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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】移動通信システム
(51)【国際特許分類】
   H04W 16/28 20090101AFI20240918BHJP
   H04W 84/06 20090101ALI20240918BHJP
   H04W 72/0446 20230101ALI20240918BHJP
   H04W 16/02 20090101ALI20240918BHJP
   H04B 7/06 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
H04W16/28
H04W84/06
H04W72/0446
H04W16/02
H04B7/06 152
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2024008134
(22)【出願日】2024-01-23
【審査請求日】2024-01-29
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501440684
【氏名又は名称】ソフトバンク株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100098626
【弁理士】
【氏名又は名称】黒田 壽
(74)【代理人】
【識別番号】100128691
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 弘通
(72)【発明者】
【氏名】藤井 輝也
(72)【発明者】
【氏名】藤井 隆史
【審査官】三枝 保裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-165729(JP,A)
【文献】国際公開第2014/097707(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/06
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上空に位置する飛行体又は浮揚体に設けられた中継通信局のサービスリンクアンテナを介して端末と無線通信する上空中継型基地局と、地上又は海上に配置されたサービスリンクアンテナを介して端末と無線通信する一又は複数の地上基地局とを備え、前記上空中継型基地局と前記地上基地局とは互いに時間同期制御された移動通信システムであって、
前記上空中継型基地局及び前記地上基地局はそれぞれ、同一周波数を用いるTDD(時分割複信)方式により端末との間のサービスリンクの無線通信を行い、
前記サービスリンクにおけるTDD方式の無線通信の送信タイミング及び受信タイミングは、前記上空中継型基地局と前記地上基地局との間で互いに逆とし、
前記上空中継型基地局は、前記地上基地局のサービスリンクアンテナの方向を推定し、推定した前記地上基地局のサービスリンクアンテナの方向に、前記上空中継型基地局のサービスリンクアンテナの指向性ビームのヌルを向けるように制御する、
ことを特徴とする移動通信システム。
【請求項2】
請求項1の移動通信システムにおいて、
前記飛行体又は前記浮揚体に搭載された前記中継通信局は送受信信号を再生せずに中継するリピータ中継装置で構成されている、ことを特徴とする移動通信システム。
【請求項3】
請求項1の移動通信システムにおいて、
前記飛行体又は前記浮揚体に搭載された前記中継通信局は、送受信信号を再生し、再生した信号を再変調して中継する基地局装置で構成されている、ことを特徴とする移動通信システム。
【請求項4】
請求項1の移動通信システムにおいて、
前記地上基地局は、前記上空中継型基地局のサービスリンクアンテナの方向を推定し、推定した前記上空中継型基地局のサービスリンクアンテナの方向に、前記地上基地局のサービスリンクアンテナの指向性ビームのヌルを向けるように制御する、ことを特徴とする移動通信システム。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれかの移動通信システムにおいて、
前記上空中継型基地局と前記地上基地局との間の制御を行う基地局間制御装置を更に備え、
前記基地局間制御装置は、前記上空中継型基地局で受信されゲートウェイ装置を介して受信したGNSS(全球測位衛星システム)の時刻情報と前記地上基地局で受信されたGNSS(全球測位衛星システム)の時刻情報とを用いて、それぞれ送信及び受信を逆とする送信タイミングの調整を行う、ことを特徴とする移動通信システム。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれかの移動通信システムにおいて、
前記上空中継型基地局と前記地上基地局との間の制御を行う基地局間制御装置を更に備え、
前記地上基地局又は前記地上基地局のサービスリンクアンテナに搭載されたGNSS(全球測位衛星システム)受信機で取得された位置情報をゲートウェイ装置及び前記基地局間制御装置を介して、前記上空中継型基地局に転送し、前記上空中継型基地局は、前記中継通信局の位置情報を基準にして前記地上基地局のサービスリンクアンテナの方向を推定する、ことを特徴とする移動通信システム。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれかの移動通信システムにおいて、
前記上空中継型基地局は、前記サービスリンクアンテナとしてアレイアンテナを有し、前記アレイアンテナを用いて前記地上基地局のサービスリンクアンテナからの電波の受信電力を測定し、前記受信電力の測定結果から前記地上基地局のサービスリンクアンテナの方向を推定する、ことを特徴とする移動通信システム。
【請求項8】
請求項1乃至4のいずれかの移動通信システムにおいて、
前記飛行体又は前記浮揚体は、通信衛星、高度18km以下を飛行するUAV(Unmanned Aerial Vehicle)、又は、高度18km以上の成層圏を飛行するHAPSである、ことを特徴とする移動通信システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、端末と無線通信可能な基地局を含む移動通信システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上空に位置する飛行体又は浮揚体として、高度18km以下を飛行するUAV、高度18km以上の成層圏を飛行するHAPSが知られている。また、上空に位置するUAV、HAPS(飛行体)等の飛行体又は浮揚体に設けられた中継通信局のサービスリンクアンテナを介して端末と無線通信する第1基地局としての上空中継型基地局と、陸上又は海上に配置されたアンテナを介して端末と無線通信する第2基地局としての地上基地局を備え、上空中継型基地局と地上基地局のサービスリンクにおいて同一周波数を共用し、共通仕様の端末との間で無線通信できるようにした移動通信システムが知られている。
【0003】
移動通信システムの上空中継型基地局と地上基地局との間の干渉の低減に適用可能な技術として、上空中継型基地局と地上基地局が互いに時間同期していることを前提とした時間領域(サブフレーム単位)で無線フレームを調整制御する干渉制御技術がある(例えば、特許文献1、非特許文献1参照)。この干渉制御技術は、LTE(Long Term Evolution)-Advanced標準に準拠した技術であり、eICIC(enhanced Inter-Cell Interference Coordination)とも呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-129793号公報
【非特許文献】
【0005】
【文献】「Overview of 3GPP」,Release 10,V0.2.1(2014-06).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記従来の干渉制御技術を適用する場合、上空中継型基地局と地上基地局がサービスリンクに割り当てられた周波数を時分割で利用するので、上空中継型基地局と地上基地局が利用する無線信号が時間軸上で直交し、相互の干渉は発生しない。しかしながら、周波数の時分割利用により、上空中継型基地局と地上基地局は共にサービスリンクに割り当てられた全周波数を利用できないため、各サービスリンクの端末の通信容量(最大伝送レート、ピークスループット)が低下する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本明細書に開示された一態様に係る移動通信システムは、上空に位置する飛行体又は浮揚体に設けられた中継通信局のサービスリンクアンテナを介して端末と無線通信する上空中継型基地局と、地上又は海上に配置された地上基地局とを備え、前記上空中継型基地局と前記地上基地局とは互いに時間同期制御された移動通信システムである。前記上空中継型基地局及び前記地上基地局はそれぞれ、同一周波数を用いるTDD(時分割複信)方式により端末との間のサービスリンクの無線通信を行う。前記サービスリンクにおけるTDD方式の無線通信の送信タイミング及び受信タイミングを前記上空中継型基地局と前記地上基地局との間で互いに逆とする。前記上空中継型基地局は、前記地上基地局のサービスリンクアンテナの方向を推定し、推定した前記地上局のサービスリンクアンテナの方向に、前記上空中継型基地局のサービスリンクアンテナの指向性ビームのヌルを向けるように制御する。
