(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】ろう付けされた熱交換器の製造用のアルミニウム合金製ストリップ
(51)【国際特許分類】
C22C 21/00 20060101AFI20240918BHJP
B23K 35/22 20060101ALI20240918BHJP
B23K 35/28 20060101ALI20240918BHJP
C22F 1/04 20060101ALI20240918BHJP
C22F 1/00 20060101ALN20240918BHJP
【FI】
C22C21/00 E
C22C21/00 J
C22C21/00 D
B23K35/22 310E
B23K35/28 310B
C22F1/04 B
C22F1/00 623
C22F1/00 614
C22F1/00 627
C22F1/00 630A
C22F1/00 630M
C22F1/00 640A
C22F1/00 651A
C22F1/00 682
C22F1/00 683
C22F1/00 685Z
C22F1/00 686A
C22F1/00 691B
C22F1/00 691C
C22F1/00 694B
C22F1/00 694A
(21)【出願番号】P 2021552542
(86)(22)【出願日】2020-02-27
(86)【国際出願番号】 FR2020050389
(87)【国際公開番号】W WO2020178507
(87)【国際公開日】2020-09-10
【審査請求日】2023-02-21
(32)【優先日】2019-03-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(32)【優先日】2019-03-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】517422951
【氏名又は名称】コンステリウム ヌフ-ブリザック
【氏名又は名称原語表記】CONSTELLIUM NEUF-BRISACH
(74)【代理人】
【識別番号】100080447
【氏名又は名称】太田 恵一
(72)【発明者】
【氏名】プゲ,リオネル
(72)【発明者】
【氏名】シュア,ベシール
【審査官】河野 一夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-206129(JP,A)
【文献】特開2010-255014(JP,A)
【文献】特開2018-095925(JP,A)
【文献】特開2017-029995(JP,A)
【文献】特表2017-512898(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 21/00
B23K 35/22
B23K 35/28
C22F 1/04
C22F 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- コア合金製プレートを鋳造するステップ、
- 少なくとも1つのろう付け用アルミニウム合金および場合によっては少なくとも1つの層間アルミニウム合金を用いて、場合によってクラッディングを行なうステップ、
-
450~520℃の温度まで予熱するステップ、
- 予め均質化することなくこのプレートを、450~520℃の温度で2~6mmの厚みまで熱間圧延するステップ、
- 所望の厚みへと冷間圧延するステップであって、冷間圧延後のストリップの厚み
が0.15~3mmであるステップ、および
- 10分間~15時間、最高温度に維持するステップを伴う、240~450℃の温度での焼鈍ステップ、
という連続的ステップを含む、
質量%で、0.10~0.30%のSi、0.20%未満のFe、0.75~1.05%のCu、1.2~1.7%のMn、0.03%未満のMg、0.1%未満のZn、0.15%未満のTi、各々0.05%未満でかつ合計0.15%未満の他の元素、残りはアルミニウムという組成のアルミニウム合金製コアを有する、ろう付けされた熱交換器の製造を目的とするストリップの製造方法。
