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特許7557056窒化物エピタキシャル構造および半導体デバイス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】窒化物エピタキシャル構造および半導体デバイス
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/20 20060101AFI20240918BHJP
   H01L 21/338 20060101ALI20240918BHJP
   H01L 29/812 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
H01L21/20
H01L29/80 B
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2023519134
(86)(22)【出願日】2021-09-14
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2023-10-12
(86)【国際出願番号】 CN2021118342
(87)【国際公開番号】W WO2022062974
(87)【国際公開日】2022-03-31
【審査請求日】2023-04-26
(31)【優先権主張番号】202011025013.6
(32)【優先日】2020-09-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】503433420
【氏名又は名称】華為技術有限公司
【氏名又は名称原語表記】HUAWEI TECHNOLOGIES CO.,LTD.
【住所又は居所原語表記】Huawei Administration Building, Bantian, Longgang District, Shenzhen, Guangdong 518129, P.R. China
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133569
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 進
(72)【発明者】
【氏名】▲陳▼ 智斌
(72)【発明者】
【氏名】▲羅▼ 睿宏
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0006178(US,A1)
【文献】特表2018-503968(JP,A)
【文献】特開2014-132607(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0012757(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0318448(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2015/0340230(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/20
H01L 21/338
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の上に形成された核生成層であって、前記核生成層が窒化アルミニウム層または窒化ガリウム層である、核生成層と、
前記核生成層の上に形成されたバッファ層であって、前記バッファ層がK個の積み重ねられたIII族窒化物の2層構造を含み、K≧3であり、各2層構造が、積み重ねられた上層と下層とを含み、前記上層の材料のバンドギャップが前記下層の材料のバンドギャップよりも大きく、各2層構造のバンドギャップ差が、前記上層の前記材料の前記バンドギャップと前記下層の前記材料の前記バンドギャップとの間の差であり、前記K個の2層構造のバンドギャップ差が、前記バッファ層の厚さ方向に沿って傾斜傾向を示す、バッファ層と、
前記バッファ層の上に形成されたエピタキシャル層であって、前記エピタキシャル層の材料がIII族窒化物を含む、エピタキシャル層と
含み、
前記K個の2層構造が、GaNとAlNとを含み、各2層構造における平均のAl成分含有量が5%~50%である、窒化物エピタキシャル構造。
【請求項2】
前記上層の前記材料および前記下層の前記材料がそれぞれ、GaN、AlN、InN、またはそれらの組合せ、のうちの1つから選択される、請求項1に記載の窒化物エピタキシャル構造。
【請求項3】
前記下層の厚さが、前記上層の厚さの2倍よりも大きい、請求項1または2に記載の窒化物エピタキシャル構造。
【請求項4】
前記K個の2層構造の前記バンドギャップ差が、前記核生成層の一方の側から前記エピタキシャル層の一方の側に向かって徐々に減少する、請求項1から3のいずれか一項に記載の窒化物エピタキシャル構造。
【請求項5】
前記K個の2層構造における最大のバンドギャップ差と最小のバンドギャップ差との間の差が、前記2層構造を構成する、最大のバンドギャップを有するIII族窒化物と最小のバンドギャップを有するIII族窒化物と、の間のバンドギャップ差の20%よりも大きい、請求項1から4のいずれか一項に記載の窒化物エピタキシャル構造。
【請求項6】
各2層構造における前記平均のAl成分含有量が同じである、請求項に記載の窒化物エピタキシャル構造。
【請求項7】
前記K個の2層構造の平均のAl成分含有量が、前記バッファ層の前記厚さ方向に沿って傾斜傾向を示す、請求項に記載の窒化物エピタキシャル構造。
【請求項8】
各2層構造の厚さが100nm未満である、請求項1からのいずれか一項に記載の窒化物エピタキシャル構造。
【請求項9】
前記エピタキシャル層の材料が、GaN、AlN、InN、AlGaN、InGaN、InAlNおよびInAlGaNのうちの1つまたは複数を含む、請求項1からのいずれか一項に記載の窒化物エピタキシャル構造。
【請求項10】
前記エピタキシャル層の厚さが300nm以上である、請求項1からのいずれか一項に記載の窒化物エピタキシャル構造。
【請求項11】
