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特許7556788生体分子送達又は吸着システムとして使用するためのフィチン酸塩
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  • 特許-生体分子送達又は吸着システムとして使用するためのフィチン酸塩 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】生体分子送達又は吸着システムとして使用するためのフィチン酸塩
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/39 20060101AFI20240918BHJP
   A61K 9/10 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 47/24 20060101ALI20240918BHJP
   A61K 47/34 20170101ALI20240918BHJP
【FI】
A61K39/39
A61K9/10
A61K47/24
A61K47/34
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020556759
(86)(22)【出願日】2019-04-10
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-26
(86)【国際出願番号】 EP2019059078
(87)【国際公開番号】W WO2019201701
(87)【国際公開日】2019-10-24
【審査請求日】2022-04-06
(31)【優先権主張番号】18167427.6
(32)【優先日】2018-04-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】506352278
【氏名又は名称】クローダ インターナショナル パブリック リミティド カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100108903
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 和広
(72)【発明者】
【氏名】ラウラン ドロクス
(72)【発明者】
【氏名】イーレク リンブラズ
【審査官】春日 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-500319(JP,A)
【文献】特開2000-026109(JP,A)
【文献】New Journal of Chemistry,2008年,Vol.32,p.1326-1330
【文献】Journal of Surgical Rsearch,2004年,Vol.121, No.1,p.1-4
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィチン酸(IP6)と2価カチオンとの塩又はフィチン酸(IP6)と有機ポリカチオンとの塩を含んでなる微粒子において、当該2価カチオンがマグネシウムカチオン(Mg 2+ )であるか又はマグネシウムカチオン(Mg 2+ )とカルシウムカチオン(Ca 2+ )との混合物であり、フィチン酸(IP6):2価カチオンの化学量論比が1:3~1:8である、少なくとも0.5μmであり最大2μmの粒子サイズを有する微粒子。
【請求項2】
前記有機ポリカチオンがポリ-L-リシンである、請求項1に記載の微粒子。
【請求項3】
前記フィチン酸のマグネシウム塩が、蒸留水において測定される場合、少なくとも-20mV、少なくとも-25mV、少なくとも-30mV又は少なくとも-35mVのゼータ電位を有する、請求項1に記載の微粒子。
【請求項4】
前記フィチン酸のマグネシウム塩が、蒸留水においてpH7.0で測定される場合、少なくとも-28mVのゼータ電位を有する、請求項1に記載の微粒子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フィチン酸塩、及び1又は2以上の多価カチオンM2+、M3+又は有機ポリカチオンを含むミネラル微粒子に関する。より具体的には、本発明は、生体分子送達又は吸着システムへの使用のための、例えばワクチンアジュバントとして使用するためのそのようなミネラル微粒子を提供する。
【背景技術】
【0002】
ミネラルアジュバントは、例えばリン酸アルミニウム、水酸化アルミニウム及びリン酸カルシウムを含む、アルミニウム含有アジュバントは、死滅された、不活性化された及びサブユニット抗原に対する免疫応答を増強するために何十年にもわたって都合良く使用されて来た。
【0003】
アルミニウムアジュバントは現在、獣医用ワクチン及びヒトワクチンの両方で最も広く使用されるアジュバントである。リン酸カルシウムはまた、市販の獣医用ワクチンにおけるアジュバントとして限られた範囲でしか使用されて来なかったが、しかしパスツール研究所により商品化された、シフテリア、破傷風、百日咳菌及びポリオに対するワクチンのアジュバントとして使用されて来た(Relyveld, 1986; Coursaget et al., 1986)。リン酸カルシウムは、パスツール研究により約25年間、IPADシリーズのワクチンにおけるアジュバントとしても使用した。さらに、リン酸カルシウムは、HIV由来のgp160抗原を用いた実験ワクチンにおけるアジュバントとして試験されている(Relyveld and Chermann, 1994)。
【0004】
水酸化アルミニウム及びリン酸カルシウムの両方は、アレルギー患者の低感作のための市販の吸着アレルゲン製剤におけるアジュバントとして使用されて来た(Relyveld et al., 1985)。アレルギー患者は、肥満細胞の脱顆粒化及びアナフィラキシーを引起す可能性がある、抗原特異的IgE型抗体を一部、進行せしめるので、本出願は特に興味深いものである。
【0005】
