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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】造形物の製造方法及び連結器の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/04 20060101AFI20240918BHJP
   B23K 37/047 20060101ALI20240918BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20240918BHJP
   B61G 7/00 20060101ALN20240918BHJP
【FI】
B23K9/04 G
B23K9/04 Z
B23K37/047 501B
B33Y10/00
B61G7/00 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021153292
(22)【出願日】2021-09-21
(65)【公開番号】P2023045090
(43)【公開日】2023-04-03
【審査請求日】2023-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】今城 貴徳
(72)【発明者】
【氏名】黄 碩
(72)【発明者】
【氏名】近口 諭史
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-151119(JP,A)
【文献】特開2017-144446(JP,A)
【文献】特開2019-199049(JP,A)
【文献】特開2021-059771(JP,A)
【文献】特開2019-084553(JP,A)
【文献】特許第6912636(JP,B1)
【文献】特開2021-024260(JP,A)
【文献】特開昭54-093512(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/04
B23K 37/047
B33Y 10/00
B61G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードをベース材上に積層させ、柱状部の周面に少なくとも複数の突出部を有する造形物を製造する造形物の製造方法であって、
水平方向に沿う軸線を中心に傾動可能な回転軸を有する回転テーブルを備えた2軸のポジショナにおける前記回転テーブル上に前記ベース材を設置する工程と、
前記ベース材の上部に前記溶着ビードを積層させて前記柱状部を造形する工程と、
前記回転テーブルの前記回転軸を傾動させて前記柱状部の周面における前記突出部を造形する突出部造形予定箇所を上方に向け、前記突出部造形予定箇所に前記溶着ビードを積層させて前記柱状部の周面に前記突出部を造形する工程と、
前記回転テーブルを回転させて前記柱状部の周面における他の前記突出部を造形する突出部造形予定箇所を上方に向け、前記突出部造形予定箇所に前記溶着ビードを積層させて前記柱状部の周面に前記突出部を造形する工程と、
前記回転テーブルの前記回転軸を傾動させて前記柱状部を鉛直方向に沿わせ、前記柱状部の周面に造形した前記突出部に上方から前記溶着ビードを積層させて先端機能部を造形することにより、前記先端機能部を備えた前記突出部を造形する工程と、
を含む造形物の製造方法。
【請求項2】
前記柱状部を造形する際に、前記突出部の形状に応じて前記突出部造形予定箇所の余肉量を調整する、
請求項1記載の造形物の製造方法。
【請求項3】
前記突出部造形予定箇所を平滑化する工程を含む、
請求項1又は2に記載の造形物の製造方法。
【請求項4】
前記柱状部及び前記突出部の少なくとも一方を造形する際に孔部を造形する工程を含み、
前記孔部の造形箇所に、前記孔部の一部又は全部の形状を有するサポート材を配置させ、積層させる前記溶着ビードによって接合させる、
請求項1~のいずれか一項に記載の造形物の製造方法。
【請求項5】
前記柱状部及び前記突出部の少なくとも一方を造形する際に、前記溶着ビードによって枠体を造形し、前記枠体内に前記溶着ビードよりも流動性の高い溶着ビードを充填させる、
請求項1~のいずれか一項に記載の造形物の製造方法。
