(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】発光性化合物又はその塩、並びにこれを含む偏光発光素子、偏光発光板、及び表示装置
(51)【国際特許分類】
C09K 11/06 20060101AFI20240918BHJP
C07D 249/22 20060101ALI20240918BHJP
C07D 277/66 20060101ALI20240918BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240918BHJP
C07C 309/51 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C09K11/06 625
C09K11/06 630
C09K11/06 640
C07D249/22
C07D277/66
G02B5/30
C07C309/51
(21)【出願番号】P 2021533046
(86)(22)【出願日】2020-07-10
(86)【国際出願番号】 JP2020027074
(87)【国際公開番号】W WO2021010337
(87)【国際公開日】2021-01-21
【審査請求日】2023-04-28
(31)【優先権主張番号】P 2019130392
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019130393
(32)【優先日】2019-07-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】中村 光則
(72)【発明者】
【氏名】森田 陵太郎
(72)【発明者】
【氏名】望月 典明
【審査官】高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-086655(JP,A)
【文献】英国特許出願公告第01007334(GB,A)
【文献】BOWEN, Alice M. et al.,Exploiting orientation-selective DEER: determining molecular structure in systems contacting Cu(II),Physical Chemistry Chemical Physics,2016年,Vol.18, No.8,p.5981-5994,ISSN 1463-9076, especially p.5984
【文献】RN 2170843-75-9, 2018.01.24, Registry [online],American Chemical Society,[retrieved on 2020.09.29], Retrieved from: STN
【文献】Org. Biomol. Chem. ,2018年,16,4424-4428
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/06
C07C 309/51
C07D 249/22
C07D 277/66
G02B 5/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される発光性化合物又はその塩
を含む偏光発光素子:
【化1】
(式(1)中、X及びYの少なくとも一方が(両方の場合には各々独立に)、ニトロ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいアミド基、置換基を有してもよいC1~4のアルキル基、置換基を有してもよいC1~4のアルコキシ基、置換基を有してもよい芳香族基、及び置換基を有してもよい複素環基からなる群から選択され、X又はYが上記選択される基でない場合には該X又はYは任意の置換基から選択され、Mは各々独立に、水素原子、金属イオン、又はアンモニウムイオンを表し、mは各々独立に0~2の整数を示し、sは0又は1である)。
【請求項2】
上記式(1)におけるX及びYの少なくとも一方が(両方の場合には各々独立に)下記式(2)~(8)で表される置換基からなる群より選択される、請求項1に記載の
偏光発光素子:
【化2】
(上記式(2)中、Rは水素原子、C1~4のアルキル基、スルホ基を有するC1~4のアルキル基、又は式(3)~(7)で表される置換基からなる群から選択される置換基を表し、上記式(3)及び(4)中、Aは各々独立に、水素原子、ハロゲン基、ニトロ基、ヒドロキシ基、C1~4のアルキル基、C1~4のアルコキシ基、スルホ基を有するC1~4のアルキル基、ヒドロキシ基を有するC1~4のアルキル基、カルボキシ基を有するC1~4のアルキル基、スルホ基を有するC1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基を有するC1~4のアルコキシ基、及びカルボキシ基を有するC1~4のアルコキシ基からなる群から選択され、q
1は0~4の整数を表し、上記式(3)~(7)におけるMは、上記式(1)で定義された通りであり、上記式(3)及び(4)中のn
1、上記式(5)~(7)中のn
2は、それぞれ独立に0~3の整数を表し、上記式(8)におけるtは0又は1であり、Zは置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいナフチル基、置換基を有してもよいベンゾイル基、置換基を有してもよい複素環基、及び置換基を有してもよいスチルベン基からなる群から選択される基を表し、各式中*は上記式(1)におけるX又はYにおける接合位置を表す)。
【請求項3】
上記式(1)におけるX及びYが各々独立に、ニトロ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよい芳香族基、置換基を有してもよい複素環基、又は式(2)~(8)で表される置換基の群から選択される基である、請求
項2に記載の
偏光発光素子。
【請求項4】
上記式(1)におけるX及びYが、各々独立に、式(2)~(8)で表される置換基からなる群から選択され、X及びYの少なくともいずれか一方が式(8)の場合には、式(8)におけるZが式(2)~(7)で表される置換基(各式中*は式(8)のZにおける結合位置を表す)からなる群から選択されるいずれかである、請求
項2に記載の
偏光発光素子。
【請求項5】
上記式(1)におけるX及びYのいずれか一方がニトロ基又は置換基を有してもよいアミノ基であって、もう一方が式(2)~(8)で表される置換基からなる群から選択され、式(8)で表される置換基が選択される場合には、式(8)におけるZが式(2)~(7)で表される置換基からなる群から選択される、請求
項2に記載の
偏光発光素子。
【請求項6】
上記式(1)におけるX及びYのいずれか一方がニトロ基又は置換基を有してもよいアミノ基であって、かつX及びYのいずれか一方が式(8)で表される置換基であり、式(8)におけるZ
が置換基を有してもよいアミノ基である、請求
項2に記載の
偏光発光素子。
【請求項7】
上記式(1)におけるX及びYがいずれもニトロ基又は置換基を有してもよいアミノ基である、請求項1又は2に記載の
偏光発光素子。
【請求項8】
上記式(1)におけるX及びYがいずれも式(2)~(8)で表される置換基からなる群から選択され、式(8)で表される置換基が選択される場合には、式(8)におけるZが式(2)~(7)で表される置換基からなる群から選択される、請求
項2に記載の
偏光発光素子。
【請求項9】
sが0である、請求項1~8のいずれかに記載の
偏光発光素子。
【請求項10】
sが1である、請求項1~8のいずれかに記載の
偏光発光素子。
【請求項11】
上記発光性化合物又はその塩以外の有機染料又は蛍光染料を1種類以上さらに含む請求項
1~10のいずれかに記載の偏光発光素子。
【請求項12】
基材をさらに含む請求項
1~11のいずれかに記載の偏光発光素子。
【請求項13】
上記基材がポリビニルアルコール樹脂又はその誘導体を含むフィルムである、請求項1
2に記載の偏光発光素子。
【請求項14】
請求項
1~13のいずれかに記載の偏光発光素子の少なくとも一方の面に透明保護膜を備える偏光発光板。
【請求項15】
請求項
1~13のいずれかに記載の偏光発光素子又は請求項1
4に記載の偏光発光板を備える表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は新規な発光性化合物又はその塩、並びにこれを含む偏光発光素子、偏光発光板、及び表示装置(ディスプレイ)に関する。
【背景技術】
【0002】
光の透過及び/又は遮へい機能を有する偏光板は、光のスイッチング機能を有する液晶とともに液晶ディスプレイ(Liquid Crystal Display:LCD)等の表示装置の基本的な構成要素である。このLCDの適用分野も初期の頃の電卓及び時計等の小型機器から、ノートパソコン、ワープロ、液晶プロジェクター、液晶テレビ、カーナビゲーション、及び屋内外の計測機器等へと広がりつつある。また、偏光機能を有するレンズ等への適用も可能であり、例えば、視認性の向上したサングラスや、近年では3Dテレビなどに対応する偏光メガネなどへの応用がなされている。以上のように、偏光板の用途は広範囲に広がっており、その使用環境も、低温~高温、低湿度~高湿度、低光量~高光量等幅広いことから、高い偏光性能かつ高い耐久性を有する偏光板が求められている。
【0003】
一般に、偏光板を構成する偏光膜は、ヨウ素や二色性染料を含有させたポリビニルアルコール又はその誘導体のフィルムを延伸配向して製造されるか、或いは、ポリ塩化ビニルフィルムの脱塩酸又はポリビニルアルコール系フィルムの脱水によりポリエンを生成して配向させることにより製造される。そういった従来の偏光膜から構成される偏光板は、可視域に吸収を有する二色性色素を含んでいるため、透過率が低下する。例えば、市販されている一般的な偏光板の透過率は35~45%である。
【0004】
