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  • 特許-放熱シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】放熱シート
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/36 20060101AFI20240918BHJP
   H01L 23/373 20060101ALI20240918BHJP
   H05K 7/20 20060101ALI20240918BHJP
   C08K 3/00 20180101ALI20240918BHJP
   C08K 3/38 20060101ALI20240918BHJP
   C08L 101/00 20060101ALI20240918BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
H01L23/36 D
H01L23/36 M
H05K7/20 F
C08K3/00
C08K3/38
C08L101/00
C08L83/04
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021548954
(86)(22)【出願日】2020-09-24
(86)【国際出願番号】 JP2020035911
(87)【国際公開番号】W WO2021060321
(87)【国際公開日】2021-04-01
【審査請求日】2023-05-18
(31)【優先権主張番号】P 2019175067
(32)【優先日】2019-09-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】デンカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【弁理士】
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【弁理士】
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100135758
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 高志
(74)【代理人】
【識別番号】100154391
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康義
(72)【発明者】
【氏名】和田 光祐
(72)【発明者】
【氏名】金子 政秀
(72)【発明者】
【氏名】野々垣 良三
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-274119(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061447(WO,A1)
【文献】特開2009-013340(JP,A)
【文献】特開2007-302822(JP,A)
【文献】特開2017-170769(JP,A)
【文献】特開2018-022767(JP,A)
【文献】特開2012-212727(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/36
H01L 23/373
H05K 7/20
C08K 3/00
C08K 3/38
C08L 101/00
C08L 83/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
JIS K6911にしたがって500Vの直流電圧で測定した、98質量%以上のエチレングリコールを含む25℃の温度の不凍液に250時間含浸させた後の体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以上である放熱シート。
【請求項2】
TO-3P型トランジスタ及びアルミニウム板の間に前記放熱シートを介在させて、ネジを用いて12kgf・cmの締め付けトルクで、前記TO-3P型トランジスタを前記アルミニウム板に固定して、前記TO-3P型トランジスタのドレイン及び前記アルミニウム板の間に周波数60Hzの交流電圧を印加した場合、前記放熱シートの耐電圧が6.0kV以上である請求項1に記載の放熱シート。
【請求項3】
樹脂バインダー及び無機系充填材を含有する請求項1または2に記載の放熱シート。
【請求項4】
