(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】ステルスキメラ抗原受容体及び正常細胞への細胞毒性の低減におけるその用途
(51)【国際特許分類】
C07K 19/00 20060101AFI20240918BHJP
C07K 14/725 20060101ALI20240918BHJP
C07K 16/18 20060101ALI20240918BHJP
C07K 16/30 20060101ALI20240918BHJP
C12N 15/62 20060101ALI20240918BHJP
C12N 15/12 20060101ALI20240918BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240918BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20240918BHJP
A61K 38/17 20060101ALI20240918BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240918BHJP
A61K 31/7088 20060101ALI20240918BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C07K19/00
C07K14/725
C07K16/18
C07K16/30
C12N15/62 Z ZNA
C12N15/12
C12N15/63 Z
A61P35/00
A61K38/17
A61K48/00
A61K31/7088
C12N5/10
(21)【出願番号】P 2023503056
(86)(22)【出願日】2021-08-19
(86)【国際出願番号】 CN2021113420
(87)【国際公開番号】W WO2022037625
(87)【国際公開日】2022-02-24
【審査請求日】2023-01-30
(32)【優先日】2020-08-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】521442039
【氏名又は名称】山東博安生物技術股▲ふん▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】SHANDONG BOAN BIOTECHNOLOGY CO., LTD.
【住所又は居所原語表記】No.39, Keji Avenue, High-Tech Zone, Yantai, Shandong, China
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】チョウ, リー
(72)【発明者】
【氏名】ハリス, マイケル
【審査官】小倉 梢
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/241549(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00 - 19/00
C12N 15/00 - 15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キメラ抗原受容体(CAR)であって、
(1)所定の抗原に特異的に結合する単鎖可変断片(scFv)を含む細胞外リガンド結合ドメインであって、ここで
、該所定の抗原は、腫瘍関連抗原(TAA)であ
る、細胞外リガンド結合ドメインと、
(2)膜貫通(tm)接続膜近傍(jm)ドメインであって、
ここで、該膜貫通接続膜近傍ドメインは、IL2受容体β鎖(IL2Rβ)膜貫通ドメインと、IL2Rβ膜近傍ドメインとを含み、且つ該膜貫通接続膜近傍ドメインはIL2Rβ分解配列(DT)に隣接
する、膜貫通接続膜近傍ドメインと、
(3)細胞内ドメインであって、ここで
、該細胞内ドメインは
、4-1BBシグナル伝達ドメイン、CD28シグナル伝達ドメイン及びCD3ζシグナル伝達ドメインからなる群から選択される一つ又は複数のシグナル伝達ドメインを含む細胞内ドメインと
を含
み、
該CARは、N-末端からC-末端まで、TAA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ又はTAA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-CD28-CD3ζを含み、
ここで、該TAA scFvは、CEA scFv、クローディン18.2 scFv及びHER2 scFvのうちの一つ又は複数から選択される、キメラ抗原受容体(CAR)。
【請求項2】
該IL2Rβ分解配列は、SEQ ID NO:2で表されるアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1に記載のCAR。
【請求項3】
CEA scFvは、MN14op CEA scFvであり、又は、クローディン18.2 scFvは、841クローディン18.2 scFvである、請求項1に記載のCAR。
【請求項4】
MN14op CEA scFv、841クローディン18.2 scFv、又はHER2 scFvは、それぞれSEQ ID NO.5、30又は31で表されるアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項3に記載のCAR。
【請求項5】
該CARのN-末端は、リーダー配列及び/又はHA配列をさらに含む、請求項1に記載のCAR。
【請求項6】
該CARは、N-末端からC-末端まで、
HA-MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ、
HA-MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP、
HER2 scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP、
HER2 scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-CD28-CD3ζ-P2A-GFP、
又は
MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP、
を含
む、請求項
1に記載のCAR。
【請求項7】
該CARはP2A-GFP及び/又はHAを含まない、請求項6に記載のCAR。
【請求項8】
該CARは、それぞれSEQ ID NO.9、14、15、21、又は22で表されるアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項6又は7に記載のCAR。
【請求項9】
該CARのアミノ酸配列は、P2A-GFP、リーダー配列、及び/又はHAのアミノ酸配列を含まない、請求項6に記載のCAR。
【請求項10】
該IL2R
βの膜貫通(tm)は
、SEQ ID NO.
1で表されるアミノ酸配列と少なくと
も95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
該IL2R
βの膜近傍(jm)は
、SEQ ID NO.
4で表されるアミノ酸配列と少なくと
も95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
該IL2R
βの膜貫通(tm)接続膜近傍(jm)は
、SEQ ID NO.2
7で表されるアミノ酸配列と少なくと
も95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
該MN14op CEA scFv、841クローディン18.2 scFv、HER2 scFv
、HA、CD8ヒンジ、CD3ζ、4-1BB、CD28
、GFP、又はリーダー配列は、それぞれSEQ ID NO.5、30、31
、33、34、35、36、37
、45又は46で表されるアミノ酸配列と少なくと
も95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、及び/又は、
該P2Aは、SEQ ID NO.43又は44で表されるアミノ酸配列と少なくと
も95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項1~
9のいずれか一項に記載のCAR。
【請求項11】
二重CARであって、請求項1~
10のいずれか一項に記載の第1のCARと、
第2のCARとを含み、該第2のCARは、
(1)所定の抗原に特異的に結合するscFvを含む細胞外リガンド結合ドメインと、
(2)
膜貫通ドメインと、
(3)
細胞内ドメインとを含み、
ここで、該第1のCARは抗原を標的化するとともに、該第2のCARは別の抗原を標的化
する、二重CAR。
【請求項12】
該膜貫通ドメインはCD8膜貫通ドメインであり、及び/又は
該細胞内ドメインは、4-1BBシグナル伝達ドメイン、CD28シグナル伝達ドメイン及びCD3ζシグナル伝達ドメインからなる群から選択される一つ又は複数のシグナル伝達ドメインを含む、請求項11に記載の二重CAR。
【請求項13】
該第1のCARと該第2のCARはP2Aによって接続される、請求項11又は12に記載の二重CAR。
【請求項14】
該P2Aは、SEQ ID NO.43又は44で表されるアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項13に記載の二重CAR。
【請求項15】
該二重CARは、N-末端からC-末端まで、
TAA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ-P2A-別のTAA scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-CD28-CD3ζ又はTAA scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-P2A-別のTAA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-CD28-CD3ζを含む、請求項11~14のいずれか一項に記載の二重CAR。
【請求項16】
該二重CARは、N-末端からC-末端まで
、841クローディン18.2 scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-P2A-HER2 scFv-IL2Rβ tm jm DT-CD28-CD3
ζを含む、請求項
11~15のいずれか一項に記載の二重CAR。
【請求項17】
該二重CARは(G
4
S)
2
-GFPを含まない、請求項16に記載の二重CAR。
【請求項18】
841クローディン18.2 scFv又はHER2 scFvは、それぞれSEQ ID NO.30又は31で表されるアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項16に記載の二重CAR。
【請求項19】
該二重CARは、SEQ ID NO.25で表されるアミノ酸配列と少なくとも95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む、請求項18に記載の二重CAR。
【請求項20】
該二重CARのアミノ酸配列は(G
4
S)
2
-GFP及び/又はリーダー配列のアミノ酸配列を含まない、請求項18に記載の二重CAR。
【請求項21】
核酸であって、請求項1~
10のいずれか一項に記載のCAR、又は請求項
11~
20のいずれか一項に記載の二重CARをコードするポリヌクレオチドを含む、核酸。
【請求項22】
ベクターであって、請求項1~
10のいずれか一項に記載のCAR、又は請求項
11~
20のいずれか一項に記載の二重CAR、又は請求項
21に記載の核酸をコードするポリヌクレオチドを含む、ベクター。
【請求項23】
組成物であって、請求項1~
10のいずれか一項に記載のCAR、又は請求項
11~
20のいずれか一項に記載の二重CAR、請求項
21に記載の核酸、又は請求項
22に記載のベクターを含む、組成物。
【請求項24】
それを必要とする被験体における疾患を治療する
ための医薬であって
、有効量の請求項
23に記載の組成物、請求項1~
10のいずれか一項に記載のCAR、又は請求項
11~
20のいずれか一項に記載の二重CA
Rを含
む、医薬。
【請求項25】
該疾患は癌である、請求項24に記載の医薬。
【請求項26】
該癌は、血液悪性腫瘍又は固形腫瘍のうちの一つ又は複数から選択される、請求項25に記載の医薬。
【請求項27】
該固形腫瘍は、卵巣癌、膵臓癌、結腸癌、結腸直腸癌、リンパ腫、食道癌、肺癌、肝臓癌、頭頸部癌、又は胆嚢癌である、請求項26に記載の医薬。
【請求項28】
CAR-T細胞による正常細胞への細胞毒性を低減する
ための薬剤であって、請求項1~
10のいずれか一項に記載のCAR、又は請求項
11~
20のいずれか一項に記載の二重CAR、請求項
21に記載の核酸、請求項
22に記載のベクター、又は請求項
23に記載の組成物を
含む、薬剤。
【請求項29】
正常細胞への細胞毒性が低減されたCAR-T細胞を産生する方法であって、
請求項
21に記載の核酸又は請求項
22に記載のベクターを宿主細胞に導入すること(1)と、
導入した後に、これらのCAR-T細胞を単離及び/又は増殖すること
(2)とを含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、2020年8月19日に提出された、発明の名称が「標的依存性スイッチキメラ抗原受容体」である米国仮特許出願第63/067,870号の利益を主張し、該特許の内容は、その全体が参照により本明細書に組み込まれる。
【0002】
本出願は、バイオ医薬品分野に関し、且つ特にステルスキメラ抗原受容体(CAR)及びその関連ポリヌクレオチド、ベクター、組成物、製造方法と用途に関する。
【背景技術】
【0003】
血液悪性腫瘍治療におけるCAR T細胞療法の初歩的な成功は、免疫療法の治療戦略の新しい分野における急速な発展を示した。CARは、設計された受容体であり、典型的に、CD3ζ ITAMモチーフから派生したモジュール化活性化ドメインと、例えば、4-1BB又はCD28に由来する共刺激ドメインを有する。これらの受容体による標的認識は、代替的な方法も考案されているが、通常、CARの細胞外末端のscFvドメインにより提供される。
【0004】
安全性は、CAR-T療法の発展を阻害する主な障害である。CAR分子は、通常、T細胞表面上に構成的に発現される。そのため、CAR-T細胞は、患者体内に注射されると、標的抗原を発現する異なる組織に遊走し、通常、正常な組織及び腫瘍細胞に対して予期しない毒性と損傷を与えることになる。なお、CAR分子の構成的発現は、緊張性シグナル伝達とT細胞枯渇を促進する。
【0005】
今まで、CAR-T活性を制御するためにいくつかのタイプのスイッチが開発された。これらのスイッチのうちのいくつかのスイッチは、「自殺遺伝子」をCAR構築体に組み込むことに基づくものである。例えば、HSV-TKトランスジェニックは、ガンシクロビルで治療する時の改変細胞の誘導型アポトーシスを可能にするために、すでに養子細胞療法に使用されている。別の方法は、誘導型カスパーゼ9(iCasp9)の使用に依存する。これらのポリシーにおいて、CAR-T細胞自体を標的に除去することによって治療応答を停止させる。
【0006】
