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特許7557104上皮系細胞を用いた人工多能性幹細胞の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】上皮系細胞を用いた人工多能性幹細胞の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240918BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20240918BHJP
   C12N 15/113 20100101ALN20240918BHJP
【FI】
C12N5/10
C12N15/12
C12N15/113 110Z
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2024504540
(86)(22)【出願日】2023-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2023046566
【審査請求日】2024-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2023008217
(32)【優先日】2023-01-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2023085614
(32)【優先日】2023-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 電気通信回線を通じた公開1[ウェブサイトの掲載日]2023年6月7日[ウェブサイトのアドレス]https://isscr.junolive.co/AM23/directories/abstractbook
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 学会による公開1[開催日]2023年6月16日(日本時間 午後22:30~午後23:15)※学会開催地では2023年6月16日(午前9:30~午前10:15)※学会開催期間:2023年6月14日~17日[集会名]International Society for Stem Cell Research(ISSCR)2023[会場]ボストン・コンベンション&エキシビジョン・センター 415サマーストリートボストン,MA,02210米国
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 電気通信回線を通じた公開2[ウェブサイトの掲載日]2023年6月22日[ウェブサイトのアドレス]https://synosis.com/pdf/jscb2023_abstracts-230622_001.pdf
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 学会による公開2[開催日]2023年6月29日(学会開催期間:2023年6月28日~30日)[集会名]第75回日本細胞生物学会[会場]奈良県奈良市三条大路1丁目691-1 奈良県コンベンションセンター
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113470
【氏名又は名称】ポーラ化成工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004163
【氏名又は名称】弁理士法人みなとみらい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久下 貴之
(72)【発明者】
【氏名】岩永 知幸
【審査官】長谷川 強
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/137970(WO,A1)
【文献】LIM, S. J. et al.,Induced pluripotent stem cells from human hair follicle keratinocytes as a potential source for vitro hair follicle cloning,PeerJ,2016年,4:e2695,pp.1-17,DOI:10.7717/peerj.2695
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/10
C12N 15/12
C12N 15/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
核の初期化を行うリプログラム遺伝子又はその翻訳産物を、上皮系細胞に導入することを含む初期化工程と、
前記初期化工程を経た細胞を、ラミニン又はその断片でコートされた培養面上で付着培養する付着培養工程と、
を備え、
前記上皮系細胞が、抜毛により取得された、外毛根鞘を含む組織を培養し得られたものであり、
前記プログラム遺伝子が、Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子及びSox2遺伝子を含み、
前記ラミニン及びラミニン断片は、インテグリン結合部位を有し、
前記初期化工程において、p53の機能を阻害することを含み、
前記初期化工程において前記リプログラム遺伝子又はその翻訳産物を導入した後の細胞を、ROCK阻害剤を含む培地で培養することを含む、上皮系細胞を用いた人工多能性幹細胞の製造方法。
【請求項2】
さらに、前記初期化工程で使用する上皮系細胞を培養する培養工程を含み、
前記培養工程は、外毛根鞘を含む組織を培養し、上皮系細胞を増殖させる工程を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記外毛根鞘を含む組織は、毛に付着した状態で培養される、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記p53の機能阻害は、下記(a)~(c)から選ばれる1又は2以上の物質により誘導される、請求項1に記載の製造方法:
(a)p53の化学的阻害物質;
(b)p53のドミナントネガティブ変異体及びそれをコードする核酸;並びに
(c)p53に対するsiRNA、shRNA及びそれらをコードするDNA。
【請求項5】
前記培養工程は、得られた前記外毛根鞘を含む組織を、培養前に消毒液に1分未満の間接触させる工程を含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項6】
前記培養工程は、
細胞外基質をコーティングしたプレートに、得られた前記外毛根鞘を含む組織を播種する工程と、
培地の全量交換を行わずに新鮮な培地を補充しながら、前記プレートに播種した前記外毛根鞘を含む組織を1~3日間培養した後、前記外毛根鞘を含む組織を培地の交換及び補充せず2~7日間静置培養することで、上皮系細胞を増殖させる工程と、を含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記インテグリンが、インテグリンα6β1である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項8】
前記ラミニンはラミニン511である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項9】
前記ラミニンはラミニン511であり、
前記ラミニンの断片は、ラミニン511E8フラグメントである、請求項1に記載の製造方法。
【請求項10】
前記リプログラム遺伝子は、c-Myc遺伝子又はL-Myc遺伝子、並びにLin28遺伝子を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項11】
前記上皮系細胞は、ケラチノサイトである、請求項1~10の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項12】
前記培養工程において使用する培地は、無血清及び/又はゼノフリーである、請求項2に記載の製造方法。
【請求項13】
前記培養工程は、幹細胞用培地で培養する工程を含む、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記培養工程は、前記幹細胞用培地での培養後、上皮細胞用培地で培養する工程を含む、請求項13に記載の製造方法。
【請求項15】
前記培養工程は、カルシウム濃度が0.2~4.0mMである高カルシウム培地で培養する工程と、
前記高カルシウム培地での培養後、カルシウム濃度が40~80μMである低カルシウム培地で培養する工程を含む、請求項12に記載の製造方法。
【請求項16】
前記外毛根鞘を含む組織の播種前に、前記外毛根鞘を含む組織における細胞外マトリックスの構成成分を分解する分解工程を含まない、請求項2~101215の何れか一項に記載の製造方法。
【請求項17】
前記分解工程が、前記外毛根鞘を含む組織をトリプシン、コラゲナーゼ及びディスパーゼから選択される1種又は2種以上で処理する工程である、請求項16に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上皮系細胞を用いた人工多能性幹細胞の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
人工多能性幹細胞(induced pluripotent stem cell,iPS細胞)などの多能性幹細胞は、再生医療のための医薬品又は医薬原料等として広く研究が進められている。iPS細胞は、2006年には初めてマウス体細胞を用いて樹立され(非特許文献1)、翌年にはヒトiPSの樹立も報告された(非特許文献2)。
現在、末梢血又は臍帯血由来単核球細胞等の血球細胞、線維芽細胞等の体細胞を用いたiPS細胞の樹立方法が開発されており、京都大学等によりプロトコルが公開されている。
【0003】
さらに、非侵襲に取得可能な体細胞を用いてiPS細胞を効率よく製造する方法も検討されている。例えば、特許文献1には、尿から回収したヒト剥離近位尿細管上皮細胞(HEPTEC)等の尿由来細胞を用いて、iPS細胞を誘導する方法が開示されている。
【0004】
また、毛包の外毛根鞘由来のケラチノサイトからiPS細胞を誘導する方法も開示されている(非特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-169574号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Cell. 2006;126(4):663-676
【文献】Cell. 2007;131(5):861-872
【文献】Nat Protoc. 2010 Feb;5(2):371-82.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記先行技術のあるところ、本発明は、ケラチノサイト等の上皮系細胞を用いてiPS細胞を製造することができる、新規な技術を提供することを第1の課題とする。
【0008】