【請求項6】
請求項1~のいずれか一項に記載の造形物の製造方法によって、
前記柱状部からなるアーム部と、
前記柱状部の先端部分と前記突出部とからなるヘッド部と、
を備えた連結器を造形する連結器の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造形物の製造方法及び連結器の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両の連結装置は、接手部材が連結される連結器本体を備えており、この連結器本体は、例えば、鋳造法によって作製される(例えば、特許文献1参照)。このような連結装置を構成する部材のように、複雑な形状の金属部材を製造する方法としては鋳造が代表的であるが、鋳造には鋳型を用意する必要があるため、容易に形状の変更又は改良を行うことができない。
【0003】
これに対して、鋳型を用いない製造方法として、レーザ又はアーク等の熱源を用いて、金属粉体又は金属ワイヤを溶融させ、溶融金属を積層させて造形物を造形する積層造形法がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-93799号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の積層造形法によれば、連結装置を構成する複雑形状の金属部材を、鋳型を用いずに造形できるため、容易に形状の変更又は改良を行える。しかし、溶融金属を単純に積層して造形すると積層方向に対してオーバーハングとなる部位が多くなり、形状不良を招くおそれがある。
【0006】
そこで本発明は、複雑形状の造形物を積層造形によって容易にかつ高品質に製造することが可能な造形物の製造方法及び連結器の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は下記の構成からなる。
(1) 溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードをベース材上に積層させ、柱状部の周面に少なくとも複数の突出部を有する造形物を製造する造形物の製造方法であって、
水平方向に沿う軸線を中心に傾動可能な回転軸を有する回転テーブルを備えた2軸のポジショナにおける前記回転テーブル上に前記ベース材を設置する工程と、
前記ベース材の上部に前記溶着ビードを積層させて前記柱状部を造形する工程と、
前記回転テーブルの前記回転軸を傾動させて前記柱状部の周面における前記突出部を造形する突出部造形予定箇所を上方に向け、前記突出部造形予定箇所に前記溶着ビードを積層させて前記柱状部の周面に前記突出部を造形する工程と、
前記回転テーブルを回転させて前記柱状部の周面における他の前記突出部を造形する突出部造形予定箇所を上方に向け、前記突出部造形予定箇所に前記溶着ビードを積層させて前記柱状部の周面に前記突出部を造形する工程と、
を含む造形物の製造方法。
(2) (1)に記載の造形物の製造方法によって、
前記柱状部からなるアーム部と、
前記柱状部の先端部分と前記突出部とからなるヘッド部と、
を備えた連結器を造形する連結器の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、複雑形状の造形物を積層造形によって容易にかつ高品質に製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、造形物を製造する製造システムの模式的な概略構成図である。
図2図2は、造形物の製造時に用いられるポジショナの側面図である。
図3図3は、造形物の構成例を説明する図であって、(A)は造形物の側面図、(B)は裏面図である。
図4図4は、製造する造形物の概略側面図である。
図5図5は、造形物の製造手順を説明するフローチャートである。
図6図6は、柱状部におけるアーム部の造形工程を示す側面図である。
図7図7は、柱状部におけるヘッド部の造形工程を示す側面図である。
図8図8は、柱状部の造形の仕方を示す図であって、(A)はビード層を積層させる造形方法を示す概略平面図、(B)は溶着ビードで形成した枠に溶融金属を充填させる造形方法を示す概略平面図である。
図9図9は、リブ部となる突出部の造形工程を示す側面図である。
図10図10は、爪部となる突出部の造形工程を示す側面図である。
