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特許7556880酸化物含有セラミック焼結体の製法及び離型シート
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  • 特許-酸化物含有セラミック焼結体の製法及び離型シート 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】酸化物含有セラミック焼結体の製法及び離型シート
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/645 20060101AFI20240918BHJP
   C04B 35/56 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C04B35/645
C04B35/56 070
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2021561263
(86)(22)【出願日】2020-11-09
(86)【国際出願番号】 JP2020041696
(87)【国際公開番号】W WO2021106533
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2023-07-20
(31)【優先権主張番号】P 2019215374
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004064
【氏名又は名称】日本碍子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野崎 史恭
(72)【発明者】
【氏名】吉川 潤
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 守道
(72)【発明者】
【氏名】松島 潔
【審査官】酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-065706(JP,A)
【文献】特開2002-338370(JP,A)
【文献】特開平02-279569(JP,A)
【文献】特開昭58-079872(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/622-35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)酸化物含有セラミック焼結体に焼成する前の酸化物含有セラミック成形体を作製する工程と、
(b)前記酸化物含有セラミック成形体を一対の離型シートで挟んでホットプレス焼成炉内に配置し、前記一対の離型シートを介して前記酸化物含有セラミック成形体を一対のパンチで加圧しながらホットプレス焼成して前記酸化物含有セラミック焼結体を得る工程と、
を含むセラミック焼結体の製法であって、
前記離型シートは、周期表の4族、5族及び6族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素の炭化物で形成される、
酸化物含有セラミック焼結体の製法。
【請求項2】
前記離型シートは、WC、TiC、TaC及びNbCからなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物で形成される、
請求項1に記載の酸化物含有セラミック焼結体の製法。
【請求項3】
前記離型シートの厚みは、0.1mm以上5mm以下である、
請求項1又は2に記載の酸化物含有セラミック焼結体の製法。
【請求項4】
前記工程(b)では、前記離型シートと前記パンチとの間にスペーサを介在させる、
請求項1~3のいずれか1項に記載の酸化物含有セラミック焼結体の製法。
【請求項5】
前記離型シートは、離型シート原料粉末、バインダー及び分散媒を含むスラリーをシート状に成形したあと脱脂したものである、
請求項1~4のいずれか1項に記載の酸化物含有セラミック焼結体の製法。
【請求項6】
前記離型シート原料粉末の粒径は、0.1μm以上10μm以下である、
請求項5に記載の酸化物含有セラミック焼結体の製法。
【請求項7】
酸化物含有セラミック焼結体をホットプレス焼成する際に用いられる離型シートであって、
前記離型シートは、周期表の4族、5族及び6族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素の炭化物で形成される、
離型シート。
【請求項8】
前記離型シートは、WC、TiC、TaC及びNbCからなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物で形成される、
請求項7に記載の離型シート。
【請求項9】
前記離型シートの厚みは、0.1mm以上5mm以下である、
請求項7又は8に記載の離型シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物含有セラミック焼結体の製法及び離型シートに関する。
【背景技術】
【0002】
セラミックの焼成方法として、試料(セラミック粉体あるいはセラミック成形体)を高温下で加圧しながら焼成するホットプレス法が知られている。ホットプレス法でセラミックを製造する場合、一般的には試料とプレス部材の保護のために、試料とプレス部材との間にスペーサが配置される。このスペーサは、他部材との熱膨張率差による応力集中を避けるために他部材と同一の材質を用いることが多い。例えば不活性雰囲気では部材はすべて黒鉛製に、酸化雰囲気ではすべてアルミナか炭化ケイ素とするのが一般的である。しかし、この手法では試料とスペーサが直接接触するため、試料とスペーサとが反応し、固着したりスペーサが割れたりする問題があった。そのため、試料とスペーサとの間に離型材を設ける手法が提案されている(例えば特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-194847号公報
