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特許7556799水溶性単位用量金属加工油剤組成物及びその希釈液の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】水溶性単位用量金属加工油剤組成物及びその希釈液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C10M 177/00 20060101AFI20240918BHJP
   C10M 173/00 20060101ALI20240918BHJP
   C10M 175/04 20060101ALI20240918BHJP
   B65D 77/06 20060101ALI20240918BHJP
   C10N 40/20 20060101ALN20240918BHJP
   C10N 30/00 20060101ALN20240918BHJP
   C10N 70/00 20060101ALN20240918BHJP
【FI】
C10M177/00
C10M173/00
C10M175/04
B65D77/06
C10N40:20 Z
C10N30:00 Z
C10N70:00
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021014619
(22)【出願日】2021-02-01
(65)【公開番号】P2021155710
(43)【公開日】2021-10-07
【審査請求日】2023-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2020055456
(32)【優先日】2020-03-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000135265
【氏名又は名称】株式会社ネオス
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 洋平
(72)【発明者】
【氏名】向 恭平
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/195727(WO,A2)
【文献】特開2011-063765(JP,A)
【文献】特開2009-242743(JP,A)
【文献】特開平08-302381(JP,A)
【文献】特表2019-521919(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2020/0002073(US,A1)
【文献】特開平11-080769(JP,A)
【文献】特開平10-251683(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
B65D 65/46,75/00,
77/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール(PVA)を含む厚さ40μm~70μmの水溶性フィルム材料から形成された水溶性包装容器に
水の含有率が10質量%未満かつpHが7.5~12であるエマルションタイプの水溶性金属加工油剤組成物及び/または水溶性金属加工油剤構成成分を封入してなる水溶性単位用量金属加工油剤組成物。
【請求項2】
下記の(1)~(6):
(1)前記水溶性包装容器が切り離し可能な複数の区画を有し、前記区画が、水溶性金属加工油剤組成物を封入する少なくとも1種の区画と水溶性金属加工油剤構成成分を封入する少なくとも1種の区画を有する形態、
(2)前記水溶性包装容器が1又は切り離し可能な複数の区画を有し、前記各区画に対し、それぞれ水溶性金属加工油剤組成物を封入する形態、
(3)前記水溶性包装容器が1又は切り離し可能な複数の区画を有し、前記各区画に対し、それぞれ水溶性金属加工油剤構成成分を封入する形態、
(4)前記水溶性包装容器が複層構造を有し、水溶性金属加工油剤組成物を封入する少なくとも1つの層と、水溶性金属加工油剤構成成分を封入する少なくとも1つの層を配置する形態、
(5)前記水溶性包装容器が複層構造を有し、前記各層に対し、それぞれ水溶性金属加工油剤組成物を封入する形態、
(6)前記水溶性包装容器が複層構造を有し、前記各層に対し、それぞれ水溶性金属加工油剤構成成分を封入する形態、
のいずれかの形態である、請求項1に記載の水溶性単位用量金属加工油剤組成物。
