(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】正極活物質、正極およびその製造方法、リチウムイオン電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/525 20100101AFI20240918BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20240918BHJP
H01M 4/1391 20100101ALI20240918BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20240918BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20240918BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20240918BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/131
H01M4/1391
H01M4/36 C
H01M4/36 E
H01M4/505
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2022036836
(22)【出願日】2022-03-10
【審査請求日】2023-03-13
(73)【特許権者】
【識別番号】520184767
【氏名又は名称】プライムプラネットエナジー&ソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 慶一
(72)【発明者】
【氏名】花▲崎▼ 亮
【審査官】福井 晃三
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-150051(JP,A)
【文献】国際公開第2013/146054(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/000868(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/153290(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/078784(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単粒子と、一次粒子が凝集した凝集粒子とを含む正極活物質であって、
前記単粒子は表面においてホウ素含有化合物またはタングステン含有化合物を含み、
前記単粒子の真球度は0.91以上であり、
前記正極活物質の粉体層せん断試験により測定される流動性指標(F.I)は3.25以上であり、
前記単粒子と前記凝集粒子との質量比は、20:80~60:40である、正極活物質。
【請求項2】
前記単粒子は、ニッケル、コバルトおよびマンガン含有化合物を含み、およびリチウムを除く金属元素に対するニッケル含有比率が60mol%以上であり、
前記凝集粒子は、ニッケル、コバルトおよびマンガン含有化合物を含み、およびリチウムを除く金属元素に対するニッケル含有比率が70mol%以上である、請求項1に記載の正極活物質。
【請求項3】
前記ホウ素含有化合物はホウ酸リチウムであり、前記タングステン含有化合物はタングステン酸リチウムである、請求項1又は2に記載の正極活物質。
【請求項4】
前記流動性指標(F.I)が3.25以上8.0以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の正極活物質。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の正極活物質を含む正極活物質層と基材とを含む、正極。
【請求項6】
請求項5に記載の正極を含む、リチウムイオン電池。
【請求項7】
正極の製造方法であって、
請求項1に記載の正極活物質を含む正極スラリーを調製すること、
前記正極スラリーを正極基材の表面に塗布することにより、正極活物質層を形成すること、
および、
前記正極活物質層と前記正極基材とを圧延することにより、正極を製造すること、
を含む、
正極の製造方法。
【請求項8】
母材表面にホウ素含有化合物またはタングステン含有化合物を被覆し球径度を調節して前記単粒子を得ることをさらに含む、請求項7に記載の正極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質に関し、さらには正極およびリチウムイオン電池にも関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、内部に空隙を有する二次粒子で構成される正極活物質の一次粒子表面にリチウムタングステン化合物をWO3を被覆することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