他のスイッチシステムは、受容体の改変、例えば、アダプターにより媒介されるCAR(「汎用CAR」とも呼ばれる)に依存する。これらのCAR T細胞は、共通の受容体を共有し、該受容体は、該受容体を、CARと腫瘍標的の両者を結合するアダプター分子に接続することによって複数の腫瘍標的を認識するように改変することができる。同様に、投与と活性化を制御する手段として、薬物誘導性二量体を介して細胞内シグナル伝達ドメインをCARの膜貫通成分に集めることが提案されている。現在、臨床的に承認されているCARが構成的活性を有するように設計されたが、アダプター依存性CAR T細胞は、アダプター投与時にのみ、認識し殺傷することができ、それによってCAR-T細胞に対する滴定可能且つ可逆的な制御を可能にする。
【0007】
これらのタイプのスイッチについては、CARの発現と機能性は、小分子薬物又は他の治療剤の適用によって外部的に調節される。これらのタイプのスイッチの主な課題は、適用可能な従来のFDA承認のスイッチ分子の利用可能性、スイッチ分子の安全性、バイオアベイラビリティ、体内分布、及びスイッチ分子とCAR-T細胞の複雑な動態と分布によるインビボ調節複雑性を含む。
【0008】
単一の腫瘍関連抗原(TAA)を標的化することによる標的細胞群への選択的圧力は、最終的に、標的抗原の下方制御とCAR T細胞免疫応答の回避を引き起こす
1(RuellaとMaus,2016)。標的抗原発現の喪失は、腫瘍細胞の増殖を緩和せず、最終的に疾患の再発を引き起こす。研究により、一次TAAの下方制御時、標的細胞は、二次TAAを上方制御することによって、二回目の治療的介入を可能にする可能性があることが報告されている
2(
図1)(Fousekら,2020)。理想的には、腫瘍細胞群が二次TAAを上方制御する時にのみ、治療毒性を低減するために、該二次TAAを標的化すべきである。
【0009】
高親和性IL2受容体は、α、βとγ鎖の三つの異なる、非共有結合的に会合した成分で構成される膜貫通受容体である。αとγサブユニットが存在しない場合、β鎖は、構成的にエンドサイトーシスされ且つ分解されることが示されている3(Hemarら,1994)。
【0010】
LDLRのC-末端残基の分析により、エンドソーム選別モチーフNDXYが存在することが示された。研究により、該モチーフは、ARHとの相互作用及びAP-2複合体との結合によって、エンドソーム選別メカニズムを間接的に媒介することが示されている4-5(Taoら,2016、Fasanoら,2009)。SEZ6L2の特徴は、そのc-末端領域に二つのエンドソーム標的共有配列が存在することである6(Bonifacinoら,2003)。
【0011】
本出願は、正常細胞への細胞毒性を低減するためのステルスCARを提供することによって、CAR-Tの安全性問題を解決することを目的とする。
【発明の概要】
【0012】
本出願の斬新なCARシステムでは、CAR分子の発現/安定化は、標的抗原の利用可能性に依存する。利用可能な抗原がない場合、T細胞表面上に検出可能なCARが存在しないとともに、CAR機能がない。エンジニアリングされたT細胞がその標的抗原を認識する時、CARは、安定化されるとともに、シグナル伝達を開始することができる。これは標的依存性スイッチである。抗原に応答するCAR発現を調節することにより、本出願は、CAR T細胞毒性と枯渇を低減することができる。抗原が存在しない場合に、CARが「見えない」ため、本出願の発明者は、それを「ステルスCAR」と名付けることを選択した。ステルスCARは、単一特異性と二重特異性CARの場合、及び自家と同種異系の場合に適用することができる。それは、T細胞、NK細胞、γδT細胞、及びiPSCから派生したT細胞の背景で適用することができる。
【0013】
エンドサイトーシスステルスCARシステムは、CAR T療法が直面する特定の課題、即ち「on-target off-tumor」効果の解決にも適用され得る。TAAが、腫瘍組織で、通常、上方制御されるが、正常な組織でも低いレベルで発現されるため、CAR T療法は、非癌細胞を標的化する望ましくない効果を有する可能性がある。抗原発現が安定しているCARにより、高レベルの標的抗原を発現する細胞(例えば、腫瘍細胞)を使用することによって、発明者らのCARシステムのためにより高い活性化を提供する。そのため、本出願は、CAR T細胞の腫瘍特異的殺傷を促進するとともに、正常な組織への影響を最大限に低減することができる(
図2)。組み合わせモデルでは、二つのCARは、いずれもエンドサイトーシスタイプであってもよく、on-target off-tumor効果を最大限に低減し、且つ抗原エスケープを解決した。
【0014】
二重特異性の場合にステルスCARを適用することによって、本出願では、該システムが抗原エスケープ問題の解決に使用できることが期待されている。細胞表面において、一過性にのみ安定なCAR変異体を発現することによって、本出願は、正常な組織の付随的標的化、損傷を低減するメカニズムを提供した。腫瘍細胞における二次標的抗原の上方制御は、より強いシグナルを提供し、CAR表面安定性と下流活性化を促進する。一つのCARで一次TAAを標的化し、且つもう一つのステルスCARで二次TAAを標的化することによって、本出願は、強い初期腫瘍応答を引き起こすとともに、二次TAA上方制御時にのみ、標的の二次応答を引き起こす。
【0015】
本出願の発明者は、改変された膜貫通と膜近傍配列を有するいくつかのCAR変異体を設計し製造し、これらの配列は、受容体の細胞内輸送を促進する。これらの配列は、IL2受容体β鎖(IL2Rβ又はIL2Rb)、低密度リポタンパク質受容体(LDLR)及びヒトてんかん発作6様タンパク質2(SEZ6L2)から派生したものである。これらの受容体の膜貫通と細胞内配列におけるアミノ酸モチーフは、エンドソーム経路を介して細胞内輸送を促進する。
【0016】
本出願は、正常細胞への細胞毒性を低減し、CAR-T安全性を改善し、構成的CAR表面発現による炎症性サイトカインと緊張性シグナル伝達を低減するための斬新なステルスCARを提供した。本出願は、ステルスCARと第2のCARとを含む二重CAR、及びステルスCAR又は二重CARをコードするポリヌクレオチドを含む関連核酸、ベクター、宿主細胞と薬物組成物をさらに提供した。本出願は、それを必要とする被験体における疾患を治療する方法であって、該方法は該被験体に有効量の薬物組成物を投与することを含む方法、CAR-T細胞による正常細胞への細胞毒性を低減する方法、及び正常細胞への細胞毒性が低減されたCAR-T細胞を産生する方法をさらに提供した。
【0017】
一つの態様では、本出願は、キメラ抗原受容体(CAR)を提供し、該キメラ抗原受容体は、
(1)所定の抗原に特異的に結合する単鎖可変断片(scFv)を含む細胞外リガンド結合ドメインであって、ここで、好ましくは、該所定の抗原は腫瘍関連抗原(TAA)であり、さらに好ましくは、該TAAは、CEA、クローディン18.2、CGC3、受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)、CD38、CD19、CD20、CD22、BCMA、CAIX、CD446、CD13、EGFR、EGFRvIII、EpCam、GD2、EphA2、HER1、HER2、ICAM-1、IL13Ra2、メソテリン、MUC1、MUC16、NKG2D、PSCA、NY-ESO-1、MART-1、WT1、MAGE-A10、MAGE-A3、MAGE-A4、EBV、NKG2D、PD1、PD-L1、CD25、IL-2、及びCD3のうちの一つ又は複数から選択される細胞外リガンド結合ドメインと、
(2)膜貫通(tm)接続膜近傍(jm)ドメインであって、
ここで、該膜貫通接続膜近傍ドメインは、IL2受容体β鎖(IL2Rβ)膜貫通ドメインと、IL2Rβ膜近傍ドメインとを含み、且つ該膜貫通接続膜近傍ドメインはIL2Rβ分解配列(DT)に隣接し、ここで、好ましくは、該IL2Rβ分解配列は、該膜貫通接続膜近傍ドメインのC-末端にあり、ここで、好ましくは、該IL2Rβ分解配列は、SEQ ID NO:2で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
ここで、該膜貫通接続膜近傍ドメインは、低密度リポタンパク質受容体(LDLR)膜貫通ドメインと、LDLR膜近傍ドメインとを含み、又は、
ここで、該膜貫通接続膜近傍ドメインは、てんかん発作6様タンパク質2(SEZ6L2)膜貫通ドメインと、SEZ6L2膜近傍ドメインとを含む膜貫通接続膜近傍ドメインと、
(3)細胞内ドメインであって、ここで、好ましくは、該細胞内ドメインは、シグナル伝達ドメインを含み、さらに好ましくは、該シグナル伝達ドメインは、4-1BBシグナル伝達ドメイン、CD28シグナル伝達ドメイン及びCD3ζシグナル伝達ドメインからなる群から選択される一つ又は複数のシグナル伝達ドメインを含む細胞内ドメインとを含む。
【0018】
別の態様では、CARは、N-末端からC-末端まで、TAA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ、TAA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-CD28-CD3ζ、TAA scFv-CD8ヒンジ-LDLR tm jm-4-1BB-CD3ζ、又はTAA scFv-CD8ヒンジ-SEZ6L2 tm jm-4-1BB-CD3ζを含む。
【0019】
別の態様では、TAA scFvは、CEA scFv、クローディン18.2 scFv及びHER2 scFvのうちの一つ又は複数から選択され、さらに好ましくは、CEA scFvは、MN14op CEA scFvであり、又は、クローディン18.2 scFvは、841クローディン18.2 scFvであり、最も好ましくは、MN14op CEA scFv、841クローディン18.2 scFv、又はHER2 scFvは、それぞれSEQ ID NO.5、30又は31で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0020】
別の態様では、CARのN-末端は、リーダー配列及び/又はHA配列をさらに含む。
【0021】
別の態様では、CARは、N-末端からC-末端まで、
HA-MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ、
HA-MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP、
HER2 scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP、
HER2 scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-CD28-CD3ζ-P2A-GFP、
MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP、
MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-LDLR tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP、
MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-SEZ6L2 tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP、
841クローディン18.2 scFv-CD8ヒンジ-SEZ6L2 tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP、又は
HER2 scFv-CD8ヒンジ-SEZ6L2 tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFPを含み、任意選択的に、該CARはP2A-GFP及び/又はHAを含まず、
別の態様では、CARは、それぞれSEQ ID NO.9、14、15、17、18、19、21、22又は24で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、任意選択的に、該CARのアミノ酸配列は、P2A-GFP、リーダー配列、及び/又はHAのアミノ酸配列を含まない。
【0022】
別の態様では、CARは、ヒンジドメインを含み、好ましくは、該ヒンジドメインは、細胞外領域から派生したCD8又はCD28ヒンジ、又はIgGヒンジを含む。
【0023】
別の態様では、本出願は、キメラ抗原受容体(CAR)をさらに提供し、該キメラ抗原受容体は、
(1)所定の抗原に特異的に結合する単鎖可変断片(scFv)を含む細胞外リガンド結合ドメインであって、ここで、好ましくは、該所定の抗原は、腫瘍関連抗原(TAA)であり、さらに好ましくは、該TAAは、CEA、クローディン18.2、CGC3、受容体チロシンキナーゼ様オーファン受容体1(ROR1)、CD38、CD19、CD20、CD22、BCMA、CAIX、CD446、CD13、EGFR、EGFRvIII、EpCam、GD2、EphA2、HER1、HER2、ICAM-1、IL13Ra2、メソテリン、MUC1、MUC16、NKG2D、PSCA、NY-ESO-1、MART-1、WT1、MAGE-A10、MAGE-A3、MAGE-A4、EBV、NKG2D、PD1、PD-L1、CD25、IL-2、及びCD3のうちの一つ又は複数から選択される細胞外リガンド結合ドメインと、
(2)膜貫通ドメインと、
(3)IL2Rβ分解配列(DT)と、少なくとも一つのシグナル伝達ドメインとを含む細胞質セグメントであって、ここで、好ましくは、該IL2Rβ分解配列は、SEQ ID NO:2で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ここで、好ましくは、該IL2Rβ分解配列は該細胞質セグメントのC-末端にある細胞質セグメントとを含む。
【0024】
別の態様では、CARは、N-末端からC-末端まで、TAA scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-IL2Rβ DTを含む。
【0025】
別の態様では、CARのN-末端は、リーダー配列及び/又はHA配列をさらに含む。
【0026】
別の態様では、該TAA scFvは、CEA scFvであり、さらに好ましくは、該TAA scFvは、MN14op CEA scFvであり、最も好ましくは、MN14op CEA scFvは、SEQ ID NO.5で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、最も好ましくは、該CARは、それぞれSEQ ID NO.8又は16で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、任意選択的に、該CARのアミノ酸配列は、P2A-GFP、リーダー配列、及び/又はHAのアミノ酸配列含まない。
【0027】
別の態様では、IL2Rβ、LDLR、又はSEZ6L2の膜貫通(tm)は、それぞれSEQ ID NO.1、38又は40で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
該IL2Rβ、LDLR、又はSEZ6L2の膜近傍(jm)は、それぞれSEQ ID NO.4、39又は41で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
該IL2Rβ、LDLR、又はSEZ6L2の膜貫通(tm)接続膜近傍(jm)は、それぞれSEQ ID NO.27、28又は29で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
