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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】検出装置および検出方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20240918BHJP
   G01N 33/543 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
G01N21/64 G
G01N21/64 F
G01N33/543 595
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021532689
(86)(22)【出願日】2020-05-01
(86)【国際出願番号】 JP2020018447
(87)【国際公開番号】W WO2021009995
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2022-12-15
(31)【優先権主張番号】P 2019130432
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000206956
【氏名又は名称】大塚製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100111039
【弁理士】
【氏名又は名称】前堀 義之
(72)【発明者】
【氏名】長井 史生
【審査官】田中 洋介
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/152198(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/182747(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/021238(WO,A1)
【文献】特開2018-009802(JP,A)
【文献】特開2015-059803(JP,A)
【文献】国際公開第2015/064704(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/082089(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/064754(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0191125(US,A1)
【文献】国際公開第2012/042805(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/00-21/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面プラズモン共鳴に基づく増強電場を利用して被検出物質の存在またはその量を検出する検出装置であって、
入射面および成膜面を有するプリズムと、前記成膜面上に配置された金属膜と、前記金属膜上に固定された被検出物質を捕捉するための捕捉体とを有する検出チップを保持するためのチップホルダーと、
前記チップホルダーに保持された前記検出チップの前記金属膜に前記プリズムを介して励起光を照射するための光源と、
前記チップホルダーに保持された前記検出チップの前記金属膜と対向するように配置され、前記光源が前記金属膜に励起光を照射したときに、前記金属膜および前記金属膜上の領域から放出された光を検出するための検出部と、
前記金属膜および前記金属膜上の領域における前記検出部の検出範囲を制御するための検出範囲制御部と、
を有し、
前記検出範囲制御部は、前記検出部が増強角を決定するときに前記金属膜および前記金属膜上の領域における前記励起光の照射位置から放出されるプラズモン散乱光を検出するときの第1の検出範囲と、前記検出部が前記捕捉体に捕捉された前記被検出物質を標識する蛍光物質から放出される蛍光を検出するときの第2の検出範囲とが異なるように、前記検出部の検出範囲を制御する、
検出装置。
【請求項2】
前記第1の検出範囲が前記励起光由来の迷光が生じる迷光発生スポットを含まず、
前記第2の検出範囲が前記励起光由来の迷光が生じる迷光発生スポットを含む、
請求項1に記載の検出装置。
【請求項3】
前記検出範囲制御部は、前記チップホルダーに保持された前記検出チップに対する前記検出部の検出範囲の位置を相対的に移動させる、
請求項1又は2に記載の検出装置。
【請求項4】
前記検出範囲制御部は、前記チップホルダーに保持された前記検出チップを移動させることで前記検出部の検出範囲を移動させる、
請求項3に記載の検出装置。
【請求項5】
前記検出範囲制御部は、前記検出部を移動させることで前記検出部の検出範囲を移動させる、
請求項3に記載の検出装置。
【請求項6】
前記第1の検出範囲は、前記第2の検出範囲よりも、前記光源から離れている、
請求項3~5のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項7】
前記検出部が前記プラズモン散乱光を検出するときの前記金属膜上の前記励起光の前記照射位置は、前記検出部が前記蛍光を検出するときの前記金属膜上の前記励起光の前記照射位置よりも、前記光源から離れている、
請求項6に記載の検出装置。
【請求項8】
前記検出範囲制御部は、前記検出部の検出範囲のサイズを変える、
請求項1又は2に記載の検出装置。
【請求項9】
前記第1の検出範囲は、前記第2の検出範囲よりも小さい、
請求項8に記載の検出装置。
【請求項10】
前記検出チップは、前記成膜面または前記金属膜上に配置された、前記金属膜上に液体を収容するための収容部を規定するための壁部と、前記成膜面または前記金属膜と前記壁部とを接着する接着層とを有する、
請求項1~9のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項11】
前記壁部は、互いに対向する第1側壁および第2側壁を少なくとも含み、
前記第2側壁は、前記第1側壁よりも前記光源から離れており、
前記第1の検出範囲内に、前記第1側壁の前記収容部側の端部が入らない、
請求項10に記載の検出装置。
【請求項12】
前記第1の検出範囲内に、前記第2側壁の前記収容部と反対側の端部が入らない、
請求項11に記載の検出装置。
【請求項13】