前記樹脂バインダーがシリコーン樹脂である請求項3に記載の放熱シート。
【請求項5】
前記無機系充填材が六方晶窒化ホウ素の凝集粒子である請求項3または4に記載の放熱シート。
【請求項6】
ガラスクロスを含有する請求項3~5のいずれか1項に記載の放熱シート。
【請求項7】
ガラス転移点が200℃以上である樹脂を含む基材樹脂層を含有する請求項1~6のいずれか1項に記載の放熱シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は放熱シートに関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、トランジスタ、サイリスタ、CPUなどの発熱性電子部品は使用時に大量の熱を発生するので、発熱性電子部品を冷却する必要がある。しかし、発熱性電子部品の冷却に費やされる電力が大きいと、発熱性電子部品を備えた電子機器の消費電力が大きくなる。このため、発熱性電子部品を如何に効率的に冷却するかが重要な課題となっている。
【0003】
発熱性電子部品においては、使用時に発生する熱を如何に効率的に放熱するかも重要な課題となっている。従来から、このような放熱対策としては、発熱性電子部品から発生した熱をヒートシンクなどの放熱部品へ伝導させ放熱することが一般的に行われてきた。発熱性電子部品から発生した熱を放熱部品へ効率よく熱伝導させるために、発熱性電子部品と放熱部品との間に接触界面におけるエアーギャップを放熱材料で埋めることが望ましい。取り扱いが容易であることから、そのような放熱材料として、従来から放熱シートが用いられていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-39060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子製品の中には、ガソリンやエンジンオイルに曝される環境下で使用されるものもある。そのような環境下の電子部品に対しても電子部品から発生する熱を放熱するために放熱シートが使用できれば有用である。このため、ガソリンやエンジンオイルに対する耐性が高い放熱シートが求められる。
【0006】
そこで、本発明は、ガソリンおよびエンジンオイルに対して高い耐性を有する放熱シートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意研究を進めたところ、98質量%以上のエチレングリコールを含む25℃の温度の不凍液に250時間含浸させたにもかかわらず体積抵抗率が特定の値よりも大きい放熱シートを使用することにより、上記の目的を達成することができることを見出した。
本発明は、上記の知見に基づくものであり、以下を要旨とする。
[1]JIS K6911にしたがって500Vの直流電圧で測定した、98質量%以上のエチレングリコールを含む25℃の温度の不凍液に250時間含浸させた後の放熱シートの体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以上である放熱シート。
[2]TO-3P型トランジスタ及びアルミニウム板の間に放熱シートを介在させて、ネジを用いて12kgf・cmの締め付けトルクで、TO-3P型トランジスタをアルミニウム板に固定して、TO-3P型トランジスタのドレイン及びアルミニウム板の間に周波数60Hzの交流電圧を印加した場合、放熱シートの耐電圧が6.0kV以上である上記[1]に記載の放熱シート。
[3]樹脂バインダー及び無機系充填材を含有する上記[1]または[2]に記載の放熱シート。
[4]樹脂バインダーがシリコーン樹脂である上記[3]に記載の放熱シート。
[5]無機系充填材が六方晶窒化ホウ素の凝集粒子である上記[3]または[4]に記載の放熱シート。
[6]ガラスクロスを含有する上記[3]~[5]のいずれか1つに記載の放熱シート。
[7]ガラス転移点が200℃以上である樹脂を含む基材樹脂層を含有する上記[1]~[6]のいずれか1つに記載の放熱シート。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ガソリンおよびエンジンオイルに対して高い耐性を有する放熱シートを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1(a)~図1(c)は、放熱シートの耐電圧の測定方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の放熱シートを説明する。
