(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】溶接継手およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B23K 11/11 20060101AFI20240918BHJP
【FI】
B23K11/11 540
B23K11/11 520
(21)【出願番号】P 2021148140
(22)【出願日】2021-09-10
【審査請求日】2023-09-01
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「革新的新構造材料等研究開発」の「革新鋼板開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】村上 俊夫
【審査官】岩見 勤
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-147188(JP,A)
【文献】特開2010-240739(JP,A)
【文献】特開2014-028392(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0001428(US,A1)
【文献】特開2021-126702(JP,A)
【文献】特開昭54-148151(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 11/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
4枚の鋼板を重ね合わせてスポット溶接された溶接継手であって、
重ね合わせた前記4枚の鋼板は、引張強度270MPa以上590MPa未満である1枚の軟鋼板と、引張強度980MPa以上である3枚の高強度鋼板とを含み、
前記
1枚の軟鋼板は、前記4枚の鋼板の最も外側に配置され、
前記
1枚の軟鋼板の片側に、前記3枚の高強度鋼板が重ね合わせて配置されており、
スポット溶接で形成されたナゲットが、下記の式(1)を満たし、かつ
下記の式(2)で定義される板厚保持率が84%以上である、溶接継手。
d
N/√t
1≧3.0 (1)
ここで、d
N(mm)は、前記軟鋼板と高強度鋼板とが接触する接触面におけるナゲット径であり、
t
1(mm)は、前記高強度鋼板と接触している前記軟鋼板の板厚である。
板厚保持率(%)=(溶接継手の最小厚み)/(4枚の鋼板の板厚合計)×100 (2)
【請求項2】
前記軟鋼板の板厚t
1が、該軟鋼板と接触している前記高強度鋼板の板厚より小さい、請求項1に記載の溶接継手。
【請求項3】
4枚の鋼板の重ね合わせ部をスポット溶接することにより溶接継手を製造する方法であって、
引張強度270MPa以上590MPa未満である1枚の軟鋼板と、引張強度980MPa以上である3枚の高強度鋼板とを含む4枚の鋼板を重ね合わせる工程であって、
前記
1枚の軟鋼板が前記4枚の鋼板の最も外側に配置され、かつ前記3枚の高強度鋼板が前記
1枚の軟鋼板の片側に重ね合わせて配置されるように、4枚の鋼板を重ね合わせる工程と、
一対の電極と、各電極の電極先端を囲むように設けられた一対の加圧部材とにより、前記鋼板の前記重ね合わせ部を加圧挟持する工程であって、
前記加圧部材は、前記電極先端を中心とする円周方向において、180°以上の範囲を加圧するように構成されており、
前記加圧部材の加圧先端と前記電極先端との離間距離が0.1mm以上、10.0mm以下であり、
前記重ね合わせ部は、前記電極先端によって1.5kN以上の電極荷重で加圧されるとともに、前記加圧先端によって、前記電極荷重の0.1~1.0倍の外周荷重で加圧される、加圧挟持する工程と、
前記一対の電極に5kA以上15kA以下の溶接電流を通電して前記重ね合わせ部を溶接する工程と、を含む溶接継手の製造方法。
【請求項4】
前記軟鋼板の板厚t
1が、該軟鋼板と接触している前記高強度鋼板の板厚より小さい、請求項3に記載の溶接継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、溶接継手およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体は、鋼板で作られた部品を接合して構造体とするため、鋼板の接合技術は非常に重要な技術となっている。鋼板の接合方法として、重なりあった鋼板を電極で挟み込み、通電することで発生するジュール熱により鋼板を溶融させて接合するスポット溶接が活用されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、3枚以上の鋼板を重ね合わせた板組みを、1対の溶接電極で挟持・加圧しながら通電して、各鋼板の接触箇所を溶接する重ね抵抗スポット溶接方法が記載されている。特許文献1の方法では、前記鋼板のうち板厚が最も薄いものを、前記1対の溶接電極のうちの一方の電極に接触するように板組みして溶接する工程を有し、少なくとも前記板厚が最も薄い鋼板と当該板厚が最も薄い鋼板に隣接する鋼板との重ね合わせ面に、リン酸塩処理皮膜、クロメート処理皮膜、有機皮膜又は無機皮膜が形成されている。
