IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日東電工株式会社の特許一覧

特許7557108フッ素樹脂膜、フッ素樹脂膜部材及び電子機器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-09-17
(45)【発行日】2024-09-26
(54)【発明の名称】フッ素樹脂膜、フッ素樹脂膜部材及び電子機器
(51)【国際特許分類】
   C08J 9/00 20060101AFI20240918BHJP
   B32B 5/18 20060101ALI20240918BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240918BHJP
【FI】
C08J9/00 A CEW
B32B5/18 101
B32B27/30 D
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2024529719
(86)(22)【出願日】2023-11-02
(86)【国際出願番号】 JP2023039765
【審査請求日】2024-05-17
(31)【優先権主張番号】P 2022180635
(32)【優先日】2022-11-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110004314
【氏名又は名称】弁理士法人青藍国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】上田 航大
(72)【発明者】
【氏名】菅谷 陽輔
(72)【発明者】
【氏名】福島 玉青
(72)【発明者】
【氏名】高村 優一
(72)【発明者】
【氏名】石井 恭子
(72)【発明者】
【氏名】古山 了
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開2022-117687(JP,A)
【文献】国際公開第2020/138250(WO,A1)
【文献】国際公開第2013/168203(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/072149(WO,A1)
【文献】特開2018-19222(JP,A)
【文献】特開2017-184270(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 9/00-9/42
B32B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂の網目構造を有するフッ素樹脂膜であって、
前記網目構造は、前記フッ素樹脂の第1の紐状体を含み、
前記第1の紐状体は、前記フッ素樹脂膜の主面に垂直な方向から見て200nm以上750nm以下の径を有し、
前記方向から見たときに前記フッ素樹脂膜は、
サイズ8.3μm×6.2μmの長方形の形状を有すると共に、前記長方形の一方の長辺から他方の長辺に至るまで延びた前記第1の紐状体の数が1以上5以下である領域A、
を少なくとも片面に有する、フッ素樹脂膜。
【請求項2】
前記網目構造は、前記フッ素樹脂の第2の紐状体をさらに含み、
前記第2の紐状体は、前記フッ素樹脂膜の主面に垂直な方向から見て200nm未満の径を有する、請求項1に記載のフッ素樹脂膜。
【請求項3】
前記第1の紐状体からなる環状構造が前記領域Aに観察される、請求項1に記載のフッ素樹脂膜。
【請求項4】
前記網目構造は、前記フッ素樹脂の第2の紐状体をさらに含み、
前記第2の紐状体は、前記フッ素樹脂膜の主面に垂直な方向から見て200nm未満の径を有し、
前記方向から見たときに前記領域Aに存在する最大の前記環状構造の内部に観察される前記第2の紐状体の数が6以上である、請求項3に記載のフッ素樹脂膜。
【請求項5】
前記第2の紐状体の数が17以下である、請求項4に記載のフッ素樹脂膜。
【請求項6】
前記領域Aにおいて前記フッ素樹脂の紐状体が占める面積の割合が60%以下である、請求項1に記載のフッ素樹脂膜。
【請求項7】
前記フッ素樹脂膜の厚さ1μmあたりのガーレー通気度が5秒/100mL/μm以下である、請求項1に記載のフッ素樹脂膜。
【請求項8】
前記フッ素樹脂膜の限界耐水圧が1.6MPa以上である、請求項1に記載のフッ素樹脂膜。
【請求項9】
前記フッ素樹脂膜は、直径1mmの円形の水圧印加面を設定したときに、水圧1.0MPaに30分間曝露される水圧保持試験に耐えうる保持耐水性を有する、請求項1に記載のフッ素樹脂膜。
【請求項10】
前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンである、請求項1に記載のフッ素樹脂膜。
【請求項11】
請求項1~1のいずれか1項に記載のフッ素樹脂膜と、
支持層及び/又は接着層と、
を備える、フッ素樹脂膜部材。
【請求項12】
開口を有する筐体と、
前記開口を覆うように前記筐体に取り付けられた防水膜と、を備え、
前記防水膜は、請求項1~1のいずれか1項に記載のフッ素樹脂膜を含む、電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂膜と、これを備えたフッ素樹脂膜部材及び電子機器とに関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォンやスマートウォッチをはじめとする電子機器の筐体には、内圧を調整したり、筐体の内外での通気性を確保したりするための開口が設けられることがある。開口には、通常、筐体の内部への水等の異物の侵入を防止する防水膜が取り付けられる。特許文献1には、通気性を有しながら高い防水性能を示す防水膜が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-184270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、電子機器に求められる防水性能は高まる一方である。商品の訴求力を高めるためにも、例えば、水上スポーツやダイビング等、水への長時間の曝露や高い水圧への曝露が想定されるアクティビティへの対応が求められている。要求のレベルによっては、特許文献1の防水膜の性能は必ずしも十分とはいえない。さらなる防水膜の改善が望まれる。しかし、防水膜の防水性能及び通気性能はトレードオフの関係にあって、改善は容易ではない。防水性能を高めようとすると通気性能が犠牲となることが当業者の技術常識である。
【0005】
本発明は、防水膜に使用可能な膜について、通気性能の犠牲を抑えながら防水性能を高めることに適した技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、
フッ素樹脂の網目構造を有するフッ素樹脂膜であって、
前記網目構造は、前記フッ素樹脂の第1の紐状体を含み、
前記第1の紐状体は、前記フッ素樹脂膜の主面に垂直な方向から見て200nm以上750nm以下の径を有し、
前記方向から見たときに前記フッ素樹脂膜は、
サイズ8.3μm×6.2μmの長方形の形状を有すると共に、前記長方形の一方の長辺から他方の長辺に至るまで延びた前記第1の紐状体の数が1以上5以下である領域A、
