(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】ドープ電極の製造方法及び蓄電デバイスの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01M 4/139 20100101AFI20240918BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20240918BHJP
H01G 11/50 20130101ALI20240918BHJP
H01G 11/06 20130101ALI20240918BHJP
H01G 11/86 20130101ALI20240918BHJP
【FI】
H01M4/139
H01M4/13
H01G11/50
H01G11/06
H01G11/86
(21)【出願番号】P 2021542057
(86)(22)【出願日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 JP2020025044
(87)【国際公開番号】W WO2021039085
(87)【国際公開日】2021-03-04
【審査請求日】2022-12-14
(31)【優先権主張番号】P 2019158839
(32)【優先日】2019-08-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】307037543
【氏名又は名称】武蔵エナジーソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 浩史
(72)【発明者】
【氏名】小島 健治
(72)【発明者】
【氏名】直井 雅也
(72)【発明者】
【氏名】安東 信雄
(72)【発明者】
【氏名】薬師寺 広基
(72)【発明者】
【氏名】相田 一成
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅浩
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-145386(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第109742325(CN,A)
【文献】特開2018-170251(JP,A)
【文献】特開2018-206560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01G 11/00-11/86
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルカリ金属がドープされた活物質を含むドープ電極を製造する電極製造方法であって、
集電体と、前記集電体の表面に形成され、前記活物質を含む活物質層とを備え、長手方向に延びる帯状の形態を有する電極に対し、アルカリ金属イオンを含み、流動しているドープ溶液が接触した状態で、前記電極に対向して設けられた対極ユニットを用いてアルカリ金属を電気的に前記活物質にドープし、
アルカリ金属を前記活物質にドープするとき、前記ドープ溶液中で前記電極を前記長手方向に移動させ、
前記電極と前記対極ユニットとの間に位置するノズルから前記ドープ溶液を送り出すことにより、前記ドープ溶液を流動させるドープ電極の製造方法。
【請求項2】
請求項1
に記載のドープ電極の製造方法であって、
前記電極の面積当たりの電流密度Iが5mA/cm
2以上、500mA/cm
2以下であるドープ電極の製造方法。
【請求項3】
請求項
2に記載のドープ電極の製造方法であって、
前記電流密度Iが75mA/cm
2以上500mA/cm
2以下であり、
以下の式(1)の関係が成立するドープ電極の製造方法。
式(1) 10≦I/J≦100
(式(1)においてJは、cm/secを単位とする前記ドープ溶液の平均流速である)
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項に記載のドープ電極の製造方法であって、
アルカリ金属を前記活物質にドープするとき、前記ドープ溶液の流動方向が、前記電極の表面に対して略平行であるドープ電極の製造方法。
【請求項5】
請求項
4に記載のドープ電極の製造方法であって、
アルカリ金属を前記活物質にドープするとき、前記ドープ溶液の流動方向が、前記長手方向に対して略直交するドープ電極の製造方法。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1項に記載のドープ電極の製造方法であって、
アルカリ金属を前記活物質にドープするとき、前記ドープ溶液の温度が40℃以上100℃以下であるドープ電極の製造方法。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1項に記載のドープ電極の製造方法であって、
前記ドープ溶液における電解質濃度が、0.8モル/L以上5.0モル/L以下であるドープ電極の製造方法。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれか1項に記載のドープ電極の製造方法であって、
前記ドープ溶液の溶媒が、カーボネート系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、ニトリル系溶剤、含硫黄系溶剤、及びアミド系溶剤から成る群から選択される1種以上であるドープ電極の製造方法。
【請求項9】
電極セルを備える蓄電デバイスの製造方法であって、
負極集電体と、前記負極集電体の表面に形成され、活物質を含む負極活物質層とを備え、長手方向に延びる帯状の形態を有する負極に対して、アルカリ金属イオンを含み、流動しているドープ溶液が接触した状態で、前記負極に対向して設けられた対極ユニットを用いてアルカリ金属を電気的に前記活物質にドープし、
アルカリ金属を前記活物質にドープした後、前記負極と、前記負極とは異なる電極とを積層して前記電極セルを形成し、
アルカリ金属を前記活物質にドープするとき、前記ドープ溶液中で前記負極を前記長手方向に移動させ、
前記負極と前記対極ユニットとの間に位置するノズルから前記ドープ溶液を送り出すことにより、前記ドープ溶液を流動させる蓄電デバイスの製造方法。
【請求項10】
集電体と、前記集電体の表面に形成され、活物質を含む活物質層とを備え、長手方向に延びる帯状の形態を有する電極に対し、前記電極に対向して設けられた対極ユニットを用いてアルカリ金属を電気的に前記活物質にドープする処理を行うことで、アルカリ金属がドープされた前記活物質を含むドープ電極を製造する電極製造システムであって、
アルカリ金属イオンを含むドープ溶液を収容し、前記処理が行われるドープ槽と、
前記電極と前記対極ユニットとの間に位置するノズルから前記ドープ溶液を送り出すことにより、前記ドープ槽に収容された前記ドープ溶液を流動させる流動ユニットと、
を備え、
アルカリ金属を前記活物質にドープするとき、前記ドープ溶液中で前記電極を前記長手方向に移動させる電極製造システム。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本国際出願は、2019年8月30日に日本国特許庁に出願された日本国特許出願第2019-158839号に基づく優先権を主張するものであり、日本国特許出願第2019-158839号の全内容を本国際出願に参照により援用する。
【技術分野】
【0002】
本開示はドープ電極の製造方法、蓄電デバイスの製造方法、電極製造システム、及びドープ電極に関する。
【背景技術】
【0003】
近年、電子機器の小型化・軽量化は目覚ましい。それに伴い、当該電子機器の駆動用電源として用いられる電池に対しても小型化・軽量化の要求が一層高まっている。
【0004】
このような小型化・軽量化の要求を満足するために、リチウムイオン二次電池に代表される非水電解質二次電池が開発されている。また、高エネルギー密度特性及び高出力特性を必要とする用途に対応する蓄電デバイスとして、リチウムイオンキャパシタが知られている。更に、リチウムより低コストで資源的に豊富なナトリウムを用いたナトリウムイオン型の電池やキャパシタも知られている。
【0005】
このような電池やキャパシタにおいては、様々な目的のために、予めアルカリ金属を電極にドープするプロセス(一般にプレドープと呼ばれている)が採用されている。アルカリ金属を電極にプレドープする方法として、例えば、連続式の方法がある。連続式の方法では、帯状の電極をドープ溶液中で移送させながらプレドープを行う。連続式の方法は、特許文献1~4に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平10-308212号公報
【文献】特開2008-77963号公報
【文献】特開2012-49543号公報
【文献】特開2012-49544号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
プレドープにおけるドープ速度を向上させる必要がある。本開示の1つの局面では、プレドープにおけるドープ速度を向上させることができるドープ電極の製造方法、蓄電デバイスの製造方法、電極製造システム、及び蓄電デバイスを提供することが好ましい。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の1つの局面は、アルカリ金属がドープされた活物質を含むドープ電極を製造する電極製造方法であって、集電体と、前記集電体の表面に形成され、前記活物質を含む活物質層とを備える電極に対し、アルカリ金属イオンを含み、流動しているドープ溶液を接触させることで、アルカリ金属を前記活物質にドープするドープ電極の製造方法である。