【0004】
特許文献2には、複数枚の金属板を重ね合わせた板組みを、抵抗スポット溶接により溶接接合し抵抗スポット溶接継手を製造する製造方法が記載されている。特許文献2の製造方法では、前記板組みを、重ね合わせた2枚以上の厚板の少なくとも一方に薄板を重ね合わせた、板厚比が5以上の板組みとている。また、前記抵抗スポット溶接は、第一段・第二段・第三段の三段階からなる溶接とし、第二段の溶接は、前記第一段の溶接に比べて高加圧力、低電流又は同じ電流、長通電時間又は同じ通電時間の溶接とし、さらに第三段は、第二段よりも高電流の通電を繰り返している。
【0005】
特許文献3には、特許文献2と類似の抵抗スポット溶接継手の製造方法であって、第三段の溶接を、第二段よりも高加圧力、高電流の通電を繰り返すこと以外は、特許文献2と同様である製造方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、2以上の鋼板を重ねて溶接する鋼板の重ね溶接方法及び鋼板の重ね溶接継手が記載されている。特許文献4の重ね溶接方法において、2以上の前記鋼板には、板厚が0.3~1mmの範囲の表面側鋼板と、前記表面側鋼板よりも板厚が大きい1以上の高板厚鋼板とが含まれる。また、前記表面側鋼板及び前記1以上の高板厚鋼板の合計板厚に対する前記表面側鋼板の板厚の比(合計板厚/表面側鋼板の板厚)は5以上とする。そして、前記表面側鋼板を表面側に配置するように前記2以上の鋼板を重ね合わせた状態で、レーザ溶接とスポット溶接を併用して溶接する。
【0007】
特許文献5には、2枚以上重ねた金属板の重ね合わせ部に溶接電流を通電して接合するスポット溶接方法が記載されている。特許文献5の方法では、重ね合わせ部に電流を流す一対の電極の外周部の一部を、電極とは別の加圧部材を用いて加圧制御することで、溶接電流を高めてもチリ発生を抑制でき、大きなナゲット径を実現することが可能となる。
【0008】
特許文献6には、板厚がt1およびt2の2枚の鋼板を重ね合わせてスポット溶接した溶接継手であって、スポット溶接で形成されたナゲットの径が3√{(t1+t2)/2}以上(ナゲットの径、t1およびt2の単位はすべてmm)であり、板厚方向断面における、前記ナゲットの径方向両端部の曲率半径が0.3(t1+t2)以上であるスポット溶接継手が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第4884958号公報
【文献】特開2010-240739号公報
【文献】特開2010-240740号公報
【文献】特開2010-264503号公報
【文献】特開2014-28392号公報
【文献】特開2014-180686号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
一般的に、スポット溶接は、鋼板3枚までの溶接しか許容されない。例えば4枚重ねの鋼板をスポット溶接しようとする場合、2枚目と3枚目の鋼板の重ね合わせ面が優先して溶融する。一方、1枚目と2枚目の鋼板の重ね合わせ面および3枚目と4枚目の鋼板の重ね合わせ面は、電極チップによる冷却の影響を強く受けるため溶融しにくい。そのため、それらの重ね合わせ面の溶接が不十分となり、溶接継手の継手強度が十分ではなかった。
【0011】
特に、車体の構造を考えた場合、車体内部に、衝突に耐えうる強度の高い鋼板が複数配置され、車体の最外面に、車体を覆う軟鋼板(例えば亜鉛めっき鋼板)が配置される場合がある。このような鋼板の板組では、内部の高強度鋼板は、最外面の軟鋼板に比べて電気抵抗が高いため、優先的に発熱・溶融する。一方、電気抵抗が相対的に低い軟鋼板は、発熱・溶融が起こりにくい。
このように、最外面に配置された軟鋼板は、電極チップによる冷却の影響と、電気抵抗が相対的に低いことによる発熱量不足により、隣接する高強度鋼板との間の溶接が不十分になり易い。
【0012】
最外面の軟鋼板の溶接を促進するためには、スポット溶接の溶接電流を高めることが有効であると考えられる。しかしながら、溶接電流が高くなり過ぎると、溶融金属が飛散する「チリ」と呼ばれる現象が起こるようになる。チリが発生すると、スポット溶接部の金属が減少することから継手強度が不十分になる恐れがある。また、チリの発生により溶融金属が飛散することで、溶接部の周囲が汚染され、さらに、溶融金属により溶接装置および作業者にダメージを与える可能性がある。よって、溶接電流は、チリが起こらない範囲までしか高くすることができず、最外面の軟鋼板の溶接を十分に改善できない場合がある。
【0013】
特許文献1~6には、軟鋼板と高強度鋼板とを4枚重ね合わせてスポット溶接することについて具体的な開示がなく、また、最外面の軟鋼板の溶接を改善する必要性について考慮されていない。
【0014】
そこで本発明の一実施形態は、少なくとも一方の最外面に配置された軟鋼板と、その軟鋼板の片側に配置された2枚以上の高強度鋼板と、を含む4枚の鋼板を重ね合わせて、スポット溶接して形成された溶接継手であって、継手強度が高い溶接継手を提供することを目的とする。本発明の別の実施形態は、そのような溶接継手を製造できる製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明の態様1は、