を少なくとも片面に有する、フッ素樹脂膜、
を提供する。
【0007】
別の側面において、本発明は、
フッ素樹脂の網目構造を有するフッ素樹脂膜であって、
前記網目構造は、前記フッ素樹脂の第1の紐状体及び第2の紐状体を含み、
前記第1の紐状体及び前記第2の紐状体は、前記フッ素樹脂膜の主面に垂直な方向から見て、それぞれ、200nm以上750nm以下、及び200nm未満の径を有し、
前記方向から見たときに前記フッ素樹脂膜は、サイズ8.3μm×6.2μmの長方形の形状を有すると共に、前記第1の紐状体からなる環状構造が観察される領域Bを少なくとも片面に有し、
前記方向から見たときに前記領域Bに存在する最大の前記環状構造の内部に観察される前記第2の紐状体の数が6以上である、フッ素樹脂膜、
を提供する。
【0008】
別の側面において、本発明は、
フッ素樹脂の網目構造を有するフッ素樹脂膜であって、
前記フッ素樹脂膜の厚さ1μmあたりのガーレー通気度が5秒/100mL/μm以下であり、
前記フッ素樹脂膜の限界耐水圧が1.6MPa以上である、フッ素樹脂膜、
を提供する。
【0009】
別の側面において、本発明は、
フッ素樹脂の網目構造を有するフッ素樹脂膜であって、
前記フッ素樹脂膜の厚さ1μmあたりのガーレー通気度が5秒/100mL/μm以下であり、
前記フッ素樹脂膜は、直径1mmの円形の水圧印加面を設定したときに、水圧1.0MPaに30分間曝露される水圧保持試験に耐えうる保持耐水性を有する、フッ素樹脂膜、
を提供する。
【0010】
別の側面において、本発明は、
上記本発明のフッ素樹脂膜と、
支持層及び/又は接着層と、
を備える、フッ素樹脂膜部材、
を提供する。
【0011】
別の側面において、本発明は、
開口を有する筐体と、
前記開口を覆うように前記筐体に取り付けられた防水膜と、を備え、
前記防水膜は、上記本発明のフッ素樹脂膜を含む、電子機器、
を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明のフッ素樹脂膜は、防水膜に使用可能な膜であって、通気性能の犠牲を抑えながら防水性能を高めることに適している。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本発明のフッ素樹脂膜の一例を模式的に示す平面図及びその一部を拡大した部分拡大図である。
図2図2は、本発明のフッ素樹脂膜における領域Aの一例を模式的に示す平面図である。
図3A図3Aは、第1の紐状体の数を算出する方法を説明するための模式図である。
図3B図3Bは、第1の紐状体の数を算出する方法を説明するための模式図である。
図3C図3Cは、第1の紐状体の数を算出する方法を説明するための模式図である。
図3D図3Dは、第1の紐状体の数を算出する方法を説明するための模式図である。
図4A図4Aは、第1の紐状体からなる環状構造の内部に観察される第2の紐状体の数を算出する方法を説明するための模式図である。
図4B図4Bは、第1の紐状体からなる環状構造の内部に観察される第2の紐状体の数を算出する方法を説明するための模式図である。
図4C図4Cは、第1の紐状体からなる環状構造の内部に観察される第2の紐状体の数を算出する方法を説明するための模式図である。
図4D図4Dは、第1の紐状体からなる環状構造の内部に観察される第2の紐状体の数を算出する方法を説明するための模式図である。
図4E図4Eは、第1の紐状体からなる環状構造の内部に観察される第2の紐状体の数を算出する方法を説明するための模式図である。
図4F図4Fは、第1の紐状体からなる環状構造の内部に観察される第2の紐状体の数を算出する方法を説明するための模式図である。
図4G図4Gは、第1の紐状体からなる環状構造の内部に観察される第2の紐状体の数を算出する方法を説明するための模式図である。
図4H図4Hは、第1の紐状体からなる環状構造の内部に観察される第2の紐状体の数を算出する方法を説明するための模式図である。
図5図5は、本発明のフッ素樹脂膜の一例を模式的に示す平面図である。
図6図6は、本発明のフッ素樹脂膜部材の一例を模式的に示す断面図である。
図7A図7Aは、本発明のフッ素樹脂膜部材の一例を模式的に示す断面図である。
図7B図7Bは、本発明のフッ素樹脂膜部材の一例を模式的に示す断面図である。
図8A図8Aは、本発明の電子機器の一例を模式的に示す断面図である。
図8B図8Bは、本発明の電子機器の一例を模式的に示す断面図である。
図9】実施例で作製したサンプル2の表面の拡大観察像である。
図10】実施例で作製したサンプル10の表面の拡大観察像である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の第1態様にかかる膜は、
フッ素樹脂の網目構造を有するフッ素樹脂膜であって、
前記網目構造は、前記フッ素樹脂の第1の紐状体を含み、
前記第1の紐状体は、前記フッ素樹脂膜の主面に垂直な方向から見て200nm以上750nm以下の径を有し、
前記方向から見たときに前記フッ素樹脂膜は、
サイズ8.3μm×6.2μmの長方形の形状を有すると共に、前記長方形の一方の長辺から他方の長辺に至るまで延びた前記第1の紐状体の数が1以上5以下である領域A、
を少なくとも片面に有する。
【0015】
本発明の第2態様において、例えば、第1態様にかかるフッ素樹脂膜では、前記網目構造は、前記フッ素樹脂の第2の紐状体をさらに含み、前記第2の紐状体は、前記フッ素樹脂膜の主面に垂直な方向から見て200nm未満の径を有する。
【0016】
本発明の第3態様において、例えば、第1又は第2態様にかかるフッ素樹脂膜では、前記第1の紐状体からなる環状構造が前記領域Aに観察される。
【0017】
本発明の第4態様において、例えば、第3態様にかかるフッ素樹脂膜では、前記網目構造は前記フッ素樹脂の第2の紐状体をさらに含み、前記第2の紐状体は、前記フッ素樹脂膜の主面に垂直な方向から見て200nm未満の径を有し、前記方向から見たときに前記領域Aに存在する最大の前記環状構造の内部に観察される前記第2の紐状体の数は6以上である。
【0018】
本発明の第5態様において、例えば、第4態様にかかるフッ素樹脂膜では、前記第2の紐状体の数が17以下である。
【0019】
本発明の第6態様において、例えば、第1から第5態様のいずれか1つの態様にかかるフッ素樹脂膜では、前記領域Aにおいて前記フッ素樹脂の紐状体が占める面積の割合が60%以下である。
【0020】
本発明の第7態様において、例えば、第1から第6態様のいずれか1つの態様にかかるフッ素樹脂膜では、前記フッ素樹脂膜の厚さ1μmあたりのガーレー通気度が5秒/100mL/μm以下である。
【0021】
本発明の第8態様において、例えば、第1から第7態様のいずれか1つの態様にかかるフッ素樹脂膜の限界耐水圧は1.6MPa以上である。
【0022】
本発明の第9態様において、例えば、第1から第8態様のいずれか1つの態様にかかるフッ素樹脂膜は、直径1mmの円形の水圧印加面を設定したときに、水圧1.0MPaに30分間曝露される水圧保持試験に耐えうる保持耐水性を有する。
【0023】
