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特許7556881プロバイオティック細菌の治療用マイクロベシクル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】プロバイオティック細菌の治療用マイクロベシクル
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20240918BHJP
   A61K 35/74 20150101ALI20240918BHJP
   A61K 35/745 20150101ALI20240918BHJP
   A61K 35/747 20150101ALI20240918BHJP
   A61P 1/00 20060101ALI20240918BHJP
   A61P 19/08 20060101ALI20240918BHJP
   A61Q 11/00 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C12N1/20 E
A61K35/74 A
A61K35/74 G
A61K35/745
A61K35/747
A61P1/00
A61P19/08
A61Q11/00
C12N1/20 A
【請求項の数】 18
(21)【出願番号】P 2021561738
(86)(22)【出願日】2020-04-17
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2022-06-22
(86)【国際出願番号】 SE2020050397
(87)【国際公開番号】W WO2020214083
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2023-03-23
(31)【優先権主張番号】1950483-6
(32)【優先日】2019-04-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(31)【優先権主張番号】1951222-7
(32)【優先日】2019-10-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM 17938
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM 32846
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM 32947
【微生物の受託番号】DSMZ  DSM 32948
(73)【特許権者】
【識別番号】312014878
【氏名又は名称】バイオガイア エイビー
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ロース、ステファン
(72)【発明者】
【氏名】クンゼ、ウォルフガング
(72)【発明者】
【氏名】ビーネンストック、ジョン
【審査官】西澤 龍彦
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-539371(JP,A)
【文献】特開2018-191638(JP,A)
【文献】特表2011-522885(JP,A)
【文献】国際公開第2017/018440(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/057882(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/189408(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
治療用マイクロベシクル(microvesicles)の製造方法であって、
該方法が、
プロバイオティック細菌株の細菌を培地中で培養するステップであって、該プロバイオティック細菌株が、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)株から選択される、上記ステップと、
細菌による治療用マイクロベシクルの産生を誘導するために培養中に細菌を誘導用生物処理に曝露するステップであって、該誘導用生物処理が、細菌を別の細菌株の細菌と共培養すること、細菌を別の細菌株の細菌からの条件培地の存在下で培養すること、及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、別の細菌株がビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)株ある、上記ステップと、
を含む、
上記製造方法。
【請求項2】
細菌を曝露することが、培養中に細菌を誘導用生物処理に曝露して、治療用マイクロベシクルの産生及び治療用マイクロベシクルの培地への放出を誘導することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
培地から治療用マイクロベシクルを単離することを更に含む、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
細菌による治療用マイクロベシクルの産生を誘導するために、培養中に細菌を誘導用非生物処理に曝露することを更に含み、
誘導用非生物処理が、培養及び/又はスパージング中に細菌を撹拌することによる酸素処理である、請求項1~3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記別の細菌株がB.ロンガム(B.longum)DSM 32947、B.ロンガム(B.longum)DSM 32948、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記プロバイオティック細菌株がL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される、請求項1~5のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
乳児若しくは小児の胃腸障害又は疾患の治療に使用するための、プロバイオティック細菌株の細菌から単離された治療用マイクロベシクルからなる組成物であって、
プロバイオティック細菌株が、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)株である、
上記組成物。
【請求項8】
仙痛の治療に使用するための、プロバイオティック細菌株の細菌から単離された治療用マイクロベシクルからなる組成物であって、
該プロバイオティック細菌株が、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)株である、
上記組成物。
【請求項9】
乳児仙痛の治療に使用するための、プロバイオティック細菌株の細菌から単離された治療用マイクロベシクルからなる組成物であって、
該プロバイオティック細菌株が、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)株である、
上記組成物。
【請求項10】
細菌株が、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)DSM 32947又はビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)DSM 32948である、細菌株。
【請求項11】
細菌株が、乾燥又は凍結乾燥された形態である、請求項10に記載の細菌株。
【請求項12】
プロバイオティック細菌株の細菌と、
プロバイオティック細菌株の細菌を培養中に誘導用生物処理に曝露して、細菌による治療用マイクロベシクルの産生を誘導することにより、プロバイオティック細菌株によって産生された治療用マイクロベシクルと、
を含むプロバイオティック組成物であって、
プロバイオティック細菌株は、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)株であり、
誘導用生物処理は、プロバイオティック細菌株の細菌を別の細菌株の細菌と共培養すること、細菌を別の細菌株の細菌からの条件培地の存在下で培養すること、及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、
別の細菌株は、B.ロンガム(B.longum)DSM 32947、B.ロンガム(B.longum)DSM 32948及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)株であ
記プロバイオティック組成物。
【請求項13】
請求項12に記載のプロバイオティック組成物であって、
該プロバイオティック組成物が、
プロバイオティック細菌株の細菌の形態にある遅効性成分、及び
培養中に細菌を誘導用生物処理に曝露して細菌による治療用マイクロベシクルの産生を誘導することにより、プロバイオティック細菌株によって産生された治療用マイクロベシクルの形態の速効性成分を含み、
速効性成分及び遅効性成分が一緒になって、対象に投与した場合に長期の治療効果をもたらす、
上記プロバイオティック組成物。
【請求項14】
細菌による治療用マイクロベシクルの産生を誘導するために培養中に誘導用生物処理に曝露されたプロバイオティック細菌株の細菌から単離された治療用マイクロベシクルからなる組成物であって、
プロバイオティック細菌株が、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846、及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)株であり
誘導用生物処理が、細菌を別の細菌株の細菌と共培養すること、細菌を別の細菌株の細菌からの条件培地の存在下で培養すること、及びそれらの組み合わせからなる群から選択され、
かつ別の細菌株が、B.ロンガム(B.longum)DSM 32947、B.ロンガム(B.longum)DSM 32948及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)株ある
上記治療用マイクロベシクルからなる組成物。
【請求項15】
医薬品として使用するための、請求項12又は13に記載のプロバイオティック組成物、或いは請求項14に記載の組成物。
【請求項16】
痛の治療に使用するための、請求項12又は13に記載のプロバイオティック組成物、或いは請求項14に記載の組成物。
【請求項17】
乳児仙痛の治療に使用するための、請求項12又は13に記載のプロバイオティック組成物、或いは請求項14に記載の組成物。
【請求項18】
乳児若しくは小児の胃腸障害又は疾患、胃腸疼痛障害、骨量減少疾患、及び歯周病からなる群から選択される疾患の治療に使用するための、請求項12又は13に記載のプロバイオティック組成物、或いは請求項14に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般に、プロバイオティック細菌の治療用マイクロベシクル及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
国際連合食糧農業機関は、プロバイオティクスを「適切な量で投与されると、宿主に健康上の利益を与える生きた微生物」と定義している。プロバイオティクスは、微生物叢組成物の調節を介して、代謝活性を介して、又は腸粘膜の下にある免疫系との直接相互作用を介してさえ、宿主の免疫機能に影響を及ぼす。免疫細胞の60%超が腸粘膜に位置し、微生物叢の構造及び組成のサンプリング情報は、循環免疫細胞を介して局所的及び全身的効果に変換される。プロバイオティクス相互作用の後、免疫機構は、サイトカインなどの免疫メディエータの放出、抗体の産生及びリンパ球並びに他の免疫細胞の活性化によって反映されるように活性化することができる。プロバイオティクスによって放出されたこれらの活性化細胞、サイトカイン及び/又は化合物は、血液循環を通じて体内の異なる位置で免疫調節機能を発揮する。プロバイオティクスはまた、病原体の増殖を予防又は阻害し、病原体による病原性因子の産生を抑制することができる。
【0003】
ラクトバチルス(Lactobacillus)及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)の選択された株などの乳酸産生細菌を含む、いくつかの異なる細菌株が現在プロバイオティクスとして使用されている。プロバイオティック細菌の有効性は株特異的であり、各株は異なる機構によって宿主の健康に寄与することができる。
【0004】
数多くの種類のプロバイオティックサプリメントが存在するが、有益な健康効果は細菌株間で異なり、特定のプロバイオティック又は生物学的効果を制御及び調節する方法についてはまだほとんど知られていない。各細菌株は、健康を改善し、例えば下痢及び便秘、炎症性腸疾患(IBD)、過敏性腸症候群(IBS)及び乳児仙痛を含む胃腸障害の症状を軽減するために特異的効果が媒介される明確な機構を有する。乳児仙痛は、罹患した家族に極端にストレスがかかり、生活の質を著しく損なう可能性がある状態である。更に、乳児仙痛は、後年の乳児に長期的な結果をもたらす可能性がある。よく研究されているプロバイオティック細菌株ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938は、仙痛性乳児において泣く時間を有意に短縮することが示されている。しかし、この効果の発現までの時間は即時的ではなく、乳児が治療から恩恵を受けるまでに1~3週間かかることがある。したがって、例えば、仙痛の子供の不快感や泣き声の期間を短縮するために、より迅速に作用する介入、並びに更に効率的な介入が大いに必要とされている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の一般的な目的は、プロバイオティック細菌由来の治療用マイクロベシクルを提供することである。
【0006】
この目的及び他の目的は、本明細書に開示される実施形態によって満たされる。
【0007】
本発明は、独立請求項に定義されている。本発明の更なる実施形態は、従属請求項に定義されている。
【0008】
実施形態の一態様は、治療用マイクロベシクルの製造方法に関する。方法は、プロバイオティック細菌株の細菌を培地中で培養することを含む。プロバイオティック細菌株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。方法はまた、細菌による治療用マイクロベシクルの産生を誘導するために、培養中に細菌を誘導用生物処理に曝露することを含む。誘導用生物処理は、細菌を別の細菌株の細菌と共培養すること、細菌を別の細菌株の細菌からの条件培地の存在下で培養すること、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。別の細菌株はビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株であり、別の細菌株はプロバイオティック細菌株とは異なる。
【0009】
実施形態の他の態様は、仙痛の治療に使用するための、及び/又は乳児若しくは小児の胃腸障害若しくは疾患、胃腸疼痛障害、骨量減少疾患、歯周病、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される疾患の治療に使用するための、プロバイオティック細菌株の細菌と、該プロバイオティック細菌株又は別のプロバイオティック細菌株によって産生された治療用マイクロベシクルとを含むプロバイオティック組成物に関する。プロバイオティック細菌株及び別のプロバイオティック細菌株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0010】
実施形態の更なる態様は、仙痛の治療に使用するための、及び/又は乳児若しくは小児の胃腸障害若しくは疾患、胃腸疼痛障害、骨量減少疾患、歯周病、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される疾患の治療に使用するための、プロバイオティック組成物に関する。プロバイオティック組成物は、プロバイオティック細菌株の細菌由来の治療用マイクロベシクルの形態の速効性成分を含む。プロバイオティック細菌株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。プロバイオティック組成物はまた、プロバイオティック細菌株又は別のプロバイオティック細菌株の細菌の形態の遅効性成分を含む。別のプロバイオティック細菌株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。速効性成分及び遅効性成分は一緒になって、対象に投与した場合に長期の治療効果をもたらす。
【0011】
実施形態の更に他の態様は、仙痛の治療に使用するための、及び/又は乳児若しくは小児の胃腸障害若しくは疾患、胃腸疼痛障害、骨量減少疾患、歯周病、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される疾患の治療に使用するための、プロバイオティック細菌株の細菌から単離される治療用マイクロベシクルに関する。プロバイオティック細菌株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0012】
実施形態の別の態様は、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)DSM 32947又はビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)DSM 32948である細菌株に関する。
【0013】
実施形態の更なる態様は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、好ましくはL.ロイテリ(L.reuteri)株、より好ましくはL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるL.ロイテリ(L.reuteri)株の細菌を含むプロバイオティック組成物に関する。組成物はまた、B.ロンガム(B.longum)DSM 32947、B.ロンガム(B.longum)DSM 32948及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)株の細菌、又はB.ロンガム(B.longum)株からの条件培地を含む。
【0014】
プロバイオティック細菌によって産生された治療用マイクロベシクルは、本明細書に示されるプロバイオティック細菌の有益な効果を再現することができた。更に、例に示すように、特異的な有益な効果のより速い発現によって実証されるように、治療用マイクロベシクルは、実際には、それを産生するプロバイオティック細菌よりも効率的であった。
【0015】
実施形態は、その更なる目的及び利点と共に、添付の図面と共に以下の説明を参照することによって最もよく理解することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938を異なる誘導処理に曝露した後の条件培地における5’-ヌクレオチダーゼ活性の測定値を示す図である。
図2図2AのL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938(DSM)、図2Bの条件培地(CM)、図2Cの培地(ブロス)、図2DのDSM由来マイクロベシクル(μV)又は図2Eの条件培地マイナスマイクロベシクル(CM-μV)の添加が、インビトロでのマウス空腸セグメントの伝播収縮複合体(PCC)速度に及ぼす効果を示す図である。上のパネル:平均及び標準誤差を示す棒グラフ。対応のあるt検定から得られたP値を水平バーの上に示す。下のパネル:上段の各適合グラフについて95%の信頼区間を有する差(処理対照クレブス)の個々の値のプロット。図3図7は、上部パネルと下部パネルとの間の同じ関係を示す。
図3】DSM(図3A)、CM(図3B)、ブロス(図3C)、μV(図3D)、CM-μV(図3E)の添加が、インビトロでのマウス空腸セグメントのPCC周波数に及ぼす効果を示す図である。
図4】DSM(図4A)、CM(図4B)、ブロス(図4C)、μV(図4D)又はCM-μV(図4E)の添加が、インビトロでのマウス空腸セグメントのPCCピーク振幅に及ぼす効果を示す図である。
図5】DSM(図5A)、CM(図5B)、ブロス(図5C)、μV(図5D)又はCM-μV(図5E)の添加が、インビトロでのマウス結腸セグメントのPCC速度に及ぼす効果を示す図である。
図6】DSM(図6A)、CM(図6B)、ブロス(図6C)、μV(図6D)又はCM-μV(図5E)の添加が、インビトロでのマウス結腸セグメントのPCC周波数に及ぼす効果を示す図である。
図7】DSM(図7A)、CM(図7B)、ブロス(図7C)、μV(図7D)又はCM-μV(図7E)の添加が、インビトロでのマウス結腸セグメントのPCCピーク振幅に及ぼす効果を示す図である。
図8】空腸及び結腸の速度、頻度及びピーク振幅についての図2図7に提示された結果の要約を示す図である。
図9】TrpV1シグナル伝達に対するマイクロベシクルの効果を示す。グラフは、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938(DSM-MV)から単離されたマイクロベシクル及びラクトバチルス・ラムノサス(Lactobacillus rhamnosus)JB-1細菌株(MV-JB-1)から単離されたマイクロベシクルを使用して得られたカプサイシン誘導性応答を示す。
図10】L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938(DSM)及びL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938(MV)から単離されたマイクロベシクルを使用した腸間膜神経発火モデルにおける応答の開始のタイミングを示すグラフである。
