVA)、ポリアクリロニトリル、カルボキシメチルセルロース(CMC)、澱粉、ヒドロキシプロピルセルロース、再生セルロース、ポリビニルピロリドン、テトラフルオロエチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン-ジエンポリマー(EPDM)、スルホン化EPDM、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ポリアクリル酸、アクリルアミド、ポリイミド、フッ素ゴム、これらの種々の共重合体などが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の混合物が用いられ得るが、これらに限定されるものではない。
【0058】
バインダーの含有量は、負極活物質層の総重量を基準として0.1重量%以上30重量%以下であり得る。バインダーの含有量は、好ましくは0.5重量%以上20重量%以下であり、さらに好ましくは1重量%以上10重量%以下であり得る。バインダー高分子の含量が上記の範囲を満足するとき、電池の容量特性低下を防止しながら、電極内の十分な接着力を付与することができる。
【0059】
(導電剤)
導電剤は、化学変化を誘発しない電気伝導性材料であれば、特に制限されない。導電剤の例としては、人造黒鉛、天然黒鉛、カーボンナノチューブ、グラフェン、カーボンブラック、アセチレンブラック、ケッチェンブラック、デンカブラック、サーマルブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック、ランプブラック、炭素繊維などの炭素系材料;アルミニウム、スズ、ビスマス、シリコン、アンチモン、ニッケル、銅、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、亜鉛、モリブデン、タングステン、銀、金、ランタン、ルテニウム、白金、イリジウムなどの金属粉末や金属繊維;酸化亜鉛、チタン酸カリウムなどの導電性ウィスカー;酸化チタンなどの導電性金属酸化物;ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリアセチレン、ポリピロール、ポリフェニレン誘導体などの導電性高分子などが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の混合物が用いられ得るが、これらに限定されるものではない。
【0060】
導電剤の含有量は、負極活物質層の総重量を基準として0.1重量%以上30重量%以下であり得る。導電剤の含有量は、好ましくは0.5重量%以上15重量%以下であり、より好ましくは0.5重量%以上10重量%以下であり得る。導電剤の含量が上記の範囲を満足するとき、十分な導電性を付与することができ、負極活物質の量を減少させないため電池容量を確保できる点で有利である。
【0061】
(増粘剤)
負極活物質スラリーは、増粘剤をさらに含むことができる。具体的に、増粘剤は、カルボキシメチルセルロース(CMC)などのセルロース系化合物であり得る。増粘剤は、負極活物質層の総重量を基準として、例えば0.5質量%以上10質量%以下の量で含まれ得る。
【0062】
(溶媒)
負極活物質スラリーにおいて使用される溶媒は、一般に負極の製造に使用されるものであれば特に制限されない。溶媒の例としては、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、ジメチルスルホキシド(DMSO)、イソプロピルアルコール、アセトン、水などが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の混合物が用いられ得るが、これらに限定されるものではない。
【0063】
[負極の製造方法]
実施形態に係るリチウムイオン二次電池用の負極の製造方法は、(1)負極活物質を得るステップ;(2)負極活物質から負極活物質スラリーを得るステップ;(3)負極活物質スラリーから負極を得るステップを含み得る。
【0064】
(1)負極活物質を得るステップ
第1酸化珪素粉末Aは、例えば熱ドープ法により得られる。より具体的には、第1酸化珪素粉末Aは、例えば、原料の酸化珪素粉末とドープ金属源粉末とを混合し、アルゴン雰囲気や窒素雰囲気などの不活性雰囲気下で高温焼成することにより得られる。必要に応じて、得られた第1酸化珪素粉末Aをビーズミルなどにより粉砕することにより、粒度調整が行われ得る。
【0065】