前記基板が、シリコン基板、サファイア基板、シリコン・オン・インシュレータ基板、窒化ガリウム基板、ガリウムヒ素基板、リン化インジウム基板、窒化アルミニウム基板、炭化珪素基板、石英基板、またはダイヤモンド基板を含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の窒化物エピタキシャル構造。
【請求項12】
前記核生成層の厚さが10nm~300nmである、請求項1から11のいずれか一項に記載の窒化物エピタキシャル構造。
【請求項13】
請求項1から12のいずれか一項に記載の窒化物エピタキシャル構造を含む半導体デバイス。
【請求項14】
前記半導体デバイスが、パワーデバイス、無線周波数デバイス、または光電デバイスを含む、請求項13に記載の半導体デバイス。
【請求項15】
前記半導体デバイスが、電界効果トランジスタ、発光ダイオード、またはレーザダイオードを含む、請求項13または14に記載の半導体デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0002】
本出願は、半導体技術の分野に関し、詳細には、窒化物エピタキシャル構造および半導体デバイスに関する。
【背景技術】
【0003】
窒化ガリウム(GaN)材料は、大きなバンドギャップおよび高い移動度などの利点を有しており、したがって、電子パワーデバイス、無線周波数デバイス、および光電デバイスに広く使用されている。高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor、HEMT)が最も広く使用されている。窒化ガリウム材料は、通常、シリコン基板の上でエピタキシャル成長によって得られる。しかしながら、GaNとシリコンとの間には、大きな格子不整合および17%を超える熱膨張係数不整合が生じる。したがって、シリコン系窒化ガリウムに大きな応力が生じ、その応力がエピタキシにおいて反りを引き起こし、GaNエピタキシャルウェハの均一性および信頼性に影響を与える。加えて、基板のサイズが大きくなるにつれて、反りの影響がますます重大になる。現在、従来技術では、主に、傾斜AlGaN構造と超格子構造とを使用して応力が調整されている。しかしながら、傾斜AlGaN構造は、動的性能が低く、結晶品質が低いという欠点を有している。超格子構造の応力制御能力および結晶品質は傾斜AlGaN構造のそれよりも良好であるが、耐電圧性能と結晶品質とをバランスするのが難しい。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0004】
これを考慮して、本出願の実施形態は、窒化物エピタキシャル構造および半導体デバイスを提供する。格子不整合と熱的不整合とに起因して基板とエピタキシャル層との間に生じる応力を効果的に緩和および解放するために、特定の構造のバッファ層が基板とエピタキシャル層との間に配置され、エピタキシ中およびエピタキシ後の反りを低減し、窒化物エピタキシャル構造の均一性および信頼性を向上させる。さらに、エピタキシャル層の結晶品質および耐電圧性能が向上させられることができ、それによって半導体デバイスの性能を効果的に向上させることができる。
【0005】
一般に、本出願の実施形態の第1の態様は、
基板と、
基板の上に形成された核生成層であって、核生成層が窒化アルミニウム層または窒化ガリウム層である、核生成層と、
核生成層の上に形成されたバッファ層であって、バッファ層がK個の積み重ねられたIII族窒化物の2層構造を含み、K≧3であり、各2層構造が、積み重ねられた上層と下層とを含み、上層の材料のバンドギャップが下層の材料のバンドギャップよりも大きく、各2層構造のバンドギャップ差が、上層の材料のバンドギャップと下層の材料のバンドギャップとの間の差であり、K個の2層構造のバンドギャップ差が、一般に、バッファ層の厚さ方向に沿って傾斜傾向を示す、バッファ層と、
バッファ層の上に形成されたエピタキシャル層であって、エピタキシャル層の材料がIII族窒化物を含む、エピタキシャル層と
を含む、窒化物エピタキシャル構造を提供する。
【0006】
核生成層は、基板とエピタキシャル層との間の格子不整合を緩和するために、窒化物エピタキシャル層のその後の成長のための核生成中心を提供し得、基板によってもたらされる不純物が窒化物エピタキシャル層のその後の成長に影響を及ぼすのをさらに効果的に防止し得、それによってエピタキシャル層の結晶品質を向上させ得る。格子不整合と熱的不整合とに起因して基板とエピタキシャル層との間に生じる応力を効果的に緩和および解放するために、バッファ層が、基板とエピタキシャル層との間に配置され、エピタキシ中およびエピタキシ後の反りを低減し、窒化物エピタキシャル構造の均一性および信頼性を向上させる。加えて、傾斜したバンドギャップ差を有する複数のIII族窒化物の2層構造を積み重ねることによってバッファ層が配置され、その結果、動的性能が良好となり、結晶品質と耐電圧性能が効果的にバランスさせられることができ、漏電リスクが低減されることができ、それによって半導体デバイスの性能を効果的に向上させることができる。加えて、異なるバンドギャップ差を有する2層構造が異なる場所で適応的に使用され、その結果、転位をフィルタリングすることと耐電圧性能を向上させることとの利点が両方達成されることができ、性能の2つの面の間のバランスが実際の要件に従って達成されることができる。動的性能とは、通常、電気的ストレスが増加させられた後のトランジスタの回復能力を指し、Dron(動的抵抗)などの指標を使用して測定され得る。
【0007】
本出願の一実施態様では、各2層構造において、上層の材料および下層の材料はそれぞれ、GaN、AlN、InN、またはそれらの組合せ、すなわち、AlGaN、InGaN、InAlN、もしくはInAlGaN、のうちの1つから選択される。一般に、2層構造の上層および下層の材料の組合せは、AlN/GaN、AlGaN/GaN、AlN/AlGaN、またはAlGaN/AlGaNであり得る。
【0008】