図11図11は、貫通孔を有するリンク部の造形例を示す断面図である。
図12図12は、貫通孔を有するリンク部の造形例を示す断面図である。
図13図13は、参考例に係る造形方法を説明する造形物の概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
まず、造形物を造形する製造システム100について説明する。
図1に示すように、本構成の造形物の製造システム100は、溶接ロボット11と、ロボットコントローラ13と、溶加材供給部15と、溶接電源19と、制御部21と、を備える。また、製造システム100は、ポジショナ200を備えている。
【0011】
溶接ロボット11は、多関節ロボットからなるアクチュエータであり、先端軸にトーチ23が支持される。トーチ23の位置及び姿勢は、ロボットアームの自由度の範囲で3次元的に任意に設定可能となっている。トーチ23は、溶加材供給部15から連続供給される線状の溶加材(溶接ワイヤ)Mをトーチ先端から突出した状態に保持する。
【0012】
トーチ23は、不図示のシールドノズルを有し、シールドノズルからシールドガスが溶接部に供給される。アーク溶接法としては、被覆アーク溶接又は炭酸ガスアーク溶接等の消耗電極式、TIG溶接又はプラズマアーク溶接等の非消耗電極式のいずれであってもよく、作製する造形物に応じて適宜選定される。
【0013】
例えば、消耗電極式の場合、シールドノズルの内部にはコンタクトチップが配置され、溶融電流が給電される溶加材Mがコンタクトチップに保持される。トーチ23は、溶加材Mを保持しつつ、シールドガス雰囲気で溶加材Mの先端からアークを発生する。溶加材Mは、ロボットアーム等に取り付けた不図示の繰り出し機構によりトーチ23に送給される。そして、トーチ23を移動しつつ、連続送給される溶加材Mを溶融及び凝固させると、溶加材Mの溶融凝固体である溶着ビードが形成される。
【0014】
溶加材Mを溶融させる熱源としては、上記したアークに限らない。例えば、アークとレーザとを併用した加熱方式、プラズマを用いる加熱方式、電子ビーム又はレーザを用いる加熱方式等、他の方式による熱源を採用してもよい。電子ビーム又はレーザにより加熱する場合、加熱量をさらに細かく制御でき、溶着ビードの状態をより適正に維持して、造形物Wの更なる品質向上に寄与できる。
【0015】
溶加材Mは、あらゆる市販の溶接ワイヤを用いることができる。例えば、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用のマグ(MAG)溶接及びミグ(MIG)溶接ソリッドワイヤ(JIS Z 3312)、軟鋼,高張力鋼及び低温用鋼用アーク溶接フラックス入りワイヤ(JIS Z 3313)等で規定されるワイヤを用いることができる。
【0016】
溶加材Mとしてチタンのような活性金属を用いることもできる。その場合、溶接時に大気との反応による酸化、窒化を回避するため、溶接部をシールドガス雰囲気にすることが必要となる。
【0017】
ロボットコントローラ13は、制御部21からの指示を受けて、溶接ロボット11の各部を駆動し、必要に応じて溶接電源19の出力を制御する。
【0018】
制御部21は、CPU、メモリ、ストレージ等を備えるコンピュータ装置により構成され、予め用意された駆動プログラム、又は所望の条件で作成した駆動プログラムを実行して、溶接ロボット11等の各部を駆動する。また、制御部21には、ポジショナ200が接続されており、制御部21は、ポジショナ200の駆動を制御する。
【0019】
上記構成の製造システム100は、設定された層形状データから生成されるトーチ23の移動軌跡に沿って、トーチ23を溶接ロボット11の駆動により移動させながら、溶加材Mを溶融させて供給する。これにより、複数の線状の溶着ビードを積層させた造形物Wを造形する。
【0020】
図2に示すように、ポジショナ200は、基台31と、回転テーブル33とを備えており、回転テーブル33は、基台31に支持されている。回転テーブル33は、基台31に連結された支持部35と、支持部35に設けられた円板状のテーブル37と、を有している。支持部35は、基台31に対して、水平方向に沿う軸線αを中心に、略90°の範囲で傾動可能とされている。テーブル37は、支持部35に対して、軸線αと直交する回転軸βを中心として回転可能とされている。このように、ポジショナ200は、軸線αを中心とした回転テーブル33の回転角がθとされ、支持部35に対するテーブル37の回転軸βを中心とした回転角がφとされた2軸のポジショナである。