【請求項2】
- コア合金製プレートを鋳造するステップ、
- このプレートを1~24時間、580~630℃の温度で均質化するステップ、
- 少なくとも1つのろう付け用アルミニウム合金、および場合によっては少なくとも1つの層間アルミニウム合金を用いて、場合によってクラッディングを行なうステップ、
-
450~520℃の温度まで予熱するステップ、
- 均質化され場合によってクラッディングされたプレートを、450~520℃の温度で2~6mmの厚みまで熱間圧延するステップ、
- 所望の厚みへと冷間圧延するステップであって、冷間圧延後のストリップの厚み
が0.15~3mmであるステップ、および
- 10分間~15時間、最高温度に維持するステップを伴う、240~450℃の温度での焼鈍ステップ、
という連続的ステップを含む、
質量%で、0.10~0.30%のSi、0.20%未満のFe、0.75~1.05%のCu、1.2~1.7%のMn、0.03%未満のMg、0.1%未満のZn、0.15%未満のTi、各々0.05%未満でかつ合計0.15%未満の他の元素、残りはアルミニウムという組成のアルミニウム合金製コアを有する、ろう付けされた熱交換器の製造を目的とするストリップの製造方法。
【請求項3】
ろう付け用アルミニウム合
金で片面または両面をクラッドされていることを特徴とする、請求項1
または2に記載のストリップ
の製造方法。
【請求項4】
ろう付け用アルミニウム合金が、質量%で、
5~13%のSi、
最大1%のFe:、
最大0.4%のCu、
最大0.2%のMn、
最大0.3%のMg、
最大0.2%のZn、
最大0.30%
のTi、
各々0.05%未満でかつ合計0.15%未満の他の元素、
残りはアルミニウム、
からなることを特徴とする、請求項
3に記載のストリップ
の製造方法。
【請求項5】
コアと任意のろう付け用合金との間に配置され
た層間アルミニウム合金で片面または両面をクラッドされることを特徴とする、請求項1から
4のいずれか一つに記載のストリップ
の製造方法。
【請求項6】
層間アルミニウム合金が、質量%で、
最大0.5%
のSi、
最大0.7
%のFe、
0.3~1.4
%のMn、
最大0.3
%のCu、
各々0.05%未満でかつ合計0.15%未満の他の元素、
残りはアルミニウム、
からなることを特徴とする、請求項
5に記載のストリップ
の製造方法。
【請求項7】
層間アルミニウム合金が、質量%で、0.15%未満のSi、0.2%未満
のFe、0.1%未満のCu、0.6%~0.8%のMn、0.02%未満のMg、0.05%未満でかつ合計0.15%未満の他の
元素、残りはアルミニウム、
からなることを特徴とする、請求項
5に記載のストリップ
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、最も多くの場合アルミニウム-ケイ素ろう付け用合金(アルミニウム協会の命名法による4000シリーズ)である被覆合金、および/またはアルミニウム-マンガン合金(アルミニウム協会の命名法による3000シリーズ)製の、コアと任意のろう付け用合金との間に配置された層間合金で、片面または両面を場合によってクラッドされたアルミニウム-マンガンコア合金(アルミニウム協会の命名法によると3000シリーズ)製の薄いストリップ(概して0.05~3mm、好ましくは0.15~2.5mmの厚み)に関する。これらのストリップは、特に、ろう付けによって組立てられる熱交換器の管、コレクタおよびプレートなどの要素の製造を目的とするものである。これらの交換器は特に、自動車のエンジンの冷却システムおよび車室の空調システム中に見られる。アルミニウム合金のろう付け技術は、例えば、Soudage et Techniques Connexes、1991年11~12月、p18~29に掲載されたJ.C.Kucza、A.UhryおよびJ.C.Goussainの記事「アルミニウムおよびその合金の優れたろう付け」中に記載されている。本発明に係るストリップは、NOCOLOK(登録商標)またはCAB(controlled atmosphere brazing(制御雰囲気ろう付け))タイプの非腐食性フラックスろう付け技術において、さらには、一変形形態によるとフラックスレスろう付け技術において特に使用可能である。