電池の正極抵抗を低減して出力特性を向上させ、高エネルギー密度とすることを目的として、リチウムニッケル複合酸化物粒子の粒径を大きくするとともに、リチウムニッケル複合酸化物粒子の断面積に占める粒子内部の空隙を大きくし、タングステンをドープしたリチウムニッケル複合酸化物を用いることが有効である。しかしながら、リチウムタングステン化合物は格子定数のミスマッチのため一次粒子粒界に偏析しやすく、比表面積が大きくなりガス発生につながる場合がある。一方、充填性の向上を目的として正極活物質として凝集粒子を単粒子と混合することが検討されているものの、単粒子は凝集粒子を破壊する起点となり易い傾向にある。
【0005】
本発明の目的は、高温保存時のガス発生が抑制された非水系電解質二次電池を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は以下の正極活物質、正極およびその製造方法、リチウムイオン電池を提供する。
[1] 単粒子と、一次粒子が凝集した凝集粒子とを含む正極活物質であって、前記単粒子は表面においてホウ素含有化合物またはタングステン含有化合物を含み、前記単粒子の真球度は0.91以上であり、前記正極活物質の粉体層せん断試験により測定される流動性指標(F.I)は3.25以上であり、前記単粒子と前記凝集粒子との質量比は、20:80~60:40である、正極活物質。
[2] 前記単粒子は、ニッケル、コバルトおよびマンガン含有化合物を含み、およびリチウムを除く金属元素に対するニッケル含有比率が60mol%以上であり、前記凝集粒子は、ニッケル、コバルトおよびマンガン含有化合物を含み、およびリチウムを除く金属元素に対するニッケル含有比率が70mol%以上である、[1]に記載の正極活物質。
[3] 前記ホウ素含有化合物はホウ酸リチウムであり、前記タングステン含有化合物はタングステン酸リチウムである、[1]または[2]に記載の正極活物質。
[4] 前記流動性指標(F.I)が3.25以上8.0以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の正極活物質。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の正極活物質を含む正極活物質層と基材とを含む、正極。
[6] [5]に記載の正極を含む、リチウムイオン電池。
[7] 正極の製造方法であって、[1]に記載の正極活物質を含む正極スラリーを調製すること、前記正極スラリーを正極基材の表面に塗布することにより、正極活物質層を形成すること、および、前記正極活物質層と前記正極基材とを圧延することにより、正極を製造することを含む、正極の製造方法。
[8] 母材表面にホウ素含有化合物またはタングステン含有化合物を被覆し球径度を調節して前記単粒子を得ることをさらに含む、[7]に記載の正極の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、高温保存時のガス発生が抑制された非水系電解質二次電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、粉体層せん断試験の第1説明図である。
【
図2】
図2は、粉体層せん断試験の第2説明図である。
【
図3】
図3は本実施形態におけるリチウムイオン電池の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は本実施形態における電極体の一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は本実施形態における正極を示す概念図である。
【
図6】
図6は、本実施形態における正極の製造方法の概略フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本開示の実施形態(以下「本実施形態」とも記される。)が説明される。ただし、以下の説明は、特許請求の範囲を限定しない。
【0010】
<正極活物質>
正極活物質は、単粒子と、一次粒子が凝集した凝集粒子とを含む。正極活物質は、実質的に、単粒子と凝集粒子とからなっていてもよい。本実施形態の正極活物質は、リチウムイオン電池用であることができる。リチウムイオン電池の詳細は後述される。
【0011】
