(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】衝撃吸収機構、衝撃吸収機構の製作方法
(51)【国際特許分類】
B62D 21/15 20060101AFI20240918BHJP
B60R 19/24 20060101ALI20240918BHJP
B60R 19/03 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
B62D21/15 Z
B60R19/24 C
B60R19/03 Z
(21)【出願番号】P 2021074837
(22)【出願日】2021-04-27
【審査請求日】2024-02-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000110321
【氏名又は名称】トヨタ車体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 豪軌
(72)【発明者】
【氏名】西村 拓也
(72)【発明者】
【氏名】池田 貴恭
【審査官】大宮 功次
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-112152(JP,A)
【文献】特開2016-200233(JP,A)
【文献】特開2013-132943(JP,A)
【文献】国際公開第2015/092832(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0263342(US,A1)
【文献】特開2007-160987(JP,A)
【文献】特開2004-237810(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 21/15
B60R 19/24
B60R 19/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
柱状の木材を含み、一定の幅を有する複数の衝撃吸収部が、その軸方向と直交する方向に等間隔で配列された、車両の衝撃吸収機構であって、
前記衝撃吸収部の軸方向および配列方向に沿った面において円形である直径254(mm)の衝突物が、前記衝撃吸収部の中心軸または前記衝撃吸収部の間の隙間の幅方向の中心に当たる位置で、前記衝撃吸収部の軸方向に衝突するとした場合に、中心軸が前記衝突物の表面と交差する複数の前記衝撃吸収部のうち最も外側に位置する前記衝撃吸収部と前記衝突物との接触角をθmax(deg)、前記衝突物との接触角θ(deg)がθmax以下となる前記衝撃吸収部の本数をnとして、
前記衝撃吸収部の軸方向の長さL(mm)と、前記衝撃吸収部の間の隙間の幅d(mm)の値が、下式を満たすことを特徴とする衝撃吸収機構。
d≦4.43θmax/(n-1)-(0.00515θmax+0.408)L
【請求項2】
柱状の木材を含み、一定の幅を有する複数の衝撃吸収部が、その軸方向と直交する方向に等間隔で配列された、車両の衝撃吸収機構であって、
前記衝撃吸収部の軸方向および配列方向に沿った面において円形である直径254(mm)の衝突物が、前記衝撃吸収部の中心軸または前記衝撃吸収部の間の隙間の幅方向の中心に当たる位置で、前記衝撃吸収部の軸方向に衝突するとした場合に、中心軸が前記衝突物の表面と交差する複数の前記衝撃吸収部のうち、前記衝突物との接触角θ(deg)が20以下となる前記衝撃吸収部の本数をnとして、
前記衝撃吸収部の軸方向の長さL(mm)と、前記衝撃吸収部の間の隙間の幅d(mm)の値が、下式を満たすことを特徴とする衝撃吸収機構。
d≦88.6/(n-1)-0.511L
【請求項3】
前記衝撃吸収部が、前記木材の側面を囲う筒状の枠体を含むことを特徴とする請求項1または請求項2記載の衝撃吸収機構。
【請求項4】
柱状の木材を含み、一定の幅を有する複数の衝撃吸収部を、その軸方向と直交する方向に等間隔で配列することで、車両の衝撃吸収機構を製作する衝撃吸収機構の製作方法であって、
前記衝撃吸収部の軸方向および配列方向に沿った面において円形である所定の直径D(mm)の衝突物が、前記衝撃吸収部の中心軸または前記衝撃吸収部の間の隙間の幅方向の中心に当たる位置で、前記衝撃吸収部の軸方向に衝突するとし、中心軸が前記衝突物の表面と交差する複数の前記衝撃吸収部のうち最も外側に位置する前記衝撃吸収部と前記衝突物との接触角をθmax(deg)、前記衝突物との接触角θ(deg)がθmax以下となる前記衝撃吸収部の本数をnとして、