本出願の一実施態様では、下層の厚さは上層の厚さの2倍よりも大きい。厚い下層と厚い上層が配置され、その結果、格子緩和が効果的に回避されることができる。ヘテロエピタキシについては、上層の厚さがより小さいとき、材料は歪状態にあり、具体的には、上層の材料が下層の材料によって引き伸ばされるかもしくは圧縮された後、上層の材料の格子定数が下層の材料のそれと同じになり、その結果、超格子が有効に機能することができるか、または、上層の厚さがより大きいとき、材料は材料の格子定数に回復し、格子緩和を引き起こす。
【0009】
本出願の一実施態様では、K個の2層構造のバンドギャップ差は、核生成層の一方の側からエピタキシャル層の一方の側に向かって徐々に減少する。バンドギャップ差が大きいとき、2層構造の材料の格子定数の間の差が大きく、それによって転位をフィルタリングするのを助ける。しかしながら、分極効果も強いため、漏電が発生しやすい。反対に、バンドギャップ差が小さいとき、このことはリーク電流を低減するのを助けるが、転位のフィルタリングの助けとはならない。大きなバンドギャップ差を有する2層構造が核生成層に近い側に配置され、それによってエピタキシの初期段階での転位を除去するのを助け、漏電の影響を低減する。小さなバンドギャップ差を有する2層構造がエピタキシャル層に近い側に配置され、それによって漏れ電流を低減し、耐電圧性能を向上させる、のを助ける。
【0010】
本出願の一実施態様では、K個の2層構造における最大のバンドギャップ差と最小のバンドギャップ差との間の差は、2層構造を構成する、最大のバンドギャップを有するIII族窒化物と最小のバンドギャップを有するIII族窒化物と、の間のバンドギャップ差の20%よりも大きい。バッファ層全体のK個の2層構造の最大バンドギャップ差と最小バンドギャップ差との間の差が適切な範囲内に制御され、その結果、結晶品質と耐電圧性能とがより良好にバランスおよび調整されることができる。
【0011】
本出願の一実施態様では、K個の2層構造は2種類のIII族窒化物、すなわち、GaNとAlNとを含み、各2層構造中の平均のAl成分含有量は5%~50%である。平均のAl成分含有量は、各2層構造中のIII族金属元素のうちのAl元素の平均モル%である。各2層構造のAl成分含有量は、バッファ層が良好な結晶品質を有することを確実にするために、適切な範囲内に制御される。
【0012】
本出願の一実施態様では、各2層構造中の平均のAl成分含有量は同じである。Al成分は変化しないままである。したがって、高温の反りに対して事前補償が設計されるとき、膜層の厚さの影響のみが考慮される必要があり、Al成分の変化の影響は考慮される必要がなく、それによってパラメータ設計を簡単にする。
【0013】
本出願の一実施態様では、K個の2層構造の平均のAl成分含有量は、バッファ層の厚さ方向に沿って傾斜傾向を示す。複数の2層構造の平均のAl成分含有量は傾斜するように設計され、それによって応力調整を容易にする。
【0014】
本出願の一実施態様では、K個の2層構造において、任意の2つの隣接する2層構造が異なるバンドギャップ差を有し得るか、またはいくつかの隣接する2層構造が同じバンドギャップ差を有し得る。隣接して積み重ねられ、同じバンドギャップ差を有する、2層構造の繰り返し周期性は、1~10であり得る。
【0015】
本出願の一実施態様では、緩和を回避するために、各2層構造の厚さは100nm未満に設定される。
【0016】
本出願の一実施態様では、エピタキシャル層の材料は、GaN、AlN、InN、AlGaN、InGaN、InAlNおよびInAlGaNのうちの1つまたは複数を含む。
【0017】
本出願の一実施態様では、エピタキシャル層の厚さは300nm以上である。従来の窒化ガリウムエピタキシャル層の厚さは、通常、応力の制限に起因して小さい。しかしながら、本出願の実施形態における窒化物エピタキシャルウェハは、応力を十分に除去することができ、したがって理論的には無限の厚さを有し得る。本出願のいくつかの実施態様では、エピタキシャル層の厚さは、5μm以上であり得るか、または10μm以上であり得る。
【0018】
本出願の一実施態様では、基板は、シリコン基板、サファイア基板、シリコン・オン・インシュレータ基板(SOI基板)、窒化ガリウム基板、ガリウムヒ素基板、リン化インジウム基板、窒化アルミニウム基板、炭化珪素基板、石英基板、またはダイヤモンド基板を含む。
【0019】
本出願の一実施態様では、核生成層の厚さは10nm~300nmである。
【0020】
本出願の一実施態様では、窒化物エピタキシャル構造は、核生成層とエピタキシャル層との間に配置された遷移層をさらに含み、遷移層の材料はAlGaNである。本出願の一実施態様では、遷移層の材料は核生成層のそれと同じである。本出願の一実施態様では、遷移層の厚さは10nm~300nmである。
【0021】
本出願の一実施態様では、窒化物エピタキシャル構造は、エピタキシャル層の上に配置された他の機能層をさらに含む。他の機能層は、実際の用途の要件に従って配置され得、一般に、AlN挿入層、AlGaNバリア層、P型GaN層などを含み得る。
【0022】
第2の態様によれば、本出願の一実施形態は、本出願の実施形態の第1の態様に係る窒化物エピタキシャル構造を含む半導体デバイスをさらに提供する。前記半導体デバイスは、パワーデバイス、無線周波数デバイス、または光電デバイスであり得る。一般に、例えば、半導体デバイスは、電界効果トランジスタ、発光ダイオード、またはレーザダイオードである。
【0023】
本出願の実施形態で提供される窒化物エピタキシャル構造では、基板の上に核生成層が配置され、核生成層の上にバッファ層が配置され、それによって、格子不整合および熱的不整合に起因して基板とエピタキシャル層との間に生じる応力を効果的に緩和および解放し、エピタキシ中およびエピタキシ後の反りを低減し、窒化物エピタキシャル構造の均一性および信頼性を向上させ、半導体デバイスの性能をさらに向上させる。本出願の実施形態で提供される半導体デバイスでは、本出願の実施形態で提供される窒化物エピタキシャル構造が使用されるため、大型の厚い窒化物エピタキシャル層デバイスが得られることができ、それによって、効果的に、デバイスコストを低減し、デバイス性能を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本出願の一実施態様に係る窒化物エピタキシャル構造の構造の概略図である。