単粒子および凝集粒子は任意の大きさを有し得る。単粒子の平均粒子径D50は、例えば1μm以上20μm以下であってよく、好ましくは1μm以下10μm以下であり、より好ましくは1μm以上5μm以下であってもよい。凝集粒子の平均粒子径D50、D70、D30は、例えばいずれも1μm以下40μm以下であってよく、好ましくはいずれも1μm以下30μm以下であり、より好ましくはいずれも1μm以上20μm以下である。平均粒子径D50、D70、D30は、体積基準の粒度分布において小粒径側からの累積粒子体積がそれぞれ全粒子体積の50%、70%、30%になる粒子径を表す。平均粒子径は、レーザ回折・散乱法により測定され得る。
【0012】
一次粒子は、粒子のSEM画像において、外観上、粒界が確認できない粒子であり、かつ0.5μm未満の平均一次粒子径を有する粒子を示す。平均一次粒子径は、一次粒子の輪郭線上の最も離れた2点間の距離を示す。一次粒子の平均一次粒子径は、例えば0.05μm以上0.2μm以下または0.1μm以上0.2μm以下であってよい。1個の凝集粒子のSEM画像から無作為に抽出された10個以上の一次粒子が0.05μmから0.2μmの平均一次粒子径を有する時、該凝集粒子に含まれる一次粒子の全てが0.05μmから0.2μmの平均一次粒子径を有するとみなされる。一次粒子は、例えば0.1μmから0.2μmの平均一次粒子径を有していてもよい。
【0013】
単粒子および凝集粒子(一次粒子)は、ニッケル、コバルトおよびマンガン含有化合物を含むことができる。単粒子および凝集粒子(一次粒子)中のリチウムを除く金属元素に対するニッケル含有比率はそれぞれ例えば60mol%以上および70mol%以上であってよく、それぞれ好ましくは70mol%以上および80mol%以上である。ニッケル、コバルトおよびマンガン含有化合物は、好ましくはニッケルコバルトマンガン複合水酸化物、より好ましくはリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を含む。ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物は、例えば共沈法等により得られるものであってよい。ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物は、例えば一般式:NixCoyMnz(OH)2(式中、x+y+z=1)で表される化合物であってよい。リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物は、リチウムとニッケル、コバルトおよびマンガンとのモル比Li:(Ni+Co+Mn)が例えば1.0~1.2:1.0であることができる。
【0014】
単粒子は、例えば、第1層状金属酸化物を含んでいてもよい。
第1層状金属酸化物は、式(1):
Li1-a1Nix1Me1
1-x1O2 (1)
によって表される。
式(1)中、
「a1」は、「-0.3≦a1≦0.3」の関係を満たす。
「x1」は、0.6≦x1<1.0の関係を満たす。
「Me1」は、Co、Mn、Al、Zr、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Mo、
Sn、Ge、Nb、およびWからなる群より選択される少なくとも1種を示す。
【0015】
一次粒子は、例えば、第2層状金属酸化物を含んでいてもよい。
第2層状金属酸化物は、式(2):
Li1-a2Nix2Me2
1-x2O2 (2)
によって表される。
式(2)中、
「a2」は、「-0.3≦a2≦0.3」の関係を満たす。
「x2」は、0.7≦x2≦1.0の関係を満たす。
「Me2」は、Co、Mn、Al、Zr、Ti、V、Cr、Fe、Cu、Zn、Mo、
Sn、Ge、Nb、およびWからなる群より選択される少なくとも1種を示す。
【0016】
式(1)および(2)中、例えば「x1<x2」の関係が満たされていてもよい。
【0017】
例えば、単粒子は、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.7Co0.2Mn0.1O2、LiNi0.7Co0.1Mn0.2O2、LiNi0.6Co0.3Mn0.1O2、LiNi0.6Co0.2Mn0.2O2、およびLiNi0.6Co0.1Mn0.3O2からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。例えば、一次粒子は、LiNi0.8Co0.1Mn0.1O2、LiNi0.7Co0.2Mn0.1O2、およびLiNi0.7Co0.1Mn0.2O2からなる群より選択される少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0018】
