(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】反射型フォトマスクブランク、反射型フォトマスク及び反射型フォトマスクの製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 1/24 20120101AFI20240918BHJP
G03F 1/54 20120101ALI20240918BHJP
【FI】
G03F1/24
G03F1/54
(21)【出願番号】P 2024063960
(22)【出願日】2024-04-11
【審査請求日】2024-04-11
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522212882
【氏名又は名称】株式会社トッパンフォトマスク
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】武田 直也
(72)【発明者】
【氏名】中野 秀亮
【審査官】佐藤 海
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-123773(JP,A)
【文献】特開2023-166007(JP,A)
【文献】国際公開第2022/138434(WO,A1)
【文献】特開2022-009220(JP,A)
【文献】特開2020-149049(JP,A)
【文献】特表2024-517210(JP,A)
【文献】特表2022-533662(JP,A)
【文献】特開2023-052147(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 1/24,1/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクを作製するための反射型フォトマスクブランクであって、
基板と、
前記基板上に形成された多層膜を含む反射層と、
前記反射層の上に形成された吸収層と、を有し、
前記吸収層は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、前記吸収層の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つ前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上
1.5以下の範囲内である反射型フォトマスクブランク。
【請求項2】
前記吸収層は、タンタル(Ta)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、又は珪素(Si)を、前記吸収層の全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含む請求項1に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項3】
前記吸収層は
、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、又は珪素(Si)を、前記吸収層の全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含む請求項1に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項4】
前記吸収層は
、イリジウム(Ir)
、ルテニウム(Ru)、
又はモリブデン(Mo
)を、前記吸収層の全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含む請求項1に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項5】
前記吸収層は
、イリジウム(Ir)を、前記吸収層の全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含む請求項1に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項6】
前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が1.0以上である請求項1
から請求項5のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項7】
前記吸収層は、前記ニッケル(Ni)を、前記吸収層の全原子数に対して50原子%以上含む請求項1
から請求項5のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項8】
前記吸収層の膜密度は、4.0g/cm
3以上であり、
前記吸収層の膜厚は、17nm以上45nm以下の範囲内である請求項1
から請求項5のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項9】
前記吸収層の膜厚は、19nm以上40nm以下の範囲内である請求項1
から請求項5のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項10】
前記吸収層は、単層構造である請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項11】
前記吸収層の上にエッチングマスク層をさらに有する請求項1
から請求項5のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項12】
前記エッチングマスク層の膜厚は、30nm以下である請求項
11に記載の反射型フォトマスクブランク。
【請求項13】
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクであって、
基板と、
前記基板上に形成された多層膜を含む反射層と、
前記反射層の上に形成された吸収層と、を有し、
前記吸収層は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、前記吸収層の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つ前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上
1.5以下の範囲内である反射型フォトマスク。
【請求項14】
前記吸収層は、タンタル(Ta)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、又は珪素(Si)を、前記吸収層の全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含む請求項1
3に記載の反射型フォトマスク。
【請求項15】
前記吸収層は
、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、又は珪素(Si)を、前記吸収層の全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含む請求項1
3に記載の反射型フォトマスク。
【請求項16】
前記吸収層は
、イリジウム(Ir)
、ルテニウム(Ru)、
又はモリブデン(Mo
)を、前記吸収層の全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含む請求項1
3に記載の反射型フォトマスク。
【請求項17】
前記吸収層は
、イリジウム(Ir)を、前記吸収層の全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含む請求項1
3に記載の反射型フォトマスク。
【請求項18】
前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が1.0以上である請求項1
3から請求項17のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
【請求項19】
前記吸収層は、前記ニッケル(Ni)を、前記吸収層の全原子数に対して50原子%以上含む請求項1
3から請求項17のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
【請求項20】
前記吸収層の膜密度は、4.0g/cm
3以上であり、
前記吸収層の膜厚は、17nm以上45nm以下の範囲内である請求項1
3から請求項17のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
【請求項21】
前記吸収層の膜厚は、19nm以上40nm以下の範囲内である請求項1
3から請求項17のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
【請求項22】
前記吸収層は、単層構造である請求項13から請求項17のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
【請求項23】
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクの製造方法であって、
基板上に多層膜を含む反射層を形成する工程と、
前記反射層の上に吸収層を形成する工程と、を有し、
前記吸収層は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、前記吸収層の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つ前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上
1.5以下の範囲内である反射型フォトマスクの製造方法。
【請求項24】
前記吸収層は、単層構造である請求項23に記載の反射型フォトマスクの製造方法。
【請求項25】
請求項1から請求項
5のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランクを用いた反射型フォトマスクの製造方法であって、
前記基板上に多層膜を含む前記反射層を形成する工程と、
前記反射層の上に前記吸収層を形成する工程と、を有し、
前記吸収層は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、前記吸収層の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つ前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上
1.5以下の範囲内である反射型フォトマスクの製造方法。
【請求項26】
前記吸収層は、単層構造である請求項25に記載の反射型フォトマスクの製造方法。
【請求項27】
請求項1
3から請求項1
7のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクの製造方法であって、
前記基板上に多層膜を含む前記反射層を形成する工程と、
前記反射層の上に前記吸収層を形成する工程と、を有し、
前記吸収層は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、前記吸収層の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つ前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上
1.5以下の範囲内である反射型フォトマスクの製造方法。
【請求項28】
前記吸収層は、単層構造である請求項27に記載の反射型フォトマスクの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体デバイス等の製造において使用される反射型フォトマスクブランク、反射型フォトマスク及び反射型フォトマスクの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造プロセスにおいては、半導体デバイスの微細化に伴い、フォトリソグラフィ技術の微細化に対する要求が高まっている。フォトリソグラフィにおける転写パターンの最小解像寸法は、露光光源の波長に大きく依存し、波長が短いほど最小解像寸法を小さくできる。このため、露光光源は、従来の波長193nmのArFエキシマレーザー光から、波長13.5nmのEUV(Extreme Ultra Violet:極端紫外線)領域の光に置き換わってきている。
【0003】
EUV領域の光は、ほとんどの物質で高い割合で吸収されるため、EUV露光用のフォトマスク(EUVマスク)としては、反射型のフォトマスクが使用される(例えば、特許文献1参照)。特許文献1には、ガラス基板上にモリブデン(Mo)層及びシリコン(Si)層を交互に積層した多層膜からなる反射層を形成し、その上にタンタル(Ta)を主成分とする光吸収層を形成し、この光吸収層にパターンを形成することで得られたEUVフォトマスクが開示されている。
【0004】
また、EUVリソグラフィは、前記のように、光の透過を利用する屈折光学系が使用できないことから、露光機の光学系部材もレンズではなく、反射型(ミラー)となる。このため、反射型フォトマスク(EUVマスク)への入射光と反射光が同軸上に設計できない問題があり、通常、EUVリソグラフィでは、光軸をEUVマスクの垂直方向から6度傾けて入射し、マイナス6度の角度で反射する反射光を半導体基板に導く手法が採用されている。
【0005】
このように、EUVリソグラフィではミラーを介し光軸を傾斜することから、EUVマスクに入射するEUV光がEUVマスクのマスクパターン(パターン化された光吸収層)の影をつくる、いわゆる「射影効果」と呼ばれる問題が発生することがある。
【0006】
現在のEUVマスクブランクでは、光吸収層として膜厚60~90nmのタンタル(Ta)を主成分とした膜が用いられている。このマスクブランクを用いて作製したEUVマスクでパターン転写の露光を行った場合、EUV光の入射方向とマスクパターンの向きとの関係によっては、マスクパターンの影となるエッジ部分で、コントラストの低下を引き起こす恐れがある。これに伴い、半導体基板上の転写パターンのラインエッジラフネスの増加や、線幅が狙った寸法に形成できないなどの問題が生じ、転写性能が悪化することがある。
【0007】
そこで、光吸収層をタンタル(Ta)からEUV光に対する吸収性(消衰係数)が高い材料への変更や、タンタル(Ta)に吸収性の高い材料を加えた反射型フォトマスクブランクが検討されている。例えば、特許文献1では、光吸収層を、Taを主成分として50原子%(at%)以上含み、さらにTe、Sb、Pt、I、Bi、Ir、Os、W、Re、Sn、In、Po、Fe、Au、Hg、Ga及びAlから選ばれた少なくとも一種の元素を含む材料で構成した反射型フォトマスクブランクが記載されている。
【0008】
また、NiやCoといった材料も消衰係数が高いため、光吸収層の材料の候補となる。
しかしながら、NiやCo、あるいはFe等は磁性を有する材料であり、光吸収層上に形成されたレジスト膜に対して電子線描画を行うと、描画精度が低下する懸念がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニング転写用の反射型フォトマスクの射影効果を抑制または軽減でき、且つ磁性体を使用していながら光吸収層上に形成されたレジスト膜に対して電子線描画を行った際に生じ得る描画精度の低下を抑制することで転写性能を高めることができる反射型フォトマスクブランク、その反射型フォトマスクブランクを用いて作製された反射型フォトマスク及びその反射型フォトマスクの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクは、極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクを作製するための反射型フォトマスクブランクであって、基板と、前記基板上に形成された多層膜を含む反射層と、前記反射層の上に形成された吸収層と、を有し、前記吸収層は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、前記吸収層の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つ前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上である。
【0012】
本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクにおける前記吸収層は、タンタル(Ta)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、又は珪素(Si)を、前記吸収層の全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含んでもよい。
【0013】
本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクにおける前記吸収層は、タンタル(Ta)又はイリジウム(Ir)を、前記吸収層の全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含んでもよい。
【0014】
本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクは、前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が1.0以上であってもよい。
【0015】
本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクにおける前記吸収層は、前記ニッケル(Ni)を、前記吸収層の全原子数に対して50原子%以上含んでもよい。
【0016】
本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクにおける前記吸収層の膜密度は、4.0g/cm3以上であり、前記吸収層の膜厚は、17nm以上45nm以下の範囲内であってもよい。
【0017】
本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクにおける前記吸収層の膜厚は、19nm以上40nm以下の範囲内であってもよい。
【0018】
本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクは、前記吸収層の上にエッチングマスク層をさらに有してもよい。
【0019】
本発明の一態様に係る反射型フォトマスクブランクは、前記吸収層の上にエッチングマスク層をさらに有し、前記エッチングマスク層の膜厚は、30nm以下であってもよい。
【0020】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクは、極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクであって、基板と、前記基板上に形成された多層膜を含む反射層と、前記反射層の上に形成された吸収層と、を有し、前記吸収層は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、前記吸収層の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つ前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上である。
【0021】
本発明の一態様に係る反射型フォトマスクにおける前記吸収層は、タンタル(Ta)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、又は珪素(Si)を、前記吸収層の全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含んでもよい。
【0022】
本発明の一態様に係る反射型フォトマスクにおける前記吸収層は、タンタル(Ta)又はイリジウム(Ir)を、前記吸収層の全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含んでもよい。
【0023】
本発明の一態様に係る反射型フォトマスクは、前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が1.0以上であってもよい。
【0024】
本発明の一態様に係る反射型フォトマスクにおける前記吸収層は、前記ニッケル(Ni)を、前記吸収層の全原子数に対して50原子%以上含んでもよい。
【0025】
本発明の一態様に係る反射型フォトマスクにおける前記吸収層の膜密度は、4.0g/cm3以上であり、前記吸収層の膜厚は、17nm以上45nm以下の範囲内であってもよい。
【0026】
本発明の一態様に係る反射型フォトマスクにおける前記吸収層の膜厚は、19nm以上40nm以下の範囲内であってもよい。
【0027】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクの製造方法は、極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクの製造方法であって、基板上に多層膜を含む反射層を形成する工程と、前記反射層の上に吸収層を形成する工程と、を有し、前記吸収層は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、前記吸収層の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つ前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上である。
