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  • 特許-導電性ペーストおよびその利用 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】導電性ペーストおよびその利用
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/22 20060101AFI20240918BHJP
   H01G 4/30 20060101ALI20240918BHJP
   C08L 79/08 20060101ALI20240918BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240918BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20240918BHJP
   C09D 179/08 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
H01B1/22 A
H01G4/30 516
H01G4/30 201G
C08L79/08 B
C08L83/04
C09D5/24
C09D179/08 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021032401
(22)【出願日】2021-03-02
(65)【公開番号】P2022133621
(43)【公開日】2022-09-14
【審査請求日】2023-10-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000004293
【氏名又は名称】ノリタケ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【弁理士】
【氏名又は名称】安部 誠
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 夕子
(72)【発明者】
【氏名】西部 香帆
【審査官】小林 秀和
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-140386(JP,A)
【文献】特開2012-255107(JP,A)
【文献】国際公開第2008/133182(WO,A1)
【文献】特開平11-300622(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 1/22
H01G 4/30
C08L 79/08
C08L 83/04
C09D 5/24
C09D 179/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性粒子と、樹脂成分と、有機溶剤とを含む導電性ペーストであって、
セラミック電子部品の外部電極を形成するために用いられ、
前記樹脂成分として、
熱硬化性ポリイミド樹脂と、
5%の重量が減少する熱分解温度(Td)が300℃以上であり、かつ、重量平均分子量が30,000以上である熱可塑性ポリイミド樹脂と、
を含んでおり、
ここで、前記熱可塑性ポリイミド樹脂と前記熱硬化性ポリイミド樹脂との合計を100質量%としたときに、前記熱硬化性ポリイミド樹脂が5質量%以上50質量%以下の割合で含まれており、
前記導電性粒子を100質量部としたとき、前記樹脂成分が4質量部以上30質量部以下の割合で含まれる、導電性ペースト。
【請求項2】
前記樹脂成分として、さらにシリコーン樹脂を含む、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記導電性粒子を100質量部としたとき、前記樹脂成分が5質量部以上20質量部以下の割合で含まれる、請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
180℃以上300℃以下の環境下で使用される、請求項1~3のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
第1の金属電極層と、第2の金属電極層と、該第1の金属電極層と該第2の金属電極層との間に導電性膜と、を備える前記外部電極における、前記導電性膜を形成するために用いられる、請求項1~4のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
セラミック素地と前記セラミック素地内に配設された内部電極とを含む部品本体と、
前記部品本体の表面に備えられる外部電極と、
を備え、
前記外部電極は、請求項1~5のいずれか一項に記載の導電性ペーストの乾燥膜を少なくとも一部に含む、積層セラミック電子部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペーストおよびその利用に関する。より詳しくは、熱可塑性ポリイミド樹脂と熱硬化性ポリイミド樹脂とを含む導電性ペースト、および、該ペーストの利用に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器の小型化や高性能化に伴い、電子機器に実装されるセラミック電子部品にも小型化および高性能化が求められている。とりわけ、車載用の電子部品については、車両のコネクティッド化により、小型化に加えて高耐熱化と高い信頼性とを兼ね備えることが求められる。
【0003】
セラミック電子部品は、一般に、部品本体と、部品本体の対向する一対の端面に形成される外部電極とを備え、外部電極を基板に半田付けすることによって基板に実装される。ここで、車載用電子機器等においては、セラミック電子部品を実装した基板が急激な温度変化によって撓み得ることが知られている。このとき、セラミック電子部品と基板とでは熱膨張係数が異なることから、基材に実装されているセラミック電子部品には熱衝撃が生じ、脆性なセラミック電子部品がクラック等により破損することが懸念される。そこで、セラミック電子部品の外部電極に、樹脂成分を含む導電性膜(樹脂電極層)を介在させ、この樹脂電極層でセラミック電子部品に加わる熱衝撃を緩和させることが行われている。
【0004】
ところで、上記のような樹脂成分を含む導電性膜を形成するために、例えば、導電性粒子と、樹脂成分と、有機溶剤とを含む導電性ペーストが用いられている。上記導電性膜は、典型的には、かかる導電性ペーストを基材上に塗布して該導電性ペーストの塗膜を形成し、基材と塗膜とに熱処理を施すことによって、作製される。特許文献1,2に示されるように、従来のこの種の導電性ペーストには、樹脂成分として、エポキシ樹脂やウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂が使用されている。しかしながら、これらのエポキシ樹脂やウレタン樹脂は、高温で連続使用する場合の耐熱温度が150℃程度であり、これ以上の温度環境に晒されると樹脂成分が劣化するという課題がある。
【0005】