例えば、単粒子および一次粒子の両方が、実質的にLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2からなっていてもよい。例えば、単粒子および一次粒子の両方が、実質的にLiNi0.7Co0.2Mn0.1O2からなっていてもよい。例えば、単粒子が実質的にLiNi0.6Co0.2Mn0.2O2からなり、一次粒子が実質的にLiNi0.7Co0.2Mn0.1O2からなっていてもよい。例えば、単粒子が実質的にLiNi0.6Co0.2Mn0.2O2からなり、一次粒子が実質的にLiNi0.8Co0.1Mn0.1O2からなっていてもよい。
【0019】
凝集粒子がリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物である場合、例えば水酸化リチウム等のリチウム源と、ニッケルコバルトマンガン複合水酸化物とを混合し、焼成することにより凝集構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得た後、これに金属酸化物を添加して熱処理を行うことにより、凝集構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物を得ることができる。単粒子は、例えば上記凝集構造を有するリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物をジェットミル等を用いて乾式粉砕し乾燥することで得ることができる。
【0020】
単粒子は、表面においてホウ素含有化合物またはタングステン含有化合物を含む。単粒子は真球度の観点から好ましくは表面がホウ素含有化合物またはタングステン含有化合物で被覆されている。ホウ素含有化合物は、好ましくはホウ酸リチウムである。タングステン含有化合物は、好ましくはタングステン酸リチウムである。単粒子の表面に含まれるホウ素含有化合物またはタングステン含有化合物は、単粒子の質量を基準に例えば0.1質量%以上2.0質量%以下であってよく、好ましくは0.2質量%以上1.0質量%以下である。
【0021】
単粒子の表面をホウ素含有化合物またはタングステン含有化合物で被覆する方法としては例えばメカノケミカル処理等が挙げられる。メカノケミカル処理は、例えば乾式にて、母材(リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物からなる粒子)と被覆粒子(ホウ素またはタングステン酸)とをメディア(ZrO2ビーズ)と共に容器内で高速回転させ、被覆粒子の粉砕と共に母材表面に結合させて被覆する処理であることができる。被覆粒子の母材に対する割合は、例えば0.1at%以上2.0at%以下であってよい。
【0022】
単粒子の真球度は0.91以上であり、好ましくは0.92以上、より好ましくは0.93以上であり、例えば1.00以下であってよく、0.99以下であってもよい。単粒子の真球度は、後述の実施例の欄において説明する方法に従って求められる。単粒子の真球度が上記範囲であることにより、充填性が向上され易くなる傾向にある。単粒子の真球度の調節は、例えば上述のメカノケミカル処理の条件を調節により行うことができる。
【0023】
正極活物質の粉体層せん断試験により測定される流動性指標(F.I)は3.25以上であり、充填性の観点から好ましくは3.5以上、より好ましくは4以上であり、例えば8.0以下であってよい。流動性指標(F.I)を上記の範囲とする方法としては、例えば単粒子および凝集粒子の種類、単粒子の真球度、単粒子および凝集粒子の平均粒子径および混合比率等の選択や、混合条件の調節等が挙げられる。流動性指標(F.I)の測定方法について以下に説明する。
【0024】
図1は、粉体層せん断試験の第1説明図である。試験装置200は、サーボシリンダ210、第1ロードセル220、試料セル230、第2ロードセル240、リニアアクチュエータ250、および第3ロードセル260を備えている。測定対象は、試料セル230に充填される。これにより粉体層201が形成される。試料セル230は、円筒状である。試料セル230は、上部セル231と下部セル232と含む。試料セル230は、上部セル231と下部セル232とに分割される。サーボシリンダ210は、垂直方向(z軸方向)の荷重を粉体に加える。これにより垂直応力が発生し、粉体層201が圧密される。上部セル231は固定されている。リニアアクチュエータ250は、水平方向(x軸方向)に下部セル232を移動させる。これにより、粉体層201がせん断崩壊する。
【0025】
図2は、粉体層せん断試験の第2説明図である。粉体層せん断試験における垂直応力σとせん断応力τとから、単軸崩壊応力f
cと最大主応力σ
1とが導出される。