前記チップホルダーに保持された前記検出チップの形状情報を取得する形状情報取得部をさらに有し、
前記検出範囲制御部は、前記形状情報取得部で取得した前記検出チップの形状情報を基に、前記第1の検出範囲を決定する、
請求項1~12のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項14】
前記チップホルダーに保持された前記検出チップの位置情報を検出する位置情報検出部をさらに有し、
前記検出範囲制御部は、前記位置情報検出部で取得した検出チップ位置情報を基に、前記第1の検出範囲を決定する、
請求項1~12のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項15】
前記検出チップは、前記成膜面または前記金属膜上に配置された、前記金属膜上に液体を収容するための収容部を規定するための壁部と、前記成膜面または前記金属膜と前記壁部とを接着する接着層とを有し、
前記壁部は、互いに対向する第1側壁および第2側壁を少なくとも含み、
前記第2側壁は、前記第1側壁よりも前記光源から離れており、
前記検出チップの位置情報は、前記第1側壁および前記第2側壁の少なくとも一方の位置情報を含む、
請求項14に記載の検出装置。
【請求項16】
前記検出チップは、前記成膜面または前記金属膜上に配置された、前記金属膜上に液体を収容するための収容部を規定するための壁部と、前記成膜面または前記金属膜と前記壁部とを接着する接着層とを有し、
前記壁部は、互いに対向する第1側壁および第2側壁を少なくとも含み、
前記第2側壁は、前記第1側壁よりも前記光源から離れており、
前記第1側壁と前記第2側壁との対向方向について、前記第1側壁と前記第2側壁との間隔(W)に対する前記金属膜上の前記励起光の照射スポットの長さ(S)の比(S/W)は、0.1を超えかつ0.5未満である、
請求項11~15のいずれか一項に記載の検出装置。
【請求項17】
表面プラズモン共鳴に基づく増強電場を利用して被検出物質の存在またはその量を検出する検出方法であって、
入射面および成膜面を有するプリズムと、前記成膜面上に配置された金属膜と、前記金属膜上に固定された被検出物質を捕捉するための捕捉体とを有する検出チップを準備する工程と、
増強角を決定するために前記金属膜に前記プリズムを介して励起光を照射して、前記金属膜および前記金属膜上の領域における前記励起光の照射位置から放出されるプラズモン散乱光を検出する工程と、
前記金属膜に前記プリズムを介して励起光を照射するとともに、前記捕捉体に捕捉された前記被検出物質を標識する蛍光物質から放出される蛍光を検出する工程と、
を有し、
前記プラズモン散乱光を検出するときの前記プラズモン散乱光の第1の検出範囲と、前記蛍光を検出するときの前記蛍光の第2の検出範囲とが異なる、
検出方法。
【請求項18】
前記第1の検出範囲が前記励起光由来の迷光が生じる迷光発生スポットを含まず、
前記第2の検出範囲が前記励起光由来の迷光が生じる迷光発生スポットを含む、
請求項17に記載の検出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面プラズモン共鳴(Surface Plasmon Resonance:SPR)に基づく増強電場を利用して、被検出物質の存在またはその量を検出する検出装置および検出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
タンパク質やDNAなどの生体物質を検出する測定において、微量の被検出物質を高感度かつ定量的に検出できれば、即時に患者の状態を把握し治療を行うことが可能となる。このため、微量の被検出物質に起因する微弱な光を、高感度かつ定量的に検出する検出方法および検出装置が求められている。被検出物質を高感度で検出する1つの方法としては、表面プラズモン共鳴蛍光分析法(表面プラズモン励起増強蛍光分光法(Surface Plasmon-field enhanced Fluorescent Spectroscopy:SPFS)が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
SPFSでは、例えば、金属膜が所定の面上に配置されたプリズムを用いる。そして、プリズムを介して、表面プラズモン共鳴が生じる角度で励起光照射部から励起光を金属膜に照射すると、金属膜表面上に局在場光(増強された電場)を発生させることができる。この局在場光により、金属膜上に捕捉された被検出物質を標識する蛍光物質が励起されるため、蛍光物質から放出された蛍光を検出することで、被検出物質の存在またはその量を検出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2017/082089号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
SPFSでは、プラズモン共鳴を効率良く励起させるために略平行光の励起光αを、金属膜上の被検物質を補足する領域(反応場)に対応する領域に照射する。また、検出チップのコスト低減や、反応効率の向上、検体量を少なくして被検者の負担を減らすために、反応場は限られた領域に設定されており、そのため、励起光αは、ピンホールやスリットを用いて細くビーム成形(ビームサイズを小さく)した上で反応場に対応する領域に照射される。しかし、図1に示すように、励起光αを細くすることでピンホールやスリットを通過したビームに回折光20が発生してしまい、金属膜の励起光αを照射しようとする領域の周辺領域に回折光20が照射される。
【0006】
図2に示すように、回折光20が検出チップ200の金属膜31の周辺の構造物、例えばプリズム210と壁部34とを接着する接着層35に到達すると、回折光20が接着層35を介して導光され、散乱することで迷光21が発生する。
【0007】
また、SPFSでは、プラズモン共鳴に基づいた増強電場を発生させるために金属膜31に所定の角度で励起光αを入射させる必要がある。金属膜31に対する励起光αを所定の入射角に調整するために、プリズム210を介して金属膜31に励起光αを照射したときに、金属膜31中の表面プラズモン共鳴に起因して生じる励起光αと同じ波長のプラズモン散乱光βを検出することがある。このとき、前述の迷光21が検出部の検出範囲40に入ると、図2に示されるように、励起光αの照射スポット42に対応する領域から放出されたプラズモン散乱光β以外に、迷光発生スポット41から放出された迷光21も検出されてしまう。このようにプラズモン散乱光βだけでなく迷光21も検出してしまうと、励起光αの入射角を最適な角度(例えば、増強角)に適切に調整することが困難となる。