可視域における透過率が低下するという従来の偏光板の問題に対して、可視域である程度の透過率を保持しつつ、偏光機能をもたせる技術として、紫外線用偏光板の技術が特許文献1に記載されている。しかし、この技術も、可視域に吸収のある黄色色素を用いているため透過率が十分でなく、かつ、強い黄色い着色が確認される。
【0005】
可視光域の透過率が低い偏光板をディスプレイ等に用いると、ディスプレイ全体の透過率が減少するため、従来の偏光板を用いずに偏光を得る方法が研究されている。このような方法として、偏光を発光する素子が、特許文献2~4に記載されている。
【0006】
しかし、特許文献2~4に記載される偏光発光する素子は、特殊な金属、例えばランタノイドやユーロピウム等の希少価値が高い金属を含むためコストが高く、また、非常に製造が難しく大量生産には不向きである。さらに、これらの偏光発光する素子は、偏光した光の発光が弱いためディスプレイに使用することが難しく、また、直線偏光である発光光を得られない。そのため、偏光発光作用を示し、また、可視光域での透明性が高く、過酷な環境下における耐久性が求められる液晶ディスプレイ等にも応用可能な新たな偏光発光板とそのための材料を開発することが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】WO2005/015275
【文献】特開2008-224854号公報
【文献】特開2013-121921号公報
【文献】WO2011/111607
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本願では、新規な発光性化合物、並びにこれを含む偏光発光素子、偏光発光板、及び表示装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、かかる目的を達成すべく鋭意研究を進めた結果、特定の構造を有する化合物又はその塩を含む偏光発光素子及び偏光発光板が、紫外領域に高い二色比を有し、可視光域に高い透過率を示し、かつ、過酷な環境下において優れた耐久性を示すことを見出した。また、このような特定の構造を有する化合物又はその塩は、紫外域~近紫外可視域の光、例えば300~430nmの光の照射によって、可視光域の偏光した光を発光する作用を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下に関するが、それに限定されない。
[発明1]
下記式(1)で表される発光性化合物又はその塩:
【化1】
(式(1)中、X及びYの少なくとも一方が(両方の場合には各々独立に)、ニトロ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいアミド基、置換基を有してもよいC1~4のアルキル基、置換基を有してもよいC1~4のアルコキシ基、置換基を有してもよい芳香族基、及び置換基を有してもよい複素環基からなる群から選択され、X又はYが上記選択される基でない場合には該X又はYは任意の置換基から選択され、Mは各々独立に、水素原子、金属イオン、又はアンモニウムイオンを表し、mは各々独立に0~2の整数を示し、sは0又は1である)。
[発明2]
上記式(1)におけるX及びYの少なくとも一方が(両方の場合には各々独立に)下記式(2)~(8)で表される置換基からなる群より選択される、発明1に記載の発光性化合物又はその塩:
【化2】
(上記式(2)中、Rは水素原子、C1~4のアルキル基、スルホ基を有するC1~4のアルキル基、又は式(3)~(7)で表される置換基からなる群から選択される置換基を表し、上記式(3)及び(4)中、Aは各々独立に、水素原子、ハロゲン基、ニトロ基、ヒドロキシ基、C1~4のアルキル基、C1~4のアルコキシ基、スルホ基を有するC1~4のアルキル基、ヒドロキシ基を有するC1~4のアルキル基、カルボキシ基を有するC1~4のアルキル基、スルホ基を有するC1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基を有するC1~4のアルコキシ基、及びカルボキシ基を有するC1~4のアルコキシ基からなる群から選択され、q
1は0~4の整数を表し、上記式(3)~(7)におけるMは、上記式(1)で定義された通りであり、上記式(3)及び(4)中のn
1、上記式(5)~(7)中のn
2は、それぞれ独立に0~3の整数を表し、上記式(8)におけるtは0又は1であり、Zは置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいナフチル基、置換基を有してもよいベンゾイル基、置換基を有してもよい複素環基、及び置換基を有してもよいスチルベン基からなる群から選択される基を表し、各式中*は上記式(1)におけるX又はYにおける接合位置を表す)。
[発明3]
上記式(1)におけるX及びYが各々独立に、ニトロ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいアルキル基、置換基を有してもよいアルコキシ基、置換基を有してもよい芳香族基、置換基を有してもよい複素環基、又は式(2)~(8)で表される置換基の群から選択される基である、発明1又は2に記載の発光性化合物又はその塩。
[発明4]
上記式(1)におけるX及びYが、各々独立に、式(2)~(8)で表される置換基からなる群から選択され、X及びYの少なくともいずれか一方が式(8)の場合には、式(8)におけるZが式(2)~(7)で表される置換基(各式中*は式(8)のZにおける結合位置を表す)からなる群から選択されるいずれかである、発明1又は2に記載の発光性化合物又はその塩。
[発明5]
上記式(1)におけるX及びYのいずれか一方がニトロ基又は置換基を有してもよいアミノ基であって、もう一方が式(2)~(8)で表される置換基からなる群から選択され、式(8)で表される置換基が選択される場合には、式(8)におけるZが式(2)~(7)で表される置換基からなる群から選択される、発明1又は2に記載の発光性化合物又はその塩。
[発明6]
上記式(1)におけるX及びYのいずれか一方がニトロ基又は置換基を有してもよいアミノ基であって、かつX及びYのいずれか一方が式(8)で表される置換基であり、式(8)におけるZがニトロ基又は置換基を有してもよいアミノ基である、発明1又は2に記載の発光性化合物又はその塩。
[発明7]
上記式(1)におけるX及びYがいずれもニトロ基又は置換基を有してもよいアミノ基である、発明1又は2に記載の発光性化合物又はその塩。
[発明8]
上記式(1)におけるX及びYがいずれも式(2)~(8)で表される置換基からなる群から選択され、式(8)で表される置換基が選択される場合には、式(8)におけるZが式(2)~(7)で表される置換基からなる群から選択される、発明1又は2に記載の発光性化合物又はその塩。
[発明9]
sが0である、発明1~8のいずれかに記載の発光性化合物又はその塩。
[発明10]
sが1である、発明1~8のいずれかに記載の発光性化合物又はその塩。
[発明11]
偏光発光機能を有する、発明1~10のいずれかに記載の発光性化合物又はその塩を含む偏光発光素子。
[発明12]
上記発光性化合物又はその塩以外の有機染料又は蛍光染料を1種類以上さらに含む発明11に記載の偏光発光素子。
[発明13]
基材をさらに含む発明11又は12に記載の偏光発光素子。
[発明14]
上記基材がポリビニルアルコール樹脂又はその誘導体を含むフィルムである、発明13に記載の偏光発光素子。
[発明15]
発明11~14のいずれかに記載の偏光発光素子の少なくとも一方の面に透明保護膜を備える偏光発光板。
[発明16]
発明11~14のいずれかに記載の偏光発光素子又は発明15に記載の偏光発光板を備える表示装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明に係る特定の構造を有する発光性化合物又はその塩は、紫外~可視域の光、例えば紫外域~近紫外可視域の光、具体的には300~430nmの光を吸収し、そのエネルギーを利用して可視光領域に偏光発光作用を示す。また、当該発光性化合物又はその塩を用いて作製された偏光素子及び偏光板は、偏光発光作用を示す新規な偏光発光素子及び偏光発光板である。一態様において、本発明に係る発光性化合物又はその塩並びにこれを含む偏光発光素子及び偏光発光板は、吸収波長において高い偏光度を示す。そのため、このような式(1)で表される化合物又はその塩を用いることにより、希少価値の高いランタノイド金属等を使用しなくとも、吸収波長において高い偏光度を有するとともに、偏光発光作用を示す新規な偏光発光素子及び偏光発光板を提供することができる。一態様において、本発明に係る偏光発光素子及び偏光発光板は、可視域において高い透過率を示す。一態様において、本発明に係る偏光発光素子及び偏光発光板は、熱、湿度等に対して優れた耐久性を示す。そのため、当該偏光発光素子及び偏光発光板は、可視光領域での高い透過性及び過酷な環境下での高い耐久性が求められる液晶ディスプレイ等の表示装置に応用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本願明細書及び特許請求の範囲において、「置換基」には、便宜上、水素原子が含まれる。「置換基を有してもよい」とは、置換基を有していない場合も含まれることを意味する。例えば、「置換基を有してもよいフェニル基」は、非置換の単なるフェニル基と、置換基を有するフェニル基を含む。
【0013】
[発光性化合物]
本発明に係る発光性化合物又はその塩は、上記式(1)で表される。本明細書中、「発光性化合物又はその塩」を単に「発光性化合物」と略して記載することがある。
【0014】
式(1)中、X及びYの少なくとも一方が(両方の場合には各々独立に)、ニトロ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいアミド基、置換基を有してもよいC1~4(炭素原子数1~4)のアルキル基、置換基を有してもよいC1~4のアルコキシ基、置換基を有してもよい芳香族基、及び置換基を有してもよい複素環基からなる群から選択され、X又はYが上記選択される基でない場合には該X又はYは任意の置換基から選択され、Mは各々独立に、水素原子、金属イオン、又はアンモニウムイオンを表し、mは各々独立に0~2の整数を示し、sは0又は1である。
