IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社日立製作所の特許一覧

特許7556830配電システム及び配電システムの故障検知方法
<>
  • 特許-配電システム及び配電システムの故障検知方法 図1
  • 特許-配電システム及び配電システムの故障検知方法 図2
  • 特許-配電システム及び配電システムの故障検知方法 図3
  • 特許-配電システム及び配電システムの故障検知方法 図4
  • 特許-配電システム及び配電システムの故障検知方法 図5
  • 特許-配電システム及び配電システムの故障検知方法 図6
  • 特許-配電システム及び配電システムの故障検知方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】配電システム及び配電システムの故障検知方法
(51)【国際特許分類】
   G01R 31/08 20200101AFI20240918BHJP
   H02H 3/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
G01R31/08
H02H3/00 Q
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2021120535
(22)【出願日】2021-07-21
(65)【公開番号】P2023016308
(43)【公開日】2023-02-02
【審査請求日】2024-02-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ゴヤル ハマ
(72)【発明者】
【氏名】菊池 輝
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/111292(WO,A1)
【文献】特開2005-341757(JP,A)
【文献】特開2004-45118(JP,A)
【文献】特開平9-288139(JP,A)
【文献】特開2007-279031(JP,A)
【文献】特開2020-60370(JP,A)
【文献】特開2014-10027(JP,A)
【文献】特開2008-89528(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0085715(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/024200(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第110579685(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/08
H02H 3/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配電網内の故障した電力供給線を識別する配電システムの故障検知方法であって、
電力変換器または任意の能動デバイスから複数の電力供給線に複数の周波数の高周波電流を注入し、
前記複数の周波数での前記複数の電力供給線の高周波インピーダンスを検出し、
当該検出した高周波インピーダンスに基づいて故障した電力供給線を識別するとともに、前記複数の周波数での高周波インピーダンスの減算を実行して、故障抵抗の影響を排除することを特徴とする配電システムの故障検知方法。
【請求項2】
請求項1に記載の配電システムの故障検知方法であって、
前記電力変換器または前記任意の能動デバイスから前記複数の電力供給線に異なる2つの周波数の高周波電流を注入し、
前記異なる2つの周波数での前記複数の電力供給線の高周波インピーダンスを検出し、
当該検出した高周波インピーダンスの前記異なる2つの周波数での高周波インピーダンスの差分を電力供給線毎に算出し、
当該算出した差分に基づいて故障した電力供給線を識別することを特徴とする配電システムの故障検知方法。
【請求項3】
請求項1に記載の配電システムの故障検知方法であって、
前記電力変換器または前記任意の能動デバイスは、前記複数の周波数の高周波電流を同時にまたは順番に注入することを特徴とする配電システムの故障検知方法。
【請求項4】
請求項1に記載の配電システムの故障検知方法であって、
前記電力変換器または前記任意の能動デバイスは、2つ以上の任意の数の周波数の高周波電流を注入することを特徴とする配電システムの故障検知方法。
【請求項5】
請求項2に記載の配電システムの故障検知方法であって、
前記複数の電力供給線の電流値および前記複数の電力供給線が接続されたバスのバス電圧を検出し、
当該検出した電流値およびバス電圧を、バンドパスフィルタを通過させて前記異なる2つの周波数での電圧値および電流値を抽出し、
当該抽出した電圧値および電流値に基づいて高周波インピーダンスを算出することを特徴とする配電システムの故障検知方法。
【請求項6】
請求項1に記載の配電システムの故障検知方法であって、