また、本発明は、毛包等の上皮系細胞を含む組織から、上皮系細胞を取得するための、新規な培養方法を提供することを第2の課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記第1の課題を解決する本発明は、核の初期化を行うリプログラム遺伝子又はその翻訳産物を、上皮系細胞に導入することを含む初期化工程と、
前記初期化工程を経た細胞を、ラミニン又はその断片でコートされた培養面上で付着培養する付着培養工程と、
を備える、上皮系細胞を用いた人工多能性幹細胞の製造方法である。
上記の本発明の製造方法は、初期化工程にてラミニン又はその断片でコートされた培養面上で細胞を付着培養することで、iPS細胞の樹立効率が高いという利点を有する。
【0010】
本発明の好ましい形態では、前記上皮系細胞は、外毛根鞘由来である。
非侵襲的方法により入手が可能な外毛根鞘由来の上皮系細胞を用いるため、ドナー個体からのiPSドナー細胞の取得が容易となる。
【0011】
本発明の好ましい形態では、前記上皮系細胞は、抜毛により取得された組織に由来する。
抜毛により取得された組織に由来する上皮系細胞を用いることで、iPS細胞を効率よく製造することができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、さらに、前記初期化工程で使用する上皮系細胞を培養する培養工程を含み、
前記培養工程は、外毛根鞘を含む組織を培養し、上皮系細胞を増殖させる工程を含む。
上記培養工程を実施することにより、非侵襲的方法により外毛根鞘由来の上皮系細胞を得ることができ、ドナー個体からのiPSドナー細胞の取得が容易となる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記外毛根鞘を含む組織は、毛に付着した状態で培養される。
本発明によれば、毛から外毛根鞘を含む組織を取り出すといったサンプル処理の手間が省け、工程を簡素化することができる。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記外毛根鞘を含む組織は、抜去により取得した毛から得たものである。
非侵襲的方法である抜毛により容易に培養サンプルを取得することができるため、サンプル取得時のドナー個体の負担を軽減することができる。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記初期化工程において、p53の機能を阻害することを含む。
細胞のリプログラム時にp53の機能を阻害することで、iPS細胞の樹立効率をより高めることができる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記p53の機能阻害は、下記(a)~(c)から選ばれる1又は2以上の物質により誘導される。
(a)p53の化学的阻害物質;
(b)p53のドミナントネガティブ変異体及びそれをコードする核酸;並びに
(c)p53に対するsiRNA、shRNA及びそれらをコードするDNA。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記初期化工程において前記リプログラム遺伝子又はその翻訳産物を導入した後の細胞を、ROCK阻害剤を含む培地で培養することを含む。
上記形態とすることにより、iPS細胞の樹立効率をより高めることができる。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記培養工程は、得られた前記外毛根鞘を含む組織を、培養前に消毒液に1分未満の間接触させる工程を含む。
上記工程とすることにより、サンプルの毛の培養器材への接着性を改善し、外毛根鞘から上皮系細胞を効率よく取得することができる。
【0019】
本発明の好ましい形態では、前記培養工程は、
細胞外基質をコーティングしたプレートに、得られた前記外毛根鞘を含む組織を播種する工程と、
培地の全量交換を行わずに新鮮な培地を補充しながら、前記プレートに播種した前記外毛根鞘を含む組織を1~3日間培養した後、前記外毛根鞘を含む組織を培地の交換及び補充せず2~7日間静置培養することで、上皮系細胞を増殖させる工程と、を含む。
上記特徴を備えた培養工程を実施することで、少ない本数の毛から効率よく多量の上皮系細胞を得ることができる。
【0020】
本発明の好ましい形態では、前記ラミニンはラミニン511である。
ラミニン511を用いることで、iPS細胞の樹立効率を高めることができる。
【0021】
本発明の好ましい形態では、前記リプログラム遺伝子は、Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、及びSox2遺伝子を含む。
【0022】
本発明の好ましい形態では、前記リプログラム遺伝子は、c-Myc遺伝子又はL-Myc遺伝子を含む。
【0023】
本発明の好ましい形態では、前記上皮系細胞は、ケラチノサイトである。
【0024】
本発明の好ましい形態では、前記培養工程において使用する培地は、無血清及び/又はゼノフリーである。
【0025】
本発明の好ましい形態では、前記培養工程は、幹細胞用培地で培養する工程を含む。
幹細胞用培地で培養する工程を含むことで、無血清及び/又はゼノフリーの条件下であっても、上皮系細胞を効率よく増殖させることができる。
【0026】
本発明の好ましい形態では、前記培養工程は、前記幹細胞用培地での培養後、上皮細胞用培地で培養する工程を含む。
上記形態とすることで、上皮系細胞を優先的に増殖させることができる。
【0027】
本発明の好ましい形態では、カルシウム濃度が0.2~4.0mMである高カルシウム培地で培養する工程と、
前記高カルシウム培地での培養後、カルシウム濃度が40~80μMである低カルシウム培地で培養する工程を含む。
上記形態とすることで、無血清及び/又はゼノフリーの条件下であっても、上皮系細胞を効率よく増殖させることができる。
【0028】
本発明の好ましい形態では、前記幹細胞用培地及び/又は前記高カルシウム培地は、上皮細胞成長因子(EGF)、インスリン様成長因子-I(IGF-I)、ヒドロコルチゾン、トランスフェリン、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、TGFβ1(Transforming Growth Factor-β1)、L-アスコルビン酸、セレン及びインスリンを含む。
上記形態とすることで、無血清及び/又はゼノフリー条件において、上皮性組織から上皮系細胞を効率よく取得することができる。
【0029】
本発明の好ましい形態では、前記上皮細胞用培地及び/又は前記低カルシウム培地は、上皮細胞成長因子(EGF)、インスリン様成長因子-I(IGF-I)、ヒドロコルチゾン、及びトランスフェリンを含む。
上記形態とすることで、無血清及び/又はゼノフリー条件において、外毛根鞘を含む組織から上皮系細胞を効率よく取得することができる。
【0030】
本発明の好ましい形態では、前記外毛根鞘を含む組織の播種前に、前記外毛根鞘を含む組織における細胞外マトリックスの構成成分を分解する分解工程を含まない。
上記形態とすることで、サンプル処理の手間が省けるとともに、サンプルのダメージを最小限とし、外毛根鞘を含む組織から上皮系細胞を効率よく増殖させることができる。
【0031】
本発明の好ましい形態では、前記分解工程が、前記サンプルをトリプシン、コラゲナーゼ及びディスパーゼから選択される1種又は2種以上で処理する工程である。
【0032】
上記第1の課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]核の初期化を行うリプログラム遺伝子又はその翻訳産物を、上皮系細胞に導入することを含む初期化工程と、
前記初期化工程を経た細胞を、ラミニン又はその断片でコートされた培養面上で付着培養する付着培養工程と、
を備える、上皮系細胞を用いた人工多能性幹細胞の製造方法。
[2]前記上皮系細胞は、外毛根鞘由来である、[1]に記載の製造方法。
[3]前記上皮系細胞は、抜毛により取得された組織に由来する、[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4]さらに、前記初期化工程で使用する上皮系細胞を培養する培養工程を含み、
前記培養工程は、外毛根鞘を含む組織を培養し、上皮系細胞を増殖させる工程を含む、[1]~[3]の何れか一つに記載の製造方法。
[5]前記外毛根鞘を含む組織は、毛に付着した状態で培養される、[4]に記載の製造方法。
[6]前記外毛根鞘を含む組織は、抜去により取得した毛から得たものである、[4]又は[5]に記載の製造方法。
[7]前記初期化工程において、p53の機能を阻害することを含む、[1]~[6]の何れか一つに記載の製造方法。
[8]前記p53の機能阻害は、下記(a)~(c)から選ばれる1又は2以上の物質により誘導される、[7]に記載の製造方法:
(a)p53の化学的阻害物質;
(b)p53のドミナントネガティブ変異体及びそれをコードする核酸;並びに
(c)p53に対するsiRNA、shRNA及びそれらをコードするDNA。
[9]前記初期化工程において前記リプログラム遺伝子又はその翻訳産物を導入した後の細胞を、ROCK阻害剤を含む培地で培養することを含む、[1]~[8]の何れか一つに記載の製造方法。
[10]前記培養工程は、得られた前記外毛根鞘を含む組織を、培養前に消毒液に1分未満の間接触させる工程を含む、[4]~[9]の何れか一つに記載の製造方法。
[11]前記培養工程は、細胞外基質をコーティングしたプレートに、得られた前記外毛根鞘を含む組織を播種する工程と、
培地の全量交換を行わずに新鮮な培地を補充しながら、前記プレートに播種した前記外毛根鞘を含む組織を1~3日間培養した後、前記外毛根鞘を含む組織を培地の交換及び補充せず2~7日間静置培養することで、上皮系細胞を増殖させる工程と、を含む、[4]~[10]の何れか一つに記載の製造方法。
[12]前記ラミニンはラミニン511である、[1]~[11]の何れか一つに記載の製造方法。
[13]前記リプログラム遺伝子は、Oct3/4遺伝子、Klf4遺伝子、及びSox2遺伝子を含む、[1]~[12]の何れか一つに記載の製造方法。
[14]前記リプログラム遺伝子は、c-Myc遺伝子又はL-Myc遺伝子を含む、[1]~[13]の何れか一つに記載の製造方法。
[15]前記上皮系細胞は、ケラチノサイトである、[1]~[14]の何れか一つに記載の製造方法。
[16]前記培養工程において使用する培地は、無血清及び/又はゼノフリーである、[4]~[15]の何れか一つに記載の製造方法。
[17]前記培養工程は、幹細胞用培地で培養する工程を含む、[16]に記載の製造方法。
[18]前記培養工程は、前記幹細胞用培地での培養後、上皮細胞用培地で培養する工程を含む、[17]に記載の製造方法。
[19]前記培養工程は、カルシウム濃度が0.2~4.0mMである高カルシウム培地で培養する工程と、
前記高カルシウム培地での培養後、カルシウム濃度が40~80μMである低カルシウム培地で培養する工程を含む、[16]~[18]の何れか一つに記載の製造方法。
[20]前記幹細胞用培地及び/又は前記高カルシウム培地は、上皮細胞成長因子(EGF)、インスリン様成長因子-I(IGF-I)、ヒドロコルチゾン、トランスフェリン、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、TGFβ1(Transforming Growth Factor-β1)、L-アスコルビン酸、セレン及びインスリンを含む、[17]~[19]の何れか一つに記載の製造方法。