【0028】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクの製造方法は、上記反射型フォトマスクブランクを用いた反射型フォトマスクの製造方法であって、前記基板上に多層膜を含む前記反射層を形成する工程と、記反射層の上に前記吸収層を形成する工程と、を有し、前記吸収層は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、前記吸収層の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つ前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上である。
【0029】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクの製造方法は、上記反射型フォトマスクの製造方法であって、前記基板上に多層膜を含む前記反射層を形成する工程と、前記反射層の上に前記吸収層を形成する工程と、を有し、前記吸収層は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、前記吸収層の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つ前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上である。
【発明の効果】
【0030】
本発明の一態様によれば、極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニングにおいて半導体基板への転写性能を向上させることができる反射型フォトマスクを提供することができる。より具体的には、本発明の一態様に係る反射型フォトマスクであれば、極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニング転写用の反射型フォトマスクの射影効果を抑制または軽減し、且つ描画精度の低下を抑制することができる。
このように、本発明の一態様であれば、反射型フォトマスクの射影効果を抑制または軽減し、且つ磁性体を使用していながら吸収層上に形成されたレジスト膜に対して電子線描画を行った際に生じ得る描画精度の低下を抑制することで転写性能を高めることができる反射型フォトマスク、その反射型フォトマスクを作製するための反射型フォトマスクブランク、及び反射型フォトマスクの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図1】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
【
図2】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の実施形態の変形例に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
【
図4】本発明の実施形態の変形例に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図5】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクブランクの構造を示す概略断面図である。
【
図6】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図7】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図8】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの製造工程を示す概略断面図である。
【
図9】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの構造を示す概略断面図である。
【
図10】本発明の実施例に係る反射型フォトマスクの設計パターンの形状を示す概略平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明するが、本発明は以下に示す実施形態に限定されない。以下に示す実施形態では、本発明を実施するために技術的に好ましい限定がなされているが、この限定は本発明の必須要件ではない。
【0033】
図1は、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10の構造を示す概略断面図である。また、
図2は、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスク20の構造を示す概略断面図である。ここで、
図2に示す本発明の実施形態に係る反射型フォトマスク20は、
図1に示す本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10の吸収層4をパターニングして形成したものである。
【0034】
(反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクの構成)
図1は、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10の構造を示す概略断面図である。
図1に示すように、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10は、基板1と、基板1上に形成され、多層膜構造を有するEUV光を反射する反射層2と、反射層2の上に形成された保護層(キャッピング層)3と、保護層3の上に形成され、EUV光を吸収する吸収層4とを備えている。
【0035】
なお、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスク20は、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10の吸収層4に転写パターンを形成することで作製される。
以下、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を構成する各層について詳細に説明する。
【0036】
(基板)
本発明の実施形態に係る基板1には、例えば、平坦なSi基板や合成石英基板等を用いることができる。また、基板1には、チタンを添加した低熱膨張ガラスを用いることができるが、熱膨張率の小さい材料であれば、本発明の実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0037】
また、図示しないが、基板1の反射層2を形成していない面に裏面導電膜を形成することができる。裏面導電膜は、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10を用いて作製した反射型フォトマスク20を露光機に設置するときに静電チャックの原理を利用して固定するための膜である。
【0038】
(反射層)
本発明の実施形態に係る反射層2は、露光光であるEUV光(極端紫外光)を反射するものであればよく、EUV光に対する屈折率の大きく異なる材料の組み合わせによる多層反射膜(つまり、多層膜構造を有するEUV光反射膜)であってもよい。多層反射膜を含む反射層2は、例えば、Mo(モリブデン)とSi(シリコン)、またはMo(モリブデン)とBe(ベリリウム)といった組み合わせの層を40周期程度繰り返し積層することにより形成したものであってもよい。
【0039】
(保護層)
本発明の実施形態に係る保護層(キャッピング層)3は、フォトマスク作製時に吸収層4をエッチングする際に、反射層2へのダメージを防ぐエッチングストッパとして機能する層である。なお、反射層2の材質やエッチング条件により、保護層3は形成されていなくてもかまわない。
保護層3は、吸収層4のパターン形成の際に行われるドライエッチングに対して耐性を有する材質で形成されている。例えば、保護層3の材料はルテニウム(Ru)であってもよい。
【0040】
(吸収層)
図2に示すように、反射型フォトマスクブランク10の吸収層4をパターニングすることにより、吸収パターン(吸収パターン層)41が形成される。
EUVリソグラフィにおいて、EUV光は斜めに入射し、反射層2で反射されるが、吸収パターン41が光路の妨げとなる射影効果により、ウェハ(半導体基板)上への転写性能が悪化することがある。この転写性能の悪化は、EUV光を吸収する吸収層4の厚さを薄くすることで低減される。吸収層4の厚さを薄くするためには、従来の材料よりEUV光に対する吸収性の高い材料、つまり波長13.5nmに対する消衰係数kの高い材料を適用することが好ましい。
【0041】
従来の吸収層4の主材料であるタンタル(Ta)の消衰係数kは0.041である。それより大きい消衰係数kを有する化合物材料であれば、従来に比べて吸収層4の厚さを薄くすることが可能である。タンタル(Ta)よりも消衰係数kが高い材料には、例えば、銀(Ag)、プラチナ(Pt)、インジウム(In)、コバルト(Co)、錫(Sn)、ニッケル(Ni)、テルル(Te)がある。
しかしながら、これらの金属材料の一部は、反射型フォトマスクが使用される環境下で必要とされる洗浄耐性や水素ラジカル耐性が低いという問題を有している。
【0042】
このため、これらの金属材料で形成された吸収層を備える反射型フォトマスクブランクを作製したとしても、露光環境下に入れることができない場合がある。さらに上述した耐性面では問題がない材料であっても、ニッケル(Ni)やコバルト(Co)のような金属材料は磁性体であるため、電子線描画装置を用いてレジスト膜に描画する際、その磁性体が有する磁性に起因して、描画精度の低下を引き起こす懸念がある。
【0043】
上述の欠点を回避するため、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10の吸収層4、または本発明の実施形態に係る反射型フォトマスク20の吸収パターン層41は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを含む材料で形成されている。
Ni単体では反射型フォトマスクの消衰係数kが高く、水素ラジカルへの耐性も高いが、磁性体であることが知られている。そのため、Ni単体に酸素(O)を混合(添加)することで吸収層4を非磁性化することにより、吸収層4上に形成されたレジスト膜に対する電子線描画の精度向上が可能となる。
【0044】
本発明の実施形態に係る吸収層4を構成する材料は、吸収層4を構成する全原子数に対して、ニッケル(Ni)と酸素(O)を合計で50原子%以上含有している必要がある。これは、吸収層4にニッケル(Ni)と酸素(O)以外の成分が含まれていると、EUV光吸収性が低下する可能性があるものの、ニッケル(Ni)と酸素(O)以外の成分が吸収層4を構成する全原子数に対して50原子%未満であれば、吸収層4におけるEUV光吸収性の低下はごく僅かであり、反射型フォトマスク20の吸収パターン層41としての性能の低下はほとんどないためである。