中電圧配電網を構成する複数の電力供給線から、故障した電力供給線を識別することを特徴とする配電システムの故障検知方法。
【請求項7】
請求項1に記載の配電システムの故障検知方法であって、
任意の種類の接地システムを有する配電網に適用可能であることを特徴とする配電システムの故障検知方法。
【請求項8】
請求項2に記載の配電システムの故障検知方法であって、
前記異なる2つの周波数は、50Hz以上の周波数であることを特徴とする配電システムの故障検知方法。
【請求項9】
請求項2に記載の配電システムの故障検知方法であって、
故障前のインピーダンスを使用して前記高周波インピーダンスを正規化することを特徴とする配電システムの故障検知方法。
【請求項10】
請求項1に記載の配電システムの故障検知方法であって、
前記複数の電力供給線を流れる三相電流の3つの相の高周波インピーダンスを比較することを特徴とする配電システムの故障検知方法。
【請求項11】
複数の電力供給線に複数の周波数の高周波電流を注入する電力変換器または任意の能動デバイスと、
前記複数の電力供給線の電流値および前記複数の電力供給線が接続されたバスのバス電圧を検出するセンサと、を備え、
前記電力変換器または前記任意の能動デバイスから前記複数の電力供給線に複数の高周波電流を注入し、
前記センサにより検出した前記電流値および前記バス電圧に基づいて前記複数の周波数での前記複数の電力供給線の高周波インピーダンスを検出し、
当該検出した高周波インピーダンスに基づいて故障した電力供給線を識別するとともに、前記複数の周波数での高周波インピーダンスの減算を実行して、故障抵抗の影響を排除することを特徴とする配電システム。
【請求項12】
請求項11に記載の配電システムであって、
前記電力変換器または前記任意の能動デバイスから前記複数の電力供給線に異なる2つの周波数の高周波電流を注入し、
前記異なる2つの周波数での前記複数の電力供給線の高周波インピーダンスを検出し、
当該検出した高周波インピーダンスの前記異なる2つの周波数での高周波インピーダンスの差分を電力供給線毎に算出し、
当該算出した差分に基づいて故障した電力供給線を識別することを特徴とする配電システム。
【請求項13】
請求項11に記載の配電システムの故障検知方法であって、
前記電力変換器または前記任意の能動デバイスは、前記複数の周波数の高周波電流を同時にまたは順番に注入することを特徴とする配電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配電システムの構成とその故障検知方法に係り、特に、故障した電力供給線の識別に適用可能な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
電力の配電網において、中央集中型の発電所から効率的な長距離送電を行うために、送電線や配電線は欠くことのできない重要な役割を果たしている。しかしながら、これらの電力供給線には、しばしば暴風雨や雷、雪、凍結雨、絶縁破壊、または鳥やその他の外部物体による短絡によって障害が発生する。障害発生後、保護リレーが障害を検出し、遮断器を作動させて故障した配線区間を解放することで、停電に至る。現代社会において、停電は深刻な問題である。
【0003】
故障した電力供給線を精度良く識別することができれば、迅速に復旧することができる。これにより、障害の影響を直接受けていない電力供給線に接続しているユーザの停電を減らすことができる。多くの場合、電気的な障害は、電力供給を受けている設備や機器の機械的な損傷に繋がり、修理が必要となる。故障した電力供給線を識別することで、早期の修理が可能となり、故障の再発や重大な損傷を防止することができる。
【0004】
したがって、配電網において、高品質なサービスと全体的なコスト削減のためには、障害を検出して電源を復旧するための高速かつ信頼性の高い方法が不可欠である。
【0005】
ところで、主な接地モードの1つとして、中性点が非接地あるいは高抵抗接地された方式が、特にヨーロッパと中国の中電圧(MV:Medium Voltage)配電網で広く使用されている。このような中性点が非接地あるいは高抵抗接地された方式の配電網(NIGDG:Neutral Ineffectively Grounded Distribution Grid)には、単相地絡が発生した後も相間電圧が対称のままであるという利点がある。この配電システムは、1~2時間、場合によってはそれよりも長い期間、障害が持続した状態で動作することが可能である。これにより、電力会社は障害を解消し、中断なく電力を供給する時間を確保できる。
【0006】
しかしながら、NIGDGの固有の欠点は、故障電流の大きさが通常の動作電流を大きく上回らないことであり、故障した電力供給線の検出と識別が非常に困難であることが課題の1つである。
【0007】