図11】L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938由来マイクロベシクル(MV)が免疫調節性であり、IFN-γ及びIL-17A応答を減衰させることを示す図である。PBMC培養物中の精製L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938由来MVの免疫調節効果の評価。(図11A)PBMCを、L.ロイテリ(L.reuteri)(L.r)-MVの存在下、500:1、100:1及び20:1(MV:細胞)の比で48時間培養し、続いてIL-6、IL-10、IL-17A及びIFN-γの分泌レベルを定量した(n=8)。(図11B)PBMCを、L.r-MVの存在下、500:1、100:1及び20:1(MV:細胞)の比で黄色ブドウ球菌(S.a)-CFS(2.5%)で刺激し、続いてIFN-γ及びIL-17Aの分泌レベルを定量した。黄色ブドウ球菌(S.aureus)-CFSのみを正規化した相対値を示す(n=8)。ボックスは、中央線として中央値を有する25パーセンタイルと75パーセンタイルとの間のデータをカバーし、エラーバーは最小から最大を示す。棒グラフは、四分位範囲を有する中央値を示す。
図12】L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938及びL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938由来のマイクロベシクルが、腸管毒素原性大腸菌(Escherichia coli)(ETEC)の有害作用から上皮の完全性を保護したことを示す図である。
図13】SIM(対照)中のL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938又はL.パラカセイ(L.paracasei)LMG-P-17806からの4%上清を有するL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938(SIM中のDSM 17938又はDSM 17938+4%LMG-P-17806上清)と比較した、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938から得られたMV試料(SIM培地中のB.ロンガム(B.longum)ATCC BAA-999又はB.ロンガム(B.longum)DSM 32947からの4%上清を添加してL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938(DSM 17938+4%DSM 32947上清又はDSM 17938+4%ATCC BAA-999上清)を培養)の5’-ヌクレオチダーゼ活性を示す図である。
図14図13に示されたものと同じ結果を示すが、SIM中のDSM 17938の5’-ヌクレオチダーゼ活性及び光学密度に関して正規化されている図である。
図15】L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938をB.ロンガム(B.longum)DSM 32947の25%細胞と共培養することによって、誘導用生物処理後に得られた試料と比較した、対照試料(SIM中のDSM 17938)における5’-ヌクレオチダーゼ活性を示す図である。結果を、SIM中のDSM 17938の5’-ヌクレオチダーゼ活性及び光学密度に関して正規化した。
図16】SIM中の対照L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846(SIM中のDSM 32846)と比較した、SIM培地中でB.ロンガム(B.longum)DSM 32947からの4%上清と共にL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846を培養した後のMV試料(DSM 32846+4%DSM 32947上清)における5’-ヌクレオチダーゼ活性を示す図である。結果を、SIM中のDSM 32846の5’-ヌクレオチダーゼ活性及び光学密度に関して正規化した。
図17】L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846に由来するマイクロベシクルが、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938から単離されたマイクロベシクルと比較して、IL-6の産生を誘導するのにより効果的であることを示す図である。
図18】対照試料(それぞれDSM 32846又はDSM 17938)と比較した、B.ロンガム(B.longum)の株由来の4%上清と共に培養した後のL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846及びL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938から単離されたMVによるIL-6の誘導を示す図である。
図19】対照試料(それぞれDSM 32846又はDSM 17938)と比較した、B.ロンガム(B.longum)の株由来の4%上清と共に培養した後のL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846及びL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938から単離されたMVによるIL-6の誘導を示す図である。
図20】対照試料(DSM 17938)と比較した、B.ロンガム(B.longum)DSM 32947由来の25%細胞と共培養した後のL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938由来のMVによるIL-6の誘導された産生を示す図である。
図21】L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846由来のMVが、ETEC曝露によって誘発されるTEERの減少から上皮単層を部分的に保護することができたことを示す図である。この図はまた、FITC-デキストランフラックス実験における単層へのETEC損傷に対するL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846由来のMVの保護効果を示す。
図22】FITC-デキストランフラックス実験におけるL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846由来のMVの保護効果と、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938由来のMVで得られた効果との比較を示す図である。L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846由来のMVでの上皮細胞単層の前処理は、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938由来のMVと比較して、より効率的に、特に低濃度のMVでFITC-デキストランの漏出を減少させた。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明は、一般に、プロバイオティック細菌由来の治療用マイクロベシクル及びその使用に関する。
【0018】
定義
例えば、当該技術分野において膜小胞、外膜小胞、細胞外小胞とも呼ばれるマイクロベシクル(MV、μV)は、細菌及び真核細胞によって使用される実証されたコミュニケーション形態である。細胞表面からの生物活性MVの放出は、細菌、古細菌、真菌、及び寄生虫において微生物の生命にわたって保存されており、MV産生はインビトロ及びインビボの両方で実証されており、重要なシグナル伝達分子、酵素、及び毒素の送達による微生物の生理学及び病理発生におけるこれらの表面オルガネラの影響を暗示している。細菌MVは、グラム陽性及びグラム陰性細菌の両方によって定期的に産生及び排出され、プロテオーム実験は、そのようなMVの含有量が親細菌の含有量とは異なり得ることを示している。MVは、脂質分子、RNA分子、DNA分子、及び/又はタンパク質を含むことができる。更に、MVはまた、親細菌の表面成分を含むことができる。
【0019】
本明細書に開示されるプロバイオティック細菌によって産生されるMVは、MVが治療効果を有することを示すために、本明細書では治療用MVと示される。MVのこの治療効果は、対象に投与した場合、MVを産生するプロバイオティック細菌のプロバイオティック効果と同じ又は少なくとも同様であってもよい。したがって、MVは、本明細書に更に記載されるように、対象における医学的状態、疾患又は障害を、発症の遅延を含み、阻害、治療又は予防する治療効果を対象において発揮する。
【0020】
培地又は増殖培地は、細菌が培養される出発培地である。
【0021】
条件培地は、細菌が培養された培地又は増殖培地である。それにより、そのような条件培地は、細菌によって培地中に放出されるMVを含む任意の化合物又は薬剤を含む。細菌は培地から除去されており、したがって条件培地の一部ではない。条件培地は、例えば、細菌細胞培養物の遠心分離、沈降及び/又は沈殿によって得て、条件培地を上清として得ることができる。
【0022】
細胞スラリーは、培養された細菌と、細菌によって培地、すなわち条件培地に放出されたMVなどの任意の化合物又は薬剤を含む培地との混合物である。細胞スラリーは発酵の最終結果である。
【0023】
プロバイオティック細菌株は、好ましくはプロバイオティック乳酸産生細菌の株であり、乳酸菌と呼ばれることもある。乳酸産生細菌は、グラム陽性、ゲノムの低%GC含有量、酸耐性、一般に非胞子形成性、非呼吸性、共通の代謝的及び生理学的特徴を共有する桿状又は球菌状細菌の群である。これらの細菌は、炭水化物発酵の主要な代謝最終産物として乳酸を産生する。乳酸産生菌を含む属としては、ラクトバチルス(Lactobacillus)、ロイコノストック(Leuconostoc)、ペディオコッカス(Pediococcus)、ラクトコッカス(Lactococcus)、及びストレプトコッカス(Streptococcus)が挙げられる。ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)は、その遺伝的な関連性がないために従来の乳酸菌には含まれていないが、乳酸菌と重複する特徴を有し、ラクトバチルス(Lactobacillus)よりもはるかに少ない乳酸を産生するが、発酵の主要な最終産物として乳酸を産生する代謝を有する。ビフィドバクテリウム(Bifidobacteria)は、厳密に嫌気性であり、通常、大腸に豊富に見られる。
【0024】
プロバイオティック細菌によって産生されるMVは、プロバイオティック細菌と周囲の宿主細胞、例えば人体の粘膜細胞、例えば胃腸系の腸粘膜細胞、口腔粘膜又は膣粘膜との間のコミュニケーション手段を構成することによって重要である。したがって、MVは、プロバイオティック情報などの情報を細菌細胞から宿主に中継することができる。したがって、プロバイオティック及び治療用途に使用することができるプロバイオティック細菌からの治療用MVの産生を増強する必要がある。本明細書に提示される実験データは、プロバイオティック細菌によって産生されるMVが、疼痛シグナル伝達及び胃腸運動に対する単離されたMVの効果によって示されるように、プロバイオティック細菌のプロバイオティック又は治療効果を再現し得ることを示している。MVは、疼痛シグナル伝達に対するプロバイオティック細菌の効果を再現しただけでなく、プロバイオティック細菌よりも速く作用して観察された効果の早期発現をもたらす能力によって実証されるように、実際により効率的であった。この知見は非常に予想外であった。本明細書に提示される実験データはまた、プロバイオティック細菌株から単離された治療用MVが免疫刺激効果を有し、自己免疫疾患に関連する特定のサイトカインを減衰させることができ、また、上皮バリアの完全性も保護することを示す。本明細書に提示される実験データはまた、MVの産生が、培養中の生物処理によって、例えば別の細菌株からの上清をプロバイオティック細菌株に添加することによって、又はプロバイオティック細菌を別の細菌株の細菌と共培養することによって誘導され得ることを示す。
【0025】
したがって、本発明は、治療用MVを産生するために、及び/又は治療用MVの固有の又は内因性の産生を増加させるために使用することができるプロトコルを記載する。
【0026】
実施形態の一態様は、治療用MVを産生する方法を含む。方法は、プロバイオティック細菌株の細菌を培地中で培養し、培養中に細菌を誘導用生物処理に曝露して細菌による治療用MVの産生を誘導することを含む。プロバイオティック細菌株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。誘導用生物処理は、この態様では、プロバイオティック細菌株の細菌を別の細菌株の細菌と共培養すること、プロバイオティック細菌株の細菌を別の細菌株の細菌からの条件培地の存在下で培養すること、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。別の細菌株はビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株であり、別の細菌株はプロバイオティック細菌株とは異なる。
【0027】
したがって、この態様では、治療用MVの産生は、プロバイオティック細菌株の細菌を培養すること、同時に、培養中に細菌を誘導処理に曝露して治療用MVの産生を誘導することによって、細菌を刺激して治療用MVを産生することを含む。
【0028】
本明細書で使用される治療用MVの産生を誘導することは、細菌による治療用MVの産生の促進、増強又は増加を含む、細菌を刺激して治療用MVを産生することを包含する。代替的又は追加的に、治療用MVの産生を誘導することは、細菌からの治療用MVのより効率的な放出を含み、それにより、細菌が誘導処理に曝露されていない場合と比較して、細菌によるより多くの放出された治療用MVをもたらす。代替的又は追加的に、治療用MVの産生を誘導することは、細菌によるより強力又はより効率的な治療用MVの産生を含む。そのような場合、誘導処理に曝露された細菌によって産生された治療用MVは、非刺激細菌、すなわち誘導処理に曝露されていない細菌によって産生されたMVと比較して治療効果が増強されている。したがって、実施形態の誘導処理を使用して、例えば、そのような治療用MVの固有の又は内因性の産生を既に有するプロバイオティック細菌株の細菌における治療用MVの産生を増加させることができる。そのような場合、誘導処理は、細菌のこの固有又は内因性のMV産生を増強し、誘導処理に曝露された場合、誘導処理に曝露されていない場合と比較してより多くの治療用MVをもたらす。治療用MVの産生を誘導することはまた、誘導処理に曝露されていない場合に有意なMV産生を有さないプロバイオティック細菌株の細菌においてそのような治療用MVの産生を誘導することを包含する。したがって、誘導処理によって治療用MVの産生を誘導することは、細菌における治療用MVの固有又は内因性産生の増加と、細菌における治療用MVのデノボ産生の両方を包含する。
【0029】
誘導処理は、本明細書に更に記載されるように、細菌による治療用MVの産生を、増加を含めて誘導する細菌の処理である。したがって、様々な実施形態による培養中に細菌を少なくとも1つの誘導処理に曝露することによって、細菌は、治療用MVを産生するために改変又は誘導される。
【0030】
細菌の培養は、撹拌タンクバイオリアクタ、エアリフトバイオリアクタ、中空ファイバーバイオリアクタ及び回転細胞培養システム(RCCS)バイオリアクタを含むがこれらに限定されない適切な培養装置、発酵槽又はバイオリアクタにおいて既知の培養プロトコルに従って行うことができる。特定の培養条件は、好ましくは、特定のプロバイオティック細菌株に基づいて選択される。
【0031】
一実施形態では、治療用MV及びプロバイオティック細菌を含む培地、すなわち細胞スラリーは、乾燥及び/又は凍結などによって保存される。乾燥の典型例としては、噴霧乾燥、凍結乾燥、噴霧凍結乾燥及び真空乾燥が挙げられる。
【0032】
細胞スラリーは、保存前又は保存中に濃縮して、細胞スラリーの総体積を減少させ、細菌細胞、治療用MV及びその中に存在する任意の他の化合物又は薬剤を濃縮してもよい。
【0033】
例えば、細胞スラリーは、元の体積の約5から95%まで、例えば元の体積の5、10、15、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90又は95%に相当する体積まで濃縮することができる。
【0034】
細胞スラリーを濃縮するために、様々な方法及びプロセスを使用することができる。例えば、細胞スラリーは、細胞スラリーから水及び場合により有機酸、糖及び塩などの他の物質を除去することによって濃縮することができる。濾過膜に水を主に通過させる濾過装置を使用することができる。このプロセスは浸透と呼ばれ、逆浸透モード、正浸透モードなどの様々な動作モードで実行することができる。一実施形態では、濃縮はまた、化学物質を使用して試料を沈殿させることによって行うことができる。化学沈殿を使用して、変性溶媒又は塩の添加を使用して細胞スラリーを濃縮することができる。例えば、それらの化学的特性及びサイズに従って、濃縮及び投入試料の分離のために、様々なタイプのクロマトグラフィ装置を使用することもできる。例えば、サイズ排除クロマトグラフィは、サイズに従って試料を分離し、小さな分子を小さな孔に捕捉し、大きな分子及び粒子を排除するという原理で機能する。イオンクロマトグラフィは、特定の電荷の分子の分離を補助する。例えば、陰イオン交換クロマトグラフィを使用して、細菌膜及びMVに見られる正味の負電荷を利用し、これらを正に帯電したクロマトグラフィマトリックスに結合させることができる。次いで、これらは、周囲の移動相のイオン強度を増加させることによって溶出することができる。別の濃縮技術は限外濾過である。限外濾過は、化学的相互作用ではなく機械的相互作用に基づく。濾過装置は分子量カットオフを有することができ、これは特定の分子量を超える全てが保持される一方で、より小さな分子及び塩などを通過することを意味する。通常、高度に定義された孔径を有する膜が使用される。これらのタイプの限外濾過デバイス及びプロセスはまた、ダイレクトフロー濾過(DFF)又はタンジェンシャルフロー濾過(TFF)などの異なる設定で使用される。タンジェンシャルフロー濾過(TFF)は、クロスフロー濾過としても知られており、流体が膜を垂直に通過するのではなく、フィルタに平行に通過するという点で、他の濾過システムとは異なる。この方法は、その連続濾過及び再現性のある性能のために好ましい。膜を通過する粒子である透過液は横に置かれ、残りの粒子である保持液は供給原料に再利用される。
【0035】
一実施形態では、細菌は、培養中に誘導処理に曝露されて、治療用MVの産生及び培地への治療用MVの放出を促進することを含めて誘導される。これは、誘導処理への曝露後にプロバイオティック細菌株の細菌によって産生された治療用MVが細菌から培地中に放出されることを意味する。追加的又は代替的に、細菌によって産生された治療用MVの少なくともいくつかは、細菌の細胞膜及び/又は細胞壁に会合及び/又は付着することができる。
【0036】
一実施形態では、方法は、培地、例えば細胞スラリー又は条件培地から治療用MVを単離することを含む。一実施形態では、治療用MVの単離は、細菌を枯渇させた上清、すなわち条件培地を得るために、第1の間隔内で選択された相対遠心力で培地、例えば細胞スラリーを少なくとも1回の遠心分離に曝露すること、MV含有ペレットを得るために、第2の間隔内で選択された相対遠心力で条件培地を少なくとも1回の超遠心分離に曝露することを含む。第2の間隔は、第1の間隔よりも大きい。
【0037】
第1の間隔内で選択された相対遠心力での第1又は少なくとも1回の遠心分離は、培地から生菌及び大きなデブリを除去し、それによって、廃棄されるペレット及び上記の条件培地で示される治療用MVを含む上清を形成するために行われる。単離プロセスにおけるこの第1のステップは、単一の遠心分離ステップを含むことができるが、細菌及び大きなデブリをより効率的に除去するために、好ましくは少なくとも2回の遠心分離ステップを含む。少なくとも2回の遠心分離ステップの場合、全てが同じ相対遠心力で行われてもよい。しかし、一般に、連続する各遠心分離ステップの相対遠心力を増加させることがより効率的である。第1の間隔は、好ましくは、100×g~50000×g、例えば200×g~25000×g、好ましくは500×g~15000×gである。例えば、第1の遠心分離ステップは、4000×gであり、第2の遠心分離ステップは、10000×gであってもよい。あるいは、600×gの単一の遠心分離ステップを使用することができる。上清はまた、又は代替的に、ミクロンフィルタ(0.20μm~0.50μm、例えば0.45μm)に通して、遠心分離から残ったデブリ及び/又は細菌を除去することができる。
【0038】
次いで、治療用MVを含む条件培地を、第2の間隔内で選択された相対遠心力で少なくとも1回の超遠心分離に曝露して、MV含有ペレットを得る。この第2のステップは、1つ又は複数の超遠心分離ステップを含むことができる。複数の超遠心分離ステップの場合、全てが同じ相対遠心力で行われてもよく、又は相対遠心力が上記に開示されるように増加してもよい。第2の間隔は、好ましくは75000×g以上、例えば85000×g以上、好ましくは100000×g以上である。例えば、118000×gの相対遠心力を使用することができる。
【0039】
一実施形態では、単離ステップはまた、条件培地をスクロース勾配又はスクロースクッションに負荷し、第2の間隔内で選択された相対遠心力で遠心分離することを含む。
