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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】補強パイプの製造方法及び補強パイプ
(51)【国際特許分類】
   B23K 9/00 20060101AFI20240918BHJP
   B23K 9/028 20060101ALI20240918BHJP
   B23K 26/34 20140101ALI20240918BHJP
   B23K 26/242 20140101ALI20240918BHJP
   B23K 26/21 20140101ALI20240918BHJP
   B23K 33/00 20060101ALI20240918BHJP
   B23K 9/235 20060101ALI20240918BHJP
   B23K 9/02 20060101ALI20240918BHJP
   E04C 3/06 20060101ALI20240918BHJP
   E04B 1/24 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
B23K9/00 501B
B23K9/028 Z
B23K9/00 501C
B23K26/34
B23K26/242
B23K26/21 N
B23K33/00 310C
B23K9/235 Z
B23K9/02 D
E04C3/06
E04B1/24 C
E04B1/24 F
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021199668
(22)【出願日】2021-12-08
(65)【公開番号】P2022161808
(43)【公開日】2022-10-21
【審査請求日】2023-09-01
(31)【優先権主張番号】P 2021066719
(32)【優先日】2021-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 励一
(72)【発明者】
【氏名】斉藤 賢司
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-213104(JP,A)
【文献】特開2015-027695(JP,A)
【文献】特開平06-101302(JP,A)
【文献】特開平03-100252(JP,A)
【文献】特開昭61-279362(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 9/00
B23K 9/028
B23K 26/34
B23K 26/242
B23K 26/21
B23K 33/00
B23K 9/235
B23K 9/02
E04C 3/06
E04B 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製からなるパイプの内部において、前記パイプと同種素材からなる少なくとも1枚の補強板が、前記パイプの長手方向に対して交差する位置で溶接される補強パイプの製造方法であって、
溶接トーチを前記パイプの開口端から前記パイプの内部に挿入し、前記パイプの内壁面における周方向の少なくとも一部を、ろう材を用いたブレージング又は溶接材料を用いた溶接により肉盛ビードを形成する肉盛ビード形成工程と、
前記溶接トーチを前記パイプから取り除いた後、前記補強板を前記パイプの内部に挿入し、前記補強板を前記肉盛ビードに接するように配置する補強板配置工程と、
前記補強板の縁部分と前記パイプの内壁面との少なくとも一部をすみ肉溶接する補強板溶接工程と、
を備え
前記肉盛ビード形成工程、前記補強板配置工程及び前記補強板溶接工程を、前記補強板の枚数に応じて繰り返し行うとともに、
前記補強板配置工程において、前記補強板溶接工程で前に溶接された補強板又は前記補強板溶接工程で前に形成された溶接金属に接するように次の補強板を配置する、補強パイプの製造方法。
【請求項2】
前記肉盛ビード形成工程において、前記肉盛ビードにおける前記補強板との接線が、前記補強板を配置する予定の位置に一致するように前記肉盛ビードを形成する、請求項1に記載の補強パイプの製造方法。
【請求項3】
前記肉盛ビード形成工程において、前記補強板を配置する予定の位置よりも、前記パイプの開口端と反対の方向に離隔した位置から前記肉盛ビードの形成を開始し、前記溶接トーチを前記パイプの内壁面における周方向に移動させつつ、前記補強板を配置する位置に接近させる、請求項2に記載の補強パイプの製造方法。
【請求項4】
前記肉盛ビード形成工程において、前記溶接トーチを前記パイプの内壁面における周方向に移動させつつ前記肉盛ビードを形成した後、前記補強板を配置する予定の位置よりも、前記パイプの開口端と反対の方向に離隔した位置で前記肉盛ビードの形成を終了する、請求項2又は3に記載の補強パイプの製造方法。
【請求項5】
金属製からなるパイプの内部において、前記パイプと同種素材からなる少なくとも1枚の補強板が、前記パイプの長手方向に対して交差する位置で溶接される補強パイプの製造方法であって、
溶接トーチを前記パイプの開口端から前記パイプの内部に挿入し、前記パイプの内壁面における周方向の少なくとも一部を、ろう材を用いたブレージング又は溶接材料を用いた溶接により肉盛ビードを形成する肉盛ビード形成工程と、
前記溶接トーチを前記パイプから取り除いた後、前記補強板を前記パイプの内部に挿入し、前記補強板を前記肉盛ビードに接するように配置する補強板配置工程と、
前記補強板の縁部分と前記パイプの内壁面との少なくとも一部をすみ肉溶接する補強板溶接工程と、
を備え
前記肉盛ビード形成工程において、前記肉盛ビードにおける前記補強板との接線が、前記補強板を配置する予定の位置に一致するように前記肉盛ビードを形成するとともに、
前記肉盛ビード形成工程において、前記補強板を配置する予定の位置よりも、前記パイプの開口端と反対の方向に離隔した位置から前記肉盛ビードの形成を開始し、前記溶接トーチを前記パイプの内壁面における周方向に移動させつつ、前記補強板を配置する位置に接近させる、補強パイプの製造方法。
【請求項6】