【0008】
前記移動通信システムにおいて、前記上空中継型基地局と前記地上基地局はGNSS(全球測位衛星システム)受信機で取得された時刻情報を用いてそれぞれ送信を逆とする送信タイミングの調整を行ってもよい。
【0009】
前記移動通信システムにおいて、前記飛行体又は前記浮揚体に搭載された前記中継通信局は送受信信号を再生せずに中継するリピータ中継装置(周波数変換リピータ中継装置)で構成してもよい。
【0010】
前記移動通信システムにおいて、前記飛行体又は前記浮揚体に搭載された前記中継通信局は、送受信信号を再生し、再生した信号を再変調して中継する基地局装置で構成してもよい。
【0011】
前記移動通信システムにおいて、前記上空中継型基地局は、前記地上基地局又は前記地上基地局のサービスリンクアンテナに搭載されたGNSS(全球測位衛星システム)受信機で取得された位置情報を、ゲートウェイ装置を介して受信し、前記中継通信局の位置情報を基準にして前記地上基地局のサービスリンクアンテナの方向を推定してもよい。
【0012】
前記移動通信システムにおいて、前記上空中継型基地局は、前記サービスリンクアンテナとしてアレイアンテナを有し、前記アレイアンテナを用いて前記地上基地局のサービスリンクアンテナからの電波到来方向を測定し、その測定結果から前記地上基地局のサービスリンクアンテナ方向を推定してもよい。
【0013】
前記移動通信システムにおいて、前記上空中継型基地局と前記地上基地局との間の制御を行う基地局間連携制御装置を更に備え、前記基地局間連携制御装置は、前記上空中継型基地局で受信されゲートウェイ装置を介して受信したGNSS(全球測位衛星システム)の時刻情報と前記地上基地局で受信されたGNSS(全球測位衛星システム)の時刻情報とを用いて、それぞれ送信及び受信を逆とする送信タイミングの調整を行ってもよい。
【0014】
前記移動通信システムにおいて、前記上空中継型基地局と前記地上基地局との間の制御を行う基地局間連携制御装置を更に備え、前記地上基地局又は前記地上基地局のサービスリンクアンテナに搭載されたGNSS(全球測位衛星システム)受信機で取得された位置情報をゲートウェイ装置及び前記基地局間連携制御装置を介して、前記上空中継型基地局に転送し、前記上空中継型基地局は、前記中継通信局の位置情報を基準にして前記地上基地局のサービスリンクアンテナの方向を推定してもよい。
【0015】
前記移動通信システムにおいて、前記地上基地局は、前記上空中継型基地局のサービスリンクアンテナの方向を推定し、推定した前記中継通信局のサービスリンクアンテナの方向に、前記地上基地局のサービスリンクアンテナの指向性ビームのヌルを向けるように制御してもよい。
【0016】
前記移動通信システムにおいて、前記地上基地局は、前記サービスリンクアンテナとしてアレイアンテナを有し、前記アレイアンテナを用いて前記中継通信局のサービスリンクアンテナからの電波到来方向を測定し、その測定結果から前記中継通信局のサービスリンクアンテナ方向を推定してもよい。
【0017】
前記移動通信システムにおいて、前記上空中継型基地局と前記地上基地局との間の制御を行う基地局間連携制御装置を更に備え、前記基地局間連携制御装置は、前記上空中継型基地局で受信されゲートウェイ装置を介して受信したGNSS(全球測位衛星システム)の時刻情報と前記地上基地局で受信されたGNSS(全球測位衛星システム)の時刻情報とを用いて、それぞれ送信及び受信を逆とする送信タイミングの調整を行ってもよい。
【0018】
前記移動通信システムにおいて、前記上空中継型基地局と前記地上基地局との間の制御を行う基地局間連携制御装置を更に備え、前記飛行体又は前記浮揚体に搭載されたGNSS(全球測位衛星システム)受信機で取得された位置情報をゲートウェイ装置及び前記基地局間連携制御装置を介して、前記地上基地局に転送し、前記地上基地局は、自地上基地局の位置情報を基準にして前記中継通信局のサービスリンクアンテナの方向を推定してもよい。
【0019】
前記移動通信システムにおいて、前記飛行体又は前記浮揚体は、通信衛星、高度18km以下を飛行するUAV(Unmanned Aerial Vehicle)、又は、高度18km以上の成層圏を飛行するHAPSであってもよい。
【0020】
本書に開示された移動通信システムによれば、上空に位置する飛行体又は浮揚体に設けられた中継通信局のサービスリンクアンテナ(上空中継型基地局アンテナ)からの下り回線の送信信号が地上基地局のサービスリンクアンテナ(地上基地局アンテナ)の上り回線への受信信号に与える干渉を低減できるとともに、地上基地局アンテナからの下り回線の送信信号が上空中継型基地局アンテナの上り回線の受信信号へ与える干渉を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施形態に係る移動通信システムの全体構成の一例を示す図である。
図2図2(a)は、実施形態の移動通信システムを構成するHAPS基地局の一例を構成する中継通信局の構成例を示す図である。図2(b)は、図2(a)に対応するHAPS-GWの構成例を示す図である。
図3図3(a)は、実施形態の移動通信システムを構成するHAPS基地局の他の例を構成する中継通信局の構成例を示す図である。図3(b)は、図3(a)に対応するするHAPS-GWの構成例を示す図である。
図4図4(a)は、参考例のシステム構成にHAPS基地局を適用した場合の地上基地局端末へのHAPS下り回線からの干渉の一例を示す図である。図4(b)は、現状の構成にHAPS基地局を適用した場合の上り回線への地上基地局端末からの干渉の一例を示す図である。
図5図5は、参考例のシステム構成にHAPS基地局を適用した場合にセル間干渉制御技術(eICIC)を適用したHAPS基地局及び地上基地局それぞれに設定される無線リソースの時間スロットの配置例を示す図である。
図6図6(a)は、実施形態に係る移動通信システムにおけるサービスリンクの伝送方式としてTDD(時分割多重)方式を利用する場合の地上基地局と地上基地局端末との間の上り回線及び下り回線を示す図である。図6(b)は、同TDD方式において地上基地局と地上基地局端末との間の上下回線で同一周波数が共用された周波数帯の一例を示す図である。図6(c)は、同TDD方式における地上基地局と地上基地局端末との間の上下回線の時間スロットの配置例を示す図である。
図7図7(a)は、従来のTDD方式を用いるシステム構成において、複数の地上基地局の間で送信タイミング及び受信タイミングを同期制御により一致させた場合の下り回線の干渉の一例を示す図である。図7(b)は、従来のTDD方式を用いるシステム構成において、複数の地上基地局の間で送信タイミング及び受信タイミングを同期制御により一致させた場合の上り回線の干渉の一例を示す図である。
図8図8は、従来のTDD方式を用いるシステム構成において、複数の地上基地局の間で送信タイミング及び受信タイミングを一致させる同期制御を行った場合の上下回線の時間スロットの配置例を示す図である。
図9図9は、実施形態に係る移動通信システムにおけるTDD方式を用いる地上基地局とHAPS基地局の間で送信タイミング及び受信タイミングを逆にする同期制御を行った場合の上下回線の時間スロットの配置例を示す図である。
図10図10(a)は、地上基地局とHAPS基地局の間で送信タイミング及び受信タイミングを逆にする同期制御を行った場合のHAPS基地局の上り回線への地上基地局からの干渉の一例を示す図である。図10(b)は、地上基地局とHAPS基地局の間で送信タイミング及び受信タイミングを逆にする同期制御を行った場合の地上基地局の上り回線へのHAPS基地局からの干渉の一例を示す図である。図10(c)は、図10(a)及び図10(b)の干渉をまとめて示した図である。
図11図11(a)は、実施形態に係るHAPS基地局のアンテナにおけるビームフォーミングにヌル・フォーミングを適用した場合の地上基地局の上り回線へのHAPS基地局からの干渉の低減を示す図である。図11(b)は、実施形態に係るHAPS基地局のアンテナにおけるビームフォーミングにヌル・フォーミングを適用した場合のHAPS基地局の上り回線への地上基地局からの干渉の低減を示す図である。図11(c)は、図11(a)及び図11(b)の干渉の低減をまとめて示した図である。
図12図12(a)は、実施形態に係るHAPS基地局のサービスリンクアンテナ及び中継通信局装置の一例を示す図である。図12(b)は、同HAPS基地局におけるビームフォーミングの一例を示す図である。
図13図13は、実施形態に係る移動通信システムにおける基地局間連携制御装置を介したHAPS搭載のGPS受信機の利用によるHAPS基地局のビームフォーミング制御の一例を示す図である。
図14図14は、実施形態に係るHAPS基地局におけるHAPS搭載のGPS受信機の利用によるビームフォーミング制御を行う場合のアンテナ及び中継通信局装置の要部構成の一例を示す図である。
図15図15は、実施形態に係るHAPS基地局における地上基地局電波到来方向推定によるビームフォーミング制御を行う場合のHAPS基地局のアンテナ及び中継通信局装置の要部構成の一例を示す図である。
図16図16は、実施形態に係るHAPS基地局における地上基地局電波到来方向推定によるビームフォーミング制御を行う場合のHAPS基地局のアンテナ及び中継通信局装置の要部構成の他の例を示す図である。
図17図17は、実施形態に係る地上基地局とHAPS基地局との間の送受信タイミングの制御の一例を示す図である。