【背景技術】
【0002】
ろう付けされた交換器の製造のために使用されるアルミニウム合金製ストリップに求められる特性は、特に、優れたろう付け能力、可能なかぎり薄い厚みを使用するためのろう付け後の高い機械的強度、ろう付け前の管、フィン、コレクタおよびプレートの形成を容易にするのに十分な成形性、および優れた耐腐食性である。当然のことながら、選択される合金が鋳造および圧延し易いものであること、およびストリップの製造コストが自動車産業の要件と相容れるものであることが重要である。
【0003】
使用される合金は、次のような組成(EN573-3規格に準じた重量%)の3003である:Si<0.6%、Fe<0.7%、Cu:0.05~0.20%、Mn:1.0~1.5%、Zn<0.10%、他の元素が各々<0.05%でかつ合計<0.15%、残余がアルミニウム。
【0004】
先に言及した利用特性のうちのいずれか、より詳細には耐腐食性を改善する目的で多くの合金が提案されてきており、それゆえ業界で時に「ロングライフ」合金という呼称が与えられる。
【0005】
米国特許第5125452号明細書(住友軽金属工業株式会社および日本電装株式会社)は、ベース合金が以下の組成を有するクラッドされたストリップについて記述している:
Si<0.1、Fe<0.3、Cu:0.05~0.35、Mn:0.3~1.5、Mg0.05~0.5、Ti:0.05~0.35、ここでCu-0.2<Mg<Cu+0.2。
【0006】
欧州特許第0326337号明細書(Alcan International)は、ベース合金が以下の組成を有するクラッドされたストリップについて記載している:
Si<0.15、Fe<0.4、Cu:0.1~0.6、Mn:0.7~1.5、Mg<0.8。
【0007】
好ましくは0.05%未満というSiの低い含有量は、被覆合金からのケイ素の拡散に対する障壁の役目を果たすことのできるMn折出物の緻密層の形成を可能にし、耐腐食性を増大させる。国際公開第94/22633号は、より高いCu含有量(0.6~0.9%)だけが異なっている前述のものの変形形態である。
【0008】
米国特許第5350436号明細書(神鋼アルコア輸送機材株式会社および日本電装株式会社)は、以下の組成のベース合金について記述している:
Si:0.3~1.3、Cu<0.2、Mn:0.3~1.5、Mg<0.2、Ti:0.02~0.3、Fe記載なし。
【0009】
理論によって束縛されることなく、Siの高い含有量(実施例の中では0.8%)は機械的強度のためにCuおよびMgの不在を補償することを可能にし、Tiの存在は優れた耐腐食性に寄与し、Mgの不在は優れたろう付け性に有利に作用すると思われる。
【0010】
欧州特許第0718072明細書(Hoogovens Aluminium Walzprodukte)は、以下の組成のベース合金について記載している:Si>0.15、Fe<0.8、Cu:0.2~2、Mn:0.7~1.5、Mg:0.1~0.6、ここでCu+Mg<0.7かつTi、Cr、ZrまたはVの添加が可能である。実施例は、0.5%のSi含有量を示している。
【0011】
特開2000-167688号公報(住友軽金属工業株式会社)は、質量百分率で0.5~2.0%のMn、0.1~1.0%のCu、0.1%以下のSi、0.3%以下のFe、0.06~0.35%のTi、0.04%以下のMgおよび不可避的な不純物を含み、残りがアルミニウムであるアルミニウム製コア合金について開示している。
【0012】