前記肉盛ビード形成工程において、前記溶接トーチを前記パイプの内壁面における周方向に移動させつつ前記肉盛ビードを形成した後、前記補強板を配置する予定の位置よりも、前記パイプの開口端と反対の方向に離隔した位置で前記肉盛ビードの形成を終了する、請求項に記載の補強パイプの製造方法。
【請求項7】
金属製からなるパイプの内部において、前記パイプと同種素材からなる少なくとも1枚の補強板が、前記パイプの長手方向に対して交差する位置で溶接される補強パイプの製造方法であって、
溶接トーチを前記パイプの開口端から前記パイプの内部に挿入し、前記パイプの内壁面における周方向の少なくとも一部を、ろう材を用いたブレージング又は溶接材料を用いた溶接により肉盛ビードを形成する肉盛ビード形成工程と、
前記溶接トーチを前記パイプから取り除いた後、前記補強板を前記パイプの内部に挿入し、前記補強板を前記肉盛ビードに接するように配置する補強板配置工程と、
前記補強板の縁部分と前記パイプの内壁面との少なくとも一部をすみ肉溶接する補強板溶接工程と、
を備え
前記肉盛ビード形成工程において、前記肉盛ビードにおける前記補強板との接線が、前記補強板を配置する予定の位置に一致するように前記肉盛ビードを形成するとともに、
前記肉盛ビード形成工程において、前記溶接トーチを前記パイプの内壁面における周方向に移動させつつ前記肉盛ビードを形成した後、前記補強板を配置する予定の位置よりも、前記パイプの開口端と反対の方向に離隔した位置で前記肉盛ビードの形成を終了する、補強パイプの製造方法。
【請求項8】
前記肉盛ビード形成工程、前記補強板配置工程及び前記補強板溶接工程を、前記補強板の枚数に応じて繰り返し行う、請求項のいずれか1項に記載の補強パイプの製造方法。
【請求項9】
前記補強板配置工程において、前記補強板溶接工程で前に溶接された補強板又は前記補強板溶接工程で前に形成された溶接金属に接するように次の補強板を配置する、請求項に記載の補強パイプの製造方法。
【請求項10】
前記補強板溶接工程は、前記肉盛ビード形成工程で用いた前記溶接トーチを再び前記パイプの開口端から前記パイプの内部に挿入して行う請求項1~9のいずれか1項に記載の補強パイプの製造方法。
【請求項11】
前記肉盛ビードを前記パイプの長手方向に対して傾斜させて形成する請求項1~10のいずれか1項に記載の補強パイプの製造方法。
【請求項12】
前記補強板の縁部分が面取りされており、前記補強板溶接工程において前記補強板と前記パイプの内壁面との間に形成されたレ型開先を溶接する、請求項1~11のいずれか1項に記載の補強パイプの製造方法。
【請求項13】
前記パイプの全周に亘って前記肉盛ビードを形成する請求項1~12のいずれか1項に記載の補強パイプの製造方法。
【請求項14】
前記肉盛ビード形成工程、前記補強板配置工程及び前記補強板溶接工程は、前記パイプが、前記開口端を鉛直上方に向けて配置された状態で行われる、請求項1~13のいずれか1項に記載の補強パイプの製造方法。
【請求項15】
前記パイプは、前記長手方向と直交する断面形状が、円形、楕円形、多角形のいずれかの閉断面である、請求項1~14のいずれか1項に記載の補強パイプの製造方法。
【請求項16】
金属製からなるパイプの内部において、前記パイプと同種素材からなる少なくとも1枚の補強板が、前記パイプの長手方向に対して交差する位置で溶接される補強パイプであって、
前記パイプの内壁面には、前記補強板に対して溶接金属が形成される側と反対側における前記補強板と隣接する位置において、前記パイプの内壁面における周方向の少なくとも一部に肉盛ビードが形成されており、
前記肉盛ビードは、始端部及び終端部を有し、前記始端部及び前記終端部の少なくとも一方は、前記補強板が配置されている位置から、前記パイプの前記開口端側と反対側の方向に離隔している、補強パイプ。
【請求項17】
前記肉盛ビードは前記パイプの全周に亘って形成されている請求項16に記載の補強パイプ。
【請求項18】
自動車用又は建築用の骨格部材に用いられる、請求項16又は17に記載の補強パイプ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、補強パイプの製造方法及び補強パイプに関し、特に、閉断面構造を有する自動車用の車体フレームなどに好適な補強パイプの製造方法及び補強パイプに関する。
【背景技術】
【0002】
中空パイプ構造は、軽量性と高剛性を併せ持つ理想的な構造様式とされ、鋼、アルミ合金、樹脂、コンクリートなど素材を問わず、様々な産業で部材として適用されている。しかし、パイプ断面サイズに対してパイプ長さが過度に大きくなると剛性が低下してくるので、「竹の節」のように適度の間隔で補強板を入れることで改善を図ることが知られている。このような長手方向に対して垂直に設けられる補強板は、業種毎にバルクヘッド、ダイアフラム、スティフナーといった様々な名称で呼ばれている。
【0003】
建築・土木業界などでは、図16に示すように、構造部材であるH型鋼101に対して、一定間隔で補強板102を溶接して強度向上を図ることが知られている。この構造では、開口側から補強板102や溶接トーチ30を自由に挿入できるので、補強板102を溶接金属21ですみ肉溶接することで補強板102を何枚でも容易に溶接することができる。
【0004】
しかし、図17A図17Bに示すように、構造部材がパイプ111である場合、理論的には両側の開口端113から溶接トーチ30を挿入して溶接することは可能であるが、補強板112の位置決めが難しい。特に、パイプ111が水平姿勢であると、垂直に立てた補強板112の姿勢が不安定であり、実質的には位置決めが非常に困難である。
【0005】
図18に示すように、パイプ111を鉛直方向に立てると、補強板112は水平姿勢となるので、補強板112の挿入は容易になる。しかし、補強板112は重力で落下し得るため、やはり補強板112の位置決めが難しい。なお、最下段に位置する補強板112の溶接は、下面の開口端113から挿入した位置決め用架台115上に補強板112を載置すれば対処可能であるが、最下段よりも上に配置する2枚目以降の補強板112については、位置決め用架台115を利用することはできない。仮に、位置決め用架台115を2枚目以降の補強板112にも適用すると、溶接後に位置決め用架台115を取り出すことができない。このため、2枚目以降の補強板112の位置決めは実質的に不可能であり、複数枚の補強板112を溶接することはできない。