【0021】
このポジショナ200は、その回転テーブル33のテーブル37の表面に、板状のベース材51が固定される。そして、このベース材51に溶着ビードが積層されて造形物Wが造形される。
【0022】
次に、本例で製造する造形物Wの一例について説明する。
図3(A)及び図3(B)に示すように、造形物Wは、アーム部61と、ヘッド部63とを有している。この造形物Wは、鉄道車両に用いられる連結器である。アーム部61は、断面矩形状の棒状に形成されており、一端部に連結孔65が形成されている。ヘッド部63は、アーム部61の他端部に一体に形成されている。このヘッド部63は、ヘッド部本体71と、ヘッド部本体71の一側部に形成されたリブ部73と、ヘッド部本体71他側部に形成された爪部75とを有している。爪部75は、互いに間隔をあけて配置された一対のリンク部77を有しており、一方のリンク部77には、貫通孔79が形成されている。
【0023】
図4に示すように、造形物Wを造形する際の手順としては、板状のベース材51に対して溶着ビードを積層させ、アーム部61及びヘッド部63のヘッド部本体71となる柱状部81を造形し、さらに、柱状部81の先端部分に、リブ部73及び爪部75となる突出部83,85を造形し、突出部85にリンク部77となる先端機能部87を造形する。
【0024】
次に、上記構成例の造形物Wを、ポジショナ200を用いて製造システム100によって造形する場合について、図5に示すフローチャートに沿って説明する。
【0025】
ベース材51を、そのプレート法線を鉛直にしてポジショナ200に設置する(ステップS1)。具体的には、ポジショナ200の回転テーブル33におけるテーブル37にベース材51を固定し、回転テーブル33の回転軸βを鉛直方向に向ける。これにより、ベース材51を水平に配置させる。
【0026】
水平に配置されたベース材51上に、アーム部61及びヘッド部63のヘッド部本体71となる柱状部81を造形する(ステップS2)。
【0027】
図6に示すように、柱状部81の造形の仕方としては、製造システム100の溶接ロボット11を駆動させてトーチ23を移動させ、ベース材51に対して上方側からトーチ23を近接させる。そして、このトーチ23によってベース材51上に溶着ビードBを形成し、溶着ビードBからなるビード層BLを鉛直方向へ積層させる。これにより、柱状部81におけるアーム部61となる部分を造形し、続けて、図7に示すように、柱状部81におけるヘッド部本体71となる部分を造形する。
【0028】
このとき、柱状部81に連結孔65を形成する際には、この連結孔65となる部分を避けるように、溶着ビードBを積層させる。これにより、柱状部81に連結孔65を形成できる。
【0029】
なお、アーム部61には、軽量化等のために、凹部又は開口部を形成してもよい。この場合も、アーム部61となる柱状部81を造形する際に、凹部又は開口部を形成する箇所を避けるように積層位置をずらしながら溶着ビードBを積層させればよい。
【0030】
柱状部81の具体的な造形の仕方としては、例えば、図8(A)に示すように、溶接ロボット11によってトーチ23を移動させることにより、溶着ビードBを柱状部81の内側から外側へ向かって環状に形成する。これにより、溶着ビードBからなるビード層BLを形成する。そして、このようなビード層BLを鉛直方向に沿って順次に積層させる。このとき、ポジショナ200の回転テーブル33を、回転軸βを中心に回転させながらトーチ23によって柱状部81の外形に沿って溶着ビードBを形成してもよい。
【0031】
また、図8(B)に示すように、柱状部81の外形に沿う溶着ビードBを鉛直方向へ積層させて枠体81aを造形し、その後、枠体81aの内側に、高入熱、高溶着量となる溶接条件で溶着ビードを盛り付けて枠体内部81bを形成してもよい。枠体内部81bを形成する溶接条件としては、溶接電流、溶接電圧等を調整するほか、硫黄の添加量が比較的多い溶加材Mを用いることでもよい。つまり、枠体内部81bを形成する溶着ビードは、枠体18aを形成する溶着ビードよりも流動性が高いものとなっている。この場合、未溶着部の発生を抑えつつ枠体81aの内側を迅速に埋めることができる。