【請求項3】
前記各区画又は前記各層における、水溶性金属加工油剤組成物又は水溶性金属加工油剤構成成分封入量が、それぞれ100~1000gである、請求項に記載の水溶性単位用量金属加工油剤組成物。
【請求項4】
天井面と底面と4つの側面を有する箱体に、請求項1~のいずれか一項に記載の水溶性単位用量金属加工油剤組成物が積み重ねて収容され、前記組成物の間に保護シートを配置して、水溶性単位用量金属加工油剤組成物同士が互いに接触しないように構成してなる、梱包体。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の水溶性単位用量金属加工油剤組成物の単位用量物を用意し、前記単位用量物を貯水タンク又は水溶性金属加工油剤使用液へ投入し、所望濃度の金属加工油剤組成物の希釈液を調製することを特徴とする、水溶性金属加工油剤組成物の希釈液の製造方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の水溶性単位用量金属加工油剤組成物の単位用量物を用意し、前記単位用量物を水溶性金属加工油剤使用液へ投入し、水溶性金属加工油剤を所望濃度に調整することを特徴とする、水溶性金属加工油剤の濃度調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属加工工程に使用される水溶性金属加工油剤組成物の原液を貯水タンクへ投入し希釈液を調整する際、並びに、水溶性金属加工油剤使用液へ投入し水溶性金属加工油剤組成物の補給や成分濃度の調整を行う際の簡便かつ安全な薬剤投入に使用する単位用量物及びその希釈液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属加工工程においては、一般的に、水溶性の金属加工油剤が使われている。金属加工油剤は、原液のまま使用されることはなく、タンクや槽に原液を所定量投入し、水で希釈した希釈液を調整して使用される。そして、使用液は、経時による成分バランスの変化や成分の劣化等による種々のトラブルの未然防止のため、定期的な原液や添加剤等補給により使用液の濃度管理を実施している。
【0003】
この希釈作業や補給作業時には、作業者が油剤原液や添加剤等をその都度秤量する手間がかかるだけでなく、油剤原液や添加剤等と直接接触することによる手荒れの危険性や触れないまでも油剤原液の発する臭気が問題となったりしている。
【0004】
これらの問題を解決する対策として、工業薬品メーカーでは、手荒れを起こしにくい皮膚刺激性の少ない配合を工夫したり、臭気のマイルドな原料を選定する等の対策を行っている。
【0005】
また、金属加工油剤を使用する金属加工工場では、例えば、自動希釈装置を導入する等の対策を行っている。自動希釈装置を用いれば、作業者がその都度油剤原液を秤量する手間をなくす事ができる点や直接接触による危険性を回避する事ができる点等のメリットが図れる半面、自動希釈装置は導入に費用がかかる点で問題であり、導入しても、構造的に原液をポンプアップする構造を有しているため、原液が高粘度の場合に適用できない等の制限もある。
【0006】
一方、家庭用洗剤の分野では、このような秤量の手間を省き、化学物質との接触を回避、更に、包装材の廃棄処理の省略化等の観点から、ポリビニルアルコール(PVA)等の水溶性樹脂フィルムからなる包装容器に洗剤を入れた単位用量物(ユニット包装)が提案され用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0007】
しかるに、この単位用量物を使用する方法は、工業薬品の分野では、実用化に至っていない。その要因としては、(1)希釈作業では、薬剤投入対象は洗濯の場合と同様に真水であるが、補給作業では、薬剤投入対象は真水ではなく、金属加工油剤の各化学成分を含有した水である;(2)家庭用洗濯機の場合に比べ、工業用のタンク容量は圧倒的に大きく、その割にタンクの攪拌力は洗濯機のように強力ではない;(3)家庭用洗剤の場合、各家庭で使用されている洗濯機の洗濯容量に大きな差異はなく、洗剤メーカーは一定量の単位用量物を供給すればよいが、工業薬品の分野では、各金属加工工場に設置されているタンクや槽の容量はまちまちである;等が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平03-059059号公報