【0006】
ここで特許文献1、2には、リブプレート又はダイアフラムと呼ばれる複数の補強板の上下及び左右の側面に、それぞれ壁板を溶接して補強板で補強されたパイプ形状の構造部材を形成することが記載されている。
特に特許文献1では、複数の補強板の対角線上に位置する溶接部を同時に溶接することで、補強板への入熱量を抑制して熱の影響を最小に抑えていることが記載されている。また特許文献2では、壁板に対して補強板が傾斜した状態で配置されても、溶接溝の各コーナーに対して溶融金属が均等に溶け込むようにしていることが記載されている。さらに特許文献3では、BOX柱状のスキンプレートに形成されたノズル挿入から、溶接ワイヤをBOX柱内に挿入し、裏当金が設けられたダイアフラムとスキンプレートとを、非消耗ノズル式でエレクトロスラグ溶接してダイアフラムで補強されたBOX柱を作製することが記載されている。この溶接方法は、一般的に内ダイアフラム方式と呼ばれており、高い接合信頼性が得られるが、非常に手間と時間を要する高コストの手段である。
【0007】
また更に特許文献4には、金属板をプレス加工やロール成形などにより略円形または多角形断面の筒状に加工して、板端部同士を溶接やかしめなどにより接合した閉断面構造部品に対して、バルクヘッドやレインホースメントなどの補強部品を部品内部の所定の位置に精度よく設置する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特公昭60-16312号公報
【文献】特公平7-103634号公報
【文献】特許第4467364号公報
【文献】特許第5412980号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来のいずれの技術でも、作業効率や寸法精度が低く、均質性が損なわれたり、補強部品によって重量増加が大きくなる問題があり、改善の余地があった。
【0010】
本発明は、前述した課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、高剛性でありかつ軽量の補強パイプを作業効率よく製造可能な補強パイプの製造方法、及び高剛性でありかつ軽量の補強パイプを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
したがって本発明の上記目的は、補強パイプの製造方法に係る下記[1]の構成により達成される。
[1] 金属製からなるパイプの内部において、前記パイプと同種素材からなる少なくとも1枚の補強板が、前記パイプの長手方向に対して交差する位置で溶接される補強パイプの製造方法であって、
溶接トーチを前記パイプの開口端から前記パイプの内部に挿入し、前記パイプの内壁面における周方向の少なくとも一部を、ろう材を用いたブレージング又は溶接材料を用いた溶接により肉盛ビードを形成する肉盛ビード形成工程と、
前記溶接トーチを前記パイプから取り除いた後、前記補強板を前記パイプの内部に挿入し、前記補強板を前記肉盛ビードに接するように配置する補強板配置工程と、
前記補強板の縁部分と前記パイプの内壁面との少なくとも一部をすみ肉溶接する補強板溶接工程と、
を備える、補強パイプの製造方法。
【0012】
また本発明の上記目的は、補強パイプに係る下記[2]の構成により達成される。
[2] 金属製からなるパイプの内部において、前記パイプと同種素材からなる少なくとも1枚の補強板が、前記パイプの長手方向に対して交差する位置で溶接される補強パイプであって、
前記パイプの内壁面には、前記補強板に対して溶接金属が形成される側と反対側における前記補強板と隣接する位置において、前記パイプの内壁面における周方向の少なくとも一部に肉盛ビードが形成されている、補強パイプ。
【発明の効果】
【0013】
本発明の補強パイプの製造方法によれば、高剛性でありかつ軽量の補強パイプを作業効率よく製造することができる。また、本発明の補強パイプによれば、高剛性でありかつ軽量の補強パイプが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A図1Aは、本発明の第1実施形態に係る補強パイプの製造方法の前半工程を示す斜視図である。
図1B図1Bは、本発明の第1実施形態に係る補強パイプの製造方法の後半工程を示す斜視図である。
図2図2は、補強板がパイプの内壁面に溶接された溶接部の拡大断面図である。
図3図3は、レ型開先を有する補強板がパイプの内壁面に溶接された溶接部の拡大断面図である。
図4A図4Aは、補強板とパイプの内壁面の隙間から溶接金属が落下する状態を示す拡大断面図である。
図4B図4Bは、肉盛ビードにより溶落ちが防止される状態を示す拡大断面図である。
図5図5は、水平に配置されたパイプの内壁面に補強板が溶接される状態を示す断面図である。
図6図6は、斜めに傾斜して配置されたパイプの内壁面に補強板が溶接される状態を示す断面図である。
図7A図7Aは、本発明の第2実施形態に係る補強パイプの製造方法の前半工程を示す斜視図である。
図7B図7Bは、本発明の第2実施形態に係る補強パイプの製造方法の後半工程を示す斜視図である。
図8図8は、本発明の第3実施形態に係る補強パイプの斜視図である。
図9A図9Aは、図8に示す補強パイプにおいて、溶接された1枚目の補強板状に2枚目の補強板を載せて位置決めして溶接する状態を示す断面図である。
図9B図9Bは、図8に示す補強パイプにおいて、1枚目の補強板を溶接した溶接金属に2枚目の補強板を載せて位置決めして溶接する状態を示す断面図である。
図10A図10Aは、肉盛ビードの形状例を示す上面図である。
図10B図10Bは、肉盛ビードの形状例を示す側面図である。
図10C図10Cは、補強板の配置予定位置と実際に補強板が配置される位置とのずれを模式的に表す上面図である。
図10D図10Dは、肉盛ビードの好ましい形成方法を示す上面図である。
図11A図11Aは、肉盛ビードの形状例を示す上面図である。
図11B図11Bは、肉盛ビードの形状例を示す側面図である。
図11C図11Cは、肉盛ビードのより好ましい形成方法を示す上面図である。