【文献】特許第5002087号公報
【文献】特開2008-031020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
不活性雰囲気や真空雰囲気では黒鉛製シートを離型材に利用することが一般的である。しかし、高温でのホットプレス焼成では黒鉛製シートの離型材を用いた場合、試料と離型材とが反応し、試料の特性に影響与えることがある。特に、離型材としてカーボンシートを用いて酸化物セラミックの試料を焼成した場合、カーボンと試料とが反応して、試料が蒸発、融解したり、炭化物となったりすることがある。また、離型材と試料との反応が進んで離型材が失われ、試料がスペーサと直接接触し、固着することもある。
【0005】
本発明はこのような課題を解決するためになされたものであり、酸化物含有セラミック焼結体のホットプレス焼成において、酸化物含有セラミック成形体と離型材との反応を抑制することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の酸化物含有セラミック焼結体の製法は、
(a)酸化物含有セラミック焼結体に焼成する前の酸化物含有セラミック成形体を作製する工程と、
(b)前記酸化物含有セラミック成形体を一対の離型シートで挟んでホットプレス焼成炉内に配置し、前記一対の離型シートを介して前記酸化物含有セラミック成形体を一対のパンチで加圧しながらホットプレス焼成して前記酸化物含有セラミック焼結体を得る工程と、
を含む酸化物含有セラミック焼結体の製法であって、
前記離型シートは、周期表の4族、5族及び6族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素の炭化物又は窒化物で形成されたものである。
【0007】
この酸化物含有セラミック焼結体の製法では、離型シートは、周期表の4族、5族及び6族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素の炭化物又は窒化物で形成されるため、離型シートは、酸化物含有セラミック成形体との反応性が低く、酸化物含有セラミック成形体との反応が抑制される。したがって、得られる焼結体の特性に与える影響を抑制できる。
【0008】
本発明の酸化物含有セラミック焼結体の製法において、前記離型シートは、WC、TiC、TaC及びNbCからなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物で形成されるものが好ましい。こうすれば、離型シートと酸化物含有セラミック成形体との反応を十分に抑制できるため、得られる焼結体の特性に与える影響を十分に抑制できる。
【0009】
本発明の酸化物含有セラミック焼結体の製法において、前記離型シートの厚みは、0.1mm以上5mm以下が好ましい。離型シートの厚みが薄すぎると、酸化物含有セラミック成形体が離型シート内の隙間を拡散してパンチに到達し、パンチと反応する場合がある。これに対し、厚みが0.1mm以上であれば、酸化物含有セラミック成形体とパンチの反応を抑制することができる。離型シートの厚みが厚すぎると、ホットプレス焼成炉内に占める離型シートの割合が大きくなるため、酸化物含有セラミック焼結体の生産性が低下する。これに対し、離型シートの厚みが5mm以下であれば、酸化物含有セラミック焼結体の生産性の低下を抑制することができる。
【0010】
本発明の酸化物含有セラミック焼結体の製法において、前記工程(b)では、前記離型シートと前記パンチとの間にスペーサを介在させてもよい。こうすれば、酸化物含有セラミック成形体とパンチを保護することができる。
【0011】
本発明の酸化物含有セラミック焼結体の製法において、前記離型シートは、離型シート原料粉末、バインダー及び分散媒を含むスラリーをシート状に成形したあと脱脂したものが好ましい。こうすれば、低コストで面積の大きい離型シートを得ることができるため、面積の大きい酸化物含有セラミック焼結体を低コストで製造できる。
【0012】
本発明の酸化物含有セラミック焼結体の製法において、前記離型シート原料粉末の粒径は、0.1μm以上10μm以下が好ましい。離型シート原料粉末の粒径が小さすぎると、スラリー内で粉末が均一に分散せず、不均質な離型シートが作製されてしまう場合がある。これに対し、離型シート原料粉末の粒径が0.1μm以上であれば、離型シート原料粉末がスラリー内で均一に分散し、均質なシートを作成できる。一方、離型シート原料粉末の粒径が大きすぎると、離型シート内の隙間に酸化物含有セラミック成形体の成分が拡散する場合がある。これに対し、離型シート原料粉末の粒径が10μm以下であれば、緻密性を有する離型シートが得られ、離型シート内の隙間に試料成分が拡散することを抑制できる。
【0013】
本発明の離型シートは、
酸化物含有セラミック焼結体をホットプレス焼成する際に用いられる離型シートであって、
前記離型シートは、周期表の4族、5族及び6族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素の炭化物又は窒化物で形成されたものである。
【0014】
この離型シートは、周期表の4族、5族及び6族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素の炭化物又は窒化物で形成されるため、酸化物含有セラミック成形体との反応性が低く、酸化物含有セラミック成形体との反応を抑制できる離型シートを得ることができる。
【0015】