本発明の第10態様において、例えば、第1から第9態様のいずれか1つの態様にかかるフッ素樹脂膜では、前記フッ素樹脂がポリテトラフルオロエチレンである。
【0024】
本発明の第11態様にかかる膜は、
フッ素樹脂の網目構造を有するフッ素樹脂膜であって、
前記網目構造は、前記フッ素樹脂の第1の紐状体及び第2の紐状体を含み、
前記第1の紐状体及び前記第2の紐状体は、前記フッ素樹脂膜の主面に垂直な方向から見て、それぞれ、200nm以上750nm以下、及び200nm未満の径を有し、
前記方向から見たときに前記フッ素樹脂膜は、サイズ8.3μm×6.2μmの長方形の形状を有すると共に、前記第1の紐状体からなる環状構造が観察される領域Bを少なくとも片面に有し、
前記方向から見たときに前記領域Bに存在する最大の前記環状構造の内部に観察される前記第2の紐状体の数が6以上である。
【0025】
本発明の第12態様にかかる膜は、
フッ素樹脂の網目構造を有するフッ素樹脂膜であって、
前記フッ素樹脂膜の厚さ1μmあたりのガーレー通気度が5秒/100mL/μm以下であり、
前記フッ素樹脂膜の限界耐水圧が1.6MPa以上である。
【0026】
本発明の第13態様にかかる膜は、
フッ素樹脂の網目構造を有するフッ素樹脂膜であって、
前記フッ素樹脂膜の厚さ1μmあたりのガーレー通気度が5秒/100mL/μm以下であり、
前記フッ素樹脂膜は、直径1mmの円形の水圧印加面を設定したときに、水圧1.0MPaに30分間曝露される水圧保持試験に耐えうる保持耐水性を有する。
【0027】
本発明の第14態様にかかるフッ素樹脂膜部材は、
第1から第13態様のいずれか1つの態様にかかるフッ素樹脂膜と、
支持層及び/又は接着層と、
を備える。
【0028】
本発明の第15態様にかかる電子機器は、
開口を有する筐体と、
前記開口を覆うように前記筐体に取り付けられた防水膜と、を備え、
前記防水膜は、第1から第13態様のいずれか1つの態様にかかるフッ素樹脂膜を含む。
【0029】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されない。
【0030】
[フッ素樹脂膜]
(第1実施形態)
本実施形態のフッ素樹脂膜の一例を図1に示す。図1には、フッ素樹脂膜1(1A)の表面の部分拡大図が併せて示されている。フッ素樹脂膜1Aは、フッ素樹脂の網目構造11を有する。網目構造11は、フッ素樹脂の紐状体12を含む。網目構造11は紐状体12の間に空隙13を有しており、主として空隙13によってフッ素樹脂膜1の厚さ方向の通気性が確保される。図1の網目構造11は、紐状体12として、フッ素樹脂膜1の主面に垂直な方向(以下、垂直方向と記載する)から見て200nm以上750nm以下の径を有する第1の紐状体12Aと、垂直方向からみて200nm未満の径を有する第2の紐状体12Bとを含んでいる。
【0031】
本明細書では、紐状体12をその径によって分類する。垂直方向から見て200nm以上750nm以下の径を有する紐状体12は、第1の紐状体12Aである。垂直方向から見て200nm未満の径を有する紐状体12は、第2の紐状体12Bである。垂直方向から見て750nmを超える径を有する紐状体12は、第3の紐状体である。ただし、紐状体12の径はその長さ方向に変化しうる。ある1つの紐状体12を長さ方向に辿ったときに境界値200nm及び/又は750nmを超えて径が変化するポイントが存在する場合は、紐状体12における変化前及び変化後の各々の区間について、それぞれの径に基づき、第1、第2又は第3の紐状体に該当すると判断する。例えば、紐状体12が200nm以上750nm以下の径を有する第1の区間と、200nm未満の径を有する第2の区間とを有する場合、第1の区間は第1の紐状体12A、第2の区間は第2の紐状体12Bである。第2の紐状体12Bの径の下限は、例えば20nm以上である。第3の紐状体の径の上限は、例えば4500nm以下である。
【0032】
紐状体12の径は、垂直方向から紐状体12を確認可能なフッ素樹脂膜1の拡大観察像から求めることができる。ImageJ等の画像解析ソフトを用いた画像解析を利用してもよい。紐状体12の径を評価する際には、明るさのヒストグラムについて、拡大観察像における最も暗い点と最も明るい点との間の階調を解析に用いている階調の範囲で最大化することが好ましい。拡大観察像は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEM)による観察像である。拡大倍率は、例えば5000~25000倍、好ましくは10000~20000倍、より好ましくは15000倍である。加速電圧は、通常、1kVとする。加速電圧を定めれば、拡大観察像の深度(当該像において観察できる膜表面からの深さの範囲)が定まる。この方法で取得した拡大観察像は、後述する数A及び数Bの決定にも利用できる。
【0033】
フッ素樹脂膜1Aは、垂直方向から見たときに、以下の(1)及び(2)の特徴を有する領域Aを有する。
(1)サイズ8.3μm×6.2μmの長方形の形状を有する。
(2)観察される、上記長方形の一方の長辺から他方の長辺に至るまで延びた第1の紐状体12Aの数(以下、当該数を数Aと記載する)が1以上5以下である。
【0034】
数Aは、2以上であっても、4以下であっても、1以上3以下であってもよい。数Aが上記範囲にあることは、フッ素樹脂膜1について通気性能の犠牲を抑えながら防水性能を高めることに寄与しうる。領域Aの一例を図2に示す。図2には、領域Aにおいて観察される紐状体12のうち第1の紐状体12Aのみが示されている。図2の領域Aにおける数Aは、2つの第1の紐状体12Aa,12Abに対応する2である。第1の紐状体12Acは、長辺51Aから延びた後、その末端17において消滅するか、200nm以上750nm以下の範囲から径が外れる等によって長辺51Bに至るまで延びていない。このため、数Aの算出において除外される。また、第1の紐状体12Adは、長辺51Aから延びておらず、同様に数Aの算出において除外される。
【0035】
数Aを算出する方法について、より具体的に説明する。原則は、領域Aの一方の長辺51Aに接続した個々の第1の紐状体12Aをその長さ方向に辿り、他方の長辺51Bに到達した第1の紐状体12Aの数を算出する。ただし、第1の紐状体12Aは分岐を有しうる。第1の紐状体12Aが分岐を有する場合について、図3A図3Dを参照しながら説明する。図3A図3Dでは、幅方向の中心線により第1の紐状体12Aを表す。分岐点14において分岐した2以上の第1の紐状体12Aのうち、他方の長辺51Bに到達しない第1の紐状体12Afは数Aの算出から除外する(図3A参照)。図3Aの例では1つの第1の紐状体12Aeが他方の長辺51Bに到達している。このため、図3Aの例において算出する数Aは1である。次に、分岐点14において分岐した2以上の第1の紐状体12Aのうち、複数の第1の紐状体12Ag,12Ahが長辺51Bに到達した場合は、分岐点14を通過すると共に長辺51A,51Bに垂直な直線52との間でなす角度θが最も小さな第1の紐状体12Agのみを辿る(図3B参照)。換言すれば、角度θが最小ではない第1の紐状体12Ahは数Aの算出から除外する(図3B参照)。図3Bの例において算出する数Aは1である。なお、角度θが最小かつ同一である複数の第1の紐状体12Aが観察される場合は、数Aとして分岐前の1を算出する。この規則は、図3Cにより例示する合流の規則と整合している。次に、長辺51Aから延びた2以上の第1の紐状体12Ai,12Ajが合流して1つの第1の紐状体12Aとなって長辺51Bに到達した場合は、到達した第1の紐状体12Aの数である1を算出する(図3C参照)。別の例を図3Dに示す。上記各規則に従えば、図3Dの例において算出される数Aは1である。