リン酸カルシウムアジュバントに関しては、文献データは、このアジュバントがIgE抗体の有意な刺激をもたらさないことを示唆している。Vassilev (Vassilev, 1978)は、破傷風トキソイドを抗原として用いて、リン酸アルミニウム又はリン酸カルシウムのいずれかによる2回の免疫化の後、モルモットにおける受動的皮膚アナフィラキシー(PCA)の点で反応を比較した。リン酸カルシウムにより治療されたモルモットは、Alアジュバントワクチンを受けたグループと比較して、わずかなIgE力価を有したことが見出された。しかしながら、この分野の研究は少なく、そしてリン酸カルシウムによる免疫化の後のインターロイキンプロファイルに関するデータは、そのような差異の背後にあるメカニズムの可能性ある根本的な差異を説明するために存在しない。
【0006】
アルミニウムベースのアジュバントと、カルシウムベースのアジュバントとの間の主な差異は、アジュバント接種物のインビボでの除去及び分解生成物の代謝運命にある。リン酸カルシウムの分解に基づいて、その2つの成分はそれぞれ、Ca2+及びPO 3-の通常の代謝経路で再利用され、ところがZn2+及びMg2+のような他の金属イオンとは対照的に、アルミニウムは通常の代謝において必須の微量元素又は補酸素として、明らかに機能しない。
【0007】
アジュバントへの抗原の結合の強さ及び性質は、抗原がその周囲の生理学的環境にその遊離形で放出される代わりに、粒子形(アジュバント粒子に結合される)で提示される確立を条件付けるので、別の重要なパラメーターである。実際のところ、ワクチンは一般的に、免疫原性が低いことが知られており、そしてアジュバントを添加する必要があるので、これは高い分散定数を有する小さな可溶性のペプチドに特に関連する可能性がある〔Li, W., Joshi, M. D., Singhania, S., Ramsey, K. H., & Murthy, A. K. (2014). Peptide vaccine: progress and challenges. Vaccines, 2(3), 515-536.〕。
【0008】
アジュバント効力の別の側面は、粒子サイズに関連している可能性がある。例えば、より小さなサイズのアルミニウム含有粒子は、より小さな粒子が最も近い求心性リンパ節に輸送され得るので、特に抗原特異的抗体応答を誘発するために、より大きな粒子に比較して、良好に機能することは、以下により示されている:Morefield et al. (Morefield G.L. et al., Role of aluminum-containing adjuvants in antigen internalization by dendritic cells in vitro, Vaccine, 2005) 及びLi et al. (Li X. et al., Aluminum hydroxide nanoparticles show a stronger vaccine adjuvant activity than traditional aluminum hydroxide micro-particles, J. Control. Release, 2014)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、理想的には、無視できる副作用を発生し、最適な粒子サイズ及び抗原結合強度を有し、そしてアジュバントの単位当たりの高い抗原用量を可能にする代替のアジュバントを開発する必要がある。これは、同じ用量の抗原に対するアジュバントの負荷の削減を潜在的に可能にし、それにより、製造コストの削減につながる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、ミネラル微粒子が生体分子送達又は吸着システムとして使用するための多価カチオンM2+及びM3+又は有機ポリカチオンを含む1又は2以上のフィチン酸(IP6)塩を含み、そしてそれらのIP6-M微粒子が、ヒドロキシリン酸アルミニウムアジュバント粒子に比較して、同等の又は改善された抗原結合性質を有することを見出した。
【0011】
フィチン酸(イノシトールヘキサホスフェート、IP6)は、イノシトールのリン酸エステルであり、ここでイノシトールにおける6つのヒドロキシ基のそれぞれがオルトリン酸の分子によりエステル化されている。オリトリン酸は三塩基酸であり、そしてわずか1つの水素がイノシトールのエステル化において影響を受けるので、リン酸の各分子は依然としてニ塩基酸として機能する。現在、エステルにおけるイノシトールと関連するそれらのリン酸分子が6つあるので、エステルはドデカバシン酸として機能する。このようにして、フィチン酸は、金属及び他の陽イオンが全ての12個の水素原子を置換する限界まで、酸中の水素を種々の程度、置換できる塩を形成できる。従って、2価の金属(M)イオンにより沈殿するフィチン酸(Phy)に関しては、理論的限界はPhyMである。しかしながら、2価の金属イオンが他の陰イオンと共沈する場合、フィチン酸塩は、フィチン酸分子当たり6つの2価の金属イオン、例えばPhyMX 又は PhyMを含むことができる。
【0012】
フィチン酸は、多価カチオン(例えば、M2+及びM3+)及び有機ポリカチオンと不溶性塩を形成することは以前に示されている。それらの不溶性塩は粒子状物質を形成し、これは、現在アジュバントとして使用される古典的なアルミニウム塩粒子の可能な代替物であるとして、本発明者により見出された。
【0013】
従って、本発明のミネラル微粒子は、ヒドロキシリン酸アルミニウムアジュバント粒子について測定されたものと同等か又はそれよりも大きい負のゼータ電位を示す。これは、IP6-M粒子が正に荷電された抗原又は免疫増強剤の吸着に十分に適していることを示唆する。
【0014】
本発明の文脈におけるフィチン酸塩は、1又は2以上の異なる多価金属(M)カチオン、例えばCa2+、Mg2+又はCa2+及びMg2+の両方を含むことができる。フィチン酸塩はまた、1又は2以上の有機ポリカチオン、例えばポリ-L-リシン及び/又は脱アシル化ポリ-D-グルコサミン(別名キトサン)も含むことができる。本発明のフィチン酸塩を含む組成物、例えばアジュバント組成物は、フィチン酸塩より多くを含むことができる。