4枚の鋼板を重ね合わせてスポット溶接された溶接継手であって、
重ね合わせた前記4枚の鋼板は、引張強度270MPa以上590MPa未満である少なくとも1枚の軟鋼板と、引張強度980MPa以上である少なくとも2枚の高強度鋼板とを含み、
第1の前記軟鋼板は、前記4枚の鋼板の最も外側に配置され、
前記第1の軟鋼板の片側に、前記少なくとも2枚の高強度鋼板が重ね合わせて配置されており、
スポット溶接で形成されたナゲットが、下記の式(1)を満たし、かつ
下記の式(2)で定義される板厚保持率が84%以上である、溶接継手である。
dN/√t1≧3.0 (1)
ここで、dN(mm)は、前記軟鋼板と高強度鋼板とが接触する接触面におけるナゲット径であり、
t1(mm)は、前記高強度鋼板と接触している前記軟鋼板の板厚である。
板厚保持率(%)=(溶接継手の最小厚み)/(4枚の鋼板の板厚合計)×100 (2)
【0016】
本発明の態様2は、
前記軟鋼板の板厚t1が、該軟鋼板と接触している前記高強度鋼板の板厚より小さい、態様1に記載の溶接継手である。
【0017】
本発明の態様3は、
前記4枚の鋼板が、前記第1の軟鋼板と、前記第1の軟鋼板の片側に重ね合わせて配置された3枚の高強度鋼板とから構成されている、態様1または2に記載の溶接継手である。
【0018】
本発明の態様4は、
4枚の鋼板の重ね合わせ部をスポット溶接することにより溶接継手を製造する方法であって、
引張強度270MPa以上590MPa未満である少なくとも1枚の軟鋼板と、引張強度980MPa以上である少なくとも2枚の高強度鋼板とを含む4枚の鋼板を重ね合わせる工程であって、
第1の前記軟鋼板が前記4枚の鋼板の最も外側に配置され、かつ前記少なくとも2枚の高強度鋼板が前記第1の軟鋼板の片側に重ね合わせて配置されるように、4枚の鋼板を重ね合わせる工程と、
一対の電極と、各電極の電極先端を囲むように設けられた一対の加圧部材とにより、前記鋼板の前記重ね合わせ部を加圧挟持する工程であって、
前記加圧部材は、前記電極先端を中心とする円周方向において、180°以上の範囲を加圧するように構成されており、
前記加圧部材の加圧先端と前記電極先端との離間距離が0.1mm以上、10.0mm以下であり、
前記重ね合わせ部は、前記電極先端によって1.5kN以上の電極荷重で加圧されるとともに、前記加圧先端によって、前記電極荷重の0.1~1.0倍の外周荷重で加圧される、加圧挟持する工程と、
前記一対の電極に5kA以上15kA以下の溶接電流を通電して前記重ね合わせ部を溶接する工程と、を含む溶接継手の製造方法である。
【0019】
本発明の態様5は、
前記軟鋼板の板厚t1が、該軟鋼板と接触している前記高強度鋼板の板厚より小さい、態様4に記載の溶接継手の製造方法である。
【発明の効果】
【0020】
本発明の一実施形態に係る溶接継手によれば、継手強度が高い溶接継手を実現することができる。また、本発明の別の実施形態に係る溶接継手の製造方法によれば、一実施形態に係る溶接継手を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】スポット溶接用の電極および加圧部材の概略構成を示す図であり、
図1(a)は底面図、
図1(b)は
図1(a)のA-A線に沿った断面図である。
【
図2】スポット溶接用の電極および加圧端子の概略断面図である(
図2(a)、
図2(b))。
【
図3】
図3(a)は、4枚の鋼板を溶接した状態を示す概略斜視図であり、
図3(b)は、
図3(a)のX-X線に沿った断面の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明者らは、軟鋼板と高強度鋼板とを含む鋼板を4枚重ね合わせた板組を、スポット溶接して溶接継手を形成するとき、最外面に軟鋼板を配置すると、軟鋼板とそれに隣接する高強度鋼板との間で溶接不良が起こること、または所望の継手強度が得られないことに着目し、その原因について研究した。その結果、最外面に配置した軟鋼板まで溶融するように溶融池を厚さ方向に広げようとすると、溶融池が厚さ方向に十分に拡大する前に、横方向に広がって板隙から溶融金属が噴き出して、チリが発生してしまうことが分かった。スポット溶接を行う場合には、チリが発生しない電極電流以下で溶接を行うため、溶融池を厚さ方向に広げることは困難になっていた。発明者らは、チリの発生を抑制しつつ、溶融池を厚さ方向に広げるべく鋭意研究した結果、スポット溶接用の電極周囲の重ね合わせ部に適切な加圧を付与することによって、溶融金属が噴き出すルートを阻害してチリの発生を抑制するとともに、通電による熱を電極間に効率よく集中させることができ、その結果、横方向への溶融の進行とチリ発生とが抑制され、厚さ方向のへの溶融を促進できることを見出して、本発明の実施形態を完成するに至った。
【0023】
本発明の実施形態に係る溶接継手の製造方法は、4枚の鋼板の重ね合わせ部をスポット溶接するものであり、
引張強度270MPa以上590MPa未満である少なくとも1枚の軟鋼板と、引張強度980MPa以上である少なくとも2枚の高強度鋼板とを含む4枚の鋼板を重ね合わせる工程であって、