【0036】
領域Aにおいて、長方形の一方の短辺53Aから他方の短辺53Bに至るまで延びた第1の紐状体12Aは観察されなくてもよい。
【0037】
領域Aの長辺51A,51Bが延びる方向、及び短辺53A,53Bが延びる方向は、それぞれ、フッ素樹脂膜1のMD方向及びTD方向であってもよい。フッ素樹脂膜1のMD方向及びTD方向は、それぞれ、例えば、フッ素樹脂膜1を製造する際の縦延伸の方向及び横延伸の方向である。
【0038】
領域Aにおいて、第1の紐状体12Aからなる環状構造が観察されてもよい。図2に例示する領域Aでは、第1の紐状体12Abからなる環状構造16が観察される。観察される環状構造16は、長辺51Aから長辺51Bの方向に第1の紐状体12Abを辿ったときに、分岐点14Aで分岐し、分岐点14Bで合流する第1の紐状体15A,15Bからなる。環状構造16が領域Aに観察されるフッ素樹脂膜1は、通気性能の犠牲を抑えながら防水性能を高めることに特に適している。環状構造16には、環状構造16の外方又は内方に延びる第1の紐状体12A、第2の紐状体12B又は第3の紐状体の分岐があってもよい。ただし、環状構造16そのものには、第2の紐状体12B又は第3の紐状体からなる区間は存在しない。環状構造16は、典型的には第1の紐状体12Aの分岐点において、屈曲部を有していてもよい。環状構造16は、その全周が領域A内に観察される必要がある。領域Aにおいて複数の環状構造16が観察されてもよく、この場合、隣接する環状構造16は一部の周を共有していてもよい。環状構造16の内部には、より面積の小さな他の環状構造16が観察されてもよい。
【0039】
垂直方向から見た環状構造16の面積は、例えば、0.3~20μm2である。面積の下限は、0.5μm2以上、1μm2以上、1.5μm2以上、2μm以上、さらには2.5μm2以上であってもよい。面積の上限は、15μm2以下、13μm2以下、10μm2以下、8μm2以下、さらには5μm2以下であってもよい。環状構造16の面積は、環状構造16の内周により囲まれた領域の面積として特定できる。面積の特定には、拡大観察像に対する画像解析を利用できる。
【0040】
図1に示すように、網目構造11はフッ素樹脂の第2の紐状体12Bを含んでいてもよい。この場合、垂直方向から見たときに、領域Aに存在する最大の環状構造16の内部に観察される第2の紐状体12Bの数(以下、数Bと記載する)は6以上であってもよく、7以上、8以上、9以上、さらには10以上であってもよい。数Bの上限は、例えば30以下であり、27以下、25以下、24以下、23以下、22以下、21以下、20以下、19以下、18以下、17以下、16以下、さらには15以下であってもよい。数Bは、6以上20以下、8以上17以下、さらには10以上15以下であってもよい。数Bが上記範囲にあるフッ素樹脂膜1は、通気性能の犠牲を抑えながら防水性能を高めることに特に適している。
【0041】
環状構造16の内部に観察される第2の紐状体12Bの数Bを算出する方法について、説明する。原則は、垂直方向から見て環状構造16の周から環状構造16の内部に延びるように観察される個々の第2の紐状体12Bについて、他の紐状体12と合流、交差又は分岐するポイントまでの区間を1と数え、数えた数の合計を数Bとする。他の紐状体12は、第1の紐状体12A、第2の紐状体12B及び第3の紐状体のいずれであってもよい。例えば、図4A図4Gに示す例における数Bは、それぞれ、7、6、4、6、6、4及び7である。なお、図4A図4G及び図4Hには、環状構造16及び第2の紐状体12Bのみが示されている。また、図4A図4G及び図4Hでは、第2の紐状体12Bにおける環状構造16の周から上記ポイントまでの区間が太線で示されている。太線で示された区間の数が数Bに相当する。ただし、環状構造16の周から分岐して環状構造16の内部に延びる第1の紐状体12Aが観察される場合は、内部に延びた第1の紐状体12Aから環状構造16の内部に延びるように観察される第2の紐状体12Bも数Bの算出において考慮する。例えば、図4Hの例における数Bは11である。
【0042】
領域Aにおいて、垂直方向から見て750nmを超える径を有するフッ素樹脂の第3の紐状体であって、領域Aの一方の長辺から他方の長辺に至るまで延びた第3の紐状体は観察されなくてもよい。領域Aにおいて、垂直方向から見て750nmを超える径を有するフッ素樹脂の第3の紐状体であって、長さ1000nmを超える第3の紐状体は観察されなくてもよい。また、網目構造11は、垂直方向から見て750nmを超える径を有するフッ素樹脂の第3の紐状体であって、長さ1000nmを超える第3の紐状体を含まなくてもよい。これらの態様は、通気性能の犠牲を抑えながら防水性能を高めることに特に適している。なお、紐状体の長さは、紐状体を垂直方向から見て、幅方向の中心を長さ方向に辿ることにより求めることができる。
【0043】
領域Aにおいてフッ素樹脂の紐状体12が占める面積の割合は、例えば60%以下であり、59%以下、58%以下、57%以下、56%以下、55%以下、54%以下、53%以下、52%以下、51%以下、50%以下、さらには49%以下であってもよい。面積の割合の下限は、例えば40%以上である。面積の割合が上記範囲にあるフッ素樹脂膜1は、通気性能の犠牲を抑えながら防水性能を高めることに特に適している。領域Aにおいてフッ素樹脂の紐状体12が占める面積の割合は、拡大観察像に対して2値化を含む画像処理を実施することにより評価できる。2値化は、紐状体12と空隙13とが区別可能となるように実施できる。
【0044】
領域Aにおいて、フッ素樹脂の繊維化により形成されたフィブリルが観察されなくてもよい。また、網目構造11は、上記フィブリルを含まなくてもよい。フィブリルと紐状体12とは、少なくとも、繊維化により生じた特有の結晶をフィブリルが有しうる点で相違する。一例として、いわゆるノード/フィブリル構造を有する一般的なPTFE多孔質膜は、示差走査型熱量分析(DSC)において360~385℃に位置する上記結晶に特有の吸熱ピークを示す(特開2021-54892号公報を参照)。換言すれば、フッ素樹脂がPTFEであるフッ素樹脂膜1は、DSCチャートにおいて360~385℃に位置する吸熱ピークを有さなくてもよい。具体的なDSCの測定方法は、上記公報を参照できる。なお、一般的なPTFE多孔質膜は、未焼成のPTFEモールディングパウダーと液状潤滑剤との混和物をシート状に押出成形し、得られた未焼成のPTFEシートから液状潤滑剤を除去した後、これを延伸して形成される。
【0045】
フッ素樹脂膜1は、領域Aを少なくとも片面に有する。フッ素樹脂膜1は領域Aを両面に有していてもよい。
【0046】