また、近年では、電子機器の小型化および高性能化の観点から、SiC半導体やGaN半導体の普及が始まっている。このような半導体は、高温(例えば180℃以上300℃以下)で使用されることが想定されている。そのため、上記のような樹脂成分を含む導電性ペーストにも、かかる温度条件下の使用に耐えられるような、高い耐熱性が要求されている。高い耐熱性を有する樹脂成分としては、例えばポリイミド樹脂、ポリテトラフルオロエチレンおよびPEEK(ポリエーテルエーテルケトン)樹脂に代表されるスーパーエンプラ(スーパーエンジニアリングプラスチック)が知られている。このようなスーパーエンプラのなかでも、特に高い耐熱性を有するポリイミド樹脂の使用について、研究開発が精力的に行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第5854248号公報
【文献】特許第6767309号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のような耐熱性の高い樹脂成分を含む導電性ペーストを用いて作製した導電性膜は、基材に対する接着性が十分でないといった課題がある。そのため、耐熱性樹脂を含む導電性膜の接着性を改善するための技術が求められている。
【0008】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、高耐熱性樹脂を含む導電性膜の接着性を改善する技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、高耐熱性樹脂としてポリイミド樹脂を含む導電性ペーストについて、検討を行った。ポリイミド樹脂には、熱可塑性ポリイミド樹脂と、熱硬化性ポリイミド樹脂とがあるところ、本発明者らの鋭意検討の結果、熱可塑性ポリイミド樹脂と、熱硬化性ポリイミド樹脂とを特定範囲の質量割合となるようにブレンドして導電性ペーストを調製することによって、導電性膜の接着性を改善できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
ここで開示される技術によると、導電性粒子と、樹脂成分と、有機溶剤とを含む導電性ペーストが提供される。この導電性ペーストは、上記樹脂成分として、熱硬化性ポリイミド樹脂と、5%の重量が減少する熱分解温度(Td)が300℃以上であり、かつ、重量平均分子量が30,000以上である熱可塑性ポリイミド樹脂と、を含む。ここで、上記熱可塑性ポリイミド樹脂と上記熱硬化性ポリイミド樹脂との合計を100質量%としたときに、上記熱硬化性ポリイミド樹脂が5質量%以上50質量%以下の割合で含まれる。
【0011】
かかる構成によると、上記導電性ペーストは、ポリイミド樹脂を含むことによって、高い耐熱性(例えば180℃以上300℃以下程度)が実現されている。また、樹脂成分として熱可塑性ポリイミド樹脂と熱硬化性ポリイミド樹脂とをともに含み、かつ、これらの質量割合が特定範囲に調整されることによって、導電性膜の接着性を改善することができる。また、上記構成の導電性ペーストでは、良好な状態(例えば、ツノの発生等が十分に抑制された状態)の塗膜を作製するために好適なレオロジー特性が実現されている。
【0012】
ここで開示される導電性ペーストの好ましい一態様では、上記樹脂成分として、さらにシリコーン樹脂を含む。かかる構成によると、導電性膜の接着性をさらに向上することができる。
【0013】
また、他の好ましい一態様では、上記導電性粒子を100質量部としたとき、上記樹脂成分が5質量部以上20質量部以下の割合で含まれる。かかる構成によると、上記効果をより好ましく実現することができる。
【0014】
ここで開示される導電性ペーストを用いることで、上記のとおり、接着性が改善された、耐熱性の導電性膜を形成することができる。かかる特性は、例えば、高温で振動が発生する環境で使用されるセラミック電子部品の外部電極に含まれる樹脂電極層や、ボンディング用導電性樹脂を形成するために用いることで、その利点を如何無く発揮させることができる。好ましい一態様では、ここで開示される導電性ペーストは、180℃以上300℃以下の環境下で使用される。また、他の好ましい一態様では、ここで開示される導電性ペーストは、セラミック電子部品の外部電極の樹脂電極層を形成するために用いられる。
【0015】
他の観点から、ここで開示されるセラミック電子部品は、セラミック素地と上記セラミック素地内に配設された内部電極とを含む部品本体と、上記部品本体の表面に備えられる外部電極と、を備える。そして上記外部電極は、上記導電性ペーストから形成される導電性膜(典型的には乾燥膜)を少なくとも一部に含む。これにより、高温環境においても、外部からの振動で剥離や破損が生じにくい高い信頼性を有するセラミック電子部品が実現される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、一実施形態に係る積層セラミックコンデンサを模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、導電性ペーストの構成)以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、導電性ペーストの調製方法やセラミック電子部品の構成等)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0018】
なお、以下の説明では、導電性ペーストを基材上に付与して、導電性ペーストに含まれる樹脂成分の熱分解温度以下の温度で(例えば300℃以下で)熱処理(乾燥)した未焼成の膜状体(乾燥膜)を、「導電性膜」という。本明細書において「導電性膜」は、「樹脂電極膜」や「ボンディング用導電性樹脂」等の意味を包含する。また、本明細書において「重量平均分子量」とは、ゲルクロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)によって測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した重量基準の平均分子量、またはメーカー等の公称値をいう。本明細書において数値範囲を示す「A~B」の表記は、「A以上B以下」を意味し、Aを上回るもので、Bを下回るものを包含する。
【0019】
<導電性ペースト>
ここで開示される導電性ペースト(以下、単に「ペースト」ということがある。)は、乾燥させることによって導電性粒子を含む導電性膜を形成することができる。ここで開示される導電性ペーストは、導電性粒子(A)と、樹脂成分(B)と、有機溶剤(C)と、を含んでいる。なお、本明細書において「ペースト」とは、組成物、インク、スラリー、サスペンション等を包含する用語である。以下、各成分について順に説明する。
【0020】
(A)導電性粒子
導電性粒子は、典型的には粉末の形態で用意される。導電性粒子は、乾燥後に得られる導電性膜に電気伝導性を付与する成分である。導電性粒子は、典型的には金属製である。その構成材料は、この種の導電性ペーストにおいて一般的に使用される各種の金属製導電性粒子の構成材料の中から、用途等に応じて1種または2種以上が適宜選択され得る。上記金属としては、具体的には、アルミニウム(Al)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)、白金(Pt)、金(Au)等の金属の単体、およびこれら金属を含む合金が例示される。上記合金としては、例えば、銀-パラジウム(Ag-Pd)合金、銀-白金(Ag-Pt)合金、銀-銅(Ag-Cu)合金、銅-ニッケル(Cu-Ni)合金、銅―マンガン(Cu-Mn)合金、銅―スズ(Cu-Sn)合金、銅―亜鉛(Cu-Zn)合金、銅―アルミニウム(Cu-Al)合金等が挙げられる。