図18図18は、実施形態に係る地上基地局とHAPS基地局との間の送受信タイミングの制御の一例を示す図である。
図19図19(a)は、実施形態に係るHAPS基地局及び地上基地局のそれぞれのアンテナにおけるビームフォーミングにヌル・フォーミングを適用した場合の地上基地局の上り回線への地上基地局からの干渉の低減を示す図である。図19(b)は、実施形態に係るHAPS基地局及び地上基地局のそれぞれのアンテナにおけるビームフォーミングにヌル・フォーミングを適用した場合のHAPS基地局の上り回線への地上基地局からの干渉の低減を示す図である。図19(c)は、図19(a)及び図19(b)の干渉の低減をまとめて示した図である。
図20図20(a)は、実施形態に係る地上基地局のアンテナ及び基地局装置の一例を示す図である。図20(b)は、同地上基地局におけるビームフォーミングの一例を示す図である。
図21図21は、実施形態に係る移動通信システムにおける基地局間連携制御装置を介したHAPS搭載のGPS受信機の利用による地上基地局のビームフォーミング制御の一例を示す図である。
図22図22は、実施形態に係る地上基地局におけるHAPS搭載のGPS受信機の利用によるビームフォーミング制御を行う場合のアンテナ及び基地局装置の要部構成の一例を示す図である。
図23図23は、実施形態に係る地上基地局におけるHAPS電波到来方向推定によるビームフォーミング制御を行う場合の地上基地局のアンテナ及び基地局装置の要部構成の一例を示す図である。
図24図24は、実施形態に係る地上基地局におけるHAPS電波到来方向推定によるビームフォーミング制御を行う場合の地上基地局のアンテナ及び基地局装置の要部構成の他の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して様々な実施形態について説明する。なお、各図は本発明の内容を理解でき得る程度に形状、大きさ及び位置関係を概略的に示してあるに過ぎず、従って、本発明は各図で例示された形状、大きさ及び位置関係のみに限定されるものではない。また、後述において例示する数値は、本発明の好適な例に過ぎず、従って、本発明は例示された数値に限定されるものではない。
【0023】
本実施形態では、上空中継型基地局としてのHAPS基地局(HAPSセルラシステム)と地上基地局(地上セルラシステム)とで同一周波数を共用する移動通信システムの例について主に説明するが、本発明は、上空中継型基地局の中継通信局がHAPS以外の飛行体又は浮揚体に設けられた移動通信システムにも適用できる。ここで、上空中継型基地局は、NTN(Non-Terrestrial Network:非地上系ネットワーク)で用いられる上空通信基地局であってもよい。NTNは、例えば、後述の通信衛星などの人工衛星と、成層圏に飛行させた無人航空機に通信機器などを搭載し広域のエリアに通信サービスを提供できる成層圏通信プラットフォームとしてのHAPS又はドローンと、を用いたネットワークであってもよい。
【0024】
図1は、本発明の一実施形態に係る移動通信システム(携帯電話システム)の構成の一例を示す図である。図1において、本実施形態の移動通信システムは、端末30と無線通信可能な複数の基地局として、第1基地局(上空中継型基地局)としてのHAPS基地局(HAPSセルラシステム)10と、第2基地局としての地上基地局(地上セルラシステム)20とを備えている。
【0025】
HAPS基地局10は、上空に位置する飛行体又は浮揚体としてのHAPS(「高高度疑似衛星」又は「高高度プラットフォーム局」)100に設けられた中継通信局11のサービスリンクアンテナ(「HAPS基地局アンテナ」ともいう。)112を介して端末(以下「HAPS基地局端末」ともいう。)30(1)と無線通信する。HAPS100は、例えばバッテリー及び太陽光発電システムの少なくとも一方を備え電力で飛行することができる。HAPS100は、図示のような飛行船型のHAPSのほか、ソーラープレーン型のHAPSであってもよい。また、中継通信局11が設けられる飛行体又は浮揚体は、HAPSのほか、人工衛星(例えば、通信衛星)、気球、ドローン、又は、航空機であってもよい。上記人工衛星は、例えば、地球表面から2,000kmまでの高度の軌道に位置するLEO(低軌道)衛星、2,000kmよりも高く36,000kmよりも低い高度の軌道に位置するMEO(中軌道)衛星、又は、36,000km付近の高度又は36,000kmよりも高い高度の軌道に位置するHEO(高軌道)衛星であってもよい。また、上記人工衛星は、GEO(静止軌道)衛星、準静止衛星、準天頂衛星、又は、非静止衛星であってもよい。また、中継通信局11が設けられる飛行体又は浮揚体は、無人であってもよいし、又は、有人であってもよい。例えば、上記飛行体又は浮揚体は、無人若しくは有人のHAPS、無人若しくは有人の人工衛星、無人若しくは有人の気球、無人又は有人のドローン、無人の航空機、又は、有人の航空機であってもよい。また、上記飛行体又は浮揚体は、無人ドローン、UAS(Unmanned Aircraft Systems)等の無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)であってもよい。また、上記飛行体又は浮揚体は、所定の強度を有するロープ、ケーブル、紐、ワイヤーなどの係留線を用いて他の装置(係留装置)に係留された係留型であってもよい。上記係留線で係留する目的は、給電及び信号伝送の目的を含んでもよい。上記係留型の飛行体又は浮揚体が係留される他の装置は、地上に固定配置された装置でもよいし、地上を移動可能な車両に設けられた装置でもよいし、海上、湖上などの水上を移動可能な船舶や浮き等に設けられた装置でもよいし、他の飛行体又は浮揚体に設けられた装置であってもよい。上記係留線は、給電線を含んでもよいし、光ファイバ等の通信線を含んでもよいし、その給電線及び通信線の両方を含んでもよい。例えば、上記係留型の飛行体又は浮揚体は、一又は複数の係留線(給電線)で係留された一又は複数の有線給電ドローンであってもよい。また、HAPS100、人工衛星、ドローン、気球、航空機、UAV等の飛行体又は浮揚体は、動力源として、バッテリー及びエンジンの少なくとも一方を備えて飛行してもよい。UAVは、例えば、燃料で飛行する無人飛行機、又は、バッテリー等で飛行するドローンであってもよい。
【0026】
中継通信局11を搭載するHAPS100は、例えば、自律制御又は外部から制御により地面G(又は海面)からの高度Hが100[km]以下の空域(浮揚空域)に浮遊あるいは飛行して位置するように制御されてもよい。HAPS100が位置する空域は、例えば、高度Hが18[km]以上及び50[km]以下の成層圏の空域であってもよい。この空域は、気象条件が比較的安定している高度15[km]以上25[km]以下の空域であってもよく、特に高度がほぼ20[km]の空域であってもよい。また、上記空域は、UAVに対しては高度0.1[km]以上及び18[km]以下の空域であってもよい。また、ドローンに対しては高度0.05[km]以上の空域であってもよい。
【0027】
中継通信局11は、フィーダリンク用アンテナ部(以下「FLアンテナ」ともいう。)111と、サービスリンク用アンテナ部(HAPS基地局アンテナ)112と、を備える。中継通信局11は、FLアンテナ111を介して、地上(又は海上)に設けられたHAPS用のゲートウェイ装置(以下「HAPS-GW」という。)12と間でフィーダリンクFLの通信を行うことができる。FLアンテナ111は、後述するように例えば指向方向を制御できるアレイアンテナであり、多数のアンテナ素子が2次元配列され、水平方向と垂直方向の指向性を制御できるMassiveアンテナであってもよい。
【0028】
また、中継通信局11は、HAPS基地局アンテナ112を介して、HAPS基地局端末30(1)と間でサービスリンクSL(1)の通信を行うことができる。HAPS基地局アンテナ112は、例えば指向方向を制御できるアレイアンテナであり、多数のアンテナ素子が2次元配列され、水平方向と垂直方向の指向性を制御できるMassiveアンテナであってもよい。
【0029】
HAPS-GW12は、有線又は無線の通信回線により移動通信網のコアネットワーク40に接続され、パラボラアンテナ、水平方向と垂直方向の指向性を制御できるMassiveアンテナ、等からなるフィーダリンク用アンテナ部(以下「FLアンテナ」ともいう。)121を備える。HAPS-GW12は、FLアンテナ121を介して、HAPS搭載の中継通信局11と間でフィーダリンクFLの通信を行うことができる。
【0030】
地上基地局20は、アンテナ部(以下「地上基地局アンテナ」ともいう。)21と、光ファイバ等の有線又は無線の通信回線により移動通信網のコアネットワーク40に接続された基地局装置22と、を備える。基地局装置22は、地上基地局アンテナ21を介して、端末(以下「地上基地局端末」ともいう。)30(2)と間でサービスリンクSL(2)の通信を行うことができる。地上基地局アンテナ21は、例えば指向方向を制御できるアレイアンテナであり、多数のアンテナ素子が2次元配列され、水平方向と垂直方向の指向性を制御できるMassiveアンテナであってもよい。
【0031】
HAPS基地局10のHAPS-GW12及び地上基地局20の基地局装置22はそれぞれ、光ファイバ等の有線又は無線の通信回線により基地局間連携制御装置(「基地局間ネットワーク連携制御装置」又は「システム間連携制御装置」ともいう。)50に接続されている。HAPS基地局10及び地上基地局20は、基地局間連携制御装置50を介して互いに時間同期され、HAPS基地局10は地上基地局20と送受信タイミングが逆となるようにタイミング制御が実行されている。