本発明の離型シートにおいて、前記離型シートは、WC、TiC、TaC及びNbCからなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物で形成されるものが好ましい。こうすれば、酸化物含有セラミック成形体との反応を十分に抑制できる離型シートを得ることができる。
【0016】
本発明の離型シートにおいて、前記離型シートの厚みは、0.1mm以上5mm以下が好ましい。離型シートの厚みが薄すぎると、酸化物含有セラミック成形体が離型シート内の隙間を拡散してパンチに到達し、パンチと反応する場合がある。これに対し、厚みが0.1mm以上であれば、酸化物含有セラミック成形体とパンチとの反応を抑制することができる。離型シートの厚みが厚すぎると、ホットプレス焼成炉内に占める離型シートの割合が大きくなるため、酸化物含有セラミック焼結体の生産性が低下する。これに対し、離型シートの厚みが5mm以下であれば、酸化物含有セラミック成形体の生産性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】黒鉛炉10の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施形態の酸化物含有セラミック焼結体の製法は、
(a)酸化物含有セラミック焼結体に焼成する前の酸化物含有セラミック成形体を作製する工程と、
(b)酸化物含有セラミック成形体を一対の離型シートで挟んでホットプレス焼成炉内に配置し、一対の離型シートを介して酸化物含有セラミック成形体を一対のパンチで加圧しながらホットプレス焼成して酸化物含有セラミック焼結体を得る工程と、
を含むものである。
【0019】
工程(a)では、酸化物含有セラミック焼結体に焼成する前の酸化物含有セラミック成形体を作製する。酸化物含有セラミック焼結体としては、例えば、アルミナ、イットリア、サマリア、マグネシア、ジルコニア等の酸化物を含有するセラミック焼結体が挙げられる。酸化物含有セラミック焼結体は、酸化物を主成分(全体の50質量%以上(100質量%を含む)を占める成分)とするセラミック焼結体でもよいし、酸化物を副成分(全体の50質量%未満の成分)とするセラミック焼結体でもよい。酸化物を副成分とするセラミック焼結体とは、例えば、酸化物を助剤成分として含むセラミック焼結体(酸化物セラミック、AlN、Si34、SiC等の非酸化物セラミックなど)及び原料粉末表面に酸化被膜を有するセラミック焼結体(AlN、Si34、SiCなど)が挙げられる。
【0020】
工程(a)では、酸化物含有セラミック焼結体の原料粉末を金型に充填し、続いて、所定の圧力で一軸プレス成形を行うことで、酸化物含有セラミック成形体を作製してもよい。あるいは、酸化物含有セラミック焼結体の原料粉末をバインダー及び分散媒と共に混合したスラリーを調製し、そのスラリーを成形して酸化物含有セラミック成形体を作製してもよい。こうした酸化物含有セラミック成形体は、炭素成分を含むことがあるため、脱脂したあと用いることが好ましい。脱脂温度は酸化物含有セラミック成形体に含まれる有機物が熱により除去される温度に設定すればよい。バインダーとしては、例えばエチルセルロース系あるいはブチラール系の有機化合物が挙げられる。分散媒としては、例えば2-エチルヘキサノール、オクタノール、ターピネオール、ブチルカルビトール等のアルコール類、キシレン等の芳香族化合物などが挙げられ、単独あるいは複数種組み合わせて使用できる。その他に可塑剤や分散剤、焼結助剤などを添加してもよい。可塑剤としては、例えばフタル酸エステルやアジピン酸エステル等の有機化合物が挙げられ、分散剤としては、例えばトリオレイン酸ソルビタンなどの多価アルコールと脂肪酸とのエステルが挙げられる。焼結助剤としては、例えばセラミックがアルミナの場合、AlF3、MgO、MgF2、V23、CaO、CuO、La23などが挙げられ、単独あるいは複数種組合わせて添加できる。
【0021】
あるいは、工程(a)では、モールドキャスト成形により酸化物含有セラミック成形体を作製してもよい。この場合、酸化物含有セラミック焼結体の原料粉末、溶媒、分散剤及びゲル化剤を含むセラミックラリーを成形型に流し込み、ゲル化剤を化学反応させてセラミックラリーをゲル化させることにより、酸化物含有セラミック成形体を作製してもよい。溶媒としては、分散剤及びゲル化剤を溶解するものであれば、特に限定されないが、多塩基酸エステル(例えば、グルタル酸ジメチル等)、多価アルコールの酸エステル(例えば、トリアセチン等)等の、2以上のエステル結合を有する溶媒を使用することが好ましい。分散剤としては、酸化物含有セラミック焼結体の原料粉末を溶媒中に均一に分散するものであれば、特に限定されないが、ポリカルボン酸系共重合体、ポリカルボン酸塩等を使用することが好ましい。ゲル化剤としては、例えば、イソシアネート類、ポリオール類及び触媒を含むものとしてもよい。このうち、イソシアネート類としては、イソシアネート基を官能基として有する物質であれば特に限定されないが、例えば、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)又はこれらの変性体等が挙げられる。ポリオール類としては、イソシアネート基と反応し得る水酸基を2以上有する物質であれば特に限定されないが、例えば、エチレングリコール(EG)、ポリエチレングリコール(PEG)、プロピレングリコール(PG)、ポリプロピレングリコール(PPG)等が挙げられる。触媒としては、イソシアネート類とポリオール類とのウレタン反応を促進させる物質であれば特に限定されないが、例えば、トリエチレンジアミン、ヘキサンジアミン、6-ジメチルアミノ-1-ヘキサノール等が挙げられる。ここでは、ゲル化反応とは、イソシアネート類とポリオール類とがウレタン反応を起こしてウレタン樹脂(ポリウレタン)になる反応である。ゲル化剤の反応によりセラミックスラリーがゲル化し、ウレタン樹脂は有機バインダーとして機能する。
【0022】