図2】本出願の別の実施態様に係る窒化物エピタキシャル構造の構造の概略図である。
図3】本出願のさらに別の実施態様に係る窒化物エピタキシャル構造の構造の概略図である。
図4】本出願の一実施態様に係るバッファ層の構造の概略図である。
図5】本出願の一実施態様に係る窒化物エピタキシャル構造の構造の概略図である。
図6】本出願の一実施態様に係る窒化物エピタキシャル構造の作製工程のフローチャートである。
図7A】実施形態2に係る窒化物エピタキシャル構造における、バッファ層の、基板側に近い2層構造のTEM(Transmission Electron Microscope、透過型電子顕微鏡)グラフである。
図7B】実施形態2に係る窒化物エピタキシャル構造における、バッファ層の、基板側に近い2層構造のEDS(Energy Dispersive Spectroscopy、エネルギー分散分光法)グラフである。
図8A】実施形態2に係る窒化物エピタキシャル構造における、バッファ層の、エピタキシャル層側に近い2層構造のTEMグラフである。
図8B】実施形態2に係る窒化物エピタキシャル構造における、バッファ層の、エピタキシャル層側に近い2層構造のEDSグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下は、本出願の実施形態における添付の図面を参照しつつ本出願の実施形態を説明する。
【0026】
図1および図2に示されるように、本出願の一実施形態は、基板10と、核生成層20と、バッファ層30と、エピタキシャル層40とを含む、窒化物エピタキシャル構造100を提供する。核生成層20は、AlN層またはGaN層であり、基板10の上に形成される。バッファ層30は、核生成層20の上に形成される。エピタキシャル層40は、バッファ層30の上に形成される。エピタキシャル層40の材料は、III族窒化物を含む。バッファ層30は、K個の積み重ねられたIII族窒化物の2層構造200を含み、K≧3である。各2層構造300は、下層30と上層30とを含む。バンドギャップ差を生じさせるために、上層30の材料のバンドギャップは下層30の材料のバンドギャップよりも大きい。各2層構造300のバンドギャップ差は、上層30の材料のバンドギャップと下層30の材料のバンドギャップとの間の差である。K個の2層構造のバンドギャップ差は、一般に、バッファ層30の厚さ方向に沿って傾斜傾向を示す。本出願のこの実施形態で提供される窒化物エピタキシャル構造は、良好な均一性および高い結晶品質を有するエピタキシャル層を有し、デバイス性能を向上させるために半導体デバイスで使用され得る。窒化物エピタキシャル構造は、大型エピタキシャル構造の要件を満たすために、少なくとも6インチの大きなサイズと少なくとも5マイクロメートルの厚さとを有する窒化物エピタキシャル層を有し得る。
【0027】
本出願における2層構造の上層および下層について、「上」および「下」は特定の方向性を表すものではないことに留意されたい。当該技術では、超格子2層構造については、通常、大きなバンドギャップを有する層は上層として書かれ、小さなバンドギャップを有する層は下層として書かれる。実際の成長の際に2つの層が、順序が入れ替えられても書込みは変えられない。
【0028】
本出願の一実施態様では、基板10は、シリコン基板、サファイア基板、シリコン・オン・インシュレータ基板(SOI基板)、窒化ガリウム基板、ガリウムヒ素基板、リン化インジウム基板、窒化アルミニウム基板、炭化珪素基板、石英基板、またはダイヤモンド基板であり得るか、またはIII族窒化物の膜を作製するために使用されることができる任意の既知の従来基板であり得る。シリコン基板の結晶方位は限定されず、例えば、結晶ファセットインデックスが(111)のシリコン基板であり得るか、または結晶ファセットインデックスが(100)のシリコン基板であり得るか、または別の結晶ファセットインデックスのシリコン基板であり得る。
【0029】
本出願の一実施態様では、核生成層20は窒化アルミニウムまたは窒化ガリウム膜の層であり、核生成層20は基板10を完全に覆う。格子欠陥を低減し、転位密度を低減し、窒化物エピタキシャル層の結晶品質を向上させるために、核生成層20は、窒化物エピタキシャル層のその後の成長のための核生成中心を提供し得、格子不整合に起因して基板10とエピタキシャル層40との間に生じる応力を緩和し得、基板10によってもたらされる不純物が窒化物エピタキシャル層のその後の成長に影響を及ぼすのをさらに効果的に防止し得る。加えて、核生成層20は薄く、単結晶または準単結晶である。したがって、格子不整合に起因して基板10とエピタキシャル層40との間に生じる応力は、その後の窒化物エピタキシャル層の結晶品質に影響を及ぼすことなく緩和されることができ、コストも効果的に制御されることができる。本出願のいくつかの実施態様では、核生成層20の厚さは10nm~300nmであり得る。本出願のいくつかの他の実施態様では、核生成層20の厚さは20nm~200nmであり得る。あるいは、本出願のいくつかの他の実施態様では、核生成層20の厚さは、50nm~150nmであり得る。
【0030】
本出願の一実施態様では、核生成層20は、金属有機化学気相蒸着または分子線エピタキシの方法で作製され得る。金属有機化学気相蒸着(MOCVD、Metal-organic Chemical Vapor Deposition)は、有機金属化合物の熱分解反応を使用して気相エピタキシによって膜を成長させる化学気相蒸着技術である。一般に、熱分解反応を使用して基板の上にIII-V族またはII-VI族化合物の膜を成長させるために、金属有機化合物の結晶成長の原料として、III族またはII族元素の有機化合物、V族またはVI族元素の水素化物などが使用され得る。金属有機化学気相蒸着の方法は、窒化物エピタキシャル層のその後の結晶品質を向上させることができる。
【0031】