【0032】
HAPS基地局10及び地上基地局20はそれぞれ、例えばCPUやメモリ等を有するコンピュータ装置、コアネットワーク40や基地局間連携制御装置50に対する外部通信インターフェース部、無線通信部などのハードウェアを用いて構成され、所定のプログラムが実行されることにより、HAPS基地局端末30(1)と地上基地局端末30(2)の間の無線通信を行ったり、コアネットワーク40及び基地局間連携制御装置50との通信を行ったりすることができる。
【0033】
本実施形態の移動通信システムにおいて、HAPS基地局10のサービスリンクSL(1)の通信と地上基地局20のサービスリンクSL(2)の通信には、同一無線伝送方式が使用され、サービスリンクの周波数効率を高めるために同一周波数が共用されている。同無線伝送方式としては、同一周波数で、時分割により送受信するTDD(Time Division Duplex)方式を対象とし、例えば、LTE(Long Term Evolution)やLTE-Advancedの通信方式、第4世代携帯電話の通信方式、第5世代携帯電話又は、その後の次世代携帯電話の通信方式などのTDD方式を適用できる。
【0034】
HAPS基地局10に接続して通信可能なHAPS基地局端末30(1)及び地上基地局20に接続して通信可能な地上基地局端末30(2)は、同じ仕様の移動通信端末30である。端末30は、携帯電話機、スマートフォン、移動通信機能を有する携帯パソコン等であり、携帯端末、ユーザ装置(UE)、移動局、移動機、携帯型の通信端末とも呼ばれている。端末30は、自動車等の車両、ドローンなどの移動体に組み込まれたモジュール状の移動局であってもよいし、IoT(Internet of Things)向けデバイスの端末装置であってもよい。
【0035】
端末30は、例えばCPUやメモリ等を有するコンピュータ装置、無線通信部などのハードウェアを用いて構成され、所定のプログラムが実行されることにHAPS基地局10及び地上基地局20のそれぞれとの間の無線通信等を行うことができる。
【0036】
本実施形態のHAPS基地局10は、上空のHAPS100に搭載された中継通信局11で構成され、又は、中継通信局11及び地上(又は海上)に設けられたHAPS-GW12で構成されている。
【0037】
図2(a)は、実施形態の移動通信システムにおけるHAPS基地局10の一例を構成する中継通信局11の構成例を示す図である。本構成例において、中継通信局11は、サービスリンクと周波数の異なるフィーダリンクの周波数を変換する無線中継装置(以下「周波数変換リピータ」という。)である。下り回線では、中継通信局11は、HAPS-GW12から送信されたフィーダリンクの周波数をサービスリンクの周波数に変換し、HAPS基地局端末30(1)に送信する。一方、上り回線では、中継通信局11は、HAPS基地局端末30(1)から送信されたサービスリンクの周波数をフィーダリンクの周波数に変換し、HAPS-GW12に送信する。
【0038】
本例におけるHAPS基地局10の中継通信局11は、リピータ113と周波数変換装置114とを有するリピータ中継装置(周波数変換リピータ)で構成されている。リピータ113は、HAPS基地局アンテナ112を介して受信したサービスリンクSL(1)の受信信号を増幅する低ノイズ増幅器、HAPS基地局アンテナ(SLアンテナ)12を介して送信するサービスリンクSL(1)の送信信号を増幅する電力増幅器等を有する。周波数変換装置114は、サービスリンクSL(1)の周波数とフィーダリンクFLの周波数との間の変換を行う。
【0039】
図2(b)は、図2(a)に対応するHAPS-GW12の構成例を示す図である。本例におけるHAPS-GW12は、基地局装置(以下「HAPS基地局装置」ともいう。)122と周波数変換装置123を有する。基地局装置122は、サービスリンクのベースバンド信号を処理するベースバンド処理装置、バックホール回線を介してコアネットワーク40と通信するための通信インターフェース部等を有する。周波数変換装置123は、基地局装置122に対して入出力されるサービスリンク信号の周波数と、FLアンテナ121を介して送受信されるフィーダリンク信号の周波数との間の変換を行う。また、HAPS-GW12は、地上基地局20との間でサービスリンクSLの送受信タイミングを調整したりHAPS100の位置情報を転送したりするために、基地局間連携制御装置50との通信を行う機能も有する。
【0040】
図3(a)は、実施形態の移動通信システムにおけるHAPS基地局10の他の例を構成する中継通信局11の構成例を示す図である。本構成例において、HAPS基地局10の中継通信局11は、通常の地上基地局と同様な基地局装置と、HAPS基地局10の中継通信局11とHAPS-GWとの間のフィーダリンクはサービスリンクとは異なる周波数を用いたフィーダリンク送受信機とで構成されている。フィーダリンクでは、サービスリンクとは異なり、適宜最適な無線伝送方式を選択することができる。
【0041】
本例におけるHAPS基地局10の中継通信局11は、地上基地局20の基地局装置(以下「地上基地局装置」ともいう。)22と同等の基地局装置115とフィーダリンク送受信機116とを有する。基地局装置115は、HAPS基地局アンテナ112を介して受信したサービスリンクSL(1)の受信信号を増幅する低ノイズ増幅器、HAPS基地局アンテナ112を介して送信するサービスリンクSL(1)の送信信号を増幅する電力増幅器、サービスリンクのベースバンド信号処理するベースバンド処理装置などを有する。フィーダリンク送受信機116は、HAPS-GW12との間で、FLアンテナ111を介して送受信されるバックホール回線の信号の送信及び受信を行う。
【0042】
図3(b)は、図3(a)に対応するHAPS-GW12の構成例を示す図である。本例におけるHAPS-GW12は、フィーダリンク送受信機124を有する。フィーダリンク送受信機124は、HAPS100に搭載された上空の中継通信局11との間で、FLアンテナ121を介して送受信されるバックホール回線の信号の送信及び受信を行う。更に、フィーダリンク送受信機124は、バックホール回線を介してコアネットワーク40と通信する。また、HAPS-GW12は、地上基地局20との間でサービスリンクSLの送受信タイミングを調整したりHAPS100の位置情報を転送したりするために、基地局間連携制御装置50との通信を行う機能も有する。
【0043】
図1のようなHAPS基地局10と地上基地局20を備える構成で、FDD方式あるいはTDD方式においてHAPS基地局10と地上基地局20が同一タイミングで電波を送信し、又はHAPS基地局端末30(1)と地上基地局端末30(2)が同一タイミングで信号を送信すれば、上空のHAPSセルラシステムと地上セルラシステムとの間で干渉が発生するおそれがある。例えば、図4(a)に示すように、上空のHAPS100に搭載された中継通信局11からHAPS基地局端末30(1)にHAPS下り回線の信号を送信しているとき、そのHAPS下り回線の送信信号が、地上基地局20から地上下り回線の信号を受信している地上基地局端末30(2)に到達し、地上基地局端末30(2)へのHAPS下り回線からの干渉が発生するおそれがある。また、図4(b)に示すように、地上基地局端末30(2)から地上基地局20に地上上り回線の信号を送信しているとき、その地上上り回線の送信信号が、HAPS基地局端末30(1)からHAPS上り回線の信号を受信している上空のHAPS100の中継通信局11に到達し、HAPS100に搭載された中継通信局11のHAPS上り回線への地上基地局端末30(2)からの干渉が発生するおそれがある。
【0044】
従来、複数の基地局の間の干渉を制御する技術として、前述のLTE-Advanced標準に準拠したeICICと呼ばれるセル間干渉制御技術が知られている。
【0045】
図5は、参考例のシステム構成にHAPS基地局を適用した場合にセル間干渉制御技術(eICIC)を適用した場合のHAPS基地局10及び地上基地局20それぞれに設定される無線リソースの時間スロットの配置例を示す図である。図5に示すように、従来のセル間干渉制御技術(eICIC)では、同一周波数の無線リソースを時分割して、HAPS基地局10及び地上基地局20のそれぞれに互いに異なる時間スロットを割り当てる。これにより、無線リソースが時間軸上で直交するので、HAPS基地局10及び地上基地局20との間の同一周波数における干渉を相互に回避することができる。しかしながら、従来のセル間干渉制御技術(eICIC)では、HAPS基地局10及び地上基地局20それぞれにおいて無線リソース(時間スロット)を時分割して利用する。そのため、実施形態の移動通信システムに割り当てられた全周波数(全時間)を利用できず、HAPS基地局10及び地上基地局20のそれぞれのサービスリンクの通信容量(最大伝送レート、ピークスループット)が低下する。特に、セル内の端末数が多い地上基地局20に接続する地上基地局端末の通信容量が低下する。
【0046】
本実施形態では、HAPS基地局10と地上基地局20との間の干渉を回避するとともにHAPS基地局10及び地上基地局20のそれぞれのサービスリンクの通信容量(最大伝送レート、ピークスループット)の低下を防止するため、各基地局10,20のサービスリンクの送受信方式として、移動通信の第5世代などの標準規格で採用されているTDD(時分割複信)方式を用いる。