【文献】特開2002-003897号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このような工業薬品分野、特に、金属加工において実用化可能な水溶性単位用量金属加工油剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下に示す水溶性単位用量金属加工油剤組成物及びその希釈液の製造方法を提供する。
項1.水溶性フィルム材料から形成された水溶性包装容器に水溶性金属加工油剤組成物及び/または水溶性金属加工油剤構成成分を封入してなる水溶性単位用量金属加工油剤組成物。
項2.水の含有率が10質量%未満かつpHが7.5~12である、水溶性金属加工油剤組成物及び/又は水溶性金属加工油剤構成成分を封入してなり、
前記フィルム材料が、この条件の水溶性金属加工油剤組成物に対する耐久性を有する材料である、項1に記載の水溶性単位用量金属加工油剤組成物。
項3.前記水溶性金属加工油剤組成物が、エマルションタイプの油剤組成物である項1又は2に記載の水溶性単位用量金属加工油剤組成物。
項4.前記水溶性フィルム材料が、ポリビニルアルコール(PVA)を含む、項1~3のいずれか一項に記載の水溶性単位用量金属加工油剤組成物。
項5.前記水溶性フィルム材料が、40μm~70μmの厚さを有する、項1~4のいずれか一項に記載の水溶性単位用量金属加工油剤組成物。
項6.下記の(1)~(6):
(1)前記水溶性包装容器が切り離し可能な複数の区画を有し、前記区画が、水溶性金属加工油剤組成物を封入する少なくとも1種の区画と水溶性金属加工油剤構成成分を封入する少なくとも1種の区画を有する形態、
(2)前記水溶性包装容器が1又は切り離し可能な複数の区画を有し、前記各区画に対し、それぞれ水溶性金属加工油剤組成物を封入する形態、
(3)前記水溶性包装容器が1又は切り離し可能な複数の区画を有し、前記各区画に対し、それぞれ水溶性金属加工油剤構成成分を封入する形態、
(4)前記水溶性包装容器が複層構造を有し、水溶性金属加工油剤組成物を封入する少なくとも1つの層と、水溶性金属加工油剤構成成分を封入する少なくとも1つの層を配置する形態、
(5)前記水溶性包装容器が複層構造を有し、前記各層に対し、それぞれ水溶性金属加工油剤組成物を封入する形態、
(6)前記水溶性包装容器が複層構造を有し、前記各層に対し、それぞれ水溶性金属加工油剤構成成分を封入する形態、
のいずれかの形態である、項1~5のいずれか一項に記載の水溶性単位用量金属加工油剤組成物。
項7.前記各区画又は前記各層における、水溶性金属加工油剤組成物又は水溶性金属加工油剤構成成分封入量が、それぞれ100~1000gである、項6に記載の水溶性単位用量金属加工油剤組成物。
項8.天井面と底面と4つの側面を有する箱体に、項1~7のいずれか一項に記載の水溶性単位用量金属加工油剤組成物が積み重ねて収容され、前記組成物の間に保護シートを配置して、水溶性単位用量金属加工油剤組成物同士が互いに接触しないように構成してなる、梱包体。
項9.項1~7のいずれかに記載の水溶性単位用量金属加工油剤組成物の単位用量物を用意し、前記単位用量物を貯水タンク又は水溶性金属加工油剤使用液へ投入し、所望濃度の金属加工油剤組成物の希釈液を調製することを特徴とする、水溶性金属加工油剤組成物の希釈液の製造方法。
項10.項1~7のいずれか一項に記載の水溶性単位用量金属加工油剤組成物の単位用量物を用意し、前記単位用量物を水溶性金属加工油剤使用液へ投入し、水溶性金属加工油剤を所望濃度に調整することを特徴とする、水溶性金属加工油剤の濃度調整方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の水溶性単位用量金属加工油剤組成物を用いることにより、工業薬品分野、特に、金属加工において、油剤の投入対象が真水ではなく油剤の化学成分を含有した水に対しても使用でき、弱い攪拌でも易溶性を示し、異なるタンク容量にも対応できるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】水溶性包装容器がミシン目を有する1つの実施形態を示す。各区画には、水溶性金属加工油剤組成物が封入されている。
図2】水溶性包装容器がミシン目を有する他の実施形態を示す。各区画には、容量の異なる水溶性金属加工油剤組成物が封入されている。
図3】水溶性包装容器がミシン目を有する他の実施形態を示す。2つの区画には、水溶性金属加工油剤構成成分である主剤と添加剤が封入されている。