また、配電網の導電体は、樹木や木製の柵、車両などの接地が不十分な物体と接触することがよくある。時には、これらの通電された導体が破損し、アスファルトやコンクリート、草、砂などの高インピーダンスの地面に接触する場合がある。これらの接触は、故障電流を数ミリアンペアから数十アンペアのみに制限する。過電流リレーや再閉路器、ヒューズに基づく従来の保護方式では、このような低電流の高インピーダンス障害(HIFs:High-Impedance Faults)を検出するのが困難である。
【0008】
検出されないHIFsは、配電網の構成要素に損傷を与えないが、地面上の通電された導体は人体に危害を及ぼす可能性がある。また、このような障害によってアーク放電が発生すると、火災の危険が生じる。
【0009】
複数の報告書によれば、配電網のすべての障害の内、HIFsは20~25%程度であるとされている。しかしながら、実際には、この割合は報告されている値よりも高いため、このHIF検出の問題を解決することが不可欠である。
【0010】
近年、持続可能な社会を目指す電力事業者は、より多くの再生可能エネルギーと電気自動車(EV:Electric Vehicle)を提供するために、スマートグリッドに移行している。再生可能エネルギーやEVからの電力変換には、電力変換装置が必要である。多機能電力変換装置からのインテリジェントな監視と制御を使用することにより、電力事業者は停電を減らすことができる。
【0011】
本技術分野の背景技術として、例えば、特許文献1のような技術がある。特許文献1には「高周波電源と電圧測定センサと電流測定センサを用いて、配電線の相間インピーダンス及び対地インピーダンスを測定して、地絡事故及び短絡事故の故障種別を判定する故障点標定方法」が開示されている。
【0012】
また、特許文献2には「配電システムの分散リソースが、分散リソースノードで障害が発生したときに配電システムの回路に接続されたままであることを保証するシステム」が開示されている。
【0013】
また、特許文献3には「地中配電線路と大地間に位相が180°異なる二つの探査信号を各々注入する探査信号注入手段と、前記地中配電線路を伝搬する二つの探査信号により生じる磁界を検出する磁界検出手段と、前記磁界検出手段で検出された検出磁界に基づき前記地中配電線路の地絡事故点を検出する地絡事故点検出手段とを備える地絡事故点探査装置」が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2002-122628号公報
【文献】米国特許第9459308号明細書
【文献】特開2007-279031号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
過去の発明では、障害の検出および識別のために、送電線の複数の場所にある電力装置からの単一の高周波電流の注入が適用されている。これらの電力装置は、系統障害時に高周波電流を注入するだけでなく、他の隣接する電力装置によって注入される高周波電流も遮断する。高電圧(HV:High Voltage)の電圧と電流は、複数の電力供給線に電力装置とともに設置されたセンサによって検出される。複数の電力供給線の高周波(HF)インピーダンスを評価し、比較することによって、障害のある電力供給線が識別される。
【0016】
しかしながら、高インピーダンス障害(HIF)や中性点が非接地あるいは高抵抗接地された方式の配電網(NIGDG)の場合、電力供給線のHFインピーダンス間の差が小さいため、このような方法では上手く識別できない可能性がある。
【0017】
上記特許文献1から特許文献3のいずれの技術も、同様に、高インピーダンス障害(HIF)や中性点が非接地あるいは高抵抗接地された方式の配電網(NIGDG)の場合、上手く識別できない可能性がある。
【0018】
そこで、本発明の目的は、配電網の形態や発生する障害の種別に依らず、故障した電力供給線を精度良く識別可能な配電システム及びその故障検知方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記課題を解決するために、本発明は、配電網内の故障した電力供給線を識別する配電システムの故障検知方法であって、電力変換器または任意の能動デバイスから複数の電力供給線に複数の周波数の高周波電流を注入し、前記複数の周波数での前記複数の電力供給線の高周波インピーダンスを検出し、当該検出した高周波インピーダンスに基づいて故障した電力供給線を識別するとともに、前記複数の周波数での高周波インピーダンスの減算を実行して、故障抵抗の影響を排除することを特徴とする。
【0020】
また、本発明は、複数の電力供給線に複数の周波数の高周波電流を注入する電力変換器または任意の能動デバイスと、前記複数の電力供給線の電流値および前記複数の電力供給線が接続されたバスのバス電圧を検出するセンサと、を備え、前記電力変換器または前記任意の能動デバイスから前記複数の電力供給線に複数の高周波電流を注入し、前記センサにより検出した前記電流値および前記バス電圧に基づいて前記複数の周波数での前記複数の電力供給線の高周波インピーダンスを検出し、当該検出した高周波インピーダンスに基づいて故障した電力供給線を識別するとともに、前記複数の周波数での高周波インピーダンスの減算を実行して、故障抵抗の影響を排除することを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、配電網の形態や発生する障害の種別に依らず、故障した電力供給線を精度良く識別可能な配電システム及びその故障検知方法を実現することができる。