本出願の一実施態様では、バッファ層30は、K個の積み重ねられたIII族窒化物の2層構造300を含む。いくつかの実施態様では、Kの値は3~100であり得る。いくつかの他の実施態様では、Kの値は10~60であり得る。あるいは、いくつかの他の実施態様では、Kの値は20~50であり得る。各2層構造において、上層30の材料および下層30の材料はそれぞれ、GaN、AlN、InN、またはそれらの組合せ、すなわち、AlGaN、InGaN、InAlN、もしくはInAlGaN、のうちの1つから選択され得る。AlGaNは、2種類のIII族窒化物、すなわち、GaNとAlNとの組合せである。InGaNは、2種類のIII族窒化物、すなわち、GaNとInNとの組合せである。InAlNは、2種類のIII族窒化物、すなわち、AlNとInNとの組合せである。InAlGaNは、3種類のIII族窒化物、すなわち、GaNと、AlNと、InNとの組合せである。GaNのバンドギャップは3.4eV、AlNのバンドギャップは6.2eV、そしてInNのバンドギャップは0.7eVである。一般に、2層構造300の上層および下層の材料の組合せは、AlN/GaN、AlGaN/GaN、AlN/AlGaN、またはAlGaN/AlGaNであり得る。
【0032】
本出願の一実施態様では、バッファ層30の厚さは耐電圧レベルに基づいて設定され得る。例えば、耐電圧レベルが100Vの場合、通常、バッファ層は、2μm~3μmになるように配置される必要があり、または、耐電圧レベルが600Vの場合、バッファ層は、5μmよりも大きくなるように配置される必要がある。本出願のいくつかの実施態様では、バッファ層30の厚さは300nmよりも大きい。各2層構造の厚さは100nm未満である。一般に、各2層構造の厚さは、10nm~80nmであり得るか、または20nm~60nmであり得る。2層構造の適切な厚さは、緩和を回避するのを助ける。各2層構造300において、下層30の厚さは、上層30の厚さの2倍よりも大きい。厚い下層と厚い上層が配置され、その結果、格子緩和が効果的に回避されることができる。ヘテロエピタキシについては、上層の厚さがより小さいとき、材料は歪状態にあり、具体的には、上層の材料が下層の材料によって引き伸ばされるかもしくは圧縮された後、上層の材料の格子定数が下層の材料のそれと同じになり、その結果、超格子が有効に機能することができるか、または、上層の厚さがより大きいとき、材料は材料の格子定数に回復し、格子緩和を引き起こす。K個の2層構造300において、すべての上層の厚さが同じであってもよく、また、すべての下層の厚さが同じであってもよい。
【0033】
本出願のいくつかの実施態様では、K個の2層構造300のバンドギャップ差は、核生成層200の一方の側からエピタキシャル層400の一方の側に向かって徐々に減少する。バンドギャップ差が大きいとき、2層構造の材料の格子定数の間の差が大きく、それによって転位をフィルタリングするのを助ける。しかしながら、分極効果も強いため、漏電が発生しやすい。反対に、バンドギャップ差が小さいとき、このことはリーク電流を低減するのを助けるが、転位のフィルタリングの助けとはならない。大きなバンドギャップ差を有する2層構造が核生成層に近い側に配置され、それによって転位をフィルタリングするのを助ける。加えて、2層構造がAlGaNバリア層およびチャネル層から離れているため、漏電によって引き起こされる悪影響が小さい。小さなバンドギャップ差を有する2層構造がエピタキシャル層に近い側に配置され、それによって分極効果を低減し、耐電圧性能を向上させる、のを助ける。あるいは、いくつかの他の実施態様では、K個の2層構造300は、要件に従って、バンドギャップ差が核生成層200の一方の側からエピタキシャル層400の一方の側に向かって徐々に増加する方法で配列され得る。
【0034】
本出願の一実施態様では、K個の2層構造における最大のバンドギャップ差と最小のバンドギャップ差との間の差は、2層構造を構成する、最大のバンドギャップを有するIII族窒化物と最小のバンドギャップを有するIII族窒化物と、の間のバンドギャップ差の20%よりも大きい。例えば、K個のAlGaN/AlGaNの2層構造において、2層構造を構成するIII族窒化物は、GaNとAlNとを含み、GaNのバンドギャップは3.4eVであり、AlNのバンドギャップは6.2eVである。この場合、2層構造を構成する、最も大きいバンドギャップを有するIII族窒化物と最も小さいバンドギャップを有するIII族窒化物との間のバンドギャップ差の20%は、20%×(6.2-3.4)eVである。別の例として、K個のInAlGaN/InAlGaNの2層構造において、2層構造を構成するIII族窒化物は、InNとGaNとAlNとを含み、InNのバンドギャップは0.7eVであり、GaNのバンドギャップは3.4eVであり、AlNのバンドギャップは6.2eVである。この場合、2層構造を構成する、最も大きいバンドギャップを有するIII族窒化物と最も小さいバンドギャップを有するIII族窒化物との間のバンドギャップ差の20%は、20%×(6.2-0.7)eVである。
【0035】
本出願のいくつかの実施態様では、K個の2層構造200は2種類のIII族窒化物、すなわち、GaNとAlNとを含み、2層構造の上層と下層との組合せは、AlGa1-xN/AlGa1-yN(0<x≦1、y>0)として表され得る。2層構造では、バンドギャップ差の傾斜傾向は、Al成分含有量差の傾斜傾向と同等であり得る。バンドギャップの変化傾向とAlGaN中のAl成分含有量の変化傾向とはほぼ線形の関係にある。具体的には、AlGaN中のAl成分含有量が多いほどバンドギャップが大きいことを示す。したがって、2層構造のバンドギャップ差の傾斜傾向は、2層構造のAl成分含有量差の傾斜傾向と同等であり得る。本出願におけるAl成分含有量は、III族金属元素中のAl元素のモル%であることに留意されたい。AlGa1-xNのバンドギャップは、[6.2x+(1-x)3.4]eVにほぼ等しいものとし得る。したがって、各2層構造の上層および下層中のAl成分含有量が制御され、その結果、2層構造のAl成分含有量差が傾斜傾向となり、したがって、K個の2層構造のバンドギャップ差が傾斜にされることができる。例えば、図2および図3に示されるように、K個の2層構造200は、第1の2層構造Alx1Ga1-x1N/Aly1Ga1-y1Nと、第2の2層構造Alx2Ga1-x2N/Aly2Ga1-y2Nと、第3の2層構造Alx3Ga1-x3N/Aly3Ga1-y3Nと、...