前記衝撃吸収部の軸方向の長さL(mm)と、前記衝撃吸収部の間の隙間の幅d(mm)の値を、所定の係数αを用いて、下式を満たすように定めることを特徴とする衝撃吸収機構の製作方法。
d≦Dsinθmax/(n-1)-αL
【請求項5】
柱状の木材を含み、一定の幅を有する複数の衝撃吸収部を、その軸方向と直交する方向に等間隔で配列することで、車両の衝撃吸収機構を製作する衝撃吸収機構の製作方法であって、
前記衝撃吸収部の軸方向および配列方向に沿った面において円形である所定の直径D(mm)の衝突物が、前記衝撃吸収部の中心軸または前記衝撃吸収部の間の隙間の幅方向の中心に当たる位置で、前記衝撃吸収部の軸方向に衝突するとし、中心軸が前記衝突物の表面と交差する複数の前記衝撃吸収部のうち、前記衝突物との接触角θ(deg)が所定値θmax(deg)以下となる前記衝撃吸収部の本数をnとして、
前記衝撃吸収部の軸方向の長さL(mm)と、前記衝撃吸収部の間の隙間の幅d(mm)の値を、所定の係数αを用いて、下式を満たすように定めることを特徴とする衝撃吸収機構の製作方法。
d≦Dsinθmax/(n-1)-αL
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に加わる衝突荷重を軽減するための衝撃吸収機構等に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の側面衝突時の衝撃吸収機構として、柱状の木材からなる衝撃吸収部を複数本平行に配置し、衝突時に木材が軸圧縮されて潰れることにより衝撃を吸収するものがある。特許文献1には、複数本の衝撃吸収部の長さを、衝突時に生じる圧縮荷重変動波が所定の位相差となるように調節することが記載されており、これにより衝撃吸収機構の衝撃吸収性能を安定化させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1では衝撃吸収部の軸方向に衝突物が衝突することを想定しているが、衝突物が円柱状のポールの場合、
図7のように、ポール60の中心に当たる位置にある衝撃吸収部50には軸方向に衝突荷重が加わっても、その外側の衝撃吸収部50には、ポールの円弧により斜め方向に衝突荷重が加わって曲げや折れが発生し、軸圧縮とならないことがある。この場合、木材の持つ本来の衝撃吸収性能を発揮できず、期待した衝撃吸収効果が得られない恐れがある。
【0005】
本発明は前述した問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、好適に衝撃吸収を行うことのできる衝撃吸収機構等を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前述した目的を達成するための第1の発明は、柱状の木材を含み、一定の幅を有する複数の衝撃吸収部が、その軸方向と直交する方向に等間隔で配列された、車両の衝撃吸収機構であって、前記衝撃吸収部の軸方向および配列方向に沿った面において円形である直径254(mm)の衝突物が、前記衝撃吸収部の中心軸または前記衝撃吸収部の間の隙間の幅方向の中心に当たる位置で、前記衝撃吸収部の軸方向に衝突するとした場合に、中心軸が前記衝突物の表面と交差する複数の前記衝撃吸収部のうち最も外側に位置する前記衝撃吸収部と前記衝突物との接触角をθmax(deg)、前記衝突物との接触角θ(deg)がθmax以下となる前記衝撃吸収部の本数をnとして、前記衝撃吸収部の軸方向の長さL(mm)と、前記衝撃吸収部の間の隙間の幅d(mm)の値が、下式を満たすことを特徴とする衝撃吸収機構である。
d≦4.43θmax/(n-1)-(0.00515θmax+0.408)L
【0007】
第2の発明は、柱状の木材を含み、一定の幅を有する複数の衝撃吸収部が、その軸方向と直交する方向に等間隔で配列された、車両の衝撃吸収機構であって、前記衝撃吸収部の軸方向および配列方向に沿った面において円形である直径254(mm)の衝突物が、前記衝撃吸収部の中心軸または前記衝撃吸収部の間の隙間の幅方向の中心に当たる位置で、前記衝撃吸収部の軸方向に衝突するとした場合に、中心軸が前記衝突物の表面と交差する複数の前記衝撃吸収部のうち、前記衝突物との接触角θ(deg)が20以下となる前記衝撃吸収部の本数をnとして、前記衝撃吸収部の軸方向の長さL(mm)と、前記衝撃吸収部の間の隙間の幅d(mm)の値が、下式を満たすことを特徴とする衝撃吸収機構である。