【0040】
追加的又は代替的に、条件培地を超遠心分離の前に濾過してもよい。そのような場合、例えば0.20μmから0.50μmまでの平均孔径を有するフィルタを使用することができる。
【0041】
単離された治療用MVは、乾燥、例えば噴霧乾燥、凍結乾燥、噴霧凍結乾燥若しくは真空乾燥、及び/又は凍結などによって保存することができる。一実施形態では、治療用MVは、少なくとも1ヶ月間、少なくとも3ヶ月間、少なくとも5ヶ月間又は少なくとも7ヶ月間の保存後に安定である。
【0042】
誘導用生物処理は、プロバイオティック細菌株を別の細菌株の細菌と共培養すること、プロバイオティック細菌株を別の細菌株の細菌由来の条件培地の存在下で培養すること、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。他の細菌株は、好ましくはプロバイオティック細菌株である。例えば、別の細菌は、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株、好ましくはビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)株、より好ましくはB.ロンガム(B.longum)DSM 32947及び/又はDSM 32948(2018年11月1日にブダペスト条約に基づきBioGaia社によりライプニッツ研究所DSMZ-ドイツ微生物細胞培養コレクション(Inhoffenstrasse 7B、D-38124 Braunschweig,Germany)に寄託)であってもよい。上記で例示されたビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株は、プロバイオティック細菌株としてラクトバチルス(Lactobacillus)株の細菌、特にL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938(2006年1月30日にブダペスト条約に基づきBioGaia社によりDSMZ-ドイツ微生物細胞培養コレクション(Mascheroder Weg 1b,D-38124 Braunschweig,Germany)に寄託)及び/又はL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846(ブダペスト条約に基づきBioGaia社によりDSMZ-ドイツ微生物細胞培養コレクション(Inhoffenstr.7B,D-38124 Braunschweig,Germany)に2018年7月4日に寄託)などのL.ロイテリ(L.reuteri)株の細菌に関連して特に有用である。
【0043】
特定の実施形態では、プロバイオティック細菌株の細菌を別の細菌株の細菌と共培養することができる。代替的又は追加的に、別の細菌株の細菌からの条件培地を、プロバイオティック細菌株の細菌を含む培養培地に添加することができる。
【0044】
一実施形態では、方法はまた、細菌による治療用MVの産生を、増加を含めて誘導するために、培養中に細菌を誘導用非生物処理に曝露することを含む。したがって、この実施形態では、細菌は、誘導用生物処理と誘導用非生物処理の両方に曝露される。
【0045】
非生物処理は、生物に影響を及ぼす非生物的な化学的及び物理的成分による処理に関する。生物処理は、生物であるか、又は生物に由来する生物材料による処理に関する。
【0046】
特定の実施形態では、非生物処理は、非生物的ストレス因子による処理、すなわち、培養中に非生物処理に曝露された場合にプロバイオティック細菌株の細菌においてストレス応答を誘導する非生物処理である。非生物的ストレス因子は、一実施形態では、酸化ストレス(酸素処理)、温度ストレス、pHストレス、紫外線(UV)ストレス及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0047】
酸素処理は、細菌が高濃度の酸素に曝露されることを意味する。一実施形態では、酸素濃度の増加は、非毒性酸素濃度である。特定の実施形態では、細菌を酸素処理に曝露することは、相対的酸素耐性嫌気性細菌、微好気性細菌、好気性細菌及び/又は通性嫌気性細菌による治療用MVの産生を誘導するための培養中に、相対的酸素耐性嫌気性細菌、微好気性細菌、好気性細菌及び/又は通性嫌気性細菌を、増加した酸素濃度、すなわち増加した非毒性濃度の酸素に曝露することを含む。
【0048】
本明細書で使用される酸素処理は、過酸化水素、スーパーオキシド、又はヒドロキシルラジカルを含む過酸化物などの活性酸素種(ROS)の添加を含まない。
【0049】
酸素濃度の上昇は、プロバイオティック細菌株の細菌を培養するために最適であるか、又は少なくとも適切であるが細菌に対して非毒性であるとして選択される(通常の)酸素濃度よりも高い培養培地中の酸素濃度を意味する。一実施形態では、酸素の非毒性濃度は、有意な細菌細胞死を引き起こさず、これは、曝露された細菌が、細菌を通常の酸素濃度に曝露した場合と比較して、少なくとも70%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも80%、例えば少なくとも85%又は90%、又はそれ以上で、依然として生存可能であることを意味する。酸素濃度のこの増加は、1回又は複数回のバースト又はパルスで、又は長期間にわたって培地に酸素又は空気を添加する(曝気(スパージング)する)ことによって達成することができる。代替的又は追加的に、酸素濃度の増加は、培地のかき混ぜ又は撹拌の量又はレベルを増加させることを含む、細菌を含む培地をかき混ぜ又は撹拌することによって達成することができる。酸素濃度、例えば非毒性濃度は、異なる細菌株間で異なってもよいが、典型的には0、1~10%に設定することができる。一実施形態では、酸素濃度は0.5~2%に設定される。別の実施形態では、酸素濃度は2~5%に設定される。更に別の実施形態では、酸素濃度は5~10%に設定される。
【0050】
実施形態の特定の態様は、治療用MVを産生する方法を含む。方法は、プロバイオティック細菌株の細菌を培地中で培養し、培養中に細菌を酸化処理に曝露して細菌による治療用MVの産生を誘導することを含む。
【0051】
したがって、実施形態のこの態様では、MV産生は、細菌を酸素処理(酸化ストレス)に曝露することによって、細菌で誘導される(増加することを含む)が、必ずしも細菌を任意の誘導用生物処理に曝露することと組み合わせる必要はない。
【0052】
一実施形態では、プロバイオティック細菌株の細菌は、相対的酸素耐性嫌気性細菌、微好気性細菌、好気性細菌及び/又は通性嫌気性細菌からなる群から、好ましくは好気性細菌及び通性嫌気性細菌からなる群から選択される。
【0053】
特定の実施形態では、細菌は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。好ましいラクトバチルス(Lactobacillus)及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株は、好ましい細菌株の以下に記載される例示的な例の中から選択することができる。
【0054】
温度ストレスは、バイオリアクタ内の細菌を培養するために培養温度を通常の温度よりも高くすること、すなわち、いわゆる高温ストレスによって誘導することができる。例えば、通常の培養温度が37℃である場合、温度を少なくとも42℃、少なくとも43℃、又は少なくとも44℃、より好ましくは少なくとも45℃、例えば少なくとも46℃、少なくとも47℃、少なくとも48℃、少なくとも49℃、又は少なくとも50℃に上昇させることができる。細菌を高温ストレスに曝露する代わりに、細菌を低温ストレス、すなわち、培養温度を通常の培養温度未満に下げることによって曝露することができる。例えば、培養温度は、10℃、例えば8℃以下、6℃以下、又は4℃以下に下げることができる。
【0055】
pHストレスは、細菌が培養される培地のpHを、正常又はベースラインpHから酸性又はより酸性のpHに低下させることによって誘導することができる。あるいは、細菌を培地から一時的に除去し、次いでpHストレスに曝露し、続いてpHストレスに曝露した細菌を培地又は新鮮な培地に添加することができる。例えば、pHは、6.5~7の通常のpH範囲から2以下のpHに低下させることができる。
【0056】
UVストレスは、細菌をUV処理に曝露することによって、例えば、細菌を含む培地にUV光を向けることによって誘導することができる。
【0057】
一実施形態では、方法はまた、細菌による治療用MVの産生を、増加を含めて誘導するために、培養中に細菌をストレス誘導剤に曝露することを含む。したがって、この実施形態では、細菌は、ストレス誘導剤及び誘導用生物処理及び/又は誘導用非生物処理の両方に曝露される。
【0058】
一実施形態では、ストレス誘導剤は、フルクトース;スクロース;ムラミダーゼ又はN-アセチルムラミドグリカンヒドロラーゼとしても知られる、例えば鶏卵由来のリゾチーム;例えばブタの腸から精製されたムチン;β-ラクタム、例えばアンピシリン、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0059】
特定の実施形態では、ストレス誘導剤はスクロースである。スクロースを細菌の培養中に添加して、細菌によるMV産生を誘導することができる。例えば、培地にスクロースを添加して、培地中の0.3%~10%の範囲内、例えば0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5、5、5.5、6、6.5、7、7.5、8、8.5、9、9.5又は10%のスクロース濃度を得ることができる。
【0060】
誘導処理の上記の例は、複数の、すなわち少なくとも2つの非生物処理、複数の生物処理、複数のストレス誘導剤による処理、少なくとも1つの非生物処理及び少なくとも1つの生物処理、少なくとも1つの非生物処理及び少なくとも1つのストレス誘導剤による処理、少なくとも1つの生物処理及び少なくとも1つのストレス誘導剤による処理、又は少なくとも1つの非生物処理、少なくとも1つの生物処理及び少なくとも1つのストレス誘導剤による処理を組み合わせるなど、組み合わせることができる。
【0061】
誘導処理曝露の期間は、特定の処理の種類、特定のプロバイオティック細菌株及びバイオリアクタの種類などの培養条件に基づいて選択することができる。例えば、細菌は、例示的であるが非限定的な例として、10分間、15分間、30分間、45分間、1時間、1.25時間、1.5時間、1.75時間、2時間、2.25時間、2.5時間、2.75時間、3時間、3.25時間、3.5時間、3.75時間、4時間、4.25時間、4.5時間、4.75時間、5時間又はそれ以上の非生物処理に曝露することができる。一晩、12時間、18時間、24時間、又はそれ以上など、より長い非生物的ストレス曝露期間を有することも可能である。ストレス誘導剤の添加は、少なくとも1つのストレス誘導剤を培地に1回又は複数回、すなわち少なくとも2回添加することを含むことができる。このような細菌からの別の細菌株又は条件培地の細菌の添加も、1回又は複数回実施することができる。
【0062】
プロバイオティック細菌株は、好ましくはプロバイオティック乳酸産生細菌の株であり、特にラクトバチルス(Lactobacillus)及びビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)から選択される。ラクトバチルス(Lactobacillus)としては、L.アセトレランス(L.acetotolerans)、L.アシディフィリナエ(L.acidifarinae)、L.アシディピスチス(L.acidipiscis)、L.アシドフィラス(L.acidophilus)、L.アジリス(L.agilis)、L.アルギダス(L.algidus)、L.アリメンタリウス(L.alimentarius)、L.アミロリティカス(L.amylolyticus)、L.アミロフィラス(L.amylophilus)、L.アミロトロフィクス(L.amylotrophicus)、L.アミロボラス(L.amylovorus)、L.アニマリス(L.animalis)、L.アントリ(L.antri)、L.アポデミ(L.apodemi)、L.アビアリエス(L.aviaries)、L.ビフェルメンタンス(L.bifermentans)、L.ブレビス(L.brevis)、L.ブフネリ(L.buchneri)、L.カメリアエ(L.camelliae)、L.カゼイ(L.casei)、L.カテナフォルミス(L.catenaformis)、L.セティ(L.ceti)、L.コレオホミニス(L.coleohominis)、L.コリノイデス(L.collinoides)、L.コンポスティ(L.composti)、L.コンサバス(L.concavus)、L.コリニフォルミス(L.coryniformis)、L.クリスパタス(L.crispatus)、L.クラストラム(L.crustorum)、L.クルヴァトゥス(L.curvatus)、L.デルブルエッキイ亜種ブルガリクス(L.delbrueckii subsp.bulgaricus)、L.デルブルエッキイ亜種デルブルエッキイ(L.delbrueckii subsp.delbrueckii)、L.デルブルエッキイ亜種ラクティス(L.delbrueckii subsp.lactis)、L.デキストリニクス(L.dextrinicus)、L.ディオリボランス(L.diolivorans)、L.エクイ(L.equi)、L.エクイジェネロシ(L.equigenerosi)、L.ファラギニス(L.farraginis)、L.ファルシミニス(L.farciminis)、L.ファーメンタム(L.fermentum)、L.ホルニカリス(L.fornicalis)、L.フルクティヴォランス(L.fructivorans)、L.フルメンティ(L.frumenti)、L.フキュエンシス(L.fuchuensis)、L.ガリナルム(L.gallinarum)、L.ガセリ(L.gasseri)、L.ガストリカス(L.gastricus)、L.ガネンシス(L.ghanensis)、L.グラミニス(L.graminis)、L.ハメシイ(L.hammesii)、L.ハムスター(L.hamster)、L.ハルビネンシス(L.harbinensis)、L.ハヤキテンシス(L.hayakitensis)、L.ヘルベティカス(L.helveticus)、L.ヒルガルディ(L.hilgardii)、L.ホモヒオキー(L.homohiochii)、L.イネルス(L.iners)、L.イングルビエイ(L.ingluviei)、L.インテスティナリス(L.intestinalis)、L.イエンセニー(L.jensenii)、L.ジョンソニー(L.johnsonii)、L.カリキセンシス(L.kalixensis)、L.ケフィラノファシエンス(L.kefiranofaciens)、L.ケフィリ(L.kefiri)、L.キムチ(L.kimchi)、L.キタサトニス(L.kitasatonis)、L.クンキー(L.kunkeei)、L.ライヒマニ(L.leichmannii)、L.リンドネリ(L.lindneri)、L.マレファーメンタンス(L.malefermentans)、L.マリ(L.mali)、L.マニホティヴォランス(L.manihotivorans)、L.ミンデンシス(L.mindensis)、L.ムコサエ(L.mucosae)、L.ムリナス(L.murinus)、L.ナジェリイ(L.nagelii)、L.ナムレンシス(L.namurensis)、L.ナンテンシス(L.nantensis)、L.オリゴファーメンタンス(L.oligofermentans)、L.オリス(L.oris)、L.パニス(L.panis)、L.パンテリス(L.pantheris)、L.パラブレビス(L.parabrevis)、L.パラブフネリ(L.parabuchneri)、L.パラカセイ(L.paracasei)、L.パラコリノイデス(L.paracollinoides)、L.パラファラギニス(L.parafarraginis)、L.パラケフィーリ(L.parakefiri)、L.パラリメンタリウス(L.paralimentarius)、L.パラプランタラム(L.paraplantarum)、L.ペントーサス(L.pentosus)、L.ペロレンス(L.perolens)、L.プランタルム(L.plantarum)、L.ポンティス(L.pontis)、L.プロテクタス(L.protectus)、L.シッタシ(L.psittaci)、L.レニニ(L.rennini)、L.ロイテリ(L.reuteri)、L.ラムノースス(L.rhamnosus)、L.リマエ(L.rimae)、L.ロゴサエ(L.rogosae)、L.ロシエ(L.rossiae)、L.ルミニス(L.ruminis)、L.サエリムネリ(L.saerimneri)、L.サケイ(L.sakei)、L.サリバリウス(L.salivarius)、L.サンフランシセンシス(L.sanfranciscensis)、L.サツメンシス(L.satsumensis)、L.セカリフィルス(L.secaliphilus)、L.シャーペアエ(L.sharpeae)、L.シリギニス(L.siliginis)、L.スピチェリ(L.spicheri)、L.スエビカス(L.suebicus)、L.タイランデンシス(L.thailandensis)、L.アルチュネンシス(L.ultunensis)、L.バシノステルカス(L.vaccinostercus)、L.バギナリス(L.vaginalis)、L.ベルスモルデンシス(L.versmoldensis)、L.ヴィニ(L.vini)、L.ビツリヌス(L.vitulinus)、L.ゼアエ(L.zeae)、及びL.ジマエ(L.zymae)を含むいくつかの種が挙げられる。このようなプロバイオティック細菌株の好ましい例としては、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)、ラクトバチルス・ムコサエ(Lactobacillus mucosae)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)及びラクトバチルス・プランタルム(Lactobacillus plantarum)が挙げられる。このようなプロバイオティック細菌株の現在好ましい例としては、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)株、例えばラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938及びラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 32846が挙げられる。ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)の好ましい種は、B.アドレッセンティス(B.adolescentis)、B.ブレベ(B.breve)、B.ロンガム(B.longum)、B.アニマリス(B.animalis)、B.インファンティス(B.infantis)、B.テルモフィルム(B.thermophilum)、B.ビフィドゥム(B.bifidum)及びB.ラクティス(B.lactis)である。ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)の更に好ましい種はB.ロンガム(B.longum)である。ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)の現在好ましい例は、B.ロンガム(B.longum)DSM 32947及びB.ロンガム(B.longum)DSM 32948である。
【0063】
L.ロイテリ(L.reuteri)は、酸素耐性(あるいは耐気性又は相対的酸素耐性)嫌気性生物であり、すなわち発酵によってのみATPを生成することができる。
【0064】
実施形態の更なる態様は、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)DSM 32947、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)DSM 32948、並びにB.ロンガム(B.longum)DSM 32947及び/又はB.ロンガム(B.longum)DSM 32948を含む組成物、例えば医薬組成物、栄養組成物、食品サプリメント及びプロバイオティック組成物に関する。特定の実施形態では、細菌株の細菌、すなわちB.ロンガム(B.longum)DSM 32947及び/又はB.ロンガム(B.longum)DSM 32948は、乾燥又は凍結乾燥形態である。
【0065】
関連する態様には、B.ロンガム(B.longum)DSM 32947、B.ロンガム(B.longum)DSM 32948及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)株の細菌と、別のプロバイオティック細菌株、好ましくはラクトバチルス(Lactobacillus)株、より好ましくはL.ロイテリ(L.reuteri)株、特にL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるL.ロイテリ(L.reuteri)株の細菌とを含むプロバイオティック組成物が含まれる。
【0066】
更なる態様は、プロバイオティック細菌株、好ましくはラクトバチルス(Lactobacillus)株、より好ましくはL.ロイテリ(L.reuteri)株、特にL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるL.ロイテリ(L.reuteri)株と、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)DSM 32947、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)DSM 32948及びそれらの組み合わせからなる群から選択されるビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)株由来の条件培地とを含むプロバイオティック組成物を含む。