原料の酸化珪素粉末としては、例えば市販のSiO(0<x<2)粉末などが使用可能である。ここで、珪素に対する酸素の比率xは、0<x<2であり、好ましくは0.5≦x≦1.6であり、より好ましくは0.8≦x≦1.5である。ドープ金属源の例としては、リチウムをドープする場合には金属リチウムLiや水素化リチウムLiHなど、マグネシウムをドープする場合には水素化マグネシウムMgHなど、カルシウムをドープする場合には水素化カルシウムCaHなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。焼成温度は、例えば650℃以上850℃以下である。
【0066】
第2酸化珪素粉末Bとしては、例えば市販のSiO(0<x<2)が使用可能である。使用するSiO粉末は、第1酸化珪素粉末Aの原料として使用したSiO粉末と同一でもよく、異なってもよい。必要に応じて、第2酸化珪素粉末Bをビーズミルなどにより粉砕することにより、粒度調整が行われ得る。
【0067】
上記の第1酸化珪素粉末A及び第2酸化珪素粉末Bを、必要に応じて炭素材料など他の材料とともに混合することにより、負極活物質が得られる。
【0068】
(2)負極活物質から負極活物質スラリーを得るステップ
上記(1)で得られた負極活物質に溶媒が添加される。このとき、必要に応じて、導電剤、バインダー、増粘剤などが添加され得る。負極活物質、導電剤、バインダー、増粘剤などが溶媒中に溶解又は分散することにより、負極活物質スラリーが得られる。
【0069】
(3)負極活物質スラリーから負極を得るステップ
負極活物質スラリーを負極集電体に塗布した後、乾燥及び圧延することにより、負極集電体上に負極活物質層が形成された負極が製造され得る。
【0070】
他の方法として、例えば、上記の負極活物質スラリーを別の支持体上にキャストした後、その支持体から剥離して得られたフィルムを負極集電体上にラミネートすることで負極が製造されてもよい。また、その他の任意の方法を用いて負極活物質層が負極集電体上に形成されてもよい。
【0071】
[正極]
実施形態に係るリチウムイオン二次電池において、正極は、正極集電体及び当該正極集電体の一面上又は両面上に形成された正極活物質層を含む。正極活物質層は、正極集電体の面全体に形成されてもよく、一部のみに形成されてもよい。
【0072】
(正極集電体)
正極に使用される正極集電体は、電池に化学的変化を誘発せず、導電性を有するものであれば、特に制限されない。例えば、正極集電体として、ステンレス鋼;アルミニウム;ニッケル;チタン;焼成炭素;アルミニウム又はステンレス鋼の表面に炭素、ニッケル、チタン、銀などで表面処理したものなどが使用され得る。
【0073】
正極集電体は、3μm以上500μm以下の厚さを有し得る。正極集電体の表面上に微細な凹凸を形成して正極活物質との接着力を高めることもできる。正極集電体は、例えば、フィルム、シート、ホイル、ネット、多孔質体、発泡体、不織布体など多様な形態を有し得る。
【0074】
(正極活物質層)
正極活物質層は、例えば、正極活物質、導電剤、及びバインダーの混合物が溶媒中に溶解及び分散した正極活物質スラリーを正極集電体に塗布した後、乾燥及び圧延することにより形成され得る。上記混合物は、必要に応じて、さらに分散剤や充填材その他の任意の添加剤を含み得る。
【0075】
正極活物質は、正極活物質層の全重量を基準に80重量%以上99重量%以下で含まれ得る。
【0076】
(正極活物質)
正極活物質としては、リチウムの可逆的な挿入(インターカレーション)及び脱離(デインターカレーション)が可能な化合物が使用できる。具体的な例としては、例えば、コバルト、マンガン、ニッケル、銅、バナジウム、アルミニウムなどの1種以上の金属とリチウムとを含むリチウム金属複合酸化物が挙げられる。より具体的には、そのようなリチウム金属複合酸化物として、リチウム-マンガン系酸化物(例えば、LiMnO、LiMnO、LiMn、LiMnなど);リチウム-コバルト系酸化物(例えば、LiCoOなど);リチウム-ニッケル系酸化物(例えば、LiNiOなど);リチウム-銅系酸化物(例えば、LiCuOなど);リチウム-バナジウム系酸化物(例えば、LiVなど);リチウム-ニッケル-マンガン系酸化物(例えば、LiNi1-zMn(0<z<1)、LiMn2-zNi(0<z<2)など);リチウム-ニッケル-コバルト系酸化物(例えば、LiNi1-yCo(0<y<1)など);リチウム-マンガン-コバルト系酸化物(例えば、LiCo1-zMn(0<z<1)、LiMn2-yCo(0<y<2)など);リチウム-ニッケル-マンガン-コバルト系酸化物(例えば、Li(NiCoMn)O(0<x<1、0<y<1、0<z<1、x+y+z=1)、Li(NiCoMn)O(0<x<2、0<y<2、0<z<2、x+y+z=2)など);リチウム-ニッケル-コバルト-金属(M)酸化物(例えば、Li(NiCoMn)O(MはAl、Fe、V、Cr、Ti、Ta、Mg、及びMoからなる群より選択され、0<x<1、0<y<1、0<z<1、0<w<1、x+y+z+w=1)など);これらの化合物中の遷移金属元素が部分的に他の1種又は2種以上の金属元素で置換された化合物などが挙げられる。