【0009】
本開示の1つの局面であるドープ電極の製造方法は、プレドープにおけるドープ速度を向上させることができる。
【0010】
本開示の別の局面は、電極セルを備える蓄電デバイスの製造方法であって、負極集電体と、前記負極集電体の表面に形成され、活物質を含む負極活物質層とを備える負極に対して、アルカリ金属イオンを含み、流動しているドープ溶液を接触させることで、アルカリ金属を前記活物質にドープし、アルカリ金属を前記活物質にドープした後、前記負極と、前記負極とは異なる電極とを積層して前記電極セルを形成する蓄電デバイスの製造方法である。
【0011】
本開示の別の局面である蓄電デバイスの製造方法は、負極のプレドープにおけるドープ速度を向上させることができる。
【0012】
本開示の別の局面は、集電体と、前記集電体の表面に形成され、活物質を含む活物質層とを備える電極に対し、アルカリ金属を前記活物質にドープする処理を行うことで、アルカリ金属がドープされた前記活物質を含むドープ電極を製造する電極製造システムである。
【0013】
電極製造システムは、アルカリ金属イオンを含むドープ溶液を収容し、前記処理が行われるドープ槽と、前記ドープ槽に収容された前記ドープ溶液を流動させる流動ユニットと、を備える。
【0014】
本開示の別の局面である電極製造システムは、プレドープにおけるドープ速度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】
図1におけるII-II断面を表す断面図である。
【
図3】電極製造システムの構成を表す説明図である。
【
図7】上方から見たときの、ノズル、電極、及び対極ユニットの配置を表す説明図である。
【
図8】上方から見たときの、ノズル、電極、及び対極ユニットの別形態の配置を表す説明図である。
【
図13】テフロン(登録商標)板の構成を表す平面図である。
【
図15】簡易ドープ電極製造装置の構成を表す側面図である。
【
図16】対極ユニット及びノズルの構成を表す説明図である。
【
図17】対極ユニット及びノズルの構成を表す説明図である。
【符号の説明】
【0016】
1…電極、3…集電体、5…活物質層、6…活物質層形成部、7…活物質層未形成部、11…電極製造システム、15…電解液処理槽、17、19、21…ドープ槽、23…洗浄槽、25、27、29、31、33、35、37、39、40、41、43、45、46、47、49、51、52、53、55、57、58、59、61、63、64、65、67、69、70、71、73、75、77、79、81、83、85、87、89、91、93…搬送ローラ、101…供給ロール、103…巻取ロール、105…支持台、107…循環濾過ユニット、109、110、111、112、113、114…電源、117…タブクリーナー、119…回収ユニット、121…端部センサ、131…上流槽、133…下流槽、137、139、141、143…対極ユニット、149、151…空間、153…導電性基材、155…アルカリ金属含有板、157…多孔質絶縁部材、161…フィルタ、163…ポンプ、165…配管、201…流動ユニット、203、205、207、209、211、213、215、217…ノズル、219、221…ポンプ、223、225、227、229…配管、231…孔、301…電極試験体、303…本体部、305…突出部、307…リード、309…テフロン板、311…開口部、312…電極ユニット、313…ステンレス板、315…凹部、317…ねじ穴、319…チューブコネクタ、321…フッ素ゴムチューブ、323…リチウム金属板、325…テフロン板、327…開口部、329…本体部、331…切り欠き部、333…対極ユニット、335…スペーサ、337…開口部、339…簡易ドープ電極製造装置、401…枠体、403…バスバー、405…導電スペーサ、407…銅板、409…リチウム板、411…マスク、413、415、417…ノズル、419、421、423…配管、431…孔
【発明を実施するための形態】
【0017】
本開示の例示的な実施形態について図面を参照しながら説明する。
<第1実施形態>
1.電極1の構成
図1、
図2に基づき、電極1の構成を説明する。電極1は帯状の形状を有する。電極1は、集電体3と、活物質層5とを備える。集電体3は帯状の形状を有する。活物質層5は、集電体3の両面にそれぞれ形成されている。
【0018】
電極1の表面には、活物質層形成部6と、活物質層未形成部7とがある。活物質層形成部6は、活物質層5が形成された部分である。活物質層未形成部7は、活物質層5が形成されていない部分である。活物質層未形成部7では、集電体3が露出している。
【0019】
活物質層未形成部7は、電極1の長手方向Lに延びる帯状の形態を有する。活物質層未形成部7は、電極1の幅方向Wにおいて、電極1の端部に位置する。
【0020】
集電体3として、例えば、銅、ニッケル、ステンレス等の金属箔が好ましい。また、集電体3は、前記金属箔上に炭素材料を主成分とする導電層が形成されたものであってもよい。集電体3の厚みは、例えば、5~50μmである。
【0021】
活物質層5は、例えば、活物質及びバインダー等を含有するスラリーを集電体3上に塗布し、乾燥させることにより作製できる。
【0022】
前記バインダーとして、例えば、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、NBR等のゴム系バインダー;ポリ四フッ化エチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素系樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン、特開2009-246137号公報に開示されているようなフッ素変性(メタ)アクリル系バインダー等が挙げられる。
【0023】
前記スラリーは、活物質及びバインダーに加えて、その他の成分を含んでいてもよい。その他の成分として、例えば、導電剤、増粘剤等が挙げられる。導電剤として、例えば、カーボンブラック、黒鉛、気相成長炭素繊維、金属粉末等が挙げられる。増粘剤として、例えば、カルボキシルメチルセルロース、そのNa塩又はアンモニウム塩、メチルセルロース、ヒドロキシメチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、酸化スターチ、リン酸化スターチ、カゼイン等が挙げられる。
【0024】
活物質層5の厚さは特に限定されない。活物質層5の厚さは、例えば、5μm以上、500μm以下、好ましくは10μm以上、200μm以下、特に好ましくは10μm以上、100μm以下である。
【0025】
活物質層5に含まれる活物質は、アルカリ金属イオンの挿入及び脱離を利用する電池又はキャパシタに適用可能な電極活物質であれば特に限定されない。活物質は、負極活物質であってもよいし、正極活物質であってもよい。
【0026】
負極活物質は特に限定されない。負極活物質として、例えば、黒鉛、易黒鉛化炭素、難黒鉛化炭素、又は黒鉛粒子をピッチや樹脂の炭化物で被覆した複合炭素材料等の炭素材料;リチウムと合金化が可能なSi、Sn等の金属又は半金属若しくはこれらの酸化物を含む材料等が挙げられる。
【0027】
炭素材料の具体例として、特開2013-258392号公報に記載の炭素材料が挙げられる。リチウムと合金化が可能な金属又は半金属若しくはこれらの酸化物を含む材料の具体例として、特開2005-123175号公報、及び特開2006-107795号公報に記載の材料が挙げられる。
【0028】
正極活物質として、例えば、コバルト酸化物、ニッケル酸化物、マンガン酸化物、バナジウム酸化物等の遷移金属酸化物;硫黄単体、金属硫化物等の硫黄系活物質が挙げられる。正極活物質、及び負極活物質のいずれにおいても、単一の物質から成るものであってもよいし、2種以上の物質を混合して成るものであってもよい。
【0029】
活物質層5が含む活物質には、後述する電極製造システム11を用いて、アルカリ金属がプレドープされる。活物質にプレドープするアルカリ金属として、リチウム又はナトリウムが好ましく、特にリチウムが好ましい。電極1をリチウムイオン二次電池の電極の製造に用いる場合、活物質層5の密度は、好ましくは1.30g/cc以上、2.00g/cc以下であり、特に好ましくは1.40g/cc以上、1.90g/cc以下である。また、電極1をリチウムイオンキャパシタの電極の製造に用いる場合、活物質層5の密度は、好ましくは0.50g/cc以上、1.50g/cc以下であり、特に好ましくは0.60g/cc以上、1.20g/cc以下である。
【0030】
2.電極製造システム11の構成
電極製造システム11の構成を、
図3~
図7に基づき説明する。
図3に示すように、電極製造システム11は、電解液処理槽15と、ドープ槽17、19、21と、洗浄槽23と、搬送ローラ25、27、29、31、33、35、37、39、40、41、43、45、46、47、49、51、52、53、55、57、58、59、61、63、64、65、67、69、70、71、73、75、77、79、81、83、85、87、89、91、93(以下ではこれらをまとめて搬送ローラ群と呼ぶこともある)と、供給ロール101と、巻取ロール103と、支持台105と、循環濾過ユニット107と、6つの電源109、110、111、112、113、114と、タブクリーナー117と、回収ユニット119と、端部センサ121と、を備える。なお、
図3では、後述する流動ユニット201の記載は便宜上省略している。
【0031】