[21]前記上皮細胞用培地及び/又は前記低カルシウム培地は、上皮細胞成長因子(EGF)、インスリン様成長因子-I(IGF-I)、ヒドロコルチゾン、及びトランスフェリンを含む、[18]~[20]の何れか一つに記載の製造方法。
[22]前記外毛根鞘を含む組織の播種前に、前記外毛根鞘を含む組織における細胞外マトリックスの構成成分を分解する分解工程を含まない、[4]~[21]の何れか一つに記載の製造方法。
[23]前記分解工程が、前記サンプルをトリプシン、コラゲナーゼ及びディスパーゼから選択される1種又は2種以上で処理する工程である、[22]に記載の製造方法。
【0033】
上記第2の課題を解決するための本発明は、無血清及び/又はゼノフリー条件で組織から上皮系細胞を増殖させる方法である。
上記本発明の好ましい形態は、以下の通りである。
【0034】
[1]上皮性組織を含むサンプルを無血清及び/又はゼノフリー条件で培養することを含む、上皮系細胞の培養方法。
【0035】
[2]前記上皮系細胞は、ケラチノサイトである、[1]に記載の培養方法。
【0036】
[3]前記ケラチノサイトが、毛包ケラチノサイトである、[2]に記載の培養方法。
【0037】
[4]前記サンプルは、外毛根鞘を含む、[1]~[3]の何れか一つに記載の培養方法。
【0038】
[5]前記外毛根鞘は、前記毛に付着した状態である、[4]に記載の培養方法。
【0039】
[6]前記サンプルは、抜去により取得した毛から得たものである、[1]~[5]の何れか一つに記載の培養方法。
【0040】
[7]幹細胞用培地で前記サンプルを培養する工程を含む、[1]~[6]の何れか一つに記載の培養方法。
【0041】
[8]前記幹細胞用培地は、カルシウム濃度が0.2~4.0mMである、[7]に記載の培養方法。
【0042】
[9]前記幹細胞用培地での培養後、前記サンプルを上皮細胞用培地で培養する工程を含む、[7]又は[8]に記載の培養方法。
【0043】
[10]カルシウム濃度が0.2~4.0mMである高カルシウム培地で前記サンプルを培養する工程と、
前記高カルシウム培地での培養後、カルシウム濃度が40~80μMである低カルシウム培地で前記サンプルを培養する工程を含む、[1]~[9]の何れか一つに記載の培養方法。
【0044】
[11]前記高カルシウム培地は、幹細胞用培地である、[10]に記載の培養方法。
【0045】
[12]前記低カルシウム培地は、上皮細胞用培地である、[10]又は[11]に記載の培養方法。
【0046】
[13]前記幹細胞用培地及び/又は前記高カルシウム培地は、上皮細胞成長因子(EGF)、インスリン様成長因子-I(IGF-I)、ヒドロコルチゾン、トランスフェリン、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、TGFβ1、L-アスコルビン酸、セレン及びインスリンを含む、[7]~[12]の何れか一つに記載の培養方法。
【0047】
[14]前記上皮細胞用培地及び/又は前記低カルシウム培地が、上皮細胞成長因子(EGF)、インスリン様成長因子-I(IGF-I)、ヒドロコルチゾン、及びトランスフェリンを含む、[9]~[13]の何れか一つに記載の培養方法。
【0048】
[15]無血清かつゼノフリー条件で前記サンプルを培養する、[1]~[14]の何れか一つに記載の培養方法。
【0049】
[16]前記の培養方法は、初代培養の方法である、[1]~[15]の何れか一つに記載の培養方法。
【0050】
[17]前記サンプルの播種前に、前記サンプルにおける細胞外マトリックスの構成成分を分解する分解工程を含まない、[1]~[16]の何れか一つに記載の培養方法。
【0051】
[18]前記分解工程が、前記サンプルをトリプシン、コラゲナーゼ及びディスパーゼから選択される1種又は2種以上で処理する工程である、[17]に記載の培養方法。
【0052】
[19]前記サンプルを、培養前に消毒液に1分未満の間接触させる工程を含む、[1]~[18]の何れか一つに記載の培養方法。
【0053】
[20]細胞外基質をコーティングしたプレートに、得られた前記サンプルを播種する工程と、
培地の全量交換を行わずに新鮮な培地を補充しながら、前記プレートに播種した前記サンプルを1~3日間培養した後、前記サンプルを培地の交換及び補充せず2~7日間静置培養することで、上皮系細胞を増殖させる静置培養工程と、を含む、[1]~[19]の何れか一つに記載の培養方法。
【0054】
[21]前記静置培養工程で使用する培地は、前記幹細胞用培地である、[20]に記載の培養方法。
【0055】
[22]前記幹細胞用培地は、カルシウム濃度が0.2~4.0mMである、[21]に記載の培養方法。
【発明の効果】
【0056】
本発明の製造方法によれば、上皮系細胞由来のiPS細胞を効率よく製造することができる。
【0057】
また、本発明の製造方法によれば、無血清及び/又はゼノフリー条件で、毛包等の上皮系細胞を含む組織から、上皮系細胞を取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0058】
図1】本発明の一実施形態にかかる、上皮系細胞を用いたiPS細胞の製造工程を説明するための工程図である。
図2】実施例1における、外毛根鞘から増殖した上皮系細胞の様子を示す、明視野写真である。スケールバーは1mmである。
図3】実施例1における、形質転換後の継代20日後のiPS細胞の増殖の様子を示す、明視野写真である。スケールバーは200μmである。
図4】実施例1における、誘導したiPS細胞のiPS細胞マーカー(OCT4、SOX2、NANOG、及びTRA1-81)の細胞免疫染色結果を示す、蛍光写真である。スケールバーは200μmである。
図5】実施例2における、外毛根鞘から増殖した上皮系細胞の様子を示す、明視野写真である。スケールバーは300μmである。
図6】実施例2における、上皮系細胞から誘導したiPS細胞の増殖の様子を示す、明視野写真である。スケールバーは100μmである。
図7】実施例2における、誘導したiPS細胞のiPS細胞マーカー(OCT4、SOX2、NANOG、及びTRA1-81)の細胞免疫染色結果を示す、蛍光写真である。スケールバーは100μmである。
図8】実施例3における、実施例1で取得した上皮系細胞の上皮細胞マーカー(KRT14及びCD200)の細胞免疫染色結果を示す、蛍光写真である。スケールバーは500μmである。
【発明を実施するための形態】
【0059】
<上皮系細胞を用いた人工多能性幹細胞の製造方法>
本発明の上皮系細胞を用いた人工多能性幹細胞の製造方法の好ましい一実施形態について、図1を参照し説明する。
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、適宜設計変更が可能である。
【0060】
図1にかかる製造方法は、上皮系細胞を培養する培養工程S1、得られた上皮系細胞の初期化を行う初期化工程S2、及び、ラミニン又はその断片でコートされた培養面上で前記上皮系細胞を付着培養し、人工多能性幹細胞(iPS細胞)を誘導する付着培養工程S3を含む。
【0061】
ここで、本発明において人工多能性幹細胞(iPS細胞)とは、体細胞に後述するリプログラム因子を作用させることにより人工的に作製された、分化多能性及び増殖能を有する細胞をいう。
【0062】
以下、本発明にかかる各工程について、詳細に説明を加える。
【0063】
(1)培養工程S1
培養工程S1は、初期化工程S2で使用する上皮系細胞を培養する工程である。
【0064】
本発明で用いる上皮系細胞は、哺乳動物(例えば、ヒト等)由来のものを使用することができる。本発明ではヒト由来の上皮系細胞を培養することが好ましい。
【0065】
本発明において、上皮系細胞とは、上皮性の組織に由来する細胞のことをいい、上皮性組織を含むサンプルを培養して得ることができる。本発明における上皮系細胞は、上皮性組織を培養することにより得られる細胞集団であってもよく、上皮細胞マーカーを発現する上皮細胞(例えば、ケラチノサイト)、及び、上皮幹細胞マーカーを発現する幹細胞(例えば、毛包幹細胞(hair follicle stem cells (HFSC))を含むことができる。
本発明では、上皮系細胞としてケラチノサイトを用いることができ、中でも毛包ケラチノサイトを好適に使用できる。
【0066】
本発明で使用する上皮系細胞は、上皮細胞を有するもの、つまり皮膚および皮膚付属器等の検体を培養し、取得することができる。本発明では、侵襲性の理由から毛の外毛根鞘の細胞を培養することが好ましい。
本発明の好ましい実施の形態では、非侵襲的方法により入手可能な毛の外毛根鞘由来の上皮系細胞を利用するため、ドナー個体からiPS細胞誘導用のサンプルを採取する際の負担を軽減することができる。
【0067】
上皮系細胞を取得するための組織を採取する個体(具体的には、哺乳動物個体)は特に制限されない。例えば、ドナー個体の化粧品効果、薬剤感受性や副作用の有無等を評価するためのスクリーニング用の細胞のソースとしてiPS細胞を使用する場合には、ドナー本人またはドナーと薬剤感受性等と相関する遺伝子多型が同一である他人から上皮系細胞を採取することが好ましい。
また、患者への移植等へ用いる場合には、患者等のドナー本人またはドナーとHLAの型が同一もしくは実質的に同一である他人から上皮系細胞を採取することが好ましい。これにより、拒絶反応のリスクが回避されるため、作製したiPS細胞を再生医療用途に好適に利用できる。
ここでHLAの型が「実質的に同一」とは、免疫抑制剤などの使用により、該体細胞由来のiPS細胞から分化誘導することにより得られた細胞をドナー個体に移植した場合に移植細胞が生着可能な程度にHLAの型が一致していることをいう。例えば、HLA(例えばHLA-A、HLA-BおよびHLA-DRの3遺伝子座)が同一である場合などが挙げられる。
【0068】
上皮系細胞の培養に使用する培地は特に限定されず、ケラチノサイト等の上皮細胞の培養に適した公知の培地を用いて培養することができる。このような培地としては、例えば、EpiLifeTM Medium(Gibco)、角化細胞増殖培地(Keratinocyte Growth Medium)、約5~20%の胎仔ウシ血清を含む最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)、RPMI1640培地、199培地、F12培地などが挙げられるが、それらに限定されない。また、適宜ケラチノサイトの培養に適切な成分(カルシウム、成長因子等)を添加してもよい。
本発明では、40~400μMのカルシウム塩を含有する培地を用いることが好ましい。
また、導入効率の低下を防ぐため、初期化工程S2前には、無血清培地に交換しておくことが好ましい。
【0069】
上皮系細胞の培養は、細胞が接着可能な培養器を用いて、付着培養とすることが好ましい。
付着培養を行う際に用いられる培養器は、培養スケール、培養条件及び培養期間に応じて適宜適切な培養器を選択することができる。細胞接着性の培養器としては、培養器の表面が細胞との接着性を向上させる目的で人工的に処理された培養器が挙げられ、具体的には表面加工された培養器や、内部がコーティング剤でコートされた培養器が挙げられる。