【0008】
図3Aは、励起光αの照射スポット42に対応する領域から放出されたプラズモン散乱光βのみを検出した場合の、励起光αの入射角度と検出部の受光光量との関係を示すグラフであり、図3Bは、前記プラズモン散乱光βに加えて迷光発生スポット41から放出された迷光21も検出した場合の、励起光αの入射角度と検出部の受光光量との関係を示すグラフである。励起光αの入射角度を走査することで金属膜31に照射される回折光20の照射位置が変わることによって不規則な迷光21が検出部で検出される。そのため、図3Aおよび図3Bから明らかなように、プラズモン散乱光βおよび迷光21を検出した場合では、受光光量にノイズが発生しピーク検出が困難になることがある。したがって、迷光も検出した場合は、プラズモン散乱光βを精度よく検出することができず、励起光αの入射角度(例えば、増強角)を精度よく決定することができない。
【0009】
ここで検出部が迷光を検出しないようにするために、検出部の検出範囲40に対して迷光が発生する原因となる構造物(例えば、接着層35)を十分に離すこと、例えば、検出チップを大きくすることが考えられる。しかし、この場合、検出チップが大きくなることでコストが増大したり、検体量を増加させる必要があり被験者の負担が大きくなったり、流路幅が広くなることで反応場の反応効率が低下してしまったりする。また、検出部がプリズム210から発生する自家蛍光を多く受光してしまい測定性能が低下してしまうことがある。このため、検出部の検出範囲40から構造物を大きく離すことは容易にできない。
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、表面プラズモン共鳴に基づく増強電場を利用して被検出物質の存在またはその量を検出する検出装置および検出方法において、検出チップのコストを増大させず、被検出物質の測定性能を低下させることなく、検出部が励起光由来の迷光を検出しないようにしてプラズモン散乱光βを精度よく検出し、励起光の入射角度を精度よく決定することができる検出装置および検出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施形態に係る検出装置は、表面プラズモン共鳴に基づく増強電場を利用して被検出物質の存在またはその量を検出する検出装置であって、入射面および成膜面を有するプリズムと、前記成膜面上に配置された金属膜と、前記金属膜上に固定された被検出物質を捕捉するための捕捉体とを有する検出チップを保持するためのチップホルダーと、前記チップホルダーに保持された前記検出チップの前記金属膜に前記プリズムを介して励起光を照射するための光源と、前記チップホルダーに保持された前記検出チップの前記金属膜と対向するように配置され、前記光源が前記金属膜に励起光を照射したときに、前記金属膜および前記金属膜上の領域から放出された光を検出するための検出部と、前記金属膜および前記金属膜上の領域における前記検出部の検出範囲を制御するための検出範囲制御部と、を有し、前記検出範囲制御部は、前記検出部が前記金属膜および前記金属膜上の領域から放出されるプラズモン散乱光βを検出するときの検出範囲と、前記検出部が前記捕捉体に捕捉された前記被検出物質を標識する蛍光物質から放出される蛍光を検出するときの検出範囲とが異なるように、前記検出部の検出範囲を制御する。
【0012】
本発明の実施形態に係る検出方法は、表面プラズモン共鳴に基づく増強電場を利用して被検出物質の存在またはその量を検出する検出方法であって、入射面および成膜面を有するプリズムと、前記成膜面上に配置された金属膜と、前記金属膜上に固定された被検出物質を捕捉するための捕捉体とを有する検出チップを準備する工程と、前記金属膜に前記プリズムを介して励起光を照射するとともに、前記金属膜および前記金属膜上の領域から放出されるプラズモン散乱光βを検出する工程と、前記金属膜に前記プリズムを介して励起光を照射するとともに、前記捕捉体に捕捉された前記被検出物質を標識する蛍光物質から放出される蛍光を検出する工程と、を有し、前記プラズモン散乱光βを検出するときの前記プラズモン散乱光βの検出範囲と、前記蛍光を検出するときの前記蛍光の検出範囲とが異なる。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、表面プラズモン共鳴に基づく増強電場を利用して被検出物質の存在またはその量を検出する検出装置および検出方法において、検出部が励起光由来の迷光を検出しないようにしてプラズモン散乱光βを精度よく検出し、励起光の入射角度を精度よく決定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、励起光をスリットに通したときに回折光が発生する様子を示す模式図である。
図2図2は、回折光が迷光になる様子を示す模式図である。
図3図3Aは、プラズモン散乱光のみを検出した場合の励起光の入射角度と検出部の受光光量との関係を示すグラフである。図3Bは、プラズモン散乱光および迷光を検出した場合の励起光の入射角度と検出部の受光光量との関係を示すグラフである。
図4図4は、本発明の第1の実施形態に係る検出装置を示す模式図である。
図5図5は、本発明の一実施の形態に係る検出方法を示すフローチャートである。
図6図6Aは、検出装置において励起光の入射角を決定するときの検出部の受光範囲および光源の位置を示す模式図である。図6Bは、検出装置において被検出物質を検出するときの検出部の受光範囲および光源の位置を示す模式図である。
図7図7は、検出チップを移動させた場合と、検出部を移動させた場合とにおける、励起光の照射スポットに対する検出部の検出範囲の相対的な移動距離を示すグラフである。
図8図8は、本発明の第2の実施形態に係る検出装置を示す模式図である。
図9図9Aは、第2の実施形態に係る検出装置において励起光の入射角を決定するときの検出部の受光範囲および光源の位置を示す模式図である。図9Bは、第2の実施形態に係る検出装置において被検出物質を検出するときの検出部の受光範囲および光源の位置を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0016】
[第1の実施形態]
(検出装置の構成)