フッ素樹脂膜1の厚さは、例えば5~100μmである。厚さの上限は、90μm以下、80μm以下、70μm以下、60μm以下、50μm以下、45μm以下、40μm以下、35μm以下、30μm以下、25μm以下、さらには20μm以下であってもよい。厚さの下限は、7μm以上、10μm以上、12μm以上、13μm以上、15μm以上、17μm以上、20μm以上、22μm以上、25μm以上、27μm以上、さらには30μm以上であってもよい。厚さは、25μm以上40μm以下、30μm以上35μm以下、31μm以上34μm以下、32μm以上34μm以下、さらには33μm以上34μm以下であってもよい。
【0047】
フッ素樹脂膜1について、数Aが1以上3以下であり、数Bが10以上15以下であり、厚さが33μm以上34μm以下であってもよい。
【0048】
フッ素樹脂膜1の厚さ方向のガーレー通気度は、例えば150秒/100mL以下であり、120秒/100mL以下、100秒/100mL以下、95秒/100mL以下、90秒/100mL以下、85秒/100mL以下、80秒/100mL以下、75秒/100mL以下、70秒/100mL以下、65秒/100mL以下、60秒/100mL以下、55秒/100mL以下、50秒/100mL以下、45秒/100mL以下、さらには40秒/100mL以下であってもよい。ガーレー通気度の下限は、例えば10秒/100mL以上であり、20秒/100mL以上、30秒/100mL以上、35秒/100mL以上、40秒/100mL以上、45秒/100mL以上、50秒/100mL以上、55秒/100mL以上、60秒/100mL以上、65秒/100mL以上、70秒/100mL以上、75秒/100mL以上、さらには80秒/100mL以上であってもよい。本明細書において、「ガーレー通気度」は、日本産業規格(以下、JISと記載する)L1096:2010に定められた通気性測定B法(ガーレー形法)に準拠して求めた空気透過度を意味する。
【0049】
なお、フッ素樹脂膜1のサイズが、ガーレー形法における試験片のサイズ(約50mm×50mm)に満たない場合にも、測定冶具の使用により、ガーレー通気度の評価が可能である。測定冶具の一例は、貫通孔(直径1mm又は2mmの円形の断面を有する)が中央に設けられた、厚さ2mm及び直径47mmのポリカーボネート製円板である。この測定冶具を用いたガーレー通気度の測定は、以下のように実施できる。
【0050】
測定冶具の貫通孔の開口を覆うように、測定冶具の一方の面に評価対象であるフッ素樹脂膜1を固定する。固定は、ガーレー通気度の測定中、開口及び評価対象であるフッ素樹脂膜1の有効試験部(固定したフッ素樹脂膜1の主面に垂直な方向から見て開口と重複する部分)のみを空気が通過し、かつフッ素樹脂膜1の有効試験部における空気の通過を固定部分が阻害しないように行う。フッ素樹脂膜1の固定には、開口の形状と一致した形状を有する通気口が中心部に打ち抜かれた両面粘着テープを利用できる。両面粘着テープは、通気口の周と開口の周とが一致するように測定冶具とフッ素樹脂膜1との間に配置すればよい。次に、フッ素樹脂膜1を固定した測定冶具を、フッ素樹脂膜1の固定面が測定時の空気流の下流側となるようにガーレー形通気性試験機にセットして、100mLの空気がフッ素樹脂膜1を通過する時間t1を測定する。次に、測定した時間t1を、JIS L1096:2010の通気性測定B法(ガーレー形法)に定められた有効試験面積642[mm2]あたりの値tに、式t={(t1)×(フッ素樹脂膜1の有効試験部の面積[mm2])/642[mm2]}により換算し、得られた換算値tを、フッ素樹脂膜1のガーレー通気度とすることができる。上記円板を測定冶具として使用する場合、フッ素樹脂膜1の有効試験部の面積は、貫通孔の断面の面積である。なお、上記試験片のサイズを満たすフッ素樹脂膜1に対して測定冶具を使用せずに測定したガーレー通気度と、当該フッ素樹脂膜1を細片化した後、測定冶具を使用して測定したガーレー通気度とがよく一致する、即ち、測定冶具の使用がガーレー通気度の測定値に実質的に影響しないことが、確認されている。
【0051】
フッ素樹脂膜1について、厚さ1μmあたりのガーレー通気度(単位:秒/100mL/μm)は、例えば5以下であり、4.5以下、4以下、3.5以下、3.3以下、3.1以下、3以下、2.9以下、2.8以下、2.7以下、2.6以下、2.5以下、さらには2.4以下であってもよい。厚さ1μmあたりのガーレー通気度の下限は、例えば2以上である。
【0052】
フッ素樹脂膜1について、防水性能の指標の一つである限界耐水圧は、例えば1.5MPa以上であり、1.6MPa以上、1.7MPa以上、1.8MPa以上、1.9MPa以上、さらには2MPa以上であってもよい。限界耐水圧の上限は、例えば4MPa以下である。限界耐水圧は、測定冶具を使用し、JIS L1092:2009の耐水度試験B法(高水圧法)に準拠して、以下のように測定できる。測定冶具の一例は、直径1mmの貫通孔(円形の断面を有する)が中央に設けられた、直径47mmのステンレス製円板である。この円板は、限界耐水圧を測定する際に加えられる水圧によって変形しない厚さを有する。この測定冶具を用いた限界耐水圧の測定は、以下のように実施できる。
【0053】
測定冶具の貫通孔の開口を覆うように、測定冶具の一方の面に評価対象であるフッ素樹脂膜1を固定する。固定は、耐水圧の測定中、膜の固定部分から水が漏れないように行う。フッ素樹脂膜1の固定には、通水口が中心部に打ち抜かれた両面粘着テープを利用できる。両面粘着テープは、垂直方向から見て、両面粘着テープにおける通水口以外の部分が測定治具の上記開口の内部に重ならないように、測定冶具とフッ素樹脂膜1との間に配置すればよい。次に、フッ素樹脂膜1を固定した測定冶具を、フッ素樹脂膜1の固定面が測定時の水圧印加面となるように試験装置にセットして、JIS L1092:2009の耐水度試験B法(高水圧法)に従って耐水圧を測定する。ただし、耐水圧は、フッ素樹脂膜1の膜面の1か所から水が出たときの水圧に基づいて測定する。測定した耐水圧を、フッ素樹脂膜1の限界耐水圧とすることができる。試験装置には、JIS L1092:2009に例示されている耐水度試験装置と同様の構成を有するとともに、上記測定冶具をセット可能な試験片取付構造を有する装置を使用できる。
【0054】
フッ素樹脂膜1について、防水性能の別の指標として保持耐水性がある。所定の水圧及び水圧印加時間に対する保持耐水性を有することは、所定の時間にわたって所定の水圧が継続してフッ素樹脂膜1に加えられた場合にも、フッ素樹脂膜1に破裂や水漏れが生じないことによって評価できる。水圧保持試験は、限界耐水圧と同じく、測定治具及びJIS L1092:2009に例示された耐水度試験装置を用いて実施できる。水圧印加面は、測定治具におけるフッ素樹脂膜1の固定面である。測定治具の貫通孔の径は、1mm又は0.2mmとする。貫通孔の径がXmmであることは、フッ素樹脂膜1に対する直径Xmmの円形の水圧印加面が水圧保持試験において設定されたことを意味する。なお、本発明者らの検討によれば、保持耐水性を確保するためには特にバランスの良い膜構造が必要である可能性がある。例えば、限界耐水圧が等しい膜であっても保持耐水性は大きく相違しうる。数A及び/又は数Bは、バランスの良い膜構造の達成に寄与しうる。