【0070】
本発明では、上皮系細胞の培養は、コーティング剤でコートされた培養器を用いることが好ましい。
コーティング剤としては、ラミニン、エンタクチン、コラーゲン、ゼラチン、ビトロネクチン(Vitronectin)、シンセマックス(コーニング社)、マトリゲル等の細胞外基質等や、ポリリジン、ポリオルニチン等の高分子等が挙げられる。本発明では、細胞外基質を用いることが好ましく、コラーゲンIを用いることが好ましい。
また、本発明では、コーティング剤としてラミニン又はその断片を用いることも好ましい。好ましいラミニン又はその断片の形態は、後述の付着培養工程S3に記載の通りである。
【0071】
また、培養器の具体的な形態としては、例えば、フラスコ、組織培養用フラスコ、培養皿(ディッシュ)、組織培養用ディッシュ、マルチディッシュ、マイクロプレート、マイクロウェルプレート、マルチプレート、マルチウェルプレート、チャンバースライド、シャーレ、チューブ、トレイ、培養バック、マイクロキャリア、ビーズ、スタックプレート、スピナーフラスコ又はローラーボトルが挙げられる。
【0072】
続いて、培養工程S1の具体的な手順として、毛を用いた上皮系細胞の分離培養方法について説明する。
【0073】
初めに、外毛根鞘を含む組織を取得する。外毛根鞘は、毛包の上皮性毛根鞘を構成する層であり、ドナー個体の毛を引き抜くことによって、当該外毛根鞘を含む組織を取得することができる。本発明で使用する毛の本数は、少なくとも1本以上であればよく、好ましくは2本以上、より好ましくは5本以上である。具体的には、1~10本の毛を用いることが好ましい。そして、ドナー個体から採取した毛の下部を切り出し、外毛根鞘を含む組織を取得する。取得する組織の大きさは2~3mm以上であることが好ましい。また、取得する組織は、外毛根鞘が毛に付着したままの形態であってもよい。すなわち、抜去した毛について外毛根鞘を含む部分を切り出し、毛に付着した状態の外毛根鞘を含む毛包を取得する形態であってもよい。
【0074】
抜去により得た毛は、毛球よりも上の領域に外毛根鞘が付着している。本発明で培養する抜去により取得された組織は、バルジ領域に存在した細胞を含んでいてもよい。
【0075】
次いで、得られた外毛根鞘を含む組織(サンプル)を、消毒液に接触させる。消毒液に接触させる方法は特に限定されず、サンプルを消毒液に浸漬させることが好ましく挙げられる。
消毒液へ接触させる時間は、好ましくは1分未満であり、より好ましくは30秒未満であり、さらに好ましくは10秒未満であり、特に好ましくは5秒未満である。
消毒液に接触させる時間を上記範囲内とすることで、毛へのダメージを軽減し、毛の培養器材への接着性を改善することにより、外毛根鞘を含む組織から上皮系細胞を効率よく取得することができる。
【0076】
本発明で使用する消毒液は、抗生物質を添加した溶液であることが好ましい。好ましい抗生物質としては、細胞壁合成阻害薬、タンパク質合成阻害薬、細胞膜機能阻害薬から選ばれる1種又は2種以上である。より好ましくは、細胞壁合成阻害薬、タンパク質合成阻害薬及び細胞膜機能阻害薬の各々から1種以上の抗生物質を選択する。
【0077】
細胞壁合成阻害薬としては、βラクタム系抗生物質が好ましく挙げられる。βラクタム系の細胞壁合成阻害薬としては、ペニシリン、アンピシリン、カルベニシリンナトリウム等が例示でき、本発明ではペニシリンを用いることが好ましい。
タンパク質合成阻害薬としては、アミノグリコシド系抗生物質が好ましく挙げられる。
アミノグリコシド系のタンパク質合成阻害薬としては、カナマイシン、ゲンタマイシン、ストレプトマイシン、ネオマイシン、ハイグロマイシン、トブラマイシン等が例示でき、本発明ではストレプトマイシンを用いることが好ましい。
細胞膜機能阻害薬としては、ポリエン系抗生物質が好ましく挙げられる。ポリエン系の細胞膜機能阻害薬としては、アムホテリシンB、ナイスタチン、ナタマイシン等が例示でき、本発明では特にアムホテリシンBを用いることが好ましい。
本発明にかかる消毒液は、抗生物質としてペニシリン、ストレプトマイシン及びアムホテリシンBを含む溶液であることが好ましい。
【0078】
続いて、コーティング剤をコートしたプレートに、得られた消毒済みのサンプルを播種し、一定期間培養することにより、上皮系細胞の増殖を行う。
使用するプレートは、細胞培養用の12wellプレート又は24wellプレートであることが好ましく、24wellプレートであることがより好ましい。また、消毒済みのサンプルを1wellあたり1個ずつ播種することが好ましい。
【0079】
播種時の培地の量は、切り出したサンプルの組織全体が浸り、かつ液面が当該組織全体の上部1mm以下となる量であることが好ましい。播種時の培地を上記量とすることで、毛包組織をプレートへ効率よく接着させることができる。
【0080】
好ましい実施の形態では、外毛根鞘を含むサンプルの培養は、以下の3ステップを順に実施する。
第1ステップS11では、播種したサンプルを培地の全量交換を行わずに新鮮な培地を補充しながら培養する。補充する培地の回数は好ましくは1~3回、より好ましくは2回である。
【0081】
第1ステップS11において補充する培地の量は、切り出したサンプルの組織全体が浸り、かつ液面が当該組織全体の上部2mm以下、より好ましくは1.5mm以下となる量であることが好ましい。
また、補充する培地の量は、サンプルの播種時の0.5~3倍であることが好ましく、1~3倍であることがより好ましく、1~2倍であることがさらに好ましい。培地の補充回数を2回以上とする場合、1回目の培地の補充量よりも2回目以降の培地の補充量を多くすることが好ましい。かかる場合、2回目以降の培地の補充量は、1回目の培地の補充量の好ましくは1.2~3倍、より好ましくは1.5~2.5倍、さらに好ましくは2~2.5倍である。また、2回目以降の培地の補充量は、切り出した組織全体が浸り、かつ液面が当該組織全体の上部1~2mm、より好ましくは1~1.5mmとなる量であることが好ましい。
また、第1ステップS11における培養期間は、好ましくは1~3日間である。
【0082】
第1ステップS11の具体的な形態として、補充する培地の回数は2回、培養期間は3日間であり、サンプルの播種後24時間~48時間の間に1回、播種時と等量(1倍)の培地を補充し、サンプルの播種後48時間~72時間の間に1回、播種時の2倍の培地を補充する形態が好ましく例示できる。
【0083】
第2ステップS12では、第1ステップS11で培地を補充した後、培地の交換及び補充せずに静置培養を行い、上皮系細胞を増殖させる。培養期間は、好ましくは2~7日間、より好ましくは3~5日間、さらに好ましくは3~4日間である。具体的には、3日間であることが好ましい。
このような静置培養を行うことで、外毛根鞘からの上皮系細胞の増殖を促進することができる。
【0084】
また、第2ステップS12にて、播種した外毛根鞘から上皮系細胞の細胞集団の伸展が確認できる。外毛根鞘から増殖した上皮系細胞の伸展距離が、毛幹から好ましくは0.8mm以上、より好ましくは1mm以上、具体的には1~2mmとなっていることが好ましい。
なお、第1ステップS11、第2ステップS12を順に行うステップは、本発明において静置培養工程ともいう。
【0085】
第3ステップS13では、培地の交換を行い、外毛根鞘から伸展した細胞の培養を継続する。培地は、第2ステップS12後の初回では培地の全量を交換し、その後は、培地の補充と交換を繰り返すことが好ましい。培地の補充と交換は、好ましくは45時間~55時間、より好ましくは48~50時間の間隔で交互に行うことが好ましく、具体的には1日おきに交互に行うことが好ましい。
【0086】
第3ステップS13において、培地交換時の培地の添加量は、好ましくは第1ステップS11前におけるサンプルの播種時の0.5~3倍であることが好ましく、1~2倍であることがより好ましく、1.5~2倍であることがさらに好ましい。
また、培地の補充量は、第3ステップS13の培地交換時の培地の添加量の0.5~2倍であることが好ましく、1~1.5倍であることがより好ましく、等量(1倍)であることがさらに好ましい。
第3ステップS13の具体的な形態として、培地の全量交換を行ってサンプルの播種時の2倍量の培地を添加し、その2日後に培地交換時の培地の添加量と等量(1倍)の培地を添加し、培養を行う形態が好ましく例示できる。
【0087】
第3ステップS13は、増殖した細胞が50~80%コンフルエントとなるまで継続することが好ましい。培地の補充及び交換による培養期間は、7~28日間であることが好ましく、14~21日間であることがより好ましい。
【0088】
また、第3ステップS13では、外毛根鞘から増殖した細胞の展開領域において細胞が過密になる前に継代することが好ましい。例えば、12ウェルプレート(ウェル底直径21mm~22.3mm)で培養を行う場合には、増殖した細胞が50~80%コンフルエントとなった段階で、継代を行うことが好ましい。継代後50~80%コンフルエントとなった細胞を、続く初期化工程S2において好適に使用することができる。
継代後の培養期間は、3~7日間であることが好ましく、4~6日間であることがより好ましい。また、継代後は毎日培地交換を行うことが好ましく、交換時の培地の量は、上記の第3ステップS13の培地の交換時における培地の添加量の0.5~2倍であることが好ましく、1~1.5倍であることがより好ましく、等量(1倍)であることがさらに好ましい。
【0089】
上記の3ステップを採用することにより、少ない本数の毛から、iPS細胞の誘導に十分な量の上皮系細胞を得ることができる。そのため、本発明を用いれば、ドナー個体からサンプルを採取する際の負担を軽減することができる。
【0090】
一つの実施形態において、第1ステップS11及び第2ステップS12では、カルシウム含有培地とMEF馴化培地を混合して用いることが好ましく、具体的にはEpiLifeTM Medium(60μMカルシウム入り、Gibco)及びEmbryoMax MEF馴化培地(メルク)の混合培地を挙げることができる。また、第1ステップS11及び第2ステップS12で使用する培地のカルシウム塩の濃度は、60~400μMであることが好ましい。
また、第3ステップS13では、カルシウム含有培地を用いることが好ましく、具体的にはEpiLifeTM Medium(60μMカルシウム入り、Gibco)を挙げることができる。第3ステップS13で使用する培地のカルシウム塩の濃度は、40~80μMであることが好ましい。
【0091】
また、第1ステップS11~第3ステップS13で用いる培地は、ウシ下垂体抽出物(Bovine pituitary extract,BPE)、組換えヒトインスリン様成長因子-I(Recombinant human insulin-like growth factor-I)、ヒドロコルチゾン、ウシトランスフェリン及びヒト上皮細胞成長因子(Human epidermal growth factor)を含むことが好ましい。
【0092】