このタイプの合金についての技術的現状の教示をここで要約するならば、第1のカテゴリの合金は、あらゆる場合においてSiに対するほどには要件が高くないものの低含有量のFeを伴ってまたは伴わずに、非常に低い含有量のSi(<0.15、好ましくは<0.05%)を有している、ということが分かる。これらの非常に低いSi含有量(<0.05%)は、純粋な基材からしか得ることができず、このため製造コストは増大する。第2のカテゴリの合金は、優れた耐腐食性を得るための非常に低いSi含有量の必要性を再度検討することによって、反対に、場合によっては硬化元素MgおよびCuの低い含有量に関連する機械的強度の喪失を補償するために、むしろ高いSi含有量(0.5~0.8%)を有している。実際、フラックスを用いたろう付けについては、Mg含有量を削減して、酸化物MgOの厚い層の形成を導くクラッディング層表面へのMgの移動を制限すべきである、ということが知られている。この酸化物の存在は、ろう付けすべき表面上へのフラックスの量を強制的に増大させ、これにより、組立てコストが増加し、表面の外観が劣化する。他の参考文献は、中間的なSi含有量を依然として目指している(例えば欧州特許第1075935号明細書、欧州特許第1413427号明細書、欧州特許第2969308号明細書、さらには米国特許第9546829号明細書を参照のこと)。
【0013】
元素Cuに関して言うと、耐腐食性に対するその影響は、論争の的となるように思われる。一部の参考文献は、過度に多い量のCuを使用しないよう促している(特に、Alcan International Limitedの米国特許第6019939号明細書を参照のこと)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】米国特許第5125452号明細書
【文献】欧州特許第0326337号明細書
【文献】国際公開第94/22633号
【文献】米国特許第5350436号明細書
【文献】欧州特許第0718072号明細書
【文献】特開2000-167688号公報
【文献】欧州特許第1075935号明細書
【文献】欧州特許第1413427号明細書
【文献】欧州特許第2969308号明細書
【文献】米国特許第9546829号明細書
【文献】米国特許第6019939号明細書
【非特許文献】
【0015】
【文献】Soudage et Techniques Connexes、1991年11~12月、p18~29に掲載されたJ.C.Kucza、A.UhryおよびJ.C.Goussainの記事「アルミニウムおよびその合金の優れたろう付け」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
増大する市場の需要に直面して、機械的強度またはろう付け性が劣化することなく、既存の合金と比べて改善された耐腐食性を有する新規のコア合金に対するニーズが、存在し続けている。このようなコア合金は、製品の厚み削減というつねに存在する需要に応えることを可能にすると考えられる。
【課題を解決するための手段】
【0017】
意外にも、本出願人は、機械的強度またはろう付け性が劣化することなく耐腐食性を改善することのできる組成領域を決定した。
【0018】
したがって本発明は、ろう付けされた熱交換器の製造を目的とするストリップにおいて、質量%で、
Si:0.10~0.30%、好ましくは0.15~0.25%、
Fe<0.20%、
Cu:0.75~1.05%、好ましくは0.75~1.02%、より好ましくは0.75~1.0%、
Mn:1.2~1.7%、好ましくは1.2~1.55%、より好ましくは1.25~1.4%、
Mg<0.03%、好ましくは<0.025%、より好ましくは<0.015%、
Zn<0.1%、
Ti<0.15%、
他の元素は、各々<0.05%でかつ合計<0.15%、
残りはアルミニウム、
という組成のアルミニウム合金製コアを有するストリップを対象とする。
【0019】
本発明は同様に、
- コア合金製プレートを鋳造するステップ、
- 少なくとも1つのろう付け用アルミニウム合金、および場合によっては少なくとも1つの層間アルミニウム合金を用いて、場合によってクラッディングを行なうステップ、
- 好ましくは12時間未満の間、より好ましくは3時間未満の間、最高温度に維持するステップを伴う、450~520℃の温度まで予熱するステップ、
- 予め均質化することなくこのプレートを、450~520℃の温度で2~6mmの厚みまで熱間圧延するステップ、