第1の前記軟鋼板が前記4枚の鋼板の最も外側に配置され、かつ前記少なくとも2枚の高強度鋼板が前記第1の軟鋼板の片側に重ね合わせて配置されるように、4枚の鋼板を重ね合わせる工程と、
一対の電極と、各電極の電極先端を囲むように設けられた一対の加圧部材とにより、前記鋼板の前記重ね合わせ部を加圧挟持する工程であって、
前記加圧部材は、前記電極先端を中心とする円周方向において、180°以上の範囲を加圧するように構成されており、
前記加圧部材の加圧先端と前記電極先端との離間距離が0.1mm以上、10.0mm以下であり、
前記重ね合わせ部は、前記電極先端によって1.5kN以上の電極荷重で加圧されるとともに、前記加圧先端によって、前記電極荷重の0.1~1.0倍の外周荷重で加圧される、加圧挟持する工程と、
前記一対の電極に5kA以上15kA以下の溶接電流を通電して前記重ね合わせ部を溶接する工程と、を含む。
【0024】
溶接継手の製造方法は、加圧部材による加圧範囲を、円周方向で180°以上(全周の50%以上)とし、電極荷重を1.5kN以上、外周荷重を電極荷重の0.1~1.0倍とすることにより、従来のスポット溶接方法では十分な溶接ができなかった、最外面に軟鋼板を含む4枚の鋼板のスポット溶接を可能とした。
この製造方法で得られる溶接継手は、以下のような特徴を備えている。
【0025】
本発明の実施形態に係る溶接継手は、引張強度(TS)が270MPa以上590MPa未満の軟鋼板と、引張強度980MPa以上の高強度鋼板とを溶接して形成している。ここで、軟鋼板のTSの下限を270MPaとしたのは、一般的な軟鋼板のTSが270MPa以上に規定されているためであり、上限を590MPa未満としたのは、高強度鋼板を含めない趣旨である。また、高強度鋼板のTSの下限を980MPaとしたのは、高強度鋼板のなかでもスポット溶接しにくい高強度レベルの範囲のものを対象とする趣旨であり、その上限は、特に限定されるものではないが、現状では1900MPa程度である。
【0026】
本発明の実施形態に係る溶接継手は、4枚の鋼板を重ね合わせてスポット溶接することで形成される。4枚の鋼板を重ね合わせるときは、1枚の軟鋼板(これを「第1の軟鋼板」と称する)を4枚の鋼板の最も外側に配置し、そして第1の軟鋼板の片側に、少なくとも2枚の高強度鋼板を重ね合わせて配置する。なお、第1の軟鋼板と、少なくとも2枚の高強度鋼板との間に、別の鋼板を1枚配置してもよい。
【0027】
4枚の鋼板は、少なくとも1枚の軟鋼板と、少なくとも2枚の高強度鋼板とを含む4枚の鋼板からなる。具体的な鋼板の組み合わせとしては、4枚の鋼板が、1枚の軟鋼板と3枚の高強度鋼板からなる場合(パターン1)と、2枚の軟鋼板と2枚の高強度鋼板からなる場合(パターン2)とがあり得る。
4枚の鋼板を重ね合わせる順番(板組)の具体例を、パターン1、パターン2に分けて詳しく説明する。
【0028】
(パターン1:4枚の鋼板が、1枚の軟鋼板と3枚の高強度鋼板とからなる場合)
パターン1では、1種類の板組(板組(1-1))が想定される。
[板組(1-1)]
1枚の軟鋼板(第1の軟鋼板)を4枚の鋼板の最も外側に配置し、第1の軟鋼板の片側に、3枚の高強度鋼板を重ね合わせて配置する。このように重ね合わせると、4枚の鋼板は、(i)第1の軟鋼板-(ii)高強度鋼板-(iii)高強度鋼板-(iv)高強度鋼板の順に重ねた状態となる。
【0029】
(パターン2:4枚の鋼板が、2枚の軟鋼板と2枚の高強度鋼板とからなる場合)
パターン2では2種類の板組(板組(2-1)、板組(2-2))が想定される。
[板組(2-1)]
2枚の軟鋼板の間に2枚の高強度鋼板を挟む。言い換えると、一方の軟鋼板(第1の軟鋼板)を4枚の鋼板の最も外側に配置し、他方の軟鋼板(これを「第2の軟鋼板」と称する)を、4枚の鋼板において第1の軟鋼板と反対側の最も外側に配置する。そして、第1の軟鋼板と第2の軟鋼板との間に、2枚の高強度鋼板を重ねて配置する。このように重ね合わせると、4枚の鋼板は、(i)第1の軟鋼板-(ii)高強度鋼板-(iii)高強度鋼板-(iv)第2の軟鋼板の順に重ねた状態となる。
【0030】
[板組(2-2)]
2枚の軟鋼板を重ね合わせ、一方の軟鋼板の片側に2枚の高強度鋼板を重ね合わせる。言い換えると、第1の軟鋼板を4枚の鋼板の最も外側に配置し、第1の軟鋼板の片側に、2枚の高強度鋼板を重ね合わせて配置し、そして、第1の軟鋼板と2枚の高強度鋼板との間に、もう1枚の軟鋼板(第2の軟鋼板)を配置する。このように重ね合わせると、4枚の鋼板は、(i)第1の軟鋼板-(ii)第2の軟鋼板-(iii)高強度鋼板-(iv)高強度鋼板の順に重ねた状態となる。なお、第1の軟鋼板と高強度鋼板との間に第2の軟鋼板が存在するので、第1の軟鋼板と高強度鋼板とは直接接触しない。
【0031】
本発明の実施形態に係る溶接継手は、軟鋼板と当該軟鋼板に隣接する高強度鋼板との接触面におけるナゲット径(mm)が、式(1)を満たしている。
dN/√t1≧3.0 (1)
ここで、dN(mm)は、前記軟鋼板と高強度鋼板とが接触する接触面におけるナゲット径であり、