【0021】
特に限定されるものではないが、例えば積層セラミック電子部品の樹脂電極膜やボンディング用導電性樹脂等を形成する用途では、焼成することなく高い電気電導性を有することが求められる。そのような高い導電性金属種の一例として、ニッケル、白金、パラジウム、銀、銅が挙げられる。
【0022】
ハンドリング性、コスト、および電気伝導性の観点から、導電性粒子は、銀(Ag)粒子で構成されていることが好ましい。ここで、「銀粒子」とは、銀を主成分としていれば、その組成は特に制限されず、所望の導電性やその他の物性を備える銀粒子を用いることができる。例えば、銀(Ag)の単体からなる粒子、銀を含む合金からなる粒子、およびコア粒子の表面に銀を含むコート層を備える銀コート粒子が挙げられる。銀コート粒子は、銀の単体または銀を含む合金で構成された粒子を表面に備えるコアシェル粒子を含む。ここで、「主成分」とは、銀粒子を構成する成分のうちの最大成分であることを意味する。銀粒子は、不可避的不純物を含んでよいが、その純度(含有量)が高いほど導電性が高くなる傾向があることから、純度の高いものを使用することが好ましい。銀粒子は、純度95%以上が好ましく、97%以上がより好ましく、99%以上が特に好ましい。ここで開示される技術によると、例えば、純度が99.5%程度以上(例えば99.8%程度以上)の銀粒子を使用することでも、好適な導電性膜を形成することが可能とされる。なお、かかる観点において、ここで開示される技術においては、例えば、純度99.99%以下(99.9%以下)の銀粒子を用いても、好適な導電性膜を形成することが可能である。
【0023】
導電性粒子を構成する粒子の性状、例えば粒子のサイズや形状等は、所望の導電性膜の断面における最小寸法(典型的には、導電性膜の厚みおよび/または幅)に収まる限りにおいて、特に限定されない。導電性粒子の平均粒子径(レーザ回折式の粒度分布測定装置により求められる体積基準の粒度分布において、小粒子径側から累積50%に相当する粒子径。以下同じ。)は、概ね数10nm~数十μm程度、例えば0.1μm~10μmであるとよい。
【0024】
特に限定するものではないが、導電性粒子の平均アスペクト比は、1~100程度であり得る。平均アスペクト比は、導電性粒子をSEMで観察し、得られた観察画像から複数(例えば10~300個)の粒子を無作為に選択し、各粒子における長径と短径とに基づいてアスペクト比(長径と短径との比)を算出し、その算術平均値を得ることによって得ることができる。
【0025】
導電性粒子の形状は、例えば、球形あるいは非球形であってよい。非球形とは、例えば、板状、鱗片状、フレーク状、不定形状等であってよい。導電性粒子の充填密度を高め易いとの観点から、球形の導電性粒子としては、例えば、アスペクト比が1.2以下、好ましくは1.15以下、例えば1.1以下のものを好ましく用いることができる。また、導電性粒子の接触面積を増大させ易いとの観点からは、非球形の導電性粒子は、例えば、アスペクト比が1.2超過、好ましくは1.3以上、1.5以上、例えば1.7以上、さらに好ましくは2以上のものを用いるとよい。上記効果を相乗させる観点から、導電性粒子は、球形のものと非球形のものとが混合されていてもよい。
【0026】
導電性粒子の含有割合は特に限定されないが、導電性ペーストの全体を100質量%としたときに、概ね30質量%以上、典型的には40質量~95質量%、例えば50質量~85質量%であるとよい。上記範囲を満たすことで、電気伝導性や緻密性の高い導電性膜を好適に実現することができる。また、ペーストのハンドリング性や、成膜時の作業性を向上することができる。
【0027】
(B)樹脂成分
樹脂成分は、ポリイミド樹脂を含む。ポリイミド樹脂は、繰返し単位にイミド結合を含む高分子である。高分子とは、分子量が大きい(例えば、重量平均分子量が1000以上の)分子で、分子量が小さい(例えば、重量平均分子量が500以下の)分子から実質的または概念的に得られる単位(繰返し単位と同意)の多数回(例えば5回以上)の繰り返しで構成した構造を有する。ポリイミド樹脂は、典型的には、以下の式(1)で表される繰り返し単位構造を含む。ここで、式中のR,R’は独立して、任意の有機官能基、または酸素原子である。上記任意の有機官能基は、特に限定されない。上記任意の有機官能基は、例えば、Siを含まないものであってよい。ここで開示される導電性ペーストは、樹脂成分としてポリイミドシリコーン樹脂を含まなくてもよい。
【0028】
【化1】
【0029】
ポリイミド樹脂は、典型的にはイミド結合を含む繰り返し単位が主鎖を構成する結晶性または非結晶性の高分子である。より付着性の高い電極を形成するとの観点からは、結晶性の高分子であってよい。また、より高い耐熱性を備えるとの観点からは、非結晶性の高分子であってよい。さらに、ポリイミド樹脂は、ホモポリマーの状態で、耐熱温度が250℃以上であるとよく、例えばガラス転移点については200℃以上であってよく、好ましくは210℃以上、より好ましくは220℃以上であり得る。ポリイミド樹脂において、全繰返し単位のモル数に占める、イミド結合を含む繰り返し単位のモル数の割合は、通常は50%以上(例えば50%~95%)であり、好ましくは65%以上、より好ましくは75%以上、例えば85%以上である。例えば、全繰返し単位が脂肪族又は環状脂肪族を含む単位から構成されていてもよい。
【0030】
ポリイミド樹脂において、イミド結合の繰返し単位の種類は特に限定されない。イミド結合を含む単位としては、これに限定されるものではないが、例えば、s-ODPA、i-ODPA、a-ODPA、2,2’-BAPB、4,4’-BAPB、1,5-NBOA、2,3-NBOA、3,3’-ODA、4,4’-ODA、PMDA、BPDA、BPADA、BTDA、BAFL、2,2-TFMB、1,3,3-APB、1,3,4-APB、DDS等が例示される。これらはいずれか1種が単独であってもよいし、2種以上の任意の組み合わせであってもよい。
【0031】
ここで開示される導電性ペーストは、樹脂成分として、熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)と、熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)とを含む。熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)は、5%の重量が減少する熱分解温度(Td)が300℃以上の熱可塑性ポリイミド樹脂である。熱分解温度(Td)は、例えば350℃以上であり、370℃以上であるとよく、400℃以上であるとよく、または430℃以上であってよい。熱分解温度(Td)は、導電性ペーストおよび導電性膜の耐熱性の観点から、高いほどよい。上限は特に限定されないが、例えば600℃以下、550℃以下、500℃以下とすることができる。熱分解温度(Td)は、例えば示差熱分析(Differential Thermal Analysis: DTA)により求めることができる。導電性膜に含まれる樹脂成分(B)として、熱分解温度(Td)が300℃以上の熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)を用いることにより、使用温度が180℃以上(約200℃以上、かつ、約350℃以下または約300℃以下)の電子部品の製造にも適用することが可能となる。