図4は、本発明の第1の実施形態に係る検出装置100を示す図である。
【0017】
検出装置100は、検出チップ200に励起光αを照射するための光源120と、第1レンズ141と、第2レンズ142と、励起光カットフィルター143と、検出チップ200から放出された光(プラズモン散乱光βまたは蛍光γ)を検出するための検出部140と、チップホルダー144と、チップホルダー移動手段145と、制御部160とを有する。検出装置100は、検出チップ200とともに使用される。そこで、検出チップ200について先に説明し、その後に検出装置100の各構成要素について説明する。
【0018】
図4に示されるように、検出チップ200は、入射面211、成膜面213および出射面212を有するプリズム210と、プリズム210の成膜面213上に配置された金属膜31と、金属膜31上に配置された流路蓋220とを有する。
【0019】
プリズム210は、励起光αに対して透明な部材からなる。プリズム210は、入射面211、金属膜31が形成される成膜面213および出射面212を有する。入射面211は、光源120からの励起光αをプリズム210の内部に入射させる。成膜面213の上には、金属膜31が形成される。プリズム210の内部に入射した励起光αは、金属膜31で反射する。より具体的には、プリズム210と金属膜31との界面(成膜面213)で反射する。出射面212は、金属膜31で反射した励起光αをプリズム210の外部に出射させる。プリズム210の形状は、特に限定されない。本実施の形態では、プリズム210の形状は、台形を底面とする柱体である。台形の一方の底辺に対応する面が成膜面213であり、一方の脚に対応する面が入射面211であり、他方の脚に対応する面が出射面212である。底面となる台形は、略等脚台形であることが好ましい。これにより、入射面211と出射面212とが略対称になり、励起光αのS偏光成分がプリズム210内で全反射することで滞留しにくくなる。なお、励起光のP偏光成分のみがプラズモン共鳴に寄与するためS偏光成分は金属膜31で反射することになる。また、入射面211は、励起光αが光源120に戻らないように形成される。励起光αが、たとえば、レーザーダイオードである光源120に戻ると、レーザーダイオードの励起状態が乱れてしまい、励起光αの波長や出力が変動してしまうからである。そこで、理想的な増強角を中心とする走査範囲において、励起光αが入射面211に垂直に入射しないように、入射面211の角度が設定される。たとえば、入射面211と成膜面213との角度および成膜面213と出射面212との角度は、いずれも約80°である。プリズム210の材料の例には、樹脂およびガラスが含まれる。プリズム210の材料は、好ましくは、屈折率が1.4~1.6であり、かつ複屈折が小さい樹脂である。
【0020】
金属膜31は、プリズム210の成膜面213上に形成されている。金属膜31を設けることで、成膜面213に全反射条件で入射した励起光αの光子と、金属膜31中の自由電子との間で相互作用(表面プラズモン共鳴;SPR)が生じ、金属膜31の表面上に増強電場(局在場光)を生じさせることができる。金属膜31の素材は、表面プラズモン共鳴を生じさせる金属であれば特に限定されない。金属膜31の素材の例には、金、銀、銅、アルミニウム、これらの合金が含まれる。これらの中では、金属膜31を構成する金属は、検体中の物質の非特異的吸着を抑制する観点からは、金であることが好ましい。本実施の形態では、金属膜31を構成する金属は金である。金属膜31の形成方法は、特に限定されない。金属膜31の形成方法の例には、スパッタリング、蒸着、メッキが含まれる。金属膜31の厚みは、特に限定されないが、30~70nmの範囲内が好ましい。
【0021】
また、特に図示しないが、金属膜31のプリズム210と対向しない面には、被検出物質を捕捉するための捕捉体が固定化されている。捕捉体を固定化することで、被検出物質を選択的に検出することが可能となる。本実施の形態では、金属膜31上の所定の領域に、捕捉体が均一に固定化されている。捕捉体の種類は、被検出物質を捕捉することができれば特に限定されない。たとえば、捕捉体は、被検出物質に特異的な抗体またはその断片である。
【0022】
流路蓋220は、金属膜31のプリズム210と対向しない面上に、流路39を挟んで配置されている。本実施の形態では、流路蓋220は壁部34および接着層35を介して成膜面213または金属膜31に接合される。壁部34は金属膜31上に液体を収容するための収容部を規定する。本実施の形態では、収容部は流路39であるが、ウェルであってもよい。本実施の形態において、壁部34は互いに対向する第1側壁341および第2側壁342を少なくとも含み、第2側壁342は第1側壁341よりも光源120から離れている。なお、本実施の形態では、壁部34は遮光機能を有するが、接着層35は遮光機能を有していない。具体的には、流路蓋220は、例えば両面テープまたは接着剤による接着や、レーザー溶着、超音波溶着、クランプ部材を用いた圧着などにより金属膜31またはプリズム210に接合される。
【0023】
金属膜31がプリズム210の成膜面213の一部にのみ形成されている場合は、流路蓋220は、流路39を挟んで成膜面213上に配置されていてもよい。流路蓋220は、金属膜31、壁部34、接着層35と共に、検体や蛍光標識液、洗浄液などの液体が流れる流路39を形成する。捕捉物質は、流路39内に露出している。流路39の両端は、流路蓋220の上面に形成された注入口および排出口(いずれも図示省略)とそれぞれ接続されている。流路39内へ液体が注入されると、流路39内において、これらの液体は捕捉物質に接触する。
【0024】
流路蓋220は、金属膜31のプリズム210と対向しない面およびその近傍から放出された光(プラズモン散乱光βおよび蛍光γ)に対して透明な材料からなる。流路蓋220の材料の例には、樹脂が含まれる。これらの光を検出部140に導くことができれば、流路蓋220の一部は、不透明な材料で形成されていてもよい。
【0025】
図4に示されるように、プリズム210へ導かれた励起光αは、入射面211からプリズム210内に入射する。プリズム210内に入射した励起光αは、プリズム210と金属膜31との界面(成膜面213)に全反射角度(表面プラズモン共鳴が生じる角度)となるように入射する。界面からの反射光は、出射面212からプリズム210外に出射される。一方、表面プラズモン共鳴が生じる角度で励起光αが界面に入射することで、金属膜31およびその近傍からは、プラズモン散乱光βおよび/または蛍光γが、検出部140の方向へ出射される。