t1(mm)は、前記高強度鋼板と接触している前記軟鋼板の板厚である。
【0032】
一般的に、溶接で形成した継手は、dN/√t1が大きいほど良好な(例えば、継手強度が高い)溶接継手とされている。本実施の形態では、式(1)のようにdN/√t1が3以上と規定することで、十字引張強度が充分に高い溶接継手を得ることができる。
【0033】
溶接部の溶接強度(継手強度)にとって一番重要なナゲット径(溶融部に生じる溶融凝固した部分(ナゲット)の直径)については、一般的には、板厚の平方根の数倍以上あることが必要とされている。本発明の実施形態では、溶融しにくい軟鋼板の表面に形成されるナゲット径を管理することが特に重要であると考えて、軟鋼板とその軟鋼板に直接接触している高強度鋼板との接触面(重ね合わせ面)におけるナゲット径dN(mm)が3√t1以上(t1(mm)は軟鋼板の板厚)であること、すなわち式(1)を満たすことを規定した。ナゲット径は、4√t1以上とすることが好ましく、5√t1以上とすることがより好ましく、6√t1以上とすることがさらに好ましい。
【0034】
「ナゲット径」は、「JIS Z3139:2009 スポット, プロジェクション及びシーム溶接部の断面試験方法」に記載の2枚または3枚重ね溶接部におけるナゲット径の測定方法に準じている。本発明の実施形態におけるナゲット径の測定方法について、
図3(a)、(b)を参照しながら詳しく説明する。
図3(a)は、1枚の軟鋼板と3枚の高強度鋼板とを含む板組の例(上記の[板組(1-1)]に相当)を示す概略斜視図である。この図では、上から、1枚の軟鋼板P1と3枚の高強度鋼板P2、P3、P4とをこの順に重ねた4枚の鋼板を、溶接継手WJによって溶接した状態を示している。
図3(b)は、
図3(a)において、溶接継手WJの中央付近を通る面(X-X線に沿った断面)における概略断面図である。
図3(b)に示すように、軟鋼板P1と高強度鋼板P2との接触面(または界面)におけるナゲットNの直径(ナゲットNの幅)を測定し、それをナゲット径d
Nと定義する。
【0035】
さらに、別の板組の場合の「ナゲット径dN」について説明する。
板組(2-1)の場合、軟鋼板と高強度鋼板とが接する接触面が2つ存在する(第1の軟鋼板と高強度鋼板との接触面と、第2の軟鋼板と高強度鋼板との接触面)。この場合、ナゲット径dNは、2つの接触面の両方で測定される。本発明の実施形態では、いずれの接触面におけるナゲット径dNも式(1)を満たすことにより、十字引張強度が充分に高い溶接継手を得ることができる。
【0036】
板組(2-2)の場合、軟鋼板と高強度鋼板とが接する接触面が1つ存在する(第2の軟鋼板と高強度鋼板との接触面)。ナゲット径dNは、第2の軟鋼板と高強度鋼板との接触面で測定される。
【0037】
本発明の実施形態に係る溶接継手は、式(2)で定義される板厚保持率が84%以上である。
板厚保持率(%)=(前記溶接継手の最小厚み)/(前記4枚の鋼板の板厚合計)×100 (2)
【0038】
式(2)における「溶接継手の最小厚み」とは、溶接継手WJを通る断面において、溶接継手WJの最も薄い部分であり、
図3(b)において符号t
WJで示されている厚みのことを指す。
【0039】
式(2)における「4枚の鋼板の板厚合計」とは、
図3(b)に示す板組(1-1)の例では、軟鋼板P1の厚みt
1と、高強度鋼板P2、P3、P4のそれぞれの厚みt
2、t
3、t
4との合計(=t
1+t
2+t
3+t
4)である。
板組(2-1)および板組(2-2)の場合も、「4枚の鋼板の板厚合計」とは、4枚の鋼板の各々の厚みの合計のことを指す。
【0040】
上述したように、一般的なスポット溶接では、重ね合わせる鋼板は3枚までである。そのため、4枚の鋼板を重ね合わせて溶接継手を作製するには、溶接電流をできるだけ高める必要がある。高すぎる溶接電流を通電すると、溶接時に鋼板の強度が過度に低下し、電極の加圧により溶接部に大きな塑性変形が起こる。場合によっては、溶接部からチリが発生して、電極直下の溶接部において著しい板厚減少が起こる。これらにより、継手強度に寄与する溶接部のナゲットの体積が減少するため、継手強度の低下および継手強度のばらつき(不安定化)の要因となると想定される。
【0041】
本発明の実施形態では、溶接前の総板厚(=溶接前の鋼板の板厚合計)に対する溶接部の板厚(=スポット溶接継手の最小厚み)の割合を「板厚保持率」として式(2)に定義し、板厚保持率が84%以上あれば健全な溶接継手であると判断する。
板厚保持率は、85%以上あることが好ましく、87%以上あることがさらに好ましい。
【0042】
重ね合わせる4枚の鋼板の各々の厚さは任意であるが、例えば自動車の車体の最外面に設けられる第1の軟鋼板の板厚t1は、車体内部の高強度鋼板より小さくされることがある。同じ鋼種の鋼板の場合でも、薄板-厚板-厚板-厚板のように重ね合わせてスポット溶接した場合、厚板-厚板間の重ね合わせ面が優先して溶融し、薄板-厚板間の重ね合わせ面での溶融は起こりにくい。これは、厚板に比べて、薄板の方が電極チップによる冷却の影響をより強く受けるためである。そのため、軟鋼板が薄く、高強度鋼板が厚い場合、板組(1-1)の例では、「(i)薄板の第1の軟鋼板-(ii)厚板の高強度鋼板-(iii)厚板の高強度鋼板-(iv)厚板の高強度鋼板」の順に重ねた状態になる。このような重ね合わせ鋼板を従来のスポット溶接で溶接すると、(i)薄板の第1の軟鋼板と(ii)厚板の高強度鋼板との接触面での溶接が不十分になり得る。