【0032】
また、熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)は、その重量平均分子量が30,000以上である。熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)の重量平均分子量は、例えば導電性ペーストの粘性を調整するための一要素であり得る。良好な導電性膜を作製する観点から、熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)の重量平均分子量は、例えば31,000以上であるとよく、32,000以上であるとよく、33,000以上としてもよい。上限は特に限定されないが、例えば100万以下、50万以下、例えば30万以下、20万以下、10万以下であってもよい。
【0033】
熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)は、典型的には、テトラカルボン酸二無水物とジイソシアナートを反応溶液中で反応させることによって得られるポリイミド樹脂である。熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)は、有機溶媒(例えば下記の(C)有機溶剤に記載する種々の有機溶剤)に溶解可能であるため、比較的容易に取り扱うことができる。熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)を含むことによって、塗膜の形成性を向上することができる。なお、導電性ペースト中に含まれる熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)は、1種類または2種類以上であってよい。
【0034】
熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)の種類は特に限定されず、種々の熱硬化性ポリイミド樹脂を使用することができる。熱分解温度(Td)(典型的には、硬化後の測定値)は、導電性ペーストおよび導電性膜の耐熱性の観点から、高いほどよく、例えば、熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)のTdの好適範囲と同様であってよい。また、熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)の重量平均分子量は、特に限定されないが、典型的には、熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)の重量平均分子量よりも小さい。熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)の重量平均分子量は、例えば300以上であってよく、500以上であってよく、あるいは、700以上であってよい。上限は特に限定されないが、例えば5000以下であり、3000以下であってよく、2000以下であってよく、あるいは1500以下であってよい。
【0035】
熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)は、典型的には、まず酸無水物とジアミンとを出発原料としてポリアミック酸を得て、次いで該ポリアミック酸を加熱することによって脱水縮合反応を起こすことによって得られるポリイミド樹脂である。熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)を含むことによって、接着性を改善することができる。
【0036】
ここで開示される導電性ペーストでは、熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)と熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)との質量割合が調整されている。この導電性ペーストには、熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)と熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)との合計(B1+B2)を100質量%としたときに、熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)が5質量%以上50質量%以下の割合で含まれている。熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)が5質量%以上含まれることによって、接着性を改善することができる。また、熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)の質量割合が50質量%以下であることによって、導電性ペーストに、好ましいレオロジー特性を実現することができる。熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)の質量割合は、例えば7質量%以上であってよく、9質量%以上であってよく、15質量%以上であってよく、20質量%以上であってよく、あるいは、25質量%以上であってよい。当該質量割合は、45質量%以下とすることができ、40質量%以下であってよく、35質量%以下であってよく、あるいは、30質量%以下であってよい。ここで開示される技術の効果を実現する観点から、上記質量割合を7質量%以上30質量%以下とすることが特に好ましい。
【0037】
ここで開示される技術の効果が実現されるメカニズムを特に限定するものではないが、本発明者らの見解は、以下のとおりである。熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)は、導電性ペーストの粘度比を低下させ、塗膜の形成性を向上することができる。しかし、熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)は基材と反応しないため、接着性が低くなり得る。一方で、熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)は、反応性が高いため、基材と反応し得る。そのため、熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)の含有は、導電性膜の接着性を改善することに寄与し得る。しかし、熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)の含有によって、導電性ペーストに、良好な状態の塗膜を形成するために適切なレオロジー特性(例えば粘性)が実現されなくなることがある。ここで開示される技術によると、熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)と熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)とをバランスよくブレンドすることによって、導電性ペーストに好ましいレオロジー特性を実現しつつ、導電性膜の接着性を改善することができる。