【0026】
次に、検出装置100の各構成要素について説明する。前述のとおり、検出装置100は、光源120、第1レンズ141、第2レンズ142、励起光カットフィルター143、検出部140、チップホルダー144、チップホルダー移動手段145および制御部160を有する。
【0027】
光源120は励起光αを出射する。光源120は、制御部160によって位置および向きが調整される。これにより、プリズム210と金属膜31との界面(成膜面213)に対する励起光αの入射角が調整される。励起光αが金属膜31に照射されると、金属膜31のプリズム210と対向しない面およびその近傍からは、励起光αと同一波長のプラズモン散乱光βや蛍光物質から放出された蛍光γなどが上方に放出される。また、励起光αは、プリズム210と金属膜31との界面で反射して、出射面212からプリズム210の外部に出射される。
【0028】
本実施の形態では、光源120は、レーザーダイオード(以下「LD」と略記する)であり、検出チップ200の入射面211に向けて励起光α(シングルモードレーザー光)を出射する。より具体的には、光源120は、検出チップ200のプリズム210と金属膜31との界面(成膜面213)に対して励起光αが全反射角度となるように、界面に対するP波のみを入射面211に向けて出射する。励起光αは略平行光であることが好ましい。
【0029】
なお、光源120の種類は、特に限定されず、LDでなくてもよい。光源120の例には、発光ダイオード、水銀灯、その他のレーザー光源が含まれる。光源120から出射される光がビームでない場合は、光源120から出射される光は、レンズや鏡、ピンホール、スリットなどによりビームに変換されることが好ましい。本実施の形態では、光源120から出射される光は、スリットによりビームサイズが制御される。励起光αのビームサイズは金属膜面上で0.5~2.0mmに制御されることが好ましい。また、光源120から出射される光が単色光でない場合は、光源120から出射される光は、回折格子などにより単色光に変換されることが好ましい。さらに、光源120から出射される光が直線偏光でない場合は、光源120から出射される光は、偏光子などにより直線偏光の光に変換されることが好ましい。
【0030】
第1レンズ141は、金属膜31上から出射されるプラズモン散乱光βまたは蛍光γを検出部140の受光部上に結像させる。第1レンズ141は、例えば、集光レンズであり、金属膜31上から出射される光を集光する。第2レンズ142は、例えば、結像レンズであり、第1レンズ141で集光された光を検出部140の受光部に結像させる。両レンズの間の光路は、略平行な光路になっている。
【0031】
励起光カットフィルター143は、プラズモン散乱光βや励起光α由来の迷光等を遮断する一方で蛍光γを透過させることで、検出部140に蛍光γの波長以外の光が到達することを防ぐ。すなわち、励起光カットフィルター143は、金属膜31上から出射された光からノイズ成分を除去し、検出部140が高いS/N比で蛍光γを検出できるようにする。本実施の形態を示す図4において、励起光カットフィルター143は、第1レンズ141、第2レンズ142の間に配置されているが、励起光カットフィルター143は、増強角を決定するときにはプラズモン散乱光βを検出できるように光路上から外される。
【0032】
検出部140は、検出チップ200の金属膜31のプリズム210と対向しない面に対向するように配置されている。検出部140は、金属膜31上から出射される光(プラズモン散乱光βまたは蛍光γ)を受光する。検出部140の受光部は、例えば撮像素子や光電子倍増菅やフォトダイオードなどにより構成される。第1レンズ141、励起光カットフィルター143、第2レンズ142および検出部140は、金属膜31の表面と対向するように、金属膜31側からこの順番で配置されている。
【0033】
チップホルダー144には検出チップ200が設置される。チップホルダー144は検出チップ200を設置することができるものであれば特に制限されない。チップホルダー144の形状は検出チップ200を設置することが可能であり、励起光αや反射光、蛍光γなどの光路を妨げない形状である。たとえば、チップホルダー144には、これらの光が通過するための開口が設けられている。
【0034】
チップホルダー移動手段145は、チップホルダー144を移動させる。チップホルダー移動手段145は、例えば、チップホルダー144を一方向およびその逆方向に移動させる。チップホルダー移動手段145は、たとえば、モーターなどである。
【0035】
制御部160は、光源120、励起光カットフィルター143、検出部140、チップホルダー移動手段145の制御を一元的に行う。具体的には、制御部160は、光源120の位置および向きを制御し、金属膜31に対する励起光αの入射角を所定の角度に設定する。また、制御部160は、増強角を決定するときには、励起光カットフィルター143を光路上から除去し、プラズモン散乱光βが検出部140に到達するようにする。また、制御部160は、蛍光γを受光するときには、励起光カットフィルター143を光路上に配置し、励起光αと同一波長の光(プラズモン散乱光βや励起光α由来の迷光等)が検出部140に到達しないようにする。また、制御部(検出範囲制御部)160は、チップホルダー移動手段145を制御し、チップホルダー144を移動させて、検出部140の検出範囲を変更する。制御部160は、たとえば、ソフトウェアを実行するコンピュータである。
【0036】
検出装置100は、検出チップ200の形状情報を取得する形状情報取得部146を有していてもよい。制御部(検出範囲制御部)160は、形状情報取得部146で取得した検出チップ200の形状情報を基に検出部140がプラズモン散乱光βを検出するときの検出範囲40を決定することができる。
【0037】
上記の検出チップの形状情報とは、たとえば、プリズム210と第1側壁341の位置関係を示した情報である。たとえば、検出チップ200の製造時に、この位置関係を検出チップ200付帯のバーコードなどにいれておくことができる。形状情報取得部146は、たとえばバーコードリーダーであり、バーコードを読み取ることで、形状情報を取得することができる。取得した形状情報を基に、制御部(検出範囲制御部)160は、検出部140の検出範囲40を決定することができる。これにより、検出チップ200の製造のバラつきに影響なく、迷光を除去でき、増強角を正確に測定できる。