【0043】
しかしながら、本発明の実施形態に係る溶接継手は、上記の式(1)を満たし、かつ式(2)で定義される板厚保持率が84%以上であることにより、十分な継手強度を達成することができるため、最外面の第1の軟鋼板の板厚t1が薄い場合でも、十分な継手強度を有する溶接継手とすることができる。よって、本発明の実施形態にかかる溶接継手は、薄い軟鋼板を含む重ね合わせ鋼板の溶接にも好適である。
【0044】
式(2)の規定について、板組(1-1)の場合の溶接継手における作用効果を説明した。板組(2-1)および板組(2-2)の場合の溶接継手においても、最外面に設けられる第1の軟鋼板を備えることから、式(2)を満たすことにより同様の作用効果を奏し得る。
【0045】
次に、溶接継手の好ましい製造方法について説明する。
4枚の鋼板の重ね合わせ部をスポット溶接することにより溶接継手を製造する方法は、
引張強度270MPa以上590MPa未満である少なくとも1枚の軟鋼板と、引張強度980MPa以上である少なくとも2枚の高強度鋼板とを含む4枚の鋼板を重ね合わせる工程と、
一対の電極と、各電極の電極先端を囲むように設けられた一対の加圧部材とにより、前記鋼板の前記重ね合わせ部を加圧挟持する工程と、
前記一対の電極に5kA以上15kA以下の溶接電流を通電して前記重ね合わせ部を溶接する工程と、を含む。
【0046】
(1.重ね合わせる工程)
引張強度270MPa以上590MPa未満である少なくとも1枚の軟鋼板と、引張強度980MPa以上である少なくとも2枚の高強度鋼板とを含む4枚の鋼板を準備する。1枚の軟鋼板(第1の軟鋼板)が4枚の鋼板の最も外側に配置され、かつ少なくとも2枚の高強度鋼板が第1の軟鋼板の片側に重ね合わせて配置されるように、4枚の鋼板を重ね合わせる。これにより少なくとも一方の最外面に軟鋼板を配置した4枚の鋼板の重ね合わせ部を構成することができる。
重ね合わせる4枚の鋼板の各々の厚さは任意であるが、最外面に設けられる第1の軟鋼板の板厚t1は、第1の軟鋼板と接触している高強度鋼板より小さくされてもよい。
【0047】
(2.重ね合わせ部を加圧挟持する工程)
一対の電極と、各電極の電極先端を囲むように設けられた一対の加圧部材とにより、前記鋼板の前記重ね合わせ部を加圧挟持する。
重ね合わせた4枚の鋼板は、上下方向から電極で加圧しつつ通電するにより、板間でのジュール熱で鋼板同士の界面を溶融させる。その準備として、通電前に、鋼板を溶接装置内に加圧固定する。鋼板は、電極と加圧部材とで加圧挟持される。加圧部材は、電極周囲を加圧することにより、溶融池が横方向に成長することを抑制して、板厚方向への溶融池の成長を促すことができる。
【0048】
電極および加圧部材について、
図1および
図2を参照しながら詳細に説明する。
図1は、スポット溶接用の電極1および加圧部材2の概略構成を示す図であり、(a)は底面図、(b)は
図1(a)のA-A線に沿った断面図である。
なお、
図1は、重ね合わせた鋼板の上側に配置される電極1および加圧部材2のみを示しており、溶接する際には、同じような構成で上下が逆になった電極1および加圧部材2を、重ね合わせた鋼板の下側にも配置する。後述するように、鋼板の重ね合わせ部は、上下の電極の間および上下の加圧部材の間で、それぞれ加圧される。
【0049】
図1に示す電極1は円柱状の先端平滑型電極であり、電極先端1xの直径はDである。電極1は、
図1(b)に示す上側の電極と、図示していない下側の電極とから、上下一対で構成される。一対の電極で、4枚重ねた鋼板の重ね合わせ部を両面から挟持して、該重ね合わせ部に電流を流す。電極1の形状としては、
図1(b)に示すような先端平滑型の他に、DR型などのスポット溶接で一般的に用いられる電極形状を用いることができる。
【0050】
加圧部材2は、電極1の電極先端1xを囲むように設けられた部材である。加圧部材2の加圧先端2xは、重ね合わせた鋼板と接触してそれらを加圧する。加圧先端2xは、例えばリング状であってもよく、別の形状であってもよい。溶接中に鋼板が軟化したときに、鋼板が局所変形しない程度であれば、加圧先端2xを、リング状の一部を切除して非加圧部を設けた形態にしてもよい。例えば、加圧先端2xは、底面視において、1か所を切除したC字状、2か所以上を切除して複数の円弧に分割した形状(例えば
図1(a)のように、3個の円弧に分割した形状)にすることができる。
【0051】
以下、
図1(a)、(b)に示した加圧部材2の形態について詳しく説明する。
図1(a)に示すように、加圧部材2は3つの加圧部品21、22、23から構成されている。3つの加圧部品21、22、23は、電極1の電極先端1xの周囲を取り囲むように配置されている。加圧部品21、22、23は、それぞれ、電極先端1xを中心とする円周方向の中心角がa1、a2およびa3で、厚みがtの扇形の加圧先端2xを有する。隣接する加圧部品21、22、23は、電極先端1xを中心とする円周方向の中心角がb1、b2またはb3の隙間により、互いに離間している。