【0047】
TDD(時分割複信)方式では、上り回線及び下り回線で同一周波数を利用し、上り回線及び下り回線で時間スロットを時分割して利用する。例えば地上基地局20において、図6(a)及び図6(b)に示すように地上基地局20と地上基地局端末30(2)との間の上り回線及び下り回線で同一周波数が利用される。そして、図6(c)に示すように、地上基地局20から地上基地局端末30(2)への下り回線の送信(基地局送信)と、地上基地局端末30(2)から地上基地局20への上り回線の送信(端末送信)との間で、時間軸上の無線リソース(時間スロット)を時分割多重して利用する。
【0048】
本実施形態のHAPS基地局10及び地上基地局20においてTDD(時分割複信)方式を利用する場合、HAPS基地局10と地上基地局20との間の干渉を回避する後述の干渉低減技術を適用することにより、HAPS基地局10及び地上基地局20は同一周波数を完全に共用することができる。更に、HAPS基地局10及び地上基地局20は、移動通信システムに割り当てられた全周波数(全時間)を利用可能になるため、各基地局10、20のサービスリンクの通信容量の低下を防止できる。特に、セル内の端末数が多い地上基地局20に接続する地上基地局端末の通信容量の低下を防止できる。
【0049】
従来のTDD方式を利用する複数の基地局で同一周波数を共用するシステムでは、各基地局の上下回線での干渉を回避するために、例えば図7に示すように、複数の基地局20(1)、20(2)の間で、基地局から端末へ送信する下り回線の基地局送信の送信タイミングを一致させるとともに、端末から基地局へ送信する上り回線の端末送信の送信タイミングを一致させるように、同期制御を行う。
【0050】
地上基地局20を用いる地上セルラシステムの通信方式(以下「地上セルラ方式」という。)とHAPS基地局10を用いるHAPSセルラシステムの通信方式(以下「HAPSセルラ方式」という。)を同時に利用すると、図8(a)に示すように特にサービスリンクの下り回線においては広域に信号を送信するHAPS基地局10からの干渉波により、地上セル20Cに在圏する多くの地上基地局端末30(2)の通信品質が劣化し、図8(b)に示すように上り回線においては非常に多くの地上基地局端末30(2)が送信する信号により、HAPSセル10Cに在圏するHAPS基地局端末30(1)の通信品質が劣化するおそれがある。そのため、地上セルラ方式とHAPSセルラ方式を同時に利用するためには干渉を低減するする必要がある、
【0051】
本実施形態の移動通信システムでは、HAPS基地局10と地上基地局20との間で送信タイミング及び受信タイミングを互いに逆にしている。
【0052】
図9は、実施形態に係る移動通信システムにおけるTDD方式を用いる地上基地局20とHAPS基地局10の間で送信タイミング及び受信タイミングを逆にする同期制御を行った場合の上下回線の時間スロットの配置例を示す図である。図9に示す連続する複数の送受信フレーム(無線フレーム)のそれぞれにおいて、地上基地局20から地上基地局端末30(2)への下り回線の送信タイミングおよび送信期間は、HAPS基地局端末30(1)からHAPS基地局10への上り回線の送信タイミングおよび送信期間に一致している。一方、地上基地局端末30(2)から地上基地局20への上り回線の送信タイミングおよび送信期間は、HAPS基地局10からHAPS基地局端末30(1)への下り回線の送信タイミングおよび送信期間に一致している。
【0053】
ここで、地上基地局20とHAPS基地局10はGNSS(全球測位衛星システム)受信機で取得された時刻情報を用いてそれぞれ送信を逆とする送信タイミングの調整を行ってもよい。
【0054】
図9に示すようにHAPS基地局10と地上基地局20の送信タイミングと受信タイミングを上下回線で互いに逆にすることにより、図8に示すHAPS基地局10と地上基地局20の送信タイミングと受信タイミングを上下回線で同じ場合と比べて干渉の受け方が大きく変わる。
【0055】
図10(a)に示すように、地上基地局20の下り回線はHAPS基地局10のサービスリンクの上り回線となる。従って、地上基地局アンテナ21から送信された下り送信の電波は同図に示すようにHAPS基地局アンテナ112に到達し、地上基地局20の下り回線がHAPS基地局10のサービスリンク上り回線への干渉となる。
【0056】
なお、地上基地局端末30(2)とHAPS基地局端末30(1)とは比較的離れた距離に位置し、共に地上に位置していることからそれらの端末間には建物などの多くの遮蔽物が存在し、HAPS基地局端末30(1)の上り回線の送信信号が地上基地局端末30(2)に到達して受信される干渉信号電力は一般に無視できる程小さい。
【0057】
一方、図10(b)に示すように地上基地局20の上り回線はHAPS基地局10のサービスリンクの下り回線となる。従って、HAPS基地局アンテナ112から送信されたサービスリンクの下り送信の電波は同図に示すように地上基地局アンテナ21に到達し、地上基地局20の上り回線への干渉となる。
【0058】
なお、HAPS基地局端末30(1)と地上基地局端末30(2)とは比較的離れた距離に位置し、共に地上に位置していることからそれらの端末間には建物などの多くの遮蔽物が存在し、地上基地局端末30(2)の上り回線の送信信号がHAPS基地局端末30(1)に到達して受信される干渉信号電力は一般に無視できる程小さい。
【0059】
図10(a)及び図10(b)をまとめると、図10(c)に示すように地上セルラシステムとHAPSセルラシステムが同一周波数を共用する場合は、地上基地局アンテナ21とHAPS基地局のサービスリンクアンテナ(HAPS基地局アンテナ)112との間の干渉に集約できる。すなわち、地上基地局アンテナ21とHAPS基地局のサービスリンクアンテナ112との間の干渉を低減すれば、地上セルラシステムとHAPSセルラシステムは同一周波数を共用できる。
【0060】
そこで、本実施形態では、HAPS基地局10が、地上基地局20のサービスリンクアンテナ(地上基地局アンテナ)21の方向を推定し、その方向にHAPS基地局のサービスリンクアンテナ(HAPS基地局アンテナ)112の指向性ビームのヌルを向けるヌル・フォーミングを適用することにより、図11(a)及び図11(b)に示すように干渉の低減を同時に実現している。図11(a)及び図11(b)をまとめると図11(c)となり、提案するヌル・フォーミングにより地上基地局アンテナ21とHAPS基地局のサービスリンクアンテナ112との間の干渉を同時に低減でき、地上セルラシステムとHAPSセルラシステムは同一周波数を共用できる。上記ヌル・フォーミングは、地上基地局アンテナ21の方向にHAPS基地局アンテナ112の指向性のヌルを向けて、その方向の送信電力及び受信電力を大幅に抑圧するヌル・フォーミングである。
【0061】
図12(a)は、実施形態に係るHAPS基地局10のサービスリンクアンテナ(HAPS基地局アンテナ)112及び中継通信局装置110の一例を示す図である。図12(b)は、同HAPS基地局10におけるビームフォーミングの一例を示す図である。本実施形態では、図12(a)に示すようにHAPS基地局アンテナ112に、多数のアンテナ素子1120を2次元配列したアレイアンテナであるMassiveアンテナを用いている。中継通信局装置110は、送受信装置1101とヌル・フォーミング部1102を備える。
【0062】
ヌル・フォーミング部1102は、HAPS基地局アンテナ112の複数のアンテナ素子1120を介して送信する信号それぞれに所定のヌル・フォーミングを行うための振幅及び位相を生成し(以下、送信ヌル・フォーミングウェイト)、送受信装置1101から出力される各アンテナ素子1120の送信信号に送信ヌル・フォーミングウェイトを重畳して送信信号を生成する送信信号処理と、HAPS基地局アンテナ112の複数のアンテナ素子1120を介して受信した受信信号それぞれに所定のヌル・フォーミングを行うための振幅及び位相を生成し(以下、受信ヌル・フォーミングウェイト)、それぞれの受信信号に受信ヌル・フォーミングウェイトを重畳して送受信装置1101への受信信号を生成する受信信号処理を行う。なお、TDD方式では送信ヌル・フォーミングウェイトと受信ヌル・フォーミングウェイトは同一であってもよい。
【0063】
送信および受信ヌル・フォーミングウェイトは、例えば自局のHAPS基地局アンテナ112の位置情報(HAPS100の位置情報)と地上基地局アンテナ21の位置情報とからHAPS基地局から観測した地上基地局の方向(水平面における水平角θ、垂直面における仰角φ)に基づいて計算される。
【0064】
HAPS基地局アンテナ112のアンテナ素子数が非常に多く、例えばMassive アンテナで構成されるような場合は、ヌル・フォーミング部1102で生成する送信および受信ヌル・フォーミングウェイトを適宜制御することにより、地上基地局アンテナ21の方向に指向性のヌルを向けつつ、HAPS基地局端末30(1)の方向にHAPS基地局アンテナ112の指向性ビームBnfを向けることが可能である。
【0065】