【0055】
フッ素樹脂膜1は、直径1mmの円形の水圧印加面を設定したときに、水圧1.0MPaに30分間曝露される水圧保持試験に耐えうる保持耐水性を有していてもよい。フッ素樹脂膜1は、直径1mmの円形の水圧印加面を設定したときに、水圧1.25MPaに30分間曝露される水圧保持試験に耐えうる保持耐水性を有していてもよい。フッ素樹脂膜1は、直径0.2mmの円形の水圧印加面を設定したときに、水圧1.5MPaに30分間曝露される水圧保持試験に耐えうる保持耐水性を有していてもよい。
【0056】
フッ素樹脂膜1は、好ましい範囲を含めて上述の範囲にある厚さ1μmあたりのガーレー通気度と、好ましい範囲を含めて上述の範囲にある限界耐水圧及び/又は保持耐水性とを同時に有しうる。
【0057】
フッ素樹脂膜1の目付は、例えば5~40g/m2である。目付の上限は、35g/m2以下、32g/m2以下、30g/m2以下、27g/m2以下、25g/m2以下、22g/m2以下、20g/m2以下、さらには18g/m2以下であってもよい。面密度の下限は、8g/m2以上、10g/m2以上、13g/m2以上、15g/m2以上、18g/m2以上、20g/m2以上、23g/m2以上、25g/m2以上、28g/m2以上、さらには30g/m2以上であってもよい。目付は、フッ素樹脂膜1の質量を面積(主面の面積)で除して算出できる。
【0058】
フッ素樹脂膜1は単層の膜であっても、2以上の膜の積層体であってもよい。
【0059】
フッ素樹脂膜1は着色された膜であってもよい。フッ素樹脂膜1は、例えば、灰色又は黒色に着色されていてもよい。灰色又は黒色のフッ素樹脂膜1は、例えば、膜を構成する材料に灰色又は黒色の着色剤を混合して形成できる。黒色の着色剤は、例えば、カーボンブラックである。なお、JIS Z8721:1993に定められた「無彩色の明度NV」により表して1~4の範囲にある色を「黒色」と、5~8の範囲にある色を「灰色」と、それぞれ定めることができる。
【0060】
フッ素樹脂膜1は、撥水処理、撥油処理又は撥液処理されていてもよい。なお、撥液処理は、フッ素樹脂膜1に対して撥水性及び撥油性の双方の特性を与える処理である。
【0061】
フッ素樹脂膜1の形状は、垂直方向から見て、例えば、円、楕円、正方形及び長方形を含む多角形、並びに帯状である。多角形の角は丸められていてもよい。ただし、フッ素樹脂膜1の形状は、上記例に限定されない。
【0062】
フッ素樹脂膜1は、実際に使用される形状で流通させることも、帯状の膜の巻回体として流通させることも可能である。実際に使用される形状で流通させる場合、当該形状を有するフッ素樹脂膜1をベースフィルム上に1又は2以上配置した枚葉として流通させてもよい。ベースフィルムにおけるフッ素樹脂膜1を配置する面は、粘着性を有する面であってもよい。配置する面の粘着性は、弱粘着性又は微粘着性であってもよい。巻回体であるフッ素樹脂膜1は、例えば、所定の形状に打ち抜き加工して使用できる。
【0063】
フッ素樹脂膜1に含まれうるフッ素樹脂、より具体的には網目構造11を構成しうるフッ素樹脂、は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(以下、PTFEと記載する)、エチレン-テトラフルオロエチレン共重合体(ETFE)、パーフルオロアルコキシアルカン(PFA)、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)である。フッ素樹脂は、好ましくはPTFEである。PTFEを含むフッ素樹脂膜1は、質量と強度とのバランスが特に良好であると共に、耐熱性に特に優れている。また、PTFEを含むフッ素樹脂膜1は、電子機器の筐体に取り付けた状態での熱処理、例えばハンダリフロー工程、の実施に特に適している。
【0064】
フッ素樹脂膜1は、フッ素樹脂以外の他の材料を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。フッ素樹脂膜1は、網目構造11を構成するフッ素樹脂以外の他の材料を含んでいてもよいし、含んでいなくてもよい。他の材料を含まない場合、フッ素樹脂膜1はフッ素樹脂に由来する高い絶縁性を有しうる。換言すれば、フッ素樹脂膜1は絶縁膜であってもよい。絶縁膜であることは、例えば、1×1014Ω/□以上の表面抵抗率を有することにより確認できる。
【0065】
(第2実施形態)
本発明のフッ素樹脂膜1は、環状構造16の内部に観察される第2の紐状体12Bの数Bによって表すこともできる。数Bが6以上であるフッ素樹脂膜1(1B)は、通気性能の犠牲を抑えながら防水性能を高めることに適しうる。
【0066】
この側面から、第2実施形態のフッ素樹脂膜は、
フッ素樹脂の網目構造を有するフッ素樹脂膜であって、
網目構造は、フッ素樹脂の第1の紐状体及び第2の紐状体を含み、
第1の紐状体及び第2の紐状体は、垂直方向から見て、それぞれ、200nm以上750nm以下、及び200nm未満の径を有し、
垂直方向から見たときにフッ素樹脂膜は、サイズ8.3μm×6.2μmの長方形の形状を有すると共に、第1の紐状体からなる環状構造が観察される領域Bを少なくとも片面に有し、
垂直方向から見たときに領域Bに存在する最大の環状構造の内部に観察される第2の紐状体の数が6以上である、
フッ素樹脂膜である。
【0067】
第2実施形態のフッ素樹脂膜1Bの一例を図5に示す。第2実施形態のフッ素樹脂膜1Bは、第1の紐状体12A及び第2の紐状体12Bについて、第1実施形態の説明において上述した数B及び/又は数Aを、好ましい範囲を含めて有しうる。また、フッ素樹脂膜1Bは、第1実施形態の説明において上述したフッ素樹脂膜1の特性及び/又は膜の構成を、好ましい範囲及び態様を含めて有しうる。
【0068】
(第3実施形態)
本発明のフッ素樹脂膜1は、高い通気性能及び防水性能を共に有しうる。この側面から、第3実施形態のフッ素樹脂膜1は、フッ素樹脂の網目構造を有するフッ素樹脂膜であって、厚さ1μmあたりのガーレー通気度が5秒/100mL/μm以下であり、限界耐水圧が1.6MPa以上であるフッ素樹脂膜である。第3実施形態のフッ素樹脂膜1は、第1実施形態の説明において上述した数A及び/又は数Bを、好ましい範囲を含めて有しうる。また、第3実施形態のフッ素樹脂膜1は、第1実施形態の説明において上述したフッ素樹脂膜1の特性及び/又は膜の構成を、好ましい範囲及び態様を含めて有しうる。
【0069】
(第4実施形態)
本発明のフッ素樹脂膜1は、高い通気性能及び防水性能を共に有しうる。この側面から、第4実施形態のフッ素樹脂膜1は、フッ素樹脂の網目構造を有するフッ素樹脂膜であって、厚さ1μmあたりのガーレー通気度が5秒/100mL/μm以下であり、直径1mmの円形の水圧印加面を設定したときに、水圧1.0MPaに30分間曝露される水圧保持試験に耐えうる保持耐水性を有する、フッ素樹脂膜である。第4実施形態のフッ素樹脂膜1が有する保持耐水性は、直径1mmの円形の水圧印加面を設定したときに、水圧1.25MPaに30分間曝露される水圧保持試験に耐えうる保持耐水性であってもよい。第4実施形態のフッ素樹脂膜1が有する保持耐水性は、直径0.2mmの円形の水圧印加面を設定したときに、水圧1.5MPaに30分間曝露される水圧保持試験に耐えうる保持耐水性であってもよい。