図12図12は、閉断面を有する各パイプの断面図である。
図13図13は、他の閉断面を有する各パイプの断面図である。
図14図14は、さらに他の閉断面を有する各パイプの断面図である。
図15図15は、本発明に係る補強パイプの製造方法により、補強板が溶接された車輛のサイドシルの斜視図である。
図16図16は、従来の溶接方法により、H型鋼に補強板が溶接される工程を示す斜視図である。
図17A図17Aは、水平に配置されたパイプ内に補強板を挿入する状態を示す斜視図である。
図17B図17Bは、従来の溶接方法により、水平に配置されたパイプの内壁に補強板を溶接する状態を示す断面図である。
図18図18は、従来の溶接方法により、鉛直に配置されたパイプの内壁に補強板を溶接する状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明に係る補強パイプの製造方法の各実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0016】
<第1実施形態>
図1Aは、第1実施形態に係る補強パイプの製造方法の前半工程を示す斜視図であり、図1Bは、第1実施形態に係る補強パイプの製造方法の後半工程を示す斜視図である。また図2は、補強板がパイプの内壁面に溶接された溶接部の拡大断面図である。
本実施形態に係る補強パイプの製造方法は、鋼、アルミ合金、銅合金等の金属パイプの内部に、パイプの長さ方向(軸線方向)と交差する方向に、パイプと同種素材の複数の補強板を溶接して補強パイプを得る方法である。
【0017】
第1実施形態に係る補強パイプの製造方法は、まず図1Aに示すように、Step1において、例えば、鋼、アルミ合金、銅合金等の金属製のパイプ(図1Aに示す実施形態では角パイプ)10を、その軸線方向を鉛直方向上方に向けて配置する。これにより、パイプ10の一方の開口端11が、上方に開放される。
【0018】
Step2において、溶接トーチ30をパイプ10の上方の開口端11からパイプ10の内部に挿入し、消耗電極式アーク溶接法又は消耗材を用いた非消耗電極式アーク溶接法、レーザ溶接法により、パイプ10の内壁面12における周方向の少なくとも一部に、溶融金属を肉盛積層溶接して肉盛ビード20を形成する(肉盛ビード形成工程)。
【0019】
ここで、肉盛ビード20を形成する位置は、後述する補強板25が設置される位置である。そして、図1AのStep2に示すように、複数箇所に分割して肉盛積層溶接により複数の肉盛ビード20を形成する場合には、肉盛ビード20上に補強板25を載置したときに補強板25が安定するように、各肉盛ビード20の位置は同一平面内であることが望ましい。また、図1Aでは、肉盛ビード20を角パイプの内壁面12の4辺に1箇所ずつ、合計4箇所に設けているが、対向する2辺の内壁面12に1箇所ずつ、合計2箇所であってもよく、また全周に亘って形成してもよい。
【0020】
なお、肉盛ビード20は、載置される補強板25を安定して支持可能な強度を有するものであれば特に限定されず、肉盛溶接に替えて、ろう材を用いたブレージングにより肉盛ビード20を形成することもできる。すなわち、ろう材を供給しながら、溶接トーチ30を用いたMIGスポット溶接(MIGブレージング)により肉盛ビード20を形成してもよい。MIGスポット溶接の手法として、通常のMIG溶接、CMT(Cold Metal Transfer)溶接のいずれを採用してもよい。
【0021】
Step3において、溶接トーチ30をパイプ10から取り除く、すなわち引き抜いた後、補強板25をパイプ10の内部に挿入し、補強板25を肉盛ビード20に接するように載置する。このとき、補強板25は、肉盛ビード20上に載っているだけで、パイプ10に接合されていない(補強板配置工程)。
【0022】
なお、補強板25とパイプ10の素材は、同種素材であることが望ましい。すなわち、パイプ10が、鉄又は鉄合金製である場合は補強板25もまた鉄又は鉄合金製であることが好ましく、パイプ10がアルミ又はアルミ合金製である場合は補強板25もまたアルミ又はアルミ合金製であることが望ましい。また、パイプ10が銅又は銅合金製である場合は補強板25も銅又は銅合金製とするのが望ましい。
【0023】
補強板配置工程における補強板配置作業は、上方から補強板25を自由落下させてもよいが、補強板25が鋼製であれば磁石を使用し、ステンレスや非鉄材であればバキューム吸着装置などを使用して、補強板25を保持しながら丁寧に降ろし入れることもできる。
また、補強板25の形状は、パイプ10の穴と相似形状であり、パイプ10の穴よりわずかに小さいサイズとすることが望ましい。これにより、補強板配置作業が容易になる。
【0024】
Step4において、再び溶接トーチ30をパイプ10の開口端11からパイプ10の内部に挿入し、肉盛ビード20上に載置されて位置決めされた補強板25と、パイプ10の内壁面12のうち、補強板25がパイプ10の長手方向に対して交差する位置、すなわち、補強板25の縁部分26と対向する周面の複数の位置を含むように又はそのごく近傍において、補強板25の縁部分26とパイプ10の内壁面12との少なくとも一部を、例えばアーク溶接又はレーザ溶接によりすみ肉溶接する(補強板溶接工程)。
【0025】
なお、補強板溶接工程であるStep4で使用する溶接トーチ30は、肉盛ビード形成工程であるStep2で肉盛ビード20を形成する際に用いた溶接トーチ30と同じものを用いるのがシンプルで合理的だが、必要により別の種類の溶接トーチ30を用いることもできる。
【0026】
これにより、図2に示すように、パイプ10の内壁面12に1枚の補強板25が溶接金属21により溶接される。なお、肉盛ビード形成工程で形成された肉盛ビード20と溶接金属21とは、必ずしも溶融する必要はない。
【0027】
補強板25の縁部分26とパイプ10の内壁面12とを溶接する溶接金属21は、パイプ10の周方向に断続して設けられてもよいが、補強板25をパイプ10に強固に溶接するためには溶接部が長いほどよく、パイプ10の全周に亘って形成することが望ましい。
また、強固に溶接するため、溶接部断面が深く溶込むように電流、電圧、溶接速度などを調整して溶接することが望ましい。
【0028】