該MN14op CEA scFv、841クローディン18.2 scFv、HER2 scFv、PD-L1 scFv、HA、CD8ヒンジ、CD3ζ、4-1BB、CD28、CD8 tm、GFP、又はリーダー配列は、それぞれSEQ ID NO.5、30、31、32、33、34、35、36、37、42、45又は46で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、及び/又は、
該P2Aは、SEQ ID NO.43又は44で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0028】
別の態様では、本出願は、キメラ抗原受容体(CAR)を提供し、該キメラ抗原受容体は、
(1)所定の抗原に特異的に結合する単鎖可変断片(scFv)を含む細胞外リガンド結合ドメインと、(2)膜貫通(tm)接続膜近傍(jm)ドメインであって、
ここで、該膜貫通接続膜近傍ドメインは、IL2受容体β鎖(IL2Rβ)膜貫通ドメインと、IL2Rβ膜近傍ドメインとを含み、且つ該膜貫通接続膜近傍ドメインはIL2Rβ分解配列(DT)に隣接し、ここで、好ましくは、該IL2Rβ分解配列は、該膜貫通接続膜近傍ドメインのC-末端にあり、ここで、好ましくは、該IL2Rβ分解配列は、SEQ ID NO:2で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
ここで、該膜貫通接続膜近傍ドメインは、低密度リポタンパク質受容体(LDLR)膜貫通ドメインと、LDLR膜近傍ドメインとを含み、又は、
ここで、該膜貫通接続膜近傍ドメインは、ヒトてんかん発作6様タンパク質2(SEZ6L2)膜貫通ドメインと、SEZ6L2膜近傍ドメインとを含み、
該IL2Rβ、LDLR、又はSEZ6L2の膜貫通(tm)は、それぞれSEQ ID NO.1、38又は40で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、
該IL2Rβ、LDLR、又はSEZ6L2の膜近傍(jm)は、それぞれSEQ ID NO.4、39又は41で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む膜貫通接続膜近傍ドメインと、
(3)細胞内ドメインとを含む。
【0029】
別の態様では、本出願は、キメラ抗原受容体(CAR)をさらに提供し、該キメラ抗原受容体は、
(1)所定の抗原に特異的に結合する単鎖可変断片(scFv)を含む細胞外リガンド結合ドメインと、
(2)膜貫通ドメインと、
(3)IL2Rβ分解配列(DT)と、少なくとも一つのシグナル伝達ドメインとを含む細胞質セグメントであって、該IL2Rβ分解配列は、SEQ ID NO:2で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、該IL2Rβ分解配列は該細胞質セグメントのC-末端にある細胞質セグメントとを含む。
【0030】
特別な実施例では、N-末端からC-末端までIL2Rβ膜貫通(tm)と、膜近傍(jm)と、分解配列(DT)とを含むCARは、
(1)MLB003 CAR:HA-MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ(SEQ ID NO.9で表されるアミノ酸配列)、
(2)MLB013 CAR:HA-MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(SEQ ID NO.15で表されるアミノ酸配列)、
(3)MLB020 CAR:MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(SEQ ID NO.14で表されるアミノ酸配列)、
(4)MLB038 CAR:HER2 scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(SEQ ID NO.21で表されるアミノ酸配列)、又は、
(5)MLB039 CAR:HER2 scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-CD28-CD3ζ-P2A-GFP(SEQ ID NO.22で表されるアミノ酸配列)を含み、
任意選択的に、該CARは、P2A-GFP、リーダー配列、及び/又はHAを含まない。
【0031】
特別な実施例では、N-末端からC-末端までLDLR膜貫通(tm)と膜近傍(jm)とを含むCARは、
(1)MLB048 CAR:MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-LDLR tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(SEQ ID NO.18で表されるアミノ酸配列)を含み、
任意選択的に、該CARは、P2A-GFP、リーダー配列、及び/又はHAを含まない。
【0032】
特別な実施例では、N-末端からC-末端までSEZ6L2膜貫通(tm)と膜近傍(jm)とを含むCARは、
(1)MLB047 CAR:MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-SEZ6L2 tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(SEQ ID NO.17で表されるアミノ酸配列)、
(2)MLB054 CAR:841クローディン18.2 scFv-CD8ヒンジ-SEZ6L2 tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(SEQ ID NO.19で表されるアミノ酸配列)、又は、
(3)MLB080 CAR:HER2 scFv-CD8ヒンジ-SEZ6L2 tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(SEQ ID NO.24で表されるアミノ酸配列)を含み、
任意選択的に、該CARは、P2A-GFP、リーダー配列、及び/又はHAを含まない。
【0033】
特別な実施例では、細胞質セグメント(それは、N-末端からC-末端まで、IL2Rβ分解配列(DT)と、少なくとも一つのシグナル伝達ドメインとを含む)を含むCARは、
(1)MLB025 CAR:MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-IL2Rβ DT -P2A-GFP(SEQ ID NO.16で表されるアミノ酸配列)、又は、
(2)MLB002 CAR:HA-MN14op scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-IL2Rβ DT(SEQ ID NO.8で表されるアミノ酸配列)を含み、
任意選択的に、該CARは、P2A-GFP、リーダー配列、及び/又はHAを含まない。
【0034】
別の態様では、本出願は、二重CARをさらに提供し、該二重CARは、上記実施例のいずれか一つに記載の第1のCARと、
第2のCARとを含み、該第2のCARは、
(1)所定の抗原に特異的に結合するscFvを含む細胞外リガンド結合ドメインと、
(2)膜貫通ドメインであって、ここで、好ましくは、該膜貫通ドメインはCD8膜貫通ドメインである膜貫通ドメインと、
(3)細胞内ドメインであって、ここで、好ましくは、該細胞内ドメインは、シグナル伝達ドメインを含み、さらに好ましくは、該シグナル伝達ドメインは、4-1BBシグナル伝達ドメイン、CD28シグナル伝達ドメインとCD3ζシグナル伝達ドメインからなる群から選択される一つ又は複数のシグナル伝達ドメインを含む細胞内ドメインとを含み、
ここで、該第1のCARは抗原を標的化するとともに、該第2のCARは別の抗原を標的化する。
【0035】
別の態様では、第1のCARと第2のCARはP2Aによって接続される。
【0036】
別の態様では、該P2Aは、SEQ ID NO.43又は44で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含む。
【0037】
別の態様では、二重CARは、N-末端からC-末端まで、
TAA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ-P2A-別のTAA scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-CD28-CD3ζ、TAA scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-P2A-別のTAA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-CD28-CD3ζ、TAA scFv-CD8ヒンジ-LDLR tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-別のTAA scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-CD28-CD3ζ、TAA scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-P2A-別のTAA scFv-CD8ヒンジ-LDLR tm jm-CD28-CD3ζ、TAA scFv-CD8ヒンジ-SEZ6L2 tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-別のTAA scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-CD28、又はTAA scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-P2A-別のTAA scFv-CD8ヒンジ-SEZ6L2 tm jm-CD3ζを含む。
【0038】
別の態様では、二重CARは、N-末端からC-末端まで、それぞれ、841クローディン18.2 scFv-CD8ヒンジ-SEZ6L2 tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-PD-L1 scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-CD28-(G4S)2-GFP、841クローディン18.2 scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-P2A-HER2 scFv-IL2Rβ tm jm DT-CD28-CD3ζ、又は841クローディン18.2 scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-P2A-HER2 scFv-SEZ6L2 tm jm-CD3ζを含み、任意選択的に、該二重CARは(G4S)2-GFPを含まず、さらに好ましくは、841クローディン18.2 scFv、HER2 scFv、又はPD-L1 scFvは、それぞれSEQ ID NO.30、31又は32で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、最も好ましくは、該CARは、それぞれSEQ ID NO.20、25又は26で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、任意選択的に、該CAR的アミノ酸配列は(G4S)2-GFP及び/又はリーダー配列のアミノ酸配列を含まない。
【0039】
特別な実施例では、二重CARは、N-末端からC-末端まで、
(1)MLB055 CAR:841クローディン18.2 scFv-CD8ヒンジ-SEZ6L2 tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-PD-L1 scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-CD28-(G4S)2-GFP(SEQ ID NO.20で表されるアミノ酸配列)、
(2)MLB040 CAR:841クローディン18.2 scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-P2A-HER2 scFv-IL2Rβ tm jm DT-CD28-CD3ζ(SEQ ID NO.25で表されるアミノ酸配列)、又は、
(3)MLB108 CAR:841クローディン18.2 scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-P2A-HER2 scFv-SEZ6L2 tm jm-CD3ζ(SEQ ID NO.26で表されるアミノ酸配列)を含み、
任意選択的に、該二重CARは(G4S)2-GFP及び/又はリーダー配列を含まない。
【0040】
別の態様では、本出願は、上記CAR又は二重CARをコードするポリヌクレオチドを含む核酸をさらに提供した。
【0041】
別の態様では、本出願は、上記CAR又は二重CARをコードする上記ポリヌクレオチドを含むベクターをさらに提供した。
【0042】
別の態様では、本出願は、少なくとも一つの上記核酸又は少なくとも一つの上記ベクターを含む組成物をさらに提供した。
【0043】
別の態様では、本出願は、本出願の一つ又は複数の核酸又はベクター又は組成物を含む宿主細胞をさらに提供した。
【0044】
別の態様では、宿主細胞は、自家細胞又は同種異系細胞である。
【0045】
別の態様では、宿主細胞は、哺乳動物細胞であり、好ましくは、霊長類細胞であり、さらに好ましくは、ヒト細胞である。
【0046】
別の態様では、宿主細胞は、T細胞、NK細胞、iNKT細胞、臍帯血NK細胞、γδT細胞(γδ T-細胞)、TCRノックアウトT細胞、ウイルス特異的なT細胞、単核細胞、マクロファージ、又はiPSCから派生したT細胞から選択される。
【0047】
別の態様では、本出願は、本出願のCAR又は二重CAR、一つ又は複数の核酸、一つ又は複数のベクター、又は宿主細胞を含む薬物組成物をさらに提供した。
【0048】
別の態様では、薬物組成物は、一つ又は複数の薬学的に許容される賦形剤をさらに含む。
【0049】
別の態様では、本出願は、それを必要とする被験体における疾患を治療する方法に関し、該方法は、該被験体に(例えば、治療有効量の)本出願の薬物組成物、CAR、二重CARを投与することを含む。
【0050】
別の態様では、疾患は、血液悪性腫瘍又は一つ又は複数の固形腫瘍を含む癌である。
【0051】
別の態様では、癌は、卵巣癌、膵臓癌、結腸癌、結腸直腸癌、リンパ腫、食道癌、肺癌、肝臓癌、頭頸部癌、又は胆嚢癌である。
【0052】
別の態様では、本出願は、本出願のCAR又は二重CAR、核酸、又はベクター、又は組成物を使用して、CAR-T細胞による正常細胞への細胞毒性を低減する方法に関する。
【0053】
一つの態様では、本出願は、正常細胞への細胞毒性が低減されたCAR-T細胞を産生する方法に関し、該方法は、
(1)本出願の核酸又はベクターを宿主細胞に導入することと、
(2)導入した後に、これらのCAR-T細胞を単離及び/又は増殖することとを含む。
【0054】
別の態様では、宿主細胞は、哺乳動物細胞であり、好ましくは、霊長類細胞であり、さらに好ましくは、ヒト細胞である。
【0055】