また、外毛根鞘から伸展した細胞の大きさが規定以下、例えば1mm以下である場合、第3ステップS13に移行する前に、MEF順化培地を用いて培養する工程を含むことが好ましい。この場合、MEF順化培地はウシ下垂体抽出物(Bovine pituitary extract,BPE)、組換えヒトインスリン様成長因子-I(Recombinant human insulin-like growth factor-I)、ヒドロコルチゾン、ウシトランスフェリン及びヒト上皮細胞成長因子(Human epidermal growth factor)を含むことが好ましい。
【0093】
別の実施形態では、培養工程S1で使用する培地は、無血清培地、又はゼノフリー(xeno-free)であることが好ましい。より好ましくは、培養工程S1で使用する培地は、無血清かつゼノフリーの培地であることが好ましい。
【0094】
無血清及び/又はゼノフリー培地は、上皮細胞成長因子(EGF)、インスリン様成長因子-I(IGF-I)、ヒドロコルチゾン及びトランスフェリンから選択される1種又は2種以上の添加物を含むことが好ましく、上記4種の全てを含むことがより好ましい。
これらの成分を含むことで、上皮系細胞を効率よく増殖させることができる。
【0095】
EGFの濃度は、好ましくは5~50ng/ml、より好ましくは10~30ng/ml、さらに好ましくは15~25ng/mlであり、具体的には20ng/mlが好ましく挙げられる。
また、EGFは、ヒト上皮細胞成長因子であることが好ましい。
【0096】
IGF-Iの濃度は、好ましくは5~50ng/ml、より好ましくは10~30ng/ml、さらに好ましくは15~25ng/mlであり、具体的には20ng/mlが好ましく挙げられる。
また、IGF-Iは、組換えヒトインスリン様成長因子であることが好ましい。
【0097】
ヒドロコルチゾンの濃度は、好ましくは50~500ng/ml、より好ましくは100~300ng/ml、さらに好ましくは150~250ng/mlであり、具体的には200ng/mlが好ましく挙げられる。
【0098】
トランスフェリンの濃度は、好ましくは1~50μg/ml、より好ましくは3~30μg/ml、さらに好ましくは5~20μg/mlであり、具体的には10μg/mlが好ましく挙げられる。
また、トランスフェリンは、ヒトトランスフェリンであることが好ましい。
【0099】
また、無血清及び/又はゼノフリー培地は、任意の上皮細胞用増殖添加物を含むことができる。上皮細胞添加物は、ゼノフリーの成分であることが好ましく、Supplement S7(Gibco)が好ましく例示できる。
【0100】
また、無血清及び/又はゼノフリー培地を用いる場合、培養工程S1は、幹細胞用培地で培養する工程を含むことが好ましい。
使用する幹細胞用培地としては、Essential 8、StemPro(Life Technologies社製)、mTeSR1(STEMCELL Technologies社製)、mTeSR2(STEMCELL Technologies社製)、TeSR-E8(STEMCELL Technologies社製)、又はStemFit(味の素社製)等が好適に挙げられ、中でもEssential 8を用いることが好ましい。
幹細胞用培地には、任意で、抗生物質、血清、成長因子、ホルモン等の添加物を加えることができる。
【0101】
さらに好ましくは、幹細胞用培地で培養後、上皮細胞用培地で培養する工程を含むことが好ましい。
使用する上皮細胞用培地としては、培養工程S1にて記載した上皮細胞の培養に適した培地を好適に用いることができ、EpiLifeTM Medium(Gibco)、HuMedia-KG2(クラボウ)を用いることが好ましく、EpiLifeTM Mediumを用いることがより好ましい。上皮細胞用培地には、任意で、抗生物質、血清、成長因子、ホルモン、カルシウム等の添加物を加えることができる。
【0102】
また、無血清及び/又はゼノフリー培地を用いる場合、培養工程S1は、高カルシウム濃度の培地(高カルシウム培地)で培養する工程を含むことが好ましい。
【0103】
また、無血清及び/又はゼノフリー培地を用いる場合、カルシウム濃度の異なる2種の培地を用いることが好ましい。一実施形態では、高カルシウム培地で培養後、低カルシウム濃度の培地(低カルシウム培地)で培養することが好ましい。
【0104】
高カルシウム培地は、カルシウム濃度が、好ましくは0.2mM以上、より好ましくは0.5mM以上、さらに好ましくは0.8mM以上、より好ましくは1.0mM以上である。
また、高カルシウム培地は、カルシウム濃度が、好ましくは4.0mM以下、より好ましくは3.5mM以下、より好ましくは3.0mM以下である。
高カルシウム培地のカルシウム濃度を上記範囲とすることで、播種後の外毛根鞘から効率よく上皮系細胞を増殖させることができる。
高カルシウム培地の濃度は、具体的には、0.2~4.0mM、より好ましくは0.5~3.5mM、さらに好ましくは1.0~3.5mM、より好ましくは1.0~3.0mMとすることができる。
【0105】
低カルシウム培地は、カルシウム濃度が、好ましくは40μM以上、より好ましくは45μM以上、さらに好ましくは50μM以上である。
また、低カルシウム培地は、カルシウム濃度が、好ましくは80μM以下、より好ましくは75μM以下、さらに好ましくは70μM以下である。
低カルシウム培地のカルシウム濃度を上記範囲とすることで、高カルシウム培地で培養することにより増殖した細胞から、目的の上皮系細胞を効率よく増殖させることができる。
低カルシウム培地の濃度は、具体的には、40~80μM、より好ましくは45~75μM、さらに好ましくは50~70μMとすることができる。
【0106】
続いて、無血清かつゼノフリー培地の好ましい実施形態について、具体例を挙げて説明を加える。本実施形態では、培養工程S1は、高カルシウム培地でありかつ幹細胞用培地である一次培地を用いて培養する一次培養工程と、低カルシウム培地でありかつ上皮細胞用培地である二次培地を用いて培養する二次培養工程を含む。
【0107】
一次培地は、基礎培地がDMEM/F12であることが好ましい。また、一次培地は、塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)及び/又はTGFβ1(Transforming Growth Factor-β1)を含むことが好ましい。このような成分を含むことで、毛の外毛根鞘から細胞を効率よく増殖させることができる。
さらに、一次培地は、L-アスコルビン酸、セレン、トランスフェリン及びインスリンを含むことが好ましい。このような成分を含む培地としては、Essential 8が挙げられる。
【0108】
一次培地は、上記の培地に、上皮細胞成長因子(EGF)、インスリン様成長因子-I(IGF-I)、ヒドロコルチゾン及びトランスフェリンから選択される1種又は2種以上の添加物を含むことが好ましく、上記4種の全てを含むことがより好ましい。当該添加物の好ましい形態は、上記の通りである。
本発明では、一次培地は、Essential 8に上記4種の添加物を追加したものとすることができる。好ましいカルシウム濃度は、高カルシウム培地の条件にて記載した通りである。
【0109】
二次培地は、上皮細胞用培地としてEpiLifeTM Medium(60μMカルシウム入り、Gibco)を用いることが好ましい。
二次培地は、上記の培地に、上皮細胞成長因子(EGF)、インスリン様成長因子-I(IGF-I)、ヒドロコルチゾン及びトランスフェリンから選択される1種又は2種以上の添加物を含むことが好ましく、上記4種の全てを含むことがより好ましい。当該添加物の好ましい形態は、上記の通りである。
【0110】
一次培養工程では、一次培地を用いて、上記の第1ステップS11及び第2ステップS12を実施することが好ましい。第1ステップS11及び第2ステップS12の好ましい形態は、上記の通りである。
【0111】
一次培養工程では、第2ステップS12の実施後、一次培地にて培地交換を行い、培養を継続することが好ましい。一次培地における培地交換では、培地の交換量は、播種時の添加量の0.5~2倍であることが好ましく、1~1.5倍であることがより好ましく、等量(1倍)であることがさらに好ましい。
【0112】
一次培養工程の培養期間は、10日以上であることが好ましく、14日以上であることがより好ましく、18日以上であることがさらに好ましい。また、一次培養工程の培養期間は、30日以下であることが好ましく、25日以下であることがより好ましく、22日以下であることがさらに好ましい。
一次培養工程の培養期間を上記の範囲とすることで、外毛根鞘を含む組織からの上皮系細胞を効率よく取得することができる。
例えば、一次培養工程の培養期間は、10~30日間、より好ましくは14~25日間、さらに好ましくは18~22日間することができる。
【0113】
二次培養工程では、一次培養工程後、二次培地を用いて培養を行う。
好ましくは、一次培養工程において、外毛根鞘から伸展した細胞が規定の大きさ、例えば1mm以上、好ましくは1mm~2mmに成長後、二次培養工程を実施する。
【0114】
二次培養工程では、二次培地を用いて、上記の第3ステップS13を実施することが好ましい。
【0115】
二次培養工程の培養期間は、5日以上であることが好ましく、7日以上であることがより好ましく、10日以上であることがさらに好ましい。また、二次培養工程の培養期間は、20日以下であることが好ましく、18日以下であることがより好ましく、16日以下であることがさらに好ましい。
二次培養工程の培養期間を上記の範囲とすることで、外毛根鞘からのケラチノサイトを効率よく取得することができる。
例えば、二次培養工程の培養期間は、5~20日間、より好ましくは7~18日間、さらに好ましくは10~16日間とすることができる。
【0116】
二次培養工程は、細胞の増殖に合わせ、培地の交換及び補充を行うことが好ましい。
また、二次培養工程は、継代を行うステップを含んでもよい。
培地の交換及び補充、並びに継代の好ましい実施形態は、上記の第3ステップS13における記載の通りである。なお、二次培養工程における第3ステップS13は、培養液の補充ではなく、全量交換を行う形態も好ましい。
【0117】
また、本発明は、外毛根鞘を含む組織を播種する前に、サンプルついて細胞外マトリックスの構成成分を分解する分解工程を含まないことが好ましい。
本発明では、上皮性組織を含むサンプルを播種する前に、サンプルをトリプシン、コラゲナーゼ及びディスパーゼから選択される1種又は2種以上で処理する工程を含まない形態が好ましく、トリプシン、コラゲナーゼ及びディスパーゼで処理する工程を含まない形態がより好ましい。
このような細胞外マトリックスの分解を行わないことで、サンプル処理の手間が省けるとともに、サンプルのダメージを最小限とし、本発明にかかる上皮系細胞を、外毛根鞘を含む組織から効率よく増殖させることができる。
【0118】
なお、上記実施形態では上皮系細胞を培養する培養工程S1を含む形態を例示したが、本発明は、後述する(2)の初期化工程S2から実施してもよい。この場合、市販されたケラチノサイト等の上皮系細胞をiPS細胞の誘導に用いることができる。このようなケラチノサイトとしては、正常ヒト表皮角化細胞(Normal Human Epidermal Keratinocytes:NHEK)(PromoCell社製)、毛包ケラチノサイト(Hair Follicular Keratinocytes:HHFK)(ScienCell Research Laboratories社製)等が挙げられる。