工程(b)で使用する離型シートは、ホットプレス焼成炉の構成部材と反応せず、セラミック成形体の特性を劣化させない材料であり、周期表の4族、5族及び6族からなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素の炭化物又は窒化物で形成されるシートである。4族としては、例えばTi,Zr,Hfが挙げられ、5族としては、例えばV,Nb,Taが挙げられ、6族としては、例えばCr,Mo,Wが挙げられる。離型シートとしては、WC、TiC、TaC及びNbCからなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物で形成されるシートが好ましく、TaC及びNbCからなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物で形成されるシートがより好ましい。WC、TiC、TaC及びNbCからなる群より選ばれる少なくとも2種類以上の化合物の混合物でもよい。また、離型シートとしては、離型シートの原料粉末をシート状に成形した成形シートでもよいし、その成形シートを焼結した焼結シートでもよいし、単結晶シートでもよいが、コストの面から成形シートが好ましい。なお、離型シートとして、成形シートや焼結シートを用いる場合、酸化物含有セラミックとの反応性や、酸化物含有セラミックの焼結性、焼結体の特性に影響を与えない限り、焼結助剤等の不純物を含んでいてもよい。離型シートとしては、表裏両面が平坦なシート(フラットシート)が好ましい。
【0023】
離型シートとして、離型シートの原料粉末をシート状に成形した成形シートを用いる場合、その成形方法としては、例えば、一軸プレス成形、テープ成形、押し出し成形、鋳込み成形、射出成形が挙げられるが、このうち一軸プレス成形又はテープ成形が好ましい。離型シートの原料粉末は、そのまま成形してもよいし、バインダーや分散媒と共に調製したスラリーを用いて成形してもよい。バインダーや分散媒の具体例については、上述したとおりである。また、その他に適宜可塑剤や分散剤、焼結助剤などを添加してもよいが、それらの具体例についても、上述したとおりである。例えば、一軸プレス成形を採用する場合、離型シートの原料粉末を金型に充填し、続いて、所定の圧力で一軸プレス成形を行うことで、離型シートを作製してもよい。離型シートに炭素成分が含まれている場合には、離型シートを脱脂して炭素成分を除去してから使用するのが好ましい。離型シートの原料粉末の粒径は、離型シートの緻密性を高めるためには、10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。離型シートの緻密性が高いと、工程(b)で酸化物含有セラミック成形体を一対の離型シートで挟んでホットプレス焼成する際に、離型シートへの酸化物含有セラミック成形体の拡散を防止することができる。離型シートの原料粉末の粒径は、原料粉末のスラリーを用いて離型シートを成形する場合の分散性を良好にするためには、0.1μm以上が好ましく、0.5μm以上がより好ましい。
【0024】
工程(b)では、酸化物含有セラミック成形体を一対の離型シートで挟んで、ホットプレス焼成炉内に配置し、一対の離型シートを介してセラミック成形体を一対のパンチで加圧しながらホットプレス焼成して酸化物含有セラミック焼結体を得る。この場合、離型シートとパンチとの間にスペーサを介在させてもよい。また、複数のセラミック成形体を焼成する場合、任意の位置に離型シートと接するようにスペーサを配置してもよい。離型シートの厚みは、特に限定されるものではいが、離型シートとして成形シートを用いた場合、その厚みが薄すぎると、工程(b)で酸化物含有セラミック成形体が離型シート内の隙間を拡散してパンチに到達し、パンチと反応することがある。また、離型シートとパンチとの間にスペーサが配置されている場合には、スペーサと反応することがある。酸化物含有セラミック成形体が離型シート内の隙間を拡散してパンチやスペーサに到達しないようにするために、離型シートの厚みは、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることがより好ましい。一方、離型シートの厚みが厚すぎると、ホットプレス焼成炉内に占める離型シートの割合が大きくなり、酸化物含有セラミック焼結体の生産性が低下する。酸化物含有セラミック焼結体の生産性を低下させないために、離型シートの厚みは5mm以下であることが好ましく、2mm以下であることがより好ましい。
【0025】
ホットプレス焼成炉の一例である黒鉛炉10の断面図を図1に示す。黒鉛炉10は、ヒータ機能を有する黒鉛モールド12と、その黒鉛モールド12の内部に配置され縦に2分割された黒鉛スリーブ14とを備えている。酸化物含有セラミック成形体16をこの黒鉛炉10でホットプレス焼成する場合、酸化物含有セラミック成形体16を一対の離型シート18,18で挟み、更に一対の黒鉛スペーサ20,20で挟んだ状態で黒鉛スリーブ14の内部に配置し、一対の黒鉛パンチ22,22で酸化物含有セラミック成形体16を加圧しながら加熱する。酸化物含有セラミックがアルミナの場合、ホットプレス焼成における焼成雰囲気は特に限定されないが、窒素、Ar等の不活性ガス、又は真空雰囲気が好ましい。圧力は、50kgf/cm2以上が好ましく、200kgf/cm2以上がより好ましい。焼成温度(最高到達温度)は1700~2050℃が好ましく、1750~2000℃がより好ましい。最高到達温度からの降温時において、所定温度(1000~1400℃(好ましくは1100~1300℃)の範囲で設定された温度)まで50kgf/cm2以上のプレス圧を印加することが好ましい。所定温度未満の温度域では50kgf/cm2未満の圧力まで除圧することが好ましい。このようにすることで、焼結体中にクラックが入ることを抑制することができる。プレス圧の除圧のタイミングは、クラック抑制の観点から降温中の1200℃とするのが好ましい。