【0045】
また、上述のように、ニッケル(Ni)単体では磁性を有するため、吸収層4上に形成されたレジスト膜に対する電子線描画の精度が低下するが、ニッケル(Ni)単体に酸素(O)を混合(添加)することによって、ニッケル(Ni)単体の場合と比較して磁性が緩和され、吸収層4上に形成されたレジスト膜に対する電子線描画の精度向上が可能となる。具体的には、吸収層4を構成する材料の、ニッケル(Ni)に対する酸素(O)の原子数比(O/Ni)は0.5以上であればよく、1.0以上であれば好ましい。ニッケル(Ni)に対する酸素(O)の原子数比(O/Ni)が上記数値以上であれば、吸収層4上に形成されたレジスト膜に対する電子線描画の精度向上が可能となる。特に、ニッケル(Ni)に対する酸素(O)の原子数比(O/Ni)は1.0以上であれば、つまり酸素(O)の含有量を増やすことで、吸収層4をフッ素系ガスでエッチングする際にそのエッチングレートを高めることできる。
【0046】
なお、ニッケル(Ni)に対する酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5未満である場合、非磁性化できていないため、吸収層4上に形成されたレジスト膜に対する電子線描画ができない場合がある、あるいは非磁性化の程度が小さいため、吸収層4上に形成されたレジスト膜に対する電子線描画の精度が十分でない場合がある。
【0047】
なお、ニッケル(Ni)に対する酸素(O)の原子数比(O/Ni)の上限値は特に制限されないが、3.0以下であれば、酸素リアクティブ成膜の場合、酸素が過剰に入ったサンプルも容易に作成できるため、好ましい。
【0048】
上述のように、本発明の実施形態に係る吸収層4を構成する材料は、吸収層4を構成する全原子数に対して、ニッケル(Ni)と酸素(O)を合計で50原子%以上含有し、且つニッケル(Ni)に対する酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上であるという条件を満たしていれば、吸収層4を構成する全原子数に対して、ニッケル(Ni)を50原子%以上含有していてもよい。ニッケル(Ni)を50原子%以上含有していれば、吸収層4全体で消衰係数kがさらに高くなり、転写性能をさらに向上させることができる。
【0049】
また、本発明の実施形態に係る吸収層4を構成する材料は、ニッケル(Ni)に対する酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上であれば、吸収層4を構成する全原子数に対して、ニッケル(Ni)と酸素(O)を合計で100原子%含有していてもよい。
【0050】
本発明の実施形態において、吸収層4を構成する材料の上記組成比は、ラザフォード後方散乱分析法(RBS)による分析結果に基づき算出しており、分析手法によっては含有量が変動する可能性がある。例えば、ニッケル(Ni)の含有量がラザフォード後方散乱分析法(RBS)で全元素中50原子%~100原子%の材料を、X線光電子分光法(XPS)を用いて分析した結果、全元素中40原子%~75原子%となっていてもよく、エネルギー分散型X線分析法(EDX)を用いて分析した結果、全元素中45原子%~100原子%となっていてもよい。
【0051】
また、本発明の実施形態において、吸収層4の磁性は、振動試料型磁力計(VSM)による分析結果に基づき判断を行っている。より具体的には、本発明の実施形態では、検出限界である10-5(emu)未満の材料を非磁性化された材料とする。磁性体であるニッケル(Ni)に対し、磁性を有さない酸素(O)を含有させることで、上述した吸収層4の非磁性化が可能となる。
【0052】
なお、後述する表1に示す磁性評価試験では、検出限界である10-5(emu)未満であった場合を「〇(合格)」と評価し、10-5(emu)以上であった場合を「×(不合格)」と評価した。本発明の実施形態において、「〇」の評価であれば、電子線描画装置を用いた描画工程において問題はないと判断される。
【0053】
以下に、本発明の実施形態における振動試料型磁力計(VSM)の測定条件を示す。
磁界印加方向:面に平行
磁界レンジ:10kOe
【0054】
本発明の実施形態における吸収層4は、吸収層4を構成する全原子数に対して、ニッケル(Ni)と酸素(O)を合計で50原子%以上含有し、且つニッケル(Ni)に対する酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上である材料で形成され、且つ吸収層4の膜密度は4.0g/cm3以上であることが好ましい。吸収層4の膜密度が4.0g/cm3未満の場合、k値(消衰係数kの値)が大幅に低下する。また、EUV光に対する吸収性能も十分に得られないといる問題も生じ得る。一方、吸収層4の膜密度に上限は特に設けないが、膜密度が高くなるほど膜の平滑性が得られ難く、スパッタリング法による成膜やドライエッチングによる加工性が難しくなる傾向がある。そのため、吸収層4の膜密度は、4.0g/cm3以上であることが好ましく、5.0g/cm3~12.0g/cm3の範囲内であることがより好ましく、6.0g/cm3~10.0g/cm3の範囲内であることが更に好ましい。
【0055】
本発明の実施形態における吸収層4の膜密度は、ラザフォード後方散乱分析法(RBS)の測定結果より算出した。
【0056】
前述の通り、吸収層4の膜密度は、膜の平滑性や形成された吸収パターン層41のラインエッジラフネスに影響する。吸収層4の表面粗さが大きいとEUV光の反射効率に影響する可能性がある。したがって、吸収層4の表面粗さ(RMS)は0.6nm以下であることが好ましく、0.4nm以下であることが更に好ましい。
本発明の実施形態において、吸収層4の表面粗さ(RMS)の測定は、例えば、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて測定した。
【0057】
前述の通り、吸収層4を構成する材料は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、吸収層4の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つニッケル(Ni)に対する酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上である材料であればよく、ニッケル(Ni)と酸素(O)以外の元素として、例えば、タンタル(Ta)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、又は珪素(Si)を含有していてもよい。つまり、吸収層4は、ニッケル(Ni)と酸素(O)以外の元素として、タンタル(Ta)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、及び珪素(Si)からなる群から選択された1種以上の元素をさらに含有していてもよい。
【0058】
また、吸収層4は、ニッケル(Ni)と酸素(O)以外に、タンタル(Ta)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、及び珪素(Si)からなる群から選択された1種以上の元素を、吸収層4を構成する全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含有していれば、より好ましい。
さらに、吸収層4は、ニッケル(Ni)と酸素(O)以外に、タンタル(Ta)又はイリジウム(Ir)を、吸収層4を構成する全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含有していれば、さらに好ましい。
【0059】
ニッケル(Ni)と酸素(O)以外の元素、即ち上述したタンタル(Ta)等の含有量が50原子%を超えるとEUV光の吸収性が低下し、吸収層4の薄膜化が望めなくなる。更に、上述したタンタル(Ta)等の含有量が50原子%を超えると波長190~260nmのDUV(Deep Ultra Violet)光におけるコントラストが低下するため、検査性が悪くなる。
【0060】
また、上述したタンタル(Ta)等の含有量が5原子%未満であると、結晶性の高い膜となり、加工性が悪化する。そのため、上述したタンタル(Ta)等の含有量は5原子%以上50原子%以下であることが好ましく、10原子%以上45原子%以下であることがより好ましく、20原子%以上40原子%以下であることがさらに好ましい。
【0061】
吸収層4を構成する材料の上記組成比は、ラザフォード後方散乱分析法(RBS)による分析結果に基づき算出しており、分析手法によっては含有量が変動する可能性がある。例えば、吸収層4に添加するタンタル(Ta)等の含有量がRBS分析で5原子%~50原子%の材料を、X線光電子分光法(XPS)を用いて分析した結果、4原子%~45原子%となってもよい。更に、例えば、吸収層4に添加するタンタル(Ta)等の含有量がRBS分析で5原子%~50原子%の材料を、エネルギー分散型X線分析法(EDX)を用いて分析した結果、4原子%~45原子%となってもよい。
【0062】
吸収層4が形成されていない反射部(例えば、保護層3が露出した領域)からの反射光の強度をRmとし、吸収層4(吸収パターン層41)からの反射光の強度をRaとし、反射部と吸収層4の光強度のコントラストを表す指標である光学濃度(OD:Optical Density)値は、(式1)で規定される。
OD値は大きいほうがコントラストは良く高い転写性が得られ、OD値が1未満の場合には十分なコントラストを得ることができず、転写性能が低下する傾向がある。パターン転写にはOD>1であることが好ましく、1.5以上であるとさらに好ましい。
【0063】
よって、吸収層4のOD値は、1.0以上であることが好ましく、1.5以上であるとさらに好ましい。
OD=-log(Ra/Rm) ・・・(式1)
【0064】
従来のEUV反射型フォトマスクの吸収層には、タンタル(Ta)を主成分とする化合物材料が適用されてきた。この場合、OD値が1以上を得るには、吸収層の膜厚は40nm以上必要である。従来材料の消衰係数kは0.031だが、単体で消衰係数kが0.074のニッケル(Ni)を主成分として含む化合物材料を吸収層4に適用することで、少なくともODが1以上であれば吸収層4の膜厚を17nmまで薄膜化することが可能である。ただし、吸収層4の消衰係数kはニッケル(Ni)への酸素(O)の混合比率や、成膜された材料の結晶性によっても大きく変動し、消衰係数kが0.049未満であると十分な薄膜化効果が望めない。そのため、従来よりも吸収層4の薄膜化を実現するためには、消衰係数kは0.049以上が好ましく、0.051以上がさらに好ましい。