別の態様では、宿主細胞は、T細胞、NK細胞、iNKT細胞、臍帯血NK細胞、γδT細胞(γδ T-細胞)、TCRノックアウトT細胞、ウイルス特異的なT細胞、単核細胞、マクロファージ、又はiPSCから派生したT細胞から選択される。
【0056】
本出願の技術案は、少なくとも以下の利点を有する。
【0057】
1.上記キメラ抗原受容体(CAR)は、標的依存性スイッチである。標的抗原が存在しない場合、CARの表面発現を検出することはできない。該システムは、抗原が存在しない場合に検出可能性が限られているため、本出願では「ステルスCAR」と呼ばれる。
【0058】
2.ステルスCARは、IL2Rβ、LDLR、SEZ6L2の膜貫通と膜近傍モチーフ及び/又はIL2Rβの分解配列(PSKFFSQL)を使用することによって、正常細胞への細胞毒性を低減し、且つCAR-Tの安全性を向上させることができ、それによって、抗原が存在しない場合、細胞表面でのCAR発現が大幅に低減するとともに、抗原を発現する標的細胞に応答する下流活性化能力を保持する。
【0059】
3.本出願は、これらの表面が不安定なステルスCARを発現する初代T細胞は、抗原依存性標的細胞の殺傷を引き起し得ることを示した。このような方式でCARの活性を制限することにより、本出願は、治療による毒性とT細胞枯渇を低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0060】
本出願の斬新な特徴は、添付の特許請求の範囲において具体的に説明される。以下の発明を実施するための形態において、本出願のいくつかの特徴と利点は、実施例と例の方式で説明される。
【
図1】抗原エスケープを解決するためのエンドサイトーシスCARシステムのスケッチ表示である。一次CAR標的を介して一次腫瘍抗原を標的化することによる腫瘍細胞への選択的圧力は、受容体の下方制御と「抗原エスケープ」を引き起こす。そして、二次(エンドサイトーシス)CARにより認識された二次腫瘍抗原を介して、生きている腫瘍細胞を標的化することができる。
【
図2】CARの表面安定性の低下が治療毒性の低減に寄与していることを示すスケッチ表示である。腫瘍抗原は、通常、癌組織上で上方制御するが、正常組織上では、依然として低いレベルで発現されるタンパク質マーカーである。CARは、対応抗原が存在する場合にのみT細胞表面で安定化し、標的タンパク質をより多く発現する細胞の殺傷を促進する。
【
図3】エンドサイトーシスCAR構築体の概略図である。CAR構築体は、二種類の変異体があり、一つはCAR配列のC-末端にあるPSKFFSQL分解配列(DT)を使用するが、もう一つはIL2Rβ膜貫通ドメインと27個のアミノ酸の膜近傍ドメイン及びIL2Rβ分解配列(DT)をCD8膜貫通ドメインの代わりに使用する。
【
図4】Jurkat E6.1 NFATレポーター細胞は、エレクトロポレーション後のCAR発現を示した。Jurkat細胞は、PiggyBacトランスポザーゼmRNAと各CAR構築体変異体で電気メッキされ、該変異体は、MN14op CAR(LBC001)、HA-MN14op CAR(MLB001)、HA-MN14op CAR-DT(MLB002)、及びHA-MN14op CAR-IL2Rb-tm(MLB003)を含む。抗ヒトFab’(AF488)を用いて受容体の発現を観察した。DAPIの組み込みによって死細胞を排除した。
【
図5】HAタグと抗ヒトFab(AF488)染色は直線的な相関を示す。エンドサイトーシスCAR変異体(MLB002とMLB003)を発現するJurkat細胞を、HA(PE)と人Fab(AF488)に対して同時染色し、二種類の染色の間の直線的な関係を示した。代替可能な染色ポリシーを有することにより、パルス追跡実験を行って、受容体内在化速度を測定することが可能になる。
【
図6】初代T細胞におけるエンドサイトーシスCAR発現である。ドナーPBMCから派生したT(初代T細胞)細胞に対して、PiggyBacトランスポザーゼmRNAと各エンドサイトーシスCAR構築体変異体(MLB002とMLB003)を用いてエレクトロポレーションを行った。抗ヒトFab’(AF488)染色によって受容体の表面発現を評価した。
【
図7】エンドサイトーシスCAR(MLB002とMLB003)は下流応答腫瘍抗原のシグナル伝達を駆動する。Jurkat NFATルシフェラーゼレポーター細胞を、CEA標的抗原を発現するLOVO細胞と1:1で共培養した。LOVO細胞と共にインキュベートされたJurkat細胞はルシフェラーゼ活性を示したが、標的細胞が存在しない(LOVO陰性)場合に成長したJurkat細胞は、6時間でレポーター遺伝子の発現が最も少なかった。
【
図8】長期刺激は、CAR変異体の間の活性が同等であることを示す。エンドサイトーシスCAR構築体を発現するJurkat NFATルシフェラーゼレポーター細胞を、CEA抗原を発現するLOVO細胞と1:1で共培養した。24時間の刺激時間帯の後に、受容体を発現するIL2Rβ変異体(MLB002とMLB003)のJurkatsは、元のMN14op-CARと同等の活性化を示した。
【
図9】エンドサイトーシスCAR構築体は、Kato-III細胞の標的細胞殺傷を誘導する。ドナーから派生した初代T細胞を、CEA抗原を発現するKato-IIIルシフェラーゼレポーター細胞と、1:1(5e5:5e5)でインキュベートした。24時間後、発光による細胞毒性測定によって、CARの二種類のIL2Rβ変異体は、いずれもトランスフェクトされていない対照細胞の抗原特異的細胞毒性よりも高い抗原特異的細胞毒性を誘導できることが示された。
【
図10】CAR構築体(MLB047とMLB048)の概略図は、膜貫通と膜近傍配列に対する改変を示した。MLB047は、MN14op CEA ScFv抗原を利用してドメインを認識する。MLB047には、てんかん発作6様タンパク質2(SEZ6L2)膜貫通と、膜近傍配列に由来する33個のアミノ酸が設計されている。MLB048は、LDLR膜貫通と膜近傍配列を利用する。これらのCARはP2A-GFPを含まない。
【
図11】CAR構築体(MLB054とMLB055)の概略図は、膜貫通と膜近傍配列に対する改変を示した。MLB054は、841クローディン18.2 ScFv(CN02)抗原を利用してドメインを認識する。MLB054には、てんかん発作6様タンパク質2(SEZ6L2)膜貫通と膜近傍配列に由来する33個のアミノ酸が設計されている。MLB055は、二成分CAR(二重CAR)であり、MLB054クローディン18.2 CAR配列、及び元のCARと同じであるCD8ヒンジと膜貫通ドメインでCD28シグナル伝達ドメインにカップリングされる抗PDL1に基づく。これらのCARはP2A-GFPを含まない。
【
図12】斬新なステルスCAR構築体(MLB025、MLB020、MLB048及びMLB047)のモデルT細胞系における発現特性である。MLB010は、対照CAR構築体である。PiggyBAC CAR構築体とPiggyBACトランスポザーゼmRNAでJurkat細胞を形質導入した。抗ヒトF(ab’)
2(AF647)で染色することによって、エレクトロポレーション後の10日目にCARの発現を評価した。血清のない染色培地において、4°Cで30分間染色した。検出可能な表面染色が存在しない場合、GFPシグナルを用いて構築体の発現を評価した。
【
図13】ステルスCAR構築体は、NFAT依存性T細胞の活性化を駆動する。形質導入されてステルスCAR構築体を発現するJurkatルシフェラーゼレポーター細胞を、CEA陽性LoVo細胞と24時間共培養し、NFATにより駆動されるルシフェラーゼレポーターの発現によってT細胞の活性化を評価した。25,000個のCAR陽性Jurkatレポーター細胞を、該アッセイに用いられる標的細胞と1:1で培養した。CARベクター上でGFPを共発現することによって、CAR陽性Jurkat細胞の数を確定した。
【
図14A-14F】ステルスCAR形式は、CD8に基づくCAR形式より弱い活性化特性を示している。MLB010、MLB020、MLB025、MLB048及びMLB047を発現するJurkat T細胞を、LoVo細胞と3時間、6時間又は24時間共培養し、PEにコンジュゲートした抗CD69抗体を用いて、フローサイトメトリーによりCD69の発現を検出することによってJurkat細胞の活性化を測定した。GFP発現に基づいてCAR陽性細胞を検出するとともに、CD3発現によってT細胞を同定することによって、形質導入及び非形質導入集団を描画した。ここでは、CD69発現のスキャッタグラムと、対応するヒストグラムが示されている。
図14Aは、MLB010(M10)とMLB020(M20)のCAR陽性群の結果を示している。
図14Bは、MLB025(M25)とMLB048(M48)のCAR陽性群の結果を示している。
図14Cは、MLB047(M47)と形質導入されていない(UTD)のCAR陽性群の結果を示している。
図14Dは、MLB010(M10)とMLB020(M20)の全体的CD69上方制御程度の結果を示している。
図14Eは、MLB025(M25)とMLB048(M48)の全体的CD69上方制御程度の結果を示している。
図14Fは、MLB047(M47)と形質導入されていない(UTD)の全体的CD69上方制御程度の結果を示している。
【
図15】JurkatステルスCAR活性化の定量は、抗原発現細胞との共培養後に活性化状態の低下を示す。
図15におけるヒストグラムを定量して、CAR T細胞群における活性化細胞のスコアとCD69発現の程度を得た。活性化細胞スコアから見られるように、発明者らは、抗原に応答する活性化動態が同等であり、しかしながら、ステルスCAR MLB020(M20)、MLB025(M25)、MLB048(M48)及びMLB047(M47)が、元のMLB010(M10)CAR形式に比べて、遙かに低いCD69発現を示すことを観察した。
【
図16】斬新なステルスCAR構築体(MLB020、MLB047、MLB048)の初代細胞における発現特性である。初代ヒトPBMCから派生したT細胞を、PiggyBAC CAR構築体とPiggyBACトランスポザーゼmRNAで形質導入した。抗ヒトF(ab’)
2(AF647)で染色することによって、エレクトロポレーション後の10日目にCARの発現を評価した。血清のない染色培地において、4°Cで30分間染色した。検出可能な表面染色が存在しない場合、GFPシグナルを用いて構築体の発現を評価した。
【
図17A-17C】ステルスCAR(MLB013、MLB048、MLB047)は、標的細胞の抗原発現に依存する、可変細胞により媒介される細胞毒性を駆動する。LoVo(CEA
高)(
図17A)、A549(CEA
中)(
図17B)、及びHT29(CEA
低)(
図17C)の三種類の代表的なCEA陽性標的細胞系を用いて、ステルスCAR-T細胞の細胞毒性ポテンシャルをアッセイした。T細胞と標的細胞を3:1、1:1と0.3:1(CAR+ T細胞:標的)の割合で培養し、ここで、標的細胞数/ウェルを10,000に固定した。標的細胞は、構成的ルシフェラーゼレポーターを発現するとともに、標的細胞系のみを含むウェルの発光シグナルの低下に対して細胞毒性を評価した。T細胞陰性対照(E:T=0:1)とT細胞のみの対照(E:T=1:0)に基づいて、細胞毒性率を計算した。
【
図18A-18C】ステルスCAR(MLB013、MLB048、MLB047)T細胞は、炎症性サイトカインの発現特性の大幅な低下を示す。LoVo(CEA
高)(
図18A)、A549(CEA
中)(
図18B)、及びHT29(CEA
低)(
図18C)の三種類の代表的なCEA陽性標的細胞系に対する細胞毒性アッセイからの上清を収集し、ELISAによってIFNγ発現を確定した。T細胞と標的細胞を3:1、1:1と0.3:1(CAR+ T細胞:標的)の割合で培養し、ここで、標的細胞数/ウェルを10,000に固定した。標的細胞は、構成的ルシフェラーゼレポーターを発現するとともに、標的細胞系のみを含むウェルの発光シグナルの低下に対して細胞毒性を評価した。T細胞陰性対照(E:T=0:1)とT細胞のみの対照(E:T=1:0)に基づいて、細胞毒性率を計算した。
【
図19】ステルスCAR(MLB013、MLB048、MLB047)T細胞は、IL-2の発現特性の大幅な低下を示す。A549(CEA
中)とHT29(CEA
低)の二種類の代表的なCEA陽性標的細胞系に対する細胞毒性アッセイからの上清を収集し、ELISAによってIL-2発現を確定した。T細胞と標的細胞を3:1、1:1と0.3:1(CAR+ T細胞:標的)の割合で培養し、ここで、標的細胞数/ウェルを10,000に固定した。標的細胞は、構成的ルシフェラーゼレポーターを発現するとともに、標的細胞系のみを含むウェルの発光シグナルの低下に対して細胞毒性を評価した。T細胞陰性対照(E:T=0:1)とT細胞のみの対照(E:T=1:0)に基づいて、細胞毒性率を計算した。
【
図20】Jurkat T細胞モデルシステムにおけるクローディン18.2の特異的ステルスCAR(MLB026、MLB054、MLB055)T細胞の発現である。LBC010、MLB026、MLB054、及びMLB055に対するPiggyBAC CAR構築体とPiggyBACトランスポザーゼmRNAでJurkat細胞を形質導入した。抗ヒトF(ab’)
2(AF647)で染色することによって、エレクトロポレーション後の10日目にCARの発現を評価した。血清のない染色培地において、4°Cで30分間染色した。検出可能な表面染色が存在しない場合、GFPシグナルを用いて構築体の発現を評価した。LBC010とMLB026は同じCAR配列を有するが、MLB026も、CAR構築体においてGFPの組み合わせ発現を有する。表面におけるMLB055のscFvの検出は、組み合わせ発現構築体に抗PD-L1ドメインが存在するためである。
【
図21A-21D】クローディン18.2ステルスCAR変異体は、抗原特異的活性化を示す。MLB026、MLB054及びMLB055を発現するJurkat T細胞を、HEK293T、HEK293T-cldn18.2、又はNUGC4-cldn18.2細胞と一晩共培養し、PEにコンジュゲートした抗CD19抗体を用いて、フローサイトメトリーによって活性化を測定した。CD3発現によってT細胞を同定した。陰性細胞系に応答するCD69の上方制御により証明されたように、発明者らは、CD8 CAR形式の緊張性シグナル伝達の増加を観察した。MLB054とMLB055の両者は、いずれもベースライン活性化の低下と、CD69の抗原特異的上方制御を示した。
図21A-21Dは、エンドサイトーシス(MLB054、MLB055)と非エンドサイトーシスCAR(MLB026)の両者がいずれもCD69上方制御を有することを示す。
図21A-21BはCAR陽性群を示すとともに、
図21C-21Dは全体的なCD69上方制御の程度を示す。
【
図22】CD69発現の定量は、ステルスCAR変異体の活性化の低下を示す。
図22におけるCD69発現の定量は、MLB054とMLB055の両者が、いずれもMLB026に対するベースライン活性化の低下を示したが、CAR変異体MLB054とMLB055のCD69発現が低下するとともに、クローディン18.2を発現する標的細胞に応答する応答細胞が減少することを示した。
図22の左側はCD69発現を示すとともに、
図22の右側はCD69+%を示す。
【
図23】ドナーから派生したT細胞を、構築体MLB026とMLB054を用いてエレクトロポレーションを介して形質導入し、且つエレクトロポレーション後の7日目にCARの発現を評価した。AF647にコンジュゲートした抗ヒトF(ab’)