d≦88.6/(n-1)-0.511L
【0008】
本発明者は前記の問題について鋭意検討、実験を行うことで、衝撃吸収部の軸方向の長さLと衝撃吸収部同士の隙間の幅dの関係を第1、第2の発明の衝撃吸収機構で示すように定めることで、ポール等の衝突物が衝撃吸収部の軸方向に衝突したときに、衝突物の円弧により斜め方向の荷重入力となっても衝撃吸収部が曲がったり折れたりせずに軸方向に圧縮変形して木材本来の衝撃吸収性能を発揮することを見出した。衝撃吸収部の軸方向の長さLと衝撃吸収部同士の隙間の幅dを第1、第2の発明の衝撃吸収機構で示すように定めることで、
図7等で説明した衝撃吸収部の曲げ等を抑制し、高い衝撃吸収効果の得られる衝撃吸収機構を提供できる。
【0009】
前記衝撃吸収部が、前記木材の側面を囲う筒状の枠体を含むことが望ましい。
これにより、枠体で木材を拘束して衝撃吸収性能を高めることができる。
【0010】
第3の発明は、柱状の木材を含み、一定の幅を有する複数の衝撃吸収部を、その軸方向と直交する方向に等間隔で配列することで、車両の衝撃吸収機構を製作する衝撃吸収機構の製作方法であって、前記衝撃吸収部の軸方向および配列方向に沿った面において円形である所定の直径D(mm)の衝突物が、前記衝撃吸収部の中心軸または前記衝撃吸収部の間の隙間の幅方向の中心に当たる位置で、前記衝撃吸収部の軸方向に衝突するとし、中心軸が前記衝突物の表面と交差する複数の前記衝撃吸収部のうち最も外側に位置する前記衝撃吸収部と前記衝突物との接触角をθmax(deg)、前記衝突物との接触角θ(deg)がθmax以下となる前記衝撃吸収部の本数をnとして、前記衝撃吸収部の軸方向の長さL(mm)と、前記衝撃吸収部の間の隙間の幅d(mm)の値を、所定の係数αを用いて、下式を満たすように定めることを特徴とする衝撃吸収機構の製作方法である。
d≦Dsinθmax/(n-1)-αL
【0011】
第4の発明は、柱状の木材を含み、一定の幅を有する複数の衝撃吸収部を、その軸方向と直交する方向に等間隔で配列することで、車両の衝撃吸収機構を製作する衝撃吸収機構の製作方法であって、前記衝撃吸収部の軸方向および配列方向に沿った面において円形である所定の直径D(mm)の衝突物が、前記衝撃吸収部の中心軸または前記衝撃吸収部の間の隙間の幅方向の中心に当たる位置で、前記衝撃吸収部の軸方向に衝突するとし、中心軸が前記衝突物の表面と交差する複数の前記衝撃吸収部のうち、前記衝突物との接触角θ(deg)が所定値θmax(deg)以下となる前記衝撃吸収部の本数をnとして、前記衝撃吸収部の軸方向の長さL(mm)と、前記衝撃吸収部の間の隙間の幅d(mm)の値を、所定の係数αを用いて、下式を満たすように定めることを特徴とする衝撃吸収機構の製作方法である。
d≦Dsinθmax/(n-1)-αL
【0012】
第3、第4の発明では、ポール等が衝撃吸収部の軸方向に衝突したときに、衝突物の円弧により斜め方向の荷重入力となっても衝撃吸収部が軸方向に圧縮変形して木材本来の衝撃吸収性能を発揮するように、衝撃吸収機構の寸法関係を上記の関係式を用いて定める。係る方法により衝撃吸収機構を製作することで、衝撃吸収機構の設計や開発に当たって試行錯誤を減らし、開発コストを低減できる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、好適に衝撃吸収を行うことのできる衝撃吸収機構等を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】車両1の衝撃吸収機構2の配置を示す概略図。
【
図3】衝撃吸収機構2とポール6との位置関係を示す図。
【
図4】衝撃吸収部5に対する試験方法を説明する図。
【
図6】衝撃吸収部5の接触角θと係数αの関係を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面に基づいて本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0016】
図1は本発明の実施形態に係る車両1の衝撃吸収機構2の配置を示す概略図である。衝撃吸収機構2は、車両1の側面衝突時に車両1に加わる衝撃を吸収して衝突荷重を軽減するためのものである。車両1の種類は特に限定されない。
【0017】
衝撃吸収機構2は、車両1の側部の金属製のボディを構成する外側構成部材3と内側構成部材4の間で、車両前後方向に配置される。車両前後方向は