正極活物質層は、これらのうちいずれか1つ又は2つ以上の化合物を含むことができる。ただし、これらのみに限定されるものではない。
【0077】
とりわけ、電池の容量特性及び安定性の向上の面で、LiCoO、LiMnO、LiMn、LiNiO、リチウムニッケルマンガンコバルト酸化物(例えば、Li(Ni1/3Mn1/3Co1/3)O、Li(Ni0.6Mn0.2Co0.2)O、Li(Ni0.4Mn0.3Co0.3)O、Li(Ni0.5Mn0.3Co0.2)O、Li(Ni0.7Mn0.15Co0.15)O、Li(Ni0.8Mn0.1Co0.1)Oなど)、リチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物(例えば、Li(Ni0.8Co0.15Al0.05)Oなど)などが好ましい。
【0078】
(バインダー及び導電剤)
正極活物質スラリーに使用されるバインダー及び導電剤の種類及び含有量は、負極について説明したものと同様であり得る。
【0079】
(溶媒)
正極活物質スラリーにおいて使用される溶媒は、一般に正極の製造に使用されるものであれば特に制限されない。溶媒の例としては、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などのアミン系溶媒、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒、メチルエチルケトンなどのケトン系溶媒、アセト酸メチルなどのエステル系溶媒、ジメチルアセトアミド、1-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのアミド系溶媒、ジメチルスルホキシド(DMSO)などが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の混合物が用いられ得るが、これらに限定されるものではない。
【0080】
溶媒の使用量は、スラリーの塗布厚さや製造収率を考慮して、正極活物質、導電材、及びバインダーを溶解又は分散させるとともに、正極集電体への塗布時に優れた厚さ均一度を示し得る粘度を有する程度であれば十分である。
【0081】
[正極の製造方法]
実施形態に係るリチウムイオン二次電池用の正極の製造方法は、正極活物質を、必要に応じてバインダー、導電剤、増粘剤などとともに溶媒に溶解又は分散させることにより正極活物質スラリーを得るステップと、負極の製造方法と同様に正極活物質スラリーを正極集電体上に塗布するなどして正極活物質層を正極集電体上に形成することにより正極を得るステップと、を含み得る。
【0082】
[セパレータ]
実施形態に係るリチウムイオン二次電池において、セパレータは、負極と正極とを分離してリチウムイオンの移動通路を提供するものであって、通常リチウムイオン二次電池でセパレータとして使用されるものであれば特に制限なく使用可能である。特に、電解質のイオン移動に対する抵抗が小さく、電解質の含湿能に優れたものが好ましい。例えば、エチレン単独重合体、プロピレン単独重合体、エチレン/ブテン共重合体、エチレン/ヘキセン共重合体、エチレン/メタクリレート共重合体などのポリオレフィン系高分子から製造された多孔性高分子フィルム、又はこれらの2層以上の積層構造体がセパレータとして使用され得る。また、通常の多孔性不織布、例えば高融点のガラス繊維やポリエチレンテレフタレート繊維などから製造された不織布も使用され得る。また、耐熱性又は機械的強度確保のためにセラミック成分又は高分子物質がコーティングされたセパレータが用いられてもよい。
【0083】
[非水電解質]
実施形態に係る非水電解質二次電池において、非水電解質は、二次電池の製造に使用可能な有機系液体電解質、無機系液体電解質などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0084】
非水電解質は、有機溶媒及びリチウム塩を含むことができ、さらに必要に応じて添加剤を含むことができる。以下、液体電解質を「電解液」ともいう。