電解液処理槽15は、上方が開口した角型の槽である。電解液処理槽15の底面は、略U字型の断面形状を有する。電解液処理槽15は、仕切り板123を備える。仕切り板123は、その上端を貫く支持棒125により支持されている。支持棒125は図示しない壁等に固定されている。仕切り板123は上下方向に延び、電解液処理槽15の内部を2つの空間に分割している。
【0032】
電解液処理槽15は、電極1がドープ槽17、19、21に至る前に、電極1を電解液に含侵させる。そのため、電極1は一層ドープされ易くなる。その結果、所望のドープ電極を得ることが一層容易になる。
【0033】
仕切り板123の下端に、搬送ローラ33が取り付けられている。仕切り板123と搬送ローラ33とは、それらを貫く支持棒127により支持されている。なお、仕切り板123の下端付近は、搬送ローラ33と接触しないように切り欠かれている。搬送ローラ33と、電解液処理槽15の底面との間には空間が存在する。
【0034】
ドープ槽17の構成を
図4に基づき説明する。ドープ槽17は、上流槽131と下流槽133とから構成される。上流槽131は供給ロール101の側(以下では上流側とする)に配置され、下流槽133は巻取ロール103の側(以下では下流側とする)に配置されている。
【0035】
まず、上流槽131の構成を説明する。上流槽131は上方が開口した角型の槽である。上流槽131の底面は、略U字型の断面形状を有する。上流槽131は、仕切り板135と、4個の対極ユニット137、139、141、143と、を備える。
【0036】
仕切り板135は、その上端を貫く支持棒145により支持されている。支持棒145は図示しない壁等に固定されている。仕切り板135は上下方向に延び、上流槽131の内部を2つの空間に分割している。仕切り板135の下端に、搬送ローラ40が取り付けられている。仕切り板135と搬送ローラ40とは、それらを貫く支持棒147により支持されている。なお、仕切り板135の下端付近は、搬送ローラ40と接触しないように切り欠かれている。搬送ローラ40と、上流槽131の底面との間には空間が存在する。
【0037】
対極ユニット137は、上流槽131のうち、上流側に配置されている。対極ユニット139、141は、仕切り板135を両側から挟むように配置されている。対極ユニット143は、上流槽131のうち、下流側に配置されている。
【0038】
対極ユニット137と対極ユニット139との間には空間149が存在する。対極ユニット141と対極ユニット143との間には空間151が存在する。対極ユニット137、139、141、143は、電源109の一方の極に接続される。対極ユニット137、139、141、143は同様の構成を有する。ここでは、
図5に基づき、対極ユニット137、139の構成を説明する。
【0039】
対極ユニット137、139は、導電性基材153と、アルカリ金属含有板155と、多孔質絶縁部材157とを積層した構成を有する。導電性基材153の材質として、例えば、銅、ステンレス、ニッケル等が挙げられる。アルカリ金属含有板155の形態は特に限定されず、例えば、アルカリ金属板、アルカリ金属の合金板等が挙げられる。アルカリ金属含有板155に含まれるアルカリ金属として、例えば、リチウム、ナトリウム等が挙げられる。アルカリ金属含有板155の厚さは、例えば、0.03~6mmである。
【0040】
多孔質絶縁部材157は、板状の形状を有する。多孔質絶縁部材157は、アルカリ金属含有板155の上に積層されている。多孔質絶縁部材157が有する板状の形状とは、多孔質絶縁部材157がアルカリ金属含有板155の上に積層されている際の形状である。多孔質絶縁部材157は、それ自体で一定の形状を保つ部材であってもよいし、例えばネット等のように、容易に変形可能な部材であってもよい。
【0041】
多孔質絶縁部材157は多孔質である。そのため、後述するドープ溶液は、多孔質絶縁部材157を通過することができる。そのことにより、アルカリ金属含有板155は、ドープ溶液に接触することができる。
【0042】
多孔質絶縁部材157として、例えば、樹脂製のメッシュ等が挙げられる。樹脂として、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。メッシュの目開きは適宜設定できる。メッシュの目開きは、例えば、0.1μm~10mmであり、0.1~5mmであることが好ましい。メッシュの厚みは適宜設定できる。
【0043】
メッシュの厚みは、例えば、1μm~10mmであり、30μm~1mmであることが好ましい。メッシュの目開き率は適宜設定できる。メッシュの目開き率は、例えば、5~98%であり、5~95%であることが好ましく、50~95%であることがさらに好ましい。
【0044】
多孔質絶縁部材157は、その全体が絶縁性の材料から成っていてもよいし、その一部に絶縁性の層を備えていてもよい。
【0045】
下流槽133は、基本的には上流槽131とは同様の構成を有する。ただし、下流槽133の内部には、搬送ローラ40ではなく、搬送ローラ46が存在する。また、下流槽133が備える対極ユニット137、139、141、143は、電源110の一方の極に接続される。
【0046】
ドープ槽19は、基本的にはドープ槽17と同様の構成を備える。ただし、ドープ槽19の内部には、搬送ローラ40、46ではなく、搬送ローラ52、58が存在する。また、ドープ槽19の上流槽131が備える対極ユニット137、139、141、143は、電源111の一方の極に接続される。また、ドープ槽19の下流槽133が備える対極ユニット137、139、141、143は、電源112の一方の極に接続される。
【0047】
ドープ槽21は、基本的にはドープ槽17と同様の構成を備える。ただし、ドープ槽21の内部には、搬送ローラ40、46ではなく、搬送ローラ64、70が存在する。また、ドープ槽21の上流槽131が備える対極ユニット137、139、141、143は、電源113の一方の極に接続される。また、ドープ槽21の下流槽133が備える対極ユニット137、139、141、143は、電源114の一方の極に接続される。
【0048】
洗浄槽23は、基本的には電解液処理槽15と同様の構成を有する。ただし、洗浄槽23の内部には、搬送ローラ33ではなく、搬送ローラ75が存在する。ドープ槽21を通過した電極1には、ドープ槽21から持ち出した電解液が付着している。洗浄槽23において、電極1に付着している電解液は効率的に除去される。そのため、次工程での電極1の取り扱いが容易になる。
【0049】
搬送ローラ群のうち、搬送ローラ37、39、43、45、49、51、55、57、61、63、67、69は、導電性の材料から成る。搬送ローラ群のうち、その他の搬送ローラは、軸受部分を除き、エラストマーから成る。搬送ローラ群は、電極1を一定の経路に沿って搬送する。搬送ローラ群が電極1を搬送する経路は、供給ロール101から、電解液処理槽15の中、ドープ槽17の中、ドープ槽19の中、ドープ槽21の中、洗浄槽23の中、タブクリーナー117の中を順次通り、巻取ロール103に至る経路である。
【0050】
その経路のうち、電解液処理槽15の中を通る部分は、まず、搬送ローラ29、31を経て下方に移動し、次に、搬送ローラ33により移動方向を上向きに変えられるという経路である。
【0051】
また、前記の経路のうち、ドープ槽17の中を通る部分は以下のとおりである。まず、搬送ローラ37により移動方向を下向きに変えられ、上流槽131の空間149を下方に移動する。次に、搬送ローラ40により移動方向を上向きに変えられ、上流槽131の空間151を上方に移動する。次に、搬送ローラ41、43により移動方向を下向きに変えられ、下流槽133の空間149を下方に移動する。次に、搬送ローラ46により移動方向を上向きに変えられ、下流槽133の空間151を上方に移動する。最後に、搬送ローラ47により移動方向を水平方向に変えられ、ドープ槽19に向かう。
【0052】
また、前記の経路のうち、ドープ槽19の中を通る部分は以下のとおりである。まず、搬送ローラ49により移動方向を下向きに変えられ、上流槽131の空間149を下方に移動する。次に、搬送ローラ52により移動方向を上向きに変えられ、上流槽131の空間151を上方に移動する。次に、搬送ローラ53、55により移動方向を下向きに変えられ、下流槽133の空間149を下方に移動する。次に、搬送ローラ58により移動方向を上向きに変えられ、下流槽133の空間151を上方に移動する。最後に、搬送ローラ59により移動方向を水平方向に変えられ、ドープ槽21に向かう。
【0053】
また、前記の経路のうち、ドープ槽21の中を通る部分は以下のとおりである。まず、搬送ローラ61により移動方向を下向きに変えられ、上流槽131の空間149を下方に移動する。次に、搬送ローラ64により移動方向を上向きに変えられ、上流槽131の空間151を上方に移動する。次に、搬送ローラ65、67により移動方向を下向きに変えられ、下流槽133の空間149を下方に移動する。次に、搬送ローラ70により移動方向を上向きに変えられ、下流槽133の空間151を上方に移動する。最後に、搬送ローラ71により移動方向を水平方向に変えられ、洗浄槽23に向かう。
【0054】
また、前記の経路のうち、洗浄槽23の中を通る部分は、まず、搬送ローラ73により移動方向を下向きに変えられて下方に移動し、次に、搬送ローラ75により移動方向を上向きに変えられるという経路である。
【0055】
供給ロール101は、電極1を巻き回している。すなわち、供給ロール101は、巻き取られた状態の電極1を保持している。供給ロール101に保持されている電極1における活物質には、未だアルカリ金属がドープされていない。
【0056】