【0015】
フィチン酸の1つの利点は、ワクチンの製造のために必要とされる熱滅菌に耐える能力である。リン酸基とイノシトールのアルコールとの間のホスホエステル結合は、そのようなアジュバント製造のために使用されるオートクレービング条件の間の加水分解に対して耐性であり、遊離オルトホスフェート及びイノシトールホスフェートの一部のみを放出する。
【0016】
さらに、本発明者は、本発明のミネラル微粒子が、正に荷電された生体分子、又は正の電荷のパッチを有する生体分子のための結合性質、より具体的には、抗原結合性質を高めることを見出した。この特性は、おそらく、正に荷電された生体分子、例えば抗原の前記ミネラル微粒子の表面への高められた引力により引起され、高められた吸着用量及び/又は結合強度、すなわち高められた会合定数をもたらす。これを考慮して、本発明の修飾ミネラル微粒子は、例えば改善されたワクチンアジュバントとして使用され得る。
【0017】
従って、第1の側面によれば、生体分子送達又は吸着システムとして、特にワクチンアジュバントとして使用するための多価カチオンM2+及びM3+又は有機ポリカチオンを含む1又は2以上のフィチン酸(IP6)塩を含むミネラル微粒子が提供される。
【0018】
第2の側面によれば、前記第1の側面のミネラル微粒子の製造方法が提供される。
【0019】
第3の側面によれば、前記第2の側面の製造方法により得られるミネラル微粒子が提供される。
【0020】
第4の側面によれば、前記第1の側面のミネラル微粒子を含むアジュバント組成物が提供される。
【0021】
第5の側面によれば、前記第4の側面のアジュバント組成物が、ワクチン組成物を形成するために、1又は2以上の抗原と組合される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1図1は、IP6-Mg沈殿物についてのK-殻エネルギーのEDXSスペクトルを示す。
【0023】
図2図2は、IP6-Ca沈殿物についてのK-殻エネルギーのEDXSスペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
定義:
特にことわらない限り、本明細書に使用される全ての技術的及び科学的用語は、本発明が属する当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。本明細書に記載されているものと類似又は同等の任意の方法及び材料は、本発明の試験の実施に使用され得るが、好ましい方法及び材料が現在、記載されている。
【0025】
本明細書及び添付の請求の範囲において、単数形「a」及び「an」及び「the」は、文脈が明確に他を指示しない限り複数形の参照を含む。
【0026】
本明細書で使用される場合、用語「含んでいる(comprising)」、「含む(comprises )」及び「から構成される(comprised of )」とは、「含んでいる(including)」、「含む(includes)」、「含んでいる(containing)及び「含む(contains)」と同義であり、そして包括的又はオープンエンドであり、そして追加の列挙されていないメンバー、要素又は方法の工程を除外しない。
【0027】
用語「含んでいる(comprising)」、「含む(comprises )」及び「から構成される(comprised of )」はまた、用語「から成る(consisting of)」も含む。
【0028】
本明細書において使用される用語「約」とは、測定できる値、例えばパラメーター、量、持続時間などを言及する場合、変動が開示された発明において実施するのに適切である限り、特定の値の及び特定の値から+/- 10%以下、好ましくは+/- 5%以下、より好ましくは+/- 1%以下、さらにより好ましくは+/- 0.1%以下の変動を包含することを意味する。修飾子「約」が参照する値は、その自体も具体的に、好ましくは開示されることが理解されるべきである。
【0029】
エンドポイントによる数値範囲の列挙は、それぞれの範囲内に含まれる全ての数値及び分数、及び列挙されたエンドポイントを含む。
【0030】
以下の節においては、本発明の異なる側面又は実施形態が、より詳細に定義される。そのように定義された各側面又は実施形態は、反対に明確に示されない限り、他の任意の側面又は実施形態と組合わされ得る。特に、好ましい又は有利であることを示される任意の特徴は、好ましい又は有利であるとして示される他の任意の特徴又は複数の特徴と組合わされ得る。
【0031】
本明細書を通して「1つの実施形態(one embodiment)又は(an embodiment)」への言及は、実施形態に関連して記載される特定の特徴、構造又は特性が、本発明の少なくとも1つの実施形態に含まれることを意味する。従って、本明細書全体の種々の場所での句「1つの実施形態(in one embodiment)又は(an embodiment)」の出現は、必ずしも全てが同じ実施形態を指すとは限らないが、そうであり得る。さらに、特定の特徴、構造又は特性は、1又は2以上の実施形態において、本開示から当業者に明らかであるように、任意の適切な態様で組合わされ得る。
【0032】
本出願の文脈において、「M」は金属原子を示し、そしてM2+及びM3+は、二価及び三価の金属カチオンの例を示す。
【0033】
本発明は、多価の金属カチオンM2+、M3+又は有機ポリカチオンを含む1又は2以上のフィチン酸(IP6)塩を含むミネラル微粒子に関する。それらのスチン酸塩含有ミネラル微粒子の生体分子結合性質は、好ましくは、前記生体分子がワクチン抗原である場合、典型的なリン酸塩含有ミネラル微粒子と比較して、同等か又は改善されたことが見出された。特に、リン酸イオン又は水酸化物イオンのフィチン酸塩イオンによる(正式な)置換は、前記微粒子のζ-(ゼータ-)電位の数値を高め、それにより、生体分子、好ましくは抗原の誘引のための静電電位の強度、及び前記微粒子の表面への結合強度を高めることが示された。