【0015】
X及びYの定義における上記「置換基を有してもよいアミノ基」としては、例えば、アミノ基; メチルアミノ基、エチルアミノ基、n-ブチルアミノ基、フェニルアミノ基、ナフチルアミノ基等のモノ置換アミノ基; ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジ-n-ブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基、エチルメチルアミノ基、エチルフェニルアミノ基等のジ置換アミノ基;等が挙げられる。
【0016】
X及びYの定義における上記「置換基を有してもよいアミド基」としては、メチルアミド基、エチルアミド基、フェニルアミド基等が挙げられる。後述する式(2)及び(8)で表される置換基も「置換基を有してもよいアミド基」に含まれ、その好ましい態様の一つである。
【0017】
X及びYの定義における上記「置換基を有してもよいC1~4のアルキル基」の「C1~4のアルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基等が挙げられる。
【0018】
X及びYの定義における上記「置換基を有してもよいC1~4のアルコキシ基」の「C1~4のアルコキシ基」としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、シクロブトキシ基等が挙げられる。
【0019】
X及びYの定義における上記「置換基を有してもよい芳香族基」の「芳香族基」としては、例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基等が挙げられる。
【0020】
X及びYの定義における上記「置換基を有してもよい複素環基」の「複素環基」としては、例えば、酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子の少なくとも1つを環構成成分として有する複素環を表し、それらには、単環式複素環だけでなく、該単環式複素環にさらにベンゼン環やナフタレン環等の芳香環をさらに含む多環式複素環も含まれる。該「酸素原子、窒素原子、及び硫黄原子を少なくとも1つを環構成成分として含む複素環基」としては、例えば、ピロール基、ベンゾピロール基、チオフェン基、ベンゾチオフェン基、チアゾール基、ベンゾチアゾール基、ナフトチアゾール基、トリアゾール基、ベンゾトリアゾール基、ナフトトリアゾール基、チアジアゾール基、ベンゾチアジアゾール基、ピリジン基、フラン基、ベンゾフラン基等が挙げられる。
【0021】
上記「置換基を有してもよいC1~4のアルキル基」、「置換基を有してもよいC1~4のアルコキシ基」、「置換基を有してもよい芳香族基」、「置換基を有してもよい複素環基」における置換基としては、特に限定はないが、例えば、ニトロ基、ヒドロキシ基、シアノ基、リン酸基、スルホ基、カルボキシ基、アミノ基等が挙げられる。「置換基を有してもよいアミノ基」及び「置換基を有してもよいアミド基」がここに例示するような置換基をさらに有してもよい。
【0022】
上記式(1)における、Mは各々独立に、水素原子、金属イオン、又はアンモニウムイオンを表す。金属イオンとしては、例えば、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン等のアルカリ金属イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン等のアルカリ土類金属イオン等が挙げられる。アンモニウムイオンとしては、例えば、狭義のアンモニウムイオン(NH4
+)、メチルアンモニウムイオン、ジメチルアンモニウムイオン、トリエチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラ-n-プロピルアンモニウムイオン、テトラ-n-ブチルアンモニウムイオン、モノエタノールアンモニウムイオン、ジエタノールアンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン、モノイソプロパノールアンモニウムイオン、ジイソプロパノールアンモニウムイオン、トリイソプロパノールアンモニウムイオン、トリエタノールアンモニウムイオン等が挙げられる。より具体的には、例えば、Mが水素原子である場合はスルホン酸(-SO3H)を、Mがナトリウムイオンの場合はスルホン酸ナトリウム(-SO3Na)を、Mがアンモニウムイオンの場合はスルホン酸アンモニウム(-SO3NH4)をそれぞれ表す。これらの中で特に好ましいものとしては、リチウムイオン、アンモニウムイオン、及びナトリウムイオンが挙げられる。
【0023】
上記式(2)中、Rは水素原子、C1~4のアルキル基、スルホ基を有するC1~4のアルキル基、又は式(3)~(7)で表される置換基からなる群から選択される置換基を表し、上記式(3)及び(4)中、Aは各々独立に、水素原子、ハロゲン基、ニトロ基、ヒドロキシ基、C1~4のアルキル基、C1~4のアルコキシ基、スルホ基を有するC1~4のアルキル基、ヒドロキシ基を有するC1~4のアルキル基、カルボキシ基を有するC1~4のアルキル基、スルホ基を有するC1~4のアルコキシ基、ヒドロキシ基を有するC1~4のアルコキシ基、及びカルボキシ基を有するC1~4のアルコキシ基からなる群から選択される基であり、q1は0~4の整数を表し、上記式(3)~(7)におけるMは、上記式(1)で定義された通りであり、上記式(3)及び(4)中のn1、上記式(5)~(7)中のn2は、それぞれ独立に0~3の整数を表し、上記式(8)におけるtは0又は1であり、Zは置換基を有してもよいフェニル基、置換基を有してもよいナフチル基、置換基を有してもよいベンゾイル基、置換基を有してもよい複素環基又は置換基を有してもよいスチルベン基からなる群から選択される基を表し、各式中*は上記式(1)におけるX又はYにおける結合位置を表す。
【0024】
Rの定義における上記「C1~4のアルキル基」としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、iso-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、シクロブチル基等が挙げられる。
【0025】
Rの定義における上記「スルホ基を有するC1~4のアルキル基」としては、例えば、スルホメチル基、スルホエチル基、スルホ-n-プロピル基、スルホ-n-ブチル基、スルホ-sec-ブチル基等が挙げられる。
【0026】
Aの定義における上記「ハロゲン基」としては、例えば、フッ素基、塩素基、臭素基、ヨウ素基等が挙げられる。
【0027】
Aの定義における上記「C1~4のアルキル基」は、Rにおいて定義された通りである。
【0028】
Aの定義における上記「C1~4のアルコキシ基」としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、iso-プロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、シクロブトキシ基等が挙げられる。
【0029】
Aの定義における上記「スルホ基を有するC1~4のアルキル基」は、Rにおいて定義された通りである。
【0030】
Aの定義における上記「ヒドロキシ基を有するC1~4のアルキル基」としては、例えば、ヒドロキシメチル基、ヒドロキシエチル基、ヒドロキシ-n-プロピル基、ヒドロキシ-iso-プロピル基、ヒドロキシ-n-ブチル基、ヒドロキシ-sec-ブチル基、ヒドロキシ-tert-ブチル基、ヒドロキシシクロブチル基等が挙げられる。
【0031】
Aの定義における上記「カルボキシ基を有するC1~4のアルキル基」としては、例えば、カルボキシメチル基、カルボキシエチル基、カルボキシ-n-プロピル基、カルボキシ-iso-プロピル基、カルボキシ-n-ブチル基、カルボキシ-sec-ブチル基、カルボキシ-tert-ブチル基、カルボキシシクロブチル基等が挙げられる。
【0032】
Aの定義における上記「スルホ基を有するC1~4のアルコキシ基」としては、例えば、スルホメトキシ基、スルホエトキシ基、スルホ-n-プロポキシ基、スルホ-iso-プロポキシ基、スルホ-n-ブトキシ基、スルホ-sec-ブトキシ基、スルホ-tert-ブトキシ基、スルホシクロブトキシ基等が挙げられる。
【0033】
Aの定義における上記「ヒドロキシ基を有するC1~4のアルコキシ基」としては、例えば、ヒドロキシメトキシ基、ヒドロキシエトキシ基、ヒドロキシ-n-プロポキシ基、ヒドロキシ-iso-プロポキシ基、ヒドロキシ-n-ブトキシ基、ヒドロキシ-sec-ブトキシ基、ヒドロキシ-tert-ブトキシ基、ヒドロキシシクロブトキシ基等が挙げられる。
【0034】
Aの定義における上記「カルボキシ基を有するC1~4のアルコキシ基」としては、例えば、カルボキシメトキシ基、カルボキシエトキシ基、カルボキシ-n-プロポキシ基、カルボキシ-iso-プロポキシ基、カルボキシ-n-ブトキシ基、カルボキシ-sec-ブトキシ基、カルボキシ-tert-ブトキシ基、カルボキシシクロブトキシ基等が挙げられる。
【0035】
Zの定義における上記「置換基を有してもよい複素環基」の「複素環基」は、X及びYにおいて定義された通りである。
【0036】
Zの定義における上記「置換基を有してもよいフェニル基」、「置換基を有してもよいナフチル基」、「置換基を有してもよいベンゾイル基」、「置換基を有してもよい複素環基」、及び「置換基を有してもよいスチルベン基」における置換基としては、特に限定はないが、例えば、X及びYの定義における上記「置換基を有してもよいC1~4のアルキル基」等の置換基として例示したものと同じでよい。
【0037】
上記式(3)~(7)におけるMとしては、上記式(1)で定義された通りである。
【0038】