【0085】
有機溶媒は、電池の電気化学的反応に関与するイオンが移動可能な媒質の役割を果たせるものであれば、特に制限なく使用可能である。有機溶媒の例としては、メチルアセテート、エチルアセテート、γ-ブチロラクトン、ε-カプロラクトンなどのエステル系溶媒;ジブチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶媒;シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒;ベンゼン、フルオロベンゼンなどの芳香族炭化水素系溶媒;ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、メチルエチルカーボネート(MEC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、エチレンカーボネート(EC)、プロピレンカーボネート(PC)などのカーボネート系溶媒;エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどのアルコール系溶媒;R-CN(RはC2からC20の直鎖状、分岐状又は環状構造の炭化水素基であり、二重結合芳香環又はエーテル結合を含んでよい)などのニトリル系溶媒;ジメチルホルムアミドなどのアミド系溶媒;1,3-ジオキソランなどのジオキソラン系溶媒;スルホラン系溶媒などが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の混合物が用いられ得るが、これらに限定されるものではない。特に、カーボネート系溶媒が好ましく、電池の充電/放電性能を高めることができる高いイオン伝導度及び高誘電率を有する環状カーボネート(例えば、エチレンカーボネートやプロピレンカーボネートなど)と、低粘度の直鎖状カーボネート系化合物(例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネートなど)の混合物がより好ましい。この場合、環状カーボネートと鎖状カーボネートは、約1:1~1:9の体積比で混合して用いると、優れた電解質性能を示し得る。
【0086】
リチウム塩は、リチウムイオン二次電池で使用されるリチウムイオンを提供可能な化合物であれば、特に制限なく使用可能である。リチウム塩の例としては、LiPF、LiClO、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlO、LiAlCl、LiCFSO、LiCSO、LiN(CSO、LiN(CSO、LiN(CFSO、LiCl、LiIまたはLiB(Cなどが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の混合物が用いられ得るが、これらに限定されるものではない。当該リチウム塩は、例えば電解質に0.1mol/L以上2mol/L以下の濃度で含まれ得る。リチウム塩の濃度が当該範囲に含まれる場合、電解質が適切な伝導度及び粘度を有するので、優れた電解質性能を示すことができ、リチウムイオンが効果的に移動できる。
【0087】
添加剤は、電池寿命特性の向上、電池容量減少の抑制及び電池放電容量の向上などを目的として、必要に応じて使用可能である。添加剤の例としては、フルオロエチレンカーボネート(FEC)やジフルオロエチレンカーボネート(DFEC)などのハロアルキレンカーボネート系化合物、ピリジン、トリエチルホスファイト、トリエタノールアミン、環状エーテル、エチレンジアミン、n-グリム、ヘキサリン酸トリアミド、ニトロベンゼン誘導体、硫黄、キノンイミン染料、N-置換オキサゾリジノン、N,N-置換イミダゾリジン、エチレングリコールジアルキルエーテル、アンモニウム塩、ピロール、2-メトキシエタノール、三塩化アルミニウムなどが挙げられ、これらのうち1種又は2種以上の混合物が用いられ得るが、これらに限定されるものではない。当該添加剤は、例えば、電解質の総重量に対して0.1重量%以上15重量%以下で含まれ得る。
【0088】
特に、フルオロエチレンカーボネート及びジフルオロエチレンカーボネートは、電極と電解質との界面に被膜を形成する被膜形成剤として働き得る。例えば、フルオロエチレンカーボネート及びジフルオロエチレンカーボネートのうち少なくとも一方を含む場合、珪素系材料を含む負極活物質を使用した負極で珪素系材料とリチウムとが合金化する過程において、良好なSEI被膜が形成されることにより安定した充放電が行われ得る。被膜形成剤の含有量は、例えば、電解質の総重量を基準として、0.1重量%以上15重量%以下であり、好ましくは0.5重量%以上10重量%以下であり、より好ましくは1重量%以上7重量%以下であり得る。当該被膜形成剤は、フルオロエチレンカーボネート及びジフルオロエチレンカーボネートのうち少なくとも一方を含み得る。