図1の上下方向に対応する。
図1の左右方向は車両幅方向であり、車両前後方向と平面において直交する。なお「外側」とは車両1の外部側をいい、「内側」とは車両1の内部側をいうものとする。
【0018】
図2(a)は衝撃吸収機構2を上から見た図であり、衝撃吸収機構2の水平方向の断面を部分的に示している。
図2(b)は衝撃吸収機構2の斜視図であり、外側構成部材3を省略して示したものである。
【0019】
図2に示すように、衝撃吸収機構2では、複数の衝撃吸収部5が車両前後方向に等間隔に並べて平行に配列される。車両前後方向は、
図2(a)の上下方向、
図2(b)の奥行方向に対応する。
【0020】
衝撃吸収部5は、木材51と枠体52を含む略直方体状の柱状部材である。
【0021】
木材51は柱状の木製部材であり、例えばスギが好適であるが、これに限ることはない。また木材51の軸方向と直交する断面は正方形となっていが、木材51の断面形状も正方形に限ることはなく、長方形状でもよいし、円形でもよい。
【0022】
枠体52は、木材51の側面(軸方向に沿った面)を囲うように設けられる筒状の金属部材である。枠体52は、木材51の軸方向の全長に亘って配置される。
【0023】
衝撃吸収部5は、その軸方向を車両幅方向に合わせて配置される。すなわち、衝撃吸収部5の軸方向は、衝撃吸収部5の配列方向(車両前後方向)と平面において直交する。衝撃吸収部5の軸方向の長さは、衝撃吸収機構2を構成する全ての衝撃吸収部5について一定である。衝撃吸収部5の幅についても同様である。なお「幅」とは、衝撃吸収部5の配列方向における長さをいうものとする。
【0024】
衝撃吸収部5は、外側の端部が車両1の外側構成部材3に面接触する。内側の端部は、車両1の内側構成部材4に形成された取付穴41に嵌め込まれて接着固定される。なお、衝撃吸収部5の内側構成部材4への固定方法はこれに限らない。例えば、枠体52から外側に張り出すように固定用のブラケット(不図示)を設け、このブラケットを内側構成部材4に固定してもよい。
【0025】
図3(a)は、衝撃吸収機構2とポール6の位置関係を示す図である。ポール6は車両1に対する衝突物である。ポール6は円柱状であり、衝撃吸収部5の軸方向および配列方向に沿った面(
図3(a)に示す面)において円形である。
【0026】
本実施形態では、車両1のポール6への側面衝突時、ポール6が衝撃吸収部5の軸方向(矢印A参照)に沿って車両1と衝突すると仮定し、以下この方向を荷重入力方向という。
【0027】
衝撃吸収機構2では、外側構成部材3にポール6が接触して衝突荷重が入力されると、複数の衝撃吸収部5が荷重入力方向に圧縮変形することで衝撃が吸収される。このとき、木材51は枠体52によって拘束されつつ荷重入力方向に軸圧縮され、これにより高い衝撃吸収効果が得られる。木材51が持つ衝撃吸収性能を良好に発揮させるためには、木材51の年輪の軸心方向(木材51の繊維方向)を荷重入力方向すなわち衝撃吸収部5の軸方向に対応させることが望ましい。
【0028】
さらに本実施形態では、前記の
図7に示したような衝撃吸収部5の曲げや折れを抑制し、衝撃吸収機構2の衝撃吸収性能を好適に発揮させるため、中心軸Cがポール6の表面と交差する複数の衝撃吸収部5のうち最も外側に位置する衝撃吸収部5(以下、「最外部の衝撃吸収部5」という)とポール6との接触角θmax(deg)、および、ポール6との接触角θがθmax以下となる衝撃吸収部5の本数nを用いて、衝撃吸収部5の軸方向の長さL(mm)と衝撃吸収部5同士の隙間7の幅d(mm)の関係を定める。
【0029】
ここで、衝撃吸収部5とポール6の接触角θは、衝撃吸収部5の軸方向および配列方向に沿った面(
図3(a)に示す面)において、衝撃吸収部5の中心軸Cとポール6の表面との交点をPとし、交点Pとポール6の中心Oを結んだ線分Bと、中心軸Cとが成す角度のうち小さい方とする。接触角θは0から90までの値をとる。
【0030】
また本実施形態では、ポール6が
図3(a)に示すように衝撃吸収部5の中心軸Cに当たる位置で衝突するケースと、
図3(b)に示すように衝撃吸収部5同士の隙間7の幅方向の中心に当たる位置で衝突するケースを仮定するが、
図3(a)(b)のいずれのケースにおいても、ポール6の直径をD(mm)、ポール6との接触角θが前記のθmax以下となる衝撃吸収部5の本数をn(
図3(a)の例では5、