上記ヌル・フォーミングを伴うビームフォーミング制御としては、例えば、HAPS搭載のGNSS(全球測位衛星システム)受信機で取得された位置情報を利用してヌル・ビームフォーミングウェイトを作成する方法、HAPS基地局アンテナのビームフォーミング機能により、水平面、垂直面内を一定角度(Δθ、Δφ)毎にビームを走査して、地上基地局のサービスリンクアンテナで送信している下り回線信号の受信電力を測定し、その最大受信電力となる方向を地上基地局の方向と推定してヌル・ビームフォーミングウェイトを作成する制御等を用いることができる。
【0066】
図13は、実施形態に係る移動通信システムにおける基地局間連携制御装置50を介したHAPS搭載のGPS受信機15の利用によるHAPS基地局10のビームフォーミング制御の一例を示す図である。なお、本例は、GNSS受信機がGPS人工衛星からの信号を受信するGPS受信機15である場合の例であるが、GPS以外の他のGNSSの人工衛星からの信号を受信するGNSS受信機を用いてもよい。
【0067】
図13において、上空の中継通信局11を搭載するHAPS100はGPS受信機15を備える。GPS受信機で取得されたHAPS100の位置情報は、HAPS基地局10(例えば、中継通信局11)に記憶(所定のタイミングで更新)され、HAPS基地局10のビームフォーミング制御に用いられる。各地上基地局20の位置情報は、各地上基地局20から基地局間連携制御装置50を介してHAPS-GW12に送信される。HAPS-GW12は、各地上基地局20から受信した各地上基地局20の位置情報を、フィーダリンクFLを介してHAPS基地局10(例えば、中継通信局11)に転送する。なお、地上基地局20又は地上基地局アンテナ21はGPS受信機15を備え、そのGPS受信機で取得された位置情報を地上基地局20の位置情報としてHAPS基地局10(例えば、中継通信局11)に転送してもよい。
【0068】
図14は、実施形態に係るHAPS基地局10におけるHAPS搭載のGPS受信機の利用によるアンテナのヌル・フォーミングを行う場合のアンテナ(HAPS基地局アンテナ)112及び中継通信局装置110の要部構成の一例を示す図である。なお、図14において、前述の図12(a)と共通する部分については同じ符号を付して説明を省略する。
【0069】
図14において、中継通信局装置110は、電波到来方向推定部1103とウェイト算出部1104とを備える。電波到来方向推定部1103は、自局の位置情報と、基地局間連携制御装置50を介して転送されてきた地上基地局20の位置情報とに基づいて、自局の位置を基準にした地上基地局20の方向(地上基地局のサービスアンテナの方向)の水平角θ及び仰角φを算出する。ウェイト算出部1104は、電波到来方向推定部1103で推定した電波到来方向を既知として、ヌル・フォーミング技術である、例えば方向拘束付出力電力最小化法DCMP(Directionally Constrained Minimization of Power)により、ヌル・フォーミングウェイトWを算出する。ウェイト算出部1104で算出したウェイトWは、ヌル・フォーミング部1102に設定され、HAPS基地局アンテナ112の各アンテナ素子1120を介して送信される送信信号及びHAPS基地局アンテナ112の各アンテナ素子1120を介して受信された受信信号に重畳される。
【0070】
図15は、実施形態に係るHAPS基地局10における地上基地局電波到来方向推定をビーム走査により行う場合のHAPS基地局10のアンテナ(HAPS基地局アンテナ)112及び中継通信局装置110の要部構成の一例を示す図である。この例は垂直面である仰角方向のビーム走査により地上基地局20からの電波到来方向を推定する例である。実際には、水平面及び垂直面内で一定角度(Δθ、Δφ)毎に走査を行い、受信電力が最大の方向(θ、φ)=(nΔθ、mΔφ)(n,mは整数)を探索する。一般に、受信電力が最大となる方向が地上基地局20のサービスリンクアンテナ(地上基地局アンテナ)21の方向となる。なお、図15において、前述の図12(a)及び図14と共通する部分については同じ符号を付して説明を省略する。
【0071】
図15において、中継通信局装置110は、電波到来方向推定部1103とビーム走査部1105と受信電力測定部1106とを備える。ビーム走査部1105で上空の垂直面内を一定の角度ビームBで走査しながら、アンテナ112を介して受信した受信電力を受信電力測定部1106で測定する。電波到来方向推定部1103は、受信電力が最大となるビームBの方向の水平角θ及び仰角φを、地上基地局20の電波到来方向(水平角θ及び仰角φ)とする。
【0072】
図16は、実施形態に係るHAPS基地局10における地上基地局電波到来方向推定によるビームフォーミング制御を行う場合のHAPS基地局10のアンテナ(HAPS基地局アンテナ)112及び中継通信局装置110の要部構成の他の例を示す図である。図16の例は、電波到来角度推定による地上基地局の電波到来方向推定の例である。なお、図16において、前述の図12(a)及び図14と共通する部分については同じ符号を付して説明を省略する。
【0073】
図16において、中継通信局装置110は、電波到来方向推定部1103と電波到来角度測定部1107とを備える。電波到来角度測定部1107は、地上基地局20の下り回線送信時に、アレイアンテナ(Massiveアンテナ)112を用いて、その下り回線の電波到来角度方向(水平角θ、仰角φ)を信号処理により推定する。電波到来角度方向の推定技術としては、例えば電波到来角度測定技術「MUSIC技術」がある。電波到来方向推定部1103は、電波到来角度測定部1107で推定された電波到来角度方向(水平角θ及び仰角φ)を、地上基地局の電波到来方向(水平角θ及び仰角φ)とする。
【0074】
図15及び図16のそれぞれにおいて推定された地上基地局の電波到来方向(水平角θ及び仰角φ)を既知として、前述のウェイト算出部1104は、例えばヌル・フォーミング技術である方向拘束付出力電力最小化法DCMP(Directionally Constrained Minimization of Power)により、ウェイトWを算出する。
【0075】
図17及び図18はそれぞれ、実施形態に係る地上基地局20とHAPS基地局10との間の送受信タイミングの制御の一例を示す図である。本実施形態の移動通信システムでは、地上基地局20とHAPS基地局10の送受信タイミングを逆にする必要があるため、システム間(基地局間)連携制御装置50により、地上基地局20とHAPS基地局10の送受信フレーム時間が逆になるように、地上基地局20及びHAPS基地局10の送受信タイミングを調整する。図17の例では、送受信タイミングの調整をHAPS-GW12で行っている。図18の例では、送受信タイミングの調整をHAPS100に搭載された中継通信局11で行っている。
【0076】
なお、以上説明した図11図18の実施形態において、地上基地局20によるヌル・フォーミングを更に適用してもよい。例えば、以下に示すように、地上基地局20が、HAPS基地局10のサービスリンクアンテナ(HAPS基地局アンテナ)112の方向を推定し、その方向に地上基地局アンテナ21の指向性ビームのヌルを向けるヌル・フォーミングを更に適用してもよい。
【0077】
図19(a)は、実施形態に係るHAPS基地局10及び地上基地局20のそれぞれのアンテナにおけるビームフォーミングにヌル・フォーミングを適用した場合のHAPS基地局の上り回線への地上基地局20からの干渉の低減を示す図である。図19(b)は、実施形態に係るHAPS基地局10及び地上基地局20のそれぞれのアンテナにおけるビームフォーミングにヌル・フォーミングを適用した場合の地上基地局20の上り回線へのHAPS基地局10からの干渉の低減を示す図である。地上基地局20は、上空のHAPS基地局のサービスリンクアンテナ(HAPS基地局アンテナ)112の方向を推定し、その方向に地上基地局アンテナ21の指向性ビームのヌルを向けるヌル・フォーミングを適用する。更に、HAPS基地局10は、地上基地局20のアンテナ21の方向を推定し、その方向にHAPS基地局のサービスリンクアンテナ(HAPS基地局アンテナ)112の指向性ビームのヌルを向けるヌル・フォーミングを適用する。これらのヌル・フォーミングを適用することにより、図19(a)及び図19(b)に示すように干渉の低減を同時に実現している。図19(a)及び図19(b)をまとめると図19(c)となり、提案するヌル・フォーミングにより地上基地局アンテナ21とHAPS基地局のサービスリンクアンテナ(HAPS基地局アンテナ)112との間の干渉を同時に更に低減でき、地上セルラシステムとHAPSセルラシステムは同一周波数を共用できる。
【0078】
ここで、上記地上基地局20におけるヌル・フォーミングは、HAPS基地局アンテナ112の方向に地上基地局アンテナ21の指向性のヌルを向けて、その方向の送信電力及び受信電力を大幅に抑圧するヌル・フォーミングである。また、上記HAPS基地局10におけるヌル・フォーミングは、地上基地局アンテナ21の方向にHAPS基地局アンテナ112の指向性のヌルを向けて、その方向の送信電力及び受信電力を大幅に抑圧するヌル・フォーミングである。
【0079】
図20(a)は、実施形態に係る地上基地局20のアンテナ(地上基地局アンテナ)21及び基地局装置22の一例を示す図である。図20(b)は、同地上基地局20におけるビームフォーミングの一例を示す図である。図20(a)の例では、地上基地局アンテナ21に、多数のアンテナ素子210を2次元配列したアレイアンテナであるMassiveアンテナを用いている。基地局装置22は、送受信装置221とヌル・フォーミング部222を備える。
【0080】