なお、補強板25の縁部分26は、補強板25の面に対して直角に形成されてもよいが、図3に示すように、補強板25の板厚tが厚い場合には、溶込みを増やし易くするため、補強板25の縁部分26に面取り加工を施して、補強板25とパイプ10の内壁面12との間にレ型開先を形成して溶接することが望ましい。
【0029】
また、図4Aに示すように、補強板25を内壁面12に溶接する際、溶接入熱が過多の場合や、補強板25の縁部分26とパイプ10の内壁面12との間に隙間が生じていたり、補強板25の縁部分26が溶融すると、生じた隙間から溶接金属21が落下する溶落ちが生じる場合がある。しかし、図4Bに示すように、Step2において肉盛ビード20をパイプ10の全周に亘って形成しておけば、該肉盛ビード20が受けとなって溶落ちを防止できるのでより望ましい。
【0030】
続いて、2枚目の補強板25をパイプ10の内壁面12に溶接する工程を説明する。
肉盛ビード形成工程で使用する溶接トーチと、補強板溶接工程で使用する溶接トーチとが、異なる溶接トーチである場合(例えば、ブレージングにより肉盛ビード20を形成する場合)、1枚目の補強板25の溶接に使用した溶接トーチ30をパイプ10から引き抜き、肉盛ビード形成工程で使用する溶接トーチ30をパイプ10の内部に挿入して、2枚目の補強板25を設置する位置に、Step2と同様に肉盛ビード20を形成する。すなわち、1枚目の補強板25の溶接と2枚目の補強板25の溶接との間に、溶接トーチの交換作業が必要となる。
【0031】
一方で図1Bに示すように、肉盛ビード形成工程で使用する溶接トーチと、補強板溶接工程で使用する溶接トーチが同じである場合には、Step5において、1枚目の補強板25の溶接作業が終了した溶接トーチ30を引き抜くことなく、2枚目の補強板25を設置する位置(高さ)まで移動させて、Step2と同様に2段目の肉盛ビード20を形成すればよい。
【0032】
Step6において、Step3と同様に、溶接トーチ30をパイプ10から引き抜いた後、補強板25をパイプ10の内部に挿入して、2段目の肉盛ビード20上に載置する。
【0033】
Step7において、Step4と同様に、再び溶接トーチ30をパイプ10の開口端11からパイプ10の内部に挿入し、補強板25とパイプ10の内壁面12との交差部分又はそのごく近傍で、補強板25の縁部分26とパイプ10の内壁面12とを、例えばアーク溶接又はレーザ溶接によりすみ肉溶接する。
【0034】
Step8において、2枚目の補強板25が溶接されたパイプ10から、溶接トーチ30を引き抜いて、2枚目の補強板25の溶接を終了する。
【0035】
以後、必要に応じてStep5~Step8の作業を繰返し行い、3枚目以降の補強板25を次々と所定の位置に溶接して、複数の補強板25により強度が高められた、高剛性でありかつ軽量の補強パイプ100を製造する。
【0036】
本技術の最も重要な点は、肉盛ビード形成工程(Step2、Step5)において、補強板25が設置されるパイプ10の内壁面12に対し、補強板25を設ける前にあらかじめ溶接金属による肉盛ビード20を設けることである。
この場合、パイプ10を鉛直方向に立てて行う場合の能率が一番高くなる。このため、肉盛ビード形成工程は、立壁に対して行う横向溶接となるので、溶融金属の垂れを防ぐために、低電流条件で行うのがよい。
【0037】
また、肉盛ビード20は、数箇所の点付け肉盛及び全周肉盛のいずれでもよいが、補強板溶接工程において、溶接入熱過多であったり、あるいは内壁面12と補強板25の縁部分26の隙間が大きいと、溶落ちが生じやすくなるので、溶落ち防止のためには全周肉盛とすることが望ましい。
【0038】
このように、本実施形態に係る補強パイプの製造方法によれば、シンプルな装置と構成により、これまで困難とされていたパイプ10の内部に複数の補強板25を溶接して強度が強化された補強パイプ100を製造できる。
【0039】
また、本実施形態に係る補強パイプの製造方法は、以下の長所を有している。
(1)設備投資が小さい。
(2)ランニングコストが安価。
(3)パイプの切断や、穴あけの必要がない。
(4)溶接用ロボットとマテハンロボットとを組み合わせれば、全工程をほぼ自動化できる。
(5)ほぼ全断面に補強板を溶接できるので、圧縮や引張に対して異方性がなく、高剛性となる。
(6)最小限の重量増で高剛性化が図れる。
(7)パイプが元々持っている直線性を劣化させることがない。
【0040】
上記で説明したように、肉盛ビード形成工程、補強板配置工程及び前記補強板溶接工程は、パイプ10の開口端11を鉛直上方に向けて配置された状態で行われる場合最も作業効率が高い。
【0041】
しかしながら、建屋などのスペース上の制限などからパイプ10を鉛直上方に向けて立てられない場合は、図5に示すように、パイプ10の長手方向を水平方向又は水平方向に対して傾斜した方向に載置して行うこともできる。ただし、パイプ10の長手方向を水平方向又は水平方向に対して傾斜した方向に載置すると、溶接の難易度が高い立向溶接や上向溶接などの溶接作業が要求される。このため、不図示のターンローラ装置(回転機構)などにより、パイプ10の軸線周りに回転させながら溶接することで、溶接トーチ30の先端が常に下方に向いた下向溶接となるように工夫することが望ましい。
【0042】
また、図5に示すような、パイプ10の長手方向を水平方向載置して行う場合には、パイプ10内に挿入した補強板25が倒れ易いので、補強板25の倒れ留めとなる押付け装置35により、補強板25を押し付けながら肉盛ビード形成工程、補強板配置工程及び前記補強板溶接工程を行うのが望ましい。ただし、図6に示すように、パイプ10の長手方向を斜めに傾斜させた状態で載置すれば、補強板25は、自重により肉盛ビード20に当接するので、押付け装置35の設置は不要となり、溶接作業が容易になる。
【0043】
<第2実施形態>
第1実施形態では、パイプ10の長手方向に対して補強板25の平面が直交するように溶接する場合を例に説明してきたが、補強板25は、パイプ10の長手方向に対して必ずしも直交する必要はなく、パイプ10の長手方向に対して鋭角又は鈍角となるように傾斜させて溶接されてもよい。
【0044】