図3(b)の例では4)とすると、Dsinθmaxの範囲に(n-1)個分の衝撃吸収部5と隙間7が収まることになる。
【0031】
これは、衝撃吸収部5の幅w(mm)と長さLの比α(=w/L)を用いて以下の式(1)で表すことができ、式(1)は以下の式(1’)のように変形できる。
d(n-1)+αL(n-1)=Dsinθmax…(1)
d=Dsinθmax/(n-1)-αL…(1’)
【0032】
αは、ポール6の衝突時、斜め方向に荷重が入力された衝撃吸収部5に曲げや折れが生じず、衝撃吸収性能を発揮できるか否かを左右する係数であり、αの値が適切でないと、前記の
図7に示したように最外部の衝撃吸収部5が曲げたり折れたりして、その軸圧縮による衝撃吸収効果が得られない恐れがある。
【0033】
αの値は、衝撃吸収部5に対する衝撃試験や静圧壊試験を事前に行い、接触角θmaxでの衝突に対し、衝撃吸収部5が曲がったり折れたりせずに軸圧縮して衝撃吸収性能を発揮できる値として得られる。αの値を事前に定めることで、前記の式(1’)により衝撃吸収機構2の設計を行うことができる。隙間7の幅dが式(1’)で定まる値より小さい場合も、衝撃吸収部5がより密に配置されることになるので問題はなく、実際には、前記の式(1’)の等号を不等号に代えて、下式(1”)により衝撃吸収機構2の設計を行うことができる。
d≦Dsinθmax/(n-1)-αL…(1”)
【0034】
ここで、本発明者は実際に衝撃試験や静圧壊試験を行い、その結果からαの値を定めているので、以下その例を説明する。なお、本発明が以下の例に限られることはない。
【0035】
衝撃試験や静圧壊試験では、
図4に示すように、衝撃吸収部5をその中心軸Cが荷重入力方向A’に対してθだけ傾斜するように固定し、その状態で荷重入力方向A’の荷重を加えた。衝撃吸収部5は、40mm角の木材51を厚さ0.5mmの枠体52で覆ったものとし、その幅wは41mmとなる。衝撃試験は既知の落錘試験機を用いて実施し、静圧壊試験は既知の万能試験機を用いて実施した。
【0036】
図5(a)は、軸方向の長さLが80、90、100(mm)の衝撃吸収部5について、接触角θが0、10、20(deg)の場合に衝撃吸収性能を発揮できるかどうかを衝撃試験と静圧壊試験の結果から評価したものである。
【0037】
衝撃吸収性能の評価は、接触角θが0(deg)の場合に比べて衝撃吸収性能が低下するかどうかによる。例えば
図5(b)は衝撃試験の結果の一例であり、接触角θを10(deg)とした場合、接触角θが0(deg)の場合に比べ、衝突時に衝撃吸収部5が負担する荷重の低下が早く、また衝撃吸収部5の変位も大きいため、接触角θが0(deg)の場合に比べて衝撃吸収性能が低下すると評価した。
【0038】
図5(a)の「〇」は接触角θが0(deg)の場合に比べて衝撃吸収性能が低下しないことを表し、「×」は接触角θが0(deg)の場合に比べて衝撃吸収性能が低下することを表す。なお、接触角θが0(deg)の場合の評価は全て「〇」とした。
【0039】
図5(a)の破線は、各長さLの衝撃吸収部5について、評価が「〇」である最も大きな接触角θを直線で結んだ線分である。
図6は、上記線分を、横軸を接触角θ、縦軸をα=w/Lとして示したものであり、接触角θでの荷重入力に対し、衝撃吸収部5が曲がったり折れたりせずに軸圧縮して衝撃吸収性能を発揮できるθとαの関係が以下の式(2)として導出される。
α=0.00515θ+0.408…(2)
【0040】
式(2)のθをθmaxとし、これにより前記した式(1”)のαを置き換えたものが以下の式(3)である。
d≦Dsinθmax/(n-1)-(0.00515θmax+0.408)L…(3)
【0041】
また、式(3)のDを「道路運送車両の保安基準(国土交通省)」で定められた側突試験におけるポール6の直径である254(mm)とし、Dsin(πθ/180)≒Dπ/180×θとして計算することで、式(4)が得られる。
d≦4.43θmax/(n-1)-(0.00515θmax+0.408)L…(4)
【0042】
係る式(4)は、
図3(a)(b)のいずれかのケースを仮定し、直径254(mm)のポール6に衝突する衝撃吸収部5を対象として衝撃吸収部5の軸方向の長さLと衝撃吸収部5同士の隙間7の幅dの関係を定め、これにより(他の衝撃吸収部5も含めた)衝撃吸収機構2全体を設計するものである。衝撃吸収部5の本数nは、
図3(a)(b)に示す2ケースのうちnが少なくなる方の値としてもよいし、設計者がどちらか任意で決めてもよい。