[放熱シートの体積抵抗率]
本発明の放熱シートは、JIS K6911にしたがって500Vの直流電圧で測定した、98質量%以上のエチレングリコールを含む25℃の温度の不凍液に250時間含浸させた後の放熱シートの体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以上である。上記体積抵抗率が1.0×10Ω・cm未満であると、ガソリンまたはエンジンオイルに曝されて使用された場合に放熱シートの劣化が著しくなる場合がある。このような観点から、本発明の放熱シートにおける上記体積抵抗率は、好ましくは5.0×10Ω・cm以上であり、より好ましくは1.0×1010Ω・cm以上であり、さらに好ましくは1.0×1011Ω・cm以上であり、よりさらに好ましくは5.0×1011Ω・cm以上である。なお、上記体積抵抗率の上限値は、特に限定されないが、例えば、1.0×1017mである。また、不凍液は、エチレングリコールの他に、防酸化剤、防錆剤(ケイ酸塩、リン酸塩、アミン、酸化剤など)などの添加剤を含有する場合がある。しかし、これらの添加剤は、エチレングリコールに比べれば微量であるため、これらの添加剤の放熱シートの体積抵抗率や、後述の放熱シートの耐電圧に対する影響は小さい。
【0011】
本発明の放熱シートの上記体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以上であるのは、以下の理由によるものと考えられる。しかし、以下の理由は本発明を限定しない。
本発明の放熱シートは、例えば、樹脂と、充填材とを含有する放熱シート用組成物を成形して成形体を作製した後、所定の硬化温度で成形体を加熱加圧して硬化させることにより作製することができる。さらに、本発明の放熱シートは、上記硬化温度で成形体を加熱加圧して硬化させる前に、上記硬化温度よりも低い温度で、成形体を加熱加圧する。この段階では、成形体は硬化していないので、成型体中の空隙は加圧により潰れる。これにより、放熱シートの空隙への不凍液の浸透が抑制され、その結果、不凍液による樹脂の膨潤が抑制されるものと考えられる。そして、放熱シートの上記体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以上になるものと考えられる。なお、ガソリン及びエンジンオイルは不凍液よりも放熱シートの空隙に浸透しにくいため、不凍液による放熱シートの上記体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以上であれば、ガソリンやエンジンオイルに対する耐性が長期に安定する。本発明は、上記の通り、不凍液により生じる放熱シートの変化(体積低効率の変化)を利用して、放熱シートの性質を調整して得られる、ガソリンやエンジンオイルに対する耐性が長期に安定する放熱シートである。
【0012】
[放熱シートの耐電圧]
TO-3P型トランジスタ及びアルミニウム板の間に放熱シートを介在させて、ネジを用いて12kgf・cmの締め付けトルクで、TO-3P型トランジスタをアルミニウム板に固定して、TO-3P型トランジスタのドレイン及びアルミニウム板の間に周波数60Hzの交流電圧を印加した場合、本発明の放熱シートの耐電圧は、好ましくは6.0kV以上である。本発明の放熱シートの耐電圧が6.0kV以上であると、ガソリンおよびエンジンオイルへの耐性がより向上する。このような観点から、本発明の放熱シートの上記耐電圧は、より好ましくは9.0kV以上であり、さらに好ましくは10.0kV以上である。なお、本発明の放熱シートの上記耐電圧の上限値は、特に限定されないが、例えば30.0kVである。また、上記耐電圧は、例えば、後述の実施例に記載の方法により測定することができる。
【0013】
[放熱シートの厚さ]
本発明の放熱シートの厚さは、好ましくは100~1000μmである。本発明の放熱シートの厚さが100μm以上であると、放熱シートは、発熱性電子部品の実装面の凹凸に対して、より追従することができる。一方、本発明の放熱シートの厚さが1000μm以下であると、放熱シートの熱抵抗を低減することができる。このような観点から、本発明の放熱シートの厚さは、より好ましくは150~650μmである。
【0014】
[放熱シートの成分]
本発明の放熱シートは、樹脂バインダー及び充填材を含有することが好ましい。これにより、上記体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以上である放熱シートを作製することが容易になる。