2抗体を用いて、細胞を染色した。
【
図24】MLB026又はMLB054を発現するドナーから派生したT細胞を、HEKcldn18.2ルシフェラーゼを発現する細胞を24時間共培養し、その後に等体積のNeoLite基質を添加することによって発光を定量した。細胞毒性率を、処理されていない対照細胞に対する低下として評価した。
【
図25】MLB026又はMLB054を発現するドナーから派生したT細胞を、NUGC4cldn18.2ルシフェラーゼを発現する細胞を24時間共培養し、その後に等体積のNeoLite基質を添加することによって発光を定量した。細胞毒性率を、処理されていない対照細胞に対する低下として評価した。
【
図26】HEKcldn18.2ルシフェラーゼを発現する細胞と共培養されたMLB026とMLB054の24時間細胞毒性アッセイから上清を収集し、ELISAによってIFN-γの発現を評価した。
【
図27】NUGC4cldn18.2ルシフェラーゼを発現する細胞と共培養されたMLB026とMLB054の24時間細胞毒性アッセイから上清を収集し、ELISAによってIFN-γの発現を評価した。
【
図28A-28B】ドナーから派生したT細胞を、構築体MLB038、MLB039、MLB079、及びMLB080を用いてエレクトロポレーションを介して形質導入し、エレクトロポレーション後の7日目にCARの発現を評価した。AF647にコンジュゲートした抗ヒトF(ab’)2抗体を用いて、細胞を染色した。
図28Aは、UTD、MLB038、及びMLB039の結果である。
図28Bは、MLB079とMLB080の結果である。
【
図29】蛍光コンジュゲートされた抗ヒトHER2又は非特異的対照抗体を用いて、MDA-MB-231とSK-BR-3細胞を染色した。蛍光コンジュゲートされた抗ヒトHER2を用いて、LoVo細胞を染色した。全ての染色された細胞を、染色されていない対照と比較した。
【
図30】MLB038、MLB039、MLB079、又はMLB080を発現するドナーから派生したT細胞を、MDA-MB-231ルシフェラーゼを発現する細胞と24時間共培養し、その後に等体積のNeoLite基質を添加することによって発光を定量した。細胞毒性率を、処理されていない対照細胞に対する低下として評価した。
【
図31】MLB038、MLB039、MLB079、又はMLB080を発現するドナーから派生したT細胞を、LoVoルシフェラーゼを発現する細胞と24時間共培養し、その後に等体積のNeoLite基質を添加することによって発光を定量した。細胞毒性率を、処理されていない対照細胞に対する低下として評価した。
【
図32】MLB038、MLB039、MLB079、又はMLB080を発現するドナーから派生したT細胞を、SK-BR-3ルシフェラーゼを発現する細胞と24時間共培養し、その後に等体積のNeoLite基質を添加することによって発光を定量した。細胞毒性率を、処理されていない対照細胞に対する低下として評価した。
【
図33】MDA-MB-231ルシフェラーゼを発現する細胞と共培養されたMLB038、MLB039、MLB079、又はMLB080の24時間細胞毒性アッセイから上清を収集し、ELISAによってIFN-γの発現を評価した。
【
図34】LoVoルシフェラーゼを発現する細胞と共培養されたMLB038、MLB039、MLB079、又はMLB080の24時間細胞毒性アッセイから上清を収集し、ELISAによってIFN-γの発現を評価した。
【
図35】SK-BR-3ルシフェラーゼを発現する細胞と共培養されたMLB038、MLB039、MLB079、又はMLB080の24時間細胞毒性アッセイから上清を収集し、ELISAによってIFN-γの発現を評価した。
【
図36】HEKcldn18.2ルシフェラーゼを発現する細胞を、抗ヒトHER2又はクローディン18.2に対して染色した。841クローンと808クローンの両者によってクローディン18.2を検出した。841によりクローディン18.2を依然として検出することができるが、808クローンを使用する時、クローディン18.2のより強い染色を観察した。クローディン18.2に対して染色した時、まずコンジュゲートされていないヒト化841と808抗体を用いて細胞を染色し、且つ蛍光コンジュゲートされたマウス抗ヒトIgG二次抗体で結合を検出した。
【
図37】クローディン18.2/HER2二重CAR構築体と、MLB026クローディン18.2単一CAR対照との比較の概略図である。MLB026と同じ優性クローディン18.2 CARと第2の非優性CARを用いて、MLB108をエンジニアリングし、該第2の非優性CARは、ハーセプチン抗HER2抗体ドメイン、SEZ6L2膜貫通と膜近傍ドメイン、及びCD3ζ ITAMシグナル伝達モチーフに基づく。MLB026と同じ優性クローディン18.2 CARと第2の非優性CARを用いて、MLB040二重CARをエンジニアリングし、該第2の非優性CARは、ハーセプチン抗HER2抗体ドメイン、IL2Rβの膜貫通と膜近傍ドメイン、CD28共受容体シグナル伝達ドメイン、及びCD3ζ細胞内ITAMシグナル伝達モチーフに基づく。
【
図38】ドナーから派生したT細胞を、構築体MLB026とMLB108を用いてエレクトロポレーションを介して形質導入し、且つエレクトロポレーション後の7日目にCARの発現を評価した。AF594にコンジュゲートした抗ヒトF(ab’)
2抗体を用いて、細胞を染色した。
【
図39】MLB026とMLB108を発現するドナーから派生したT細胞を、HEKcldn18.2ルシフェラーゼを発現する細胞と24時間共培養し、その後に等体積のNeoLite基質を添加することによって発光を定量した。細胞毒性率を、処理されていない対照細胞に対する低下として評価した。
【
図40】HEKcldn18.2ルシフェラーゼを発現する細胞と共培養されたMLB026とMLB108の24時間細胞毒性アッセイから上清を収集し、ELISAによってIFN-γの発現を評価した。
【
図41A-41B】ドナーから派生したT細胞構築体を、MLB026、MLB038、MLB039、及びMLB040を用いてエレクトロポレーションを介して形質導入し、エレクトロポレーション後の7日目にCARの発現を評価した。AF647にコンジュゲートした抗ヒトF(ab’)
2抗体を用いて、細胞を染色した。
図41Aは、UTD、MLB026、及びMLB038の結果である。
図41Bは、MLB039とMLB040の結果である。
【
図42】MLB026、MLB038、MLB039、又はMLB040を発現するドナーから派生したT細胞を、HEKcldn18.2ルシフェラーゼを発現する細胞と24時間共培養し、その後に等体積のNeoLite基質を添加することによって発光を定量した。細胞毒性率を、処理されていない対照細胞に対する低下として評価した。
【
図43】HEKcldn18.2ルシフェラーゼを発現する細胞と共培養されたMLB026、MLB038、MLB039、及びMLB040の24時間細胞毒性アッセイから上清を収集し、ELISAによってIFN-γの発現を評価した。
【
図44】MLB026、MLB038、MLB039、又はMLB040を発現するドナーから派生したT細胞を、SK-BR-3ルシフェラーゼを発現する細胞と24時間共培養し、その後に等体積のNeoLite基質を添加することによって発光を定量した。細胞毒性率を、処理されていない対照細胞に対する低下として評価した。
【発明を実施するための形態】
【0061】
特に定義しない限り、本明細書で使用される技術用語及び科学用語は、本開示が属する分野で一般に使用されるのと同じ意味を有する。本明細書を説明するために、以下の定義が適用され、適切な場合に、単数形で使用される用語は複数も含み、その逆も同様である。本明細書及び添付の特許請求の範囲で使用されるように、文脈が別途明確に指示しない限り、単数形の「一個/種(a/an)」と「該(the)」は、複数形も意味し、例えば、「宿主細胞」を言及する場合、複数のこのような宿主細胞を含む。
【0062】
本明細書で使用されるように、「キメラ抗原受容体(CAR)」という用語は、所定の抗原に結合できる細胞外ドメインと、シグナル伝達ドメイン含有の細胞内ドメインと、膜貫通ドメインとを含む融合タンパク質を意味する。「所定の抗原に結合する」という語句は、所定の抗原に特異的に結合できる任意のタンパク質分子またはその一部を意味する。「シグナル伝達ドメイン」は、シグナルを伝達することによって、細胞における生物学的プロセスの活性化または阻害、例えば、免疫細胞(例えば、T細胞又はNK細胞)の活性化をもたらすように機能することが知られている任意のオリゴペプチド又はポリペプチドドメインを意味する。例は、4-1BB、CD28及び/又はCD3ζシグナル伝達ドメインを含む。
【0063】
本明細書で使用されるように、「IL2Rβ」又は「IL2Rb」という用語は、IL2受容体β鎖を意味する。高親和性IL2受容体は、α、βとγ鎖の三つの異なる、非共有結合的に会合した成分で構成される膜貫通受容体である。αとγサブユニットが存在しない場合、β鎖は、構成的にエンドサイトーシスされ且つ分解されることが示されている。
【0064】
本明細書で使用されるように、「ステルスCAR」又は「エンドサイトーシスCAR」という用語は、最も広義的には、キメラ抗原受容体(CAR)を指し、該CARは、(1)所定の抗原に特異的に結合する単鎖可変断片(scFv)を含む細胞外リガンド結合ドメインと、(2)膜貫通(tm)接続膜近傍(jm)ドメインであって、ここで、該膜貫通接続膜近傍ドメインは、IL2受容体β鎖(IL2Rβ)膜貫通ドメインと、IL2Rβ膜近傍ドメインとを含み、且つ該膜貫通接続膜近傍ドメインはIL2Rβ分解配列(DT)に隣接し、ここで、好ましくは、該IL2Rβ分解配列は、該膜貫通接続膜近傍ドメインのC-末端にあり、ここで、好ましくは、該IL2Rβ分解配列は、SEQ ID NO:2で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ここで、該膜貫通接続膜近傍ドメインは、低密度リポタンパク質受容体(LDLR)膜貫通ドメインと、LDLR膜近傍ドメインとを含み、又はここで、該膜貫通接続膜近傍ドメインは、てんかん発作6様タンパク質2(SEZ6L2)膜貫通ドメインと、SEZ6L2膜近傍ドメインとを含む膜貫通接続膜近傍ドメインと、(3)細胞内ドメインであって、ここで、好ましくは、該細胞内ドメインは、シグナル伝達ドメインを含み、さらに好ましくは、該シグナル伝達ドメインは、4-1BBシグナル伝達ドメイン、CD28シグナル伝達ドメイン及びCD3ζシグナル伝達ドメインからなる群から選択される一つ又は複数のシグナル伝達ドメインを含む細胞内ドメインとを含む。又は、キメラ抗原受容体(CAR)は、(1)所定の抗原に特異的に結合する単鎖可変断片(scFv)を含む細胞外リガンド結合ドメインと、(2)膜貫通ドメインと、(3)IL2Rβ分解配列(DT)と、少なくとも一つのシグナル伝達ドメインとを含む細胞質セグメントとを含む。ここで、好ましくは、該IL2Rβ分解配列は、SEQ ID NO:2で表されるアミノ酸配列と少なくとも約95%、96%、97%、98%、99%又は100%の同一性を有するアミノ酸配列を含み、ここで、好ましくは、該IL2Rβ分解配列は、該細胞質セグメントのC-末端にある。又は、二重CARであって、該二重CARは、上記実施例のいずれか一つに記載の第1のCARと、第2のCARとを含む。
【0065】
本明細書で使用されるように、「抗原結合断片」又は「抗原結合分子」という用語は、最も広義的には、抗原決定クラスターに特異的に結合する分子を指す。抗原結合分子の例は、抗体、抗体断片と足場抗原結合タンパク質である。本明細書において、「抗体」という用語は、最も広義的に使用され、複数種の抗体構造を含み、これらの抗体構造は、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、単一特異性と多重特異性抗体(例えば、二重特異性抗体)、及び抗体断片を含むが、これらに限定されず、それらが必要な抗原結合活性を示せばよい。
【0066】
本明細書で使用されるように、「単鎖可変断片(scFv)」という用語は、十から約25個のアミノ酸の短鎖リンカーペプチドで接続された抗体の重鎖可変領域(VH)と軽鎖可変領域(VL)との融合タンパク質である。該リンカーは、通常、グリシン(柔軟性に対する)、及びセリン又はトレオニン(溶解性に対する)に富むものであるとともに、VHのN-末端とVLのC-末端を接続することができ、又はその逆も可能である。定常領域の除去及びリンカーの導入にもかかわらず、このようなタンパク質は、元の抗体の特異性を保持する。また、単鎖ポリペプチドを含む抗体断片は、VHドメインの特徴を有し、即ちVLドメインと共に機能性抗原結合部位にアセンブルすることができ、又は、単鎖ポリペプチドを含むこれらの抗体断片は、VLドメインの特徴を有し、即ちVHドメインと共に機能性抗原結合部位にアセンブルすることによって、全長抗体の抗原結合特性を提供することができる。
【0067】
本明細書で使用されるように、薬剤、例えば、薬物組成物の「治療有効量」という用語は、必要な投与量と期間内に、所望の治療結果又は予防結果を効果的に達する量を指す。治療有効量の薬剤は、例えば、疾患の悪い影響を除去、低減、遅延、最小化又は予防する。
【0068】
本明細書で使用されるように、「個体」又は「被験体」という用語は、哺乳動物である。哺乳動物は、飼育動物(例えば、ウシ、ヒツジ、ネコ、イヌ及びウマ)、霊長類動物(例えば、ヒト及びサルなどの非ヒト霊長類動物)、ウサギ及び齧歯類動物(例えば、マウスとラット)を含むが、これらに限定されない。特に、個体又は被験者は、ヒトである。「薬物組成物」という用語は、それに含まれる活性成分の生物学的活性が有効であることを許容する形式を呈し、且つ製剤が投与される被験体に対して許容されない毒性を有する別の成分を含有しない製剤である。「薬学的に許容される賦形剤」は、薬物組成物における活性成分以外の被験体に対して無毒である成分を指す。薬学的に許容される賦形剤は、緩衝剤、安定剤又は防腐剤を含むが、それらに限らない。
【0069】
本明細書で使用されるように、「治療(treatment)」(「治療すること(treat又はtreating)」などのその文法的バリエーション)は、治療される個体の自然経過を変更しようとする試みにおける臨床介入を指し、予防のために実施することもでき、臨床病態の経過において実施することもできる。治療の所望の効果は、疾患の発生または再発の防止、症状の軽減、疾患の任意の直接的又は間接的な病理学的帰結の縮減、転移の予防、疾患進行の速度の低下、疾患状態の改善又は緩和、及び寛解または予後の改善を含むが、これらに限定されない。いくつかの実施例では、本出願の分子は、疾患の発展を遅延させるか、又は疾患の進行を遅らせることに用いられる。
【0070】
本明細書で使用されるように、「腫瘍関連抗原(TAA)」又は「腫瘍抗原」という用語は、その発現が細胞の悪性変化と関連すると考えられる、抗原性を有する生体分子を意味する。本開示における腫瘍抗原は、腫瘍特異的抗原(腫瘍細胞のみに存在するが、他の正常細胞に発見されていない抗原)と、腫瘍関連抗原(他の器官と組織にも存在し、又はヘテロと同種異系の正常細胞における抗原、又は発生及び/又は分化の間に発現する抗原)とを含む。
【0071】