【0026】
以上説明した本実施形態の酸化物含有セラミック焼結体の製法では、離型シートは、周期表の4族、5族及び6族元素からなる群より選ばれる少なくとも1種類の元素の炭化物又は窒化物で形成される。そのため、離型シートは、酸化物含有セラミック成形体との反応性が低く、酸化物含有セラミック成形体との反応が抑制される。したがって、得られる焼結体の特性に与える影響を抑制できる。
【0027】
また、離型シートは、WC、TiC、TaC及びNbCからなる群より選ばれる少なくとも1種類の化合物で形成されるのが好ましい。こうすれば、離型シートと酸化物含有セラミック成形体との反応を十分に抑制でき、得られる焼結体の特性に与える影響を十分に抑制できる。
【0028】
更に、離型シートの厚みは、0.1mm以上5mm以下とするのが好ましい。離型シートの厚みが薄すぎると、酸化物含有セラミック成形体が離型シート内の隙間を拡散してスペーサ(スペーサがない場合にはパンチ、以下同じ)に到達し、スペーサと反応する場合がある。これに対し、厚みが0.1mm以上であれば、酸化物含有セラミック成形体とスペーサとの反応を抑制することができる。離型シートの厚みが厚すぎると、ホットプレス焼成炉内に占める離型シートの割合が大きくなるため、酸化物含有セラミック焼結体の生産性が低下する。これに対し、離型シートの厚みが5mm以下であれば、酸化物含有セラミック焼結体の生産性の低下を抑制することができる。
【0029】
更にまた、工程(b)では、離型シートとパンチとの間にスペーサを介在させているため、酸化物含有セラミック成形体とパンチを保護することができる。
【0030】
そして、離型シートは、離型シート原料粉末、バインダー及び分散媒を含むスラリーをシート状に成形したあと脱脂したものとするのが好ましい。こうすれば、低コストで面積の大きい離型シートを得ることができるため、面積の大きい酸化物含有セラミック焼結体を低コストで製造できる。
【0031】
そしてまた、離型シート原料粉末の粒径は、0.1μm以上10μm以下とするのが好ましい。離型シート原料粉末の粒径が小さすぎると、スラリー内で粉末が均一に分散せず、不均質な離型シートが作製されてしまう場合がある。これに対し、離型シート原料粉末の粒径が0.1μm以上であれば、離型シート原料粉末がスラリー内で均一に分散し、均質なシートを作成できる。一方、離型シート原料粉末の粒径が大きすぎると、離型シート内の隙間に試料成分が拡散する場合がある。これに対し、離型シート原料粉末の粒径が10μm以下であれば、緻密性を有する離型シートが得られ、離型シート内の隙間に試料成分が拡散することを抑制できる。
【0032】
なお、本発明は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本発明の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例
【0033】
以下には、酸化物含有セラミック焼結体を具体的に作製した例を実施例として説明する。実験例1~4,6~9,11~14,16~19が本発明の実施例に相当し、実験例5,10,15,20が比較例に相当する。なお、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0034】
[実験例1]
(1)アルミナ成形体の作製
原料に平均粒径(D50)0.6μmの市販のアルミナ粉末を使用し、金型を用いた一軸プレス成形にて直径20mm、厚さ8mmのプレス成形体を得た。プレス圧は200kgf/cm2とした。なお、各種粉末の平均粒径(D50)は粒度分布測定装置(日機装製、MT3300II)を用いて測定した。
【0035】
(2)離型シートの作製
原料に平均粒径(D50)1.6μmの市販の炭化タンタル(TaC)粉末を使用し、金型を用いた一軸プレス成形にて直径20mm、厚さ2mmのプレス成形体を2体作製し、アルミナ成形体をホットプレス焼成する際に用いるTaC離型シート(フラットシート)とした。プレス圧は200kgf/cm2とした。
【0036】
(3)ホットプレス焼成
(1)で作製したアルミナ成形体の上下面に(2)で作製したTaC離型シートを積層した3層構造体(TaC離型シート/アルミナ成形体/TaC離型シート)を図1の黒鉛炉10にて、アルゴン中、焼成温度(最高到達温度)1700℃で4時間、面圧200kgf/cm2の条件でホットプレス焼成し、アルミナ焼結体を得た。焼成後、TaC離型シートとアルミナ焼結体とは分離し、TaC離型シートとアルミナ焼結体との間で目視上反応した様子は認められなかった。
【0037】
(4)アルミナ焼結体の評価
アルミナ焼結体とTaC離型シートとの反応性を評価するため、SEM/EDS装置(日本電子製、JSM-6390)を用いてTaC離型シートと接触していたアルミナ焼結体表面のEDS分析を実施した。その結果、アルミナ焼結体表面にTa、C成分は検出されなかった。また、TaC離型シートとアルミナ焼結体との反応の有無を調べるため、得られたアルミナ焼結体に対し、板面と直交する方向で基板の中心部を通るように切断した。切断した試料に対してダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工にて断面を平滑化し、コロイダルシリカを用いた化学機械研磨(CMP)により鏡面仕上げとした。SEM/EDS装置(日本電子製、JSM-6390)を用いて、アルミナ焼結体の断面観察を実施した。その結果、アルミナ焼結体内部にはTa、C成分が検出されず、焼成中にアルミナとTaC離型シートとが反応していないことが示された。
【0038】
[実験例2]