【0015】
(樹脂バインダー)
本発明の放熱シートに使用する樹脂バインダーは、放熱シートに通常用いられる樹脂バインダーであれば、とくに限定されない。本発明の放熱シートに使用する樹脂バインダーには、例えば、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ポリウレタン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、フッ素樹脂、ポリアミド(例えば、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等)、ポリエステル(例えば、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル-アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル・エチレン・プロピレン・ジエンゴム-スチレン)樹脂等が挙げられる。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。放熱シートの取り扱いを容易にするという観点及び放熱シートの柔軟性により放熱シートの密着性をより高めるという観点から、樹脂バインダーはゴムまたはエラストマーであることが好ましい。これらの樹脂の中で、耐熱性、耐候性、電気絶縁性及び化学的安定性の観点からシリコーン樹脂が好ましい。
【0016】
金属腐食の原因となるイオン性の不純物を含まず、反応後に副生成物を発生しないという観点から、本発明の放熱シートに使用するシリコーン樹脂は、付加反応型シリコーン樹脂であることが好ましい。付加反応型シリコーン樹脂は、白金化合物を触媒として用いて、アルケニル基とケイ素原子に結合した水素原子との間のヒドロシリル化反応により硬化したものである。付加反応型シリコーン樹脂には、例えば旭化成ワッカーシリコーン株式会社製の商品名「LR3303A/B」のシリコーンがある。
【0017】
(充填材)
本発明の放熱シートに使用する充填材は、放熱シートに通常用いられる充填材であれば、とくに限定されない。本発明の放熱シートに使用する充填材には、例えば、無機系充填材、金属系充填材などが挙げられる。無機系充填材には、例えば、酸化亜鉛、アルミナ、窒化ホウ素、窒化アルミ、炭化ケイ素、窒化ケイ素などが挙げられる。金属系充填材には、例えば、アルミニウム、銀、銅などが挙げられる。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中で、電気絶縁性の観点から無機系充填材が好ましく、塊状に凝集した無機系充填材がより好ましい。これらの無機系充填材の中で、熱伝導率及び化学的安定性の観点から窒化ホウ素がより好ましい。また、窒化ホウ素は熱伝導性に異方性を有するので、この熱伝導性の異方性を抑制した塊状窒化ホウ素粒子がさらに好ましい。なお、塊状窒化ホウ素粒子は、六方晶窒化ホウ素の鱗片状粒子を塊状に凝集させた粒子である。
【0018】
<充填材の平均粒子径>
充填材の平均粒子径は、好ましくは5~90μmである。充填材の平均粒子径が5μm以上であると、充填材の含有量を高くすることができる。一方、充填材の平均粒子径が90μm以下であると、放熱シートを薄くすることができる。このような観点から、充填材の平均粒子径は、より好ましくは10~70μmであり、さらに好ましくは15~50μmであり、とくに好ましくは15~45μmである。なお、充填材の平均粒子径は、例えば、ベックマンコールター社製レーザー回折散乱法粒度分布測定装置、(LS-13 320)を用いて測定することができる。充填材の平均粒子径には、測定処理の前にホモジナイザーをかけずに測定したものを採用することができる。したがって、充填材が凝集粒子の場合、充填材の平均粒径は凝集粒子の平均粒子径である。なお、得られた平均粒子径は、例えば体積統計値による平均粒子径である。
【0019】
<充填材の含有量>
樹脂バインダー及び充填材の合計100体積%に対する充填材の含有量は、好ましくは30~85体積%である。充填材の含有量が30体積%以上の場合、放熱シートの熱伝導率が向上し、十分な放熱性能が得られやすい。また、充填材の含有量が85体積%以下の場合、放熱シートの成形時に空隙が生じやすくなることを抑制でき、放熱シートの絶縁性や機械強度を高めることができる。このような観点から、樹脂バインダー及び充填材の合計100体積%に対する充填材の含有量は、より好ましくは40~80体積%であり、さらに好ましくは45~70体積%である。