【0038】
検出装置100は、検出チップ200の位置情報を検出する位置情報検出部147を有していてもよい。検出チップ200の位置情報とは、検出チップ200の第1側壁341および第2側壁342の少なくとも一方の位置を含む情報であってもよい。位置情報検出部147は、例えばカメラであり、当該カメラにより第1側壁341および第2側壁342の少なくとも一方の位置情報を取得することができる。取得した検出チップの位置情報を基に、制御部(検出範囲制御部)160は、迷光除去に必要な検出部140の検出範囲40を決定することができる。
【0039】
(検出装置の動作)
図5は、検出装置100を用いた、本発明の一実施の形態に係る検出方法を示すフローチャートである。
【0040】
まず、測定の準備をする。具体的には、検出装置100のチップホルダー144に検出チップ200を設置する(工程S10)。また、検出チップ200の流路39内に保湿剤が存在する場合は、捕捉物質が適切に被検出物質を捕捉できるように、流路39内を洗浄して保湿剤を除去する。
【0041】
次いで、プラズモン散乱光βの検出を行う(工程S20)。具体的には、励起光αが金属膜31(成膜面213)の所定の位置に照射できるように、検出チップ200を設置した位置からチップホルダー144を移動させる。励起光αを金属膜31(成膜面213)の所定の位置に照射しながら、金属膜31(成膜面213)に対する励起光αの入射角を走査して、プラズモン散乱光βを検出部140で検出し、プラズモン共鳴に基づく増強電場を発生させるために最適な励起光αの入射角(増強角)を決定する(工程S30)。これは、制御部160が、光源120を制御して、励起光αを金属膜31(成膜面213)の所定の位置に照射しながら、金属膜31(成膜面213)に対する励起光αの入射角を走査することで行われる。このとき、後述する図6Aに示されるように、制御部160は、検出部140の検出範囲40内に、第1側壁341の収容部側の端部が入らないようにチップホルダー144を移動させる。検出範囲40内に第1側壁341の収容部側の端部が入る場合は、制御部160はチップホルダー移動手段145を制御して第1側壁341の端部が検出範囲40内に入らないようにチップホルダー144を移動させる。また、制御部160は、励起光カットフィルター143を光路上に存在しないように制御し、検出部140が金属膜31上(金属膜31表面およびその近傍)からのプラズモン散乱光βを検出するように、検出部140を制御する。金属膜31上(金属膜31表面およびその近傍)からのプラズモン散乱光βは、第1レンズ141および第2レンズ142を介して検出部140に到達する。
【0042】
図6Aは、最適な励起光αの入射角度(増強角)を決定するときの検出部140の検出範囲40および光源120の位置を示す模式図である。この図では、検出チップ200および光源120を検出部140側から見たときの様子を示している。図6Aおよび図2に示されているように、励起光α由来の迷光は、光源120側にある第1側壁341に位置する接着層35を介して、励起光αが励起光αの進行方向側に向かって導光され、接着層35の端部から流路39内に入り込む。すなわち、迷光発生スポット41は、第1側壁341の収容部側の端部で生じやすく大きな迷光が発生する。しかしながら、本実施の形態では、プラズモン散乱光の検出をする際に、検出部140の検出範囲40内に第1側壁341の収容部側の端部が入らないように、かつ検出部140の検出範囲40内に励起光αの照射スポット42に対応する領域が入るように検出チップ200(チップホルダー144)を移動させるため、検出範囲40に迷光発生スポット41は入っていないが、励起光αの照射スポット42は検出範囲40内に入っている。このため、制御部160は、励起光α由来の迷光の影響を防ぎつつ、励起光αの入射角とプラズモン散乱光βの強度との関係の正確なデータを得ることができる。
【0043】
また、図2に示すように、迷光発生スポット41は、第2側壁342の収容部と反対側の端部にも発生することがあるため、当該端部が、検出範囲40に入らないことがさらに好ましい。
【0044】
なお、第1側壁341と第2側壁342との対向方向について、第1側壁341と第2側壁342との間隔(W)に対する金属膜31上の励起光の照射スポットの長さ(S)の比(S/W)は、0.1を超えかつ0.5未満であることが好ましく、0.2を超えかつ0.4未満であることがさらに好ましい。
【0045】
上記の様に比(S/W)が0.1を超えることで、励起光αの照射スポット42のサイズが適切な大きさとなって、被検出物質の量に起因する蛍光の光量が十分な量となるため、被検出物質の検出精度が良好となる。より具体的には、流路内の反応場(捕捉体が固定化されている領域)に被検出物質が捕捉されるが、反応場に対して励起光αの照射スポット42のサイズが適切であると、捕捉されている被検出物質を標識する蛍光物質を適切に励起することができ、検出精度を確保するのに十分な蛍光光量を得ることが可能となる。
【0046】
上記の様に比(S/W)が0.5未満であることで励起光の照射スポットと迷光の発生箇所とを十分に離すことができ、迷光の発生箇所を検出範囲40から除外するための操作が容易になる。
【0047】
そして、制御部160は、データを解析して、プラズモン散乱光βの強度が最大となる励起光の入射角(増強角)を決定する。なお、増強角は、基本的には、プリズム210の素材および形状、金属膜31の厚み、流路39内の液体の屈折率などにより決まるが、流路39内の物質の種類および量、プリズム210の形状誤差などの各種要因によりわずかに変動する。このため、検出を行うたびに増強角を決定することが好ましい。増強角は、0.1°程度のオーダーで決定される。
【0048】
次いで、チップホルダー144を移動させる(工程S40)。具体的には、制御部160がチップホルダー移動手段145を制御してチップホルダー144を移動させて、図6Bのように、検出範囲40の中心付近に励起光αの照射スポット42が位置するようにする。
【0049】