上記式(1)におけるX及びYが各々独立に、ニトロ基、置換基を有してもよいアミノ基、置換基を有してもよいアミド基、置換基を有してもよいC1~4のアルキル基、置換基を有してもよいC1~4のアルコキシ基、置換基を有してもよい芳香族基、置換基を有してもよい複素環基、又は上記式(2)~(8)で表される置換基の群から選択される置換基であることが好ましく;上記式(1)におけるX及びYの少なくとも一方が(両方の場合には各々独立に)式(2)~(8)で表される置換基からなる群から選択されることもまた好ましく;上記式(1)におけるX及びYの少なくとも一方が(両方の場合には各々独立に)、式(2)~(8)で表される置換基からなる群から選択され、式(8)で表される置換基が選択される場合には、式(8)におけるZが式(2)~(7)で表される置換基からなる群から選択されることもまた好ましく;上記式(1)におけるX及びYのいずれか一方がニトロ基又は置換基を有してもよいアミノ基であって、もう一方が式(2)~(8)で表される置換基からなる群から選択される置換基であり、式(8)で表される置換基が選択される場合には、Zが式(2)~(7)で表される置換基からなる群から選択される置換基であることがもまた好ましく;上記式(1)におけるX及びYのいずれか一方がニトロ基又は置換基を有してもよいアミノ基であって、もう一方が式(8)で表される置換基であり、当該式(8)におけるZがニトロ基又は置換基を有してもよいアミノ基であることもまた好ましく;X及びYがいずれもニトロ基又は置換基を有してもよいアミノ基であることもまた好ましく;上記式(1)におけるX及びYがいずれも式(2)~(8)で表される置換基からなる群から選択され、式(8)で表される置換基が選択される場合には、Zが式(2)~(7)で表される置換基からなる群から選択されることもまた好ましい。
【0039】
本発明の一態様において、各mはいずれも0である。
【0040】
本発明の一態様において、sは0である。その態様において、式(1)で表される化合物の合成方法を次に説明する。
【0041】
例えば、それぞれ1当量の式(10)で表される化合物と式(11)で表される化合物とを水中で加熱し、苛性ソーダを加えて溶解させる。市販品として入手可能な式(9)で表される4,4’-ビフェニルジカルボニルクロリド 1当量を、添加し反応させることで目的物を得る。
【化3】
【0042】
上記式(9)~(11)中、各X、Y、M、及びmは、それぞれ上記式(1)で定義された通りである。
【0043】
次に、sが0である上記式(1)で表される発光性化合物又はその塩の具体例を以下に挙げる。なお、式中のスルホ基等は遊離酸の形態で表す。
【化4】
【化5】
【0044】
本発明の一態様において、sは1である。その態様において、式(1)で表される化合物の合成方法を次に説明する。
【0045】
例えば、それぞれ1当量の下記式(s10)で表される化合物と式(s11)で表される化合物とを水中で加熱し、苛性ソーダを加えて溶解させる。市販品として入手可能な下記式(9)で表される4,4’-ビフェニルジカルボニルクロリド 1当量を、添加し反応させることで目的物を得る。
【化6】
【0046】
上記式(9)、(s10)、及び(s11)中、各X、Y、M、及びmは、それぞれ上記式(1)で定義された通りである。
【0047】
次に、sが1である上記式(1)で表される発光性化合物又はその塩の具体例を以下に挙げる。なお、式中のスルホ基等は遊離酸の形態で表す。
【化7】
【化8】
【0048】
上記式(1)で表される化合物又はその塩は、偏光発光しうる化合物として有用である。式(1)で表される化合物又はその塩を、必要に応じて、前記発光性化合物又はその塩以外の有機染料又は蛍光染料1種類以上と組み合わせて、基材、例えば、ポリビニルアルコール又はその誘導体等の高分子フィルムに、公知の方法で含有させ配向させる方法により、偏光発光素子を製造することができる。得られた偏光発光素子は、透明保護膜を付けて偏光発光板とし、該偏光発光板に必要に応じてハードコート層(保護層)又はAR(反射防止)層及び支持体等をさらに設け、液晶プロジェクター、電卓、時計、ノートパソコン、ワープロ、液晶テレビ、カーナビゲーション、セキュリティ用ディスプレイ、偽造防止、及び、屋内外の計測器や表示器、レンズ、メガネ等に適用される。なお、本明細書では、本発明に係る発光性化合物又はその塩以外の有機染料又は蛍光染料を「他の有機染料」と略して記載する場合がある。
【0049】
[偏光発光素子]
上記式(1)で表される発光性化合物又はその塩を含む偏光発光素子も本願発明に含まれる。
該偏光発光素子は、上記式(1)で表される発光性化合物又はその塩と、該偏光性化合物又はその塩が吸着及び配向された基材とを含む偏光発光素子であることが好ましい。該偏光発光素子は、上記式(1)で表される発光性化合物又はその塩を、1種単独又は複数種含むことができる。
【0050】
上記基材は、式(1)で表される発光性化合物又はその塩を吸着し得る親水性高分子を製膜して得られるフィルム等であることが好ましい。当該親水性高分子としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリビニルアルコール系樹脂、アミロース系樹脂、デンプン系樹脂、セルロース系樹脂及びポリアクリル酸塩系樹脂等が挙げられる。このような樹脂の中でも、式(1)で表される発光性化合物又はその塩の吸着性、加工性、配向性等の観点から、ポリビニルアルコール系樹脂又はその誘導体であることが好ましい。ポリビニルアルコール系樹脂誘導体としては、この技術分野で一般的に知られている如何なるものも使用することができる。これに限定されないが、例えば、クロトン酸、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸等の不飽和カルボン酸、ビニルスルホン酸、アクリルスルホン酸、メタクリルスルホン酸、p-スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、(メタ)アクリロイルオキシエチルスルホン酸等の不飽和スルホン酸、或いはエチレン、プロピレン等のオレフィン等をビニルアルコールと共重合した変性ポリビニルアルコール系樹脂等を挙げることができる。基材の形状は、特に限定されるものではなく、基材を、例えば、フィルム状、シート状、平板状、曲板状及び半球状等、任意の形状に作製することができる。また、基材の厚さは、通常、10~100μmであり、好ましくは20~80μmである。
【0051】
上記偏光発光素子における上記式(1)で表される発光性化合物の含有量は特に限定されるものではなく、任意の透過率に基づいて合有量を設計でき、偏光発光素子に求められる透過率に応じて、その配合量(合有量)を任意で設定してもよい。偏光発光素子の偏光性能は、偏光発光素子に含まれる式(1)で表される発光性化合物の配合割合のみならず、該発光性化合物を吸着させる基材の膨潤度、延伸倍率、染色時間、染色温度、染色時のpH、塩の影響等の様々な要因により変化する。このため、偏光発光素子に含有される式(1)で表される発光性化合物の配合割合は、基材の膨潤度、染色温度、染色時間、染色時のpH、塩の種類、塩の濃度、延伸倍率等に応じて決定することができる。このような配合割合の調整は適宜行うことができる。
【0052】
上記偏光発光素子は、偏光性能を阻害しない範囲で、又は、色調整を目的として、必要に応じて他の有機染料を1種以上さらに含んでもよい。併用される他の有機染料は、特に制限はないが、二色性の高い染料が好ましく、かつ、式(1)で表される発光性化合物の吸収帯域、例えば紫外域~近紫外可視域の偏光性能に影響が少ない染料が好ましい。併用される他の有機染料としては、例えば、C.I.Direct.Yellow12、C.I.Direct.Yellow28、C.I.Direct.Yellow44、C.I.Direct.Orange26、C.I.Direct.Orange39、C.I.Direct.Orange71、C.I.Direct.Orange107、C.I.Direct.Red2、C.I.Direct.Red31、C.I.Direct.Red79、C.I.Direct.Red81、C.I.Direct.Red247、C.I.Direct.Blue69、C.I.Direct.Blue78、C.I.Direct.Green80、及びC.I.Direct.Green59、が挙げられる。これら他の有機染料は遊離酸、アルカリ金属塩(例えばNa塩、K塩、及びLi塩)、アンモニウム塩、又はアミン類の塩の形態であってよい。
【0053】
必要に応じて上記他の有機染料を併用する場合、製造目的とする偏光発光素子の色の調整等目的に応じ、それぞれ配合する他の有機染料の種類を選択可能である。また、その含有量は特に限定されるものではないが、一般的には、上記式(1)で表される発光性化合物の質量を1とした場合、併用する他の有機染料の合計質量が0.01~10の範囲であることが好ましい。
【0054】
<偏光発光素子の製造方法>
次に、本発明に係る偏光発光素子の製造方法について説明する。製造方法は、以下の製法に限定されるものではないが、例えば、基材を準備する工程と、基材を膨潤液に浸漬させ、該基材を膨潤により延伸させる膨潤工程と、膨潤させた基材を少なくとも1種の上記式(1)で表される発光性化合物を含む染色溶液に含浸させ、基材に式(1)で表される発光性化合物を吸着させる染色工程と、式(1)で表される発光性化合物を吸着させた基材を、ホウ酸等の架橋剤を含有する溶液に浸漬し、式(1)で表される発光性化合物を基材中で架橋させる架橋工程と、式(1)で表される発光性化合物を架橋させた基材を一定の方向に一軸延伸して、式(1)で表される発光性化合物を一定の方向に配列させる延伸工程と、延伸させた基材を、洗浄液で洗浄する洗浄工程と、洗浄させた基材を乾燥させる乾燥工程を含んでいる。
【0055】
(基材の準備)