【0089】
[非水電解質二次電池の製造方法]
実施形態に係る非水電解質二次電池は、上記のように製造した負極と上記のように製造した正極との間にセパレータ(例えば分離膜)及び電解液を介在させることにより製造することができる。より具体的には、負極と正極との間にセパレータを配置して電極組立体を形成し、当該電極組立体を円筒形電池ケースや角形電池ケースなどの電池ケースに入れた後、電解質を注入して製造することができる。あるいは、上記電極組立体を積層した後、これを電解質に含浸させて得られた結果物を電池ケースに入れて密封して製造することもできる。
【0090】
上記の電池ケースは、当分野で通常用いられるものが採択され得る。電池ケースの形状は、例えば、缶を用いた円筒形、角形、パウチ(pouch)形またはコイン(coin)形などであり得る。
【0091】
実施形態に係るリチウムイオン二次電池は、小型デバイスの電源として用いられ得るだけでなく、多数の電池セルなどを含む中大型電池モジュールの単位電池としても用いられ得る。このような中大型デバイスの好ましい例としては、電気自動車、ハイブリッド電気自動車、プラグインハイブリッド電気自動車、電力貯蔵用システムなどを挙げることができるが、これらのみに限定されるものではない。
【実施例
【0092】
以下、実施例及び比較例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。また、以下に記載されるメカニズムは、単に本願の理解を補助するための例示的な推測であり、何ら本発明を限定するものではない。
【0093】
[実施例1]
(負極の製造)
熱ドープによりアモルファスのSiO粉末にリチウムがドープされた酸化珪素粉末を準備した(第1酸化珪素粉末A)。第1酸化珪素粉末Aを構成する粒子の平均粒径は7.0μmであった。誘導結合プラズマ発光分光分析法により測定したリチウムの含有量は、第1酸化珪素粉末Aの全体重量を基準として6重量%であった。第1酸化珪素粉末AのX線回折(XRD)測定を行ったところ、2θ=28.4°付近に珪素Siの(111)面の回折ピークが観察された。シェラーの式を用いて当該(111)ピークから計算した珪素微結晶の結晶子サイズは、約9nmであった。この他、XRDパターンには主にLiSiO及びLiSiに帰属されるピークが観測された。
【0094】
アモルファスのSiO粉末(Sigma Aldrich製)をビーズミルにより粉砕して、ドープが行われていない酸化珪素粉末を準備した(第2酸化珪素粉末B)。第2酸化珪素粉末Bを構成する粒子の平均粒径は1.6μm、粒度分布の下限値は0.3μm、粒度分布の上限値は6.0μmであった。第2酸化珪素粉末BのXRDパターンを測定したところ、結晶相を示す回折ピークは観察されなかった。
【0095】
第1酸化珪素粉末A及び第2酸化珪素粉末Bを、重量比が5:5となるように混合し、負極活物質粉末を得た。85重量部の負極活物質粉末に対して、導電剤として5重量部のカーボンブラック、バインダーとして10重量部のポリアクリル酸を添加し、溶媒として純水を加えて混合し、負極活物質スラリーを得た。この負極活物質スラリーを銅箔に塗布し、真空乾燥し、所定の密度になるようにプレスして、負極を得た。
【0096】
(電池の製造)
得られた負極の対極(すなわち正極)として金属リチウムを使用し、コイン電池(ハーフセル)を製造した。
【0097】
[実施例2]
第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bとの重量比を8:2としたことを除き、実施例1と同様にしてコイン電池を製造した。
【0098】
[実施例3]
実施例1と同様に、第1酸化珪素粉末A及び第2酸化珪素粉末Bを、重量比が5:5となるように混合し、混合粉末を得た。この混合粉末に対し、当該混合粉末と天然黒鉛との重量比が1:9となるように、天然黒鉛を加えて混合し、負極活物質粉末を得た(すなわち、第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bと天然黒鉛との重量比を0.5:0.5:9とした)。96重量部の負極活物質粉末に対して、導電剤として1.0重量部のカーボンブラック、バインダーとして1.5重量部のスチレンブタジエンゴム(SBR)、増粘剤として1.5重量部のカルボキシメチルセルロース(CMC)を添加し、溶媒として純水を加えて混合し、負極活物質スラリーを得た。この負極活物質スラリーを銅箔に塗布し、真空乾燥し、所定の密度になるようにプレスして、負極を得た。この負極の対極(すなわち正極)として金属リチウムを使用し、コイン電池を製造した。