【0065】
さらに、吸収層4の膜厚が45nmを超えると、従来のタンタル(Ta)を主成分とした化合物材料で形成された膜厚60nmの吸収層と射影効果が同程度となってしまう。また、吸収層4の膜厚が17nmに満たないと、光吸収性能が低減し転写性能が低下する場合がある。
そのため、本発明の実施形態に係る吸収層4の膜厚は、17nm以上45nm以下であることが好ましく、19nm以上40nm以下であることがより好ましい。また、吸収層4の膜密度が4.0g/cm3以上であり、且つ吸収層4の膜厚が17nm以上45nm以下であればさらに好ましい。
【0066】
このように、吸収層4の膜厚が17nm以上45nm以下の範囲内であると、タンタル(Ta)を主成分とした化合物材料で形成された従来の吸収層に比べて、射影効果を十分に低減することができ、転写性能が向上する。
なお、上述した「タンタル(Ta)を主成分とする化合物材料」とは、吸収層全体の原子数に対してタンタル(Ta)を50原子%以上含んでいる化合物材料をいう。
【0067】
(ハードマスク)
図3に示すように、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10は、吸収層4の上にハードマスク(エッチングマスク層)5が形成されていてもよい。本発明の実施形態に係るハードマスク5は、吸収層4の上に形成することで吸収層4の加工性をさらに高める機能を有する。
【0068】
ハードマスク5を構成する材料は、吸収層4をドライエッチングする際に用いるガスとは異なるガスによってドライエッチングできることが望ましい。つまり、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを含む材料で形成された吸収層4を塩素系ガスでエッチングする場合は、ハードマスク5を塩素系ガス以外のガスでエッチングするのが好ましい。また、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを含む材料で形成された吸収層4をフッ素系ガスでエッチングする場合は、ハードマスク5をフッ素ガス以外のガスでエッチングするのが好ましい。
【0069】
ハードマスク5を構成する材料としては、例えば、Ru、Ti、Cr、Ni、Co、Bi、Fe、Ag、Hf、Ta、Al、及びSi、並びにそれらの酸化物、窒化物、ホウ化物、酸窒化物、酸ホウ化物、及び酸窒化ホウ化物の群から選択された1種以上から形成されることが好ましい。
【0070】
また、
図4に示すように、ハードマスク5は、吸収層4のエッチングが完了するまで吸収層4の上に残っている必要がある。ただし、ハードマスク5の膜厚が30nmを超えると微細な転写パターンの形成が困難となり、ハードマスク5の膜厚が2nm未満と薄いと均一な膜厚の成膜が困難となる。したがって、ハードマスク5の膜厚は、2nm以上30nm以下の範囲内であれば好ましく、5nm以上10nm以下の範囲内であればさらに好ましい。
なお、本発明の実施形態に係る吸収層4の加工はドライエッチングに限定するものではない。例えば原子層エッチング(ALE)を用いて吸収層4の加工を行うことも可能である。
【0071】
以下、本発明に係る反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクの実施例について説明する。
【0072】
(実施例)
以下、本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク及び反射型フォトマスクの実施例について説明する。
【0073】
[実施例1]
最初に、反射型フォトマスクブランク10の作製方法について
図5を用いて説明する。
まず、
図5に示すように、低熱膨張特性を有する合成石英の基板1の上に、シリコン(Si)とモリブデン(Mo)とを一対とする積層膜が40枚積層されて形成された反射層2を形成する。反射層2の膜厚は280nmとした。
【0074】
次に、反射層2上に、中間膜としてルテニウム(Ru)で形成されたキャッピング層(保護層)3を、膜厚が3.5nmになるように成膜した。
次に、キャッピング層3の上に、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを含む吸収層4を膜厚が47nmになるように成膜した。成膜した吸収層4におけるニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率は、EDX(エネルギー分散型X線分析)で測定したところ、1:0.5であった。また、ラザフォード後方散乱分析法(RBS)を用いて組成分析を行ったところ、ニッケル(Ni)と酸素(O)の合計含有量は、吸収層4全体の100原子%であった。さらに、RBSの測定結果から密度を算出したところ、吸収層4の密度は、7.6g/cm3であった。また、XRD(X線回析装置)で測定したところ、僅かに結晶性が見られるものの、吸収層4はアモルファスであった。
なお、本実施例において、吸収層4の膜厚は透過電子顕微鏡によって測定した。また、後述する各実施例及び各比較例においても吸収層4の膜厚は透過電子顕微鏡によって測定した。
【0075】
次に、基板1の反射層2が形成されていない側の面に窒化クロム(CrN)で形成された裏面導電膜6を100nmの厚さで成膜し、実施例1の反射型フォトマスクブランク10を作製した。
【0076】
基板1上へのそれぞれの膜の成膜(層の形成)は、多元スパッタリング装置を用いた。各々の膜の膜厚は、スパッタリング時間で制御した。吸収層4は、反応性スパッタリング法により、スパッタリング中にチャンバーに導入する酸素の量を制御することで、O/Ni比(原子数比)が0.5になるように成膜した。
【0077】
次に、反射型フォトマスク20の作製方法について
図6から
図9を用いて説明する。
まず、
図6に示すように、反射型フォトマスクブランク10の吸収層4の上に、ポジ型化学増幅型レジスト(SEBP9012:信越化学社製)を120nmの膜厚にスピンコートで塗布し、110℃で10分ベークし、レジスト膜7を形成した。
次に、電子線描画機(JBX3030:日本電子社製)によってレジスト膜7に所定のパターンを描画した。その後、110℃、10分間のプリベーク処理を行い、次いでスプレー現像機(SFG3000:シグマメルテック社製)を用いて現像処理をした。これにより、
図7に示したように、レジストパターン71を形成した。
【0078】
次に、レジストパターン71をエッチングマスクとして、塩素系ガスを主体としたドライエッチングにより、吸収層4のパターニングを行った。これにより、
図8に示すように、吸収層4に吸収パターン(吸収パターン層)41を形成した。
次に、レジストパターン71を洗浄工程にて剥離し、
図9に示すように、本実施例による反射型フォトマスク20を作製した。本実施例において、吸収層4に形成した吸収パターン41は、転写評価用の反射型フォトマスク20上で、線幅64nmLS(ラインアンドスペース)パターン、AFMを用いた吸収層の膜厚測定用の線幅200nmLSパターン、EUV反射率測定用の4mm角の吸収層除去部を含んでいる。本実施例では、EUV照射による射影効果の影響が見えやすくなるように、線幅64nmLSパターンを
図10に示すようにx方向とy方向それぞれに設計した。
【0079】
[実施例2]
本実施例では、ニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率が1:1.5となるように、また、膜厚が51nmとなるように、吸収層4を成膜した。さらに、ニッケル(Ni)と酸素(O)の合計含有量が吸収層4全体の100原子%となるように、吸収層4を成膜した。吸収層4を分析したところ、吸収層4の膜密度は4.8g/cm3であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例2の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0080】
[実施例3]
本実施例では、ニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率が1:1となるように、また、膜厚が46nmになるように、吸収層4を成膜した。さらに、ニッケル(Ni)と酸素(O)の合計含有量が吸収層4全体の95原子%となるように、そして、残りの5原子%がタングステン(W)となるように、吸収層4を成膜した。吸収層4を分析したところ、膜密度は6.8g/cm3であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例3の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0081】
[実施例4]
本実施例では、ニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率が1:1となるように、また、膜厚が47nmになるように、吸収層4を成膜した。さらに、ニッケル(Ni)と酸素(O)の合計含有量が吸収層4全体の51原子%となるように、そして、残りの49原子%がタングステン(W)となるように、吸収層4を成膜した。吸収層4を分析したところ、膜密度は8.1g/cm3であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例4の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0082】
[実施例5]
本実施例では、ニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率が1:0.5となるように、また、膜厚が38nmになるように、吸収層4を成膜した。さらに、ニッケル(Ni)と酸素(O)の合計含有量が吸収層4全体の51原子%となるように、そして、残りの49原子%がタンタル(Ta)となるように、吸収層4を成膜した。吸収層4を分析したところ、膜密度は8.0g/cm3であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例5の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0083】
[実施例6]
本実施例では、ニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率が1:0.5となるように、また、膜厚が46nmになるように、吸収層4を成膜した。さらに、ニッケル(Ni)と酸素(O)の合計含有量が吸収層4全体の95原子%となるように、そして、残りの5原子%がタンタル(Ta)となるように、吸収層4を成膜した。吸収層4を分析したところ、膜密度は7.6g/cm3であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例6の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0084】