【0032】
次に、ポジショナ200を駆動させて回転テーブル33の回転軸βを水平方向に向ける。これにより、上部に柱状部81が造形されたベース材51の法線を水平方向に設定する(ステップS3)。
【0033】
図9に示すように、柱状部81におけるヘッド部本体71となる部分にリブ部73となる一方の突出部83を造形する(ステップS4)。具体的には、ポジショナ200の回転テーブル33を、回転軸βを中心に回動させ、柱状部81におけるヘッド部本体71の一側部からなる突出部造形予定箇所71aが上方に向くように配置させる。次に、溶接ロボット11を駆動させてトーチ23を移動させ、ヘッド部本体71の突出部造形予定箇所71aに対して上方側からトーチ23を近接させる。そして、このトーチ23によってヘッド部本体71の突出部造形予定箇所71a上に溶着ビードBを形成し、溶着ビードBからなるビード層BLを積層させる。これにより、ヘッド部本体71の突出部造形予定箇所71aにリブ部73となる突出部83を造形する。
【0034】
このとき、ヘッド部本体71の突出部造形予定箇所71aが斜めに傾いている場合、溶着ビードBを傾斜の下方側から順に隣接させながら形成するのが好ましい。このようにすると、形成する溶着ビードBを下方側に隣接する溶着ビードBによって支えることができ、溶着ビードBがばらつきなく隣接したビード層BLを造形できる。また、上下に積層するビード層BLにおいて、溶着ビードBの形成方向を互いに交差する向きとするのが好ましい。このようにすれば、上層のビード層BLの溶着ビードBを形成することによって下層のビード層BLの上面における凹凸をならして平坦化させることができる。
【0035】
図10に示すように、ポジショナ200を駆動させ、回転軸βを中心に回転テーブル33を約180°の回転角φで回動させ、柱状部81におけるヘッド部本体71の他側部からなる突出部造形予定箇所71bが上方に向くように配置させる(ステップS5)。
【0036】
柱状部81におけるヘッド部本体71となる部分に爪部75となる他方の突出部85を造形する(ステップS6)。具体的には、溶接ロボット11を駆動させてトーチ23を移動させ、ヘッド部本体71の突出部造形予定箇所71bに対して上方側からトーチ23を近接させる。そして、このトーチ23によってヘッド部本体71の突出部造形予定箇所71b上に溶着ビードBを形成し、溶着ビードBからなるビード層BLを積層させる。これにより、ヘッド部本体71の突出部造形予定箇所71bに爪部75となる突出部85を造形する。
【0037】
爪部75となる突出部85を造形するときも、ヘッド部本体71の突出部造形予定箇所71bが斜めに傾いている場合、溶着ビードBを傾斜の下方側から順に隣接させながら形成すれば、形成する溶着ビードBを下方側に隣接する溶着ビードBによって支えることができ、溶着ビードBがばらつきなく隣接したビード層BLを造形できる。また、上下に積層するビード層BLにおいて、溶着ビードBの形成方向を互いに交差する向きとすれば、上層のビード層BLの溶着ビードBを形成することによって下層のビード層BLの上面における凹凸をならして平坦化させることができる。
【0038】
ここで、柱状部81におけるヘッド部本体71となる部分を造形する際に、アーム部61となる部分と同様な余肉量で溶着ビードBを造形すると、突出部83,85を造形する突出部造形予定箇所71a,71bの部分の余肉量が多くなり過ぎてしまう。すると、突出部83,85を造形した際に、この余肉に起因して突出部83,85の余肉量が増大したり、高さ補正作業を要したりすることがある。
【0039】
このため、柱状部81を造形する際には、突出部83,85の形状に応じて、柱状部81におけるヘッド部本体71となる部分の突出部造形予定箇所71a,71bの余肉量を調整するのが好ましい。このようにすれば、柱状部81の余肉に起因する突出部83,85の余肉量の増大、及び高さの補正作業の発生を抑制できる。
【0040】
また、リブ部73及び爪部75となる突出部83,85を造形する際に、その下地となる突出部造形予定箇所71a,71bを予め切削加工によって平滑化させるのが好ましい。このように、突出部造形予定箇所71a,71bを平滑化することで、突出部83,85の造形時における凹凸に起因する狙い位置及び高さのずれを抑制できる。