【0020】
(補強層)
本発明の放熱シートは、補強層を備えていてもよい。補強層は、放熱シートの機械的強度をさらに向上させる役目を担い、さらには放熱シートが厚さ方向に圧縮されたとき、放熱シートの平面方向への延伸を抑制し、絶縁性を確保する効果も奏する。補強層には、例えば、ガラスクロス、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、アクリル樹脂などの樹脂フィルム、木綿、麻、アラミド繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ポリオレフィン繊維などの布繊維メッシュクロス、アラミド繊維、セルロース繊維、ナイロン繊維、ポリオレフィン繊維などの不織布、ステンレス、銅、アルミニウムなどの金属繊維メッシュクロス、銅、ニッケル、アルミニウムなど金属箔などが挙げられる。これらは、1種を単独で、または2種以上を組み合わせて使用することができる。これらの中で、熱伝導性及び絶縁性の観点から、ガラスクロスが好ましい。
【0021】
補強層としてガラスクロスを用いる場合、一般に市販されているような開口部を有するガラスクロスを使用できる。ガラスクロスの厚さは、好ましくは10μm~150μmである。ガラスクロスの厚さが10μm以上の場合、ハンドリング時にガラスクロスが壊れるのを抑制することができる。一方、ガラスクロスの厚さが150μm以下の場合、ガラスクロスによる放熱シートの熱伝導率の低下を抑制することができる。このような観点から、ガラスクロスの厚さは、より好ましくは20~90μmであり、さらに好ましくは30~60μmである。市販されているガラスクロスでは繊維径が4~9μmのものがあり、これらを放熱シートに使用することができる。またガラスクロスの引張強度は、例えば、100~1000N/25mmである。またガラスクロスの開口部の一辺の長さは、熱伝導性及び強度のバランスを取るという観点から、好ましくは0.1~1.0mmである。放熱シートに使用できるガラスクロスには、例えばユニチカ社製、商品名「H25 F104」がある。
【0022】
なお、放熱シートは、樹脂バインダー、充填材及び補強層以外のその他の成分を含んでもよい。その他の成分は、例えば、添加剤、不純物などである。放熱シートの体積100体積%中のその他の成分の含有量は、例えば5体積%以下であり、好ましくは3体積%以下であり、より好ましくは1体積%以下であってよい。
【0023】
添加剤には、例えば、補強剤、増量剤、耐熱向上剤、難燃剤、接着助剤、導電剤、表面処理剤、顔料などが挙げられる。
【0024】
<基材樹脂層>
本発明の放熱シートは基材樹脂層を備えていてもよい。基材樹脂層は、放熱シートの耐熱性、絶縁性をさらに向上させる役目を担う。この場合、本発明の放熱シートは、上述の樹脂バインダー及び無機充填材を含有する樹脂組成物層と、この樹脂組成物層に隣接する基材樹脂層とを含む。なお、樹脂組成物層は上述の補強層を備えていてもよい。
【0025】
基材樹脂層は、ガラス転移点が200℃以上である樹脂を含むことが好ましい。ガラス転移点が200℃以上であれば、十分な耐熱性が得られ、積層体の絶縁性や熱伝導性を良好に維持することができる。基材樹脂層は、塗膜から形成される層でも、フィルムから形成される層でもよい。
【0026】
基材樹脂層を構成する樹脂としては、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリアミド(特に芳香族ポリアミド)、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエチレンナフタレート、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)又はテトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)等が挙げられ、なかでもポリイミドが好ましい。また、単独あるいは数種類を組み合わせて使用することができる。
【0027】
基材樹脂層中の樹脂の含有量は特に限定されないが、下限については、78体積%以上が好ましく、より好ましくは80体積%以上、さらに好ましくは82体積%以上である。上限については92体積%以下が好ましく、より好ましくは90体積%以下、さらに好ましくは88体積%以下である。
【0028】