搬送ローラ群は、供給ロール101に保持された電極1を引き出し、搬送する。巻取ロール103は、搬送ローラ群により搬送されてきた電極1を巻き取り、保管する。なお、巻取ロール103に保管されている電極1は、ドープ槽17、19、21において、プレドープの処理を受けている。そのため、巻取ロール103に保管されている電極1における活物質には、アルカリ金属がドープされている。巻取ロール103に保管されている電極1はドープ電極に対応する。
【0057】
支持台105は、電解液処理槽15、ドープ槽17、19、21、及び洗浄槽23を下方から支持する。支持台105は、その高さを変えることができる。循環濾過ユニット107は、ドープ槽17、19、21にそれぞれ設けられている。循環濾過ユニット107は、フィルタ161と、ポンプ163と、配管165と、を備える。
【0058】
ドープ槽17に設けられた循環濾過ユニット107において、配管165は、ドープ槽17から出て、ポンプ163、及びフィルタ161を順次通り、ドープ槽17に戻る循環配管である。ドープ槽17内ドープ溶液は、ポンプ163の駆動力により、配管165、及びフィルタ161内を循環し、再びドープ槽17に戻る。このとき、ドープ溶液中の異物等は、フィルタ161により濾過される。異物として、ドープ溶液から析出した異物や、電極1から発生する異物等が挙げられる。フィルタ161の材質は、例えば、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン等の樹脂である。フィルタ161の孔径は適宜設定できる。フィルタ161の孔径は、例えば、0.2μm以上50μm以下である。
【0059】
ドープ槽19、21に設けられた循環濾過ユニット107も、同様の構成を有し、同様の作用効果を奏する。なお、
図3、
図4において、ドープ溶液の記載は便宜上省略している。
【0060】
電源109の一方の端子は、搬送ローラ37、39と接続する。また、電源109の他方の端子は、ドープ槽17の上流槽131が備える対極ユニット137、139、141、143と接続する。電極1は搬送ローラ37、39と接触する。電極1と対極ユニット137、139、141、143とは、電解液であるドープ溶液中にある。そのため、ドープ槽17の上流槽131において、電極1と対極ユニット137、139、141、143とは電解液を介して電気的に接続する。
【0061】
電源110の一方の端子は、搬送ローラ43、45と接続する。また、電源110の他方の端子は、ドープ槽17の下流槽133が備える対極ユニット137、139、141、143と接続する。電極1は搬送ローラ43、45と接触する。電極1と対極ユニット137、139、141、143とは、電解液であるドープ溶液中にある。そのため、ドープ槽17の下流槽133において、電極1と対極ユニット137、139、141、143とは電解液を介して電気的に接続する。
【0062】
電源111の一方の端子は、搬送ローラ49、51と接続する。また、電源111の他方の端子は、ドープ槽19の上流槽131が備える対極ユニット137、139、141、143と接続する。電極1は搬送ローラ49、51と接触する。電極1と対極ユニット137、139、141、143とは、電解液であるドープ溶液中にある。そのため、ドープ槽19の上流槽131において、電極1と対極ユニット137、139、141、143とは電解液を介して電気的に接続する。
【0063】
電源112の一方の端子は、搬送ローラ55、57と接続する。また、電源112の他方の端子は、ドープ槽19の下流槽133が備える対極ユニット137、139、141、143と接続する。電極1は搬送ローラ55、57と接触する。電極1と対極ユニット137、139、141、143とは、電解液であるドープ溶液中にある。そのため、ドープ槽19の下流槽133において、電極1と対極ユニット137、139、141、143とは電解液を介して電気的に接続する。
【0064】
電源113の一方の端子は、搬送ローラ61、63と接続する。また、電源113の他方の端子は、ドープ槽21の上流槽131が備える対極ユニット137、139、141、143と接続する。電極1は搬送ローラ61、63と接触する。電極1と対極ユニット137、139、141、143とは、電解液であるドープ溶液中にある。そのため、ドープ槽21の上流槽131において、電極1と対極ユニット137、139、141、143とは電解液を介して電気的に接続する。
【0065】
電源114の一方の端子は、搬送ローラ67、69と接続する。また、電源114の他方の端子は、ドープ槽21の下流槽133が備える対極ユニット137、139、141、143と接続する。電極1は搬送ローラ67、69と接触する。電極1と対極ユニット137、139、141、143とは、電解液であるドープ溶液中にある。そのため、ドープ槽21の下流槽133において、電極1と対極ユニット137、139、141、143とは電解液を介して電気的に接続する。
【0066】
なお、電極1と対極ユニット137、139、141、143とが電解液を介して電気的に接続した状態でドープを行うことは、電極1に対向して設けられた対極ユニット137、139、141、143を用いてアルカリ金属を電気的に活物質にドープすることに対応する。
【0067】
タブクリーナー117は、電極1の活物質層未形成部7を洗浄する。回収ユニット119は、電解液処理槽15、ドープ槽17、19、21、及び洗浄槽23のそれぞれに配置されている。回収ユニット119は、電極1が槽から持ち出す液を回収し、槽に戻す。
【0068】
端部センサ121は、電極1の幅方向Wにおける端部の位置を検出する。電極製造システム11は、端部センサ121の検出結果に基づき、供給ロール101及び巻取ロール103の幅方向Wにおける位置を調整する。
【0069】
電極製造システム11は、ドープ槽17、19、21のそれぞれについて、流動ユニット201を備える。ドープ槽17における流動ユニット201の構成を
図4、
図6、
図7に示す。ドープ槽19、21における流動ユニット201の構成も同様である。
【0070】
流動ユニット201は、複数のノズル203、205、207、209、211、213、215、217と、2つのポンプ219、221と、複数の配管223、225、227、229と、を備える。
【0071】
図6に示すように、ノズル203は、円筒状の形態を有する。ノズル203は、複数の孔231を備える。複数の孔231は、ノズル203の軸方向に沿って、所定の間隔で並んでいる。複数の孔231の周方向における位置は同一である。なお、複数の孔231の周方向における位置は、ノズル203の軸方向に進むにつれて、周期的に変化してもよい。ノズル205、207、209、211、213、215、217も、ノズル203と同様の構成を有する。
【0072】
図4に示すように、ノズル203は、上流槽131のうち、対極ユニット137の付近に取り付けられている。ノズル205は、上流槽131のうち、対極ユニット139の付近に取り付けられている。ノズル207は、上流槽131のうち、対極ユニット141の付近に取り付けられている。ノズル209は、上流槽131のうち、対極ユニット143の付近に取り付けられている。
【0073】
上方から見たノズル203、205、207、209の配置は
図7に示すとおりである。ノズル203、205、207、209は、それぞれ2つ存在する。ノズル203、205、207、209の軸方向は、電極1の長手方向Lと平行である。ノズル203、205、207、209のそれぞれにおいて、孔231は、電極1の側に向いている。
【0074】
電極1の幅方向Wにおいて、2つのノズル203は、それぞれ、電極1の端部付近に位置する。電極1の厚み方向において、2つのノズル203は、それぞれ、対極ユニット137と電極1との間に位置する。
【0075】
電極1の幅方向Wにおいて、2つのノズル205は、それぞれ、電極1の端部付近に位置する。電極1の厚み方向において、2つのノズル205は、それぞれ、対極ユニット139と電極1との間に位置する。
【0076】
電極1の幅方向Wにおいて、2つのノズル207は、それぞれ、電極1の端部付近に位置する。電極1の厚み方向において、2つのノズル207は、それぞれ、対極ユニット141と電極1との間に位置する。
【0077】
電極1の幅方向Wにおいて、2つのノズル209は、それぞれ、電極1の端部付近に位置する。電極1の厚み方向において、2つのノズル209は、それぞれ、対極ユニット143と電極1との間に位置する。
【0078】
ポンプ219は、配管223を用いて、上流槽131からドープ溶液を吸い出す。ポンプ219は、配管227を用いて、吸い出したドープ溶液をノズル203、205、207、209に送り出す。送り出されたドープ溶液は、ノズル203、205、207、209の孔231から吹き出される。吹き出されたドープ溶液は、電極1に向かう方向Fに沿って流動する。なお、ドープ溶液の流動は、電極1が搬送ローラ群にセットされる前に開始してもよいし、電極1が搬送ローラ群にセットされた後に開始してもよい。
【0079】
その結果、上流槽131の対極ユニット137と電極1との間のドープ溶液、上流槽131の対極ユニット139と電極1との間のドープ溶液、上流槽131の対極ユニット141と電極1との間のドープ溶液、及び上流槽131の対極ユニット143と電極1との間のドープ溶液は流動する。ドープ溶液の流動方向は、電極1の表面に対して略平行である。ドープ溶液の流動方向は、電極1の長手方向Lに直交する。
【0080】
ここで、「略平行」の意味は以下のとおりである。孔231の中心の位置を位置Aとする。電極1の表面のうち、位置Aと同一の高さにあり、幅方向Wにおける中央にある位置を位置Bとする。位置A及び位置Bを通過する直線と、電極1の表面とが成す角度が45度以下であれば、「略平行」である。
【0081】