【0022】
これにより、信頼性の高いスマートグリッドの構築が図れる。
【0023】
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】複数のバスに電力変換器が設置されたくし型中電圧配電網の概略図である。
図2】複数のバスに電力変換器が設置されたメッシュ型中電圧配電網の概略図である。
図3】中電圧配電網の複数の電力供給線の1つで高インピーダンス障害(HIF)が発生した場合の電力供給線構成と構成部品を示す図である。
図4】中性非有効接地配電網(NIGDG)の複数の電力供給線の1つで障害が発生した電力供給線構成と構成部品を示す図である。
図5】本発明の一実施形態に係る不良電力供給線の識別方法を示す図である。
図6図5の不良電力供給線識別(FFI)ブロックの詳細な構成と動作を示す図である。
図7】本発明の一実施形態に係る不良電力供給線の識別方法を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を用いて本発明の実施例を説明する。なお、各図面において同一の構成については同一の符号を付し、重複する部分についてはその詳細な説明は省略する。
【0026】
また、以下では、相互接続される複数の配電網に対し、電圧範囲の相対的な関係に基づいて、それぞれ高電圧(HV)配電網、中電圧(MV)配電網、低電圧(LV)配電網と呼ぶが、本発明は特定の電圧範囲に限定されるものではなく、いずれの電圧範囲の配電網にも適用可能である。
【実施例1】
【0027】
先ず、図1及び図2を参照して、本発明の適用対象となる電力の配電網について説明する。図1及び図2は、2つの異なる構成の中電圧(MV)配電網を示している。図1は、複数のバスに電力変換器が設置されたくし型中電圧配電網であり、図2は、複数のバスに電力変換器が設置されたメッシュ型中電圧配電網である。
【0028】
図1の中電圧(MV)配電網1は、一端がHV/MV変圧器101によって高電圧(HV)配電網に接続され、他端がMV/LV変圧器115によって低電圧(LV)配電網に接続されたくし型中電圧配電網として構成されている。
【0029】
中電圧(MV)配電網1は、複数のバス(母線)102,106,110,114によって、複数の電力供給線104,108,112に分割されている。
【0030】
ここで、任意の電力供給線における故障は、回路遮断器103,105,107,109,111,113によって分離することができ、残りの正常な電力供給線の復旧を効率的に行うことができる。複数の異なるバス102,106,110,114の各々には、不良電力供給線識別(FFI:Faulty Feeder Identification)の追加機能を実行する電力変換器116,117,118,119が設置されている。
【0031】
図2の中電圧(MV)配電網1は、一端がHV/MV変圧器201によって高電圧(HV)配電網に接続され、他端がMV/LV変圧器207によって低電圧(LV)配電網に接続されたメッシュ型中電圧配電網として構成されている。
【0032】
バス202,206,212、電力供給線204,210,215、電力変換器208,213,217などの回路構成要素は、図1で説明した構成要素と同様の機能を果たす。
【0033】
回路遮断器203,205,209,211,214,216は、障害発生時または保守中に、主系統から各電力供給線を分離し、再構成するために使用される。
【0034】
次に、図3及び図4を参照して、電力供給線204に障害が発生した場合について説明する。図3は、電力供給線204に高インピーダンス障害(HIF)が発生した場合の等価回路であり、図4は、接地抵抗401を有する中性点が高抵抗接地された配電網(NIGDG)で故障が発生した場合の等価回路である。
【0035】
図3では、バス206に接続された電力供給線204,210の各構成要素を示している。高インピーダンス障害は、故障点302と接地305との間の抵抗である故障抵抗304を介して発生している。故障点302は、故障した電力供給線204を、それぞれのインピーダンスが301及び303である2つの部分に分割する。正常な電力供給線210のラインインピーダンスの合計は、306である。
【0036】
図4では、全故障抵抗には、障害の種類に関係なく、故障抵抗304と接地抵抗401が含まれる。
【0037】
次に、図5から図7を参照して、本発明の配電システムの構成と故障検知方法について説明する。図5は、図3の中電圧配電網における不良電力供給線の識別方法を示す図である。図6は、図5の不良電力供給線識別(FFI)ブロック510の詳細な構成と動作を示す図である。図7は、本発明における不良電力供給線の識別方法を示すフローチャートである。