【0052】
加圧部材2は、電極先端1xを中心とする円周方向において、180°以上(全周の50%)の範囲を加圧できるように設計されている。ここで、「180°以上」とは、
図1(a)に示すように加圧部材2が複数(3つ)の加圧部品21、22、23に分割されている場合、各加圧部品21、22、23の加圧先端2xの中心角a1、a2、a3の合計が180°以上であることを意味している。言い換えれば、隙間の中心角b1、b2、b3の合計が180°以下である。
加圧部材2で加圧できる角度範囲が180°以上であると、4枚の鋼板を溶接するために比較的大きい溶接電流を通電した場合でも、チリの発生を抑制できる。加圧部材2で加圧できる角度範囲は、好ましくは270°以上(全周の75%以上)であり、さらに好ましくは360°(全周の100%であり、加圧部材2の加圧先端2xがリング状の場合に相当する)である。
【0053】
図1(b)に示すように、各加圧部品21、22、23の加圧先端2xと、電極1の電極先端1xとは、離間距離(クリアランス)CLだけ離れている。本発明の実施形態では、離間距離CLは0.1mm以上、10.0mm以下とする。加圧先端2xと電極先端1xとの離間距離CLが狭すぎると、電極1と加圧部材2とが接触してしまい、加圧部材2から電極1へ通電が起こり、溶融池の横方向への広がりを抑制する効果が得られない。離間距離CLが広すぎると、電極1周囲で重ね合わせ部を加圧部材2で加圧する効果が低下し、チリの発生を抑制する効果が十分に発揮できない。離間距離CLの下限は、好ましくは0.5mm、さらに好ましくは1.0mmであり、離間距離CLの上限は、好ましくは8.0mm、さらに好ましくは6.0mmである。
【0054】
鋼板の重ね合わせ部は、上下一対の電極1の電極先端1xの間で加圧される。さらに、重ね合わせ部は、電極先端1xで加圧される部分の周囲を、上下に配置された加圧部材2の加圧先端2xの間で加圧される。
【0055】
電極1によって重ね合わせ部に付与される荷重(これを「電極荷重」と称する)が高いと、溶接中の加熱および溶融に起因する鋼板の変形を抑制する効果、およびチリの発生を抑制する効果が高い。しかし、電極荷重が高すぎると、溶接中に溶接部が押しつぶされて変形して、板厚残存率が減少するおそれがある。電極荷重が低すぎると、溶接中に溶接部で発生する熱を電極1を介して放熱する抜熱量が小さくなり、表チリが発生しやすくなる。
電極荷重の下限は1.5kN、好ましくは2.0kNである。電極荷重は過度に高くなければよく、その上限は、好ましくは7.0kN、より好ましくは6.0kNである。
【0056】
加圧部材2によって重ね合わせ部に付与される荷重(これを「外周荷重」と称する)は、電極荷重の0.1倍以上1.0倍以下とする。外周荷重が低すぎると、チリを抑制する効果が得られない。なお、溶接装置の制約上、外周荷重と電極荷重との総荷重に上限がある。外周荷重を高くすると、電極荷重を低くする必要があり、電極1を介した抜熱量が小さくなって表チリが発生しやすくなる。そのため、外周荷重は、電極荷重を十分に確保できるように、適正に設定する必要がある。
外周荷重の下限は、好ましくは電極荷重に対する倍率で0.2倍であり、さらに好ましくは0.3倍である。外周荷重の上限は、好ましくは電極荷重に対する倍率で0.8倍であり、さらに好ましくは0.5倍である。
【0057】
電極1の材料としては、純銅、クロム銅、アルミナ分散銅など、スポット溶接で一般的に用いられる電極材料を用いることができる。
加圧部材2の材料は、非導電体、導体のいずれでもよい。また、加圧部材2の材料は、加圧時に塑性変形しない程度の強度を有する必要がある。
【0058】
(3.重ね合わせ部を溶接する工程)
一対の電極に5A以上15kA以下の溶接電流を通電して、重ね合わせ部を溶接する。溶接電流の上限は、好ましくは13kA、より好ましくは10kAである。
【実施例】
【0059】
・被溶接試験体
軟鋼板として、板厚0.6mmの270MPa級GA鋼板を準備し、高強度鋼板として、板厚1.4mmの1180MPa級非めっき鋼板(CR鋼板)を準備した。軟鋼板と高強度鋼板を、表1に示す板組の通りに重ね合わせて、被溶接試験体(4枚の鋼板の積層体)を作製した。
【0060】
・溶接方法
溶接機には、エアシリンダ方式の加圧機構を有する直流インバータスポット溶接機を用いた。電極1には、
図2(a)、(b)に示すDR形状(電極径13.0mm、先端径6.0mm)のクロム銅製の電極チップを使用した。
加圧部材2としては、電極1の周囲を覆うパイプ状の加圧部材を使用した。パイプ状の加圧部材2を用いることにより、電極先端1xを中心とする円周方向において、360°の範囲に外周荷重を付与できる。なお、電極1の加圧機構とは別に、加圧部材2を加圧するためのエアシリンダを準備した。
パイプ状の加圧部材2を被溶接試験体の重ね合わせ部に押圧して、電極先端1xの周囲に外周荷重を付与した。
【0061】
電極1と加圧部材2との間の離間距離(クリアランス)CLが溶接継手に与える影響を確認するために、加圧先端2xの形状が異なる2種類の加圧部材2を用いた(