図4】水溶性包装容器が複層構造を有する1つの実施形態を示す。各層の封入物は、溶解までの時間が異なることになる。
図5】複数の水溶性包装容器の梱包形態を示す。水溶性包装容器の間に保護シートを挿入することにより、保管、輸送時の水溶性包装容器の破損を防止する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
工業薬品分野、特に、金属加工において、家庭用洗剤分野と異なる要因の一つは、油剤の投入対象が真水だけでなく油剤の化学成分を含有した水に対しても易溶性を必要とし、さらに洗濯機ほどの撹拌が行われないため水溶性フィルムの溶解に時間がかかること、工業製品は用量が大きく、十分な強度を持たせようとして水溶性フィルムの膜厚を厚くするとさらに溶解に時間がかかることである。
【0014】
本発明の水溶性単位用量金属加工油剤組成物は、真水及び油剤の化学成分を含有する水に速やかに溶解し、かつ輸送時の衝撃に耐え、長期保存時においても十分な強度を有するものである。なお、本明細書では水溶性包装容器に水溶性金属加工油剤組成物を封入したもの、ならびに水溶性包装容器に水溶性金属加工油剤組成物を構成するために使用する成分(本明細書では水溶性金属加工油剤構成成分と称する。)を封入したものを総称して、水溶性単位用量金属加工油剤組成物と称する。
【0015】
水溶性金属加工油剤組成物は、主剤である基油、油性剤、界面活性剤に対し、添加剤として潤滑向上剤、防錆剤、消泡剤、極圧剤、カップリング剤、防食剤、防腐剤、抗菌剤、キレート剤、油分離剤、着色剤、香料等から選択される成分を含むものであり、水で希釈して使用する。基油としては鉱物油(スピンドル油、軽油、灯油、マシン油等)、合成油(ポリオレフィン、ジエステル類、ヒンダードエステル類等)が挙げられ、油性剤としては菜種油、大豆油、ひまし油、ヤシ油等の植物油、及びラード等の動物油が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤が挙げられ、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤が好ましい。防錆剤としては、有機カルボン酸、有機アミン等が挙げられ、これらを併用してもよい。極圧剤としては、硫黄系、リン系、有機金属化合物等が挙げられる。防腐剤としてはフェノール系、ホルムアルデヒド供与体等が挙げられる。カップリング剤としてはアルコール類が挙げられる。
【0016】
水溶性金属加工油剤組成物の代表的タイプとしては、水に乳化するエマルションタイプ(JIS分類のA1種)、水に溶解するソルブルタイプ(JIS分類のA2種)及びソリューションタイプ(JIS分類のA3種)が挙げられる。水溶性金属加工油剤組成物の希釈倍率は用途によって異なるが、通常は5~100倍程度、好ましくは10~50倍程度である。
【0017】
エマルションタイプは、水で希釈して乳白色のエマルションを形成するものであり、基油及び/又は油性剤と乳化剤である界面活性剤を含むものが一般的である。ソルブルタイプは、エマルションタイプにおいて界面活性剤の配合量を増やしたものが挙げられ、合成ポリマーを基油とするのが一般的であり、半透明又は透明な溶液となる。ソリューションタイプは、ポリアルキレングリコール等の水溶性潤滑剤を主成分とするものが挙げられる。
これらのうち、油剤を含む溶液に速やかに溶解する観点から、水溶性包装容器に封入される水溶性金属加工油剤組成物はエマルションタイプの油剤組成物が好ましい。
【0018】
水溶性包装容器に封入される水溶性金属加工油剤組成物の水の含有率は10質量%未満であることが、水溶性包装容器の強度を維持するために好ましい。また、水溶性包装容器に封入される水溶性金属加工油剤組成物の原液のpHは、好ましくは7.5~12であり、より好ましくは7.5~10である。水溶性金属加工油剤組成物がアルカリ性から弱アルカリ性である場合、水溶性包装容器を構成する水溶性フィルム材料はアルカリ耐性を有することが好ましい。
【0019】
水溶性包装容器に使用する水溶性フィルム材料は、水溶性であれば特に限定されないが、例えばポリビニルアルコール、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デンプン、グリセリン、ゼラチン等から選択される1又は2以上の樹脂を含む水溶性フィルム材料が例示される。中でも、ポリビニルアルコールを含む水溶性フィルム材料は、ポリビニルアルコールの重合度、ケン化度、デンプン等の添加剤の配合等の諸条件を変化させることによって、必要な機械的強度や取り扱い中の耐湿性を制御することができるため、好ましく用いられる。