【0119】
(2)初期化工程S2
初期化工程S2は、核の初期化を行うリプログラム遺伝子又はその翻訳産物を上皮系細胞に導入する工程と、リプログラム遺伝子等の導入後の細胞を培養する工程を含む。
【0120】
本発明におけるリプログラム遺伝子とは、体細胞からiPS細胞を誘導することができるタンパク性因子(リプログラム因子)をコードする遺伝子をいう。かかるリプログラム遺伝子は、例えば、Octファミリー、Klfファミリー、Soxファミリー、Mycファミリー、LinファミリーおよびGlisファミリーのメンバーからなる群より選択される1以上の遺伝子である。
【0121】
本発明にかかるリプログラム遺伝子は、少なくともOct3/4、Klf4およびSox2を含むことが好ましい。さらに、c-Myc、L-Myc、Lin28及びLin28bから選ばれる1種又は2種以上を含むことが好ましく、より好ましくはc-Myc又はL-Mycと、Lin28又はLin28bをさらに組み合わせることが好ましい。
本発明の好ましい形態では、リプログラム遺伝子の組み合わせは、Oct3/4、Klf4、Sox2、L-Myc及びLin28である。
【0122】
本発明では、リプログラム遺伝子をコードする核酸を上皮系細胞へ導入してもよいし、リプログラム遺伝子の翻訳産物(タンパク質)を上皮系細胞へ導入してもよい。また、リプログラム遺伝子をコードする核酸は、DNA、RNAの何れの形態であってもよい。
【0123】
上皮系細胞へのリプログラム遺伝子又はその翻訳産物の導入方法は、特に限定されない。導入方法としては、レトロウイルスベクター、レンチウイルスベクター、センダイウイルスベクター、アデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター等のウイルスベクターの感染、各種ベクター(プラスミドベクター、エピソーマルベクター、RNAベクター等)のリン酸カルシウム法、リポフェクション法、エレクトロポレーション法等による遺伝子導入、マイクロインジェクションによる直接導入等が挙げられる。
本発明では、エピソーマルベクターを用いてリプログラム遺伝子をコードするDNAを導入することが好ましい。また、エピソーマルベクターの導入は、リポフェクション法により行うことが好ましい。
【0124】
初期化工程S2では、リプログラム遺伝子等の導入と共に、p53の機能を阻害することが好ましい。
本発明において「p53の機能を阻害する」とは、p53タンパク質に直接的に作用してその機能を阻害することや、p53タンパク質のシグナル伝達に関与する因子に作用することによりp53タンパク質の機能やp53遺伝子の発現を阻害することをいう。
【0125】
p53の機能の阻害は、p53の化学的阻害物質、p53のドミナントネガティブ変異体、抗p53アンタゴニスト抗体、p53応答エレメントのコンセンサス配列を含むデコイ核酸、p53経路を阻害する物質などを細胞と接触させる方法が挙げられるが、これらに限定されない。
本発明では、p53の機能の阻害は、(a)p53の化学的阻害物質、(b)p53のドミナントネガティブ変異体及びそれをコードする核酸、及び(c)p53に対するsiRNA、shRNA及びそれらをコードするDNAから選ばれる1又は2以上の物質を導入することにより誘導することができる。
p53の機能阻害物質の具体例、それらの取得方法および体細胞との接触方法については、WO 2009/157593等を参照することができる。
【0126】
(a)p53の化学的阻害物質としては、Pifithrin-α(PFT-α)等の低分子が挙げられる。
(b)p53のドミナントネガティブ変異体としては、マウスp53の14-301位(ヒトp53では11-304位に対応)のアミノ酸を欠失させたp53DD(Bowman, T., Genes Develop., 10, 826-835 (1996))が好ましく挙げられる。
(c)p53に対するsiRNA、shRNAは、マウスまたはヒトのp53 cDNA配列情報に基づいて、既存の方法により設計することができる。
【0127】
本発明では、上記(b)p53のドミナントネガティブ変異体及びそれをコードする核酸、及び(c)p53に対するsiRNA、shRNA及びそれらをコードするDNAから選ばれる1又は2以上の物質を導入することにより、p53の機能を阻害することが好ましい。
【0128】
より好ましい実施形態では、上記(b)p53のドミナントネガティブ変異体をコードするDNA、又は(c)p53に対するsiRNA、shRNAをコードするDNAを組み込んだベクターを細胞に導入することにより、p53の機能を阻害する。
なお、本発明では、p53関連の遺伝子配列と上記リプログラム遺伝子の配列を1つのベクターにコードしていてもよいし、p53関連の遺伝子配列とリプログラム遺伝子の配列が異なるベクターにコードされていてもよい。後者の場合、p53関連の遺伝子配列がコードされたベクターとリプログラム遺伝子の配列がコードされたベクターは、混合して同時に細胞内に導入されることが好ましい。
【0129】
また、本発明では、p53のドミナントネガティブ変異体(p53DD)をコードするDNA配列を有するエピソーマルベクターを用いることが好ましい。
ここで、好ましい実施の形態では、用いるエピソーマルベクターは、EBNA-1遺伝子配列を含む。さらに、リプログラム因子及びp53DDは、CAGプロモーターにより制御されることが好ましい。
【0130】
また、本発明で使用するエピソーマルベクターは、1種のリプログラム遺伝子又は複数のリプログラム遺伝子の組み合わせを含む発現カセットを搭載したベクターであることが好ましい。当該発現カセットは、(i)Oct3/4をコードする核酸を含む発現カセット、(ii)Sox2をコードする核酸及びKlf4をコードする核酸を含む発現カセット、(iii)L-Mycをコードする核酸及びLin28をコードする核酸を含む発現カセット、並びに(iV)mmp53DDをコードする核酸を含む発現カセットが好ましく例示できる。当該発現カセットを搭載したベクターとしては、ヒトOCT3/4をコードしたpCE-hOCT3/4やpCE-hOCT3/4-shp53-F、ヒトSox2とヒトKlf4をコードしたpCE-hSK、ヒトL-MycとヒトLIN28をコードしたpCE-hUL、マウスp53DDをコードしたpCE-mp53DD等が好ましく例示できる。本発明では、上記(i)~(iV)の発現カセットをコードした4種のベクターを全て細胞へ導入することが好ましい。
さらに、本発明で使用するエピソーマルベクターは、リプログラム因子及びp53DD等をコードせずEBNA-1遺伝子配列をコードしたベクター、例えばpCXB-EBNA1を含むことが好ましい。
このようなベクターとしては、Human iPS Cell GenerationTM Episomal Vector Mix(タカラバイオ株式会社製)を好ましく例示できる。
【0131】
初期化工程S2において、上皮系細胞へのリプログラム遺伝子又はその翻訳産物の導入、及び/又はその後の上皮系細胞の培養は、ROCK阻害剤の存在下で行うことが好ましい。使用するROCK阻害剤は、Rhoキナーゼ(ROCK)の機能を抑制できるものであれば特に限定されず、例えば、Y-27632、Fasudil/HA1077、H-1152、Wf-536及びそれらの誘導体、並びにROCKに対するアンチセンス核酸、RNA干渉誘導性核酸(例えば、siRNA)、ドミナントネガティブ変異体、及びそれらの発現ベクターが挙げられる。
本発明では、1種または2種以上のROCK阻害剤を用いてもよい。
【0132】
本発明では、ROCK阻害剤としてY-27632を用いることが好ましい。
使用するY-27632の濃度は、例えば、100nM~50μM、好ましくは1~30μMの範囲で設定することができるがこれに限定されない。本発明では、好ましくは、10μMである。
【0133】
また、初期化工程S2における上皮系細胞へのリプログラム遺伝子又はその翻訳産物の導入から、付着培養工程S3までの間の培養は、コーティング剤でコートされた培養面上での付着培養であることが好ましい。
使用するコーティング剤は特に限定されず、上記培養工程S1で用いた方法を採用することができる。本発明では、コラーゲンIを用いることが好ましい。
【0134】
(3)付着培養工程S3
付着培養工程S3は、初期化工程S2を経た上皮系細胞を、細胞外基質でコートされた培養面上で、付着培養する工程である。
【0135】
付着培養工程S3では、初めに、細胞外基質で表面がコートされた培養器の中に、上皮系細胞を接着させる。
使用する細胞外基質は、ラミニン又はその断片である。用いるラミニンとしては、ラミニンα5β1γ1(ラミニン511)、ラミニンα5β2γ1(ラミニン521)、ラミニンα4β1γ1(ラミニン411)、ラミニンα2β1γ1(ラミニン211)、これらのラミニン断片を好適に挙げることができ、ラミニン511又はラミニン521を用いることがより好ましい。このようなラミニン及びラミニン断片は、組換え体を用いることもできる。
【0136】
上記のラミニン又はラミニン断片は、インテグリン結合部位を有することが好ましい。
また、ラミニン断片は、ヘテロ3量体を形成していることがより好ましい。
ラミニン又はラミニン断片が結合するインテグリンの種類は、インテグリンα6β1、インテグリンα6β4、インテグリンα3β1、インテグリンα7β1であることが好ましく、インテグリンα6β1であることがより好ましい。インテグリンα6β1と結合するラミニン又はラミニン断片を用いることで、iPS細胞の増殖を促進させることができる。
これらのインテグリンと結合活性を有するラミニン断片としては、ラミニン511、ラミニン521、ラミニン411およびラミニン211から選択される少なくとも1種由来のラミニン断片が好ましく例示でき、ラミニン511又はラミニン521由来のラミニン断片であることがより好ましく、ラミニン511由来のラミニン断片であることがより好ましい。このようなラミニン断片としては、ラミニンをエラスターゼにて消化して得られるE8フラグメントや、E8フラグメントの組み換え体が好ましく挙げられる。
本発明では、ラミニン511E8を用いることがより好ましい。ラミニン511E8としては、iMatrix-511(株式会社ニッピ製)等の市販品を用いることができる。
【0137】
付着培養を行う際に用いられる培養器は、細胞が接着可能なものであれば特に限定されず、上記の培養工程S1にかかる培養器と同様のものを採用できる。
【0138】
付着培養は、最初の継代後、無血清培地を用いて行うことが好ましい。無血清培地として、好ましくはKSR、又はB27を含む無血清培地、又は、ゼノフリー条件の培地が挙げられる。ここで「ゼノフリー」とは、培養対象の細胞の生物種とは異なる生物種由来の成分が排除された条件を意味する。
一方、初期化工程S2後、最初の継代前は、ウシ下垂体抽出物(Bovine pituitary extract,BPE)、組換えヒトインスリン様成長因子-I(Recombinant human insulin-like growth factor-I)、ヒドロコルチゾン、ウシトランスフェリン及びヒト上皮細胞成長因子(Human epidermal growth factor)を含む培地で培養することが好ましい。