図7Aは、第2実施形態に係る補強パイプの製造方法の前半工程を示す斜視図であり、図7Bは、第2実施形態に係る補強パイプの製造方法の後半工程を示す斜視図である。図7Bに示すように、第2実施形態の補強パイプ100Aは、補強板25が、パイプ10の長手方向に対して傾斜して溶接されている。なお、補強パイプ100Aにおけるその他の構成及び作用は、第1実施形態の補強パイプ100と同様であるため、同一部分には同一符号又は相当符号を付して説明を簡略化又は省略する。
【0045】
本実施形態の補強パイプ100Aは、Step1において、パイプ10の開口端11が上方に向くように、軸線方向を鉛直上方に向けて配置する。
【0046】
Step2において、溶接トーチ30をパイプ10内に挿入し、溶接トーチ30の動きを制御しながら、肉盛ビード20をパイプ10の長手方向に対して傾斜させて形成する(肉盛ビード形成工程)。肉盛ビード20の位置は、肉盛ビード20上に補強板25を載置したとき、補強板25が斜めに傾斜した状態で安定するように、同一平面(傾斜面)内に形成することが望ましい。
【0047】
Step3において、溶接トーチ30をパイプ10から引き抜いた後、補強板25をパイプ10内に挿入し、傾斜した肉盛ビード20上に斜めに載置する(補強板配置工程)。
【0048】
Step4において、再び溶接トーチ30をパイプ10の内部に挿入し、肉盛ビード20上に載置されて位置決めされた補強板25と、パイプ10の内壁面12のうち、補強板25がパイプ10の長手方向に対して交差する位置、すなわち補強板25の縁部分26と対向する周面の複数の位置を含むように又はそのごく近傍で、補強板25の縁部分26とパイプ10の内壁面12とを、溶接金属21により溶接する(補強板溶接工程)。
【0049】
Step5において、溶接トーチ30を2枚目の補強板25を設置する位置まで移動させた後、Step2と同様に、溶接トーチ30の動きを制御しながら、2段目の肉盛ビード20をパイプ10の長手方向に対して傾斜させて形成する。
【0050】
Step6において、Step3と同様に、溶接トーチ30をパイプ10から引き抜いた後、2枚目の補強板25を2段目の肉盛ビード20上に斜めに載置する。
【0051】
Step7で、Step4と同様に、再び溶接トーチ30をパイプ10の内部に挿入し、傾斜して載置された補強板25とパイプ10の内壁面12との交差部分、あるいはそのごく近傍で、補強板25の縁部分26とパイプ10の内壁面12とをすみ肉溶接する。
【0052】
Step8で、2枚目の補強板25が溶接されたパイプ10から、溶接トーチ30を引き抜いて、2枚目の補強板25の溶接を終了する。
【0053】
以後、必要に応じてStep5~Step8の作業を繰返し行い、3枚目以降の補強板25を次々と所定の位置に溶接して、複数の補強板25がパイプ10の内壁面12に斜めに溶接されて補強された、高剛性でありかつ軽量の補強パイプ100Aを製造する。
【0054】
<第3実施形態>
図8は、第3実施形態に係る補強パイプの斜視図である。図8に示すように、第3実施形態の補強パイプ100Bは、パイプ10の軸線に対して斜めに傾斜して溶接された複数の補強板25が、その方向を一段ずつ逆方向にされて溶接されている。ここで、第3実施形態に係る補強パイプの製造方法は、補強板配置工程において、補強板溶接工程で前に溶接された補強板25又は補強板溶接工程で前に形成された溶接金属21に接するように次の補強板25を配置することを特徴としている。なお、補強板25の溶接方法は、パイプ10の軸線に対する肉盛ビード20の傾斜角が異なるだけで、第2実施形態の補強パイプ100Aと同様であるため説明を省略する。
【0055】
第3実施形態の補強パイプ100Bの場合、図9Aに示すように、下段に(前に)溶接された補強板25aを、上段の(次の)補強板25bの足場にして位置決めすることで、上段の補強板25bのための肉盛ビード20を省略して上段の補強板25bを溶接することができる。また、図9Bに示すように、下段の(前の)補強板25aを溶接した溶接金属21を足場にして、上段の(次の)補強板25bを位置決めすることで、上段の補強板25bのための肉盛ビード20を省略することもできる。
いずれの場合も、下段に溶接された補強板25a又は下段の補強板25aを溶接した溶接金属21が、補強板溶接工程における溶け落ち防止の機能も果たすので、肉盛溶接の一部を省略することができる。
【0056】
次に、上記第1~第3実施形態において、より好ましい肉盛ビードの形成方法について、以下に説明する。
【0057】
図10A及び図10Bに示すとおり、肉盛ビード20の形成を開始する開始部40から終了部41に向かって、矢印42で示す方向に溶接トーチを移動させ、肉盛ビード20を形成した場合に、開始部40は三次元的に膨らんだ形状になることが多い。この原因は、肉盛ビード20の形成を開始した時点では、溶接材料の供給速度に対して溶接進行速度が遅く、溶融池の体積が不可避的に大きくなってしまうためである。
そして、形成開始部40が膨らんだ形状の肉盛ビード20が形成されると、図10Cに示すように、補強板25を配置する予定の位置(配置予定位置43)と、実際に補強板25が配置される位置44との間に、角度ずれ45が生じてしまう。
【0058】
そこで、Step2の肉盛ビード形成工程において、肉盛ビード20における補強板25との接線46が補強板25の配置予定位置43に一致するように、肉盛ビード20を形成することが好ましい。肉盛ビード20における補強板25との接線46とは、肉盛ビード20を形成した後に、パイプ10の開口端11側から補強板25を挿入して配置した場合に、補強板25における肉盛ビード20側の面(下面)とパイプ10の内壁面12とが交差する線である。なお、図10Cに示すように、補強板25を配置した際に、補強板25と肉盛ビード20とが複数の点(例えば、接点47a、47b)で接する場合は、接点47aと接点47bとを結ぶ線を、接線46とすることができる。また、補強板25と肉盛ビード20とが線で接する場合には、この線を接線46とすることができる。
【0059】