上記式(1)で表される発光性化合物を含有させるための基材を準備する。該基材としては、例えば、市販のポリビニルアルコール系樹脂又はその誘導体を含むフィルムを用いてもよく、ポリビニルアルコール系樹脂を製膜することにより基材を作製してもよい。ポリビニルアルコール系樹脂の製膜方法は特に限定されるものではなく、例えば、含水ポリビニルアルコールを溶融押出する方法、流延製膜法、湿式製膜法、ゲル製膜法(ポリビニルアルコール水溶液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去)、キャスト製膜法(ポリビニルアルコール水溶液を基板上に流し、乾燥)、及びこれらの組み合わせによる方法等、公知の製膜方法を採用することができる。ポリビニルアルコールの重合度としては1000~10000のものを用いることができ、当該重合度は、好ましくは1500~6000、より好ましくは2000~6000である。
【0056】
(膨潤工程)
次に、上述の基材に、膨潤処理を施す。膨潤処理は20~50℃の膨潤液に、基材を30秒~10分間浸漬させることにより行うことが好ましく、膨潤液は水であることが好ましい。膨潤液による基材の延伸倍率は、1.00~1.50倍に調整することが好ましく、1.10~1.35倍に調整することがより好ましい。
【0057】
(染色工程)
続いて、上記のような膨潤処理を施して得られた基材に、少なくとも1種の式(1)で表される発光性化合物又はその塩を吸着及び含浸させる。染色工程は、式(1)で表される発光性化合物又はその塩を基材に吸着及び含浸させる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、基材を、式(1)で表される発光性化合物又はその塩を含む染色溶液に浸漬させることが好ましく、また、基材に染色溶液を塗布することによって吸着させることもできる。染色溶液中の式(1)で表される発光性化合物又はその塩の濃度は、基材中に式(1)で表される発光性化合物又はその塩が十分に吸着されていれば特に限定されるものではないが、例えば、染色溶液中に0.0001~3質量%であることが好ましく、0.001~1質量%であることがより好ましい。
【0058】
染色工程における上記染色溶液の温度は、5~80℃が好ましく、20~50℃がより好ましく、40~50℃が特に好ましい。また、染色溶液に基材を浸漬する時間は、適度調節可能であり、30秒~20分の間で調節するのが好ましく、1~10分の間がより好ましい。
【0059】
上記染色溶液に含まれる化合物として、上記式(1)で表される発光性化合物は、1種単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。このような上記式(1)で表される発光性化合物は、構造の違いにより、その発光色が異なるため、基材に、2種以上の上記の式(1)で表される発光性化合物又はその塩、又は上記の式(1)で表される発光性化合物又はその塩及び1種以上の他の発光性化合物を含有させることにより、生じる発光色を所望の色に適宜調整することができる。また、必要に応じて、染色溶液は、上記他の有機染料を1種類又は2種類以上をさらに含んでいてもよい。本明細書における偏光発光素子及び偏光発光板の製造における記載において、式(1)で表される発光性化合物及び他の有機染料を、総じて、「偏光色素」と記載する場合がある。
【0060】
上記染色溶液は、上記偏光色素に加え、必要に応じて更に染色助剤を含有してもよい。染色助剤としては、例えば、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、塩化ナトリウム、硫酸ナトリウム(芒硝)、無水硫酸ナトリウム及びトリポリリン酸ナトリウム等が挙げられ、好ましくは硫酸ナトリウムである。染色助剤の含有量は、使用される偏光色素の染色性に基づく上記浸漬の時間及び染色溶液の温度によって任意に調整可能であるが、染色溶液中に0.1~10質量%であることが好ましく、0.1~2質量%であることがより好ましい。
【0061】
染色工程後、該染色工程で基材の表面に付着した染色溶液を除去するために、任意に予備洗浄工程を実施することができる。予備洗浄工程を実施することによって、基材の表面に残存する式(1)で表される発光性化合物又はその塩が次の工程で処理液中に移行することを抑制することができる。予備洗浄工程では、洗浄液として一般的には水が用いられる。洗浄方法としては、洗浄液に染色した基材を浸漬することが好ましく、一方で、洗浄液を該基材に塗布することによって洗浄することもできる。洗浄時間は、特に限定されるものではないが、好ましくは1~300秒であり、より好ましくは1~60秒である。予備洗浄工程における洗浄液の温度は、基材を構成する材料が溶解しない温度であることが必要となり、一般的には5~40℃で洗浄処理が施される。なお、予備洗浄工程の工程がなくとも、偏光発光素子の性能には特段大きな影響を及ぼさないため、予備洗浄工程は省略することも可能である。
【0062】
(架橋工程)
染色工程又は予備洗浄工程の後、基材に架橋剤を含有させることができる。基材に架橋剤を含有させる方法は、架橋剤を含む処理溶液に基材を浸漬させることが好ましく、一方で、当該処理溶液を基材に塗布又は塗工してもよい。処理溶液中の架橋剤としては、ホウ酸を含有する溶液を使用することが好ましい。処理溶液中の溶媒は、特に限定されるものではないが、水が好ましい。処理溶液中のホウ酸等の架橋剤の濃度は、0.1~15質量%であることが好ましく、0.1~10質量%であることがより好ましい。処理溶液の温度は、30~80℃が好ましく、40~75℃がより好ましい。また、この架橋工程の処理時間は30秒~10分が好ましく、1~6分がより好ましい。本発明に係る偏光発光素子の製造方法が、この架橋工程を有することにより、得られる偏光発光素子は、高い輝度と高い偏光度を有する光を発光しうる。このことは、従来技術において、耐水分性又は光透過性を改善する目的で使用されていたホウ酸の機能からは全く予期し得ない優れた作用である。また、架橋工程においては、必要に応じて、カチオン系高分子化合物を含む水溶液で、フィックス処理をさらに併せて行ってもよい。フィックス処理により、偏光色素の固定化が可能となる。このとき、カチオン系高分子化合物として、例えば、カチオン放出性化合物、ジシアン系化合物、ポリアミン系化合物、ポリカチオン系化合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド・二酸化イオン共重合物、ジアリルアミン塩重合物、ジメチルジアリルアンモニウムクロライド重合物、アリルアミン塩の重合物、ジアルキルアミノエチルアクリレート四級塩重合物が使用され得る。ジシアン系化合物として例えばジシアンアミド・ホルマリン重合縮合物が挙げられる。ポリアミン系化合物として例えばジシアンジアミド・ジエチレントリアミン重縮合物が挙げられる。ポリカチオン系化合物として例えばエピクロロヒドリン・ジメチルアミン付加重合物が挙げられる。
【0063】
(延伸工程)
架橋工程を行った後又はこれと同時に、延伸工程を実施する。延伸工程は、基材を一定の方向に一軸延伸することにより行われる。延伸方法は、湿式延伸法又は乾式延伸法のいずれであってもよい。延伸倍率は、3倍以上であることが好ましく、より好ましくは5~9倍である。
【0064】
乾式延伸法において、延伸加熱媒体が空気媒体である場合には、空気媒体の温度が常温~180℃で基材を延伸するのが好ましい。また、湿度は20~95%RHの雰囲気中であることが好ましい。基材の加熱方法としては、例えば、ロール間ゾーン延伸法、ロール加熱延伸法、熱間圧延伸法及び赤外線加熱延伸法等が挙げられるが、これらの延伸方法に限定されるものではない。乾式延伸工程は、一段階の延伸で実施しても、二段階以上の多段延伸で実施してもよい。
【0065】
湿式延伸法においては、水、水溶性有機溶剤又はその混合溶液中で基材を延伸することが好ましい。より好ましくは、架橋剤を少なくとも1種含有する溶液中に基材を浸漬しながら延伸処理を行う。架橋剤は、例えば、上記架橋剤工程におけるホウ酸を用いることができ、好ましくは、架橋工程で使用した処理溶液中で延伸処理を行うことができる。延伸温度は40~70℃であることが好ましく、45~60℃がより好ましい。延伸時間は通常30秒~20分であり、好ましくは2~7分である。湿式延伸工程は、一段階の延伸で実施しても、二段階以上の多段延伸で実施してもよい。なお、延伸処理は、任意に、染色工程の前に行ってもよく、この場合には、染色の時点で、式(1)で表される発光性化合物又はその塩の配向も一緒に行うことができる。
【0066】
(洗浄工程)
延伸工程を実施した後には、基材の表面に架橋剤の析出又は異物が付着することがあるため、基材の表面を洗浄する洗浄工程を行うことができる。洗浄時間は1秒~5分が好ましい。洗浄方法は、基材を洗浄液に浸漬することが好ましく、一方で、洗浄液を基材に塗布又は塗工することによって洗浄することもできる。洗浄液としては、水が好ましい。洗浄処理は一段階で実施しても、2段階以上の多段処理で実施してもよい。洗浄工程の洗浄溶の温度は、特に限定されるものではないが、通常、5~50℃、好ましくは10~40℃であり、常温であってよい。
【0067】
上述した各工程で用いる溶液又は処理液の溶媒としては、上記水の他にも、例えば、アルコール類、アミン類等が挙げられる。アルコール類としては、例えば、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、及びトリメチロールプロパン等が挙げられる。アミン類としては、例えば、エチレンジアミン及びジエチレントリアミン等が挙げられる。当該溶液又は処理液の溶媒は、これらに限定されるものではないが、最も好ましくは水である。また、これらの溶液又は処理液の溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上の混合物を用いてもよい。
【0068】
(乾燥工程)
洗浄工程の後、基材の乾燥工程を行うことが好ましい。乾燥処理は、自然乾燥により行うことができるものの、より乾燥効率を高めるため、ロールによる圧縮やエアーナイフ又は吸水ロール等による表面の水分除去等により行うことが可能であり、さらには、送風乾燥を行うことも可能である。乾燥処理の温度は、20~100℃であることが好ましく、60~100℃であることがより好ましい。乾燥時間は、30秒~20分であることが好ましく、5~10分であることがより好ましい。