、第Kの2層構造AlxkGa1-xkN/AlykGa1-ykNとを含む。第1の2層構造から第Kの2層構造に向かってバンドギャップ差が徐々に減少する場合、x1-y1>x2-y2>x3-y3>...>xk-yk、つまり、第1の2層構造から第Kの2層構造に向かってAl成分含有量差が徐々に減少する。この実施態様では、任意の2つの隣接する2層構造は、異なるバンドギャップ差を有する。一般に、任意の2つの隣接する2層構造は異なる成分を有する。本出願のいくつかの他の実施態様では、K個の2層構造において、いくつかの隣接する2層構造が同じバンドギャップ差を有してもよい。隣接して積み重ねられ、同じバンドギャップ差を有する、2層構造の繰り返し周期性は、1~10であり得る。異なるバンドギャップ差を有する2層構造の繰り返し周期性は、同じであっても異なっていてもよい。例えば、図4に示されるように、AlGa1-xN/AlGa1-yNによって構成されるバッファ層では、異なるバンドギャップ差を有する2層構造の繰り返し周期性が同じ、つまり、すべて2である。これは以下のとおりであり、すなわち、第1の2層構造のバンドギャップ差=第2の2層構造のバンドギャップ差>第3の2層構造のバンドギャップ差=第4の2層構造のバンドギャップ差...>第Kの2層構造のバンドギャップ差とし得る。異なるバンドギャップ差を有する2層構造の繰り返し周期性は異なり、例えば、第1の2層構造のバンドギャップ差=第2の2層構造のバンドギャップ差=第3の2層構造のバンドギャップ差>第4の2層構造のバンドギャップ差=第5の2層構造のバンドギャップ差>第6の2層構造のバンドギャップ差...>第Kの2層構造のバンドギャップ差である。
【0036】
本出願の一実施態様では、K個の2層構造は2種類のIII族窒化物、すなわち、GaNとAlNとを含み、各2層構造中の平均のAl成分含有量は5%~50%であり得る。いくつかの実施態様では、各2層構造中の平均のAl成分含有量は8%~38%である。いくつかの他の実施態様では、各2層構造中の平均のAl成分含有量は15%~30%である。いくつかの他の実施態様では、各III族窒化物の2層構造中の平均のAl成分含有量は20%~25%である。平均のAl成分含有量は、各2層構造中のIII族金属元素のうちのAl元素の平均モル%である。各2層構造の平均のAl成分含有量は、バッファ層が良好な結晶品質を有することを確実にするために、適切な範囲内に制御される。AlGa1-xN/AlGa1-yNの2層構造については、各2層構造中の平均のAl成分含有量は、[(Tupper×x+Tlower×y)/(Tupper+Tlower)]×100%で表され得、TupperおよびTlowerは2層構造の上層および下層の厚さをそれぞれ示し、xおよびyは上層および下層のAl成分含有量をそれぞれ示す。本出願のいくつかの実施態様では、各2層構造中の平均のAl成分含有量は同じである。Al成分は変化しないままである。したがって、高温の反りに対して事前補償が設計されるとき、膜層の厚さの影響のみが考慮される必要があり、Al成分の変化の影響は考慮される必要がなく、それによってパラメータ設計を簡単にする。本出願のいくつかの他の実施態様では、K個の2層構造の平均のAl成分含有量は、バッファ層の厚さ方向に沿って傾斜傾向を示す。複数の2層構造の平均のAl成分含有量は傾斜するように設計され、それによって応力調整を容易にする。
【0037】
加えて、本出願では、K個の2層構造のバンドギャップ差がバッファ層の厚さ方向に沿って段階的な傾向を一般に示すことは、バンドギャップ差がバッファ層の厚さ方向に沿って徐々に増加または徐々に減少する変化を厳密に示すことであり得るか、またはバンドギャップ差が徐々に増加または徐々に減少する変化を一般に示すが、変化が全体的な傾斜傾向とは反対である少数の特別なケース、例えば、バンドギャップ差が一般に徐々に増加するバッファ層の中に、バンドギャップ差が徐々に減少する少数の2層構造が存在することであり得る。
【0038】
本出願の一実施態様では、エピタキシャル層の材料は、GaN、AlN、InN、AlGaN、InGaN、InAlNおよびInAlGaNのうちの1つまたは複数を含む。本出願の一実施態様では、エピタキシャル層40の材料は、III族窒化物を含み、一般に、例えば、GaN、AlN、InN、AlGaN、InGaN、InAlNおよびInAlGaNのうちの1つまたは複数を含む。エピタキシャル層40の厚さは300nm以上である。従来の窒化ガリウムエピタキシャル層の厚さは、通常、応力の制限に起因して小さい。しかしながら、本出願のこの実施形態における窒化物エピタキシャル構造は、応力を十分に除去することができ、したがって、厚膜エピタキシャル層の作製に適用可能であり、理論的には無限の厚さを有し得る。本出願のいくつかの実施態様では、エピタキシャル層の厚さは、5μm以上であり得るか、または10μm以上、例えば、15μm~100μmであり得る。エピタキシャル層40は、核生成層20を完全に覆い得るか、または核生成層20を部分的に覆い得る。
【0039】
本出願の一実施態様では、異なる窒化物エピタキシャル層が異なる半導体デバイスに適用可能である。例えば、パワーデバイスにはGaN、AlGaN、AlNが適用可能であり、光電デバイスにはInを含む窒化物エピタキシャル層が適用可能である。
【0040】
本出願のこの実施態様では、有用性要件を満たすために、別の元素がエピタキシャル層40に代替的に添加され得る。例えば、絶縁性を向上させるために、炭素が、高抵抗化を達成して耐電圧性能を向上させるために添加され得る。
【0041】
図5に示されるように、窒化物エピタキシャル構造100は、核生成層30とエピタキシャル層40との間に配置された遷移層50をさらに含み、遷移層50はAlGaN層であり得る。遷移層の厚さは、10nm~300nmであり得る。遷移層50が配置され、それによってエピタキシャル構造に印加される応力を調整するのを助ける。
【0042】