このように、実際に補強板25が配置される位置44は、上記接線46と一致するため、接線46が配置予定位置43と一致するように肉盛ビード20を形成すると、所望の位置に補強板25を配置することができる。なお、接線46が配置予定位置43と一致するとは、完全に一致させる必要はない。例えば、配置予定位置43と実際に補強板25が配置される位置44との間に、若干のずれが許容される場合は、接線46と配置予定位置43との間に、若干のずれを有していてもよい。
【0060】
接線46が配置予定位置43と一致するように肉盛ビード20を形成する具体的な方法としては、図10Dに示すように、肉盛ビード形成工程において、補強板25の配置予定位置43よりも、パイプ10の開口端11と反対の方向に離隔した位置を開始部48に設定し、肉盛ビード20の形成を開始する方法が挙げられる。その後、溶接トーチをパイプ10の内壁面12における周方向に移動させつつ、補強板25の配置予定位置43に接近させることが好ましい。ただし、溶接トーチの先端を配置予定位置に一致させて、これを周方向に移動させると、得られる肉盛ビード20における開口端11側の接線は、配置予定位置43と一致しないため、溶接トーチの位置は適切に調整することが好ましい。
【0061】
また、肉盛ビード20の形成の終了時は、一般的に、溶接ワイヤや溶接棒の供給が停止し、一方、溶融池は、表面張力によって進行方向の逆側に引っ張られる力が作用する。したがって、図11A及び図11Bに示すように、終了部41の体積が少なくなって細いビード形状になることが多い。このような形状を呈する場合、補強板25の位置決めに悪影響はないが、溶接機の機種に依存する不可避的制御、又は溶接条件の設定次第では、溶接材料の供給が停止してもなおアーク発生をすぐに停止させることができず、長大なアークとなることがある。アークはマクロ的には略円錐状の形状のため、パイプ10の内壁面12では、アークの範囲が広がることになる。この場合に、終了部41における溶融池の体積は少ないが、広がった形状となり、開始部40ほどではないが、上面視において膨らんだ形状になることがある。
【0062】
このような場合も、補強板25を配置する位置が不安定になる原因となるため、溶接トーチをパイプ10の内壁面12における周方向に移動させつつ、肉盛ビードを形成した後に、溶接トーチの位置を開口端11から離隔させるように移動させて終了することが好ましい。具体的には、補強板25の配置予定位置43よりも、パイプ10の開口端11と反対の方向に離隔した位置を終了部49に設定して、肉盛ビード20の形成を終了することが好ましい。これにより、終了部49が膨らんだ形状であっても、補強板25を配置する位置に影響を与えることなく、所望の位置に補強板25を配置することができる。
【0063】
上記のような好ましい形成方法で肉盛ビード20を形成すると、得られる肉盛ビード20の開始部(始端部)48及び終了部(終端部)49は、補強板25が配置されている位置から、パイプ10の開口端11側と反対側の方向に離隔した形状となる。なお、種々の条件によっては、開始部48及び終端部49の一方のみが、配置予定位置43に影響を与えることがあるため、開始部48及び終端部49のうち、配置予定位置43に影響を与える端部が、補強板25の位置から離隔するような形状であればよい。
【0064】
以上、本発明の第1~第3実施形態、及び肉盛ビードの好ましい形成方法について詳細に説明した。
【0065】
なお、上記の説明では、パイプ10として断面角形の角パイプ、断面円形の円形パイプについて説明したが、角パイプや円形パイプに限定されず、任意の断面形状を有するパイプに適用できる。例えば、図12に示すように、円形パイプ10Aや角パイプ10B以外にも、六角パイプ10Cであってもよい。
【0066】
また、図13に示すように、リブ10aを有する六角形のアルミ押出材10D、プレス成形によりリブ付きU字型に形成された2枚のプレス品のリブ10c同士を溶接して六角形としたリブ付き六角パイプ10E、円形パイプをハイドロフォーム法やつぶし加工法などで成形してリブ10eを設けたリブ付六角パイプ10Fであってもよい。
【0067】
さらに、図14に示すように、プレスにより形成された、いわゆるハット型部材と平板とが溶接された非対称形状のパイプ10G、複数の穴を有するアルミ押出材などのパイプ10H、2枚のハット型部材の間に平板を挟んで溶接したリブ付き六角パイプ10Iにも適用可能である。
【0068】
いずれのパイプ10A~10Iにおいても、適用される補強板25は、各パイプ10A~10Iの穴より僅かに小さい相似形状であり、それぞれのパイプ10A~10Iと同材質の板が用いられるのが好ましい。
【0069】
このような金属製のパイプ10の内部に竹の節状の補強板25が複数設けられた構造体としては、例えば、図15に示すように、自動車ボディの骨格部材の一つである、ロッカーあるいはサイドシル15と呼ばれる部材に好適に適用可能である。このように、ロッカーあるいはサイドシル15の内部に、複数の補強板25を適宜の間隔で配置して溶接することで、高剛性でありながら軽量化することができる。これにより、一般的に相反する性質である、車重の軽量化による燃費向上と、側面衝突時の乗員保護を両立させることができる。さらに、上記構造体は建築用の骨格部材にも同様に適用することができ、高強度でありながら軽量化された骨格部材とすることができ、作業性向上に寄与する。
【0070】
なお本発明は、前述した各実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。例えば、上記実施形態では、パイプの内壁面と補強板を溶接して補強パイプとする場合について説明したが、溶接に替え、ろう材を用いて接合するブレージングであってもよい。
【0071】
以上のとおり、本明細書には次の事項が開示されている。
【0072】
(1) 金属製からなるパイプの内部において、前記パイプと同種素材からなる少なくとも1枚の補強板が、前記パイプの長手方向に対して交差する位置で溶接される補強パイプの製造方法であって、
溶接トーチを前記パイプの開口端から前記パイプの内部に挿入し、前記パイプの内壁面における周方向の少なくとも一部を、ろう材を用いたブレージング又は溶接材料を用いた溶接により肉盛ビードを形成する肉盛ビード形成工程と、
前記溶接トーチを前記パイプから取り除いた後、前記補強板を前記パイプの内部に挿入し、前記補強板を前記肉盛ビードに接するように配置する補強板配置工程と、