【0139】
また、無血清かつゼノフリーの条件下で取得した上皮系細胞を用いる場合には、初期化工程S2後、最初の継代前は、二次培地を用いて培養することが好ましい。
【0140】
付着培養工程S3における培養は、フィーダー細胞非存在下(フィーダーフリー)で行われることが好ましい。未分化維持培地として用いられるフィーダーフリー培地は、市販品を用いることができ、例えば、Essential 8(Life Technologies社製)、S-medium(DSファーマバイオメディカル社製)、StemPro(Life Technologies社製)、mTeSR1 (STEMCELL Technologies社製)、mTeSR2 (STEMCELL Technologies社製)、TeSR-E8(STEMCELL Technologies社製)、又はStemFit(味の素社製)が挙げられる。
なお、フィーダー細胞非存在下(フィーダーフリー)とは、フィーダー細胞を実質的に含まない(例えば、全細胞数に対するフィーダー細胞数の割合が3%以下の)条件を意味する。
【0141】
付着培養工程S3では、Essential 8を用いることが好ましい。
Essential 8培地は、DMEM/F12に、添加剤として、L-ascorbic acid-2-phosphate magnesium、sodium selenium、insulin、NaHCO、transferrin、bFGF、及びTGFβファミリーシグナル伝達経路作用物質(TGFβ1またはNodal)を含む。
【0142】
付着培養は、ROCK阻害剤の存在下で行うことが好ましい。付着培養で使用するROCK阻害剤、及びその好ましい形態は、上述の初期化工程S2と同様である。
【0143】
また、付着培養工程S3においても、初期化工程S2と同様、p53の機能を阻害することが好ましい。p53の機能阻害の手段は、初期化工程S2で記載した手法を適宜採用することができる。
【0144】
付着培養の期間は、好ましくは5日以上、より好ましくは10日以上、さらに好ましくは15日以上である。
付着培養を継続することで、細胞コロニーの出現を確認することができる。その後、既存の手法を用いて、iPS細胞の候補コロニーを選択することが好ましい。
iPS細胞の候補コロニーの選択は、目視による形態観察、TRA1-60、SSEA4等のiPS細胞特異的な表面抗原の発現確認等により実施することもできる。
【0145】
初期化工程S2及び付着培養工程S3では、iPS細胞の樹立効率をより高めるため、樹立効率改善作用を有する公知の物質を用いてもよい。
このような物質としては、例えば、バルプロ酸(VPA)、トリコスタチンA、酪酸ナトリウム、MC 1293、M344等のヒストンデアセチラーゼ(HDAC)阻害剤、5’-アザシチジン等のDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤、BIX-01294等のG9aヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤、Bayk8644等のL-チャネルカルシウムアゴニスト、p38阻害剤、UTF1、Wntシグナリングアクチベーター、PS48等の3’-ホスホイノシチド-依存性キナーゼ-1(PDK1)アクチベーター等が挙げられるが、それらに限定されない。
【0146】
本発明により製造されたiPS細胞は、医薬原料やスクリーニング材料等、種々の方法で利用することができる。例えば、既存の分化誘導法を利用して、iPS細胞から筋細胞、血液細胞、神経細胞、血管内皮細胞、インスリン分泌細胞、上皮細胞等の種々の細胞を製造することができる。また、分化させた細胞を用いて、医薬候補化合物の薬効や毒性のin vitroスクリーニングを行うこともできる。
さらに、被検者のサンプル(例えば、毛)を用いてiPS細胞を樹立し、被検者固有のiPS細胞から分化させた皮膚組織等を用いることで、各被検者に応じた医薬品・化粧料等の有効性を確認することができる。
【0147】
また、本発明の一実施形態では、培養工程S1、初期化工程S2及び付着培養工程S3の何れも、無血清かつゼノフリー条件で実施することが可能である。すなわち、本発明は、一連の製造工程を、無血清かつゼノフリー条件で実施することができる。
【0148】
<上皮系細胞の培養方法>
本発明は、上皮性組織を含むサンプルを、無血清及び/又はゼノフリー条件で培養することを含む、上皮系細胞の培養方法にも関する。
本発明の上皮系細胞の培養方法(以下、本発明の培養方法という)は、無血清及び/又はゼノフリー条件下の培養により、上皮系細胞を取得するものである。そして、本発明の培養方法は、上記の<上皮系細胞を用いた人工多能性幹細胞の製造方法>における培養工程S1の無血清及び/又はゼノフリー条件での培養方法にかかるものである。
【0149】
本発明の培養方法において培養する「上皮系細胞」は、上皮性組織を含むサンプルを培養し得られる細胞集団であり、上皮細胞マーカーを発現する上皮細胞(例えば、ケラチノサイト)や、上皮幹細胞マーカーを発現する幹細胞(例えば、毛包幹細胞(hair follicle stem cells (HFSC))を含む。
本発明では、上皮系細胞は、ケラチノサイトを含むことができ、好ましくは毛包ケラチノサイトを含む。
【0150】
また、本発明の培養方法は、好ましくは、初代培養のための培養方法である。
本発明における初代培養とは、採取したサンプルを播種した後の培養のことをいう。
【0151】
本発明にかかる上皮性組織は、本発明の培養方法の目的物である上皮系細胞を含む組織であることが好ましい。
本発明で使用する上皮性組織を含むサンプルは、上皮系組織から取得されたものであれば特に限定されず、例えば毛包の上皮性組織を使用できる。本発明では、上皮性組織を含むサンプルとして、外毛根鞘を含む組織を用いることが好ましい。また、本発明で使用する上皮性組織を含むサンプルは、バルジ領域に存在した細胞を含むことができる。
【0152】
上皮性組織を含むサンプルは、哺乳動物(例えば、ヒト等)から採取したものを使用することができる。本発明の培養方法では、ヒトから採取した組織を用いることが好ましい。
【0153】
使用する組織の取得方法は、既存の組織採取法を採用することができる。外毛根鞘を含むサンプルを採取する場合、バイオプシー又は毛を抜去することにより、行うことができる。非侵襲性の観点から、毛を抜去することにより、サンプルを取得することが好ましい。
【0154】
抜去により取得した毛は、毛球より上部に外毛根鞘が付着している。本発明では、外毛根鞘を含むサンプルは、毛に付着した状態で培養されることが好ましい。
【0155】
本発明の培養方法の好ましい実施の形態(任意の消毒工程、第1ステップS11~第3ステップS13による培養等)は、上記の<上皮系細胞を用いた人工多能性幹細胞の製造方法>における培養工程S1の記載を援用する。この場合、「外毛根鞘を含む組織(サンプル)」は、適宜「上皮性組織を含むサンプル」と読み替えることができる。
【実施例
【0156】
以下、実施例を参照して本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲は、以下の実施例に限定されない。
【0157】
<実施例1>
(1)使用試薬等
(a)EpiLife培地
500ml容量のEpiLifeTM Medium, with 60μM calcium(Gibco)にHuman Keratinocyte Growth Supplement(HKGS、Gibco)の全量(5mL)、ペニシリン-ストレプトマイシン混合溶液(ナカライテスク)を5mL、Amphotericin-Bを500μL加え、混合した。
(b)MEF-Conditioned培地
EmbryoMax(登録商標)MEF順化培地(メルク)10mLに対して、ペニシリン-ストレプトマイシン混合溶液(ナカライテスク)を0.1mL、Amphotericin-Bを10μL、HKGS(Gibco)を0.1mL加え、混合した。
(c)Antibiotic Mix
247mlのHBSSを滅菌容器に移し、2.5mlのペニシリン-ストレプトマイシン混合溶液(終濃度100U/mlペニシリン、100μg/mlストレプトマイシン)、250μLのAmphotericin B solution(終濃度250ng/ml)を加えた。
(d)形質転換溶液
Human iPS Cell GenerationTM Episomal Vector Mix(タカラバイオ)とOpti-MEM(Thermo Fisher Scientific)を混合し、さらにFuGENE HD Transfection(プロメガ)を加えて室温で20分間静置した。形質転換の直前に、EpiLife培地を加えた。
(e)コラーゲンコーティング
コラーゲン酸性溶液I-PC(アテロコラーゲン)5mg/mLを1mM塩酸で10倍希釈し、希釈したコラーゲン溶液を、細胞培養用の12wellプレートの場合は400μL/well、6wellプレートの場合は1000μL/well加え、37℃で1時間以上静置した後、アスピレーターで除去した。その後、PBSで3回洗浄してから使用した。
(f)iMatrixコーティング
DPBS(-/-)1mLに対してiMatrix-511(ニッピ)4.5μLで希釈し、希釈液を細胞培養用の12wellプレートに500μL/well加え、37℃で1時間又は4℃で一晩静置した。その後、希釈液を除去して使用した。
【0158】
(2)上皮系細胞の培養
対象者(ヒト)の毛髪を5本抜いた後、直ぐにAntibiotic Mixに一瞬浸した。次いで、Antibiotic Mix内で毛の外毛根鞘を含む部分を1~2mm切り出し、コラーゲン溶液(コラーゲン酸性溶液I-PC、終濃度0.5mg/mL(アテロコラーゲン))でコートされた12wellプレートの混合培地(EpiLife+MEF-Conditioned培地+Antibiotic Mix)250μL中に1wellあたり1サンプルずつ播種した。
【0159】
播種1日後又は2日後に上記混合培地を250μL補充し、さらに播種3日後に上記混合培地を500μL補充した。そして、播種3日後の時点で培地の総液量が0.75mL程度であることを確認し、播種6日後まで静置培養した。
【0160】
播種6日後の時点で、増殖した細胞が毛幹を中心に半径1~2mm以上伸長していない場合、混合培地を250μL除き、MEF-Conditioned培地を250μL補充した。このMEF-Conditioned培地の交換は、細胞が半径1~2mm以上の大きさとなるまで行った。
【0161】
次いで、増殖した細胞が毛幹を中心に半径1~2mm以上伸展していることを確認後、培地の交換を行った。培地交換では、上記の混合培地を全て取り除き、EpiLife培地を500μL加えた。なお、播種6日後の時点で細胞が毛幹を中心に半径1~2mm以上伸展していた場合、上記のMEF-Conditioned培地の交換を行わずに、EpiLife培地による培地交換を実施した。
【0162】
培地交換の2日後に、再度EpiLife培地500μLを補充し、この培地補充の2日後にEpiLife培地500μLで培地を交換した。そして、2日に1回の頻度で同様に培地の補充及び交換を継続した。