【0034】
従って、本発明のミネラル微粒子は、ヒドロキシリン酸アルミニウムアジュバント粒子について測定されたものと同様の又は数値的に大きな負のゼータ電位を示し、これは、IP6-M粒子が正の荷電された抗原又は免疫増強剤の吸着のために非常に適していることを強く示している。
【0035】
フィチン酸(イノシトールヘキサホスフェート、IP-6)は、多価カチオン(例えば、M2+及びM3+)、及び有機ポリカチオンと実質的に不溶性の塩を形成することが以前に示されている。それらの不溶性塩は、本発明者により、現在アジュバントとして使用される古典的なアルミニウム塩粒子の代替物であると仮定された。
【0036】
フィチン酸塩をアジュバントとして使用することの1つの利点は、ワクチンの製造のために必要とされる、その熱安定性及び熱滅菌に対する耐性である。リン酸基とイノシトールのヒドロキシ基との間のホスホエステル結合は、そのようなアジュバントの製造のために使用されるオートクレービング条件の間の加水分解に対して耐性であり、遊離オルトホスフェート及びイノシトールリン酸の一部のみを放出する。
【0037】
本発明の文脈におけるフィチン酸塩は、1又は2以上の異なる多価金属(M)カチオン、例えばCa2+、Mg2+又はCa2+及びMg2+の両方を含むことができる。フィチン酸塩はまた、1又は2以上の有機ポリカチオン、例えばポリ-L-リシン及び/又は脱アシル化ポリ-D-グルコサミン(別名キトサン)も含むことができる。本発明のフィチン酸塩を含む組成物、例えばアジュバント組成物は、フィチン酸塩より多くを含むことができる。
【0038】
従って、第1の側面によれば、生体分子送達又は吸着システムとして使用するための多価カチオンM2+及びM3+又は有機ポリカチオンを含む1又は2以上のフィチン酸(IP6)塩を含むミネラル微粒子が提供される。
【0039】
1つの実施形態によれば、前記多価カチオンは、二価のアルカリ土類金属イオンである。
【0040】
1つの実施形態によれば、前記多価カチオンは、有機ポリカチオンである。
【0041】
別の実施形態によれば、前記有機ポリカチオンは、ポリ-L-リシン及び/又は脱アシル化ポリ-D-グルコサミン(別名キトサン)から選択される。
【0042】
別の実施形態によれば、前記ニ価のアルカリ土類金属イオンは、Ca2+及びMg2+、又はそれらの混合物から選択される。
【0043】
特定の実施形態によれば、前記ミネラル微粒子は、フィチン酸カルシウム微粒子である。
【0044】
別の特定の形態によれば、前記ミネラル微粒子は、フィチン酸マグネシウム粒子である。
【0045】
別の実施形態によれば、本発明のミネラル微粒子は、フィチン酸塩以外の少なくとも1つのアニオンを含む。
【0046】
好ましい実施形態によれば、本発明のミネラル微粒子は、ワクチンアジュバントとして有用である。
【0047】
本発明の別の利点は、フィチン酸塩と多価カチオン及びそれらの混合物との多数の可能な組合せにあり、そのフィチン酸塩は、1、2又はそれ以上の同一の又は異なる多価カチオンと相互作用できる6つのリン酸基を有するため、これは異なる化学量論比で形成される可能性がある。得られるミネラル微粒子はさらに、異なる粒子サイズで沈殿又は後処理され得る。従って、本発明のミネラル微粒子は、異なる抗原のためのアジュバントとして理想的に一致するよう、生体分子送達又は吸着システムとしてオーダーメイドされ得る。
【0048】
第2の側面によれば、フィチン酸(IP6)又はその可溶性塩を、多価カチオンの可溶性塩、例えばCacl又はMgClのようなニ価のアルカリ土類金属イオンの可溶性塩と、又はポリ-L-リシンのような可溶性有機カチオンとを混合することを含む、第1の側面のミネラル微粒子の製造方法が提供される。得られる沈殿物は、遠心分離又は濾過により単離され、そして脱イオン水によりすすがれる。
【0049】
本発明の第2の側面の微粒子は、得られる沈殿物が必ずしも理論的な化学量論比に一致する組成を有するとは限らないので、正確で客観的な用語で説明することは困難である。さらに、反応条件のわずかな変化が、微粒子の結晶化度及び/又は粒子サイズに影響を与える可能性がある。しかしながら、実験は、ミネラル微粒子は、記載される手順に従うことにより、実質的に同一の性能/ゼータ電位により繰り返して得られることを示す。従って、ミネラル微粒子は、本明細書に記載される前記製造方法の生成物として最も正確に記載されている。
【0050】
従って、第3の側面によれば、第2の側面の製造方法により得ることができるミネラル微粒子が提供される。
【0051】
第4の側面によれば、第1又は第3の側面のミネラル微粒子を含むアジュバント組成物が提供される。
【0052】
1つの実施形態によれば、前記アジュバント組成物は、ニ価のアルカリ土類金属イオンを含む。
【0053】
別の実施形態によれば、前記アジュバント組成物は、Ca2+及びMg2+又はそれらの混合物から選択されてアルカリ土類金属イオンを含む。
【0054】
特定の実施形態によれば、前記アジュバント組成物は、フィチン酸カルシウム微粒子を含む。
【0055】
特定の実施形態によれば、本明細書で教示されるミネラル微粒子は、それらの高められた抗原結合能力の結果として、高められた抗原吸着能力を有することができる。それらの高められた抗原吸着能力は、従来技術で利用可能であるそれらと比較して、より多くの感染性病原体からの抗原を含むことができる組合せワクチンの製造を可能にする。アジュバントのタンパク質吸着能力は、種々の分析方法を用いて測定され得る。例えば、アジュバントへの吸着の前後、抗原溶液の水性相中のタンパク質含有量を比較することにより(Lindblad E., Aluminum compounds for use in vaccines, Immunology and Cell Biology, 2004,82:497-505)、又は所望の抗原に対して特異的な抗体が利用可能である場合、吸着、すなわちタンパク質吸着能力は、定量的免疫電気泳動又は単一放射状免疫拡散のいずれかを用いることにより、免疫沈澱技術を用いて測定され得る。抗体を使用しないで、それは、分光光度法により試験され得る(Lindblad E., Aluminum compounds for use in vaccines, Immunology and Cell Biology, 2004,82:497-505)。