- 所望の厚みへと冷間圧延するステップであって、冷間圧延後のストリップの厚みが、好ましくは0.15~3mmであるステップ、
- 10分間~15時間、好ましくは20分間~3時間、最高温度に維持するステップを伴う、240~450℃、好ましくは240~380℃の温度での焼鈍ステップ、
という連続的ステップを含むストリップの製造方法をも対象とする。
【0020】
一変形形態によると、本発明は同様に、
- コア合金製プレートを鋳造するステップ、
- このプレートを1~24時間、580~630℃で均質化するステップ、
- 少なくとも1つのろう付け用アルミニウム合金、および場合によっては少なくとも1つの層間アルミニウム合金を用いて、場合によってクラッディングを行なうステップ、
- 好ましくは12時間未満の間、より好ましくは3時間未満の間、最高温度に維持するステップを伴う、450~520℃の温度まで予熱するステップ、
- 均質化され場合によってクラッディングされたプレートを、450~520℃の温度で2~6mmの厚みまで熱間圧延するステップ、
- 所望の厚みへと冷間圧延するステップであって、冷間圧延後のストリップの厚みが好ましくは0.15~3mmであるステップ、および
- 10分間~15時間、好ましくは20分間~3時間、最高温度に維持するステップを伴う、240~450℃、好ましくは240~380℃の温度での焼鈍ステップ、
という連続的ステップを含む、本発明に係るストリップの製造方法をも対象とする。
【0021】
本発明は同様に、少なくとも部分的に、本発明に係るストリップから製作された熱交換器をも対象とする。
【0022】
本発明は同様に、熱交換器の製造を目的とする本発明に係るストリップの使用において、前記ストリップが、機械的強度またはろう付け性が劣化することなく改善された耐腐食性を有する、ストリップの使用をも対象とする。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】4週間の曝露後の、実施例1の試料についてのSWAAT試験(ASTM G85A3)後のストリップの断面顕微鏡写真を表わす。最も深い腐食部位が表されている。指標Aは、コア合金Aを有する試料(先行技術)に対応する。指標Bは、コア合金Bを有する試料(本発明に係る)に対応する。指標Cは、コア合金Cを有する試料(本発明に係る)に対応する。
【
図2】2週間の曝露後の、実施例2の試料についてのSWAAT試験後のストリップの断面顕微鏡写真を表わす。指標Eは、コア合金Eを有する試料(本発明に係る)に対応する。指標Fは、コア合金Fを有する試料(先行技術に係る)に対応する。
【発明を実施するための形態】
【0024】
明細書および特許請求の範囲中、別段の指示のないかぎり:
- アルミニウム合金の呼称は、アルミニウム協会の命名法に準拠する;
- 化学元素の含有量は、質量百分率で示されている。
【0025】
本発明に係るストリップは、質量%で、
Si:0.10~0.30%、好ましくは0.15~0.25%、
Fe<0.20%、
Cu:0.75~1.05%、好ましくは0.75~1.02%、より好ましくは0.75~1.0%、
Mn:1.2~1.7%、好ましくは1.2~1.55%、より好ましくは1.25~1.4%、
Mg<0.03%、好ましくは<0.025%、より好ましくは<0.015%、
Zn<0.1%、
Ti<0.15%、
他の元素は、各々<0.05%でかつ合計<0.15%、
残りはアルミニウム、
という組成のアルミニウム合金製コアを含む。
【0026】
コア合金の組成限界の正当性は、以下の通りに立証することができる。0.10%というケイ素の最低含有量は、コストの高い純粋基材の使用を回避させることができる。その上、マグネシウムを含む合金中において、ケイ素は、折出物Mg2Siの形成によって機械的強度に寄与する。0.30%を超えると、ケイ素は、マンガン分散質AlMnSiおよびAlMnFeSiの形成のため、耐腐食性に対し不利な影響を及ぼす可能性がある。
【0027】
0.25%未満に制限された鉄含有量は同様に、耐腐食性および成形性に有利であるが、原価が高くなると考えられる0.15%未満の非常に低い含有量まで低下させる必要はない。