【0067】
上記のプロバイオティック組成物に含まれる細菌は、好ましくは、凍結乾燥(lyophilized)又は凍結乾燥(freeze-dried)、噴霧乾燥又は噴霧凍結乾燥又は真空乾燥細菌などの乾燥状態のプロバイオティック組成物に含まれる。
【0068】
上記のプロバイオティック組成物中に存在するB.ロンガム(B.longum)DSM 32947又はB.ロンガム(B.longum)DSM 32948の細菌は、乾燥形態、例えば、凍結乾燥(freeze-dried)(凍結乾燥(lyophilized))、噴霧乾燥、噴霧凍結乾燥又は真空乾燥形態で提供することができる。組成物が、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938及び/又はL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846などの別のプロバイオティック細菌株の細菌も含む場合、これらの細菌は、組成物中で、凍結乾燥(freeze-dried)(凍結乾燥(lyophilized))、噴霧乾燥、噴霧凍結乾燥又は真空乾燥形態などの乾燥形態で提供することができる。
【0069】
B.ロンガム(B.longum)DSM 32947及びDSM 32948は、増殖を改善し、不均一な増殖の問題を減少させるために、多段階選択プロセスによって親株から改変(適合又は進化)されている。したがって、B.ロンガム(B.longum)DSM 32947及びDSM 32948は、増殖の改善を示す。これらの株は、進化させられているので自然界では発生しない、すなわち、非天然(non-native)又は非天然(non-naturally occurring)の細菌株である。
【0070】
臨床試料からのビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)の多段階選択は、MRS寒天プレート上の臨床試料から単離されたビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)を単離することを含んでいた。増殖を改善し、不均一な増殖の問題を減少させるために、細菌を以下の手順、
1.MRS寒天プレート上に線条接種(streaking)し、及び37℃で3日間の嫌気性培養後に、良好な増殖を有するコロニーを選択すること、
2.選択されたコロニーをMRSブロスに接種し、嫌気性条件の間に37℃でインキュベートすること、
3.試料を採取し、所望の特徴が観察されるまでステップ1及び2を繰り返すこと、及び
4.細菌を15%グリセロールに懸濁し、-70℃で保存することに供した。
【0071】
上記の処理は、増殖と不均一なコロニー形態の問題の両方を改善した。
【0072】
本発明による培養中に細菌を少なくとも1つの誘導処理に曝露することによって、細菌は、治療用MVの産生の増加を含む、治療用MVを産生するように改変及び/又は誘導され、好ましくはこれらのMVを培養培地中に放出する。誘導処理は、培養中に誘導処理に曝露されていない細菌と比較して、細菌によるMV産生に強く影響する培養条件の変更に関する。
【0073】
異なる誘導処理の結果として誘導又は産生されたMVのMV産生の増加又は効率の変化を評価及び/又は測定するために、異なる方法を適用することができる。選択肢は、例えば、Nanosight装置によって、又はフローサイトメトリーを使用することによって、又は蛍光色素を使用して膜を染色し、それによってMVの量を定量することによってMVを定量することである。例えば、蛍光は、プレートリーダを使用して(洗浄後に)測定することができる(標準曲線と比較する)。より簡単な方法はまた、沈殿物のペレットサイズ又は遠心分離後のペレットを比較すること、又は沈殿物の重量を測定することである。ペレットのサイズが大きいほど、又はペレットの重量が大きいほど、MVが多いことを意味する。MVの効率を評価する他の方法は、例えば例のセクションに開示されているように、より複雑なインビトロモデル又はインビボモデルにおいてMVの活性を測定することである。
【0074】
人体における重要な代謝プロセスは、プリンが特定の酵素によって代謝及び分解されるプリン代謝である。そのような酵素の例は、細胞膜に固定された5’-ヌクレオチダーゼであるエクト-5’-ヌクレオチダーゼ(CD73)であり、これはアデノシンの生成における重要な酵素であると考えられている。一部のプロバイオティック細菌は5’-ヌクレオチダーゼ遺伝子を有し、活性5’-ヌクレオチダーゼ酵素を産生し、したがってアデノシンを産生することができる。5’-ヌクレオチダーゼ活性、及びそれによるアデノシンの産生は、細胞外、すなわち細菌の外側又は表面で起こり得、その結果、例えば、細菌によって産生された上清又は他の細胞外液中に存在することができる。したがって、活性5’-ヌクレオチダーゼ酵素は、細胞表面上に、例えば5’-ヌクレオチダーゼに固定された細胞壁の形態で、細菌細胞から細胞外に、例えば上清中に、及び/又はMV膜関連5’-ヌクレオチダーゼとして存在することができる。結果として、この細菌群では、アデノシンの生成及び/又は5’-ヌクレオチダーゼ(EC 3.1.3.5)の活性をMV産生効率を決定するためのマーカーとして使用することができた。
【0075】
他の可能なモデルには、細菌株のプロバイオティック効果を評価するために現在使用されているモデルが含まれるが、これらに限定されない。例えば、これには、腸運動性又は疼痛知覚/シグナル伝達を測定することができる前臨床インビトロモデルが含まれ、これは、例えば、乳児仙痛及び他の機能性胃腸障害に関連する典型的な不快感を実証する。本明細書では、いくつかのモデル、例えば例1、3、4、9及び10に記載されているモデルを使用して、乳児仙痛に対する潜在的な影響を評価する。それはまた、選択されたサイトカインを評価することができる細胞ベースの免疫刺激モデルを含む。プロバイオティック細菌がそれらの効果を発揮する別の機構は、粘膜透過性の低下、すなわち上皮バリアの完全性を保護することに関連する。したがって、MVの効率は、上皮透過性ETEC(腸管毒素原性大腸菌(Enterotoxigenic Escherichia coli))の困難なインビトロモデルで測定することができる。また、関連する動物モデルを使用して、異なる誘導処理の効果を調査することができ、また、その効果をヒト臨床試験において更に評価することができる。
【0076】
治療用MVは、場合により保存後に、単離された治療用MVの形態などで、本明細書で以下に更に記載されるようなプロバイオティック組成物として、又は処理培地、条件培地又は細胞スラリー、例えば、プロバイオティック細菌株及びプロバイオティック細菌株の細菌からの凍結乾燥(freeze-dried)(凍結乾燥)(lyophilized)培地、噴霧乾燥培地、噴霧凍結乾燥培地又は真空乾燥培地を含む乾燥培地、条件培地又は細胞スラリーとして哺乳動物に投与することができる。
【0077】
一実施形態は、プロバイオティック細菌株の細菌と、プロバイオティック細菌株又は別のプロバイオティック細菌株によって産生された治療用MVとを含むプロバイオティック組成物に関する。プロバイオティック細菌株及び別のプロバイオティック細菌株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0078】
一実施形態では、プロバイオティック細菌株又は別のプロバイオティック細菌株は、実施形態による誘導用生物処理に曝露されている。したがって、一実施形態では、プロバイオティック組成物中の治療用MVは、実施形態による治療用MVの製造方法によって製造されたものである。したがって、一実施形態では、プロバイオティック組成物は、プロバイオティック細菌株の細菌と、プロバイオティック細菌株又は別のプロバイオティック細菌株の細菌を培養中に誘導用生物処理に曝露して細菌による治療用マイクロベシクルの産生を誘導することによってプロバイオティック細菌株又は別のプロバイオティック細菌株によって産生された治療用マイクロベシクルとを含む。プロバイオティック細菌株及び別のプロバイオティック細菌株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。誘導用生物処理は、細菌を別の細菌株の細菌と共培養すること、細菌を別の細菌株の細菌からの条件培地の存在下で培養すること、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。別の細菌株はビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株であり、別の細菌株はプロバイオティック細菌株及び別のプロバイオティック細菌株とは異なる。
【0079】
一実施形態では、治療用MVは、培養中に細菌を誘導処理に曝露し、次いで培地から治療用MVを単離することによって、前述のようにプロバイオティック細菌株の細菌から単離される。次いで、単離された治療用MVを、治療用MVを産生するために使用されたのと同じプロバイオティック細菌株の単離された細菌に添加することができる。そのような場合、プロバイオティック組成物は、プロバイオティック細菌株の単離された細菌と、プロバイオティック細菌株の細菌から単離された治療用MVとの混合物を含む。別の実施形態では、プロバイオティック組成物は、第1のプロバイオティック細菌株の細菌と、第2の異なるプロバイオティック細菌株の細菌から単離された治療用MVとを含む。この後者の場合、プロバイオティック細菌株の単離された細菌を別のプロバイオティック細菌株の細菌から単離された治療用MVと混合することによって、異なるプロバイオティック細菌株の特性又は特徴を組み合わせることが可能である。第1のプロバイオティック細菌株の細菌と、第1のプロバイオティック細菌株の細菌由来の治療用MVと、第2の異なるプロバイオティック細菌株の細菌から単離された治療用MVとを含むプロバイオティック組成物を有することも可能である。別の実施形態では、プロバイオティック組成物は、少なくとも1つの細菌株と、少なくとも1つの細菌株のいずれか由来の、又は別の細菌株によって産生された治療用MVとの混合物を含む。
【0080】
上記のプロバイオティック組成物に含まれる細菌は、好ましくは、凍結乾燥(lyophilized)又は凍結乾燥(freeze-dried)、噴霧乾燥又は噴霧凍結乾燥又は真空乾燥細菌などの乾燥状態のプロバイオティック組成物に含まれる。
【0081】
本明細書で前述したように、プロバイオティック細菌株は、好ましくはプロバイオティック乳酸産生細菌株(ラクトバチルス(Lactobacillus)など)、例えばプロバイオティックラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)株、より好ましくはL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938及び/又はL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846である。
【0082】
本明細書に提示される実験データは、プロバイオティック細菌株から産生及び単離された治療用MVが、プロバイオティックMV産生細菌の胃腸運動性及び疼痛シグナル伝達に対する有益な効果を再現することができただけではなかったことを示している。重要なことに、細菌と比較して治療用MVによる有益な効果のより速い発現によって実証されるように、これらの治療用MVは実際にはプロバイオティック細菌自体よりも効率的であった。本明細書に提示される実験データはまた、プロバイオティック細菌株から単離された治療用MVが免疫刺激効果を有したことを示す。MVは、自己免疫疾患に関連する特定のサイトカインを減少させることができ、上皮バリアの完全性を保護することも示された。実験データは、実施形態の治療用MVを使用して、プロバイオティック細菌の使用によって阻害、治療又は予防されることが以前に示された様々な疾患又は障害を阻害、治療又は予防することができることを明らかにした。同様に、治療用MVは、哺乳動物に投与された場合、任意の哺乳動物などの対象に投与された場合のプロバイオティック細菌と比較して、同様の一般的及び/又は特異的な効果、及び場合によっては改善された効果をもたらすことを期待することができる。本明細書に提示される実験データはまた、MVの産生が、培養中の生物処理によって、例えば別の細菌株からの上清をプロバイオティック細菌株に添加することによって、又は培養中の異なる細菌株からの細菌細胞をプロバイオティック細菌株に添加すること(いわゆる共培養)によって誘導され得ることを示す。そのような誘導用生物処理は、非誘導性又は非刺激性細菌調製物由来のMVと比較して、異なるモデルにおいてより効率的又は強力なMVを産生する。
【0083】
治療用MVによって見られる有益な効果のより速い発現は、哺乳動物に投与された場合に長期の治療効果を達成するために実施形態のプロバイオティック組成物において利用することができる。したがって、プロバイオティック組成物中の治療用MVは、それらのより速い発現のために哺乳動物において早期の効果を誘導又は産生するが、プロバイオティック組成物に含まれるプロバイオティック細菌株の細菌によって、より遅いが典型的には長期の効果が誘導又は産生される。更に、治療用MVはまた、プロバイオティック細菌株の細菌による治療効果と比較して増強された治療効果をもたらし得る。これは、実施形態のプロバイオティック組成物が、単にプロバイオティック細菌を投与した場合と比較して、哺乳動物において有意に改善された治療効果を達成することを意味する。
【0084】
言い換えれば、プロバイオティック細菌細胞と治療用MVの両方を含む組成物は、プロバイオティック細菌細胞又はMVのいずれかを単独で含む組成物よりも利点を提供する。プロバイオティック細菌細胞と治療用MVの両方を含む組成物では、治療用MVで観察される有益な効果のより速い発現は、プロバイオティック細菌細胞の長期の効果と組み合わされて、哺乳動物などの対象に投与された場合の急速な発現及び長期の治療効果のためのプロバイオティック組成物を改善する。
【0085】
したがって、実施形態の一態様は、プロバイオティック細菌株の細菌由来の治療用MVの形態の速効性成分を含むプロバイオティック組成物に関する。プロバイオティック細菌株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。プロバイオティック組成物はまた、MV産生プロバイオティック細菌株又は別のプロバイオティック細菌株の細菌の形態の遅効性又は長期の成分を含む。別のプロバイオティック細菌株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。したがって、速効性成分及び遅効性成分は一緒になって、対象に投与された場合、改善された早期発現及び長期の治療効果をもたらす。
【0086】
一実施形態では、プロバイオティック細菌株又は別のプロバイオティック細菌株は、実施形態による誘導用生物処理に曝露されている。したがって、一実施形態では、プロバイオティック組成物の速効性成分中の治療用MVは、実施形態による治療用MVの製造方法によって製造されている。したがって、一実施形態では、プロバイオティック組成物は、細菌による治療用マイクロベシクルの産生を誘導するために培養中に細菌を誘導用生物処理に曝露することによって、プロバイオティック細菌株の細菌によって産生された治療用マイクロベシクルの形態の速効性成分を含む。プロバイオティック細菌株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。誘導用生物処理は、細菌を別の細菌株の細菌と共培養すること、細菌を別の細菌株の細菌からの条件培地の存在下で培養すること、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。別の細菌株はビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株であり、別の細菌株はプロバイオティック細菌株とは異なる。プロバイオティック組成物はまた、プロバイオティック細菌株又は別のプロバイオティック細菌株の細菌の形態の遅効性成分を含む。別のプロバイオティック細菌株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。別のプロバイオティック細菌株は、別の細菌株とは異なる。速効性成分及び遅効性成分は一緒になって、対象に投与した場合に長期の治療効果をもたらす。
【0087】
一実施形態では、速効性成分は、遅効性成分と比較して、対象における治療効果の発現がより速い。したがって、速効性成分及び遅効性成分に関して速い及び遅いは、これらの成分によって誘導される治療効果の相対的な発現を規定する。言い換えれば、速効性成分は、遅効性成分と比較して速効性成分であるか、又はそれよりも速効性成分であり、これは、対象において治療効果を誘導する観点から、速効性成分と比較した場合に、より遅効性成分又はそれよりも遅効性成分と見なすことができる。
【0088】
一実施形態では、速効性成分は、プロバイオティック細菌株の細菌から単離された治療用MVの形態である。
【0089】
治療用MV及び細菌に同じプロバイオティック細菌株又は異なるプロバイオティック細菌株を使用することに関する上記の議論は、この実施形態にも当てはまる。
【0090】
実施形態のプロバイオティック組成物は医薬品として使用することができ、特に胃腸障害の処理に使用することができる。
【0091】
実施形態の一態様は、プロバイオティック細菌株の細菌と、プロバイオティック細菌株又は別の細菌株によって産生された治療用MVとを含むプロバイオティック組成物であって、医薬品として使用するための、特に仙痛の治療に使用するためのプロバイオティック組成物を定義する。実施形態の一態様はまた、医薬品として使用するための、特に仙痛の治療に使用するための、上記の速効性成分及び遅効性成分を含むプロバイオティック組成物を定義する。
【0092】
一実施形態では、仙痛は乳児仙痛(乳児仙痛とも呼ばれる)である。
【0093】
実施形態の他の態様は、乳児若しくは小児の胃腸障害又は疾患、胃腸疼痛障害、骨量減少疾患、歯周病、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される疾患の治療に使用するための、プロバイオティック細菌株の細菌と、プロバイオティック細菌株又は別の細菌株によって産生された治療用MVとを含むプロバイオティック組成物、或いは乳児若しくは小児の胃腸障害又は疾患、胃腸疼痛障害、骨量減少疾患、歯周病、及びこれらの組み合わせからなる群から選択される疾患の治療に使用するための速効性成分及び遅効性成分を含むプロバイオティック組成物を定義する。
【0094】
治療用MVは、プロバイオティック組成物に含まれるのと同じプロバイオティック細菌株の細菌によって産生され得る。代替的又は追加的に、治療用MVは、プロバイオティック組成物に含まれる細菌とは別のプロバイオティック細菌株の細菌によって産生され得る。
【0095】
一実施形態では、プロバイオティック組成物中のプロバイオティック細菌株の細菌は、実施形態による誘導用生物処理に曝露されている。
【0096】
プロバイオティック細菌株の細菌から単離された治療用MVは、乳児仙痛などの仙痛の治療に使用することができる。プロバイオティック細菌株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0097】
実施形態はまた、プロバイオティック細菌株の細菌から単離された治療用MVであって、乳児若しくは小児の胃腸障害又は疾患、胃腸疼痛障害、骨量減少疾患、歯周病、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される疾患の治療に使用することができる治療用MVに関する。プロバイオティック細菌株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0098】
治療用MVは、好ましくはラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)株に由来し、更により好ましくはラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938及び/又はラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 32846に由来する。
【0099】
単離された治療用MV又はプロバイオティック組成物中の治療用MVは、好ましくは、本明細書に開示される誘導用生物処理に曝露されたプロバイオティック細菌株の細菌によって産生されてきた。一実施形態は、細菌による治療用マイクロベシクルの産生を誘導するための培養中の誘導用生物処理に曝露されたプロバイオティック細菌株の細菌から単離された治療用マイクロベシクルに関する。プロバイオティック細菌株は、ラクトバチルス(Lactobacillus)株、ビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。誘導用生物処理は、細菌を別の細菌株の細菌と共培養すること、細菌を別の細菌株の細菌からの条件培地の存在下で培養すること、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。別の細菌株はビフィドバクテリウム(Bifidobacterium)株であり、別の細菌株はプロバイオティック細菌株とは異なる。
【0100】