【0099】
[実施例4]
第1酸化珪素粉末Aの平均粒径が4.2μmとなるように調製して用いたこと以外は実施例1と同様にしてコイン電池を製造した。
【0100】
[実施例5]
第2酸化珪素粉末Bの平均粒径が0.8μmとなるように調製して用いたこと以外は実施例1と同様にしてコイン電池を製造した。
【0101】
[比較例1]
第2酸化珪素粉末Bを用いず第1酸化珪素粉末Aのみを用いた(すなわち、第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bとの重量比を10:0とした)ことを除き、実施例1と同様にしてコイン電池を製造した。
【0102】
[比較例2]
第1酸化珪素粉末Aを用いず第2酸化珪素粉末Bのみを用いた(すなわち、第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bとの重量比を0:10とした)ことを除き、実施例1と同様にしてコイン電池を製造した。
【0103】
[比較例3]
第2酸化珪素粉末Bを用いず第1酸化珪素粉末Aのみを天然黒鉛と混合した(すなわち、第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bと天然黒鉛との重量比を1:0:9とした)ことを除き、実施例3と同様にしてコイン電池を製造した。
【0104】
[比較例4]
第1酸化珪素粉末Aを用いず第2酸化珪素粉末Bのみを天然黒鉛と混合した(すなわち、第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bと天然黒鉛との重量比を0:1:9とした)ことを除き、実施例3と同様にしてコイン電池を製造した。
【0105】
[比較例5]
第1酸化珪素粉末Aの平均粒径が18μmとなるように調製して用いたこと以外は実施例1と同様にしてコイン電池を製造した。
【0106】
[比較例6]
第2酸化珪素粉末Bの平均粒径が5μmとなるように調製して用いたこと以外は実施例1と同様にしてコイン電池を製造した。
【0107】
[評価例1:初期充放電特性]
各実施例及び各比較例により製造されたコイン電池に対して、0.2Cの定電流で、カットオフ電圧を1.5Vとして充放電を行った。この最初の充放電過程における放電容量を各実施例及び比較例で使用した負極活物質粉末の重量(g)で割った値として、「初期容量」を以下のように定義する。
【数1】
【0108】
また、この最初の充放電過程における充放電効率(以下、「初期効率」という)を次式で定義する。
【数2】
【0109】
[評価例2:容量維持率]
各実施例及び各比較例により製造されたコイン電池に対して、評価例1において実施した最初の充放電過程に続けて、同じ条件でもう1回充放電を行った後、0.5Cの定電流で同様の充放電を48回繰り返した。すなわち、1回目及び2回目の充放電過程と合わせて合計50回の充放電過程を繰り返した。この繰り返し充放電における容量維持率を次式で定義する。
【数3】
【0110】
各実施例及び各比較例により製造された各コイン電池について計算した初期容量、初期効率、及び容量維持率は、以下のとおりであった。なお、下記表には第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bとの重量比(「A:B」欄及び「B/A」欄)及び酸化珪素粉末と天然黒鉛との重量比(「酸化珪素:黒鉛」欄)も併記した。
【表1】
【0111】
まず、天然黒鉛を使用しなかった実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2を比較する。初期容量は、第1酸化珪素粉末Aのみを用いた比較例1で最も小さく(1355mAh/g)、第1酸化珪素粉末Aに対する第2酸化珪素粉末Bの比率が増加するにつれて増加した。一方、初期効率は、第2酸化珪素粉末Bのみを用いた比較例2で最も小さく(75.4%)、第1酸化珪素粉末Aに対する第2酸化珪素粉末Bの比率が減少するにつれて増加した。また、容量維持率を比較すると、初期容量と同様に、第1酸化珪素粉末Aのみを用いた比較例1で最も小さく(71.3%)、第1酸化珪素粉末Aに対する第2酸化珪素粉末Bの比率が増加するにつれて増加した。