【0069】
上記記載を例として、本発明に係る偏光発光素子を作製することができる。また、本発明における式(1)で表される発光性化合物は、液晶と共に混合させ基材上で配向させる方法、又は基材上でシェアさせる塗工方法により配向させることにより、各種の色又はニュートラルグレーを有する偏光発光素子を製造することができる。
【0070】
[偏光発光板]
上記偏光発光素子を備える偏光発光板も本願発明に含まれる。
本発明に係る偏光発光板は、上記の偏光発光素子の少なくとも一方の面に透明保護膜を有していることが好ましい。透明保護膜は、偏光発光素子の耐水性や取扱性等を向上させるために使用される。そのため、このような透明保護膜は、本発明に係る偏光発光素子が示す偏光作用に何ら影響を与えるものではないことが好ましい。
【0071】
上記透明保護膜は、光学的透明性及び機械的強度に優れる透明保護膜であることが好ましい。また、透明保護膜は、偏光発光素子の形状を維持できる層形状を有するフィルムであることが好ましく、透明性及び機械的強度の他に、熱安定性、水分遮蔽性等にも優れるプラスチックフィルムであることが好ましい。このような透明保護膜を形成する材料としては、例えば、セルロースアセテート系フィルム、アクリル系フィルム、四フッ化エチレン/六フッ化プロピレン系共重合体のようなフッ素系フィルム、或いは、ポリエステル樹脂、ポリオレフィン樹脂又はポリアミド系樹脂からなるフィルム等が挙げられ、好ましくはトリアセチルセルロース(TAC)フィルムやシクロオレフィン系フィルムが用いられる。透明保護膜の厚さは、1~200μmの範囲が好ましく、10~150μmの範囲がより好ましく、40~100μmが特に好ましい。本発明に係る偏光発光板を製造する方法は、特に限定されるものではないが、例えば、偏光発光素子に透明保護膜を重ねて、公知の処方にてラミネートすることによって偏光発光板を作製することができる。
【0072】
上記偏光発光板は、透明保護膜と偏光発光素子との間に、透明保護膜を偏光発光素子に貼り合わせるための接着剤層をさらに備えていてもよい。接着剤層を構成する接着剤は、特に限定されるものではないが、ポリビニルアルコール系接着剤、ウレタンエマルジョン系接着剤、アクリル系接着剤、ポリエステルーイソシアネート系接着剤等が挙げられ、好ましくはポリビニルアルコール系接着剤が用いられる。透明保護膜と偏光発光素子とを接着剤により貼り合せた後、適切な温度で乾燥又は熱処理を行うことによって偏光発光板を作製することができる。
【0073】
また、上記偏光発光板は、透明保護膜の露出面に、反射防止層、防眩層、さらなる透明保護膜等の公知の各種機能性層を適宜備えていてもよい。このような各種機能性を有する層を作製する場合、各種機能性を有する材料を透明保護膜の露出面に塗工する方法が好ましく、一方、そのような機能を有する層又はフィルムを接着剤若しくは粘着剤を介して透明保護膜の露出面に貼り合わせることも可能である。
【0074】
上記さらなる透明保護膜としては、例えば、アクリル系、ウレタン系、ポリシロキサン系等のハードコート層等が挙げられる。また、単体透過率をより向上させるために、透明保護膜の露出上に反射防止層を設けることもできる。反射防止層は、例えば、二酸化珪素、酸化チタン等の物質を、透明保護膜上に蒸着又はスパッタリング処理するか、或いは、フッ素系物質を透明保護膜上に薄く塗布することにより形成することができる。
【0075】
上記偏光発光板は、必要に応じて、ガラス、水晶、サファイヤ等の透明な支持体等をさらに設けることができる。このような支持体は、偏光発光板を貼り付けるため、平面部を有していることが好ましく、また、光学用途の観点から、透明支持体であることが好ましい。透明支持体としては、無機支持体と有機支持体に分けられ、例えば、無機材料よりなる支持体としては、ソーダガラス、ホウ珪酸ガラス、水晶、サファイヤ、スピネルなどの材料よりなる支持体等が挙げられ、有機支持体としては、アクリル、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、シクロオレフィンポリマー等から構成される支持体が挙げられる。透明支持体の厚さ、大きさは特に限定されるものでなく、適宜決定することができる。また、このような透明支持体を有する偏光発光板には、単体透過率をより向上させるために、その支持体面又は偏光発光板面の一方又は双方の面に反射防止層を設けることが好ましい。偏光発光板と支持体平面部とを接着させるためには、透明な接着(粘着)剤を支持体平面部に塗布し、次いで、この塗布面に本発明に係る偏光発光板を貼付すればよい。使用する接着剤又は粘着剤は、特に限定されるものではなく、市販されているものを用いることができ、アクリル酸エステル系の接着剤又は粘着剤が好ましい。
【0076】
また、上記偏光発光板は、位相差板を貼付した円偏光発光板又は楕円偏光発光板として使用することもできる。このとき、偏光発光板に支持体等をさらに設ける場合、支持体は位相差板であってもよい。位相差板としては、光の吸収波長又は発光波長に対して1/4λの位相差値を有するものや1/2λの位相差値を有するものが一般的に例示されるが、これに限定されない。1/4λの位相差値を有することによって、その波長に対して円偏光板又は円偏光発光板として機能し、1/2λを用いることによって偏光が90°の方向に変換できるなどの利用が可能となる。このように、偏光発光板には様々な機能性層、支持体等をさらに設けることができ、このような偏光発光板は、例えば、液晶プロジェクター、電卓、時計、ノートパソコン、ワープロ、液晶テレビ、カーナビゲーション及び屋内外の計測器や表示器等、レンズ、或いはメガネ等の様々な製品に使用できる。
【0077】
本発明に係る偏光発光素子及び偏光発光板は、紫外域~近紫外可視域の光、例えば300~430nmの領域において高い偏光度を示すと共に、さらには、可視光領域において偏光発光作用、高い透過率を示す。また、本発明に係る偏光発光素子及び偏光発光板は、熱、湿度、光等に対して優れた耐久性を示すため、過酷な環境下でも、その性能を維持することが可能であり、従来のヨウ素系偏光板よりも高い耐久性を有する。そのため、本発明に係る偏光発光素子及び偏光発光板は、可視光領域での高い透明性及び過酷な環境下での高い耐久性が求められる液晶ディスプレイ、例えば、テレビ、ウェアラブル端末、タブレット端末、スマートフォン、車載モニター、屋外又は屋内にて用いられるデジタルサイネージ、スマートウィンドウ等の各種表示装置に応用することができる。
【0078】
[表示装置]
上記偏光発光素子又は偏光発光板を備える表示装置(ディスプレイ)も本願発明に含まれる。
上記表示装置は、紫外域~可視域の光、例えば紫外域~近紫外可視域の光、具体的には300~430nmの光を照射することによって偏光発光作用を示し、この作用を利用することによって表示が可能となる。本発明に係る表示装置は、可視光領域で高い透過率を有しているため、従来の偏光板のような可視光領域の透過率の低下がないか、透過率の低下があっても、従来の偏光板の透過率よりも透過率の低下は著しく小さい。例えば、従来の偏光板であるヨウ素系偏光板や、他の染料を使用した染料系偏光板は、偏光度をほぼ100%にするためには、可視光領域での視感度補正が35~45%程度である。その理由としては、従来の偏光板は、光の吸収軸として縦軸と横軸の両方を有しているが、ほぼ100%の偏光度を得るために縦軸又は横軸の一方の入射光を吸収する、すなわち、一方の軸では光を吸収し、他方の軸では光を透過することによって偏光が生じる。このような場合、一方の軸での光は吸収されて透過しないことから、必然的に透過率は50%以下なってしまう。また、従来、延伸されたフィルム中で二色性色素を配向させて偏光板を作製しているが、必ずしも二色性色素が100%配向しているわけではなく、また、光の透過軸に対しても若干吸収成分を有している。そのため、物質の表面反射によって透過率が約45%以下でないとほぼ100%の偏光度は実現できない、つまりは、透過率を低下させなければ高い偏光度を実現することができなかった。それに対して、本発明に係る偏光発光素子及び偏光発光板は、紫外域~近紫外可視域の光、例えば300~430nmに光の吸収する軸(その偏光機能)がある、すなわち、紫外域~近紫外可視域の光、例えば300~430nmに光の吸収作用があり、可視光領域に偏光した光を発光する偏光発光作用を示す一方で、可視光領域ではほとんど光を吸収しないため、可視光領域での透過率は非常に高くなる。さらに、可視光領域では、偏光発光作用を示すため、従来の偏光板を用いるよりも光の損失は少なく、つまり、従来の偏光板のような透過率の低下は非常に少ない。そのため、本発明に係る偏光発光素子及び偏光発光板を使用した表示装置、例えば、液晶ディスプレイは、従来の偏光板を備える液晶ディスプレイよりも高い輝度が得られる。さらに、本発明に係る偏光発光素子及び偏光発光板を使用した表示装置は、透明性が高いため、液晶ディスプレイでありながら、ほぼ透明なディスプレイが得られる。また、文字、画像の表示時には偏光発光光が透過するように設計できるため、透明な液晶ディスプレイでありながらも表示可能なディスプレイが得られる、すなわち、透明なディスプレイに文字等が表示可能なディスプレイが得られる。したがって、本発明に係る表示装置は、光損失がない透明な液晶ディスプレイ、特に、シースルーディスプレイを得ることができる。
【0079】
また、上記表示装置は、人の目に見えない又は見え難い紫外域~近紫外可視域の光、例えば300~430nmの光に対しても偏光が可能であることから、紫外光によって表示可能な液晶ディスプレイへの応用が可能である。例えば、紫外域~近紫外可視域に表示された画像等を、コンピュータ等によって認識することによって、紫外域~近紫外可視域の光、例えば300~430nmの光を照射したときのみ視認可能とする簡易でセキュリティ性の高い液晶ディスプレイを作製することができる。
【0080】