【0038】
ここで開示される導電性ペーストは、樹脂成分(B)として、少なくとも熱可塑性ポリイミド樹脂(B1)および熱硬化性ポリイミド樹脂(B2)を含んでいればよい。ここで開示される技術の効果が得られる限り、ポリイミド樹脂として、これらとは異なる他のポリイミド樹脂(B3)を含んでもよい。ポリイミド樹脂(B3)の種類は特に限定されず、熱可塑性ポリイミド樹脂であってもよく、熱硬化性ポリイミド樹脂であってもよい。ポリイミド樹脂(B3)のTdの好適範囲は、ポリイミド樹脂(B1)のTdの好適範囲と同様である。ポリイミド樹脂(B3)の重量平均分子量は、必ずしも上記範囲を満たす必要はない。例えば、重量平均分子量が上記範囲を満たさないポリイミド樹脂をポリイミド樹脂(B3)としてもよい。
【0039】
導電性ペースト中にポリイミド樹脂(B3)が含まれる場合、ここで開示される技術の効果を実現する観点から、樹脂成分(B)に含まれるポリイミド樹脂の合計量(即ち、B1+B2+B3)を100質量%としたときに、ポリイミド樹脂(B3)の含有割合は、20質量%以下であることが好ましく、より好ましくは10質量%以下であり、さらに好ましくは5質量%以下であり、0質量%に近いほどよい。
【0040】
樹脂成分(B)に含まれるポリイミド樹脂は、いずれも、例えば、JFEケミカル株式会社、京セラケミカル株式会社、サビック社製、PI技術研究所製のポリイミド材料のなかから、所望の用途に応じて上記特徴を満たすものを適宜選択して入手することができる。
【0041】
ここで開示される導電性ペーストは、任意の樹脂成分として、さらにシリコーン樹脂(B4)を含んでもよい。シリコーン樹脂(B4)としては、ケイ素(Si)と酸素(O)とからなるシロキサン結合(Si-O-Si)による主骨格を有する高分子有機化合物のうち、分岐鎖を含む高分子有機化合物を用いることができる。すなわち、いわゆるシリコーンオイル、シリコーンラバー、シリコーンレジンと呼ばれるシロキサン化合物のうち、直鎖型のシリコーンオイルを除く、シリコーンラバーおよび/またはシリコーンレジンであってよい。シリコーンゴムは、分岐度(架橋度)が低く、室温(例えば25℃)でゴム弾性を有するエラストマーである。シリコーンレジンは、分岐度(架橋度)が高く、三次元ポリマー構造が発達している。シリコーンラバーとシリコーンレジンのうち、シリコーン樹脂(B4)としてはシリコーンレジンを用いることがより好ましい。シリコーン樹脂(B4)は、室温(例えば25℃)において、固体状であってもよいし、液体状であってもよい。
【0042】
主骨格部分を形成するシリコーン樹脂としては、例えば、一般式:HO[-Si(R)O-]H、Rは水素または任意の官能基;で示されるシロキサン単位を含むポリシロキサンや、Rが任意のアルキル基であるポリアルキルシロキサン、または、シロキサン単位とこれとは異なるケイ素含有モノマーとが重合されてなるポリマーであってよい。具体的には、シリコーン樹脂(B4)としては、ポリジメチルシロキサン,ポリジエチルシロキサン,ポリメチルエチルシロキサン等のポリジアルキルシロキサン、ポリアルキルアリールシロキサン、ポリ(ジメチルシロキサン-メチルシロキサン)等が挙げられる。特に好適な主骨格を構成する高分子は、例えば、ポリジメチルシロキサンであり得る。また、シリコーン樹脂(B4)としては、ポリエーテル基、エポキシ基、アミン基、カルボキシル基、アルキル基、水酸基等の他の置換基を主骨格の側鎖、末端、または両者に導入した直鎖変性シリコーンであってもよい。
【0043】
シリコーン樹脂には、付加硬化型のシリコーン樹脂と、脱水縮合硬化型のシリコーン樹脂とがあることが知られている。このうち、脱水縮合硬化型のシリコーン樹脂の場合、反応副生成物としての水が形成される電極膜に悪影響を与える虞がある。したがって、必ずしもこれに限定されるものではないが、シリコーン樹脂(B4)としては、付加硬化型のシリコーン樹脂であることがより好ましい。
【0044】
このようなシリコーン樹脂は、例えば、信越化学工業社、旭化成ワッカーシリコーン社製のシリコーンレジンまたはシリコーンゴムから、所望の用途に応じて上記特徴を満たすものを適宜選択して入手することができる。
【0045】
樹脂成分(B)にシリコーン樹脂(B4)が含まれる場合、特に限定するものではないが、その質量割合は、樹脂成分(B)の合計を100質量%としたときに、例えば0.5質量%であり、3質量%以上であってよく、5質量%以上であってよく、10質量%以上であってよく、20質量%以上としてもよい。ただし、シリコーン樹脂(B4)の質量割合が大きすぎると、導電性膜の接着性が低下し、レオロジー特性が悪化する傾向がある。そのため、上記質量割合を適宜変更するとよい。上記質量割合は、例えば70質量%以下であり、あるいは、65質量%以下であってよい。導電性膜の接着性改善効果をよりよく得る観点、および、良好な状態の塗膜を作製するのに適したレオロジー特性を実現する観点から、50質量%以下であることが好ましく、より好ましくは30質量%以下であり、さらに好ましくは20質量%以下である。
【0046】
また、(A)導電性粒子100質量部に対する(B)樹脂成分の割合が多いほど、この導電性膜に加えられる外部からの振動や熱衝撃を、より多く緩衝して低減し得るため、好ましい。樹脂成分の割合は、例えば4質量部以上であるとよく、5質量部以上であるとよく、8質量部以上や例えば10質量部以上であるとより好ましい。しかしながら、樹脂成分の割合が過剰な場合は、導電性粒子間に存在する樹脂成分が抵抗となり得るために好ましくない。樹脂成分の割合は、例えば30質量部以下であるとよく、25質量部以下が好ましく、例えば22質量部以下、あるいは20質量部以下であってよい。
【0047】
また、ここに開示される導電性ペーストは、上記特徴を損ねない範囲において、他の樹脂成分を含んでいてもよい。そのような樹脂成分としては、ゴム系樹脂、ポリエステル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリアミド系樹脂、フッ素系樹脂等の公知の各種の樹脂成分の1種または2種以上であり得る。しかしながら、公知の樹脂成分のうち、アクリロニトリル・ブタジエンゴム(NBR)系樹脂やアクリル系樹脂については、上記のシリコーン樹脂のようにポリイミド樹脂の難接着性を改善する効果が見られないために含まなくてもよい。なお、従来の導電性樹脂ペーストとの差別化の観点から、例えば、エポキシ系樹脂やウレタン系樹脂は含まない構成であってもよい。導電性ペーストに、ポリイミド樹脂およびシリコーン樹脂以外の他の樹脂成分が含まれる場合、これら他の樹脂成分の割合は、合計で10質量%以下(好ましくは5%以下)の含有であることが好ましい。