基材樹脂層は無機充填材を含有することが好ましい。基材樹脂層が無機充填材を含有することで、絶縁性、熱伝導性、ピール強度等を向上させることができる。特に、ピール強度が上がるのは、無機充填材により基材樹脂層と樹脂組成物層との界面に凹凸が形成され、アンカー効果が生じるためと推察される。無機充填材としては、上述の無機充填材と同様なものを使用することができる。
【0029】
基材樹脂層中の無機充填材の含有量は特に限定されないが、下限については8体積%以上が好ましく、より好ましくは10体積%以上、さらに好ましくは12体積%以上である。上限については22体積%以下が好ましく、より好ましくは20体積%以下、さらに好ましくは18体積%以下である。
【0030】
また、基材樹脂層中には、上述の添加剤が少量含まれてもよいし、不純物が少量含まれてもよい。なお、基材樹脂層中において、上記樹脂と無機フィラーの合計含有量は90体積%以上が好ましく、より好ましくは95体積%以上、さらに好ましくは97体積%以上である。
【0031】
基材樹脂層の厚みは、絶縁性、熱伝導性、加工性の観点から以下の範囲が好ましい。下限については0.010mm以上が好ましい。0.010mm以上とすることで、絶縁性をさらに改善できるとともに、加工性も改善できる。より好ましくは0.012mm以上、さらに好ましくは0.015mm以上である。上限については0.100mm以下が好ましい。より好ましくは0.070mm以下、さらに好ましくは0.050mm以下である。
【0032】
基材樹脂層となるフィルムとしては、公知のフィルム作製方法に準じて作製できる。また、市場に販売されている製品を入手して用いてもよい。
【0033】
(放熱シートの形態)
本発明において、放熱シートの形態は特に限定されず、枚葉品であってもロール品であってもよい。
【0034】
(放熱シートの製造方法)
樹脂バインダーとしてシリコーン樹脂を使用し、充填材として塊状窒化ホウ素粒子を使用し、補強層としてガラスクロスを使用した場合、本発明の放熱シートは、例えば、以下の工程1~工程4を有する製造方法で製造することができる。
(工程1)
工程1では、硬化前のシリコーン樹脂及び塊状窒化ホウ素粒子を混合して放熱シート用組成物を作製する。
【0035】
(工程2)
工程2では、離型性を有するフィルムの上にガラスクロスを載置した後に、ガラスクロスの上から離型性を有するフィルム上に放熱シート用組成物を塗布し、60~80℃で4~7分乾燥させることにより、シート状に成形する。塗布方法は特に限定されず、均一に塗布できるドクターブレード法、コンマコーター法、スクリーン印刷法、ロールコーター法などの公知の塗布方法を採用することができる。しかし、塗布した放熱シート用組成物の厚みを高い精度で制御できるという観点からドクターブレード法及びコンマコーター法が好ましい。また、離型性を有するフィルムは、例えば、PETフィルムである。なお、ガラスクロスの一方の面上に放熱シート用組成物を塗布してもよいし、ガラスクロスの両方の面上に放熱シート用組成物を塗布してもよい。ガラスクロスの両方の面上に放熱シート用組成物を塗布する場合、ガラスクロスの一方の面上に放熱シート用組成物を塗布した後、ガラスクロスの他方の面上に放熱シート用組成物を塗布してもよい。また、ガラスクロスの両方の面に放熱シート用組成物を同時に塗布してもよい。
また、基材樹脂層を備える放熱シートの場合には、基材樹脂層となる基材シート上に、樹脂組成物を塗布する。基材シートへの塗布方法としては、従来公知の方法、例えば、コーター法、ドクターブレード法、押出成形法、射出成形法、プレス成形法等を用いることができる。基材樹脂層を備える放熱シートの場合にも、放熱シートの厚み方向中央に基材樹脂層が配置されるように、基材樹脂層の両面に放熱シート用組成物を塗布し乾燥させてもよい。
【0036】
(工程3)
工程3では、大気雰囲気中にて、加熱プレス機を用いて、100~200kgf/cmの圧力、50~80℃の加熱温度及び30~40分の加圧時間の条件下、離型性を有するフィルムに塗布した放熱シート用組成物を加熱加圧することによって、放熱シート用組成物を仮成形する。これにより、塊状窒化ホウ素粒子の凝集を適切にほぐすことができる。なお、加熱温度を50℃以上とすることにより、塊状窒化ホウ素粒子の凝集が崩れ過ぎてしまい、窒化ホウ素の鱗片状粒子が配向し、放熱シートの熱伝導率が低下してしまうことを抑制することができる。また、加熱温度を80℃以下とすることにより、放熱シート用組成物中の気泡を除去して放熱シートの密度を増加させ、放熱シートの絶縁性を向上させることができる。