【0070】
第4実施形態のフッ素樹脂膜1は、第1実施形態の説明において上述した数A及び/又は数Bを、好ましい範囲を含めて有しうる。また、第4実施形態のフッ素樹脂膜1は、第1実施形態の説明において上述したフッ素樹脂膜1の特性及び/又は膜の構成を、好ましい範囲及び態様を含めて有しうる。
【0071】
(製造方法)
フッ素樹脂膜1の製造方法について、フッ素樹脂膜1がPTFE膜である場合を例として説明する。
【0072】
PTFE粉末の分散液(PTFEディスパージョン)を基板に塗布して塗布膜を形成する。基板は、耐熱性樹脂、金属、セラミック等の耐熱性材料で形成されうる。耐熱性樹脂の例は、ポリイミド及びポリエーテルエーテルケトンである。塗布膜の形成は、分散液に基板を浸漬して引き上げる方法、分散液を基板にスプレーする方法、分散液を基板に刷毛塗りする方法等により実施できる。基板表面への濡れ性を高めるために、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤等の界面活性剤を分散液に含ませてもよい。
【0073】
次に、塗布膜を加熱し、分散媒を除去すると共にPTFE粒子を相互に結着させる。加熱により、基板上にPTFEシートが形成される。加熱は、最初に90~150℃、次に350~400℃で塗布膜を加熱する二段加熱であってもよい。一段目の加熱で分散媒の除去、二段目の加熱でPTFEの焼成を実施できる。なお、PTFEの焼成とは、融点以上の温度でPTFEを加熱することをいう。加熱は、最初からPTFEの融点以上の温度で塗布膜を加熱する一段加熱であってもよい。また、分散液を基板に塗布して塗布膜を形成する工程と、塗布膜を加熱する工程とを繰り返すことで、PTFEシートの厚さを調整してもよい。形成するPTFEシートの厚さは、例えば20~100μmであり、25~80μm、30~70μmであってもよい。
【0074】
次に、基板から剥離したPTFEシートをMD方向(長手方向)に延伸する工程と、TD方向(幅方向)に延伸する工程とをこの順に実施する。1段目となるMD方向の延伸(縦延伸)は、延伸時におけるPTFEシートの幅方向の収縮を妨げないように実施することが好ましい。MD方向の延伸には、例えば、ロール式縦延伸機を利用できる。MD方向の延伸について延伸倍率及び延伸温度は、それぞれ、例えば1.5~6.0倍及び150~380℃である。2段目となるTD方向の延伸(横延伸)には、例えば、テンター延伸機を利用できる。TD方向の延伸について延伸倍率及び延伸温度は、それぞれ、例えば2.0~6.0倍及び200~380℃である。基板から剥離したPTFEシートに対する圧延は、通常、実施しない。このようにしてフッ素樹脂膜1を製造できる。
【0075】
[フッ素樹脂膜部材]
本発明のフッ素樹脂膜部材の一例を図6に示す。図6のフッ素樹脂膜部材21(21A)は、フッ素樹脂膜1と、フッ素樹脂膜1上に配置された支持層22とを備える。支持層22は、垂直方向から見て、フッ素樹脂膜1と同じ形状を有する。ただし、支持層22の形状は上記例に限定されない。支持層22は、フッ素樹脂膜1の周縁部の形状、例えばリング状や額縁状、を有していてもよい。
【0076】
支持層22の例は、金属、樹脂又はこれらの複合材料で形成された、織布、不織布、メッシュ、ネット、スポンジ、フォーム及び多孔体である。樹脂の例は、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、アラミド、フッ素樹脂、超高分子量ポリエチレンである。支持層22は、熱ラミネート、加熱溶着、超音波溶着等によってフッ素樹脂膜1に接合されていてもよい。
【0077】
支持層22は、通常、厚さ方向の通気性を有する。支持層の通気性は、通常、フッ素樹脂膜1の通気性に比べて高い。
【0078】
フッ素樹脂膜部材21A、フッ素樹脂膜1及び支持層22の形状は、垂直方向から見て例えば、円、楕円、正方形及び長方形を含む多角形、並びに帯状である。ただし、これらの形状は上記例に限定されない。
【0079】
本発明のフッ素樹脂膜部材の別の一例を図7Aに示す。図7Aのフッ素樹脂膜部材21(21B)は、フッ素樹脂膜1と、フッ素樹脂膜1上に配置された接着層23とを備える。接着層23の形状は、垂直方向から見て、フッ素樹脂膜1の周縁部の形状である。ただし、接着層23の形状は上記例に限定されない。なお、接着層23が厚さ方向の通気性を有さない場合、接着層23の内側の領域(接着層23が設けられていない領域)がフッ素樹脂膜部材21における主たる通気領域となる。
【0080】
接着層23は、例えば、両面粘着テープにより構成される。両面粘着テープは、基材を有する粘着テープであっても、基材レスの粘着テープであってもよい。基材を構成しうる材料の例は、支持層22を構成しうる材料の例と同じである。両面粘着テープの粘着剤層には、アクリル系、シリコーン系、エポキシ系等の公知の粘着剤を使用できる。粘着剤は、熱硬化性であってもよい。
【0081】
本発明のフッ素樹脂膜部材の別の一例を図7Bに示す。図7Bのフッ素樹脂膜部材21(21C)は、フッ素樹脂膜1と、フッ素樹脂膜1を挟持するようにフッ素樹脂膜1上に配置された一対の接着層23A,23Bとを備える。
【0082】
フッ素樹脂膜部材21において、フッ素樹脂膜1と支持層21及び接着層23とは直接接していてもよいし、両者の間には他の層が配置されていてもよい。
【0083】
フッ素樹脂膜部材21は、実際に使用される形状で流通させることも、帯状の部材の巻回体として流通させることも可能である。実際に使用される形状で流通させる場合、当該形状を有するフッ素樹脂膜部材21をベースフィルム上に1又は2以上配置した枚葉として流通させてもよい。ベースフィルムとの接合には、接着層23を利用してもよい。ベースフィルムにおけるフッ素樹脂膜部材21を配置する面は、粘着性を有する面であってもよい。配置する面の粘着性は、弱粘着性又は微粘着性であってもよい。巻回体であるフッ素樹脂膜部材21は、例えば、所定の形状に打ち抜き加工して使用できる。
【0084】
フッ素樹脂膜部材21が備えるフッ素樹脂膜1は、片面が熱処理されていてもよい。熱処理の一例は、フッ素樹脂膜1上に支持層22及び/又は接着層23を配置するための熱加圧プレスである。なお、フッ素樹脂膜1における熱処理が施された面、例えば熱加圧プレスに用いた熱加圧ヘッドの接触面、において、網目構造11が変形していることがある。換言すれば、フッ素樹脂膜部材21が備えるフッ素樹脂膜1において、熱処理が施された面とは反対側の面が領域Aを有していてもよい。
【0085】
[電子機器]
本発明の電子機器の一例を図8Aに示す。図8Aの電子機器31は、開口33を有する筐体32と、開口33を覆うように筐体32に取り付けられた防水膜34とを備える。防水膜34は、フッ素樹脂膜1により構成される。図8Aの例では、防水膜34は筐体32の内部に取り付けられている。ただし、防水膜34を取り付ける位置は、上記例に限定されない。防水膜34は、熱溶着、超音波溶着、レーザー溶着等の各種の公知の手法により筐体32に取り付けることができる。防水膜34は、接着層により筐体32に取り付けられていてもよく、接着層は、フッ素樹脂膜部材21が備えうる接着層23であってもよい(図8B参照)。接着層23により取り付けられている場合、フッ素樹脂膜部材21が取りけられていると捉えてもよい。