【0020】
ポリビニルアルコール(PVA)の市販品では、例えば、MonoSol社のM8630、M8900が使用できる。
【0021】
水溶性フィルム材料の好ましい膜厚は、約40~70μm、さらに好ましくは約45~64μmである。フィルムの膜厚が約40マイクロメートル~約70マイクロメートルであれば、十分な膜強度を有し、かつ、実用的な膜溶解性を有する。市販品では、例えば、MonoSol社のM8630の2.0mil(51μm)が最適である。
【0022】
水溶性包装容器には水溶性金属加工油剤組成物を構成するために使用する成分(水溶性金属加工油剤構成成分)、つまり主剤及び/又は添加剤を封入することができる。主剤としては基油、油性剤、界面活性剤等が挙げられ、添加剤としては潤滑向上剤、防錆剤、消泡剤、極圧剤、カップリング剤、防食剤、防腐剤、抗菌剤、キレート剤、油分離剤、着色剤、香料等が挙げられる。水溶性包装容器に封入する水溶性金属加工油剤構成成分は単体成分でも良いし、混合成分でも良い。混合成分は主剤同士の混合、添加剤同士の混合、主剤と添加剤との混合が挙げられる。また、水溶性金属加工油剤構成成分は、水で希釈することもできる。
【0023】
水溶性包装容器に封入する水溶性金属加工油剤構成成分の水の含有率は10質量%未満であることが、水溶性包装容器の強度を維持するために好ましい。また、水溶性包装容器に封入される水溶性金属加工油剤構成成分のpHは、好ましくは7.5~12であり、より好ましくは7.5~10である。水溶性金属加工油剤構成成分がアルカリ性から弱アルカリ性である場合、水溶性包装容器を構成する水溶性フィルム材料はアルカリ耐性を有することが好ましい。このため水溶性金属加工油剤構成成分を封入する水溶性包装容器に使用する水溶性フィルム材料はポリビニルアルコール(PVA)を含んでいることが好ましく、水溶性フィルム材料の膜厚は好ましくは約40~70μmであり、さらに好ましくは約45~64μmである。
【0024】
水溶性金属加工油剤組成物を貯水タンクへ投入し希釈液を調整する際、並びに、水溶性金属加工油剤使用液へ投入し水溶性金属加工油剤組成物の補給を行う際に、上述の水溶性フィルム材料で形成された水溶性包装容器に水溶性金属加工油剤組成物、好ましくはエマルションタイプ油剤組成物を封入した単位用量物(以下、本発明品と記す)を使用すれば、弱い攪拌でも易溶性を示す。
【0025】
水溶性単位用量金属加工油剤組成物は、好ましくは、下記(1)~(6)のいずれかの形態をとることができる。
(1)前記水溶性包装容器が切り離し可能な複数の区画を有し、前記区画が、水溶性金属加工油剤組成物を封入する少なくとも1種の区画と水溶性金属加工油剤構成成分を封入する少なくとも1種の区画を有する形態。
(2)前記水溶性包装容器が1又は切り離し可能な複数の区画を有し、前記各区画に対し、それぞれ水溶性金属加工油剤組成物を封入する形態。
(3)前記水溶性包装容器が1又は切り離し可能な複数の区画を有し、前記各区画に対し、それぞれ水溶性金属加工油剤構成成分を封入する形態。
(4)前記水溶性包装容器が複層構造を有し、水溶性金属加工油剤組成物を封入する少なくとも1つの層と、水溶性金属加工油剤構成成分を封入する少なくとも1つの層を配置する形態。
(5)前記水溶性包装容器が複層構造を有し、前記各層に対し、それぞれ水溶性金属加工油剤組成物を封入する形態。
(6)前記水溶性包装容器が複層構造を有し、前記各層に対し、それぞれ水溶性金属加工油剤構成成分を封入する形態。
【0026】
水溶性金属加工油剤の各区画又は各層における封入量は、特に限定されないが、好ましくは100~1000g(あるいは100~1000ml)の範囲とすることができ、例えば100g(あるいは100ml)及び/又は、500g(あるいは500ml)及び/又は、1000g(あるいは1000ml)とすることができる。貯水タンク等への油剤の投入量が数十キログラムないし数百キログラムに達する場合は、ドラム仕様あるいは1斗缶仕様の油剤を使用し、それで不足する半端量を本発明品で補えば良い。従って、必要になるのは、数キログラムないし数百グラムに対応した封入量の単位用量物である。これらの封入量の単位用量物を用意すれば、通常の異なるタンク容量の油剤希釈液調整作業や補給作業に支障はない。また、水溶性金属加工油剤構成成分の各区画又は各層における封入量も上記同様、特に限定されないが、好ましくは100~1000g(あるいは100~1000ml)の範囲とすることができ、例えば100g(あるいは100ml)及び/又は、500g(あるいは500ml)及び/又は、1000g(あるいは1000ml)とすることができる。