なお、孔231から吹き出されたドープ溶液の流動方向を、板状の治具等を用いて変化させてもよい。例えば、板状の治具等を用いて変化したドープ溶液の流動方向は、電極1の表面に対して略平行である。
【0082】
図4に示すように、ノズル211は、下流槽133のうち、対極ユニット137の付近に取り付けられている。ノズル213は、下流槽133のうち、対極ユニット139の付近に取り付けられている。ノズル215は、下流槽133のうち、対極ユニット141の付近に取り付けられている。ノズル217は、下流槽133のうち、対極ユニット143の付近に取り付けられている。
【0083】
ノズル211、213、215、217の配置や向きは、ノズル203、205、207、209の配置や向きと同様である。ノズル211、213、215、217の軸方向は、電極1の長手方向Lと平行である。ノズル211、213、215、217のそれぞれにおいて、孔231は、電極1の側に向いている。
【0084】
ポンプ221は、配管225を用いて、下流槽133からドープ溶液を吸い出す。ポンプ221は、配管229を用いて、吸い出したドープ溶液をノズル211、213、215、217に送り出す。送り出されたドープ溶液は、ノズル211、213、215、217の孔231から吹き出される。吹き出されたドープ溶液は、電極1に向かう方向Fに沿って流動する。
【0085】
その結果、下流槽133の対極ユニット137と電極1との間のドープ溶液、下流槽133の対極ユニット139と電極1との間のドープ溶液、下流槽133の対極ユニット141と電極1との間のドープ溶液、及び下流槽133の対極ユニット143と電極1との間のドープ溶液は流動する。ドープ溶液の流動方向は、電極1の表面に対して略平行である。ドープ溶液の流動方向は、電極1の長手方向Lに直交する。
【0086】
前記のように、流動ユニット201により、電極1と各対極ユニットとの間のドープ溶液は流動する。各対極ユニットとは、上流槽131の対極ユニット137、139、141、143、及び下流槽133の対極ユニット137、139、141、143である。流動ユニット201により生じるドープ溶液の流動の平均流速をJ(cm/sec)とする。
【0087】
平均流速Jは以下のように定義できる。ドープ溶液の流路に断面を想定する。断面は、ドープ溶液の流動方向に直交する。その断面を通過するドープ溶液の単位時間当たりの平均体積流量をV(cm3/sec)とする。その断面の面積をS(cm2)とする。平均流速Jは、V/S(cm/sec)である。
【0088】
3.ドープ溶液の組成
電極製造システム11を使用するとき、電解液処理槽15、及びドープ槽17、19、21に、ドープ溶液を収容する。ドープ溶液は、アルカリ金属イオンと、溶媒とを含む。ドープ溶液は電解液である。
【0089】
溶媒として、例えば、カーボネート系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、ケトン系溶剤、ニトリル系溶剤、含硫黄系溶剤、及びアミド系溶剤から成る群から選択される1種以上が挙げられる。
【0090】
前記カーボネート系溶剤として、エチレンカーボネート、1-フルオロエチレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、メチルエチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート等が挙げられる。
【0091】
前記エステル系溶剤として、酢酸ブチル、酢酸アミル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチル-3-エトキシプロピオネート、3-メトキシブチルアセテート、3-メチル-3-メトキシブチルアセテート、蟻酸ブチル、蟻酸プロピル、乳酸エチル、乳酸ブチル、乳酸プロピル、γ-ブチロラクトン、バレロラクトン、メバロノラクトン、カプロラクトン等が挙げられる。
【0092】
前記エーテル系溶剤として、エチルエーテル、i-プロピルエーテル、n-ブチルエーテル、n-ヘキシルエーテル、2-エチルヘキシルエーテル、エチレンオキシド、1,2-プロピレンオキシド、ジオキソラン、4-メチルジオキソラン、ジオキサン、ジメチルジオキサン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル等が挙げられる。
【0093】
前記炭化水素系溶剤として、n-ペンタン、i-ペンタン、n-ヘキサン、i-ヘキサン、n-ヘプタン、i-ヘプタン、2,2,4-トリメチルペンタン、n-オクタン、i-オクタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、メチルエチルベンゼン、n-プロピルベンセン、i-プロピルベンセン、ジエチルベンゼン、i-ブチルベンゼン、トリエチルベンゼン、ジ-i-プロピルベンセン、n-アミルナフタレン、トリメチルベンゼン等が挙げられる。
【0094】
前記ケトン系溶剤として、1-オクタノン、2-オクタノン、1-ノナノン、2-ノナノン、4-ヘプタノン、2-ヘキサノン、ジイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、フェニルアセトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられる。
【0095】
前記ニトリル系溶媒として、アセトニトリル、プロピオニトリル等が挙げられる。前記含硫黄系溶媒として、スルホラン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。前記アミド系溶剤として、ジメチルアセトアミド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0096】
前記溶媒は、単一の成分から成るものであってもよいし、2種以上の成分の混合溶媒であってもよい。
【0097】
前記ドープ溶液に含まれるアルカリ金属イオンは、アルカリ金属塩を構成するイオンである。アルカリ金属塩は、好ましくはリチウム塩又はナトリウム塩であり、さらに好ましくはリチウム塩である。アルカリ金属塩を構成するアニオン部として、例えば、PF6
-、PF3(C2F5)3
-、PF3(CF3)3
-等のフルオロ基を有するリンアニオン;BF4
-、BF2 (CF)2
-、BF3(CF3)-、B(CN)4
-等のフルオロ基又はシアノ基を有するホウ素アニオン;N(FSO2)2
-、N(CF3SO2)2
-、N(C2F5SO2)2
-等のフルオロ基を有するスルホニルイミドアニオン;CF3SO3
- 等のフルオロ基を有する有機スルホン酸アニオンが挙げられる。
【0098】
リチウム塩として、例えば、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiPF6、LiN(FSO2)2、LiN(C2F5SO2)2、LiN(CF3SO2)2等が挙げられる。
【0099】
前記ドープ溶液におけるアルカリ金属塩の濃度は、好ましくは0.1モル/L以上であり、より好ましくは0.5~1.5モル/Lの範囲内である。アルカリ金属塩の濃度がこの範囲内である場合、アルカリ金属のプレドープが効率よく進行する。
【0100】
前記ドープ溶液は、さらに、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、1-フルオロエチレンカーボネート、1-(トリフルオロメチル)エチレンカーボネート、無水コハク酸、無水マレイン酸、プロパンスルトン、ジエチルスルホン等の添加剤を含有することができる。
【0101】
前記ドープ溶液は、ホスファゼン化合物等の難燃剤をさらに含有することができる。難燃剤の添加量は、アルカリ金属をドープする際の熱暴走反応を効果的に制御する観点から、ドープ溶液100質量部に対して1質量部以上であることが好ましく、3質量部以上であることがより好ましく、5質量部以上であることがさらに好ましい。また、難燃剤の添加量は、高品質のドープ電極を得る観点から、ドープ溶液100質量部に対して20質量部以下であることが好ましく、15質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。
【0102】
4.電極製造システム11を使用したドープ電極の製造方法
ドープ電極を製造する製造方法は以下のとおりである。プレドープ前の電極1を供給ロール101に巻き回す。次に、プレドープ前の電極1を供給ロール101から引き出し、上述した経路に沿って巻取ロール103までセッティングする。そして、電解液処理槽15と、ドープ槽17、19、21と、洗浄槽23とを上昇させ、
図3に示す定位置へセットする。
【0103】
次に、電解液処理槽15、及びドープ槽17、19、21にドープ溶液を収容する。ドープ溶液は、前記「3.ドープ溶液の組成」で述べたものである。ドープ溶液の温度は40℃以上100℃以下である。洗浄槽23に洗浄液を収容する。洗浄液は有機溶剤である。
【0104】
次に、搬送ローラ群により、供給ロール101から巻取ロール103まで、上述した経路に沿って電極1を搬送する。電極1を搬送する経路は、ドープ槽17、19、21内を通過する経路である。電極1の搬送方向は、長手方向Lと平行である。電極1がドープ槽17、19、21内を通過するとき、活物質層5に含まれる活物質にアルカリ金属がプレドープされる。
【0105】
プレドープのとき、ドープ槽17、19、21内のドープ溶液は、流動ユニット201により流動している。さらに詳しくは、ドープ槽17、19、21のそれぞれにおいて、電極1と各対極ユニットとの間のドープ溶液は、流動ユニット201により流動している。電極1は、流動しているドープ溶液に接触する。なお、ドープ溶液は常に流動している必要はなく、アルカリ金属を電極1にドープするときに流動していることが望ましい。