図2の直交座標においては、垂直応力σが横軸であり、せん断応力τが縦軸である。まず、破壊包絡線YLが描かれる。粉体層201中の任意の面に垂直応力σが負荷された状態で、その面に対して水平方向にせん断応力τが徐々に作用する。せん断応力τにより、粉体層201中の面が崩壊し始める。これが限界応力状態である。限界応力状態における垂直応力σとせん断応力τとがプロットされる。これにより破壊包絡線YLが描かれる。次いで、限界状態線CSLが描かれる。せん断崩壊後、せん断応力τは一次的に変化するが、やがて一定値になる。一定値となったせん断応力τと、その時の垂直応力σとがプロットされる。これにより限界状態線CSLが描かれる。限界状態線CSLは、原点を通る直線である。破壊包絡線YLと限界状態線CSLとの交点は、限界状態Csである。限界状態Csを通り、破壊包絡線YLに接する、Mohrの応力円m1が描かれる。該Mohrの応力円m1と横軸との交点のうち、値の大きい方が最大主応力σ
1である。原点を通り、破壊包絡線YLに接する、Mohrの応力円m2が描かれる。該Mohrの応力円m2と横軸との交点(原点を除く)が単軸崩壊応力f
cである。流動性指標(F.I)は、式:ff
c=σ
1/f
cにより算出されるff
cの値より求められる。
【0026】
正極活物質中の単粒子と凝集粒子との質量比は20:80~60:40であり、好ましくは30:70~50:50である。正極活物質中の単粒子と凝集粒子との質量比が上記範囲であることにより、充填性が向上され易くなる傾向にある。
【0027】
<リチウムイオン電池>
図3は、本実施形態におけるリチウムイオン電池の一例を示す概略図である。
図3に示す電池100は、例えば電動車両の主電源または動力アシスト用電源等のリチウムイオン電池であってよい。
【0028】
電池100は、外装体90を含む。外装体90は、電極体50および電解質(不図示)を収納している。電極体50は、正極集電部材81によって正極端子91に接続されている。電極体50は、負極集電部材82によって負極端子92に接続されている。
図4は、本実施形態における電極体の一例を示す概略図である。電極体50は巻回型である。電極体50は、正極20、セパレータ40および負極30を含む。すなわち電池100は正極20を含む。正極20は、正極活物質層22と正極基材21とを含む。負極30は、負極活物質層32と負極基材31とを含む。
【0029】
<正極>
図5に示すように正極20は、正極活物質層22が正極基材21の片面または両面に直接的に又は間接的に形成されていてよい。正極基材21は、例えばAl合金箔、純Al箔等からなる導電性シートであってよい。正極活物質層22は単粒子11と凝集粒子12とを含む正極活物質を含む。正極活物質層22は導電材およびバインダ等をさらに含んでいてもよい。
【0030】
正極活物質層22は、例えば10μmから200μmの厚さを有していてもよい。正極活物質層22は高密度を有し得る。正極活物質層22の密度は、例えば3.7g/cm3以上であってよく、3.8g/cm3以上または3.9g/cm3以上であってよい。正極活物質層22は、例えば4.0g/cm3以下の密度を有していてもよい。
【0031】
<正極の製造方法>
本実施形態における正極20の製造方法は、
図6に示すように正極スラリーの調製(A)、塗布(B)および圧延(C)を含む。
【0032】
正極スラリーの調製(A)において、上述の正極活物質を含む正極スラリーを調製する。正極スラリーは、正極活物質が分散媒中に分散されることにより調製される。単粒子および凝集粒子はそれぞれ独立に、例えば共沈法により合成され得る。例えば流動性指標(F.I)が3.25以上になるように単粒子と凝集粒子とが混合される。単粒子は、母材表面にホウ素含有化合物またはタングステン含有化合物を被覆し球径度(真球度)を調節して得ることができる。球径度(真球度)の調節は上述のとおりである。
【0033】
塗布(B)において、正極スラリーを正極基材11の表面に塗布することにより、正極活物質層12を形成する。圧延(C)において、正極活物質層12と正極基材11とを圧延することにより、正極10を製造する。圧延により正極10の原反が製造される。原反は、電池100の仕様に応じて、所定の平面サイズに切断され得る。
【実施例】
【0034】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。例中の「%」及び「部」は、特記のない限り、質量%及び質量部である。以下の説明は、特許請求の範囲を限定しない。
【0035】
[単粒子No.1~3の作製]
共沈により得られた、組成がNi0.80Co0.10Mn0.10(OH)2のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を500℃で焼成して、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Z1)を得た。