一実施形態では、プロバイオティック組成物及び/又は治療用MVは、胃腸障害を処理するために代替的に使用することができる。胃腸障害は、好ましくは、機能性食道障害、例えば機能性胸焼け、食道起源の機能性胸痛、機能性嚥下障害及びグロバス;機能性胃十二指腸障害、例えば機能性消化不良、空気嚥下症、不特定の過度のげっぷ、慢性特発性悪心、機能性嘔吐、周期性嘔吐症候群及び反芻症候群;機能性腸障害、例えば過敏性腸症候群(IBS)、機能性便秘、機能性下痢及び不特定の機能性腸障害;機能性腹痛症候群、例えば機能性腹痛(FAP)、機能性胆嚢及びオディ括約筋障害、例えば機能性胆嚢障害、機能性オディ胆管括約筋障害及び機能性オディ膵臓括約筋障害;機能性肛門直腸障害、例えば機能性便失禁、機能性肛門直腸痛及び機能性排便障害;小児機能性胃腸障害、例えば乳児の逆流、乳児の反芻症候群、乳児の周期性嘔吐症候群、機能性下痢、乳児の失調症及び機能性便秘からなる群から選択される機能性胃腸障害である。
【0101】
特定の実施形態では、胃腸障害は、胃腸運動性障害、胃腸痛、仙痛、過敏性腸症候群及び便秘からなる群から選択される。
【0102】
一実施形態では、乳児若しくは小児の胃腸障害又は疾患は、乳児の機能性胃腸障害又は疾患などの乳児の胃腸障害又は疾患である。特定の実施形態では、乳児胃腸障害又は疾患は、乳児胃腸運動性障害、乳児胃腸痛、乳児仙痛、乳児過敏性腸症候群、乳児の食物不耐性、乳児便秘、乳児下痢、乳児逆流、乳児反芻症候群、乳児排便障害、乳児の機能性便秘、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0103】
別の特定の実施形態では、乳児胃腸障害又は疾患は、乳児仙痛又は乳児の食物不耐性及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0104】
別の特定の実施形態では、乳児胃腸障害又は疾患は、乳児胃腸運動性障害、好ましくは乳児便秘及び/又は乳児下痢並びにそれらの組み合わせである。
【0105】
別の特定の実施形態では、乳児胃腸障害又は疾患は、乳児胃腸運動性障害及び/又は乳児仙痛である。
【0106】
一実施形態では、乳児若しくは小児の胃腸障害又は疾患は、小児機能性胃腸障害又は疾患などの小児胃腸障害又は疾患である。
【0107】
特定の実施形態では、小児胃腸障害又は疾患は、小児逆流、小児反芻症候群、小児の機能性下痢、小児排便障害、小児の機能性便秘、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0108】
別の特定の実施形態では、小児胃腸障害は、小児逆流、小児排便障害、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0109】
一実施形態では、胃腸疼痛障害は、機能性腹痛(FAP)、腹部仙痛、頻繁な反復性腹痛(FRAP)、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0110】
一実施形態では、骨量減少疾患は、骨粗鬆症、骨減少症、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0111】
一実施形態では、プロバイオティック組成物は骨粗鬆症又は骨減少症の治療に使用するためのものである。
【0112】
一実施形態では、歯周病は、歯周炎、歯肉炎及びそれらの組み合わせからなる群から選択される。
【0113】
別の実施形態では、プロバイオティック組成物は、歯周炎治療に使用するためのものである。
【0114】
更なる特定の実施形態では、胃腸運動性障害は、腹部膨満、再発性閉塞、腹部仙痛、便秘、胃食道逆流症、難治性再発性嘔吐、下痢、炎症性腸疾患(IBD)、便失禁、頻繁な反復性腹痛(FRAP)、逆流又は食物不耐性からなる群から選択される。
【0115】
実施形態はまた、プロバイオティック組成物又はプロバイオティック細菌株から単離された治療用MVの医薬品としての使用、及び胃腸障害を処理するための医薬品の製造に関する。
【0116】
実施形態は、胃腸障害を抑制、治療又は予防する方法を更に包含する。方法は、プロバイオティック組成物又はプロバイオティック細菌株から単離された治療用MVを対象に投与して胃腸障害を抑制、治療又は予防することを含む。
【0117】
本明細書に提示される実験データはまた、プロバイオティック細菌株から単離された治療用MVが免疫刺激効果を有し、IFN-γ及びIL-17A分泌を抑制することができたことを示す。IL-6分泌の増加に対する効果も観察された。したがって、そのような治療用MVは、ヒト免疫のモジュレータとして使用することができる。
【0118】
本発明のプロバイオティック組成物及び/又は本発明による治療用MVは、対象に投与した場合にサイトカインIFN-γ及び/又はIL-17Aの量を抑制又は低下させるために使用することができる。したがって、プロバイオティック組成物及び/又は治療用MVは、炎症性、自己炎症性及び自己免疫性の疾患を含むIFN-γ及び/又はIL-17Aの異常な発現を特徴とする疾患の抑制、処理又は予防に使用することができる。特定の実施形態では、炎症性、自己炎症性及び自己免疫性疾患は、SLE、MCTD、RA、SS、DM、SSc、MS、乾癬、骨量減少、骨粗鬆症、骨減少症、歯周炎、歯肉炎、サルコペニア、悪液質、栄養不良及びアレルギー、例えばAD、AR及び喘息、並びに食物不耐性及び食物アレルギーからなる群から選択される。
【0119】
本発明のプロバイオティック組成物及び/又は本発明による治療用MVは、対象に投与した場合にサイトカインIL-6の分泌を増加させるために使用することができる。IL-6は、体内で様々な機能を有する多面的サイトカインである。そのような機能及びプロセスのほとんどは炎症応答に関連しているが、これらの機能及び応答は、例えば病原体に対する保護のために重要である。しかし、体内の炎症促進プロセスは、十分にバランスをとらなければならず、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938はまた、制御性T細胞の量を増加させると記載されている(例えば、Liu,Y.,Fatheree,N.Y.,Dingle,B.M.,Tran,D.Q.,&Rhoads,J.M.(2013).Lactobacillus reuteri DSM 17938 changes the frequency of Foxp3+regulatory T cells in the intestine and mesenteric lymph node in experimental necrotizing enterocolitis.PloS One,8(2),e56547.http://doi.org/10.1371/journal.pone.0056547))。より高い頻度の制御性T細胞と組み合わせたIL-6の発現増加は、炎症のリスクを増加させることなく免疫系をより機敏にし、感染防御を改善する方法であり得る。したがって、プロバイオティック組成物及び/又は治療用MVは、免疫系の抗炎症プロセスと炎症促進プロセスとのバランスをとるために使用することができる。
【0120】
腸管毒素原性大腸菌(Escherichia coli)(ETEC)は、大腸菌(E.coli)の一種であり、発展途上国における下痢の主要な細菌性原因の1つであり、旅行者の下痢の最も一般的な原因である。ETECにより、毎年約157,000人が死亡すると推定され、その大部分は小児である。ETECの主な特徴は、1つ又は複数のエンテロトキシンの発現及び宿主腸細胞への付着に使用される線毛の存在である。
【0121】
本明細書に提示される実験データは、プロバイオティック細菌株から単離された治療用MVが、上皮透過性の効果を研究するためのモデルであるETECの有害な効果から上皮バリアの完全性を保護したことを示す。腸バリアの主な機能は、管腔から循環への栄養素、電解質及び水の吸収を調節し、一方、病原性微生物及び毒性管腔物質の循環への通過を防止することであり、したがって、無傷のバリアは健康な状態を得るために不可欠である。破壊された腸バリアは、いくつかの多様な疾患及び状態、例えば過敏性腸症候群(IBS)、クローン病、うつ病、自閉症スペクトラム障害、憩室性疾患、歯周炎、骨減少症及び骨粗鬆症などに関連している。
【0122】
腸バリアの変化がいくつかの悪液質の特徴の主な推進要因であり得ることも報告されている(Bindels et al.(2018))。
【0123】
上皮バリアの完全性は、腸において重要であるだけでなく、無傷のバリアは、例えば口腔においても重要である。歯肉上皮は、微生物の攻撃に対する口腔内の最初の防御ラインである。破壊されると、細菌は集合的に下層の結合組織にアクセスし、歯の付着装置の炎症及び破壊を引き起こす可能性がある(DiRienzo(2014))。したがって、プロバイオティック組成物及び/又は治療用MVは、上皮バリアの完全性の破壊を引き起こす疾患又は状態、すなわち、IBSを含む上皮バリア機能障害、クローン病、悪液質、骨減少症、骨粗鬆症、歯肉炎、歯周炎、うつ病、自閉症スペクトラム障害、憩室性疾患の抑制、治療又は予防、及び/又はETEC感染の抑制、治療又は予防、並びにETEC又は他の病原性細菌によって引き起こされる下痢及び/又は旅行者の下痢の抑制、治療又は予防において使用することができる。
【0124】
プロバイオティック細菌と比較して治療用MVによって見られる医学的効果又はプロバイオティック効果のより速い発現は、胃腸障害、炎症性、自己炎症性又は自己免疫疾患、上皮バリア機能障害、ETEC感染、下痢及び/又は旅行者の下痢などの疾患又は障害に罹患している対象の治療に有用である可能性がある。これは、治療用MV又はそのような治療用MVを含むプロバイオティック組成物を投与することによって、プロバイオティック細菌を単に投与する場合と比較して、医学的効果又はプロバイオティック効果などの治療薬のより速い発現が得られ得ることを意味する。治療用MVとプロバイオティック細菌との間に見られるような医学的効果又はプロバイオティック効果の発現の異なるタイミングはまた、前述のように利用して、対象において長期の医学的効果又はプロバイオティック効果を達成することができる。したがって、対象に投与される治療用MVは、対象における迅速な又は即時の治療効果に寄与し、一方、対象に別々に又は治療用MVと共に投与されるプロバイオティック細菌は、対象におけるより遅い又は遅延した治療効果に寄与する。結果として、治療用MV及びプロバイオティック細菌の両方を別々に又は一緒に対象に投与することによって、長期の医学的効果又はプロバイオティック効果、すなわち即時型及び遅延型の両方を得ることができる。
【0125】
プロバイオティック組成物又は治療用MVの投与及び製剤の適切な様式は、疾患又は障害に基づいて選択することができる。好ましい投与様式は経口である。他の投与様式としては、経鼻、眼内、局所、又は皮膚、直腸、鼻、眼、膣若しくは歯肉への何らかの他の形態の局所投与、又は静脈内、皮下若しくは筋肉内注射が挙げられる。
【0126】
本明細書で定義されるプロバイオティック組成物又は治療用MVの適切な用量は、治療される疾患又は障害、投与様式及び関係する製剤に応じて容易に選択することができる。例えば、投与量及び投与計画は、本発明に従って対象に投与される治療用MV又はプロバイオティック組成物が所望の治療効果、予防効果又は健康上の利益をもたらし得ることを確実にするように選択される。したがって、好ましくは、投与量は、治療的又は予防的に有効な投与量であり、治療される対象及び疾患又は障害の種類に適している。例えば、10~1010、例えば10~10、又は10~10、又は10~1010の細菌の総CFUの1日用量を使用することができる。好ましい1日用量は、約10の総CFU、例えば10~10又は10~10CFUの細菌である。例えば、治療用MVの総数で10~1014、例えば10~1013、又は10~1012、又は10~1012、又は1010~1012、又は1010~1014の1日用量を使用することができる。好ましい1日用量は、約1010の治療用MVの総数、例えば10~1011又は1010~1011の治療用MVである。別の好ましい1日用量は、約10の治療用MVの総数、例えば10~1010の治療用MVである。別の好ましい1日用量は、約10の治療用MVの総数、例えば10~10の治療用MVである。別の例は、10又は10CFUの細菌などの固定数の細菌によって産生されるMVを使用することである。
【0127】
本発明はまた、対象において、仙痛、特に乳児仙痛、及び/又は乳児若しくは小児の胃腸障害若しくは疾患、胃腸疼痛障害、骨量減少疾患、歯周病、及びそれらの組み合わせからなる群から選択される疾患を抑制、治療又は予防する方法に関する。方法は、本発明によるプロバイオティック組成物及び/又は治療用MVを対象に投与することを含む。
【0128】
本明細書で使用される疾患又は障害を抑制することは、疾患若しくは障害、又は疾患若しくは障害に関連する症状の発症を遅延させることを包含する。
【0129】
対象は、好ましくは哺乳動物対象であり、より好ましくはヒト対象である。
【0130】
本明細書に開示される例は、プロバイオティック細菌株及びその治療用MVのプロバイオティック効果を調査及び利用する目的で、十分に研究されたL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938細菌株から治療用MVを産生及び単離するためのプロトコルを記載する。単離されたMVのプロバイオティック効果を細菌全体のプロバイオティック効果と比較した。MVは、胃腸運動性を研究するためのエクスビボモデル及び疼痛シグナル伝達を研究するためのインビトロモデルにおいて、細菌全体の有益な効果を再現することができることが見出された。驚くべきことに、MVは細菌のプロバイオティック効果を再現しただけでなく、神経シグナル伝達モデルにおいてより速く作用する能力によって実証されるように、細菌全体と比較して更に効率的であり、観察された効果のより早い発現をもたらした。結果を更に強化するために、同様の効果を示した別のL.ロイテリ(L.reuteri)株(L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846)を調査した。更に、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938及びL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846の効果は、特定の他の細菌株又は他の細菌株由来の条件培地との共培養実験を含む誘導処理に細菌を供した場合に更に改善することができ、これは細菌がMVを産生及び放出する能力を増強した。
【0131】
プロバイオティック細菌株由来の治療用MV及び異なる生理学的モデルにおけるそれらの効果を研究するために、細菌を培養し、続いて放出されたMVを単離することによって、単離されたMV画分を単離した。本発明者らは、プロバイオティック細菌を培養して、生物学的活性を保持し、また、向上した生物学的活性を示すMVの産生を増加させる改善された方法を特定した。
【実施例
【0132】
例1-MV産生に関連する酵素活性の変化
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938を培養し、特定の時点で異なる誘導処理に供した。これらの誘導処理に対する応答を酵素アッセイを使用して決定し、対照処理で得られた応答と比較した。誘導処理は、細菌の増殖期中に細菌にストレスを誘導することを含み、次いで、細菌条件培地中で酵素活性に対する効果を測定した。
【0133】
材料及び方法
培養/試料採取
L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938を、25mLのde Man-Rogosa-Sharpe(MRS)培地に凍結ストックから接種し、通常の培養条件下で、すなわち37℃で一晩嫌気的に培養した。次いで、以下により詳細に記載されるように、細菌(20mL)を200mLのMRSに再接種し、異なる誘導処理を適用した。細菌試料を5000×gで10分間遠心分離し、上清を新しいチューブに移し、次いで、10,000×gで10分間遠心分離した。上清を0.45μmフィルタを通して濾過し、氷上に保持した後、超遠心機を用いて32000rpm、4℃で3時間更に遠心分離した(Beckman社SW 32 Tiロータ、スイングバケット、30mLチューブ)。上清を廃棄した(ピペットを使用して、穏やかに注ぎ出す)。ペレットを再懸濁培地(リン酸緩衝生理食塩水(PBS))に慎重に再懸濁した。再懸濁体積は、ペレットサイズに応じて100~300μLの間で変化した。試料を等分し、-70℃で保存した。
【0134】
酸素処理
細菌培養物を激しく振盪することによって、酸素濃度の増加(酸化ストレス)をシミュレートした。酸化ストレスシミュレーションを24時間振盪し続けた。
【0135】
高温処理
温度誘導性ストレスは、光学濃度(OD)が吸光度1.6付近に達した時点で、T=37℃からT=50℃まで昇温して、T=50℃で20分間保持することで誘導した。この高温処理の後、細菌をT=37℃の通常条件で培養した。総培養時間は24時間であった。
【0136】
pH処理のシフト
pH誘導性ストレスは、光学濃度(OD)が吸光度約1.6に達した時点で、pHをpH6.5からpH2に低下させることで誘導した。pHシフトは、細菌細胞をスピンダウンし、模擬胃液を細菌ペレットに添加してpH2にすることによって得た。低下したpHを10分間維持した後、上清を細菌細胞に戻してpHを6.5に正規化した。培養時間は、2つの異なる試料を採取したために変動した。図1に示すように、異なる名称であった。pH:試料は24時間の培養時間後に採取した;pH+胃液:胃液の10分間の誘導の直後に試料を採取した。
【0137】
共培養処理
この処理では、B.ロンガム(B.longum)DSM 32947又はB.ロンガム(B.longum)DSM 32948由来の上清、すなわち条件培地を添加することにより、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938を、SIM(模擬腸培地、以下に記載のレシピ)中でビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)DSM 32947及びB.ロンガム(B.longum)DSM 32948と共培養した。対照として、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938をSIM中で増殖させた。
【0138】
【表1】
【0139】
pHを6.8に調整し、121℃で15分間オートクレーブ処理した。接種前に、滅菌濾過した糖及び電子受容体溶液を添加した。最終濃度:それぞれ15mM。糖:ガラクトオリゴ糖(GOS)又はグルコース。電子受容体:シトラート、1,2-プロパンジオール又はフルクトース。
【0140】
酵素活性
上記の誘導処理から得られた試料を解凍し、次いで、Crystal Chem 5’-Nucleotidase Assay Kit(米国イリノイ州エルク・グローブ・ヴィレッジのCrystal Chem社)を使用して5’-ヌクレオチダーゼ活性アッセイで試験した。要するに、手順は2つのステップで実行した。最初に、AMPを含有する試薬1(CC1)を上清試料に添加して、上清試料中に存在する任意の5’-ヌクレオチダーゼ酵素によってAMPをアデノシンに変換した。アデノシンを更に、試薬1中の成分によってイノシン及びヒポキサンチンに加水分解した。第2のステップでは、試薬2(CC2)を添加してヒポキサンチンを尿酸及び過酸化水素に変換し、これを使用してキノン色素を生成させ、これを分光光度計で550nmで速度論的に測定した。3~5分の間の吸光度の変化を計算し、キャリブレータ試料からの値と比較することによって、試料中の5’-ヌクレオチダーゼ活性を決定した。
【0141】
結果
図1に示される結果から分かるように、5’-ヌクレオチダーゼ活性は、酸素処理(DSM 17938+O2)並びにSIM培地中でのL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938及びB.ロンガム(B.longum)DSM 32947又はB.ロンガム(B.longum)DSM 32948の共培養(SIM中のDSM17938+DSM32947又はSIM中のDSM17938+DSM32948)によって増加した。
【0142】
他の誘導処理は、対照増殖L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938(MRS培地中のDSM17938又はSIM培地中のDSM17938)と比較して、5’-ヌクレオチダーゼ活性のいかなる増加も誘導しなかった。
【0143】
例2-特異的培養条件はMV産生の増加に関連する
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938を培養し、異なる誘導処理に供した。これらの誘導処理の結果として産生されたMVの量を、ナノ粒子トラッキング解析法(NTA)を使用して決定し、結果を対照処理で得られた応答と比較した。誘導処理は酸素処理及びスクロース処理を含み、次いで、MV産生に対する効果を細菌条件培地中で測定した。
【0144】
材料及び方法
酸素処理
L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938は、通常の培養条件下で培養、すなわち、ボトル/フラスコ内で37℃のde Man-Rogosa-Sharpe(MRS)培地で嫌気的に培養した。細菌培養物を24時間激しく振盪することによって酸素処理を誘導した。対照として、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938を通常の培養条件下で培養、すなわち、酸素濃度を増加させることなく(酸素処理なし)、ボトル/フラスコ内で37℃のMRS培地で嫌気的に培養した。
【0145】
スクロース処理