【0106】
ドープ槽17、19、21のそれぞれにおいて、プレドープは、電極1と各対極ユニットとが電解液を介して電気的に接続した状態で行われる。ドープ槽17、19、21のそれぞれにおいて、プレドープにおける電極1の面積当たりの電流密度をI(mA/cm2)とする。また、ドープ槽17、19、21のそれぞれにおいて、ドープ溶液の平均流速をJ(cm/sec)とする。プレドープにおけるドープ溶液の平均流速Jと電流密度Iとは、以下の式(1)の関係を満たすことが好ましい。
【0107】
式(1) 0<I/J≦200
また、I/Jは1以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましい。I/Jが5以上である場合には、リチウムのドープを電極面内でより均一に行うことができ、I/Jが10以上である場合には、その効果が一層著しい。
【0108】
また、I/Jは150以下であることが好ましく、100以下であることがより好ましく、60以下であることがさらに好ましい。I/Jが100以下である場合には、ドープ速度が向上した場合のリチウムの析出を抑制することができ、I/Jが60以下である場合は、その効果が一層著しい。
【0109】
電流密度Iは、5mA/cm2以上であることが好ましく、25mA/cm2以上であることがより好ましく、45mA/cm2以上であることがより好ましく、60mA/cm2以上であることがさらに好ましい。電流密度Iが5mA/cm2以上である場合には、ドープ速度がより向上する。電流密度Iが25mA/cm2以上である場合は、前記の効果が一層著しい。電流密度Iが45mA/cm2以上である場合は、前記の効果がさらに著しい。電流密度Iが60mA/cm2以上である場合は、前記の効果が特に著しい。
【0110】
また、電流密度Iは、500mA/cm2以下であることが好ましく、300mA/cm2以下であることがより好ましく、180mA/cm2以下であることがさらに好ましく、170mA/cm2以下であることが特に好ましい。電流密度Iが500mA/cm2以下である場合には、リチウムの析出を抑制することができる。電流密度Iが300mA/cm2以下である場合には、リチウムの析出を一層抑制することができる。電流密度Iが180mA/cm2以下である場合には、リチウムの析出をさらに抑制することができる。電流密度Iが170mA/cm2以下である場合には、リチウムの析出を特に抑制することができる。ドープ溶液の平均流速Jは、0.1cm/sec以上であることが好ましく、0.5cm/sec以上であることがより好ましく、1.0cm/sec以上であることがさらに好ましい。ドープ溶液の平均流速Jが0.1cm/sec以上である場合には、ドープ速度がより向上する。ドープ溶液の平均流速Jが0.5cm/sec以上である場合は、ドープ速度が一層向上する。ドープ溶液の平均流速Jが1.0cm/sec以上である場合、ドープ速度が特に向上する。
【0111】
また、ドープ溶液の平均流速Jは、20cm/sec以下であることが好ましく、10cm/sec以下であることがより好ましく、5cm/sec以下であることがさらに好ましい。ドープ溶液の平均流速Jが20cm/sec以下である場合、リチウムの析出を抑制することができる。ドープ溶液の平均流速Jが10cm/sec以下である場合、リチウムの析出を一層抑制することができる。ドープ溶液の平均流速Jが5cm/sec以下である場合、リチウムの析出を特に抑制することができる。
【0112】
プレドープのとき、電極1は、搬送ローラ群により、上述した経路に沿って搬送される。搬送方向は、電極1の長手方向Lに平行である。電極1の搬送方向は所定の方向に対応する。ドープ溶液の流動方向は、電極1の長手方向Lに直交する。よって、プレドープにおいて、ドープ溶液の流動方向は、電極1の搬送方向に直交する。
【0113】
さらに、搬送ローラ群は、電極1を洗浄槽23に搬送する。電極1は、搬送ローラ群により搬送されながら、洗浄槽23で洗浄される。
【0114】
さらに、搬送ローラ群は、電極1をタブクリーナー117に連続的に搬送する。タブクリーナー117は、電極1のうち、活物質層未形成部7をクリーニングする。
【0115】
電極1は、正極であってもよいし、負極であってもよい。正極を製造する場合、電極製造システム11は、正極活物質にアルカリ金属をドープする。負極を製造する場合、電極製造システム11は、負極活物質にアルカリ金属をドープする。
【0116】
アルカリ金属のドープ量は、リチウムイオンキャパシタの負極活物質にリチウムを吸蔵させる場合、負極活物質の理論容量に対して好ましくは70%以上、95%以下である。アルカリ金属のドープ量は、リチウムイオン二次電池の負極活物質にリチウムを吸蔵させる場合、負極活物質の理論容量に対して好ましくは10%以上、30%以下である。
【0117】
5.蓄電デバイスの製造方法
蓄電デバイスとして、例えば、電池、キャパシタ等が挙げられる。電池として、例えば、リチウムイオン二次電池等が挙げられる。キャパシタとして、例えば、リチウムイオンキャパシタ等が挙げられる。蓄電デバイスは電極セルを備える。電極セルは、負極と、正極とを積層した構成を有する。
【0118】
蓄電デバイスの製造方法において、負極を、前記「4.電極製造システム11を使用したドープ電極の製造方法」により製造する。次に、負極と、正極とを積層して電極セルを形成する。
【0119】
6.ドープ電極の製造方法及び蓄電デバイスの製造方法が奏する効果
(1A)本開示のドープ電極の製造方法では、電極1に対し、アルカリ金属イオンを含み、流動しているドープ溶液を接触させることで、アルカリ金属を活物質にドープする。本開示のドープ電極の製造方法によれば、プレドープにおけるドープ速度を向上させることができる。ドープ速度が向上する理由は、ドープ溶液が流動することにより、電極1の表面上の溶媒成分の濃縮が抑制されるためであると推測される。溶媒成分として、例えば、エチレンカーボネート等が挙げられる。
【0120】
なお、電極1の表面上における溶媒成分の濃縮を抑制する方法として、前記のようにドープ溶液を流動させる方法に加えて、電極1に対して超音波を照射する方法も挙げられる。
【0121】
(1B)本開示のドープ電極の製造方法では、例えば、電極1に対向して設けられた対極ユニット137、139、141、143を用いてアルカリ金属を電気的に活物質にドープする。そのことにより、プレドープにおけるドープ速度を一層向上させることができる。
【0122】
(1C)本開示のドープ電極の製造方法では、例えば、電極1と対極ユニット137、139、141、143との間のドープ溶液を流動させた状態でアルカリ金属を活物質にドープする。そのことにより、プレドープにおけるドープ速度を一層向上させることができる。
【0123】
(1D)本開示のドープ電極の製造方法では、例えば、電流密度I(mA/cm2)と、ドープ溶液の平均流速J(cm/sec)との関係が以下の式(1)を満たす。
【0124】
式(1) 0<I/J≦200
そのことにより、プレドープにおけるドープ速度を一層向上させることができる。
【0125】
(1E)本開示のドープ電極の製造方法では、例えば、電流密度Iは、25mA/cm2以上、500mA/cm2以下である。そのことにより、プレドープにおけるドープ速度を一層向上させることができる。
【0126】
(1F)本開示のドープ電極の製造方法では、例えば、アルカリ金属を活物質にドープするとき、ドープ溶液中で電極1を所定の方向に移動させる。そのことにより、プレドープにおけるドープ速度を一層向上させることができる。
【0127】
(1G)本開示のドープ電極の製造方法では、例えば、アルカリ金属を活物質にドープするとき、ドープ溶液の流動方向が、電極1の表面に対して略平行である。そのことにより、プレドープにおけるドープ速度を一層向上させることができる。
【0128】
(1H)本開示のドープ電極の製造方法では、例えば、アルカリ金属を活物質にドープするとき、ドープ溶液の流動方向が、電極1の搬送方向に対して直交する。そのことにより、プレドープにおけるドープ速度を一層向上させることができる。
【0129】
(1I)本開示のドープ電極の製造方法では、例えば、アルカリ金属を活物質にドープするとき、ドープ溶液の温度が40℃以上100℃以下である。そのことにより、プレドープにおけるドープ速度を一層向上させることができる。
【0130】
(1J)本開示のドープ電極の製造方法では、例えば、ドープ溶液における電解質濃度が0.8モル/L以上5.0モル/L以下であることが好ましく、1.3モル/L以上4.0モル/L以下であることがさらに好ましい。そのことにより、プレドープにおけるドープ速度を一層向上させることができ、初回クーロン効率を一層向上させることができる。
る。
【0131】
(1K)本開示のドープ電極の製造方法では、例えば、ドープ溶液の溶媒が、カーボネート系溶剤、エステル系溶剤、エーテル系溶剤、炭化水素系溶剤、ニトリル系溶剤、含硫黄系溶剤、及びアミド系溶剤から成る群から選択される1種以上である。そのことにより、プレドープにおけるドープ速度を一層向上させることができる。
【0132】
(1L)本開示の蓄電デバイスの製造方法では、本開示のドープ電極の製造方法により、負極を製造する。そのことにより、負極のプレドープにおけるドープ速度を一層向上させることができる。
【0133】
(1M)本開示のドープ電極の製造方法によれば、プレドープにおいて、リチウムの析出を抑制しつつ、所望のドープ量を実現することができる。
【0134】
(1N)本開示のドープ電極の製造方法によれば、電極として用いた際に所望の初回クーロン効率を有するドープ電極を製造することができる。