【0086】
防水膜34は、フッ素樹脂膜1以外の部材及び/又は層を含んでいてもよい。
【0087】
開口33は、典型的には、電子機器31の通気口又は内圧調整口である。開口33は、音の透過が可能な通音口であってもよい。ただし、開口33は、上記例に限定されない。
【0088】
電子機器31の例は、スマートフォン、スマートウォッチ、イヤホン、スマートスピーカー、スマートグラス、VRヘッドセット、ドローン、アクションカメラ等の携帯電子機器(ウェアラブル端末を含む)、圧力センサー、気圧センサー、ガスセンサー、CO2センサー、音響センサー等のセンサー類、LED、LEDを備えるランプ等のランプ類である。ただし、電子機器31は上記例に限定されない。
【実施例
【0089】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0090】
最初に、フッ素樹脂膜(サンプル1~12)の特性を評価する方法を示す。
【0091】
[厚さ]
厚さは、直径47mmの円形に打ち抜いたフッ素樹脂膜の厚さをマイクロメーターにより測定して求めた。
【0092】
[目付]
目付は、直径47mmの円形に打ち抜いたフッ素樹脂膜の質量を測定し、主面の面積1m2あたりの質量に換算して求めた。
【0093】
[ガーレー通気度]
ガーレー通気度は、JIS L1096:2010に定められた通気性測定B法(ガーレー形法)に準拠して評価した。
【0094】
[限界耐水圧]
限界耐水圧は、JIS L1092の耐水度試験B法(高水圧法)の規定に準拠して、上述の方法により評価した。なお、フッ素樹脂膜を測定治具に固定するための両面粘着テープにおける通水口の形状は、両面粘着テープの主面に垂直な方向から見て、直径1.6mmの円形とした。
【0095】
[保持耐水性]
保持耐水性は上述の水圧保持試験により評価した。水圧保持試験中、フッ素樹脂膜に破裂や水漏れが生じなかった場合を良(A)、生じた場合を不可(D)とした。水圧保持試験は、水圧印加面(円形)の直径、水圧及び水圧印加時間の異なる3つの条件I~IIIにて実施した。各条件を以下の表1に示す。条件I、条件II及び条件IIIの順に、膜に要求される保持耐水性は高くなる。
【0096】
【表1】
【0097】
[フッ素樹脂膜の作製]
(サンプル1)
PTFEディスパージョン(PTFE粉末の濃度40質量%、PTFE粉末の平均粒径0.2μm、ノニオン性界面活性剤をPTFE100質量部に対して6質量部含有)に、フッ素系界面活性剤(DIC社製、メガファックF-142D)をPTFE100質量部に対して1質量部添加した。次に、PTFEディスパージョンに長尺のポリイミドフィルム(厚さ125μm)を浸漬して引き上げ、フィルム上にPTFEディスパージョンの塗布膜を形成した。このとき、計量バーにより、塗布膜の厚さを20μmとした。次に、塗布膜を100℃で1分間、続いて390℃で1分間加熱することにより、ディスパージョンに含まれる水を蒸発させて除去するとともに、残るPTFE粒子同士を互いに結着させてPTFE膜を得た。上記浸漬及び加熱を複数回繰り返した後、ポリイミドフィルムからPTFE膜を剥離して、原反となるPTFEシート(厚さ55μm)を得た。
【0098】
次に、得られたPTFEシートを縦延伸機によってMD方向に延伸した。MD方向の延伸温度は280℃、延伸倍率は2倍とした。MD方向への延伸時、PTFEシートは幅方向に自由な状態とした。次に、テンター延伸機によってTD方向にさらに延伸して、サンプル1のフッ素樹脂膜を得た。TD方向への延伸温度は300℃、延伸倍率は3.4倍とした。
【0099】
(サンプル2~8)
製膜条件である原反の厚さ、MD方向への延伸倍率、並びにTD方向への延伸温度及び延伸倍率を以下の表2に示すように変更した以外は、サンプル1と同様にして、サンプル2~8のフッ素樹脂膜を作製した。
【0100】
【表2】
【0101】
(サンプル9)
サンプル1と同様にして、原反であるPTFEシート(厚さ25μm)を作製した。次に、作製したPTFEシートをロール圧延装置によりMD方向に圧延した。圧延温度は70℃、圧延倍率は1.8倍とした。次に、圧延したPTFEシートをテンター延伸機によってTD方向にさらに延伸して、サンプル9のフッ素樹脂膜を得た。TD方向への延伸温度は300℃、延伸倍率は2.2倍とした。
【0102】
(サンプル10~12)
製膜条件である原反の厚さ、MD方向への圧延倍率、並びにTD方向への延伸温度及び延伸倍率を以下の表3に示すように変更した以外は、サンプル9と同様にして、サンプル10~12のフッ素樹脂膜を作製した。
【0103】
【表3】
【0104】
各サンプルで作製したフッ素樹脂膜の表面をFE-SEMにより観察し、サイズ8.3μm×6.2μmの長方形の領域について、
(i)領域の一方の長辺から他方の長辺に至るまで延びる第1の紐状体の数
(ii)第1の紐状体からなる環状構造が観察されるか
(iii)環状構造が観察された場合に、領域に存在する最大の環状構造の内部に観察される第2の紐状体の数
(iv)長さ1000nm以上の第3の紐状体が観察されるか
を評価した。FE-SEMにはJEOL製JSM-7500を使用し、加速電圧は1kVとした。
【0105】
各サンプルについて、FE-SEMによる領域の観察結果、及び特性の評価結果を以下の表4に示す。また、サンプル2,10のFE-SEMによる領域の拡大観察像を図9図10に示す。なお、表4における「第1の紐状体の数」とは上記評価(i)による数であり、「第2の紐状体の数」とは上記評価(iii)による数である。保持耐水性の条件は、表1に示すとおりである。
【0106】
【表4】
【0107】
サンプル1~8は、サンプル9~12に比べて、通気性能の犠牲を抑えながら防水性能を高めることに適していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0108】
本発明のフッ素樹脂膜は、携帯用電子機器、ウェアラブル端末、各種のセンサー類といった様々な電子機器に使用できる。
【要約】
提供される膜は、フッ素樹脂の網目構造を有するフッ素樹脂膜である。網目構造は、フッ素樹脂の第1の紐状体を含む。第1の紐状体は、フッ素樹脂膜の主面に垂直な方向から見て200nm以上750nm以下の径を有する。上記方向から見たときにフッ素樹脂膜は、サイズ8.3μm×6.2μmの長方形の形状を有すると共に、上記長方形の一方の長辺から他方の長辺に至るまで延びた第1の紐状体の数が1以上5以下である領域A、を少なくとも片面に有する。この膜は、防水膜に使用可能な膜であって、通気性能の犠牲を抑えながら防水性能を高めることに適している。
図1
図2
図3A
図3B
図3C
図3D
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図5
図6
図7A
図7B
図8A
図8B
図9
図10