図6Bに示されているように、検出範囲40に第1側壁341の収容部側の端部が入るが、ここで生じる迷光は、励起光αと同じ波長である。後で述べるように、光学ブランク値の測定及び検体シグナルの測定では、励起光カットフィルター143を挿入してシグナルを測定するため、励起光αと同じ波長の迷光21は、検出部140で検出されず測定性能には影響しない。さらに、検出範囲40の中心付近に励起光αの照射スポット42が入るように検出範囲を移動させることによって、検出チップの設置ばらつきなどにより励起光αの照射スポット42と検出範囲40との位置関係がばらついても、励起光αの照射スポット42が検出範囲から外れることなく、金属膜31上の反応場(捕捉体が固定化されている領域)からの蛍光を効率的にかつ再現性よく検出することができ、被検出物質の検出精度(正確性、絶対値の精度)を向上させることができる。
【0050】
ここで図6A図6Bとを比べると、検出部140が散乱光を検出するときの検出部140の検出範囲40は、検出部140が蛍光を検出するときの検出部140の検出範囲40よりも光源120から離れていてもよい。また、検出部140がプラズモン散乱光βを検出するときの金属膜31上の励起光αの照射スポット42(励起光の照射位置)は、検出部140が蛍光を検出するときの金属膜31上の励起光αの照射スポット42(励起光の照射位置)(図6B参照)よりも光源120から離れていてもよい。
【0051】
なお、工程S20およびS40では、チップホルダー144を移動させることで検出チップ200に対する検出部140の検出範囲40との位置を相対的に移動させたが、検出部140を移動させることで検出チップ200に対する検出部140の検出範囲40との位置を相対的に移動させてもよい。
【0052】
図7は、検出チップ200を移動させた場合と、検出部140を移動させた場合とにおける、励起光αの照射スポットに対する検出部140の検出範囲40の相対的な移動距離を示すグラフである。チップホルダー144(検出チップ200)を移動させずに検出部140を移動させた場合、励起光αの照射スポットの位置は変わらないが、検出部140の検出範囲40の位置は検出部140を移動させた分だけ移動する。したがって、励起光αの照射スポットに対する検出部140の検出範囲40の相対的な移動距離は、検出部140を移動させた距離と同じ分だけ長くなる。一方、検出部140を移動させずにチップホルダー144(検出チップ200)を移動させた場合、検出部140の検出範囲40の位置はチップホルダー144(検出チップ200)を移動させた分だけ移動するが、励起光αの照射スポットの位置も移動する。したがって、励起光αの照射スポットに対する検出部140の検出範囲40の相対的な移動距離は、チップホルダー144(検出チップ200)を移動させた距離よりも短くなる。このように、チップホルダー144(検出チップ200)を移動させた場合の方が、励起光αの照射スポットに対する検出部140の検出範囲40の相対的な位置が変化しにくいため、検出精度の観点からは好ましい。
【0053】
次いで、金属膜31(成膜面213)に対する励起光αの入射角を、工程S30で決定した増強角に設定する(工程S50)。具体的には、制御部160は、光源120を制御して、金属膜31(成膜面213)に対する励起光αの入射角を増強角に設定する。以後の工程では、金属膜31(成膜面213)に対する励起光αの入射角は、増強角のままである。
【0054】
次いで、検体中の被検出物質と捕捉物質とを反応させる(1次反応、工程S60)。具体的には、流路39内に検体を注入して、検体と捕捉物質とを接触させる。検体中に被検出物質が存在する場合は、被検出物質の少なくとも一部は捕捉物質により捕捉される。この後、流路39内を緩衝液などで洗浄して、捕捉物質に捕捉されなかった物質を除去する。検体の種類は、特に限定されない。検体の例には、血液や血清、血漿、尿、鼻孔液、唾液、精液などの体液およびその希釈液が含まれる。
【0055】
次いで、光学ブランク値を測定する(工程S70)。具体的には、制御部160は、光源120を制御して、励起光αを出射させる。同時に、制御部160は、検出部140が蛍光γと同じ波長の光を検出するように、検出部140を制御する。また、このとき、制御部160は、励起光カットフィルター143が光路上に存在するように励起光カットフィルター143を移動させる。これにより、励起光カットフィルター143はプラズモン散乱光βおよび励起光α由来の迷光を透過させないため、蛍光γと同じ波長の光のみが検出部140に検出される。得られた検出値は、光学ブランク値として記録される。
【0056】
次いで、捕捉物質に捕捉された被検出物質を蛍光物質で標識する(2次反応、工程S80)。具体的には、流路39内に蛍光標識液を注入する。蛍光標識液は、例えば、蛍光物質で標識された抗体(2次抗体)を含む緩衝液である。蛍光標識液が流路39に注入されると、蛍光標識液が被検出物質に接触し、被検出物質が蛍光物質で標識される。この後、流路39内を緩衝液などで洗浄し、遊離の蛍光物質などを除去する。
【0057】
次いで、励起光αを金属膜31(成膜面213)に照射して、金属膜31(金属膜31表面およびその近傍)上の蛍光物質から放出される蛍光γを検出する(検体シグナル測定、工程S90)。具体的には、制御部160は、光源120を制御して、励起光αを出射させる。同時に、制御部160は、検出部140が金属膜31(金属膜31およびその近傍)上から放出される蛍光γを検出するように、検出部140を制御する。また、このときも、制御部160は、励起光カットフィルター143が光路上に存在するように励起光カットフィルター143を移動させる。これにより、励起光カットフィルター143はプラズモン散乱光βおよび励起光α由来の迷光を透過させないため、蛍光γのみが検出部140に検出される。
【0058】
次いで、制御部160は、得られた検出値(シグナル値)から工程S70で検出した光学ブランク値を引いて、被検出物質の量に応じた差分シグナル値を算出する。この差分シグナル値から、検体中の被検出物質の有無または量についての情報を得ることができる。
【0059】
なお、検出装置100が形状情報取得部146を有している場合は、工程S10と工程S20との間に、検出チップ200の形状情報を取得する工程を行ってもよい。この場合は、制御部(検出範囲制御部)160は、取得した検出チップ200の形状情報を基に検出部140がプラズモン散乱光βを検出するときの検出部140の検出範囲を決定する。
【0060】
また、検出装置100が位置情報検出部147を有している場合は、工程S10と工程S20との間に、検出チップの位置情報を検出する工程を行ってもよい。この場合は、制御部(検出範囲制御部)160は、取得した検出チップ200の位置情報を基に検出部140がプラズモン散乱光βを検出するときの検出部140の検出範囲を決定する。