【0135】
7.実施例1
(7-1)電極1の作製
SiO31質量部、人造黒鉛62質量部、アセチレンブラック粉体4質量部、SBRバインダー2質量部、カルボキシメチルセルロース1質量部、及びイオン交換水85質量部から成る組成物を、プラネタリーミキサーを用いて充分混合することにより負極スラリーを得た。アセチレンブラックは導電剤に対応する。
【0136】
集電体3を用意した。実施例1において、集電体3は負極集電体であった。集電体3のサイズは、幅150mm、長さ300mm、厚さ10μmであった。集電体3の表面粗さRaは0.1μmであった。集電体3は銅箔から成っていた。
【0137】
集電体3の両面に、ドクターブレードコンマコーターを用いて負極スラリーを塗布した。その結果、
図2に示すように、集電体3の両面に活物質層5が形成された。実施例1において、活物質層5は負極活物質層に対応する。
【0138】
次に、120℃で12時間減圧乾燥した。次に、ロールプレス機を用いて集電体3及び活物質層5をプレスすることにより、電極1を得た。実施例1において、電極1は蓄電デバイス用負極に対応する。
【0139】
電極1の両面に形成された活物質層5の合計の目付量は120g/m
2であった。また、電極1の両面に形成された活物質層5の合計の厚みは80μmであった。活物質層5は、
図1に示すように、集電体3の長手方向に沿って形成されていた。活物質層5は、集電体3の幅方向における中央部に、幅120mmにわたって形成された。集電体3の幅方向の両端における活物質層未形成部7はそれぞれ15mmであった。活物質層未形成部7とは、活物質層5が形成されていない部分である。
【0140】
(7-2)簡易ドープ電極製造装置339の作成
電極1から、
図9に示す電極試験体301を切り出した。電極試験体301は、長方形の本体部303と、突出部305とを備えていた。本体部303は、電極1のうち、活物質層形成部6から切り出された部分であった。本体部303の短辺の長さは26mmであった。本体部303の長辺の長さは40mmであった。
【0141】
突出部305は、電極1のうち、活物質層未形成部7から切り出された部分であった。突出部305は、本体部303の短辺に接続していた。突出部305にリード307を貼り付けた。リード307の厚みは0.1mmであった。リード307の幅は3mmであった。リード307の長さは50mmであった。リード307の材質はステンレス鋼SUS316であった。
【0142】
図10に示すテフロン板309を2枚用意した。テフロン板309の基本形態は長方形であった。テフロン板309の短辺の長さは80mmであった。テフロン板309の長辺の長さは90mmであった。テフロン板309の厚みは1mmであった。テフロン板309の材質はポリテトラフルオロエチレンであった。
【0143】
テフロン板309は、その中央部に、長方形の開口部311を備えていた。開口部311は、テフロン板309を厚み方向に貫通していた。開口部311の短辺の長さは24mmであった。開口部311の長辺の長さは37mmであった。
【0144】
2枚のテフロン板309を、電極試験体301の両側に配置した。
図10に示すように、本体部303のうち、外周側の部分は、2枚のテフロン板309により挟まれた。本体部303のうち、外周側を除く部分は、開口部311を通して露出していた。リード307は、2枚のテフロン板309の隙間を通り、2枚のテフロン板309の外周方向に突出していた。電極試験体301と、2枚のテフロン板309と、リード307とにより構成される部材を、電極ユニット312とした。
【0145】
図11、
図12に示すステンレス板313を用意した。ステンレス板313の基本形態は長方形であった。ステンレス板313の短辺の長さは80mmであった。ステンレス板313の長辺の長さは90mmであった。ステンレス板313の厚みは4mmであった。ステンレス板313の材質はステンレス鋼であった。
【0146】
ステンレス板313は、片面における中央部に凹部315を備えていた。ステンレス板313の厚み方向から見たとき、凹部315の形状は長方形であった。凹部315の短辺の長さは14mmであった。凹部315の長辺の長さは37mmであった。凹部315の深さは0.3mmであった。
【0147】
ステンレス板313は、2箇所のねじ穴317を備えていた。ねじ穴317は、ステンレス板313を厚み方向に貫通していた。ねじ穴317の位置は、凹部315の短辺から、6mmだけ、ステンレス板313の外周方向に移動した位置であった。ねじ穴317の直径は6mmであった。
【0148】
図12に示すように、ねじ穴317にテフロン製のチューブコネクタ319を取り付けた。チューブコネクタ319にフッ素ゴムチューブ321を接続した。フッ素ゴムチューブ321の内径は3mmであった。フッ素ゴムチューブ321は、ステンレス板313から見て、凹部315とは反対側に位置していた。
【0149】
図11、
図12に示すリチウム金属板323を用意した。リチウム金属板323の形状は長方形であった。リチウム金属板323の短辺の長さは26mmであった。リチウム金属板323の長辺の長さは40mmであった。リチウム金属板323の厚みは0.06mmであった。
図11、
図12に示すように、リチウム金属板323を、凹部315の内部に取り付けた。
【0150】
図13に示すテフロン板325を用意した。テフロン板325の基本形態は長方形であった。テフロン板325の短辺の長さは80mmであった。テフロン板325の長辺の長さは90mmであった。テフロン板325の厚みは1mmであった。テフロン板325の材質はポリテトラフルオロエチレンであった。
【0151】
テフロン板325は、その中央部に開口部327を備えていた。開口部327は、テフロン板325を厚み方向に貫通していた。開口部327は、長方形の本体部329と、切り欠き部331とを有していた。本体部329の短辺の長さは24mmであった。本体部329の長辺の長さは37mmであった。切り欠き部331は、本体部329の短辺から、テフロン板325の外周方向に延びていた。
【0152】
図12に示すように、テフロン板325を、ステンレス板313の表面のうち、凹部315が形成された側の面に重ねた。本体部329は、厚み方向から見て、リチウム金属板323と重なる位置にあった。そのため、リチウム金属板323は、テフロン板325によって覆われることはなかった。切り欠き部331は、厚み方向から見て、ねじ穴317と重なる位置にあった。そのため、ねじ穴317は、テフロン板325によって覆われることはなかった。
【0153】
ステンレス板313、チューブコネクタ319、フッ素ゴムチューブ321、リチウム金属板323、及びテフロン板325により構成される部材を対極ユニット333とした。
【0154】
図14に示すスペーサ335を用意した。スペーサ335の基本形態は長方形であった。スペーサ335の短辺の長さは80mmであった。スペーサ335の長辺の長さは90mmであった。スペーサ335の厚みは4mmであった。スペーサ335の材質はステンレス鋼であった。
【0155】
スペーサ335は、その中央部に、長方形の開口部337を備えていた。開口部337は、スペーサ335を厚み方向に貫通していた。開口部337の短辺の長さは34mmであった。開口部337の長辺の長さは42mmであった。
【0156】
図15に示すように、電極ユニット312と、2つのスペーサ335と、2つの対極ユニット333とを重ね、固定することで、簡易ドープ電極製造装置339を得た。簡易ドープ電極製造装置339において、対極ユニット333は電極ユニット312に対向して設けられていた。
【0157】
(7-3)ドープ電極の製造
下段のフッ素ゴムチューブ321から、簡易ドープ電極製造装置339の内部にドープ溶液を供給し、上段のフッ素ゴムチューブ321から同量のドープ溶液を吸い出すことによって、ドープ溶液を流動させた。ドープ溶液の流量は0.37ml/secであった。簡易ドープ電極製造装置339の内部において、ドープ溶液が流動する箇所の断面積は1.84cm2であった。ドープ溶液の平均流速Jは0.2cm/secであった。平均流速Jは、ドープ溶液の流量を、ドープ溶液が流動する箇所の断面積で除した値である。ドープ溶液の温度は25℃であった。供給されたドープ溶液は、対極ユニット333と電極試験体301との間を流動しながら電極試験体301に接触した。ドープ溶液の流動方向は、電極試験体301の表面に対して略平行であった。
【0158】
ドープ溶液は、1.2MのLiPF6を含む溶液であった。ドープ溶液の溶媒は、エチレンカーボネートと、1-フルオロエチレンカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、1:2:7の体積比で含む混合溶媒であった。
【0159】
次に、電極ユニット312及び対極ユニット333を電流・電圧モニター付き直流電源に接続した。
【0160】
次に、負極両面の単位面積当たりの電流密度が20mA/cm2となるように0.42Aの電流を通電し、電極へリチウムのドープを行った。
【0161】
通電時間は、単位面積当たりのリチウムのドープ割合が負極の単位面積当たりの放電容量の20%になる時間とした。ただし、通電時間内で電圧が所定の数値以上となった場合、そこで通電を停止した。また、単位面積当たりのリチウムのドープ割合に相当する放電容量分を目標ドープ量とした。
【0162】
以上の工程により、活物質層5中の負極活物質にリチウムがドープされ、電極試験体301はドープ電極となった。なお、本実施例及び後述する実施例2~15及び比較例1~5において、ドープ電極は、蓄電デバイス用負極であって、リチウムイオン二次電池用負極であった。
(7-4)ドープ電極の評価