【0037】
(工程4)
工程4では、大気雰囲気中、窒素雰囲気中、アルゴン雰囲気中、水素雰囲気中、または真空中にて、加熱プレス機を用いて、100~200kgf/cmの圧力、80~170℃の加熱温度及び10~60分の加圧時間の条件下、仮成形を行った放熱シート用組成物をさらに加熱加圧することによって、放熱シート用組成物を本成形する。なお、圧力を100kgf/cm以上とし、加熱温度を80℃以上とし、加圧時間を10分以上とすることにより、放熱シート用組成物とガラスクロスとの間の接合性を向上させることができる。また、圧力を200kgf/cm以下とし、加熱温度を170℃以下とし、加圧時間を60分以下とすることにより、放熱シートの生産性を向上させることができるとともに、製造コストを低減できる。また、上記の通り、本発明では徐々に加熱加圧して、空隙量を低減するため、ここでの加圧力は工程3での加圧力より大きくする。
【0038】
本発明の放熱シートは、上記工程4の後に以下の工程5をさらに有する製造方法で製造してもよい。
(工程5)
工程5では、130~250℃の加熱温度及び2~30時間の加熱時間の条件下、本成形した放熱シート用組成物を加熱し、放熱シート用組成物をさらに硬化させる。これにより、樹脂中の低分子シロキサンを除去することができる。なお、樹脂中の低分子シロキサンの濃度が高いと、シロキサンガスが発生し、電気接点の摺動やスパークなどによるエネルギーで電気接点上にケイ素酸化物による絶縁被膜が生成して接点障害が起こる場合がある。
【実施例
【0039】
以下、本発明について、実施例及び比較例により、詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0040】
実施例及び比較例の放熱シートに対して以下の評価を行った。
(放熱シートの厚さ)
マイクロメータを用いて放熱シートの厚さを任意に5箇所測定し、その平均値を実施例もしくは比較例の放熱シートの厚さとした。
【0041】
(放熱シートの体積抵抗率)
98質量%以上のエチレングリコールを含む25℃の温度の不凍液(アンチフリーズスーパー、ゼネラル石油株式会社製)に250時間含浸させた放熱シートを3枚用意した。そして、JIS K6911にしたがって、DC500Vの印加電圧で、放熱シートの体積抵抗率を測定した。
【0042】
上記不凍液に500時間及び1000時間、それぞれ含浸させた放熱シート、25℃の温度のガソリン(レギュラーガソリン、ゼネラル石油株式会社製)に1000時間含浸させた放熱シート、及び25℃の温度のエンジンオイル(GアーバンSDCC(粘度20W30)、ゼネラル石油株式会社製)に1000時間含浸させた放熱シートについても同様の評価を行った。
【0043】
(放熱シートの耐電圧)
図1に示すように、TO-3P型トランジスタ2(三菱電機株式会社製、型番:2SC3152)及びアルミニウム板3の間に放熱シート1を配置した。そして呼び径がM3mmのネジ4を用いて12kgf・cmの締め付けトルクで、放熱シート1を締め付けた。なお、1つのTO-3P型トランジスタ2と放熱シート1との間の接触面積は約2.8cmであった。その後、図1(c)に示すように、耐電圧試験器5(菊水電子工業株式会社製、型番:TOS 5101)を用いて、TO-3P型トランジスタ2のエミッタ及びアルミニウム板7との間に周波数60Hzの交流電圧を印加して、0Vから500V/sの速度で電圧を上昇させた。そして、絶縁破壊が起きた電圧を放熱シートの耐電圧とした。なお、TO-3P型トランジスタ2のエミッタ及びアルミニウム板3との間のリーク電流が10mAを超えたとき、絶縁破壊が起きたとした。そして、3枚の放熱シートの耐電圧の平均値を実施例もしくは比較例における放熱シートの耐電圧とした。
【0044】
実施例及び比較例の放熱シートは以下のようにして作製した。
[実施例1]
(六方晶窒化ホウ素の作製)
ホウ酸、メラミン、及び炭酸カルシウム(いずれも試薬特級)を、質量比70:50:5の割合で混合し、窒素ガス雰囲気中、室温から1400℃までを1時間で昇温し、1400℃で3時間保持してから1900℃までを4時間で昇温し、1900℃で2時間保持した後、室温まで冷却して六方晶窒化ホウ素を製造した。これを解砕した後、粉砕し、篩い分けして、塊状窒化ホウ素粒子を作製した。作製した塊状窒化ホウ素粒子の平均粒子径は20μmであった。
【0045】
(放熱シート用組成物の作製)