本出願に使用されるように、「アミノ酸」という用語は、天然に存在するカルボキシルα-アミノ酸の群を示し、これらのカルボキシルα-アミノ酸は、アラニン(三文字コード:Ala、一文字コード:A)、アルギニン(Arg、R)、アスパラギン(Asn、N)、アスパラギン酸(Asp、D)、システイン(Cys、C)、グルタミン(Gln、Q)、グルタミン酸(Glu、E)、グリシン(Gly、G)、ヒスチジン(His、H)、イソロイシン(Ile、I)、ロイシン(Leu、L)、リジン(Lys、K)、メチオニン(Met、M)、フェニルアラニン(Phe、F)、プロリン(Pro、P)、セリン(Ser、S)、スレオニン(Thr、T)、トリプトファン(Trp、W)、チロシン(Tyr、Y)、及びバリン(Val、V)を含む。基準ポリペプチド(タンパク質)配列に対する「アミノ酸配列同一性パーセント(%)」は、最大の配列同一性パーセントを得るために、配列をアライメントし、(必要であれば)ギャップを導入し、どのような保存的置換も配列同一性の一部として考慮しない場合、基準ポリペプチド配列内のアミノ酸残基と同一である候補配列内のアミノ酸残基のパーセントとして定義される。アミノ酸配列同一性パーセントを決定するという目的のために、当分野の技術における種々の方法でアライメントを実現することができ、例えば、公的に入手可能なコンピュータソフトウェア、例えば、BLAST、BLAST-2、ALIGN、SAWI又はMegalign(DNASTAR)ソフトウェアを用いてもよい。当業者は、比較される配列の全長にわたって最大のアラインメントを達成するために必要な任意のアルゴリズムを含む、配列をアラインメントするための適切なパラメータを決定することができる。しかしながら本明細書における目的のため、配列比較コンピュータプログラムALIGN-2を使用してアミノ酸配列同一性%の値を生成する。ALIGN-2配列比較コンピュータプログラムは、ジェネンテック社(Genentech,Inc.)によって作成され、そのソースコードは、米国著作権局(U.S.Copyright Office)(ワシントン(Washington D.C.),20559)において、米国著作権登録番号TXU510087で登録されたユーザ文書と共に提出されている。ALIGN-2プログラムは、ジェネンテック社(カリフォルニア州サウス、サンフランシスコ)から公開されており、又はソースコードからコンパイルすることができる。UNIXオペレーティングシステム(デジタルUNIX V4.0Dを含む)上で使用するために、ALIGN-2プログラムをコンパイルする必要がある。全ての配列比較パラメーターはALIGN-2プログラムによって設定され、変化しない。
【0072】
「宿主細胞」、「宿主細胞系」及び「宿主細胞培養物」という用語は、交換使用可能であるとともに、外因性核酸が導入された細胞、及びこのような細胞の子孫を指す。宿主細胞は、「形質転換体」と、「形質転換細胞」とを含み、それは、初代形質転換細胞及びそれから派生する子孫を含むが、継代回数とは無関係である。
【0073】
本明細書で使用されるように、「癌」又は「腫瘍」という用語は、増殖性疾患を指し、例えば、卵巣癌、膵臓癌、結腸癌、結腸直腸癌、リンパ腫、リンパ球性白血病、肺癌、非小細胞肺(NSCL)癌、細気管支肺細胞肺癌、骨癌、膵臓癌、皮膚癌、頭頸部癌、皮膚又は眼内黒色腫、子宮癌、直腸癌、肛門領域癌、胃部癌(stomach cancer)、胃癌(gastric cancer)、乳癌、卵管癌、子宮内膜癌、子宮頸癌、膣癌、外膣癌、ホジキン病、食道癌、小腸癌、内分泌系癌、甲状腺癌、副甲状腺癌、副腎癌、軟部組織肉腫、尿道癌、陰茎癌、前立腺癌、膀胱癌、腎臓癌又は尿管癌、腎細胞癌、腎盂癌、中皮腫、肝細胞癌、胆管癌、中枢神経系(CNS)腫瘍、脊髄軸腫瘍、脳幹神経膠腫、多形性膠芽細胞腫、星型細胞腫、神経鞘腫、上衣腫、髓芽細胞腫、髄膜腫、扁平上皮癌、下垂体腺腫とユーイング肉腫、上記癌のうちのいずれか一つを含む難治性型、又は上記癌のうちの一つ又は複数の組み合わせである。
【0074】
例
例1.エンドサイトーシスCAR構築体(MLB003とMLB002)の設計と産生
CAR構築体の製造は、当分野でよく使われる技術方法である。例えば、まず、遺伝子合成技術によってCAR遺伝子断片を製造し、そしてCAR PiggyBacトランスポゾン発現ベクターを構築し、CAR構築体を標的細胞にエレクトロポレーションし、フローサイトメトリー又は総蛋白分析によって構築体発現を評価する。
【0075】
本例1において、IL2Rβ鎖膜貫通と膜近傍モチーフに基づく二種類の斬新なCAR構築体(
図3)を設計した。
【0076】
(1)IL2Rβ分解配列(DT)を含む細胞質セグメントを含むCAR構築体:
HA-MN14op-CAR-DT(MLB002:HA-MN14ops cFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-DT、SEQ ID NO:8)、
(2)IL2Rβ膜貫通ドメイン、IL2Rβ膜近傍ドメインを含み、IL2Rβ分解配列(DT)をさらに含むCAR構築体:
HA-MN14op-CAR-IL2Rb-tm(MLB003:HA-MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ、SEQ ID NO:9)
(3)CD8膜貫通ドメインを使用する元のCAR構築体:
MN14op-CAR(LBC001:MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-CD8tm-4-1BB-CD3ζ)。
【0077】
(4)CD8膜貫通ドメインとHA配列を使用する対照CAR構築体:
HA-MN14op CAR(MLB001:HA-MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-CD8tm-4-1BB-CD3ζ)。
【0078】
pMAX-GFPは、特に蛍光マーカーが試験構築体で利用不可能である場合、エレクトロポレーション効率を確定するための対照プラスミドである。
【0079】
T細胞活性化アッセイ(NFATレポーターアッセイと細胞毒性アッセイとを含むが、これらに限定されない)によって、機能性効果を評価した。
【0080】
*リーダー配列は下線が付けられ、HAラベルはイタリック体であり、IL2Rβ配列はボールド体であり、CD8ヒンジは下線が付けられ、イタリック体である。
【0081】
例2.トランスポゾン送達CAR構築体を使用して初代人T細胞とJurkat E6.1細胞を改変する
例1におけるエンドサイトーシスCAR構築体のトランスポゾン媒介送達:トランスポゾンベクターにおける発明者らのCAR構築体の発現をEF1αプロモーターで駆動した。
【0082】
CAR構築体で初代T細胞とJurkat E6.1 T細胞(Jurkat E6.1細胞)を形質導入した:PBMCから派生したCD3+精製されたT細胞(初代T細胞)又はJurkat E6.1 T細胞を、エレクトロポレーションを使用して発明者らの例1の構築体におけるCARを運ぶトランスポゾンベクターで形質導入した。
【0083】
例3.エンドサイトーシスCAR(MLB002とMLB003)を発現するCAR T細胞の特徴づけ
フローサイトメトリーによって形質導入されたCAR-T細胞を分析して、構築体と宿主細胞との組み込みを測定した。AlexaFluor 488(AF488)にコンジュゲートした抗ヒトFab’を用いて細胞を染色した。また、受容体の検出とパルス追跡実験に役立つために、細胞外N-末端HAタグでエンドサイトーシスCARをエンジニアリングした。構築体をJurkat E6.1細胞にエレクトロポレーションした後、CARの表面発現(
図4)を検出することができる。
図4において、縦座標のSSCは細胞複雑性の相対的測定であるとともに、pMAX-GFPは、特に蛍光マーカーが試験構築体で利用不可能である場合、エレクトロポレーション効率を確定するための対照プラスミドである。抗ヒトFab’ AF488とHA染色との間の直線的な相関性(
図5)を検出した。抗ヒトFab’ AF488染色の使用は、発明者らのエンドサイトーシスCAR構築体の、ドナーPBMCから派生したT細胞における発現も証明した。初代T細胞とJurkat E6.1細胞との間の受容体発現の傾向は同等である(
図6)。
図4-6に示される結論として、HA-MN14op-CAR-IL2Rb-tm(MLB003)は形質導入されていない(UTD)と類似しており、ここで、抗ヒトFab’ AF488の染色値は対照CAR(HA-MN14op-CAR、MLB001)より低く、これは細胞表面での発現が最も少ないことを示し、それによってIL2Rβ鎖膜貫通、膜近傍モチーフとDT配列(PSKFFSQL)の使用によって良好なエンドサイトーシス作用を取得したことを示した。DT配列のない構築体(HA-MN14op-CAR、MLB001)に比べて、HA-MN14op-CAR-DT(MLB002)は、発現が低いとともに、DT配列のない構築体において観察されていないエンドサイトーシスを示した。
【0084】
例4.エンドサイトーシスCAR(MLB002とMLB003)に対するNFATルシフェラーゼレポーターアッセイ
CAR構築体を発現するJurkat E6.1 NFAT-ルシフェラーゼレポーター細胞と、抗原を発現する標的細胞(LoVo)と1:1で混合し、6時間(
図7)又は24時間(
図8)共培養した後にルシフェラーゼ活性を測定した。LoVo陰性は、Jurkat E6.1細胞と混合するLoVo細胞がないことを指す。NFATは、T細胞活性化に関連するT細胞転写因子である。NFAT活性の増加は、シグナル強度の増加に関連する。そのため、ルシフェラーゼシグナルの増加が見られれば、NFAT活性が増加したとともに、CARシグナル強度が増加したことが分かる。
図7と8に示すように、標的抗原を発現する細胞において、LoVo標的抗原はCEAであるとともに、NFATにより駆動されるルシフェラーゼ活性を有するエンドサイトーシスCAR(MLB002又はMLB003)は活性化された。エンドサイトーシスCARの発光値は、形質導入されていない(UTD)より高かった。6時間共培養した後にMLB002とMLB003の発光値が対照群より低いが、24時間共培養した後に、MLB002とMLB003後は対照群より高かった。フローサイトメトリーがエンドサイトーシスCAR構築体の表面発現(
図4と5)を検出できなかったが、エンドサイトーシスCAR構築体により形質導入された細胞は、NFATにより駆動される遺伝子発現とルシフェラーゼ活性の変化を示し、CARの機能性を証明した。
【0085】
例5.エンドサイトーシスCAR(MLB002とMLB003)に対する細胞毒性アッセイ
形質導入されて発明者らのCAR構築体を発現するドナーから派生した初代CD3+細胞(初代細胞)を、抗原を発現するルシフェラーゼ+標的細胞(Kato-III、それは標的抗原CEAを発現する)と1:1で混合し、24時間共培養した。ルシフェラーゼ活性の増加によって細胞毒性(
図9)を測定した。フローサイトメトリーによって初代細胞におけるエンドサイトーシスCAR(MLB002とMLB003)発現(
図6)を検出できなかったが、形質導入されていない対照細胞(UTD)に比べて、エンドサイトーシスCARで形質導入された細胞は、増強された細胞媒介殺傷を示した。
【0086】
例6.エンドサイトーシスCAR構築体(MLB020、MLB013、MLB025、MLB048、MLB047、MLB054及びMLB055)を用いて、Jurkatと初代CD3+ PBMCに対して非レンチウィルストランスフェクトを行う
本例6において、CAR構築体は以下のように設計された。
【0087】
(1)IL2Rβ膜貫通ドメイン、IL2Rβ膜近傍ドメインを含み、IL2Rβ分解配列(DT)をさらに含むCAR構築体:
(a)MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(MLB020)、
(b)HA-MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(MLB013)。
【0088】
(2)IL2Rβ分解配列(DT)を含む細胞質セグメントを含むCAR構築体:
(a)MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-IL2Rβ DT -P2A-GFP(MLB025)。
【0089】
(3)LDLR膜貫通ドメインと、LDLR膜近傍ドメインとを含むCAR構築体:
(a)MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-LDLR tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(MLB048)。
【0090】
(4)SEZ6L2膜貫通ドメインと、SEZ6L2膜近傍ドメインとを含むCAR構築体:
(a)MN14op CEA scFv-CD8ヒンジ-SEZ6L2 tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(MLB047)、
(b)841クローディン18.2 scFv-CD8ヒンジ-SEZ6L2 tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(MLB054)。
【0091】
(5)二重CAR構築体:
(a)841クローディン18.2 scFv-CD8ヒンジ-SEZ6L2 tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-PD-L1 scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-CD28-(G4S)2-GFP(MLB055)。
【0092】
(6)CD8膜貫通ドメインを使用する対照CAR構築体:
(a)MN14op CEA scFv -CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(MLB010)、
(b)841クローディン18.2 scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(MLB026)。
【0093】
pMAX-GFPは、特に蛍光マーカーが試験構築体で利用不可能である場合、エレクトロポレーション効率を確定するための対照プラスミドである。
【0094】
【0095】
内在化モチーフは、ボールド体であり、下線が付けられた。
【0096】
CAR構築体を発現するために、Piggy Bacトランスポゾンプラスミド(EF1αプロモーターにより制御されるCAR構築体を有し、トランスポザーゼmRNAを有する)をエレクトロポレーションすることによって、NFATにより駆動されるルシフェラーゼレポーターを発現するT細胞系Jurkat E6.1と、ドナーから派生したT細胞を誘導した。
図10と11は、膜貫通と膜近傍配列に対する改変を示すCAR構築体の二つの概略図を示している。CAR MLB047とMLB054は、それぞれMN14op CEA ScFvと841クローディン18.2 ScFv(CN02)抗原を利用してドメインを認識した。これらのCARには、てんかん発作6様タンパク質2(SEZ6L2)膜貫通と、膜近傍配列に由来する33個のアミノ酸が設計された。MLB048は、LDLR膜貫通と膜近傍配列を利用した。MLB055は、二成分CAR(二重CAR)であり、MLB054クローディン18.2 CAR配列、及び元のCARと同じであるCD8ヒンジと膜貫通ドメインでCD28シグナル伝達ドメインにカップリングされる抗PDL1に基づく。
【0097】
AF647にコンジュゲートしたαヒトFab’抗体染色を用い、フローサイトメトリーによってCARの表面発現を評価し、P2A配列でのGFPの共発現によってCAR構築体の全体的発現を確定した(