得られたドープ電極から、長方形の測定用試料を切り出した。測定用試料の短辺の長さは1.5cmであった。測定用試料の長辺の長さは2.0cmであった。測定用試料の面積は3. 0cm2であった。
【0163】
測定用試料の対極を用意した。対極の形状は長方形であった。対極の短辺の長さは1.5cmであった。対極の長辺の長さは2.0cmであった。対極の面積は3. 0cm2であった。対極の厚みは200μmであった。対極の材質は金属リチウムであった。
【0164】
セパレータを用意した。セパレータの厚みは50μmであった。セパレータの材質はポリエチレン製不織布であった。
【0165】
測定用試料と、セパレータと、参照極と、電解液とを用いて、負極電極評価用のコイン型セルを作製した。コイン型セルにおいて、対極は、測定用試料の両側に、セパレータを介して配置されていた。参照極は、金属リチウム板であった。電解液は、1.4MのLiPF6を含んでいた。電解液の溶媒は、エチレンカーボネートと、1-フルオロエチレンカーボネートと、エチルメチルカーボネートとを、1:2:7の体積比で含む混合液であった。
【0166】
得られたコイン型セルを、充填電流4mAで0Vになるまで充電した。次に、充電電流が0.4mAに絞られるまで0Vで定電流‐定電圧充電を行い、充電容量を算出した。次に、放電電流4mAでセル電圧が3.0Vになるまで定電流放電を行い、放電容量を算出した。得られた放電容量を充電容量で除した値を初回クーロン効率とした。
【0167】
また、得られた充電容量と、ドープ前の電極の放電容量との差分に基づいて、実際のドープ量を算出した。そして、目標ドープ量に対する実際のドープ量の割合を算出した。以上の結果を表1および表2に示した。
【0168】
【0169】
【0170】
なお、表1及び表2において、目標ドープ時間とは、目標ドープ量に到達するために要すると推測されるドープ必要時間である。目標ドープ時間は、電流密度及び目標ドープ量から算出される。表1及び表2における「濃度」とは、電解質の濃度である。濃度の単位はモル/Lである。
【0171】
8.実施例2~27及び比較例1~5
ドープ溶液の温度、電解液の種類、電流、電流密度、ドープ溶液の流量、及び平均流速Jを表1及び表2に示す値とした点以外は実施例1と同様に、ドープ電極を製造し、得られたドープ電極の評価を行った。なお、比較例1~5では、簡易ドープ電極製造装置339をドープ溶液で満たした後、ドープ溶液を供給せずにドープを行った。評価結果を表1及び表2に示す。
【0172】
なお、表1及び表2における目標ドープ時間、目標ドープ量に対する実際のドープ量の割合、初回クーロン効率の評価は、それぞれ以下の基準に基づき行った。また、表1及び表2における「総合判定」が合格であることは、目標ドープ時間の評価結果及び目標ドープ量に対する実際のドープ量の割合の評価結果が、ともに「○」評価であることを意味する。
(目標ドープ時間の評価基準)
○:100sec未満
△:100sec以上300sec未満
×:300sec以上
(ドープ量の割合の評価基準)
○:70%以上
△:50%以上70%未満
×:50%未満
(初回クーロン効率の評価基準)
○:90以上
△:85以上90未満
×:85以下
表1及び表2に記載のように、各実施例では各比較例よりも好ましい結果が得られた。なお、実施形態で説明した電極製造システム11を用いてドープ電極を製造した場合も、各実施例と同様の効果が得られており、ドープ速度が向上していることが確認された。なお、比較例1~3のドープ電極では、リチウムの析出が確認された。
<第2実施形態>
1.第1実施形態との相違点
第2実施形態は、基本的な構成は第1実施形態と同様であるため、相違点について以下に説明する。なお、第1実施形態と同じ符号は、同一の構成を示すものであって、先行する説明を参照する。
【0173】
対極ユニット137は、
図16、
図17に示す構成を有する。対極ユニット139、141、143も、対極ユニット137と同様の構成を有する。
【0174】
対極ユニット137は、枠体401と、バスバー403と、導電スペーサ405と、銅板407と、リチウム板409と、マスク411と、を備える。
【0175】
枠体401は、電極1の側が開口した箱状の部材である。枠体401はポリプロピレンから成る。バスバー403は導電性の部材である。バスバー403の大部分は枠体401に収容されている。バスバー403の一端は枠体401の外に突出している。バスバー403は、電源に電気的に接続している。
【0176】
導電スペーサ405、銅板407、及びリチウム板409は枠体401に収容されている。リチウム板409は、銅板407、導電スペーサ405、及びバスバー403を介して、電源に電気的に接続している。マスク411は、
図17に示すように、リチウム板409のうち、電極1に対向する部分は露出させ、他の部分は覆う。
【0177】
流動ユニット201は、ノズル203、205、207、209、211、213、215、217に代えて、ノズル413、415、417を備える。ノズル413、415、417は、対極ユニット137、139、141、143のそれぞれに配置される。ノズル413、415、417は、それぞれ、配管419、421、423により、流動ユニット201が備えるポンプに接続している。
【0178】
図16に示すように、ノズル413、415、417は、電極1と対極ユニット137との間に位置する。また、ノズル413、415、417は、リチウム板409と、電極1との間に位置する。ノズル413、415、417は、上下方向に並んでいる。ノズル413、415、417は、それぞれ、円筒状の形態を有する。ノズル413、415、417の軸方向は、水平方向であり、電極1の表面と平行である。
図17に示すように、ノズル413、415、417のうち、電極1と対向する部分は、マスク411に覆われていない。
【0179】
ノズル413は、複数の孔431を備える。複数の孔431は、ノズル413の軸方向に沿って、所定の間隔で並んでいる。複数の孔431の周方向における位置は同一である。ノズル413の軸方向は水平方向であるから、複数の孔431は水平方向に沿って並んでいる。ノズル417も、ノズル413と同様の構成を有する。
【0180】
ノズル415は、複数の孔431を備える。複数の孔431は、ノズル415の軸方向に沿って、所定の間隔で並んでいる。複数の孔431の周方向における位置は、ノズル415の軸方向に進むにつれて周期的に変化している。
【0181】
ノズル413の孔431と、ノズル417の孔431とは、ドープ溶液を吸引する。ノズル415の孔431はドープ溶液を吹き出す。その結果、対極ユニット137と電極1との間のドープ溶液は流動する。また、対極ユニット139と電極1との間のドープ溶液、対極ユニット141と電極1との間のドープ溶液、及び、対極ユニット143と電極1との間のドープ溶液も流動する。
【0182】
2.第2実施形態における効果
第2実施形態によれば、第1実施形態における効果に加えてさらに以下の効果を奏する。
【0183】
(2A)複数の孔431は水平方向に沿って並んでいる。そのため、ドープ溶液の流れは、幅方向Wにおいて均一である。その結果、プレドープにおけるドープ速度を向上させつつ、面内均一性が高いドープ電極を製造することができる。
<他の実施形態>
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0184】
(1)
図8に示すように、電極製造システム11は、幅が広い電極1を搬送してもよい。電極製造システム11は、ドープ槽17、19、21の上流槽131において、
図8に示すように、3個以上のノズル203と、3個以上のノズル205と、3個以上のノズル207と、3個以上のノズル209とを備える。3個以上のノズル203は、幅方向Wに沿って並んでいる。3個以上のノズル205、3個以上のノズル207、及び3個以上のノズル209も同様である。
【0185】
電極製造システム11は、ドープ槽17、19、21の上流槽131において、複数の対極ユニット137と、複数の対極ユニット139と、複数の対極ユニット141と、複数の対極ユニット143とを備える。複数の対極ユニット137は、幅方向Wに沿って並んでいる。複数の対極ユニット139、複数の対極ユニット141、及び複数の対極ユニット143も同様である。
【0186】
電極製造システム11は、ドープ槽17、19、21の下流槽133においても、同様の構成を有する。電極製造システム11は、隣接する2つのノズルに代えて、1つの兼用ノズルを備えていてもよい。兼用ノズルは、周方向において2つの孔231を備える。兼用ノズルは、2つの孔231から、2方向にドープ溶液を吹き出す。2方向は、それぞれ、電極1に向かう方向である。プレドープの後、幅が広い電極1を、長手方向Lに平行な切断面で切り分けることにより、複数の電極1を得ることができる。
【0187】
(2)前記各実施形態において、ドープ溶液の流動方向は、電極1の搬送方向に直交する方向であったが、この方向に限定されることはなく、電極1の搬送方向と同一の方向あるいは反対方向であってもよい。
【0188】
(3)前記各実施形態における1つの構成要素が有する機能を複数の構成要素に分担させたり、複数の構成要素が有する機能を1つの構成要素に発揮させたりしてもよい。また、前記各実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、前記各実施形態の構成の少なくとも一部を、他の前記実施形態の構成に対して付加、置換等してもよい。
【0189】
(4)上述したドープ電極の製造方法及び蓄電デバイスの製造方法の他、電極製造システム、ドーピング方法等、種々の形態で本開示を実現することもできる。