本出願の一実施態様では、図5に示されるように、窒化物エピタキシャル構造100は、エピタキシャル層40の上に配置された他の機能層60をさらに含む。他の機能層60の具体的な構造組成は、実際の適用要件に従って配列されることができる。本出願の一実施態様では、他の機能層60は、エピタキシャル層40上に順に配置されたAlN挿入層61と、AlGaNバリア層62と、P型GaN層63とを一般に含み得る。あるいは、いくつかの他の実施態様では、他の機能層60は別の構造を有し得る。
【0043】
図6に示されるように、本出願の一実施形態は、以下のステップを含む窒化物エピタキシャル構造を作製する方法をさらに提供する。
【0044】
S01:基板の上に核生成層を形成し、核生成層はAlN層またはGaN層である。
【0045】
一般に、核生成層20は、金属有機化学気相蒸着または分子線エピタキシの方法で、基板10の上に作製され得る。核生成層20の作製の前に、基板10に対して従来のクリーニングが実行され得る。
【0046】
本出願の具体的な実施態様では、核生成層20は、金属有機化学気相蒸着の方法で基板10の上に作製される。詳細は以下のとおりであり得、すなわち、処理された基板10を得るために、基板10が金属有機化学気相蒸着反応チャンバ内に置かれ、900°C~1100°Cの温度および30~60Torrの圧力下で水素とアンモニアとが3min~5min注入される。次いで、水素とアンモニアとアルミニウム源もしくはガリウム源とが注入され、核生成層20を得るために、処理された基板10の上に窒化アルミニウムまたは窒化ガリウムが蒸着される。本出願のこの実施態様では、蒸着プロセスにおけるパラメータは前述の範囲に限定されない。ガリウム源は、トリメチルガリウムおよびトリエチルガリウムを含むが、これらには限定されない。アルミニウム源は、トリメチルアルミニウムおよびトリエチルアルミニウムを含むが、これらには限定されない。
【0047】
S02:核生成層の上にバッファ層を形成する。
【0048】
本出願の一実施態様では、バッファ層30は、金属有機化学気相蒸着の方法で作製され得る。一般に、ステップS01で得られた核生成層を有する基板が金属有機化学気相蒸着反応チャンバ内に置かれる。次いで、900°C~1100°Cの温度および30~60Torrの圧力下で、水素とアンモニアとIII族金属源が注入され、バッファ層30を得るために、バッファ層30の上でのエピタキシャル成長によってIII族窒化物が得られる。III族金属源は、III族金属元素を含む有機化合物、例えば、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルアルミニウム、またはトリエチルアルミニウムである。バッファ層中の各III族窒化物の含有量を変化させるために、III族金属源の流れが変化させられ得、異なる厚さの窒化物層を得るために蒸着時間が制御され得る。
【0049】
S03:エピタキシャル層を形成するために、バッファ層の上にIII族窒化物をエピタキシャル成長させる。
【0050】
本出願の一実施態様では、エピタキシャル層40は、金属有機化学気相蒸着の方法で作製され得る。一般に、処理された基板10を得るために、ステップS02で得られた基板10が金属有機化学気相蒸着反応チャンバ内に置かれ、900°C~1100°Cの温度および30~60Torrの圧力下で水素とアンモニアとが3min~5min注入される。次いで、水素とアンモニアとIII族金属源が注入され、エピタキシャル層40を形成するために、バッファ層30の上でのエピタキシャル成長によってIII族窒化物が得られる。III族窒化物は、一般に、例えば、GaN、AlN、InN、AlGaN、InGaN、InAlNおよびInAlGaNのうちの1つまたは複数を含む。III族金属源は、III族金属元素を含む有機化合物、例えば、トリメチルガリウム、トリエチルガリウム、トリメチルアルミニウム、またはトリエチルアルミニウムである。
【0051】
本出願の一実施態様では、作製方法は、バッファ層30とエピタキシャル層40との間に遷移層50を形成するステップをさらに含み得る。具体的には、ステップS03の前に、バッファ層30の上に遷移層50が先ず作製され、次いで遷移層50の上にエピタキシャル層40が成長させられる。遷移層50の材料は、AlGaN層であり得る。
【0052】
本出願の一実施形態は、本出願の実施形態で提供される前述の窒化物エピタキシャル構造を含む半導体デバイスをさらに提供する。本出願の実施形態における窒化物エピタキシャル構造は、半導体デバイスの一部として直接使用され得るか、または半導体デバイス内で独立して使用され得る。半導体デバイスは、パワーデバイス(すなわち、電子パワーデバイス)、無線周波数デバイス、または光電デバイスを含むが、これらには限定されない。パワーデバイスまたは無線周波数デバイスはトランジスタであり得、一般に、電界効果トランジスタ、例えば、高電子移動度トランジスタ(High Electron Mobility Transistor、HEMT)であり得る。光電デバイスは、例えば、発光ダイオード(Light Emitting Diode、LED)またはレーザダイオード(Laser diode、LD)であり、一般に、窒化物系発光ダイオードまたは窒化物系量子井戸レーザダイオードであり得る。
【0053】
以下は、複数の実施形態を使用して、本出願の実施形態をさらに説明する。
【0054】
実施形態1
窒化物エピタキシャル構造は、基板と、基板の上に順に配置された、核生成層、バッファ層、エピタキシャル層、および他の機能層とを含む。基板の材料は、Si、サファイア、GaN、SiC、ダイヤモンド、SOIなどである。核生成層は、厚さ50nm~400nmを有するAlN核生成層である。バッファ層は、傾斜バンドギャップ差を有する構造層であり、AlGa1-xN/AlGa1-yNの上層と下層とを有する11個の2層構造を含む。各2層構造の平均のAl成分含有量は20%である。表1は、各2層構造におけるxおよびyの値、ならびに厚さTupperおよびTlowerを示す。エピタキシャル層はGaN層であり、GaNまたはAlGaNなどの炭素ドープ構造を含み得、100nm~3μmの厚さを有する。他の機能層は、エピタキシャル層の上に順に配置された以下の層、すなわち、厚さ1nmを有するAlN挿入層と、Al成分の範囲10%~30%および厚さ10nm~30nmを有するAlGaNバリア層と、p-GaN層であって、p型不純物がMgドーピングによって実装され、厚さの範囲が30nm~120nmである、p-GaN層と、を含み得る。