また、上記表示装置は、紫外域~近紫外可視域の光、例えば300~430nmの光を照射することによって偏光発光作用を示し、その偏光発光を利用した液晶ディスプレイが作製可能であることから、可視光を使用した通常の液晶表示ディスプレイではなく、紫外域~近紫外可視域の光を利用した液晶表示ディスプレイを実現することも可能とする。つまり、可視光のない暗い空間においても、紫外域~近紫外可視域の光が照射され得る空間であれば、表示される文字、画像等が表示される発光型液晶ディスプレイを作製することが可能となる。
【0081】
さらに、可視光領域と紫外光領域とでは光の帯域が異なるため、可視光領域は可視光領域の光によって表示可能な液晶表示部位と、紫外光による偏光発光作用によって表示された光での液晶表示部位とが併在する異なる2つの表示が可能なディスプレイを作製することも可能である。2つの異なる表示が可能なディスプレイは、これまでにも存在はしているが、同一液晶パネルでありながら、紫外光領域と可視光領域とで別々の光源によって異なる表示が可能なディスプレイは存在しない。このことから、本発明に係る表示装置は、上記の偏光発光素子又は偏光発光板を用いることによって新規なディスプレイの作製が可能となる。
【0082】
上記偏光発光素子、偏光発光板又は表示装置を備える液晶ディスプレイも本願発明に含まれる。該液晶ディスプレイに使用する液晶セルは、例えば、TN液晶セル、STN液晶セル、VA液晶セル、IPS液晶セルなどに限定されるものでなく、あらゆる液晶ディスプレイモードで使用が可能である。該液晶ディスプレイは高い耐久性を有することから、車載用又は屋外表示用液晶ディスプレイを提供することが出来る。
【0083】
上記偏光発光素子、偏光発光板又は表示装置を備える車載用又は屋外表示用ニュートラルグレー偏光発光板も本願発明に含まれる。該車載用又は屋外表示用ニュートラルグレー偏光発光板は、偏光発光性能に優れ、さらに車内や屋外の高温、高湿状態でも変色や偏光性能の低下を起こさないという特徴を有する。なお、ニュートラルグレーとは、該偏光発光板の可視域の直交位における透過率において、各波長の透過率が著しく低いか又は一定の透過率を有するものを指す。具体的は、直交位の透過率が0.3%以下、より好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.03%以下、特に好ましくは0.01%以下であり、一定の透過率とは各波長の平均透過率に対して、透過率の差が1%以内であることを示す。
【実施例】
【0084】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、これらは例示的なものであって、本発明をなんら限定するものではない。また、下記に記載されている「%」及び「部」は、特に言及されない限り質量基準である。また、各実施例及び比較例で使用した化合物の各構造式において、スルホ基等の酸性官能基は、遊離酸の形態で記載した。
【0085】
[実施例1]
(合成例)
式(25)で表される化合物 84部を1000部の水に加え60℃まで加熱し、pH6~7になるように調整しながら25%苛性ソーダを加えて、前記化合物を溶解させた。4,4’-ビフェニルジカルボニルクロリド 27.8部を、1時間程度かけて少しずつ加えた。全て添加した後、60℃で1時間撹拌して、反応させた。反応終了後、室温まで放冷して濾過し、得られた固体を70℃で乾燥することで、式(16)で表される化合物 73.4部を得た。
【化9】
【0086】
(偏光発光素子及び偏光発光板の作製)
厚さ75μmのポリビニルアルコールフィルム(クラレ社製VF-PS#7500)を40℃の水に3分間浸漬して、フィルムを膨潤させた。膨潤して得られたフィルムを、合成例1で得られた式(16)で表される化合物 0.2質量部と、芒硝1.0質量部と、水1000質量部とを含む45℃の水溶液に、4分間浸漬して式(16)で表される化合物をフィルムに含ませた。式(16)で表される化合物を含ませたフィルムを50℃の3%濃度ホウ酸水溶液中で5分間かけて5倍に延伸した。延伸して得られたフィルムを、緊張状態を保ったまま常温の水で20秒間水洗し、70℃で乾燥して偏光発光素子を得た。得られた偏光発光素子の両面を、1.5規定の水酸化ナトリウムで表面がケン化処理された厚さ60μmの紫外線吸収剤を含有しないトリアセチルセルロースフィルム(富士フイルム社製 ZRD-60)を、4質量% ポリビニルアルコール(日本酢ビ・ポバール社製 NH-26)水溶液を接着剤としてラミネートして偏光発光板を得て実施例1の測定試料とした。
なお、偏光発光素子に紫外線吸収剤を含有しないトリアセチルセルロースフィルム(富士フイルム社製 ZRD-60)を貼合しても、なんら偏光発光素子の光学特性に影響するものではなかった。以下の実施例、比較例でも偏光発光素子に紫外線吸収剤を含有しないトリアセチルセルロースフィルムを貼合したが、同様になんら光学特性に影響を与えるものではなかった。
【0087】
[実施例2]
式(26)で表される化合物 61.6部を600部の水に加え60℃まで加熱し、pH6~7になるように調整しながら25%苛性ソーダを加えて、前記化合物を溶解させた。4,4’-ビフェニルジカルボニルクロリド 27.8部を、1時間程度かけて少しずつ加えた。全て添加した後、60℃で1時間撹拌して、反応させた。反応終了後、室温まで放冷して濾過し、得られた固体を70℃で乾燥することで、式(15)で表される化合物 57.5部を得た。実施例1の偏光発光素子及び偏光発光板の作製において、式(16)で表される化合物に代えて式(15)で表される化合物を用いた以外は同様にして、実施例2の測定試料を得た。
【化10】
【0088】
[実施例3]
式(27)で表される化合物 21.8部及び式(28)で表される化合物 10.8部を水400部に加え、pH6~7になるように調整しながら25%苛性ソーダを加えて、前記化合物を溶解し、クロロギ酸フェニル 15.6部を50~70℃で6時間撹拌しウレイド化した。塩化ナトリウムで塩析し、ろ過して、70℃で乾燥し、式(29)で表されるウレイド化合物 24.6部を得た。得られた式(29)で表されるウレイド化合物 24.6部と4,4’-ビフェニルジカルボニルクロリド 27.8部を1000部の水に加え60℃まで加熱し、pH6~7になるように調整しながら25%苛性ソーダを加えて、前記化合物を溶解させた。4,4’-ビフェニルジカルボニルクロリド 9.8部を、1時間程度かけて少しずつ加えた。全て添加した後、60℃で1時間撹拌して、反応させた。反応終了後、室温まで放冷して濾過し、得られた固体を70℃で乾燥することで、式(20)で表される化合物 12.2部を得た。実施例1の偏光発光素子及び偏光発光板の作製において、式(16)で表される化合物に代えて式(20)で表される化合物を用いた以外は同様にして、実施例3の測定試料を得た。
【化11】
【0089】
[実施例4]
式(30)で表される化合物 61.6部を600部の水に加え60℃まで加熱し、pH6~7になるように調整しながら25%苛性ソーダを加えて、前記化合物を溶解させた。4,4’-ビフェニルジカルボニルクロリド 27.8部を、1時間程度かけて少しずつ加えた。全て添加した後、60℃で1時間撹拌し、反応させた。反応終了後、室温まで放冷して濾過し、得られた固体を70℃で乾燥することで、式(18)で表される化合物 57.5部を得た。実施例1の偏光発光素子及び偏光発光板の作製において、式(16)で表される化合物に代えて式(18で表される化合物を用いた以外は同様にして、実施例4の測定試料を得た。
【化12】
【0090】
[実施例5]
式(28) 21.6部を600部の水に加え60℃まで加熱し、pH6~7になるように調整しながら25%苛性ソーダを加えて、前記化合物を溶解させた。4,4’-ビフェニルジカルボニルクロリド 27.8部を、1時間程度かけて少しずつ加えた。全て添加した後、60℃で1時間撹拌し、反応させた。反応終了後、室温まで放冷して濾過し、得られた固体を70℃で乾燥することで、式(31)で表される化合物 35.2部を得た。式(31)で表される化合物 35.2部と4-ニトロ-4’-アミノスチルベン-2,2’-ジスルホン酸 66.7部を800部の水に加え60℃まで加熱し、pH6~7になるように調整しながら25%苛性ソーダを加えて、前記化合物を溶解させた。クロロギ酸フェニル 25.9部を、1時間程度かけて少しずつ加えた。全て添加した後、60℃で1時間撹拌し、反応させた。反応終了後、室温まで放冷して濾過し、得られた固体を70℃で乾燥することで、式(22)で表される化合物 66.5部を得た。実施例1の偏光発光素子及び偏光発光板の作製において、式(16)で表される化合物に代えて式(22)で表される化合物を用いた以外は同様にして、実施例5の測定試料を得た。
【化13】
【0091】
[実施例s1]
4-ニトロ-4’-アミノスチルベン-2,2’-ジスルホン酸 80部を1000部の水に加え60℃まで加熱し、pH6~7になるように調整しながら25%苛性ソーダを加えて、前記化合物を溶解させた。4,4’-ビフェニルジカルボニルクロリド 27.8部を、1時間程度かけて少しずつ加えた。全て添加した後、60℃で1時間撹拌して、反応させた。反応終了後、室温まで放冷して濾過し、得られた固体を70℃で乾燥することで、式(s14)で表される化合物 70部を得た。実施例1の偏光発光素子及び偏光発光板の作製において、式(16)で表される化合物に代えて式(s14)で表される化合物を用いた以外は同様にして、実施例s1の測定試料を得た。
【化14】
【0092】
[実施例s2]
式(s28)で表される化合物 136部を、1000部の水に加え60℃まで加熱し、pH6~7になるように調整しながら25%苛性ソーダを加えて、前記化合物を溶解させた。4,4’-ビフェニルジカルボニルクロリド 27.8部を、1時間程度かけて少しずつ加えた。全て添加した後、60℃で1時間撹拌して、反応させた。反応終了後、室温まで放冷して濾過し、得られた固体を70℃で乾燥することで、式(s15)で表される化合物 103部を得た。実施例1の偏光発光素子及び偏光発光板の作製において、式(16)で表される化合物に代えて式(s15)で表される化合物を用いた以外は同様にして、実施例s2の測定試料を得た。