【0036】
次に、水酸化リチウムと、ニッケルコバルトマンガン複合酸化物(Z1)を、Liと、Ni、Co、Mnの総量のモル比が、1.05:1になるように混合し、当該混合物にを酸素雰囲気中にて850℃で72時間焼成した後、ボールミルで湿式粉砕し乾燥後、単粒子構造とし、再度酸素雰囲気中にて750℃で10時間熱処理して単粒子構造のリチウム複合酸化物Aを得た。
【0037】
なお、リチウム複合酸化物Aの粒度分布を測定すると粒子径(D50)の値は3.3μmであり、SEMによりその構造を観察した結果、複合酸化物Aはほぼ単粒子構造の粒子であり、その粒子径は2.3~3.5μmであった。
【0038】
得られた単粒子構造の活物質粒子を1at%のホウ酸とΦ20mmのZrO2ビーズともにメノウ容器に入れ、2h遊星型ボールミル装置(フィレッチェ製P5)を用いて、メカノケミカル処理した。メカノケミカル処理の時間は表1に示される。
【0039】
[単粒子構No.4の作製]
メカノケミカル処理にタングステン酸を用い、メカノケミカル処理の時間を1時間としたこと以外は、単粒子No.1~3の作製と同様にして単粒子No.4を得た。
【0040】
[真球度]
単粒子のSEM写真から任意の粒子を選択し、その粒子の投影面積(A)と周囲長(M)を測定する。測定した周囲長(M)をもつ真球を想定するとその半径(r)はM/2πであり、想定した真球の面積(B)はπ×(M/2π)2となる。こうして測定および算出した面積A、Bから真球度(A/B)=A×4π/M2を算出する。100個の単粒子について真球度を測定し、その平均値を真球度とした。真球度は表1に示される。
【0041】
[凝集粒子の作製]
共沈により得られた、組成がNi0.80Co0.10Mn0.10(OH)2のニッケルコバルトマンガン複合水酸化物を、水酸化リチウムと共に800℃10時間で酸素雰囲気中で焼成し、メノウ乳鉢で解砕することにより凝集粒子構造のリチウム複合酸化物(B)を得た。
【0042】
なお、複合酸化物Bの粒度分布は、D50は12μm、D70は14μm、D30は10μmであった。CP加工処理後の複合酸化物Bの断面をSEM観察により確認した結果、複合酸化物Bの平均一次粒子径は0.13μmであった。
【0043】
[単粒子および凝集粒子の混合方法]
単粒子および凝集粒子を表1に示す質量比となるように秤りとり、転動流動式乾燥装置に入れ、均一に混ざるよう混合し、混合正極活物質粉体を得た。
【0044】
[流動性指標(F.I)]
粉体層せん断試験は、「JIS Z8835:一面せん断試験による限界状態線(CSL)及び壁面崩壊線(WYL)の測定方法」に準拠して実施した。ffcは、3回以上測定された。3回以上の結果の算術平均値が、測定対象のffcとみなされた。ffc(平均値)は、小数第1位まで有効とされ、小数第2位以下は四捨五入された。
【0045】
[正極板の作製]
上記混合正極活物質粉体と、アセチレンブラックと、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)を、96.3:2.5:1.2の固形分質量比で混合し、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)を適量加えた後、これを混練して正極合材スラリーを調製した。当該正極合材スラリーを1C32番の13μ厚みのアルミニウム箔芯体の両面に塗布し、塗膜を乾燥させた後、圧延機を用いて塗膜の合材密度が3.7g/cm3となるように圧縮し、所定の電極サイズに切断して、正極芯体の両面に正極合材層が形成された正極を得た。
【0046】
[リチウムイオン小型電池の作製]
カーボン負極と組み合わせて650WH/L狙いの設計で小型ラミネート型電池を作製した。また、正極活物質の粒子粒子構造と組成、混合比を変えて表のような実施例および比較例の電池を作製し、60℃30日保存試験前後のガス発生量を、アルキメデス法により求めた体積変化より測定した。結果を表1に示す。
【0047】
【符号の説明】
【0048】
14 単粒子、15 凝集粒子、20 正極、21 正極基材、22 正極活物質層、30 負極、31 負極基材、32 負極活物質層、40 セパレータ、50 電極体、81 正極集電部材、82 負極集電部材、90 外装体、91 正極端子、92 負極端子、100 電池(リチウムイオン電池)、200 試験装置、201 粉体層、210 サーボシリンダ、220 第1ロードセル、230 試料セル、231 上部セル、232 下部セル、240 第2ロードセル、250 リニアアクチュエータ、260 第3ロードセル、300 混合装置、301 粉体、310 容器、320 攪拌羽。