【0027】
水溶性単位用量金属加工油剤組成物の取りうる形態として、例えば図1に示すように、本発明の水溶性単位用量金属加工油剤組成物1に使用される水溶性包装容器2は、ミシン目3を備えることができ、複数の封入された部分をもち、ミシン目3で個々に切り出すことが可能な構成としてもよい。図1の水溶性単位用量金属加工油剤組成物1は、水溶性金属加工油剤組成物の主となる量(大容量)を封入する区画4と、微調整用の小容量の同一成分の水溶性金属加工油剤組成物を封入した区画5を備えたものである。水溶性金属加工油剤組成物は、主剤に、潤滑向上剤、防錆剤、抗菌剤、消泡剤、油分離剤らの機能添加が可能な添加剤を配合したものが挙げられる。
【0028】
図2に示すように、ミシン目3で分けられた水溶性金属加工油剤組成物を封入するための各区画6,7,8,9は各々異なる内容量であってもよく(例えば、区画6は500ml、区画7は300ml、区画8は200ml、区画9は100ml)、その内容量の組み合わせで、所望の投入量を調整することができるように構成してもよい。
【0029】
図3には、ミシン目で切り離すことができる独立した2つの区画10、11を有する本発明の水溶性単位用量金属加工油剤組成物1が示されており、2つの区画にはそれぞれ主剤と添加剤が封入されている。
【0030】
図4は、複層構造の水溶性単位用量金属加工油剤組成物1を示し、10は外側の区画、11は内側の区画である。例えば外側の区画10に主剤を封入し、内側の区画11に添加剤を封入した場合、主剤が先に放出され、その後に添加剤が放出される。例えば、内側の部分のフィルム材料の厚みを厚くし、外側の部分のフィルム材料の厚みを薄くすることで、主剤と添加剤の溶解に時間差を設けることができる。
【0031】
また、水溶性単位用量金属加工油剤組成物を保管、輸送のために梱包体とする場合、天井面と底面と4つの側面を有する箱体に、水溶性単位用量金属加工油剤組成物の間に保護シートを配置して、水溶性単位用量金属加工油剤組成物同士が互いに接触しないように積み重ねて収容することができる。例えば、図5に示すように、シート状の本発明の水溶性単位用量金属加工油剤組成物1を箱体12に積み重ねて保管、輸送のために梱包体とする場合、水溶性単位用量金属加工油剤組成物1の間にクッション用の保護シート13を挟み、これらの水溶性単位用量金属加工油剤組成物1が互いに直接接触することのないようにすることで水溶性単位用量金属加工油剤組成物1の破損を防止することができる。保護シート13としては、アルミニウム製のシートが挙げられる。
【0032】
本発明を使用することによって、所望濃度の水溶性金属加工油剤を調整することができる。例えば第一の使用形態において、所定濃度、所定封入量に設定した本発明の水溶性単位用量金属加工油剤組成物の単位用量物を用意し、前記単位用量物を貯水タンク又は水溶性金属加工油剤使用液へ投入し、所望濃度の水溶性金属加工油剤組成物の希釈液を製造することができる。
【0033】
第二の使用形態において、所定濃度、所定封入量に設定した本発明の水溶性単位用量金属加工油剤組成物の単位用量物を用意し、前記単位用量物を水溶性金属加工油剤使用液へ投入し、水溶金属加工油剤の濃度調整を行うことができる。第二の使用形態によって、水溶性金属加工油剤全体の濃度調整を行うこともできるし、特定の成分だけ濃度調整を行うこともできる。なお、第二の使用形態において水溶性単位用量金属加工油剤組成物に含まれる成分が水溶性金属加工油剤使用液に含まれていなくても良い。そのため、もともと水溶性金属加工油剤使用液に含まれていない成分を新たに添加することで、水溶性金属加工油剤の性能を強化したり、新たな性能を付与したりすることができる。
【実施例
【0034】
以下、実施例を挙げて本発明を詳しく説明する。
【0035】
[実施例1]
[フィルム性能試験I:油剤希釈液へのフィルム溶解性]
ネオス社製エマルションタイプ水溶性金属加工油「ファインカットCFS-100PA」並びにMonoSol社製水溶性PVAフィルム「M8630 3.0mil(76μm)」を用い、下記の要領にてフィルム溶解性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0036】