【化15】
【化16】
【0093】
[実施例s3]
4-ニトロ-4’-アミノスチルベン-2,2’-ジスルホン酸 40部と式(s28)で表される化合物 68.2部を、1000部の水に加え60℃まで加熱し、pH6~7になるように調整しながら25%苛性ソーダを加えて、前記化合物を溶解させた。4,4’-ビフェニルジカルボニルクロリド 40部を、1時間程度かけて少しずつ加えた。全て手添加した後、60℃で1時間撹拌して、反応させた。反応終了後、室温まで放冷して濾過し、得られた固体を70℃で乾燥することで、式(s29)で表される化合物 90.1部を得た。実施例1の偏光発光素子及び偏光発光板の作製において、式(16)で表される化合物に代えて式(s29)で表される化合物を用いた以外は同様にして、実施例s3の測定試料を得た。
【化17】
【0094】
[実施例s4]
4,4’-ジアミノスチルベン-2,2’-ジスルホン酸 74.0部を1000部の水に加え60℃まで加熱し、pH6~7になるように調整しながら25%苛性ソーダを加えて、前記化合物を溶解させた。4,4’-ビフェニルジカルボニルクロリド 27.8部を、1時間程度かけて少しずつ加えた。全て添加した後、60℃で1時間撹拌し、反応させた。反応終了後、室温まで放冷して濾過し、得られた固体を70℃で乾燥することで、式(s12)で表される化合物 66.2部を得た。実施例1の偏光発光素子及び偏光発光板の作製において、式(16)で表される化合物に代えて式(s12)で表される化合物を用いた以外は同様にして、実施例s4の測定試料を得た。
【化18】
【0095】
[実施例s5]
実施例4で得られる式(s12)で表される化合物 94.6部と、4-ニトロ-4’-アミノスチルベン-2,2’-ジスルホン酸 80部を1000部の水に加え60℃まで加熱し、pH6~7になるように調整しながら25%苛性ソーダを加えて、前記化合物を溶解させた。クロロギ酸フェニル 31.2部を、1時間程度かけて少しずつ加えた。全て添加した後、60℃で1時間撹拌し、反応させた。反応終了後、室温まで放冷して濾過し、得られた固体を70℃で乾燥することで、式(s19)で表される化合物 122.2部を得た。実施例1の偏光発光素子及び偏光発光板の作製において、式(16)で表される化合物に代えて式(s19)で表される化合物を用いた以外は同様にして、実施例s5の測定試料を得た。
【化19】
【0096】
[比較例1]
実施例1の偏光発光素子及び偏光発光板の作製において、式(16)で表される化合物に代えて特開平4-226162号公報に記載されている式(c1)で表される化合物を用いた以外は同様にして、比較例1の測定試料を得た。
【化20】
【0097】
[比較例2]
実施例1の偏光発光素子及び偏光発光板の作製において、式(16)で表される化合物に代えて式(c2)で表される化合物であるC.I.Direct Yellow 4を用いた以外は同様にして、比較例2の測定試料を得た。
【化21】
【0098】
[比較例3]
実施例1の偏光発光素子及び偏光発光板の作製において、式(16)で表される化合物に代えて式(c3)で表される化合物を用いた以外は同様にして、比較例3の測定試料を得た。
【化22】
【0099】
[評価]
実施例1~5及びs1~s5並びに比較例1~3で得られた測定試料を使用して、評価を次のようにして行った。
【0100】
(a)単体透過率Ts、平行位透過率Tp、及び直交位透過率Tcの測定
各測定試料の単体透過率Ts(%)、平行位透過率Tp(%)、及び直交位透過率Tc(%)を、分光光度計(日立製作所社製「U-4100」)を用いて測定した。ここで、単体透過率Ts(%)は、測定試料を1枚で測定した際の各波長の透過率である。平行位透過率Tp(%)は、2枚の測定試料をその吸収軸方向が平行となるように重ね合せて測定した各波長の分光透過率である。直交位透過率Tc(%)は、2枚の測定試料をその吸収軸が直交するように重ね合せて測定した分光透過率である。各透過率の測定は、220~780nmの波長にわたって行った。
【0101】
(b)偏光度ρの算出
各測定試料の偏光度ρ(%)を、以下の式(I)に平行透過率Tp及び直交透過率Tcを代入して求めた。
【数1】
【0102】
(c)視感度に補正された単体透過率Ysの算出
各測定試料の視感度に補正された単体透過率Ys(%)は、可視域における400~700nmの波長領域で、所定波長間隔dλ(ここでは5nm)おきに求めた上記単体透過率Tsを、JIS Z 8722:2009に従って視感度に補正して得られた透過率である。具体的には、単体透過率Tsを式(II)に代入して視感度補正単体透過率Ysを算出した。なお、下記式(II)中、Pλは標準光(C光源)の分光分布を表し、yλは2度視野等色関数を表す。
【数2】
【0103】
(d)発光した偏光した光の測定
光源として、紫外線LED 375nmハンドライトタイプ ブラックライト(日亜化学工業社製「PW-UV943H-04」)を用い、紫外線透過及び可視光カットフィルター(五鈴精工硝子社製「IUV-340」)を光源に設置し可視光をカットした。各実施例及び比較例で得られた測定試料を設置し、測定試料が発光している偏光した光を分光放射照度計(ウシオ電機社製「USR-40」)を用いて測定するに際し、可視域及び紫外に偏光機能を有する偏光板(ポラテクノ社製「SKN-18043P」、厚さ180μm、Ysは43%)を分光放射照度計の受光部に設置し、各実施例及び比較例で得られた測定試料の偏光発光光量を測定した。すなわち、光源からの光が、紫外線透過及び可視光カットフィルター、測定試料、可視域及び紫外に偏光を有する偏光板の順に通過し、分光放射照度計に入射するように配置して測定した。その際に、測定試料の紫外線の吸収が最大になる吸収軸と、可視域及び紫外に偏光を有する偏光板(ポラテクノ社製「SKN-18043P」)の吸収軸方向が平行となるように重ね合せて測定した各波長の分光発光量をLw(弱発光軸)、測定試料の紫外線の吸収が最大になる吸収軸と、可視域及び紫外に偏光を有する偏光板(ポラテクノ社製「SKN-18043P」)の吸収軸方向が直交となるように重ね合せて測定した各波長の分光発光量をLs(強発光軸)として、Lw及びLsを測定した。測定試料と一般的な偏光板との吸収軸が平行な場合と、直交の場合との可視域で発光された光のエネルギー量を確認することで、可視域である400~700nmにおいて偏光発光光の評価を行った。
【0104】
(e)耐光性試験
スガ試験機社製 SX-75を用いて、照射照度60W、環境温度50℃、及び相対湿度30%RHにて500時間光照射を行い、耐光性試験を行った。その際の各波長のLs及びLwの変化を確認した。
【0105】
表1に実施例1~5及びs1~s5並びに比較例1~3で得られた各測定試料の最大偏光度を示す波長と、最大偏光度を示す波長における単体透過率Ts(%)、平行位透過率Tp(%)、直交位透過率Tc(%)、及び偏光度ρ(%)と、視感度に補正した単体透過率Ys(%)と、視感度に補正した偏光度ρy(%)を示す。
【表1】
【0106】
下記表2に実施例1~5及びs1~s5並びに比較例1~3で得られた各測定試料の各波長のLs及びLwを示す。
【表2】
【0107】
下記表3に実施例1~5及びs1~s5並びに比較例1で得られた各測定試料の耐光性試験後の各波長のLs及びLwを示す。
【表3】
【0108】
表1に示されるように、実施例1~5及びs1~s5並びに比較例1の測定試料は、紫外域~近紫外可視域に吸収を持ち、その帯域で偏光発光板として機能していることが分かる。一方で、可視域の透過率(視感度補正透過率Ys)は90%以上を示しており、紫外域~近紫外可視域に偏光機能を有しながらも可視透明度が高いことが分かった。これに対して、比較例2及び3は、最大偏光度を示す波長が400nm以上にあり、視感度補正透過率Ysが低下していることから、可視透過率の低下が見られた。
【0109】
さらに、表2に示されるように、実施例1~5及びs1~s5並びに比較例1においては、LwとLsが検出されたことから、紫外線を照射することによってそれらの試料は偏光を発光することが分かった。一方で、実施例1~5及びs1~s5において、比較例1よりも最大発光輝度が高かった、又は、400~700nmの広い帯域に渡って高い偏光を発光していた。
【0110】
また、表3に示されるように、実施例1及びs1~s3は、比較例1よりも高い耐光性を有していた。よって、本発明の偏光発光素子、及びそれを用いた偏光発光板は、紫外線照射により可視域の偏光を発光する偏光発光素子として機能しているだけでなく、高い耐光性を有していることが示された。
【0111】
(f)耐久性試験
実施例1~5及びs1~s5において得られた偏光発光板を、105℃の環境で1000時間と、60度かつ相対湿度90%の環境で1000時間置き、耐久性試験を実施したところ、偏光度の低下、及び、偏光した光の発光の変化は見られなかった。このことから実施例1~5及びs1~s5の偏光発光素子及び偏光発光板は苛酷な環境下においても高い耐久性を有していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0112】
本発明に係る発光性化合物を、基材に含有させて用いることで、吸収波長に高い偏光度を有するだけでなく偏光発光作用を示す偏光発光素子及び偏光発光板を得ることができる。また、このような偏光発光素子及び偏光発光板は、優れた耐久性を具備しつつ、可視光域で高い透過率を有する。したがって、本発明に係る偏光発光素子又は偏光発光板を備える表示装置は、可視光領域で透明性が高く、長期にわたって偏光発光による画像表示ができるため、テレビ、パソコン、タブレット端末、さらには、透明ディスプレイ(シースルーディスプレイ)等、幅広い用途へ適用可能である。さらに、本発明に係る発光性化合物を含む偏光発光素子及び偏光発光板は、紫外域~近紫外可視域の光、例えば300~430nmの光により発光可能であるため、高いセキュリティが要求されるディスプレイや媒体に応用することも可能である。