【0048】
(C)有機溶剤
有機溶剤としては、上記樹脂成分を好適に溶解し得る溶剤を特に制限なく用いることができる。有機溶剤は、成膜時の作業性や保存安定性等の観点からは、沸点が概ね200℃以上、例えば200~300℃の高沸点有機溶剤を主成分(50体積%以上を占める成分。)とするとよい。有機溶剤の一好適例としては、ターピネオール、テキサノール、ジヒドロターピネオール、ベンジルアルコール等の、-OH基を有するアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール等の、グリコール系溶剤;ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)、トリエチレングリコールジメチルエーテル等の、グリコールエーテル系溶剤;イソボルニルアセテート、エチルジグリコールアセテート、ブチルグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート)、γ-ブチロラクトン、安息香酸メチル等の、エステル結合基(R-C(=O)-O-R’)を有するエステル系溶剤;トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;N-メチルピロリドン(NMP)等の非プロトン性極性溶媒、ミネラルスピリット等が挙げられる。なかでも、上記樹脂成分を好適に溶解するとの観点から、NMPやγ-ブチロラクトン等の有機溶剤を好ましく用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよいし、2種以上を適宜混合して用いることができる。
【0049】
有機溶剤(C)の含有割合は特に限定されないが、導電性ペーストの全体を100質量%としたときに、概ね70質量%以下、典型的には5質量~60質量%、例えば10質量~50質量%程度であるとよい。上記範囲を満たすことで、ペーストに適度な流動性を付与することができ、成膜時の作業性を向上することができる。また、ペーストのセルフレベリング性を高めて、より滑らかな表面の導電性膜を実現することができる。
【0050】
(D)その他の成分
ここで開示されるペーストは、上記(A)~(C)の成分のみで構成されていてもよく、上記(A)~(C)の成分に加えて、必要に応じて種々の添加成分を含んでいてもよい。添加成分としては、ここで開示される技術の効果を著しく損なわない限りにおいて、一般的な導電性ペーストに使用し得ることが知られているものを適宜用いることができる。
【0051】
添加成分は、無機添加剤(D1)と有機添加剤(D2)とに大別される。無機添加剤(D1)の一例としては、焼結助剤や無機フィラー、ガラスフリット等が挙げられる。無機添加剤(D1)は、平均粒子径が、概ね10nm~10μm程度であり、導電性膜の算術平均粗さRaを小さく抑える観点からは、例えば0.3μm以下であることが好ましい。また、有機添加剤(D2)の一例としては、レベリング剤、消泡剤、増粘剤、可塑剤、pH調整剤、安定剤、酸化防止剤、防腐剤、着色剤(顔料、染料等)等が挙げられる。なお、有機添加剤(D2)は、酸価を有していても良く、酸価を有していなくても良い。添加成分の含有割合は特に限定されないが、導電性ペーストの全体を100質量%としたときに、概ね20質量%以下、典型的には10質量%以下、例えば5質量%以下であってもよい。
【0052】
このようなペーストは、上述した材料を所定の含有割合(質量比)となるよう秤量し、均質に撹拌混合することで調製し得る。材料の撹拌混合は、従来公知の種々の攪拌混合装置、例えばロールミル、マグネチックスターラー、プラネタリーミキサー、ディスパー等を用いて行うことができる。また、基材へのペーストの付与は、例えば、ディップ法や、ディスペンサー供給法、スクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷およびインクジェット印刷等の印刷法、スプレー塗布法等を用いて行うことができる。積層セラミック電子部品の外部電極の樹脂電極層を形成する用途では、例えば、ディップ法が好適である。また、積層セラミック電子部品を基板に実装する際のボンディング用途では、例えば、ディスペンサー供給法が好適である。
【0053】
<ペーストの性能>
(1)耐熱性
ここで開示される導電性ペーストは、耐熱性が向上されている。導電性ペーストの耐熱性は、例えば市販の熱重量測定装置を用いて試料の重量減少率(%)を測定し、この結果に基づいて評価することができる。特に限定するものではないが、上記熱重量測定装置としては、例えばリガク社のTG-DTA/Hを使用することができる。また、上記試料としては、導電性ペーストの乾燥膜を使用することができる。この乾燥膜は、例えば下記実施例に記載されるとおり作製することができる。例えば、約15mgの乾燥膜を試料として、300℃で2時間保持した時の重量減少率(%)を測定することにより、導電性ペーストの耐熱性を評価することができる。このようにして測定した重量減少率は、その数値が小さいほど(即ち、0%に近いほど)、耐熱性が高いと判断することができる。例えば、重量減少率は、好ましくは40%未満(典型的には、0%以上)であり、より好ましくは30%未満である。
【0054】
(2)レオロジー特性
ここで開示される導電性ペーストは、導電性膜の形成にとって好適なレオロジー特性を有している。ここで開示される導電性ペーストのレオロジー特性を示す指標として、例えば当該導電性ペーストの粘度が挙げられる。具体的な粘度の測定方法の一例としては、下記実施例に記載しているとおり、回転粘度計(ブルックフィールド粘度計)を用いた方法が挙げられる。25℃の環境下において、回転粘度計を用いて回転速度1rpmで測定される導電性ペーストの粘度V1(Pa・s)と、回転速度100rpmで測定される導電性ペーストの粘度V2(Pa・s)の比(V1/V2)は、26以下であることが好ましく、18以下であることがより好ましく、9以下であることがさらに好ましい。ここで開示される導電性ペーストはこのようなレオロジー特性を実現するように調製されており、かかるレオロジー特性を有することによって、成膜時の作業性が向上されている。上記のようなレオロジー特性を有する導電性ペーストは、特に、導電性膜をディップ法によって形成する場合において好適である。ディップ法によって導電性膜を形成する場合、ペーストのレオロジー特性が適当でないと、例えばツノの発生等、フラットな導電性膜が形成されないことがある。
【0055】
(3)接着性
ここで開示される導電性ペーストは、該導電性ペーストを用いて形成した導電性膜と、基材(例えば金属板)との接着性が向上されている。導電性膜の接着性は、例えば下記実施例に記載しているとおり、JIS K6850:1999(剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法)に準じて引張せん断試験を実施することによって評価することができる。上記試験によって測定された接着強度(せん断強さ)は、4N/mm以上であることが好ましく、5N/mm以上であることがより好ましく、6N/mm以上がさらに好ましい。接着強度(せん断強さ)は、例えば15N/mm以下である。ここで開示される導電性ペーストは、このような接着強度を実現するように調製されており、基材との好適な接着性が実現されている。