(試験方法)
1リットルのビーカーに水道水で20倍に希釈したファインカットCFS-100PA水溶液400mlを入れ、液温を15℃に調整する。M8630 3.0milを5×10cmのサイズに切断したPVAフィルム片を上記水溶性金属加工油剤の希釈液に浸漬し、溶解するまでの時間を確認する(浸漬1分後からガラス棒で軽く攪拌した)。
【0037】
(評価方法)
油剤希釈液を水道水に変更したこと以外は上記条件にて、フィルム溶解性試験を実施し、得られた溶解時間を基準とし、下記の判定を行った。
〇…水道水に対するフィルム溶解時間と同等あるいは短時間で溶解した。
×…水道水に対するフィルム溶解時間より溶解に長時間かかった。
【0038】
[実施例2]
水溶性金属加工油をネオス社製エマルションタイプのファインカットCFS-95に変更したこと以外は、実施例1と同様にフィルム溶解性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0039】
[比較例1、2]
水溶性金属加工油をネオス社製ソルブルタイプのファインカット2500(比較例1)又は水道水(比較例2)に変更したこと以外は、実施例1と同様にフィルム溶解性試験を実施した。得られた結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
[実施例3、比較例3、4]
[フィルム性能試験II:包装体の溶解性並びに強度]
MonoSol社製M8630の3種の膜厚の水溶性PVAフィルムについて下記の試験を行った。フィルム膜厚と試験番号の対応は下記の通り。
比較例3:1.5mil(38μm)
実施例3:2.0mil(51μm)
比較例4:3.0mil(76μm)
【0042】
(包装体の作成)
3種の水溶性フィルムを用いて20cm×15cmの開口した袋を作製し、これにエマルションタイプ水溶性金属加工油剤ファインカットCFS-100PA(ネオス社製)の原液を500ml入れ、ヒートシールで閉口し、水溶性フィルムによる液体包装体を作製した。
【0043】
(溶解性の評価)
上記で得られた液体包装体を用い、38℃/80%RHの恒温室で14日放置後の液体包装体について溶解性の評価を行った。尚、恒温室での保管に際し、液体包装体は、更にアルミニウムにポリエチレンをラミネートしたフィルムで包み、ヒートシールすることにより二重包装した。溶解性の測定に際しては、この簡易アルミ包装は取り去った。
評価は、先ず3リットルビーカー中に20℃の水道水2.5リットルを入れ、その中に20℃に保温した液体包装体を静かに投入し、長さ30mmのマグネチックスターラーピースを入れたスターラーにてゆっくり攪拌する(400rpm)。目視観察によりフィルムの完全溶解時間を測定した。
評価は、下記の通りとした。評価結果を表2に示す。
〇…完全溶解時間≦120秒
×…完全溶解時間>120秒
【0044】
(破袋強度試験)
38℃/80%RHの恒温室で14日放置後の試料の簡易アルミ包装から取り出した液体包装体について下記の試験を行った。JIS Z 0238:1998に準じ、落下高さ30cmから鉛直方向、水平方向に落下させ、内容物の漏れを確認した。
評価は、下記の通りとした。評価結果を表-2に示す。
〇…漏れなし
×…漏れあり
【0045】
(判定)
上記の試験結果により、3種の膜厚の水溶性PVAフィルムの判定を行った。評価結果を表2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
[実施例4]
[フィルム性能試験III:包装体の積上げ時の溶着性]
(積上げ時の溶着状態確認試験)
上記実施例3にて作製した膜厚2.0mil(51μm)のM8630フィルムを用いた液体包装体を5段に積上げ、室温にて28日放置後、袋の密着状態を確認した。剥がす際の抵抗感や溶着が無いかの確認を行った結果、剥がす際に溶着等は見られなかった。
【符号の説明】
【0048】
1 水溶性単位用量金属加工油剤組成物
2 水溶性包装容器
3 ミシン目
4 区画(大容量)
5 区画(小容量)
6 区画(500ml)
7 区画(300ml)
8 区画(200ml)
9 区画(100ml)
10 区画(主剤)
11 区画(添加剤)
12 箱
13 保護シート
図1
図2
図3
図4
図5