L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938は、通常の培養条件下で、すなわち、ボトル/フラスコ内で37℃のラクトバチルス(Lactobacillus)含有培地(LCM)で嫌気的に培養した。発酵開始時に細菌培養物にスクロース(LCM中2%最終濃度)を添加することによってストレスを誘導した。総培養時間は24時間であった。対照として、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938を、スクロース2%の代わりにグルコース2%を添加した通常の培養条件下で増殖させた。
【0146】
ナノ粒子トラッキング解析法(NTA)
MVの物理化学的特性を、NTAを使用することによって調査した。粒子を含まないPBS(0.02μm濾過)でMVを適切に希釈して、推奨測定範囲内の濃度(1~10×10粒子/ml)を得て、Nanosight NS300システム(NanoSight(商標)技術、Malvern社、英国)を使用して直接追跡した。分析は、以下の機器設定に従って実施した。
【0147】
1.試料ローディング:シリンジポンプを使用して、試料をレーザモジュール(488nmのレーザビーム)に取り付けられたOリングトッププレートにローディングする。
【0148】
2.試料測定:画像を最適化した後、映像を高感度sCMOSカメラを使用して25℃で収集し、シリンジポンプ速度50を使用してスクリプト制御モード(測定あたり90秒の3つの映像)で捕捉した後、NTAソフトウェア(バージョン3.2)を使用して分析した。
【0149】
3.試料分析:試料は、異なる試料に関して分析結果を最適化するためにソフトウェア調整(カメラレベル、焦点、及び検出閾値)を適用することにより、粒子を最適に可視化する装置最適化設定を適用して撮影、分析した。ぼかし、最小トラック長及び最小予想サイズなどの更なる設定を「自動」に設定し、粘度を0.890cPに設定した。NTAソフトウェアを最適化し、次いでフレームごとに各粒子を追跡し、そのブラウン運動を、映像ファイルを捕捉することによってフレームごとに追跡及び測定した。ソフトウェアは、多くの粒子を個別に追跡し、ストークス-アインシュタイン方程式を使用してそれらの流体力学的直径を計算した。90秒間の複数の映像を記録し、各試料について平均した反復ヒストグラムを生成した。
【0150】
結果
酸素処理及びスクロースの添加の両方が、以下の表2を参照して、対応する対照と比較してMV産生の増加をもたらした。
【0151】
【表2】
【0152】
例3-単離された細菌マイクロベシクルは、腸運動性に対する細菌の効果を再現する
材料及び方法
動物
成体雄Swiss Websterマウス(6~8週)をCharles River Laboratories社(米国マサチューセッツ州ウィルミントン)から得た。動物を12時間の明暗サイクルで4~5匹/ケージに収容し、食物及び水を自由に与えた。その後の手順は、McMaster Animal Ethics Research Board(AREB)(許可16-08-30)に従って頸椎脱臼後、インビトロで行った。
【0153】
組織浮選浴の記録
組織浮選浴の記録は、Wuら(2013)に記載されているように行った。最小長さ4センチメートルの空腸及び結腸セグメントを抽出し、酸素化クレブスを充填した20mLの組織浮選浴内に34℃でマウントした。セグメントの口腔端にカニューレを挿入し、内容物を、マリオッテボトルを使用したカルボゲンガス処理クレブスによる重力灌流によって管腔から流した。透明になったら、セグメントの肛門端部をシリコン流出管にカニューレ挿入した。管腔内コンパートメントに室温クレブスを5ml/分で灌流した。漿膜コンパートメントには、34℃の加熱カルボゲンガス処理クレブスを2ml/分の速度で灌流した。酸素化クレブスは、(mmol L-1):118 NaCl、4.8 KCl、25 NaHCO、1.0 NaHPO、1.2 MgSO、11.1グルコース、及び2.5 CaClから構成され、カルボゲンガス(95% O及び5% CO)をバブリングした。記録の前に、流入管及び流出管の高さを増減することによって管腔内圧力を2~3hPaに調整した。それぞれの活栓を開閉して、クレブスの管腔内の流れを止め、細菌の流れを開始することによって処理を施した。L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938を8-logコロニー形成単位(CFU)/mLの濃度で適用した。L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938由来の条件培地、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938によって産生されたマイクロベシクル、及びマイクロベシクルが除去された条件培地を、細菌全体の濃度に等しい濃度で適用した。
【0154】
映像の記録
組織セグメントの7cm上に配置したJVCビデオウェブカメラを使用して映像を記録した。ビデオクリップは、NCH Debut Video Captureを使用して、10fpsのフレームレート及び4:3のアスペクト比でMOVファイルフォーマットで記録及び保存した。記録時間は20分から40分まで様々であった。VideoPad Video Editorを使用して、4:3の強制アスペクト比を使用して映像を4センチメートルにズームした。色曲線を調整し、2トーンフィルタを適用することによって、映像を白黒に変換した。白黒の映像は、400×300ピクセルの解像度で10fpsでエクスポートされた。
【0155】
分析
時空間直径マップの生成、操作、及び分析は全て、Wuら(2013)に記載されているように行った。NIH Image Jソフトウェア用のStMapプラグインを使用して、映像記録を分析した。エッジ検出ルーチンを使用して、腸を横切る各位置の直径を0から255の色相値として表した。直径がより小さい腸の収縮は、色相値0に近づき、より暗い黒色領域として表される。膨張又は弛緩の領域は、色相値255に近づき、白色である。ソフトウェアは、映像の持続時間全体にわたって時空間マップを生成する。マップは、腸に沿った位置、時間、及び直径に基づいて、明暗の色相を交互に表示する。時空間マップは、縦軸では口から肛門まで、横軸に時間軸をとっている。伝播性収縮複合体(PCC)速度は、大きな暗収縮の勾配を測定することによって決定した。PPC頻度は、間隔間の収縮数を測定することによって決定した。振幅をピーク収縮の高さ(腸径)として測定した。
【0156】
細菌
ストックからのL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938を、de Man-Rogosa-Sharpe(MRS)培地で増殖させ、48時間~72時間で収集し、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)で洗浄し、1×1010CFU/mLで1.1mlのアリコートで-20℃で保存し、そのマイクロベシクルを以下に記載されるように単離した。
【0157】
MVをL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938ブロス培養物から単離した(48~72時間)。600×gで30分間遠心分離した後、上清を0.22μmフィルタに通して濾過し、4℃で100,000×gのPBSで2回洗浄し、初期L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938培養物の体積に相当する滅菌PBSに再懸濁し、1×1012CFU/mlを表す0.5mlアリコートで-80℃で保存した。MVを、培養物中の生存細菌の数を参照することによって定量化し、また、NanoDrop ND-1000(NanoDrop Technologies社、米国デラウェア州ウィルミントン)によって測定されたタンパク質含有量(一貫して5~8mg/mlのタンパク質、25~60ng/mlのDNA、及び18~30ng/mlのRNA;n=10)によって標準化した。MV調製物は、特に明記しない限り、実験を通して1010CFU/mlの当量で使用した。
【0158】
使用のために細菌を8-log CFU/mLの濃度に希釈した。
【0159】
結果
L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938及びその培養産物をマウス空腸及び結腸のインビトロ調製物に管腔内適用して、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938によって産生されたマイクロベシクルが腸運動性に対する親細菌の効果を再現することができるかどうかを決定した。条件培地(CM)を、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938細菌が培養された増殖培地(ブロス)と定義した。細菌を遠心分離によってCMから分離し、残りのCMを上記のようにインビトロ腸調製物に管腔内適用した。72時間培養したL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938から遠心分離によってマイクロベシクル(MV)を単離し、次いで、クレブス緩衝液に再懸濁した。次いで、マイクロベシクル及び細菌を除去した後の残りの条件培地(CM-MV)を組織内に管腔内投与した。陰性対照として、細菌を培養するために使用した増殖培地(ブロス)を別々に適用した。これらの処理の効果をクレブス緩衝液対照と比較し、腸セグメントにおける伝播性収縮複合体(PCC)の3つのパラメータである速度、頻度、及び振幅にわたって測定した。
【0160】
結果は、24時間の調製物で確実に再現された。
【0161】
L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938及びその産物は小腸運動性を低下させた
空腸PCC速度
L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938、CM及びMVは全て、空腸において同様の程度までPCC速度を低下させた。L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938は、腔内に適用した場合、空腸PCC速度を34%有意に低下させた(p=0.0067、n=20)(図2A)。CMは、親細菌の効果を再現し、PCC速度を29%低下させた(p=0.0107、n=28)(図2B)。陰性対照として、細菌を培養するための培地として使用したブロスを独立して試験したところ、クレブス対照(p=0.0877、n=20)と比較して、空腸PCC速度に対する影響は無視できるものであった(5%減少)(図2C)。72時間培養物から単離したマイクロベシクルは、空腸PCC速度を19%有意に低下させた(p=0.0002、n=20)(図2D)。CM-MVは、管腔に適用した場合、空腸PCC速度を変化させなかった(p=0.5203、n=20)(図2E)。
【0162】
空腸PCC周波数
空腸におけるPCC周波数の減少は、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938、CM及びMVによっても生じた。L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938は、空腸でPCC周波数を26%有意に減少させた(p=0.0482、n=20)(図3A)。同様に、CMはPCC周波数を21%減少させた(p=0.0139、n=28)(図3B)。このブロスを管腔(p=0.2424、n=20)に適用した場合、空腸PCC周波数は有意に変化しなかった(6%減少)(図3C)。マイクロベシクルは、細菌に匹敵するように空腸PCC周波数を26%有意に減少させた(p=0.0004、n=20)(図3D)。空腸PCC周波数は、CM-MVの管腔添加によって有意に影響されなかった(p=0.3408、n=20)(図3E)。
【0163】
空腸PCC振幅
空腸におけるPCC振幅は、マイクロベシクルを除いて、いずれの処理群においても有意に変化しなかった。この効果がL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938又はCM試験では存在しなかったにもかかわらず(p=0.3917、n=20及びp=0.1989、n=28、それぞれ、図4A及び図4B)、マイクロベシクルは空腸PCC振幅を17%減少させた(p=0.0453、n=20)(図4D)。ブロス及びCM-MVは、空腸PCC振幅を変化させなかった(p=0.8472及びp=0.5627、n=20)(図4C及び図4E)。
【0164】
L.ロイテリ(L.reuteri)DSM-17938及びその産物は結腸運動パラメータを増加させた
結腸PCC速度
結腸収縮運動性を、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938、CM又はMVのいずれかの添加によって刺激した。L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938は、結腸内のPCC収縮の速度を65%有意に増加させた(p=0.0004、n=20)(図5A)。これはCMによって再現され、結腸内でPCC速度を72%有意に増加させた(p=0.0021、n=28)(図5B)。ブロスは、腸運動性にほとんど影響を及ぼさず、結腸PCC速度を8%増加させたが、0.05の有意範囲内(p=0.1861、n=20)ではなかった(図5C)。マイクロベシクルは、結腸内のPCCの速度を24%有意に増加させた(p=0.0051、n=20)が、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938及びCMによって産生されたものよりも程度は低かった(図5D)。管腔内に適用されたCM-MVは、結腸PCC速度を有意に変化させることができなかった(p=0.6475、n=20)(図5E)。
【0165】
結腸PCC周波数
L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938、CM及びMVは全て、PCC収縮の頻度を増加させることによって結腸運動性を刺激した。L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938は結腸PCC周波数を30%有意に増加させた(p=0.0231、n=20)(図6A)。同じ能力で、CMは結腸でPCC周波数を31%有意に増加させた(p=0.0073、n=28)(図6B)。ブロスは結腸PCC周波数をわずか4%増加させたが、有意には増加させなかった(p=0.7219、n=20)(図6C)。PCC速度で見られたのと同様に、マイクロベシクルは結腸PCCの頻度を18%増加させた(p=0.0424、n=20)。(図6D)。CM-MVは、結腸におけるPCC周波数に有意に影響しなかった(p=0.3298、n=20)(図6E)。
【0166】
結腸PCC振幅
結腸内のPCC振幅は、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938又は他の処理群のいずれによっても有意に影響されなかった(図7A~E)。
【0167】
結論
L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938は腸運動性に対して部位特異的効果を有し、空腸のPCC速度及び収縮の頻度を減少させ、結腸のPCC速度及び収縮の頻度を増加させた。本研究は、マイクロベシクルと条件培地の両方が、小腸と結腸の両方の腸運動性に対するL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938の効果を再現することを実証する。更に、これらの結果は、マイクロベシクル(CM-MV)の除去後に条件培地を適用した場合には見られなかった。全ての結果を図8にまとめた。
【0168】
これらの結果は、宿主生物によるラクトバチルス(Lactobacillus)プロバイオティックシグナル伝達におけるマイクロベシクルの役割、及び微生物叢-腸-脳軸内のマイクロベシクルの作用機構を実証する。これは、細菌によって産生されるか、又は排出されるマイクロベシクルが、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938によって誘導される腸運動性の変化の原因であることを示す。
【0169】
例4-単離された細菌マイクロベシクルは、疼痛シグナル伝達に対する細菌の効果を再現する
疼痛シグナル伝達に対するL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938培地から単離したマイクロベシクルの効果を、10μMカプサイシンの存在下でTrpV1発現ジャーカット細胞を用いて試験した。
【0170】
材料及び方法
細胞培養
ジャーカット細胞(クローンE6-1(ATCC(登録商標)TIB-152(商標))、ATCC)を、2%ウシ胎児血清(FBS)ロズウェルパーク記念研究所(RPMI)培地に約5×10細胞/mL、総体積20mLの濃度で懸濁した。
【0171】
L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938を上記の例3に記載のように培養し、収穫し、保存した。L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938からのマイクロベシクル単離調製も上記の例3に従って行った(48時間)。細菌をMRSブロスで最終濃度1010CFU/mlに希釈し、実験に使用するまで-80℃で凍結したままにした。
【0172】
フローサイトメトリーによって測定された比測定カルシウム流
Fluo-3 AM(F1242;Sigma社)及びFura Red AM(F3021;Sigma社)の2種類の色素それぞれ50μgを、100μLの0.1%プルロン酸(ジメチルスルホキシド(DMSO)に溶解したPLURONIC(登録商標)F127)に溶解した。次いで、50μLのFluo-3及び100μLのFura Red溶液を20mLのジャーカット細胞に添加し、1:2.5のFluo-3対Fura Redの比を得た。次いで、細胞を37℃で1時間インキュベートし、PBSで洗浄した(300×gで10分間の遠心分離)。次いで、細胞をダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)又は2%FBSを含有するRPMI 1640培地に再懸濁した。
【0173】
実験当日、細菌を解凍し、PBSで3回洗浄し、次いで細胞培養液に添加した。あるいは、細菌から単離したマイクロベシクル(例3に記載)を解凍し、洗浄し、細胞培養液に添加した。インキュベーションを37℃で更に1時間継続した。次いで、細胞懸濁液を上記のようにスピンダウンし、1.25mM Ca2+含有PBSに再懸濁した。
【0174】
全ての実験は、以下のレーザである488nmで発光する青色レーザ、640nmで発光する赤色レーザ及び406nmで発光する紫色レーザを備えたBD FACSCelesta(カナダ、ミシサガのBD Bioscience社)で実施した。較正は、BD PMT Beads(カナダ、ミシサガのBD Bioscience社)を用いて行った。単一の色のBD補正ビーズを用いて補正を行った。
【0175】
FACS実験のために、1mLの細胞懸濁液をセルストレーナーキャップ(Falcon 352235)を備えた5mLチューブに移し、分析前に1分間回転させた。カプサイシンを100mMストック溶液から調製し、カルシウム及びマグネシウムを含有するPBS中で100μMに希釈した。
【0176】
非特異的カルシウム流に対応するバックグラウンドを30秒間記録した。全ての試料は、一定流量(細胞数/秒)で一定時間(30又は60秒)取得した。FACSCelestaによる記録の直前に、100μlのカプサイシン溶液(10μMの最終濃度をもたらす)を細胞懸濁液に添加した。
【0177】
記録は、400~600イベント/秒の速度で合計30~60秒間継続した。
【0178】
Fluo-3及びFura Redの両方が488nmで励起され、Fluo-3発光が575nmで検出され、Fura Red発光が610nmで検出された。紫色対青色Fluo-3蛍光対時間及びFura Red蛍光対時間の比を示すヒストグラムでデータを収集した。
【0179】
Fluo-3/Fura Redの比測定分析を、青色レーザ(488nm)による励起によって測定した。2つの異なるフィルタセットによって発光を検出し、発光の増加を紫色レーザ(610/20nm)で監視し、発光の減少を青色レーザ(575/25nm)で検出した。FlowJoソフトウェア(米国オレゴン州のTree Star社)のKineticsツールを使用して、青色レーザ(406nm/488nm)によって刺激された減少信号に対する紫色レーザによって刺激された増加信号として、比測定「Fluo-3/Fura Red Ratio」を計算した。
【0180】
結果
カプサイシン単独又は別の細菌株JB-1から単離されたMV(MV-JB-1)を対照として使用した。カプサイシン活性化の読み出し(図9)は、ジャーカット細胞へのカルシウムの流入であり、これはFLuo-3/Fura Red比の比を増加させた。10μMのカプサイシン単独は、ジャーカット細胞へのカルシウムの流入を誘導し、この応答は、1011CFU/mLでのL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938に対応する高濃度のL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938から単離したMV(DSM-MV)を使用することによって有意にブロックされた。10~1010CFU/mLのL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938に対応するより低い濃度のL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938 MVは、同様であるがわずかに減少した効果を有し、1011CFU/mLのJB-1に対応する高濃度のL.ラムノサス(L.rhamnosus)JB-1由来のMVは、カプサイシン処理に対する応答に有意な効果を及ぼさなかった。