【0041】
ポジショナ200を駆動させ、回転テーブル33の回転軸βを鉛直方向に向ける。これにより、ベース材51のプレート法線を鉛直にする(ステップS7)。このようにすると、ベース材51上に形成した柱状部81が鉛直方向に沿って配置される。
【0042】
ヘッド部本体71に造形した爪部75となる突出部85に、リンク部77となる先端機能部87を造形する(ステップS8)。具体的には、溶接ロボット11を駆動させてトーチ23を移動させ、爪部75となる突出部85に対して上方側からトーチ23を近接させる。そして、このトーチ23によって突出部85に溶着ビードBを形成し、溶着ビードBからなるビード層BLを積層させる。これにより、突出部85にリンク部77となる先端機能部87を造形する。このとき、一方のリンク部77となる先端機能部87に貫通孔79を造形する際には、貫通孔79となる部分を避けるように積層位置をずらしながら溶着ビードBを積層させる。
【0043】
なお、貫通孔79を造形する際には、サポート材を用いるのが好ましい。
例えば、図11に示すように、先端機能部87を造形する際に、溝部89が形成されるように溶着ビードBを積層させ、この溝部89を覆うように、凹状のサポート材91を被せるように載せる。その後、このサポート材91を覆うように溶着ビードBを積層させる。このようにすると、溶着ビードBに形成した溝部89と凹状のサポート材91とからなる貫通孔79を有するリンク部77を造形できる。
【0044】
また、図12に示すように、溶着ビードBに形成した溝部89に円筒状のサポート材93を嵌め込み、その後、このサポート材93を覆うように溶着ビードBを積層させてもよい。このようにすると、円筒状のサポート材93の孔部からなる貫通孔79を有するリンク部77を造形できる。
【0045】
ここで、参考例に係る製造方法について説明する。
図13に示すように、参考例では、ベース材51の上面に溶着ビードBからなるビード層BLを単純に積層させ、アーム部61が水平方向に延びるように造形物Wを造形している。この方法では、ヘッド部63からアーム部61が側方へ延在することとなるため、アーム部61がオーバーハング部位となってしまう。したがって、参考例では、オーバーハング部位となるアーム部61を造形する際に溶着ビードBが脱落するため、支持部材などを下方に配置して支持しなければ造形することが困難である。しかも、オーバーハング部位を造形する場合、重力の影響を考慮して溶着ビードBを形成しなければならず、積層計画が複雑化してしまう。
【0046】
これに対して、本構成に係る造形物の製造方法によれば、水平方向に沿う軸線αを中心に傾動可能な回転軸βを有する回転テーブル33を備えた2軸のポジショナ200を用い、柱状部81及び突出部83,85を造形する際の溶着ビードBの積層方向を鉛直方向に沿う方向に向けるので、溶着ビードBを積層させる際のオーバーハング部位を大幅に減らしつつ造形できる。また、溶着ビードBを形成するトーチ23の姿勢を下向きに固定して造形できるので、トーチ姿勢変更後の位置合わせなどの付帯的作業の発生を抑えることができる。これにより、鉄道車両の連結器等の複雑形状の造形物Wを積層造形によって容易にかつ高品質に製造できる。
【0047】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせること、及び明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0048】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 溶加材を溶融及び凝固させた溶着ビードをベース材上に積層させ、柱状部の周面に少なくとも複数の突出部を有する造形物を製造する造形物の製造方法であって、
水平方向に沿う軸線を中心に傾動可能な回転軸を有する回転テーブルを備えた2軸のポジショナにおける前記回転テーブル上に前記ベース材を設置する工程と、
前記ベース材の上部に前記溶着ビードを積層させて前記柱状部を造形する工程と、