【0056】
第5の側面によれば、第4の側面のアジュバント組成物は、ワクチン組成物を形成するために、1又は2以上の抗原と組合される。
【0057】
本明細書で使用される場合、用語「微粒子」とは、少なくとも0.01μm及び最大で5μm又は最大で2μmの公称サイズを有する粒子を指す。本発明の微粒子は、好ましくは、500nm~1μmの公称サイズ及び本明細書の他の場所で定義されたような公称ζ電位を有する。微粒子は種々の形状を有することができ、そして例えば、球形、円錐形、楕円形、複雑な形状、円筒形又は立方体であり得る。さらに、微粒子のコレクション内の微粒子は、全て同じサイズ又は形状を有しているとは限らない。
【0058】
本明細書で使用される場合、用語「静電電位」、「電位」又は「V」とは、当業者により理解されるようなこの用語の一般的意味、及び特に、荷電実体の位置エネルギー、特に陽子、分子の近くの特定の位置上の電子又はイオンを示し、そして単位電荷当たりのエネルギー(q)(V=U/q)として定義され得る。静電電位は、ジュール/クーロン又はボルトの単位で表され得る。静電電位は、例えば1つの電位Vから別の電位Vに電荷を移動させるのに必要とされるエネルギーを予測及び/又は計算するために使用され得る。
【0059】
本明細書に使用される場合、用語「ゼータ電位」又は「ζ-電位」とは、流体に懸濁された微粒子の相対電荷の尺度を説明する。より具体的には、ゼータ電位は、粒子の物理的表面、いわゆる拡散層(いわゆる滑り面)の境界から特定の距離にある中間電子を指し、ここでイオンは粒子表面の引力のある静電界と周囲の液体(例えば、溶媒)との間で平衡状態にある。従って、ζ-電位は、粒子の物理的表面から特定の距離での電位を表し、ここで前記粒子の電子の電荷は周囲の液体ともはや干渉しなくなる。ζ-電位は典型的には、+100mV~-100mVの範囲であり、そして動電学的モードで、好ましくは25℃及び/又は脱イオン水中でZetasizer nano ZS (Malvern Instruments Inc.)を用いることにより測定され得る。液体中の微粒子の場合、公称ζ-電位が高いほど、懸濁液中に沈降する傾向が低められるという点で安定性がより高くなる。例えば、+25mV以上か又は-25mV未満のζ-電位を有する微粒子は典型的には、高度な安定性を有する。
【0060】
本明細書で使用される場合、用語「結合する」、「相互作用する」、「特異的に結合する」又は「特定的に相互作用する」とは、剤が1又は2以上の所望の分子又は分析物に結合するか又は影響を及ぼし、ランダム又は無関係である他の分子を実質的に除外し、そして任意には、実質的に、構造的に関連する他の分子を除外することを意味する。用語「結合する」、「相互作用する」、「特異的に結合する」又は「特定的に相互作用する」とは、剤がその意図される標的に排他的に結合することを必ずしも必要としない。例えば、剤は、結合の条件下でそのような意図された標的に対するその親和性が、非標的分子に対するその親和性よりも、少なくとも約2倍、好ましくは少なくとも約5倍、より好ましくは少なくとも約10倍、さらにより好ましくは少なくとも25倍、さらにより好ましくは少なくとも約50倍、及びさらにより好ましくは少なくとも約100倍高い場合、目的の標的に特異的に結合すると言うことができる。
【0061】
剤とその意図された標的との間の結合又は相互作用は、非共有結合であり得る(すなわち、非共有結合力、例えばイオン相互作用、水素結合、双極子相互作用、ファンデルクールス相互作用など)。好ましくは、剤は、そのような結合K≧1×10-1、より好ましくは K≧1×10-1、 さらにより好ましくは K≧1×10-1、さらにより好ましくはK≧1×10-1及びさらにより好ましくは K≧1×1010-1 又は K≧1×1011-1の親和性又は会合定数(K)で、その意図された標的に結合するか、又は相互作用することができ、ここでK = [A_T]/[A][T] = k/kここでAは剤、Tは目的の標的、kaは吸着速度、kdは脱着速度を示す。Kの決定は、当業界において知られている方法、例えば平衡透析及びスキャチャードプロット分析を用いて実施され得る。
【0062】
何れの理論にも拘束されることを望まないが、本発明者は、本明細書において教示されるように、生体分子、例えば抗原がミネラル微粒子の表面に結合し得る第2のメカニズムは、生体分子のタンパク質表面での正に荷電されたアミノ酸、好ましくはリシン及びアルギニンと、微粒子(例えば、アジュバント微粒子)の表面での負に荷電されたフィチン酸(IP6)リン酸基との間のイオン結合の形成を含む、より特異的な相互作用を通してである仮説を立てている。タンパク質、特にリシン及びアルギニンにおける正に荷電されたアミノ酸残基に対するリン酸基の親和性は、ヌクレオチドのホスホリル基が酵素触媒部位のリシン又はアルギニン残基とのイオン対形成に一時的に関与しているプロテインキナーゼ及びホスファターゼの例を伴って、生化学で十分に文書化されている(Mavri J. and Vogel M. J., Ion pair formation of phosphorylated amino acids and lysine and arginine side chains: A theoretical study, Proteins Structure Function and Bioinformatics, 1996)。