ヌル・フォーミング部222は、地上基地局アンテナ21の複数のアンテナ素子210を介して送信する信号それぞれに所定のヌル・フォーミングを行うための振幅及び位相を生成し(以下、送信ヌル・フォーミングウェイト)、送受信装置221から出力される各アンテナ素子210の送信信号に送信ヌル・フォーミングウェイトを重畳して送信信号を生成する送信信号処理と、地上基地局アンテナ21の複数のアンテナ素子を介して受信した受信信号それぞれに所定のヌル・フォーミングを行うための振幅及び位相を生成し(以下、受信ヌル・フォーミングウェイト)、それぞれの受信信号に受信ヌル・フォーミングウェイトを重畳して送受信装置221への受信信号を生成する受信信号処理を行う。なお、地上基地局20においても、TDD方式では送信ヌル・フォーミングウェイトと受信ヌル・フォーミングウェイトは同一であってもよい。
【0081】
送信および受信ヌル・フォーミングウェイトは、例えば自局の地上基地局アンテナ21の位置情報とHAPS基地局アンテナ112の位置情報(HAPS100の位置情報)とから地上基地局から観測したHAPS基地局の方向(水平面における水平角θ、垂直面における仰角φ)に基づいて計算される。
【0082】
地上基地局アンテナ21のアンテナ素子数が非常に多く、例えばMassive アンテナで構成されるような場合は、ヌル・フォーミング部222で生成する送信および受信ヌル・フォーミングウェイトを適宜制御することにより、HAPS基地局アンテナ112の方向に指向性のヌルを向けつつ、地上基地局端末30(2)の方向に地上基地局アンテナ21の指向性ビームBnfを向けることが可能である。
【0083】
上記ヌル・フォーミングを伴うビームフォーミング制御としては、例えば、HAPS搭載のGNSS受信機で取得された位置情報を利用してヌル・ビームフォーミングウェイトを作成する方法、地上基地局アンテナのビームフォーミング機能により、水平面、垂直面内を一定角度(Δθ、Δφ)毎にビームを走査して、HAPS基地局のサービスリンクアンテナで送信している下り回線信号の受信電力を測定し、その最大受信電力となる方向をHAPSの方向と推定してヌル・ビームフォーミングウェイトを作成する制御等を用いることができる。
【0084】
図21は、実施形態に係る移動通信システムにおける基地局間連携制御装置50を介したHAPS搭載のGPS受信機15の利用による地上基地局20のビームフォーミング制御の一例を示す図である。なお、本例は、GNSS受信機がGPS人工衛星からの信号を受信するGPS受信機15である場合の例であるが、GPS以外の他のGNSSの人工衛星からの信号を受信するGNSS受信機を用いてもよい。
【0085】
図21において、上空の中継通信局11を搭載するHAPS100はGPS受信機15を備える。GPS受信機で取得されたHAPS100の位置情報は、中継通信局11からフィーダリンクFLを介してHAPS-GW12に送信される。HAPS-GW12は、中継通信局11から受信したHAPS100の位置情報を、基地局間連携制御装置50を介して各地上基地局20に転送する。各地上基地局20において、基地局間連携制御装置50を介して受信されたHAPS100の位置情報はビームフォーミング制御に用いられる。
【0086】
なお、図21において、前述の図13と同様に、GPS受信機で取得されたHAPS100の位置情報は、HAPS基地局10(例えば、中継通信局11)に記憶(所定のタイミングで更新)され、HAPS基地局10のビームフォーミング制御にも用いられる。また、各地上基地局20の位置情報は、各地上基地局20から基地局間連携制御装置50を介してHAPS-GW12に送信される。HAPS-GW12は、各地上基地局20から受信した各地上基地局20の位置情報を、フィーダリンクFLを介してHAPS基地局10(例えば、中継通信局11)に転送する。
【0087】
図22は、実施形態に係る地上基地局20におけるHAPS搭載のGPS受信機の利用によるアンテナのヌル・フォーミングを行う場合のアンテナ(地上基地局アンテナ)21及び基地局装置22の要部構成の一例を示す図である。なお、図22において、前述の図20(a)と共通する部分については同じ符号を付して説明を省略する。
【0088】
図22において、基地局装置22は、電波到来方向推定部223とウェイト算出部224とを備える。電波到来方向推定部223は、自局の位置情報と、基地局間連携制御装置50を介して転送されてきたHAPS100の位置情報とに基づいて、自局の位置を基準にしたHAPS100の方向(HAPS基地局のサービスアンテナの方向)の水平角θ及び仰角φを算出する。ウェイト算出部224は、電波到来方向推定部223で推定した電波到来方向を既知として、ヌル・フォーミング技術である、例えば方向拘束付出力電力最小化法DCMPにより、ヌル・フォーミングウェイトWを算出する。ウェイト算出部224で算出したウェイトWは、ヌル・フォーミング部222に設定され、地上基地局アンテナ21の各アンテナ素子210を介して送信される送信信号及び地上基地局アンテナ21の各アンテナ素子210を介して受信された受信信号に重畳される。
【0089】
図23は、実施形態に係る地上基地局20におけるHAPS電波到来方向推定をビーム走査により行う場合の地上基地局20のアンテナ(地上基地局アンテナ)21及び基地局装置22の要部構成の一例を示す図である。この例は垂直面である仰角方向のビーム走査によりHAPSの電波到来方向推定の例である。実際には、水面面及び垂直面内で一定角度(Δθ、Δφ)毎に走査を行い、受信電力が最大の方向(θ、φ)=(nΔθ、mΔφ)(n,mは整数)を探索する。一般に、受信電力が最大となる方向がHAPS基地局のサービスアンテナ方向となる。なお、図23において、前述の図20(a)及び図22と共通する部分については同じ符号を付して説明を省略する。
【0090】
図23において、基地局装置22は、電波到来方向推定部223とビーム走査部225と受信電力測定部226とを備える。ビーム走査部225で上空の垂直面内を一定の角度ビームBで走査しながら、アンテナ21を介して受信した受信電力を受信電力測定部226で測定する。電波到来方向推定部223は、受信電力が最大となるビームBの方向の水平角θ及び仰角φを、HAPSの電波到来方向(水平角θ及び仰角φ)とする。
【0091】
図24は、実施形態に係る地上基地局20におけるHAPS電波到来方向推定によるビームフォーミング制御を行う場合の地上基地局20のアンテナ(地上基地局アンテナ)21及び基地局装置22の要部構成の他の例を示す図である。図24の例は、電波到来角度推定によるHAPSの電波到来方向推定の例である。なお、図24において、前述の図20(a)及び図22と共通する部分については同じ符号を付して説明を省略する。
【0092】
図24において、基地局装置22は、電波到来方向推定部223と電波到来角度測定部227とを備える。電波到来角度測定部227は、HAPS基地局10の下り回線送信時に、アレイアンテナ(Massiveアンテナ)21を用いて、その下り回線の電波到来角度方向(水平角θ、仰角φ)を信号処理により推定する。電波到来角度方向の推定技術としては、例えば電波到来角度測定技術「MUSIC技術」がある。電波到来方向推定部223は、電波到来角度測定部227で推定された電波到来角度方向(水平角θ及び仰角φ)を、HAPSの電波到来方向(水平角θ及び仰角φ)とする。
【0093】
図23及び図24のそれぞれにおいて推定されたHAPSの電波到来方向(水平角θ及び仰角φ)を既知として、前述のウェイト算出部224は、例えばヌル・フォーミング技術である方向拘束付出力電力最小化法DCMPにより、ウェイトWを算出する。
【0094】
以上、送受信方式としてTDD方式を用いる本実施形態によれば、HAPS基地局(第1基地局)のサービスリンクアンテナ(HAPS基地局アンテナ)及び地上基地局(第2基地局)のサービスリンクアンテナ(地上基地局アンテナ)のそれぞれと端末との間の各サービスリンクにおいて同一周波数を共用することを可能とし、図5に示すセル間干渉制御技術(eICIC)のように同一周波数の共用を可能とするが端末の通信容量の低下を招くという課題を克服できる。
【0095】
また、本実施形態では、HAPS基地局10のサービスリンクアンテナ(HAPS基地局アンテナ)及び地上基地局20のサービスリンクアンテナ(地上基地局アンテナ)のそれぞれと端末との間の各サービスリンクにおいて、同一周波数を共用するとともに送受信方式としてTDD方式を用いて、HAPS基地局10と地上基地局20との間で、サービスリンクにおけるTDD方式の無線通信の送信タイミング及び受信タイミングを互いに逆にする。これにより、地上基地局20のサービスリンクの下り回線は、HAPS基地局10のサービスリンクの上り回線と同じタイミングとなり、HAPS基地局10のサービスリンク上り回線への、地上基地局20と通信している端末(地上基地局端末)30(2)からの干渉は一切なく、地上基地局20から送信されるサービスリンクの下り回線干渉だけとなる。一方、HAPS基地局10のサービスリンクの下り回線は地上基地局20のサービスリンクの上り回線と同じタイミングとなり、HAPS基地局10のサービスリンクの下り回線は、地上基地局端末30(2)の下り回線への干渉は一切なく、地上基地局20のサービスリンクの上り回線への干渉となる。
以上のことから、HAPS基地局10と地上基地局20との間のサービスリンクの上り回線及び下り回線の干渉は、それぞれの基地局10、20と通信している地上基地局端末30(2)及びHAPS基地局端末30(1)へ与える干渉は一切なく、HAPS基地局10と地上基地局20との間だけの干渉となる。