離型シートの原料に平均粒径(D50)2.3μmの市販の炭化ニオブ(NbC)粉末を使用した以外は、実験例1と同様の方法を用いてアルミナ焼結体を作製し、反応性を評価した。その結果、焼成後、NbC離型シートとアルミナ焼結体とは分離し、NbC離型シートとアルミナ焼結体との間で目視上反応した様子は認められなかった。また、アルミナ焼結体表面及び断面のSEM/EDS観察でも、Nb、C成分は検出されず、焼成中にアルミナとNbC離型シートとが反応していないことが示された。
【0039】
[実験例3]
離型シートの原料に平均粒径(D50)2.2μmの市販の炭化タングステン(WC)粉末を使用した以外は、実験例1と同様の方法を用いてアルミナ焼結体を作製し、反応性を評価した。その結果、焼成後、WC離型シートとアルミナ焼結体とは分離し、WC離型シートとアルミナ焼結体との間で目視上反応した様子は認められなかった。また、アルミナ焼結体表面及び断面のSEM/EDS観察でも、W、C成分は検出されず、焼成中にアルミナとWC離型シートとが反応していないことが示された。
【0040】
[実験例4]
離型シートの原料に平均粒径(D50)2.1μmの市販の炭化チタン(TiC)粉末を使用した以外は、実験例1と同様の方法を用いてアルミナ焼結体を作製し、反応性を評価した。その結果、焼成後、TiC離型シートとアルミナ焼結体とは分離し、TiC離型シートとアルミナ焼結体との間で目視上反応した様子は認められなかった。また、アルミナ焼結体表面及び断面のSEM/EDS観察でも、Ti、C成分は検出されず、焼成中にアルミナとTiC離型シートとが反応していないことが示された。
【0041】
[実験例5]
離型シートに市販のグラファイトシートである膨張黒鉛シート(ニカフィルムFL-400、日本カーボン製)を使用した以外は、実験例1と同様の方法を用いてアルミナ焼結体を作製し、反応性を評価した。その結果、焼成後、膨張黒鉛シートはアルミナ焼結体との反応で消失していた。また、アルミナ焼結体は減肉しており、C(炭素)とアルミナ成分との反応物の形成が認められた。付着物のSEM/EDS観察を実施した結果、付着物はCによるアルミナ成分の還元によって生じた金属アルミニウム及び炭化アルミニウムであることが示唆された。
【0042】
[実験例6]
(1)Y23成形体の作製
原料に平均粒径(D50)0.4μmの市販のY23粉末を使用し、金型を用いた一軸プレス成形にて直径20mm、厚さ8mmのプレス成形体を得た。プレス圧は200kgf/cm2とした。
【0043】
(2)離型シートの作製
実験例1と同様の方法でTaC離型シート(フラットシート)を作製した。
【0044】
(3)ホットプレス焼成
(1)で作製したY23成形体の上下面に(2)で作製したTaC離型シートを積層した、3層構造体(TaC離型シート/Y23成形体/TaC離型シート)を図1の黒鉛炉10にて、N2中、焼成温度(最高到達温度)1950℃で4時間、面圧200kgf/cm2の条件でホットプレス焼成し、Y23焼結体を得た。焼成後、TaC離型シートとY23焼結体とは分離し、TaC離型シートとY23焼結体との間で目視上反応した様子は認められなかった。
【0045】
(4)Y23焼結体の評価
23焼結体とTaC離型シートとの反応性を評価するため、実験例1と同様の方法でY23焼結体表面及びY23焼結体断面のSEM/EDS観察を実施した。その結果、Y23焼結体表面及びY23焼結体内部からTa、C成分は検出されず、焼成中にY23とTaC離型シートとが反応していないことが示された。
【0046】
[実験例7]
離型シートの原料に平均粒径(D50)2.3μmの市販の炭化ニオブ(NbC)粉末を使用した以外は、実験例6と同様の方法を用いてY23焼結体を作製し、反応性を評価した。その結果、焼成後、NbC離型シートとY23焼結体とは分離し、NbC離型シートとY23焼結体との間で目視上反応した様子は認められなかった。また、Y23焼結体表面、断面のSEM/EDS観察でも、焼結体表面及びY23焼結体内部からNb、C成分は検出されず、焼成中にY23とNbC離型シートとは反応していないことが示された。
【0047】
[実験例8]
離型シートの原料に平均粒径(D50)2.2μmの市販の炭化タングステン(WC)粉末を使用した以外は、実験例6と同様の方法を用いてY23焼結体を作製し、反応性を評価した。その結果、焼成後、Y23焼結体とWC離型シートとは固着していることが判明した。得られた3層構造体(WC離型シート/Y23焼結体/WC離型シート)に対し、板面と直交する方向で基板の中心部を通るように切断した。切断した試料に対してダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工にて断面を平滑化し、コロイダルシリカを用いた化学機械研磨(CMP)により鏡面仕上げとした。得られた断面試料に対し、SEM/EDS装置(日本電子製、JSM-6390)を用いてWC離型シート/Y23焼結体界面周辺の観察を実施した。その結果、Y23焼結体/WC離型シート界面からY23焼結体内部の厚さ方向約7μmの範囲で微量のW、C成分が検出された。これらの結果から焼成中におけるY23とWC離型シートとはほとんど反応せず、WC離型シートは離型材として使用できることがわかった。しかし、焼成後にWC離型シートを分離するには加工が必要であること、WC成分がY23内部にわずかに拡散しており、拡散した領域を研削などで除去する必要があることが示された。
【0048】
[実験例9]