タンパク質間の相互作用のいくつかの特定の場合、このタイプのイオン結合は、共有結合と同じほど強く(Woods A. S. and Ferre S., Amazing stability of the arginine-phosphate electrostatic interaction, Journal of Proteome Research, 2005)、そしてこの特性はいくつかの出願で活用されている(Fokkens M. et al., A molecular tweezer for lysine and arginine, Journal of the American Chemical Society, 2005; Schug K. A. et al., Noncovalent binding between guanidinium and anionic groups: focus on biological-and synthetic-based arginine/guanidinium interactions with phosph[on]ate and sulf[on]ate residues, Chemical Reviews, 2005)ことが示されている。本発明者はさらに、このタイプの相互作用は、バルク溶媒の適切なpH値及びイオン強度での生体分子送達又は吸着システムとして使用するための、多価カチオンM2+及びM3+又は有機ポリカチオンを含む1又は2以上のフィチン酸(IP6)塩を含む、リン酸塩含有微粒子(例えば、アジュバントとして使用される)、例えば本明細書に教示されるIP6-M微粒子の表面で起こり得ると仮定している。
【0063】
特定の実施形態によれば、本明細書に教示されるようなミネラル微粒子は、以下を有する:
(i)蒸留水においてpH7.0で測定される場合、IP6-Mgに関して、少なくとも-28mVの公称ζ-電位、又は
(ii)蒸留水においてpH7.0で測定される場合、IP6-Caに関して、少なくとも-34mVの公称ζ-電位。
【0064】
特定の実施形態によれば、IP6-Mg微粒子は、蒸留水中で測定される場合、少なくとも-20mV、少なくとも-25mV、少なくとも-30mV、又は少なくとも-35mV、好ましくは少なくとも-28mVの公称ζ-電位を有する。
【0065】
特定の実施形態によれば、IP6-Ca微粒子は、蒸留水中で測定される場合、少なくとも-25mV、少なくとも-30mV、少なくとも-35mV、又は少なくとも-40mV、好ましくは少なくとも-34mVの公称ζ-電位を有する。
【0066】
特定の実施形態によれば、本発明のミネラル微粒子は、少なくとも0.1μm、最大2 μm、少なくとも0.5μm、最大2μm、少なくとも0.5μm、最大1.5μm、最大1μm、最大0.5μm、最大0.2μm、最大0.1μm、 好ましくは0.5~1μmの公称サイズを有する。
【0067】
本発明の微粒子のフィチン酸/Mの化学量論比は、約1:3~約1:8、好ましくは1:6~1:8、すなわちフィチン酸分子当たり6~8M原子である。
【0068】
特定の実施形態によれば、本発明のIP6-Mg微粒子は、1:6のフィチン酸塩:Mgの化学量論比を有する。
【0069】
特定の実施形態によれば、本発明のIP6-Ca微粒子は、1:8のフィチン酸塩:Caの化学量論比を有する。
【0070】
上記のように、リン酸アルミニウム、水素化アルミニウム及びリン酸カルシウムを含むミネラル含有アジュバントは、殺された、不活性化された及びサブユニット抗原に対する免疫応答を高めるために、何十年もワクチン調製に都合よく使用されて来た。
【0071】
特定の実施形態によれば、生体分子送達又は吸着システムとしての使用のための、多価カチオンM2+及びM3+又は有機ポリカチオンを含む1又は2以上のフィチン酸(IP6)塩を含む、本明細書に教示されるようなミネラル微粒子は、修飾されていないリン酸アルミニウム、非晶性ヒドロキシリン酸アルミニウム、及び/又はリン酸カルシウム微粒子に比較して、高められた生体分子結合性質を有し、好ましくは、ここで前記生体分子は、前記修飾された微粒子と反対の電荷を有し、又は前記生体分子は、前記修飾された微粒子が中性である場合、中性である。例えば、修飾されたリン酸アルミニウム微粒子は、負に荷電されており、そして好ましくは、正に荷電された生体分子に結合する。
【0072】
用語「生体分子」とは、本明細書において使用される場合、精製又は合成により生物に由来し、そして生物学的に活性であり得る成分又は剤を含むことを意味する。それらの用語には、診断剤及びいわゆる「薬用化粧品」も含まれる。診断剤は例えば、蛍光タンパク質(例えば、緑色蛍光タンパク質又はGFP)、又は放射性標識分子を含む。薬用化粧品は、個人の外観、例えば肌、髪、唇及び目に対する効果を有する活性成分を含み、そしてしわ防止剤、及び肌の色を改善する剤を含む。それらの用途においては、本明細書で教示されるような修飾された微粒子は好ましくは、外部から投与される。活性医薬成分(また、医薬品又は薬物とも呼ばれる)は特に興味あるものであり、そして生体分子のサブグループを形成する。
【0073】
生体分子は、以下を含むことができる:小分子(例えば、約1,500未満の分子量を有するもの)、合成又は天然の小分子、例えば単糖、ニ糖、三糖、オリゴ糖、ペプチド、核酸のみならず、また核酸類似体及び誘導体;又は大分子、例えばプラスミド、ベクター、多糖類、生体高分子、例えばより大きなペプチド(ポリペプチド)、タンパク質、ペプチド類似体及びそれらの誘導体、ペプチド模倣薬、核酸ベースの分子(例えば、DNA、RNA、mRNA、tRNA、RNAi、siRNA、microRNA、又はその他のDNAまたはRNA様分子)、ポリヌクレオチド、オリゴヌクレオチド、酵素、抗生物質、生物学的材料、例えば細菌、植物、真菌、動物の細胞や組織からから製造された抽出物、治療薬、予防薬、診断薬、造影剤、アプタマー(オリゴヌクレオチド又はタンパク質アプタマーを含む)。
【0074】
1つの実施形態によれば、生体分子は、水溶性、特に水溶性活性医薬成分である。そのような成分は、原薬を以下の4つのクラスに分類する生物薬剤分類システム(BCS)のクラスI又はクラスIIIに属する可能性がある:クラスI-高い透過性、高い溶解性;クラスII-高い透過性、低い溶解性;クラスIII-低透過性、高溶解性; クラスIV-低透過性、低溶解性。水溶性薬剤はまた、1gの化合物を溶解するのに必要とされる水の量(g)によっても特定され得、ここで水溶性薬剤は、以下の溶解性条件を満たすものである:10~30 g(「可溶性」); 30~100 g(「難溶性」); 100-1000 g(「わずかに可溶性」); 1000~10000 g(「非常にわずかに可溶性」又は「難溶性」);又は特に可溶性、控えめに可溶性及びわずかに可溶性の薬剤。