従って、HAPS基地局10で構成するセル(HAPSセル)10Cと地上基地局20で構成するセル(地上セル)20Cとの間の干渉を抑圧するためには、HAPS基地局10と地上基地局20との間の干渉を抑圧するだけで十分となる。
そこで、本実施形態では、地上基地局アンテナの方向にHAPS基地局アンテナの指向性ビームのヌルを向けることにより、HAPS基地局アンテナからの下り回線の送信信号が地上基地局アンテナの上り回線への受信信号に与える干渉を低減できるとともに、地上基地局アンテナからの下り回線の送信信号がHAPS基地局アンテナの上り回線の受信信号へ与える干渉を低減できる。
【0096】
また、本実施形態では、HAPS基地局アンテナの方向に地上基地局アンテナの指向性ビームのヌルを向けることにより、上記干渉を更に低減することができる。
【0097】
また、本実施形態によれば、HAPSサービスリンクと地上基地局の周波数を共用することで、周波数利用率を2倍に向上させることができる。
【0098】
また、本実施形態によれば、通常のTDD方式(5G等)を用いて、地上基地局20とHAPS基地局10の送受信タイミングを変えることで(特別の変更なしに)実現することができる。
【0099】
また、本実施形態によれば、地上基地局20では、5Gで一般的に用いられている基地局アレイアンテナで上方に位置するHAPS方向にヌルを向けるビーム制御で実現することができる。特別な装置の追加は不要である。特に、HAPSに搭載されているGPS等の情報によりHAPS方向を容易に推定できるので、その方向にヌルを向けるヌル制御は容易である。
【0100】
また、本実施形態によれば、HAPS基地局10では、5Gで一般的に用いられている基地局アレイアンテナで下方に位置する地上基地局の方向にヌルを向けるビーム制御で実現することができる。特別な装置の追加は不要である。特に、HAPSに搭載されているGPS等の情報により地上基地局の方向を容易に推定できるので、その方向にヌルを向けるヌル制御は容易である。
【0101】
また、本実施形態によれば、HAPS基地局10では周波数を共用するために特別な装置や制御は不要である。
【0102】
また、本実施形態によれば、地上基地局20とHAPS基地局10の送信タイミング調整は、システム(基地局)間連携制御装置50により容易に実現することができる。
【0103】
本発明は、HAPS基地局及び地上基地局での周波数利用効率を向上させることができるとともに端末の通信容量の低下を防止することができ、HAPS基地局及び地上基地局に特別な装置を追加することなく、HAPS基地局と地上基地局で周波数共用を実現できるシステムを提供できるため、持続可能な開発目標(SDGs)の目標9「産業と技術革新の基盤をつくろう」の達成に貢献できる。
【0104】
また、本発明は、次の(A)~(D)に例示する各種システムと地上基地局との間で周波数を共用する場合にも適用することができる。
(A)HAPS基地局と地上基地局の周波数共用
(B)災害時のヘリコプター搭載無線中継システムやUAV搭載無線中継システムと地上基地局の周波数共用
(C)ドローン搭載無線中継システムと地上基地局の周波数共用
(D)静止、中軌道又は低軌道の衛星通信システムと地上基地局の周波数共用
【0105】
なお、本明細書で説明された処理工程並びに移動通信システム、上空中継型基地局、HAPSセルラシステム、地上基地局、地上セルラシステム、中継通信局、HAPS-GW、端末(ユーザ装置、移動局、移動機)及び基地局間連携制御装置の構成要素は、様々な手段によって実装することができる。例えば、これらの処理工程及び構成要素は、ハードウェア、ファームウェア、ソフトウェア、又は、それらの組み合わせで実装されてもよい。
【0106】
ハードウェア実装については、実体(例えば、各種の無線通信装置、無線中継装置、NodeB、サーバ、ゲートウェイ、交換機、コンピュータ、ハードディスクドライブ装置、又は、光ディスクドライブ装置)において上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段は、1つ又は複数の、特定用途向けIC(ASIC)、デジタルシグナルプロセッサ(DSP)、デジタル信号処理装置(DSPD)、プログラマブル・ロジック・デバイス(PLD)、フィールド・プログラマブル・ゲート・アレイ(FPGA)、プロセッサ、コントローラ、マイクロコントローラ、マイクロプロセッサ、電子デバイス、本明細書で説明された機能を実行するようにデザインされた他の電子ユニット、コンピュータ、又は、それらの組み合わせの中に実装されてもよい。
【0107】
また、ファームウェア及び/又はソフトウェア実装については、上記構成要素を実現するために用いられる手段は、本明細書で説明された機能を実行するプログラム(例えば、プロシージャ、関数、モジュール、インストラクション、などのコード)で実装されてもよい。一般に、ファームウェア及び/又はソフトウェアのコードを明確に具体化する任意のコンピュータ/プロセッサ読み取り可能な媒体が、本明細書で説明された上記工程及び構成要素を実現するために用いられる処理ユニット等の手段の実装に利用されてもよい。例えば、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば制御装置において、メモリに記憶され、コンピュータやプロセッサにより実行されてもよい。そのメモリは、コンピュータやプロセッサの内部に実装されてもよいし、又は、プロセッサの外部に実装されてもよい。また、ファームウェア及び/又はソフトウェアコードは、例えば、ランダムアクセスメモリ(RAM)、リードオンリーメモリ(ROM)、不揮発性ランダムアクセスメモリ(NVRAM)、プログラマブルリードオンリーメモリ(PROM)、電気的消去可能PROM(EEPROM)、FLASHメモリ、フロッピー(登録商標)ディスク、コンパクトディスク(CD)、デジタルバーサタイルディスク(DVD)、磁気又は光データ記憶装置、などのような、コンピュータやプロセッサで読み取り可能な媒体に記憶されてもよい。そのコードは、1又は複数のコンピュータやプロセッサにより実行されてもよく、また、コンピュータやプロセッサに、本明細書で説明された機能性のある態様を実行させてもよい。
【0108】
また、本明細書で開示された実施形態の説明は、当業者が本開示を製造又は使用するのを可能にするために提供される。本開示に対するさまざまな修正は当業者には容易に明白になり、本明細書で定義される一般的原理は、本開示の趣旨又は範囲から逸脱することなく、他のバリエーションに適用可能である。それゆえ、本開示は、本明細書で説明される例及びデザインに限定されるものではなく、本明細書で開示された原理及び新規な特徴に合致する最も広い範囲に認められるべきである。
【符号の説明】
【0109】
10 :HAPS基地局(上空中継型基地局)
10C :HAPSセル
11 :中継通信局
12 :HAPS-GW
15 :GPS受信機
20 :地上基地局
20C :地上セル
21 :地上基地局アンテナ(サービスリンクアンテナ)
22 :基地局装置
23 :GPS受信機
30 :端末
30(1) :HAPS基地局端末
30(2) :地上基地局端末
40 :コアネットワーク
50 :基地局間連携制御装置
100 :HAPS
110 :中継通信局装置
1101:送受信装置
1102:ヌル・フォーミング部
1103:電波到来方向推定部
1104:ウェイト算出部
1105:ビーム走査部
1106:受信電力測定部
1107:電波到来角度測定部
111 :FLアンテナ
112 :HAPS基地局アンテナ(サービスリンクアンテナ)
1120:アンテナ素子
113 :リピータ
114 :周波数変換装置
115 :基地局装置
116 :フィーダリンク送受信機
121 :FLアンテナ
122 :基地局装置
123 :周波数変換装置
124 :フィーダリンク送受信機
210 :アンテナ素子
221 :送受信装置
222 :ヌル・フォーミング部
223 :電波到来方向推定部
224 :ウェイト算出部
225 :ビーム走査部
226 :受信電力測定部
227 :電波到来角度測定部
【要約】
【課題】上空の飛行体等(UAV,HAPS,通信衛星を含む)に設けたアンテナを有する上空中継型基地局と地上基地局とを備える移動通信システムにおいて、周波数利用効率の向上を図り、端末の通信容量の低下を防止するとともに、各基地局のサービスリンクの上り回線及び下り回線における干渉を低減する。
【解決手段】上空中継型基地局及び地上基地局はそれぞれ、同一周波数を用いるTDD(時分割複信)方式により端末との間のサービスリンクの無線通信を行う。サービスリンクにおけるTDD方式の無線通信の送信タイミング及び受信タイミングは、上空中継型基地局と地上基地局との間で互いに逆である。上空中継型基地局は、地上基地局のサービスリンクアンテナの方向を推定し、推定した地上基地局のサービスリンクアンテナの方向に上空中継型基地局のサービスリンクアンテナの指向性ビームのヌルを向けるように制御する。
【選択図】図9
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
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図17
図18
図19
図20
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図24