【0038】
本発明では、障害が検出されると、次のステップにおいて、故障した電力供給線を識別して分離し、系統の正常な部分が継続して動作するようにする。
【0039】
図5に示すように、電力変換器208は、通常、複数の電力供給線204,210も接続される共通のバス206に設置される。
【0040】
本発明では、故障検出信号501が生成された後、ブロック502によって2つの異なる高周波(HF)電流504が注入される。また、故障検出信号501が生成された後、コンバータ制御ブロック503は、電力変換器208からの基本電流注入を停止し、2つの異なる高周波(HF)電流504のみを注入する。2つの異なる高周波(HF)電流504には、例えば50Hz以上の周波数の高周波(HF)電流を用いる。
【0041】
注入された高周波(HF)電流504は、電力供給線204では高周波(HF)電流505として、電力供給線210では高周波(HF)電流506として、電力供給線間で分割される。センサ507,508,509は、2つの電力供給線204,210からのバス電圧と電力供給線電流の信号を記録し、それらをFFI動作のために不良電力供給線識別(FFI)ブロック510に伝送する。
【0042】
なお、2つの別個の高周波(HF)電流504の注入は、同時に、または順番に行うことができ、FFI演算の結果として得られる出力は同じになる。
【0043】
図6に、電力変換器208のFFIアルゴリズムによって実行される詳細なステップを示す。
【0044】
不良電力供給線識別(FFI)ブロック510は、異なる周波数での高周波(HF)インピーダンスを評価するために、センサ507,508,509によるバス電圧と電力供給線電流の記録を必要とする。
【0045】
この評価では、検出されたバス電圧と電力供給線電流から個別の高周波(HF)の成分を抽出することが必要であるため、選択した別個の高周波(HF)で調整された2次フィルタを通過させる。これらのフィルタは、通常、バンドパスフィルタ601,602,603であり、バス電圧VA及び電力供給線電流IL1,IL2の入力信号から、2つの別個の高周波(HF)に対応する2つの出力信号604,605,606,607,608,609をそれぞれ生成する。出力信号604,605,606,607,608,609は、それぞれVAh1,VAh2,IL1h1,IL1h2,IL2h1,IL2h2である。
【0046】
このフィルタの伝達関数は、式(1)で定義される。
【0047】
【数1】
【0048】
ここで、sはラプラス演算子、WHFは選択された高周波(HF)、ξは減衰比である。
【0049】
バンドパスフィルタ601,602,603の出力信号604,605,606,607,608,609は、インピーダンス評価ブロック610,611,612,613によって高周波(HF)インピーダンス614,615,616,617を計算するために使用される。高周波(HF)インピーダンス614,615,616,617は、それぞれZL1h1,ZL1h2,ZL2h1,ZL2h2である。
【0050】
故障した電力供給線204については、式(2)及び式(3)により高周波(HF)インピーダンスを算出する。
【0051】
【数2】
【0052】
【数3】
【0053】
一方、正常な電力供給線210については、式(4)及び式(5)により高周波(HF)インピーダンスを算出する。
【0054】
【数4】
【0055】
【数5】
【0056】
ここで、VAh1,VAh2は選択された高周波(HF)h1及びh2におけるバス電圧、IL1h1,IL1h2,IL2h1,IL2h2は故障した電力供給線と正常な電力供給線をそれぞれ流れる高周波(HF)電流である。また、ZL1h1,ZL1h2,ZL2h1,ZL2h2はそれぞれ、高周波(HF)での故障した電力供給線と正常な電力供給線のラインインピーダンスである。
【0057】
故障抵抗Rfがほぼゼロであれば、インピーダンスが最も低い電力供給線に故障点が含まれ、1つの高周波(HF)データのみを使用してFFIを実行できる。
【0058】
より高い故障抵抗に対しては、故障した電力供給線のインピーダンスと正常な電力供給線のインピーダンスとの差が小さくなる。
【0059】
2つの別個の高周波(HF)における高周波(HF)インピーダンスZL1h1,ZL2h1を、減算ブロック618,619において、それぞれZL1h2,ZL2h2から差し引くことによって、故障抵抗の影響を排除することができる。
【0060】
次いで、減算ブロック618,619の出力620,621を新たな高周波(HF)インピーダンスとして比較ブロック622で比較し、最も低い値を有する電力供給線を、故障した電力供給線として識別する。また、3つ以上の高周波(HF)電流を注入して、高周波(HF)インピーダンスを評価及び比較し、故障した電力供給線を特定することもできる。
【0061】
故障した電力供給線を識別した後、比較ブロック622の出力624である故障した電力供給線の記録された高周波(HF)データを使用して、比較ブロック625で故障の種類(障害タイプ626)を判定する。