【0075】
別の実施形態によれば、生体分子は、抗体又は抗体フラグメントであり得る。用語「抗体」とは、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体及び多重特異的抗体(例えば、二重特異的抗体)を含むことを意味する。抗体フラグメントは、抗体の一部、一般的にはその抗原結合又は可変領域を含む。抗体フラグメントの例は、Fab、Fab’、F(ab’)及びFvフラグメント; ダイアボディ; 線形抗体; 一本鎖抗体分子; 抗体フラグメントから形成された多重特異性抗体を含む。
【0076】
好ましい実施形態によれば、生体分子は、宿主生物において免疫応答を誘発できる抗原であり得る。従って、好ましい実施形態によれば、本明細書で教示されるようなミネラル微粒子は、修飾されていないリン酸アルミニウム、非晶性ヒドロキシリン酸アルミニウム、及び/又はリン酸カルシウム微粒子に比較して、高められた抗原結合性質を有し、好ましくは、ここで前記抗原は、前記修飾された微粒子と反対の電荷を有し、又は前記抗原は、前記修飾された微粒子が中性である場合、中性である。例えば、修飾されたリン酸アルミニウム微粒子は、負に荷電されており、そして好ましくは、正に荷電された抗原に結合する。
【0077】
用語「宿主生物」とは典型的には、動物、好ましくは脊椎動物を意味し、鳥、ヒト及び非ヒト哺乳類、例えばマウス、ラット、ハムスター、モルモット、豚、牛、馬、羊、山羊、犬、猫、又は霊長類を含む。
【0078】
用語「吸着」とは、本明細書において使用される場合、微粒子の表面と生体分子(例えば、抗原及び/又は有機分子)との間の結合が確立されている物理吸着(例えば、ファンデルワールスカ力による)又は化学吸着(例えば、共有又はイオン結合による)を指す。
【0079】
前記ミネラル微粒子の生体分子結合特性は、リン酸アルミニウム、非晶性ヒドロキシリン酸アルミニウム、及び/又はリン酸カルシウム微粒子の生体分結合特性よりも、少なくとも1.1倍、少なくとも1.2倍、少なくとも1.3倍、少なくとも1.4倍、少なくとも1.5倍、少なくとも2倍、少なくとも2.5倍、少なくとも3倍、少なくとも 3.5倍、少なくとも4倍、または少なくとも5倍高く、好ましくは、ここで前記生体分子は抗原である。リン酸アルミニウム(mg/g)、非晶性ヒドロキシリン酸アルミニウム(mg/g)又はリン酸カルシウム(mg/g)微粒子に対する吸着生体分子(例えば、抗原)の比率は、修飾された微粒子のタイプ及び生体分子(例えば、抗原)の性質の組合せに依存する。例えば、ミネラル微粒子(mg/g)に対する生体分子(例えば、抗原)の割合は、少なくとも3、少なくとも4、少なくとも5、少なくとも6、少なくとも7、少なくとも8、少なくとも9、少なくとも10、少なくとも11、少なくとも12、好ましくは少なくとも12である。
【0080】
本発明のミネラル微粒子は、改善された物理化学的特性、すなわち粒子間の高められた静電反発力に起因する可能性がある高められたコロイド安定性又は低められた凝集性;及び/又は改善された生体分子吸着及び結合性を有することができ、好ましくは、ここで前記生体分子は抗原である。
【0081】
さらに、本発明の別の側面は、本明細書において教示されるような前記ミネラル微粒子の医学への使用である。
【0082】
特定の実施形態によれば、医学は、ヒト及び/又は獣医学であり得る。
【0083】
特定の実施形態によれば、本明細書で教示されるようなミネラル微粒子は、生体分子送達又は吸着システムとして使用され得、好ましくは、前記生体分子送達システムは、ワクチンアジュバントである。
【0084】
特定の実施形態によれば、本明細書で教示されるような前記ミネラル微粒子は、ワクチンにおいて、好ましくは生体分子送達システムとして、より好ましくは、ワクチンアジュバントとして使用され得る。
【0085】
特定の実施形態によれば、本明細書で教示されるような前記ミネラル微粒子は、ワクチンの製造のために使用され得る。
【0086】
本明細書で教示されるように、それらの表面に結合される抗原を有するミネラル微粒子は、動物において抗体、例えばポリクローナル抗体を産生するために使用され得る。これは、血清中の抗原特異的抗体の高発現レベルを高めるために、それらの表面に結合される抗原を有する前記ミネラル微粒子の実験用動物又は家畜への注射により達成され、その後、動物から回収され得る。ポリクローナル抗体は血清から直接回収され得るが、モノクローナル抗体は、免疫化されたマウスからの抗体分泌脾臓細胞を、不死の骨髄腫細胞と融合させ、細胞培養上清液において特異的抗体を発現するモノクローナルハイブリドーマ細胞系を創造することにより生成される。
【0087】
したがって、本発明の別の側面は、本発明のミネラル微粒子の抗体産生のためへの使用である。
【0088】
生体分子及び/又は汚染物質(すなわち、ヒ素、クロム、硝酸塩、カルシウム、ラジウム、ウラン、フッ化物)を結合できるミネラル微粒子は、生体分子吸着システムとして、例えば、水溶液及び他のイオン含有溶液の精製、分離及び除染の工程において使用され得る(例えば、イオン交換体として機能することによる)。例えば、正に荷電されたミネラル微粒子は、負に荷電されたアルブミンを結合でき、そして従って、血液サンプルからのアルブミンの除去のために使用され得る。別の例においては、荷電されたミネラル微粒子は、種々のサンプル中の酸性又は塩基性タンパク質を選択的に富化するために使用され得る。産業規模では、精製、分離及び除染は、しばしば、吸着カラム(例えば、イオン交換クロマトグラフィー)を用いて実施される。
【0089】
従って、本明細書で教示されるようなミネラル微粒子は、精製、分離及び除染工程において生体分子吸着システムとしても使用され得る。