離型シートの原料に平均粒径(D50)2.1μmの市販の炭化チタン(TiC)粉末を使用した以外は、実験例6と同様の方法を用いてY23焼結体を作製し、反応性を評価した。その結果、焼成後、Y23焼結体とTiC離型シートとは固着していることが判明した。得られた3層構造体(TiC離型シート/Y23焼結体/TiC離型シート)に対し、板面と直交する方向で基板の中心部を通るように切断した。切断した試料に対してダイヤモンド砥粒を用いたラップ加工にて断面を平滑化し、コロイダルシリカを用いた化学機械研磨(CMP)により鏡面仕上げとした。得られた断面試料に対し、SEM/EDS装置(日本電子製、JSM-6390)を用いてTiC離型シート/Y23焼結体界面周辺の観察を実施した。その結果、Y23焼結体/TiC離型シート界面からY23焼結体内部の厚さ方向約9μmの範囲で微量のTi、C成分が検出された。これらの結果から焼成中におけるY23とTiC離型シートとはほとんど反応せず、TiC離型シートは離型材として使用できることがわかった。しかし、焼成後にTiC離型シートを分離するには加工が必要であること、TiC成分がY23内部にわずかに拡散しており、拡散した領域を研削などで除去する必要があることが示された。
【0049】
[実験例10]
離型シートに市販のグラファイトシートである膨張黒鉛シート(ニカフィルムFL-400、日本カーボン製)を使用した以外は、実験例6と同様の方法を用いてY23焼結体を作製し、反応性を評価した。その結果、焼成後、膨張黒鉛シートはY23焼結体との反応で消失していた。また、Y23焼結体は減肉しており、CとY23成分との反応物の形成が認められた。反応物のSEM/EDS観察を実施した結果、反応物はCによるY23成分の還元及び還元窒化によって生じた金属イットリウム、炭化イットリウム、窒化イットリウムであることが示唆された。
【0050】
[実験例11]
(1)Si34成形体の作製
平均粒径(D50)0.7μmの市販のSi34粉末100質量部に対し、平均粒径(D50)0.6μmの市販のAl23粉末3質量部と、平均粒径(D50)0.4μmの市販のY23粉末5質量部を焼結助剤として添加した後、エタノール中で24時間ポットミル混合した。得られたスラリーを乾燥後、#100の篩で篩通しし、金型を用いた一軸プレス成形にて直径20mm、厚さ8mmのプレス成形体を得た。プレス圧は200kgf/cm2とした。
【0051】
(2)離型シートの作製
平均粒径(D50)1.6μmの市販の炭化タンタル(TaC)粉末100質量部に対し、アクリルバインダー(オリコックス#2434T、共栄社化学製)3.2質量部と、可塑剤としてフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOP、ジェイ・プラス製)1.3質量部と、分散剤としてポリエーテルエステル酸アミン(DA-234、楠本化成製)0.2質量部と、分散媒としてキシレン及び1-ブタノールとを加えて混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。このようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によってPETフィルムの上に乾燥後の厚さが200μmとなるようにテープ成形し、成形シートを得た。この成形シートを、アルミナセッターで挟んだ状態で脱脂炉中に入れ、窒素中500℃で6時間の条件で脱脂を行い、Si34成形体をホットプレス焼成する際に用いるTaC離型シート(フラットシート)とした。
【0052】
(3)ホットプレス焼成
(1)で作製したSi34成形体の上下面に(2)で作製したTaC離型シートを積層した3層構造体(TaC離型シート/Si34成形体/TaC離型シート)を図1の黒鉛炉10にて、窒素中、焼成温度(最高到達温度)1800℃で4時間、面圧200kgf/cm2の条件でホットプレス焼成し、Si34焼結体を得た。焼成後、TaC離型シートとSi34焼結体とは分離し、TaC離型シートとSi34焼結体との間で目視上反応した様子は認められなかった。
【0053】
(4)Si34焼結体の評価
Si34焼結体とTaC離型シートとの反応性を評価するため、実験例1と同様の方法でSi34焼結体表面及びSi34焼結体断面のSEM/EDS観察を実施した。その結果、Si34焼結体表面及びSi34焼結体内部からTa、C成分が検出されず、焼成中にSi34及び助剤成分であるAl23、Y23とTaC離型シートとが反応していないことが示された。
【0054】
[実験例12]
離型シートの原料に平均粒径(D50)2.3μmの市販の炭化ニオブ(NbC)粉末を使用した以外は、実験例11と同様の方法を用いてSi34焼結体を作製し、反応性を評価した。その結果、焼成後、NbC離型シートとSi34焼結体とは分離し、NbC離型シートとSi34焼結体との間で目視上反応した様子は認められなかった。また、Si34焼結体表面及び断面のSEM/EDS観察でも、Nb、C成分は検出されず焼成中にSi34及び助剤成分であるAl23、Y23とNbC離型シートとが反応していないことが示された。
【0055】
[実験例13]
離型シートの原料に平均粒径(D50)2.2μmの市販の炭化タングステン(WC)粉末を使用した以外は、実験例11と同様の方法を用いてSi34焼結体を作製し、反応性を評価した。その結果、焼成後、WC離型シートとSi34焼結体とは分離し、WC離型シートとSi34焼結体との間で目視上反応した様子は認められなかった。また、Si34焼結体表面及び断面のSEM/EDS観察でも、W、C成分は検出されず焼成中にSi34及び助剤成分であるAl23、Y23とWC離型シートとが反応していないことが示された。
【0056】
[実験例14]
離型シートの原料に平均粒径(D50)2.1μmの市販の炭化チタン(TiC)粉末を使用した以外は、実験例11と同様の方法を用いてSi34焼結体を作製し、反応性を評価した。その結果、焼成後、TiC離型シートとSi34焼結体とは分離し、TiC離型シートとSi34焼結体との間で目視上反応した様子は認められなかった。また、Si34焼結体表面及び断面のSEM/EDS観察でも、Ti、C成分は検出されず焼成中にSi34及び助剤成分であるAl23、Y23とTiC離型シートとが反応していないことが示された。
【0057】
[実験例15]