【0181】
例5-単離された細菌マイクロベシクルによる脊髄神経発火に対する効果の発現は、細菌全体で得られた効果の発現と比較して速い
本発明者らは、驚くべきことに、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938由来のマイクロベシクルが腸間膜神経発火に対する細菌全体の効果を再現するだけでなく、MVが細菌全体と比較して増強された効果をもたらすことができることを観察した。この知見は、単離されたL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938マイクロベシクルを使用した場合、細菌全体を使用した場合と比較して、処理開始からピーク応答(完全な効果の発現)までにかかる時間を分析することによって得られた。
【0182】
材料及び方法
L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938を、上記の例3に記載されるように増殖させ、収穫し、保存した。L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938からのマイクロベシクルの単離及び調製を上記の例3に従って行った。
【0183】
空腸間膜神経記録を以前に記載されたように行った(Perez-Burgosら(2013)、Perez-Burgosら(2015))。要するに、マウス空腸の3cmセグメントを切除し、酸素化クレブス緩衝液及びL型カルシウムチャネル遮断薬ニカルジピン(3μM)を充填した寒天被覆ペトリ皿にマウントした。空腸の管腔内容物にクレブスを流し、口腔端及び肛門端にシリコンチューブをカニューレ挿入して、空腸セグメントを通る処理の流れを可能にした。付着した腸間膜を細い鉗子で静かに掻き取ることによって、腸間膜神経束を空腸セグメントから慎重に単離した。次いで、神経調製物を含む皿を顕微鏡ステージに取り付け、温かい酸素化クレブスを含むポンプを使用して連続的に灌流した。
【0184】
露出した神経束を、パッチクランプ電極ホルダに取り付けたガラスマイクロピペットで吸引した。Multi-Clamp700B増幅器及びDigidata 1440A信号変換器を使用して、神経束からマルチユニットの電気的活動を記録した。対照期間を、管腔クレブス灌流中に15~30分間記録した。管腔L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938又はマイクロベシクルを、対照の直後に20~30分間適用した。
【0185】
Dataviewプログラム(Heitler(2007))の主成分分析(PCA)及びスパイク波形分析を使用して、単一ユニットの電気的活動についてマルチユニットの電気的活動を分析した。ピーク応答までの時間を、処理が開始された時点から応答が見られた時点まで(発火速度の変化)測定した。
【0186】
結果
図10に示すように、L.ロイテリ(L.reuteri)MV(MV)は、細菌全体(DSM)と比較して、より迅速に神経発火応答を開始することができ、効果のより早い発現をもたらした。
【0187】
例6-培養及び単離プロトコル
MV調製の典型的なワークフローは、以下の工程である培養、無傷の細菌の除去及び培養濾液からのMV単離、並びに任意選択的に前濃縮及び精製を含む。特定の方法の選択は、多くの要因、例えば、処理される材料の量及びその後の用途による必要な純度に依存する。
【0188】
培養条件
本発明者らは、胃腸運動性及び胃腸疼痛の好ましいモデルにおいて改善された効果を有する治療用MVの産生をもたらす細菌株の培養パラメータを同定した。L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938は、通常の培養条件下で培養、すなわち、誘導因子として2%スクロースを添加して、ボトル/フラスコ内で37℃で24時間、de Man-Rogosa-Sharpe(MRS)培地で嫌気的に培養した。
【0189】
単離条件
細菌MVの調製は、細菌を培養し、続いてMV単離する上記で定義されたステップを含んだ。多数の高純度の生物学的効果を保持したMV画分を得るために、細菌上清を4000rpmで20分間遠心分離し(JA-18固定角ロータを備えたBeckman高速遠心機)、続いて10000×gで20分間2回目の遠心分離を行い、次いで0.45μmフィルタを通して濾過した。これらの第1のステップにより、生菌及び大きなデブリが除去された。次いで、ペレットを廃棄し、MVを含む上清をスクロースのクッションにロードし、118000×g、4℃で20.5時間超遠心分離した。最後に、ペレットを洗浄し、118000×g、4℃で一晩遠心分離して、治療用MVをペレットとして得た。
【0190】
例7-ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938由来マイクロベシクル(MV)による免疫刺激
この例では、クトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938の無細胞上清(CFS)に由来するMVが、免疫刺激活性及びインターフェロンガンマ(IFN-γ)抑制活性を有することが示されており、腸内細菌由来の細胞外MVがヒト免疫の重要な調節因子であり得ることを示している。
【0191】
材料及び方法
倫理に関する声明及び末梢血単核細胞の単離
健康で匿名の成人ボランティア(18~65歳)がこの試験に含まれ、この試験は、スウェーデン、ストックホルムのカロリンスカ研究所の地域倫理委員会によって承認された{Dnr04-106/1及び2014/2052-32}。全ての研究対象は、インフォームド書面による同意を得ている。静脈血を、ヘパリン処理したバキュテーナーチューブ(BD Biosciences Pharmingen社)に採取し、20mM HEPES(HyClone Laboratories社)を添加したRPMI-1640細胞培養培地で希釈した。次いで、末梢血単核細胞(PBMC)をFicoll-Hypaque(GE Healthcare Bio-Sciences社)勾配分離によって単離した。PBMCをRPMI-1640で洗浄し、40%RPMI-1640、50%ウシ胎児血清及び10%DMSOを含有する凍結培地に再懸濁し、凍結容器(Mr Frosty、Nalgene Cryo 1℃、Nalge社)で徐々に凍結し、液体窒素中で保存した。
【0192】
PBMCのインビトロ刺激
PBMCを解凍し、洗浄し、生存率をトリパンブルー染色し、続いて40倍光学顕微鏡で計数することによって評価した。細胞を、細胞培地(HEPES(20mM)、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、L-グルタミン(2mM)(全てHyClone Laboratories社製)及び10%ウシ胎児血清(Life Technologies社によるGibco)を添加したRPMI-1640)に1×10細胞/mlの最終濃度で再懸濁した。細胞を平底細胞培養プレートに播種し、5%CO雰囲気下、37℃でインキュベートした。黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus)無細胞上清(CFS)を2.5%(v/v)で刺激として使用し、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938から単離したMVを、500:1、100:1及び20:1のMV対細胞比でPBMCに添加した。
【0193】
マイクロベシクルの単離
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938細菌細胞を、37℃で24時間、de Man Rogosa Sharpe培地(Oxoid社)中で増殖させた。4℃、5,000×gで10分間の遠心分離、続いて4℃、10,000×gで10分間の別の遠心分離によって、細菌細胞を培養ブロスから除去した。次いで、0.45μm細孔フィルタ(Millipore社)を使用して上清を濾過した。無細胞上清を、100kDaのMwCOを有するAmicon Ultraフィルタユニットを使用して濃縮し、100kDa未満のタンパク質及び他の分子を除去した。上清を、体積比5:1で50mM Tris緩衝液pH7.2を含む12%スクロース緩衝液の上にロードし、Beckman coulter Optima L-80XP超遠心機(米国のBeckman coulter社)によって118,000×gで4℃で3時間遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットをPBS緩衝液に再懸濁し、2回目の超遠心分離(118,000×g、4℃で3時間)を行った。次いで、ペレットをPBSに溶解し、等分し、-70℃で保存した。
【0194】
実験手順
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938から単離したMVを、500:1,100:1及び20:1のMV対細胞比でPBMCに添加し、48時間インキュベートした。細胞培養上清を回収し、ELISAを使用してサイトカインの誘導について分析した。
【0195】
ELISA
サイトカインIL-1ra(R&D Systems-BioTechne社)、IL-1β、IL-6、IL-10、IL-17A及びIFN-γ(MabTech社)の分泌レベルを、製造者の説明書に従ってサンドイッチELISAキットを使用して細胞培養上清中で測定した。マイクロプレートリーダ(Molecular Devices社)を使用して405nmの波長で吸光度を測定し、結果をSoftMax Pro5.2rev C(Molecular Devices社)を使用して分析した。
【0196】
統計
全ての統計試験は、GraphPad Prism(GraphPad Software)を用いて行った。全てのデータをノンパラメトリックとみなし、Dunnの多重比較又はマン・ホイットニーのt検定を使用した。p<0.05の場合、有意差があるとみなし、以下の有意水準、p<0.05、**p<0.01を使用した。
【0197】
結果
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938 MVは、IL-6及びIL-10の両方の産生を濃度依存的に明らかに誘導したが、IFN-γ又はIL-17Aの誘導は検出されなかった(図11A)。更に、黄色ブドウ球菌(S.aureus)刺激PBMCに単離されたMVを添加すると、IFN-γ及びIL-17A分泌が高MV画分と同様の程度に有意に抑制された(図11B)。
【0198】
例8-ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)由来のマイクロベシクル(MV)は、腸管毒素原性大腸菌(Escherichia coli)の有害な影響から上皮バリアの完全性を保護する
材料及び方法
細胞外マイクロベシクル(MV)の単離
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938細菌細胞をMan-Rogosa-Sharpe培地中で増殖させ、24時間後に回収し、5,000×gで10分間、4℃で遠心分離し、続いて10,000×gで10分間、4℃で遠心分離することによって培養ブロスから除去し、その後、0.45μm細孔フィルタを使用した濾過によって上清から残留細胞を除去した。100kDa未満のタンパク質及び他の分子を除去するAmicon Ultraフィルタ(100kDa)を使用して上清を濃縮した。上清をBeckman coulter Optima L-80XP超遠心機(米国のBeckman coulter社)によって118,000×gで4℃で3時間遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットをPBS緩衝液に再懸濁し、2回目の超遠心分離(118,000×g、4℃で3時間)を行った。次いで、ペレットをPBSに溶解し、等分し、-70℃で保存した。
【0199】
インビトロでの腸透過性(Caco-2/HT29細胞共培養)
上皮細胞培養(Caco-2/HT29)
Caco-2及びHT29細胞を、10%ウシ胎児血清、1%非必須アミノ酸、並びに1%ペニシリン及びストレプトマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中、組織培養フラスコで、37℃、相対湿度90%、5%COの雰囲気下で別々に増殖させた。Caco-2及びHT29細胞を25cm組織培養フラスコ中で増殖させ、0.25%トリプシン及び0.02%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液を使用して80~90%コンフルエンスで分割した。25cmフラスコあたり6×10細胞の密度で細胞を播種した。
【0200】
細胞共培養
Caco-2及びHT29細胞を、9:1の比率でTranswellインサート(Transwell-COLコラーゲン被覆メンブレンフィルタ)の頂端チャンバーに播種し、各インサートにおいて1×10細胞/cmの最終密度で12ウェルTranswellプレート中で増殖させた。細胞を同じ条件で維持し、培地(頂端側で0.5ml及び基底外側で1.5ml)を1日おきに交換して21日間増殖させ、細胞を分化させた。
【0201】
細胞層の完全性
細胞層の完全性を、2つの方法である経上皮電気抵抗(TEER)及びフルオレセインイソチオシアナート-デキストラン(FITC-デキストラン)透過性の決定を使用して決定した。
【0202】
実験中の細胞単層の完全性を、Millicell電気抵抗システム(ドイツ、ダルムシュタットのMillipore社)を使用した経上皮電気抵抗(TEER)測定によって決定した。3つの異なる領域を選択して各ウェルのTEER値を検出し、平均を最終結果とした。250Ωcmを超えるTEER値を透過性試験に使用した。
【0203】
播種したCaco-2/HT29細胞を、生存ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938細胞を100細胞多重度(MOB)で、又はラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938細胞由来の細胞外マイクロベシクル(MV)を200MV多重度で6時間前処理した後、ETEC(上皮の完全性に破壊的な影響を及ぼすことが知られている病原性腸管毒素原性大腸菌(E.coli))を100感染多重度(MOI)で更に6時間曝露した。TEERは、前処理前及びETECによる曝露前に測定し、その後、曝露全体の間、2時間毎に測定した。単層の傍細胞透過性を定量するために、1mg/mLの4kDaフルオレセインイソチオシアナート-デキストラン(FITC-デキストラン、Sigma社)を、ETECによる曝露の開始時にインサートの先端側に添加した。側底コンパートメントからの試料を6時間のインキュベーション後に採取した。次いで、拡散蛍光トレーサを、FLUOstar Omega Microplate Reader(ドイツ、オルテンベルクのBMG Labtech社)を使用して蛍光光度法(励起485nm、発光520nm)によって3連で分析した。
【0204】
結果
ETECによる曝露は、TEERの減少を誘導した。L.ロイテリ(L.reuteri)由来MV及び細菌細胞の両方が、この曝露から上皮単層を部分的に保護することができた(図12)。ETEC曝露の6時間後、ETEC群のTEERの低下は35%に達し、L.ロイテリ(L.reuteri)細菌細胞及びMVによる前処理は両方とも、ETEC処理群と比較して有意に高いTEERを示した。
【0205】
単層へのETEC損傷に対するL.ロイテリ(L.reuteri)由来MV及び細菌細胞の保護効果は、FITC-デキストラン流実験でも明らかであった(図12)。L.ロイテリ(L.reuteri)由来MV及び細菌細胞による単層の前処理は、ETEC群と比較してFITC-デキストランの漏出を減少させた。
【0206】
したがって、L.ロイテリ(L.reuteri)由来MV及び細菌細胞の両方が、Caco-2/HT29共培養単層に対するETEC誘導性損傷の保護効果を示した。
【0207】
例9-MV産生に関連する酵素活性の変化
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938及びラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 32846を培養し、多数の誘導用生物処理に供した。MV産生の変化に関して、これらの誘導処理に対する応答を酵素アッセイを使用して決定し、対照、すなわち誘導処理のない細菌培養について得られた応答と比較した。次いで、細菌条件培地中で酵素活性を測定した。
【0208】
材料及び方法
培養及び生物処理
L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938又はL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846を、凍結ストックから25mLのde Man-Rogosa-Sharpe(MRS)培地に、通常の培養条件下で接種し、すなわち、37℃で一晩嫌気的に培養した。次いで、細菌(40mL)を、他の細菌培養物からの上清(4%)又は他の細菌細胞(25%、洗浄し、PBSに懸濁)の添加のいずれかと共に400mLのSIMに再接種し、次いで更に48時間培養した。調査した細菌試料を以下の表に要約する。
【0209】
【表3】
【0210】
ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)ATCC BAA-999及びラクトバチルス・パラカセイ(Lactobacillus paracasei)LMG-P-17806は、市販の細菌株であり、それぞれATCC(American Type Culture Collection)及びBelgian Coordinated Collections of Microorganisms,Microbiology Laboratoryに寄託されている。
【0211】
実験のセットアップは、プロバイオティック細菌株及び異なる生物処理に関するものであり、産生環境における真のアップスケーリングされた状況を模倣するように、又はヒト消化管における状況を模倣するように設計されている。培養中の生物処理の4%上清は、一方では効果を発揮するのに十分であるが、他方では最終産物の一部として誘導生物細菌からの成分を有するリスクがあるため、過剰に添加しないような適切な濃度として選択された。2つ(又はそれ以上)の細菌株を1つの組み合わせた組成物として一緒に投与した場合に、ヒト消化管で局所的に生じる効果を模倣するように、生物処理の細胞のより高い濃度25%を選択した。
【0212】
試料採取
細菌試料を最初に5000×gで10分間遠心分離し、その後、上清を新しいチューブに移し、次いで10,000×gで10分間2回目の遠心分離を行い、細菌細胞及び細菌細胞デブリを除去した。ここでMVを含有する上清を0.45μmフィルタで濾過し、氷上に保った後、超遠心機を用いて32000rpm、4℃で3時間更に遠心分離した(Beckman SW 32 Tiロータ、スイングバケット、30mLチューブ)。上清を廃棄した(ピペットを使用して、穏やかに注ぎ出す)。MV含有ペレットを再懸濁培地(リン酸緩衝生理食塩水(PBS))に慎重に再懸濁し、再び32000rpm、4℃で遠心分離し、培養培地の残りを洗い流した。再懸濁体積は、ペレットサイズに応じて100~300μLの間で変化した。試料を等分し、-70℃で保存した。
【0213】
酵素活性
5’-ヌクレオチダーゼ酵素活性を、異なる誘導用生物処理によって産生されたMVの数及び/又は効力の変化を定量するための尺度として使用した。上記の生物誘導処理から得られた試料を解凍し、次いで、Crystal Chem 5’-Nucleotidase Assay Kit(米国イリノイ州エルク・グローブ・ヴィレッジのCrystal Chem社)を使用して5’-ヌクレオチダーゼ活性アッセイで試験した。要するに、手順は2つのステップで実行した。最初に、AMPを含有する試薬1(CC1)を上清試料に添加して、上清試料中に存在する任意の5’-ヌクレオチダーゼ酵素によってAMPをアデノシンに変換した。アデノシンを更に、試薬1中の成分によってイノシン及びヒポキサンチンに加水分解した。第2のステップでは、試薬2(CC2)を添加してヒポキサンチンを尿酸及び過酸化水素に変換し、これを使用してキノン色素を生成させ、これを分光光度計で550nmで速度論的に測定した。3~5分の間の吸光度の変化を計算し、キャリブレータ試料からの値と比較することによって、試料中の5’-ヌクレオチダーゼ活性を決定した。
【0214】
結果