[実施例7]
本実施例では、ニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率が1:0.5となるように、また、膜厚が47nmになるように、吸収層4を成膜した。さらに、ニッケル(Ni)と酸素(O)の合計含有量が吸収層4全体の70原子%となるように、そして、残りの30原子%がイリジウム(Ir)となるように、吸収層4を成膜した。吸収層4を分析したところ、膜密度は7.9g/cm3であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例7の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0085】
[実施例8]
本実施例では、ニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率が1:1となるように、また、膜厚が46nmになるように、吸収層4を成膜した。さらに、ニッケル(Ni)と酸素(O)の合計含有量が吸収層4全体の70原子%となるように、そして、残りの30原子%がチタン(Ti)となるように、吸収層4を成膜した。吸収層4を分析したところ、膜密度は5.9g/cm3であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例8の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0086】
[実施例9]
本実施例では、ニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率が1:0.5となるように、また、膜厚が39nmになるように、吸収層4を成膜した。さらに、ニッケル(Ni)と酸素(O)の合計含有量が吸収層4全体の95原子%となるように、そして、残りの5原子%がチタン(Ti)となるように、吸収層4を成膜した。吸収層4を分析したところ、膜密度は7.5g/cm3であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例9の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0087】
[実施例10]
本実施例では、膜厚が17nmになるように、吸収層4を成膜した。
なお、膜厚以外は、実施例1と同様の方法で、実施例10の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0088】
[実施例11]
本実施例では、膜厚が33nmになるように、吸収層4を成膜した。
なお、膜厚以外は、実施例1と同様の方法で、実施例11の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0089】
[実施例12]
本実施例では、膜厚が45nmになるように、吸収層4を成膜した。
なお、膜厚以外は、実施例1と同様の方法で、実施例12の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0090】
[実施例13]
本実施例では、ニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率が1:1となるように、また、膜厚が39nmとなるように、吸収層4を成膜した。さらに、ニッケル(Ni)と酸素(O)の合計含有量が吸収層4全体の100原子%となるように、吸収層4を成膜した。吸収層4を分析したところ、吸収層4の膜密度は6.7g/cm3であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、実施例13の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0091】
[実施例14]
本実施例では、膜厚が39nmになるように、吸収層4を成膜した。
なお、膜厚以外は、実施例2と同様の方法で、実施例14の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0092】
[実施例15]
本実施例では、膜厚が19nmになるように、吸収層4を成膜した。
なお、膜厚以外は、実施例1と同様の方法で、実施例15の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0093】
[比較例1]
本比較例では、ニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率が1:0となるように、また、膜厚が32nmになるように、吸収層4を成膜した。また、ニッケル(Ni)の含有量が吸収層4全体の100原子%となるように、吸収層4を成膜した。つまり、吸収層4をニッケル(Ni)のみで成膜した。吸収層4を分析したところ、膜密度は8.9g/cm3であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、比較例1の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0094】
[比較例2]
本比較例では、ニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率が1:0.1となるように、また、膜厚が34nmになるように、吸収層4を成膜した。さらに、ニッケル(Ni)と酸素(O)の合計含有量が吸収層4全体の100原子%となるように、吸収層4を成膜した。吸収層4を分析したところ、膜密度は8.8g/cm3であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、比較例2の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0095】
[比較例3]
本比較例では、ニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率が1:0.2となるように、また、膜厚が30nmになるように、吸収層4を成膜した。さらに、ニッケル(Ni)と酸素(O)の合計含有量が吸収層4全体の100原子%となるように、吸収層4を成膜した。吸収層4を分析したところ、膜密度は8.5g/cm3であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、比較例3の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0096】
[比較例4]
本比較例では、ニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率が1:0.3となるように、また、膜厚が33nmになるように、吸収層4を成膜した。さらに、ニッケル(Ni)と酸素(O)の合計含有量が吸収層4全体の100原子%となるように、吸収層4を成膜した。吸収層4を分析したところ、膜密度は8.2g/cm3であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、比較例4の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0097】
[比較例5]
本比較例では、ニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率が1:0.4となるように、また、膜厚が32nmになるように、吸収層4を成膜した。さらに、ニッケル(Ni)と酸素(O)の合計含有量が吸収層4全体の100原子%となるように、吸収層4を成膜した。吸収層4を分析したところ、膜密度は7.9g/cm3であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、比較例5の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0098】
[比較例6]
本比較例では、ニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率が1:1となるように、また、膜厚が29nmになるように、吸収層4を成膜した。さらに、タングステン(W)の含有量が吸収層4全体の80原子%となるように、そして、ニッケル(Ni)と酸素(O)の合計含有量が残りの20原子%となるように、吸収層4を成膜した。吸収層4を分析したところ、膜密度は8.5g/cm3であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、比較例6の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0099】
[比較例7]
本比較例では、ニッケル(Ni)と酸素(O)との原子数比率が1:1となるように、また、膜厚が29nmになるように、吸収層4を成膜した。さらに、タンタル(Ta)の含有量が吸収層4全体の80原子%となるように、そして、ニッケル(Ni)と酸素(O)の合計含有量が残りの20原子%となるように、吸収層4を成膜した。吸収層4を分析したところ、膜密度は8.3g/cm3であった。
なお、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、比較例7の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0100】
[参考例]
前述の各実施例及び各比較例とは別に、従来技術に係るタンタル(Ta)系吸収パターン層を有する反射型フォトマスクも参考例として比較した。
反射型フォトマスクブランクは、前述の実施例及び比較例と同様に、低熱膨張特性を有する合成石英の基板上に、シリコン(Si)とモリブデン(Mo)とを一対とする積層膜が40枚積層されて形成された反射層と、膜厚3.5nmのルテニウム(Ru)キャッピング層3とを有し、キャッピング層3上に形成された吸収層4は、膜厚58nmのTaBN上に膜厚2nmのTaBOを成膜したものである。また、前述の実施例及び比較例と同様に、吸収層4がパターニングされたものを評価に用いた。
【0101】
つまり、本参考例では、吸収層4として、膜厚が58nmのTaBN層上に、膜厚が2nmのTaBO層を成膜したものを用いた。
そして、吸収層4の成膜以外は、実施例1と同様の方法で、参考例の反射型フォトマスクブランク10及び反射型フォトマスク20を作製した。
【0102】
以下、本実施例で評価した評価項目について説明する。
(磁性)
前述の各実施例及び各比較例において、作製した反射型フォトマスクブランク10を1cm角に断裁し、裁断した反射型フォトマスクブランク10に対して振動試料型磁力計(VSM)を用いて反射型フォトマスクブランク10に備わる吸収層4の磁性を測定した。こうして、各実施例及び各比較例に係る反射型フォトマスクブランク10(吸収層4)の磁化率を得た。