【0090】
特定の実施形態によれば、本明細書で教示されるようなミネラル微粒子は、血液分別中、所望しないタンパク質の除去のために使用され得る。
【0091】
本発明は、以下の限定的な例において、さらに示される。
【実施例
【0092】
実験1:Ca2+(M=Ca)及びMg2+(M=Mg)によるフィチン酸沈殿物(IP6-M)の形成及び予備的特性評価:
200mMのフィチン酸(IP6)及び1MのCaCl又はMgClの源溶から、CaCl又はMgClのいずれかをIP6に徐々に添加し、Ca2+又はMg2+及びIP6の最終濃度が50Mになるように混合物を得た(M2+/IP6,1:1)。アルカリ土類金属の添加後すぐに沈殿物が形成された。激しい攪拌の後、沈殿物を、12000xgでの30分間の遠心分離によりペレット化した。ペレットを、多量の脱イオン水(18MΩ)によりすすぎ、遊離対イオンの最終希釈係数が3000倍になるようにんし、Clイオンについての理論濃度を(502)/3000=33μMにした。すすがれた沈殿物を、物理的及び化学的分析のために使用した。
【0093】
粒子サイズ及びゼータ電位を、動的光散乱法(DLS, Zetasizer Nano ZS, Malvern Instruments)により、沈殿物のアリコートを脱イオン水に懸濁することにより測定した。懸濁液のpH値を記録した。表1の結果は、IP6-Mの粒子サイズが、従来のアジュバント、例えば典型的には、2μm~5μmで構成されるアルミニウム塩に匹敵することを示す。約1μmのIP6-Ca粒子サイズは、IP6-Mg及びアルミニウム塩粒子よりも小さいようである。この特徴は、それらのより小さなサイズのために刺激特性を増強したことが示されている、100~500nmの範囲の粒子サイズの粒子状アジュバントを処方するというワクチン産業における現在のニーズに応える可能性があるので、興味深いものである。両粒子は、ヒドロキシリン酸アルミニウムアジュバント粒子について測定されたものと類似する負のゼータ電子を示し、これは、それらのIP6-M粒子が正に荷電された抗原又は免疫増強剤の吸着のために十分に適していることを意味する。
【0094】
【表1】
【0095】
値は、3つの独立した測定値の平均である。pH値は、ゼータ電位の測定の前、懸濁液に希HClを添加することにより調整された。
【0096】
(すすがれた)沈殿物中のフィチン酸及びM2+イオンの化学量論比を決定するために、エネルギー分散型X線散乱(EDXS)分析を実施した。スペクトル(図1及び2)から、化学元素における相対的含有量の判定量値を導き出すことができる(表2)。フィチン酸の元素式はC1812(完全にプロトン化された形)であり、これは20/60/20のC/O/P化学量論比に変換する(表2、IP6理論)。炭素についての値を参照にすると、表2は、化学量論比C/Mがそれぞれ、IP6-Caについて1:1.36及びIP6-Mgについて1:1であることを示す。
【0097】
この分析のフィチン酸塩/M比を考慮すると、フィチン酸塩/Mの化学量論比は、IP6-Caについて1:8.14及びPI6-Mgについて1:6、すなわちIP6-Mgにおいてフィチン酸分子当たり6Mg原子であると結論付けられ得、これは、2個のカチオン(PhyM)により沈殿するフィチン酸についての理論的最大値に対応する。IP6-Caの場合、より高いCaの含有量が記録され(IP6-Caにおけるフィチン酸分子当たり8つのCa原子)、この発見は、PhyCaを形成するために、別のアニオン(Xと標示される)により沈殿するフィチン酸カルシウムによりたぶん説明され得る。これはまた、裏付けられていません。
【0098】
表2の最後の行で強調されるように、フィチン酸についての理論的C/O/P比は、20/60/20である。C、O及びPの測定された相対量が再正規化され、合計100%(IP6基準)が生成される場合、O及びPがCに対してわずかに化学量論的に過剰であるように、IP6-Ca及びIP6-Mgの両方において見えた(表2)。これは、IP6-Mと共沈した、この実験に使用されたIP6のバッチに遊離オルトリン酸塩の存在を示している可能性がある。
【0099】
上記2つの実験で観察されたもの以外の化学量論的比が可能であり、そしてさらなる調査の対象である。化学量論比は、沈殿物形成の条件、例えば反応物の相的濃度及び形、pH、温度、反応物の混合のモード及び速度、初期沈殿物の熱力学的安定性などに依存するであろう。同様に、沈殿物の結晶化度及び形もまた、反応の条件に応じて大幅に変化する可能性がある。
【0100】
【表2】
【0101】
実験2:ポリ-L-リシンによるフィチン酸沈殿物の形成及び予備的特性評価:
200mMのフィチン酸(IP6)及び100Mg/mlの低分子量ポリ-L-シリン(1000~5000Da)の原液から、ポリ-L-リシンをIP6に徐々に添加し、フィチン酸の最終濃度が100mMになり、そしてポリ-L-リシンのその最終濃度が20mMになるように混合物を得た(3000Daの平均Mwに基づく)。ポリ-L-リシンの添加後すぐに、沈殿物が形成されたが、形式された粒状物質は遠心分離によりペレット化できず、これは水の密度に近い材料密度を示した。この材料のサンプルを、動的光散乱(DLS, Zetasizer Nano ZS, Malvern Instruments)により、粒子サイズ及びゼータ電位測定のために10倍に希釈した。表2の結果は、IP6-ポリ-L-リシンの粒子サイズは、約1.1μmであり、そしてそれらの実験条件下でのゼータ電位は-29mVであることを示している。脱イオン水を用いてのさらなる100倍への希釈は、光学密度の上昇をもたらし(肉眼で確認できる)、さらなる粒子形成を示す。粒子のサイズは、2.9μmに上昇し、そしてゼータ電位は著しく変化しなかった。
【0102】
フィチン酸とポリ-L-リシン(低Mw)との間の複合体形成により形成される粒子の安定性は、コロイドの形成から数時間後、相分離が観察されるので、わずかであるように見える。相の再混合によりコロイドが得られた。
【0103】
【表3】
図1
図2