前記補強板の縁部分と前記パイプの内壁面との少なくとも一部をすみ肉溶接する補強板溶接工程と、
を備える、補強パイプの製造方法。
この構成によれば、高剛性でありかつ軽量の補強パイプを、作業効率よく製造することができる。
【0073】
(2) 前記補強板溶接工程は、前記肉盛ビード形成工程で用いた前記溶接トーチを再び前記パイプの開口端から前記パイプの内部に挿入して行う(1)に記載の補強パイプの製造方法。
この構成によれば、肉盛ビード形成工程で用いた溶接トーチを再び補強板溶接工程で用いることにより、シンプルで合理的な補強パイプの製造方法を提供できる。
【0074】
(3) 前記肉盛ビードを前記パイプの長手方向に対して傾斜させて形成する(1)又は
(2)に記載の補強パイプの製造方法。
この構成によれば、高剛性でありかつ軽量の補強パイプを、作業効率よく製造することができる。
【0075】
(4) 前記肉盛ビード形成工程、前記補強板配置工程及び前記補強板溶接工程を、前記補強板の枚数に応じて繰り返し行う、(1)~(3)のいずれか1つに記載の補強パイプの製造方法。
この構成によれば、パイプの内部に複数の補強板を溶接することができ、複数の補強板で強化された補強パイプを作業効率よく製造することができる。
【0076】
(5) 前記補強板配置工程において、前記補強板溶接工程で前に溶接された補強板又は前記補強板溶接工程で前に形成された溶接金属に接するように次の補強板を配置する、(4)に記載の補強パイプの製造方法。
この構成によれば、次の補強板を配置するための肉盛ビードを省略することができ、補強パイプをより作業効率よく製造することができる。
【0077】
(6) 前記補強板の縁部分が面取りされており、前記補強板溶接工程において前記補強板と前記パイプの内壁面との間に形成されたレ型開先を溶接する、(1)~(5)のいずれか1つに記載の補強パイプの製造方法。
この構成によれば、板厚が大きな補強板であっても、溶け込みを増加させてパイプの内壁面に補強板を強固に溶接できる。
【0078】
(7) 前記パイプの全周に亘って前記肉盛ビードを形成する(1)~(6)のいずれか1つに記載の補強パイプの製造方法。
この構成によれば、パイプの全周に亘って形成された肉盛ビードが受けとなって溶落ちを防止できる。
【0079】
(8) 前記肉盛ビード形成工程、前記補強板配置工程及び前記補強板溶接工程は、前記パイプが、前記開口端を鉛直上方に向けて配置された状態で行われる、(1)~(7)のいずれか1つに記載の補強パイプの製造方法。
この構成によれば、特に作業効率よく、パイプの内壁面に複数の補強板を溶接できる。
【0080】
(9) 前記パイプは、前記長手方向と直交する断面形状が、円形、楕円形、多角形のいずれかの閉断面である、(1)~(8)のいずれか1つに記載の補強パイプの製造方法。
この構成によれば、任意の閉断面形状のパイプの内壁面に補強板が溶接された補強パイプを製造できる。
【0081】
(10) 前記肉盛ビード形成工程において、前記肉盛ビードにおける前記補強板との接線が、前記補強板を配置する予定の位置に一致するように前記肉盛ビードを形成する、(1)~(9)のいずれか1つに記載の補強パイプの製造方法。
この構成によれば、補強板の位置決め精度を向上させることができる。
【0082】
(11) 前記肉盛ビード形成工程において、前記補強板を配置する予定の位置よりも、前記パイプの開口端と反対の方向に離隔した位置から前記肉盛ビードの形成を開始し、前記溶接トーチを前記パイプの内壁面における周方向に移動させつつ、前記補強板を配置する位置に接近させる、(10)に記載の補強パイプの製造方法。
この構成によれば、容易な方法で、補強板の位置決め精度を向上させることができる。
【0083】
(12) 前記肉盛ビード形成工程において、前記溶接トーチを前記パイプの内壁面における周方向に移動させつつ前記肉盛ビードを形成した後、前記補強板を配置する予定の位置よりも、前記パイプの開口端と反対の方向に離隔した位置で前記肉盛ビードの形成を終了する、(10)又は(11)に記載の補強パイプの製造方法。
この構成によれば、容易な方法で、補強板の位置決め精度をより一層向上させることができる。
【0084】
(13) 金属製からなるパイプの内部において、前記パイプと同種素材からなる少なくとも1枚の補強板が、前記パイプの長手方向に対して交差する位置で溶接される補強パイプであって、
前記パイプの内壁面には、前記補強板に対して溶接金属が形成される側と反対側における前記補強板と隣接する位置において、前記パイプの内壁面における周方向の少なくとも一部に肉盛ビードが形成されている、補強パイプ。
この構成によれば、補強板が安定して位置決めされるので、高剛性でありかつ軽量の補強パイプが得られる。
【0085】
(14) 前記肉盛ビードは前記パイプの全周に亘って形成されている(13)に記載の補強パイプ。
この構成によれば、パイプの全周に亘って形成された肉盛ビードが受けとなって溶落ちを防止できる。
【0086】
(15) 前記肉盛ビードは、始端部及び終端部を有し、前記始端部及び前記終端部の少なくとも一方は、前記補強板が配置されている位置から、前記パイプの前記開口端側と反対側の方向に離隔している、(13)又は(14)に記載の補強パイプ。
この構成によれば、所望の位置に補強板を有する補強パイプを得ることができる。
【0087】
(16) 自動車用又は建築用の骨格部材に用いられる、(13)~(15)のいずれか1つに記載の補強パイプ。
この構成によれば、自動車用又は建築用の骨格部材の強度を、補強板によって強化することができる。
【符号の説明】
【0088】
10 パイプ
11 開口端
12 内壁面
20 肉盛ビード
15 サイドシル(自動車用の骨格部材)
21 溶接金属
25 補強板
26 補強板の縁部分
30 溶接トーチ
35 押付け装置
40 開始部
41 終了部
100、100A、100B 補強パイプ
図1A
図1B
図2
図3
図4A
図4B
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9A
図9B
図10A
図10B
図10C
図10D
図11A
図11B
図11C
図12
図13
図14
図15
図16
図17A
図17B
図18