【0028】
銅は、機械的強度に寄与する硬化元素であるが、1.1%を超えると、金属の均質性を損ないかつ腐食開始部位を構成する粗な金属間化合物が、鋳造で形成される。
【0029】
マンガンは、合金3003の限界に近い限界内にある。これは機械的強度および耐腐食性に寄与する。
【0030】
限定的な亜鉛添加は、特に銅の投入量が最も大きい合金について、電気化学メカニズムを変更することにより、耐腐食性に対する有益な効果を有する可能性がある。しかし、この添加は、全面腐食の可能性が過度に高くなるのを避けるため、0.2%未満にとどめなければならない。
【0031】
好ましくは、コア合金は、0.1%未満のTiを含む。好ましくは、コア合金は少なくとも0.05%、より好ましくは少なくとも0.06%のTiを含む。
【0032】
[ろう付け用アルミニウム合金]
本発明に係るストリップは、製造される部品のタイプに応じて概して0.05~3mm、好ましくは0.15~2.5mmの厚みを有し、ろう付け用合金か、または合金AA7072のような亜鉛合金などの、腐食から部品を保護するための犠牲陽極の役目を果たす合金であり得る被覆合金でクラッドされ得る。
【0033】
本発明の一変形形態によると、ろう付け用アルミニウム合金は、意図的なZnの添加を含まず、このときZnは、好ましくは不純物に対応する量すなわち0.05質量%未満の量に基づいて存在する。
【0034】
ろう付け用合金は、ろう付けのために十分な温度間隔、許容可能な機械的強度および優れた濡れ性が得られるように、コア合金の固相線に比べて十分低い液相線温度を有する4xxx合金ファミリーに属するものである。これらの合金は、添加元素、例えばストロンチウムを含有し得る。
【0035】
好ましくは、本発明のストリップは、ろう付け用アルミニウム合金、好ましくは、4~13質量%、好ましくは6~11質量%のSiと最大0.5質量%、好ましくは最大0.3質量%のFeとを含む4xxx合金で片面または両面をクラッドされている。
【0036】
好ましくは、ろう付け用アルミニウム合金は、質量%で、
Si:5~13%、
Fe:最大1%、
Cu:最大0.4%、好ましくは最大0.1%、
Mn:最大0.2%、好ましくは最大0.1%、
Mg:最大0.3%、好ましくは最大0.1%、
Zn:最大0.2%、好ましくは最大0.1%、
Ti:最大0.30%、好ましくは最大0.1%、
他の元素は、各々0.05%未満でかつ合計0.15%未満、
残りはアルミニウム、
を含む。
【0037】
一例として、組成物AA4045は、本発明に係るろう付け用合金として適したものであり得るアルミニウム合金である。その組成は、質量%で:9~11%のSi、最大0.8%のFe、最大0.30%のCu、最大0.05%のMn、最大0.05%のMg、最大0.10%のZn、最大0.20%のTi、各々0.05%未満でかつ合計0.15%未満の他の要素であり、残りはアルミニウムである。
【0038】
一例として、先の組成物は、好ましくは最大0.6%のFeを含む。
【0039】
一例として、先の組成物は、好ましくは最大0.1%のCuを含む。
【0040】
一例として、組成物AA4343は、本発明に係るろう付け用合金として適したものであり得るアルミニウム合金である。その組成は、質量%で:6.8~8.2%のSi、最大0.8%のFe、最大0.25%のCu、最大0.10%のMn、最大0.05%のMg、各々0.05%未満でかつ合計0.15%未満の他の要素であり、残りはアルミニウムである。
【0041】
一例として、先の組成物は、好ましくは最大0.3%のFeを含む。
【0042】
一例として、先の組成物は、好ましくは最大0.1%のCuを含む。
【0043】
好ましくは、本発明に係るろう付け用合金はMgを含まない。
【0044】
同様に、一方の面上にクラッディングとして、犠牲陽極効果のあるアルミニウム合金、特にAA7072合金などの亜鉛を含有する合金を使用することもできる。
【0045】
[層間アルミニウム合金]
好ましくは、本発明に係るストリップは、質量%で、
Si:最大0.5%、より好ましくは最大0.2%、