【0112】
このように、第1酸化珪素粉末Aのみを用いた比較例1では、初期効率は高いものの初期容量及び容量維持率が小さかった。また、第2酸化珪素粉末Bのみを用いた比較例2では、初期容量及び容量維持率は大きいものの初期効率が低かった。このため、第1酸化珪素粉末A及び第2酸化珪素粉末Bのいずれか一方のみを用いた比較例1及び比較例2では、高い初期効率と優れた放電容量及び容量維持率とを両立させることができなかった。
【0113】
これに対し、第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bとを含む実施例1及び実施例2では、初期容量、初期効率、及び容量維持率のいずれかが極端に悪いということがなく、高い初期効率と優れた放電容量及び容量維持率とをバランスよく両立させることができた。
【0114】
図1は、天然黒鉛を使用しなかった実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2について、第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bとの重量比(A:B)に対して初期容量(○)、初期効率(△)、及び容量維持率(□)をプロットした図である。図1に示すように、A:Bに対する初期容量(○)及び初期効率(△)のグラフは、ほぼ直線となった。すなわち、初期容量は、A:Bが10:0から0:10まで変化するにつれてほぼ線形に増加し、初期効率は、A:Bが10:0から0:10まで変化するにつれてほぼ線形に減少した。一方、A:Bに対する容量維持率のグラフ(□)は、単純な比例関係を示さず、上の凸の曲線となった。すなわち、容量維持率は、第1酸化珪素粉末Aに第2酸化珪素粉末Bを少量添加しただけでも、酸化珪素粉末Aのみを負極活物質として用いた比較例1から急激に改善された。例えば、重量比A:Bが5:5である実施例1は、サイクル劣化をもたらし得る第1酸化珪素粉末Aが負極活物質の半量を占めるにもかかわらず、第1酸化珪素粉末Aのみを負極活物質として用いた比較例1の容量維持率(71%)に比べて遥かに高い96%の容量維持率を示した。この結果は、第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bとを混在させることにより、何らかの相乗効果で、期待される以上の容量維持率が実現されたことを示唆するものである。
【0115】
上記の相乗効果については、例えば以下のようなメカニズムが考えられる。ただし、以下は単に本願の理解を補助するための例示的な推測であり、何ら本発明を限定するものではない。
【0116】
各実施例では、第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bとが混在している。リチウムがドープされた第1酸化珪素粉末Aに比べて、ドープが行われていない第2酸化珪素粉末Bは、リチウム吸蔵能力が高いので、素早くリチウムを吸蔵して合金化することができると推測される。この合金化により第2酸化珪素粉末Bの抵抗が低下し、この第2酸化珪素粉末Bを起点として隣接する第1酸化珪素粉末Aにもリチウムがスムーズに拡散するものと考えられる。このようにして、第1酸化珪素粉末Aの表面抵抗が実質的に低下することにより、充放電過程が円滑になり、寿命特性の向上に寄与するものと推測される。
【0117】
また、第2酸化珪素粉末Bを構成する粒子の平均粒径が第1酸化珪素粉末Aを構成する粒子の平均粒径より小さい場合には、サイズの大きな第1酸化珪素粉末A同士の隙間に小さな第2酸化珪素粉末Bが容易に入り込むことができる。これにより、負極活物質全体の密度、ひいては重量あたりの充放電容量の値が増加し得る。さらに、第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bとの実質的な接触面積が増加して、リチウムの拡散、すなわち電池の充放電が一段とスムーズになり、寿命特性が向上し得ると考えられる。
【0118】
次に、天然黒鉛を使用した実施例3、比較例3、及び比較例4を比較する。天然黒鉛を使用しなかった場合と同様に、初期容量及び容量維持率は、第1酸化珪素粉末Aのみを用いた比較例3で最も小さく(464mAh/g、92.7%)、第1酸化珪素粉末Aに対する第2酸化珪素粉末Bの比率が増加するにつれて増加した。一方、初期効率は、第2酸化珪素粉末Bのみを用いた比較例4で最も小さく(86.9%)、第1酸化珪素粉末Aに対する第2酸化珪素粉末Bの比率が減少するにつれて増加した。