【0163】
外毛根鞘から増殖した細胞の展開領域において、細胞が過密になる前に、具体的には50~80%コンフルエントとなったら、EpiLife培地を除去してDPBSで洗浄した。次いで、TrypLESelect(Gibco)を0.5mL加えて37℃インキュベーターに静置後、ピペッティングにより細胞をプレートから剥がし、細胞を15mLチューブに回収した。回収した細胞を遠心分離後、上清を除去してMEF-Conditioned培地1mLに懸濁した。
次いで、コラーゲン溶液(コラーゲン酸性溶液I-PC、終濃度0.5mg/mL(アテロコラーゲン))でコートされた6wellプレートに、5万/wellとなるように細胞を播種し、37℃インキュベーターで培養した。500μLのEpiLife培地による培地交換を行いつつ、50~80%コンフルエントとなるまで継続した。50~80%コンフルエントとなった段階で、iPS細胞の誘導を実施した。
【0164】
(3)iPS細胞の誘導
初めに、EpiLife培地を形質転換溶液に交換し、37℃インキュベーターで4時間静置後、10μMのY27632を含むEpiLife培地(Y27632含有EpiLife培地)2mLに培地を交換して培養した。
翌日、培地を除去してDPBS(-/-)で洗浄後、TrypLESelectを1mL加えて37℃インキュベーターに静置し、ピペッティングにより細胞をプレートから剥がした。さらにトリプシン中和液(クラボウ)を2mL加えた後、Y27632含有EpiLife培地を3mL加え、細胞を15mLチューブに回収した。回収した細胞を遠心分離後、上清を除去して、Y27632含有EpiLife培地1mLに懸濁した。
【0165】
次いで、iMatrix-511(ニッピ)をコーティングした12wellプレートに対して1万細胞/wellとなるように細胞を播種し、37℃インキュベーターで培養した(継代0日目)。継代1~3日後は、毎日、10μM Y27632を含むEssential 8TM Flex培地(Y27632含有Essential 8)を加えた。継代4日後にはY27632含有Essential 8で培地を全量交換し、その後は各日で培地交換を行った。
【0166】
(4)免疫組織染色
継代1日後に、iPS細胞マーカー遺伝子(OCT4、SOX2、NANOG、及びTRA1-81)の細胞免疫染色を以下の手順で実施した。
【0167】
初めに、細胞をPBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで固定した。0.5%TritonX-100を含むPBSを添加し10分間静置することで透過処理を行い、さらに10%ヤギ血清を含むPBSで30分間ブロッキングを行った。
【0168】
続いて、細胞をPBSで洗浄後、一次抗体を添加して4℃で一晩静置した。再度PBSで洗浄後、蛍光標識された二次抗体(Alexa647又はAlexa488)とDapiを添加して30分間静置した。PBSで洗浄後、蛍光顕微鏡により蛍光画像を取得した。
【0169】
(5)結果
図2は、(2)上皮系細胞の培養において、12wellプレート播種12日後における、外毛根鞘から伸長した上皮系細胞の状態を示す。図2に示す通り、外毛根鞘周辺から、上皮系細胞が多数増殖していることが確認された。
【0170】
また、図3は、(3)iPS細胞の誘導における、継代20日後の細胞の様子を示す。
図3に示す通り、実施例1の製造方法を実施することにより、iPS細胞のコロニーが多数確認された。
さらに、図4より、増殖した細胞がiPS細胞マーカーを発現しており、多能性を獲得したiPS細胞を製造できたことが示された。
【0171】
<比較例1>
実施例1の(3)iPS細胞の誘導において、使用する細胞外基質をビトロネクチンに変更した以外は、実施例1と同様の手順でiPS細胞の誘導を実施した。
結果、ビトロネクチンをコーティングしたプレートを使用した比較例1は、iMatrix-511をコーティングしたプレートを使用した実施例1と異なり、アポトーシスが誘導され、継代1週間後にはほぼ全ての細胞が死滅した。
【0172】
<比較例2>
実施例1の(3)iPS細胞の誘導において、使用するエピソーマルベクターを、p53阻害活性を持たないEpisomal iPSC Reprogramming Vectors(Invitrogen社製)に変更した。その際、用いるベクター以外は、実施例1と同様の手順でiPS細胞の誘導を実施して、iPS細胞のコロニー形成数を確認した。
その結果、比較例2に比べて、実施例1におけるiPS細胞のコロニー形成率が格段に優れていることがわかった。
【0173】
<考察>
上記実施例1、及び比較例1~2の結果より、本発明の製造方法である実施例1を用いれば、iPS細胞のコロニーを効率よく取得することができることが明らかになった。具体的には、比較例1の結果から、iPS細胞の付着培養時、iMatrix等のラミニン断片がコートされた接着面上で培養することにより、細胞のアポトーシスが抑制され、iPS細胞の増殖が促進されることが明らかとなった。
また、比較例2の結果より、リプログラム因子の導入時にp53の機能阻害を行うことで、iPS細胞コロニーの形成が促進させることが示された。すなわち、リプログラム因子の発現時、同時にp53の機能阻害を行うことで、iPS細胞コロニーの形成を促進させ、iPS細胞の製造効率を向上させることができるといえる。
【0174】
<実施例2>
(1)使用試薬等
実施例1と重複する試薬については、適宜省略する。
(a)混合培地A(一次培地)
Essential 8TM Flex培地(Gibco、Supplement添加済み)を90%、CTS Knockout SR XenoFree(Gibco)を10%含む培地に、ペニシリン-ストレプトマイシン混合溶液(終濃度がペニシリン100U/ml、ストレプトマイシン100μg/mlとなるように投入、ナカライテスク)、Supplement S7(Gibco、終濃度は原液の100倍希釈)、EGF(上皮細胞成長因子(EGF)、ヒト、富士フイルム和光純薬)を20ng/ml、IGF-I(インスリン様成長因子1)を20ng/ml、ヒドロコルチゾンを200ng/ml、及びトランスフェリンを10μg/ml加えた。
(b)混合培地B(二次培地)
混合培地AのEssential 8TM Flex培地を、EpiLifeTM Medium,with 60μM calcium(Gibco)に換え、それ以外の条件は混合培地Aと同様にして、混合培地Bを作製した。
【0175】
(2)上皮系細胞の培養
上記実施例1と同様の手順で、対象者(ヒト)から抜去により毛を取得し、Antibiotic Mixで消毒した。次いで、コラーゲンでコーティングした12wellプレートの混合培地A250μL中に、1wellあたり1サンプルずつ播種した。
【0176】
播種1日後又は2日後に混合培地Aを250μL補充し、さらに播種3日後に混合培地Aを250μL補充した。そして、播種3日後の時点で培地の総液量が0.75mL程度であることを確認し、播種6日後まで静置培養した。
【0177】
播種6日後、培地250μLを除き、新たに250μLの混合培地Aと交換した。細胞が毛幹を中心に半径1~2mm以上伸展するまで、1日おきに、混合培地Aで同様に培地交換を行った。混合培地Aを用いた培養は、2~3週間行った。
【0178】
次いで、増殖した細胞が毛幹を中心に半径1~2mm以上伸展していることを確認後、混合培地Bによる培地交換を行った。混合培地Bの交換では、混合培地Aを全て取り除き、混合培地Bを500μL加えた。
【0179】
培地交換の2日後に、500μLの混合培地Bで全量培地交換した。その後は、2日に1回の頻度で同様に培地の全量交換を継続した。
【0180】
混合培地Bにて1~2週間培養後、外毛根鞘から増殖した細胞の展開領域において、細胞が過密になる前に、具体的には50~80%コンフルエントとなったら、培地を除去してDPBSで洗浄した。次いで、TrypLESelect(Gibco)を0.5mL加えて37℃インキュベーターに静置後、ピペッティングにより細胞をプレートから剥がし、細胞を15mLチューブに回収した。回収した細胞を遠心分離後、上清を除去して1mLの混合培地Bに懸濁した。
次いで、コラーゲン溶液でコートされた6wellプレートに、5万/wellとなるように細胞を播種し、37℃インキュベーターで培養した。500μLの混合培地Bによる培地交換を行いつつ、50~80%コンフルエントとなるまで継続した。50~80%コンフルエントとなった段階で、iPS細胞の誘導を実施した。
【0181】
(3)iPS細胞の誘導
形質転換後の培養で使用するY27632含有EpiLife培地を、10μMのY27632を含む混合培地Bにした以外は、実施例1と同様の手順でiPS細胞の誘導を実施した。得られた細胞を実施例1と同様に免疫組織染色を行ったところ、iPS細胞マーカーを発現していることが確認された。また、取得した細胞の三胚葉分化能が確認された。
【0182】
実施例2の結果より、無血清かつゼノフリーの条件下で、抜毛により取得した組織から上皮系細胞を取得できることが示された(図5参照)。そして、当該上皮系細胞を用いて、無血清かつゼノフリーの条件でiPS細胞を誘導することができた。すなわち、本発明によれば、無血清かつゼノフリー条件で、抜毛により取得した組織を用いてiPS細胞を製造できる。
【0183】
また、図6は実施例2で得たiPS細胞の様子を示し、図7図6のiPS細胞における、iPS細胞マーカー遺伝子(OCT4、SOX2、NANOG、及びTRA1-81)の細胞免疫染色の結果を示す。これにより、増殖したiPS細胞が複数のiPS細胞マーカーを発現し、多能性を有することが確認された。
【0184】
[実施例3]上皮系細胞のマーカー発現
実施例1の(2)上皮系細胞の培養において得られた上皮系細胞について、上皮細胞マーカーの発現を確認した。上皮細胞マーカーは、12wellプレート播種7日後の細胞を用いて、上記(4)免疫組織染色と同様の手順で、一次抗体としてケラチン14(Keratin-14;KRT14)及びCD200、二次抗体としてAlexa647又はAlexa488を用いて実施した。
結果、得られた細胞は、KRT14及びCD200を何れも発現した上皮細胞であることが確認された(図8)。
【産業上の利用可能性】
【0185】
本発明は、iPS細胞の誘導方法の効率化、iPS細胞を用いた医薬製剤の開発等に応用することができる。
【符号の説明】
【0186】
S1 培養工程
S11 第1ステップ
S12 第2ステップ
S13 第3ステップ
S2 初期化工程
S3 付着培養工程
【要約】
本発明は、ケラチノサイト等の上皮系細胞を用いてiPS細胞を製造することができる、新規な技術を提供することを第1の課題とする。
上記課題を解決するための本発明は、核の初期化を行うリプログラム遺伝子又はその翻訳産物を、上皮系細胞に導入することを含む初期化工程と、
前記初期化工程を経た細胞を、ラミニン又はその断片でコートされた培養面上で付着培養する付着培養工程と、
を備える、上皮系細胞を用いた人工多能性幹細胞の製造方法である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8