【0043】
本実施形態では、衝撃吸収部5の軸方向の長さLと衝撃吸収部5同士の隙間7の幅dの関係を上記の式(4)のように定めることで、ポール6の衝突時に斜め方向からの荷重入力となっても、衝撃吸収部5が曲がったり折れたりすることで衝撃吸収性能が低下することが無く、衝撃吸収機構2により高い衝撃吸収効果が得られる。
【0044】
なお、上記の例では、式(1”)、式(4)等のθmaxを、最外部の衝撃吸収部5とポール6との接触角としているが、θmaxを所定の値とすることも可能である。この場合、nの値は、接触角θが所定値θmax以下となる衝撃吸収部5の本数となる。
【0045】
例えば式(4)のθmaxを、前記した衝突試験と静圧壊試験で衝撃吸収性能が確認できた最大の接触角θである20(deg)とすることで、衝撃吸収部5の軸方向の長さLと衝撃吸収部5同士の隙間7の幅dの関係を下記の式(4’)のように定めることもできる。式(4’)のnは、接触角θが所定値20(deg)以下となる衝撃吸収部5の本数である。
d≦88.6/(n-1)-0.511L…(4’)
【0046】
係る式(4’)は、
図3(a)(b)のいずれかのケースを仮定し、直径254(mm)のポール6との接触角θが所定値20(deg)以下となる衝撃吸収部5を対象として衝撃吸収部5の軸方向の長さLと衝撃吸収部5同士の隙間7の幅dの関係を定め、これにより(他の衝撃吸収部5も含めた)衝撃吸収機構2全体を設計するものである。なおこの例では上記の所定値を20(deg)としているが、別の適宜の値としてもよい。
【0047】
以上説明したように、本実施形態の衝撃吸収機構2では、衝撃吸収部5の軸方向の長さLと衝撃吸収部5同士の隙間7の幅dの関係を、実験により前記の式(4)や式(4’)のように定めることで、円柱状のポール6が衝撃吸収部5の軸方向に衝突したときに、ポール6の円弧により斜め方向の荷重入力となっても衝撃吸収部5が曲がったり折れたりせずに軸方向に圧縮変形して木材本来の衝撃吸収性能を発揮することができる。衝撃吸収部5の軸方向の長さLと衝撃吸収部5同士の隙間7の幅dを上記のように定めることで、
図7等で説明した衝撃吸収部の曲げを抑制し、高い衝撃吸収効果の得られる衝撃吸収機構2を提供できる。
【0048】
また、本実施形態では、斜め方向の荷重入力に対して衝撃吸収部5の軸圧縮による衝撃吸収効果が得られる衝撃吸収機構2の寸法関係が、前記の式(1”)などのように関係式として定式化されているので、係る関係式を用いて衝撃吸収機構2を製作することで、衝撃吸収機構2の設計や開発に当たって目標性能を満たす衝撃吸収部5を選定するための試行錯誤を減らすことができ、設計や開発の当初から衝撃吸収機構2の寸法を高い精度で適切に決定することで開発コストを低減できる。
【0049】
また本実施形態の衝撃吸収部5は木材51の側面を囲う筒状の枠体52を含むので、枠体52で木材51を拘束して衝撃吸収性能を高めることができる。
【0050】
しかしながら、本発明は以上の実施形態に限らない。例えば車両1に対する衝突物はポール6に限らず、衝撃吸収部5の軸方向および配列方向に沿った面において円形であればよい。また衝撃吸収部5の枠体52の材料も金属に限らず、必要な強度が得られれば樹脂等であってもよい。また場合によっては枠体52を省略することも可能である。
【0051】
さらに、本実施形態では車両1の側面衝突を想定して車両1の側部に前記したように衝撃吸収機構2を配置したが、衝撃吸収機構2はこれに限らず、衝突荷重の入力が想定される車両1の各部において適切な配置で取付けることが可能である。例えば衝突時の荷重入力方向として車両前後方向を想定する場合、車両1の前部や後部に衝撃吸収機構2を固定することができ、衝撃吸収部5は軸方向を車両前後方向として配置することができる。
【0052】
また係数αを定めた前記の式(3)はあくまで一例であり、例えば精度をより向上させた別の式を用いることも可能である。
【0053】
以上、添付図面を参照しながら、本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、本願で開示した技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0054】
1:車両
2:衝撃吸収機構
3:外側構成部材
4:内側構成部材
5、50:衝撃吸収部
6、60:ポール
7:隙間
51:木材
52:枠体