【0119】
図2は、天然黒鉛を使用した実施例3、比較例3、及び比較例4について、図1と同様に第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bとの重量比(A:B)に対して初期容量(○)、初期効率(△)、及び容量維持率(□)をプロットした図である。天然黒鉛を使用しなかった場合と同様に、A:Bに対する初期容量(○)のグラフは、ほぼ直線となった。すなわち、初期容量は、A:Bが10:0から0:10まで変化するにつれてほぼ線形に増加した。一方、A:Bに対する容量維持率(□)のグラフは、天然黒鉛を使用しなかった場合と同様に、単純な比例関係を示さず、上の凸の曲線となった。すなわち、容量維持率は、第2酸化珪素粉末Bの添加により、酸化珪素粉末Aのみを負極活物質として用いた比較例3から急激に改善された。したがって、天然黒鉛を使用した場合においても、第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bとを混在させることにより、期待される以上の容量維持率の向上が見られた。
【0120】
さらに、天然黒鉛を使用しなかった場合とは異なり、A:Bに対する初期効率(△)のグラフも単純な比例関係を示さず、上の凸の曲線となった。すなわち、初期効率は、第1酸化珪素粉末Aに第2酸化珪素粉末Bを添加してもA:Bに対して直線的に減少せず、より緩やかな減少を示した。言い換えれば、初期効率は、第2酸化珪素粉末Bに第1酸化珪素粉末Aを添加することにより、第2酸化珪素粉末Bのみを負極活物質として用いた比較例4から急激に改善された。この結果は、炭素材料の存在下で第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bとを混在させることにより、さらなる相乗効果が働き、期待される以上の初期効率が実現されたことを示唆するものである。
【0121】
炭素材料の存在による上記の効果については、例えば以下のようなメカニズムが考えられる。ただし、以下は単に本願の理解を補助するための例示的な推測であり、何ら本発明を限定するものではない。
【0122】
炭素材料の添加により高い初期効率が得られた理由は、酸化珪素と比較して充放電による体積変化が少ない黒鉛などの炭素材料を混合することにより、最も充電による変化が大きい初回充電時における電極の体積変化が、酸化珪素だけを負極活物質として用いた場合よりも小さくなるためであると考えられる。また、容量維持率の向上については、炭素材料の変形しやすさ及び高い電子伝導性に起因するものと考えられる。すなわち、酸化珪素は硬質であり、電極をプレスしても変形しないため、負極活物質が酸化珪素だけの場合には、粒径差のある第1酸化珪素粉末Aと第2酸化珪素粉末Bとを混合した場合であっても電極内の一部に伝導パスが途切れるような空隙が生じやすい。これに対し、柔らかく、プレスによって容易に変形する黒鉛、特に天然黒鉛を混合した場合には、上記のような空隙が大幅に減少すると推測される。また、高い電子伝導性を有する天然黒鉛が相対的に電子伝導性が低い酸化珪素に密着することにより、天然黒鉛は、酸化珪素へのリチウムイオンの挿入・脱離を円滑にする役割を果たすと推測される。このため、炭素材料の添加により、初回充電時だけでなく、寿命特性すなわち容量維持率も高めることができるものと考えられる。
【0123】
なお、天然黒鉛を使用しなかった実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2と天然黒鉛を使用した実施例3、比較例3、及び比較例4とでは、使用されるバインダー及び増粘剤の種類が異なるが、これは単に天然黒鉛の使用の有無に応じて適当なバインダー及び増粘剤を選択したためである。この違いは、電池の初期容量、初期効率、及び容量維持率に大きな影響を及ぼすものではない。
【0124】
実施例4及び5も実施例1と同様に比較例1と比べて初期容量、寿命(容量維持率)の面で良好であるが、A、Bそれぞれ粒子サイズが小さくなることにより初期効率がやや低下する。比較例5のようにAの粒子サイズが大きくなると、膨張による電極崩壊が初回充放電時から起こるため、Bを添加しても粒子間の導電パスが得られなくなり、著しく寿命特性が低下する。比較例6のようにBの粒子サイズが大きくなると粒子間の空隙を均一に埋めることが難しくなると同時に、B自体の膨張による電極劣化も実施例1と比較すると大きくなるため、寿命劣化が起こる。
図1
図2