図12)。IL2Rβ、LDLRとてんかん発作6様タンパク質2膜貫通及び膜近傍ドメインを用いて設計されたCAR構築体の表面発現を検出できないことに鑑みて、GFP発現を用いて、全ての後続のアッセイのCAR陽性細胞スコアを正規化した。
図12に示すように、AF674染色を使用する時、IL2Rβ、LDLRとSEZ6L2膜貫通及び膜近傍ドメインを使用するCAR構築体(MLB025、MLB020、MLB048及びMLB047)は、対照CAR構築体MLB010により低い染色値を示し、抗原標的がない時に、エンドサイトーシスCARが細胞表面で発現しないことを証明した。対照CAR構築体MLB010は、AF674とGFP染色値が高かった。
【0098】
例7.ルシフェラーゼレポーター活性とCD69上方制御によってCAR構築体の活性を評価する
1μg/mLのマイトマイシンCが存在する場合に、CEACAM-5標的抗原を発現するLoVo細胞を、白色で、不透明な平底96ウェルプレートで培養して、細胞増殖を抑制した。スケジュールアッセイ開始の6-8時間前に、各ウェルに25,000個のLoVo標的細胞を接種して接着を可能にした。CAR+ Jurkat T細胞を用いて、1:1のE:T割合でアッセイを行った。8時間インキュベートした後に、ウェルを洗浄し、培地を補充した。発光読み出しの24、6、3と1時間前に、ウェルを洗浄し、CAR構築体を発現するJurkat T細胞を各ウェルに添加した。Jurkat細胞の全体的活性化を評価するために、24時間の期間が終了した時、Bio-Glo
TM試薬(プロメガ社(Promega))を各ウェルに添加した(
図13)。
【0099】
発光シグナルに対する観察により、全てのCAR変異体の活性化動態が、元のCAR構築体と類似し且つ同等であり、NFATにより駆動される遺伝子発現が活性化の6時間前後で強く発生したことが明らかになった。活性化動態が同等であるが、CARの元の(MLB010)とc-末端(MLB025)のタグ付けバージョンの細胞活性化程度は最も高かった。LDLRとSEZ6L2に基づく変異体(MLB047とMLB048)の両者は、いずれもはるかに低い全体的活性化レベルを示すとともに、IL2Rβに基づく構築体(MLB020)は、最も低い発現レベルを示した(
図13)。
【0100】
様々な膜貫通ドメインによるJurkat T細胞の全体的活性化状態への影響をさらに確定するために、発明者らは、第2の共培養アッセイを行って刺激後のCD69上方制御の程度を確定した。50,000個のLoVo標的細胞をJurkat CAR陽性T細胞と1:1の割合で3、6又は24時間共培養し、フローサイトメトリーによってCD69の発現を評価した。GFP発現の細胞にゲートすることによって、発明者らは、蛍光強度の評価により、CAR陽性群における,CD69を発現する細胞のスコアと全体的CD69上方制御の程度を確定することができる(
図14A-14F)。
図14A-14Fは、エンドサイトーシス(MLB020、MLB025、MLB048及びMLB047)と非エンドサイトーシスCAR(MLB010)の両者がいずれもCD69上方制御を有することを示した。
図14A-14CはCAR陽性群を示すとともに、
図14D-14Fは全体的なCD69上方制御の程度を示す。該情報を用いて、発明者らは、CAR陽性細胞の活性化状態を示すグラフを作成して、構築体の間でより良く比較することができる(
図15)。
図14A-14Fと
図15において、M10はMLB010を代表し、M20はMLB020を代表し、M25はMLB025を代表し、M48はMLB048を代表するとともに、M47はMLB047を代表する。発明者らのデータにより、全てのCAR構築体の間のCD69活性化動態が似ているが、IL2Rβ、LDLR又はSEZ6L2ドメインを発現するそれらの(MLB020、MLB025、MLB048及びMLB047)は、任意の所定の時点にも、応答細胞の数が少なく、全体的CD69発現が低かったことが示されている(
図15)。これらの結果により、抗原が存在しない場合にCARの表面発現が検出されなかったが、斬新な受容体変異体はT細胞の活性化を駆動できることが示されている。これらの発見は、さらに、細胞内での受容体の独特な分布に起因して、MLB010、MLB020、MLB025、MLB047及びMLB048に対する活性化応答が弱まっていたことを示している。
【0101】
例8.CAR MLB013、MLB020、MLB047及びMLB048に対する細胞毒性アッセイ
IL2Rβ(MLB013)、SEZ6L2(MLB047)及びLDLR(MLB048)ドメインによる下流T細胞活性への影響を評価するために、CEACAM-5陽性標的細胞系LoVo、A549とHT-29に対する細胞毒性アッセイを確立した。これらの標的細胞系を選択するのは、それらがそれぞれ高、中と低レベルのCEA発現を有するためである。腫瘍組織と非癌組織との間で、CAR標的抗原が、通常、可変な発現を有するため、該アッセイは、臨床的に重篤な副作用を引き起こし得る、on-target off-tumor CAR活性の可能性を、本発明者らが評価することを可能にした。
【0102】
PiggyBac発現システムを用いて、ドナーから派生したCD3+ PBMCを形質導入して、CAR構築体を発現した。エレクトロポレーション後に、CAR発現ベクター上でGFPを共発現することによって、フローサイトメトリーを介してCARの発現を評価し、該CARの発現を用いて、細胞の数を正規化して、CAR-T細胞の活性を直接比較した(
図16)。
図16は、IL2Rβ、LDLR及びSEZ6L2膜貫通と膜近傍ドメインを用いたMLB020、MLB047、及びMLB048 CAR構築体をAF674で染色した結果を示し、対照CAR構築体MLB010より低い染色値を示し、抗原標的がない時、エンドサイトーシスCARが細胞表面上で発現しないことを証明した。対照CAR構築体MLB010は、AF674染色値が高かった。抗原を発現するルシフェラーゼ陽性標的細胞を、10,000個の細胞/ウェルの密度で接種し、三種類のE:T割合(3:1、1:1、0.3:1、CAR陽性細胞と標的細胞)でアッセイを行った。エフェクター細胞と標的細胞を24時間共培養し、ルシフェラーゼ活性が低減するとともに、標的細胞が死亡することを細胞毒性として確定した。
【0103】
予想されるように、細胞毒性活性は標的細胞系における抗原発現量と直接関連しており、LoVo細胞に対して検出した細胞毒性の量が最も高いとともに、HT-29細胞に対して検出した細胞毒性の量が最も低かった(
図17A-17C)。予想されるように、細胞毒性は、エフェクター細胞の数/ウェルに応じて強さが変化し、E:T割合が高いと、細胞毒性が強くなった。興味深いこととして、3:1のE:T割合において、標的抗原を高発現する細胞に対するMLB013、MLB047及びMLB048の表現が親CAR(MLB010とMLB011、MLB011は、MLB010のMN14op CEA scFv N-末端においてHA配列が追加されている)と類似していたが、E:T割合の低下につれて、MLB013、MLB047及びMLB048変異体の細胞毒性ポテンシャルはより速く低下した。注意すべきこととして、SEZ6L2を有するMLB048のみは、低抗原HT-29細胞に対する細胞毒性活性を保持した。これらの結果により、CAR構築体へのエンドサイトーシス標的モチーフの追加は、CAR構築体の治療域を拡大できることが確信されていた。
【0104】
例9.CAR MLB013、MLB047及びMLB048のサイトカイン発現分析
斬新な膜貫通CAR構築体は、抗原を発現する標的細胞に対する細胞毒性活性を保持できることが証明されており、発明者らは、別のCAR T細胞の活性読み出しの測定が望まれている。二種類の一般的な活性化マーカーはIL-2とIFN-γである。サイトカイン分泌をアッセイするために、一晩中の細胞毒性アッセイの後に培地を収集し、ELISAを介して可溶性サイトカインの発現を確定した。
【0105】
サイトカイン分泌から観察した傾向は、発明者らにより細胞毒性から観察された、高CEA標的細胞に対して検出したサイトカイン分泌レベルが最も高いとともに、HT-29細胞に対して検出したサイトカイン発現が大幅に低減することを反映した(
図18A-18C及び
図19)。興味深いこととして、MLB013、MLB047及びMLB048からサイトカイン分泌がほとんど検出できず、ここで、MLB047は、MLB013とMLB048に対してやや高いサイトカイン発現を示した。
【0106】
CAR T細胞療法が潜在的な致死性サイトカイン放出症候群(CRS)を促進することが知られているため、これらの発見は重要である。そのため、これらの結果は、臨床的に重要であるとともに、代替可能な膜貫通と膜近傍ドメインを使用してCAR T細胞のサイトカイン特性を調節できることを示した。エンドソーム経路を標的化する受容体の膜貫通ドメイン及び関連する輸送モチーフを使用し、その結果に示すように、CAR T細胞の活性を調節することによって、治療域を拡大することができる。
【0107】
例10.Jurkat E6.1細胞におけるクローディン18.2の特異的かつ増強されたCAR T細胞活性化
NFATにより駆動されるルシフェラーゼレポーターを発現するJurkat E6.1 T細胞を、クローディン18.2特異的CAR構築体(MLB026、MLB054、MLB055)を発現するPiggy BacベクターとPiggy BacトランスポザーゼmRNAでエレクトロポレーションする。これまでと同様に、AF647にコンジュゲートしたαヒトFab’抗体で表面染色を行い、P2A配列を介してCARベクター上でGFPを共発現することによって、CARの発現を評価した(
図20)。これまでと同様に、CAR配列にSEZ6L2膜貫通ドメイン(MLB054)が含まれることにより、CARの表面発現が低減するが、GFPにより確定された全体的CAR発現は依然として高かった。構築体にscFv PD-L1-CD28-GFP共受容体が存在するため、MLB055におけるGFP発現とαヒトFab’染色との間の強い相関性が観察された。
【0108】
CAR T細胞活性をスクリーニングするために、CLDN18.2(クローディン18.2)特異的CAR T細胞を、抗原陰性HEK293T細胞又は形質導入されてCLDN18.2(クローディン18.2)を発現するHEK293T及びNUGC4細胞と共培養した。これまでと同様に、CARを発現するJurkatを用いて、1:1の割合で50,000個の標的細胞を培養した。αCEA CAR変異体のように(
図21A-21D)、CAR変異体を発現するJurkatの抗原特異的活性化が観察され、ここで、SEZ6L2膜貫通ドメインを発現する変異体から、低下した活性化が検出された(
図22)。
図21A-21Dは、エンドサイトーシス(MLB054、MLB055)と非エンドサイトーシスCAR(MLB026)の両者がいずれもCD69上方制御を有することを示す。
図21A-21BはCAR陽性群を示すとともに、
図21C-21Dは全体的なCD69上方制御の程度を示す。
【0109】
例11.SEZ6L2改変CARはクローディン18.2を標的化するT細胞におけるサイトカイン特性を弱めるためのものである
密度勾配遠心(Ficoll-Paque)分離によってPBMCを単離させ、CD3陰性選択によって精製してT細胞群を富化した。IL-2、IL-7及びIL-15が存在する場合、単離したT細胞をStemCell T細胞活性化剤(CD2/CD3/CD28)で三日間刺激し、そして、過剰に活性化されたPiggyBacトランスポザーゼmRNAとPiggyBacベクターMLB026及びMLB054でエレクトロポレーションして、CD8α膜貫通ドメイン又はSEZ6L2膜貫通と膜近傍ドメインに基づくCAR発現をそれぞれ誘導した。これらのCAR構築体は、クローディン18.2に特異的な841 scFvを利用した。
【0110】
蛍光コンジュゲート抗ヒトF(ab’)
2抗体で染色することによって、フローサイトメトリーでCARの表面発現を検証した。CAR構築体上で、P2A配列を介してGFPを組み合わせ発現することによって、形質導入された細胞を同定した。その結果、CD8α膜貫通配列(MLB026)を発現するT細胞には強い表面染色が存在するが、SEZ6L2改変CAR(MLB054)を発現するT細胞は無視できる表面染色を有することが分かった(
図23)。
【0111】
抗クローディン18.2、SEZ6L2改変のステルスCARの機能性能力を試験するために、形質導入されてクローディン18.2サブタイプ及びルシフェラーゼを過剰発現するHEK293T又はNUGC4細胞に対して、ルシフェラーゼに基づく細胞毒性アッセイを行った。フローサイトメトリーによってCAR陽性細胞の数を評価し、CAR陽性細胞の数に対してカウントを正規化した(
図23)。HEK-cldn18.2 Luc又はNUGC4-cldn18.2 Luc細胞を、10,000個の細胞/ウェルの密度で、不透明な96ウェル板における100μL ImmunoCult培地に接種した。そして、3:1、1:1と0.3:1のエフェクター子:標的(E:T)の割合で、CAR T細胞又は形質導入されていない対照細胞を別の100μL培地に添加し、総反応体積を200μLにした。そして、37°C、5%のCO
2で、細胞を24時間共培養した。該期間が終了した時、サイトカイン分析のために遠心によって100μL培地を収集し、NeoLite基質を各ウェルに添加して生細胞率を確定した。特異的細胞開裂率を、治療群の発光シグナル強度の治療されていない対照群に対する低下として確定した。MLB026又はMLB054で処理された標的細胞は、形質導入されていないT細胞で処理された細胞に対して、発光が低下し、細胞毒性の増加を示した。なお、E:T割合の低下に伴い、投与量応答は低下した。該傾向は、HEK-cldn18.2(
図24)とNUGC4-cldn18.2(
図25)の両者から観察された。該データは、SEZ6L2内在化モチーフと膜貫通ドメインを抗クローディン18.2 CAR構築体に添加しても、CARの細胞毒性ポテンシャルを弱めないことを示した。
【0112】
共培養上清におけるCAR T細胞から産生されるIFN-γの発現を、サンドイッチELISAによって分析した。上清を1対3でELISA希釈液に希釈するとともに、HRP検出基質の比色活性は、HEK-cldn18.2(
図26)とNUGC4-cldn18.2(
図27)細胞系に対して、SEZ6L2改変ステルスCAR(MLB054)がいずれもサイトカイン分泌特性を有することを示した。これらのデータは、これらの細胞の抗原認識と細胞毒性ポテンシャルが保持されるとともに、炎症性応答が低いことを示した。発明者らは、従来のCAR技術で見られるサイトカイン放出症候群(CRS)の問題を解決する上で、これが望ましいことを予想した。
【0113】
例12.SEZ6L2とIL2Rβ改変CAR(MLB038、MLB039及びMLB080)はHER2を標的化するT細胞におけるサイトカイン特性を弱めるためのものである
本例12では、CAR構築体は以下のように設計された。
【0114】
(1)IL2Rβ膜貫通ドメイン、IL2Rβ膜近傍ドメインを含み、IL2Rβ分解配列(DT)をさらに含むCAR構築体:
(a)HER2 scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(MLB038)、
(b)HER2 scFv-CD8ヒンジ-IL2Rβ tm jm DT-CD28-CD3ζ-P2A-GFP(MLB039)。
【0115】
(2)SEZ6L2膜貫通ドメインと、SEZ6L2膜近傍ドメインとを含むCAR構築体:
(a)HER2 scFv-CD8ヒンジ-SEZ6L2 tm jm-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(MLB080)。
【0116】
(3)二重CAR構築体:
(a)841クローディン18.2 scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-P2A-HER2 scFv-IL2Rβ tm jm DT-CD28-CD3ζ(MLB040)
(b)841クローディン18.2 scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-P2A-HER2 scFv-SEZ6L2 tm jm-CD3ζ(MLB108)。
【0117】
(4)CD8膜貫通ドメインを使用する対照CAR構築体:
(a)HER2 scFv-CD8ヒンジ-CD8 tm-4-1BB-CD3ζ-P2A-GFP(MLB079)。
【0118】
【0119】
内在化モチーフは、ボールド体であり、下線が付けられた。
【0120】
【0121】
密度勾配遠心分離によってPBMCを単離させ、CD3陰性選択によって精製してT細胞群を富化する。IL-2、IL-7及びIL-15が存在する場合、単離したT細胞をStemCell T細胞活性化剤(CD2/CD3/CD28)で三日間刺激し、そして、過剰に活性化されたPiggyBacトランスポザーゼmRNAとPiggyBacベクターMLB038、MLB039、MLB079及びMLB080でエレクトロポレーションした。ハーセプチン抗体から派生した4D5V8 scFvを用いて、全ての四種類のCAR変異体をエンジニアリングし、該4D5V8 scFvはHER2(4D5V8 Her2 scFvのアミノ酸配列はSEQ ID NO.31である)を認識した。IL2受容体β膜貫通と膜近傍配列に基づいてMLB038とMLB039 CARを設計した。MLB038とMLB039は、その共受容体シグナル伝達ドメインによって区別することができ、MLB038はCD28共受容体ドメインで設計されるとともに、MLB039は4-1BBシグナル伝達ドメインで設計された。この二つの形式も、CD3ζ細胞内ITAMシグナル伝達モチーフを有する。MLB079はCD8α膜貫通ドメインに対照しかつそれに基づくように設計されたが、MLB080はSEZ6L2膜貫通と膜近傍配列でエンジニアリングされた。
【0122】
蛍光コンジュゲート抗ヒトF(ab’)
2抗体で染色することによって、フローサイトメトリーでCARの表面発現を検証した。CAR構築体上で、P2A配列を介してGFPを組み合わせ発現することによって、形質導入された細胞を同定した。その結果、CD8α膜貫通配列を発現するT細胞には強い表面染色が存在するが、IL2Rβ又はSEZ6L2改変CAR(MLB038、MLB039、MLB080)を発現するT細胞は大幅に減少する表面染色を有し、それらが主に細胞内に局在されることが分かった(
図28A-28B)。
図28A-28Bは、MLB079の対照CARのAF647染色が増加したが、他のエンドサイトーシスCAR(MLB038、MLB039、MLB080)のAF647染色が増加していなかったことを示し、元のCAR(MLB079)の強表面発現及びステルスCAR(MLB038、MLB039、MLB080)から検出できない表面染色を示した。
【0123】
抗HER2ステルスCAR変異体の機能性能力を試験するために、細胞系SK-BR-3、LoVo及びMDA-MB-231(臨床的には、トリプルネガティブ乳癌細胞系と記載されている)に対して、ルシフェラーゼに基づく細胞毒性アッセイを行った(
図29)。
図29は、ルシフェラーゼ標的細胞系における異なる程度のHER2発現を示した。MDA-MB-231は、臨床的には、HER2陰性であり、低HER2染色を示した。LoVo細胞も低レベルのHER2抗体染色を示した。SK-BR-3細胞は、高レベルのHER2染色を示した。標的細胞のHER2発現特性の違いにより、発明者らはHER2 CAR変異体の効果を評価することが可能になる。そして、3:1、1:1と0.3:1のエフェクター子:標的(E:T)の割合で、CAR T細胞又は形質導入されていない対照細胞を別の100μL培地に添加し、総反応体積を200μLにした。そして、37°C、5%のCO2で、細胞を24時間共培養した。該期間が終了した時、サイトカイン分析のために遠心によって100μL培地を収集し、NeoLite基質を各ウェルに添加して生細胞率を確定した。特異的細胞開裂率を、治療群の発光シグナル強度の治療されていない対照群に対する低下として確定した。全ての四種類のCAR変異体(MLB038、MLB039、MLB079、MLB080)は、それぞれ全ての三種類の標的細胞系に対し、MDA-MB-231、LoVo、SKBR3から、いずれも抗原特異的細胞開裂を検出できるうことを示した(
図30、
図31、
図32)。各CAR変異体の細胞毒性活性は、およそ同等であり、投与量依存性を有し、即ちE:T割合の低下に伴って、標的細胞殺傷も低下した。変異体MLB038とMLB039との比較は、共受容体ドメインがインビトロ殺傷の効率に影響を与えないことを示した。
【0124】
共培養上清におけるCAR T細胞から産生されるIFN-γの発現を、サンドイッチELISAによって分析した。上清を1対3でELISA希釈液に希釈するとともに、HRP検出基質の比色活性は、試験対象細胞系に対して、MDA-MB-231、LoVo、SKBR3、ステルスCAR変異体MLB038、MLB039とMLB080が、CD8α膜貫通対照CAR MLB079に比べて、減少したサイトカイン分泌を有することを示した(
図33、
図34、
図35)。HER2高発現細胞系において、IFN-γの、形質導入されてMLB080を発現する細胞における発現は、MLB038とMLB039との両者より高かったが、依然として元のCAR形式MLB079より低かった(
図35)。高腫瘍関連抗原により発現される細胞を標的化する場合、程度が低かったが、SEZ6L2改変CARは、依然としてサイトカインシグナル伝達を保持することができた。全ての細胞系におけるサイトカインの発現は、E:T割合の低下に伴って投与量依存性的に低下した。これらの結果は、CAR共受容体シグナル伝達ドメインがサイトカイン発現に大きな影響を与えないとともに、ステルスCAR(MLB038、MLB039、MLB080)は、対照CAR(MLB079)に対して低下した炎症性サイトカイン特性を有することを示した。
【0125】
例13.クローディン18.2/HER2を標的化する二重CARは、一つ又は二つの腫瘍関連抗原を発現する腫瘍細胞系に対する細胞毒性ポテンシャル及び増強された機能性を示している
市販されているHER2抗体又は内部開発されたクローディン18.2抗体クローンhCLDN18.2-808抗体(VHのアミノ酸配列はSEQ ID NO:47であり、VLのアミノ酸配列はSEQ ID NO:48である)とhCLDN18.2-841抗体(VHのアミノ酸配列はSEQ ID NO:49であり、VLのアミノ酸配列はSEQ ID NO:50である)を用いて、HEKcldn18.2細胞のHER2とクローディン18.2発現を分析した(
図36)。
図36の左パネルはHER2染色を示す。陰性ピークと陽性ピークとの間の距離が小さかったため、HER2の発現は低かった。該データは、強力なクローディン18.2染色を示し、HER2の発現は低かった。いわゆる「優性CAR」と「非優性CAR」で二重CARを設計し、該「優性CAR」は、CD8α膜貫通ドメインに基づくとともに、クローディン18.2に対して特異性を有し、該「非優性CAR」は、SEZ6L2膜貫通と膜近傍ドメインにより改変され、共受容体ドメインを欠くとともに、HER2に対して特異性(MLB108)を有する。代替可能な非優性CARは、IL2Rβ膜貫通と膜近傍配列で設計されるが、CD28共受容体ドメイン(MLB040)を含む(
図37)。二重CARの機能性を、クローディン18.2 CAR(MLB026)と比較した。
【0126】
密度勾配遠心分離によってPBMCを単離させ、CD3陰性選択によって精製してT細胞群を富化した。IL-2、IL-7及びIL-15が存在する場合、単離したT細胞をStemCell T細胞活性化剤(CD2/CD3/CD28)で三日間刺激し、そして、過剰に活性化されたPiggyBacトランスポザーゼmRNAとPiggyBacベクターMLB026及びMLB108でエレクトロポレーションした。蛍光コンジュゲート抗ヒトF(ab’)
2抗体で染色することによって、フローサイトメトリーでCARの表面発現を検証した(
図38)。
図38は、形質導入されていない細胞(UTD)に比べて、MLB108染色はAF594方向で増加したが、MLB026染色はGFPとAF594の方向で増加したことを示している。
図38は、発明者らが、MLB108における優性CARの表面での発現を検出できることを示している。
【0127】
機能性アッセイは、二重CAR MLB108がHEKcldn18.2細胞の抗原特異的殺傷を投与量依存的に引き起こし得ることを示している(
図39)。細胞毒性アッセイ上清におけるIFN-γ放出の比較は、MLB108二重CARを発現する細胞の強IFN-γが放出されることを示し、これは、優性CARによるクローディン18.2に対する標的化と一致した(
図40)。
【0128】
別の二重CARアッセイにおいて、MLB040二重CAR形式を、クローディン18.2特異的優性CAR(MLB026)及びHER2ステルスCAR(MLB038とMLB039)と比較した。密度勾配遠心分離によってPBMCを単離させ、CD3陰性選択によって精製してT細胞群を富化した。IL-2、IL-7及びIL-15が存在する場合、単離したT細胞をStemCell T細胞活性化剤(CD2/CD3/CD28)で三日間刺激し、そして、過剰に活性化されたPiggyBacトランスポザーゼmRNAとPiggyBacベクターMLB026、MLB038、MLB039及びMLB040でエレクトロポレーションした。蛍光コンジュゲート抗ヒトF(ab’)
2抗体で染色することによって、フローサイトメトリーでCARの表面発現を検証した(
図41A-41B)。
図41A-41Bは、MLB038とMLB039がエンドサイトーシス作用を有し、それらが横座標方向のみに染色されたが、エンドサイトーシス作用を持ってないMLB026が横座標と縦座標方向の両方に染色されたことを示している。二重CAR MLB040は、横座標で染色されていなかったが、縦座標のHER2方向に染色された。
【0129】
功能性アッセイは、HEKcldn18.2細胞に対する細胞毒性がやや増強され、これらのHEKcldn18.2細胞が、高レベルのクローディン18.2と低レベルのHER2を発現することを示した(
図42)。該アッセイでは、発明者らは、単一クローディン18.2(MLB026)と、クローディン18.2/HER2二重CAR(MLB040)を有するHER2 CAR構築体の機能性活性を比較した。MLB040が、優性クローディン18.2 CAR(MLB026)と、CD28共受容体ドメインを有するIL2RβステルスCAR(MLB039)で構成されるため、発明者らは、HEK293Tcldn18.2細胞に対して、MLB040とMLB026、MLB038及びMLB039の活性を比較して単離と直接接続CAR構築体の活性を確定した。発明者らは、単一CAR(MLB026、MLB038及びMLB039)の、HEK293T細胞に対する強細胞毒性を観察し、それはE:T割合の低下に伴って低下し、抗原特異的開裂を示した。なお、発明者らは、CLDN18.2/HER2二重CAR(MLB040)の全ての試験E:T割合での増強した標的細胞殺傷を観察した。これらの結果は、ステルスCAR(MLB040)が二重CARシステムにおいて、依然として機能性を有することを証明した。細胞毒性アッセイ上清のELISA分析は、MLB026とMLB040との両者から放出されるIFN-γレベルが同等であり、優性CARによるクローディン18.2に対する標的化と一致した。細胞毒性を検出できたが、HER2単一ステルスCAR(MLB038とMLB039)のうちのいずれか一つからサイトカインの放出が検出されなかった(
図43)。HER2高発現細胞系SK-BR-3に対して試験する時、MLB038、MLB039及びMLB040を発現するT細胞により、強い抗原特異的細胞毒性が観察されたが、MLB026単一CARから背景活性化と一致する弱細胞毒性が観察された。これらの結果は、二重標的CARがクローディン18.2とHER2の両者を認識し得ることを示した(
図44)。
【0130】
他の実施例
理解すべきこととして、発明を実施するための形態を結び付けながら本開示を記述したが、以上の記述は、本開示の範囲を限定するものではなく、説明することを意図しており、本開示の範囲は添付の特許請求の範囲によって定義される。その他の態様、利点及び修正は以下の特許請求の範囲内にある。
【0131】
以上に記述される様々な実施例は、組み合わせて別の実施例を提供することができる。本明細書で言及され及び/又は出願データシートに列記される全ての米国特許、米国特許出願公報、米国特許出願、外国特許、外国特許出願及び非特許発行物は、その全てが参照により本明細書に組み込まれる。これらの実施例の各態様は、さらに別の実施例を提供するために、様々な特許、出願、及び刊行物の概念を使用するように修正され得る。
【0132】
これら及び他の変更は上記詳細な記述に鑑みて実施例に対しなされ得る。一般的には、以下の請求項では、使用される用語は請求項を本明細書と特許請求の範囲に開示された特定の実施例に限定するものと解釈すべきではなく、このような特許請求の範囲の権利を付与される等価物の全範囲と共にすべての可能な実施例を含むように解釈すべきである。そのため、特許請求の範囲は、本開示によって限定されない。
【0133】
引用リスト:
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2.Fousek,K.,Watanabe,J.,Joseph,S.K.,George,A.,An,X.,Byrd,T.T.,Morris,J.S.,Luong,A.,Martinez-Paniagua,M.A.,Sanber,K.,Navai,S.A.,Gad,A.Z.,Salsman,V.S.,Mathew,P.R.,Kim,H.N.,Wagner,D.L.,Brunetti,L.,Jang,A.,Baker,M.L.,…Ahmed,N.(2020).CAR T-cells that target acute B-lineage leukemia irrespective of CD19 expression.Leukemia,1,4.https://doi.org/10.1038/s41375-020-0792-2.
3.Hemar,A.,Lieb,M.,Subtil,A.,Disanto,J.P.,& Dautry-Varsat,A.(1994).Endocytosis of the β chain of interleukin-2 receptor requires neither interleukin-2 nor the γ chain.European Journal of Immunology,24(9),1951-1955.https://doi.org/10.1002/eji.1830240902.
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【配列表】