【0056】
<ペーストの用途>
ここで開示される導電性ペーストによれば、任意の基材上に耐熱性と接着性とに優れた導電性膜を形成することができる。この導電性膜は、乾燥によって硬化され、未焼成の状態で導電性膜を構成する。そのため、ここで開示される導電性ペーストは、焼成などの温度変化に弱いセラミック電子部品の樹脂電極層等を形成するための導電性ペースト等として好ましく用いることができる。その他、セラミック電子部品を基板実装する際に、半田に代わる接着のためのボンディング用導電性樹脂を形成するために用いることもできる。
【0057】
なお、本明細書において、「セラミック電子部品」とは、非晶質のセラミック基材(ガラスセラミック基材)あるいは結晶質(すなわち非ガラス)のセラミック基材を有する電子部品一般を指す用語である。例えば、セラミック製の基材を有するチップインダクタ、高周波フィルター、セラミックコンデンサ、低温焼成積層セラミック基材(Low Temperature Co-fired Ceramics Substrate:LTCC基材)、高温焼成積層セラミック基材(High Temperature Co-fired Ceramics Substrate:HTCC基材)等は、ここでいう「セラミック電子部品」に包含される典型例である。
【0058】
図1は、セラミック電子部品1としての積層セラミックコンデンサ(MLCC)の構成を模式的に示す断面図である。セラミック電子部品1は、典型的には、部品本体10と、部品本体10の対向する一対の端面に形成されている外部電極30とを備えている。
【0059】
部品本体10では、複数の内部電極20が誘電体層12を介して積層されている。各誘電体層12は、例えばセラミック誘電体を含むセラミックグリーンシートの積層焼結体から構成される。実際のMLCCにおいては、誘電体層12の間の接合境界が視認できない程度に一体化されている。ここで、内部電極20の一部は、部品本体10の端面(図1では左右の端部)に露出されている。
【0060】
外部電極30は、部品本体10の外表面上に配設されている。外部電極30は、基板2の配線3と、半田付け層4を介して接続されている。外部電極30は、部品本体10の対向する一対の端面(図1では左右の端部)のそれぞれに形成されている。外部電極30は、第1の金属電極層32と、導電性膜(樹脂電極層)34と、第2の金属電極層36と、第3の金属電極層38とを有している。
【0061】
第1の金属電極層32は、卑金属である銅(Cu)を主成分として含有しており、内部電極20と物理的且つ電気的に接続されている。第1の金属電極層32は、部品本体10の左右の一対の端面と、そこに連なる4つの側面の外表面に連続して形成されている。第1の金属電極層32は、Cu粉末を含有する導電性ペーストを、部品本体10の一対の端面およびそこに連なる4つの側面の外表面に、塗布して焼き付けることによって形成されている。第1の金属電極層32の厚みは、例えば、10μm~30μmである。
【0062】
導電性膜34は、ここで開示される導電性ペーストを乾燥により硬化させてなる層である。導電性膜34は、第1の金属電極層32の周縁を残して、部品本体10の一対の端面およびそこに連なる4つの側面の外表面に、ここで開示される導電性ペーストを塗布して乾燥させることによって形成されている。ここで、乾燥の温度は、使用するイミド樹脂およびシリコーン樹脂によって変わり得るものの、おおよそ180℃以上300℃以下である。導電性膜34の厚みは、例えば、20μm~100μmである。これによりここで開示される導電性ペーストを硬化させて、外部電極30の一部としての導電性膜34を形成することができる。
【0063】
第2の金属電極層36は、NiあるいはNi合金を主成分として含む。第2の金属電極層36は、例えば第1の導電性膜34の表面をNiめっきすることによって形成されている。第2の金属電極層36の厚みは、例えば、1μm~5μmである。第3の金属電極層38は、SnあるいはSn合金を主成分として含む。第3の金属電極層38は、第2の金属電極層36の表面をSnまたはSn合金でめっき処理することによって形成されている。第3の金属電極層38の厚みは、例えば、1μm~5μmである。
【0064】
以上のようにして、セラミック電子部品1を製造することができる。ここで、外部電極30は、部品本体10の両方の端面に露出された内部電極20に電気的に接続されている。これにより、外部から、一方の外部電極30を通じて内部電極20に送られた電流を、そのまま他方の外部電極30に送ることなく、MLCC内に蓄えて絶縁することができる。また、外部負荷に電流を流すときは、MLCC内に蓄えられた電荷が、順次、外部電極30を通じて外部回路に送られる。このとき、MLCCがあることによって、電源電圧が不安定な場合であっても、安定して外部回路に電荷を供給することができる。このようなMLCCは、外部電極30に高耐熱性と接着性とに優れた導電性膜34を含む。このことにより、MLCCが搭載された電子機器が、連続走行する車両等の高温環境に晒されて、MLCCが実装された基板が撓んだ場合であっても、導電性膜34が第2の金属電極層36に密着性よく接着し、例えばかかる撓みを緩衝し、部品本体10との電気的接続を安定して維持することができる。これにより、高温環境においても高い信頼性を有するセラミック電子部品1が提供される。なお、かかる導電性ペーストは、セラミック電子部品1(積層セラミック部品、MLCC)を基板2に実装する場合のボンディングペーストとしても利用できる。
【0065】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を係る実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0066】
[導電性ペースト]
表1に示す配合で、導電性粒子と、樹脂成分と、有機溶剤とを混合することで、例1~18の導電性ペーストを調製した。導電性粒子としては、平均粒子径が4.7μmのフレーク状のAg粉末(タップ密度3.1g/cm)を全例で共通して用いた。有機溶剤としては、γ-ブチロラクトンを共通して用いた。なお、各例における有機溶剤の使用量は、導電性ペーストの粘度に合わせて調整した。また、具体的には示さないが、導電性粒子および有機溶剤の種類を変更しても、後述する導電性ペーストの導電性、レオロジー特性、および接着特性の傾向に大幅な違いは見られないことを確認している。
【0067】
樹脂成分としては、以下に示される4種類のポリイミド樹脂と、シリコーン樹脂とを用意した。なお、「ポリイミド樹脂3」、「ポリイミド樹脂4」のTdは、硬化後の樹脂のTdである。
「ポリイミド樹脂1」:熱可塑性ポリイミド樹脂(Td:460℃、Mw:33,000)
「ポリイミド樹脂2」:熱可塑性ポリイミド樹脂(Td:450℃、Mw:63,000)