Fe:最大0.7%、より好ましくは最大0.3%、さらに一層好ましくは最大0.2%、
Mn:0.3~1.4%、より好ましくは0.6~0.8%、一変形形態によると1~1.3%、
Cu:最大0.3%、好ましくは最大0.1%、さらに一層好ましくは最大0.05%、
他の元素は、各々<0.05%でかつ合計<0.15%、
残りはアルミニウム、
を好ましくは含み、コアと任意のろう付け用合金との間に配置されたいわゆる層間アルミニウム合金で片面または両面をクラッドされる。
【0046】
好ましくは、本発明に係るストリップの層間アルミニウム合金は、質量%で:Si<0.15%;Fe<0.2%;Cu<0.1%;Mn0.6%~0.8%;Mg<0.02%;他の要素は<0.05%でかつ合計<0.15%;残りはアルミニウム、を含む。
【0047】
好ましくは、層間アルミニウム合金はAA3xxxシリーズの合金である。
【0048】
[ストリップ]
本発明に係るストリップは、例えば管、プレート、コレクタなどの熱交換器の様々な部分の製造に役立ち得る、ろう付け用ストリップと呼ばれるストリップである。
【0049】
[方法]
本発明は同様に、
- コア合金製プレートを鋳造するステップ、
- 少なくとも1つのろう付け用アルミニウム合金、および場合によっては少なくとも1つの層間アルミニウム合金を用いて、場合によってクラッディングを行なうステップ、
- 12時間未満の間、より好ましくは3時間未満の間、最高温度に維持するステップを好ましくは伴う、450~520℃の温度まで予熱するステップ、
- 予め均質化することなく450~520℃の温度で、2~6mmの厚みまで熱間圧延するステップ、
- 所望の厚みへと冷間圧延するステップであって、冷間圧延後のストリップの厚みが好ましくは0.15~3mmであるステップ、および
- 10分間~15時間、好ましくは20分間~3時間、最高温度に維持するステップを伴う、240~450℃、好ましくは240~380℃の温度での焼鈍ステップ、
という連続的ステップを含む、ストリップの製造方法をも対象としている。
【0050】
一変形形態によると、本発明は同様に、
- コア合金製プレートを鋳造するステップ、
- このプレートを1~24時間、580~630℃の温度で均質化するステップ、
- 少なくとも1つのろう付け用アルミニウム合金、および場合によっては少なくとも1つの層間アルミニウム合金を用いて、場合によってクラッディングを行なうステップ、
- 12時間未満の間、より好ましくは3時間未満の間、最高温度に維持するステップを好ましくは伴う、450~520℃の温度まで予熱するステップ、
- 均質化され場合によってクラッディングされたプレートを、450~520℃の温度で2~6mmの厚みまで熱間圧延するステップ、
- 所望の厚みへと冷間圧延するステップであって、冷間圧延後のストリップの厚みが好ましくは0.15~3mmであるステップ、および
- 10分間~15時間、好ましくは20分間~3時間、最高温度に維持するステップを伴う、240~450℃、好ましくは240~380℃の温度での焼鈍ステップ、
という連続的ステップを含む、本発明に係るストリップの製造方法をも対象としている。
【0051】
好ましくは、本発明に係る方法には、中間焼鈍は存在しない。
【0052】
ストリップは、大幅な形成を伴う部品用である場合、連続加熱炉またはバッチ炉で320~380℃の温度で最終焼鈍を行なうことによって、焼きなまししたもの(質別O)で使用可能である。この焼鈍は、合金の再結晶化を導き、成形性を改善する。他の事例において、ストリップは、再結晶化を回避する250~300℃の回復焼鈍によって得られる質別である質別H14またはH24(NF EN515規格に準ずる)などの、より良い機械的強度を導く加工硬化状態で使用される。
【0053】
クラッディング材料を設置する前に、580~630℃の温度でコア合金プレートの均質化を行なうことができる。この均質化は、圧延されたストリップの延性に有利であり、ストリップが質別Oで使用される場合には推奨される。この均質化は、Mn分散質の合体に有利に作用する。
【0054】