【0055】
【表1】
【0056】
順序番号が1~11の2層構造が積み重ねられて順に配置される。順序番号1を有する2層構造はエピタキシャル層の近くに配置され、順序番号11を有する2層構造は核生成層の近くに配置される。表1における周期性5は、各順序番号を有する2層構造が5回繰り返されることを意味する。具体的には、異なるバンドギャップ差を有する2層構造が同じ繰り返し周期性を有して11グループの2層構造を形成し、各グループは積み重ねられた5つの同じ2層構造を含む。具体的には、バッファ層は、5つの積み重ねられたAl0.5Ga0.5N/Al0.17Ga0.83Nの2層構造、5つの積み重ねられたAl0.55Ga0.45N/Al0.165Ga0.835Nの2層構造、などを含む。実施形態1の窒化物エピタキシャル構造では、バッファ層の11グループの2層構造のAl成分含有量差が、核生成層の一方の側からエピタキシャル層の一方の側に向かって徐々に減少する、すなわち、11グループの2層構造のバンドギャップ差が、核生成層の一方の側からエピタキシャル層の一方の側に向かって徐々に減少する、ということが表1から学習されることができる。加えて、実施形態1の2層構造の各グループの平均のAl成分含有量は同じであり、20%である。
【0057】
実施形態2
実施形態1からの差は、バッファ層がAlGa1-xN/AlGa1-yNの上層と下層とを有する51個の2層構造を含むということのみにある。表2は、各2層構造におけるxおよびyの値、ならびに上層の厚さTupperおよび下層の厚さTlowerを示す。
【0058】
【表2A】
【表2B】
【0059】
順序番号が1~51の2層構造が積み重ねられて順に配置される。順序番号1を有する2層構造はエピタキシャル層の近くに配置され、順序番号51を有する2層構造は核生成層の近くに配置される。表2における周期性1は、各順序番号を有する2層構造が1つのみ存在することを意味する。実施形態2の窒化物エピタキシャル構造では、バッファ層の51個の2層構造のAl成分含有量差が、核生成層の一方の側からエピタキシャル層の一方の側に向かって徐々に減少する、すなわち、51個の2層構造のバンドギャップ差が、核生成層の一方の側からエピタキシャル層の一方の側に向かって徐々に減少する、ということが表2から学習されることができる。加えて、実施形態2の各2層構造の平均のAl成分含有量は同じであり、20%である。実施形態1と比較して、実施形態2のバッファ層のバンドギャップ差間の傾斜間隔がより小さく、その結果、基板とエピタキシャル層との間の応力がより良好に調整されることができる。
【0060】
図7Aは、実施形態2に係る窒化物エピタキシャル構造における、バッファ層の、基板側に近い2層構造のTEMグラフである。図7Bは、実施形態2に係る窒化物エピタキシャル構造における、バッファ層の、基板側に近い2層構造のEDSグラフである。図7Bの2層構造は、表2の順序番号が49~51の3つの2層構造に対応する。基板側に近い2層構造では、大きなバンドギャップを有する上層のAl成分が100%に近く、Al成分は基板から離れた側に向かって徐々に減少する傾向を示す、ということが図7Aおよび図7Bから学習されることができる。図8Aは、実施形態2に係る窒化物エピタキシャル構造における、バッファ層の、エピタキシャル層側に近い2層構造のTEMグラフである。図8Bは、実施形態2に係る窒化物エピタキシャル構造における、バッファ層の、エピタキシャル層側に近い2層構造のEDSグラフである。図8Bの2層構造は、表2の順序番号が1~3の3つの2層構造に対応する。基板側に近い2層構造のAl含有量差は、エピタキシャル層側に近い2層構造のAl含有量差よりも大きい、ということが図7Bおよび図8Bから学習されることができる。
【0061】
注記:EDSグラフは、3つの元素、すなわち、Ga、Al、およびNの曲線を含んでいる。N元素が約50%を占めている。したがって、Al元素についての曲線上の各点の垂直座標値に2を乗じたものがAl成分含有量となる。測定誤差などの要因に起因して、測定された値が設計値と異なる場合がある。
【0062】
実施形態3
実施形態1からの差は、バッファ層がAlGa1-xN/AlGa1-yNの上層と下層とを有する11グループの2層構造を含むということにある。表3は、2層構造の各グループにおけるxおよびyの値、ならびに上層の厚さTupperおよび下層の厚さTlowerを示す。
【0063】
【表3】
【0064】
順序番号が1~11の2層構造が積み重ねられて順に配置される。順序番号1を有する2層構造はエピタキシャル層の近くに配置され、順序番号11を有する2層構造は核生成層の近くに配置される。表1における周期性5は、各順序番号を有する2層構造が5回繰り返されることを意味する。具体的には、異なるバンドギャップ差を有する2層構造が同じ繰り返し周期性を有して11グループの2層構造を形成し、各グループは積み重ねられた5つの同じ2層構造を含む。実施形態3の窒化物エピタキシャル構造では、バッファ層の11グループの2層構造のAl成分含有量差が、核生成層の一方の側からエピタキシャル層の一方の側に向かって徐々に減少する、すなわち、11グループの2層構造のバンドギャップ差が、核生成層の一方の側からエピタキシャル層の一方の側に向かって徐々に減少する、ということが表3から学習されることができる。加えて、実施形態3の11グループの2層構造の平均のAl成分含有量も、核生成層の一方の側からエピタキシャル層の一方の側に向かって徐々に減少する。
【符号の説明】
【0065】
10 基板
20 核生成層
30 バッファ層
40 エピタキシャル層
50 遷移層
60 他の機能層
61 AlN挿入層
62 AlGaNバリア層
63 P型GaN層
100 窒化物エピタキシャル構造
300 (III族窒化物の)2層構造
301 上層
302 下層
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B