「ポリイミド樹脂3」:熱硬化性ポリイミド樹脂(Td:440℃、Mw:950)
「ポリイミド樹脂4」:熱硬化性ポリイミド樹脂(Td:400℃、Mw:1100)
「シリコーン樹脂」:付加硬化型シリコーンレジン(Mw:2500)
【0068】
なお、表1中の「質量割合*1(質量%)」は、熱可塑性ポリイミド樹脂と熱硬化性ポリイミド樹脂との合計を100質量%としたときの熱硬化性ポリイミド樹脂の質量割合である。「質量比*2(質量%)」は、全樹脂成分中に含まれるシリコーン樹脂の質量割合である。「質量比*3(質量部)」は、導電性粒子100質量部に対する樹脂成分の質量割合である。
【0069】
<接着性の評価>
用意した各例の導電性ペーストを、2枚の銅板(2cm×5cm、表面加工なし)の先端に、面積:2cm×1cm、厚み:約50μmで塗布した。そして、導電性ペーストを塗布した銅板を、先ずは130℃で15分間、次いで180℃で30分間、さらに280℃で45分間乾燥させることで、導電性ペーストを硬化させた。これにより、銅板上に所定の寸法の導電性膜を形成した。次いで、導電性膜を形成した2枚の銅板の導電性膜の部分にエポキシ接着剤を塗布し、銅板部分が互いに反対側に配置されるように向きを整えて、導電性膜同士を重ね合わせて接着した。これにより、各例の導電性膜の基板接着性の評価用試験片を用意した。
【0070】
評価用試験片の両端の銅板部分を、引張試験機((株)島津製作所製、万能試験機オートグラフ)の上下のチャックにそれぞれ固定し、JIS K6850:1999(剛性被着材の引張せん断接着強さ試験方法)に準じて引張せん断試験を実施した。引張せん断試験においては、評価用試験片の接着面に垂直な引張り荷重(せん断力)を所定の荷重速度で負荷し、評価用試験片が破断したときの引張せん断荷重(破断力)から、接着強度(せん断強さ)を測定した。
【0071】
上記結果に基づき、下記の指標で接着性を評価した。結果を、表1の「接着性」の欄に示す。
「◎」:接着強度が6N/mm以上であった。
「〇」:接着強度が5N/mm以上6N/mm未満であった。
「△」:接着強度が4N/mm以上5N/mm未満であった。
「×」:接着強度が4N/mm未満であった。
なお、評価用試験片の作製に用いたエポキシ接着剤の単体での引張せん断試験による接着強度は15N/mm以上であり、導電性膜よりも先にエポキシ接着剤部分が剥離または破断することはない。また、表1において、「◎」は「優良(Excellent)」、「〇」は「良好(Good)」、「△」は「許容可能(Acceptable)」、「×」は「不良(Poor)」を示している。その他の評価項目においても同様である。
【0072】
<レオロジー特性の評価>
各例の導電性ペーストのレオロジー特性を評価した。具体的には、ブルックフィールド粘度計(ブルックフィールド社製、DV-III ULTRA スピンドルSC4-14)を用いて、各々の導電性ペーストについて、25℃の環境下において、導電性ペースト中で回転子を回転速度1rpmで回転させたときの粘度V1(mPa.s)および回転速度100rpmで回転させたときの粘度V2(mPa.s)を測定し、比(V1/V2)を算出した。
【0073】
上記結果に基づき、下記の指標でレオロジー特性を評価した。結果を、表1の「レオロジー」の欄に示す。
「◎」:比(V1/V2)が1以上9以下であった。
「〇」:比(V1/V2)が9より大きく、かつ、18以下であった。
「△」:比(V1/V2)が18より大きく、かつ、26以下であった。
「×」:比(V1/V2)が26より大きかった。
【0074】
<導電性の評価>
各例の導電性ペーストを用いて、スクリーン印刷法により、松浪硝子工業製のガラス基板の表面に20μm程度の厚みで2cm×2cmの正方形状のパターンに付与(塗工)し、上記導電性ペーストからなる塗膜を得た。そして、上記基板および上記塗膜を先ずは130℃で15分間、次いで180℃で30分間、さらに280℃で45分間加熱し、樹脂を硬化することによって、基板上に各例に係る導電性膜を形成した。
【0075】
上記のとおり形成した導電性膜について、膜厚を面粗さ計(株式会社東京精密製のサーフコム)で測定した。このように測定した膜厚を使用し、導電性膜の体積抵抗率を、株式会社三菱化学アナリテック製の抵抗率計(型式:ロレスタGX MCP-T700)を用いて、4探針法で測定した。
【0076】
上記結果に基づき、下記の指標で導電性を評価した。結果を、表1の「導電性」の欄に示す。
「◎」:体積抵抗率が1×10-4Ω・cm以下であった。
「〇」:体積抵抗率が1×10-4Ω・cmより大きく、かつ、1×10-3Ω・cm以下であった。
「△」:体積抵抗率が1×10-3Ω・cmより大きく、かつ、1×10-2Ω・cm以下であった。
「×」:体積抵抗率が1×10-2Ω・cmより大きかった。
【0077】
<総合評価>
上記のとおり得られた接着性、レオロジー特性、および導電性のそれぞれの評価に基づき、各例の導電性ペーストの総合評価を行った。当該評価の指標は以下のとおりであり、結果を、表1の「総合評価」の欄に示す。
「◎」:少なくとも一つ「◎」の評価があり、かつ、その他の評価がすべて「〇」である。
「〇」:すべての評価が「〇」である。
「△」:一つでも「△」の評価があり、かつ、「×」の評価がない。
「×」:一つでも「×」の評価がある。
【0078】
【表1】
【0079】
表1に示されるように、樹脂成分として、熱硬化性ポリイミド樹脂と、Tdが300℃以上であり、かつ、Mwが30,000以上である熱可塑性ポリイミド樹脂と、を含み、熱可塑性ポリイミド樹脂と熱硬化性ポリイミド樹脂との合計を100質量%としたときに、熱硬化性ポリイミド樹脂が5質量%以上50質量%以下の割合で含まれる、例1~15に係る導電性ペーストを用いた結果から、上記構成によると、導電性膜の接着性が改善されることと、導電性ペーストに、良好な状態の導電性膜を作製するために適したレオロジー特性が実現されていることと、が確認された。一方、樹脂成分として熱可塑性ポリイミド樹脂のみを含む導電性ペーストを用いた例16,17、および、熱硬化性ポリイミド樹脂の質量割合が50質量%を超える例18では、導電性膜の接着性改善効果と、導電性ペーストへの好ましいレオロジー特性の付与とをともに実現することができなかった。
【0080】
以上より、導電性粒子と、樹脂成分と、有機溶剤とを含む導電性ペーストにおいて、樹脂成分として、熱硬化性ポリイミド樹脂と、Tdが300℃以上であり、かつ、Mwが30,000以上である熱可塑性ポリイミド樹脂と、を含み、熱可塑性ポリイミド樹脂と熱硬化性ポリイミド樹脂との合計を100質量%としたときに、熱硬化性ポリイミド樹脂を5質量%以上50質量%以下の割合で含むことによって、高耐熱性樹脂を含む導電性膜の接着性を改善することができる。
【0081】
以上、本発明を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0082】
1 セラミック電子部品
2 基板
3 配線
4 半田付け層
10 部品本体
12 誘電体層
20 内部電極
30 外部電極
32 第1の金属電極層
34 導電性膜
36 第2の金属電極層
38 第3の金属電極層
図1