離型シートに市販のグラファイトシートである膨張黒鉛シート(ニカフィルムFL-400、日本カーボン製)を使用した以外は、実験例11と同様の方法を用いてSi34焼結体を作製し、反応性を評価した。その結果、焼成後、膨張黒鉛シートとSi34焼結体とは分離しなかった。膨張黒鉛シートの一部はSi34焼結体中の焼結助剤であるAl23およびY23との反応で消失しており、CとAl23およびY23成分との反応物の形成が認められた。反応物のSEM/EDS観察を実施した結果、反応物は金属アルミニウム、炭化アルミニウム、金属イットリウム、炭化イットリウムであることが示唆された。
【0058】
[実験例16]
(1)SiC成形体の作製
平均粒径(D50)0.7μmの市販のSiC粉末100質量部に対し、平均粒径(D50)0.5μmの市販のAlN粉末18質量部と、平均粒径(D50)0.4μmの市販のY23粉末12質量部を焼結助剤として添加した後、エタノール中で24時間ポットミル混合した。得られたスラリーを乾燥後、#100の篩で篩通しし、金型を用いた一軸プレス成形にて直径20mm、厚さ8mmのプレス成形体を得た。プレス圧は200kgf/cm2とした。
【0059】
(2)離型シートの作製
平均粒径(D50)1.6μmの市販の炭化タンタル(TaC)粉末100質量部に対し、アクリルバインダー(オリコックス#2434T、共栄社化学製)3.2質量部と、可塑剤としてフタル酸ビス(2-エチルヘキシル)(DOP、ジェイ・プラス製)1.3質量部と、分散剤としてポリエーテルエステル酸アミン(DA-234、楠本化成製)0.2質量部と、分散媒としてキシレン及び1-ブタノールとを加えて混合した。分散媒の量は、スラリー粘度が20000cPとなるように調整した。このようにして調製されたスラリーを、ドクターブレード法によってPETフィルムの上に乾燥後の厚さが200μmとなるようにテープ成形し、成形シートを得た。この成形シートを、アルミナセッターで挟んだ状態で脱脂炉中に入れ、窒素中500℃で6時間の条件で脱脂を行い、SiC成形体をホットプレス焼成する際に用いるTaC離型シート(フラットシート)とした。
【0060】
(3)ホットプレス焼成
(1)で作製したSiC成形体の上下面に(2)で作製したTaC離型シートを積層した3層構造体(TaC離型シート/SiC成形体/TaC離型シート)を図1の黒鉛炉10にて、アルゴン中、焼成温度(最高到達温度)2000℃で4時間、面圧200kgf/cm2の条件でホットプレス焼成し、SiC焼結体を得た。焼成後、TaC離型シートとSiC焼結体とは分離し、TaC離型シートとSiC焼結体との間で目視上反応した様子は認められなかった。
【0061】
(4)SiC焼結体の評価
SiC焼結体とTaC離型シートとの反応性を評価するため、実験例1と同様の方法でSiC焼結体表面及びSiC焼結体断面のSEM/EDS観察を実施した。その結果、SiC焼結体表面及びSiC焼結体内部からTa、C成分が検出されず、焼成中にSiC及び助剤成分であるAlN、Y23とTaC離型シートとが反応していないことが示された。
【0062】
[実験例17]
離型シートの原料に平均粒径(D50)2.3μmの市販の炭化ニオブ(NbC)粉末を使用した以外は、実験例16と同様の方法を用いてSiC焼結体を作製し、反応性を評価した。その結果、焼成後、NbC離型シートとSiC焼結体とは分離し、NbC離型シートとSiC焼結体との間で目視上反応した様子は認められなかった。また、SiC焼結体表面及び断面のSEM/EDS観察でも、Nb、C成分は検出されず焼成中にSiC及び助剤成分であるAlN、Y23とNbC離型シートとが反応していないことが示された。
【0063】
[実験例18]
離型シートの原料に平均粒径(D50)2.2μmの市販の炭化タングステン(WC)粉末を使用した以外は、実験例16と同様の方法を用いてSiC焼結体を作製し、反応性を評価した。その結果、焼成後、WC離型シートとSiC焼結体とは分離し、WC離型シートとSiC焼結体との間で目視上反応した様子は認められなかった。また、SiC焼結体表面及び断面のSEM/EDS観察でも、W、C成分は検出されず焼成中にSiC及び助剤成分であるAlN、Y23とWC離型シートとが反応していないことが示された。
【0064】
[実験例19]
離型シートの原料に平均粒径(D50)2.1μmの市販の炭化チタン(TiC)粉末を使用した以外は、実験例16と同様の方法を用いてSiC焼結体を作製し、反応性を評価した。その結果、焼成後、TiC離型シートとSiC焼結体とは分離し、TiC離型シートとSiC焼結体との間で目視上反応した様子は認められなかった。また、SiC焼結体表面及び断面のSEM/EDS観察でも、Ti、C成分は検出されず焼成中にSiC及び助剤成分であるAlN、Y23とTiC離型シートとが反応していないことが示された。
【0065】
[実験例20]
離型シートに市販のグラファイトシートである膨張黒鉛シート(ニカフィルムFL-400、日本カーボン製)を使用した以外は、実験例16と同様の方法を用いてSiC焼結体を作製し、反応性を評価した。その結果、焼成後、膨張黒鉛シートとSiC焼結体とは分離しなかった。膨張黒鉛シートの一部はSiC焼結体中の焼結助剤であるY23との反応で消失しており、CとY23成分との反応物の形成が認められた。反応物のSEM/EDS観察を実施した結果、反応物は金属イットリウム、炭化イットリウムであることが示唆された。
【0066】
本出願は、2019年11月28日に出願された日本国特許出願第2019-215374号を優先権主張の基礎としており、引用によりその内容の全てが本明細書に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0067】
本発明は、酸化物含有セラミック焼結体をホットプレス焼成する場合に利用可能である。
【符号の説明】
【0068】
10 黒鉛炉、12 黒鉛モールド、14 黒鉛スリーブ、16 セラミック成形体、18 離型シート、20 黒鉛スペーサ、22 黒鉛パンチ。
図1