【0103】
表1に、各実施例及び比較例に係る反射型フォトマスクブランクの磁性結果(測定結果)を示す。表1では、検出限界である10-5(emu)未満の場合を「〇(非磁性化できているため、合格)」と評価し、10-5(emu)以上であった場合を「×(非磁性化できていないため、不合格)」と表している。
【0104】
吸収層4において、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを合計50原子%以上含み、且つニッケル(Ni)と酸素(O)の原子数比率(O/Ni)が0.5以上である材料、即ち実施例1から実施例15の吸収層4では磁性が検出されないことが確認された。
しかしながら、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを合計50原子%以上含み、且つニッケル(Ni)と酸素(O)の原子数比率(O/Ni)が0.5未満であった場合には、吸収層4において磁性が検出されていることから、吸収層4の非磁性化ができていなかったことが確認された。
【0105】
(電子線描画の位置精度)
吸収層4が磁性を有している場合、吸収層4から発せられる磁界によって電子線描画の位置精度が低下することがある。
そこで、前述の各実施例及び各比較例において、作製した反射型フォトマスクブランク10に対し、電子線描画を実施しその位置精度を測定した。
【0106】
表1に、各実施例及び比較例に係る反射型フォトマスクブランク10における電子線描画の位置精度の結果(測定結果)を示す。
なお、本評価では、位置精度が100nm未満であるものを「〇」、それ以外を「×」とした。また、比較したサンプルの中で位置精度が最良であったものを「◎」とした。
結果として、振動試料型磁力計(VSM)で磁性が検出されたものは位置精度が基準値を満たさないことが確認された。
【0107】
(反射率)
前述の各実施例及び各比較例において、作製した反射型フォトマスク20の吸収パターン層41領域(
図10を参照)の反射率RaをEUV光による反射率測定装置で測定した。また、吸収パターン層41が形成されていない反射部8(
図10を参照)における反射率RmをEUV光による反射率測定装置で測定した。こうして、各実施例及び各比較例に係る反射型フォトマスク20のOD値を前述した式1を用いて算出した。
【0108】
前述の通り、OD値が1.0未満の場合には、十分なコントラストを得ることができず、転写性能が低下する場合がある。そこで、本評価では、OD値が1.0以上であれば転写性能に問題はないとして、「合格」とした。
【0109】
(ウェハ露光評価:HVバイアスの測定)
EUV露光装置(NXE3300B:ASML社製)を用いて、EUVポジ型化学増幅型レジストを塗布した半導体ウェハ上に、各実施例及び各比較例で作製した反射型フォトマスク20の吸収パターン41を転写露光した。このとき、露光量は、
図10に示すx方向のLSパターンが設計通りに転写するように調節した。具体的には、本露光試験では、
図10に示すx方向のLSパターン(線幅64nm)が、半導体ウェハ上で16nmの線幅となるように露光した。電子線寸法測定機により転写されたレジストパターンの観察及び線幅測定を実施し、HVバイアスがどのように変化するかをシミュレーションにより比較した。
【0110】
HVバイアスは、マスクパターンの向きに依存した転写パターンの線幅差、つまり、水平(Horizontal:H)方向の線幅と垂直(Vertical:V)方向の線幅との差のことである。H方向の線幅は、入射光と反射光が作る面(以下、「入射面」と称する場合がある)に直交する線状パターンの線幅を示し、V方向の線幅は、入射面に平行な線状パターンの線幅を示している。つまり、H方向の線幅は、入射面に平行な方向の長さであり、V方向の線幅は、入射面に直交する方向の長さである。
【0111】
評価方法としては、参考例として表1に示した既存のタンタル(Ta)マスクを用いた場合と比較したときのHVバイアスの大小で評価した。つまり、x方向のLSパターンが設計通りに転写するように調節した状態で、y方向のLSパターンが設計通りに転写され、HVバイアスが既存のタンタル(Ta)マスクを用いた場合よりも小さい場合を「合格」とした。そして、x方向のLSパターンが設計通りに転写するように調節した状態で、設計通りに転写されない場合(y方向のLSパターンが解像しない場合)、あるいはHVバイアスが既存のタンタル(Ta)マスクを用いた場合よりも大きい場合を「不合格」とした。
【0112】
これらの評価結果を、表1に示した。なお、表1には、上記評価結果に加えて、屈折率n及び消衰係数kも示す。
【0113】
【0114】
表1において、各実施例及び各比較例のOD値の比較を示す。前述の通り、OD値が1.0未満の場合には、十分なコントラストを得ることができず、転写性能が低下する。したがって、OD値が1.0以上であれば転写性能に問題はないとして、「合格」とした。
【0115】
従来の膜厚60nmのタンタル(Ta)系吸収パターン層を備えた反射型フォトマスク(参考例の反射型フォトマスク)のOD値は1.68であるのに対し、実施例1の反射型フォトマスク20のOD値は2.890であり、実施例2の反射型フォトマスク20のOD値は1.600であり、実施例3の反射型フォトマスク20のOD値は2.438であり、実施例4の反射型フォトマスク20のOD値は2.071であり、実施例5の反射型フォトマスク20のOD値は1.735であり、実施例6の反射型フォトマスク20のOD値は3.386であり、実施例7の反射型フォトマスク20のOD値は3.514であり、実施例8の反射型フォトマスク20のOD値は1.843であり、実施例9の反射型フォトマスク20のOD値は2.556であり、実施例10の反射型フォトマスク20のOD値は1.040であり、実施例11の反射型フォトマスク20のOD値は1.894であり、実施例12の反射型フォトマスク20のOD値は1.793であり、実施例13の反射型フォトマスク20のOD値は2.045であり、実施例14の反射型フォトマスク20のOD値は1.545であり、実施例15の反射型フォトマスク20のOD値は1.049であった。また、比較例においては、比較例1の反射型フォトマスク20のOD値は2.673であり、比較例2から比較例4の各反射型フォトマスク20のOD値は測定不能であり、比較例5の反射型フォトマスク20のOD値は2.180であり、比較例6の反射型フォトマスク20のOD値は0.817であり、比較例7の反射型フォトマスク20のOD値は0.940であった。すなわち、比較例2から比較例4、比較例6から比較例7はOD値が1.0未満、あるいは測定不能であり、「合格」の基準を満たさなかった。
【0116】
より詳しくは、吸収層4において、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを合計50原子%以上含み、且つニッケル(Ni)と酸素(O)の原子数比率(O/Ni)が0.5以上である材料、即ち実施例1から実施例15の吸収層4ではOD値が1.0以上であり、「合格」の基準を満たすことが確認された。
【0117】
一方、ニッケル(Ni)と酸素(O)の原子数比率(O/Ni)が0.5未満である材料、即ち比較例2から比較例4の吸収層4ではOD値が測定できなかったことが確認された。また、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを合計50原子%以上含まない材料、即ち比較例6から比較例7の吸収層4ではOD値が1.0未満であり、「合格」の基準を満たさないことが確認された。なお、比較例1及び比較例5の吸収層4ではOD値が1.0以上であり、「合格」の基準を満たすことが確認された。
【0118】
表1において、各実施例及び各比較例のHVバイアスの比較を示す。評価方法としては、前述の通り、既存のタンタル(Ta)マスクを用いた場合と比較したときのHVバイアスの大小で評価した。つまり、x方向のLSパターンが設計通りに転写するように調節した状態で、y方向のLSパターンが設計通りに転写され、HVバイアスが既存のタンタル(Ta)マスクを用いた場合よりも小さい場合を「合格」とした。そして、x方向のLSパターンが設計通りに転写するように調節した状態で、設計通りに転写されない場合(y方向のLSパターンが解像しない場合)、あるいはHVバイアスが既存のタンタル(Ta)マスクを用いた場合よりも大きい場合を「不合格」とした。
従来の膜厚60nmのタンタル(Ta)系吸収パターン層を備えた反射型フォトマスクを用いたEUV光によるパターニングの結果、HVバイアスは5.20nmであった。これに対し実施例1のHVバイアスは4.743nmであり、実施例2のHVバイアスは4.166nmであり、実施例3のHVバイアスは3.997nmであり、実施例4のHVバイアスは4.204nmであり、実施例5のHVバイアスは2.992nmであり、実施例6のHVバイアスは4.141nmであり、実施例7のHVバイアスは5.027nmであり、実施例8のHVバイアスは3.487nmであり、実施例9のHVバイアスは3.378nmであり、実施例10のHVバイアスは1.079nmであり、実施例11のHVバイアスは2.821nmであり、実施例12のHVバイアスは4.154nmであり、実施例13のHVバイアスは3.070nmであり、実施例14のHVバイアスは2.586nmであり、実施例15のHVバイアスは1.306nmであった。また、比較例においては、比較例1のHVバイアスは2.877nmであり、比較例2から比較例4の各HVバイアスは測定不能であり、比較例5のHVバイアスは2.655nmであり、比較例6のHVバイアスは1.565nmであり、比較例7のHVバイアスは1.772nmであった。すなわち、比較例1、比較例5から比較例7はHVバイアスが既存のタンタル(Ta)マスクを用いた場合よりも小さく、「合格」の基準を満たした。
【0119】
これに対し、比較例2から比較例4のHVバイアスは測定不能であり、EUV光によるパターニングの結果、従来のTa系フォトマスクと比較して転写性が悪化した。
より詳しくは、吸収層4において、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを合計50原子%以上含み、且つニッケル(Ni)と酸素(O)の原子数比率(O/Ni)が0.5以上である材料、即ち実施例1から実施例15の吸収層4ではHVバイアスが既存のタンタル(Ta)マスクを用いた場合よりも小さく、「合格」の基準を満たすことが確認された。
【0120】
一方、ニッケル(Ni)と酸素(O)の原子数比率(O/Ni)が0.5未満である材料、即ち比較例2から比較例4の吸収層4ではHVバイアスが測定できなかったことが確認された。なお、比較例1、比較例5から比較例7の吸収層4ではHVバイアスが既存のタンタル(Ta)マスクを用いた場合よりも小さく、「合格」の基準を満たすことが確認された。