【0062】
算出されたインピーダンスZL1hは、故障したラインの三相に対応する三つの成分を有する。比較ブロック625において、三相のインピーダンスを比較することによって、故障の種類(障害タイプ626)が判断される。
【0063】
すべての地絡(LG:line-to-ground)障害では、インピーダンスが最も低い相には故障点が含まれ、残りの2つの相の高周波(HF)インピーダンスは比較的高くなる。
【0064】
障害のある電力供給線の2相が同様のインピーダンスを示し、3番目の電力供給線のインピーダンスが比較的高い場合は、二線(LL:double line)障害または二線対地(LLG:double line-to-ground)障害が考えられる。
【0065】
また、通常のグリッド状態での一般的なラインインピーダンスと比較して、3つの相すべてのインピーダンスが低い場合は、三線(LLL:triple line)障害または三線対地(LLLG:triple line-to-ground)障害が考えられる。
【0066】
図7に、本発明における不良電力供給線の識別方法のフローチャートを示す。
【0067】
先ず、ステップS701において、障害が存在するか否かを判定する。障害が無いと判定された場合(NO)、何も行わずに運転を継続する(ステップS702)。障害が存在すると判定された場合(YES)、ステップS703に進み、電力変換器は2つの別個の高周波(HF)電流を同時に(または順番に)注入する。
【0068】
次に、ステップS704において、電力変換器のセンサにより、バス電圧と複数の電力給電線を流れる電流を検出し、記録する。
【0069】
続いて、記録されたデータ(バス電圧VA及び電力供給線電流IL1,IL2)は、ステップS705において、バンドパスフィルタを通過し、選択された高周波(HF)でサンプルを抽出する(ステップS706,S707)。
【0070】
ステップS706,S707でそれぞれ抽出されたバンドパスフィルタの出力信号VAh1,VAh2,IL1h1,IL1h2に基づいて、ステップS708,S709において、選択された高周波(HF)で高周波(HF)インピーダンスが計算され、故障抵抗の影響を打ち消すために相互に差し引かれる。
【0071】
ここで、式(6)に示す新たなパラメータが、故障した電力供給線と正常な電力供給線とを区別するために使用される。
【0072】
【数6】
【0073】
但し、電力供給線は、様々なグリッド構成で接続された、異なるケーブル材料、ラインインピーダンス及び長さとなる可能性がある。そこで、これを修正するために、新たな高周波(HF)インピーダンスは、故障前のインピーダンス値Z’L1pre-fault,Z’L2pre-faultに基づいて(ステップS713,S711)、ステップS712,S710でそれぞれ正規化される。
【0074】
その後、ステップS714において、正規化された新たな高周波(HF)インピーダンスを比較して、故障した不良電力供給線を特定する。故障した不良電力供給線は配電網から分離され(ステップS716)、正常な電力供給線は配電網として復旧し、運転を継続する(ステップS715)。
【0075】
最後に、ステップS717において、故障した不良電力供給線の高周波(HF)インピーダンスを相間で比較し、故障の種類(障害タイプ)を特定する。障害タイプの知識は、故障位置の推定に有用である。
【0076】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0077】
1…中電圧配電網
101,201…HV/MV変圧器
115,207…MV/LV変圧器
102,106,110,114,202,206,212…バス(母線)
103,105,107,109,111,113,203,205,209,211,214,216…回路遮断器
104,108,112,204,210,215…電力供給線
116,117,118,119,208,213,217…電力変換器
301,303,306…インピーダンス
302…故障点
304…故障抵抗
305…接地
401…接地抵抗
501…故障検出信号
502…2つの異なる高周波(HF)電流を注入するブロック
503…コンバータ制御ブロック
504,505,506…高周波(HF)電流
507,508,509…センサ
510…不良電力供給線識別(FFI)ブロック
601,602,603…バンドパスフィルタ
604,605,606,607,608,609…バンドパスフィルタの出力信号
610,611,612,613…インピーダンス評価ブロック
614,615,616,617…高周波(HF)インピーダンス
618,619…減算ブロック
620,621…減算ブロックの出力
622…比較ブロック
623…不良電力供給線の特定・分離
624…比較ブロックの出力
625…比較ブロック
626…障害タイプ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7