[使用]
本発明は同様に、少なくとも部分的に、本発明に係るストリップから製作された熱交換器をも対象としている。
【0055】
本発明は同様に、熱交換器の製造を目的とする本発明に係るストリップの使用において、前記ストリップが、機械的強度またはろう付け性が劣化することなく改善された耐腐食性を有する、ストリップの使用をも対象としている。
【0056】
本発明に係るストリップは、特に自動車用ラジエータの製造、例えばエンジンの冷却用ラジエータ、オイルラジエータ、暖房用ラジエータおよびインタークーラー、ならびに空調システムにおいて使用可能である。
【実施例】
【0057】
[実施例1]
4つの合金を鋳造し、その組成は、質量百分率で下表1に示されている。合金Aは、先行技術に係るコア合金である。合金BおよびCは、本発明に係るコア合金である。合金Dは、ろう付け用合金AA4343である。
【0058】
【0059】
前述の表1中に記載の合金を使用して、以下の構成にしたがって、合計厚みが220μmの3層サンドイッチ構造を形成した:
ろう付け用合金(合金D-合計厚みの10%)
コア合金(合金A、BまたはC-合計厚みの80%)
ろう付け用合金(合金D-合計厚みの10%)。
【0060】
複数の層の鋳造および組立ての後、サンドイッチ構造を500℃で予熱し、この温度で3.5mmの合計厚みまで熱間圧延した。その後、サンドイッチ構造を、合計厚み220μmまで中間焼鈍無しで冷間圧延した。最後に、得られたストリップを、240℃で2時間、冶金学的質別H24を得るために回復焼鈍に付した。
【0061】
その後、600℃で2分間、Camlaw炉内においてろう付けを実施した。
【0062】
このように得られたサンドイッチ構造上で、ASTM G85A3に準じたSWAAT試験(sea water acetic acid test(塩水酢酸試験))を用いて孔食深さを決定し、その後、4週間の曝露後に光学顕微鏡(倍率100倍)を用いて顕微鏡写真による観察を行なった。結果は
図1に表わされている。
【0063】
図1は、本発明に係るコア合金が、先行技術に係るコア合金に比べて耐腐食性を改善することができる、ということを示している。
【0064】
一方、前述の表1中に記載の合金A、BおよびCのろう付け後の機械的強度を、ISO6892-1規格にしたがって測定した。得られた結果は、下表2に提示されている。
【0065】
【0066】
前述の表2によると、本発明に係るコア合金は、先行技術のコア合金と比べて同程度の、さらには改善された機械的強度を有している。
【0067】
[実施例2]
3つの合金を鋳造し、その組成は、質量百分率で下表3に示されている。合金Eは、本発明に係るコア合金である。合金Fは、先行技術に係るコア合金である。合金Dは、ろう付け用合金AA4343である。
【0068】
【0069】
前述の表3中に記載の合金を使用して、以下の構成にしたがって、合計厚みが400μmの3層サンドイッチ構造を形成した:
ろう付け用合金(合金D-合計厚みの7.5%)
コア合金(合金EまたはF-合計厚みの85%)
ろう付け用合金(合金D-合計厚みの7.5%)。
【0070】
複数の層の鋳造、均質化および組立ての後、サンドイッチ構造を500℃で予熱し、この温度で3.5mmの合計厚みまで熱間圧延した。その後、サンドイッチ構造を、合計厚み400μmまで中間焼鈍無しで冷間圧延した。最後に、得られたストリップを、360℃で1時間、冶金学的質別Oを得るために焼鈍に付した。
【0071】
その後、600℃で2分間、Camlaw炉内でろう付けを実施した。
【0072】
このように得られたサンドイッチ構造上で、ASTM G85A3に準じたSWAAT試験(sea water acetic acid test)を用いて孔食深さを決定し、その後、2週間の曝露後に光学顕微鏡(倍率100倍)を用いて顕微鏡写真による観察を行なった。結果は
図2に表わされている。
【0073】
図2は、(特に0.75~1.05%のCuを含む)本発明に係るコア合金が、先行技術に係るコア合金に比べて耐腐食性を改善することができる、ということを示している。