前記回転テーブルの前記回転軸を傾動させて前記柱状部の周面における前記突出部を造形する突出部造形予定箇所を上方に向け、前記突出部造形予定箇所に前記溶着ビードを積層させて前記柱状部の周面に前記突出部を造形する工程と、
前記回転テーブルを回転させて前記柱状部の周面における他の前記突出部を造形する突出部造形予定箇所を上方に向け、前記突出部造形予定箇所に前記溶着ビードを積層させて前記柱状部の周面に前記突出部を造形する工程と、
を含む造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、水平方向に沿う軸線を中心に傾動可能な回転軸を有する回転テーブルを備えた2軸のポジショナを用い、柱状部及び突出部を造形する際の溶着ビードの積層方向を鉛直方向に沿う方向に向けるので、溶着ビードを積層させる際のオーバーハング部位を大幅に減らしつつ造形できる。また、溶着ビードを形成するトーチの姿勢を下向きに固定して造形できるので、トーチ姿勢変更後の位置合わせなどの付帯的作業の発生を抑えることができる。これにより、複雑形状の造形物を積層造形によって容易にかつ高品質に製造できる。
【0049】
(2) 前記回転テーブルの前記回転軸を傾動させて前記柱状部を鉛直方向に沿わせ、前記柱状部の周面に造形した前記突出部に上方から前記溶着ビードを積層させて先端機能部を造形することにより、前記先端機能部を備えた前記突出部を造形する工程を含む、(1)に記載の造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、先端機能部を備えた突出部を有する複雑形状の造形物を容易に製造できる。
【0050】
(3) 前記柱状部を造形する際に、前記突出部の形状に応じて前記突出部造形予定箇所の余肉量を調整する、(1)又は(2)に記載の造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、柱状部の余肉に起因する突出部の余肉量の増大及び高さの補正作業の発生を抑制できる。
【0051】
(4) 前記突出部造形予定箇所を平滑化する工程を含む、(1)~(3)のいずれか一つに記載の造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、突出部造形予定箇所を平滑化することで、突出部の造形時における凹凸に起因する狙い位置及び高さのずれを抑制できる。
【0052】
(5) 前記柱状部及び前記突出部の少なくとも一方を造形する際に孔部を造形する工程を含み、
前記孔部の造形箇所に、前記孔部の一部又は全部の形状を有するサポート材を配置させ、積層させる前記溶着ビードによって接合させる、(1)~(4)のいずれか一つに記載の造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、孔部の造形箇所に配置させたサポート材を溶着ビードによって接合させることにより、孔部を容易にかつ短時間で造形することができ、生産性を向上させることができる。
【0053】
(6) 前記柱状部及び前記突出部の少なくとも一方を造形する際に、前記溶着ビードによって枠体を造形し、前記枠体内に前記溶着ビードよりも流動性の高い溶着ビードを充填させる、(1)~(5)のいずれか一つに記載の造形物の製造方法。
この構成の造形物の製造方法によれば、枠体と枠体内部とを別途に形成し、枠体内部を流動性の高い溶着ビードで充填させることで、未溶着部の発生を抑えつつ枠体の内側を迅速に埋めることができる。
【0054】
(7) (1)~(6)のいずれか一つに記載の造形物の製造方法によって、
前記柱状部からなるアーム部と、
前記柱状部の先端部分と前記突出部とからなるヘッド部と、
を備えた連結器を造形する、連結器の製造方法。
この構成の連結器の製造方法によれば、複雑形状の連結器を積層造形によって容易にかつ高品質に製造できる。
【符号の説明】
【0055】
33 回転テーブル
51 ベース材
61 アーム部
63 ヘッド部
71a,71b 突出部造形予定箇所
79 貫通孔(孔部)
81 柱状部
81a 枠体
81b 枠体内部
83,85 突出部
87 先端機能部
91,93 サポート材
200 ポジショナ
B 溶着ビード
M 溶加材
α 軸線
β 回転軸
図1
図2
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