【0121】
表1において、磁性と、描画位置精度と、OD値と、HVバイアスの総合的評価を示す。磁性と、描画位置精度と、OD値と、HVバイアスの各評価が全て「合格」と判断された反射型フォトマスク20、即ち射影効果を抑制または軽減でき、且つ磁性体を使用していながら吸収層上に形成されたレジスト膜に対して電子線描画を行った際に生じ得る描画精度の低下を抑制することで転写性能を高めることができる反射型フォトマスク20については、「総合判定」の欄に「○」と記した。一方、磁性と、描画位置精度と、OD値と、HVバイアスの各評価のうち、少なくとも1つが「不合格」と判断された反射型フォトマスク20、即ち射影効果を十分に抑制または軽減できなかった、又は吸収層上に形成されたレジスト膜に対して電子線描画を行った際に描画精度が低下し転写性能が十分でない反射型フォトマスク20については、「総合判定」の欄に「×」と記した。なお、従来のTa系フォトマスクは比較対象であるため、「総合判定」の欄に「△」と記した。
【0122】
これにより、吸収パターン層41が、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを吸収層4の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つニッケル(Ni)に対する酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上である反射型フォトマスク20であれば、描画位置精度、光学濃度(OD値)、HVバイアスが共に良好であることから、射影効果を低減でき、且つ描画精度を十分に有し転写性能が高くなるという結果となった。
【0123】
また、例えば、本実施形態は以下のような構成を取ることができる。
(1)
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクを作製するための反射型フォトマスクブランクであって、
基板と、
前記基板上に形成された多層膜を含む反射層と、
前記反射層の上に形成された吸収層と、を有し、
前記吸収層は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、前記吸収層の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つ前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上である反射型フォトマスクブランク。
(2)
前記吸収層は、タンタル(Ta)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、又は珪素(Si)を、前記吸収層の全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含む上記(1)に記載の反射型フォトマスクブランク。
(3)
前記吸収層は、タンタル(Ta)又はイリジウム(Ir)を、前記吸収層の全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含む上記(1)に記載の反射型フォトマスクブランク。
(4)
前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が1.0以上である上記(1)から(3)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
(5)
前記吸収層は、前記ニッケル(Ni)を、前記吸収層の全原子数に対して50原子%以上含む上記(1)から(4)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
(6)
前記吸収層の膜密度は、4.0g/cm3以上であり、
前記吸収層の膜厚は、17nm以上45nm以下の範囲内である上記(1)から(5)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
(7)
前記吸収層の膜厚は、19nm以上40nm以下の範囲内である上記(1)から(6)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
(8)
前記吸収層の上にエッチングマスク層をさらに有する上記(1)から(7)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランク。
(9)
前記エッチングマスク層の膜厚は、30nm以下である上記(8)に記載の反射型フォトマスクブランク。
(10)
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクであって、
基板と、
前記基板上に形成された多層膜を含む反射層と、
前記反射層の上に形成された吸収層と、を有し、
前記吸収層は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、前記吸収層の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つ前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上である反射型フォトマスク。
(11)
前記吸収層は、タンタル(Ta)、イリジウム(Ir)、タングステン(W)、パラジウム(Pd)、クロム(Cr)、ルテニウム(Ru)、モリブデン(Mo)、又は珪素(Si)を、前記吸収層の全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含む上記(10)に記載の反射型フォトマスク。
(12)
前記吸収層は、タンタル(Ta)又はイリジウム(Ir)を、前記吸収層の全原子数に対して5原子%以上50原子%以下の範囲内で含む上記(10)に記載の反射型フォトマスク。
(13)
前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が1.0以上である上記(10)から(12)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
(14)
前記吸収層は、前記ニッケル(Ni)を、前記吸収層の全原子数に対して50原子%以上含む上記(10)から(13)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
(15)
前記吸収層の膜密度は、4.0g/cm3以上であり、
前記吸収層の膜厚は、17nm以上45nm以下の範囲内である上記(10)から(14)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
(16)
前記吸収層の膜厚は、19nm以上40nm以下の範囲内である上記(10)から(15)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスク。
(17)
極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスクの製造方法であって、
基板上に多層膜を含む反射層を形成する工程と、
前記反射層の上に吸収層を形成する工程と、を有し、
前記吸収層は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、前記吸収層の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つ前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上である反射型フォトマスクの製造方法。
(18)
上記(1)から(9)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクブランクを用いた反射型フォトマスクの製造方法であって、
前記基板上に多層膜を含む前記反射層を形成する工程と、
前記反射層の上に前記吸収層を形成する工程と、を有し、
前記吸収層は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、前記吸収層の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つ前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上である反射型フォトマスクの製造方法。
(19)
上記(10)から(16)のいずれか1項に記載の反射型フォトマスクの製造方法であって、
前記基板上に多層膜を含む前記反射層を形成する工程と、
前記反射層の上に前記吸収層を形成する工程と、を有し、
前記吸収層は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、前記吸収層の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つ前記ニッケル(Ni)に対する前記酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上である反射型フォトマスクの製造方法。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本発明にかかる反射型フォトマスクは、半導体集積回路などの製造工程において、EUV露光によって微細なパターンを形成するために好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0125】
1…基板
2…反射層
3…キャッピング層(保護層)
4…吸収層
41…吸収パターン(吸収パターン層)
5…ハードマスク(エッチングマスク層)
10…反射型フォトマスクブランク
20…反射型フォトマスク
6…裏面導電膜
7…レジスト膜
71…レジストパターン
8…反射部
【要約】
【課題】本発明は、極端紫外領域の波長の光を光源としたパターニング転写用の反射型フォトマスクの射影効果を抑制または軽減し、且つ磁性体を使用していながら吸収層上に形成されたレジスト膜に対して電子線描画を行った際に生じ得る描画精度の低下を抑制することで転写性能を高めることができる反射型フォトマスクブランク、反射型フォトマスク及び反射型フォトマスクの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の実施形態に係る反射型フォトマスクブランク10は、極端紫外線を光源としたパターン転写用の反射型フォトマスク20を作製するための反射型フォトマスクブランクであって、基板1と、反射層2と、吸収層4と、を有し、吸収層4は、ニッケル(Ni)と酸素(O)とを、吸収層4の全原子数に対して合計50原子%以上含み、且つニッケル(Ni)に対する酸素(O)の原子数比(O/Ni)が0.5以上である。
【選択図】
図1