図2(a)、(b))。
図2(a)に示す加圧部材201は、加圧先端2x近傍が先端方向に向かって縮径している。加圧部材2の各寸法は、平行部(縮径していない部分)の内径が14.0mm、加圧先端2xの内径が10.0mm、加圧部材の肉厚が1.0mmであった。また、加圧先端2xと電極先端1xとのクリアランスCLは2.0mmであった。
図2(b)に示す加圧部材202は、その全体が一定の直径を有している。つまり、加圧部材2は、加圧先端2x近傍が縮径していない。加圧部材2の各寸法は、内径が14.0mm、肉厚が1.0mmであった。また、加圧先端2xと電極先端1xとのクリアランスCLは4.0mmであった。
【0062】
表1に示す板組の被溶接試験体を、表2に示す各条件(電極1による電極荷重、加圧部材2による外周荷重、および加圧先端2xと電極先端1xとのクリアランスCL)で加圧挟持した。なお、クリアランスCLが「2.0mm」とは、
図2(a)に図示した加圧部材201を用い、クリアランスCLが「4.0mm」とは、
図2(b)に図示した加圧部材202を用いたことを意味している。また、C1~C4は、加圧部材2を用いなかった。
その後、表2に示す溶接電流を電極間に通電してスポット溶接を行った。通電時間は320ms(ミリ秒)とした。
【0063】
溶接後の被溶接試験体について、ナゲット径d
N、溶接継手の最小厚みt
WJを測定した。ナゲット径d
NはJIS Z3139:2009に記載の2枚または3枚溶接でのナゲット径の測定方法に準じた。詳しくは、
図3(b)に示すように、最外面の軟鋼板P1と高強度鋼板P2との界面におけるナゲットNの直径(ナゲットNの幅)を測定し、それをナゲット径d
Nとした。
溶接継手の最小厚みt
WJは、溶接継手WJを通る断面において、溶接継手WJの最も薄い部分である。断面マクロを観察し、溶接継手の中心部の最も薄い部分の厚みを測定して、溶接継手の最小厚みt
WJとした(
図3(b))。
【0064】
測定したナゲット径dNの値と、軟鋼板の厚みt1の値を用いて、各実施例が式(1)を充足しているか否かを検証した。
dN/√t1≧3.0 (1)
ここで、dN(mm)は、前記軟鋼板と高強度鋼板とが接触する接触面におけるナゲット径であり、
t1(mm)は、前記高強度鋼板と接触している前記軟鋼板の板厚である。
表2には、dN/√t1の値を記載した。この値が3.0以上の場合(つまり、式(1)を充足している)を「良」と判定し、4.0以上の場合を「優」と判定した。
【0065】
また、被溶接試験体の総板厚=前記4枚の鋼板の板厚合計とみなし、かつ測定した溶接継手の最小厚みを用いて、式(2)に規定する板厚保持率を求めた。
板厚保持率(%)=(前記溶接継手の最小厚み)/(前記4枚の鋼板の板厚合計)×100 (2)
板厚保持率が84%以上の場合を「合格」と判定した。
【0066】
また、いくつかの被溶接試験体については、最外面(軟鋼板)と2枚目(高強度鋼板)との間の溶接継手の継手強度を評価するために、十字引張試験を実施した。十字引張試験は、JIS Z3140:2017に準じて実施した。
十字引張強度については、2.1kN以上を「良」と判定し、3.0kN以上の場合を「優」と判定した。
【0067】
表2に、測定結果を記載する。なお、表2において、下線を付した数値は本発明の実施形態で規定された範囲から外れていることを示している。
【0068】
【0069】
【0070】
表2の結果を検討する。
溶接継手が本発明の実施形態の製造条件を満たすNo.D-3、E-1、E-2、F-2およびF-3では、溶接継手のdN/√t1が3.0以上で、板厚保持率が84%以上であった。その結果、継手強度が高くなると考えられる。実際に十字引張試験を行ったNo.D-3、F-3では、溶接継手の十字引張強度が高かった。
特に、溶接継手のdN/√t1が4.0以上のNo.E-2、F-2およびF-3は、継手強度がさらに高くなると考えられる。実際に十字引張試験を行ったNo.F-3では、No.D-3よりも溶接継手の十字引張強度が高かった。
【0071】
No.C-1~C-4は、加圧部材2を用いなかったため、溶接時に鋼板を加圧挟持しなかった。そのため、dN/√t1が3.0未満、および/または板厚保持率が84%未満となった。その結果、継手強度が低くなると考えられる。実際に十字引張試験を行ったNo.C-1、C-3では、溶接継手の十字引張強度が低かった。
【0072】
No.D-1、D-2は、dN/√t1が3.0未満であった。その結果、継手強度が低くなると考えられる。
No.D-4は、板厚保持率が84%未満であった。その結果、継手強度が低くなると考えられる。
No.E-3、E-4は板厚保持率が84%未満であった。その結果、継手強度が低くなると考えられる。
No.F-1は、dN/√t1が3.0未満であった。その結果、継手強度が低くなると考えられる。
No.F-4は、板厚保持率が84%未満であった。その結果、継手強度が低くなると考えられる。
【符号の説明】
【0073】
1 電極
2 加圧端子
P1 軟鋼板
P2、P3、P4 高強度鋼板
WJ 溶接継手
N ナゲット