図13は、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938から得られたMV試料(対照及び処理試料用)における5’-ヌクレオチダーゼ活性を示す。図から分かるように、5’-ヌクレオチダーゼ活性は、SIM(対照)中のL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938又はL.パラカセイ(L.paracasei)LMG-P-17806からの4%上清を有するL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938(SIM中のDSM 17938又はDSM 17938+4%LMG-P-17806上清)と比較して、SIM培地中のB.ロンガム(B.longum)ATCC BAA-999又はB.ロンガム(B.longum)DSM 32947からの4%上清を添加したL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938(DSM 17938+4%DSM 32947上清又はDSM 17938+4%ATCC BAA-999上清)の培養から得られた試料で増加した。5’-ヌクレオチダーゼ活性に対する誘導用生物処理の効果は、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938をB.ロンガム(B.longum)DSM 32947の上清と共に培養した場合に最も顕著であったが、B.ロンガム(B.longum)ATCC BAA-999の上清でも効果が得られた。各試料からの光学密度(OD)スコアは、相対細胞数が処理間で有意に変化しなかったことを示している。
【0215】
図14に示される結果は、図13に示される結果と同じであるが、SIM中のDSM 17938の5’-ヌクレオチダーゼ活性及び光学密度に関して正規化されており、異なる実験間で5’-ヌクレオチダーゼ活性の倍率変化を比較することを容易にする。
【0216】
図15の結果(正規化)は、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938をB.ロンガム(B.longum)DSM 32947由来の25%細胞とSIM培地中で共培養することによって、対照試料(すなわち、SIM中のDSM 17938)と比較して、誘導用生物処理後に5’-ヌクレオチダーゼ活性が増加したことを更に示している。これらの試料からのODスコアは、これらの異なる生物処理によって得られた細胞数の相対的な差を示す(すなわち、細菌細胞の総数が多いため、誘導用生物処理試料におけるスコアが増加する)。
【0217】
図16は、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846を使用して対照試料及び処理試料で得られた5’-ヌクレオチダーゼ活性の正規化された値を示す。グラフから分かるように、酵素活性は、SIM中の対照L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846(SIM中のDSM 32846)と比較して、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846を、B.ロンガム(B.longum)DSM 32947由来の4%の上清を添加したSIM培地(DSM 32846+4%DSM 32947上清)中で培養することによって増加した。これらの試料からのODスコアは、これらの異なる生物処理によって得られた細胞数の相対的な差を示す。
【0218】
例10-ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)DSM 32947又はビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)ATCC BAA-999との共培養後のTrpV1媒介疼痛シグナル伝達に対するラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938による改善された拮抗作用
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938によるMVの産生に対する生物処理の効果を、ラット後根神経節(DRG)及びCellectricon Cellaxess Elektraプラットフォームから得られたTrpV1発現ニューロンを使用して、インビトロ電界刺激(EFS)モデルで試験した。L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938は、模擬腸培地(DSM 17938対照SIM 48時間)中の対照として、又はSIM中の2つのビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)株DSM 32947又はATCC BAA-999のいずれか1つの25%細菌細胞との48時間の共培養からなる誘導用生物処理を使用して、48時間培養した。(SIM培地のレシピは例1に見出すことができる)。MVを、例6による異なる細菌調製物から単離した。末梢感作を模倣するために、初代ラットDRGニューロン培養物を神経成長因子(NGF)と共に384ウェルプレートで48時間培養した。次いで、カプサイシン誘導性TrpV1活性化に対する、得られたMV調製物の拮抗作用を評価した。実験の当日に、DRG培養物をCa2+指示薬(Ca5、洗浄スクリーニングキットなし)で染色して、特異的TrpV1アゴニストであるカプサイシンによって誘発される一過性カルシウムの画像化を可能にした。まず、カプサイシンのEC50を別々のEFS実験で決定し、次いでこの濃度を全てのDRG培養物に添加してTrpV1活性化を誘導した。次いで、TrpV1活性化に対するMV調製物の効果を、元のMVストック濃度の1:10の開始濃度及び1:3の希釈段階を使用して用量応答形式(各プレートで6つの濃度を三連で試験した)で評価した。DRG培養物をMV調製物と共に1時間インキュベートした後、EFS実験を行った。プレートをCellaxessプラットフォーム上に置き、一連のEFSプロトコルを適用した。これらのEFSプロトコルは、MV調製物とのインキュベーションに起因してDRG培養物において生じる興奮性の変化を捕捉するためのパルス列を含んだ。次いで、カプサイシン誘導性TrpV1活性化に対するMV調製物の効果を分析し、EC50値を調製物のそれぞれについて決定した(EC50は、一般に半数効果濃度として記載され、指定された曝露時間後にベースラインと最大値との中間の応答を誘導する物質の濃度を指す)。ここで、EC50は、400mlの液体細菌培養液から抽出されたMVのストック濃度の%を表す)。実験を2回行い、平均EC50値を計算した。対照実験のEC50値は7.4であったが、両誘導用生物処理のEC50値ははるかに低かった(DSM 17938+DSM 32947の場合は1.8、DSM 17938+ATCC BAA-999の場合は2.7)。これらの結果は、誘導用生物処理がTrpV1シグナル伝達に対するMV調製物の拮抗作用を増加させること、すなわち、対照MV調製物と比較してカプサイシン誘導性TrpV1シグナル伝達を阻害するために必要な誘導MV調製物の量がより少ないことを示す。ここで述べる重要な態様は、対照(DSM 17938 SIM 48時間)が以前にTrpV1シグナル伝達に対する阻害効果を示しており(例4参照)、したがって陽性対照と見なすことができることである。要約すると、培養中に本発明による細菌を誘導用生物処理に曝露することによって、細菌を誘導して治療用MVを産生させた。これにより、カプサイシン誘導性TrpV1活性化に対する阻害/ブロック効果が改善された。
【0219】
【表4】
【0220】
EC50値は、400mlの液体細菌培養液から抽出されたMVのストック濃度の%として示されており、誘導用生物処理に応答したTrpV1に対するDSM 17938からのMV調製物の増加した拮抗作用を示している。
【0221】
例11-培養の生物処理の結果としての免疫調節の変化
この例では、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 32846の無細胞上清(CFS)に由来するMVは、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938の無細胞上清(CFS)に由来するMVと比較して、より強い免疫調節効果(IL-6の増加)を有することが示されている。ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 32846又はラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938のいずれかからの無細胞上清(CFS)に由来するMVの免疫調節効果が、培養中の生物処理後に改善されることも示されている。
【0222】
材料及び方法
倫理に関する声明及び末梢血単核細胞の単離
健康で匿名の成人ボランティア(18~65歳)がこの試験に含まれ、この試験は、スウェーデン、ストックホルムのカロリンスカ研究所の地域倫理委員会によって承認された{Dnr04-106/1及び2014/2052-32}。全ての研究対象は、インフォームド書面による同意を得ている。静脈血を、ヘパリン処理したバキュテーナーチューブ(BD Biosciences Pharmingen社)に採取し、20mM HEPES(HyClone Laboratories社)を添加したRPMI-1640細胞培養培地で希釈した。次いで、末梢血単核細胞(PBMC)をFicoll-Hypaque(GE Healthcare Bio-Sciences社)勾配分離によって単離した。PBMCをRPMI-1640で洗浄し、40%RPMI-1640、50%ウシ胎児血清及び10%DMSOを含有する凍結培地に再懸濁し、凍結容器(Mr Frosty、Nalgene Cryo 1℃、Nalge社)で徐々に凍結し、液体窒素中で保存した。
【0223】
PBMCのインビトロ刺激
PBMCを解凍し、洗浄し、生存率をトリパンブルー染色し、続いて40倍光学顕微鏡で計数することによって評価した。細胞を、細胞培地(HEPES(20mM)、ペニシリン(100U/ml)、ストレプトマイシン(100μg/ml)、L-グルタミン(2mM)(全てHyClone Laboratories社製)及び10%ウシ胎児血清(Life Technologies社によるGibco)を添加したRPMI-1640)に1×10細胞/mlの最終濃度で再懸濁した。細胞を平底細胞培養プレートに播種し、5%CO雰囲気下、37℃でインキュベートした。以下により詳細に記載されるような異なる細菌調製物から単離されたMVを、500:1のMV対細胞比でPBMCに添加した。
【0224】
マイクロベシクルの単離
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938又はDSM 32846の細菌細胞をSIM(模擬腸培地、例1に記載のレシピ)中で37℃で48時間増殖させた。異なる生物処理を調査した実験のために、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938又はDSM 32846の細菌細胞を、別々に増殖させたビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)DSM 32947又はビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)ATCC BAA-999の上清の存在下、SIM中で37℃で48時間増殖させた。また、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938の細菌細胞を、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)DSM 32947の25%細菌細胞の存在下で増殖させた。
【0225】
4℃、5,000×gで10分間の遠心分離、続いて4℃、10,000×gで10分間の別の遠心分離によって、培養ブロスから細菌細胞を除去した。次いで、0.45μm細孔フィルタ(Millipore社)を使用して上清を濾過した。無細胞上清を、100kDaのMwCOを有するAmicon Ultraフィルタユニットを使用して濃縮し、100kDa未満のタンパク質及び他の分子を除去した。上清をBeckman coulter Optima L-80XP超遠心機(米国のBeckman coulter社)によって118,000×gで4℃で3時間遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットをPBS緩衝液に再懸濁し、2回目の超遠心分離(118,000×g、4℃で3時間)を行った。次いで、ペレットをNeurobasal A+supplement B 27+Glutamaxに溶解し、等分し、-70℃で保存した。
【0226】
実験手順
上記の異なる細菌調製物から単離されたMVを500:1のMV対細胞比でPBMCに添加し、48時間インキュベートした。細胞培養上清を回収し、ELISAを使用してサイトカインの誘導について分析した。
【0227】
ELISA
製造業者の説明書(MabTech社)に従ってサンドイッチELISAキットを使用して、細胞培養上清中のサイトカインIL-6の分泌レベルを測定した。マイクロプレートリーダ(Molecular Devices社)を使用して405nmの波長で吸光度を測定し、結果をSoftMax Pro5.2rev C(Molecular Devices社)を使用して分析した。
【0228】
結果
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 32846由来のマイクロベシクルは、ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938から単離されたマイクロベシクルと比較して、IL-6の産生の誘導においてより効果的であった(図17)。更に、ビフィドバクテリウム・ロンガム(Bifidobacterium longum)株(4%上清及び25%細胞の両方)と共培養した後のラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)の両株から単離されたMVは、対照と比較して、IL-6の誘導された産生を増加させた(図18、19及び20)。これらの結果は、単離されたMVが培養中の生物処理後により効果的であることを示している。
【0229】
例12-ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)由来のマイクロベシクル(MV)は、腸管毒素原性大腸菌(Escherichia coli)の有害な影響から上皮バリアの完全性を保護する
材料及び方法
細胞外マイクロベシクル(MV)の単離
ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938又はラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 32846細菌細胞をMan-Rogosa-Sharpe培地中で増殖させ、24時間後に回収し、5,000×gで10分間、4℃で遠心分離し、続いて10,000×gで10分間、4℃で遠心分離することによって培養ブロスから除去し、その後、0.45μm細孔フィルタを使用した濾過によって上清から残留細胞を除去した。100kDa未満のタンパク質及び他の分子を除去するAmicon Ultraフィルタ(100kDa)を使用して上清を濃縮した。上清をBeckman coulter Optima L-80XP超遠心機(米国のBeckman coulter社)によって118,000×gで4℃で3時間遠心分離した。上清を廃棄し、ペレットをPBS緩衝液に再懸濁し、2回目の超遠心分離(118,000×g、4℃で3時間)を行った。次いで、ペレットをPBSに溶解し、等分し、-70℃で保存した。
【0230】
インビトロでの腸透過性(Caco-2/HT29細胞共培養)
上皮細胞培養(Caco-2/HT29)
Caco-2及びHT29上皮細胞を、10%ウシ胎児血清、1%非必須アミノ酸、並びに1%ペニシリン及びストレプトマイシンを添加したダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)中、組織培養フラスコで、37℃、相対湿度90%、5%COの雰囲気下で別々に増殖させた。Caco-2及びHT29細胞を25cm組織培養フラスコ中で増殖させ、0.25%トリプシン及び0.02%エチレンジアミン四酢酸(EDTA)溶液を使用して80~90%コンフルエンスで分割した。25cmフラスコあたり6×10細胞の密度で細胞を播種した。
【0231】
細胞共培養
Caco-2及びHT29細胞を、9:1の比率でTranswellインサート(Transwell-COLコラーゲン被覆メンブレンフィルタ)の頂端チャンバーに播種し、各インサートにおいて1×10細胞/cmの最終密度で12ウェルTranswellプレート中で増殖させた。細胞を同じ条件で維持し、培地(頂端側で0.5ml及び基底外側で1.5ml)を1日おきに交換して21日間増殖させ、細胞を分化させた。
【0232】
細胞層の完全性
細胞層の完全性を、2つの方法である経上皮電気抵抗(TEER)及びフルオレセインイソチオシアナート-デキストラン(FITC-デキストラン)透過性の決定を使用して決定した。
【0233】
実験中の細胞単層の完全性を、Millicell電気抵抗システム(ドイツ、ダルムシュタットのMillipore社)を使用した経上皮電気抵抗(TEER)測定によって決定した。3つの異なる領域を選択して各ウェルのTEER値を検出し、平均を最終結果とした。250Ωcmを超えるTEER値を透過性試験に使用した。
【0234】
播種したCaco-2/HT29細胞を、生存ラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938細胞若しくはラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 32846細胞を100細胞多重度(MOB)で、又はラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 17938細胞若しくはラクトバチルス・ロイテリ(Lactobacillus reuteri)DSM 32846細胞由来の細胞外マイクロベシクル(MV)を200MV多重度(MOM)で6時間前処理した後、ETEC(上皮の完全性に破壊的な影響を及ぼすことが知られている病原性腸管毒素原性大腸菌(E.coli))を100感染多重度(MOI)で更に6時間曝露した。TEERは、前処理前及びETECによる曝露前に測定し、その後、曝露全体の間、2時間毎に測定した。単層の傍細胞透過性を定量するために、1mg/mLの4kDaフルオレセインイソチオシアナート-デキストラン(FITC-デキストラン、Sigma社)を、ETECによる曝露の開始時にインサートの先端側に添加した。側底コンパートメントからの試料を6時間のインキュベーション後に採取した。次いで、拡散蛍光トレーサを、FLUOstar Omega Microplate Reader(ドイツ、オルテンベルクのBMG Labtech社)を使用して蛍光光度法(励起485nm、発光520nm)によって3連で分析した。
【0235】
結果
ETECによる曝露は、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846由来のMVがこの曝露から上皮単層を部分的に保護することができたことを示すTEERの減少を誘導した(図21)。ETEC曝露の6時間後、ETEC群のTEERの低下は27%に達したが、10、50、100、及び200MOMのL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846由来MVによる前処理は、ETEC処理群と比較してかなり高いTEERを示した。未処理細胞は約90%のままであった。
【0236】
単層へのETEC損傷に対するL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846由来MVのこの保護効果は、FITC-デキストランンフラックス実験でも明らかであった(図21)。10、50、100、及び200MOMのL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846由来MVによる単層の前処理は、ETEC群と比較してFITC-デキストランの漏出を減少させた。
【0237】
したがって、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846由来MVは、Caco-2/HT29共培養単層に対するETEC誘導性損傷の保護効果を示した。
【0238】
図22では、FITC-デキストランフラックス実験に示されているようなL.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846由来のMVの保護効果の比較を、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938由来のMVで得られた効果と比較した。L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846由来のMVでの上皮細胞単層の前処理は、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938由来のMVと比較して、より効率的に、特に低濃度のMVでFITC-デキストランの漏出を減少させた。これは、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 32846由来のMVが、L.ロイテリ(L.reuteri)DSM 17938由来のMVよりも上皮バリアの完全性を保護するのに有効であることを示している。
【0239】
上記の実施形態は、本発明のいくつかの例示的な例として理解されるべきである。当業者であれば、本発明の範囲から逸脱することなく、実施形態に様々な修正、組み合わせ、及び変更を加えることができることを理解するであろう。特に、異なる実施形態における異なる部分の解決策は、技術的に可能な場合、他の構成で組み合わせることができる。しかし、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲によって定義される。
【0240】
参考文献



図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22