22gのシリコーン樹脂(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、型番:LR3303-20A)、22gのシリコーン樹脂(旭化成ワッカーシリコーン株式会社製、型番:LR3303-20B)および137gの作製した塊状窒化ホウ素粒子を添加した後、固形分濃度が60wt%となるように粘度調整剤としてトルエンを添加し、タービン型撹拌翼を用いて攪拌機(HEIDON社製、商品名:スリーワンモーター)で15時間混合し、放熱シート用組成物を作製した。
【0046】
(放熱シートの作製)
テフロン(登録商標)シート上にガラスクロス(ユニチカ株式会社製、商品名:H25 F104)を配置した後、上記のシリコーン組成物を、ガラスクロス上にコンマコーターで厚さ0.2mmに塗工し、75℃で5分乾燥させた。次に、ガラスクロスが上側になるように乾燥させたシリコーン組成物をひっくり返して、ガラスクロス上にコンマコーターで厚さ0.2mmに塗工し、75℃で5分乾燥させ、ガラスクロスの両面にシリコーン組成物を塗工したシリコーン組成物のシートを作製した。その後、平板プレス機(株式会社柳瀬製作所製)を用いて、温度70℃、圧力120kgf/cmの条件下で35分間のプレスを行い、仮成形を行った。その後、圧力150kgf/cmのプレスを行いながら、10℃/分の昇温速度で温度を150℃まで上昇させた。そして、温度150℃、圧力150kgf/cmの条件下で45分間のプレスを行い、本成形を行った。次いでそれを常圧、150℃の温度で4時間の二次加熱を行い、厚さ0.30mmの実施例1の放熱シートを作製した。なお、放熱シートにおける樹脂バインダー及び無機充填材の合計100体積%に対する無機充填材の含有量は60体積%であった。
【0047】
[比較例1]
仮成形を行わなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の放熱シートを作製した。
【0048】
[実施例2]
実施例1と同様の原料を用いて作製した放熱シート用組成物をガラスクロス上にコンマコーターで塗工する際の厚さを0.2mmから0.15mmに変更し、次に、ガラスクロスが上側になるように乾燥させた放熱シート用組成物をひっくり返して、ガラスクロス上にコンマコーターで厚さ0.2mmを0.15mmに塗工することに変更した以外は実施例1と同様の方法で、厚さ0.20mmの放熱シートを作製した。
【0049】
[実施例3]
ガラスクロス(ユニチカ株式会社製、商品名:H25 F104)をポリイミドフィルム(東レ・デュポン社製、商品名Kapton 100H、厚さ0.026mm)に変更し、放熱シート用組成物を厚さが0.3mmとなるように片面のみ塗布し、乾燥させた以外は実施例1と同様の方法で、厚さ0.20mmの放熱シートを作製した。
[比較例2]
比較例1と同様の原料を用いて作製した放熱シート用組成物をガラスクロス上にコンマコーターで塗工する際の厚さを0.2mmから0.15mmに変更し、次に、ガラスクロスが上側になるように乾燥させた放熱シート用組成物をひっくり返して、ガラスクロス上にコンマコーターで厚さ0.2mmを0.15mmに塗工することに変更した以外は比較例1と同様の方法で、厚さ0.20mmの放熱シートを作製した。
【0050】
評価結果を表1に示す。
【0051】
【表1】
【0052】
以上の評価結果から、98質量%以上のエチレングリコールを含む25℃の温度の不凍液に放熱シートを250時間含浸させた場合、JIS K6911にしたがって500Vの直流電圧で測定した、不凍液に250時間含浸させた後の放熱シートの体積抵抗率が1.0×10Ω・cm以上である放熱シートは、ガソリンおよびエンジンオイルに対して高い耐性を有することがわかった。また、不凍液に250時間含浸させたときの放熱シートの熱抵抗の低下率を調べることにより、ガソリンおよびエンジンオイルに1000時間含浸させた放熱シートを評価できることがわかった。
不凍液への放熱シートの含浸時間が250時間、500時間、1000時間である放熱シートの体積抵抗率の結果から、250時間の含浸時間で、500時間及び1000時間の含浸時間の放熱シートの体積抵抗率を評価できることが確認できた。
なお、JIS C2110に記載の方法に準拠し、実施例1及び実施例3の絶縁破壊電圧を、短時間破壊試験(室温:23℃)にて評価したところ、実施例3の方が絶縁破壊電圧が3kV程高かった。
【符号の説明】
【0053】
1 放熱シート
2 TO-3P型トランジスタ
3 アルミニウム板
4 ネジ
5 耐電圧試験器

図1