【0061】
(効果)
本実施の形態に係る検出装置および検出方法では、増強角を決定するためにプラズモン散乱光βを検出するときの受光範囲と、被検出物質の存在またはその量を検出するために蛍光を検出するときの受光範囲とで受光範囲の位置が異なる。これにより、増強角を決定するためにプラズモン散乱光βを検出するときには励起光(の回折光)に由来する迷光が検出部の受光範囲に入りにくくなり、増強角を正確に決めることができる。また、被検出物質の存在またはその量を検出するときには蛍光を最大量受光することができ、被検出物質の検出精度がよくなる。
【0062】
[第2の実施形態]
(検出装置の構成)
図8は、本発明の第2の実施形態に係る検出装置300を示す図である。第1の実施の形態に係る検出装置100と、第2の実施の形態に係る検出装置300とでは、検出部140の受光範囲40を変化させる手段が異なる。検出装置300について検出装置100と同一の構成については同一の符号を付してその説明を省略する。
【0063】
本実施の形態では、検出装置300は、検出チップ200と検出部140との間に配置された絞り245をさらに有する。絞り245は、検出部140が金属膜31および金属膜31上の領域から放出される光を検出するときの検出範囲40を調節する。具体的には、絞り245は、制御部(検出範囲制御部)160による制御下において、増強角を決定するために検出部140がプラズモン散乱光βを検出するときは検出部140の受光範囲を狭くし、被検出物質の存在またはその量を検出するために検出部140が蛍光を検出するときは検出部140の受光範囲を広くする。本実施の形態では、絞り245は、第2レンズ242と検出部140との間に配置されているが、絞り245の位置は、絞り245が上記機能を発揮できれば特に限定されない。特に、絞り245の面と金属膜31の面は光学的に共役面であることが望ましい。
【0064】
(検出装置の動作)
図9Aは、最適な励起光αの入射角度(増強角)を決定するときの検出部140の検出範囲40および光源120の位置を示す模式図である。この図では、検出チップ200および光源120を検出部140側から見たときの様子を示している。図9Aに示されているように、本実施の形態では、プラズモン散乱光βの検出をする際に、検出部140の検出範囲40内に第1側壁341の収容部側の端部(迷光発生スポット41)が入らないように、かつ検出部140の検出範囲40内に励起光αの照射スポット42に対応する領域が入るように検出部140の受光範囲を狭くするため、検出範囲40に迷光発生スポット41は入っていないが、励起光αの照射スポット42は検出範囲40内に入っている。このため、制御部160は、励起光α由来の迷光の影響を防ぎつつ、励起光αの入射角とプラズモン散乱光βの強度との関係の正確なデータを得ることができる。
【0065】
図9Bは、蛍光を測定するときの検出部140の検出範囲40および光源120の位置を示す模式図である。図9Bに示されているように、検出範囲40の両側に第1側壁341および第2側壁342側の収容部側の端部が入り、検出範囲40の中心付近に励起光αの照射スポット42が入るように検出部140の検出範囲40を拡げることで、金属膜31上の反応場(捕捉体が固定化されている領域)からの蛍光を効率的にかつ再現性よく検出することができ、被検出物質の検出精度(正確性、絶対値の精度)を向上させることができる。ここで生じる迷光は励起光αと同じ波長であるため、励起光カットフィルター143を挿入して測定する光学ブランク値の測定及び検体シグナルの測定では、迷光21は検出部140で検出されず測定性能には影響しない。さらに、検出範囲40の中心付近に励起光αの照射スポット42が入るので、検出チップ200の設置ばらつきなどにより励起光αの照射スポット42と検出範囲40がばらついても、励起光αの照射スポット42が検出範囲40から外れることなく、金属膜31上の反応場(捕捉体が固定化されている領域)からの蛍光を効率的にかつ再現性よく検出することができ、被検出物質の検出精度(正確性、絶対値の精度)を向上させることができる。
【0066】
図9Aおよび図9Bから明らかなようにプラズモン散乱光βを検出するときの検出範囲40と、蛍光を検出するときの蛍光の検出範囲40とでは、それぞれのサイズが異なり、プラズモン散乱光βを検出するときの検出部140の検出範囲40は、検出部140が蛍光を検出するときの検出範囲40よりも小さい。
【0067】
(効果)
本実施の形態に係る検出装置および検出方法は、第1の実施形態と同様に、増強角を決定するためにプラズモン散乱光を検出するときの受光範囲と、被検出物質の存在またはその量を検出するために蛍光を検出するときの受光範囲とで受光範囲のサイズが異なる。これにより、増強角を決定するためにプラズモン散乱光を検出するときには励起光(の回折光)に由来する迷光が検出部の受光範囲に入りにくくなり、増強角を正確に決めることができる。また、被検出物質の存在またはその量を検出するときには蛍光を最大量受光することができ、被検出物質の検出精度がよくなる。
【0068】
本出願は、2019年7月12日出願の特願2019-130432に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明に係る検出装置および検出方法は、より正確に増強角を決定でき、被検出物質の検出精度がよくなることから、例えば臨床検査などに有用である。
【符号の説明】
【0070】
20 回折光
21 迷光
31 金属膜
34 壁部
35 接着層
39 流路
40 検出範囲
41 迷光発生スポット
42 励起光αの照射スポット
100、300 検出装置
120 光源
140 検出部
141 第1レンズ
142、242 第2レンズ
143 励起光カットフィルター
144 チップホルダー
145 チップホルダー移動手段
146 形状情報取得部
147 位置情報検出部
160 制御部(検出範囲制御部)
200 検出チップ
210 プリズム
211 入射面
212 出射面
213 成膜面
220 流路蓋
245 絞り
341 第1壁部
342 第2壁部
α 励起光
β プラズモン散乱光
γ 蛍光
S 励起光の照射スポットの長さ
W 第1側壁と第2側壁との間隔
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9